第3話 シンジ君の伴侶?
16:00 駅前広場
「おそいな、レイ。」
すでに、というにはちょっとおかしいかもしれないけど、綾波を除く全員が集まっている。綾波はNERVのときから遅れた事を一度も見た事がなかったのでちょっと心配になった。それにしても綾波をレイと呼ぶのはまだ照れるな、一応兄妹となってるから人前ではこう呼ばないとならないんだけど。
「ほんと、何してんのかしら?」
「綾波さんって後れそうには見えないけどねえ…」
僕の左隣にはくっつくようにアスカがいて、さらに右隣には草薙が僕に腕を絡めて立っている。アスカはレモンイエローを基調としたノースリーブのワンピース、ユミはグレーを基調としたシックなサマードレスを着ている。彼女の場合、想像の域を出ないがきっと良家のお嬢様なんだろう。普通なら嫌みに見えるそのドレスもぴたりとはまっている。ちょっと不安な事はアスカが時々草薙にかなりキツイ目をむける事だ。この2人は結構仲がいいと聞いたのに……
「綾波さんも女の子なんだし、いろいろ大変なんじゃない?」
「女ってたいへんやのー」
「あんたが無頓着すぎんのよ!!」
僕の後方にヒカリ・トウジが寄り添うように並んでいる。ヒカリはジーンズにTシャツというラフな格好なのだが、トウジにいたっては制服のまま。まあ以前のジャージ姿に比べればけっこうな進歩ともいえるがたしかにアスカに指摘されてもおかしくない。
「それにしてもシンジ、あんたファッションてものが少しは解ってきたようじゃない?」
「え、そうかな。」
「シンジ君、すっごくかっこいいよ。モデルみたい!」
「え、ありがとう。」
僕はアスカと草薙に微笑んで返した。僕の今の格好はVネックの襟に黒のラインが入った大き目のサマーニットを一枚で来ていて、下は細目のナイロンハーフパンツ。モノトーンファッションともいえる。僕は別に意識してたわけじゃなかったけど誉められた事は嬉しかった。……以前はアスカにけなされてばかりだったから。
「それにしてもあれは…よくあんなので外歩けるわよね。」
アスカの視線を追っていくとその先にはあれ、ケンスケがいた。僕は苦笑するとケンスケに声をかけた。
「ケンスケ、いつまでそうしてるの?」
少しはなれたところから僕たちをデジタルカメラで撮っている。こいつのおかげで周囲から妙な視線を頂く事になっているんじゃないかと思うがさすがに口には出せない……けどやっぱりこいつの格好はハンパじゃない。冬がこない現在の日本だというのに厚手のアーミーパンツにミリタリーブーツ、都市迷彩のTシャツ、その上にSWAT用の特殊防弾ベストを着ている。それだけならまだしも、カメラなどが収められたでかいバックを肩にかけているので浮いている事この上ない。
「あんた、私たちまで同類に見られるから近寄らないでよ!!」
「へいへい、わかりましたよ。」
答えつつもまだ撮り続けている。僕なんか撮っても意味ないだろうから、きっとアスカと草薙を写しているのだろうけど。
ここでやっと僕は人込みの中からやってくる少女を発見した。
「あ、来たよ。」
「え、どこどこ!?」
まだ小さくて他の人は見つける事ができないみたいだけどあれは間違いなく綾波だろう。僕は訓練のおかげで結構目標を見つける事に離れている。だけど、その姿がはっきりと見えた時はちょっと驚いた。他の人も彼女が近くまで小走りで近づいてくるに連れ、驚愕の色を隠しきれなくなっていった。
「…遅れてごめんなさい。」
彼女は私服姿で現れた。真っ白いワンピース。シンプルだが、綾波レイの白い肌にぴったりだ。なにか一枚のきれいな水彩画を見ているような気がする。彼女の私服姿を目の当たりにした僕を含む約6名は、あっけにとられていた。そう、ケンスケでさえ写真を撮る事を忘れているのだからそれがどれほどのものなのかが窺い知れよう。そしてここで真っ先にその状態から生還した(と自分では思った)のは僕だった。僕は一歩踏み出して綾波に言葉を返した。
「え、別に5分ぐらいいいと思うよ。あとその服、すごく似合うと思うよ。」
「………………ありがとう。」
おもわずストレートな意見をしてしまったことにちょっと気恥ずかしく思ったけど、綾波は赤くなりながらも喜んでいる顔をしている。綾波が普通に笑えるようになったのは以前の綾波を知っている僕にとっては大変喜ぶべきことなのだけど、1年という歳月が綾波をこうも変えたんだなあということを考えるとちょっとだけさびしかった。だけど僕はまあ綾波が嬉しそうだからいいかということにしておくと言葉を続けた。
「うん、じゃいこうか。」
…その後方では女の子3人がかなり渋い顔をしていた事に僕は気がつく事はなかった。
「ところでさあ、どこいくの?」
草薙ユミがそう切り出した。もっともな質問だ。
「うん、最近できたっていう『RIGHT』って所にいってみようと思うんだけど…」
『RIGHT』とは、駅前にある、超大型の専門店の集合体みたいなところで、ここにいけば手に入らないものはないとまで称される場所でもある。日用品、洋服はもちろんのこと海外でしか手に入らない食材や各種専門用品や家具、あげくのはてには自動車まで売っているという嘘のような場所だ。当然広さもハンパじゃない。シンジがここを選んだのはもちろんたいていのものならここで買えばいいというのもあるのだが、裏では実はNERVの経営でもあるのでここが一番安全に買い物ができるから、という理由がある。
「あそこまだ行った事なかったんだぁ、私!」
「アンタにしてはいい選択ね、早くいきましょ!」
「うん。」
という事で行き先は決定。ここでその他の方々は何をしていたかというと…
「いいんちょ、そんなにくっつくなや。」
「いいじゃない、べつに。」
「いや、でもなあ…」
「これは思わぬ絶好の被写体が……」
……勝手にやってくれ。
「きゃ、これかわいい!」
「こっちもいいわよねぇ!」
「これなんかどう!?」
ここは雑貨売り場。買い物の場となると女の子は生気を吹き込まれるらしい。ここでケンスケは「ちょっと用が…」といってかえってしまった。トウジが追求したとこによると映像の処理で忙しくなるから、という事だった。
「なあ、センセの買い物に来たんやろ…」
「…うん」
「やつらの買い物に来たんとちゃうよなぁ…」
「……うん」
「どないしよってんじゃ…」
「………うん」
「センセも苦労してんなあ……」
「…………しょうがないから僕らだけで見てまわろうか」
「……ああ、せやな。」
この後およそ1時間、僕はは必要になると思われたものをあらかた買い込んだ。バスケ部で使う事になるトレーニングウェアやシューズはトウジが詳しかった。僕が選んだのは[FILA]の白を基調としたバスケットシューズに白・青・黒で構成されたトレーニングウェア。どことなくかつてのプラグスーツを連想させる。ただしアンダーはハーフパンツ。他にもいろいろと買うべく回った。しかしトウジが「何でそんなんかうんや?」といったものもある。食料品売り場で、一般の家庭ならばまず使わないような食材をかなり買っていたからなのだが。いくらいつも御弁当を洞木さんに作ってもらっているトウジとはいえ、普通に使うものかどうかぐらいは理解できたようだ。かなり失礼な言い方だけど。
「も、ええんか?」
「うん。今日はもういいや。じゃ、もどろうか。」
最初僕は女の子グループを見つける事ができるかどうか不安だったがあっさりと見つける事ができた。最初の場所から10メートルと離れていない場所で未だに騒いでいたからだ。しかもアスカたちはその容姿からいつも周りから注目を集めているので決定的に目立つ。さすがに杞憂だったなぁ。
シンジは自分の事をまるで無視してそんなことを考えた。シンジ自身、その容姿から転校初日なのに一高の有名人となっていたし、その翳りがあり、どことなく何かありそうな雰囲気から既に彼に恋心を抱くものが続出している。問題はシンジは恋愛ごとが絡むとどうしようもないぐらい鈍いことで、買い物中も他人に見られている事は気づいたが、訝しく思っただけでよくわかっていない。そこがシンジがシンジである所以、といえるかもしれない。
「あいつらは……」
これはトウジのぼやきだ。もっとも僕もその横で同じような事を考えていたが。もし一緒に行動したら今日はまず帰れなかったかもしれない…
ちなみにこの間綾波レイは僕の後ろについて回っていた。綾波だけが僕たち2人と共に行動していた事になる。これは結構嬉しかったけど、やっぱりアスカたちと一緒にいない事は不思議だったのでちょっと聞いてみたら、
「私は碇君と一緒がいいの、ダメ?」
もちろん僕はダメなんて言うつもりも、いえるはずもなかったが質問の内容と若干違う答えをした綾波にちょっと困ってしまった。
「ねえ、そろそろ帰るよ!」
「え、あ、じゃあ次行きましょ!」
「いや、次っていったって…」
ここで女の子3名は僕とトウジが持つ大量の袋に目がとまったようだ。自分達がどれだけここでこうしていたかやっと気付いたらしい。3人ともばつが悪そうな顔をしている。
「あ、ごめんなさい!碇君の買い物に来たのに私たちだけ騒いじゃって!」
「いや、もう別にいいけど。それより今から家にこない?」
「そういえばマンションに住んでるんだったわね。いいわよアタシは。」
「え!?行ってもいいの?もちろん行く!」
「わいは妹が心配やさかいかえるわ。」
「鈴原が帰るならあたしも…」
「……行く。」
「あ、トウジ。じゃ今度トウジの妹の、えっとナツミちゃんだったっけ?連れておいでよ。」
「ああ、ほなそうするわ、じゃ。これ荷物な。」
「うん、じゃまた明日。」
ということで僕のマンション行きは女の子が3人ということになった。僕は取りたてて意識する事はなかったけど。
僕のマンションはコンフォート17マンションと綾波のマンション(以前住んでいたところは立て壊されていて現在はきれいなマンションに独りで住んでいる)のほぼ中間に位置するところにある。そしてぼくはここの最上階の角部屋に住んでいる。このマンションのエントランスホールからエレベーターに乗ったところで僕はある事に気がついた。
「ああっ!」
「どうしたのよ、一体!」
叫んだ事をちょっと恥ずかしく思い顔を上げるとさすがに狭いエレベーター内、みんなこちらを見て驚いているようだ。
「あ、ごめん、突然叫んだりして。いや、あいつ怒ってるだろうなー、って思ってね。忘れてたから。」
「はあ?あいつって?」
僕にはアスカの頭の中に?をいくつも浮かべているようにみえた。。他の2人も同じような顔をしている。その忘れていた事の内容を3人に話した。
「僕の同居人。アメリカからずっと一緒ですごく可愛いよ。」
「「「ええええええ!!!」」」
アスカ・草薙はまだ解るとして、綾波までもが叫んだ。狭い密室で叫ばれたものだから僕の耳はしばらく使い物にならなくなった。
「ちょ、ちょっと!どういう事よ!?」
「うわっ!ごめん!あ、いや、どういう事といっても…」
僕はアスカの襲いかかってくるような(事実襟元を捕まれていたが)口調にかなりびびっておもわず謝ってしまった。そしてその後しどろもどろしてしまう。アスカはアスカで興奮によりうまく口が回らないらしい。
「だ、だから……あーーーっ、もう!いいわ、これだけは答えてちょうだい!オトコ?それともオンナ!?」
「……生物学的には女の子だけど…」
「!?!?!!!」
どうやらアスカの頭はかなりパニック状態らしい。他の2人は声も出ない。
そんなこんなしているうちにやっとエレベータは目的地にたどり着いた。僕はさっさと奥に進み、自分の部屋の前でカードキーを取り出すと3人を待った。
「あのー、やっぱりお邪魔してよろしいのでしょうか?」
「え、どうして?」
ユミがやっとの事で声を絞り出す、という感じで言ってきた。
「え?いや、やはり…」
「べつにいいよ、ほらはやくきなよ。」
おもむろに僕は鍵を開ける。そしてドアを開けようとするが
「ちょっと待って!!」
「?」
アスカが急に停止信号をかけた。僕はアスカの声に驚いて動きが止まる。そしてアスカは深呼吸を2つばかりして
「いいわ、覚悟はできたわね!」
「……うん。」
「……ええ、いいわ。」
いきなり周りに同意を求め出した。他の2人はちゃんと解っていて同意したらしいが僕には何の覚悟だか解らず、僕は頭に『?』マークを浮かべていると
「いいわ、いつでもかかってきなさい!!」
……より一層僕には解らない発言をアスカはのたまった。一体何がかかってくるんだろう?…でもまあ、あいつならやりかねないな。でもそんなことをアスカが知っているわけないだろうし……
こんな所でうだうだ考えていてもしょうがないと思ったので僕はドアを開く。なぜか3人の女の子達はみな息を呑んでドアの奥を凝視し、これから起こる事態に対ショック姿勢で備えている。が……
「キャッ……」
一番前にいたアスカは思わずかわいい悲鳴を上げてしまった。
飛び出してきたものは1匹の真っ白い小動物でシンジの肩に登ってそこでとまった。そのあまりのスピードと、意外なものが出てきた事に3人は硬直した。
「セラフ、みんなを驚かすなよ…って、ど、どうしたの、大丈夫!?」
僕が振り返ってみてみるとレイは口元に手を当てたまま硬直しているしユミはしゃがみこんでしまっている。アスカにいたっては腰を抜かしたのかと思う格好で座り込んで金魚よろしく口をパクパクさせている。はっきりいってかなりおかしい。こんなこといったらビンタの一発じゃすまないだろうけど。
「え、あ、ごめん。驚かせちゃったみたいで。」
「あ、あんた、驚いたなんてもんじゃないわよ!あたしはてっきり……」
「え?」
当然『シンジが誰かアタシ以外の女と同棲してるのかと思って心配した』などと、アスカは素直に言えるはずもない。
「なんでもないわよ、ったく!この鈍感!!」
「あ、ごめん、気づかなくて。」
そういって何を勘違いしたのか手を差し伸べてアスカを助け起こした。ほんとにわかってないことにアスカは腹立たしかったが手を差し伸べてくれた事は嬉しかったのでこれ以上何も言わなかった。
「ほら、コイツはフェレットで『セラフ』っていうんだ。人見知りがすごいけどとりあえず言葉は理解できるみたいだから怒らせないほうがいいよ。じゃ、先にはいってるから。」
僕ははひとしきり『同居人』の紹介を終えるとさっさと奥へとはいっていった。
……それから数秒後、硬直が解けた3人は顔を見合わせて安堵のため息を吐いたことにシンジは気づく事はなかった。もっとも気づいたところでその意味を理解する事はできないだろうが………
「へえ、なかなかいい部屋じゃない」
アタシは入るなりそう評価した。シンジの部屋の構成は1LDKに広いロフトがついた部屋で、キッチンは広くカウンター式になっている。一人で住むには大きいが2人で住むには個室が一つなのでちょっと狭いという感じ。
「わー、空が見えるー!」
いち早く奥に入りロフトに登っていったユミが感嘆の声をあげている。ロフトの上の天井は斜めになっていて、窓が一つついている。ベッドが個室ではなくロフトにあるのはたぶん寝ながら星空をみることができるからかな。そしてベッドの周囲には丸い大きなクッションとチェロを収められたハードケースに、それよりちょっと小ぶりなロックのついたハードケースが2つ、高さ、幅60センチ、奥行き30センチぐらいののスピーカーらしきものが2台置いてある。チェロはいいとして後2つは大きさからしてギターかな?
「ちょっと待っててね、今何か作るから。リビングで待っててよ。紅茶でも持っていくから。」
もと違うわよねー、今まで知らなかっただけかもしれないけど。」
「…………」
「そうよ、ファーストなんか昔、あたしがなにいってもシカトくれるか『ならそうすれば』とか『そう、でも私にはなにもないもの』とかしか言わなかったのよ!まったく感情ってもんが見られなかったわね。笑ったとこなんか一度も見た事なかったし。洋服にいたってはどこ行くのも制服だったし」
「ええ!そんなに!?」
ユミは主に後半部分に驚いたようだ。前半に関しては昨日まで確かにそうだったので今更驚くに値しないようだ。
「……でも今はそんなこと、ない。」
「はぁ?なにがそんなことないって?」
「今の私には少なくとも碇君がいるもの。そして碇君が教えてくれた世界があるもの。」
「………そうね。あたしもおんなじね。シンジがいなかったらいまごろは…」
「………」
ユミは何も言わなかった。というより言えなかった。彼女たちには私には入り込めない何かがある事を改めて思い知らされた気がしたから。出逢った時間が違うだけでこうも自分と差をつけられた事がたまらなく悲しく、そしてつらかった。そして自分がこんなにも碇シンジという男の子に惹かれていることを改めて思い知らされた。
どれぐらい沈黙がアタシたちの間を支配していたのだろう。
「さ、できたよ。あんまりたいした物じゃないけど。」
シンジが大皿を二つ運んできた。あたしはこれをきっかけに今の気分を吹き飛ばした。
「シンジ、遅いわよ!いつまで待たせてんのよ!」
「ごめん、でもこれ食べて機嫌直してよ。」
シンジが作って運んできたのはピザとスパゲッティだった。ピザは本場イタリア風の薄い生地でトマトがメインの具になっていて、チーズのとろけ具合や焼き具合、そして彩りまで鮮やかだ。スパゲッティはバターで炒めたパスタにこちらも色とりどりの具が和えてある。視覚と嗅覚があたしの食欲をとめどなく誘う。うーん、見るからにおいしそう。でも口に出てしまうのはいつも違う言葉。
「へえ、一応まともにできてんじゃない。」
「わ、すごくおいしそう!これでたいした物じゃないなんて謙遜しないほうがいいわよ!」
シンジはアタシの心を溶かしてくれる柔らかい微笑みで答えた。いつも一人占めしたいと思うあの微笑みで。
アタシの言い方は相変わらず素直じゃない。だからユミのストレートに言う事ができる事がすごくうらやましい。……いやだな、こんな自分。
それはそれとして、やっぱりシンジの料理はおいしかった。ユミは「どんな専門店でもこれだけの味はそうそう出せるもんじゃないわよ…凄すぎる……」と絶賛。シンジはあんまり食べてはいなかったようだけど私たちは言葉も少なくすごい勢いで食べていた。でもちょっと物足りない事は、ファーストのために肉系統は一切使ってないことだ。シンジは一切そんなことは口に出さないけど。まあシンジは優しいからしょうがないか。そんな心遣いに当然ファーストも気づいているんだろう。横目で見てみるとシンジのほうをちらちら見ながら嬉しそうに食べている。そんな様子を見てるとあたしの心が少し痛んだ。
「あ、いっけなーい、もうこんな時間!!」
僕たちが食後の満腹感に酔いしれていると草薙がそう言った。時計を見るととっくに9時を回っていた。
「あ、じゃ送っていくよ。」
「うーん、じゃお願い!」
「アスカと綾波はどうする?」
「あたしはもうちょっといるわ、まだ動きたくないし。」
「私も…」
よっぽどお腹が満足しているのだろう、けだるいけどしあわせそうに2人はそう返してきた。僕の料理でそうなってくれることはやっぱり嬉しい。それはそれとして2人の住んでいるところはそんなに遠くないので別に無理に帰らせる事はないと僕は思った。
「うん、わかった。じゃあちょっと行ってくるね。セラフは留守番しててね、アスカたちとケンカしちゃダメだよ。」
セラフは小さく鳴いて返事をした。僕はセラフの返事に微笑むと玄関から外に出た。エレベーターに乗って降りていくと草薙が話しかけてきた。
「シンジ君、私バイクに乗りたいな。ダメ?」
「えっ、無理だよ、あれはひとり乗りなんだ。乗れない事もないけど日本で乗るにはちょっときついやつだし、あれは。」
「うーん、残念!」
今あのバイクはこのマンションの地下車庫においてある。もともと忙しい生活を送っていたドイツで乗り回していたものなので出力特性などを考えても速度制限が異常と言ってもいいほどの日本に合うバイクではない。(ドイツではアウトバーンと呼ばれる速度無制限道路がある。部分的には規制があるけど)そういえばもう一台バイクを買おうと思ってたんだっけ?
「ところで草薙の家ってどの辺にあるの?」
「こっから10分ぐらいだよ。結構目立つ家だからすぐ分かると思うよ。」
「草薙の親って何してる人なの?」
「お母さんは貿易会社の会長をしてるの!おとうさんはなんと!えへん!あのNERVで働いているんだよ、すごいでしょ!」
NERVときいて僕は驚いた。僕にとってその言葉はいいイメージはほとんどない。現在のNERVは世界を救ったとされているのだし、今は本気で医療やその他の分野で多大な功績を示していて、草薙が自慢するのも無理ない事だろう。そして、僕はNERV内で『草薙』という名前には心当たりがあった。草薙は僕の渋い顔にかがついたらしく、
「どうしたの?」
と心配そうに聞いてきた。
「いや、ちょっと、ね。」
「そっか…あ、ほら、あそこだよ、私の家。」
草薙が示した先を見て、さっきまでの考えが吹き飛ぶほどの驚きを受けた。なぜなら、家と呼ぶより屋敷と呼んだほうがしっくり来るほどでかい家だったからだ。豪邸とはまさにこの事を言うのだろう、復興されて間もないというのにこんな家を建てる人物がいたとは……
「あ、お父さんだ!」
僕が驚いていると、草薙が歩いて帰宅している父親を見つけて走っていった。これほどの家の主人が歩いて帰るというのも些かおかしいものがあるのだが。
「おかえり!彼、私のボーイフレンドなの!」
「え?ちょっと、草薙!」
いきなりそんな言い方で紹介されたので少し赤くなってうろたえてしまった。
「ただいま、ユミ。ほう、一人娘をこんなに遅く帰宅させるボーイフレンドか。どれどれ。」
草薙のお父さんも僕をからかっているようだ。言葉の内容の割に軽い口調だ。僕は気を取り直して挨拶する事にした。
「お久しぶりです、草薙二佐。」
「!…君は!そうか、君だったのか。我が一人娘も君なら安心してまかせられるな!はーっはっは!」
草薙二佐はそういって大笑いした。僕は恥ずかしくなって赤くなりうつむいてしなった。草薙二佐にはNERVドイツ支部で少しばかり面識があり、訓練の事を知っているごくわずかのうちの一人だった。
「何、お父さんシンジ君を知ってたの!?」
「ああ、ドイツで少しね。それにしてもユミ、おまえ本当に知らないのか?」
「なにを?」
「碇君はNERV最高責任者の息子だぞ!」
「ええーーーっ!」
「それだけじゃない、彼自身も…」
「草薙さん!!………それは今はまだ、言わないで下さい、お願いします。」
草薙さんはNERVでもかなり上のほうにいるので僕がエヴァのパイロットであった事を知っている。口調から僕が真剣である事を読み取ってくれたのだろう。それについては何も言わなかった。草薙ユミのほうも人が話したがらない事を詮索するような人じゃないので黙っていた。
「……そうか、わかった。じゃあユミ、これだけはいっておく。彼は信頼に値する人物だよ。」
「うん、それは知ってる。」
「だからもしユミが本気で碇君の事を好きになったのなら私の知っている限りの事を話してあげよう。シンジ君、それぐらいは譲歩してくれるかな?」
「………ええ、わかりました。」
僕は二佐の暖かみがあふれる言葉に承諾の返事をした。しかしこのときはあまりきにしなかったけどこの返答が後でどういう事になるかあまり考えなかった事は失敗だったと少したってから気づく事になる。そうしたらまた二佐の口調が変わった。
「それにしてもまさかユミが彼を射止めるとはな。知ってるか、ドイツでは誰が彼を物にするかちょっとした話題になっていたんだぞ。しかもその中には少数派ながら男もいたほどだ。結局誰もできなかったがな。」
二佐はおどけた口調で言った。まさかこんなことを言われるなんて思いも寄らなかったのだが、僕は慌てて弁解した。しかしそれでも僕はアスカか綾波がいないところでは以前ほど取り乱したりはしない。
「え、あ、いや、それは…単に周りが僕をからかって遊んでいただけですよ。」
「ははははは!まあいい。それより中に入らないか?碇君、君とはゆっくり話がしてみたいと思っていたんだよ。」
僕も少し話がしたいと思ったけどアスカと綾波の事を思い出し断る事にした。
「いえ、今日のところは帰ります。」
「そうか。じゃあまた今度おいで、待っているから。」
「はい、そうします、ではまた。草薙、じゃまた明日学校で。」
「あ、うん、バイバイ……」
なんだか彼女はぼーっとしているけど……大丈夫かな?
後書きという名の勝手な座談会
作者「今回はこんなもんでどうでしょう?」
シンジ「どうでしょうといわれても…」
ユミ「グーよ!これでシンジ君との関係は親公認となったわ!」
作者「ホントはただ書いているうちにそうなっただけ…」
シンジ「でもアスカはあんまりでてこないねえ。」
ユミ「ライバルはでてこなくていいのよ!シンジ君はあたしのもの!」
作者「次回はシンジ君とアスカがメイン!短くなると思うけど。10Kあるかないかぐらい。LASの方はどう思うかな?」
シンジ「大家さんの手間増やす気ですか?」
ユミ「そんなの私許さなーい!却下よ却下!!」
作者「最後にメールありがとぉー!返事がまだだけど少し待ってね!」
シンジ「あと、4000ヒットもありがとうございます。」
ユミ「ぜーーーーーったいに却下よ!!!」
TAIKIさんの『天使に逢いたい』第3話、公開です。
両手に花プラスOne・・・
この実に幸せな状況を理解できないシンジは
不幸せなんでしょうか。
いや、
本当に不幸せなのは・・・ケンスケですよね・・・
女性陣4人のうち
1人はトウジに、
残り3人はシンジに。
君にはカメラがある(^^;
さあ、訪問者の皆さん。
TAIKIさんに感想メール送りましょうね!