Truth Genesis
EVANGELION
M
E
N
T
H
O
L
Lesson:2
Beast Storm
「ちっ・・・。もう荷物が届いているわ」
既に外は闇の帳が降りて暗く、ミサトはマンションの通路の先に置かれたシンジの引っ越し荷物である数箱のダンボールに舌打つ。
「へぇぇ〜〜〜・・・。ここが僕等の愛の巣ですか」
「誰と誰の愛の巣だって言うのよっ!!!」
ミサトの後を歩くシンジが満足そうにウンウンと頷くと、ミサトは緊急停止して勢い良く後ろを振り返った。
「も・ち・ろ・ん・・・。僕とミサトさんに決まっているじゃないですか」
「ぐぐぐぐぐ・・・。んぐっ!!ふぅぅ〜〜〜・・・。じ、実は私も先日この街に引っ越してきたばっかりでねぇ〜〜」
応えてシンジは己とミサトを交互に指さし、ミサトは怒りのあまり唸るも、息を飲み込むと共に怒りも飲み込み、何事もなかった様に歩を進める。
プシューー・・・。
「さあ、入って」
IDカードを扉脇のスリットに通すと扉が開き、ミサトは話のイニシアティブを取るべくシンジを中へ入る様に促す。
「ただいまぁ〜〜」
「な゛っ!?」
だが、シンジはそんな事をされずともミサトを追い越して中へ入り、ミサトはいきなり我が家同然面で挨拶して入ったシンジに絶句。
「ミサトさん、おかえりなさい。食事にする?お風呂にする?それとも僕?」
それ故、必然的に未だ玄関前に立っているミサトが出迎えられる立場になり、シンジが振り返ってニッコリと微笑む。
「(こ、こいつはぁぁ〜〜〜っ!!)そ、そうね・・・。そ、それじゃあ、まず荷物を中に入れましょう」
「もうっ!!ミサトさんったら照れなくても良いのに。僕とミサトさんの仲じゃないですか」
「(む、無視、無視・・・。む、向こうのペースに巻き込まれたら確実に負けるわ)こ、壊れ物とかはないのかしら?ちゃ、ちゃんと言ってね」
シンジが何かを言っているが、背中を見せてミサトはひたすら無視を決め込み、通路に置かれたダンボールを持ち上げた。
「まあ・・・。ちょぉ〜〜っち、散らかっているけど気にしないでね」
蛍光灯が数回点滅してキッチンとリビングに明かりが点き、ミサトの暢気な声と共に現れたゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミの山。
(フッフッフッ・・・。驚いている様ね。今ならまだ間に合うわよ・・・。こんな家に住みたくないでしょ?)
キッチン入口で驚きに目を見開いて立ち竦んでいるシンジの様子に、ミサトは自分のだらしなさを今日ばかりは感謝してニヤリとほくそ笑む。
パンッ!!
「じゃあ、掃除しますね」
「・・・えっ!?」
だが、シンジは微笑みながら景気良く手を叩いて宣言し、ミサトは思っても見なかったシンジの反応に茫然と目が点。
「掃除ですよ。掃除・・・。ああ、ミサトさんは着替えでもしていて下さい。どうせ、この調子なら掃除は苦手なんでしょ?」
「い、いや、それはそれで助かるんだけど・・・。シ、シンジ君、良いの?こ、こんな家で・・・・・・。」
「はい、構いませんよ。こう見えても、家事は得意ですから」
「そ、そうなの?」
率先して掃除を始めようとするシンジに問いかけるが、ミサトはニッコリと微笑み返された上にシンジの意外な一面を知って驚く。
「ええ、得意というか・・・。以前、一緒に住んでいた人が凄いだらしない人で、得意にならざるをえなかったと言う感じですね。
どれくらいのだらしなさかと言うと、丁度ミサトさんと同じ年齢の女性なんですが、自分が使った下着でさえ僕に洗わせていたくらいです。
そうそう、家事も最初は分担して決めたはずなんですけど・・・。その人、すぐに怠け始めて・・・。それで、僕がずっとしていたんですよ」
「へ、へぇぇ〜〜〜・・・。あ、案外、シンジ君も大変だったのね」
シンジは懐かしい精神年齢14歳の頃を思い出して愉快そうに語り、ミサトはまさか自分の事だとも知らず、思わずシンジの過去を同情する。
「まあ、そういう事です。ほらほら、邪魔だから出て行って下さい。・・・あっ!?ゴミ袋は何処にあるんですか?」
「た、多分、キッチンの下にあるわ・・・。つ、使った事がないから、良く覚えていないけど・・・・・・。」
そんなミサトの様子にシンジはクスクスと笑い、ミサトはシンジに背中を押されてキッチンから押し出された。
プシュッ!!
エビチュ・ビールの缶のプルタブが押され、炭酸水独特の心地良い弾ける音が鳴る。
ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ・・・。
続いて缶が傾けられると、口の中は麦芽独有の苦みが広がって炭酸が弾け、喉は喉越しとうま味に音を鳴らして次を次をとせがむ。
「ぷっはぁぁ〜〜〜っ!!かぁぁぁ〜〜〜〜っ!!!やっぱり人生、この時の為に生きているって感じですよねぇぇぇぇ〜〜〜〜〜っ!!!!」
「あ、あんた・・・。ほ、本当に中学生なの?」
一気に飲み干して酒臭い息をまき散らしながら、シンジはおでこを左手でペシペシと叩き、茫然と目が点のミサトは大粒の汗をタラ〜リと流す。
ちなみに、ミサトは全く色気のない紺色のジャージを着て、シンジへの余計な刺激を煽らせない為になるべく肌を見せない様にしていた。
「んっ!?あれ?・・・飲まないんですか?良く冷えていて美味しいですよ」
「そ、そう・・・。」
早くも2缶目へ手を伸ばしつつ、シンジがミサトへキョトンと不思議顔を向けると、ミサトは我に帰ってエビチュをチビリチビリと飲み始める。
「おっ!?この春巻きはイケますね。コンビニのとは思えないくらいです」
ビールを1口飲んで、シンジはテーブルに列んだコンビニのお総菜に手を伸ばし、心底に意外そうな顔で驚く。
「・・・そうだわ。シンジ君に言わなきゃいけない事があるのよ。実は私・・・。」
「料理が出来ないんでしょ?」
「えっ!?何で解ったの?」
すると缶を置いてミサトは神妙な顔で『シンジ追い出し作戦』にかかるが、あっさりとシンジに見破られ、これまた心底に意外そうな顔で驚く。
「そんなの冷蔵庫の中を見れば解りますよ。だって、冷蔵庫の中に有るのはビールとつまみだけじゃないですか。
それに、ここを掃除したのは僕ですよ?あのゴミの種類を見れば・・・・・・。ミサトさんの食生活が伺い知れると言うものです」
「そ、そう・・・。」
しかも、女性としてはかなり痛いところをシンジに突かれ、ミサトは汗をダラダラと流して言葉に詰まる。
「で、それがどうしたんですか?」
「いや、だからね・・・。ここに住むとなれば、毎日があんな食事になるのよ?もし嫌なら私が新しく住居を手配するから・・・。」
「それなら、大丈夫です。明日からは僕が食事を作りますから・・・。こう見えても、料理の腕には自信があるんですよ」
「そ、そうなの?」
それでも果敢に家を出る事を勧めるが、シンジは気にした風でもなくニッコリと微笑み返し、ミサトは作戦が失敗に終わった事を悟って絶望。
「ええ、これも自信があるというか・・・。以前、一緒に住んでいた女の子が味に凄くうるさくて、自信を付けさせられたと言う感じですね。
どれくらいのうるささかと言うと、自分じゃお米も炊けないくせに、少しでもご飯が堅かったり、柔らかかったりすると食べないんですよ。
それで、少しでも文句をすれば、口より早く手が飛んできて・・・。プライドだけは異様に高く、まるで何処かのお姫様気取りの乱暴者でした」
「へ、へぇぇ〜〜〜・・・。な、何か私の知り合いの娘にそっくりね」
シンジは懐かしい精神年齢14歳の頃を思い出して愉快そうに語り、ミサトはずばりその知り合いだとも知らず、思わずシンジの過去を同情する。
「あっ!?そう言えば、お風呂を入れてありますから、ミサトさんが先に入って下さい」
「えっ!?そう?何から何まで悪いわね・・・って、い、いやっ!?シ、シンジ君が先に入りなさいっ!!!ふ、風呂は命の選択よっ!!!!」
そんなミサトの様子にシンジはクスクスと笑い、ミサトはシンジの提案を1度は了解するが、直後に嫌な予感を感じて猛烈に拒否した。
「全く・・・。どれだけ貯めたら、こんなになるんだ?」
シンジは脱いだ服を洗濯機に放り込み、ついでに横に置いてある脱衣籠に山盛り状態で盛られたミサトの下着を洗濯機へ入れてゆく。
もちろん、その中に幾つかある高級そうな下着はきちんと洗濯ネットに入れ、下着を傷めない様にするケアも忘れない。
ガラッ・・・。
「んっ!?」
不意に背後にあるお風呂場の扉が開き、何事かとシンジが振り返る。
「フギャフギャフギャフギャ!!・・・・・・クワッ?」
お風呂場から出てきた1匹のペンギンは、体をブルブルと震わせて全身の水を弾いた後、目の前にいる見た事のない人物に首を傾げた。
「やあ・・・。ペンペン」
「ク、クワッ!?」
何故かシンジはペンギンを見下ろして邪悪そうにニヤリと笑い、お風呂から上がったばかりなのにペンギンは寒気を感じて体をブルッと震わす。
「・・・また仲良くしようね」
「ク、クワァァァァァ〜〜〜〜〜〜ッ!!」
そして、シンジが右手を差し出して握手を求めると、ペンギンは己の体に脈々と流れる野生の勘が危険を察知し、慌ててキッチンへ逃げて行く。
「ど、どうしたのっ!?ペ、ペンペンっ!!?」
ガラッ!!
只ならぬペンギンの鳴き声にミサトが椅子から腰を浮かすと同時に、脱衣所のアコーディオンカーテンが開いてペンギンが飛び出てきた。
「クワワッ!!クワワッ!!!クワワワワッ!!!!」
ピッ!!プシューー・・・。
切羽詰まった様子でペンギンはキッチンにもう1つある冷蔵庫へ駈け込み、ボタンを押すと扉が開ききっていないのに急いで中へ入って行く。
「なんだよ・・・。逃げる事ないじゃないか」
「シ、シンジ君っ!?ま、前くらい隠しなさいっ!!!」
少し遅れてシンジが堂々と全裸でキッチンへ現れ、慌ててミサトがシンジから顔を背ける。
「別に良いじゃないですか。今更なんだし・・・。それより、今のペンギンは何ですか?」
「し、新種の温泉ペンギンで、名前はペンペンっ!!も、もう一人の同居人よっ!!!」
「ふ〜〜〜ん・・・。なら、やっぱり挨拶はしないとね」
ピッ!!プシューー・・・。
だが、ミサトの願い虚しく前をまるで隠そうともせず、シンジはペンペンが入った冷蔵庫へ近寄り、扉を開いて上半身を屈めて冷蔵庫に入れた。
「やあ、ペンペン。仲良くしようよ」
「クワワッ!!クワワッ!!!クワワワワッ!!!!」
「や、止めなさいっ!!い、嫌がっているでしょっ!!!」
絶対安全圏に逃げたはずなのに、目の前にシンジが現れてペンペンは悲鳴をあげ、ミサトはペンペンを救おうとシンジの腰を引っ張る。
「あれ?・・・ミサトさん、そういう趣味もあるんですか?さすがの僕もそれはちょっと・・・。」
「ち、違うわよっ!!」
シンジは2人の体勢にニヤリと笑い、何を言いたいのかは全くの謎だが、シンジの言葉を理解してミサトは顔を真っ赤に染めてシンジを突き放す。
ゴチンッ!!
「あ痛っ!!」
「クワッ!!」
おかげで、シンジとペンペンはお互いに頭をぶつけ、壮絶な痛みに頭を抱え込んでその場へしゃがみ込んだ。
「・・・少しわざとらしくはしゃぎ過ぎたかな?」
お風呂の縁に頭を乗せ、シンジはぼんやりと湯気でくもる天井を見つめていた。
「まあ、最初が肝心だし・・・。今回はまずまずのスタートと言ったところかな?」
昨日からの出来事を思い出し、シンジは愉快そうにクスクスと笑う。
チャプッ・・・。
「風呂は命の洗濯か・・・。でも、風呂って相変わらず昔の事を思い出すばかりで・・・・・・。」
だが、シンジはミサトの言葉を口に出すと共に、表情を真剣なものへと変え、湯舟から右手を挙げて天井と視線の間にかざす。
「綾波、母さん・・・。僕に何を望むと言うんだ」
そして、そのまま右手で目線を覆って肩をわずかに震わせ、それっきりシンジは黙り込んでお風呂場に静寂が満ちた。
(シンジめ・・・。何をしたんだ?)
非常灯だけが灯る薄暗いネルフ深部の実験場に佇む巨人。
(・・・あいつは保安部きっての凄腕と聞いていたぞ)
単眼でオレンジ色の巨人『零号機』は、下半身を強化ベークライトで固められ、上半身は壁を右拳で殴りつけたままの体勢で止まっていた。
(それがどうだ・・・。シンジはピンピンしているのに、あいつは病院でウンウン・・・・・・。)
パイロットが乗るべきエントリープラグ挿入口には、強制停止プラグと呼ばれる十字架の楔が刺されている。
(全治3ヶ月だと?・・・シンジ、何をしたんだ?)
その光景が一望する事ができ、零号機の右拳が壁にめり込んでいる脇の破壊された実権管制室にゲンドウとリツコの姿があった。
「・・・レイの様子はいかかでしたか?」
「問題ない・・・。」
ガラスが砕け散った窓辺に立つゲンドウにリツコが問いかけると、たちまちゲンドウは昼間のレイの様子を思い出して奥歯をギリッと噛みしめる。
「午後、行かれたのでしょう・・・。病院に」
「問題ない・・・。」
ゲンドウより5歩ほど後ろにいるリツコが再び問いかけると、次第にゲンドウは見た目も明らかに肩をワナワナと震わせ始めた。
「・・・あと3週間ほどで零号機の再起動が可能になります」
「問題ない・・・。」
ゲンドウの様子にリツコは首を傾げるが、話しかければ話しかけるほどゲンドウの震えは大きくなってゆく。
「先の戦闘で見せた。サードチルドレンの特異性は明日にでも本人に聞いてみるつもりです」
「問題ない・・・。」
「学校への転入は済んでいますが、2週間は休ませて訓練も明日から始めます」
「問題ない・・・。」
「今晩・・・。どうですか?」
「問題ない・・・って、なぬっ!?」
生返事するだけのゲンドウへリツコはゆっくりと足音を立てず近づき、ゲンドウは最後の質問に答えつつ驚き、振り向いて更にビックリ仰天。
「嬉しかったです。昨日、初めて名前を呼んでくれて・・・・・・。」
「い、いや、あれはだな・・・。あ、赤木博士」
ゲンドウの背中へ抱きつき、リツコは胸へ回した手でゲンドウの胸を撫で回し、ゲンドウはいつになく積極性なリツコに汗をダラダラと流す。
「嫌・・・。リツコって呼んで下さい」
「はふっ!!・・・も、問題ない」
口を尖らせて拗ねるリツコが何をしたかは全くの謎だが、たまらずゲンドウは声にならない声をあげ、違う意味の汗をダラダラと流し始めた。
「ねえ、リツコぉ〜〜。このままじゃ、休まる時がないのよぉぉ〜〜〜」
『そう、解ったわ。明日、その件に関して前向きに検討しましょう』
シンジが部屋へ引き込んだ事もあり、ミサトは緑のワンピースの水着を着てお風呂に入り、電話でこの状況を作ったリツコへ愚痴をこぼしていた。
もちろん、この水着は万が一にもシンジがお風呂へ入ってきた場合の為の予防策である。
「聞いてよぉ〜〜。今だって自分の家の風呂なのに、水着を着て入ってるのよ?」
『ええ、解ったわ。明日、その件に関して前向きに検討しましょう』
「どうして、自分の家でビクビクしなくちゃなんないのよぉぉ〜〜〜」
『だから、解ったわ。明日、その件に関して前向きに検討しましょう』
「ちょっと、リツコぉぉ〜〜〜。ちゃんと聞いてる?何をそんなに慌てているのよ」
だが、リツコは生返事っぽい言葉しか返さず、妙に早く電話を切りたがっている様子が感じられ、ミサトは苛立って眉間に皺を寄せて尋ねた。
『あ、慌てて何かいないわよっ!!あ、あなたの気のせいよっ!!!』
「・・・そうかしら?今だって、声がうわずっているじゃ・・・。」
するとリツコはあからさま焦った感じで言葉をどもりまくり、首を傾げてミサトがそれを指摘しようとした言葉途中。
『リツコ君、風呂のお湯が溜まったぞ』
「っ!?」
突然、何故か2人の電話にゲンドウの声が混じり、ミサトは驚愕に目を最大に見開いたまま茫然と目が点。
『は、はいっ!!い、今すぐに行きますっ!!!』
『んっ!?・・・どうしたのだ?』
『い、いえっ!!な、何でも有りませんっ!!!』
『・・・そうか?先に入って待ってるぞ』
『は、はいっ!!わ、解りました』
会話が聞こえぬ様に慌ててリツコは受話器に手を当てるが、慌てるあまり話口ではなく聞口の方を押さた為、ミサトへ2人の会話がただ漏れ状態。
『わ、悪いんだけどっ!!ちょ、ちょっと今、昨日のデーター分析で忙しいのっ!!!だ、だから、明日にでもっ!!!!』
「え、ええ・・・。わ、解ったわ。と、取り込み中にごめんね・・・。で、でも、そういう時は携帯の電源を切った方が良いわよ」
ピッ!!
再び戻ってきた必死に取り繕うリツコの声で我に帰り、ミサトはリツコの嘘を見破って、心の中で心底に詫びながら電話を切った。
「ま、まさか、本当だったなんて・・・。で、でも、リツコ・・・。あ、あんた、男の趣味が悪すぎるわよ・・・・・・。」
受話器を湯舟の縁へ置き、ミサトが深い深ぁ〜〜い溜息をついたその時。
ガタッ!!
「っ!?」
脱衣所の方から物音が聞こえ、ミサトは体をドキッと震わせ、お風呂の水面に波紋が広がる。
チャプッ・・・。
お風呂から静かに音をなるべく立てない様に上がり、ミサトは近くに置いてあった湯かき棒を手に持ち、背中を壁伝いに扉へ近づいて行く。
ゴクッ・・・。
ミサトは扉の脇に立って湯かき棒をギュッと握り締め、脱衣所の様子をチラリと伺い、磨りガラスの向こうで動く物を発見して生唾を飲み込む。
「このマセガキがぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜っ!!」
ガラッ!!
そして、呼吸でタイミングを計って絶叫をあげると共に、ミサトは右手で湯かき棒を振りかぶりながら、左手で一気に扉を開放した。
「クワァァァァァ〜〜〜〜〜〜ッ!!」
ボグッ!!
脱衣所で歯を磨いていたペンペンは、突然の事態に驚き鳴くが、扉を開けると同時に振り落としたミサトの右腕は止まらず脳天へ湯かき棒が直撃。
「ク、クワワ・・・、」
バタッ・・・。
「ペ、ペンペン・・・。ご、ごめん・・・・・・。」
その直後、歯ブラシをくわえたままペンペンは力無く前倒しに倒れて沈黙してしまい、ミサトの謝罪の言葉はペンペンの耳へ届く事はなかった。
「このマセガキがぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜っ!!」
「クワァァァァァ〜〜〜〜〜〜ッ!!」
電気を消して部屋を真っ暗にさせたシンジの部屋にミサトとペンペンの叫び声が届く。
「そんなに警戒しなくても良いのにね」
両手を組んで首筋に当て、ベットに寝ころんでいたシンジは、扉の方へ顔を向けて失笑と微笑みを漏らす。
「ここも見慣れた天井・・・。そして、見知らぬ天井か・・・・・・。」
だが、シンジが再び天井をぼんやりと見上げて見つめ始めると、たちまち表情からは笑みが消えて無表情に変わる。
「当たり前か・・・。僕はみんなを知っているけど、みんなは僕を知らない・・・・・・。」
悲しみの色を灯した瞳を隠す様にシンジは瞼を静かに閉じてゆく。
「どうして、僕はここに居るんだろう・・・・・・。」
完全に瞼が閉じられると闇の世界が目の前に広がり、シンジは己の魂に刻まれた記憶を呼び覚ました。
<シンジ精神年齢14歳>
「でも、僕はもう1度会いたいと思った。その時の気持ちは本当だと思うから・・・。」
LCLの海の果て、僕は願った。もう1度だけ、みんなに会う事を・・・。
「幸せになるチャンスは何処にでもあるわ。太陽と月と地球がある限り大丈夫・・・。」
だけど、そんなチャンスはあそこにはなかった・・・。何もかもがなかった・・・。あの不毛な大地には・・・・・・。
「・・・気持ち悪い」
思えば、アスカのあの言葉が始まりの言葉。・・・いや、呪いの言葉、呪詛だったのかも知れない。
そのアスカもすぐにLCLへと帰ってしまい、アスカが居た場所は砂浜がアスカを吸い込んだ後しか残っていなかった。
僕は人1人、動物1頭、虫1匹も居ない世界でLCLをすすって生きた。・・・そう、僕はみんなの命をすすって生き延びたんだ。
毎日、毎日、LCLの海岸で誰かが戻ってくるのを待ち・・・。毎晩、毎晩、皆に責められる悪夢に苛まれながら・・・・・・。
<シンジ精神年齢15歳>
「ごめぇ〜〜ん。お待たせ」
それはまるで、あの時、あの場所、あの瞬間の再現。
でも、この時の僕はまだこれがいつもの悪夢なんだろうと、まるで現実味がなかった。
「乗るなら早くしろ・・・。でなければ、帰れっ!!」
久々の母さんとの対面で茫然とする僕に、そっくりそのまま面白いほど再現してくれる父さんと周囲。
「あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!」
「・・・シ、シンジ君っ!?」
僕はただただ笑う事しか出来なかった・・・。きっと周りには異様な光景に見られただろう。
「問題ありません・・・。」
そして、僕は自分の心を殺し、まるで綾波の様に皆へ接する事で、これほどの悪夢はない悪夢から早く目が覚める事を願った。
「サ、サードっ!!あ、あんた、なに考えているのよっ!!!」
だけど、悪夢が終わる事はなく、悪夢の中でただ食べて、ただ寝ての繰り返しの果ての第8使徒・サンダルフォン戦。
「惣流さん、ごめん・・・。ごめん。アスカ・・・。ずっと君に謝りたかった・・・・・・。」
浅間山での再現通りの作戦中、僕は火口へ飛び込んでアスカを助け、せめて次はもっとマシな悪夢を見る事を願い、火口へそのまま降りていった。
<シンジ精神年齢16歳>
「嘘だっ!!嘘だっ!!!嘘だぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
3度目の母さんとの初対面、僕は狂った様に暴れ叫び、ミサトさん達に取り押さえられて初号機へ乗せられた。
「リツコ・・・。これって・・・・・・。」
「・・・精神汚染ではないわ。恐らくシンジ君が自ら心を閉ざしているだけ・・・。」
入院、訓練、戦闘の繰り返しの毎日。この頃の事は良く覚えていない・・・。
「うっうっ・・・。ごめん・・・。シンジ君、ごめんね・・・。うっうっうっ・・・。」
ただ覚えているのは・・・。毎回、初号機が暴走していた事と毎日お見舞いに来て泣いて謝るミサトさんの姿だけ・・・・・・。
<シンジ精神年齢17歳>
「人の造り出した究極の汎用人型決戦兵器。人造人間エヴァンゲリオン、その初号機。建造は極秘裏に行われた。我々人類の最後の切り札よ」
4度目の母さんとの初対面、もう僕は叫ぶ事はなかった。
ただただ怖かった・・・。ここが本当に夢なのか、それとも現実なのかが解らなくて・・・・・・。
この時の僕は正に人形・・・。人に言われるがまま動き、自分では立つことも、喋る事も、食事をする事もない人形。
「ほら、シンちゃん。ちゃんと食べなくちゃダメよ?」
そんな僕を引き取って世話をしてくれたのは、やっぱりミサトさん・・・。食事も、トイレも何から何まで・・・・・・。
「今日はシンちゃんにお友達を連れてきたのよ?だから、学校へ行こうね?・・・・・・鈴原君、相田君、頼むわね」
「ミサトさん、任せておいて下さいっ!!おら、碇っ!!!こんな所におるとカビが生えるでっ!!!!」
「・・・トウジ。それが初対面の相手に言う事か?・・・碇、よろしくな。俺の名前はケンスケ、相田ケンスケ」
全く学校へ行かない僕へ、トウジとケンスケを紹介してくれたのもミサトさん。
「霧島マナです。よろしくお願いします」
その後、トウジとケンスケのおかげで毎朝連れられて学校へ行く様になり・・・。しばらくして奇跡は起こった。
「本日、わたくし霧島マナはシンジ君の為に午前6時に起きて、この制服を着て・・・って、ど、どうしたのっ!?シ、シンジ君っ!!?」
その声、その顔、その仕草、その全てが懐かしく・・・。僕は教室で声をあげて泣き、存在を確かめる様に力強く抱きしめてマナに縋った。
「今度、家へ連れてきなさいよ♪」
「・・・えっ!?」
「シンちゃんの噂の彼女♪霧島マナさん♪♪」
例えマナがスパイだと解っていても嬉しかった・・・。僕は嬉しかった・・・。またマナと会える事が出来て・・・・・・。
「・・・シンジなら良いよ。私の大切な物をあげる・・・・・・。」
「マナッ!!」
そして、いつしかマナは僕の彼女から、恋人になり・・・。その時だけ僕は自分が現実にいる事を実感して、何度も何度もマナと愛し合った。
「中止が間に合いませんっ!!N2爆雷が投下されましたっ!!!」
だけど、結末はやはりあの時と同じ・・・。マナは光の中へ消え、僕は人形に戻った・・・・・・。
<シンジ精神年齢18歳>
「シンジ君っ!!朝、約束したばっかりでしょっ!!!もう、お酒は飲まないってっ!!!!」
そう、お酒を覚えたのは、この時・・・。人形にはならなかった代わりに得たのが、お酒に逃げる事・・・・・・。
でも、僕は元々お酒に強い体質らしく、その上にこの時は幾ら飲んでも酔えず・・・。ほとんどアルコール中毒症の毎日。
「シンジ君・・・。何が辛いの、何が苦しいの・・・。」
この時も僕を世話をしてくれたのはミサトさん・・・。僕が暴れて押し倒す度、文字通り体で受け止めてくれたのもミサトさん・・・・・・。
そう、女の人を覚えたのも、この時・・・。マナの時の様に現実を取り戻す為、僕はミサトさんを貪る様に愛した・・・・・・。
「ねえ・・・。そんなに何を悩んでいるの?少しくらい、私に話してよ・・・・・・。」
いつもの行為の後、僕は気まぐれで寝物語に打ち明けた・・・。
僕の事・・・。綾波の事・・・。エヴァの事・・・。人類補完計画・・・。そして、セカンドインパクトの真相・・・・・・。
「ねえ、マコト。ミサトが居ないけど・・・。どうしたの?」
「・・・アスカちゃん。今日から僕が君達の上司になったんだ・・・・・・。」
その翌日、ミサトさんは父さんの所へ行き、そのまま帰って来なくなった・・・・・・。
「俺は君が許せないっ!!どうして、葛城さんがっ!!!何故だっ!!!!シンジ君、応えてくれっ!!!!!」
更に数日後、僕は秘守回線で日向さんの呪いの言葉を聞きながら、指示通りに動いた場所にいた第9使徒・マトリエルの溶解液に溶かされた。
<シンジ精神年齢19歳>
「あんたねぇ〜〜っ!!何でも適当にハイハイと言ってれば良いってもんじゃないのよっ!!!」
この頃にはどうでも良くなった・・・。もう誰にも秘密は喋らず、もう誰にも自分の行動を邪魔させず、何となくの毎日を過ごしていた。
「お姉さん。僕と遊びませんか?」
ミサトさんとの同居も断り、部屋を借りて毎晩の如く夜の街へ出かけて行く毎日・・・。もちろん、理由は現実を実感する為に・・・・・・。
幸いにして、僕は父さん似じゃなく母さん似だったのでモテた。そりゃもう面白い程にモテた。
「申し訳ありませんっ!!以後、この様な事はない様にしますからっ!!!」
「あんたね・・・。これで今週4日連続ですよ?家でどういう教育をしているんですか?」
「申し訳ありませんっ!!本当に申し訳ありませんっ!!!」
でも度々、中学生なので警察官の人に補導され、その度にミサトさんが警察署に頭を下げに来てくれたっけ。
今、思うと随分悪い事をしちゃったな・・・・・・。
<シンジ精神年齢20歳>
「ねえ、綾波?今度、一緒に遊園地でも行かない?」
「・・・遊園地?命令があるなら、そうするわ・・・・・・。」
「そっ!!命令、命令」
僕は6年目にしてやっと綾波が怖くなくなった。だって、確かに綾波は使徒だけど、なら自分は何なんだ?・・・って思ってね。
6年も1人だけ同じ時を繰り返して、僕も人間じゃないよねって思ったんだ。有る意味で開き直ったのかも知れない。
「ねえ、アスカ?日曜日に芦ノ湖でも出かけない?」
「し、仕方ないわねっ!!ど、どうしても、あんたが行きたいって言うなら構わないわよっ!!!」
「うん。お願い、お願い」
その途端、アスカへの負い目も消え、アスカの意地っ張りな所も可愛く見えてきちゃって・・・。有る意味で大人の余裕って奴かな?
「ねえ、洞木さん?今度、僕の家に夕飯を作りに来ない?」
「えっ!?で、でも・・・。ア、アスカは?」
「大丈夫。平気、平気」
でも、安易に洞木さんへ手を出したのは失敗だったみたいで・・・。
「碇君・・・。どういう事?」
「説明しなさいよっ!!バカシンジっ!!!」
「あ、あのっ!!わ、私、帰るねっ!!!」
これまたタイミング悪く、綾波とアスカに洞木さんとの現場を踏み込まれちゃってね。挙げ句の果て、アスカに包丁で刺されちゃった。
なぁ〜〜んか、それまでで1番情けない死に方だったよ。
<シンジ精神年齢21歳>
「加持さんっ!!今日からあなたの事を師匠と呼ばせて下さいっ!!!」
「お、おいおい、シンジ君・・・。い、いきなりの初対面でなんなんだ?」
待ちに待ったアスカが日本へやってきたその日、同じ事を繰り返さない為にも僕は加持さんに土下座で弟子入りを志願した。
「ちょ、ちょっと待ってよっ!!ア、アスカ、話し合おうよっ!!!」
「シンジ・・・。あたしと一緒に死んで頂戴・・・・・・。」
でも、まだまだ加持さんほどキャリアが足りず、またアスカに刺されちゃった。・・・何だかんだで、この死に方が1番痛いんだよね。
あと去年と一昨年の事で1つ解った事があるんだ。
師匠も言っていたけど・・・。やっぱり、愛だよ。愛・・・。不特定多数は良くないね。だから、これからは特定多数に決めたんだ。
<シンジ精神年齢24歳>
「山岸マユミです・・・。皆さん、よろしく」
綾波に首を絞められ、マヤにケイジから突き落とされての波乱に満ちた2年後、再び僕に転機が訪れた。
「良かった・・・。本当にごめんなさい。私、ボーっとしてて」
10年ぶりのその声、その顔、その仕草、その全てが懐かしく・・・。ふと僕はあの時の言葉を思い出した・・・・・・。
「似ているから思ったんです。私もシンジ君みたいに頑張れるかも知れないって」
そう、山岸さんの姿は僕が何処かになくしてきた、10年前の僕の姿・・・。
「あ、あの・・・。シ、シンジ君」
「・・・大丈夫。僕に任せて力を抜いて?」
「は、はい・・・・・・。あっ!?」
そして、誓った。このまま山岸さんの笑顔を見る為にも、この狂った時間から抜け出る事を・・・。戻るのではなく、進もうと・・・・・・。
「離れたくない・・・。本当はドイツなんて行きたくない・・・。だから、最後に思い出を下さい・・・・・・。」
でも、山岸さんはお父さんの都合で2ヶ月くらいで去っちゃってね。
・・・この時からかな?いざと言う時の為に、マンションの1室くらい買える報酬を貰おうと思ったのは・・・。
で、酷く落ち込んでいたら山岸さんの事がバレちゃって・・・。
「マ、マヤさんっ!?」
「フフ、不潔・・・。でも、不潔にしたのはあなたよ・・・。だから、責任を取って・・・・・・。」
マヤさんに弐号機ケイジから突き落とされちゃった・・・。いやぁぁ〜〜〜、死ぬほど痛かったとはこの事だね。
<シンジ精神年齢27歳>
「碇君っ!!」
「シンジっ!!」
「シンジ君っ!!」
この年、首を絞められる訳でもなく、刺される訳でもなく、何処からか突き落とされる訳でもなく、7年ぶりに戦いの中で死んだ。
「う〜〜〜ん・・・。使徒にやられるのも久々だね・・・・・・。」
スピーカーから聞こえる綾波とアスカとマヤさんの涙声を聞きながら、僕は何処か冷静に迫り来る使徒と自分の死を迎えた。
慣れちゃったせいか、どうやら死に対する恐怖心が薄れちゃった様だ。
<シンジ精神年齢29歳>
「・・・15年ぶりだね」
前向きに戦い始めてから5年・・・。15年ぶりに第13使徒戦まで進む事が出来た。
そうなんだ。今までは確実に長く生きても、第12使徒戦でディラックの海から帰れず、そのまま年を越していた。
そうでなくとも、第10使徒のサハクィエルを受け止める事が出来ず・・・。と言うのが殆どだった。
考えてみると、初めての時こそが本当に奇跡続きだったんだと実感が出来る。
「トウジ、ごめんよ・・・。残念だけど、僕は男には容赦がないだ」
でも結局、次なる壁である第14使徒戦が出来ちゃったけどね。
だって、シンクロ率400%って気持ちが良いんだもん。そりゃあ、帰って来たくもなくなるって・・・。
<シンジ精神年齢32歳>
「加持君、ごめん・・・。私、あなたとつき合う事は出来ない。今、お腹にシンジ君の子供が居るの・・・・・・。」
「な、なにっ!?」
遂に三十路へ入ると共に、遂に僕は加持さんを越えた。ちょっとしたおまけ付きだったけど。
新たに出来た目標で望んだんだけど・・・。やっぱり、シンクロ率400%の壁は厚い・・・。子供の名前、考えたんだけどな・・・・・・。
<シンジ精神年齢33歳>
「・・・あれ?ひょっとして、マヤさん・・・。初めてじゃないの?」
「えっ!?う、うん・・・。シ、シンジ君、嫌?」
「ううん・・・。少し驚いただけ」
この時が僕に訪れた3回目の転機と言って良いだろう。
そう、マヤさんを知ってから15年目・・・。この年のマヤさんは処女じゃなかったんだ。
どういう事だ?と言う疑問が僕の中に沸き立つ。
考えて見れば、僕の存在自体が本来の歴史から外れている存在。
そして、良く見なければ解らないが、幾つも相違点が見つかった。
「歌は良いねぇぇ〜〜・・・。」
その顕著な例が20年ぶりに会った第17使徒のカヲル君・・・。いや、カヲルさんと言うべきなのかも知れない。
「優しくしておくれ・・・。僕、初めてなんだ」
この時のカヲル君は女子制服を身に纏い、脱がしてみたら体もやっぱり女の子。
そんなカヲル君を僕が殺せるはずもなく・・・。思い悩み、カヲル君に溺れていたら・・・。
「碇君は私の物・・・。碇君と1つになるのも私・・・。こうすれば、ずっと碇君と一緒なの・・・・・・。」
綾波に首を絞められちゃった。いやぁぁ〜〜〜・・・。久々に苦しかったね。
<シンジ精神年齢34歳>
「さあ、僕を殺してくれ・・・。僕にとって生と死は等価値なんだよ」
「・・・カヲル君、残念だよ。君が出した答えがそれだなんて・・・・・・。」
この繰り返す時間の渦に巻き込まれてから20年、山岸さんとの2度目の出逢いの決意より10年・・・。
ようやく僕は2度目の最終決戦へ望んだ。万全の用意をして戦いに望んだ。
「ガフの扉が開く。世界の始まりと終局の扉が・・・。遂に開いてしまうのか」
だが、結果はおおよそ14歳の時と一緒・・・。僕も万全の用意をしたけど、それは父さんも、ゼーレも同じ事だった。
<シンジ精神年齢37歳>
「これで時間は稼げるわね・・・って、シンジ君っ!?」
「ははははは・・・。ど、どうやら、流れ弾が当たったみたいです」
4年連続の5度目最終決戦、幾ら万全の備えをしようとも歴史をなかなか覆す事は出来なかった。
確かに僕と言う存在はかなりのイラギュラーなんだけど、さすがに父さんも、ゼーレもそれ以上の修正案を用意している。
大体、ここへの到達には幾つもの奇跡を起こさなければならない。
第一に、第10使徒・サハクィエルの見事なキャッチ。
第二に、第12使徒・レリエルのディラックの海からの生還。
第三に、第14使徒戦におけるシンクロ率400%の回避。
第四に、ミサトさん達への秘密の暴露時期の見定め。
第五に、カヲル君が女の子じゃない事・・・。いや、女の子でも良いんだけど、あんまり自信がないんだよね。カヲル君だけは・・・。
そして、最終決戦が最も奇跡を多用する場所であり、僕の小細工などなかなか通じないんだ。
<シンジ精神年齢38歳>
「シ、シンジ・・・。な、何をする気だっ!?」
・・・と言う事で、僕はちょっとした実験を試してみた。
それは諸悪の根元である父さんを試しに殺してみる事・・・。いや、もちろん僕だって父さんを殺すのには随分と迷ったんだよ?
でも、度重なる失敗でイライラしていたのかも知れない・・・。父さん、あの時はごめん・・・・・・。
「本日より司令に着任した。サルヴァドル・フォン・ラングレーだ」
その結果、新しく司令になったのは副司令の冬月さんではなく、アスカのお父さんだった。
冬月さんは父さんが死んだ事で副司令の地位を退陣し、リツコさんは生きる気力を失い、ネルフは酷い軍閥主義の組織に変わっていった。
その結果、最終決戦どころか、リツコさんを欠いては第11使徒・イロウルに勝つ事は難しく、結局はMAGIを乗っ取られてネルフ本部が自爆。
う〜〜〜ん・・・。何だかんだで父さんは必要な人なんだと思い知ったよ。
<シンジ精神年齢40歳>
「カヲル君・・・。」
「・・・なんだい?」
久々の女の子のカヲル君との出逢い。
「カヲル君って、使徒でしょ?」
「な、なにを・・・。シ、シンジ君・・・。き、君が何を言っているのか、解らないよ・・・。シ、シンジ君・・・。」
「僕にATフィールドの使い方を教えてよ?」
「・・・だ、だから、何の事なんだい?ぼ、僕にはシンジ君の言う事がさっぱり解らないよ・・・・・・。」
この時にカヲル君からATフィールドの使い方を教わったんだけど・・・。これがびっくりなんだよ。
いつの間にか、僕の体って使徒と同じくなっていたんだね。ひょっとしたら15歳の時からそうだったのかも知れないけど・・・。
だから、既にATフィールドを使おうと思えば使えたんだけど、いわゆる道具の存在を知らなければ道具も使えないって事だね。
取りあえず、これで不測の事態で死んでしまう事は避けられるはずだ。例えば、刺されちゃうとか・・・。
去年、実は初めてリツコさんに手を出したんだけど、父さんのヒットマンに狙われて死んじゃったんだ。
普通・・・。子供にヒットマンを送る?全く常識を疑うよ・・・。まあ、僕も2年前に父さんを殺しちゃったけど・・・・・・。
「ふ〜〜〜ん、とぼけるんだ?・・・なら、こうしちゃうよ?」
「んんっ!?ダ、ダメだよ・・・。そ、そこは・・・。ひゃんっ!!?」
ちなみに、どうやってカヲル君から教えて貰ったかは秘密。
<シンジ精神年齢41歳>
「10年早いんだよぉ〜〜っ!!」
いや、使徒が何歳生きているのかは知らないんだけど・・・。ATフィールドを使いこなせる様になった僕は正に無敵。
今までは初号機がATフィールドを出していたのに対し、これからは僕がATフィールドを出して初号機が増幅する感じになった。
これにより、心の壁で自分自身も守れる様になり、シンクロ率400%でも全く平気。
言い換えれば、いつでも400%を出す事が可能で、つまり常に4倍までの力が出せる様になったんだ。
もう、サハクィエル、レリエル、ゼルエルもドぉぉ〜〜〜ンと来いって感じだよっ!!でも、調子に乗って大暴れしていたら・・・。
「アスカの様子・・・。どうですか?」
名実ともエース・パイロットの座が僕になり、綾波とアスカの出番が全くなくなってしまい、不要な存在とまでネルフ内で囁かれ・・・。
プライドの崩壊がアスカを精神崩壊へと追い込んだ・・・。
27年ぶりに見るアスカのその姿は痛々しく・・・。戦う気力を失った僕は、第16使徒・アルミサエル戦で油断から敗北した。
<シンジ精神年齢42歳>
「ねえ、アスカ・・・。キスしよっか?」
「えっ!?」
ここで僕はようやく初心に戻った。
例え、父さんの計画や、人類補完計画を阻止しようとも、周りが幸せでなければ意味がない事に・・・。
だから、僕は思った。周りが幸せなる為にも、僕自身が幸せになろうと・・・。
「ねえ、綾波・・・。キスしない?」
「えっ!?」
そして、僕は今まで以上に幸せになる為、今まで以上に幸せをみんなに分けようと努力した。
大丈夫・・・。いつか、きっとみんなも解ってくれる。
それに僕には無敵のATフィールドがあるっ!!包丁、ナイフ、突き飛ばし、首締めもドぉぉ〜〜〜ンと来いって感じだよっ!!!
「ふんっ!!シンジはあたしの事を好きって言ってくれたわっ!!!」
「まあまあ、アスカ・・・。落ち着いて、落ち着いて・・・・・・。」
「なら、私の勝ち・・・。昨晩、碇君は私を愛してると言ってくれたわ」
「まあまあ、綾波・・・。落ち着いて、落ち着いて・・・・・・。」
・・・と思ったら、エヴァでの模擬訓練中にアスカと綾波が痴話喧嘩を始めちゃってね。
ATフィールドを中和されて、ソニック・グレイブとプログ・ナイフで刺されちゃった・・・。う〜〜〜ん、意外な盲点だ・・・・・・。
<シンジ精神年齢43歳>
「加持さんっ!!今日からあなたの事を師匠と呼ばせて下さいっ!!!」
「お、おいおい、シンジ君・・・。い、いきなりの初対面でなんなんだ?」
・・・と言う事で、再び僕は初心に戻って、加持さんの弟子入りする事にした。
「ようやく逢えたな・・・。ユイ」
だが、修行にかまけるあまり、本来の事がおろそかになってしまい、父さんの計画が発動してしまった。
<シンジ精神年齢48歳>
「約束の日は近い・・・。今度こそ、永遠の時の鎖を打ち砕くんだ」
遂に僕も父さんと同い年、それは有る意味で自信になり、父さんも、ゼーレも出し抜ける自信があった。
過去、9回の失敗からあらゆる不安と取り除き、あらゆる事態に対して万全どころか、億全並に備えた。
綾波を、アスカの仲は良好、トウジも五体満足にフォースのまま、カヲル君(男)も僕との協力を約束してくれた。
ミサトさんも、リツコさんも味方に付け、密かに冬月さんも味方に付け、戦自侵入と同時に事を起こすはずだった・・・。
そう、はずだったんだ・・・。それなのに、それなのに、それなのに・・・・・・。
「ねえ、シンジ・・・。あれ、なにかしら?」
「・・・んっ!?」
僕の予想を裏切って戦自は侵攻日を1日早め、アスカとデートしているところへ頭上からN2爆雷が落ちてきて・・・・・・。
さすがの僕も不意打ちを受けた上、N2爆雷の直撃じゃ生き残れなかった様だね。
ガラッ・・・。
脱衣所のアコーディオンカーテンをゆっくりと開け、湯上がりの汗にもへこたれずのジャージ完全装備でミサトは、顔だけ出して家の様子を伺う。
(怖いくらい静かね・・・。寝たのかしら?)
抜き足、差し足、忍び足でキッチンまで出てくると、ミサトはシンジにあてがった部屋の方を向き、念には念を入れて言葉は出さず心で呟く。
(いや、油断禁物よ・・・。。もし起きているなら、どうなるか解ったもんじゃないわ)
一旦は自分の部屋へ足を向けるが、どうにも不安は止まらず、ミサトは不安を拭い去る為に抜き足、差し足、忍び足でシンジの部屋へ向かう。
ツツツツツ・・・。
更に念を入れて廊下の電気を消し、ゆっくりと慎重に音を立てずに襖を開け、ミサトは数センチの隙間から真っ暗な部屋の様子を覗く。
ツツツツツ・・・。
(・・・どうやら、寝たようね。これで安心して眠れるわ・・・・・・。)
暗闇の中、ベットの上に盛り上がる物体を確認して襖を閉め、ミサトは抜き足、差し足、忍び足で自分の部屋に向かった。
「さて・・・。これで良しっと」
部屋の襖につっかえ棒をかけた上、ミサトは化粧台をずらして入口を塞ぎ、額にかいた汗を腕で拭って溜息をつく。
「・・・って、なんで自分の家なのに、こんな事しなくちゃいけないのよ。全く・・・・・・。」
だが、ふと我に帰ってミサトは己の境遇にブツブツと呟いて愚痴りながら、ジャージを脱ぎ散らかしてショートパンツとタンクトップ姿になる。
「はぁ〜〜あっ!!疲れたっとっ!!!」
「やあ、遅かったですね。僕、待ちくたびれましたよ」
ミサトは万年床の布団の上へゴロリと寝ころび、すぐ横から聞こえた声にビックリ仰天。
「どえぇぇ〜〜〜っ!!ど、どうして、ここにあんたが居るのよっ!!!」
「なに言ってるんですか?訓練ですよ。訓練」
慌てて飛び起きようとするミサトだが、電光石火の早業でシンジに腕を掴まれて組み敷かれる。
「な、何よっ!?く、訓練ってっ!!?」
「発進準備っ!!」
「・・・・・・はぁ?」
いきなりシンジが訳の解らない事を叫び出し、思わずミサトは抵抗を止めて茫然と目が点。
「葛城一尉っ!!復唱はどうしたっ!!!」
「えっ!?あっ!!?は、発進準備っ!!!!」
だが、続いたシンジの14歳とは思えない重みのある怒号に、ミサトは逆らえず復唱を返す。
「第1ロックボルト外せっ!!」
「ちょ、ちょっとっ!!な、何すんのよっ!!!」
するとシンジはあれよあれよとミサトのタンクトップを器用に脱がし始め、慌ててミサトは抵抗を再開させる。
「解除確認っ!!」
「い、いい加減にしないと怒るわよっ!!シ、シンジ君っ!!!」
シンジの目の前に真っ白なミサトのブラジャーが現れ、ミサトは更に抵抗を強めてジタバタと藻掻く。
「アンビリカル・ブリッジ移動開始っ!!」
「お、お願いだから・・・。つ、疲れているのよ」
その隙をついてシンジは枕をミサトの腰元へずらして乗せ、まんまと策略にはまったミサトは作戦を変え、今度はちょっぴり涙目でお願い。
「第2ロックボルト外せっ!!」
「ダメだってばっ!!ダメ・・・。むぐっ!!んんんんんっ!!!」
しかし、シンジはミサトのショートパンツを脱がした後、ミサトの唇へ自分の唇を重ね、いきなり本気の大人のキスで攻める。
「んはっ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。」
「第1拘束具を除去っ!!」
十数秒後、2人の唇が離れた頃にはミサトもすっかりと大人しくなって荒い息をつき、シンジはミサトのブラジャーを抵抗もなく外す。
「同じく第2拘束具を除去っ!!」
「んんっ!!はあっ!!!」
続いてシンジがミサトのショーツに左手をかけ、右手でミサトの胸を揉みしだくと、ミサトは自ら立て膝をしてショーツを脱がし易い体勢を作る。
「1番から15番までの安全装置を解除っ!!」
ならば次はとシンジは寝間着代わりに着たシャツのボタンを全て外し、近くに脱ぎ捨て放り投げた。
「内部電源充電完了っ!!」
更に少しはやる気持ちを抑えながらショートパンツと一緒にブリーフを脱ぎ、シンジは下を覗いて何やら満足そうに頷く。
「内部用コンセント異常なしっ!!」
そして、暗くて良く見えないが、小さな丸くて薄い謎の物体を月明かりで何度か裏返して確認し、シンジがそれを持つ右手を下へ伸ばす。
「エヴァ初号機射出口へっ!!」
「くふっ!!んっ・・・。シ、シンジ君・・・・・・。」
更にシンジが何かを確認すると共に掛け布団がモゾモゾと動いた途端、何故かミサトが色っぽく切なそうな声を漏らす。
「進路クリアっ!!オールグリーンっ!!!」
ミサトの反応にシンジは再び満足そうに頷き、視線を上げてミサトの瞳を真剣な眼差しで覗き込んだ。
「・・・かまいませんね?」
「お、お願い・・・。じ、焦らさないで・・・・・・。」
潤み瞳がシンジの瞳と重なり、真っ赤に染めた顔をミサトはシンジから逸らして小さく頷く。
「発進っ!!」
「あんっ!!」
シンジとミサトがどんな訓練をしているのかは全くの謎だが、2人の訓練は夜を徹して行われ、明け方近くまで猛特訓が続けられた。
− 次回予告 −
はぁぁ〜〜〜・・・。良かった。今回もアキちゃんは無事だったんだね。
初めての年、トウジに殴られたせいもあってか、いつも気になるんだよね。
あっ!?アキちゃんって言うのは、トウジの妹の事ね?
・・・って、そうそう、トウジと言えば・・・。チ〜〜〜ン、ご愁傷様・・・・・・。
まあ、それはともかく・・・。毎回、毎回、トウジとケンスケも懲りないよね。
さてさて、今回はどうやって懲らしめてやろうかな?
Next Lesson
「鳴
らない、電話」
さぁ〜〜て、この次はアキちゃんで大サービスっ!!
注意:この予告と実際のお話と内容が違う場合があります。
後書き
ふと思ったのですが、このお話って時代逆行物だから密かに用語説明って要らない気がする。
でも、第1話でそう書いちゃったし、あった方が解りやすいし、小説っぽいんですけどね(笑)
あとシンジの過去、特に20歳辺りまでについて、嫌悪感を抱かれる方もいるかと思いますが・・・。
私としては、これだけの過去があって、この後の28年がないと、この物語でのシンジと言うキャラクターまで育たないと思うのです。
特にEOEと言う物語を経緯しているなら尚更かな?とも思います。
そして、ここで第1話の後書きを読み返して下さい。
この辺がメンソールのニコチン部分の一片になっている理由だったりします。
感想はこちらAnneまで、、、。
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