2015年。

暗闇の会議室では、モノリス達の会談が進んでいた。

沈黙する冬月を他所にして。

 

 

 

僕は僕で僕

(110)

 

 

 


 

「S2機関を搭載し、絶対的存在を手にしたエヴァ2体」

「それは理論上無限に稼動する、半永久機関を手に入れたのと同義だ」

「5分から無限か。突飛な話だ」

「絶対的存在を手にしていいのは神だけだ」

「人はその分を越えてはならん」

「我々に具象化された神は不要なのだよ」

そこまで会話が進むと、それまで静観していたモノリス、キールのモノリスが重い口を開く。

「…神を造ってはいかん」

そして、その言葉を肯定するかのように、他のモノリス達は会話を続ける。

「まして、あの男に神を手渡す訳にはいかんよ」

「碇…。信用に足る人物かな」

 

モノリス達の様々な思惑を孕(はら)んだ会話に、冬月は項垂(うなだ)れ、微笑するだけだった。

自嘲するような微笑を浮かべ、冬月は思考する。

(碇。)

 

 

<1999年、京大理学部・冬月の研究室>

 

「六分儀ゲンドウ?聞いたことはあります。…いえ、面識はありませんが、色々と噂の絶えない男ですから」

冬月は意外な所からの電話、京都警察からの電話を、驚き混じりに受けていた。

だが、警察という場所だけでなく、『六分儀ゲンドウ』という男の名前にも驚きを受けていた。

そして、更にその驚きは増す。

「え、私を身元引受人に?」

(六分儀が私を身元引受人に?…面識は無い筈だがな。)

冬月は電話の内容を頭の中で整理しようとしたが、簡単には整理出来るものではなかった。

そんな思考をした後、受話器口から聞こえる警官の声に、冬月は思い出したかのように口を開く。

「…あ、いえ、伺います。いつ伺えば宜しいでしょうか?」

 

ガチャン。

冬月は警察からの電話を切ると、顎に手を置き、考える仕草を見せた。

(六分儀ゲンドウ。なぜ、私を…ッ!まさかッ?!)

思考を巡らした冬月は、ゲンドウの数ある噂のうち、ある一つの噂を思い出した。

六分儀ゲンドウ、ホモ説。

人付き合いが皆無で、当然、女にも興味無し。浮かぬ方が不思議と思われる、ゲンドウへの噂であった。

ゾゾ〜ッ。

その噂を思い出し、全身に悪寒を感じた冬月は、顔面を蒼白にしながら震える声で一言。

「…わ、私は違うぞ」

 

 

<京都府警察署>

 

冬月がゲンドウの身元を引き取った後。

警察署の入り口で、ゲンドウが微笑を浮かべながら口を開く。

「ある人物から貴方の噂を聞きましてね。一度お会いしたかったんですよ」

「…酔って喧嘩とは、意外と安っぽい男だな」

険しい面持ちで話しかける冬月は、精一杯、強がって見せていた。

そうでもしなければ、この場に訪れることなど出来なかったからだった。

そんな会話を終えた後、二人は何を言うことも無く歩き出した。

 

「話す間もなく、一方的に絡まれましてね」

紅葉色に染まった街路樹が立ち並ぶ中、ゲンドウは足早に歩く冬月の背中に話しかけた。

しかし、冬月からの返事は無い。

だが、ゲンドウは気にした様子も無く、薄ら笑いを浮かべて言葉をつなぐ。

「人に好かれるのは苦手ですが、疎(うと)まれるのには慣れています」

その言葉を聞き、チラッとゲンドウの方を振り向くと、冬月は全身に悪寒を感じた。

(き、気味の悪い微笑を見せるんじゃないッ!)

そんなことを思考しつつも、表情では平静を装うと、冬月はゲンドウから視線を外しながら口を開く。

「…ま、私には関係の無いことだ」

「冬月先生。どうやら貴方は、僕が期待した通りの人のようだ」

背後から聞こえてきたゲンドウの声に、冬月は無言で歩速を速めるだけだった。

 

 

<京都近郊の山道>

 

紅葉が美しい山道を、登山姿の冬月とユイが歩いていた。

彩り鮮やかな木々に囲まれながら、談話混じりに。

 

「君が?」

ユイの話を聞いていた冬月は、その話の内容に小さく驚き、戸惑い混じりに訊ねてみた。

その問いに、ユイは柔らかな微笑を浮かべながら答える。

「はい。六分儀さんとお付き合いさせて頂いてます」

ユイの言葉に足を止めると、冬月は呆気に取られた表情で思考する。

(ノーマルだったのか。…あの男は。)

そんな冬月の表情を見て、ユイが不思議そうな表情で話しかける。

「どうかされました?冬月先生?」

「あ、いや、君があの男と並んで歩くとはね」

戸惑いながらも言葉を返すと、冬月は再び歩き始めた。

冬月の言葉に苦笑すると、ユイは微笑みながら話す。

「あら、冬月先生。あの人はとっても可愛い人なんですよ。みんな知らないだけです」

「知らない方が幸せかも知れんな」

「あの人に紹介したこと、御迷惑でした?」

ユイの問いに、冬月は率直に自分の意思を口にする。

「いや、面白い男であることは認めるよ。好きにはなれんがね」

 

 

<2000年、南極大陸>

 

セカンド・インパクト。

20世紀最後の年、9月13日に悲劇は起こった。

爆発のエネルギーは地軸をも曲げ、地球規模の多大な気象変化をもたらすと共に、
その直後に発生した津波と、溶け出した氷によって、海面は数十メートルにわたって上昇させた。

南半球諸国合わせて、20億以上もの人命が失われ、北半球の日本に於いても、首都が海中に没するという、稀にみる大惨事であった。

 

 

<2001å¹´>

 

混乱、飢餓、殺戮。

21世紀最初の年を語るには、三つの言葉で事足りる。

セカンド・インパクトが招いた混乱は、旱魃(かんばつ)と飢餓を起こし、紛争という殺戮を生んだ。

それ以上に語るべきことの無い年である。

 

 

<2002年、愛知県豊橋市跡>

 

海中に沈んだ豊橋市跡に、一隻の船が浮かんでいた。

避難所ならぬ、避難船である。

冬月はその船の住人であり、住人達の健康管理も勤めていた。

だが、医師資格など持っていない為、無免許での活動であった。

 

資料の散乱している、冬月の部屋。

うだるような熱気と、ジメジメした湿度が入り乱れたる中、冬月の部屋に、一人の来客が訪れていた。

黒いスーツに身を包んだ男が、額の汗をハンカチで拭いながら口を開く。

「今日も真夏日だそうで、こっちは暑いですな」

「珍しくも無いよ。今の日本じゃ。夏がもう一年近くも続いてる。体にこたえるよ」

冬月は机で事務書類を整理しながら、男の方を振り向くこと無く答えた。

だが、男に気にした様子は見受けられず、淡々とした表情で話しかける。

「上の船には移らないのですか?」

「あそこは油臭さが抜けなくて」

「だからと言って、こんな所で開業なさっていたとはね。お探しするのに手間取りましたよ」

「ここも医者が足りないからね。真似事だが、居ないよりはマシだよ」

他愛も無い世間話を交わす二人。

だが、その会話は、男が差し出した一通の書類によって終る。

 

「今頃南極行きかね?」

男の書類を読み終えると、冬月は険しい瞳を見せながら訊ねた。

その言葉に、男は不敵とも取れる微笑を浮かべながら答える。

「国連理事会の正式な事件調査です。暫定的な組織ですが、ここでモグリの医者をやっているよりは、世の中の御役に立てると考えますが」

キュッ。

男の言葉に、冬月は回転式の椅子を回し、無言の背中で答えた。

冬月の拒否とも取れる行動に、男は淡々とした表情で話しかける。

「冬月教授」

「元教授だよ」

男の言葉を、振り向くこと無く訂正すると、冬月は何かに気づいたような口振りで訊ねる。

「ところで、私の欄が空白だが、推薦したのは誰かね?」

冬月の言葉に少しの間だけ沈黙すると、男はゆっくりと口を開く。

「碇…ユイ氏です」

 

 

<2002年、南極>

 

結局、冬月は南極行きに了承した。

実際、自分の目で南極の状態、生態系の変化を確めて見たいという事が有った為だった。

だが、推薦者がユイの名前だったことも、多少なりとも影響与えているのであろう。

 

「これが、かつての氷の大陸とはな。見る影も無い」

調査船の窓から、様変わりした南極の景色、地のような海と塩の柱を見て、冬月は自らの心象を淡々と呟いた。

その呟きの後、一人の男が現れる。

「冬月教授」

「君か。良く生きていたな。君は例の葛城調査隊に参加していたと聞いていたが?」

その声に振り向いた冬月は、意外な人物と出くわした。

『六分儀ゲンドウ』であった。

冬月の問いに、ゲンドウは口元に不敵な笑みを浮かべながら答える。

「運良く事件の前日、日本に戻っていたので、悲劇をまぬがれました」

「そうか。六分儀、君は…」

「今は名を変えてまして」

冬月の言葉を遮ると、ゲンドウは一枚の葉書を差し出した。

「葉書?名刺じゃないのかね?」

冬月は葉書を手に取ると、そこに書かれていた文字に驚きの表情を見せた。

『結婚しました。碇ゲンドウ、ユイ』

『お久しぶりです。お元気ですか?』

冬月は驚きを隠さず、そのままの表情で口を開く。

「碇。碇ゲンドウ」

「妻が冬月教授にと煩(うるさ)いので。…貴方のファンだそうです」

冬月の驚きが滑稽なのか、それとも照れ笑いか、ゲンドウは苦笑のような微笑を浮かべながら話した。

その言葉を聞き、冬月は深読みせず、素直に感謝の言葉を口にする。

「それは光栄だな」

そう答えると、冬月はユイの名前が出たこともあり、彼女の所在をゲンドウに訊ねる。

「ユイ君はどうしてる?このツアーには参加しないのかね?」

ニヤッとした微笑を浮かべると、ゲンドウはその問いに答える。

「ユイも来たがっていましたが、…今は子供が居るのでね」

 

感動的とは全く言えない、必然のような再会を果たした後。

二人は行くべき所があるのが、鉄製のタラップを登っていた。

タンタンタンと、鉄製のタラップに足音が響く中、冬月がゲンドウに話しかける。

「君の組織、ゼーレとか言ったかな。厭な噂が絶えないね。力で理事会を押さえ込むのは感心できん」

「変わらずの潔癖主義だ。この時代に、綺麗な組織など生き残れませんよ」

冬月の言葉に、ゲンドウは皮肉を込め、苦笑混じりの答えた。

タン…、その言葉に足を止めた冬月は、露骨に嫌悪の表情を見せながら声を上げる。

「今回のセカンド・インパクトの正式調査。
これも、ゼーレの人間だけで調査隊を組めば、色々と面倒なことになる。その為の間に合わせだろ。私達はッ」

 

 

<2015年、ネルフ本部・第四隔離施設>

 

ミサトは加持に内通したものとの疑惑から、隔離施設に監禁されていた。

室内の明かりもつけず、ミサトは目を閉じ、椅子に両足を乗せ、その足を抱え込むようにしながら思考する。

(暗い所はまだ苦手ね。厭なことばかり思い出す。)

 

 

<2002年、南極調査船>

 

2002年、ミサトは調査船の隔離施設に居た。

そして、2015年のミサトと同じように足を組んでいた。

だが、違うこともある。

心ここに有らずの様な、虚ろな瞳を見せていたことである。

 

「彼女は?」

その様子を監視窓から覗いていた冬月が、怪訝の面持ちを見せて訊ねた。

冬月の言葉に、調査船の案内役のような男が答える。

「例の調査団。唯一人の生き残りです。名は葛城ミサト」

「葛城?葛城博士の御嬢さんか?」

「はい。もう2年近く口を開いていません」

「酷いな」

「それだけの地獄を見たのです。体の傷は治っても、心の傷はそう簡単に治りませんよ」

そこまで話し終えると、冬月は小さく`ため息´を吐き出した。

そして、真摯な瞳を男に見せながら話しかける。

「それで?」

「は?それで、と言われましても…」

「なぜ、こんな所に隔離しているのか?と聞いている」

「人との一時的接触を極端に避けていますので」

男の言葉に、再び小さな`ため息´を吐き出すと、冬月は呆れたような口調で口を開く。

「…ここには馬鹿しか揃っていないようだな。
絶望を体験した少女を、こんな場所に隔離してどうなる?…更に自分の殻、他人との壁を作るだけだ」

「しかし私の一存では…」

「私の責任にすればいい。即刻、こんな所から出してやりたまえ」

「分かりました」

男が隔離室の鍵を取りに行くと、冬月は目を閉じ、三つ目の`ため息´を吐き出しながら思考する。

(我ながら善人ぶっている。…そう思わないでもない。)

 

数分後。

冬月は先程の男と共に、船のタラップ付近に居た。

手に持ったセカンド・インパクトの資料を手にしながら、冬月は男に話しかける。

「こっちの調査結果は、簡単に出せそうもないな」

そして、調査書を見つめながら、冬月は言葉をつなぐ。

「完璧にエリアを特定した大気成分の変化。
微生物に至るまで、全生命の徹底した消滅。爆心地・地下の巨大な空洞跡。そして、この光の巨人。この事件は謎だらけだよ」

 

調査書には光の巨人の写真が、克明に映っていた。

 

 

<2003年、箱根>

 

国連直属、人工進化研究所。

ゼーレが資金援助をしているという、研究機関。

南極調査から帰った冬月は、謎を解明するにつれ、ここに来るまでに至っていた。

謎を解明しようと思った発端は、
『大質量隕石が南極に落下した為』という偽りの調査結果を、国連という国家間の組織が発表したことにあった。

そのことを疑念に思った冬月は、独自に調査を進め、ゼーレという組織が関係していること突き止めたからだった。

そして、冬月が険しい面持ちで、正面玄関の階段を登って居ると、懐かしい人物に出くわした。

「ぁ…お久しぶりです」

穏やかな口調で話しかけてきたのは、ゲンドウの妻、ユイだった。

三年ぶりとなるユイとの再会にも、冬月は微笑を見せることもなく、淡々とした口調で事務的に答える。

「ああ、しばらく」

 

 

<人工進化研究所、所長室>

 

「なぜ巨人の存在を隠す?」

所長の椅子に座るゲンドウに、冬月は厳しい視線を投げかけながら訊ねた。

だが、ゲンドウは不敵な微笑を見せるだけで、何も語ろうとしない。

そんなゲンドウに臆すること無く、冬月は語気荒く言葉をつなぐ。

「セカンド・インパクト。知っていたんじゃないのかね?君らは。その日、あれが起こることを。
…君は運良く事件の前日に引き揚げたと言っていたな?」

「……」

相変わらずの沈黙に、冬月は手に持っていた資料を、ゲンドウの机に広げ、声を上げる。

「全ての資料を一緒に引き揚げたのも幸運かッ?」

資料をチラリと一瞥すると、ゲンドウは淡々とした口調で答える。

「こんなものが処分されずに残っていたとは、意外です」

「君の資産、色々と調べさせてもらった。子供の養育に金はかかるだろうが、個人で持つには額が多過ぎないかね」

「流石は冬月教授。経済学部に転向なさったらどうです?」

「セカンド・インパクトの裏に潜む、君達ゼーレと死海文書。公表させて貰う。あれを起こした人間達を許すつもりは無いッ」

そう言い放つと、冬月は決別の視線をゲンドウに向けた。

冬月の言葉に、ゲンドウはフッと短く笑うと、椅子から立ち上がりながら口を開く。

「お好きに。…唯、その前にこれを見て頂けませんか?」

 

 

<地下へと続く坑道>

 

深々とした地下へと続く坑道を、一台のケーブルカーが下りていた。

その中に搭乗して居る冬月は、怪訝な面持ちでゲンドウに話しかける。

「随分と潜るんだな」

「御心配ですか?」

「…多少ね」

そう冬月が呟いた後、周囲の景色が一変した。

先程のまでのトンネルの景色とは打って変わり、地下に広がる巨大な空間がケーブルカーの窓に映る。

その景色を視界に入れると、冬月は驚きの表情で訊ねる。

「これは?…」

「我々ではない、誰かが残した空間ですよ。89%は埋まっていますがね」

「元は綺麗な球状の地底空間か。…南極にあった地下空洞と同じものかね」

「データは、ほぼ一致しています」

「あの悲劇を、もう一度起こすつもりかね?」

そう訊ねた冬月は、確信に似た感情を胸に抱き、ゲンドウへと、その背後に居るゼーレへと声を上げる。

「君達はッ」

「それは、御自分の目で確かめて下さい」

冬月の憤りの声に、冷静な口調で答えると、視線で窓の先の景色を促しながら言葉をつなぐ。

「あれが、人類が持てる全てを費やしている施設です」

窓の先には、何年後かに、ジオ・フロントと呼ばれる巨大な地下施設が映っていた。

 

 

<地下施設・内部>

 

冬月は地下施設の一室に案内された。

そこで待っていたのは、椅子に座り、コンピュータを触る女性の姿だった。

その女性はゲンドウ達に振り向くと、微笑を見せながら口を開く。

「あ、冬月先生」

「赤木君。君もかね?…」

冬月を出迎えたのは、若かりし頃の『赤木ナオコ』であった。

ナオコは微笑みながら答える。

「ええ。ここは目指すべき、生体コンピュータの基礎理論を模索する、ベストな所ですのよ」

そう言うと、ナオコは再び作業を再開させながら言葉をつなぐ。

「MAGI と名付けるつもりですわ」

「マギ…、東方より来たりし三賢者か」

ナオコの言葉に、独り言のように呟くと、冬月は隣に立つゲンドウに訊ねる。

「見せたいものとは、これか?」

「いいえ、此方です」

冬月の言葉に答えたナオコは、作業を中断して席を立つと、三人から少し離れた場所に立っていた少女に話しかける。

「…リツコ、直ぐ戻るわ」

ナオコの言葉に、小さくコクリと頷く黒髪の少女。

『赤木リツコ』の学生時代の姿だった。

 

 

<地下施設>

 

冬月の案内された場所は、先程の施設よりも更に地下だった。

そして、その地下にあったものは、冬月を驚き、驚嘆させるには充分なものだった。

冬月は驚きの色を隠さず、困惑気味の表情で訊ねる。

「これはッ、まさか…あの巨人をッ?」

冬月の瞳には、零号機の残骸、あるいは建造途中と思われる零号機が映っていた。

冬月の問いに、背後にゲンドウとともに立っていたナオコが、静かな口調で答える。

「あの物体を、我々『ゲヒルン』ではアダムと呼んでいます。…ですが、これは違います。オリジナルのモノではありません」

「では…」

「そうです。アダムより人の造りしもの、エヴァです」

ナオコの言葉に続き、ゲンドウが力強く口を開く。

「我々のアダム再生計画、通称E計画の雛型たる、エヴァ零号機だよ」

「神の…プロトタイプ」

冬月の呟きに、ゲンドウは真摯な瞳を見せて話しかける。

「冬月。…俺と一緒に、人類の新たな歴史を創らないか?」

 

 

<2003年、芦ノ湖畔>

 

数日後。

ユイ親子と共に、冬月は昼の芦ノ湖を訪れていた。

夏の日差しが湖面を輝かせる中、冬月が感慨深く呟く。

「今日も変わらぬ日々か…。この国から秋が消えたのは寂しい限りだよ」

そう呟いた後、冬月は隣で乳母車に乗った赤ん坊をあやす、中腰姿勢のユイに話しかける。

「ゼーレの持つ、裏死海文書。そのシナリオのままだと、十数年後に必ずサード・インパクトが起こる」

「最後の悲劇を起こさない為の組織。それがゼーレとゲヒルンですわ」

我が子をあやすユイの姿は、母の姿、それ以外の何者でもなかった。

「私は君の考えに賛同する。ゼーレでは無くね」

「冬月先生。あの封印を世界に解くのは…大変危険です」

「資料は全て碇に渡してある。個人で出来る事では無いからね」

「この前のような真似はしないよ」

「だぁ、だぁ♪」

冬月の言葉に答えたのは、母に甘える赤ん坊の声だけだった。

そんな微笑ましい声に、冬月は苦笑のような表情を浮かべながら話す。

「それと、何となく警告も受けている。あの連中が私を消すのは、造作も無いようだ」

「生き残った人々もです。簡単なんですよ。人を滅ぼすのは」

「だからと言って、君が被験者になることもあるまい」

「全ては流れのままにですわ。私はその為にゼーレに居るのですから」

「だぁ♪」

二人の会話に割って入ったのは、会話の内容など知る筈のない赤ん坊の声だった。

そんな無垢な我が子に、穏やかな微笑を向けると、ユイは静かに意志のこもった口調で口を開く。

「…シンジの為にも」

ペチペチ。

言葉の意味など知らず、無垢な笑顔で母の頬に触れる赤ん坊は、紛れも無く、幼き日のシンジだった。

 

 

 

つづく


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あとがき

獣道に迷い込んだ気が…。(苦笑)

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