エヴァ操縦者専用、女子更衣室。

第十伍使徒の襲来が迫る中、一足先にプラグスーツに着替え終わったレイは、出入口付近で、遅れて到着した少女に出くわした。

黒髪の少女、マユミであった。

 

 

 

僕は僕で僕

(115)

 

 

 


 

「あ…」

少し驚いたのか、マユミは小さく声を上げると、レイの顔を見つめた。

だが、そんな視線に構わず、レイは淡々とした表情で、真正面に立つマユミに話しかける。

「どいてくれる?」

「ご、ごめんなさい」

レイの進路を妨害していたことに気づき、マユミは慌てて通路を開けた。

そんなマユミの行動に謝辞を表すことも無く、レイは静かに歩みを進めた。

淡々と歩くレイの後姿を見つめながら、マユミは思考する。

(綾波さんって、戦闘になると雰囲気が変わる…気のせいかも、しれないけど。)

 

 

<指令室>

 

「全員揃ったようね。…では、作戦内容を伝えます」

数分後。

だだっ広い指令室では、ミサトの作戦説明が始まっていた。

使徒の唐突な出現を受け、急遽作成した作戦の説明を。

プラグスーツに着替え終わった子供達を前に、ミサトは真摯な瞳で話しかける。

「今度の使徒は月軌道上に出現しています」

「んーなの、…どーやって倒せってんのよ」

ミサトの説明に、アスカは俯き加減に小さなボヤキ声を上げた。

どうやら、隣に立つマユミのことが気になっているようでる。

だが、ミサトはアスカの気持ちに気づく事もなく、ボヤキの部分、作戦内容に影響するであろう部分にだけ答える。

作戦前の緊張を解そうと、柔らかな表情で。

「それを今から説明します。『人の話は最後まで聞くこと』って、学校で習わなかった〜?」

「連日(シンクロ)テストで学校には行ってないで〜す」

ミサトの表情に促されたのか、マナが元気一杯の笑顔で茶々を入れた。

「はい、そこ。余計なこと言わない」

まるで学校の先生のように、マナに注意するミサトであった。

そんなミサト達の朗らかな会話を聞き、シンジの隣に立っていたトウジが、思い出したように口を開く。

「学校言うたら、最近ケンスケの奴が姿見せへんのや。シンジ、知らへんか?」

「え?あ、僕?…ケンスケの事?…ううん、知らない」

唐突に話しかけられた所為もあるのか、シンジは多少驚きつつ返事をすると、自らもケンスケの所在を知らないことを話した。

その言葉を聞くと、トウジは残念そうな表情で呟く。

「ほぉ〜かぁ…、んならしゃあないわな」

そうトウジが呟いたと同時に、ミサトが景気良く手を叩き、注意を促す。

パン、パン。

「はい。こっちに注目。サクッと作戦説明しちゃうから、聞き逃さないようにね」

そう言うと、ミサトは緩やかに首を動かし、左端から順にチルドレン達を見つめ思考する。

一番左端に立つ少女、マユミ。

(普段と変わらないような素振りを見せてるけど、やっぱり(シンクロ)テストの結果が気になる…。)

「山岸さん。貴方には、万が一、使徒が落下して来た時の為、ある程度距離を取って貰います」

思考の後、ミサトは作戦の一端である、『使徒を受け止める』という行動をマユミに任せたことを告げた。

ちなみに、ミサトの立てた作戦とは、月軌道上に現れた使徒の特性を検討した結果、
類似した存在であった第十使徒の行動を考慮に含めるに至り、組み立てられ作戦だった。

『念には念を』、というエヴァの数的優位を考慮に入れての作戦であった。

「落下?…ですか?」

ミサトの作戦を意図出来ないのか、マユミは思慮に悩むといった表情で訊ねた。

その言葉に、ミサトは簡潔に答える。

「ええ、そう。落下。アスカ達は覚えてると思うけど、この前の第十使徒戦。あれを考慮に含めたものよ」

「第十使徒?…あ、空からの敵のことですね」

記憶の糸が解けたのか、マユミは納得がいったという顔つきで話した。

その言葉を聞き、アスカがマナが不思議そうな面持ちで訊ねる。

「何で山岸さんが知ってるの?第十使徒のこと?」

マナの問いも当然である。

第十使徒戦当時、マユミはエヴァ操縦者では無かったのだから。

だが、その問いもアスカの一言によって一蹴されてしまう。

「そんなの決まってんじゃない。アメリカ支部で見たんでしょ。私達の戦いを」

少々棘のある話し方のアスカに、マユミは寂寥と緊張の混じった表情で、たどたどしく答える。

「は、はい…。向こうで見せて頂きました。…皆さんの戦い」

「……」

マユミの表情、言葉に、ミサトは何も言わなかった。

だが、何か思う所があるのか、これまでとは打って変わったような真剣な表情で作戦内容を告げる。

「同じく落下対処任務に、レイと霧島さん。貴方達にも就いてもらうわ。異存、無いわね」

コクッ。

ミサトの真剣な表情に気づいたのか、マナは驚きと戸惑いの表情で頷き、レイは然して驚いた様子も見せず、静かに頷いた。

二人の了承を確認すると、ミサトはアスカに視線をやった。

そんな視線に気づいたのか、アスカはミサトの目を見つめ、不機嫌そうな表情で訊ねる。

「私は?」

マユミ、マナ、レイの三人が先に任務を告げられた為、一人蚊帳の外のような気持ちを抱いていたからだった。

そんな気持ちを察したのか、ミサトは真摯な瞳を見せ、アスカの自尊心を擽(くすぐ)るかのような口調で話しかける。

「先の第十四使徒戦での活躍、見事だったわ。シンクロ率といい、戦闘に於ける集中力、実行力、共にね」

「当然。伊達に十年以上もエヴァに乗ってないってぇの」

ミサトの言葉に乗せられ、アスカは満更でもないといった口振りで答えた。

その言葉、覇気のある口調、いつも通り強気なアスカの態度に、ミサトは安堵の思考をする。

(…決まりね。)

そう思考した後、フッと息を吐き出すと、ミサトは任務を告げる。

「アスカは砲手を担当。
使徒が落下の気配を見せない場合、技術部が開発した長距離用・陽電子砲、ポジトロン20Xライフルで使徒を撃ち抜いて貰います」

「了〜解」

ミサトに告げられた任務に、力強く、頼もしげに答えるアスカであった。

その返事に微笑を見せると、ミサトは残る二名、シンジとトウジに指示を下す。

「シンジ君は念の為っていうか、凍結申請が受理されたんで、初号機内で待機。鈴原君は当然待機室ね」

「は、はい」

「はぁ…またでっか」

記憶の無いシンジは戸惑い、参号機の修復待ちのトウジは残念そうに答えた。

そのトウジの言葉に、ミサトは苦笑しながら話しかける。

「残念そうな顔しないの。ドイツからパーツも届いたんだし、もう時期よ。もう時期」

「はぁ…」

ミサトの言葉に納得出来ないのか、トウジは落胆の声を露にしながら答えた。

その様子に苦笑すると、ミサトは全員へと指示を下す。

「では、これで作戦説明を終わります。五分休憩の後、各ケイジに集合ってことで宜しく」

 

ミサトの言葉を皮切りに散開する子供達。

その子供達の後姿を見ていたミサトは、一つの事に気づき、深刻な表情で思考する。

(アスカ…、山岸さんを避けてる。)

 

 

<ネルフ内、休憩室>

 

五分間の休憩。

アスカはマナと共に休憩室で、缶ジュースを飲んでいた。

硬い無機質な壁に寄り掛かりながら、アスカは健康飲料水、マナは蜜柑ジュースを。

マナは横目で窺うようにしてアスカを見ると、心配そうな面持ちで訊ねる。

「あのさぁ、アスカ。山岸さんと何かあった?一緒に休憩、誘えば良かったのに…」

その言葉に、アスカは苦虫を潰したような顔で答える。

「私の方から誘ったら、…私が悪いみたいじゃない」

「喧嘩したの?」

コクリ。

アスカは気不味そうに頷いて答えた。

その言動に、マナは苦笑の表情を浮かべる。

(なんか…アスカらしい。)

そんな想いを感じてしまったからだった。

「な、なによぉ〜。人の不幸が可笑しいってのッ」

マナの苦笑いを見たアスカは、怒りからか、恥ずかしさからか、頬を赤くしながら声を上げた。

「そんなんじゃなくって、唯ね」

その様子に、マナは穏やかな微笑で答えると、優しげな口調で言葉をつなぐ。

「可愛いなぁ…って思ったの」

「な、何言ってんのよ。…いきなり」

照れ臭かったのか、アスカは語気弱めに顔を赤くした。

アスカの様子を見つめると、マナは楽しげな表情を見せながら、穏やかな思考をする。

(ホント、可愛い…。それに羨ましい。それだけの純粋さ、…私には無いもの。)

 

 

<作戦司令部>

 

中央モニターに映し出された、第十五使徒。

光の翼のような姿は、使徒としての神々しさと、人類の敵としての禍々しさを共有させ、見る者に奇妙な二つの感覚を覚えさせた。

綺麗、美しい、と言われるような美的感覚と。

光の敵、月軌道上の敵、遠き場所に居る敵、という認識的感覚を。

だが、それも一瞬の事だけである。

ネルフの職員達に、使徒を見つめ、余韻に浸る暇など無い。

今、現時点では、使徒の存在が確認された、という事実だけが、ネルフ職員達の意識に存在している。

そして、その意識を元に、各自、使徒の情報収集なり、エヴァの出撃準備などで、慌しく作業を進めていた。

 

「御待たせ。使徒に動きは?」

職員達の声が響く中、一人の女性が司令部に到着した。

チルドレン達への作戦説明を終えたばかりの作戦部長、ミサトであった。

「あ、葛城さん。待ってました」

ミサトの声に答えたのは、同じ作戦課に所属する日向であった。

日向の『待ってました』という言葉に、ミサトは不穏な臭いを感じ、眉間に皺を寄せながら答える。

「何?使徒に動きが?それとも私の作戦に欠陥が?」

ミサトの言葉に苦笑すると、日向は嬉々とした表情で答える。

「いえ、朗報です。ポジトロン20Xライフル、急造仕上げですが、もう一丁準備出来るそうです」

「はぁ…やるわねぇ、技術部」

日向の報告に、ミサトは素直に感嘆の言葉を発した。

使徒の襲来という、慌しく限られた時間の中で、エヴァの武器を完成させた技術部。

まるで第十五使徒の存在を知っていたかのような準備の良さ、手際の良さ、洗練された技術力に対しての感嘆であった。

そのミサトの言葉に頷くと、日向は新しい情報下での今後の方針を訊ねる。

「どうしますか?作戦に若干の修正を加えますか?」

日向の言葉に僅かの間考え込んだミサトであったが、出撃までの時間も残り少ないこともあり、即断に近い決断を下す。

「…いえ、作戦変更は無し。あの子達に説明しちゃった後だしね」

「了解です」

ミサトの言葉を受けると、日向は自分の持ち場に戻る素振りを見せた。

その様子に何か思い出したのか、ミサトは日向の背中に声をかける。

「あ、日向君。念の為に、射出の準備だけはさせといて」

日向はチラッと振り向くと、静かな微笑を見せて答える。

「無論、そのつもりですよ」

そう言い残し、日向は自分の持ち場に着き、作戦の詰め作業に入った。

日向の言葉を確認すると、ミサトは面倒臭そうに髪を掻き上げながら思考する。

(…作戦はこれで良し。後は実行する側の問題か。)

そんな思考をすると、ミサトはチルドレン達のモニターを見た。

まだ休憩時間の為か、ケイジへ移動中の為か、誰一人エヴァに搭乗していないモニター。

そのモニターの中で、六番目のモニター、四号機のモニターに視線を注ぐと、ミサトは真剣な表情で思考する。

(…帰ったら、話しなきゃ。)

 

 

<初号機ケイジ>

 

シンジはトウジと共に、初号機ケイジへと来ていた。

凍結中である為か、作業員達の姿も疎(まば)らのケイジへ。

 

「じゃ、トウジ。僕、乗るから」

見送りの為に着いて来ていたのか、シンジは傍(かたわ)らに立つトウジへ、軽く微笑んだ。

その微笑には記憶喪失の影など感じさせない程、穏やかで、普段通りのシンジの微笑であった。

シンジの微笑みに、トウジは静かに右手を差し出して答える。

「ま、待機任務やさかい無理なことは出来へん思うけど、気ぃつけぇや」

「うん、ありがとう」

その言葉に静かに頷くと、シンジはトウジの手を握り返した。

そして、ゆっくりと手を離すと、シンジは口を開く。

「じゃ、行くよ」

「ああ」

トウジは落ち着いた口調で答えると、シンジの背中を見つめた。

ゆっくりと遠ざかるシンジの背中へ、トウジは心の中だけで話しかける。

(…なぁ、シンジ。人が死ぬっちゅうんは寂しいことや。顔も見えへんし、話も出来へん。…寂し過ぎるわ。
…なぁ、シンジ。人が死ぬんは厭なことや。誰かが死んだら、誰かが悲しむ。…こんな想いはもう厭なんや。)

そんな心の言葉をシンジの背中へ送ると、トウジは寂寥の眼差しを見せながら、静かに呟く。

「悲しむんは、少ない方がええよな。…なぁ、シンジ」

 

そう呟いた後、トウジは自分の持ち場でもある待機室へと向かった。

少なからずの悲しみを紛らわす為に。

 

 

<弐号機、エントリープラグ内>

 

休憩後、任務を帯びたチルドレン達は、各機体に乗るなり、各持ち場に就いていた。

そして、砲手という任務を帯びているアスカも、休憩を終え、弐号機内・エントリープラグで出撃の合図を待っていた。

アスカはオレンジ色の液体、LCLの中で小さく呟く。

「落下の気配が見えない場合、使徒を撃ち抜いて貰います…か」

ミサトの命令を淡々と復唱すると、アスカは側面にある他の機体のモニター、チルドレン達の機体を繋ぐモニターを見つめた。

だが、そのモニターには、四号機のモニターは映っていない。

アスカ自らが、戦闘に集中する為、モニターの回線を繋いでいない為だった。

(戦闘が終わったら、口聞いてあげよ。…こんな厭な感情、ずっと抱えたままってのも何だし。)

本来なら四号機操縦者が映るべき場所を見つめながら、そんな思考をすると、アスカは穏やかな表情を見せた。

どうやら、自分の気持ちに一区切り付いたようである。

 

数秒後。

アスカは静かに目を閉じると、小さく呟く。

「この、戦闘が終わったら…」

 

 

<四号機、エントリープラグ内>

 

「…何度乗っても、嫌な感じ」

LCLの満たされたプラグ内で、マユミは眉を潜ませながら呟いた。

正直、マユミはLCLという液体も、エヴァという存在も、大嫌いであった。

エヴァという存在の為に、多くの人が傷つき、多くの人が悲しみ、多くの人が痛みを堪えている事を知っていたからである。

アメリカ第二支部の消失。

トウジの祖父の死。

四号機の暴走による、シンジの怪我。

これら全ての原因は四号機、即ち、自分が関与していると判断していたからである。

悲しい判断だが、誰もマユミを否定することは出来ないし、肯定することも出来ない。

マユミという個人が決めた想いに対し、否定権も、肯定権も、マユミ自身以外、誰も持っていないのだから。

 

「ふぅ…」

マユミは倦怠感混じりに息を吐き出すと、(また、戦闘をするのか。)という想いを脳裏に描こうとした。

だが、その想いは描かれない。

-山岸さん、乗ってる〜?-

JAからの回線、マナからの回線が入った為であった。

どことなく陽気な声に苦笑すると、マユミはモニターのスイッチをONにして答える。

「はい、乗ってますよ」

-戦闘、頑張ろうね。-

「頑張って勝てるのなら、精一杯頑張らせて頂きます」

-う゛…皮肉ですかい。-

マナの引き攣った表情をモニター越しに見ると、マユミは小さな笑い声を立て、穏やかな表情で話しかける。

「そう言った訳じゃないです。唯、気持ちの程を言ったまでです」

-うぬぬ、ナチュラル皮肉って訳ですかい…。同居人の悪影響が窺えるって感じ。-

そう言って、マナは楽しげな表情を浮かべた。

だが、マユミはその言葉が気になったのか、急に神妙な面持ちを見せ、小さな声で呟く。

「…同居人。…アスカさんは、そんな人じゃないですよ」

その呟きに、マナが悪戯ッ子のような微笑を浮かべて話しかける。

-あっれぇ〜?私は同居人って言っただけで、アスカとは言ってないけど?-

「あ゛ぅ…」

マナの言葉に、気不味そうな声を上げるマユミであった。

その声に少しだけ笑った後、マナは優しげな表情を浮かべ、穏やかな口調で話しかける。

-あは。山岸さん、墓穴を掘っちゃったねぇ。…でも、まぁ、アスカって意味を込めた`同居人´だったけどね。-

「酷いです。…霧島さん」

気不味い気持ちを味わったマユミは、少し悲しくなったような表情をしながら話した。

その表情に、マナは穏やかな、それでいて寂しげな表情を浮かべて話す。

-うん、私は酷い人だよ。嘘も吐くし、人を貶(けな)したりもする。それに意地っ張りだったりもするしね。-

「あ、いえ…、別にそこまで言った訳じゃ…」

妙に真剣な表情で話すマナに戸惑い、マユミは話の途中で口を挟んだ。

マユミの言葉に微笑んで頷くと、マナは答える。

-知ってる。山岸さんが優しい人だってことも、アスカが私より意地っ張りだってことも。-

そこまで言うと、マナは軽く息を吐き出し、マユミの瞳を真摯に見つめながら言葉を繋ぐ。

-アスカはね。…山岸さんと仲直りしたがってる。
…だからさ、許すとかそんなんじゃ無くて、認めてあげて。アスカは意地っ張りで、高飛車で、とっても素敵な友達なんだって。-

「…霧島さん」

一見すると、アスカの悪口を言ってるような言葉、
けれども、その言葉には限りない優しさ、マナの愛情のようなものを感じ取ると、マユミは目頭に熱いものを感じながら呟いた。

-私の話はそんだけ。…使徒とかテストとか、色々あるけど頑張ろうね。やるだけやらなきゃ損だしさ。-

「…はい」

マナの言葉に、マユミは静かに頷いて答えた。

-じゃ、後でね。-

短く別れの挨拶を口にすると、マナからの回線は切れた。

 

回線が切れた後。

エントリープラグの作動音が響く中、マユミは穏やかな表情を浮かべていた。

マナの優しさ、思いやり、そんな心地よい想いに癒されての表情であった。

マユミは穏やかな表情で呟く。

「霧島マナ。…JA操縦者。……とっても優しい人」

 

 

<初号機、エントリープラグ内>

 

初号機のプラグ内には、ミサトの最終作戦説明及び、確認の声が響いていた。

モニターに映るミサトは、真剣な眼差しで話しかける。

-JA、零号機、四号機を地上射出後、使徒の様子を警戒。
その後、動きが見られないようなら、弐号機による狙撃を敢行します。長丁場になるから、そのつもりでね。-

-ナガチョーバ?…何それ?-

聞き慣れない言葉だったのか、アスカの不思議そうな声がプラグに響く。

その言葉に、ミサトは苦笑混じりに答える。

-明日の朝がキツイってことよ。-

 

初号機に乗った状態での待機任務であるシンジは、その会話を呆けた表情で聞いていた。

あまりにも`自分が戦闘をする´と言う感覚が無い為であった。

ネルフでの記録映像や、様々な訓練で、自分がエヴァの操縦者であることは認識出来た。

だが、自分自身が本当に戦うのか?

使徒っていう存在と、本当に戦うのだろうか?

心の奥底で燻(くすぶ)る疑心が、`戦闘をする´という感覚を鈍らせていた。

-シンジ君。聞いてる?-

「え?あ、はい。聞いてます」

唐突なミサトからの声に驚き、シンジは戸惑いながらも返事を返した。

そのシンジの様子に苦笑すると、ミサトは穏やかな表情を浮かべて話しかける。

-気分が悪くなったら、直ぐに回線を開いていいからね。
あまり無理しちゃ駄目よ。病み上がりっつーか、まだ診断の結果も出てないんだし。-

「はい。…ありがとうございます」

シンジの謝意を表す言葉に苦笑すると、ミサトは他のチルドレン達のモニターへ、全てのモニターに向かって話しかける。

-これより一分後にエヴァ三機を射出させます。各自そのつもりで待機しておくこと。以上、作戦確認を終了します。-

プツ。

ミサトからの回線は、その言葉を最後に切れた。

 

機械の作動音だけがする静かなプラグ内。

シンジは目を閉じ、小さく呟く。

「…診断の結果、まだ出てないんだ」

そう呟いた後、シンジは`ゆっくり´と目を開けると、椅子にもたれ掛かりながら気だるそうに思考する。

(まだ入院しなきゃ駄目なんだ。…嫌だな。記憶が戻ってくるまで、ずっと病院なのかな。)

そんな思考をした後、シンジは記憶を辿るかのような口調で呟く。

「病院、記憶…記憶は無い。…取り戻す、記憶。思い出す、記憶。
…ミサトさんも言ってたよな。「思い出して欲しい」みたいなこと。…!」

そこまで呟くと、シンジは何か思い出したのか、妙に醒めた目つきで言葉を繋ぐ。

「…花。黄色。……黄色の花?」

 

 

<零号機、エントリープラグ内>

 

ミサトの作戦確認後、レイは静かに目を閉じていた。

いつもと同じ感覚、いつもと同じ匂い、いつもと同じ居心地を確かめるようにして。

そして、僅かばかりの時間が過ぎると、レイは`ゆっくり´と目を開け、静寂漂うプラグ内に、自分の声を放つ。

「…時間ね」

 

その声の後、ミサトの声が響く。

-エヴァ各機、発進!-

 

 

 

つづく


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あとがき

半年振りです。御久し振りです。すっかり御無沙汰でした。(苦笑)
ま、とにもかくにも復帰しましたので、今後とも、どうぞよしなに。

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