夕陽は沈み、夜が始まろうとしていた。

この夜は人類には普通の夜かもしれない。

だが、人類を守る者には大切な夜かもしれない。

 

 

 

僕は僕で僕

(20)

 

 

 


第三新東京市が一望できる公園の少し手前。

ミサトは加持達よりも早く公園前に着き、諜報部の職員からアスカの監視を引き継いだ。

諜報部員達が立ち去った後、少し遅れて加持達が到着。

ミサトは加持達の到着を見て少し気が楽になった。

 

到着早々、加持が口を開く。

「葛城、一つ提案があるんだが」

加持がミサトへ話しかける。

「何?」

「シンジ君にアスカを任せたいんだ」

加持の表情は真剣だった。

加持の表情を見て、シンジに視線を向けるミサト。

シンジの表情には迷いは無かった。

そのシンジの表情を、第三使徒との戦闘前に見せた顔に似ていると感じたミサト。

「出来る?シンジ君」

ミサトはシンジに訊ねる。

 

ミサトの目を見て少しうつむいたシンジは口を開く。

「わかりません。でも、やってみます」

 

シンジの答えを満足そうに頷く加持。

ミサトは決断した。

 

「シンジ君……アスカをお願い」

ミサトは真剣な表情でシンジに頼んだ。

 

「………はい」

シンジは声は小さいが力強く返事をした。

 

「シンジ君、俺と葛城がココに居ることは内緒にしてくれるかな?」

加持がシンジに訊ねる。

シンジは頷いて答えた。

 

(惣流さん……僕……。大丈夫……うん……落ち着いてる。)

シンジは自分に言い聞かせるように思った後、一人でアスカのもとに向かった。

 

 

<公園>

 

アスカが一人ベンチに座っている。

公園の電灯が静かにアスカを照らす。

 

シンジは公園に入ってすぐに、アスカを見つけた。

そして、後ろから静かに近づき声をかけた。

「惣流さん」

 

「誰?!」

驚き、シンジの方に振り向くアスカ。

「あ、ごめん。驚かすつもりじゃなかったんだ」

アスカの表情を見て謝るシンジ。

シンジの顔を見てアスカは顔を背け話す。

「笑いに来たのね。どうぞ、存分に笑ったら?」

 

アスカの言葉にシンジは少し寂しそうな表情を見せる。

そして口を開く。

「そんなんじゃないんだ。……話をしに」

「私はアンタと話すことは無いわ!」

アスカは怒気を含ませてシンジの言葉を遮る。

 

アスカの言葉を聞いたシンジは、寂しそうな表情のまま公園の芝生に、ゆっくりと腰を下ろした。

そしてアスカの後姿を見ながら話しかける。

「じゃあ…勝手に話すから」

 

シンジは夜空を見上げて話しはじめた。

 

「僕は…戦うことが怖い…いつも逃げ出したくなるんだ」

アスカはシンジの言葉を聞き腹立たしく思う。

(ただの弱虫じゃない!)

 

「でも、逃げれないんだ…。僕が戦わないと、違う人がエヴァに乗ることになるから…」

(………当然じゃない。だから私は二号機で戦うのよ!)

シンジの言葉に少し同意するアスカ。

 

「それに、父さんが言ったんだ。一緒に暮らす条件だって…」

(……それがどうしたっていうのよ。)

アスカはシンジの言葉を不愉快に思う。

 

「でもね…時々気になるんだ。自分が負けたときは…どうなるのかって」

アスカはシンジの言葉に驚く。

(!……サードも私と同じ? …違う、同じだった。今の私は使徒にも勝てない…無能なパイロット。)

だが、アスカは自分の状況を思い出し、自分を卑下する。

 

シンジは少し黙った後、顔をうつむき加減にして口を開く。

 

「負けたとき…父さんは僕をいらないって言うかもしれない」

(父さん…ね。私はママが喜んでくれると思って…エヴァに乗った。でもママは…。)

アスカはシンジの言葉に、過去の自分をダブらせる。

(ママは…何も言ってくれなかった。)

そう思った後、手を握り締めるアスカ。

 

「でも…もし、父さんにいらないって言われても…僕は戦う」

(………それがどうしたのよ。立派だって誉めてもらいたいの?)

アスカはシンジの言葉に苛立ち、ベンチを立とうとした。

 

だがシンジはアスカに気づかず、うつむいたまま言葉をつなぐ。

「僕は惣流さんに`いらない´って言われて気づいたんだ。僕は戦いたいんだって」

シンジの言葉を聞き、興味を持ったアスカは再びベンチに腰を据える。

 

「この前の戦闘で、僕が戦えなかったとき…僕は…ただ悔しかった…自分に悔しかった」

シンジの言葉に聞き入るアスカ。

 

「…そして気づいたんだ。もう僕が僕でいる為には、誰一人欠けてはいけないんだって」

(私も…その中の一人? まさかね、サードに`いらない´って言ってる私が?)

アスカはシンジに訊ねてみたかった。 

 

シンジはアスカの背中を見ながら微笑み口を開く。

「気づかせてくれて、ありがとう……惣流さん」

そして芝生から、ゆっくりと立ち上がる。

(ありがとう…私に言ったの? ありがとうって…アンタを嫌ってる私に?)

アスカはシンジの言葉に驚き戸惑った。

 

立ち去る素振りを見せたシンジは口を開く。

「惣流さんは、少なくとも僕には必要だよ。……僕なんかじゃ嫌だろうけど」

 

アスカはシンジの言葉に思う。

(必要って言葉…嫌…じゃない。嫌じゃないわよ…アンタに必要にされるの。)

 

アスカの思いをよそに、シンジは言葉をつなげる。

「それに惣流さんは負けてないよ。生きてる限り…惣流さんの勝ちだよ」

 

シンジの言葉にアスカは思う。

 

(私が勝ったって言うの?

戦闘で勝利をあげられなかった私が?

………負けたと思っているのは私。

でも、サードは勝ったと言ってくれている。

私が…生きてる限り…私の勝ち。

そうね…そうかもしれない。

私が生きてることが…ママが私を生んでくれた証だから。

証が…生きてることが…私の勝利かもしれない。)

 

「じゃあ惣流さん、僕行くね。」

そう言ってシンジが去ろうとした。

「待って!」

アスカがシンジを呼びとめた。

驚いて足を止め、アスカを見るシンジ。

 

「アスカでいいわよ」

シンジには見えないが、アスカの表情は真っ赤だった。

「え?…」

アスカが何を言っているのか解らないシンジ。

「これからは、アスカって呼んでいいってことよ!」

腕組みしてシンジの方を向くアスカ。

やっぱり顔は赤い。

 

少しシンジは考えた後、微笑んで答えた。

「うん…わかった」

 

 

<公園前>

 

シンジがアスカと話を済ませミサトの前に現れた。

なぜか、加持の姿は消えていた。

 

「シンジ君、どうだったアスカ?」

ミサトがシンジに訊ねる。

「はい、大丈夫って言ってました」

シンジは微笑んで答えた。

「大丈夫って言ったのね、アスカが」

ミサトは自分の耳を疑い、シンジに確認した。

「はい、惣流さ…アスカは、しばらくしたら帰るって言ってましたから」

シンジはアスカとの約束を守り、`アスカ´と言った。

「あ~ら、シンジ君。いつからアスカって呼ぶようになったの?」

ミサトは笑いながら訊ねた。

「今です。アスカがそう呼べって言ってくれました」

そう言ってシンジは少し赤くなりながらも優しく微笑んだ。

 

「そう言えば加持さんは、どこ行ったんですか?」

シンジは加持がいないことに気づき、ミサトに訊ねた。

「アイツなら用事があるとかで、どっか行ったわ。ったく、あのバカ」

不機嫌な表情で答えるミサト。

 

「あ、加持から伝言があるわ。`俺の頼みの必要は無くなった´だって」

ボヤキながら加持のことを思い出し、加持が残した伝言を伝えるミサト。

「はあ…」

加持の伝言が何かを理解できなかったシンジは力なく返答した。

 

「加持の伝言ってアスカのこと?」

ミサトがシンジに問う。

だが、ミサトの声を無視してシンジは思い出していた。

加持の言葉を。

 

「頼みがあるんだが…」

 

(……そう言うことだったんだ。)

シンジは気がついた。

加持の言葉の意味に。

加持がシンジにアスカのことを頼もうとしていたことが。

そして、加持の優しさに思わず微笑むシンジ。

 

シンジが急に微笑んだのを見て、どうしたのかと思い訊ねるミサト。

「シンジ君、何で笑ってるの?」

ミサトの言葉に気づきシンジは答える。

「え、加持さんは、とてもいい人だなと思って」

 

シンジの言葉にミサトは声を大にして口を開く。

「アイツのどこがいい人なのよ!」

 

 

<公園>

 

アスカは公園のベンチに座っている。

もうアスカは肩を震わせていない。

もうアスカは悲しんでいない。

もうアスカは寂しくはない。

 

今、アスカは微笑んでいる。

一人の少年の言葉を思い出しながら。

 

「少なくとも僕には必要だよ」

 

そして優しい表情で呟いた。

 

「サードの名前…何ていったっけ…」

 

 

 

つづく


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あとがき

シンジとアスカ…本当は感情的に対立する予定だったんです。シンジとアスカの感情のぶつかり合いのような展開でした。
でも、何度書いても二人はすれ違うんですよね。感情的なままだと。う~ん、まだまだ未熟ですね。
それと、青葉は次回登場です。青葉な展開になると思います。(笑)

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