赤木ナオコは、司令室の中へ入った。
そこには、ゲンドウと冬月がいた。
まるで、ナオコが来るのを待っていたかのように。
僕は僕で僕
(26)
<司令室>
「来ると思っていたよ。ナオコ君」
冬月が微笑みながらナオコを迎えた。
ゲンドウはナオコを見据えたまま、何も語ろうとしない。
「とりあえず、現状を報告します」
ナオコはゲンドウの視線が気になるものの、MAGI が置かれているハッキングの現状を事細かに話し始めた。
ナオコの話した内容は、こうだった。
第一に、ハッキングを仕掛けたのは明らかに人的なものであるということ。
第二に、仮に人と仮定すれば、その腕前は超A級クラスということ。
第三に、ハッキングはメルキオールに侵入した時点で食い止めているということ。
第四に、このままでいけば確実にMAGI は何者かの制御下に置かれるということ。
第五に、何者かは現時点では知る余裕がないということ。
ナオコの話が終わり、冬月が口を開く。
「ふむ、ナオコ君に、そこまで言わせるとはな」
冬月はハッキングという事実の前に、ナオコにそこまで言わせた事実に感心した。
そして、言葉をつなぐ。
「君の言いたいことは解った。誰がハッキングをしたかを知りたいのだね」
冬月はナオコを見ながら口を開いた。
「……そういうことです」
ナオコは、いぶしかげにゲンドウを見ながら答えた。
「残念ながら、私達の知るところではない」
冬月が事務的にナオコに話した。
その言葉を聞いても、表情を変えないナオコ。
「冬月…芝居はもういい」
突然、沈黙して話を聞いていたゲンドウが口を開いた。
「碇…」
冬月はゲンドウを見ながら呟いた。
「赤木博士。我々…いや、私と冬月には大体の予想はついている」
ゲンドウは、ナオコを見据えながら話した。
「…誰なんです?」
ナオコはゲンドウへ訊ねた。
「老人達だ…」
ゲンドウは、ゆっくりと口を開き話した。
ナオコは、最初に訪れたときゲンドウ達が自分を試しているのだと思った。
だが、自分の思惑と違っていることに気がついた。
「…そうですか。あの人達…いまだに計画を遂行する気なんですね」
ナオコはゲンドウの言葉に動ぜずに、淡々と話した。
「ああ、その為に私は存在しているらしい」
ゲンドウは自分の存在を`らしい´と表現した。
「……では、なぜ老人達がネルフにハッキングを?」
ナオコは自分の思っている疑問を、直にゲンドウに話した。
「我々の存在が老人達には不安要素になりつつあるということだ」
ゲンドウは静かにナオコに答えた。
ナオコは思う。
(なるほどね…。少なからず、老人達は碇さん…いえ碇司令の存在を怪しんでるということね…。)
ナオコは口を開いた。
「わかりました」
ナオコはゲンドウの言葉を理解した。
少なくとも、ゲンドウは老人達と素直に手を組む気は無いということを。
沈黙する三人。
「…MAGI は、今のところ人類が生き残る為に必要だ。善処してくれるね?」
冬月が沈黙を破りナオコへ訊ねた。
「一つ…条件があります」
ナオコが真剣な表情で二人に話しかけた。
「何だ?」
ゲンドウがナオコに訊ねる。
「十年前に頓挫した計画を…リッちゃ、リツコと一緒に完成させます」
ナオコは自分がリッちゃんと言ったことに少し自嘲しながら言った。
「…好きにしたまえ。君の設計したMAGI だ」
ゲンドウはMAGI と確かに口にした。
ナオコは、少なからずゲンドウの言葉を喜んだ。
復讐の為ではなく、人類の為に自分の才能が使えるということに。
最愛の娘とMAGI を完成させることが出来るということに。
ゲンドウの言葉に頷いたナオコは、司令室を出て行こうと入り口に向かった。
だが、突然足を止め二人に口を開く。
「あ、それからハッキング相手を完膚なきまで叩きのめしても…構いませんね?」
不敵に微笑みながら訊ねるナオコ。
「差し支えない。ただし、我々の足跡を残さないように」
ゲンドウはナオコに答えるように、不敵に微笑みながら言った。
「了解です。碇司令」
ナオコはゲンドウの言葉を聞き、司令室を後にした。
「まさか、MAGI が完成する日が来るとはな…」
ナオコの去った後、冬月が感慨深げに口を開く。
「ああ…」
ゲンドウは冬月に短く返事をした。
「そういえば、お前の出したメールはMAGI のことだったのか?」
冬月が思い出したかのようにゲンドウに訊ねた。
「いや…私が送ったのはユイのことでだ」
冬月はゲンドウの言葉を聞き訊ねた。
「それだけか?」
ゲンドウは冬月に答える。
「それだけだ」
冬月は思う。
(ユイ君か……。碇の口から、その名を聞くのは久し振りだな…。)
そう思って冬月は少し微笑んだ。
<ネルフ本部・中央作戦司令室>
ナオコが作戦司令室に戻って来た。
早速、ナオコは逆ハックを依頼した女性オペレーターに訊ねた。
「どう?逆ハック出来た?」
ナオコは微笑みながら訊ねた。
ここでいう逆ハックとは、ハッキングをしている場所を特定することを指す。
「あ、もうすぐ解りそうです」
女性オペレーターは、少し赤木ナオコという存在に緊張しながらも答えた。
ナオコはモニターを見ながら話す。
「そこは、優しくデリケートに…そう、キスするような気持ちで…」
ナオコは話しながら思う。
(そういえば…リッちゃんの高校時代にもこうやって教えたわね。)
女性オペレータを昔を懐かしむような目で見る。
(でも、リッちゃんたら…。)
「じゃあ、私には無理よ。キスしたこと無いから」
リツコの言葉を思い出し、一人微笑むナオコ。
ナオコは気を取りなおしモニターを見ると、逆ハックの寸前まできていた。
「そう、そこを重点的に洗い出してみて。少し変わった信号を送っている個所が出て来る筈よ」
ナオコが適切にアドバイスする。
そして、逆ハック寸前。
「見つけ!…ウソ……消えました!」
女性オペレーターは、突然声を上げた。
「メルキオールへのハッキング停止!いえ、完全に消失しました!MAGI も正常に作動をはじめてます!」
モニターでハッキングの様子を逐次監視していた男性職員も声を上げる。
「消えたって、そんなバカな」
ナオコは女性オペレーターの席を譲ってもらうと、キーボードを叩き始めた。
キーボードを叩きながらナオコは思う。
(ダメ…ここは?…ダメ。……ハッキングの痕跡が消えてる…。
……でも…まだ方法は残ってる。)
ナオコは、諦めずにカタカタとキーボードを叩く。
そして、突然口を開くナオコ。
「!………やってくれるわね。……まったく」
「わかったんですか?」
緊張した表情で訊ねる女性オペレーター。
「ええ、でも知らないほうが身の為よ」
そう言って、ナオコは少し疲れた笑みを見せた。
ナオコが見たもの。
それは、日本支部以外のネルフの全支部がハッキングを仕掛けたという痕跡だった。
そして、叩き潰すことへの無意味さを知った。
たとえ一つ残らず潰すことが出来ても、日本支部も無傷では済まないことを。
「は、はぁ…」
女性オペレーターは合点がいかないといった顔でナオコを見る。
ナオコは女性オペレーターの顔を見て言った。
「そういえば、あなたの名前聞いてなかったわね?」
「私ですか?…私、洞木コダマっていいます」
女性オペレーターは洞木コダマと名乗った。
「これからも色々とお願いするわね、洞木さん」
コダマに微笑みながら言うナオコ。
「いえ、そんな高名な赤木博士にお願いされるなんて、とんでもないです!」
コダマはナオコの言葉に焦り手を横に振った。
「あら、私じゃダメなのかしら?リツコのほうがいいの?」
ナオコが、いたずらっ子のように微笑む。
「あ、いえ、そんな…こちらこそ、お願いします」
コダマはナオコに深々と頭を下げた。
そんな、コダマに微笑みながらナオコは言った。
「じゃあ、早速レクチャーを始めましょうか?」
コダマはナオコの言葉に思う。
(もしかして…私、赤木博士の助手になるのかしら?……だとしたら…いいな。)
そう思って、コダマは嬉しそうに微笑んだ。
洞木コダマ。
洞木ヒカリの姉。ネルフでオペレータを職としている。入社したての新人である。
つづく
あとがき
驚いた…自分で書いて驚きました。(笑)
まさか、洞木コダマが登場するとは…。そんな予定、全然無かったのに。まあ、いいかな。(笑)
それと、もう少し第拾話は続きます。ホントに三月中に終らないかも。(苦笑)
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