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天使に逢いたい
第10話 前編 See You Again!!
碇シンジには、眠る暇すらない生活を続けていた。
「シンジ君、ハイ、コーヒー。あまり根をつめないでね。」
伊吹マヤはマギの端末の前で一心にプログラミングを続けているシンジにコーヒーを差し出した。
時間は深夜3時になる。
責任者がシンジである事を関係している職員はみな知っているが、それ以上の働きをしている事も周知の事実である。
暇な時間が出来ると、シンジはみんなに、声をかけて回る。エヴァの整備士達にも同様だ。
その言葉は本心から出るものであり、決してうわべだけのものではない。
そんなシンジに好感を持たないはずはない。
シンジは階級の事などまるで関係のない、絶大な信用と好感を得ていた。
他の職員にシンジはよく、少し休んだほうがいいですよ、と言われるが、やんわりと拒否をする。自分の仕事ですから、と
そしてそれはカンフル剤となり他の職員をいい方向へと刺激する。
「あ、伊吹さん、ありがとうございます。」
ほんの少しだけ手を休めて、マヤと目線を合わせて礼を言う。
マヤの顔が少し朱に染まる。
が、大人の余裕というものか、すぐに気を取り直しシンジに話しかける。
「ところで、今なにやってるの?」
「パーソナルデータを変更してるんです。」
今度は振り向きもせず打ち込みを続ける。
「あ、なに、そこ?」
マヤは流れていくデータの中に見た事のないプログラムが混じっている事に気がつく。
「それはシンジ君が自分で書き加えたものよ。」
返答は意外な方向からやってきた。
逸脱してるわね。あの頃からシンジ君はありふれた才能を持っていたのに、無気力さがそれを打ち消していた、ということかしら。もっとも、私もそれに気がついたのはユニゾンのときだけどね。」
「それって、どういうことですか?」
ここではじめてリツコがのキーボードを打つ手が止まる。
「考えてもみなさい、マヤ。第7使徒を倒したときの動き、決してアスカがシンジ君のレベルに落としたとは考えられないわ。ということは、その手の訓練を幼い頃から受けていたアスカに、たった30日で追いついたのよ。アスカと同等のレベル、いや、あの時はシンジ君のほうが全然シンクロ率が低かったからそれ以上までね。」
「・・・・・・」
愕然として表情が驚きを表したまま固まり、声も出ないらしい。
「あとはどこで学んだか、というのは、去年MITで発表された論文知ってる?世界最高の科学者として名高いシンプソン教授の研究室から出されたもの。」
「えっと・・・医療に関する研究と形状記憶素子の相変態論に・・・でもそれが何か関係あるんですか?」
「大半のものがシンプソン教授とS・ジェファーソンの共同研究という事になってるわよね。医療のやつはS・ジェファーソンただ一人。しかも彼らのみにしか理解不能といわれる医療用ナノ・マシンのおまけつきね。」
「ええ。でも未成年ということで顔の公表はされていませんよね。・・・?・・・!まさか!?」
「そう、そのまさかよ。シンプソン教授の研究室でシンジ君は世界最高の教育を受けた、ということね。どういう経緯かはわからないけど。」
「となると、今のシンジ君の肩書きには偉いものがありますね。」
「そうね。プログラマーとしては、私がシンジ君がアメリカに行くとき、ラップトップパソコンをプレゼントしたの。NERVの技術に私の改造入りのね。ちなみに名前は『グレムリン』と命名したわ。」
「・・・・・・『グレムリン』ですか?」
マヤはなんだか恐ろしいものを想像した。
赤木リツコの改造。
経験から言って生半可なものじゃないだろう。
パソコンに名前をつけ、なおかつ妖魔からとったあたり、絶対に普通のじゃない。
ほんの一瞬自分も欲しいと思ったが、命取りになり兼ねないような怖さも伴ったのですぐに思い直した。
「そう、あれを使いこなせるようになれば相当なものよ。一般市場に出回っているものをはるかに凌駕しているやつだから。ほんとはパソコン通信にでもと思ってあげたんだけど、ついでにマギに使われている言語のプログラミングソフトもいれておいたの。あの様子じゃそれもきちんと使いこなしているみたいね。コンピューターのほう、誰に教わったのかしら。」
リツコは科学者の、事実のみを淡々と述べる口調で話した。
それがより一層内容に厚味を増す。
「・・・使いこなしている程度ではないですよ。・・・私が作るものよりはるかに上位のプログラムです、あれは。」
「・・・そうね・・・すでにシンジ君は私より上かもしれないわね。さあ、続きを始めて。」
リツコは深い思案顔をしたが、すぐに仕事を再開した。
「バカシンジ、おっきろー!」
アスカの威勢がいい、というか良すぎる声が教室中に響き渡る。
目の前の少年は決して寝ているわけではない。
ただ突っ伏しているだけだ。
一学期中間試験の一週間前になったので、授業は午前中ですべて終了、部活もない。
今のシンジにとっては最も都合のいい状況ではあった。
だが、ほぼ不眠不休、ネルフにいるとき頭をすっきりさせるためほんの数十分寝るぐらいのシンジの疲れが取れるわけではない。
それにしてもリツコにあそこまで言わしめる彼に向かい「バカ」とは、えらいいわれようだ。
事実を知らないのは時として罪になり得るのであろうか。
「起きてるよ・・・で、何?」
顔を横に向けて目線を合わせ、返事をする。
「あんた、眠気大爆発って顔してるわねー?試験勉強なんてちゃっちゃっと済ませちゃえばいいのよ!」
アスカは勘違いをしてくれている。
なにもアスカだけがそう思っているわけではない。
学校では優等生の部類に入るシンジ。
試験勉強もしっかりやっているのだろうと見るのが普通だ。
アスカは以前プールサイドで試験勉強をしているシンジを見ているので、その事をまったく疑っていない。
これまたシンジにとっては都合がいい。
「あ、そろそろ行かないと。」
シンジがちらりと時計を見て小さく呟く。
「またバイト?そんなことしてるから寝てる時間がなくなるのよ!」
ほんとに小さく呟いただけだったが、アスカは聞き逃さなかった。
最近アスカはいつも怒ってるな、とシンジは考える。
「後で行くからよろしくぅ!」
シンジの斜め後ろからこれまた元気のいい声が飛んでくる。
顔を見なくてもわかる。
草薙ユミだ。
シンジはアスカとユミの間に火花が飛び散っているように見えたが、二人はあれで結構仲がいい事をシンジはよく知っているので忘却の彼方に沈めた。
レイは、アスカの隣に静かに立っている。
最近はアスカや洞木さんと行動を共にして、一般常識というものを叩き込まれているらしい。
なぜそうなったのかシンジは知らないが、それは多分綾波レイにとっていい方向に向かうであろうし、なぜか険悪だったアスカとレイの仲もそれで良くなるのではないかとシンジはわりと楽観的に考えている。
「うん、わかった。試験前なのにわざわざ来てくれるんだから紅茶の一杯ぐらいはおごるよ。」
アスカの顔が仁王、いや、それよりはなまはげのほうが近いであろう形相でシンジを睨む。
そしてなぜかレイにも睨まれる。
もしかしてレイ、アスカと似てきたんじゃあ・・・
なんだかものすごく怖い想像をしたシンジは、あくびをしながらさっさと教室を出ていった。
「シンジくーん、今日はいつにも増して話さないねえ。そんなにお姉さんの事嫌い?」
カウンター内にて食器を洗っているシンジ。
驚いたように顔を上げる。
「あ、え、そんなことないですよ、ごめんなさい・・・」
シンジのこんな返答に、カウンターに腰掛ける常連の女子大生二人は顔を見合わせてくすくすと笑いあう。
午後4時。店内は割とすいている。
だが、シンジの前の6つあるカウンター席から女性客が途絶えた試しはない。
そしてそのままシンジは和やかに二人と談笑を交している。
そんな時、草薙ユミが入ってきた。
「やっほー、シンジくん。約束どうりきたよー!」
あいかわらず元気よく、しかも手を振っていた。
そして迷うことなく女子大生二人の隣、シンジの目の前の席に陣取る。
「いらっしゃい、草薙。じゃあこっちも約束どうりにね。何にする?」
皿を拭きながら草薙の挨拶に微笑んでシンジは柔らかく言う。
「もちろん、シンジくん特製のあれね!」
「うん、わかった。」
シンジはポットにお湯を入れて火にかける。
この紅茶は、以前レイに出したミントティーとアップルティーをブレンドしたもので、最上の味を出すには配合、時間、共にとても難しいのでメリオールタイプのティーサーバーは使えない。
背後にある紅茶の缶およそ20個の中からその二つを取り出す。
「なんだぁシンジ君。こんな可愛い彼女がいるんだあ。私が相手にされなくても当然よねぇ!」
「えへへ・・・」
草薙の照れてる様子がなんだかかわいいな、本人が聞いたら飛び跳ねて喜ぶであろう事を心の中で呟く。
「ただのクラスメートですよ、草薙は。」
紅茶の缶を手に取り、安らぎを与える微笑みと共にそういう。
「えー、ホント?」
今度はもう一人のほうが草薙ユミに聞いてきた。
彼女は初対面だというのに臆する事なく返答を返した。
「いまのところは、ですけどね。」
女子大生二人はまたも笑いあった。
「「じゃあ、私たちにもそのシンジ君特製ってやつ、よろしく!」」
『Adam&Eve』店内には、和やかで安らいだ空気が流れ続けていた。
そんなシンジを見ている加持は、少し回想する。
「シンジ君。君は少し休んだほうがいい。体を壊したら何にもならないぞ」
数日前そう言った時の事だ。
加持リョウジは、シンジが今ネルフでやっている事を本人から、そして常連でもある赤木リツコから聞いている。
そのオーバーワーク気味の働きに関しても。
アスカたちの護衛は直接の任務ではないが、それでも彼は普段から周囲に気を配っている。
疲労は間違いなく彼の体に蓄積されている事だろう。
その時のシンジの返答は、
「いえ。というより、ここで働ける事が嬉しいんですよ。僕の作るものに喜んでくれる人がいる。そんな人たちの笑顔が、僕に充実感を与えてくれるんです。僕のやってる事が人に喜ばれているんだって。それに続けているものを突然止めちゃったらそれこそ体を壊しちゃいますよ。」
優しい微笑みと共にそんなことを言っていたシンジ。
彼の一言一句には、どうしたらその年齢で出せるんだろうかという重みがある。
それだけに、その真摯な思いが胸を打ち、そして響き渡る。
自分の状態を健気にも隠しつづけ、なおかつ訪れる客すべてに安らぎを与えている。
シンジの事を一番心配しているのは、彼であった。
それから10日後。
中間テストが終わったその日、ネルフにおいてある計画がスタートした。
その名前は
『初号機コア並びに弐号機コアにおける同時サルベージ計画』
と言った。
次回予告と称す言い訳(自爆)
早一ヶ月。更新ストップして大変申し訳ありません。
色々な方から心配してもらい、様々なメールを頂きました。
で、言っときますと、ずばり試験です。ついでに風邪ひいて一週間ぐらい寝込んでました。
もう大変〜ってカンジで!・・・・・・ごめんなさい!!
ということで(何がだ?)次回は、サルベージ計画スタートです。
近いうちにお会いしましょう!!
TAIKIさんの『天使に逢いたい』第10話、公開です。
いよいよ動く大きなストーリー(^^)
今までずっと表されてきたシンジの能力が
ストーリーに関わるときがついにやってきました(^^)/
サルベージ計画。
あっさり成功する話。
一悶着ある話。
色々なパターンが創作発表されてきましたが、
ここではどうのようになるのでしょうね。
さあ、訪問者の皆さん。
感想を送りましょう、TAIKIさんに!
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