【新世界エヴァンゲリオン】

 

<エヴァンゲリオン伍号機及び六号機 救援隊として派遣>

 

 

 

<…より32時間45分経過>

 

 

 

<ネルフ本部ケイジ>

 

 

 

<エヴァンゲリオン八号機>

 

 

 

<同エントリープラグ内>

 

 

 

 

『LCL注水完了』

『全回路動力伝達』

プラグ内にルーチンワークの声が響く。

彼は無感動にそれを確認する。

「了解。シンクロスタート」

プラグ内壁面の映像が切り替わっていく。

『第2次コンタクトに入ります』

『A10神経接続異常なし』

『初期コンタクトすべて問題なし』

『双方向回線開きます』

『絶対境界線まであと2.8、2.7…』

いつもの様に何の気負いもなくそれを聞く。

『絶対境界線突破』

『シンクロ率51%』

『パルス、ハーモニクス共に正常値』

『エヴァ八号機起動しました』

プラグ内の映像が安定する。

サブモニターの一つに映された発令所の様子を見る。

その視線に気付いたのか赤いジャケットの女性がわずかにうなずいた。

 

 

<発令所>

「相変わらず落ち着いたものね」

マヤが日向達に同行して中国に行っているため久しぶりに各種作業を監督していたリツコ。一通り作業が終わると後は作戦部の仕事となるので、オペレータ達に任せて表示されるデータをただ眺めるのみとなった。

「彼の場合、心理状態が通常の人間と違うから」

呟くミサト。こちらも副官の日向が中国支部に行っているためそれなりに忙しかったのだが、それもどうにか落ち着いた。

スクリーンにはリフト上に移動される八号機が映っている。

「状況は?」

ミサトが短く問う。

「周囲に動体反応無し」

「各観測所からの報告にも以上ありません」

「リツコ?」

促されたリツコが確認する。

「各国の衛星へのデータ送信状況は?」

「問題ありません。全てMAGIの監視下にあります」

「そう…いいわよ」

ミサトにうなずくリツコ。

「進路確保。水中ゲート開口」

一通りの指示を出し終えるとミサトは司令塔を振り返った。

頷いて答える冬月。

ミサトは命令を下した。

「発進!!」

「八号機湖底を通過」

「まもなく水面に到達します」

ゴポポ…

体内にたまった空気を吐き出しながら八号機は水中を進む。

「主翼展開」

水中で背中から突起が生え、それがやがて羽状に広がる。

「浮上後、直ちに離水。上昇開始」

ゴボゴボゴボ

ザパァ!!

水面を破って八号機は夜の空に舞い上がった。

 

 

「エヴァ八号機、大気圏を突破。現在衛星軌道上に待機しています」

青葉の報告にうなずくミサト。

「各衛星へのジャミングはどのくらいもつの?」

リツコの方を見る。

「ジャミングすると後始末が面倒だからMAGIの管理下においただけ。予定では12時間よ」

「目標までの所要時間は?」

「4時間05分の予定です」

ミサトはサブスクリーン上の少年に視線を戻した。

「聞いての通りよ。よろしくね」

『わかりました』

渚カヲルは微笑んだ。

 

 

 

 

【第拾八話 黒と白】

 

 

<エヴァ伍号機エントリープラグ内>

…アスカのにおいがする。

そう考えてからシンジは声を立てずに笑う。

昔、レイと機体相互互換試験をしたときも同じ様なことをつい口にしてしまったことがあった。その時レイも同じ事を言っていた様に記憶している。

「なんや、ニヤニヤして?」

トウジの声が聞こえた。

通信ウィンドウは開いたまま。プラグ内の機能は可能な限り落とされているが通信機能だけは緊急時に備えて常時開いたままになっているのを忘れていた。

「ちょっと思い出し笑いをね」

「また惣流か?」

「また、はないだろ」

「否定はできんやろ?」

そういって笑うトウジ。

「確かに…」

…結婚した、いやしようとしてる身、かな。

「………ちょっと綾波のことでね」

「………ほぉか」

綾波と口に出してもシンジの笑顔は変わらない。

少し安心するトウジ。

…ほんまセンセは損な性格しとるさかいな。

トウジ達はレイがどうなったのかは知らない。アスカもネルフのメンバーもその件については一言も口にしないので死んだのだろうと推測するだけだ。何よりリツコの娘がレイという名と聞き確信した。

もっとも事実はやや異なる。あと十年もすればトウジ達は頭をひねることになるだろう。

二人のパイロットはエントリープラグ内で休息中であった。

昨日の出動から一度仮眠を2時間とっただけで働きづめである。

その甲斐あってかなりのペースで作業は進んでいるが被害の規模も予測より大きく出動期間は1週間に延長されることとなった。

二日目の作業も現地時間午前2時に終了し二人はこれから6時まで仮眠をとることになっている。

エヴァ両機は市街地にそのまま駐機していた。非常時にいつでも対応できるようにとシンジが進言し日向も同意した。便宜上、エヴァの警備は軍の部隊が行っている。もっともエヴァに対する好感が芽生えたのか周囲に寝泊まりしている市民も多い。

 

ふと口を開くシンジ。

「トウジはさ…」

「ん?」

「委員長のどんなところが好きになったの?」

ブーッ!!

音を立ててLCLを吐き出すトウジ。

「な、何をいきなり聞くんじゃわれ!?」

顔を真っ赤にして慌てふためく。

「いや、なんとなくなんだけど」

正直に言うシンジ。

なんとも形容しがたい表情をしている。

その顔を見てなにやら毒気を抜かれるトウジ。

興奮させるのも突然なら冷めさせるのも突然だった。

…ほんま変わっとるでセンセ。

そう思いつつ答えるトウジ。

「そういうシンジは惣流のどこに惚れたんや?」

そう言われて考え込んでしまうシンジ。

…アスカの何を好きになったか?

…参った。考えたことなかったや。

何やら途方に暮れ、困り果てているシンジを見て心配になるトウジ。

「おいシンジ」

「あ、ごめん。わかんないや…」

「………ほぉか」

「ただ…」

「ただ?」

…たぶん意識するようになったきっかけは

「………強気なとこだったかも」

「………」

「………」

ふっと肩の力を抜くトウジ。

「…ま、わからんでもないわ。あいつの元気はみなを奮い立たせるもんがあるしの」

「うん」

「…ほなら、わしはもう寝るわ」

「…トウジ」

「な、何や?」

何やら慌てるトウジに笑顔で尋ねるシンジ。

「トウジは?」

「………」

「………」

「…堪忍したってくれ」

「しょうがないね」

「…うぅまたシンジに借りを作ってもうた」

「そうだね」

罪作りな笑顔を浮かべるシンジ。

…やっぱ親子やな

しみじみと思うトウジ。

碇シンジ18歳。誰が何と言おうと碇ゲンドウの息子であった。

「…ほな、おやすみ」

「うん、おやすみ」

 

 

 

 

 

 

 

「現行命令でホールド、と」

カヲルは作業を終えると目を閉じた。。

「じゃ、頼んだよ。リリンの僕」

エヴァ八号機はそのまま星の海を直進する。

「…………………………。

  …………………………。

   …………………………。

    …………………………。

     …………………………。

      …………………………。

       …………………………。

        …………………………。

         …………………………。

          …………………………。

           …………………………そう感じないかシンジ君」

そう呟くとカヲルは束の間の眠りに落ちた。

 

 

NEON WORLD EVANGELION

Episode18:  FLY ME TO THE MOON

 

 

 

…ここはどこ?

暗い水面。

映る満月。

…LCL?エヴァの心の中?それとも夢?

だが、量産機たるエヴァシリーズに人の魂は込められてはいない。

エヴァの精神もシンジの精神にここまで干渉するには至らないだろう。

…トウジも同じなのかな?

周囲を探るが何もない。

ただ、満月が映る水面が続くのみだ。

自分が水の上にいるのか水の中にいるのかそれさえもわからない。

…水、みず、ミズ、water

…血の臭いのしないただの水

ピチャン

水滴の落ちる音

…綾波!?

 

 

 

 

 

 

ガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトン

カンカンカンカンカン

窓からは夕暮れの赤い日差しのみが注ぎ、外をうかがい知ることは出来ない。

左右に座席がならんでいるのみでがらんとした車内。

乗客は一人。

学生服に身を包んだ自分だけ。

 

 

…またこの電車、か

 

シンジは苦笑すると座席を立った。

以前はただ座っているだけだったのに、我ながら大した進歩だ。

少し大人になったということかな?

 

「綾波!いるんだろ?綾波!」

 

そう呼びかけてみる。

同じ車両には誰も見あたらない。

…とりあえずは目的地を確認、かな?

進行方向と思われる側の扉に向かう。

 

 

「ちょっとバカシンジ!何こんな所で油売ってんのよ!!」

 

「アスカ!?」

慌てて振り返る。

しかしアスカの姿はない。

 

…これがぼくの精神世界だとすると、それだけアスカに会いたがってるって事かな?

 

冷静に分析しながらもつい笑いのこぼれるシンジ。

…だとすれば綾波に会えたとしてもそれも僕の願望に過ぎないのかな?

 

「相変わらず後ろ向きなんだね」

子供の声がした。

シンジは振り返らない。

「かもしれないね…そんなに簡単には変われないから。

でも無理して変わることもないと思うんだ。

たぶん、それでいいんじゃないかな?」

 

「………」

返答はなかったが微かに雰囲気が和らぎ、そして消えた。

 

 

シンジもそれなりに心理学に通じている。

これが夢だとして、どういう分析結果になるのかおもしろくなってきた。

身体の向きを変えると扉を開き足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

「おうシンジ!」

トウジ

「ようシンジ」

ケンスケ

「いーかーりー君」

委員長

「シーンジ!」

マナ

「碇君」

山岸さん

「碇シンジ君」

カヲル君

「どうしたのシンジ君」

マヤさん

「シンジ君じゃないか」

日向さん

「やぁシンジ君」

青葉さん

「おやシンジ君」

副司令

「あらシンジくん」

リツコさん

「よっシンジくん」

加持さん

「…シンジ」

父さん

「シンちゃ〜ん」

ミサトさん

「バカシンジ!」

アスカ

 

 

 

 

「クス」

シンジは笑った。

「出ておいでよ綾波」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…碇くん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プラグスーツ姿の二人は静かに満月を見上げていた。

レイは何も言わなかった。

シンジも何も聞かなかった。

たぶんそれでいいのだろう。

「時間よ」

レイがエントリープラグに向かう。

シンジはレイが続きを言うより先に言った。

「じゃ、またね綾波」

「!?」

レイがはっと振り返る。

シンジは優しい微笑みを浮かべると繰り返した。

「じゃ、また会おうね綾波」

「…………………」

シンジはレイが消えるまで待っていた。

「………………………………………………………………………………………じゃ、また」

レイはそう言うとかすかに赤くなってうつむく。

それを優しく見守るシンジ。

しばらくして顔を上げたレイは微笑んでいた。

そのままゆっくりと消えていく。

シンジは最後まで見送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Fly me to the moon

And let me play among the stars

Let me see what Spring is like

On Jupiter and Mars

In other words, hold my hand!

In other words, darling, kiss me!

Fill my heart with song

And let me sing forevermore

You are all long for

All worship and adore

In other words, please be true!

In other words, love you!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「目標を確認、これより回収作業に入ります」

既に通信は届かないのだがカヲルは気にせず報告した。

視界に映る細長い物体。

それはゆっくり回転しながら虚空を漂っていた。

「もはやリリスがいないとはいえこれを再び用いるなんて、つくづく物騒な人達だね」

そうつぶやくカヲルの顔はどこか楽しげであった。

八号機の両手ががっしりと柄をつかむ。

二つに分かれた穂先が太陽の光を受けて鈍く輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チルドレンのお部屋 −その18−

トウジ「………」

アスカ「………」

シンジ「………」

トウジ「…なんちゅうか」

カヲル「不思議な雰囲気の話だったね」

アスカ「相変わらずレイが出てくると独特の雰囲気をかもしだすわね」

シンジ「そうだね」

トウジ「おかげで話の内容まで気が回らんかったわ」

カヲル「別にシンジ君の出番は減らなかったね」

アスカ「レイが出張っているなら当然の結果よ」

カヲル「かわりにアスカ君の出番がなかったようだね」

アスカ「うるさいわね!ほっといてよ!」

シンジ「まぁまぁアスカ」

トウジ「しかしほんまにようわからん話やったな」

カヲル「原作の特徴だよ。とりあえず謎をばらまく。しかも必ずしも謎を全て解く必要はない…おや噂をすれば」

レイ 「………」

シンジ「…や、やぁ綾波」

レイ 「………碇くん」

シンジ「…な、何?」

レイ 「………何でもない。ただなんとなく碇くんの名前を呼びたくなっただけ」

シンジ「…そ、そう」

レイ 「………」

シンジ「………」

アスカ「………………」(おもしろくなさそうに足踏みしている)

トウジ「惣流、やせ我慢は体に毒やで」

アスカ「うるさいわね!!」

トウジ「…わいにあたらんでもええやろ」

カヲル「そのとおりだね」

アスカ「………アタシは公明正大をモットーにしてるのよ。ヒロインの座をもらった以上たまにはレイにもシンジを貸してあげないとフェアじゃないでしょ………」

トウジ「難儀なやっちゃな」

カヲル「君の心はガラスのように繊細で美しいね。好意に値するよ」

シンジ「アスカ」

アスカ「な、なに?」

シンジ「綾波が3人で遊園地に行きたいって」

アスカ「さ、3人で…(そ、それならいいかも…って駄目駄目!)ア、アタシは遠慮…?」

レイ 「………」(アスカの服の裾を引っ張ってプルプルと首を振る)

アスカ「………」

レイ 「………」

シンジ「アスカ?」

アスカ「しょ、しょうがないわね!あんた達だけじゃ心配だから保護者としてついてってあげるわ!」(結構うれしそう)

シンジ「うん、ありがとうアスカ」

レイ 「………」(にっこりと微笑む)

 

つづく

予告

そこはいつか訪れるべき場所だった

それは終わるために始まった

ネルフ

それは人類の最後の砦

ゼーレ

それは人類の過去の影

 

次回、新世界エヴァンゲリオン

第拾九話 薫風

お楽しみに




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