<初号機ケイジ>

シンジはEVA初号機の前にいた。否、タンカで運び込まれたといっていいだろう。

シンジの姿は、血まみれの包帯姿だった。

 

 

 

僕は僕で僕

(1)

 

 

 


 

<ネルフ司令部>

 

司令部は混乱していた。

混乱の原因は、15年ぶりの使徒襲来の所為でなく、初号機の初出撃の所為でもない。

原因は使徒にEVAが敗北したことである。

使徒の襲来は予測していた。

パイロットも確保していた。

トレーニングも短期間ながら積ませた。

それでは、何故敗北したか。

それはパイロットが優しすぎたからだった。

パイロットの名は碇シンジ。まだ14歳の少年だった。

 

「初号機の再出撃だ」

碇ゲンドウの声が司令部に伝わる。

 

碇ゲンドウ。

碇シンジの父親にしてネルフの総司令。

寡黙な男。

外見は耳まで伸びた髭に、サングラスと白い手袋。

 

寡黙な男だけに、言葉に重みがある。

司令部内も混乱から次に成すべき事を理解し落ち着きつつあった。

 

「もう一度、シンジ君を初号機で出す気か、碇」

この声の主は冬月コウゾウ。ネルフの副司令。

 

年は60歳の手前だろうか、髪に白髪が見える。ネルフではいつも碇ゲンドウの側にいる。

 

「ああ、そうだ」

ゲンドウは表情を変えることなく話す。

「死ぬぞ…今度こそ間違い無く」

真摯な表情でゲンドウへ問う冬月。

「その時は…」

「その時は、何だ碇」

「いや、何でも無い」

 

「司令、葛城一尉より報告。ファーストの保護に成功、ネルフに直行するとの事です」

オペレーターの一人から連絡を受けるゲンドウ。

「直ちに、零号機の出撃準備。初号機の出撃は中止だ」

そして的確に次への処置を下した。

「了解しました」

 

「零号機を出すのか、碇」

冬月が訊ねる。

「ああ、問題無い」

「パイロットが老人達の贈り物でもか」

「構わんさ、今は使徒の撃退が先決だ」

 

そして、ゲンドウは司令部が落ち着きを取り戻したのを確認すると口を開いた。

「冬月、5分ほど留守にする」

「ああ」

 

冬月はゲンドウの後姿を見ながら思う。

(見舞いなら見舞いと言え…。まったく不器用な男だ…)

 

 

<ネルフ内シンジの病室前>

 

「赤木博士、サードチルドレンの容態はどうだ」

ゲンドウが金髪の女性に話し掛ける。

「意識は回復しませんが、命に別状はありません。ただし、このまま安静にしていればの話ですが」

 

そう答えたのは、赤木リツコ博士。金髪の天才女科学者。猫とコーヒーをこよなく愛するネルフの頭脳。

 

「そうか…それならばいい」

そう言ってゲンドウは視線をリツコの後ろへ向ける。

 

「碇司令、遅くなりました」

先ほど報告のあった葛城一尉が来た。

「その子が、ファーストチルドレンか」

ゲンドウは表情を変えずにチルドレンを見る。

 

「はい。ファーストチルドレン、綾波レイです」

そう言ってミサトはレイをゲンドウに紹介する。

 

「………」

綾波レイと呼ばれた少女は、黙して碇ゲンドウの顔を見つめる。

青い髪に赤い瞳、特徴的な少女だ。

 

「直ちに出撃してもらう。いいな」

「はい…」

過酷なゲンドウの言葉にも、レイは表情を崩さずに小さく答えた。

 

「そんな、碇司令!レイはまだ着いたばかりで何も知らないんですよ!ましてやシンクロするかどうかも」

ゲンドウの言葉に反論するミサト。

「ミサト!今は使徒の撃退を第一に考えるべきよ。それに、レイがシンクロするかは乗ればわかります」

リツコはミサトへの回答を示した。

完璧過ぎるぐらいに。

「でも!」

リツコの回答に食い下がるミサト。

「他にいい案でもあるなら別だけど」

「クッ…無いわ」

ミサトは引き下がるしかなかった。

エヴァ無しでの勝利など、考えられなかったから。

 

「では、私は先に司令部に戻る。10分後に出撃だ」

そう言うと、ゲンドウはその場を去った。

 

「10分ね…。レイ、歩きながら説明をするので聞き漏らしの無い様に。それと」

リツコは歩き始めながらレイに話し掛ける。

「あの~リツコ?」

ミサトはリツコを呼び止めた。

「何、ミサト。今忙しいのよ私は」

「なぜ私の提案した作戦が、こんな結末なったか教えて頂戴」

ミサトの表情は真剣だった。

「答えは簡単よ。作戦が実行されなかったからよ。じゃ行くわよレイ」

「…はい」

歩き出すリツコとレイ。

そして、病室前にミサトだけが残った。

 

ミサトは考えた。

(なぜ、私の作戦が実行されなかったのかしら。

MAGIの作戦が成功する確率で、高い数値を出しておきながら実行できなかった。

原因は何なの! 

…まぁ一番近いのは、私のカンにヤキがまわったって事かしら…。

まぁ、考えてもきりが無いわね。

今はとにかく使徒の撃退を………あっそういうことか!)

 

ミサトの思考の答は、すぐ側にあった。

シンジの病室の前に腕に包帯をした、10歳ぐらいの女の子が歩いてきた。

面会謝絶の札を見ると残念そうに戻るので、ミサトは確信した。

 

「お嬢ちゃん。彼氏のお見舞いかな♪」

ミサトが陽気に少女へ声をかける。

「違うの…私を助けてくれた人が、この病室に居るって聞いたから…」

ミサトと対照的に暗い表情の少女。

「そんなに悲しい顔しないの。先生は命に別状は無いって言ってたわよ」

「本当!」

嬉々とした表情になる少女。

「本当よ。だから今は自分の怪我を治すのが先決よ」

優しく語り掛けるミサト。

「ありがとう。オバさん」

そう言いながら女の子は足早に戻っていった。

 

額に青筋をピクつかせているミサト。

「オ、オバさん。し、失礼な私は、まだ20代よ!!」

 

葛城ミサト一尉。ネルフの作戦部長。三十路前。酒とタバコを愛するネルフのアキレス腱。

 

「って怒ってる場合じゃないわ。さ~てと、お仕事、お仕事♪」

どうやら頭の切り替えも早そうである。

 

<零号機ケイジ>

 

リツコとレイが零号機の前にいる。

 

「これが、貴方の乗る人造人間エヴァンゲリオンよ」

「…そう」

零号機を見つめるレイ。

「驚かないの、レイ」

「なぜ…私が驚くの…」

そんなレイに、変わった子と思いながらも話し掛けるリツコ。

「ま、まぁいいわ。それじゃ時間が無いので、インターフェイスだけ装着してエントリープラグに入ってくれる?」

「了解」

 

零号機の出撃は刻一刻と迫っていた。

 

<ネルフ内シンジの病室>

 

(シンジの夢)

 

第三使徒と対峙するEVA初号機。

トレーニングどうりに使徒への攻撃を開始させるが、使徒の動きが速い。

だが翻弄されながらも、必死に第三使徒に食い付いていくEVA初号機。

EVA初号機のプログナイフが、第三使徒を捉えようとするのだが逆撃を食らう。

 

「まだなんですか、日向さん!」

シンジは焦り混じりに問う。

「もうすぐだシンジ君!あと20秒粘ってくれ!」

ファーストチルドレンを迎えに行っているミサトの変わりに、作戦を引き継いでいる日向マコトは焦っていた。

 

第三使徒の予想以上の戦闘力。

葛城一尉の賭けに近い作戦。

日向には荷が重かった。

 

「来た!時間どうりだ国連軍!」

上空から国連軍の戦闘機が第3使徒への攻撃をかける。一瞬だが気をとられる第三使徒。

「今だ!シンジ君!」

「はい!なっ!?」

攻撃を仕掛けようとするが、シンジの視界に少女が映る。瓦礫の影に少女。

(何でこんな所に女の子が…このまま攻撃したら)

この一瞬の迷いが最大のチャンスを消した。

 

叩き落される国連軍の戦闘機。

その間、出来るだけ少女と距離をとるEVA初号機。

しかし、すぐに追いかけ攻撃を開始する第三使徒。

左腕損傷。頭部損壊。パルス逆流。最悪の事態。

 

「プラグの強制排出急げ!」

強制排出され地面に叩き付けられるエントリープラグ。

 

夢から覚めるシンジ。

 

「負けたのか…僕は…………」

 

「でも…まだ…生きてる」

 

 

<ネルフ司令部>

 

「エヴァンケリオン零号機発進準備完了」

 

「レイ、帰ってきたらレイの歓迎会をするわよ♪」

ミサトは明るくレイに告げる。

少しでも元気づけようと。

「…歓迎会」

呟くレイ。

「そうよ♪だから生きて帰ってきなさい」

「…了解」

 

「エヴァンゲリオン零号機発進!」

 

 

 

つづく


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