Truth Genesis
EVANGELION
M
E
N
T
H
O
L
Lesson:4
intention
「面っ!!胴っ!!!突きぃぃ〜〜〜っ!!!!」
バシッ!!バシッ!!!ズゴッ!!!!
未だ朝靄立ちこめる早朝、トウジは相田邸の庭で鬼気迫る叫び声と手製の木偶人形へ木刀を振るう炸裂音を放ってご近所迷惑を響かせていた。
余談だが、トウジが使っている木刀は、ケンスケが小学校の修学旅行で京都へ行った際にお土産で買ってきた物。
また、廃品の布団を利用して作られた木偶人形の顔部分にはケンスケが協力を得たのか、引き延ばされた実物大のシンジの顔写真が張られている。
「なあ、トウジ・・・。せめて、朝くらいはゆっくり寝かせてくれよ」
「やかましいっ!!今日こそ、男らしく正々堂々とニイタカヤマノボレやっ!!!トラトラトラやっ!!!!」
当然、発生源の相田邸に住んでいるケンスケは、この五月蠅さに叩き起こされて文句を言うが、トウジはシンジへの復讐を誓って耳を貸さない。
ちなみに、夜は夜でトウジは何気ない物音1つでシンジに怯えてケンスケへ縋り、ケンスケはここ最近ずっと安眠らしい安眠はしていなかった。
(男らしくって・・・。それなら、いい加減に家へ帰れよ・・・・・・。
それに、ニイタカヤマノボレなら奇襲だろ?・・・全然、男らしくないじゃないか)
そんなトウジに顔を引きつらせて大粒の汗をタラ〜リと流し、ケンスケは心の中で愚痴を呟いてボヤく。
「憎しみとっ!!憎しみとっ!!!憎しみのぉぉ〜〜〜っ!!!!
突きっ!!突きっ!!!突きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
ズゴッ!!ズゴッ!!!ズゴッ!!!!
だが、復讐に燃えるトウジはケンスケの心情など察する余裕もなく、居候の分際でこの後の朝食に丼飯を遠慮なくペロリと3杯も平らげた。
「本日のスケジュールは以上の様になっています。司令、いかがなさいますか?」
司令公務室に漂う重苦しい雰囲気にも、目の前でゲンドウポーズをとるゲンドウの眼光にも怯まず、己の仕事を淡々とこなす司令付け男性秘書官。
「・・・市議会の会議は冬月の方へ回せ」
「解りました。市議会の方へは冬月副司令に伺って貰います」
一方、ゲンドウは出張から帰ってきたかと思ったら過密スケジュールを言い渡され、うんざりしながらも顔には出さず冬月へ雑務を回す。
「他に何かあるか?・・・ないのなら下がれ」
「はい」
そして、ゲンドウはお前の顔など1秒も長く見ていたくないと退出を命じ、男性秘書官が気分を害した様子もなく司令公務室を出て行く。
ガチャン・・・。
「司令、これが留守中の報告書です」
男性秘書官が司令公務室の扉を閉めると、入れ替わる様に黒服でサングラスの司令室付け秘密諜報部部長が入室し、ゲンドウへ書類の束を渡した。
ちなみに、この秘密諜報部とはシンジがこの街へ来た後に結成された部署であり、存在はネルフ内でも非公開とされるゲンドウ直属の諜報部。
その業務は主にレイとリツコの護衛ではあるが、それは単なる建て前で本音は2人へのシンジの動向を探る為にゲンドウが作った組織である。
「ああ・・・・・・。むっ!?これはどういう事だ?」
「それは、ファーストがサードと共に食事へ出かける前の様子です」
書類を数枚ほど捲って、ゲンドウは貼付されている着飾った私服姿のレイの写真に衝撃を受けて尋ねると、黒服は冷静に写真の状況説明を返した。
バンッ!!
「レ、レイがシンジと食事だとっ!!ど、どういう事だっ!!!」
「ど、どういう事だと言われましても・・・。お、恐らく、それなりのレストランでの食事ですからデートではないかと?」
するとゲンドウはいきり立って席も立ち上がりながら拳で机を叩き、黒服は初めて見るゲンドウの感情を表した姿に驚き戸惑って茫然と目が点。
「馬鹿なっ!!レイとシンジがデートだとっ!!!お前は何を言っているっ!!!!」
「で、ですが、どう考えてもデートとしか見えませんが・・・。そ、それにファーストは明らかにサードへ好意を寄せていますし・・・・・・。」
その説明に納得のいかないゲンドウは、黒服をビシッと指さして怒鳴り、黒服は只でさえも鋭いゲンドウの睨み100倍を受けて思わず一歩後退。
「嘘だっ!!お前は嘘を言っているっ!!!私のレイに限って、そんな事はあり得んっ!!!!そうだ、あり得んのだっ!!!!!」
バンッ!!バンッ!!!バンッ!!!!
「し、しかし・・・。し、司令・・・・・・。」
だが、ゲンドウが怒りもあらわに机を拳で3連打すると、黒服は体をビクッと震わせて後ずさるのを止め、その場に恐怖で固まる。
「しかしも、かかしもないっ!!私がそうだと言ったら、そうなんだっ!!!解ったかっ!!!!」
「・・・わ、解りました」
遂にはゲンドウの意味不明な至上命令が出され、黒服は大粒の汗をタラ〜リと流しながらも否定する事が出来ず頷いた。
「うむ、解れば良い・・・って、これは何だぁぁ〜〜〜っ!!」
「な、何だと言われましても・・・。さ、先ほど報告にあった食事の帰り際、ファーストとサードが公園でキスしているところの写真ですが?」
黒服が頷いた事によりやや落ち着きを取り戻したゲンドウだったが、次のページにあったシンジとレイのキスシーンの写真にビックリ仰天。
「ヤック、デカルチャー・・・。キース?キースとは何だ?」
「キ、キースではなく、言葉を伸ばさないでキスです・・・。ほ、他にも、口づけ、接吻、ベーゼとか呼び方は色々ありますけど・・・・・・。」
ゲンドウは驚きのあまり肩をブルブルと震わせて意味不明な言語を使い始め、黒服がゲンドウの言葉を訂正しつつ丁寧に追加説明を加える。
「何だとっ!!では、お前はレイとシンジがキスをしていたとでも言うのかっ!!!」
「は、はい・・・。そ、それ以外の何物にも見えませんが・・・・・・。」
「うぬぬぬぬ・・・。葛城一尉は何をやっているっ!!こんな夜遅くに中学生が外を出歩いていたら危険だろうがっ!!!
何の為の保護者で監視でチルドレン統括の作戦部長だっ!!このままではレイが不良の道へまっしぐらではないかっ!!!馬鹿もんっ!!!!」
その途端、ゲンドウは写真から顔を上げて怒鳴り散らすが、黒服に現実を説かれて写真へ視線を戻し、怒りのやり場を求めてミサトへ向ける。
「わ、私にそう言われましても・・・。そ、それに、この時の時間は午後8時前ですよ?い、今時の中学生なら当たり前ではないでしょうか?」
「ええい、うるさいっ!!お前では話にならんっ!!!葛城一尉を呼べっ!!!!葛城一尉をっ!!!!!」
「は、はいっ!!た、只今っ!!!」
とばっちりを喰らった黒服はゲンドウを静めようとするも10倍の叱責を返され、ゲンドウの命を受けて司令公務室を一目散に駈け出て行く。
タッタッタッタッタッタッタッタッタッタッ!!バタンッ!!!
「おのれぇぇ〜〜〜っ!!シンジめぇぇぇ〜〜〜〜っ!!!許さん、許さんぞぉぉぉぉ〜〜〜〜〜っ!!!!」
十数分後、ゲンドウはミサトの代理でやって来た日向を詰問し、ここ数日ミサトが無断欠勤している事を知るのにさしたる時間はかからなかった。
ガタン、ゴトン・・・。
ガタン、ゴトン・・・。
ガタン、ゴトン・・・。
ガタン、ゴトン・・・。
ガタン、ゴトン・・・。
ガタン、ゴトン・・・。
この街に住む市民にとって重要な足とも言える第三新東京市を走る環状線。
お昼が過ぎても立ち客がポツリポツリと存在し、それなりの乗客率で混み合っている車内。
「んがぁぁ〜〜〜っ!! んがぁぁ〜〜〜っ!! んがぁぁ〜〜〜っ!!
ふぅぅ〜〜〜・・・。 ふぅぅ〜〜〜・・・。 ふぅぅ〜〜〜・・・。」
そんな中、ミサトは本日も相変わらず1シートをまるまる占有して寝そべり、豪快なイビキを車中に響かせていた。
そして、ミサトの周囲には本日も屍達が死屍累々と転がり、乗客達はミサトを避けて車両前後に分かれている。
「んがぁぁ〜〜〜っ!! んがぁぁ〜〜〜っ!! んがぁぁ〜〜〜っ!!
ふぅぅ〜〜〜・・・。 ふぅぅ〜〜〜・・・。 ふぅぅ〜〜〜・・・。」
昨日と全く変わらぬその光景、本日も夕方まで続くかと思われたその光景だったが、変化は突然に、唐突にやってきた。
『新秋葉原、新秋葉原・・・。お出口、左側に変わります』
プシューー・・・。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
電車が駅に到着して扉が開くと同時に、電車へゾロゾロと入ってきた異様な黒服でサングラスの一団に乗客達はビックリ仰天。
しかし、黒服達は周囲の反応など気にする様子もなくミサトを静かに取り囲み、乗客達がこれから何が起こるのだろうと興味津々な視線を向ける。
プシューー・・・。
「ネルフ保安諜報部の者です。葛城一尉、あなたを保安条例第24項・修正12案の適用により本部までお連れします」
扉が閉まって電車が走り出すと、ミサトの正面に立つ黒服が厳かに言い放つが、寝ているミサトには当然ながら全くの効果なし。
「おい、丁重にお連れしろ」
「はい」
すると黒服は脇に控えていた部下へ命じ、部下がミサトを起こそうとミサトの肩へ手を置いたその時。
「んがぁぁ〜〜〜っ!!」
ボグッ!!
「ぶべらっ!!」
垂直直下よりまさかの右アッパーがミサトから放たれ、不意を突かれた部下はその勢いに足を宙に浮かせた後、見事なくらい後方へ吹き飛んだ。
「「「「「「「「「「あわわわわ・・・。」」」」」」」」」」
「か、葛城一尉、あなたがあくまで抵抗するなら・・・。こ、こちらもそれ相応の手段を取らせて貰いますが・・・。よ、よろしいですね?」
あまりに問答無用な仕打ちに、たちまち他の部下達の間に動揺が走り、現場を取り仕切る黒服は声を震わせながらも気丈にミサトへ警告する。
「よし、次・・・って、何だ、それは?」
だが、寝ているミサトからはやはり返事がなく、黒服は次なる部下にミサトを起こす様に命じるが、その部下は必死に首を左右に振って任務拒否。
「仕方ないな・・・って、お前もか?
じゃあ、お前は?・・・お前は?・・・お前は?・・・お前は?・・・お前は?・・・お前は?・・・お前は?・・・お前は?・・・お前は?」
黒服は不甲斐ない部下に溜息をついて次なる部下へ命じるも、その部下にも首を左右に振られた上、残る全員にまで任務を拒否されてしまう。
「だったら、誰がやるんだ・・・って、え゛っ!?お、俺っ!!?」
腰抜け揃いの部下達に呆れて尋ねると、黒服は部下達から一斉にビシッと指さされて更に驚き尋ね、部下達はようやく首をウンウンと縦に振った。
「う゛・・・。わ、解った・・・。か、葛城一尉、起きて下さい。か、葛城一尉」
「んがぁぁ〜〜〜っ!!」
ボグッ!!
「ぐんばっ!!」
部下達の手前、退く事など出来ない黒服はミサトへ恐る恐る手を伸ばすが、先ほどの部下の二の舞を喰らって床に轟沈。
「「「「「「「「「「あわわわわ・・・。」」」」」」」」」」
またもや起きた惨劇に戦慄して部下達はミサトから後ずさるが、この指示がゲンドウから出ている直接指示だと言う事を思い出して踏み止まる。
その後、部下達はスタンガンの使用を決意して気絶したミサトを何とか捕獲するも、この捕獲劇に半数以上の犠牲者を強いられた。
ガタン、ゴトン・・・。
ガタン、ゴトン・・・。
ガタン、ゴトン・・・。
ガタン、ゴトン・・・。
ガタン、ゴトン・・・。
ガタン、ゴトン・・・。
「そうですか。そんな事が・・・。ミサトさん、出張じゃなかったんですか・・・・・・。」
「ええ、今は無断欠勤を理由に営倉へ入れられているわ・・・。でも、さっき会ってきた様子だと、仕事から逃げたと言うより家出と言うべきね」
誰もが自由を謳歌する放課後、シンジはアキからのデートの誘いを断り、チルドレンへ義務付けられている定期検診の為にネルフへ来ていた。
「そうですよね。ミサトさんもまだまだ29歳・・・。人類の存亡を背負わせるには、やっぱり酷ですよね」
腕を組んで壁に寄りかかるシンジは、リツコが推察したミサト家出説を真っ向から否定してとぼけ、己のミサト重圧仕事逃亡説に深い溜息をつく。
「あなた・・・。それ、本気で言ってる?」
「はい、僕はいつでも本気ですよ?」
一拍の間の後、リツコはレイを検診するデーターの映るモニターからシンジへ白い目を向けるも、シンジはキョトンと不思議顔で首を傾げた。
「悪魔ね。まるで・・・。」
「おやおや、ミサトさんとマヤさんを売った人に悪魔呼ばわりされるなんて心外ですね。僕、ちょっと傷ついちゃったなぁ〜〜・・・。」
(っ!?・・・き、気付いているの?も、もしかして・・・。)
こいつに何を言っても無駄だと悟り、リツコは再び視線をモニターへ戻すが、シンジの言葉に驚いて勢い良く視線をシンジへ戻そうとしたその時。
「ちょ、ちょっと止めなさいっ!!な、何するのっ!!!」
「はい、これ・・・。プレゼント」
バラバラバラバラ・・・。
椅子に座るリツコの背後へ音もなく忍び寄ったシンジが、肩から両手を回してリツコへ抱きついた後、机の上に盗聴器を十数個ほどばらまいた。
「・・・な、何かしら?こ、これ・・・。(マ、マヤ、ドジったわねっ!!)」
「いけませんねぇ〜〜。プライベートを覗こうなんて・・・。それとも、リツコさんは覗きが趣味なんですか?」
「ち、違うわよっ!!」
見覚えが有りすぎる盗聴器にリツコは大粒の汗をタラ〜リと流して焦り、シンジのなすがままに頬を優しく撫でられまくり。
「それで、マヤさんからは何か聞けましたか?僕の事を・・・。」
「・・・な、何の事かしら?」
「まあ、何にせよ人選を誤りましたね。だって、マヤさんの性格でさりげなく誘導尋問をさせようなんて無理ですよ」
「は、話が見えてこないわね・・・。そ、そんな事を私に聞かせてどうするつもりかしら?」
しかも、次々とシンジの口から発せられてくる言葉に、リツコは汗をダラダラと流して固まり、シンジに胸を揉みしだかれるのも許してしまう。
「別にそんな事をしなくても、リツコさんなら幾らでも教えてあげるに・・・。色々と何でもね?」
「ほ、本当っ!?な、なら、教えてっ!!!
こ、この前の戦いの時、初号機のシンクロ率は400%に達していたわっ!!そ、それなのに何故あなたは平気でいられるっ!!?」
だが、シンジが魅力的な提案をすると共に解凍し、リツコが目を輝かせて顎をリツコの肩に乗せるシンジの方へ顔を勢い良く向けた次の瞬間。
「・・・400%?違う、違う。あれは1600%ですよ」
「せ、1600%っ!?ど、どういう事・・・。んんん〜〜〜っ!!?」
シンジに後頭部を固定された上、喋り開いている唇に唇を重ねられ、リツコは目を最大に見開いてビックリ仰天。
余談だが、ネルフのシンクロ理論値としては400%が最上限であり、シンクロ率が400%に達すると同時に測定値が振り切ってしまう。
もっとも、過去の実例により401%以上の数値は必要としない為、401%以上の測定値を作る必要性がなかった。
何故ならば、400%を越えると言う事は自我の消失であり、即ち肉体がエントリープラグ内でLCLに分解する事を意味しているからである。
それにも関わらず、シンジは1600%をマークしておきながら目の前に存在しており、リツコがこの事実に驚かずして何に驚けと言う話。
但し、今現在リツコが驚いている理由はそれとは違ったりする。
「んんんっ!!」
ジタバタッ!!
「んんんっ!!」
ジタバタジタバタッ!!
「んんんっ!!」
ジタバタジタバタジタバタッ!!
すぐさまシンジは猛烈な口撃を開始し、リツコは手をバタバタと藻掻かせるが、シンジによって両脇から腕を入れられてあっさりと拘束される。
「んん〜〜っ!!」
ジタバタジタバタッ!!
「んんん・・・。」
ジタ、バタ、ジタ、バタ。
「んんっ・・・。」
ジタ・・・。バタ・・・。クテッ・・・・・・。
しばらくすると、リツコはあれよあれよと大人なしくなってゆき、最後には脱力して拘束されながら必死に藻掻かせていた両腕をダラリと下げた。
「フフ・・・。素敵です。リツコさん」
「ダ、ダメ・・・。そ、そこはダメ・・・。や、止めて・・・。ダ、ダメよ・・・・・・。」
それを合図にシンジは唇を離して右手を下へ下へ伸ばし、何処がダメなのかは全くの謎だが、リツコが瞳を潤ませて首を左右にイヤイヤと振る。
「そうですね。止めておきましょう」
「・・・えっ!?」
するとシンジは意外にもリツコの願いを聞き入れて手を戻し、リツコは驚きながらも捨てられた子犬の様に悲しそうな表情をシンジへ向けた。
「だって、あそこで睨んでいる人がいますから」
シンジはそんなリツコをクスリと笑った後、自分達の前方にあるガラス窓を指さし、リツコはガラス窓へ視線を移してビックリ仰天。
「レ、レイっ!?」
「うぅぅ〜〜〜・・・。うぅぅ〜〜〜・・・。うぅぅ〜〜〜・・・。うぅぅ〜〜〜・・・。うぅぅ〜〜〜・・・。」
そこではリツコに存在を忘れ去られたレイが、検査室と管制室を仕切るガラス窓に顔をへばり付け、タコ口になってリツコを睨んでいた。
「綾波、CTスキャンの途中で勝手に出て来ちゃダメじゃないか?あとそんな風に口を付けていたら、本当にそんな口になっちゃうよ?」
「うぅぅ〜〜〜・・・。だって、碇君・・・。赤木博士と・・・。うぅぅ〜〜〜・・・。うぅぅ〜〜〜・・・。」
シンジはリツコから抱擁を解いて、クスクスと笑いながらレイに歩み寄って注意するが、レイは顔をガラス窓にへばり付けたまま唸りまくり。
「それに・・・。胸、隠したら?丸見えだよ?」
コン、コン・・・。コン、コン・・・。
しかし、シンジがガラス窓に潰された控えめなレイの胸の中心にあるピンク色の突起をガラス越しに人差し指で叩いた途端。
「っ!?」
(レ、レイが照れている・・・。あ、あのレイが・・・。そ、それにさっきのは嫉妬・・・。な、何があったの?こ、この2人に・・・・・・。)
レイは何事かと顔を下へ向けた後、慌てて胸を両腕で隠してしゃがみ込み、リツコはその見た事もないレイの仕草に驚愕して目を見開く。
補足だが、CTスキャンはブラジャーを付けているとブラジャーのワイヤーが映って撮影の意味がない為、今現在のレイはショーツ一枚の姿。
(・・・はっ!?そう言えば、レイが今日着けている下着は色物・・・。いつの間にこんなのを着ける様になったのかしら?
しかも、この娘の場合、肌が白い分だけ黒が良く似合うじゃない・・・。くっ!!何か凄く悔しいわっ!!!レイ、負けないわよっ!!!!)
同時に、ふとリツコは本日レイが着用している下着はアダルトな雰囲気を醸し出す黒の下着と気付き、何やら女の嫉妬心をメラメラと燃やす。
ちなみに、レイが本日着けている下着は、最近のレイの愛読書である黒いカバーの文庫本小説シリーズ『黒い誘惑』を参考にしたらしい。
「それじゃあ、そう言う事で僕はマヤさんの所へ行かないといけないんで」
「ええ、解ったわ・・・って、どういう事よっ!!ちょっと待ちなさいっ!!!」
レイがいる以上はリツコとの続きは望めず、シンジが残念そうに部屋を出て行こうとするが、リツコが慌てて我に帰ってシンジを呼び止める。
「・・・あれ?物足りなかったですか?」
「ち、違うわよっ!!わ、私の話はまだ終わってないし、あなたの検査だってまだしていないでしょっ!!!」
「まあ、それはまた今度と言う事で・・・。じゃ」
プシューーー・・・。
応えてシンジは振り返ってニッコリと微笑み、リツコがシンジの言葉に怯んだ隙を狙って、笑顔のまま手を振ってまんまと部屋からの脱出に成功。
プシューーー・・・。
「くっ・・・。いつも、いつも、どうして私があんなガキに・・・・・・。」
扉が閉まると共にシンジの笑顔も消え、リツコは毎度の事ながらシンジに手玉を取られっぱなしの悔しさに奥歯をギリリと鳴らす。
「・・・やっぱり、ばーさんは用済み」
「レイっ!!何か言ったっ!!!」
「いえ、何も・・・。」
それに呼応するかの様に検査室の高性能マイクが呟き声を拾い、リツコが鋭い視線を検査室へ向けると、レイは何食わぬ顔でプイッと背けた。
「シンジくぅぅ〜〜〜ん♪」
「あっ!?丁度、良かった。今、僕もマヤさんの所へ・・・。」
ネルフの通路を歩いていると、後方よりマヤの呼び声がかかり、手間が省けたとシンジが笑顔で振り返ったその時。
「うきゃっ!?」
ドッシィィーーーンッ!!
こちらへ向かって駈けていたマヤがいきなり何でもない所で躓き、持っていたファイルから書類をこぼし落としながら前のめりに転んだ。
「だ、大丈夫ですか?(あ、相変わらず、器用なんだか、不器用なんだか・・・。こ、こんな所で転ぶなんて、かなり難しいんじゃないか?)」
「・・・い、痛いのぉ〜〜」
シンジは顔を引きつらせながら今来た道を戻ってマヤへ手を差し伸べ、マヤがぶつけたらしい鼻を手でさすりながら涙目で起き上がる。
「さあ、早く拾いましょう。他の人の迷惑になりますからね」
「うん♪・・・でね、シンジ君。今日の夕飯は何が食べたい♪♪」
それでも、散らばった書類を一緒に集めてくれるシンジの優しさに触れ、マヤはすぐに笑顔を取り戻して夕飯のリクエストをシンジへ尋ねた。
「あれ、聞いてませんか?ミサトさんが帰ってきたんですよ?」
「・・・う、嘘っ!?」
応えてシンジはキョトンと不思議顔を向け、マヤは衝撃の事実を知って茫然となり、指の力が緩んで集めた書類を再び床に落としてしまう。
「いや、本当」
「・・・う、嘘っ!?」
「だから、本当ですって」
「・・・う、嘘っ!?」
「僕が嘘を言っているとでも?マヤさんは僕の言う事を信じてくれないの?」
「そうじゃない、そうじゃないんだけど・・・。そんなぁぁ〜〜〜・・・・・・。」
シンジの言葉が信じられず再三に渡って尋ねるが、シンジに3度もダメ押しされ、マヤは夢の新婚生活が終わった事に瞳を涙でウルウルと潤ます。
「まあまあ、これっきり会えなくなる訳じゃないんだから・・・。それにネルフへ来れば、いつでも会えるでしょ?」
「それはそうだけど・・・。でも、ネルフへ来た時だけなの?」
シンジは苦笑しながらマヤを励ますも、マヤは自分ほど落ち込んでいないシンジの態度が寂しくて俯き、拗ねた様にシンジへ上目づかいを向けた。
「やれやれ、困ったなぁぁ〜〜〜・・・って、そうだっ!!ねえ、マヤさん?」
「・・・なに?」
するとシンジはますます苦笑を深めた後、何かを閃いたのか左掌を右拳でポンッと叩き、マヤがキョトンと不思議顔で首を傾げる。
「この前、ネルフを探検していたら、昔に破棄されたらしい非常通路を見つけたんだけど・・・。今から行かない?」
「えっ!?」
シンジは辺りをキョロキョロと見渡して人がいない事を確認すると、口をマヤの耳元へ近づけて何やら小声でヒソヒソと囁く。
「ほら、そこなら誰も来そうにないし・・・。ねっ!?」
「えっ!?えっ!!?えっ!!!?」
最初こそシンジの言いたい事が解らなかったが、すぐにマヤは意味を理解して顔を紅く染めつつも、あくまで解らないと言う態度でとぼけた。
「マヤさんってば解ってる癖にぃぃ〜〜〜」
「や、やだっ!!シ、シンジ君のHっ!!!」
ならばとシンジはマヤの耳へ熱い吐息を吹きかけ、マヤは体をビクッと震わせると、シンジの顔が見れず真っ赤に染まった顔を勢い良く背ける。
「フフ・・・。僕がHなら、マヤさんは甘えん坊さんだね?」
「も、もうっ!!し、知らないっ!!!」
何故、人気のない非常通路へ行く事がHなのかは全くの謎だが、シンジとマヤはその十数分後にネルフの監視システムから一時間ほど姿を消した。
(暗い所はまだ苦手ね・・・。嫌な事ばかり思い出す・・・・・・。)
ネルフ本部・第4隔離施設にある薄暗く狭い部屋の中、ミサトは椅子の上に膝を抱えて座り、顎を膝の上に乗せて目を瞑っていた。
(・・・そう言えば、最近ずっとあの嫌な夢を見ないわね。あいつの時だって、そんな事なかったのに・・・って、んっ!?)
ギィィーーー・・・。ガッシャンッ!!
この部屋を2重に封じる鋼鉄製の扉と金網の戸が開き、反射的に膝から顔を上げたミサトが、部屋へ射し込んできた光を眩しそうに目を細める。
「葛城一尉、碇司令がお会いになるそうです」
「・・・そう」
すると出入口に立って逆行を浴びる黒服がミサトへ部屋を出る様に促し、ミサトはのっそりと緩慢な動作で立ち上がった。
「ところでさ。そりゃあ、5日も無断欠勤したのは悪い事だと思うけど・・・。どうして、それくらいで独房へ入れられなくちゃいけない訳?」
「存じません」
ミサトは独房で目を醒まして以来ずっと不満に思っていた疑問をぶつけてみるが、黒服から返ってきたのは素っ気ない返事。
「あっそ・・・。じゃあさ、この3重の手錠は何なのよっ!!あたしゃ、A級戦犯かいっ!!!」
「それはご自分の胸に聞いてみて下さい」
続いて、ミサトが己の手首をガッチリと拘束する3重の手錠について尋ねると、黒服はやや怒気を混じらせながらも素っ気ない応えを返した。
実を言うと、この黒服はミサト捕獲大作戦を指揮していた人物であり、2番目にミサトから幻の右アッパーを喰らった人物でもある。
「はぁ?あんた、何を言ってんの・・・って、ちょっとっ!!この扱いはないんじゃないっ!!!自分で歩けるわよっ!!!!ねえっ!!!!!」
「連れて行け」
そうこうしていると、ミサトは部屋に入ってきた黒服2人に両脇を抱えられ、自分の歩調を許されずに部屋を強引に退出させられた。
「5日間の無断欠勤・・・。市鉄線の1シート私的占有、市民への恫喝・・・。前者はともかく、後者はネルフのイメージを著しく損ねる行為だ」
いつもながら重苦しい雰囲気が漂う司令公務室、手錠こそ外されたミサトは司令席でゲンドウポーズをとるゲンドウと対面していた。
また、ミサトが来る前にたまたま仕事の打ち合わせをしていたリツコが、ゲンドウの左隣に立って同席している。
「何か言いたい事はあるか?葛城二尉」
「あのぉ〜〜・・・。私は一尉なんですけど?」
ゲンドウから罪状認否の確認を問われるが、ミサトはその前にゲンドウが呼んだ自分の階級について訂正を求めた。
「何か言いたい事はあるか?葛城二尉」
(ま、まさか・・・。こ、降格なの?た、たった5日の無断欠勤くらいでぇ〜〜?・・・どうしてっ!?何故、何故っ!!?Whyっ!!!?)
ところが、ゲンドウは訂正をするどころか同じ言葉を繰り返し、ミサトはそこでようやく自分が降格した事に気付いて心の中で魂の咆哮をあげる。
「何か言いたい事はあるかと聞いている。葛城二尉」
「は、はいっ!!む、無断欠勤の件は解るのですが・・・。し、市鉄線の1シート私的占有と市民への恫喝とはどういう意味でしょうか?」
ミサトの返事がない事に、ゲンドウがやや苛立ちを含んだ声を出し、ミサトは慌てて我に帰るもゲンドウの言う罪状の意味がそもそも解らない。
「広報課を通して、そういう苦情があなた宛に何十件も寄せられているのよ」
「・・・そ、そうなの?」
「あなたも馬鹿ね。ハメを外すなら外すで、どうして制服なんか着ていたの?」
「・・・さ、さあ、どうしてだろ?」
リツコがこめかみに人差し指を置いて溜息混じりにミサトの疑問を解説するが、ミサトはやはり何の事だか解らず首を傾げた。
ちなみに、ミサトは夢遊病の様に過ごしていた家出中の記憶は大半を失っており、特にシンジの事を思い悩んで暴走していた間の記憶は全くない。
「葛城二尉、君に転属を命じる・・・。部署は資料課第六資料室室長だ」
「・・・え゛っ!?」
それでも必死に記憶を探っていると、ゲンドウから重々しい声で判決を言い渡され、ミサトは思考から戻ると共に思わず茫然と目が点。
「また、レベル3以上の施設へ立ち入りもこれ以後は禁ずる・・・。以上だ。下がれ」
「ま、待って下さいっ!!き、きっと何かの間違いなんですっ!!!お、お願いですっ!!!!い、碇司令っ!!!!!」
ゲンドウが話は終わりだと言わんばかりに退出を命じるが、慌てて我に帰ったミサトはこの明らかな左遷処分を不服として必死にゲンドウへ縋る。
「リ、リツコ、あなたからも頼んでよっ!!わ、私達、親友でしょっ!!!こ、この前、借りた1000円を返すからさぁぁ〜〜〜っ!!!!」
「ミサト、司令室はレベル4よ。早く出て行った方が良いわ」
しかし、ゲンドウの口は閉じたまま動こうとはせず、ミサトは親友であるリツコへ助力を頼むも、リツコはすげなくあっさりと断った。
「保安部、ここに不法侵入者がいる。連れて行け」
「そ、そんなぁぁ〜〜〜・・・。」
ゲンドウはリツコの言葉に呼応して机の引出から受話器を取り出し、ミサトが愕然とその場に膝を折って崩れた次の瞬間。
バタァァーーーンッ!!
(さ、さよなら・・・。わ、私の青春・・・。さ、さよなら・・・。わ、私の栄光の日々・・・・・・。)
タイミングを計ったかの様に間一髪入れず司令公務室の扉が勢い良く開き、ミサトは絶望に両手も床について頭をガックリと垂れた。
「やあやあ、すまなかったなっ!!葛城一尉っ!!!」
「・・・へっ!?」
だが、その場にいる全員の予想に反して司令公務室に入ってきたのは黒服ではなく冬月であり、ミサトが冬月の謝罪に間抜け顔を上げて振り返る。
「何事だ・・・。騒々しいぞ?冬月」
「うむ、葛城一尉が無断欠勤で処罰されると聞いてな。急いで駈けつけてきたと言う訳だ」
ここまで走ってきたのか、ゲンドウは息を乱している冬月へ怪訝そうな視線を向けると、冬月は司令席の前まで進み出て1枚の書類を差し出した。
「それなら既に済んだ・・・。問題ない」
「そうなのか?・・・だが、それは無効だな」
ゲンドウは書類を受け取りながら、冬月の訪問理由にサングラスを押し上げてニヤリと笑うが、冬月がゲンドウの判決を聞かずして異を唱える。
「・・・なに?」
「えっ!?」
刹那、司令公務室に沈黙の間が流れ、刹那後にゲンドウとミサトが驚き声をあげ、リツコが無言ながら眉をピクリと跳ねさす。
「実はだな。2週間ほど前に葛城一尉から休暇願いが出ていて判を押したのだが、ついうっかり私が管理部の方へ渡しそびれていたのだよ」
「・・・きゅ、休暇願い?」
集まった視線に応え、冬月がゲンドウへ渡した書類内容を解説するが、ミサトは身に覚えのない休暇願いにキョトンと不思議顔を冬月へ向けた。
「そうだろ?葛城一尉」
「えっ!?あっ!!?・・・は、はいっ!!!!そ、そうですっ!!!!!そ、その通りですっ!!!!!!」
すると冬月は何かを訴える様な視線を送り、ミサトはその訴えを瞬時に悟って勢い良く立ち上がり、冬月の意見をゲンドウへ必死にアピール。
「・・・と言う事だ」
「そうか・・・。だが、葛城二尉への苦情が来ているのは確かだ」
冬月はどうだと言わんばかりの視線をゲンドウへ向けるが、ゲンドウはこれっぽっちもミサトの処罰を覆そうとはしない。
何故ならば、ミサトへの処罰はレイと仲が良いシンジへの嫉妬心からきた物であり、処罰の理由など単なる口実にしかすぎないからである。
「苦情?・・・どんなのだ?無断欠勤の他に理由があるのか?」
「うむ・・・。市鉄線の1シート私的占有、市民への恫喝だ」
ならばと冬月が処罰理由について問うと、今度はゲンドウがどうだと言わんばかりにニヤリと笑った。
「何だ、それは?市民への恫喝はともかく・・・。市鉄線の1シート私的占有と言うのが良く解らんな。
第一、お前の口振りだと処罰は降格の様だが、その程度なら訓告程度で十分だろう?職務中ならまだしも休暇中なのだからな」
「むむむむむっ・・・。」
その処罰理由に思わず呆れて茫然と目が点になった後、冬月は鼻で笑って軽く一蹴し、ゲンドウも言われてみるとそうかも知れないと悩んで唸る。
もっとも、どう考えても冬月の意見の方が正しく、そもそも最初からミサトを降格するには明らかに理由が足らず悩むほどではない。
「それにそんな事を言ったら、お前だって酒に酔うとカーネルサンダースやケロヨンを抱いて道路で寝てしまう癖があるではないか?」
「「そ、そうなんですか?い、碇司令」」
これはもう一押しだと悟り、冬月はミサトの処罰理由と同等のゲンドウの悪癖を暴露し、ミサトとリツコは初めて知る新事実にビックリ仰天。
補足だが、カーネルサンダースとは某ファーストフードのマスコット店頭人形であり、ケロヨンとは某製薬会社のマスコット店頭人形である。
「う、うるさいっ!!だ、黙れっ!!!わ、私がそうなったのは今までに3回だけだっ!!!!だ、断じて癖などではないっ!!!!!」
((・・・そ、それでも、3回もあるのね))
ゲンドウは突然の冬月の裏切りに焦って弁解するも余り効果はなく、ミサトとリツコはゲンドウへ奇異な目を向けて大粒の汗をタラ〜リと流す。
「お前の奇行と葛城一尉の苦情も同じ程度なんだ。今回は不問と言う事でどうだ?」
「む、むうっ・・・。い、良いだろう」
完全にイニシアティブを握った冬月は一気に畳みかけ、ゲンドウは渋々ながらも頷いてミサトの処罰を撤回した。
「副司令、ありがとうございました」
「いや、礼には及ばんよ。それより、日向二尉に感謝したまえ。彼が頼まなければ、私が動く事はなかったからな」
「そうですか、日向君が・・・。ならば、日向二尉の分も合わせて、もう1度だけお礼を言わせて下さい。副司令、ありがとうございました」
司令公務室から副司令公務室へ場所を変え、改めて冬月から今回の件に関する訓告をミサトは受けていた。
ちなみに、副司令公務室は司令公務室とは違って幹部用個室より少し広い程度であり、室内は冬月の人柄を表すかの様に整理整頓されている。
また、来客用のソファーセットのテーブルの上には将棋盤と将棋雑誌が置かれ、冬月の趣味を表していた。
「だが、解っているな?もう2度と同じ手は碇に通じんぞ?」
「はい、解っています。今回はどうかしていました。2度とこの様な事はしません」
「よろしい・・・。では、下がりたまえ。葛城三佐」
「はい・・・って、えっ!?私は一尉ですけど?」
訓告が終わって、冬月に退出を命じられ、ミサトは部屋を出てゆこうと振り返ろうとするが、冬月が呼んだ自分の階級の違いに気付いて振り戻る。
「おおっ!!そう言えば、まだ少し早かったな」
「・・・少し早かったと言いますと?」
すると冬月はわざとらしく失言したかの様に右手で口を塞ぎ、ミサトは冬月の言葉にますます解らなくなってキョトンと不思議顔。
「うむ、実を言うとだな。前回、前々回の戦いの働きに応え、私の方で昇格を人事部の方へ推薦しておいたのだよ」
「えっ!?」
椅子に座る冬月が背を深く持たれて腕を組み、ミサトの昇格が内定している事を伝えると、ミサトは時季はずれの昇格に驚いて目を見開いた。
「多分、近日中に正式な辞令が出るだろう・・・って、どうしたんだね?昇格するのが不服なのかね?」
「いえ、光栄です・・・。光栄ですが、昇格する理由が解りません」
そのミサトの態度に昇格が嫌なのかと思い、冬月が背もたれから背を戻して机に肘を置き、ミサトの方へやや身を乗り出して不思議そうに尋ねる。
「だから、前回、前々回の戦いの働きに応えてと言ったろ?」
「いいえ、どちらの戦いも私は何もしていません。シンジ君・・・。いえ、サードの活躍による勝利です」
応えてミサトは昇進理由である第3使徒戦も、第4使徒戦も自分は何もしていないと首を左右に振り、昇格を辞退する様な発言をほのめかす。
「確かにそうだな。ネルフは使徒殲滅を目的にしている以上、最終的に使徒を倒すエヴァが、チルドレンが花形と言えるだろう。
だが、エヴァを動かしているのはチルドレンだけではない。ネルフ職員全員が協力して初めてエヴァは動くのだ。
もっとも、学者上がりの私は結果ばかりを求めていたせいか、つい最近までそれに気付く事がなかったがね。
そして、その大事な事を気付かせてくれたのが・・・。葛城三佐、君なのだよ。
そう、君が前回の戦いで言っただろ。兵士を気持ち良く戦わせてあげるのが指揮官の仕事と・・・。
そこで思ったのだよ。未知とされる使徒に対し、兵士の為に少しでも戦い易い舞台を戦闘前に整える。・・・これは地味だが凄い事だとね」
だが、冬月はミサトの意見を頷きながらも否定し、再び椅子に背を深く持たれ、ミサトの少し上辺りを遠い目で見つめて長々と語り始めた。
「君は胸を張って、この昇格を受け取って良いのだよ。葛城三佐」
「・・・副司令」
話し終わると、冬月はミサトへ視線を向けて微笑み、ミサトは冬月の話に感動しまくって瞳にちょっぴり涙をためる。
実を言うと、ネルフの前身であるゲヒルン時代から存在する技術部に比べ、ネルフ結成時より出来た作戦部はゲンドウと冬月に懐疑的であった。
何故ならば、ネルフは軍隊であるのにゲンドウと冬月が学者上がりであり、作戦部は戦自から引き抜かれた者達で主に編成されているからである。
ミサトもまたゲヒルン時代より保安部として在籍こそしていたが、やはり現場の苦労は所詮解るまいと2人に同じ様な感情を今まで持っていた。
「だからこそ、君の様な人材は得がたい。今後は今回の事の様なつまらない事はないようにな」
「はいっ!!ありがとうございますっ!!!」
「よろしい・・・では、下がりたまえ」
「はいっ!!失礼しますっ!!!」
冬月はミサトの嬉しそうな顔にウンウンと頷いて退出を命じ、ミサトは尊敬を表す最敬礼をビシッと冬月へ向けた後、振り返って部屋を出て行く。
プシューー・・・。
「・・・か、葛城三佐」
「はいっ!!何でしょうかっ!!?」
そして、扉を開けて部屋を出ようとする直前、冬月から躊躇いがちに再び声をかけられ、すぐさまミサトが勢い良く曲がれ右をして振り返った。
「う、うむ・・・。そ、そのだな・・・。え、えっと・・・。だ、だから・・・。わ、解っているな?た、頼むよ?」
「・・・はい?」
冬月はやや俯いてミサトへチラチラと視線を向けながら、何やら歯切れ悪く何かの確認を問うが、ミサトは話が全く見えてこず首を傾げる。
「い、いや、何でもないんだっ!!う、うむ、何でもないっ!!!さ、下がってよろしいっ!!!!」
「・・・はあ?では、失礼します」
それどころか、冬月は呼び止めておきながら焦った様に再び退出を命じ、ミサトは訳が解らず首を傾げたまま今度こそ部屋から出て行った。
プシューー・・・。
「・・・ひょ、ひょっとすると、この手紙は葛城三佐じゃないのか?」
扉が閉まると、冬月は懐から『お前の秘密を知っている』と書かれた紙を取り出し、第4使徒戦以来よりミサトへかけていた疑心暗鬼を深める。
余談だが、冬月のハゲ具合は額が頭頂まで繋がったタイプであり、側頭部と後頭部に関しては未だ健在を保っていた。
「いや、そんなはずはないっ!!あれはとぼけたフリをして私を試しているんだっ!!!
そうだっ!!そうに違いないっ!!!だったら、何が不満だと言うのだっ!!!!三佐程度の昇進では不満だと言うのかっ!!!!!」
しかし、すぐさま冬月は猛烈に首を左右に振って考えを振り払い、被害妄想を膨らませて抱えた頭を苦悩にガリガリと掻きむしり始める。
「・・・って、はっ!?髪がっ!!!髪がっ!!!!私の髪がぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜っ!!!!!」
一拍の間の後、冬月は自分の行動にハッと我に帰り、頭から両手を恐る恐る下ろして見ると、指の間に何本もの抜け毛が挟まっていた。
(副司令、何が言いたかったのかしら?・・・解っているな?・・・頼むよ?
何の事かしら・・・。う゛〜゛〜゛〜゛ん゛・・・。う゛〜゛〜゛〜゛〜゛ん゛・・・。う゛〜゛〜゛〜゛〜゛〜゛ん゛・・・・・・。)
副司令公務室を出て以来、ミサトは部屋を出る際の冬月の言葉と態度を怪訝に思い、歩きながら腕を組んで首を傾げて悩んでいた。
(・・・はっ!?そうか、そうに違いないわっ!!!
どうやら、碇司令とリツコはつき合っているらしいから、どうしても会議の時なんかは技術部の意見は碇司令に傾く・・・。
だから、そこで私の出番なのね。私と作戦部が副司令の意見を後押しすれば抑止力になり、碇司令の独裁を防げると言う訳か。
う〜〜〜ん・・・。あんまり派閥とかって好きじゃないんだけど、副司令なら私の事も解ってくれるみたいだし・・・。ま、良っか。
そうよね。あの碇司令の独裁に比べれば100倍もマシよ。大体、たった5日ほど休んだだけで降格の上に左遷ってどういう事よ。
全く・・・。どうして、あんな人間が司令になったのかが解らないわ。副司令の方がよっぽど司令に向いているじゃない。
・・・んっ!?もしかして、副司令は司令の座を狙っているのかしら?それで来るべき時の為に派閥を作ろうとしているとか・・・・・・。)
果てしなく長い思考の末、冬月が派閥を作ろうとしていると推察した後、ミサトが更に想像を飛躍させた次の瞬間。
余談だが、ミサトの無断欠勤に対しての冬月捌きの顛末を後にミサトから聞いた日向は、ミサト同様に冬月へ尊敬と信頼を抱くようになる。
その結果、当然の事ながら日向もミサトの冬月派閥化構想の意見に賛成し、2人は作戦部士官へ呼びかけて後に副司令派と呼ばれる派閥を結成。
これに危機を抱いた技術部は作戦部に少し遅れ、リツコを説得して後に司令派と呼ばれる派閥を結成。
こうして、ゲンドウと冬月の全く預かり知らぬ所で2つの派閥は結成され、元々犬猿の仲であった作戦部と技術部の溝は更に深まっていった。
「キャっ!?」
ドッシィィーーーンッ!!
突然、進行上につっかい棒が差し出され、不意を突かれたミサトはつっかい棒に足を引っかけ、見事なくらい顔から大転倒。
「痛ぅぅ〜〜〜・・・。」
「あっ!?すみません。葛城さん・・・。私ったら、うっかり・・・。」
顔を押さえて呻き声をあげるミサトにクスリと笑い、休憩所のベンチに座ってコーヒーを飲んでいるマヤはつっかい棒である己の足を引っ込めた。
「うっかり、なに?・・・私を転ばそうと足を引っかけた訳?マヤちゃん」
「何を言っているんですか。どうして、私がそんな事をしなくちゃいけないんですか?」
「まあ、そうよね。それも、そうよね。私の不注意だもんね」
「そうですよ。ちゃんと前を見て歩いて下さいね・・・。へぇ〜〜、ブラックのままで飲むと少しだけしょっぱいんですね」
ミサトは立ち上がりながら嫌味をたっぷり効かせた言葉を浴びせるが、マヤは何食わぬ顔でコーヒーを飲んで舌鼓を打つ。
「あら?あなたがブラックで飲んでいるなんて珍しいわね?」
「ええ、もう私も子供じゃありませんから」
一瞬怒っている事を忘れ、ミサトがいつもはミルクをたっぷりと入れるマヤがと意外そうな顔を向けると、マヤがミサトへクスクスと笑い返した。
「(何よ、その勝ち誇った様な笑みは・・・。はっ!?まさかっ!?・・・って、愚問よね。あのシンジ君なんだから・・・・・・。)
そう言えば、私が居ない間、マヤちゃんがシンジ君の面倒を見てくれていたんだって?シンジ君が相手だと結構大変だったでしょう?」
その瞬間、ミサトは昨日マヤが自分の居ない我が家へ泊まりに来た事を思い出し、シンジとマヤの間に何があったのかと探りを入れる。
「いいえ、そんな事はありませんでしたよ。シンジ君、優しくて頼りになるし・・・。
それより、聞きましたよ?葛城さん、家事をシンジ君に任せっきりだそうじゃないですか。そんな事だとお嫁の貰い手がありませんよ?」
応えてマヤは言葉前半で何故か頬を紅く染めた後、言葉後半に棘を含ませてミサトをクスリと笑った。
「ぐっ・・・。平気よ。私は家事をしてくれる人を選ぶからね(・・・やけに突っかかってくるじゃない)」
「それって、どういう意味ですか?」
痛い所を突かれたミサトは悔しそうに短く唸るも反撃を試み、マヤはミサトの言葉に眉をピクリと跳ねさせて笑顔を解く。
「さあねぇ〜〜♪」
「ぐっ・・・。(要するにこのままシンジ君を旦那さんにするって言いたいのかしら?)」
やはり作戦部長の名は伊達じゃないらしく、瞬く間に話の主導権を握ったミサトはニヤニヤと笑い、今度はマヤが悔しさに短く唸った。
「まあ、それはともかく・・・。お留守番、ご苦労様。マヤちゃん」
「いえいえ、また葛城さんが出張の時はいつでも引き受けますよ」
そして、ミサトとマヤがお互いの視線の間で火花をバチバチと散らしながら睨み合い、今正に女の戦いのゴングが鳴らされようとしたその時。
「あっ!?いたいた。探しましたよ」
「「シンジ君っ!?」」
話の渦中であるシンジが現れ、ミサトとマヤが睨み合いを解いて、揃って勢い良くシンジへ顔を向けた。
「はい、何ですか?」
「「どっちを探していたのっ!?」」
シンジは2人の間に漂う雰囲気を解っていながら、素知らぬフリをしてニッコリと微笑み、ミサトとマヤは戦いの勝利判定をシンジへ求める。
「えっ!?ミサトさん、ですけど?もうすぐ仕事も終わる時間だから一緒に帰ろうと思って」
「そう、シンジ君は私を捜していたのね(フフン♪勝ったわ♪♪)」
「(くっ・・・。負けないもんっ!!)なら、途中まで一緒に帰らない?シンジ君」
するとシンジはミサトへ軍配を掲げ、勝者のミサトは勝ち誇ってニヤリと笑い、敗者のマヤはちょっぴり涙ぐみながら敗者復活をシンジへ願う。
「あれれ?マヤさん、今日は残業じゃないんですか?」
「・・・へっ!?」
「だって、さっきリツコさんが今日は残業とか言ってましたから・・・。てっきり、マヤさんもそうなんじゃないかと思ったんですけど?」
(せ、先ぱぁ〜〜い・・・。わ、私に何か恨みでもあるんですかぁぁ〜〜〜・・・・・・。)
だが、シンジは復活させるどころか、そのままマヤを奈落の底へ突き落とし、マヤは床に両手と両膝を付いて絶望にガックリと項垂れる。
「大丈夫ですか?マヤさん・・・って、ミサトさんまで、どうしたんですか?」
「いや、ちょっとね・・・。いよいよ自分が解らなくなってきたなと思ってね・・・・・・。
(どうして、喜ばなきゃいけないのよっ!!だから、私はシンジ君の事なんて何とも思ってないんだってばっ!!!)」
シンジがそんなマヤへ不思議そうな視線を向けると、マヤの隣でもミサトが床に両手と両膝を付いて絶望にガックリと項垂れていた。
「・・・出張、いかがでしたか?」
「問題ない・・・。シナリオ通りだ」
ネルフの移動式廊下、やや後方脇に控えるリツコから話しかけられ、ゲンドウが振り向かずに応えを返す。
「では、弐号機は?」
「来週、予定通り向こうを出る」
「すると、到着は2週間後くらいですね」
だが、リツコは憤る事もなく、ゲンドウの少なげな言葉の意味を理解して会話を重ねる。
「ああ・・・。留守中、何かあったか?」
「それなんですが・・・。1つ、お話ししたい事があります」
そして、これこそがゲンドウとリツコにとっては当たり前の会話方法だった。
「トウジ・・・。本当にやるのか?」
「もちろんや。男に二言はあらへん」
夕陽が沈みかける昼と夜の狭間、ケンスケとトウジは葛城邸のあるマンション出入口の塀に隠れてシンジの帰りを待っていた。
「それを言うなら、不意打ちなんて男らしくないんじゃないのか?」
「アホ、言えっ!!これは天誅やっ!!!せやから、男らしくない事はあらへんっ!!!!」
こんな所に隠れてシンジを不意打ちしようとするトウジに、ケンスケが蔑んだ言葉をかけるが、トウジは意味不明な理論を返して胸を張る。
「はぁ〜〜?天誅ぅぅ〜〜〜?・・・何だよ、それ?シンジは天下を取る奴じゃなかったのか?」
「確かにあいつは天下を取るやろう・・・。せやけど、あいつは乱世の奸雄なんやっ!!あいつが天下を握ったら国が乱れるんやっ!!!」
ケンスケは呆れ顔で深い溜息をつくと、ますますトウジは意味不明な理論を返してきた。
「あっそ・・・。(まあ、俺は見ているだけだし・・・。シンジなら適当なところで何とかしてくれるだろう)」
「なんやねんっ!!その返事はっ!!!わしの晴れ姿やでっ!!!!」
「はいはい、そうだな。トウジの晴れ姿だもんな」
呆れに呆れたケンスケはシンジが良い感じにトウジを痛めつけてくれる事を願い、ケンスケの態度に鼻息荒くするトウジを適当にあしらう。
「その態度はなんなんやっ!!お前、やる気あんのかっ!!!ケンスケっ!!!!」
「ああ、アルアル。中国4000年の歴史アルよ・・・って、しっ!!静かに・・・。来たぞ」
そうこうしている内に、マンション前のゴミ捨て場にカモフラージュ設置したカメラが待ち人の姿を捉え、ケンスケが表情に緊張感を走らせた。
「良いか?俺が合図をするまで絶対に飛び出すんじゃないぞ?」
「お、おうっ!!わ、解っとるがなっ!!!」
その緊張はトウジにも伝わり、トウジは何があっても決して離さない様に両手をテーピング固定して持つ木刀を力強くギュッと握り締める。
(んっ!?隣を歩いているこの美人のお姉さんは誰だ?まさか、昨日一緒に風呂へ入っていたのはこの人なのか?
くぅぅ〜〜〜っ!!羨まし過ぎるぅぅぅ〜〜〜〜っ!!!あんな美人のお姉さんとぉぉぉぉ〜〜〜〜〜っ!!!!)
一方、所詮他人事のケンスケはマンションへ向かってくるシンジの隣にいるミサトに妄想力を働かせ、緊張感をあっと言う間に弛緩させてゆく。
「・・・・・・まだか?」
(しかし、シンジ・・・。お前って、何人の彼女がいるんだ?俺が見ていて解る限りでも、うちのクラスだけで3人は居るよな。絶対・・・。)
だが、トウジの緊張感は緩むどころか更に増してゆき、焦れたトウジが出撃許可を求めるが、ケンスケは小型モニターに釘付けで返事を返さない。
「・・・まだか?」
(しかも、友達同士にも関わらず、その3人の間で問題が起こる気配もない・・・。全く本当にお前は凄い奴だよ。シンジ・・・・・・。)
しばらく大人しくしていたが、トウジは先ほどの半分の時間で焦れまくって再び出撃許可を求めるも、やはりケンスケは何やら溜息をついて無言。
「まだか?」
(凄いと言えば、綾波だ・・・。あの綾波をああまで変えたのもシンジなんだろうな。恐らく・・・。)
明らかにソワソワと落ち着きのないトウジは、先ほどの更に半分の時間で焦れて苛立ち気に再度問うが、ケンスケは何やらウンウンと頷いて無言。
「おい、まだなんか?ケンスケ」
「(まあ、未だに無口は無口だが・・・。)って、トウジ、うるさいぞ。シンジに気付かれるだろ」
とうとうトウジは間を入れず出撃許可を求め、ケンスケがいい加減にしろと呆れて溜息混じりにトウジを注意したその時。
「あなた達、何か用があるんですか?そんな所に隠れていないで出てきたらどうです?」
「「っ!?」」
監視モニターに映るシンジが立ち止り、辺りに穏やかながら迫力のこもった声を響かせ、トウジとケンスケが驚愕に目を見開いて固まった。
「みろっ!!トウジのせいで見つかったじゃないかっ!!!しかも、あなた達って俺まで含まれているよっ!!!!」
「ケンスケ、腹を括れ。生まれいずる場所は別でも、死す時、死す場所は一緒・・・。これが漢の友情やっ!!」
一拍の間の後、我に帰ったケンスケは小声でトウジを怒鳴りつけるが、トウジは目をクワッと見開いて相変わらず訳の解らない理論を展開。
「知るかっ!!お前が勝手に1人で死ねっ!!!俺は嫌だっ!!!!」
「なんやとっ!!お前は親友のわしを見捨てるっちゅうんか・・・って、何するんやっ!!?ケンスケっ!!!?」
「天誅なんだろっ!!ほら、早く行けよっ!!!」
すると2人はたちまち醜い言い争いを始め、ケンスケがトウジの背中を押して、自分が逃げる為の生け贄をシンジへ捧げようとした次の瞬間。
「ふんっ!!良く解ったな・・・。おい、お前達っ!!!」
「「えっ!?」」
2人がいる別のところからシンジに応えて第三者の声があがり、思わずトウジとケンスケは動きを止めて茫然顔を見合わせる。
「ミサトさんの知り合いですか?」
「・・・さあ?私は全然知らないけど?」
そして、トウジとケンスケが頷き合って恐る恐る塀から顔を出して様子を伺ってみると、シンジとミサトが十数人の男達に前後を囲まれていた。
「シンジ君・・・。私が盾になるから、あなたは走って家に逃げなさい。そして、すぐに本部へ連絡をするのよ」
周りを囲む男達にプロの臭いこそ感じないが、何かヤバい物を感じたミサトは表情を引き締め、男達へ聞こえない様に小声でシンジへ囁いた。
「大丈夫ですよ。この人達は明らかにチンピラですから」
「なんだとっ!?」
だが、シンジは緊張感の欠片もなく男達を小馬鹿にした様にクスクスと笑い、男達の1人が憤って怒鳴り声をあげる。
「ねっ!?この程度の言葉に反応するくらいですし、普通プロなら気配を感じ取られても出てきませんよ」
「それにしたって、あなたねぇぇ〜〜〜・・・。もう少し緊迫感って物を持ちなさいよ」
シンジは予想通りのリアクションに肩を竦め、ミサトはシンジの態度を諫めながらも、己だけが緊張している事に馬鹿らしくなって緊張を緩ます。
「まあまあ、ここは僕に任せて下さい。・・・それで、僕達に何の用ですか?」
「ガキに用はない。用があるのはその女だけだ」
それでも、シンジは小馬鹿にした態度を改めず、男達のリーダー格を見定めて用件を尋ねると、その男はシンジにこの場を去る様に促した。
実を言うと、この男は昨夜ミサトに47万円弱の酒代をたかられた色男であり、仕返しをしようとミサトの目撃情報を集めて参上したのである。
「なんだ、やっぱりミサトさんの知り合いじゃないですか。なら、そう言う事で僕はお先に失礼しますね」
「ちょ、ちょっと、シンジ君っ!?そ、そりゃ、ないんじゃないのっ!!?」
するとシンジは色男の要望に応えて何事もなかった様に立ち去ろうとし、慌ててミサトが薄情なシンジの腕を掴んで捕まえ止めた。
「えっ!?だって、あの人も僕に用はないって言ってるし、ミサトさんも家に逃げろって言ったじゃないですか?」
「た、確かにそうだけど・・・。こ、この場合、そうしないのが普通でしょ?」
応えてシンジはキョトンと不思議顔で首を傾げ、ミサトが説得力のあるシンジの言葉に大粒の汗をタラ〜リと流して顔を引きつらせる。
「なめやがってぇぇ〜〜〜っ!!」
「いやぁぁ〜〜〜・・・。この手のタイプは実に単純だね」
この緊張感の欠片もない漫才劇を見せつけられ、色男は憤ってシンジへ殴りかかり、シンジがこれまた予想通りのリアクションにニヤリと笑った。
バシッ!!ドゴッ!!!
「ふぐっ!!」
そして、色男の殴りかかってきた腕を右腕で円を描く様に払い、シンジは前のめりにバランスを崩した色男の背中へ肘打ちを放つ。
バタッ・・・。
「「「「「「「「「「「「「若っ!?」」」」」」」」」」」」」
「いけないな。目標から目を離すなんて」
色男はそのまま地面に倒れ、焦った男達が思わずシンジとミサトから目を離して色男へ視線を集中させた直後。
バキッ!!ドゴッ!!!
ズガッ!!ベシッ!!!
ガキッ!!ドスッ!!!
ドバッ!!ガンッ!!!
バゴッ!!ガシッ!!!
ガバッ!!ドンッ!!!
シンジは前方にいた男達との距離を瞬く間に縮め、色男を倒した様にバランスを崩させつつ一撃を加えてゆき、男達が次々と沈黙してゆく。
バキッ!!ガキッ!!!
ベシッ!!ドンッ!!!
ドスッ!!ドゴッ!!!
ドバッ!!バゴッ!!!
ガンッ!!ガシッ!!!
ガバッ!!ズガッ!!!
前方の集団が済むと、間一髪入れずにミサトの後方にいる男達の元へ駈け、これまた同じ要領で次々と沈黙させる。
「はい、これでラスト」
ビシッ!!ドスッ!!!
「ぶべらっ!!」
終いには正に1秒1殺で十数人いた男達が全て地に伏し、その場に立っているのがシンジとミサトの2人だけと言う不思議な光景が出来上がった。
「し、知ってはいたけど・・・。シ、シンジ君って、本当に強いのね。も、もしかして、最初に帰ろうとしたのはわざとなの?」
「ええ、駆け引きって奴ですね。・・・惚れなおしました?」
あまりに鮮やかなお手並みにミサトは思わず茫然としてしまい、シンジがそんなミサトへニッコリと微笑みながらウインクを投げかける。
「ば、馬鹿っ!!な、なに言ってるのよ・・・って、危ないっ!!!」
「し、死ねぇぇ〜〜〜っ!!」
照れたミサトは顔を紅く染めるが、シンジの背後で色男がゆらりと立ち上がり、懐から銃を取り出したのを見つけて驚きに目を見開いた次の瞬間。
バァァァァァーーーーーーンッ!!
シンジが2人の声に反応して後ろを振り返り、ミサトはシンジの前に立ち塞がってシンジへ抱きつき、同時に乾いた音が辺りに響き渡った。
パチーーンッ!!
広い司令公務室に響く将棋の駒を打つ心地よい音。
「そう言えば、例の報告を読んだのだが、世界中のゼーレの研究組織が次々と何者かに襲撃されているらしいな。あれはお前の差し金なのか?」
「いや・・・。」
司令席横のソファーに座る冬月は詰め将棋の手を止めて司令席へ横目を入れ、ゲンドウポーズをとるゲンドウへふと思った疑問をぶつけてみた。
「・・・となると誰だろうな。ゼーレにちょっかいを出せるほどの組織などそうは有るまい」
「ああ・・・。」
相変わらず言葉少ないゲンドウの応えに、冬月は新たに浮かんできた疑問をぶつけるが、ゲンドウから再び返ってきた応えも言葉少ない返事。
「いや、もしかしたら内部紛争と言う可能性も考えられるな」
「ああ・・・。」
ゲンドウとつき合いの長い冬月は気にした様子もなく、己が推論した疑問についての意見を求め、ゲンドウが冬月の意見に言葉だけで頷く。
「どうする?どちらにせよ、これは我々が動く好機だ。奴等の力を少しでも削いでおいて損はあるまい」
「ああ・・・。」
「・・・って、お前、私の話をちゃんと聞いているのか?」
だが、つき合いが長いからこそ、冬月はそれが生返事だと気付き、授業中に居眠りする生徒を叱る先生の様にゲンドウを叱りつけた。
「冬月先生・・・。」
「・・・何だ、突然。お前がそう呼ぶなんて何年ぶりかな?」
応えてゲンドウは本当に冬月の事を先生呼ばわりをし、冬月が懐かしい自分の呼び名に驚いて目を見開く。
「私は人に好かれる事は苦手ですが、疎まれる事は慣れています」
「それは知っている。それにいつかお前に同じ言葉を聞いた覚えもあるが・・・。それが、どうかしたのか?」
するとゲンドウはいきなり脈絡もなく訳の解らない事を言い始め、冬月は驚きの上に戸惑いを重ねながらゲンドウの態度に興味を湧かす。
「だからこそ・・・。私にはあなたが必要なんです」
「・・・はあ?」
しかし、やはりゲンドウの言葉少ない内容では意味が全く解らず、冬月は目の前の詰め将棋より難解なゲンドウ語に頭を悩ませて首を傾げる。
「つまり、そう言う事なんです」
「うむ・・・。良く解らないが解った」
ゲンドウポーズをとるゲンドウは首だけを冬月の方へ向け、冬月は何やらゲンドウの必死の眼差しに答えを見出せないまま取りあえず頷く。
ちなみに、ゲンドウは何が言いたいかと言うと、先ほどリツコより冬月の派閥化形成の疑惑警告を受け、その確認を取っているのである。
「信じていますよ。冬月先生」
「あ、ああ・・・。(い、碇から信じているなどと言う言葉が出るとは・・・。あ、明日は雪か?)」
そこでゲンドウはようやく安心したかの様に肩の力を抜いてニヤリと笑い、冬月は再び頷きながら大粒の汗をタラ〜リと流して顔を引きつらせた。
「・・・あれ?」
いつまで経っても思っていた痛みが来ず、ミサトが不思議そうにシンジから抱擁を少し解いた。
「これ、少し借りますよ。ミサトさん」
「えっ!?あ、あなた、まさかっ!!?」
すると抱いていたシンジより愛用の銃を見せられ、ミサトはジャケット内脇のホルダーに銃がない事に知って、いつの間にと驚きに目を見開く。
「うぐぐぐぐ・・・。」
一拍の間の後、背後から聞こえてきた呻き声にミサトが振り返ると、色男が地面に膝を付いて蹲り、右手を左手で持ってブルブルと震わせていた。
その右掌には銃で撃たれたと思しき風穴が空き、その風穴からは止めどなく真っ赤な血が流れ、地面に血だまりを作っている。
「ぐわっ!!」
「あなた、解っているんですか?銃を出した瞬間に殴り合いから殺し合いへ変わった事に・・・。」
カチャ・・・。
シンジはその様子に全く顔色を変えるどころか、色男の右手を踵で地面へ踏みつけた上、激痛に顔を上げた色男の額へ銃口を押し当てた。
「シ、シンジ君っ!!や、止めなさいっ!!!」
「大丈夫ですよ。正当防衛ですからね・・・。そうでしょ?」
「えっ!?」
慌てて止めようとするが、シンジはニッコリと微笑んでミサトの後方へ同意を求め、ミサトが後ろを振り返る。
「あ、ああ・・・。そ、その通りだ」
「ダメですねぇ〜〜。護衛対象に危機が迫ったら躊躇いなく銃を撃てるくらいじゃないと・・・。もしかして、人には撃った事がないんですか?」
「じ、実は・・・。」
「それはいけませんね。早く慣れる事です」
そこにはシンジの護衛らしきネルフの黒服が銃を構えたまま固まって立っており、シンジはまだまだ甘いなと黒服へ苦笑して肩を竦めた。
「な、慣れろって・・・。そ、それはちょっち難しいんじゃない?シ、シンジ君」
「でも、いざと言う時に撃てない様では護衛になりませんよ?」
「ま、まあ・・・。そりゃ、そうだけどさ」
自信をなくして肩を落とした黒服を不憫に思い、ミサトがフォローを入れるが、シンジに正論を返され、顔を引きつらせながらもっともだと頷く。
「き、貴様・・・。お、俺にこんな事をして後悔するなよ?お、俺の親父は・・・。」
「俺の親父は何です?ヤクザの大親分とでも言いたいのかな?」
先ほどと言い、今と言い、またもや緊張感の欠片もない漫才劇を見せつけられ、憤った色男は必死に痛みを耐えながらシンジへ脅しをかける。
「そ、そうだ・・・。だ、だから、お前なんか・・・。ぐわぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜っ!!」
「やれやれ、喧嘩で負けた上に銃まで出して、それでも勝てないと解ったら、次は親の威光かい?いい大人がつくづく情けないものだね」
だが、色男はシンジに右掌を踵でグリグリと踏みつけられて言葉を封じられ、シンジが深い溜息をつきながら色男を蔑んだ視線で見下ろす。
「ぐぐぐぐぐぐ・・・。な、何だとっ!?」
「でも、確かにそうだね。使える物は立っている親でも使えって言うし、僕も親の威光を使おうかな?」
それでも、色男は激痛に脂汗を流しながらもギラつく目でシンジを睨み付けるが、シンジは全く怯まず邪悪そうにニヤリと笑い返した。
「ねえ、君もこの街に住んでいるならネルフの存在くらいは知っているでしょ?
そのネルフで1番偉いのが僕の父さんで・・・。そして、僕はそこで働く世界でまだ3人しか見つかっていない貴重なパイロットなんだ」
「・・・な、なにっ!?」
そして、シンジの口から出てきた衝撃の事実に、色男は驚愕に目をこれ以上ないくらい見開き、顔面を蒼白に変えて言葉を失う。
それもそのはず、第三新東京市は事実上ネルフの為に存在しており、ネルフに逆らう事はタブーとされているのが市民の一般認識だからである。
それなのに、この街で最も権力を持つネルフ司令の息子へ運悪く手を出してしまったのだから、色男に絶望するなと言うのが酷な話。
「シンジ君っ!!」
「これくらい平気ですよ。だって、うちのクラスメイトなら誰でも知っている事ですしね」
慌ててミサトは守秘義務に触れようとするシンジを止めようとするが、シンジは気にした様子もなくニッコリと微笑んで軽く受け流す。
「でね。ネルフは国連非公開超法規的組織なんですけど・・・。この超法規的って意味が解ります?
簡単に言うと何でも許されちゃうと言う意味なんですよ。例え、人を殺してもネルフと言う名目がある限り法律で裁く事が出来ないんです。
さて、突然ですが、ここで問題です。もし、世界に3人しかいない貴重なパイロットの命を狙ったら、果たしてその人はどうなるでしょう?」
再びシンジはミサトから色男へ視線を戻すと、ニッコリ笑顔をニヤリ笑いに変え、いきなり色男に対して問題を出した。
「はい、考える時間は5秒です。
チッチッチッチッチッチッチッチッチッチッ・・・。さあ、はりきって答えをどうぞ」
一応、シンジは5秒間のシンキングタイムを与えて解答を促すが、色男は恐怖に引きつった顔で首を左右にイヤイヤと必死に振って無回答。
「では、ミサトさん」
「えっ!?い、いや・・・。ほ、ほら、私は作戦課だし・・・・・・。」
ならばとシンジはミサトへ解答権を与えるが、ミサトは畑違いを理由に解答権をパス。
「仕方ありませんね。それじゃあ、あなた」
「う、うむ・・・。と、取りあえず、拘留して背後関係を調べるかな?」
続いて、シンジが黒服へ解答権を与えると、黒服は先ほどの名誉挽回と緊急対処マニュアルを頭に浮かべて応えた。
「う〜〜〜ん・・・。ま、その辺が無難ですね。良いでしょう。正解です。・・・では、その様に後始末をよろしくお願いしますね」
「・・・わ、解った」
少し首を傾げて考え込んだ後、シンジは黒服に正解を与えると、色男の額から銃口を外して黒服へ色男の処遇を引き渡す。
余談だが、色男はその後に拘留されるも無処罰で即日解放され、翌朝一番で色男は第三新東京市を去り、2度と戻ってくる事はなかったらしい。
「それじゃあ、一件落着と言う事で僕達は帰りましょうか。ミサトさん」
「そ、そうね・・・。」
シンジはミサトへ銃を返すと、何事もなかった様にマンションへ入って行き、慌ててミサトがシンジの後を追いかけて行った。
カァァ〜〜〜・・・。
カァァ〜〜〜・・・。
カァァ〜〜〜・・・。
カァァ〜〜〜・・・。
カァァ〜〜〜・・・。
カァァ〜〜〜・・・。
葛城邸のあるマンションと第壱中の間にある高台の公園。
「・・・シンジって、ごっつう強いんやな」
「あれは強いとかのレベルじゃないね。あれは凄いだよ」
「・・・せやな。腕っ節の強さだけやあらへんもんな」
「ああ・・・。喧嘩だけならまだしも、銃を出された上にヤクザへ向かって行くなんて普通は出来ないよな」
上空を飛んでゆくカラスの鳴き声を聞きながら、ベンチに座るトウジとケンスケは第三新東京市のビル群に沈んでゆく夕陽を眺めて黄昏ていた。
カァァ〜〜〜・・・。
カァァ〜〜〜・・・。
カァァ〜〜〜・・・。
カァァ〜〜〜・・・。
カァァ〜〜〜・・・。
カァァ〜〜〜・・・。
時たま沈黙を挟みながらも、トウジとケンスケは先ほど葛城邸マンション前で起きた事件を思い出し、お互いに魂が抜けた様な声で会話を交わす。
「なあ、ケンスケ・・・。シンジが言っとった超なんたらちゅうのはホンマなんか?」
「超法規的の事か?この前、パパのデーターをハックして怒られた時の話だと本当らしいぜ・・・。だから、トウジも馬鹿な事は止めろって」
「せやな・・・。その方がええかも知れへんな」
「そうさ、その方が良いって・・・。絶対に・・・・・・。」
その後、トウジとケンスケはすっかり夜も更け、どちらともなくおなかが空いて立ち上がるまで、そこでずっとそうしていた。
カァァ〜〜〜・・・。
カァァ〜〜〜・・・。
カァァ〜〜〜・・・。
カァァ〜〜〜・・・。
カァァ〜〜〜・・・。
カァァ〜〜〜・・・。
「おかえりなさい」
「・・・た、ただいま」
結局、家出をしても心の奥底の答えが出ないまま帰ってきた自分の家。
それでも、目の前のシンジの笑顔と誰かが待っていると言う出迎えの言葉があれば、ミサトにとってはそんな答えなど些細な事だった。
「クスッ・・・。」
「・・・な、何よぉ〜〜」
シリアスな雰囲気が流れている中、シンジが笑いを噛み殺しながらも吹き出し、ミサトが不満気に口を尖らす。
「いやね。涙が出るほど嬉しかったのかな?・・・と思ってね」
「ち、違うわよっ!!こ、これは目にゴミが入っただけなのよっ!!!」
シンジは噛み殺すのを止めてクスクスと笑い、人差し指でミサトの瞳に溜まった涙を拭い、照れたミサトは顔を紅く染めて一歩後退。
「はいはい、解ってますよ。目にゴミが入っただけですよね」
「ほ、本当なんだってばっ!!う、嘘じゃないのよ・・・って、なに?」
するとシンジはその背後へ素早く回ってミサトの背中へ両手を置き、ミサトが不思議顔を振り向かせて何事と尋ねる。
「実はミサトさんにプレゼントを用意してあるんですよ」
「えっ!?プレゼント?」
「はい、プレゼントをね」
応えて嬉しそうにニコニコと笑って、そのままミサトの背中を押して駈け行き、シンジはミサトの部屋の前で立ち止まった。
ガラッ・・・。
「・・・って、どれ?」
だが、扉を開けて部屋に入っても、プレゼントらしき物は何処にも見あたらず、ミサトが不思議そうに後ろを振り返った次の瞬間。
「フフ・・・。これ、です」
カチャンッ!!バフッ・・・。
シンジが電光石火の早業でミサトの両手を後ろに回して手錠をかけた後、ミサトの背中を突き押してミサトをベットの上に押し倒した。
「ちょ、ちょっとっ!!な、何するのよっ!!!」
「何するの・・・って、もちろん、お仕置きですよ。僕を待たせたね」
ベット端に上半身だけを俯せで押さえつけられ、お尻を突き出す形になったミサトは、起き上がれずに首だけを振り向かせて抗議の声をあげる。
「や、止めなさいっ!!ほ、本当に怒るわよっ!!!シ、シンジ君っ!!!!」
「・・・シンジ君?いけないな。ちゃんとなりきってイメージを膨らませないと・・・。シンジ様だろ?ミサト」
しかし、シンジはニヤリと笑うと、ミサトのタイトミニスカートを豪快に捲ってショーツを下ろし、自分のベルトを外して2つに折った。
「い、嫌っ!!や、止めてっ!!!ほ、他の事なら何でもするからっ!!!!お、お願いだからっ!!!!!」
「そうそう、やれば出来るじゃないですか」
「違ぁぁ〜〜〜うっ!!そういう意味じゃなぁぁぁ〜〜〜〜いっ!!!」
即座にシンジの意図を悟ったミサトは、必死に身をくねらしてシンジへ涙目で懇願するが、シンジは更に口の端の歪みを深めて逆効果。
ピシッ!!
「きゃうっ!!」
「ん〜〜〜、なかなか良い音色だよ。ミサト」
「うっうっ・・・。こ、こんな家、もう嫌・・・。うっうっうっ・・・・・・。」
ピシッ!!
「きゃんっ!!」
そして、シンジとミサトが何をやっているかは全くの謎だが、しばらくの間ずっと何かを叩く様な音とミサトが悲鳴が交互に部屋から響いていた。
「も、もう、ダメですっ!!ゆ、許して下さいっ!!!シ、シンジ様ぁぁ〜〜〜っ!!!!」
誰もが寝静まる丑三つ時だと言うのに、家の奧から聞こえてくるミサトの叫び声。
「ク、クワワワワ・・・。」
その普段の夜とは違うミサトの叫び声に、ペンペンは飼い主の危機を悟りながらも寝床である冷蔵庫から出て助けに行く事が出来なかった。
何故ならば、冷蔵庫の前には天敵である怪奇バナナ獣が置かれており、ペンペンは恐怖に冷蔵庫を出る事が出来ないのである。
ウィーーン、ウィーーン、ウィーーン、ウィーーン・・・。
「ク、クワッ!?」
それでも、ペンペンは勇気を振り絞り、時たま冷蔵庫から出ようとするのだが、扉を開けた直後に怪奇バナナ獣と目が合って即座に撤退。
「もう、ダメっ!!もう、ダメっ!!!もう、ダメぇぇ〜〜〜っ!!!!」
「ク、クワワワワ・・・・。」
ペンペンには何がダメなのか全くの謎だが、悲痛なミサトの叫び声に耳を塞ぎ、ペンペンは明日ミサトへ不甲斐ない自分を謝ろうと決意する。
「あぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜っ!!・・・・・・嫌ぁぁ〜〜〜っ!!!そんな事、言わないでぇぇぇ〜〜〜っ!!!!」
「クワワッ!!クワワワワッ!!!クワァァ〜〜〜っ!!!!」
翌朝、ペンペンは決意通りミサトへ謝るが、予想に反してミサトは実に充実した様子で謝るペンペンを不思議に思いながらニッコリと微笑んだ。
− 次回予告 −
綾波、君は何を望むの・・・・・・。
綾波、僕に何を望むの・・・・・・。
綾波、その瞳は何を見つめ、その心は何を思うの。
あのささくれた心を持っていた頃の僕に、君はこう言ったね。
僕の心の中にいる君は希望なのだと・・・。
なら、僕も君の心に住み着いて、この心を分けてあげたい。
そして、教えてあげたい。
君の心にも希望はあると言う事を・・・・・・。
Next Lesson
「レ
イ、心のむこうに」
さぁ〜〜て、この次は綾波で大サービスっ!!
注意:この予告と実際のお話と内容が違う場合があります。
後書き
今回出てきたカヲルですが・・・。
実を言うと、レギュラーとして再登場する時期はかなり早いです。
恐らく、あの娘とあの娘よりも早く登場し、アスカの次くらいで登場してくると思います。
でも、あの娘の方が早くなるかも知れません。
大体な時期を言えば、第10話前後辺りかな?
えっ!?あの娘って誰かって?
もうっ!!解っているくせにぃ〜〜(笑)
感想はこちらAnneまで、、、。
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