フィアット …そして時は動き始めた…
Cパート
アタシの朝は早い。しかも今日はとても目覚めがよかった。これも昨日の手紙のおかげかな?6時に起きてまずは朝風呂。いくら朝でもシャワーじゃなくて、アタシは風呂が気に入っていた。ミサトの言ってた「風呂は命の洗濯よ!」もあながち冗談ではないと最近は思うようになってきた。そのあとは髪の毛をブローしてご飯作り。髪は『勝負モード』にするほど見せたいやつがいるわけじゃないから割とすぐ終わる。そしてお弁当と朝ご飯を作る。今日のお弁当のメインはから揚げと卵焼き。鳥の胸肉を一口サイズに切ってたれに漬け込む。ササミ肉でやってもおいしいんだけど。10分待ってから衣を着けて180度ぐらいの油できつね色になるまで揚げる。おいしそうなにおいと油にはじける音がキッチンの中に広がる。以前シンジがよく作っていたヤツで、今はアタシもよく作るんだけどいまだにシンジのようにおいしくは作れない。どこがちがうのかなぁ?
そしてひとりさみしく朝ご飯…のはずなんだけど、今日はミサトが起きてきた。かなり珍しい事態だ。だからその事をはっきりと言ってやった。
「ミサト!?アンタがこんなに早く起きるなんて、今日は雨どころか槍が降るんじゃない!?ちょうど宇宙には『ロンギヌスの槍』が漂ってる事だし!」
「あのねえ、あんなもんが落ちてきたら第三新東京市は消滅よ…そんなに私が早く起きるのが珍しい?」
「ミサト、気付いてなかったの?朝ご飯食べるんでしょ?」
すでにこの時ミサトは冷蔵庫を漁ってご愛飲の『エビチュ』を取り出していた…
「はぁぁぁ…いまさらになってシンジの苦労がわかったわ…」
アタシはこめかみを押さえながら誰にともなくぼやいた。
「いってきまーす!ミサト!せっかく早く起きたんだからゴミぐらい出しといてね!」
「はいはーい。いってらっさーい。」
ミサトは今飲んでいた起きてから3本目のビールを静かに置いた。
「今日は格別元気ね。やっぱアスカにとってはシンジ君の力は大きい、か。私じゃダメね……」
「また逢えたのよ!ヒカリ!」
草薙ユミは学校に来たそうそう唐突に話を切り出した。同じ事を昨日も聞いたような気がする…
「何に?」
私は少々間抜けだけど至極もっともな質問を返した。すでに周りは好奇心で小犬の目をした女の子に囲まれている。ちなみに男子はあきれている。
そんなとき、アスカが教室に入ってきた。
「おはよう、アスカ。」
「おっはよー、ヒカリ!!今日もいい天気ねえー!」
「う、うん…」
元気なのはいいけどなんだかちょっと怖い。そう言えば以前アスカこんな感じのとき鈴原がアスカをからかったら、確かアスカはにっこりと笑った笑顔のまま……
私は顔が青ざめていくのを自覚しながら今日一日何も起こりませんようにと祈った。届く事なんて滅多にないのだが……
「……どいてくれる?」
(ひーん、さっそくだよー!)
泣きそうな思いで見ると入り口の前で突っ立っているアスカの後ろで綾波さんが静かに立ってそう言っていた。
(いけない…あの2人は…そう、なんていうか…反りが合わない、っていうか水と油、反発する磁石…ううっ、そんなこと考えてないではやくとめないと…でもなんて?綾波さんがそう言うのはもっともだし、だからってアスカが引くとも考えられないし……ああっ、でもどうしたら!?)
私が無限ループにはまりそうになっていたとき、意外(?)な事態が起こった。
「そう、悪かったわね。」
ええっ?アスカが引いた!?
奇異と言ってもいい行動に私は聞かずには入られなくなった。
「ア、アスカ?何かあったの?」
ちょっと声が上ずってしまった。そしてアスカは待ってましたと言わんばかりの顔で振り向き、こちらに来た。
「えっとね…」
「?」
彼女にしては珍しく言いにくそうにしている。こころなしか頬が紅潮している。やがて意を決したように顔を上げて言い出した。うーん、久々に見るアスカの『恋する乙女モード』ね。
「……あのね、昨日アイツから手紙がきたの。」
「?…え?えーーっ!もしかして?」
彼女は黙ってうなずき、そのままうつむいた。大声を上げたため周りから(?_?)な視線をいくつも頂戴しているのだがそんなことよりも大事なことが一つ。
(よかった…誰も怪我人が出なくて…)
カーンカーーン!
2ストローク車独特の甲高いエグゾーストが眠り始めた街に響き渡る。第3新東京市は別名『眠らない街』とも呼ばれている。正式に遷都されてからというもの、碇ゲンドウ、冬月コウゾウの暗躍により目覚しい復興を遂げ、大手企業の本社や支社、各庁もこぞって誘致されたことで一大産業都市となった側面と、遊園地や水族館、更には日本最大のアミューズメントパークなどを所有する観光都市としての側面ももち、現在は戦いの面影をほとんど残していない。しかし住宅街、しかも町外れと言ってもいいここ…コンフォート17マンション…はさすがに眠いらしい。
現在の時刻は深夜2時。
「やっぱり遅いかな?でも、やっと時間ができたんだし、それに、この手紙を届けないと…」
ボクはそう呟くとバイクを止めた。
ピンポーン
「はーい?」
この声はミサトさんだ!
「お届けものでーす。」
ボクは半分冗談でそう返事を返した。
「はいはーい、いま印鑑用意するからちょっちまってねぇー!」
(ミサトさん、酔ってるな……こんな深夜に宅配便がくるはずないのに…)
ガチャ……
「どこにおせば…あ………」
ミサトさんは玄関で固まってしまった。
「ただいま。」
「……」
「……(…はずしたかな?<っておい)」
「ほ、ほんとにシンジ君!?」
「そうですけど…うわっ。」
ぼくの返事を聞いたとたんミサトさんは泣き出し抱き着いてきた。
「おかえりなさい…」
そう耳元で囁く声が聞こえた。
「あ、そうそう、お届けものなんですけど。」
すでにリビングで小料理(おつまみ)を作り終わったボクが切り出した。
「え?なに、冗談じゃなかったの?」
「いやまあ、半分はそうでしたけど……はい、これ。でもよかったぁ、送り主より先に届いて。」
「え?…手紙じゃなぁい。だーれかなぁ…」
それだけいってまたもやミサトさんは凍り付いた。きっと人生最高に心臓に悪い一日になるだろう。そう、最高に……
[加持リョウジからマイ・ハニーへ]
「……フランスで戦闘訓練をしてくれた人が加持さんだったんです。」
再び泣き出したミサトさんに向かってそう話した。
「ボクの1日後れで日本行きの飛行機に乗ったはずだから…」
ピンポーン
このときインターホンの音がした。うーん、絶妙だなあ。ボクは妙に感心してしまった。
そして入ってきた人物は予想を裏切らなかった。
「あんた…なんでここにいんのよ……」
「あいにく死神にはとことん嫌われているらしくてね。」
そのあと快いはじけるような音がした。平手打ちだ。これはかなり痛い。
加持さんはよけもせず、まっすぐにミサトさんを見据えそれを受けた。
「葛城、約束どおりあの時言えなかった言葉を言うよ。愛してる。俺のそばにずっといてくれ。」
そして加持さんはミサトさんをゆっくりとその長い腕で抱きしめた。ミサトさんがどうしたか、説明は無粋だね。…ただ、この日初めての笑顔と最高の涙があった、とだけ話しておくね。
「ところでシンジ君」
「はい、なんですか?」
ボクを交えて3人で飲んでいる(もちろんみんな酒)ときにいきなり話し掛けられた。
「アスカには会わないのかい?」
「……はい。せっかく来たけどアスカは寝てるし……それに下手に起こすとアスカに殺されかねませんしね。」
ボクはそう言って微笑みながら天使の褥とリビングを隔てているふすまを見つめた。相変わらずキケンなプレートが掛かっている。……変わってないな、ここは。
「そうか…シンジ君、君がそう思うんだったらそうすればいい。それよりシンジ君、あの話のこと、考えといてくれたかい?」
言葉の前半と後半では大きく違う口調で聞いてきた。加持さんらしい。
「はい、僕でよければ喜んで。」
「なーによぉ、オトコが2人してなんか企んでぇ。」
すでにヨッパモードの入り口に差し掛かっている人(誰かはいいだろう)が静かにしてると思ったらやっぱり聞いてきた。それにしてもボクをちゃんとオトコと認識してくれたのは嬉しいな。
「葛城、俺は喫茶店を開こうと思ってるんだ。今はアルバイトがおおやけになって収入もほとんどないしな。シンジ君にはバイトを頼んでたんだ。」
「へぇー。いつから?」
「あさって。」
「ぶっ!」
加地さんはにべもなくそう言った。ミサトさんが吹き出すのも無理はないだろう。
ボクは知ってたけどいきなり明後日と言われちゃあね。
「あんた、帰ってきたのは昨日でしょう!?なんでこんな早く準備できんのよ!」
「司令に頼んだ。退職金代わりにね。自分の才能に限界を感じた、ってとこかな。欲しいものは手に入れたし。」
「はぁ…もういいわ。じゃシンジ君にはいまから土産話でもしてもらいましょうか。」
「いいですけど…また今度にします。もうすぐ学校だし。一度帰って着替えないと…」
ボクは既にしろみ始めて鳥たちの囀りが聞こえる窓の外を見ながら言った。
「わかったわぁ、気をつけてかえんのよー。」
「はい、じゃ。」
ボクはそういって玄関から出た。……あ、これじゃ飲酒運転だ。………まあいいか。<ヲイコラ(^^;
「……シンジ君いいオトコになって帰ってきたわね、たった一年なのに。ピアスまでつけちゃって。」
シンジが出ていった玄関を見ながらポツリと呟いた。
「ああ、ほんとにな。ところで葛城、これを見ろ。」
「んーなあに?」
加持は封筒に入った書類を渡した。
「おれが自分の才能に限界を感じた理由。シュミレーションナンバーD−18を覚えてるか?」
「まあね、あの完遂者0のヤツでしょ?私もだめだったし………なぁ!?えぇぇ!!」
書類に目を通していたミサトは今日何度目かわからない絶句を再びすることとなった。…どうやら酔いはアンドロメダ星雲のあたりまで吹っ飛んだようだ。
「こ、これ、ほんとにシンジ君?」
「ああ。俺も最初は疑ったが訓練でわかったよ。間違いない。しかも実戦シュミレーション最高難易度のD−18すらパーフェクトだ。しかも本当は3年かかるプログラムを2年でやる予定、それだけでもかなり無謀のはずなのにさらにその上を行きわずか1年でこなすとはね。まさに天才だよ。」
「……エヴァを初めて動かしたときも驚かされたけど、今回はそれ以上ね。」
同じ事をぼやいたMADな科学者がいる事をミサトはまだ知らなかった…
それから3時間後……
「おっはよー、ヒカリ。」
「おはよう、アスカ。今日はどうしたの?妙な顔つきしちゃって?」
「んー、そんな変?」
「いや、そんなことないけど…いかにも『何か考えてます』って顔してるから…。」
「あ、そのこと。朝ミサトがね、いやにニヤニヤしてんのよ。」
「へえ?」
「それで『何にやけてんのよ!?』って聞いたらなんかさらににやけて『学校行けばわかるわよん!』って。しかもなんかすごく酔っぱらってるし。…いつものことだけど。まあちゃんと空缶がごみ袋につめてあったことが普段と大きく違うわね。」
……言うまでもなくごみ袋は加持の所業による。ミサトの普段の生活が伺える一言だ……
「ふーん。で何かわかった?」
「それがさっぱり。何がわかるって言うのよ!帰ったらミサトをディラックの海にぶち込んででも吐かせてやる!首洗って覚悟して待ってなさい、ミサト!!」
この上なく物騒な事を言うアスカ。ただ、この姿も周知の事実のはずだがアスカ個人の人気が下がった事はない。容姿は言動に勝るのか?
「ははは…あ、きりーつ!」
「はぁ、また退屈な一日の始まりかぁ…」
アスカはつばめのように翻り後ろから2番目、窓から3つめの自分の席についたとたん今度はナメクジ状態と化して机の上に突っ伏した。
「みなさん、おはようございます。…えー、今日は転校生を紹介します。はいってください。」
「「「「あーーーーーっ!(×4)」」」」
女子一同の黄色い声援のほか、見事にユニゾンした声があがった。はっきり行って転校生なんかにアタシは興味ない。まあ強いて言えばオトコか女か、ってことぐらいね。とりあえずオトコらしいけど。この声は…えっと。ヒカリにユミに…鈴原に相田か。
やれやれ、見るだけ見てやるか。一体どんな奴が来たって……
「……!?!?!」
そのときアタシはやっとミサトの言ってたことの意味がわかった。あまりの驚きに声すらでない。
「碇シンジです。よろしくお願いします。」
……少年は照れくさそうにそう言った……
何よりこのアタシが間違えるはずない。この声、あのしぐさ…ほとんど変わってない。そして誰よりもみたかったその姿……もうアタシの頭はまっしろだ。
…………そう、そこにいたのは紛れもなくアイツだった…………
第一話終了における座談会
アスカ「ちょっと!なにあのみえみえでベタベタの展開は!」
作者「…返す言葉もございません。」
シンジ「まあまあ、ちょっとアスカ落ち着いて。」
アスカ「これが落ち着いていられるかっての!シンジ!あんたもなんか言ったら!?」
シンジ「ん、やっぱり最後はベタベタだったね。」
作者「…実のところ意表を突いて霧○マ○嬢にでもしてやろうと思ったんですがさすがにやめまして……」
アスカ「あったりまえよ!ただでさえ文才にかけるあんたがそんなことしたら破滅は決定だわ!!メール一通きてないって事がその事を証明してるわね!!」
作者「……ヨヨヨ(;_;)」
シンジ「ではこのへんで。」
アスカ「勝手に仕切ってんじゃないわよ!!」
TAIKIさんの『天使に逢いたい』第壱話Cパート、公開です。
やっと家に来たシンジ。
夜中に、
加持を連れて。
ミサトを脅かす為としか思えない突然の訪問でしたね(^^)
まず会いたい人のはずのアスカとは顔を合わさず去って・・・・
我慢強くなったのか、
シャイが酷くなったのか、
「美味しい物は後」と思ったのか(^^;
シンジの期間はどの様な事態を生むんでしょうね。
さあ、訪問者の皆さん。
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