アスカが挨拶を済ませ席につく。

羨望の眼差しを集めるアスカを、少し違う目で見つめる女の子がいた。

黒い長髪に眼鏡。山岸マユミと呼ばれるシンジの同級生。

 

 

 

僕は僕で僕

(13)

 

 

 


 

マユミはアスカが席につくのを確認すると、軽くため息をつき思った。

 

(…仕事が増えたましたね)

 

山岸マユミ。ネルフ保安諜報部所属チルドレン監視担当。14歳。

学校でのチルドレンの監視と保護を担当している。

 

 

 

<ネルフ本部>

 

自販機のある休憩室に青葉が一人、紙コップ入りのコーヒーを飲んでいる。

 

青葉は思考の中にいる。

 

駄目だな…。いくら考えても答えが出ない

 

青葉は一人、暇な時間の合間に綾波レイに関する調査をしていた。

しかし青葉一人の調査では限界がある。

そして青葉はいつもの様にコーヒーを飲み思考の整理をしていた。

 

綾波レイ。マルドゥック機関選出のファーストチルドレン。

第三使徒との戦闘で驚異的な戦闘能力を見せる。

その後、俺の保護下におかれた。情報の収集を目的として。

しかし突然の情報収集破棄命令。

ここからだな、納得がいかないのは…。

まずは、マルドゥック機関か…。

 

青葉の思考が一段落を得ようとした頃に、一人の男が近づいて来た。

 

「これは、これは、はじめまして青葉君だっけ?」

青葉に近づいて来た男は加持だった。

「貴方は?」

青葉は警戒するように加持を見る。

「加持リョウジだ。葛城の知り合いだよ」

薄笑いを浮かべながら話す加持。

 

「それで、俺に何か用ですか?」

青葉は警戒を緩めずに加持に訪ねる。

「いや、用って訳じゃないんだがね」

頭を掻く仕草を見せながら加持は言葉をつなぐ。

「君の役目はオペレーターとファーストチルドレンの保護だろ?」

「ええ、そうですが」

青葉がそう答えた瞬間、加持が青葉の顔に自分の顔を近づける。

 

「素人が首を突っ込むな、火傷するぞ」

低い声で青葉に話しかける加持。

 

「なっ!」

驚く青葉。

自分の行動が、少なくとも加持にはバレていたことで動揺を隠せない青葉。

「俺の用件は、それだけだ」

そう言って加持は青葉から顔を離す。

 

動揺している青葉を尻目に、加持は話しかける。

「じゃあな、青葉君」

加持はそう言い残した後、青葉のもとを去りロビーへ退出した。

 

一人残った青葉は呟く。

 

「俺の行動は…筒抜けってことか」

 

そして青葉は、紙コップを握りつぶした。

力強く…。

 

 

 

<ネルフ本部・ロビー>

 

ミサトはロビーで加持を見つけた。

加持の姿に懐かしさを感じたが、同時に苛立ちも感じたミサト。

ミサトは険しい顔をしながら、足早に加持に近づいた。

 

懐かしい顔が近づいて来るのを見た加持は、ミサトへ微笑み話しかける。

「よ、葛城元気して」

しかし、加持の言葉は途中でミサトの手に阻まれた。

 

ロビーに響き渡る叩く音。

 

加持はミサトに思いっきり頬を叩かれた。

「この意味わかってんでしょうね!」

怒りの形相で加持に迫るミサト。

「…アスカか?」

叩かれた頬をそのままに加持は答える。

「そうよ!なぜ、逃げたの!アスカを置いて!」

 

二人の間に少しの沈黙が流れる。

 

「言い訳をする気はない。で、アスカはどうしてる?」

「私が保護してる。…もっともアスカは望んで無いでしょうけど」

「そうか…。葛城、アスカを頼む」

そう言って加持はミサトに頭を下げる。

「頼むって何よ!加持はアスカに謝る気はないの!今、アスカは精神的にボロボロなのよ!」

加持に詰め寄るミサト。

「俺が謝ってどうなる?アスカの心の傷が癒えるとでも言うのか?」

「そうよ!」

 

加持は詰め寄るミサトから距離を取るように、近くの長椅子に腰を据える。

 

そして、ゆっくりと口を開く。

「葛城…。お前は本当にアスカを理解しているか?本当にアスカの気持ちになっているか?」

「………」

加持の言葉を黙って聞くミサト。

「今、アスカに必要なのは、俺の謝罪でも無く、葛城の慰めでもない…」

 

「だったら…何?」

ミサトは、いつのまにかに怒りの表情を消していた。

 

少しの沈黙の後、加持が答える。

 

「ともに泣ける友人、ともに笑える友人、ともに悩んでくれる友人。それだけだ」

 

 

 

<学校、2-A>

 

アスカは同級生達に取り囲まれていた。

外国からの転校生というだけでも、モノ珍しいものだが、それに付け加えハーフである。

注目を集め、質問攻めにされないはずがない。

 

「どこから来たんだっけ?」

「目、青いのね」

「ドイツって、どんな所?」

とりとめも無いことを聞く同級生達。

 

アスカは、そんな同級生達がわずらわしかった。

そして、アスカは叫ぶ。

 

「うるさい!一人にしといて!」

 

アスカの周りから人垣が離れていく。

一人になるアスカ。

 

そんなアスカに近づく人物がいた。

 

その人物は優しい微笑みを浮かべていた。

微笑みを浮かべた人物は、アスカに一言。

「私、委員長の洞木ヒカリ。よろしくね」

  

いつもは賑やかな休み時間も、今日だけは違った。

今日だけは、静けさと緊張が教室を支配している。

 

アスカは険しい顔をしながらヒカリに答える。

「それがどうしたの?私の言ったこと聞こえなかったの?」

「聞こえてたわ。でも、関係ないわ」

微笑みながら話すヒカリ。

「何が関係ないのよ !私は一人にしてって言ったはずよ!」

アスカは怒気を含ませながら話す。

「そんなの関係ないわ。クラスメートじゃない、仲良くやりましょう」

微笑んで手をアスカに差し出すヒカリ。

アスカとの握手を求めて。

 

アスカは握手を求めたヒカリの手をはじく。

力一杯、教室に音が響く程に。

 

 

「やるしかないわね。綾波さん」

固唾を呑んで見守っていたマナは、座っていたレイに声を掛ける。

「………何を?」

レイはマナに訊ねる。

「あのね…………………わかった?」

マナがレイに耳打ちする。

「…わかった」

レイは、そう言って席を立った。

そしてマナとレイはアスカとヒカリ、二人の側へ歩きはじめた。

 

手をはじかれたヒカリは、一瞬悲しげな顔をした。

だが、それでもヒカリは、もう一度微笑み手を差し出した。

握手を求めて。

 

だがアスカはヒカリの手を無視した。

 

「転校生が生意気しくさってからに!」

トウジは、アスカのヒカリへの態度に腹を立てた。

そして、業を煮やし立ちあがろうとしたが、シンジが袖を掴んでいた。

「シンジ!何するんや!」

「もう少し、もう少し様子を見よう…トウジ」

目はアスカを見つめたまま、シンジはトウジに話す。

そんなシンジとトウジに目をやるケンスケ。

「2-A、始まって以来だな…こんなの」

ケンスケは教室の緊張した雰囲気に、そう呟いた。

 

そこへ、一つの変化が訪れた。

 

ヒカリとアスカの側に来たマナは微笑む。

「惣流さん、私は霧島マナ。よろしく♪」

そう言って、手を差し出すマナ。

「……」

レイは無言で手を差し出す。

マナが耳打ちしたままに。

「あんた達バカ?私が今どんな気持ちだか、わかってやってんの?」

険しい顔でマナ達に話すアスカ。

「わからないわ。だって私は惣流さんじゃないもの♪」

そう言って微笑むマナ。

 

マナの一言を聞いたアスカは思う。

 

 

(私は惣流さんじゃない…か。

私は私…。

私は他の誰でも無い。

私は惣流・アスカ・ラングレー。

私は…こんな所で負けられない。

私は…こんな所で終らない。

私は…こんな所で逃げ出さない。

 

そうだったのね…私。

私…逃げてたのね。)

 

 

そして、ゆっくりと口を開く。

「…そうね、私は私。私の気持ちは私にしかわからないわね」

アスカの表情からは険しさが消えていた。

「そうそう、だって惣流さんは惣流さん。私は私だもん♪」

そう言って微笑むマナ。

「私は私か…」

そう言って微笑むアスカ。

 

そして、アスカは手を握った。

最初に謝罪の意味を込めてヒカリの手を。

それから、マナ、レイの手を握った。

 

教室の緊張した雰囲気は、次第に穏やかな雰囲気に変わろうとしている。

 

「我らが2-Aへようこそ!惣流・アスカ・ラングレー!」

そこへ穏やかな雰囲気を盛り立てるように、ケンスケが声をあげる。

 

ケンスケのキザな言いまわしに、笑いがこぼれる教室。

教室は賑やかさを取り戻した。

惣流・アスカ・ラングレーの微笑みも一緒に。

 

 

だが、笑い顔のこぼれる教室で、一人笑顔を見せない人物がいた。

その人物の名は綾波レイ。

彼女は一人、誰にも聞こえない声で呟く。

 

 

「私は私…私は…」

 

 

 

<ネルフ本部>

 

ゲンドウは冬月と話をしている。

 

「結局、そうなるか」

冬月がため息混じりに話す。

「そういうことだ」

ゲンドウは、両手を机に組んだまま答える。

「…日本政府は?」

冬月が思い出したように口にする。

 

少しの間をおいて答えるゲンドウ。

 

「…男を送り込んできた」

 

少し考えた冬月は、すぐに答えを得た。

「ああ、彼か」

冬月は気づいたように話す。

「そう言うことだ」

ニヤリと笑うゲンドウ。

 

 

 

<暗闇の会議室>

 

暗闇の中にモノリス達が浮かび上がる。

 

「何を考えているのだ…碇は」

 

「我々に刃向かう気ではないのかね?」

 

「その気ならば、処分せねばなるまい」

 

「処分するには、少しばかり持ち駒を与え過ぎでは?」

 

「今は、まだいい。今だけだがな」

 

暗闇に消えるモノリス達。

 

最後に残ったモノリスが語る。

「…碇、何を考えている」

 

暗闇に消えるモノリス。

 

 

 

 

つづく


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