チルドレンは召集された。

ミサトのマンションへ。

葛城ミサトの名のもとに。

 

 

 

僕は僕で僕

(11)

 

 

 


 

<ミサトのマンション、エレベータの中>

 

チルドレンが会話をしている。

 

「シンジ君、ミサトさん何の用事だって?」

マナがシンジに訊ねる。

「さあ、僕も電話で来るようにって言われただけだから」

エレベータが止まる。

「着いたわ」

レイは有無を言わさずエレベータの外に出る。

「あ、待ってよ綾波」

シンジもレイを追いかけるようにエレベータの外に出た。

 

一人ゆっくりと外に出たマナは小さく呟く。

「待ってよ綾波…か」

 

 

<ミサトの部屋の前>

 

シンジがチャイムを押す。

それから三十秒。物音がしない。

 

「変ね?この時間に来るように言われたのに」

怪訝な表情のマナ。

「そうだね、ミサトさんに何かあったのかな?」

シンジはマナに、そう答えた。

 

二人の会話を無視するようにレイがドアのノブを回す。

「…開いてるわ」

そう言って中に入るレイ。

「あ、綾波さん、入っていいの?」

マナがレイに問う。

「招集されたから」

それだけ言うとレイはミサトの部屋の中に入っていった。

 

レイが中に入るのを見ていた二人は顔を合わせる。

「僕らも入ろっか?」

微笑むシンジ。

「そだね」

微笑み返すマナ。

 

こうして、チルドレン達はミサトの部屋の中に入っていった。

 

 

<ミサトの部屋の中>

 

「こっこれは…」

「何…この匂い」

「………ゴミね」

 

チルドレンは驚愕した。

あまりの部屋の荒れように。

 

「まさか、泥棒?」

まさか、ミサトが汚したとは露とも思わないシンジ。

「…ありえるわね」

頷くマナ。

 

「あれは何?」

先に部屋に入り、辺りを見まわしていたレイは何かの存在に気づいた。

 

そこへ、ペタペタと足音を立てながらペンギンが近づいてきた。

「ぺ、ペンギン!な、何でペンギンが!?」

驚くシンジは声を上げた。

 

「でも、可愛い~♪」

そう言ってマナはペンギンに近づき抱き上げた。

「ほら、綾波さんも抱いてみる?」

そう言ってマナはレイに抱かせようとする。

「……」

マナを無視するように、レイは何も言わずペンギンの出てきた部屋へ向かった。

「綾波さん…」

マナはレイの後姿を寂しそうに見つめ呟いた。

マナがペンギンを抱き上げるのをやめると声が聞こえてきた。

 

「レイ!?なんであんたがここに居るの!」

ミサトの怒声だった。

「ああ、そうだったわね。ごめんなさいレイ、怒鳴ったりして」

「シンジ君!霧島さん!そこで待っててね。すぐに行くから♪」

ミサトの声のすぐ後にレイが部屋から出てきた。

そして、レイが出てきて五分ほどしてミサトが出てきた。

 

「ゴメン、ゴメン。昨日チョッチ寝不足だったのよ♪」

そう言ってミサトはタンクトップに短パンというラフな姿で登場した。

「あの~、話って?」

シンジがミサトに問う。

「実はね~、決まったのよ♪」

微笑みながら話すミサト。

「何がですか?」

「霧島さんのネルフ入りが正式決定な・の・よ♪」

そう言ってシンジの髪を揉みくちゃにするミサト。

よほど嬉しいのだろう。

「ホ、本当ですか?」

ミサトに髪を揉みくちゃにされながらも、微笑みながら訊ねるシンジ。

「事実よ。じゃないと召集なんてかけないわ♪」

「…そうですか。良かったね霧島さん」

そう言って、シンジはマナの顔を見た。

 

マナは複雑な顔をしていた。

あまり嬉しそうな顔でないのは確かだった。

 

「どうしたの霧島さん。嬉しくないの?」

ミサトがマナに訊ねる。

ミサトの問いに黙ったマナは顔を伏せる。

そして、ゆっくりと口を開く。

「…嬉しいんですけど。でも…でも…怖いんです!」

マナは、そう言ってシンジの顔を見る。

 

マナは思う。

(私は…シンジ君みたいに戦えない。…だって怖い!戦うのが怖いの!死ぬのが怖いの!)

 

そして、シンジから顔を背けると部屋を出ていった。

 

「彼女…涙を流してた」

レイが呟く。

 

そして、少しの沈黙が流れた。

 

「私の勘違いだったみたいね。…喜んでくれると思ったんだけどね」

そう言って頭を掻きながらシンジを見るミサト。

シンジは黙ってマナの出ていったドアを見ていた。

そして、口を開く。

 

「ミサトさん、部屋の片づけしましょうか?」

 

シンジはミサトを見て、悲しそうに微笑みながら言った。

「へ?」

ミサトは呆気にとれた。

シンジの言葉に。

 

 

<三日後、ネルフ>

 

ミサトはリツコの休憩室に来ていた。

二人はリツコが炒れたコーヒーを飲みながら会話をしている。

 

「で、シンジ君に部屋の掃除してもらったって事を言いたいの?」

リツコはコーヒーカップを手にミサトへ問う。

「違うのよ。リツコを誘いに来たのよ」

ミサトはコーヒーを一口飲み答えた。

 

「何処に?」

「私の家によ♪」

微笑むミサト。

「あきれた。チルドレンのことはいいの?」

呆れ顔でミサトに問うリツコ。

「いいの、いいの。とにかく、今夜八時には来てね♪」

ミサトは微笑んだ後、コーヒーを飲み干す。

 

「何か企んでるわね、ミサト」

そう言って微笑むリツコ。

「べ、別にた、企んでなんかいないわよ。あ、私、用事思い出しちゃった。じゃあねリツコ♪」

ミサトは逃げるように研究室を後にした。

 

研究室の外に出たミサト。

「やばかったわ。リツコって鋭いもんね~」

言い終わった後、一つため息をつく。

 

「さてと、あとは霧島さんだけか…」

 

 

<学校、2-A>

 

休み時間。

 

マナは、あれからシンジには話し掛けなかった。

いや、話し掛けれなかった。

シンジの前で逃げ出してしまったから。

戦うことからもシンジからも。

マナはそう思っていた。

 

「なんだかな~」

そう言ってマナは机に突っ伏した。

 

(わかってはいるの。

戦うことしか私には残ってないって。

じゃないと施設送りだもん。

そんなのは嫌だしね。

だけどシンジ君のあの姿を見たら、より一層怖くなったのよ。戦うことが)

 

そして、マナは思い出した。

シンジの入院し、目を覚ましたときの姿を。

 

シンジの体には無数の傷跡があった。

ほとんどは、第三使徒で受けた傷とシンジが言っていた。

そしてマナも参加した第五使徒の傷は腹にあった。

赤く腫れていた。

 

「ごめんなさい、シンジ君。私が…」

マナが謝ろうとするとシンジは微笑みながら言った。

 

「いいんだ…こうなることは予想してたから」

 

(そうなのよ。シンジ君は知っているの…。

自分が傷つき死ぬかもしれないことを…。

そんなのは…嫌!

死ぬのがわかって乗るなんて絶対に嫌!

私は死にたくないし、生きていたい!)

 

「なんだかね~」

マナはそう言って机から顔を上げた。

目の前にはシンジの顔。

 

「シ、シンジ君!?」

驚くマナ。

「霧島さん。学校の帰りに話があるんだけど…いいかな」

シンジはマナに話し掛ける。

「う、うん」

マナは了承しながら思った。

 

(話って…やっぱりネルフのことかな?)

 

 

<ミサトのマンション>

 

ミサトはキッチリ五時にネルフを退社していた。

そして、自宅で手料理を作っていた。

 

「やっぱり、これしかないっしょ♪」

そう言ってミサトは鍋に緑の液体を入れた。

ミサトが作っているのは…カレーだと思う…たぶん。

見た目にはカレーに見えないけど…。

 

 

<学校の下校時間>

 

シンジは皆の目を盗んで屋上に来ていた。

シンジの横にはマナがいる。

 

「話ってなに?まさか恋の告白♪」

マナが微笑みながら訊ねる。

「そ、そんなんじゃないよ」

顔を赤くするシンジ。

「そだね。そんなはずないもんね…。ネルフのことでしょ…話って」

少し寂しそうに訊ねるマナ。

「…うん」

 

沈黙する二人。

 

シンジはマナを見ずに、屋上の手すりから下校する生徒を見ている。

そしてシンジが口を開く。

「霧島さん…僕に一回聞いたよね。使徒と戦うのは怖くないかって…」

「…うん」

シンジの後姿を見ながら、小さく答えるマナ。

「あの時ね、少し嬉しかったんだ」

そう言って、振り返りマナの顔を見るシンジ。

シンジは微笑んでいた。

 

「なんで嬉しかったの?」

「僕と同じだから」

「…同じ?」

「戦うことが怖いって思ってたから…死ぬのが怖いって思ってたから…僕も」

そう言ったシンジの顔は微笑を消していた。

 

「でもね、誰も死にはしない。僕が………。死ぬのは僕一人で充分だよ。」

そう言ってシンジは微笑を浮かべる。

悲しい決意を秘めた微笑を。

 

「だから…僕を助けてなんて言わない。ただ、もしも僕が死んだとき…お願いしたいんだ」

 

「………」

マナは黙ってシンジを見つめている。

今にも泣き出しそうな顔で。

 

「みんなを守っ」

シンジの言葉は遮られた。

マナがシンジに抱きついたから。

 

「もういい!わかった!シンジ君!だから死ぬなんて言葉は言わないで!」

マナはシンジの胸で泣いていた。

 

シンジはマナに話す言葉が思いつかなかった。

ただ、「…ごめん」と呟くだけだった。

 

 

それから、二人は何度か言葉を交わした。

言葉を交わすシンジとマナ。

二人の会話で決まった幾つかのことは、マナは今夜一人でミサトのマンションに訪問すること。

それから、ネルフのことはマナの口から結論を言うということ。

そしてシンジは、これから`霧島さん´ではなく、`マナ´と呼ぶということ。

 

 

<夜七時、ミサトのマンション>

 

マナはミサトに会って一言めに「これから、よろしくお願いします」と言った。

ミサトは最初は戸惑ったが、微笑み答える。

「ようこそ、ネルフへ霧島さん♪」

それから、ミサトは微笑みながら手を差し出す。

「そして、よろしく♪」

ミサトとマナは握手をした。

暖かい握手を。

 

「そうそう、今日はもう一人霧島さんに会わせるお客さんが来るのよ」

ミサトは時計を見ながら話す。

「でも、時間がまだあるし先に食事しちゃおっか♪」

そう言ってマナをテーブルに案内するミサト。

「あの、お客さんって?」

テーブルにつきながらマナは質問した。

「ひ・み・つ・よ♪」

微笑むミサト。

 

マナは思う。

(なんだかな~)

マナはチョットだけ不安だった。

 

 

<夜八時過ぎ、ミサトのマンション>

 

リツコがミサトのマンションに来たときには手遅れだった。

マナはミサトのカレーを食べ終わっていた。

 

「ミサト、お邪魔するわよ~」

鍵が開いていたので、リツコは声をかけ部屋の中に入った。

 

「あ、こんばんは霧島マナです」

マナは元気そうに笑顔でリツコに挨拶をした。

リツコは目の前にある空のカレー皿とマナを交互に見る。

「あなた、ミサトのカレー食べたのね?」

信じられないといった顔で話すリツコ。

「はい、美味しかったですよ♪」

微笑んで答えるマナ。

「無理しなくていいのよ。不味いものは不味いって教えてあげるのも優しさよ」

そう言ってリツコはマナに舌を出させる。

「少し緑がかってるけど、異常無しね。運がいいわ、あなた」

そう言ってリツコは微笑んだ。

 

「リツコ、随分言ってくれるじゃない」

青筋を立てたミサトがリツコの後ろに立っていた。

 

「あら、ミサト元気そうね♪」

汗をかきながら微笑むリツコ。

「今日も会ったじゃない」

青筋をピクつかせながら話すミサト。

「あら、先客みたいだから帰るわね」

ミサトの前を微笑みながら通り過ぎようとするリツコ。

「チョイ待ち、リツコ」

足を止めるリツコ。

 

「あのね~、リツコに話があるんだけどね」

不敵に微笑むミサト。

 

そう言ってリツコに耳打ちするミサト。

「え、本気で言ってるの私が?」

驚くリツコ。

「ね、いいでしょ。今回の件と戦自の件はチャラでいいから」

お願いするミサトを見るリツコは微笑んで答える。

「ま、いいわ。面倒見てあげる」

 

「霧島さん、だったかしら?」

小声で会話する二人を見ていたマナにリツコが話しかける。

「は、はい」

「今日から、よろしくお願いするわね」

そういってリツコは微笑んだ。

「は?はい?」

訳のわからないマナ。

「じゃ、帰りましょう」

そう言ってリツコは玄関に向かった。

「は、はい」

訳のわからないまま、リツコについて行くマナ。

こうして、マナはリツコの保護下に置かれることになった。

もっともマナが、そのことに気がついたのは一晩明けてからだった。

 

一人残ったミサトは呟く。

「それにしてもシンジ君、霧島さんをどうやって説得したのかしら?」

一人悩むミサトであった。

 

 

<碇家のマンション>

 

シンジは料理を作っていた。

帰ってくる暇もないほど忙しい父親の為に。

虚しいような行動かもしれないけれど、シンジは一生懸命作る。

まごころを込めて。

 

「痛ッ!」

シンジは包丁で少し指を切った。

少しずつ流れ出す血。

 

流れ出す血を見ながらシンジは思う。

 

(血………か。血………まだ僕は生きてる。

生きてみんなの笑顔を見ていたい…。生きて父さんと暮らしていたい。生きていたい…か。死にたくないよね誰だって)

 

そう思ったあと、シンジは血が出ている指を口に含んだ。

そして、時計を見ながら呟く。

 

「父さん…遅いな」

 

 

 

つづく


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