アスカは自室で天井を見ていた。

虚ろに天井を見つめていた。

天井を…見つめていた。

 

 

 

僕は僕で僕

(14)

 

 


 

<アスカの部屋>

 

アスカは天井から目をそむけると、少し微笑んだ。

アスカは微笑みながら思う。

 

(もう…吹っ切らなきゃね…)

 

グ~。

シリアスな展開を打ち破る、アスカのお腹の音。

「なんか、お腹すいちゃった」

そう言って、キッチンへと向かうアスカの顔は笑顔だった。

 

 

<キッチン>

 

「さてと…いったいどこから手をつければ…」

アスカはキッチンを睨みながらそう呟いた。

そして、アスカの足元にはペンペンがいる。

「ク~」

どうやら、ペンペンもお腹が空いているようだ。

 

キッチンはゴミのジャングルと化していた。

訂正する。

アスカの部屋以外は、ゴミのジャングルと化していた。

以前シンジが来たときに掃除をしてもらったのだが、もとに戻るのには時間はかからなかったからだ。

 

「まずは、食料の確保ね」

お腹の空いているアスカとペンペンは、ゴミのジャングルに足を踏み入れ冷蔵庫を開ける。

しかし、食料は存在しなかった。

冷蔵庫の中には、ビール、ビール、ビール。

そして、ビールのつまみ。

 

「ミサトのバカァ~!いったい何食べて生きてるのよ~!」

「クエ~!クエ~!」

冷蔵庫の中身を見て、怒りに燃えるアスカとペンペンであった。

 

 

<山岸マユミの住むマンション>

 

山岸マユミは諜報部から呼び出しを受けた。

呼び出し人の名前は加持リョウジ。

初めて耳にする名前だった。

 

マユミは制服から私服に着替えるとレポートを持ってマンションを出た。

  

 

<近くのスーパー>

 

ヒカリは買い物に来ていた。

時間は夕方の五時。

ヒカリは、この時間帯が好きだった。

だってスーパーの安くなる時間帯だから。

 

「さてと、今晩のおかずは…」

ヒカリはお肉コーナーを物色していると、そこで以外な人物を見かけた。

(碇…君?)

 

シンジは久し振りにスーパーへ買い物に来ていた。

日頃はシンクロテストなどネルフの用事で、ゆっくりと買い物も出来ない毎日。

そんな中の、たまの休日。

いつもは近くのコンビニで済ます買い物も、今日は新鮮な食材の多いスーパーへと足を向かわせた。

 

「碇君♪」

ヒカリがシンジの後ろから声をかける。

「あ、委員長」

シンジは学校が終わった後でも、ヒカリのことを委員長と呼ぶ。

シンジが言うには、トウジ達の呼び方が移ってしまったそうだ。

 

「委員長も買い物?」

「ええ、コダマお姉ちゃん今日帰りが遅いって言ってたから」

「そうなんだ」

「そんなことよりも、碇君がスーパーにいるなんて珍しいわね」

「そうだね。スーパーに来るのなんて、ホント久し振りだよ」

そんな会話をしながら、ヒカリはシンジの買い物カゴの中を見る。

ニンジン、ジャガイモ、玉ねぎ。

「碇君の家は、今日はカレー?」

ま、この中身なら、この答えが妥当だろう。

「残念、肉じゃがだよ。味のほうは、委員長ほどじゃないけどね」

シンジは微笑んで答えた。

「そんなこと無いわ。碇君の料理の腕、私よりイケテルと思うんだけどね♪」

それから二人は少し笑った。

 

ヒカリはシンジが料理が出来ることは知っていた。

以前、シンジのお弁当を見た時、あまりの出来の良さに訊ねたことがあった。

 

「すごいね、誰が作ったの?」

ヒカリが訊ねると、シンジは少し寂しそうな微笑で答えた。

「僕だよ」

こうして、ヒカリはシンジの料理の腕前を知った。

 

二人が料理の話に花を咲かせていると、一人の人物が目に入ってきた。

 

「碇君、彼女…」

「うん…転校生だね」

アスカが二人の視界に入っていた。

 

 

<喫茶店>

 

マユミは喫茶店の指定された席で加持を待っていた。

かれこれ十分、加持は現れない。

(定刻どうりに諜報部の人は現れるはずなのに)

そんなことを考えながら、喫茶店の時計を幾度か見る。

 

「君が、山岸マユミさんだね」

後ろの席で背中合わせに座っていた男が、突然マユミに声をかけた。

「加持リョウジさん…ですか?」

マユミは振り向かずに小さな声で返答した。

「そうだ。そのままの姿勢で聞いてくれ。…レポートは持って来てくれたかい?」

「…はい」

「レポートを貰う前に一つ質問がある」

 

「なぜ君のような女の子が諜報部と関わり合うんだ?」

 

「契約ですから…」

少しうつむき加減に返事をするマユミ。

「契約ね…まあいい。それと、こんな仕事はこれっきりにするんだ」

 

「!」

マユミは加持という男が理解できなかった。

今まで諜報部の人間が、仕事を止めろなどと言ってきたことは、一度たりとも無かったから。

 

「いや、君の事情は解っている。俺が何とかする。だから手を引け」

「…なぜ…ですか?」

「なぜ…か。ま、君みたいな女の子が、この世界に居ることが許せないだけだ」

 

(嘘…この人は嘘をついてる。

私に仕事を止めろだなんて…。

信じてはいけない。

信じていいのは…私)

 

「………信じられません」

そう言ってマユミは席を立つ。

そして加持にレポートを渡さずに、その場を去った。

 

マユミの去った後、加持はタバコを吸いながら思った。

 

(まあ最初は、こんなもんだろう。しかし、思ったより出来る14歳だな…。)

 

 

<スーパー>

 

アスカは鮮魚コーナーで、ペンペンの食べ物を探していた。

近くのコンビニには、ペンペンの食べ物が無かったから。

 

「ペンギンって何食べんのかしら?」

シャケの切り身を手にしながら話すアスカ。

 

「アスカさん♪お買い物?」

ヒカリがアスカに声をかける。

「誰?あ、え~と、ヒカリだっけ?」

「そう、洞木ヒカリ」

「グッド・タイミングよヒカリ。ペンギンが何食べるか知らない?」

 

「え?」

意外な質問に戸惑うヒカリ。

(ぺ、ペンギン…何言ってるのアスカさん。理解できないわ…私)

 

「ペンギンなら、生魚がいいんじゃないかな?それは塩味が付いてるから辛すぎるよ」

戸惑うヒカリを後に、シンジが話を進める。

「あんた誰よ」

アスカは、突然割り込んできた男に声をかける。

「僕?僕は碇シンジ」

そう言って微笑みながら、ペンギンが食べれそうな魚をアスカに渡すシンジ。

シンジの微笑みに一瞬、加持を重ねるアスカ。

 

だがアスカは思う。

(違う…全然似てない。何考えてんだか私。)

 

「……何これ」

気を取り直し、アスカはシンジが渡したものを見る。

「多分食べれると思うよ、ペンペンなら」

 

「!」

アスカは、驚いた。

シンジがペンペンの名を知っていることに。

 

「じゃ、僕いくね。委員長、惣流さん」

そう言ってシンジはその場を後にした。

 

「いったい何者なの…アイツ」

アスカはシンジの後姿を見ながら呟いた。

 

「ペンギンはダメ、理解できない」

ヒカリはアスカの後ろで、いまだに混乱していた。

 

 

<その日の夜、コンフォートマンション>

 

アスカはミサトに問い詰めていた。

なぜ、チルドレンが同じ学級にいるのかと。

 

「納得できないわよ!何でチルドレンが!」

アスカはミサトを責めた。

「だから、保護とか機密保持とか色々あるでしょ」

何度同じ事を言わせるのと思いながら話すミサト。

でも、表情は優しい。

「ま、それはそうだけど…」

ミサトの答えにアスカは納得せざる得なかった。

チルドレンの重要さはアスカ自信理解しているつもりだったから。

 

沈黙するアスカ。

ミサトはアスカを優しい瞳で見つめ思う。

(でも、…元気になってくれて良かった。本当に…良かった)

 

そして、静かに口を開くミサト。

「アスカは何に怒ってるの?私に対して?ネルフに対して?」

「違うわ…」

「シンジ君に対してなら、アスカが間違ってるわ。シンジ君は優しい男の子よ」

ミサトの言葉に間を置かずに反論するアスカ。

「ただ軟弱なだけよ!」

そう言ってアスカは自室に戻った。

 

一人残ったミサトは呟いた。

「……優しさに戸惑っているの?」

 

 

<アスカの部屋>

 

アスカは枕に突っ伏して考えていた。

夕方に起こった出来事を。

 

(チルドレンが……四人。私の立場は…?

ファーストチルドレン、綾波レイ。サードチルドレン、碇シンジ。戦自のチルドレン、霧島マナ。

そして…私。

私を認めさせるには、私の実力を思い知らすしかない。

それにしも、ムカツク!アイツの笑顔!)

 

アスカは許せなかった。

シンジの笑顔に一瞬でも気を取られたことが。

イライラしているアスカ。

 

「あ~ヤメヤメ!もう悩むのヤメ!」

 

そして、枕から頭を上げ思い出す。

昼間に交わした握手の感触を。

ヒカリ、マナ、レイと交わした握手の感触を。

 

「案外…悪いもんじゃない」

そう呟いて、手を軽く握るアスカ。

 

 

 

つづく


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