シンジはアスカを探しに街に出た。

でも、アスカが何処に行ったかわからない。

それでもシンジはアスカを探していた。

 

 

 

僕は僕で僕

(19)

 

 

 


 

アスカは第三新東京市が一望できる公園に来ていた。

夕陽は第三新東京市を赤く染める。

その光景を悲しそうに見つめるアスカ。

 

アスカにとって第七使徒との戦闘は屈辱的な形に終わってしまった。

屈辱…それはJAに投げ飛ばされ戦闘不能に陥ってしまったということ。

そのことを誰もアスカを責めなかった。

それどころか励まされてしまった。

 

「良くやったわ」

「使徒は倒せたんだ、上出来だよ」

「無事で良かった…ホントに

 

でも、こんな言葉はアスカにとっては屈辱でしかなかった。

慰めなんか欲しくなかった。

皆に認めて欲しかった、皆を守りたかった。

だけど、アスカは守れなかった、認めてもらう資格などあろうはずがない。

この時の彼女にはどんな言葉も空しい慰めとしか響かなかった。

そんな事があり、アスカは自分自信で無能と思い込んでしまった。

 

そして朝、行くあても無いままにミサトの家を飛び出した。

だけど彼女が安心できる場所は何処にも無かった。

行くあてを探して自然と足はマナのいる病室へと向かっていた。

だが、そこにはシンジがいた。

シンジの顔を見てアスカは自分の気持ちを吐き出し、駆け出してしまった。

 

駆け出したことに理由があるとすれば、シンジが優しそうな顔をしていたから。

満足そうな顔をしていたから。

今のアスカには出来そうも無い顔をしていたから。

そして、何よりもアスカが安心できそうな顔をしていたから。

 

結局、アスカに行く所など残されていなかった。

 

アスカは夕陽を見ながら呟く。

 

「私は…惣流・アスカ・ラングレー。でも…何も出来なかった。…何も…何も」

 

呟いた後アスカは肩を震わした。

そしてアスカは壊れそうな自分の両肩を抱きしめた。

 

 

<第三新東京駅前>

 

夕方の帰宅を急ぐ人路の中に加持はいた。

加持は辺りを見まわし、何気なく電話ボックスに入った。

 

手際良くカードを入れ、速やかに番号を押す加持。

 

「私です。至急にお話したいことが」

-ネルフの件かね?-

「そう言うことです」

電話の相手は少し黙った後、話す。

-23:00になら時間が空くが-

「結構です。その時間にお伺いします」

そして、電話を切った加持は電話ボックスを出る。

 

「さてと、少し暇が出来たな」

そう言いながら辺りを見まわした加持は、誰かを探すように歩くシンジを見つけた。

 

シンジはアスカを探しに駅前に来ていた。

もし、自分なら何処に行くだろうと考えながら。

 

「…ココにもいない」

肩を落とし駅前から立ち去ろうとするシンジ。

そこへ加持が声をかけた。

 

「シンジ君、どうしたんだい?こんな所で?」

「あ、えっと…」

加持の顔を見て名前を思い出せないシンジ。

「加持だよ」

自らの名前を言う加持。

「…加持さん。惣流さんを探してるんです。二号機のパイロットの」

不安げな表情のシンジ。

「何故、シンジ君がアスカを探すんだ?」

「マナに頼まれたから。元気にしてあげてって……」

答えるシンジ。

「マナ?…ああ、戦自の。その子はアスカに会ったんだね?」

「はい…というか僕も…僕の顔を見て惣流さん……」

どう説明して良いのかわからないシンジは、その時の事を思い出し言葉に詰まる。

 

少しの間、沈黙する二人。

そして、シンジの顔を見ながら加持が口を開く。

「シンジ君、俺に詳しく説明してくれるかな?」

 

 

<マナの病室>

 

マナとリツコが話をしている。

 

「何も憶えていません」

「そう…」

マナの言葉に残念そうな表情のリツコ。

 

彼女達が何を話していたかというと、JAの暴走中にマナが何かを感じたかについてだった。

第七使徒殲滅後、さらに活動すると思われたが突如として活動を停止した。

原因など誰にも解らなかった。

ただ解ったことは、エヴァは理解し難いということだった。

 

「そうそう、明日には退院していいわ」

思い出したように口を開くリツコ。

「はい」

微笑むマナ。

マナの微笑を見たリツコは安心した顔をする。

(ホントに無事で良かった…。また笑顔を見れて良かった。)

マナの微笑に、そう思いながら微笑むリツコだった。

 

「リツコさん、食事はどうしてるんですか?」

唐突にマナが話しかけた。

「え、昨日はコンビニで済ましたわよ」

「ダメですよ、そんなんじゃ」

そう言ってマナはベットから起きだした。

「ダメよ、寝てなきゃ」

リツコはマナの顔を見て話す。

「もう大丈夫です」

元気そうに微笑んで見せるマナはシンジの持ってきたリンゴを見る。

 

(元気をくれたのは…シンジ君だよ)

そんなことを思いながらリンゴを見つめるマナ。

 

リツコはマナの視線にシンジが抱えていた紙袋とリンゴが有ることに気づく。

「なるほどね、シンジ君のお土産ね」

マナに話しかけるリツコ。

マナは図星とばかりに顔を真っ赤にしている。

「いいわ、退院を許可します。その代わり食事は私が作ります」

微笑んで話すリツコは優しく言った。

 

リツコの言葉を聞いたマナは笑顔で返事をした。

「はい♪」

 

 

<ネルフ作戦本部>

 

マヤがオペレータ室で第七使徒との戦闘データを入力している。

その様子を見ていた日向はマヤに話しかけた。

 

「何か、いいことあったのかマヤ?」

「あ、わかる?」

微笑むマヤ。

「わかるも何も、さっきから笑顔でキーボード叩いてるじゃないか」

マヤに微笑んで話す日向。

「青葉君が食事をおごってくれるんだって」

そう言ってマヤは微笑む。

 

マヤの言葉に少し黙った日向は何かを思い出し急に顔つきが変わる。

「何ぃぃ!青葉の奴、俺が貸した二万忘れてるんじゃないか?!」

日向は怒りだした。

「レイちゃんの洋服代とか学費でしょ。見逃してあげれば」

マヤは日向の怒りをなだめるように言った。

「いや、ダメだ。俺も青葉に飯をおごってもらう!」

日向の言葉にマヤは少し驚き口を開く。

「もしかして…一緒に行くの?」

「当然!」

 

日向の表情を見てマヤは思う。

(ごめん…青葉君。一人追加。)

 

 

<ミサトのマンション>

 

ミサトはアスカがもしかしたら帰ってきているかもしれないという淡い期待を持って帰宅した。

しかし、アスカは帰ってきていなかった。

ミサトは疲れた足取りでダイニングルームに腰を下ろした。

 

(アスカ…もう大丈夫だと思ったんだけどね…。

やっぱり、どこかに気負いみたいなものがあるのかしら?……。

でも、少し疲れた……。)

 

ミサトは懐から煙草と携帯電話を取りだしテーブルに置いた。

そして、煙草を一本手に取り、口にくわえ火をつける。

 

煙草の白い煙がミサトの口から吐き出される。

ミサトは何気に煙草の煙を掴もうと手を伸ばす。

だが煙を掴めるはずも無く、手の隙間から逃げていく。

 

「…アスカの心みたいね」

ミサトは手から逃げる白い煙に、疲れた微笑で呟いた。

 

ミサトが煙草を吸い始めて少し経つと携帯が鳴った。

携帯を取るミサト。

 

「もしもし、葛城です」

「えっ!見つかった!何処で?!」

「病院?…そうわかったわ。で今何処に……」

 

電話は諜報部からだった。

アスカをマナの入院している病院で発見、その後尾行しているとの事だった。

 

「了解。私が直接話をするので、そのまま監視を続行して頂戴」

そう言って電話を切ったミサトは少し考えた。

 

そして、思い出すように電話番号を押した。

 

 

<第三新東京駅前>

 

加持とシンジは近くのベンチに腰を下ろして話をしている。

 

「なるほど、そう言うことがあったのか…」

加持はシンジとアスカの事情を説明してもらった。

そして、アスカがシンジを毛嫌いする理由に少なからず自分も影響していると理解した。

「すまない、シンジ君。俺の責任でもあるんだ」

そう言って加持は謝罪した。

「えっ…どうして加持さんが?」

 

シンジの質問に少し沈黙する加持。

そして、口を開く。

「…俺がアスカを置いて逃げ出したからだ」

 

加持はシンジに説明した。

自分がアスカを置いていった理由を…アタッシュケースの事には触れずに。

 

「…そうですか。それで惣流さん……」

シンジは転校して来たときのアスカを思い出した。

 

「……惣流・アスカ・ラングレー…です」

 

寂しそうなアスカの表情を思い出した。

そして思う。

(彼女は誰かに頼りたかったんだ…。誰かに認めて欲しかったんだ…。誰かに自分の居場所を教えて欲しかったんだ。

……そう…僕に似てる。

でも惣流さんと違うこと…僕には自分の居場所がある。)

 

そして、ベンチを立つシンジ。

「加持さん、僕探さなきゃ惣流さんを」

シンジの表情には迷いは無かった。

「シンジ君…君は」

シンジの顔を頼もしげに見つめる加持。

そこへ加持の携帯が鳴る。

手でシンジに少し待つように合図した加持は携帯を取る。

 

-もしもし、加持?-

「葛城から電話とは珍しいな。どうかしたのか?」

-まあね、アスカの居場所がわかったの-

「そうか、丁度良かった」

-何が丁度良いのよ-

 

加持はミサトにシンジといることを話す。

これから二人でアスカを迎えに行くと告げる。

そして、アスカの居場所を聞き電話を切る加持。

 

「アスカの居場所わかったよ」

加持はシンジに微笑んで話す。

「ホントですか」

笑顔になるシンジ。

「葛城も向かってるそうだ。一緒に行くかいシンジ君?」

「はい」

笑顔で返事をするシンジ。

 

そして二人はアスカのもとに向かった。

 

 

 

つづく


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あとがき

不安定なアスカを書くのは辛いです。正直言って筆が鈍ります。やっぱりチルドレンには笑顔が似合うと思う今日この頃。
次回は、いよいよシンジとアスカの予定です。気合を入れないとね。

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