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天使に逢いたい

フィアット …そして時は動き始めた…

Bパート

「うーん、きょうはなににしようかなぁ…」
ヒカリと別れてから今日の夕飯の献立を考える。
「でもまだちょっと早いかなあ……そうだ!」
今日はミサトの帰りはちょっと遅いと言う事がわかっている。だからいつもより時間的余裕があった。
暇つぶしを思い付いてアタシはすたすたと歩き出す。商店街を抜けてすごくきつくて長いの坂を登っていった小高い丘の上に小さな公園がある。ここはアタシにとって特別な場所だった。なぜならシンジとよく来た場所だったから。坂を登っている途中、昔シンジとここで口論をしたのを思い出した。

「ねえ、アスカー、なんでわざわざこんなとこいこうって言い出したの?」
「うっさいわねぇー、私が行きたい、っていってんだからアンタは黙ってついてくればいいのよ!」
「じゃあひとりで行けばいいじゃないか。」
「なんですってぇ!か弱い乙女にひとりで行けって言うのぉ!?アンタは!」

クスッ
思わず笑みがこぼれる。
(あれ?)
公園の中には中居ユウコの姿があった。黒いスーツを着たオトコと何やら話し込んでいる。さすがに表情までは見えないが。
(ユウコとはなしてんの誰だろ?)
当然と言えば当然の疑問が頭をかすめる。そんなことを考えているうち、ユウコがこちらへやってきた。黒いスーツの男はいつのまにか姿が見えない。
「ユウコ、誰と話してたの?」
アスカがそうたずねるとひどく驚いた顔つきでこちらを見た。
「ア、アスカ!?いつからいたの?」
「ん、今来たとこ。」
「お父さんの会社のおじさんよ。じゃーねー!」
そういうと小走りで去っていった。アスカは釈然としないものを感じたが、ここに来た目的を思い出すと、そのとおりに思い出の世界へと浸っていった。
 

「ただいまー!って、誰もいないか。」
アスカは帰ってきた早々、制服の上にエプロンを着け、食事の準備へと取り掛かった。

アスカは現在もミサトと暮らしていた。シンジがいない今、最初は家事はミサトと分担していたのだが、ミサトの作った料理の凄まじさを身をもって知っているアスカが自分から食事は私がやる、と言い出し、また、その他の事も、ズボラなミサトに任せるとろくな事がないので、必然アスカが自分でやるようになっていた。料理に関しては、洞木ヒカリという最強のアドバイザーのおかげで今ではかなりの腕前となっていた。

(シンジが帰ってきたらこのアタシの手料理で「おいしい!」っていわせてみせるんだから!そのあとは…キャッ!んもぅ!!)
持ち前の妄想癖を膨らませ顔を赤くしていると
「ただいまー!!」
ミサトが帰ってきた。この声は何かあるな? 私はすでにミサトが何か企んでいる時の声ぐらいはすぐに分かる。だからこの時もすぐに分かった。
「おかえり。」
「へへーん、アスカ、おみやげがあるんだけどぉ?」
…やっぱり。
「なに?」
アタシは、またか、と言う感情を思いっきり込めて言ってやった。
「欲しい?」
ミサトは意地悪な目つきで言っている。
「だからなに?くだらないものだったら要らないわよ!」
今までの経験から言うと、結構つまん無い物だったりする事が多い。だからつい口を悪くして言い返した。
「あーそー、いらないんだぁ?シンちゃんからの手紙。」
「シ、シンジからの!?さ、さっさとよこしなさいよ!」
さすがのアタシもこの時ばかりは本気で慌てた。
「まあまあ、慌てなさんなって。」
「早く渡さないと晩御飯抜きよ!!」
ミサトは一瞬とてもやさしい表情をした後やっとこっちに渡した。
「あ、そうそう、明日は病院で検査があるんだから感激して夜更かししちゃダメよ!」

とつけくわえながら……。

自分の部屋でこっそりと見た手紙の内容はこうだった。
お元気ですか?今、僕はフランスにいます。アスカとミサトさん、ちゃんとご飯食べてる?掃除とか洗濯も大丈夫?………などなど、アタシたちの心配ばかりかいてあった。最後に、ボクは元気です。と、自分の事は少しだけ。
「手紙までアタシたちの心配なんかしないでもいいわよ、バカ…」
でも、アタシはすごく安心した。シンジが元気だってわかったから。もう少し、あと1年後にはあのやさしい笑顔が見れる、ってことへの希望が強くもてたから。
その夜、アタシはとても幸せな気分でいられた。そして今日はシンジのベッドで寝た。シンジのにおいがするような気がしてまた一つ幸せな気分になれた。
 

「さて、と。一回帰るかな。」
ついさっき、転校手続きをおえたボクは学校の中を見て回った。時間は午後6時。アスカと綾波は今日は休みだと手続きのときの教師は言っていた。
不意に、音楽室の中にチェロが立てかけてあるのが目に留まった。きっと部活か何かのしまい忘れだろう。
(チェロか。もう3ヶ月弾いてなかったな…)
そう思いながら音楽室に入っていきチェロを手に取った。
(少し位弾いてもかまわないかな…)
そして、ボクは静かにチェロを弾き始めた。
 

「あ、ごめん!私のチェロ出しっぱなしのままだった!先に帰ってて!ごめんね!」
「わかった!ユミ、じゃーねー!!」
校門のところでその事に気付いた私は慌てて一緒に帰ろうとしていた友人にいった。
「ウン、じゃ、また明日!」
そう言うと私は駆け出した。
(えーと、鍵はまだ開いたままのはずだけど…あっ!)
音楽室の近くまで来たとき、中からチェロの音色がするのがわかった。
(誰が弾いてるんだろう…すごくうまい…ううん、それだけじゃなく、とても透明で優しい感じ…これは一流のチェリストの音…こんなにすごい人がうちの学校にいたなんて……)
私は感動と驚きの入り交じった思いでそっと音楽室の中を覗いた。そして今度こそ本当に驚かされた。
「あ!!」
いけない、思わず声を上げちゃった。あの人も私の声に気付いて演奏を止めた。そう……あの人…バイクに乗って私を助けてくれたあの人だ…
「これ君の?ごめん、勝手に弾いちゃって。」
「……」
私は驚きの余り声も出ない。
「あの…?」
「…あっ!すみません!そうです!あの…この前私を助けてくれた方ですよね?」
「えっ、ああ、あの時の!うん、そうだよ。」
間違いない!あの人だ。否定されてもこの中性的で端整な顔立ちととてもやさしい微笑みでわかる。
「あの時はどうもありがとうございました!あ、あの、とてもチェロお上手なんですね。」
私はらしくもなく緊張して声が上ずっている。恥ずかしい…
「え、あ、ありがとう。むこうでとてもいい先生に教わったからね。」
彼も少し戸惑っているのかちょっと言葉が詰まっていた。
「あ、でもそろそろかえらないと。じゃ。」
「あ、そうですか。あのぉ…また演奏、聞かせてくださいね…」
そう私が言うと彼は驚いたように私を見て、そしてあの天使の微笑みで答えてくれた。私は彼の微笑みに見とれていた。虜になった、と言ってもいいかもしれない。
そしてあのひとが去ってからもしばらくボーッとしてた私だったけど、やっと重大な事に気がついた。
「あーーっ!またあの人の名前聞くの忘れたーーーーっ!!」

 


続く
ver.-1.00 1997-08/17 公開
ご意見・ご感想はy-tom@mx2.nisiq.netまで!!

作者の戯言
後半は一人称で書いてみましたけど、どうでしょうか?なにぶん勉強不足名もので…
ちなみに『草薙ユミ』の性格は26話のあの世界のレイに近いと思ってください。
ああ、次回こそはもっと旨く書いてやるぅぅぅ!!


 TAIKIさんの『天使に逢いたい』第壱話Bパート、公開です。
 

 ユミを助けた男は多才ですね。

 ハイパワーバイクを軽く操り、
 チェロを繊細に弾きこなす。

 ユミはメロメロ(^^;
 

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