戦闘の翌日、夕方。

シンジは見舞いに来ていた。

戦闘に参加できなかった償いの気持ちを持ちながら、茶色の紙袋を抱え。

 

 

 

僕は僕で僕

(18)

 

 

 


 

<霧島マナと書かれた病室>

 

シンジは病室の前に来ると一つため息をついた。

 

(どんな顔をすればいいだろう…。笑顔ってのも変だよな…。でも無事だったんだから笑顔でも……。)

などとシンジが考えていると後ろから声を掛けられた。

 

「シンジ君、お見舞い?」

リツコがシンジの後ろに立っていた。

「あっ、はい。僕は何も出来なかったから…」

振り向き返事をするシンジ。

「自己批判的になるのは良くないわよシンジ君。もっと前向きに考えなさい」

優しく話しかけるリツコ。

「前向き…ですか」

「そう、前向き。後ろばっかり見ていも前に進めないわよ」

「…はい」

暗い表情で答えるシンジ。

「男の子、しっかりしなさい」

そう言ってリツコ優しく微笑んだ。

 

「あの、マナは…」

シンジは話しを切りかえ訊ねた。

「寝てるわ、側にいてあげてくれるのシンジ君?」

「そのつもりです」

「そう、起きたら報告してくれる?聞きたいことがあるから」

「はい」

シンジの返事に頷いたリツコは話しかける。

「それから、明日、初号機のシンクロテストがあるので遅れないように」

「直ったんですか初号機?」

「そういうことになるわね」

「…そうですか」

そう言ってシンジは手に力を込めた。

 

リツコが立ち去った後、シンジは思う。

(初号機が直った……これで僕も戦える。これで…これで。)

 

 

<ネルフ休憩室>

 

加持は自販機の前で椅子にもたれ煙草を吸っていた。

 

(もう後戻りは出来ない……。あんなものを見てしまったからには…。

棺桶に片足を突っ込んだ心境だな…まったく。

だが俺を過剰評価してくれたのは、ありがたい誤算だ。

………さてと、やることが多すぎるな…まったく。)

 

「加持!」

加持が腰を上げようとすると声を掛けられた。

「…葛城か」

面倒臭そうにミサトの顔を見る加持。

「何よ、その顔」

加持の表情を見て不機嫌そうな顔になるミサト。

「ああ、チョット色々あってな」

「色々?あ、そんな事よりもアスカを知らない?」

ミサトは加持に訪ねる。

「いや、見てないな。どうかしたのかアスカ?」

「朝から姿が見えないのよ」

ミサトは焦りの表情を見せる。

 

ミサトの表情を見つめ、少し沈黙した加持は口を開く。

「大丈夫だ、必ず帰ってくる。だから、そんなに不安そうな顔をするな」

「え、ええ」

加持の言葉を聞き少し微笑むミサト。

 

「その顔だ、葛城に不安な表情なんて似合わないからな」

ミサトの顔を見て微笑む加持。

「どう言う意味よ、それ」

ミサトは馬鹿にされたと思って加持をにらむ。

「葛城の笑顔を愛してるって意味だ」

歯の浮きそうな言葉をサラリと言ってのける加持。

 

「な、な、な、何バカな事言ってんのアンタ!」

顔を真っ赤にしながら声を上げるミサト。

「ホントの事を言ったまでだけどな」

加持はミサト見て微笑ながら話す。

「このバカ!」

そっぽを向くミサト。

 

ミサトを愛しそうに見つめた加持は口を開く。

「じゃ、俺行くわ。アスカを見つけたら連絡するから」

そう言いながら加持は、その場を去った。

 

加持の去った後、ミサトは誰にも聞こえない声で呟いた。

 

「………バカ」

 

 

<マナの病室>

 

シンジは静かにドアを開き中に入った。

中にはベットが一つあり、マナが静かに寝ていた。

 

(起こしちゃマズイよな…。)

そう思いながら、近くの折りたたみの椅子を静かに広げて座るシンジ。

そして、紙袋から何かを取り出した。

小さな果物ナイフと小皿、そしてリンゴだった。

 

静かにリンゴの皮を剥き始めるシンジ。

病室にはリンゴの皮を剥く音だけが聞こえる。

 

そして、一つリンゴが綺麗に剥けた。

満足そうにリンゴを見るシンジ。

 

(でも、これじゃあ食べにくいよな。)

そして、リンゴを一口サイズに切り始める。

切れたリンゴを小皿に入れていく。

 

リンゴを切る音が病室の中で静かに流れる。

とても、綺麗で静かな音が。

小皿にリンゴを入れる音は優しい音を立てる。

たくさんの優しさの詰まった音を。

 

 

そして、一つのリンゴを切り終わったときにドアが開いた。

誰かとドアを見るシンジ。

 

ドアの向こうにいたのはアスカだった。

 

 

 

<青葉のマンション>

 

青葉は一人パソコンに向かっていた。

カタカタとキーボードを打つ音が部屋に響く。

 

「ダメだ、ここも拒否される」

そう言ってキーボードを打つ手を止める青葉。

そして、何かしらのメモを取り出す。

(連絡を取ってみるか……。)

メモ用紙には`伊吹´と書かれた電話番号が書かれていた。

 

そこへガチャリと玄関のドアの開く音が聞こえてくる。

玄関に笑顔で向かう青葉。

 

玄関にはレイがいた。

笑顔で話しかける青葉。

「おかえり、今日は外食にしようか?」

「外食……」

呟くレイ。

「何か御希望のメニューはございますか?レイちゃん」

レイを笑わせようと、おどけてみせる青葉。

「ラーメン……」

表情を変えずに答えるレイ。

「ラーメン…でいいの?もうチョット高くても大丈夫だけど。給料出たし」

 

少し黙った後レイが口を開く。

「………中華ソバ」

 

「ウッ………OK…」

(あまり変わってないような気がするが……あえて言うのは止めよう。)

青葉は難しく考えるのは止めて、中華ソバを食べに行くことに決めた。

 

 

<ネルフ司令室>

 

冬月がゲンドウと電話をしている。

 

「碇、そっちの具合はどうだ?」

-相変わらずだ、シナリオの件を催促された-

「なるほど、老人たちは気づいているのか?」

-ああ、気づいている口ぶりだった-

「マズイな…」

-心配いらん、老人たちには手出しが出来んよ-

「使徒が存在する限りか」

-そういうことだ-

 

少しの間、沈黙する二人。

 

-話は変わるが、彼の件は上手くいったようだな-

「ああ、アレを見せたら協力せざるえまい。多少なりとも事情も説明したがな」

-過去か…… -

「…未来のための過去だ」

-そうだったな-

 

しばらくして、電話切る冬月。

 

そして冬月は自嘲し呟く。

「フッ、ガラにもない…未来などと」

 

 

 

<マナの病室>

 

アスカを見るシンジ。

アスカはシンジの顔を確認すると露骨に嫌そうな顔をした。

 

そして、アスカが口を開く。

「アンタ、私を笑いたいの?」

アスカがシンジに掛けた言葉はキツイ言葉だった。

 

「な、何言ってるの、惣流さん」

シンジはアスカが何故こんなことを言うのか理解できなかった。

「あんたも笑いたいんでしょう!無能なパイロットだって!」

アスカは、そう言ってシンジの前から駆け出した。

「あ、惣流さん!」

シンジは後を追おうと腰を上げたが止めた。

 

(僕が行っても…僕は彼女に嫌われているだけで…何も出来ない。

僕は彼女に必要とされていないし………。)

 

シンジは、そんなことを思いながら椅子に座ろうとした。

 

「シンジ君……」

ベットのマナがシンジに声を掛けた。

「あ、ごめん起こしちゃった」

そう言ってマナの顔を見るシンジ。

「うん、起きちゃった…でもシンジ君、何でアスカを追いかけないの?」

マナは真剣な顔でシンジに問う。

「え、あ……僕は彼女に必要ないから……」

シンジは顔をうつむかせながら言う。

 

そんなシンジにマナは優しく微笑んで話す。

「シンジ君は皆に必要とされているわ…」

「そんなこと…ない」

否定するシンジ。

「聞いてシンジ君。アスカね、戦闘前に私に言ったの」

 

「心配しなくてもいいわ。使徒は私が倒すから」

 

「アスカね、シンジ君みたいだなって思っちゃった」

「僕みたい…」

顔を上げるシンジ。

「そう…全然似てないのにね」

そう言ってマナは優しく微笑んだ。

 

「僕と同じ…」

「そうだよ、シンジ君。アスカだって戦うこと…いえ、負けることが…怖いの」

マナの顔を見つめるシンジ。

マナはシンジを見つめ言葉をつなぐ。

「だから、シンジ君。アスカを励ましてあげて、元気にしてあげて…」

 

マナの言葉に沈黙するシンジ。

 

少しの沈黙が流れた後、シンジは浮かない顔で、切ったリンゴの小皿をマナに渡す。

「リンゴ…食べて」

小さな声で話すシンジ。

「シンジ君………」

寂しそうな表情でシンジを見つめるマナ。

 

そして、ゆっくりと口を開くシンジ。

「僕が彼女に何が出来るか解らない。でも、やってみる。励ますとか元気づけるとか出来ないかもしれない。でも、話してみるよ」

「シンジ君…」

微笑を浮かべるマナ。

そしてマナに答えるように微笑を浮かべるシンジ。 

「ありがとう、マナ」

そう言い残して、シンジは病室を後にした。

 

(行っちゃった…。なんだかな、私…。

でもシンジ君、マナって呼んでくれた…。)

 

一人残ったマナは、そう思い微笑ながらシンジの切ったリンゴを一口かじる。

 

「甘い……。美味しいよシンジ君」

そう呟いたマナは、とても優しい顔をしていた。

 

 

 

つづく


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あとがき

JAの暴走がどうなったかは書ければ次回にでも書きます。でも、あてにしないで下さいね。(笑)

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