「レイ任務完了よ!」

「了解」

使徒の体をコアだけを残しズタズタに切り裂きそれを見下げるEVA零号機。零号機は使徒の血に染まっていた。

 

 

 

僕は僕で僕

(2)

 

 

 


 

<司令室>

 

「良くやってくれた。綾波レイ」

ゲンドウがレイを見据える。

「はい」

誉められても喜びの表情一つださないレイ。

「率直に聞こう、目的は何だね」

冬月がレイに話し掛ける。

 

「使徒を倒し計画を遂行する事」

 

「それが老人達の意向かね?」

「はい」

「他に聞いてる事は?」

「ありません」

「…わかった。君の事は青葉君に一任してある。分からない事があったら彼に聞いてくれたまえ」

「了解しました」

そう言うとレイは外へ出た。

 

「しかし、似ている…そう思わんか碇」

冬月がゲンドウに問う。

「あぁ、似ている…」

ゲンドウは、そう言って握り合わせた手に力を込めた。

 

<碇シンジの病室>

 

シンジは一人で窓の外を見ている。

 

「シンジ君、元気♪」

笑顔で病室に入るミサト。

「えっ、ミサトさん、使徒はいいんですか?」

「使徒はもう倒しちゃったわよ」

微笑み答えるミサト。

「えっ倒したって、誰が?初号機は僕じゃないと動かないんじゃ…まさか零号機」

納得のいかないシンジはミサトへ訊ねる。

「まぁ、そんな所かしら。ところで怪我の具合はどう?」

「ちょっと頭の中がボーっとしてますけど大丈夫です。身体のほうも一ヶ月ぐらいで元通りになるみたいですから」

微笑みながら話すシンジ。

「そう…」

そう言ってミサトは、シンジの身体を見てみる。

包帯で巻かれた頭と腕。

シンジと使徒の戦いの凄まじさを物語っていた。

 

「そう言えばミサトさん、さっき日向さんが来たんですよ」

思いついたように話すシンジ。

「へ〜日向君が。で、何て言ってた?」

「すまないって…シンジ君の判断は正しかったって…」

うつむき加減に話すシンジ。

「私にも同じような事言ってたわよ」

「僕のミスなのに、僕の判断が悪かったから」

 

「シンジ君本気で言ってるの?」

ミサトの顔は真剣な面持ちになっている。

「えっ…」

ミサトの言葉に驚き、顔をミサトに向けるシンジ。

「シンジ君は良くやったわ。たしかに独断で行動したのは非難に値するわ。でも間違いでは無いわ」

「……」

黙ってミサトの表情を見つめるシンジ。

「う〜ん、言葉じゃうまく言えないけど。「人が忘れてはいけない事を実行した」って言えばいいかしら」

「…忘れてはいけない事」

「そうよ、人の命を助けた事は正しい事で間違った事にはならないわ」

 

「助かったんですか?…女の子…」

静かな笑顔でミサトに問いかけるシンジ。

「ええ、だからもっと自分の取った行動に自信を持ちなさい。間違った事はしてないんだから」

そう言ってミサトは優しく微笑んだ。

「はい」

 

少しの間、沈黙する二人。

 

「それじゃ、私は行くわね。アッそうそう大事な事を言い忘れるとこだったわ」

「大事な事?」

「ファーストチルドレンは綾波レイっていう可愛い女の子よ♪シンジ君好みの♪」

そう言い残し、ミサトは退室した。

 

 

「綾波レイ…ファーストチルドレン…使徒を倒した女の子…使徒を倒せなかった僕…」

 

「…違うな僕と…」

 

 

<青葉シゲルと綾波レイ。帰りのリニアの中>

 

無人の車両に青葉とレイが向かい合って座っている。

 

青葉は悩んでいた。

いくらMAGIの判断とはいえ何故自分が保護観察担当なのかと。

 

(他に、もっと適した人物がいたのではないか?何故自分が?…)

 

そんな青葉を見つめる綾波レイ。

 

「ど、どうしたのかなレイちゃん?」

視線に気付き話し掛ける青葉。

「…別に…」

そう言ってうつむく綾波レイ。

 

「もしかして不安なのかい?」

優しく話し掛ける青葉。

「…不安?」

「ほら、見ず知らずの人のもとで一緒に暮らすって言うのは不安なものだろう」

「…そうかもしれない」

「最初は誰でもそうさ。でも少しずつ馴れていくさ。そんなものだよ」

「…馴れていく」

青葉の言葉を繰り返すレイ。

「そう、少しずつね…」

自分に言い聞かせる様に言う青葉だった。

 

青葉シゲル。情報分析及びオペレータ担当。趣味はギター。長髪にこだわりを持つネルフ職員である。

 

 

<赤木博士の研究室>

 

「リツコ〜」

ミサトが研究室に入るなり声を上げた。

「あっ、葛城さん」

返事をする女の人。しかし、リツコではない。

「あれ、マヤちゃん何やってんの?リツコの研究室でしょココ?」

「先輩は使徒のデータを採取に行ってるので、その間、私は零号機の戦闘データを打ち込む様に言われたんです」

 

伊吹マヤ。オペレータ担当。赤木リツコの後輩。潔癖症。ネルフの良心的存在。

 

「ふ〜ん。それじゃマヤちゃん知らない?レイの居場所?」

ミサトがマヤに尋ねる。

「あれ、葛城さん知らないんですか?青葉君がレイの保護監察担当になった事」

「え?!青葉君が担当?!」

「本当に知らないんですか?葛城さん」

「何で、青葉君なの?」

納得のいかないミサトはマヤへ問う。

「MAGIの判断です。1番ネルフに忠実でチルドレンの保護監察に適した人物らしいですよ」

「何で私じゃないの?」

「それは葛城さんが、ネルフを裏切りやすく保護監察に適していないからですよ♪」

さわやかな笑顔でミサトに答えるマヤ。

「マ、マヤちゃん結構言うわね」

青筋を立てる葛城ミサトであった。

 

<青葉のマンション>

 

「これからは、ココが俺の家でもありレイちゃんの家でもあるんだ。わかるね?」

コクリと頷く綾波レイ。

「ま、硬い事は言いっこなしで楽しく暮らそう」

そう言って微笑む青葉。

「…楽しく」

「そうそう、楽しく楽しくお気楽に♪じゃ、はいろうか?」

そう言ってドアを開けた。

「…失礼します」

「硬いよレイちゃん、こういう時はね「ただいま」て言うんだ」

 

少し沈黙したレイは何か考えたようだった。

そして口を開く。

 

「…ただいま」

 

「おかえり…」

レイの言葉に優しく微笑む青葉だった。

 

「さ、上がった上がった今日は疲れただろう」

何とか楽しく行きそうだ。青葉シゲルはそう思った。

 

 

<部屋の中>

 

小奇麗にかたずいた部屋。部屋にはギターとレコードが目立つ。

 

「レイちゃんはその手前の部屋を使ってくれるかい?」

頷くレイ。

「着替えや荷物は送ってくるのかい?」

「いえ、私にはこれだけ…」

そう言ってレイは自分の学生服を指す。

一体どういう子なんだと思いながらも言葉をつなぐ青葉。

「そ、そうなの…。じ、じゃあ明日マヤにでも頼んでみるよ」

 

それから青葉は風呂を沸かしたり、コンビニで買った食料を並べたりしていた。

 

30分ほど経過して…。

 

「あ、そろそろ風呂が沸いたかな?」

 

―電話が鳴る―

 

「じゃあレイちゃん風呂にでも入ってくつろいでてよ」

フローリングに座っていたレイに声を掛ける。

「了解」

「レイちゃん、気楽に気楽に、「了解」って言う言葉はココでは必要ないよ」

「…はい」

 

電話を取る青葉。

「ハイ、青葉で」

―青葉君、葛城ミサトだけど―

「はい、いったい何の様ですか?」

―「何の様ですか?」じゃないでしょう。歓迎会よ歓迎会―

「あっ!」

―「あっ!」じゃないでしょ!私はレイに言ってるんだから歓迎会するって―

「すいません。突然担当になって気が動転しまして…」

―まぁいいわ。今、青葉君の家の近くにいるの。わかるわね―

嫌〜な予感のする青葉。

「もしかして…今からココで…」

―ビンポーン!大正解!もうすぐ着くからね♪―

そう言って電話を切るミサト。

 

「忙しい日だな…今日は…」

青葉の一日はまだ終わらない。

 

 

<夜、碇シンジの病室>

 

熟睡しているシンジを見つめるゲンドウ。

 

「シンジ…綾波レイは危険だ…」

そして、ゲンドウは目を閉じる。

 

ゲンドウの回想

(零号機と使徒の戦闘)

 

使徒に攻撃を仕掛ける零号機。しかし、使徒のATフィールドに遮られる。

そこで零号機は使徒のATフィールドに合わせて、同じようにATフィールドを展開する。

使徒のATフィールドを中和し使徒の上腕部にプログナイフを突き刺す零号機。

そこからは凄惨な光景が続く。使徒の体と言う体を切り裂く零号機。苦しみもがく使徒。

使徒の体と呼ばれた部分は、ただの肉の塊と化していく。司令部は声を無くしていた。

使徒が活動を停止してもなおも攻撃を続ける零号機。

 

「葛城一尉、使徒の殲滅は完了した」

唯一冷静な、ゲンドウがミサトを促す。

「レイ!止めなさい!任務完了よ!」

ミサトは我に帰りレイに命令を下す。

「了解」

シンクロ率80.2パーセント。使徒殲滅までの時間3分12秒08。零号機に損害なし。

これが綾波レイと零号機が残した初戦の結果だった。

 

 

目を開けるゲンドウ。

「だがシンジ、似ている…」

 

眠っているシンジに静かに語り掛けるゲンドウ。

 

「…早く良くなれ、シンジ。取り戻そう、10年分の貸しを」

 

 

 

つづく


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