【新世界エヴァンゲリオン・外伝】

 

 

<2019年12月15日>

 

「めっきりクリスマスって感じだね」

商店街の飾り付けを見てシンジが感想をもらす。

「そうかしら?今月の初めっからずっとこんな感じよ?」

こちらはシンジと腕を組んでご機嫌のアスカ。

「ああそういえば商店街ってそうだったね」

随分長い間商店街を歩いてなかったことに気づくシンジ。

(…家事はアスカがほとんど全部やってるからな〜)

苦笑する。無論シンジが手伝わないわけではない。シンジは手伝おうとしているのだが…

「シンジが帰ってきたとき私がやるって約束したわよねぇ?」

そう言って彼の恋人…あらため彼の妻は手伝わさせてくれない。素直に喜んでいいものかどうか…シンジの悩みは尽きない。

「次はあっちのお魚屋さんね」

既に山のような買い物袋を提げているシンジだったが、荷物を軽く肩に担ぎ直すと事も無げに言った。

「りょーかい」

 

 

 

 

 

【外伝第伍話 聖なる夜に】

 

 

 

 

 

「あら、いらっしゃいアスカちゃん」

体格のいいおばさんがアスカに言った。

「こんにちは〜」

すぐに和気あいあいと世間話に興じる二人。

(アスカもすっかり商店街の人気者になっちゃって)

魚を眺めながらそんな感想を覚えるシンジ。

ちなみにここまでの数軒の店全て同様である。

(…まあ陽気で太っ腹でなおかつ美人とくれば納得できるか)

「このサバ、活きがいいですね」

「おう。わかるか兄ちゃん?しばらく前から港と行き来しやすくなったからな。こんな山ん中でも魚が新鮮なうちに届くってもんよ」

「へぇ。あ、そっちの海老も…」

「おうおう。なかなかいいところを見てるじゃねぇか」

こっちはこっちでおじさんと話し出すシンジ。

昔はシンジがしていた仕事だ。数年のブランクなどすぐ埋まる。

「こらシンジ!!」

いきなりアスカが叫ぶ。

「おいおいなんだいアスカちゃん」

「そうだよ。アスカちゃん、どうしたんだい?」

「あんたは荷物持ちだけって言ったでしょ!」

「ははは、つい昔の癖で」

「もう本当に…」

肩を竦めるシンジに一瞥をくれると再びおばさんに向き直るアスカ。

「で、本当にどうしたんだい?」

「…あいつってばアタシより目利きがうまいのよ」

「それが?」

「それってなんだか悔しいじゃない?」

「ぷっ、あはははははは」

「ちょっとおばさん!」

「さすがはアスカちゃんの彼氏だね、仲のいいこと」

「………えーと、…彼氏じゃないわよ」

「あらら照れなくたっていいじゃないか。かわいいねこの子は」

「はは、でも本当に彼氏じゃないんですよ」

「あら、そうなのかい?」

「当然よ。だってそいつは私の“彼氏”じゃなくて“夫”だもの」

 

なぜか静まり返る商店街。

 

「…夫?」

「そうよ。式はまだだけど入籍はすませたから…」

さすがに恥ずかしいのか小声になるアスカ。

「兄ちゃん本当かい?」

「ええ一応」

商店街が完全な静寂に包まれた。

ジングルベ〜ル、ジングルベ〜ル、鈴が鳴る〜

…訂正しよう。ほぼ完全な静寂に包まれた。

シンジとアスカは条件反射で身構えた。

 

 

パンパカパーン!

<碇レイのなぜなに新世界エヴァ>

 

レイ「みなさんこんにちは碇レイです。

新世界エヴァの内容について説明するなぜなに新世界エヴァ。

記念すべき第一回はなぜお兄ちゃんとお姉ちゃんは身構えたのか?

嵐の前の静けさという言葉がありますけど、本編を読んで下さったご存知の通り、

みんなが静まり返ったのはいわばショックを受けている状態であって、

ショックから解放された瞬間感情が爆発して大騒ぎになるんです。

特にヒカリお姉さんがいるときにはその傾向が強いようですね。

お兄ちゃんとお姉ちゃんはそういう目に何度も…」

アスカ「ちょっとレイ!あんたなにやってんよ!!」

レイ「ひゃっ!!」

アスカ「話の途中に勝手に新コーナー作ってんじゃないわよ!

おまけにあからさまにパクリましたよってタイトルつけて!」

レイ「だ、だってどうせならあからさまのほうが潔くない?」

アスカ「却下よ却下!第一その似合わないだぶだぶの白衣はなによ!!」

レイ「か、母さんに借りたんだけど…」

アスカ「えーい!とにかく行くわよ!」(むんずと白衣の襟元をつかむ)

レイ「そんなぁ!今回あたし出番ないんだもん!」(ずるずると引きずられていく)

アスカ「ほとんどの奴は今回ないわよ!」

レイ「みんなはチルドレンの部屋とかあるじゃない!あたしももっと出たい〜!」

アスカ「問答無用!このコーナーもこれで最終回!」

レイ「もっとしゃべりたい〜!」

 

 

 

…さて、年末の商店街を侮ってはいけない。

嵐が吹き荒れたその後にはお祝いの品で両手両肩が塞がった二人だけが取り残された。

 

ビールのケース(瓶ビールである。念のため)を担いだシンジが呟く。

「あのさ…アスカって人気があるんだね」

「と、当然よ」

やや顔が引きつっているアスカ。

「…ひとまず帰ろうか?」

「そ、そうね」

常人では立ち上がる事すらできないであろう荷物を抱えて二人は家路に就いた。

 

 

 

<2017年11月13日>

 

…風が冷たい。

 

別に寒いわけではない。いや、寒いことは寒いのだがシンジにとって気にするほどの寒さではない。ただ、冷たい風が吹くたびに自分が異国に居ると痛感するだけだ。

(…別にホームシックって訳でもないけどね)

広い大学のキャンパスを歩いていても彼のような東洋人は少なくない。人種のるつぼという言葉はセカンドインパクトを経てもこの国に残っている。

 

シンジは学生の流れからやや離れると背伸びした。

昨夜から明け方にかけて作戦があったからまだ疲れが残っている。

(…やや注意力も散漫だな。気をつけないと)

そう思った矢先だった。

ドン

「?」

背中に誰かがぶつかってきた。もっともシンジは微動だにせず相手の方が逆によろけた様だが。

「おいおい何やってるんだ?」

声の方に振り返る。

「こんな昼間っから文字どおり男にアタックすることないだろ?」

中肉中背、愛敬のある顔の男性だ。金髪の下の顔はへらへらと笑みを浮かべている。

「うるさい…黙れ」

自分にぶつかってきたらしい人物が体を起こしながら呟く。ブラウンの長い髪をかきあげたその人物は女性だった。美女とは言わないが凛々しい顔つきをしている。男装の麗人とかを演じるには向いているだろう。

「誤解を招くような言動を吐くな。だいたい私がこんな目に遭ったのは貴様のせいだろうが」

「さてなんのことでしょう?」

とぼける男に向かって、フン、と鼻を鳴らすと女性はシンジに向き直る。

「すまない、失礼した。大丈夫か?」

「え、ええ。大丈夫です」

というかこちらが心配したいシンジ。

「ところで君は神を信じるか?」

「は?」

「君は神を信じているかと聞いたんだ」

突然の質問にどう答えたらいいかわからないシンジ。その肩がぽんぽんと叩かれる。

「悪いな。こいつのあいさつみたいなもんだと思ってくれ」

「は、はぁ。信心深い方なんですね」

「ああ、おかげでこのありさまだ」

胸元から鎖につながれた十字架を取り出す男性。

そこで三人が向き合った。

「自己紹介が遅れたな。私はクリス・ランバート」

「俺はクリストファー・アーチャー」

「クリスとクリスでは面倒だからラン、アーチャーと呼び分けてくれ。皆そうしている」

そうランが言った。

「ちなみにゼミは君と同じだぜ。シンジ・イカリ」

アーチャーの言葉にやや驚いた顔を見せるラン。

「なんだ彼を知っているのかアーチャー?」

「あのな…東洋の天才少年ってうちじゃ有名人だぞ」

「生憎貴様と違ってゴシップにはうといのでな」

「やれやれこれだからランちゃんは…」

「ランちゃんはよせ!!」

いきなり激昂するラン。ランちゃんという呼び名が相当嫌らしい。

「可愛いじゃないか?」

「嫌いなものは嫌いだ!」

「ふぅ、やれやれ」

肩をすくめるアーチャー。

「なんだその私が悪いようなジェスチャーは!?」

「ほらほら彼が困ってるぜ」

「おっと失礼したなシンジ・イカリ」

二人の言い合いに、呆気に取られていたシンジが、我に返る。

「あ、いや、その…シンジでいいですよ」

なんとかそう言った。

「そうか、ならば君もその堅苦しい喋りかたをやめろ。我々は同じ学び舎で学ぶ学友なのだからな」

「いい事言うねラン。しかし残念なことにお前の喋りかたでそんなことを言っても説得力がないな」

「…一理あるな」

ランはうなずくと続けた。

「シンジ、この喋りかたは生まれつきでな、いまさら治らない。そういうものだと思ってくれ。…どうかしたか?」

「いや、なんでもないよ」

二人のやり取りにシンジは笑みをこぼした。

 

 

<2019年11月13日>

 

本部ゲート前で顔を合わす男が二人。

「よ、シンジ君」

「珍しいですね、こんな時間にこんな場所で」

現在時刻は午後三時。一般の職員は勤務中である。まあ加持が一般の職員かどうかは別として…そのまま二人はエスカレータに流されていく。

「昨日はちょっと徹夜しちまってな。さっきまで寝てた所さ」

「働きすぎには気をつけてくださいよ」

自分がみんなにそう言われたことはまったく気に留めていないシンジ。

「そうしたいところだな。ミサトに起こされるようになっちゃおしまいだ」

無精ひげをさすりながら加持が言う。

「はははは」

「とはいえジョニーとジャネットが抜けた穴は大きくてな。おまけに新婚旅行中に山と仕事がたまってたんで大変だ」

「お気の毒です」

「ま、シンジ君程の腕利きをよこせとは言わないが、もう少し手駒が欲しいところだな。というわけでいろいろ探しているからなお忙しい。おっと、俺はこっちだ」

移動路面に飛び移る加持。

「まぁ頑張って下さい」

「ああ、それじゃあな」

 

 

<2017年12月3日>

 

「なに?その顔でガールフレンドの一人もいないってか!?」

ランチタイムの最中にアーチャーがそうのたまった。

「うん、いないけど?」

そう言うシンジに詰め寄るアーチャー。

「信じられねぇ、隠すとためにならないぞ!」

「本当にいないってば!」

「ふぅむ」

強く言い張るシンジを前に腕組みするアーチャー。そこへコーヒーを飲んでいたランが口を挟む。

「アーチャー。パートナーがいないということとパートナーができないということは必ずしも同じではないぞ」

「どういうことだラン?」

カチャンと音を立ててカップを置くラン。なにやら顔をしかめている。

「…別に詳しく説明する程の事でもない。昨日キャンパスでブルネットの美女の誘いを断るシンジを見かけただけだ。その数日前にも似たような光景を見たな」

「なんだとぉ!?」

「あははは…」

愛想笑いをするシンジ。

「おそらくシンジの心には既に誰かが住み着いているのだろう。ただ美人というだけでは到底太刀打ちできないような誰かがな」

そう言い追えるとシュガーボックスに手をのばすラン。どうやら砂糖を入れ忘れたらしい。

「ほう、それはそれは…」

ずいとがぶりよるアーチャー。

「ア、アーチャー?」

ランはそしらぬ顔で器用に角砂糖をスプーンで取り上げる。しかも3つ一度に。

「さぁシンジ。ゆっくりとその子について聞かせてもらおうじゃないか」

「ふむ…」

ランの顔が元に戻る。どうやらほどよい甘さになったようだ。

 

 

NEON WORLD EVANGELION

 Side Episode5: SILENT NIGHT 

 

 

 

<2019年12月23日>

 

「今年のクリスマスは思ったより楽ね」

「そうだね。パーティーをネルフが主催するからね」

昨年のクリスマスパーティーは葛城家で行われ、例によってどんちゃん騒ぎだったが今年は第三新東京市中央駅前で市とネルフ共催…実質ネルフ主催のクリスマスパーティーが盛大に行われることになっているのでアスカも準備から解放される。

「クリスマスか…」

ふっと空を見上げるシンジ。もう日は暮れ夜の帳が幕を下ろそうとしている。

(…もう2年か)

「わっ!」

ぐいっと腕を引かれて驚くシンジ。顔を戻すと目の前にアスカの顔があった。

「な、なにアスカ?」

アスカは細目でシンジを見ている。

「アスカ?」

「…話しなさいよ」

「え?」

「…話せば少しは楽になるわよ」

「…」

(…ああ、そうか)

シンジは微笑みを浮かべるとアスカの肩に手を回す。

「?」

「…心配してくれてありがとうアスカ。でも気にしないで。つらいとか苦しいとかそういうんじゃなくて……ただ、ちょっと懐かしんでいてだけなんだ」

「…昔の事?」

「そう。僕がアメリカにいた頃の話…」

 

 

 

 

 

<2017年12月24日>

 

シンジは駅前でぼーっと突っ立っていた。

約束の時間は過ぎている。

ランはともかくアーチャーは見かけに寄らず時間にうるさいのだが…

普段の二人の言動を思えばそんなことさえおかしく思える。

(…あれで恋人同士なんだからなぁ)

最初は驚いたが、今は逆にしっくりしていると感じるから不思議なものだ。

あの二人は、二人でうまくバランスを取り合っているのかも知れない。

(…補完、か)

 

 

「…というわけで寂しい独り者の友人を哀れに思った俺達が一緒にクリスマスを祝ってやろうというわけだ」

そうアーチャーが宣言した。

「は?」

「何か予定はあるか?」

淡々と尋ねるラン。

「いや、別に、ないけど…」

「では決まりだな。プレゼントを持って6時に駅前だ」

「え、あ、その…」

「ではまた会おう」

「じゃあな」

とっとと用件を取り決めて二人は去っていった。

「………」

所在無さげに頭をかくシンジ。

(…友達、か)

その顔にはいくばくかの喜びと、かすかな寂しさが浮かんでいた。

 

 

「あの二人なら来ないぞ」

背後から聞こえた声に振り返るシンジ。見慣れた巨漢の黒人が立っていた。

「…ジョニー」

ジョニーは黒塗りのバンのドアを開けると入っていく。

「装備は後ろだ。行くぞ」

シンジはうなずくと、無言で続いた。

 

 

「君たちの任務を覚えているかね?」

デスクに座った男が二人に言った。

「あいにく記憶力には自信がなくてね」

アーチャーはそう答えて笑みを浮かべた。

「相変わらずふざけた男だな。…君も忘れたのかねランバート?」

「…エヴァパイロットの監視と情報収集だ」

アーチャーとは対照的に堅い表情のラン。

「それは先日までのことだ。今の君たちの任務はサードチルドレン碇シンジの抹殺だ」

 

 

防弾ベストを始めとする各種装備を身につけていくシンジ。

なぜこうなったか理由も経過も問わない。あの二人が現れた時からわかっていたことだ。

二人の今の状況はシンジにとって苦しくもあり、嬉しくもある。

「応援は一応呼んだが、おそらく間に合わないだろう」

ただの応援ならいいのだが、シンジが作戦行動をとるような場合、まずシンジの秘密が漏洩しないこと、次にシンジと一緒に作戦行動を取れる実力を持っていることが要求される。とかく隠し事の多い人間は行動に制約を受けるものだ。

「僕たち二人でですね」

最期にナイフを差して装備は終わった。

「いや、ジャネットが既に中に入った」

「数は?」

「ざっと二十人」

シンジは助手席に移る。

「…二人は?」

ジョニーは一度だけシンジの顔を見た。別段変わりはない。

(…問題ない、か)

「無事だ…今のところはな」

 

 

「悪いが私は彼を気に入っているのでな。その任務は拒否させてもらおう」

相変わらずの口調で毅然と答えるラン。隣でアーチャーが肩をすくめる。

「右に同じ」

 

(…あららこれはまずいわね)

リモコンスイッチ片手に話を聞いていたジャネットは天井裏で思案する。

別にあの二人がどうなろうと構わないが、状況的にシンジが暴走しかねない。

一人で眼下の敵を制圧するか、暴走したシンジをジョニーと二人で取り押さえるか…

(…どうしたものかしらねぇ?)

 

 

「処置は?」

「多勢に無勢だ。全員始末する。…まぁ余裕があったら頭は生かしとけ」

どちらにしろシンジの顔を見るようなことでもあればそれでおしまいだ。そのためにシンジは特殊部隊用のマスクとゴーグルを着用している。

「了解」

 

 

「では死んでもらおう」

デスクの男が拳銃を抜く。

「…」

アーチャーは無言でランの前に立つ。

「アーチャー?」

「ま、一応俺も男のはしくれだからな。惚れた女を守るくらいの甲斐性はある」

アーチャーは笑みを絶やさない。

「アーチャー…慣れないことをすると長生きしないぞ」

「おいおい最後くらいもっと優しい言葉をかけてくれ」

ランは優しい顔になると言った。

「…ばか」

「なんだ可愛い声だせるじゃないか」

「…おしゃべりはもう結構だ、いきたまえ」

パン

 

かすかな銃声。

それがシンジの中の回路を切り替えた。

「シンジッ!?」

ジョニーの制止を無視して爆発的な加速でシンジが飛び出す。その加速を残したまま正面扉を蹴破って突入する。

「ちっジャネット!!」

『OK』

バシュッ!!

ビル内の通路という通路が煙幕で覆われる。

「うわつ!?」

「なんだ!?」

「煙幕…侵入者か!?」

シンジは男たちが反応するまもなくその横を駆け抜ける。

 

 

「…あーあ、やっぱり俺の獲物は残らないか…」

ジョニーはライフルの銃剣で床に転がっている男達の生死を確認しながら進んでいく。

もっとも首があらぬ方向に曲がっていたり背中が逆に曲がっていたりとどうみても生きていそうにはないが。

(…正確だな。暴走したんじゃない。事態の緊急度が高くなったからそれに対応して加速しただけ、か。言うは易し、行うは難し、だな)

 

 

「君はどうするね、ランバート?」

アーチャーを抱きかかえるランに銃口を向ける男。

「ふふ、どうしようもない奴だがどうやら私もこの男を愛してしまったようだな」

「それで?」

「この男と一緒に神の御許にいくのも悪くはあるまい」

笑みを浮かべるラン。

「そうか、では仲良く地獄へ行くがいい」

パン

乾いた銃声が響いた。

 

 

 

<2019年12月24日>

 

「…雪?」

「本当だ…」

夜空を見上げる二人。

ほんのわずかだが確かに白い雪が舞っていた。おそらく第三新東京市という地名が誕生してから初めてのことだろう。

「積もると思う?」

「ちょっと無理かな」

「そっか…」

少し残念そうなアスカ。

「でも、何年か後のクリスマスには積もるくらい降るんじゃないかな?」

「ほんと?」

「…たぶん」

「なによ、それ…」

「はは…」

「もう…」

 

 

 

そんな二人をやや後方から見つめる男女が一組。

「…出るに出れない状況という奴だな、これは」

「…馬に蹴られてなんとやらとか言ったかな?」

「とはいえやはり劇的な再会をするならパーティーの前の方がいいよな。そう思うだろ?」

「…別に私はどちらでもかまわんが先に済ませておいた方がいいのは確かだな」

 

 

 

 

<2017年12月24日>

 

「…こりゃまさしく神の御加護だな」

「…本当ね」

ジョニーの手の中には銃弾がめり込んだ十字架と聖書があった。

十字架はアーチャーが、聖書はランがシンジへクリスマスのプレゼントとして用意して懐に入れて置いたものだ。

ちなみにランが撃たれた直後、ジャネットが天井裏から奇襲し、混乱したところへ突入してきたシンジが部屋の中の全員を制圧し、それで全てが終わった。ランとアーチャーを撃った男はかろうじて息がある。

「で?」

ジャネットが小声で聞いた。

「ん?ああ、結局今日も一発も撃っていないな」

「どうしてかしら?」

「…つまりシンジはエヴァのパイロットってことさ」

「あくまで訓練ってことか…ちょっと悔しいわね」

「同感だ」

 

「…命に別状はなし」

二人を診ていたシンジはポケットから小さな包みを取り出しそれぞれの手に握らせる。

「メリークリスマス、ラン、アーチャー。そして…さよなら」

 

 

 

<2019年12月24日>

 

「そこのお二人さんちょっといいかな?」

軽薄そうな声に振り返るシンジとアスカ。

「突然だが君たちは神を信じているかい?」

怪訝そうな顔をするアスカとは逆に顔が輝き出すシンジ。

「なによ、こいつら?…シンジ?」

「………そうだね。これが神のお導きだとしたら信じてみてもいいかもね」

「そうだな」

「そういうことだ」

「「「ま、とりあえず」」」

 

「「「メリークリスマス!」」」

 

 

 

 

おわり

 




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