【新世界エヴァンゲリオン】
<第二東京市中央駅>
「ヒカリ!」
避難民の雑踏の中、よく通る声がヒカリの名を呼んだ。
ヒカリが振り返るとマナが手を振りながら走ってきた。
「マナも第二東京だったの?」
「ま〜ね、しかし大荷物ね」
ヒカリを上から下まで見た後感想を述べるマナ。
おそらくかなり要領よく整理したのは想像に難くないがそれでも両手両肩に大きなバッグを提げている。
家族で第二東京市に避難してきたヒカリはトウジの妹も連れているため結構な荷物だ。
もっともノゾミもコダマも手伝おうとしたのだが頑として断った。
…私もまだまだ子供ね
それに引き替えマナは肩に下げたスポーツバッグ一つだけである。
「…少ないのね」
羨ましいというより意外という顔で聞くヒカリ。
駅の中を見回してもマナほど身軽な人は目に入ってこない。
「だって当座の着替えだけだもん。
私の場合、第三新東京市とネルフにもしもの事があったらどのみち終わりだしね」
話しながら二人はヒカリの家族が待つ外へ向かう。
確かにネルフにもしものことがあればマナは職も財産も将来も何もかも失う。
無論、ネルフの敗北となれば被害はマナのそれにとどまらないのだが。
「それに、ま、シンジとアスカがいるからどうにかなるわよ。あと鈴原とカヲルもね」
「…そうね」
ヒカリの顔は依然暗い。
どういう経緯であれ間もなく友人達(まだ恋人とは呼ばない)が命がけの戦いに挑むのだ。平常心でいられるはずもない。
戦自で教育された分マナの方が心構えが出来ている。
「ヒカリ、いいこと教えてあげるわ」
ずいと顔をよせるマナ。
「な、何?」
「いい?心配している暇があるんなら、どうかみんな無事に帰ってきますようにってお祈りしてなさい」
「…それって心配してるって事じゃないの?」
頭をひねるヒカリ。
「似てるけど違うの。
お祈りした方が、想いが強い方が確実に生還の確率が増すの。これは理屈じゃないわ。
そして言ってみれば想うことでみんなと一緒に戦ってるわけ。
…心配するなとは言わないけど、心配するって事は自分の中では既に他人事になっているのよ…少なくとも私はそう思ってるわ。だから…」
…だから、今も祈り続けている。
そんなマナを見てうなずくヒカリ。
「………ありがとうマナ。私もお祈りするわ。
でも、何に祈ったらいいかな?」
「………たぶん神様仏様は今頃大忙しでしょうね」
外へ出た二人は空を見上げた。
空には暗雲が立ちこめている。ちょうど先が見えない未来を暗示するかのように。
「…雨になりそうね」
「…うん」
【第弐拾話 降り出した雨】
<発令所>
「はい」
「サンキュ」
リツコが差し出したカップを受け取るミサト。
心地よい刺激が舌を打ち脳を活性化させる。
「相変わらずリツコの入れるコーヒーは最高ね」
「ありがとう」
二人の正面にはメインスクリーン。いまだそこには何も表示されない。
発令所の面々も徐々に緊張の度合いを深めている。だからこそ二人は表面だけでも落ち着いていなければならない。指揮官とはそういうものだ。ゲンドウと冬月が無言で司令塔にいる、ただそれだけのことがどれほど安心させてくれることだったかを改めて認識するミサト。その二人は今はいない。各方面との折衝があるのも本当だろうが、この最重要な局面を二人抜きで乗り切らせようというのが狙いだろう。その結果は今後のネルフのあり方を決めることにもなる。
…もし、今あそこにシンジくんが座っていたら?
そんな仮定を思い浮かべるミサト。
「…シンジくんならきっと二人とは別の安心感をもらえるわね」
同じことを考えていたのだろう、リツコが囁く。
「ふふ、そうね。でも今はまだあそこにいてくれた方がよっぽど心強いんだけど」
そういってサブスクリーン上のケイジを見る。待機中の3体のエヴァと改修途中の七号機が映っている。
「まあ無いものねだりはやめましょう。いつまでも誰かに頼ってるようじゃあたしたちも偉そうなこと言えないわ。
…ところで雨が強くなってきたけどあれは大丈夫?」
「あら技術部を甘く見ないでほしいわね。前は誰かさんに無茶を言われて半日で造ったのよ。これだけ時間があれば改良もばっちりよ」
「そ、期待してるわ。一発撃てれば十分だし…」
『どう、鈴原君?』
「はぁ、動かんでええと言われると余計動きたくなるんですけど…」
エントリープラグ内のトウジは居心地が悪そうにマヤに言った。
『拘束具があるから多少は動いても平気だけど壊さないでね』
「はぁ気ぃつけます」
トウジは七号機のプラグ内にいた。
見渡す限り七号機には途方もない数のケーブル、コードがつながれている。
しかもご丁寧に高圧電流注意の立て看板があちこちにおかれている。
すさまじい高圧の電気でもって動いているエヴァのケイジにおいて今更ではあるのだがこういう遊び心があるあたりネルフが純粋な軍隊でないことを感じることができる。
『どうだい気分は?』
八号機のカヲルから通信が入る。
「渚か、なんややな感じやで。落ち着かへんわ、まったく…そういや惣流は?」
『彼女は今休憩中だよ。シャワーでも浴びて寝てるんじゃないかな』
「えーなぁ、わしも風呂入りたいわ」
『ま、気持ちは分かるが葛城一佐の御推薦だからね。諦めるんだね』
「とほほ」
アスカは更衣室の簡易ベッドに横たわっていた。可能な限り体を休めておくのもパイロットの勤めだ。わかっているからおとなしくしている。
とはいえ天井をただ眺めているのも暇だ。
髪を一房持ち上げた。
…そろそろ切らなくちゃいけないかな?
結構な長さになってきた髪を見る。
「………」
指輪を目の前に持ち上げる。
…紐の代わりにあたしの髪で…
「
!!」ネルフ本部に警報が鳴り響いた。
<発令所>
『UN空軍偵察部隊より入電!敵輸送機の離陸を確認!!』
「監視部隊からの映像入ります」
青葉の報告にあわせてスクリーンに輸送機で輸送される白い巨人の姿が映し出される。
「波長パターン赤。目標をエヴァンゲリオン量産型と確認。以後、目標をエヴァ拾号機から拾参号機と呼称します」
ワイヤフレームの地図にbP0〜13の表示が出る。
「…ミサト」
リツコにうなずいて答えるとミサトは命令を発した。
「総員第一種戦闘配置!!」
『了解。
総員第一種戦闘配置!地対空及び地対地戦用意!』日向の復唱で本部中にサイレンが鳴り響きMAGIの放送が流れる。
「戦略自衛隊に通達。現時刻を以て警戒態勢から臨戦態勢に移行。
UN空軍並びに国連太平洋艦隊に作戦開始を通達。予定通り北極上空にて敵を捕捉」
ミサトの指示のもと各部隊に命令が発せられていく。無論ミサトは遠慮はしない。ネルフの権限のもと使えるものは何でも使う。
<北極圏上空>
「ブラボーリーダーより各機へ」
UN空軍の隊長機から各機へ作戦内容の確認と指示が通達される。
「…白熊共をたたき落とす。終わったらさっさとトンズラするから遅れるな」
『了解!!』
「攻撃開始!」
敵エヴァンゲリオンを輸送する大型輸送機4機。
エヴァンゲリオンに対して通常兵器で攻撃を仕掛けるような馬鹿はいない。
その考えはあながち間違いとも言い切れない。だがその固定観念があったため対応が遅れることとなった。もっともそうでなくても所詮は輸送機、戦闘機の群から逃げられるはずもない。しかも、戦闘機の数は軽く100機を越え、その翼を離れた空対空ミサイルの総数は500発を越えていた。
「UN空軍の攻撃が行われました」
「戦果は?」
「輸送機全機撃墜。敵エヴァもATフィールドの展開が遅れたため、軽微ながらも損傷を与えた模様です」
オペレータの声にも若干うれしさが混じっている。だがミサトは冷静だった。
「…贅沢は言わないわ。少しの間だけじっとしててくれれば十分よ」
ミサイルの一斉発射を終えた戦闘機部隊はさっさとその場から逃げ去った。どだい起動したエヴァの敵ではないし、ミサトの狙いはあくまで足止めである。一機の損害もなく彼らはそれぞれの基地へ帰り着けた。
エントリープラグ内のカヲルの表情が険しくなる。彼の人生において数えるほどしか出したことのない表情だ。
「…違う?どういうことだ、これは」
焦りとも言える表情を浮かべるカヲル。プラグ内には刻一刻と状況の推移が伝えられる。だが、カヲルはその一切を無視した。
しばしの時間を置いて結論が導き出される。
「そうか、そういうことか…」
カヲルはリツコ宛に秘匿回線で報告を送った。
「…なるほどそういうこと」
カヲルの報告を受け取ったリツコは納得がいったという風に頷いた。
カヲルの提案にそって指示を出す一方、MAGIにカヲルの推測を分析させる。
すぐに返ってきた回答はカヲルの推論を支持していた、
「………」
無言のままミサトが視線で尋ねる。
「後で話すわ。…いろいろと謎が解けてきたみたいよ」
そう言うとリツコは微かに唇の端を持ち上げた。
「ひとまずは葛城さんの予想通りですね」
日向が状況を確認しつつ言った。
敵エヴァは旧北極の大地の上で立ち往生している。ダミープラグといえど命令がなければ動けない。ダミープラグに何度も複雑な命令を出せないのは今に始まったことではない。もともと第三新東京市近くでエントリープラグを挿入し命令を発するつもりだったのだろう。UN空軍の奇襲にエントリープラグの挿入が間に合っただけでもマシと言うものだ。無論ここでプラグごと破壊できればミサト達の苦労も減るのだがミサトはそこまで幸運を当てにしていなかった。
…幸運は後でまだまだ必要なのよ
「…以前と同じ状況なんて何一つないのに考え無しね」
リツコが辛辣に敵を批判する。『無様ね』と今にも口に出しそうだ。
「………」
ミサトは無言で太平洋艦隊及び旧北極海周辺の国連軍基地の報告を見ている。
「太平洋艦隊及び各基地の準備整いました!」
青葉の報告にマヤの報告がかぶる。
「敵エヴァ各機主翼を展開!離陸する模様です!」
ミサトは静かに言った。
「発射」
かつて弐号機と第六使徒ガギエルとの戦いでぼろぼろになった空母オーバー・ザ・レインボー。
そのときも無事だった艦橋で太平洋艦隊司令官はパイプを吹かしていた。
「…ふ、やりおるわ。さすがはあの女指揮官か」
つぶやきは副長の報告にかき消された。
「発射命令を確認!!」
「目標に向け全弾発射!!」
艦長はパイプを置くと叫んだ。
彼の乗る空母から、巡洋艦から、太平洋艦隊にあるありとあらゆるミサイル搭載艦から煙を噴きつつ弾道弾が空に上っていった。
…ここまでが命令。そしてここからはこちらの独断だ。
「進路変更!!全艦最大戦速!!新横須賀に進路をとれ!!」
太平洋艦隊は黒雲立ちこめる日本へと舳先を向けた。
スクリーン上で旧東京の太平洋艦隊及び北極海周辺の国連軍基地からいくつもの軌跡が北極に向かって飛んでいく。その軌跡の集束点に向かって敵エヴァンゲリオンを表すマーカが接近していく。
「着弾まで残り2分15秒」
「MAGIによる軌道修正問題なし」
ミサトはただ報告を聞くだけだ。リツコは飲みかけのコーヒーの入ったマグカップを置くとつぶやいた。
「久しぶりに地図を書き換えなければね」
N2弾頭を搭載した86発の弾道弾はほぼ同時に北極に到達した。
着弾点は敵エヴァンゲリオン4機の現在位置。
すさまじい閃光と衝撃波が北極の大地を震撼させた。
「目標は?」
ミサトは冷静に確認した。
「…駄目です。まだ確認できません」
「急いで」
「はっ!」
「葛城一佐!」
日向が手元のモニターを示す。
そこには太平洋艦隊の現在位置と予想進路が表示されていた。
「………しょうのない人達ね〜」
戦闘開始以来初めてミサトの顔に笑みが浮かぶ。それを見てほっとする日向。
「帰れって言ったって聞かないでしょうからMAGIに誘導させて。支援砲台代わりにこきつかってあげるわ」
「わかりました」
「目標を再度確認!!」
「映像を主モニターに回します!」
「分析急いで!」
「はい!」
ミサトは再び冷静な軍人の顔に戻った。
リツコが簡潔に報告を入れる。
「伍号機、七号機、八号機エントリー完了。いつでもいけるわ」
「………わかったわ」
<二子山仮設砲台>
大粒の雨が降り続く山の頂上。
すでに雨が川となって流れ出している。
かつて第5使徒ラミエルを撃破すべく初号機と零号機がここに立った。
今、ここに再びエヴァが立つ。
戦自研試作型陽電子砲野戦式改…実際は改がもう一つつくが紛らわしいので使われない。手っ取り早くポジトロンスナイパーライフル改とも呼ばれる。
元の部分はともかく今回の設計は全てネルフなので改を取ることもある。
何はともあれかつての電源設備が今度はネルフ本部に向かって設置されている。
電源は七号機。そう、改修中のエヴァ七号機である。起動した七号機のS2機関から絞り出せるだけのエネルギーを取り出して陽電子砲に充填、発射する。
射手はカヲルの乗るエヴァ八号機。アスカの伍号機は第三新東京市で待機している。
<発令所>
「ま、ミサトらしいといえばミサトらしいわね」
リツコが準備を監督しながら言った。
いつもなら『何が〜?』と答えが返ってくるのだがミサトは無言だ。
仕方がないのでリツコも黙り込む。
…使えない七号機を発電所代わりにして陽電子砲を使うなんてね。
ミサトならではの発想の転換だ。
「分析でました!」
「………」
「拾号機並びに拾弐号機の損害は軽微。活動に支障はありません。この二機が先行して接近中。次に拾壱号機、構成部位の5〜10%の消去に成功。自己修復がある程度終了したためたった今移動を開始しました。本所到着時には修復を終えていると思われます」
「拾参号機は?」
「構成物質の20%前後の消去に成功、現在自己修復中。移動開始には最低でも数時間は要するかと」
「…ミサト」
無言のミサトを見やるリツコ。
「…とりあえず敵の分断には成功したわね。
超長距離射撃用意、目標エヴァ拾号機!」
<八号機プラグ内>
「いや、リリンの発想には兜を脱がざるを得ないね」
つぶやくカヲル。
エヴァを打ち続ける雨の感触が肌を打つ小雨程度に感じられる。
どうやらどしゃぶりになったようだ。
『射撃用意!』
八号機の周辺で作業していた雨合羽姿の作業員達が散っていく。
『撃鉄起こせ!』
ガコン
『照準合わせ!』
カヲルの顔に狙撃用のサイトが降りてくる。
「目標の移動速度そのまま」
「高度5千メートルを維持」
「周辺海域に問題なし」
サイト内で三つのサークルが一つになる。
「照準よし」
『撃てぇ!!』
ミサトの号令でカヲルは引き金を引いた。
ドキューン!!
轟音と共に放たれた光線が黒雲を貫き標的に向かう。
パリィィィィーン!!
ガラスが割れるような音と共にATフィールドを撃ち抜いた陽電子はそのままエヴァ拾号機を貫き空を駆け抜ける。
一瞬の後、エヴァ拾号機は爆発、四散して消えた。
NEON WORLD EVANGELION
Episode20: Red as blood
「エヴァ拾号機に命中!目標は完全に消滅しました!!」
青葉の報告に沸き上がる発令所。
だがリツコは横目でミサトを見るだけだ。
以前なら「よっしゃぁ!!」などと叫んでいるところだろう。だが、まだ戦いは1/4を終えたばかりだ。
「マヤ、ライフル及び七号機と八号機の状態は?」
「陽電子砲は使用不可能です。予想数値以上の大出力だったため過負荷でエネルギーラインが焼き切れています。通常なら修復も可能ですがこの天候下では無理です。八号機は問題ありませんが、七号機が…」
「…ちょっとはりきりすぎたようね」
トウジは七号機のプラグ内で気絶していた。
「鈴原君大丈夫?」
『はぁ…なんとか』
疲れた声でこたえるトウジ。
要は気合いよ、とリツコに言われたトウジのシンクロ率は一瞬だが80%まで達した。それゆえATフィールドを貫くだけのエネルギーをS2機関から絞り出せたのである。もっともさすがにトウジは疲れ切っていたが。
「六号機での戦闘は無理かしら」
リツコが呟く。
そんな状態でないのはわかっているが戦えない者を出しても邪魔なだけだ。
「鈴原君」
『なんですかミサトさん?』
真剣なミサトの顔にかろうじて体を起こすトウジ。
「エヴァ拾号機を倒せたのはあなたのおかげよ。ありがとう」
『そんな、撃ったのは渚です』
「そうね。でも、それだけのエネルギーをひねり出したのはあなたよ」
『はぁ』
「ミサト?」
リツコはミサトが何を考えているのかわからなかった。
「だから戦いが終わったらご褒美をあげるわ」
『ご褒美、でっか?』
「そう。ご褒美にキスしてあげる」
ミサトはそういって片目をつぶった。
トウジの頭がその言葉の意味を理解するのに約2.5秒。
『キ、キス〜〜〜!?』
トウジがプラグ内で飛び上がって驚く。
「そうよ〜ん。ま、一応婚約中の身だからほっぺにだけどね」
『ほ、ほんまにほんまにミサトさんがわいに!?』
「本当よ。だから頑張って敵をやっつけてね〜」
『まっかしといてください!!』
頭を抱える発令所の面々。
『リツコさん、六号機の準備はどうでっか〜?わいはいつでもかまいまへんで〜』
突然元気になり陽気にリツコに尋ねるトウジ。
ミサトの作戦にも一人冷静なリツコは淡々と指示を出す。
「マヤ、六号機のエントリー準備よ」
「え…はっ、はい!」
「…んとにミサトは何考えてんのよ」
待機中のアスカがぼやく。そこへ移動中の八号機から通信が入る。
『ま、人心掌握術。部下の士気コントロールと言ったところかな』
相変わらずカヲルの笑顔に曇りはない。
「あんたね……いい、なんでもない」
『どうかしたのかい?』
…自分のクローンを殺して…
そう言いそうになってアスカはやめた。
その表情から察したカヲルも言葉を発さない。少なくともアスカはそう思った。
だが、カヲルの心はむしろ逆だった。
…すまないね。でも違うんだ、本当は…
「さ、そろそろ私の出番ね。あんたもさっさと合流しなさいよ」
『おや少しはアテにしてくれているのかい?』
「当然でしょ、あのぶぁかはアテにしてないけど」
『ははは、それはひどいね』
「後でヒカリに言いつけてやるわ」
『エヴァ拾弐号機を確認!!』
八号機の通信ウィンドウがさっと消え、八号機の位置を示すマーカの移動速度が速くなる。
シンジやレイと一緒に戦っていたときとは違う。だけど…こいつらは信頼できる。
『アスカ』
ミサトからの通信。
「いつでもいいわよ」
『国連軍、太平洋艦隊、戦自の火力は後続の足止めに全力を注いで。拾弐号機はウチがここで仕留めるわ』
「第三新東京市に到着前に一機を破壊か…さすがは葛城一佐といったところだな碇」
「ああ…だがここからが正念場だ。3体3になったとはいえ依然我々が不利な状況に変わりはない。3体がそろうまえにもう一機破壊したいところだが…」
「やはり、奥の手を使うしかないか…」
『目標を確認!本所直上に降下する模様です!』
「攻撃開始!何が何でも芦名湖に叩き落とすのよ!!」
『エヴァ六号機リフトに移動』
『エヴァ伍号機芦名湖岸に到達。迎撃を開始します』
「来た」
砲台からのミサイルや銃弾を受けながら拾弐号機が姿を現す。
湖岸に置かれた火器の山からロケットランチャーを選んで両肩に担ぐ。
「おーちーろっ!!」
ドン!ドン!ドン!ドン!
煙を引いて拾弐号機に向かうロケット弾。
次々に命中して爆発する。
「次!」
ロケットランチャーを放り出しパレットライフルを構える。
「さっさと降りてきなさいっての!!」
バババババババババ!!!
爆煙の中に劣化ウラン弾が吸い込まれていく。だが、拾弐号機は依然空に留まっていた。
『ギ?』
その顔がふとあらぬ方向を見たとき、白い衝撃が拾弐号機を襲った。
ドゴォォォォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!
目の前に墜落してきた固まりから思わず飛び退くアスカ。
「な、何!?」
そこに白い固まりが転がっていた。二体のエヴァである。
一方がゆっくりと立ち上がると脇にどいた。
『ふぅ。とりあえず降りてきたよ』
あっさりそう言うカヲル。
「あ、あんたねぇ…」
そう言いながらもアスカは自分の失策を認めていた。以前の戦いと違いこちらも飛べるのだ。相手が空を飛んでいるならこちらも飛べば良かっただけである。
…しっかりしなさいアスカ!
自分に気合いを入れるアスカ。
その目の前で2体のエヴァが鏡に映すように羽を収納する。
『キシャァァァッ!!』
『やれやれ』
対照的な声を出す二機。だが、やることは同じだ。
ドゴォォォ!!
お互いの拳をぶつけ合い二体のエヴァは格闘戦に突入した。
<新横須賀沖>
「駄目です!目標の進行を阻止できません!!」
副長が悲痛な叫びをあげる。
ドンッ!!
「泣き言をほざくな!!無駄口叩いている暇があったら撃ちまくれ!!」
だが、目標は太平洋艦隊の濃密な火線に覆われながらも第三新東京市に向かって進む。
「くそったれっ!!」
司令官は帽子を机に叩きつけると悪態をついた。
…我々では足止めすら満足にできんのか!?
懸命に気を落ち着けると呟く。
「…すまんな葛城一佐」
「伍号機並びに八号機、拾弐号機との白兵戦に入りました」
「まもなく六号機が到着します」
「こんのぉぉぉぉーっ!!」
『キシャァァァァーーーーッ!!』
「おっとっとっと」
戦場は混戦となっていた。はっきり言ってお互い同じ姿な分なまじ味方がいると誤認してしまう。一応、左肩にカラーリングして区別するようにはしているのだが、組んず解れつの格闘ではあまり意味がない。この点、味方を構わない敵方の方が有利である。アスカ達は素手での格闘に移っていた。敵も巨大な剣のような武器を持っていたが使えずにいる。
『敵エヴァから通信』
「引き続きカットして下さい。くれぐれも受信しないように」
オペレータに指示を出すマヤ。リツコの指示を淡々とこなす。リツコからの説明は受けていないがマヤ程の立場にいればだいたいの見当はつく。そしてその内容はマヤの精神に過度の負担を強いていた。
…なんてことを
『こりゃあきまへんで。どないしましょか?』
到着したものの手出しできず途方に暮れたトウジが言った。
………私のミスね。
唇を噛むミサト。
「アスカ、渚君。一旦距離を取って」
『『了解』』
距離をとってにらみ合う3体と1体のエヴァ。
「拾壱号機確認!!降下します!!」
「………」
「早いわね…」
リツコが時計を見る。
本当はもうしばらくUNの火力で引き留めておいて欲しかった。
…贅沢というものね。彼らは十分に健闘してくれているわ。
そう考えつつミサトは互いの位置関係を表すマーカに神経を集中した。
一段と雨足が強くなって来た。
おあつらえ向きに嵐、直に雷雨に変わる模様だ。
敵エヴァンゲリオン2機は残る拾参号機の到着を待っているのか動こうとしない。
守る側としては今の内に1機でも倒しておきたい所だ。
「………しょうがないわね」
アスカは決断した。
「渚、鈴原、合図で一斉射撃よ。渚は右、鈴原は左よ。アタシはあいつらの目がくらんでいる内に右の奴に仕掛けるわ」
「…了解したよ」
「しゃーないな」
「ミサト?」
硬い表情のままモニターの向こうで頷くミサト。
『…まかせるわ』
とりあえず膠着した場を動かさなければならない。
その点に置いて二人の見解は一致している。
六号機と八号機がライフルを構える。
伍号機がスマッシュホークを握りしめる。
「Gehen!!」
伍号機が飛びだした。六号機と八号機が発砲する。
!!
何かがカヲルの感覚を刺激した。
「駄目だアスカ!!」
伍号機を駆るアスカの耳にそれが入ったとき銃撃の爆煙を赤い閃光が切り裂いた。
「!?」
アスカが両足に激痛を感じた直後、伍号機は前のめりに地面に叩きつけられた。
「ATフィールド!?」
リツコが叫ぶ。
「アスカ!!」
「エヴァ伍号機左右脚部損傷!」
「完全に切断されています!」
「シンクログラフ反転!パルス逆流!危険です!」
「直ちにシンクロカット!!」
「駄目です!信号届きません!」
「伝達回路に異常発生!」
「だったらフィードバックを最低値に落とせ!そうすればパイロットが自力でなんとかする!」
「六号機と八号機は敵エヴァを牽制!!」
「…うかつだったわ」
ミサトは爪を噛む。
「そうね。敵がここまでATフィールドを使ってくるとは思わなかったわ。さすがはア…」
そこで口を閉じるリツコ。
くれぐれもパイロットの耳に入れてはならない事だ。
ホロビュー上に扇型に放たれたATフィールドのイメージが表示される。
「パイロットを救出!回収班急げ!」
日向が指示を出す。
『待って…アタシはまだやれるわ』
「アスカ!?」
暗くなったプラグ内でアスカは両脚の苦痛に耐えていた。
…畜生。こんなところで負けるもんか。アタシが負けてもいいのはシンジだけよ!!
「駄目よアスカ!第一、伍号機は立ち上がることさえ出来ないでしょ!?」
アスカを思いとどまらせようとするマヤ。
『あいつらと同じようにこっちもATフィールドで戦えばいいだけよ』
「そんな…」
リツコがマヤの横から口を出す。
「アスカ、あなたが伍号機でそこまでシンクロ率を高めるのは無理よ」
…シンジほどの実力がなければ。もしくは…
『でもこの状況で回収なんて不可能だと思わない?』
伍号機のまわりでは二人が懸命に残り二機をくい止めていた。
そこへとどめを刺すように報告が入る。
「じゅっ拾参号機を確認!まもなく降下してきます」
『…ほらね』
「………」
リツコとアスカのやりとりを無言で聞いていたミサトが口を開く。
「………アスカ」
『…何ミサト?』
真剣に見つめ合う二人。
「…戦えるわね?」
『…もちろんよ』
ミサトは目を閉じるとふーっと息を吐いた。
「…即刻、伍号機を放棄。可及的速やかに本部に帰還しなさい」
『ミサト!?』
「あたしを信じなさい」
ミサトはきっぱりと言った。
ミサトの心を測りかねるアスカ。
「…あなたは大事な戦力よ。無駄に転がして置くつもりなんて毛頭ないわ」
アスカはじっとミサトの目を見る。
…本気ねミサト
『わかった。出迎えよろしく』
アスカは通信を切るとエントリープラグを排出した。
LCLを吐き出すと両脚の痛みを無理矢理押さえ込んで立ち上がる。
ハッチを開けると激しい雨が顔を打つ。
手をかざして辺りを見ると戦っている4体のエヴァが見えた。
「………これはさすがにスリルがあるわね」
「拾参号機降下!!伍号機の真上です!!」
「アスカ!!」
叫ぶミサト。だがその声はもう届かない。
アスカは降下してくる拾参号機を見てはいなかった。
今、自分に出来ることをする…それだけを考え懸命に伍号機を降りる。
その頭上に拾参号機が押しのける空気の風圧がのしかかる。
「まだよ!!」
アスカは頭上に迫る白い巨人をふり仰ぐと叫んだ。
ガキーン!!
お馴染みの赤い発光現象が拾参号機を弾き飛ばす。
思わずその発生源を目で追いかけるアスカ。
「渚!?」
「強力なATフィールドが伍号機を覆っています!」
「発生源確認、エヴァ八号機!」
「信じられない出力です!弐号機、いえ初号機並の数値です!!」
「八号機シンクロ率60、65、70…依然上昇中!」
リツコの頭脳は入ってくる情報から答えを導き出す。
…まさか!?
「波長パターン青!使徒を確認!!」
衝撃的な報告をする日向。報告する彼自身が一番驚愕していた。
「
位置は…そんな!?エヴァ八号機エントリープラグ内です!!」「八号機より通信!」
「主モニターに回して!!」
ミサトの指示によりメインスクリーンの表示が切り替わる。
メインスクリーンに現れたのは銀色の髪と真紅の瞳をした少年だった。
予告
再び人類の前に姿を現した第十七使徒
その目的は何なのか
エヴァと使徒を迎えミサトはどう動くのか
一方、ネルフ本部へたどり着いたアスカは反撃を開始する
疾風怒濤の勢いで戦うアスカ
彼女は勝利をつかむことが出来るのか
次回、新世界エヴァンゲリオン
お楽しみに