【新世界エヴァンゲリオン】
<碇ゲンドウ宅食卓>
食事の後片づけが済むととリツコがお茶を入れた。
シンジも手伝おうとしたのだがリツコにやんわりと断られた。
レイもシンジのシャツをつかんだまま放そうとしないのでシンジはおとなしく座っていた。
「ごちそうさまでした。リツコさん、お料理上手だったんですね」
少し意外だった。
「あらありがとう。でも実はアスカに教えてもらったおかげなのよ」
「アスカに、ですか?」
日本を離れる前の日々を思い出す。
…信じられない。
「仕事があるから時間の都合が難しいんだけど、時々料理を教えてもらっているの」
「へえ」
「でもアスカの料理はもっと美味しいわよ。まだ昔のシンジくんには及ばないけど」
「そうかアスカもがんばってるんですね」
アスカががんばっていると聞いてうれしくなるシンジ。
「そうシンジくんが出て行って生命の危機を感じたんでしょうね。ミサトもそこそこには家事ができるようになったわ。…料理の方は…ま、仕方ないわね。あれも一つの才能だし」
こめかみを押さえるリツコ。シンジも苦笑する。
「嘘みたいですね…でもこれなら加持さんが戻ってきても大丈夫だな」
「加持…君?」
リツコの顔色が変わる。
「ええ、加持さん…もしかしてリツコさんまだ…」
そういってゲンドウの顔を見る。
コトンと湯飲みをおくリツコ。
「…ちょっとゲンドウさん」
声が冷たい。
「な…なんだ」
目に見えてびびりまくるゲンドウ。
「加持君…生きているんですか?」
「あ、ああ、後で、その話そうとだな」
「他に知っているのは?」
ゲンドウの言い訳をまったく相手にせず尋問するリツコ。
「ふ、冬月だけだ」
「そう…」
そこでリツコは黙り込む。
ズズズ…
気まずくなってお茶を飲むシンジとゲンドウ。
ゲンドウは茶を飲み干すと席を立った。
「さ、さて先に風呂に入らせてもらおう」
「…ゲンドウさん」
「なっなんだ!?」
「レイもお願いします」
「あ、ああ。わかった」
シンジからレイを受け取るとそそくさとゲンドウは出ていった。
「…別人みたいだ」
「本当、私も最初は驚いたわ」
肩をすくめるリツコ。
「よく結婚する気になりましたね」
「あら、昔のシンジくんみたいで結構かわいいのよ」
「…ほめてるのかけなしているのかわからないんですけど」
複雑な顔をしてシンジは言った。
「あら、もちろんほめてるのよ」
そう言ってリツコは楽しそうに笑う。
以前は見られなかったその笑顔を見てシンジは心が和むのを感じた。
「良かった…リツコさん幸せなんですね」
「ええ、亭主はちょっと頼りないけど。かわいい娘もできたし立派な息子も出来たし」
そういわれてちょっと照れるシンジ。
「さて邪魔者はいなくなったことだし…」
「その言い方結構ひどいですよ」
「いいのよ。さてシンジくん」
リツコの顔が真剣になる。シンジも背筋を伸ばした。
「今からネルフの技術部長としてではなくあなたの母親として質問するわ、いい?」
「はい」
「本当にネルフを継ぐつもり?」
ネルフ本部にその籍を置くサードチルドレン碇シンジは第一支部に2年の間出向していた。アメリカへの留学が公式な理由である。が、表があれば裏がある。裏の理由はいわば人質である。ネルフ本部とエヴァ初号機からシンジを引き離すことによりフォースインパクトを起こす意志のないこと、エヴァ初号機を動かす意志のないことを国連を始めとする各国家、各勢力に示すためである。
だが、ゲンドウはそんなことのためにシンジを日本から出すほどお人好しではない。真の理由は当然の如く違う。父親である現ネルフ総司令碇ゲンドウの後を継いでネルフの総司令となる。その過酷な目標を達成すべく徹底的な英才教育を行うのが本当の目的である。
碇ゲンドウと碇ユイの間に生まれた少年の才能はその期待を負うに十分であり、既に数校の大学を卒業しいくつかの博士号も手に入れている。また、加持が直接選抜し、加持も含めた教官達による格闘、戦闘術の徹底的な訓練により一級の戦士として鍛えられた。戦術、戦略立案、諜報活動の指揮、政治的駆け引き、経済戦争のあり方等々未だその道の超一流達(例えばミサトやリツコ)には引けを取るものの一流として差し支えない能力を持っている。17歳にしてこれであるから20代半ばには十分にゲンドウの後を継げるだろう。
…だけど今ならまだやめられる。
リツコはそう言っている。
平凡な人生を歩むことが出来る。
それは刺激のない生活かも知れないが裏表もなく平和で心静かな生活。
命のやりとりなど空想にすぎない世界。
シンジは空になった湯飲みを持ち上げて見つめる。
「…全てが終わった後、父さんは僕に言ってくれました」
『…すまなかったな、シンジ』
「そして、これからはみんなの幸せを、僕やアスカの幸せを守っていくためにネルフがあるのだと言ってくれました。あの時、僕はとてもうれしかったです。僕やアスカを父さん達が守ってくれる…
でも、父さんも副司令も不老不死じゃありません。みんないつかはネルフを去る時が来ます。そのとき誰かが後を継がないと安心していられませんよね。
僕はアスカやあやな…レイやミサトさんや加持さん、リツコさんや父さん、みんなを守りたくてエヴァに乗りました。それが僕にできること、やるべきこと、自分で決めたことだったんです。でも、これからはエヴァで使徒を倒せばみんなを守れるというわけではありません。そのためにはネルフがやっぱり必要なんです。みんなをみんなの幸せを守るために僕が出来ること。もし、僕に父さんの後を継ぐだけの力があるのなら…今は無くてもいつか手に入れられるなら僕は父さん達が守ってくれるようにみんなの幸せを守っていきたいんです」
「それでシンジくんは幸せ?」
「…自分を幸せにできない奴に他人を幸せにできるはずがないってよく言いますよね。誰の言葉か忘れちゃいましたけど。
昔、ミサトさんや加持さんも同じ様なことを言ってくれました。自分がどうしたいのか、それが一番大事だって。僕はみんなを守りたい。みんなの幸せを守ってみんなの笑顔を見続けられたら………僕はきっと幸せです」
「そう…シンジくん大人になったわね」
リツコは優しい眼差しで言った。
「そんな、まだまだ子供ですよ」
「いいえ。シンジくんは使徒と戦ってた頃から私なんかよりずっと大人だったのよ」
リツコは昔を思い返すように目を閉じる。
「リツコさん…」
「ふふ…今のを聞いたらゲンドウさん涙を流して喜ぶわ」
「父さんが?」
…とても想像できない
「そう、あの人結構親馬鹿なのよ」
そう言ってちらっとドアの方を見る。
「ところでシンジくん」
「はい」
「シンジ君の覚悟はわかったわ。私にできることがあったら何でも言ってちょうだい」
「はい。…あ、早速ですけどMAGIのアクセス権を頂けますか?いくつか考えていることがあるので」
しばし考えるリツコ。
「そうね…報告書通りなら私やマヤの次くらいの実力はあるし…いいわ。明日にでもマヤに手配させるわ。…私しか知らない裏コード集を教えてあげるからどんどん使ってね」
そういってにっこりと笑うリツコ。
「え、いいんですか?」
「気にしなくていいわ。アクセス権も私を除けば最高位にしておくから」
「そ、そこまでしてもらわなくても」
「あらかわいい一人息子ですもの当然よ。あ、私の研究室を好きに使ってね。私が出勤する日はレイもそこにいることが多いから喜ぶわ」
「はい、じゃお言葉に甘えます」
「ところでシンジくん」
話題を変えるリツコ。
「はい」
「みんなの笑顔が見たいって言ってたわね」
「ええ」
「誰の笑顔が一番見たいのかしら?」
にっこり笑うリツコ。
「り、リツコさん!」
「ふふふふ、なるほどミサトは年中こういう楽しみがあったのね。うらやましいわ」
楽しそうに笑うリツコ。
「リツコさんはミサトさんと違うと思っていたのに…」
類は友を選べない、朱に交われば真っ赤に染まる、というけど。
「冗談はおいておいてシンジくん」
「はい」
「ミサトのところへ住みたいならそうしなさい。なにも気兼ねすることはないわ」
リツコの目は真剣だった。
「…リツコさん」
「自分に正直に生きなさい。私はそれに気づくのに随分かかったわ」
「…はい」
ふっと顔をゆるめてリツコは続けた。
「でも、たまには泊まりに来てちょうだいね。ゲンドウさんも喜ぶわ」
「父さんが…」
「そう。もちろん私とレイもね。私たちは家族ですもの」
「はい」
【第弐話 再会】
<翌早朝 ネルフ本部>
「…んとに頭くるわねー」
ミサトは早朝に呼び出されてネルフ本部に来ていた。ミサトの生態…生活習慣を知っているためか使徒が来たのでもない限り、深夜に呼び出されることはあっても早朝に呼び出されることはまずない。今日も朝食の支度をするため早起きのアスカが起きた直後を見計らうように呼出があり、緊急事態ということで取るものも取りあえず出勤してきたのだ。
「…相変わらず朝早いと不機嫌ですねミサトさんは」
「当然でしょ!本当にどこの馬鹿よ…?」
話しかけられてつい答えてしまった…というより、その声に答えるのは自分にとってはあまりに自然なことだった…
自動販売機を背にラフな服装の少年が立っていた。随分背が高くなり見違えてしまったが、照れくさそうに微笑むその顔、その声は…
「シンジくん!!」
ミサトは思わずシンジに抱きついていた。
「お久しぶりですミサトさん」
ミサトを落ち着かせてからシンジは言った。それを聞いたミサトが頬を膨らませる。
「ちょっとシンジくん違うでしょ!」
「あ、そ、その…ただいま、ミサトさん」
ちょっぴり照れて言うシンジ。
「お帰りなさいシンちゃん」
ミサトの変わらぬ微笑み。シンジは帰るべき所に帰ってきたと心から思った。
「それにしてもかっこよくなっちゃってぇ」
ミサトはゴロゴロとシンジの胸に頭をこすりつけた。
…当ったり前だけどシンジくんも成長してんのね~
「ミサトさん…猫じゃないんですから」
困ったような顔をしながらそれでも笑みを絶やさずシンジが言った。
「ごめんねぇ出迎え出来なくて。いつ帰ってきたの…って昨日リツコが資料をよこしたのはこれを知ってたからね~!おのれリツコ、よくも私のかわいいシンちゃんを!」
「僕の方こそすみません。真っ先にミサトさんにあいさつにいこうと思ったんですけど」
「シンジくん相変わらず優しいのね~お姉さんうれしいわ。いいのよシンちゃんは全然気にしなくて。どうせ、リツコか碇司令の陰謀よ。まったくシンちゃんを独占しようだなんてネルフが許しても私が許さないわ!」
さすがはネルフ作戦部長、事態を正確に把握していた。シンジも苦笑するしかない。
「ま、朝早くから呼び出しただけマシね。おかげでちょっと眠たいけど…」
そういって少し欠伸をする。
「ほら眠気覚ましだ」
そういって横から缶コーヒーが差し出される。
「あ、気が利くわね…!?」
目を見開くミサト。
「よ、葛城。久しぶり」
加持はそういって笑った。
「加…持?」
「ああ」
「死んだんじゃ…」
「ああ、おかげで足がいっぺん無くなっちまったから少し短くなったかな」
おどけて加持が言う。
「う…そ」
「本物ですよミサトさん」
缶コーヒーが床に落ちる音と甲高い平手の音が響きわたるのは同時だった。
そしてその後にはミサトの号泣だけが響いた。
「はい、ミサトさん」
ハンカチを差し出すシンジ。
こんなこともあろうかとリツコに借りて正解だった。
「あ、ありがとう。変なとこ見せちゃったわね」
「いいえ、昔と違って嬉し泣きしてるミサトさんが見れて僕も幸せです」
「む、昔って」
「そういえば俺のために毎晩泣いてくれたんだってな」
「あ、あんたねぇ」
「…うれしいよ」
ぐっとミサトが言葉に詰まる。何か言い返したいが真っ赤な顔では説得力に欠けるだろうと思いとどまる。
「葛城…」
「何よ!?」
「約束を覚えているか?」
「約束?」
「もし、もう一度会うことが出来たら8年前、もう10年前になっちまったか…
10年前に言えなかったことを言うよ」
「あ」
黙り込むミサト。加持はシンジに真剣に言った。
「シンジくん、立会人を頼めるかい?」
「喜んで」
うなづくシンジ。
「ありがとう
………葛城」
「…」
「愛してる。俺と結婚してくれ」
しばし静寂が辺りを包み込む。
「葛城?」
「あんたって本当にひどい奴よね。何年も放っておいて、勝手に死んで、勝手に生き返って、人をこんなに泣かせて、そのうえ結婚してくれ!?」
「………」加持は黙って聞いている。
「おまけに女心が全然わかってないときたわ!」
「すまない」
「答えなんかきまってるじゃない!!」
そういってミサトは加持にしがみつくと泣き出した。
「葛城」
「ひっく、本当にひどいんだから…OKに決まってるでしょ」
ミサトがそう言うと加持は力一杯ミサトを抱きしめた。ミサトも一層加持にしがみつく。二人とも…そして二人を見ているシンジも幸せだった。
「おめでとうございます。ミサトさん加持さん」
「あらやだ恥ずかしいところ見せちゃった」
さすがに照れるミサト。
「いいえ、僕もうれしいです」
本当にうれしそうに微笑むシンジ。
「ありがとうシンジくん。ところで…」
真面目だった加持の顔がいつもの顔に戻る。
「はい?」
「俺は平手一発だった。どうやら病院送りも免れそうだな」
そういってまだ赤い頬を指さす。
「何の話?」
「あ、はは」
シンジは乾いた笑いをもらす。
「いや、俺とシンジくん、どっちの方がひどい目にあうかって話さ」
「…あ、そっか。ふふ、シンちゃんもた~いへんよねぇ」
ミサトがいつもの笑いを浮かべる。
「…ミサトさん、ゆうべのリツコさんと同じ顔してますよ」
「あら失礼ね。で、加持くんはどう思う?」
「そうだな一往復で両頬真っ赤ってところかな」
ニヤニヤと答える加持。
「加持さ~ん」
「甘いわ加持くん。二往復に蹴りが入るわよ、きっと」
これまたニンマリとした顔でミサト。
「ミサトさ~ん」
「さて、リっちゃんたちも待ってるだろうしそろそろ行こうか」
「そうね、とっちめてやらなくっちゃ」
その後、ミサトがリツコを問いつめ(さすがにゲンドウには文句が言えない)。
シンジはリツコに無理矢理レイを抱かされ、それがミサトのからかいの種となる。
そんな暖かい雰囲気の中でミーティングが進められた。
<通学路>
「おはようアスカ」
「おはよヒカリ」
「今日は早いのね」
ヒカリは珍しく自分より早く待ち合わせ場所に来ていたアスカを見つけると言った。
「ミサトが早朝から呼び出されて本部に飛んで行ったもんだからこっちも早くなったってわけよ」
「早朝から?…ミサト先生、今日は機嫌悪いわね」
ヒカリは天を仰いだ。雲一つない空が恨めしい。
「そうね。ま、学校に来れればいいけど」
「何かあったのかしら?」
「私達には呼出がないって事は大したことじゃないわよ」
「そうよね…」
「?…はは~ん、さては」
ミサトやリツコと同じ笑みを浮かべるアスカ。
朱に交われば赤くなるとはよく言ったものである。
「わ、私は別に鈴原が心配だとか…あ」
「ヒカリって本当に正直者よね~」
墓穴を掘って真っ赤になるヒカリ。
…にしてもヒカリも変わった趣味してるわね。
<ネルフ本部 ミサトの部屋>
この部屋の正式名称は一応『作戦部長室』になるのだろうか?
いずれにしろ葛城一佐の部屋で問題ない。
シンジ達にしてみればミサト(さん)の部屋で終わり…なのだが。
「やれやれ葛城の部屋がきれいに片づいているとは…シンジくん、これはフォースインパクトが間近なのかもしれないな」
加持はミサトのデスクの前に椅子を引っ張るとしみじみと言った。
「うっさいわね~」
加持をにらみながらミサト。
…朝、涙を流して喜んでいた人物と同一人物とは思えないなあ
とはいえ相変わらずミサトはミサトらしくて嬉しいシンジ。
「コーヒーいれますね」
「シンちゃんは優しいわね~。乗り換えようかしら」
「おいおい」
苦笑する加持。
マグカップを並べると3人は資料を手に取る。
日頃、子供達のガードを兼任しているミサトに送られてくる諜報部の資料だ。
「さしあたりこのくらいを頭に入れておいて」
アスカとトウジの交友関係である。筆頭にはケンスケやヒカリのデータがある。
「どうだシンジくん裏の世界がますます嫌になっただろう?」
その裏の世界で五本の指に入る加持が楽しげに言った。
「まったくですね」
加持を張り倒そうと思っていたミサトだったがシンジが笑って答えたため思いとどまる。
「シンジくん、変わった?…いえ、強くなったわね」
「自分で選んだことですし、それに…」
「それに?」
「俺がシンジくんに最初に教えたことさ」
「何よそれ?」
「ミサトさんには内緒です」
「男同士の秘密って奴だな」
そういって笑い合う二人。
「なんか悔しいわね」
<2年前 アメリカネルフ第一支部>
ガランとした会議室に加持とシンジはいた。
「シンジくん、これから君にいろいろなことを学んでもらうことになるわけだが」
「はい」
「その前にだ、一つ覚えておいて欲しいことがある」
「なんでしょうか?」
しばし考え込む加持。
「そうだな…例えば碇司令はネルフのために裏でいろいろと駆け引きをしている。
政治的取引とか俺を使っての工作活動とかだな」
「はい」
「シンジくんは碇司令を軽蔑するかい?」
「…いいえ」
「よし、じゃあ次だ。碇司令は使徒に乗っ取られた参号機を止めるためにダミープラグを使った。結果、フォースチルドレンは大けがを負った。今でも司令が許せないかい?」
シンジは少し考え込む。確かにあのときは許せなかった。
でも、今は父の気持ちを完全ではないが理解できる。シンジは首を左右に振った。
「そうか。さて、俺はこういう仕事をしている。しているからには危ないこともいろいろしたし、殺した人間の数も数えきれない。俺の手は汚れて、血に染まっている」
「そんなことは…」
「そんな俺を葛城は受け入れてくれるだろうか?」
「決まっています!ミサトさんは、ミサトさんは…」
思わず大きな声を上げるシンジを加持は手で制した。
「いいんだ俺もシンジ君と同じ考えだ。たぶん葛城は許してくれると思う。
…ところでアスカだったらどうかな?俺の仕事を全部知ったら…」
「加持さんだってわかっているんでしょ!
アスカだってミサトさんと同じです!!
人を殺したことがあっても加持さんは加持さんです!」
シンジには加持がなぜこんなことを言うのかわからなかった。
「俺もそう思う。少なくともそうだろうと自惚れている」
「じゃあどうして!?」
「話を戻そう。シンジくんこれから君はそういう世界に足をつっこむ。一度つっこんだらディラックの海並に脱出は困難だ。ましてネルフを継ぐ以上、沈むことはあっても浮かぶことは2度とない、わかるな?」
「…はい」
「君にその覚悟があるのはわかっている。でなければ、碇司令も君を俺に託したりしないし、俺も引き受けない。…だが、さっき言ったことは忘れないでくれ。たとえ人を殺したとしてもシンジくんはシンジくんだ。みんなが優しいというシンジくんだ」
「僕は優しくなんか…」
お馴染みの内罰的モードに入りかけるシンジを加持は引き留める。
「君が自分をどう考えているのかは知らない。だが、俺はそう思うし、葛城達もみんなそう思っている。…話がそれたな。俺が言いたかったのは、君が『僕の手は汚れている。そんな僕はアスカのそばにいる資格はない。みんなと幸せになる権利はない』なんてことを考えたら許さないということだ」
真剣な目でシンジの目を見据える加持。
「加持さん…」
…たしかに僕はそう考えるかも知れない。もし人を、いや、僕が選んだ道は時には人を殺
さなくてはならない道なんだ。それでみんなが幸せになるなら…
「もし、君がそんなふうに心を痛めたら、俺は自分も許せない。
アスカや葛城、リっちゃんや碇司令に会わせる顔もない」
「…わかりました加持さん。そんなことは考えません」
ふっきれた顔をするシンジ。いつか見た強い意志を感じる目。
「よし、じゃ心の準備はいいな。鬼教官達を呼ぶぞ」
そういってシンジやミサトの好きな笑みを浮かべる。
「はい!」
<再びミサトの部屋>
「ま、いいわ。さ、さっさと頭にたたき込んで」
さっと頭を切り換えるミサト。
加持がシラを切ろうとしたら徹底的に切ることは重々承知している。
「はい、え…!?」
ファイルを見て驚くシンジ。
「どうしたんだいシンジくん…おやおや」
加持もまたシンジが驚いた理由を知り笑みを浮かべた。
<市立第壱高校2-A教室>
「おはよう」
「おはよ」
アスカとヒカリが教室に入って挨拶すると声が返ってきた。
「おはよアスカ、ヒカリ」
「おはようございます、アスカさん、ヒカリさん」
ショートカットの健康的な美少女とロングヘアーの眼鏡の優等生型の美少女が挨拶した。名前は霧島マナと山岸マユミ。
アスカ達といろいろな因縁がありながらも今は親友となった二人である。
赤い流れるような髪と中学生の頃から他を圧倒するプロポーションと顔のアスカ。
今は伸ばした髪を紐で一つにまとめただけの正当派日本女性のヒカリ。
4人そろって天下無敵の壱高美少女軍団である。
ちなみにミサトが担任の2-Aに全員がそろっているため他のクラスの男子生徒や男性教師からは何度もクラス替えの要求が出されている。
もっとも六人目の美女である(五人目は当然ミサト)副担任のマヤに理由を説明できないため要求は頓挫しているのだが。
続いて扉が開くとお馴染みの二人が顔を見せる。
「おはようさん」
「おはよう」
トウジとケンスケが同じクラスであるのももはや予定調和というものだ。(ネルフの陰謀という説がまことしやかに噂されているが…)
ちなみに『ジャージはわいのポリシーや』と言っていたトウジだが、ミサト、マヤ、ヒカリの三重の説得により陥落し、高校からはおとなしく制服を着ている。
「あ、おはよう鈴原、相田君」
「おっす委員長」
「おはよう委員長」
「何よアタシ達にはあいさつはなし?」
アスカが文句を付ける。
「何や朝から機嫌悪いな」
「うっさいわねー」
「まぁまぁみんなおはよう」
ケンスケがなだめる。このあたり中学生の頃に比べて成長が感じられる。
「おはよ」
「おはようございます」
マナとマユミもめいめい挨拶を返す。
「アスカはミサト先生が早朝から呼び出されたので不機嫌なのよ」
事情を説明するヒカリ。
「ふーん。…まぁわしらには呼び出しないんやから大したことやないやろ」
「そうなのかトウジ?」
「おう。…惣流は心配なんか?」
あまり深い意図はなかったのだが、例によって素直じゃないアスカは反発する。
「し、心配なんかしてないわよ、この三バカマイナス一!」
「惣流…いいかげんその呼び方はやめてくれないか?」
ケンスケが困った顔で言った。
「なによ!このアタシに文句あるっての!」
アスカは腰に手を当てるいつものポーズで威圧する。相変わらず女王は健在である。
「何です?三バカマイナス一って」
マユミが顔をよせて聞く。マナも懸命に昔、壱中にいたときの記憶をたどる。
「うーん…あ、そういや昔シンジ…」
「あ、ばかマナ!」
ヒカリが止める間もなくそれはアスカの耳に入る。
ぴくりとした後、アスカは自分の席に戻る。
「さーもうすぐマヤがくるわよ。みんなも席に着いたら」
トウジ、ケンスケ、ヒカリは気まずそうに顔を見合わせた後自分の席につく。
「ねぇヒカリさん私たち何か悪いこと言っちゃいましたか?」
「あんなに元気のないアスカ初めてよ?」
はぁ~とため息をついてヒカリは二人を見た。
アスカが落ち込む原因になりかけたことがあるのがわかっているのだろうかこの二人は?
「後で教えてあげるから二人とも席について…」
<みたび ミサトの部屋>
「マナに山岸さん、ですか」
シンジは昔を思い返す。
「ほほう、あの二人がアスカの親友とはおもしろいね」
「こうしてみるとシンジくんも結構やるわね~」
「…どういう意味ですか?」
「ぶぇっっつにぃ~」
シンジの冷たい視線を笑って受け流すミサト。
…二年経ってもまだまだからかいがいがあるわね~
「しかしこっちの山岸君は別としてマナちゃんの方はよく許可がおりたね」
マナは戦略自衛隊の特殊兵器の元パイロットでもあり以前エヴァの情報収集を目的としてシンジに近づく任務を受けた。
もっとも結果は各方面の予想を大いに裏切ったが…
「名前も前のままですね」
「そうね。さすがにこっちも警戒したんだけど、戦自も今更ネルフとやりあおうって気もないでしょうし、ネルフに技術研修で送りたいって正式要請が来るし、本人はアスカと同じように普通の生活をしたいみたいだしね…
ま、リツコに言わせればエヴァの操縦方法がわかったところで動かせれるんもんなら動かして見ろってところね」
「おやおや」
「そうですか、マナが…」
感慨深げに呟くシンジ。
「あれーシンちゃん霧島さんに乗り換える気?そういやあの時も私やアスカを振り切って加持と一緒に霧島さんに会いに行ったのよね~」
「そういやそんなこともあったな」
「ぼ、僕は別にマナの事は…だ、第一僕は」
はっと気づいて口を閉じる。
「ぼくはだいいち、その次は何かな~」
ニヤニヤしながら顔を寄せる。
「葛城も人が悪いな、決まってるじゃないか」
合わせたようにニヤニヤしながらミサトの顔に自分の顔を寄せる加持。
「ミサトさん!加持さん!」
「はははは悪い悪い」
「シンジくんが変わって無くてお姉さんとっっっっってもうれしいわ~」
からかわれて怒りはしたものの屈託のないミサトの笑顔を見てシンジも幸せだった。
あの頃は笑っていても瞳の奥に悲しみが…
たぶんとても暗い顔をしてたのだろう。ミサトがあわてて言った。
「どうしたのシンジくん?何かつらいことでもあるの?」
「いえ、いいえ。ミサトさんが本当に幸せそうなんで僕も嬉しくなって」
「え、あ…」
「なんだ照れてるのか葛城?」
「照れてなんか無いわよ!」
真っ赤になって怒鳴るミサト。説得力皆無である。
「まあそれはそれとして報告を読もう」
「そうですね」
「む~!!」
なにやら体よくあしらわれた気がしてむっとするミサト。
…まるで加持が二人いるみたいじゃない!!
概ね間違ってはいないかもしれない…
NEON WORLD EVANGELION
Episode2: She cried for her loves men.
<2-A教室>
『というわけで碇君はアメリカに留学しちゃったの。本当はアスカもそばにいて欲しかったんだけど引き留められなかったって悔やんでるの』
ヒカリは二人にノートパソコンでメールを送って事情を説明していた。ちなみにアスカも授業を聞かずに(まあアスカの場合聞く必要ないが…)窓の外をぼーっと眺めている。
『アスカさんと碇君ってそういう間柄だったんですか。以前は喧嘩ばかりしてたように見えましたけど』
『アスカって素直じゃないし、昔は自分の気持ちもわからなかったのよ』
『許せない…』
『あの、ちょっとマナ?』
なにやらディスプレイの表示に感情がこもっているようで不安になるヒカリ。
『どうしたんですかマナさん?』
『どうしたもこうしたもないわ。私はアスカだったから諦めたのよ!シンジは留学しただけだって言うから、そっとしておいたのに!!』
何やらディスプレイから怒りが伝わってくるようである。
わざわざフォントを大きく変換するあたりただ者ではない。
『ヒカリさん、マナさんどうしたんですか?』
火に油を注ぐことになると思いつつも話さないと事態が把握できないしせめてマユミだけでもを味方にしておきたい等々の気持ちもあってヒカリは真相を告げる。
『昔、マナは碇君が好きだったの…』
『えーと、それはひょっとして、アスカさんの方を選んでマナさんはふられた…』
ちょんとリターンキーを押してから気付く。
「あ…」
マユミがおそるおそるマナの方を見ると無理矢理笑顔のマナが微笑んでいた。
はっきり言って怖い。
『マユミちゃん後でお話があるの、だいじょーぶよ痛くしないから』
「はははははは」
…生きて帰れないかも
授業が終わる頃にはマナも落ち着いてアスカを問いつめるようなことはなかったが、機嫌が悪いのは変わらない。気の強さではアスカについでおそれられているマナである。二人そろって不機嫌なため、2-Aの面々は生きた心地がしなかった。
<よたび ミサトのお部屋>
「ケンスケが?」
「そう。相田君のお父さんが一時期危なかったのは確かよ。悪くすれば…」
…悪くすれば親子そろって処理していた。
シンジはそうならずにすんで良かったと前向きに考えて気を落ち着けた。ひたすら後ろ向きだった過去のシンジとは雲泥の差である。
「…シンジくん。時期から言って俺達が仕事したころだな」
「そうですね」
「どういうこと?」
「あーそのなんだ。シンジくんの訓練がてらゼーレ関係の組織をいくつか潰した」
加持は軽く言ったがそれが尋常なことでは無いことをミサトは知っている。
「そう、じゃ相田君のお父さんのことがわかって、結果的に二人が助かったのはそのせいかもね」
「そうかもしれないな」
「………」
…偶然かも知れないが、自分の働きでケンスケの幸せを守れたのかも知れない
「さて、これでだいたい終わりだな。後は俺が就任次第、一からネルフの大掃除だ」
「せいぜい働くのね~」
「ありがとさん、さてシンジくん」
「はい?」
「野暮とは思ったんだが、放っておいても二人とも話さないと思うんでね。
…どうするんだシンジくん、葛城の所に厄介になるのか?」
単刀直入に尋ねる加持。
確かにシンジもミサトもこの話題は避けていた。
シンジは自分が一緒に住んでいいのだろうかという不安。
ミサトはせっかく本当の肉親と暮らすシンジを邪魔していいのかという気持ち。
もっとも加持にしてみれば、結局一緒に暮らしたいんだろう?と思っていた。
加持の意を汲んだのかミサトが口を開く。
「シンジくん」
「はい」
「シンジくんさえよければまた一緒に暮らしましょう。
私は全然かまわ…じゃない。私はそうしてくれるととてもうれしいわ」
はっきり言葉に出さないと通じないこともある。
ミサトはそれをこの少年のおかげで学んでいた。
「アスカも同じ気持ちのはずよ」
「………」
「シンジくんはどうなんだ」
加持が促した。
「………僕もミサトさんのところで一緒に暮らしたいです。
もちろん、父さん、リツコさん、綾…レイと一緒に暮らしたいという気持ちもあります。
…でも、やっぱり僕の帰る家はミサトさんの家です」
「シンジくん…」
ミサトの胸が熱くなる。
「ミ、ミサトさん?」
シンジが慌てる。
「どしたの?」
「葛城よほどうれしかったんだな、泣くなんて」
そういう加持の声も優しい。
「え?」
手の上にぽつりぽつりと涙が落ちる。
…そっか私うれしいんだ。シンジくんが私を家族と思ってくれてたんだって、私の家が自分の家だって言ってくれて。ふふ、リツコもさぞかしうらやましいでしょうね。
あ~本当に幸せ。
「ごめんね、ちょっちうれしかったんで泣いちゃった」
「葛城…」
「ミサトさん…」
「あ、だいじょーぶよ」
にっこり笑うミサト。
「でもミサトさん、一つ条件があります」
「何?部屋が狭かったら駄目?シンちゃんも大きくなったもんね~。一応シンジくんの部屋は出ていった時のままにしてあるんだけど…」
「………」
…僕の部屋。出ていったときのまま…そうかいつでも僕が帰ってこれるようにしておいてくれたんだ。
「どうしたシンジくん」
「いえ、ミサトさんと同じように泣きそうなっちゃって。やっぱり僕は弱虫ですね」
「泣きたいときには泣けばいいさ。それができるってのは素晴らしいことさ」
「はい。…ミサトさんありがとうございます。でも、そうじゃないんです。
おわかりかも知れませんが…アスカのことです」
「そう」
…やっぱりね~さぁどうくるかな?
「ぼ、僕はその………」
言いかけて口ごもる。が、二人は暖かく次の言葉を待った。
…というか、そら言え早く言えとミサトが何やらオーラを発している。
それがわかるためシンジの顔は真っ赤になる。
「僕はアスカのことがす…好きです」
「えらい!よく言った!」
ミサトはシンジの首に腕を回して引き寄せた。そのまま首をぐいぐい絞める。
シンジも逆らわない。もっとも顔は真っ赤のままだが。
「僕はアスカを幸せにしたい、アスカの幸せを守りたい。そう思っています」
「うんうん♪」
「…だけど」
「だけど?」
少し暗くなったシンジの顔をミサトはのぞきこんで促す。
「アスカに嫌われていたら、…遠くからアスカを見守ろうと思っています。
それがアスカのためだと思うから」
何かを振り切るようにシンジは言った。
ミサトは眉間にしわをよせて加持を見た。加持はミサトを見て顎をしゃくった。
…そうね。これはあたしの役目ね
シンジの方に向き直るミサト。
「…そうね、その方がいいかもね。
でも、シンちゃんあいっかわらず女心がわかってないわね~」
「は?」
「つ・ま・り、そういう心配は無用という事よ!
大体アスカがシンちゃんの事嫌いなわけ無いじゃない。好きでもない男と同棲できる?
ね~」
加持の方に話を振る。
「ね~といわれても困るが…ま、そうだな」
「ど、同棲って、ミサトさんと3人での同居でしょ?」
「あーに言ってんだか、今と違って昔の私は夜遅いし帰らないときも多かったしその間はふたりっきりでしょ~。完璧に同棲じゃない。なーんにもなかったの?」
「何ってなんですか?」
思い切り動揺するシンジ
「何か身に覚えがあるのかな~ま・さ・か」
「何もないですったら!」
「おねーさんに隠し事はだめよ~」
「まーまー葛城。その辺にしておけ。楽しみは後に取っておこうじゃないか」
「そーねー。話を戻すけどシンちゃん、ほんっとうにアスカの気持ちわからないわけ?」
「?…はい」
正直に答えるシンジ。
「あっちゃーシンちゃんはやっぱりシンちゃんなのね~。ま、そこがまたいいんだけど。
いい?よーく聞いてね。シンちゃんがアメリカに留学…表向きね、した後アスカがどうなったかわかる?」
「いいえ」
「三日三晩泣き続けたのよ」
「え!?」
「ほほう、それはそれは」
「『引き留めたかったのに、そばにいて欲しかったのに、引き留められなかった』ってね。
あのアスカがよ。それからも何度も夜泣いているのを聞いたわ」
「美しい女性に泣いてもらえるとはお互い男冥利に尽きるなシンジくん」
シンジは真っ赤で答えられる状態ではなかった。
「というわけでぜんぜんオーケーよ。家の中でもしっかりアスカをガードしてね。
あ、ベッドの中は私が留守の時にしてね」
「ミ、ミサトさん!!」
「だいじょーぶよ。アスカもう16になってるし保護者のあたしも認めるし、碇司令やリツコもたぶん反対しないし、当然アスカ本人はいつでもOKよ」
「おいおいそういじめるなよ。シンジくんが鼻血出して倒れるぞ」
「あら、本当、ティッシュ、ティッシュ」
「シンジくん血を流すのには慣れていたと思ったが…」
「二人ともいい加減にして下さい!!」
「ま、まぁ落ち着いてシンちゃん」
顔を青くして冷や汗を流すミサト。
「お、昨日よりも0.1秒は早かったな」
対照的に相変わらず飄々とした加持。
二人は電光石火の早さで抜かれた拳銃の銃口を覗き込むこととなった。
「あれ、おっかしいわね~銃をもってここに入ったらあたしに警告が来るはずなんだけど
…シンちゃんとりあえず銃口を向けないで、ね」
「もうしょうがないですね」
しぶしぶ銃をしまうシンジ。
「センサー壊れてんのかしら?」
「ここの保安はMAGIがやってるんだろう?で、MAGIのプログラミングはリっちゃんがやってる訳だ。たぶん、シンジくんの行動を邪魔しないようにプログラミングを変えたんじゃないかな」
「…たく、夫婦そろって親バカね。あそこは」
…にしても早かったわ、今のは。シンジくんと本気でやり合ったら確実に殺されるわね。
「しかし、こう銃をつきつけられたんじゃたまらないわね、学校では持ち歩くのはやめた方がいいわね。アスカにもばれると面倒だし家でも避けた方がいいわ」
「まぁそうですね、体育とかの着替え中に銃を見られたら大騒ぎですから」
「それにしてもいきなり銃を抜くなんてやはり同居してたミサトの影響かしら」
突然、入る合いの手に飛び上がるミサト。
「リ、リツコ!?いつ来たの?」
「たった今よ」
「………」
…全然気がつかなかった。やっぱりリツコもただ者じゃないわね
「久しぶりね加持君」
「よっおひさしぶり」
何事もなかったかのように挨拶する二人。
「一回死んだ割には元気そうね。まぁ私もミサトも人のことは言えないけれど」
「そういやサードインパクトの時に死んだんだって?」
「えぇ、碇司令に撃たれてね」
…それでなんであんたは平然としてられんのよ?
ミサトはリツコの正気を何度も疑った。
「レイちゃんはどうしたんだい?」
「碇司令にお願いしてるわ」
リツコはネルフ内では昔のように碇司令と呼ぶことにしていた。
もっともゲンドウの血のにじむ努力があってだが…
「碇司令が?」
「ええ、執務室だから副司令もいるし心配ないわ。
…それよりシンジくん」
「はい、あ、すみませんやっぱり僕は…」
「話は聞いていたわ」
「ちょっリツコ!」
「何、ミサト?」
「聞いてたってどうやってよ?」
「…いいミサト。このネルフ本部はMAGIが全て管理してるのよ。そのMAGIを管理してるのが私である以上、私に見れない所なんて碇司令の執務室ぐらいよ」
「あんたってほんっとうに…」
こめかみを押さえてうなるミサト。
「ちなみに二人の再会は録画してあるから披露宴で見ましょうね」
「な…!?」
「いやーリっちゃんも見てたのか照れるな~」
「リツコさんも人が悪いですね」
硬直したミサトをよそに男性陣が感想をもらす。
リツコはシンジに向き直り言った。
「…シンジくん、あなたが幸せだと思うならそうするのが一番よ。
昨日も言ったけど私たちに気兼ねは不要よ。
ま、嫌になったらいつでも帰ってらっしゃい。アスカも連れてきていいわよ」
「はい、ありがとうございます」
「どういう意味よ!」
「…別に」
復活したミサトが問いつめるがリツコは涼しい顔だ。
「どうだいリっちゃん。二人の子持ちになった感想は」
「とっても幸せよ。加持君も早く作ってもらうといいわ」
「だ、そうだ葛城。ひとつ頼めるか?」
「あ、あんたねぇ…」
「そうそう用件を忘れるところだったわ…はい、シンジくん」
真っ赤になったミサトを放っておいてリツコは白衣の中から一丁の銃を取り出すとシンジに渡した。
「これは?」
「こんなこともあろうかと思って作っておいたシンジくん専用の銃よ。
本当はアカギスペシャルとか付けたかったんだけど今一つしっくりくる名前がないのよねぇ」
リツコがため息をつく。
「ははは…あれ思ったより軽いですね。しかも僕の手にぴったりフィットする」
「当然よ、何といっても愛情がこもってるもの」
「愛情のこもった銃って…」
「なにミサト、あなたも友情のこもった鉛玉が欲しいの?」
「遠慮するわ」
「そうそう、いちおう通常の拳銃弾が使用できるようにしてあるけど他にも各種弾薬をとりそろえてあるから必要な時に取りに来て」
「はい」
そういいながらグリップを確認する。
軽いが思ったより硬い。どうやら格闘に使うことを前提にしてあるらしい。
リツコの顔を見ると万事においてぬかりなしという顔をしている。
「他にもいくつか隠し機能があるわ。手が空いたら説明書を見に来て」
そういうとリツコは部屋を出ていく。
「はい、ありがとうございます。大事にしますね」
リツコはドアのところで立ち止まる。
「…銃なんかより身体の方を大事にしてね。あなただけの身体じゃないんだから」
「あ………はい!」
「それから」
「………」
「今入っている弾だけど、ストッピングパワーは通常弾の3倍以上私が保証するわ。
けど、殺傷力は通常よりかなり落ちるから。覚えておいてね」
ドアがしまってリツコは出ていった。
しばらくして加持がつぶやく。
「…リっちゃんも母親になっちまったんだな」
「私は母親にはなれそうもないなんて言ってたくせに…ま、自分の息子だもん出来る限り人殺しはさせたくないわよね」
「………」
シンジは無言で銃をしまった。そんなシンジを見つめてミサトは言った
「いいお母さんねシンジくん」
「はい」
シンジも嬉しそうに答えた。
しっかり盗聴していたリツコは音声を切るとつぶやいた。
「バカね…」
頬を涙が伝う。目元をふくとリツコは意気揚々と研究室に向かう。
…次は何をプレゼントしようかしら?
そのころ、執務室では慣れない子守にネルフの№1と№2が苦戦していた…
チルドレンのお部屋 -その2―
アスカ「………」
いらいらしながら行ったり来たりを繰り返すアスカ
レイ 「…どうしたの?」
アスカ「どうしたもこうしたもないわよ!
アタシの出番はやっぱり少ないし!
マナはまだシンジのことが好きみたいだし!
なーんかリツコが目立ってるし!」
トウジ「なんや、またふくれとんかいな」
アスカ「あんたは引っ込んでなさいよ!」
トウジ「まったく、シンジと両思いなのはわかっとんやけん。おとなしく再会するのを楽しみにしときゃええやろ」
アスカ「ア、アタシは別にシンジのことなんか…」(真っ赤)
レイ 「…それに赤木博士は碇くんと私のお母さんになったけどあなたのお母さんにもなる訳だし」
トウジ「なんやそりゃ?」
レイ 「?…碇くんとアスカはお互いに好きなんでしょ?ならいつか一つになるわ。
そうしたら碇くんのお母さんはアスカのお母さんでしょ?」
トウジ「…そうかもしれんが、綾波っておとなしい顔してどえらいこと言うのう」
レイ 「…変なこと言った?」
トウジ「ほら惣流を見てみぃ、全身真っ赤で顔から湯気出てるわ」
アスカ「………」(思考停止中)
レイ 「…風邪かしら?」
トウジ「………(綾波ってやっぱり天然かいな?)
ま、まぁええけどシンジが兄貴なら惣流は姉貴になるんか?」
レイ 「…そうね、よろしくお姉ちゃん」
アスカ「(復活)何でそうなるのよ!」
レイ 「…ちがうの?」
アスカ「そうじゃなくて!!」
トウジ「まぁ聞けや惣流」
アスカ「何よ!?」
トウジ「今の内に本音を言うとかんといつまでたってもシンジに会えんで」
アスカ「うっ(それはあるかも…今回だって題名が再会のくせにアタシじゃなくてミサトだったし)」
レイ 「…そうね」
トウジ「そうせんとわしらもシンジに会えんでちょい困る」
アスカ「しょ、しょうがないわね、私は別に構わないんだけどあんた達のために一肌脱いであげるわよ」
レイ 「…私は別に」
トウジ「難儀なやっちゃな」
アスカ「こらー作者!早くシンジに会わせないと暴れるわよ!」
トウジ「…やっぱり本音はそうかいな」
アスカ「何ですってー!!」
予告
ネルフ本部が擁するエヴァのパイロットは二人いた
セカンドチルドレン・惣流アスカラングレー
フォースチルドレン・鈴原トウジ
急なネルフ本部への呼び出しは何を意味するのか?
ミサトの作戦は成功するのか?
リツコの理論は完璧なのか?
全てが過去と同じではない
だが、それでも人々は過去に学び
新たな未来の構築を目指す
次回、新世界エヴァンゲリオン
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