ゲンドウはナオコを見つめている。

「君に話がある…だが、その前にコレを渡しておく」

そう言った後、ナオコに一丁の拳銃を渡した。

 

 

 

僕は僕で僕

(10)

 

 

 


 

<ネルフ本部>

 

冬月が考えている。

 

(碇…お前は、まだ死ぬには早い…。

生きてやらねばならない事があるはずだ…。

私に、お前の変わりは出来ないからな…)

 

そして、冬月は受話器を取る。

「副司令の冬月だ。回線を二子山のネルフ本部に回してくれ、大至急だ!」

 

 

<戦略自衛隊・仮設テント>

 

「何のつもり」

ナオコは拳銃を握りゲンドウに語り掛ける。

「……これで私の罪が償えるとは思ってはいない…だが」

「だが?」

「…話が終わってからにしてもらえないか」

 

「ふざけないで!」

ナオコはゲンドウに銃口を向ける。

 

「フッ……」

ゲンドウは動じること無く、ナオコを見て少し微笑んだ。

「何が可笑しいの!」

ナオコは怒りにみちた目でゲンドウに訊ねる。

「自らを笑ったんだ、つくづく甘い男だとな」

 

少しの沈黙の後。

 

「…そうね」

ナオコは、そう言った後、銃口を下げる。

「…撃たないのか」

 

「貴方の話を聞いてからよ、殺す前に話を聞いておくわ」

 

「すまない、感謝する」

 

「…その言葉を10年前に聞きたかったわ…」

ナオコはゲンドウの言葉を聞いて、そう言った。

 

 

<二子山近郊、仮設ネルフ本部>

 

仮設本部から撤収の準備をしているネルフ職員たち。

リツコは冬月からの電話を取っていた。

 

「はい、赤木です」

―赤木君か、実は…君に止めて欲しい人物がいるのだが―

「話の内容が掴めませんが?」

―いや、すまん。実は碇がヤシマの戦自へ向かった―

「…ハッ、まさか?!」

―そうだ、君の母親に会いに行った…―

「…直ちに向かいます。母さんの…いえ、赤木ナオコのいる正確な位置を教えてください」

 

冬月から母親の居場所を聞き電話を切るリツコ。

 

「ミサト、車を出してくれる?」

何気ない素振りでミサトに話しかけるリツコ。

「ええ、別にいいけど何で?」

初号機に関する始末書を書いていたミサトは手を止める。

「10年振りの感動の再会に一役買って頂戴」

真剣な表情でミサトを見るリツコ。

 

少しの間考えるミサト。

「…わかったわ、リツコ。正確な位置はわかってるの?」

頷くリツコ。

 

そして、二人は向かっていった。

リツコの母親のもとへ。

 

 

<戦略自衛隊・仮設テント>

 

ゲンドウとナオコ、二人きりのテント内。

 

「まず、君とJAについてだがネルフの所属になる」

「そう…戦自が私とJAをネルフに売ったということね、どうりで戦闘前から、私に近づく人間が少ないと思っていたわ」

「……そうだ、戦自にとっては大きすぎるオモチャということだ」

「いつ決まったの、私を売った話は?」

「…君がMAGIにアクセスする少し前だ…私が直接動いた…」

 

少しの間、沈黙するナオコ。

 

「結局、私は貴方の操り人形だったということね…」

「………」

黙してナオコを見つめるゲンドウ。

「日本も国連には、いえ、ネルフには敵わないということ…」

「この計画に携わった人間は全てネルフの管轄の中にはいる……コレを拒否すれば、命はない…」

「命なら、10年前に捨ててるわ」

「…そうだったな」

 

沈黙する二人。

 

「…私の方からも、聞いておく事があるわ」

「何だ」

「リツコは元気?」

「ああ」

リツコの質問に短く答えるゲンドウ。

 

「そう…もういいわ。話は終わりにしましょう」

そう言って、拳銃の安全装置を確認するナオコ。

安全装置は外れていた。

 

「言い残したことは、ない?」

「10年間、君には辛い思いをさせた…すまなかった」

ナオコの瞳を見つめゲンドウは謝罪した。

「そう…じゃあ、さよならね」

少し微笑んだナオコは、銃口をゲンドウへ向ける。

 

 

<戦自テント前>

 

自衛隊はテントの周りには存在していない。

怪しむミサトだったが、リツコは「そういうことね…」とだけ呟き車を降りた。

そして、ミサトも車から降りてくる。

 

「ミサトは、ココで待っててくれる?」

「別にいいけど…何で急に会う気になったの?」

「…大切な人が傷付け合っているのよ…今ここで」

「どういうこと?」

「今は聞かないで、全てが終れば説明するから…」

「わかったわリツコ…じゃあ、いってらっ」

微笑みながらリツコを見送ろうとした瞬間!

 

響き渡る銃声!

 

「何、銃声!」

ミサトが叫ぶ。

「間に合わなかったの!ミサト、私行くわ!」

駆け出すリツコ。

「チョッチ待ってリツコ!コレ渡しておくわ!」

そう言ってミサトが投げたモノは拳銃だった。

 

拳銃を受け取ったリツコはミサトへ投げ返す。

「必要ないわ!私には!」

そう言ってテント内へ駆け出すリツコ。

 

そして、ミサトに聞こえない声で呟いた。

 

「私も…罪を背負ってる……」

 

 

<戦自、テント内>

 

ナオコは銃口をゲンドウから自分のこめ髪に向けた。

そして撃鉄を起こそうとした瞬間。

 

ナオコはゲンドウに頬を叩かれていた。

そして、銃弾はナオコを逸れてテントに穴を開けた。

 

「命を粗末にするものじゃない!」

ゲンドウはナオコに怒鳴る。

「…私は、もういいの…貴方に謝ってもらったから…」

ナオコは泣いていた。

「良くは無い!人は生きなければならない!人が人である為に!」

「もういいの!もういいのよ!貴方に私を拒まれた時に、私は人を辞めたから!」

そしてゲンドウを跳ね除け、再び銃口をこめ髪に向ける。

 

「………母さん」

その時、リツコがナオコの視界へ入る。

 

「…リッちゃん?…元気そうね、安心したわ…」

ナオコは微笑み、娘を見る。

「母さん…どうして?…どうして、こんなことを?」

リツコの目から涙が溢れ出す。

「ごめんなさい…ごめんなさい…」

そして、引き鉄を引こうとするナオコ。

 

「やめて!母さん!やめて!」

リツコは母親に向かって叫ぶ。

 

響き渡る銃声。

 

 

<戦自テント前>

 

ミサトはリツコを待っている間に銃声を聞いた。

 

二発目の銃声!

リツコ!

 

テントの中に駆け出そうとしたミサトだったが、テントの中から人影が歩いて来るのが見える。

 

ゲンドウだった。

ゲンドウは手の平から血を流しながらも、ナオコを背負っていた。

その後ろを、目を赤く腫らしリツコが歩いている。

 

「し、司令にリツコ!…その方は?」

ミサトは驚き、ゲンドウに問う。

「葛城一尉か、彼女を病院へ頼む…私も後から向かう」

そう言って、ミサトの車にナオコを乗せるゲンドウ。

 

「しかし…」

何が何だかわからないミサトは説明を欲した。

「…頼む」

しかし、ゲンドウの一言は説明を許さなかった。

「了解しました!」

とりあえず、ミサトは病院へ向かう事にした。

後日、リツコに説明してもらおうと思いながら。

 

走り去るミサトの車。

 

リツコとゲンドウの二人が残った。

 

「冬月か…君を呼んだのは…」

ゲンドウが口を開く。

「はい…」

「………そうか」

 

沈黙する二人。

 

「君は知っていたのか…私と彼女のことを…」

「…はい……」

「君は…私が憎いか?」

ゲンドウはリツコへ問う。

「…わかりません…ただ、わかっていることは」

「………」

黙してリツコを見るゲンドウ。

 

「貴方を愛している…それだけです」

 

 

そして、リツコはゲンドウに優しいキスをした。

 

 

こうして、ヤシマの夜は終った。

今回も人類は生き延びることに成功した。

そして人類は、いつもと同じ様に朝の光を迎えた。

  

<ネルフの病院施設>

 

朝、ナオコの病室の前にゲンドウとリツコがいる。

ゲンドウの怪我はリツコによって応急処置が済んでいた。

 

「…いいのか」

ゲンドウが静かに語りかける。

「ハイ、母は眠ってますから」

「そうか…」

 

「ただ…母はネルフに戻る気は無いと、司令に伝えてくれと…」

 

少しの間を置いてゲンドウが応える。

「そうか…構わん…ただ監視はつくがな…」

 

少しの間、沈黙する二人。

 

「司令は母を愛…いえ愚問でした」

リツコは質問を止めた。

 

「フッ…」

ゲンドウは、ただ短く微笑むだけだった。

 

ナオコの病室から離れ、歩き出す二人。

 

「…ところで司令、手の傷は診てもらいました?」

リツコはゲンドウの手の包帯を見ながら語り掛ける。

「いや、君の処置を信じる…」

簡潔に答えるゲンドウ。

 

「そうですか…ありがとうございます」

ゲンドウの返事に微笑むリツコ。

ただリツコは嬉しかった。ゲンドウが自分を信じている事に。

 

 

そして、リツコは思った。

今日は朝の光が、やけに眩しいと。

 

 

 

同時刻、同病院、違う病棟。

病室のプレートに<碇シンジ>と書かれた病室。

 

<碇シンジの病室>

 

病室のベットでシンジは点滴をしながら眠っている。

その横の椅子には着替え終わったレイとマナが腰掛けている。

 

シンジは目を覚まさなかった。

第五使徒の加粒子砲を直接浴び、シンジの体が無事で済む筈が無かった。

レイは「碇君!」と何度も叫んだが、シンジは目を覚まさなかった。

マナは急ぎ仮本部へ連絡を入れて救援を呼んだ。

 

病院での検査の結果、シンジの命に別状は無かった。

一日だけ、念のために入院するとの事だった。

 

だが、レイとマナは病室で待っている。

シンジの笑顔を見るために。

 

「…綾波さん、碇君…起きないね」

二時間前も、同じことをいったなと思いながら、レイに話しかけるマナ。

「………」

レイは二時間前と同じように、何も答えずシンジを見つめている。

 

 

沈黙する二人。

 

 

「…綾波さんは、碇君のこと、どう思ってるの?」

マナが沈黙を破りレイに話しかける。

「……わからない…」

レイは、呟き答える。

 

「…そう……」

チョット間を置いて答えたマナは思った。

 

(変ね、私…綾波さんの言葉を嬉しいって思うなんて……)

 

 

そして、二人はシンジが目を覚ますまで口を開かなかった。

 

 

<数日後、ネルフ司令室>

 

ゲンドウと冬月が話している。

 

「老人達が黙っているまいな、今回の件」

冬月が口を開く。

「どうする事もできんさ…今はな」

 

「…JAとナオコ君、10年前、いや10年分のケジメか…」

「…彼女には酷いことをした…もっとも今でも傷つけているがな」

「碇…あまり自分を責めるな」

 

少しの沈黙の後、ゲンドウが口を開く。

 

「…ああ…全ては、これからだ…」

ゲンドウは、そう言って目を閉じた。

 

 

<2-A教室>

 

シンジは、友人達と会話をしている。

その様子をレイが、見つめている。

 

「シンジは、どう思う?」

ケンスケがシンジに話しかける。

「どう思うって、何が?」

「転校生や、今日来るって噂の」

トウジも話に加わる。

「ああ、その事」

「オッ!噂をすれば何とやら」

 

教室の扉が開く。

そこへ、担任と一人の生徒が入って来た。

担任から転校生の紹介が終り、生徒は黒板の前で自己紹介を始めた。

 

「え~と、霧島マナです。よろしく、シンジ君♪」

 

手短で大胆な挨拶をした霧島マナは、シンジを見つめていた。

 

 

<ネルフの病院施設・赤木ナオコの病室>

 

赤木親子が楽しそうに会話をしている。

 

「フフッ、こんなに笑ったのは久し振りよ、リッちゃん」

優しく微笑みリツコに話しかけるナオコ。

「私もよ、母さん」

笑顔で返事をするリツコ。

「リッちゃん、一つ聞いてもいいかしら?」

微笑ながら質問するナオコ。

「何?母さん」

「ネルフの司令、愛してるの?」

 

少しの間、沈黙するリツコ。

 

「……ええ…ごめんなさい」

リツコはナオコに、謝罪しながらも答えを出した。

「謝ること無いのよ、リッちゃん。母さんはもういいんだから」

リツコの答えに微笑み話しかけるナオコ。

「…母さん……」

「リッちゃんと話してね、理解したわ。誰が誰に何をして上げる事が出来るか…」

「………」

沈黙してナオコを見つめるリツコ。

 

「私がリッちゃんに出来る事は、リッちゃんの母親…それだけよ」

 

「ありがとう…母さん」

そう言ってリツコは泣き出しナオコに抱きついた。

 

「……リッちゃんって、泣き虫だったのね…」

そう言ってナオコはリツコを優しく抱きしめた。

 

 

二人の姿は母親と娘、それ以外の何ものでもなかった。

 

 

 

つづく


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