太平洋上、国連所属の太平洋艦隊は、日本へエヴァンゲリオン二号機の輸送中に襲撃を受けていた。

突如現れた第六使徒によって襲撃を受けていた。

そんな襲撃の中に、セカンド・チルドレンはいた。

 

 

 

僕は僕で僕

(12)

 

 

 


 

<太平洋艦隊の旗艦に併走するタンカー>

 

タンカーの格納庫で着替えている少女がいる。

茶色の髪にブルーの瞳。

少女は赤いダブダブのプラグスーツに着替え終ると、手首にあるスイッチを押す。

体に密着するようにプラグスーツが変形する。

そして、少女は呟く。

 

「いくわよ…アスカ」

 

惣流・アスカ・ラングレー。

ネルフ・ドイツ支部に選出されたセカンドチルドレン。

二号機の日本への輸送途中に初陣を迎えることになった少女。

 

そしてアスカは格納庫のエヴァンゲリオン二号機を見上げた。

真紅のボディーに塗装された二号機は、タンカー格納庫に存在していた。

 

 

<太平洋艦隊旗艦・オーヴァー・ザ・レインボウ、一般船室>

 

男が、逃げ支度をしながら、何処かへ電話をかけている。

 

「こんな所で使徒襲来とはチョット話が違いませんか?」

―そのための二号機だ。最悪の場合、君だけでも脱出したまえ―

「わかっています」

男と話している電話の相手はゲンドウだった。

そして、この男の名前は加持リョウジ。

 

加持リョウジ、飄々としていて捕え所が無い男。

セカンドチルドレンの護衛を兼ねて、日本に向かう。

ネルフへ荷物を届けるために。

 

 

<旗艦・ブリッジ>

 

太平洋艦隊の総指揮を取る艦長と、その副官がいる。

 

「六番!七番艦!撃沈!」

副官が叫ぶ。

「ありったけのミサイルと魚雷をぶち込め!タンカーには近づかせるな!」

艦長が命令する。

 

太平洋艦隊は混乱の極みにいた。

突然現れた使徒。

太平洋艦隊の物理的攻撃も使徒には通用しないという事実。

そして、次々と沈んでいく戦艦。

混乱という言葉は、次第に壊滅という言葉に変わろうとしていた。

 

「かっ、艦長!タンカーが!」

「何だ!タンカーがどうした!?」

「ネルフのオモチャが発進しています!」

「何ぃぃ!」

 

驚きブリッジの窓からタンカーを覗き込む艦長。

タンカー艦上には、自らがオモチャと名づけた、ネルフのエヴァ二号機が立っていた。

マントの様に帆布をまとった真紅の二号機が、タンカー艦上に立っていた。

 

「小娘が勝手な真似を!」

そう言って艦長は荒っぽく艦内回線を手にした。

 

「聞いているか!小娘!」

―小娘じゃないわ!アスカよ!―

「アスカ君!そんなオモチャで戦うことは無謀だ!即刻、降りたまえ!」

―無謀…ハッ笑わせるわね!太平洋艦隊で使徒を倒そうなんて考えの方が、よっぽど無謀よ!―

「何ぃぃぃぃ!」

―わかったら、サッサとエヴァの外部用電源の用意しておくこと!―

「待て!小娘!」

艦長が言い終るか終らない内に、使徒の攻撃を受けるタンカー。

間一髪、二号機は近くの戦艦へジャンプした。

二号機のジャンプと同時に沈んでいくタンカー。

 

その様を見ていた艦長は呟く。

「賭けてみるか…小生意気な小娘に…」

 

そして艦長は命令する。

「空母に連絡しろ!直ちに外部用電源の用意をしろとな!」

 

 

<二号機と第六使徒との戦闘>

 

近くの戦艦へとジャンプした二号機は、使徒の動きを監察していた。

正確に言うと、二号機を操縦しているアスカが、海中から攻撃してくる使徒の動きを監察していた。

 

エントリープラグ内のアスカ。

「B型装備じゃ、結構キツイかもね」

海中から攻撃してくる第六使徒に、地上用装備では荷が重いと判断するアスカ。

「残り五十八秒か…。でも、私は負けられない!」

 

そう言い終った後、二号機は帆布を脱ぎ捨て跳んだ。

戦艦から戦艦へと次々にジャンプして、空母へ向かう。

空母へと着艦した二号機は外部用電源を背中につなぐ。 

 

「電源確保!使徒は?」

アスカがモニターを見回して使徒を探す。

「来た!」

使徒が空母めがけて突進して来ている。

プラグナイフを抜く二号機。

アスカは突進して来る使徒を見て言った。

「刺身にしてやるわ!」

空母に体当たりをして来ると予想し身構える二号機。

 

しかしアスカの予想は外れた。

突然、使徒は空母の上を跳んだ。

そして二号機の上にのしかかり、二号機を海中へと引きずり込んだ。

 

海中へ落下していく二号機のエントリープラグ内。

「この!好き勝手やってくれちゃって!」

アスカは使徒の動きに翻弄されながらも強気だった。

 

そして、二号機はプラグナイフを握り直し、海中の中で体勢を立て直す。

その二号機の周りで使徒は獲物を狙う獣の様に旋回行動をしている。

 

 

<旗艦、艦上>

 

加持が戦闘機の後部座席に乗っている。

使徒との戦闘海域から脱出するために。

 

「発進してくれ」

加持が戦闘機のパイロットに促す。

「了解」

パイロットの言葉と共に発進を開始する戦闘機。

「離陸します」

パイロットが加持に告げる。

「ああ、頼む」

そして戦闘機は浮かび上がる。

上昇を始める戦闘機の中で加持は思う。

 

(アスカ…死ぬなよ…)

そう思いながら、加持は手もとのアタッシュケースを少し強く握った。

 

 

<旗艦、ブリッジ>

 

艦長と副官が二号機の沈んだ場所を見つめている。

 

「浮かんできませんね、艦長」

副官が口を開く。

しかし艦長は返事をせずに、沈んだ場所を見つめる。

 

少しの間、沈黙する二人。

 

「…賭けをしないか?」

沈黙を破り、艦長が副官に話しかける。

「賭け?ですか」

「そうだ、使徒とネルフのオモチャ。どちらが勝つか、賭けてみるか?」

少し考えこんだ副官は艦長に話しかける。

「艦長は、どちらに賭けるおつもりですか?」

「……ネルフのオモチャだ」

重そうに口を開く艦長。

「それでは賭けになりませんよ」

少し微笑む副官。

「貴君も相当の夢想家だな」

副官の返事を聞いて艦長は少しだけ笑った。

 

 

<海中、二号機と第六使徒>

 

二号機の周りを旋回行動している使徒。

 

「どう料理するか考えてるって感じね」

アスカはモニターで使徒の動きを追いながら一人話す。

「来る!」

 

使徒は行動を開始した。

二号機に迫り来る使徒は口を広げた。

「く、口って、そんなのアリなの!」

使徒の口に驚くアスカ。

今までの使徒に口があったとの報告は無いため、驚くのも無理はない。

二号機を飲み込もうとする使徒。

「この!させるもんですか!」

抵抗して飲み込まれまいとする二号機。

しかしB型装備では動きが悪い。

「動いて、動いてよ!」

アスカの声も虚しく、使徒に上半身を飲み込まれる二号機。

 

飲み込まれたまま海中を引きずり回される二号機。

 

だが、アスカは冷静だった。

引きずり回される中、アスカは使徒の口の中で確認していた。

使徒の喉もと付近に存在するコア。

使徒のコアと呼ばれるモノを。

「あれが…コア……いける!」

 

使徒のコアを確認したアスカは呟き始める。

「開け…開け…開け…開け…開け」

 

一瞬、二号機の目が光る。

それと同時に、二号機が使徒の口を開かせようと動き出す。

「開け!」

アスカの呟きが叫びに変わった瞬間、使徒の口を二号機が開かせた。

一気に使徒の喉もとへと跳びこむ二号機。

「このぉぉぉぉぉ!」

アスカの叫びと共に二号機は、使徒の喉もとへコアへとプログナイフを突き立てる。

 

海中で爆発する使徒。

その衝撃を利用して、外部用電源を切り離し空母の上に着艦する二号機。

 

アスカは初陣を勝利で飾り、そして生き残った。

 

<エントリープラグ内>

 

アスカは満面の笑みを浮かべていた。

使徒を倒せたこと、自分の存在価値を、才能を確認できたことで自然と笑みを浮かべていた。

 

「艦長さん、私の活躍見た~」

アスカは回線をブリッジにまわす。

―ああ、見事だった―

「でしょ、私に任せればザットこんなもんよ♪」

―礼を言わせてもらおう。ありがとう…アスカ君―

「礼なんていいわ。それよりも加持さん呼んでくれない?」

―加持?ああ、あの男なら逃げたよ―

 

驚いた顔で沈黙するアスカ。

 

「………ウソ…」

そう言って呟くアスカの手は小刻みに震えている。

―ウソではない。君が海中に引きずり込まれる前に、脱出すると連絡を受けた―

「ウソよ!ウソよ!ウソよ!」

アスカは混乱し叫んでていた。

アスカの護衛として付き添っていた加持が、アスカの一番窮地の時に逃げ出したことに対して。

―どうしたんだ?アスカ君!―

「ウソよ!加持さんが逃げ出すなんて!私を置いて逃げ出すなんて!絶対ウソよ!」 

 

 

エントリープラグの中でアスカは叫んでいた。

自分を納得させるかのように。

 

 

こうして、太平洋艦隊は傷つきながらも、日本への輸送任務を完了させた。

だが傷ついたのは太平洋艦隊だけではなかった。

14歳の少女の心にも深い傷を負わせていた。

 

 

<二号機の中>

 

アスカは操縦席で膝を抱える様に座っている。

 

(加持さん、なんで逃げたのよ…。加持さん、加持さん、加持さん…。)

 

アスカは加持を慕っていた。

それは、初めてアスカを一人前と認めて扱ってくれたからだった。

たとえ、それが二号機のパイロットだったからだとしても、アスカは嬉しかった。

その加持に裏切られ、アスカは傷心の只中に居た。

 

「加持さん…」

小さく、か細く呟くアスカ。

 

 

<新横須賀>

 

太平洋艦隊の旗艦、オーヴァー・ザ・レインボウが入港している。

出迎えたのは、葛城ミサトと赤木リツコの両名だった。

二人は戦艦のタラップから降りて来る人や荷物を眺めている。

 

「ようやく、二号機の到着か」

ミサトは笑みをこぼしながら話す。

「そうね」

ミサトの方を向かずに、リツコは二号機の戦闘データを読んでいる。

「これで使徒との戦闘が随分楽になるわね」

「そうね」

ミサトのへの返答は適当に、リツコは戦闘データを興味深く読んでいる。

「にしても、さっきからアスカが見えないのよね」

「そうね」

やっぱりリツコは、戦闘データから目を離さずに返答する。

「ちょっち、私見て来るわ」

そう言い残し、ミサトはタラップへ向かった。

「そうね」

ミサトの話を聞いていないのか、リツコは戦闘データを読んでいる。

 

一人で熱中して戦闘データを読むリツコ。

コア直撃のデータ箇所を読み始めたリツコは驚きの声をあげた。

「スゴイ、これ見てミサト!」

ミサトの方を向くリツコ。

しかしミサトはいない。

「ミサト?何処行ったのかしら?」

どうやら、リツコはミサトの話を全然聞いていなかったようだ。

 

 

<ネルフ司令室>

 

ゲンドウと加持がいる。

 

「イヤハヤ、波乱に満ちた船旅でしたよ。やはりコレのせいですか」

そういいながら、アタッシュケースを開ける。

アタッシュケースの中を覗きながら言葉をつなぐ加持。

「すでに、ここまで復元されています。硬化ベークライトで固めてありますが、生きています。間違いなく。」

ゲンドウは黙したまま、アタッシュケースの中身を見つめる。

「人類補完計画の要ですね」

加持がゲンドウに訊ねる。

「そうだ。最初の人間………アダムだよ」

ゲンドウはニヤリとしながら答えた。

 

 

<新横須賀>

 

入港している旗艦のブリッジ。

 

ミサトはアスカが二号機の中にいることを知った。

そして、その中に閉じこもっている理由も。

そしてアスカが心を閉ざし、閉じこもった二号機を見て呟く。

 

「加持か、懐かしい名前ね…」

 

「ここから直接二号機パイロットに呼びかけますので、関係者以外退出して頂けますか」

ミサトは真剣な表情で話す。

そして、ブリッジにいる人間を全て退出させた。

 

そしてミサトは、ブリッジの回線を握り話しかける。

 

「アスカ、聞こえてる?」

しかし、二号機から返答は無い。

ミサトは一度二号機の回線を確認する。

二号機の回線は開いている。

「聞こえてるんでしょう。返事ぐらいしなさい」

ミサトの話す語句は手厳しいが、言葉には優しさを含んでいる。

ミサトは少し返事を待ったが、やはりアスカは何も言ってこない。

「返事をしないのなら、それでもいいわ。勝手に話すから」

そう言ってミサトは話しはじめた。

 

「まず、アスカのピンチに私がいなかったことを謝罪するわ。…ごめんなさい」

そう言ってミサトは二号機に一度頭を下げる。

アスカには見えていないかもしれない。

それでも頭を下げる所が、ミサトなりの謝罪なのだろう。

「私にも、それなりの事情があったの。だから加持にも色々と事情があったと思うわ」

 

二号機の中で加持という言葉にピクリと反応するアスカ。

 

「だから許せということじゃないんだけど…」

(ネルフの作戦部長も説得に関しては素人以下ね)

などと思いつつ話すミサト。

 

―ミサトは…加持さんを知ってるの?―

二号機から通信がはいる。

 

「え、ええ」

状況の変化に驚きながら返答するミサト。

―いつから、知ってるの―

「学生時代からの付き合いよ」

ミサトは正直に話す。

たとえアスカが14歳といえども、一人の大人として話す。

それが、アスカに対しては良い方法と思って。

 

―付き合ってたの?―

「ナッ」

アスカの質問に言葉を詰まらせるミサト。

「…付き合ってたわ。…でも学生時代の話しよ」

 

「付き合っていたわ」 

ミサトの言葉がアスカの頭の中でリフレインする。

そして、アスカの中で何かが…ハジケタ。

 

―みんな大ッ嫌い!―

そう言って回線を切るアスカ。

 

「ア、アスカ!」

シマッタと思いながら、回線を握り叫ぶミサト。

しかし、アスカからの返答はない。

 

「あ痛~、ドジッちゃったわ」

思わず口にして頭を抱えるミサト。

 

「アスカを出てこさせる方法が一つだけあるわ」

なぜか、リツコがミサトの後ろに立っていた。

「方法って何!……って、その前にリツコいつからそこにいたの?」

「ミサトが`付き合ってた´って言ったあたりかしら」

「盗み聞きしてたわねリツコ」

ジト目でリツコを見るミサト。

「たまたま聞こえただけよ。それよりもアスカを二号機から出したくないの?」

「本当にアスカが出て来るのね」

ミサトがリツコに訊ねる。

「アスカならね」

そう言ったリツコは、真剣な顔をしていた。

 

 

<二号機の前>

 

ミサトとリツコが二号機に取り付けてある通信回線の前にいる。

 

「なるほどね。そこからアスカに直接話しかけるってわけ。でもアスカ出て来るかしら?」

「出て来るわ。情報どうりの惣流・アスカ・ラングレーなら」

そう言って、回線を握るリツコ。

 

「聞こえてるわね。エヴァの開発責任者の赤木リツコです。即刻、二号機から降りなさい」

しかし、返答はない。

「降りなければ、こちらにも考えがあります。貴方にはドイツに帰ってもらいます。」

二号機の中で`帰る´という言葉に反応するアスカ。

「貴方の代わりは、幾らでもいるのよ」

「リツコ!」

ミサトが怒りの表情でリツコの肩を掴む。

「見てミサト」

ミサトの行動を無視する様にミサトの視線を二号機のほうへ向かせるリツコ。

 

二号機のエントリープラグが排出された。

そしてエントリープラグからアスカが降りてきた。

 

「帰るのは嫌…」

そう呟きながら、アスカは二号機から出てきた。

悲しい目をしながら。

 

 

<翌日、学校・2-A>

 

アスカは教室で自己紹介をしている。

 

「……惣流・アスカ・ラングレー…です」

面持ちは暗く、声もどこか頼りない。

 

(私、どの面下げて、この教室にいるのかしら。加持さんにも見捨てられて、ミサトに慰められて。
ここに居るのがバカらしくなってくる。帰りたい…でも帰る場所なんて私には無い…。)

 

アスカは虚ろな目をしていた。

 

 

 

つづく


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