【新世界エヴァンゲリオン】

 

「えぇ〜〜〜〜〜!!」

葛城家…もとい碇家に美しい声が鳴り響いた。

「新婚旅行にいっちゃだめぇ!?」

「そう」

こともなげに答える葛城ミサト三十(ピー)歳。

「誰よ!そんなこと言ってるのは!?」

「アスカの上司で作戦部長のあたし」

「ミサト…飢え死にしたいならそういいなさい!」

この部屋と隣の部屋の住人4人と1匹の食事を一手に預かる少女はそうのたまった。

そのままにらみ合いに入る二人。

が、ふとミサトがうつむいた。

「………あたしだって行かせてあげたいわよ」

ぼそりとつぶやくミサト。だが、それは間違いなくミサトの本音だ。ミサトを罵倒するつもりだったアスカはぐっと拳を握るともう一人の方を見た。

「すまんアスカ」

先手を打って謝る加持。二つのことについて謝る加持。新婚旅行に行けないことと先に謝って何も言えなくしてしまうこと。

「………」

こういうときに限って彼女の愛する男性は不在である。逆にその時を狙って二人は話したのだろう。

「なんで…どうして、シンジとアタシが新婚旅行に言っちゃ駄目なのよ…」

ポツリ、ポツリとこぼれた涙がテーブルを濡らした。

 

 

【第弐拾伍話 安息の時】

 

<執務室>

「…なんだこれは?」

開口一番ゲンドウは言った。

「ネルフ本部職員一同からの嘆願書です」

リツコは山積みされた段ボール箱を次々と開けていく。どうやってリツコが一人で運んできたのかは謎だ。

「なになに…二人を新婚旅行へ行かせてやって下さい…」

冬月が渋い顔になる。

机の上に全ての嘆願書をばらまくとリツコはその上にもう一通重ねて置いた。

『要請書 赤木リツコ』

ますます渋い顔をする冬月。ゲンドウはあくまでポーズを崩さない。

「では、詳しくお話をお伺いしましょうか」

 

<加持のスイカ畑>

「リっちゃんが総司令のところになぐり込んだらしいぞ」

「とりあえずは作戦通りね」

スイカ畑で密談する加持夫妻。

「しかし、後始末が大変だな…」

「たよりにしてるわよ」

 

昨晩、新婚旅行はダメと言われたアスカは部屋にこもって泣き過ごした。こういう時に慰めるべき彼女の最愛の男性は訳あって地球の裏側に出張中だった。電話一本かければ文字通り飛んで帰ってくるがそれがわかっているためか彼女は連絡しなかった。

一方、残された兄姉夫婦。いつも通りの美味しい食事も食欲がわかず、ビールの味もひどく苦かったため久しぶりに日付更新前の就寝を迎えた。

翌朝、何事もなかったかのように朝食の支度をしているアスカを見たミサトは夫になんでもないことのように言った。

 

「じゃ、やるわよ」

夫答えて曰く。

「ああそうだな」

 

特殊監査部長を抱き込んだ作戦部長は行動を開始した。

一応はいまだ機密扱いだった二人の結婚と命令により新婚旅行にも行けないという情報を朝一番でネルフの全部署の端末に送信。また総司令の厳命より直前まで絶対知らせるなと言われていた技術部長に事の詳細を報告。

二人のことを知った技術部長赤木リツコ博士の行動は早かった。MAGIをフル稼働させ午前10時には本部の全部署から嘆願書を回収、数年ぶりに筆をとり肉筆で要請書を書くと執務室に乗り込んだ。

もちろん、内緒にしていたこともそうなら内容も内容である。リツコはカンカンだった。

 

「…この要請が受け入れられない場合、本日1800を持ってネルフ本部全職員は無期限のストライキに入ります。同時にMAGIも必要最低限の機能を残しシステムダウンの予定です。また、作戦部からはエヴァ六号機、八号機による抗議行動もやむなしとの最後通告が来ています」

「………………」

「ご返答は?」

「………………」

「ゲンドウさん!!」

業を煮やしたリツコが叫ぶ。

「ふふふふ、はははははははは」

「副司令?」

「冬月、何がおかしい?」

懸命に笑いを堪えていたらしい冬月は涙を流しながら言った。

「いや、こんなに笑ったのは久しぶりだな」

「どういうことでしょうか?」

冷たい態度を崩さないリツコ。

「もはやこれまでだな碇」

「………」

「ネルフ本部全職員、ましてエヴァを敵に回しては勝てんぞ」

「………好きにしろ」

「ああそうさせてもらう」

冬月は事の成り行きを説明した。

 

事の起こりはシンジとアスカの結婚式警備の会議中だった。

今回に限っては最高級な警備が用意できる会場である。それは問題ない。無論、加持も全力を尽くす。

だが、新婚旅行はどうする?

加持とミサトも重要人物だったが、シンジとアスカは桁違いだ。警備も尋常なことではすまない。

そこへシンジが言った。

「新婚旅行はあきらめましょう」

 

「シンジくんが?」

「ああどれだけ大変なことか一度責任者をつとめたシンジ君が一番わかっているからな。私も葛城君も加持君も説得したのだが頑として聞かなくてね」

確かに今のシンジは一度こうと決めたらそれを貫き通す性格の持ち主だ。

「でも、それならなぜ命令と…」

「碇の奴がな…こら逃げるな碇」

「いや冬月先生…」

弱気になるとつい先生と呼んでしまうゲンドウ。

「どういうことかしらゲンドウさん?」

「なに、シンジ君が言い出したとなればアスカ君が悲しむ。だから、碇は自分の命令ということにしたのだ。ご丁寧にシンジ君を地球の裏側に出張させた上でな」

「そうだったの…碇司令」

ポンと合点がいくリツコ。

ゲンドウはこちらに背を向けている。

…照れているのかしら?

リツコの口元がほころぶ。

「だが、こうなることは予測できたはずだ。第一、シンジ君が黙っているはずは無かろう。なのになぜこんなことをした、碇?」

「………」

「ふふ…それは、こうすればシンジくんがいやでも新婚旅行に行かざるをえなくなるっていうことでしょう?」

「何の事だ?」

シラを切るゲンドウ。

「ふふふ、ははは、はっはっはっはっはっは」

「何がおかしい冬月!?」

 

<発令所>

「うんうん、ごみーんリツコ。うんうんりょーかい。ほんとありがとね、じゃまた後で」

受話器を置くミサト。

「みんなー万事OKよん!ありがとう!!」

『おーーーーーーーっ!!』

発令所のあちこちから喜びの声があがる。発令所に限らずネルフの職員は二人の味方である。事情を知ればミサトが手を回さなくてもいずれこうなったであろう。

「とても喜ばしい知らせだけど同時にちょっぴり残念だね。せっかく僕も嘆願書を書いていたのに…ま、結果オーライという事か」

カヲルがぼそっと言った。

プラグスーツを着てパイプ椅子に座っている。抗議行動の待機中である。同様にトウジもプラグスーツに着替えていた。朝一番でミサトに呼び出されたのだが、事情を聞いた二人は一も二もなくミサトの命令に従った。

「なんやお前も書きよったんか。ちょっと見てもええか?ワイは作文が下手やけん参考にするわ」

「途中まででよければね」

「えーとなんやて、ふんふん………なんやこりゃ?脅迫とちゃうんか?」

「そうかな?ちょっとした要望書だよ」

「あたしも見ていい?」

ミサトはトウジの手元をのぞき込む。

「『………二人の幸せすらかなえられないリリンにもはや未練はありません。この上はたとえ二人を敵に回してもリリンを滅ぼし全てを無に返すつもりです』………」

ミサトの背中を冷たいものが流れた。

「いや、良かったですねぇ」

カヲルの笑顔には罪がない。

 

帰国して再び警備会議にのぞんだシンジの頬には真っ赤な手形がついていた。

「どうやらアスカは元気になったようね(はあと)」

にやにやとにやけた顔のミサト。

「…おかげさまで」

仏頂面のシンジ。

「で、どうするんだシンジくん?」

「これじゃ行かないわけにはいかないじゃないですか」

「行きたいの?行きたくないの?」

ミサトが口調を改める。それに気付いたシンジは正直に言った。

「…行きたいに決まってるじゃないですか」

「なら行けばいいのよ」

「そうだぞシンジくん。たまには人に散々迷惑をかけるのもいいもんだ。葛城なんか年中かけまくっている」

「ちょっと加持、どういう意味よ?」

「さぁてね」

ちなみに二人は、仕事場ではゲンドウとリツコと同じように今まで通りに呼び合っている。

「まあ、せっかくですから日本国内をのんびり回ろうかと思っています」

アスカと話したプランをシンジは報告した。

 

<葛城家、改め碇家>

玄関でアスカは客を出迎えていた。

「こんばんは、おねーたん」

「おねーちゃんでしょレイ」

レイのほっぺたを指でつつくアスカ。

「みゅー。えーと、おねーた…おねーちゃん?」

「よし、いらっしゃいレイ。いらっしゃいリツコ」

「こんばんはアスカ。悪いわね、急に押し掛けて」

「いーのよ。うちには頼みもしないのに毎晩押し掛けてくる酔っぱらいがいるから」

「ふふ、そうね」

 

上着を脱ぐとリツコはアスカを振り返る。

「手伝いましょうか?」

台所の方からはいい匂いが漂ってきている。

「あぁもう終わるからレイと一緒にくつろいでて」

「そう?じゃ、そうさせてもらうわ」

「こんばんは〜」

「クワッ」

玄関が開くと隣人の声が聞こえた。

「件の酔っぱらいが来たようね」

「そうね」

苦笑するリツコとアスカ。

そんな二人をよそにレイが走っていく。

「あーぺんぺん!」

「クェーッ!?」

顔を合わせた途端、追いかけっこを始めるレイとペンペン。瞬く間に家の中が騒がしくなる。取り残された形のミサトに話しかけるリツコ。

「相変わらずレイはペンペンがお気に入りの様ね」

「あらリツコ、どうしたの?」

今日来るという話は聞いていない。それに来るときはミサトの家の方に来るときの方が多い。

「ちょっとシンジくんに用事があってね。ミサトも後で付き合いなさい」

「ま、いいけどね。アスカ〜ごはんまだ?」

依然と変わらぬ位置に座るとミサトは言った。

「あんたねぇ…」

お玉を握りしめるアスカ。ミサトの対面に座ったリツコもため息をつく。

「本当にあなたって成長しないわね」

「何よぉそれ?」

「『アスカ〜』を『シンちゃ〜ん』に変えたら数年前と同じじゃない」

「ぐ…」

言い返せないミサト。

「そういえばシンジくんは?」

「あぁちょっと生徒会が予算でもめてるらしくてシンジに泣きついてきたのよ」

シンジの生徒会時代の調停役としての手腕は全校に轟いている。シンジ達が生徒会役員を退いた後もシンジは会議に出席してくれるように頼まれることが多い。

「面倒見が良すぎるのも困りものよね」

ぶつぶつと呟くアスカ。

「そんなこと言って〜。一緒にいられないのがつまらないんでしょう?」

「…ミサト、この家は禁酒って知ってた?」

ミサトは平謝りに謝った。

 

「ただいまー」

「「おかえりなさい〜!!」」

アスカとレイは異口同音に叫ぶと走っていった。

「お帰りシンジ!」

「ただいま」

上がろうとして自分の足にひしとしがみつくレイに気付くシンジ。

「おかえりなさいおにーたん」

「うん。ただいまレイ」

「レ〜イ?」

アスカの目つきが怖い。

「あ、おにーた…おにーちゃん」

「よろしい」

にっこり笑うアスカ。

「てへへ」

照れたように頭をかくレイ。

「リツコさんが来てるの?」

「えぇ、すぐにご飯にするから早く着替えなさいよ」

「わかったよ。…なんですか二人そろって」

「え?」

振り返るアスカ。廊下にミサトとリツコが顔を出していた。もちろんにやにや笑っている。

「ミサト、別居にしたのは賢明な選択ね」

「でしょー?もう移る前なんかやけどするくらいあつくてあつくて」

「あれ、おにーちゃんとおねーちゃんまっかっか」

「クエッ」

 

「さてと、アスカ」

夕食を終えてお茶が入るとリツコは切り出した。

「なにリツコ?」

「今夜はシンジくんを借りるわ」

「へ?」

「は?」

訳が分からない二人をよそにリツコは自分のもってきた荷物を引き寄せる。

「どういうことですか?」

ドンッ

答える代わりにリツコは無言で一升瓶をテーブルの上に置いた。

「ま、まさかこれは鬼殺し!!」

銘柄を見てゴクリと喉を鳴らすミサト。

「シンジくんと真剣な話があるの。悪いけどアスカは外してくれる?」

「………」

「………」

しばし見つめ合う二人。

「わかったわ」

「ありがとう」

アスカは席を立つとレイを連れ出す。

「レイ、アタシと一緒にお風呂に入りましょう。今日は泊まっていっていいわ」

「ほんとう?」

母親に確認するレイ。

「ええ今日はお泊まりよ。アスカと一緒に寝るといいわ」

「わーい!」

喜び勇んでアスカについていくレイ。

「せっかくだから、シンジのあーんな話やこーんな話をしてあげるわ」

「おにいちゃんの?」

「ア、アスカ?」

心持ち不安な声で呼びかけるシンジに笑顔で別れを告げる姉妹。

「じゃおやすみシンジ」

「おやしゅみなさーい」

「…いや、そうじゃなくて」

やはり伝統的に女性陣の方が強いようだ。

「はいおやすみなさい」

「おやすみー」

 

二人の娘が出て行くとリツコはシャツの袖をまくり上げる。

そして朱塗りの盃を取り出すと3人の前に並べた。

「こ、これで飲めと?」

「リツコ〜つまみがないわよ〜」

「これよ」

でん、と置かれる“伯方の塩”。

ミサトの目の色が変わる。

「…リツコ、マジね」

「えぇ、今日はじっくりとシンジくんに言い聞かせなきゃね」

リツコの目の色も違う。だが、それでもミサトは再度確認する。

「リツコ。あんたが昔、本気で飲んだとき店を一軒爆発させたの覚えてる?」

「承知の上よ、今となっては懐かしい想い出だわ」

「は、はははは」

心持ち青ざめるシンジ。

「わかったわ、私もマジでいきましょう」

ミサトは手早く髪をまとめてポニーテールにする。さらにテーブルと椅子を壁際に寄せテーブルクロスを床の上に直に敷く。それを見たリツコもまた確認せざるを得なかった。

「ミサト。あなたが昔、本当の本気で飲んだとき店を一軒瓦礫の山に変えたの覚えてる?」

「もちろんよ、あの頃はまだまだ私も青かったわね」

…母さん助けて

思わず初号機に助けを求めるシンジ。

リツコは一升瓶の栓を抜くとその中身を杯に並々と注ぐ。

「さぁ覚悟はいいシンジくん?」

 

加持は自宅に入ろうとして明かりがついていないのに気付いた。どうやら今日も隣に入り浸っているらしい。

…まったくしょうのないやつだな

隣の部屋の玄関を開け中に入る。

「邪魔するよ」

「クエッ」

特に返事は期待していなかったのだが、廊下に寝転がっていたペンペンが答えてくれた。

「おや、こんな所でどうしたんだペンペン?」

「クエックエッ」

事情を説明している…らしいペンペン。

「ふむふむ」

わかっているのかいないのか相槌をうつ加持。

「あら加持さんいらっしゃい」

リビングからひょいと顔を出すアスカ。

「うちのかみさんがお邪魔してるかなと思ってね」

「かみさん?ああミサトのことね。とりあえずそのままそーっとこっちへ来て」

「?」

「いいから」

よくわからないがとりあえず指示に従う加持。通りがかりに台所をちらりとのぞく。思わずその顔が青ざめる。

…なるほど

こそこそとリビングに入り、レイを寝かしつけているアスカの向かいに座る。

「…すごいな」

「でしょ?」

「シンジくんにまでアルコールが入っているぞ」

「ケンカしてるわけじゃないみたいなんだけど怒鳴り声が飛び交ってんだもの。レイを寝かせるのが大変だったわ」

ふぅっとため息をつくアスカ。

「あの二人が本当の本気で酔っぱらうと店が消し飛ぶんだがな…」

顎をさすりながらどうするべきか考える加持。

「…まぁここは言ってみればネルフの官舎だものどうにかなるんじゃない?」

「それはそうなんだがな。あの二人はともかくシンジくんが本気で酔っぱらうともっと大変なことになる」

心持ち青ざめる加持。

「…そういえばアタシ酔ったシンジって見たこと無いわね。ひょっとして酒癖悪いの?」

「そう…あれはシンジくんが一人前のころ…もとい兵士になった日、お祝いをしてやるという名目の元、あることないこと聞きだそうとみんながシンジくんに飲ましたことがあった。…あの頃はシンジくんも酒に弱かったからな。あっという間に酔っぱらった」

「それで?」

「翌日未明、アメリカ支部の保安部員一個中隊が病院にかつぎ込まれた。この件はアメリカ支部でもトップシークレット扱いだ…」

「………そ、そう。ところでその時加持さんは何をやっていたの?加持さんならシンジを取り押さえられるでしょ?」

「………ふ、まだまだ俺も若かったな」

どこか遠い目をする加持。

「………かーじさん?」

「………もう一個中隊を病院送りにしたのはまぁご愛嬌だ」

「………」

「とはいえあの二人がそこまでしなくちゃならないこと………か。なるほどな」

「?」

なにか悟ったような顔をする加持に怪訝そうな表情を浮かべるアスカ。

「あぁすまん。そのなんて言うのかな…男であれ女であれ結婚しちまったら親元を離れて、大人になっちまうからな。そうなる前にしか話せないこともあるってことさ」

「アタシとシンジはもう結婚してるわよ?」

「あくまで書類上のことさ。それはわかっているだろう?心の区切りがついて初めて結婚したと言えるのさ。結婚式っていうのはそのためのものさ」

「加持さんも?」

「そうだな。式を挙げて一緒に暮らすようになって初めて湧いた実感てやつがあった。昔、同棲してたときとは違う。アスカもそうだろう?確かに今シンジくんと二人で暮らしてはいるが昔の延長線のように感じていないかい?」

「………うん」

それは確かにアスカも感じていた。そしてもう一つ…

「アスカ」

「何?」

「シンジくんに抱いてもらえたかい?」

「!?」

一瞬絶句するアスカ。その後すぐ全身の血液が逆流する。

「か、か、加持さん!何言ってるのよ!」

「お、見事なまでに真っ赤だな」

「加持さん!」

「はははは悪い悪い」

「もう!」

…やっぱりな。そうだろうとは思ってはいたが予想通りの二人が微笑ましいやら何やら…

「つまりそういうことさ。アスカの方から迫りでもしない限り式を挙げるまでたぶんシンジくんはアスカを抱こうとしないだろう。それとももう迫ってみたかい?」

「………」

アスカは相変わらず真っ赤だ。

「ま、アスカも見かけに寄らず純情だからな。そんなもんだろう」

「見かけに寄らずは、余計よ」

「そうだな。ま、とにかく今でしかできない話というのはあるのさ」

そう言った後で加持は表情と口調を改める。

「…リっちゃんもミサトも母親として話せるときに話したいんだろう。

 誰も気にはしちゃいないがリっちゃんはシンジくんの実の母親じゃあない。まぁ誰か気にしている奴としたらリっちゃん自身だろう。

 ミサトは…そうだな、たぶん実際はミサトが一番話をしたいだろうな。ミサトはシンジくんの保護者で、母親代わりで、姉代わりで、そして恋人代わりだった」

「恋人…?」

アスカは首を傾げた。

今まで二人を一番そばで見ていたのは自分だ。保護者はともかくとして親や姉という印象を抱いたことはあったが恋人などという印象を受けたことは一度もない。

「ま、もっとももうシンジくんに保護者は必要ない。アスカという恋人もいる。リっちゃんが碇司令と結婚してからは姉と言ってきたのはリっちゃんに遠慮する気持ちが無意識に姉という言葉を強調させていたんだな。そして結婚して別居しちまったら姉弟のつながりも薄くなるってもんだ」

「………」

アスカは両膝を抱え込むと頭をのせて目を閉じた。

加持は気にせず続ける。

「戦友…と言おうか。命がけの戦いを共に戦った戦友には固い絆が生まれる。アスカもレイ…綾波レイもシンジくんの戦友には違いないが、シンジくんにとっての一番の戦友はミサトなのさ。最初の使徒襲来から最後の戦いまで助け合ったな。その絆だけは俺にもアスカにも誰にも入ることは出来ない」

そう言って加持はレイの顔を見る。すやすやと眠るその幼い顔は今の話とはまるで別世界のものだ。

目を閉じたままアスカは頭を傾けた。

「………だけど、絆の出来た理由はそうかもしれないけど…あの二人の絆は戦友じゃなくて家族としての絆だわ。そうでしょ?」

「………」

「シンジとミサトは戦いの絆じゃなくて家族としての絆を持っていると思ってる。あるいは思いたいのよ。だから、それぞれが結婚して隣とはいえ別々に住んでその絆が無くなることが怖いのね」

アスカは目を開くとレイの顔に手を伸ばす。

伸びかけた前髪に触れた後ゆっくりと頭を撫でた。

「…あの二人のことはアスカの方がよくわかっているんだな」

「…だって家族だもの」

そう言ってアスカは笑った。

「でも、もう一つわかっていることがあるわ。結婚してもアタシ達が家族だってことに変わりがないことをあの二人は本当はわかっているということ」

「じゃあなんで怖がってるんだい?」

「だからあの二人は馬鹿なのよ」

そういってアスカはすねてみせた。もちろんポーズだけだが。

加持は肩をすくめとそうだな、と答えた。

 

「だいたいシンジくんは自分のことに無頓着すぎるのよ!!」

「そーよそーよシンちゃんはいっつも自分が悪い自分が悪いって!!」

「それを言うならミサトさんやリツコさんだって!!」

二人の母親を相手に酒盛りは明け方まで続いた。

 

「おはようございましゅ!」

元気にあいさつするレイ。

「おはようレイ」

「…おはようレイ」

元気に答える姉とやや顔色が悪い兄。

「おっ早起きだなレイちゃん」

「クエッ」

レイの背後にペンペンを連れた加持が姿を見せる。

「あ、かじしゃん、ぺんぺん、おはようございましゅ」

「あぁおはよう」

「クェッ」

「おはよう加持さん、ペンペン」

「…おはようございます」

「…とりあえず何とか持ちこたえたようだな」

シンジの様子を見て加持が言った。戦場から帰還してきた兵士を迎えるような口振りだ。

「…強敵でしたよ。しかも二人ですからね」

「その二人は?」

「ミサトさんの部屋…あぁ元ミサトさんの部屋だったところで寝ています」

「ほほう…」

しばし考え込む加持。何を思いついたのか台所を出て行く。

「怪しいわね」

「アスカもそう思う?」

「ミサトが何かたくらんだときと同じ感じがしたわ」

「夫婦だからね」

しばらくして遠くから悲鳴が聞こえ、そして唐突に静かになった。

何事かと見守る3人の所へ帰ってきた加持が笑みを浮かべながら言った。

「よし、今晩は俺と飲もうシンジくん」

「「は?」」

「よく考えたら二人でじっくりと飲んだことがなかったからな。いい機会だ」

「…あの加持さん、連日は、それに学校も…」

「シンジくんのタフさは俺が一番よく知っている」

そういって加持はにっこり笑った。

…ああ加持さんまでミサトさんに毒されるなんて

 

翌朝、加持とミサトはそろってたたき起こされ頭痛にうめいた。

 

 

 

 

NEON WORLD EVANGELION

Episode25: Parents And Children. 

 

 

 

 

 

 

<結婚式当日>

「すごいすごいすごいすっごーい!!」

草原にケンスケの声が響きわたる。

「ま、ケンスケの気持ちも分かるわ」

うんうんとうなずくトウジ。

シンジとアスカの結婚式会場。それはジオフロント、勝手知ったるネルフ本部の地底湖のほとりで行われる。技術部が丹精込めて作った会場の脇にはエヴァンゲリオン弐号機が片膝をついて座っていた。無論ありがちな軍事セレモニーではない。どのみち出席者はネルフ関係者だけであるしそもそも他のエヴァ伍〜八号機はケイジに置いたままである。それなのに何故弐号機が運ばれたのか真の理由を知るものは少ない。

無論、現在のネルフの警備は尋常なものではない。すでに第一種警戒態勢が敷かれている。

「いや〜男だったら涙を流すべき状況だねこれは」

ジオフロントに入れたばかりかネルフの施設、ましてエヴァンゲリオンを間近でじっくり観察できるとあってケンスケは狂喜乱舞していた。すでにギガバイトサイズのディスクを何枚も使い切り撮影に専念している。

「内容はネルフで検閲後、問題があるものは削除あるいは没収する」

とあらかじめ注意されていたのだが既にケンスケの頭からは消えている。

ちなみにケンスケは白のスーツ姿である。別に高校生がもっていてはいけないとは言わないが必要もないのに用意するとも思えない。普通なら来春の大学の入学式などのために用意したのかと考えるが生憎ケンスケは専用の礼服を着ることになっている。ではなぜスーツをもっているのか?

本人曰く『ジャーナリストの嗜みだよ』だそうだ。

よくわからない。

 

「人工ってわかっていてもやっぱりいいですね」

マユミが辺りの草木を見回していった。

「そうね、自然じゃない自然っていうのも変だけど」

「いいものね」

ヒカリとマナも賛同する。

「でもマナ、あなた…すごいわね」

ヒカリがマナの姿を見ていった。

「そうかしら?」

そうとぼけるマナ。ヒカリもマユミもそれぞれ緑と青を基調にした華やかな色合いのスーツを着ているのだが、マナはドレス姿であった。それも淡い水色が混じっているがほぼ白と言って遜色のないドレスである。肘までの手袋付というその出で立ちだ。何を考えているかは容易に予想がつく。

「まだ諦めてないんですね」

「当然です。本当ならシンジと手に手を取って逃げたいところですけど、今日の所はアスカの顔を立ててあげます」

「ま、それだけ言えれば大したものね」

シンジに好きといわれてからマナはまた一段と強くなった。口調や行動は変わったものの相変わらずヴァイタリティーにあふれ年中アスカとシンジにちょっかいをかけている。

ちなみにネルフに無関係な人間で式に招待されたのはヒカリ、マユミ、ケンスケの3人だけである。

 

高校を卒業した彼らは無事それぞれの進路に一歩踏み出そうとしている。

シンジとアスカはさておき、マナ、トウジ、カヲルは第三新東京市に新設された大学に進学。トウジは大学など行きたくないしどうせ受かったりしないと言っていたのだが、そこはそれ。これからは世界各地に派遣されることになるエヴァのパイロットである。外国語の4つや5つ話せなければ駄目だ。ということで英語とドイツ語しか話せないカヲルともども外語学科に放り込まれて苦難の日々を歩んでいる。生憎と医学部はまだ無いためマユミは予定通り第二東京大学に進学した。防衛大に入学したケンスケともども第二東京に居を構えることとなったが交通の便のいい昨今である。休日には第三新東京市で友人達と遊んでいる。そういった面では専門学校に進んだヒカリがもっとも気楽な生活を送っているわけなのだが生来の気質のためかその生活に落ち着けずレストラン等でアルバイトをしているようである。

 

「みなさま本日ようこそお越し下さいました。本日の司会並びに進行は私、不肖技術一課伊吹マヤがつとめさせて頂きます」

華やかさにはやや欠けるが清潔な印象を与える薄緑のスーツ姿のマヤが挨拶をすると一斉に拍手が送られた。

「本日の予定ですが1130より式を執り行い、1200よりパーティを行うことになっております。今しばらくお待ち下さい」

そこで一つ咳払いをするマヤ。

「なお、勤務中の職員は直ちに所属部署に戻って下さい。1130までに着任報告を行わない場合は3ヶ月の減俸処置がとられます。…では、ご談笑をお続け下さい」

制服姿で参加していた職員数十名が慌てて会場から駆け出していく。だが本部内へのエレベータはあまりに遠い。

「やっぱりネルフって変わってる」

マナが言った。その背後から合いの手が入る。

「そうね。でも、人格に問題はあっても腕は一流よ」

「リツコ、そのフレーズどっかで聞いたことがあるんだけど?」

「なんなら説明しましょうか?」

現れるなり訳の分からない会話を始めるミサトとリツコ。

会場の女性の中でも最年ちょ(以下消去)の二人だが同時に最高級の美女でもある。(なお、マナ、マユミ、ヒカリは未成年なので美少女に分類されるそうだ)さらに着ている衣装がただものではい。

リツコは黒を基調としたシックなドレスに手袋。体のラインを惜しげもなくさらしている。

かたや、ミサトはワインレッドのスーツ姿。目に鮮やかな赤、赤、赤。とにかく赤い。

「ミ、ミサト先生も赤木博士も何ていうか…すごいですね」

「ありがとう霧島さん。もうこんな服を着る機会もそうないからつい気合いが入ってしまったわ」

「私もね。だいいち赤ってアスカの専売特許でしょ?こんな時でもないとなかなか着れないのよね」

「花嫁より目立つんとちゃうんですか?」

二人を見てつぶやくトウジ。こちらは何を思ったのか紋付き袴を着ている。なんでそんなものをもっているのかと聞きたいところだ。

「あら鈴原君、よく似合ってるわよ」

「うんうん、古き良き日本の伝統ね。最近は似合う人が少ないから」

「あ、レイちゃんきれいなお洋服ね」

レイはおとなしい水色のワンピースである。

「ありがとうございましゅ、ヒカリおねえちゃん」

ぺこりと頭を下げるレイ。

「うーん、何て言うのか碇君に似ているわね」

何となくそう思うヒカリ。

…礼儀正しいところというかなんというか

「あら、血を分けた妹なら当然でしょう」

「そうですよね」

無邪気に言ったマナとマユミの言葉にやや表情を変えるミサトとリツコ。

「あの…なにか変なこと言っちゃいました?」

心配そうに尋ねるマユミ。

「ううん、何でもないの気にしないで」

「ミサトの言う通りよ」

口調とは裏腹にやや表情が堅い。

…ど、ど、どうしよう?

余計不安になるマナとマユミ。

が、そこに救いの手が差し込まれた。

白いタキシードから伸びたその手はレイをつかむと高く持ち上げる。

「やぁレイ。今日はとびきり可愛いね」

シンジはレイに向かってとびきりの笑顔を向けた。

「うん!おにいちゃん!」

レイもそれに笑顔で答える。

「どうした美女がそろって暗い顔して?ほら花婿をレイちゃんにとられちまうぞ」

黒い背広姿の加持がシンジの後ろから現れる。

「…フンフフーン♪ いや、今日は実に結婚式日和だね」

無論ジオフロントに空はないのだがそんなことを気にする彼ではない。相変わらず笑みを浮かべた渚カヲル。ちなみにシンジと同じようにタキシード姿、但し色まで同じ白のタキシードを着ている。

その光景にふっとみんなの顔が緩む。

「ちょっと、あんたまた襟元あけて!ほらネクタイも」

そう言ってミサトは加持の服装の乱れを直す。

「おいおいせっかくシンジくんがその方が俺らしいって許可してくれたのに」

「却下よ却下」

加持夫婦をよそにマナはカヲルの服装に文句を付ける。

「ちょっとカヲル、白いタキシードは花婿が着るものでしょう?」

「そういうマナはなぜ白いドレスを着てるんだい?」

「う…私はえーと、ほらよく見て、白じゃなくて薄い水色なの」

「それなら僕は…」

そう言って胸に挿した赤いバラを示す。

「あんたねぇ…」

きょろきょろと辺りを見回すミサト。

「シンジくん一人?」

「ええ、その…アスカのご両親が見えられているので」

「…そう。なら私もあいさつにいかないと。レイ、ここでみんなと一緒にいるのよ?」

「はーい」

そう言うとリツコは会場を出て控え所に向かう。

「で、どうだった?」

レイを下ろしたシンジの側によってミサトは小声で聞いた。

「…僕たちをお祝いしてくれました」

嬉しそうな顔で言うシンジ。

「…アスカもいろいろわだかまりはあったんでしょうが、嬉しかったのか泣き出しちゃいまして」

「それで追い出されてきたって訳ね」

「ええ…化粧を直すまで帰ってくるな、だそうです」

笑い合う二人。

「ふふ、シンジくんも大変ね。…でもドイツくんだりまで行って来た甲斐はあったわね?」

最後は小声で付け加える。

「ばれてましたか?帰りのルートを少し変えただけなんですけど…」

シンジが先日地球の裏側に行った際のことだ。シンジはその帰りにドイツのアスカの家に寄ってアスカの両親と会ってきたのだ。

 

実際サードインパクト後もアスカはそれなりに連絡をとっていた。だが、人間そう簡単には変われない。結局なにかと疎遠になりがちであった。結婚したことすら半年近く連絡できずにいた。そこへシンジはいきなり乗り込んだ。本来なら第三者が口出しすることではないのだが現実にシンジはアスカと結婚してしまっている。もう他人事ではすまされないしすませるつもりもなかった。

 いきなりの訪問ではあったがシンジのことはネルフ関係者なら誰でも知っている。シンジは結婚の報告、二人の今後の進路を話し、そして結婚式への出席をお願いした。アスカの両親は多くを語らなかったが結婚式への出席を快く了解した。

『あの子は大人になってしまったんだな…』

『置いてきぼりにされないよう今度は私たちが大人にならないといけませんね…』

ちなみにアスカには自分たちから連絡するからとシンジは口止めされたのだが、さすがのシンジも当日やってきて自分の口で連絡するとは思いもしなかった。シンジの両親には及びもしないがアスカの両親もそれなりにくせ者のようである。

 

「どんな形でも家族は家族ですから…」

二人の言葉を思い出しながらシンジはそうとだけ言った。

「そうね…」

ちょこんと小首を傾げて二人の話を聞いているレイ。おそらく理解はしていないのだろうが。シンジが頭を撫でると気持ちよさそうに目を閉じた。

 

続けてシンジは友人達に挨拶に行った。

「おーシンジ。なかなか格好ええぞ」

「ほんと碇君、格好いいわよ」

「そういうトウジと委員長も。二人が式を挙げるときは神式かな?」

「「シ(い)、シンジ(碇君)!!」」

真っ赤になる二人。

「シンジもからかわれる側からからかう側に変わったか」

二人を撮影しながらケンスケが言った。

「年中からかわれていれば学習するよ」

「違いない」

そういって笑う二人。

「トウジおにーちゃんとヒカリおねーちゃんもふーふになるの?」

「そーねぇ、二人に聞いてみたらぁ?」

「「ミサトさん!!」」

 

「碇君おめでとう」

「ありがとう山岸さん」

「ふふ、でも本当よく似合っていますよ」

「山岸さんこそいつもより輪を掛けて美人だよ」

「ふふふ、そういうのは花嫁さんと後ろの二人にとっておいて下さい」

「後ろの二人?」

「ほら」

白いタキシードのカヲルと白いドレスのマナが言い争っている。見ようによってはというか、はっきり言って花婿と花嫁に見える。言い争い、といってもマナが一方的に文句をつけているだけのようだ。その光景を見てふと自分とアスカに似ているな、と思うシンジ。

「あら…」

ミサトも同じことを思ったらしい。

「ミサトさんも気付きました?」

「ええ…ふーんそうか…」

数年前は年中、似たような光景を見ていたトウジ、ヒカリ、ケンスケも気付いたようだ。

微笑ましい顔で二人を見守る。

「なんやあの二人結構ええコンビなんやないか?」

「隣に住んでるんだしね」

「なんかイヤーンな感じ」

マナもやっと自分たちに向けられている視線に気付いた。

「な、何ですか?」

「マナが花嫁さんみたいだなって話だよ」

シンジに言われてぱっとマナの顔が輝く。このための衣装なのだから努力が報われた。だがそれも長くは続かなかった。

「それで渚君が花婿さんですねって話をしてたんです」

悪気はないマユミ。

「え?」

「やあ照れるね」

対照的な反応をする二人。

「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい!何でこいつと私が!」

「まぁまぁ落ち着いて霧島さん」

そういってマナの肩に手を回すミサト。

「あ、ミサトさんの目が変わってる」

「シンジくんとアスカがおさまっちまったからな、からかいがいのある相手に飢えていたんだろう」

「クエッ」

「あ、ペンペンだ〜」

「でも、渚君は手強いからな」

「じゃあ結局マナ一人がからかわれるわけですね」

 

「そうそう、昔はアスカも意地っ張りでね、シンジくんのことが気になるくせに口ではあーだこーだって」

「ミ、ミサト先生。それが私とどういう…」

「で、渚君と毎日一緒に登下校してたんだって?」

「それはカヲルが方向音痴なのとシンジに頼まれたからで…」

「アスカもいつも言ってたわね『あいつと一緒に帰るのは義務だからよ』って」

「そうそう一緒に住んでるのも『任務だからよ』ってね」

「ほーかほーか、霧島もそうなんか?」

「み、みんな………」

「渚君はどうなんですか?」

「マナのことかい?もちろん好意に値すると思ってるよ、つまり好きってことさ」

カヲルの笑顔には罪がない。

「わ、私はシンジが好きなの!」

「それは奇遇だね。僕もシンジ君が好きだよ」

「ぐ」

…だめよ、こいつにはまともな言葉は通じないわ

「まーまー霧島さん。で、霧島さんの料理はどう渚君?」

「とても美味しいですよ。シンジ君の料理とはひと味違いますね。二人の味をミックスしてみましたから機会があればごちそうしますよ」

「あら、ありがと〜」

「う〜〜う〜〜」

当初のもくろみが外れた上にからかわれる対象と化したマナはうなることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

礼服姿のゲンドウは一人離れたところで本部のピラミッドを見ていた。

『何を考えているのかね?』

法衣を着た老人が横に立つ。

「…我々が行ったこと、そしてこれから行うことの意味を」

『答えは出たかね?』

「おそらくは…いえ、あのときに出ていました猊下」

『なるほど』

口を閉じる二人。だが、それはどこか心地よい沈黙だった。

 

 

 

 

 

 

チルドレンのお部屋 −最終回−

シンジ「あ、あれ?確かサードインパクトが…」

アスカ「なに寝ぼけてるのよシンジ?」

シンジ「え、ええ?あ、綾波!?」

レイ 「なに碇君?」

シンジ「な、なにって…」(綾波って本気か嘘かわからないからな)

カヲル「いや、この部屋も遂に最終回だね」

シンジ「…無視された」(カヲル君まで。…僕の気持ちを裏切ったな)

トウジ「本編はあと一回あるのになんで最終回なんや?」

アスカ「そんなこともわかんないの?バカね」

トウジ「何やとぉ!?」

カヲル「まぁまぁ。最終回はきれいに幕を引くものだからね。こんなおちゃらけたものは書けないだろう?」

レイ 「………」

シンジ「どうしたの綾波?」(もうどうでもいいや。どうせ僕の人生なんてこんなものさ)

カヲル「今回の話が次回に続いてしまったからね。今回登場する予定だったのが次回に延びてしまって不満なんだよ」

アスカ「大体、私とシンジの結婚式を1話に納めようなんてことを考えるからよ。計画性が欠如しているわ。ほんっとにバカね」

トウジ「そやかて結婚式を3話連続でやるのもなんやろ」

アスカ「だったらミサトと加持さんの結婚式を割愛すりゃいいでしょ」

レイ 「………」(無言で頷く)

シンジ「ま、まぁおめでたいことなんだからいくらあってもいいんじゃないかな?」

   (たぶん前回のは夢だったんだ。うん、そうだ。もっと前向きに生きよう)

アスカ「ま、確かにめでたいことは多いにこしたことはないわね」

レイ 「…碇くんがいいなら私もいいわ」

トウジ「………(こいつら)」

カヲル「そういえば最終回のタイトルは何になるんだろうね。いつも話の中身以上に悩んでるみたいだけど」

トウジ「せやな、今回もなんかちょっとずれおったし」

アスカ「…世界の中心でアイを叫んだ二人、シンジどう?」

シンジ「あ、あまり直接的なのはやめた方がいいと思うよ」

アスカ「そう?」(本編と違ってこっちの部屋のシンジは今ひとつ押しが足りないのよね)

レイ 「…まごころをありがとう碇くん、どう?」

シンジ「あ、綾波。今の“ 、”を入れる位置間違えてない?」

レイ 「そう?わからないわ」

トウジ「…さて腹減ったしメシでも食いにいくか」

カヲル「僕も付き合わせてもらおうかな」

アスカ「アスカ、結婚。とか…」

レイ 「レイ、心の中に。とか…」

シンジ「………」(こんな終わり方でいいのかな?)

 

 

つづく

予告

ヒト

個を守るために他を拒絶し

個を守るために他を受け入れる

矛盾した存在

ネルフ

それは神の使いを倒すために生まれ

ヒトが神にいたる道を塞ぎ

ヒトがヒトであるために存在する組織

 

ヒトの可能性、ヒトの未来を信じて

彼らは戦い続けていく

ヒトが築いていく新たな世界を守るために

 

 

次回、新世界エヴァンゲリオン

終局 ヒトであるために

 




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