「私が…乗るんですか?」

アメリカのネバダにある、ネルフ第二支部。

山岸マユミは、第二支部でエヴァと呼ばれる機体の前にいた。

 

 

 

僕は僕で僕

(28)

 

 

 


 

<ネルフ、アメリカ第二支部>

 

灰色の…いや、かなり白に近い灰色の機体が、巨大なプールでLCLに浸かっている。

形は初号機に、どことなく似ている。初号機には角が生えているが、その機体にも生えていた。

人間で言えば耳の辺りに二本の角が。

その前で、マユミはネルフの科学者と思われる人物から説明を受けていた。

 

「私が…乗るんですか?」

マユミは驚くことなく、静かに口を開いた。

「うん、そうなるだろうね」

年老いた科学者は甲高い声で言った。

ボサボサになった髪と鼻の下にたくわえた髭は真っ白だ。

 

マユミは、その顔に二十世紀の天才と呼ばれた物理学者を思い出した。

 

「私に乗れるでしょうか?」

マユミは、率直に自分の疑問を科学者に聞いてみた。

「乗れると思えば乗れる。乗れないと思えば乗れない。そんなもんだ」

科学者は、そう言ってニカッと笑顔を見せた。

その笑顔はマユミを安心させるだけの効果を持っていた。

 

「そんなものですか?」

マユミは科学者へ笑顔で答えながらエヴァと呼ばれる機体を見上げた。

「結局…我々に言える事といったら、そんなもんだ」

科学者は、笑顔を消し真剣な表情で呟いた。

 

ここで、アメリカのネバダにある、ネルフ第二支部が誕生した経由を説明する。

第三使徒登場以前まで、アメリカという国は力を持っていた。他国に屈しないだけの強大な力を。

だが、エヴァの登場により状況は一変した。

物理的攻撃を物ともしない兵器EVA。その存在は、アメリカを驚嘆させるに充分だった。

EVAの出現により、アメリカ政府は自国の発言力が弱まると判断した。

そこで、アメリカ政府は一考した。その技術を自国のものにしようと。

それが、ネルフ第二支部がアメリカ政府の介入で誕生した理由であり、山岸マユミを自国に招いた理由である。

 

「これは四号機と呼ばれていて、事実上最新装備のエヴァになる予定なんだよ」

科学者はエヴァに見とれているマユミに、機体の説明を始めた。

「…予定ってことは、まだ未完成なんですか?」

「うん、そうだ。……君は中々優秀だね。私の言葉から、そこまで聞き取るとは」

そう言って科学者はニカッと笑った。

 

科学者の言葉に、ゆっくり振り向いたマユミは科学者の笑顔を見た。

マユミは思う。

(良く笑う人…。でも、悪い人じゃないみたい……。)

マユミは、そう思った後、科学者に微笑みで答えた。

 

マユミの微笑みを見ながら、科学者は言葉をつなぐ。

「だが未完成といっても一部の装甲と装備。あとは…コアだけだ」

科学者は、コアという部分で少し語調を濁した。

 

「わかっています。その為に私が呼ばれたんですから」

マユミは、静かに力強く答えた。

自分が、ここに居る理由を認識しているということを。

 

 

<数日前>

 

数日前、マユミは軍事飛行場にいた。

マユミの傍らには加持がいる。

 

「これが、俺が君に伝えることが出来る真実だ」

加持は、そう言って一通の手紙をマユミに渡した。

 

マユミは手紙を受け取り思う。

(こんな紙切れが…真実。)

マユミは自分の運命が、こんな紙切れに左右されているのかと考えると笑い出したくなった。

あまりにも滑稽な自分の運命を。

そして、マユミは自嘲するように微笑んだ。

 

「何が可笑しいんだい?」

加持は、今からアメリカに旅立とうとするマユミが、微笑んだことを不思議に思った。

「…い、いえ別に」

マユミは自分の行動の不自然さに気づき、微笑みを止めた。

「そうか、ならいいんだが。あ、そうそう、これも渡しておくよ」

そう言って、加持はスーツのポケットからネックレスを一つ取り出した。

「コイン……ですか?」

マユミは加持が取り出したネックレスを見て呟いた。

ネックレスには、曲がった六ペンス銀貨が付いていた。

「ああ、そうだ、幸運のお守りだよ」

加持は微笑みながら、マユミに手渡した。

 

「あ、ありがとうございます」

マユミは思いがけないプレゼントに顔を赤くした。

「それを肌身離さずに付けてもらえると嬉しい。いや、離さないでくれ」

加持は、少し真面目な表情で言った。

「は、はい」

マユミは加持が何を伝えようとしているのか、真意が解らなかった。

 

「時間です」

黒服の男がマユミの横に立った。多分、アメリカの諜報部のものと思われる。

 

「じゃ、気をつけてな」

加持は簡潔に自分の気持ちを伝えた。

「はい、いってきます」

マユミは加持の目を見て言った。

 

立ち去るマユミの背中を見ながら加持は思う。

 

(いってきます…か。いつか俺に…おかえり…と言わせてくれよ。)

加持は自分の仕事が一つの片付いたことに、満足感ではなく虚無感を抱いていた。

 

 

<アメリカ第二支部、パイロット待機室>

 

科学者の簡単な説明を受けたマユミは、待機室で待っていた。

何を?

訓練の時間が来るのを待っていた。

 

アメリカ政府の組んだ訓練スケジュールは過密で過酷なものだった。

過密の上に過酷。

その理由は、日本支部の四体のエヴァに負けないだけの戦闘力をつけることが目的だった。

マユミには、このスケジュールを拒否することは出来た。

だが、拒否しなかった。

それは、マユミは自分の存在理由を認識していたからだった。

使徒と戦う為に呼ばれたことを。

エヴァを動かす為に呼ばれたことを。

そして………。

 

マユミは時間が来るのを待ちながら、少し考えていた。

(四号機があるということは…参号機も存在するということ。パイロットは?)

 

「…バカみたい……私」

そう呟いて、マユミは考えるのを止めた。

 

(……私が考えたって、どうなるってこと無いのに…。)

マユミは、そう思い寂しそうに微笑んだ。

そして胸元に入れていた`曲がった六ペンス銀貨のペンダント´を取り出して見つめた。

 

「幸運……。私には不似合いな言葉だけど……少しだけ守って」

そう呟いて、マユミはペンダントを……優しく握った。

 

 

 

つづく


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あとがき

これで、「僕は…」の本編拾話にあたる所は終了です。
短くなりましたけど、強引に書いたら次回の展開に苦しみますから。(笑)

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