ウィーーン・・・。ガシャンッ!!
道路に偽装されていたハッチが開き、勢い良く台座に固定された初号機が地上に現れる。
『心の準備くらいさせて欲しいよね。全く・・・・・・。あっ!?』
「最終安全装置解除、エヴァンゲリオン初号機、リフトオフっ!!」
通信ウィンドウでシンジが首筋を手でさすりながらボヤくが、ミサトは思いっ切り無視して号令を放つ。
ガシャンッ・・・。
「シンジ君。今は歩くことだけを考えて」
同時にシンジの思考に反応して初号機が台座固定ロックが外れ、何故かリツコは凛々しいシンジの顔から紅い顔を逸らして指示を出す。
『さあ、行こう・・・。母さん』
「「っ!?」」
初号機が第1歩を踏み出すと共に、高性能スピーカーがシンジの呟き声を拾い、ゲンドウと冬月が驚愕に目を見開いて顔を見合わせる。
「跳んだっ!?」
だが、リツコの驚き声と発令所のどよめきが、ゲンドウと冬月に驚く暇など与えず、即座に2人は初号機の映る巨大モニターへ視線を戻した。


「うりゃぁぁ〜〜〜っ!!」
シンジの雄叫びが上がり、初号機は大地を蹴って跳躍すると空中で一回転。
「ふんっ!!ふんっ!!!」
まるで時が止まったかの様に初号機は空中姿勢を保ち、左右の掌を交互に突き出すと同時に、左右の掌からオレンジ色の光がそれぞれ放たれる。
カキンッ!!カキィィーーーンッ!!!
すると使徒も同じ様に己の前方にオレンジ色の八角形の光の壁を輝かせ、初号機から放たれた光をあっさりと防ぎ弾いた。


「ATフィールドっ!?・・・って、言うかっ!!?初号機のあの武器はなにっ!!!?聞いてないわよっ!!!!?」
使徒が放った八角形の光の壁『ATフィールド』にも驚いたが、初号機の攻撃方法にもっと驚いて、ミサトがリツコに叫んで問いかけた。
「し、知らないわよ。わ、私だって・・・・・・。」
「何よっ!?それっ!!?あんたが造ったん・・・じゃ・・・ない・・・の・・・?」
しかし、リツコから要領を得ない答えを返され、ミサトは怒り顔で怒鳴りながら振り向くが、リツコの心底の茫然顔に言葉の勢いがなくなる。
「でも、1つだけ解る事があるわ。ATフィールドがある限り・・・。」
「使徒には接触が出来ない・・・って事か」
ミサトの視線に気づいたのか、慌ててリツコは表情を神妙な物に変えてミサトを見据え、ミサトが苦渋の表情を返してきた次の瞬間。
「初号機もATフィールドを展開っ!!位相空間を中和してゆきますっ!!!」
「「何ですってっ!?」」
その理論もあっさりとマヤの分析報告によって覆され、ミサトとリツコが驚き声をあげて巨大モニターへ視線を戻す。
『ほらほら、どうしたのさっ!!早くしないと壊れちゃうよっ!!!』
誰もが言葉を失ってモニターに魅入る中、唯一人シンジだけは楽しくて仕方がないという様な声をあげていた。
ガリガリガリガリガリッ!!
             ガリガリガリガリガリッ!!
ガリガリガリガリガリッ!!
             ガリガリガリガリガリッ!!
ガリガリガリガリガリッ!!
             ガリガリガリガリガリッ!!
どういう原理なのかは謎だが、初号機はATフィールド接触面一歩手前で空中に少し浮遊し、右足を地面と水平に突き出しながら高速回転。
ガリガリガリガリガリッ!!
             ガリガリガリガリガリッ!!
ガリガリガリガリガリッ!!
             ガリガリガリガリガリッ!!
ガリガリガリガリガリッ!!
             ガリガリガリガリガリッ!!
お互いの接触面で激しい発光が起こり、まるで何かを凄まじく削り取る様な音が響く。
ガリガリガリガリガリッ!!
             ピシッ・・・。ピシッ・・・。
ガリガリガリガリガリッ!!
             ピシピシッ・・・。ピシピシッ・・・。
ガリガリガリガリガリッ!!
             ピシピシピシッ・・・。ピシピシピシッ・・・。
しばらくすると、音の中にガラスがひび割れてゆく様な音が混ざり、接触面でも文字通りのひびが走り始める。
「ち、違うわ・・・。し、浸食をしているのよ・・・・・・。」
ピシピシピシピシピシッ!!パリィィィィィーーーーーーンッ!!!
やっとの思いでリツコが茫然とした呟きを漏らした直後、遂にATフィールド全体にひびが走り、心地よい音を立ててガラスの如く砕け散った。
ビシ、ビシッ!!バシッ!!!
すかさず初号機が高速回転を止め、無防備になった使徒へジャブ2連発からのローキックを放った次の瞬間。
バコッ!!ガンッ!!!ズゴッ!!!!ガキッ!!!!!ドゴッ!!!!!!ベシャッ!!!!!!!
初号機を中心に眩いばかりの閃光が放たれて発令所のモニターを白く焼き、凄まじい炸裂音が連続して何度も何度も響く。
「こ、今度は何なのっ!!?日向君、この光と音は何っ!!!?」
「ダメですっ!!とてもじゃないが、目を開けられませんっ!!!」
この閃光に発令所の誰もが咄嗟に両手を当てて目を瞑ってしまい、不可解な現象にミサトが報告を求めるが、日向もまた目を瞑っていて返せない。
「んっ!?止んだみたいね・・・・・・って、嘘っ!!?」
数瞬後、放たれたのも突然なら、収まるのも突然に閃光が止み、ミサトは両手を退けて目を開け、顎が抜けるくらいに大口を開けてビックリ仰天。
『ふんっ!!・・・ヌルいな』
何故ならば、使徒は全身をピクピクと痙攣させながら地に伏せており、初号機はモニターに背を向けて平然と立っていたからである。
「も、目標・・・。エ、エネルギー反応なし・・・・・・。」
「う、嘘でしょ?・・・・・・い、一瞬にして?」
驚き震える声で青葉が報告するが、ミサトは目の前の現実が信じられず、茫然自失状態で更なる報告を求めた。
「ま、間違い有りません・・・。も、目標の活動停止を確認・・・・・・。」
「い、一体、何が起こったと言うの?・・・・・・ね、ねえ、リツコ?」
だが、日向もまた改めての情報分析して驚き震える声で返し、ミサトがリツコの方へ振り向こうとしたその時。
「っ!?」
突然、地に伏していた使徒が体を球体状に変化させつつ初号機へ勢い良く飛びかかり、ミサトが驚きに目を見開く。
「いやっ!!活動を再開っ!!!」
「自爆する気っ!?」
現状と一拍遅い日向の報告を聞きながら、即座にミサトは使徒の意図を見抜いて叫んだ。


「んっ!?」
バゴッ!!
飛びかかってきた使徒にシンジは慌てず騒がず落ち着いて、初号機の上半身を逸らしながら右アッパーを使徒の顔面へ炸裂。
「はっ!!」
ドゲシッ!!
上半身を逸らした勢いそのまま後方受け身を取りつつ、少し宙に浮いた使徒の腹へ両足を当てて持ち上げ、天空に向けて使徒を勢い良く突き放す。
「よっとっ!!」
ダッ!!
間を空けずに初号機は起きあがりこぼしの要領で膝を曲げて起き上がり、同時に足のバネを使って天空へ使徒を追う様に飛び跳ねた。
その際、動力である電力を供給する為の『アンビリカルケーブル』と呼ばれるケーブルが引っ張られ、自動的に腰に繋がれたコンセントが抜ける。
「さて・・・。」
あっと言う間に初号機は使徒へドンドンと迫って目の前に追いつき、シンジが使徒に対してニヤリと笑った次の瞬間。
「オラオラオラッ!!!」
            ドガドガドガッ!!
「オラオラオラッ!!!」
            ドガドガドガッ!!
「オラオラオラッ!!!」
            ドガドガドガッ!!
シンジの雄叫びと共に初号機が両拳を交互に何度も何度も突き上げ、体を球状に変化させた使徒は文字通り手も足も出せず殴られ続ける。
「オラオラオラッ!!」
           ドガドガドガッ!!
「オラオラオラッ!!」
           ドガドガドガッ!!
「オラオラオラッ!!」
           ドガドガドガッ!!
その猛烈な攻撃の勢いに使徒は上へ上へと押し上げられ、完全な球体だったはずの形を見るも無惨な姿へとみるみる内に変えてゆく。
「オラオラオラッ!!」
           ドガドガドガッ!!
「オラオラオラッ!!」
           ドガドガドガッ!!
「オラオラオラッ!!」
           ドガドガドガッ!!
しかも、初号機は跳躍限界頂点に達して降下する間際、足下にATフィールドで足場を作って再び跳び、攻撃の勢いは止まる事を知らない。
「オラオラオラッ!!」
           ドガドガドガッ!!
「オラオラオラッ!!」
           ドガドガドガッ!!
「オラオラオラッ!!」
           ドガドガドガッ!!


「また、跳んだ・・・。ねえ、あれは何なのよ?」
モニターに映る万有引力反則者のせいで常識がガラガラと崩れ去り、たまらずミサトがリツコに間抜け顔を向ける。
ちなみに、初号機は跳ぶ際、ATフィールドで足場を作った後にすぐ消している為、見た目には空中を駈け上っている様にしか見えていない。
「・・・解らない。でも、1つだけ解る事があるわ」
「なにっ!?」
初号機を見つめたままリツコは眉間に皺を寄せて何か考え込み、ミサトはリツコの言葉に常識の復活を願って目を輝かす。
「彼・・・。この後、電源が切れたら、どうする気なのかしら?」
「・・・・・・へっ!?」
だが、何となくATフィールドの利用と予想したリツコから返ってきた答えは妙に場違いで、ミサトは更に間抜け顔になって固まった。
「フフ・・・。何にせよ。どんな原理かは知らないけど・・・。これは大発見ね」
「・・・リ、リツコ?」
更に科学者としての血がリツコの頬をニヤリと歪ませ、思わずミサトは背筋に冷たい汗が流れるのを感じて一歩後退。
「これは貴重なデーターだわ。マヤ、どんな些細なデーターも取りこぼすん・・・じゃ・・・ない・・・わ・・・よ・・・。」
そうとは気づかずリツコは愉快そうにクスリと笑い、己の直属にして有能な助手に視線を移して茫然と目が点。
「格好良い・・・。」
「・・・って、マヤっ!!」
「は、はいっ!!」
通信ウィンドウのシンジの凛々しい顔に、顔を紅く染めて釘付けになっているマヤへリツコの怒号が飛び、マヤが慌てて我を取り戻す。
実は戦闘開始よりマヤはほぼ一切の職務を放棄していた為、リツコが欲する貴重なデーターは見事なくらい全てこぼれまくり状態だった。


ピーーーーーッ!!
「オラオラオラッ!!・・・んっ!!?」
突然、エントリープラグ内に警告音が鳴り響き、気分良く使徒を殴っていたシンジは興奮から冷め、暢気に辺りをキョロキョロと見渡す。
ちなみに、この警告音は内部電源切れの警告音であり、外部有線電力供給がないとエヴァンゲリオンは内部電源で1分しか動けないのである。
「あらら・・・。ちょっとやりすぎたかな?」
第三新東京市はすっかり夜だったのに、なだらかな曲線を描く地平線の向こうに太陽が見え、シンジはバツの悪そうな顔で頭をポリポリと掻く。
実を言うと、ここは衛星軌道上直前の場所であり、ほんのちょっとだけ手を伸ばせば、そこは浪漫と未開の地が広がる大宇宙。
「ま、いっか・・・。それじゃあ・・・・・・。」
シンジは大して慌てた様子もなく、わずかに残っている内部電源を使い、初号機の右腕をオレンジ色に輝かせた。
ザクッ!!
「・・・これかな?」
そして、前衛芸術的な形になった使徒の体へ右拳を突き刺し、内部で元々使徒の胸にあった赤い球を探り、初号機が右手を握り締めた直後。
チュドォォォォォーーーーーーンッ!!
衛星軌道上間近で美しい十字の光を広げて使徒が大爆発し、間近で爆風を受けた初号機は天地逆さまになって吹き飛ばされる。
「さてと・・・。どうしよう・・・・・・。」
それはエントリープラグ内とて例外ではなく、シンジもまた天地逆さまになりながら腕を組んで考え込み始めた。
何故ならば、ここまで上って来られた要因であるATフィールドは、内部電源切れにより既に使用する事は不可能だからである。
(この段階で羽根を広げる訳にもいかないし・・・。S2機関だってそうだし・・・。弱ったなぁぁ〜〜〜・・・・・・。)
ヒュゥゥゥゥゥュゥゥゥゥゥ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン・・・。
こうして、万有引力反則者はその汚名を返上して、落下の摩擦熱で体を真っ赤に染めながら第三新東京市へ戻って行った。


「はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。」
人が1人として居ない夜の第三新東京市をただひたすら走るお下げ髪で少し垂れ目の少女。
「はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。」
だからと言って、今日は市内マラソン大会でも、伝統ある箱根駅伝に参加している訳ではない。
「はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。」
実は避難勧告が出された際、少女は乙女の事情でデパートのトイレから出るに出れず、すっかり避難に遅れてしまったのである。
「はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。」
しかも、迂闊な事に少女はいつもの避難訓練だと油断をしてしまい、10分後にトイレから出て、20分後にデパートから出てビックリ仰天。
「はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。」
デパートと街には人っ子1人居らず、代わりに居たのが使徒と戦闘機。
「はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。」
慌てて少女は出来るだけ遠くへ逃げようとするが、全ての電車やバスは止まって麻痺状態であり、今の今まで休む事を知らず半日間も走っていた。
「アキっ!!こんな所におったんかいっ!!!」
「お兄ちゃんっ!?」
ふと先の交差点に黒いジャージの少年が通りがかり、半日間の極限の緊張の中で少女は肉親の姿と言う安心感を見つけ、涙目で駈け寄って行く。
この少年、実を言うと一旦は避難したが、地域指定シェルターに妹の姿がない事に気づき、周りの反対を押し切って外へ妹を捜しにきたのである。
何とも美しい兄妹愛とも言えるが、実際は只の無謀でもあり、現に少年は妹が今朝に出かけてくると言ったデパートを闇雲に目指していただけ。
「挨拶は抜きやっ!!早う逃げるでっ!!!」
「う、うんっ!!・・・あっ!!?」
「なんや?」
やっと見つける事の出来た妹の手を引っ張り、少年が駈け出そうとするが、不意に少女が少年の背後を指さし、釣られて少年も後ろを振り返った。
「流れ星・・・。綺麗・・・・・・。」
「ほんまやな・・・・・・。」
普段はビル群の明かりに隠れて見えない星々の中に流れ星を見出し、思わず少女と少年は緊急事態だと言う事も忘れて詩人的感傷に浸る。
「・・・って、こっちに来るでぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜っ!!」
「キャァァァァァ〜〜〜〜〜〜ッ!!」
だが、流れ星がこちらへ真っ直ぐ飛んで来る事に気づいた途端、少年と少女は半日走り続けた疲れも忘れ、世界を十分に狙える速さで逃げ出した。


「綾波っ!!」
突如、瞑っていた目をクワッと見開き、シンジが飛び起きた。
「はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。びょ、病院?」
荒い息をつきながら辺りをキョロキョロと見渡し、シンジは現状の理解が出来ず眉間に皺を刻む。
いつの間にか着替えさせらたらしく、シンジは病院服を着ており、悪夢でも見たのか背中には寝汗でベットリと病院服が張り付いていた。
「そうか・・・・・・。僕はまたここへ」
しばらくして呼吸が整うと共に昨日の記憶が蘇り、現状を理解してシンジは力無く溜息をつきながら上半身を倒す。
「見慣れた天井・・・。そして、見知らぬ天井か・・・・・・。」
仰向けになって直線上にある真っ白な味気のない天井をぼんやりと見つめた後、シンジは瞳に悲しみの色を灯して視線を窓の外へ向けた。




真世紀エヴァンゲリオン

Lesson:2 見知らぬ、天井




ピッ!!ピッ!!!
         ピッ!!ピッ!!!
ピッ!!ピッ!!!
         ピッ!!ピッ!!!
ピッ!!ピッ!!!
         ピッ!!ピッ!!!
直径1キロ級のクレーターが第三新東京市の中心付近に作られ、ビル群の間にポッカリと空洞が出来ていた。
黄と黒の立入禁止テープがクレーター外周部をグルリと囲み、中心には初号機が天地逆さまに上半身を埋め、大地から足を生やしている。
その周りを数台のクレーン車が取り囲み、初号機の回収作業を作業責任者の笛の音を合図に行っていた。
ピッ!!ピッ!!!
         ピッ!!ピッ!!!
ピッ!!ピッ!!!
         ピッ!!ピッ!!!
ピッ!!ピッ!!!
         ピッ!!ピッ!!!


「使徒再来か・・・。あまりに唐突だな」
何処か暗闇に集って6つの机で長方形を作り、机からのアップライトを浴びる6人の男達。
「さよう。15年前と同じだよ。災いは何の前ぶれもなく訪れるものだ」
「幸いとも言える。我々の先行投資が、無駄にならなかった点においてはな」
「そいつはまだ解らんよ。役に立たなければ無駄と同じだ」
良く見れば6人の内のゲンドウ以外の5人は体がやや透けており、それが遠隔地と繋がる立体映像だと解る。
「いまや周知の事実となってしまった。使徒の処置、情報操作・・・。ネルフの運用は全て適切かつ迅速に処理して貰わなければ困る」
上座に座るバイザーをした会議の議長である老人『キール・ローレンツ』が下座に座るゲンドウを睨む。
「その件に関しては既に対処済みです。ご安心を」
机に両肘を付き、手を組んで口元を隠す『ゲンドウポーズ』をとったまま、ゲンドウは5人の嫌味にも屈せず無表情に応えた。


『昨日の特別非常事態宣言に関して政府の発表が今朝、第二・・・ピッ!!』
クレーター外周に仮設営された本部テントで、一仕事を終えてくつろぐミサトとリツコ。
『今回の事件は・・・ピッ!!・・・ピッ!!!・・・ピッ!!!・・・プチン』
テレビでは昨夜の非常事態宣言ついての政府発表が放送され、ミサトはリモコンで次々とチャンネルを変えるも、全チャンネルとも政府発表。
『・・・プチン』
「発表はシナリオB−22か。またも事実は闇の中ね」
つまらなそうにテレビを消し、ミサトは念の為に着た核防護服の暑さと外の暑さに耐えかね、団扇で生ぬるい風を緩慢な動作で己へ送る。
「広報部は喜んでいたわよ。やっと仕事が出来たって」
隣ではリツコが煎れたてのコーヒーを香りを楽しもうと、コーヒカップへ鼻を近づけていた。
「それにしても、あれよねぇ〜〜・・・。」
「・・・なに?」
ミサトは机の上に両足を乗せ、椅子後方の足を支点に椅子を後ろへ慎重に傾け、リツコはコーヒーをすすりながらミサトへ視線を向ける。
「何もわざわざ街を壊す必要がないのにと思ってさ・・・・・・。
 まあ、あのままでも使徒が自爆していたから同じだったかも知れないけど・・・。どう考えても、この方が内にも外にも見栄えが悪いわよね」
「全く・・・。無様ね」
体半分をテントから出して日光を浴び、ミサトは未だ逆さまになっている初号機を見て溜息をつき、リツコもまたそれ以上の溜息をついた。


「ま、その通りだな・・・。しかし、碇君。ネルフとエヴァもう少し上手く使えんのかね?」
未だ暗闇では会議に名を借りたゲンドウへの嫌味大会が続いていた。
「零号機に引き続き、君らが初陣で壊した初号機と街の修理代・・・。国が1つ傾くよ」
「同感だな。だが・・・。そんな事より不可解な事がある」
下らない茶番に黙し、隠した口元で溜息をついていたゲンドウの眉がピクリと跳ねてわずかに傾く。
「聞けば、あのおもちゃは君の息子に与えたそうではないか?君の息子は何者だ?」
「さよう。ATフィールドを利用しての衛星軌道上への到達。あまりにも手際が良すぎるね」
「更にはだ・・・。その後の第三新東京市への落下。これでは良い恥晒しだよ」
「人、時間・・・。そして、金・・・・・・。。親子揃って幾ら使えば気が済むのかね?」
まるで申し合わせたかの様にキール以外の4人が、一言づつ嫌味を言ってゲンドウへ白い視線を送る。
(そうだ・・・。あれは誰だ?3年前のシンジとあまりに違う。一体、何があったと言うのだ?
 よりにもよって、私のリツコ君とレイを・・・・・・。うぐぐぐぐっ!!思い出しただけで、はらわたが煮えくり返るっ!!!)
嫌味に触発されて昨日の事を思い出し、ゲンドウは憤って肩をブルブルと震わす。
「それに君の任務はそれだけではあるまい。人類補完計画・・・。これこそが、君の急務だぞ」
「さよう。この計画こそが、この絶望的状況下における唯一の希望なのだ。・・・我々のね。」
「要であるA計画の進行・・・。これは以前の第16次中間報告と状況が全く変わっていない様だが?」
「それにまだ南極の方も調査が進んでいない様だな・・・。君、あれはキーポイントだよ?」
ゲンドウの反応に4人は嫌味が効いたと勘違いしてニヤリ笑い、この6人の会議で進めている計画『人類補完計画』の進行を早める様に釘を刺す。
ちなみに、このゲンドウ以外の5人は、その計画から名を取り『人類補完委員会』と呼ばれる集団である。
(そうだっ!!あんな不良になるなど、私の育児計画には存在しなかったはずだっ!!!
 ・・・やはり、人に任せたせいでグレたのか?ぬ゛ぬ゛ぬ゛ぬ゛ぬ゛・・・。ユイに何と言ったら良いのだ・・・・・・。そうだっ!!
 ふっ・・・。何事にもイレギュラーは存在する。いざとなったら、シンジを消して無かった事に・・・。きっとユイも許してくれるはずだ)
だが、そんな事はゲンドウの耳を見事に通り過ぎ、ゲンドウは実の息子に嫉妬の炎をメラメラと燃やし、心を負のドス黒い暗黒色に染めていた。
「いずれにせよ、使徒再来における計画スケジュールの遅延は認められん。・・・予算については一考しよう」
「では、あとは委員会の仕事だ」
「碇君・・・。ご苦労だったな」
ボワンッ・・・。
話も一段落した事もあり、キールもまたゲンドウの様子に反省していると感じて締め言葉を発すると、一斉に4人が鈍い音を立てて姿を消す。
「碇・・・。後戻りは出来んぞ」
ボワンッ・・・。
4人が消えた後もキールは1人残ってバイザーの奧からゲンドウを睨み、念を押しつつ鈍い音を立てて姿を消した。
「(なぁ〜〜に・・・。幸いにして今は戦時下。例え、シンジ1人が消えたところで・・・。)ぬっ!?」
一拍の間の後、会議が終わった事で自動的にネルフ本部の司令公務室の明かりが灯り、危険な思考に沈んでいたゲンドウが驚いて我に帰る。
ウィィーーーン・・・。
「・・・いつの間に会議が終わったんだ?」
少し茫然となっているゲンドウに放って、窓のシャッターが開いてゆき、太陽の光が射し込んで自然光に満たされると同時に明かりが消えた。


ミーーン、ミンミン、ミーーン・・・。
病院の廊下の窓辺に立ち、シンジは何処か悲しそうな横顔で遠くを見つめ、シンジの耳へ外の暑さを知らす蝉の鳴き声が聞こえてくる。
「キャァァ〜〜〜ッ!!絵になるわぁぁぁ〜〜〜〜っ!!!」
「本当っ!!窓辺に立って何かに悩み、憂いを帯びる美少年の横顔・・・。」
「あぁ〜〜〜んっ!!お姉さんが相談にのってあげるぅぅ〜〜〜っ!!!」
通路先の曲がり角で看護婦さん達がシンジの様子を見て、小声でキャイキャイと騒いでいるが、残念ながらシンジの耳へは届いていない。
ちなみに、ここはジオフロント内のネルフの病院なのだが、シンジが見ている外の景色は地上と全く一緒で木もちゃんと育って森を形成していた。
これは第三新東京市各所に建設された集光装置によって、ジオフロントへ地上と変わらない太陽光が送られているからである。
グゥゥ〜〜〜・・・。
(お腹が空いた・・・。お昼、まだなの?)
しかし、別に思い悩んでいる訳ではなく、ただ単にお腹が空いているだけの事であり、シンジが自己主張をあげたお腹へ右手を当てたその時。
ガシャン・・・。
看護婦さん達が居る方向とは反対の通路にあるエレベターの扉が開く音が聞こえ、思わずシンジは反応してその方向へ振り向いた。
カラカラカラカラ・・・。
「・・・あれは」
滑車の音を鳴らす移動式ベットに乗せられ、右腕にギプスをはめて左目に包帯をあてがったレイがシンジの元へ近づいて来る。
カラカラカラカラ・・・。
「やあ、綾波」
目の前を通り過ぎようとするベットの主へシンジが声をかけ、レイが反応して無表情にシンジへ視線を向けた次の瞬間。
「っ!?」
「っ!?」
一気に顔を紅く染めてレイが瞳を大きく見開き、ベットを押していた看護婦さんは初めて見るレイの反応に驚いて思わず立ち止まる。
(こ、これはなに・・・?ど、動悸、呼吸が乱れ・・・。か、顔の毛細血管へ血が集まってくる・・・。なに?なに?なに?なに?なに?)
「・・・あれ?僕の事を忘れちゃった?ほら、碇シンジだよ」
「っ!?」
戸惑っているレイに、シンジが首を傾げて自分の名を告げると、レイの目が更に大きく限界まで見開かれた。
(し、知っている。き、昨日、初号機ケイジで・・・。な、なに・・・?か、体が変・・・。あ、熱くなっている・・・。わ、私、病気?)
昨日の衝撃的な出逢いを思い出して、レイはベットの上で身をモゾモゾとくねらし始め、終いには膝を合わせて切なそうに太ももを擦らせ始める。
「ねえ・・・。綾波?」
「・・・な、なに?」
シンジはレイの様子のクスクスと笑って呼びかけるが、レイはシンジの視線から居心地悪そうに目を逸らす。
「綾波って・・・。可愛いね?」
しかし、シンジはレイの顎を持って強引に顔を向けさせ、目が合うと極上のニッコリ笑顔でレイに微笑んだ。
「・・・・・・・・・っ!?な、何を言うのよ・・・・・・。」
一瞬だけ何の事か解らずレイはキョトンと茫然顔になるも、5秒後に理解して真っ赤に染めた顔を勢い良くシンジから強引に背ける。
「やっぱり、可愛いや」
「・・・だ、出してっ!!」
「えっ!?あっ!!?は、はいっ!!!!」
シンジは再びクスクスと笑い、たまらずレイが強い口調で促すと、白昼堂々のラブシーンに茫然自失だった看護婦さんが慌てて我を取り戻す。
「きぃぃ〜〜〜っ!!何よ、何よっ!!!レイちゃんたらっ!!!」
「本当っ!!こうなったらお昼抜きは決定ねっ!!!」
「あぁ〜〜〜んっ!!お姉さんにもその言葉を言ってぇぇ〜〜〜っ!!!」
未だ通路先の曲がり角にいる看護婦さん達は2人の様子を見て、レイに対して嫉妬の炎をメラメラと燃やしながらシンジへ熱い視線を送る。
カラカラカラカラ・・・。
「う〜〜〜ん・・・。嫌われちゃったかな?」
だが、その視線に気づかず、シンジは去って行くベットへ視線を向けて困った様な笑みを浮かべ、年寄り臭く人差し指と親指で顎をさすっていた。


ブロロロロ・・・。
初号機回収作業も終わり、道路を何台も連なる車両群先頭の指揮車両。
「やっぱ、クーラーは人類の至宝ぉ〜〜・・・。正に科学の勝利ね」
ミサトはタンクトップ姿で車を運転しながら、エアコンから送られてくる風を気持ち良さそうに浴びていた。
カチャ・・・。
「・・・シンジ君が気づいたそうよ」
かかって来た電話の受話器を置き、助手席に座っているリツコがミサトの方を向く。
「で・・・。容体はどうなの?」
「外傷はなし・・・。少し頭にたんこぶが出来ているそうだけど」
ミサトは期待の込めた横目を向けると、リツコは力無く首を左右に振って深い溜息をついた。
「ちっ・・・。生きていていたか。なら、精神汚染は?」
「その心配もないそうよ」
「ちっ・・・。どういう神経しているかしら。大体、衛星軌道近くから落ちたのに、どうして生きてられるのよ。・・・変じゃないっ!!」
ならばと次なる期待を込めて今度は顔も向けるが、やはりリツコは力無く首を左右に振り、ミサトは視線を正面へ戻して忌々し気にぼやく。
「どうやら、落下直前でATフィールドを張って衝撃を防いだ様ね」
「けっ!!女の扱いも器用なら、戦いも器用って訳ねっ!!!」
冷静な分析結果を返してくるリツコに、ミサトはますます忌々し気に吐き捨て、ついでに窓を開けて道路に唾も吐き捨てた。
「まあ、それはともかく・・・。シンジ君の迎えに行くのは頼んだわよ?」
「・・・えぇぇ〜〜〜っ!!」
だが、リツコから続いて告げられた内容に、ミサトは一瞬だけ息を飲んでビックリ仰天。
「どうして、私が・・・。リツコ、あんたが行きなさいよっ!!あんた、昨日の戦いについて聞きたい事があるって言っていたじゃないっ!!!」
「何を言ってるのよ。あなたはシンジ君の直属の上司でしょ?あなたが行かなくてどうするの?」
「ぐっ・・・。た、確かにそうだけどさぁ〜〜〜・・・・・・。」
「なら、大人しく迎えに行くことね」
慌ててミサトは矢継ぎ早に言葉を繋ぎ、左手を上下にシッシッと振って役目を押し付け様とするが、リツコに冷静な正論を返されて言葉に詰まる。
「はいはい、解りましたよっ!!ええ、解りましたともっ!!!行きゃあ良いんでしょ、行きゃあっ!!!!」
ブロロロロロロロロロッ!!
「ちょ、ちょっと、ミサトっ!?ス、スピードの出し過ぎよっ!!?・・・って、キャァァ〜〜〜ッ!!!!」
半ばやけっぱち気にミサトは叫び、感情そのままにアクセルをベタ踏むと、指揮車両のエンジンの咆哮とリツコの悲鳴があがった。


「暇だ・・・・・・。ふぁぁぁ〜〜〜・・・。」
病室に戻ってベットに寝そべり、シンジが退屈そうに大欠伸したその時。
プシューー・・・。
「碇シンジくぅ〜〜ん♪検査の時間ですよぉぉ〜〜〜♪♪」
病室の扉が開き、シンジの検査に誰が行くか杯ジャンケン大会の勝利者である看護婦さんが、嬉しそうに声を弾ませながら部屋に入ってきた。


「オーライ、オラーイ・・・。ストぉぉ〜〜〜ップっ!!」
第三新東京市に幾つもある『兵装ビル』と呼ばれるビルへ、使徒迎撃用で使う弾薬が次々と補充されてゆく
「この街とエヴァが完全に稼働して、アスカが来ればいけるかも知れない」
「・・・あら?昨日の様子だと、シンジ君だけでも大丈夫なんじゃない?」
その様子を眺めながらミサトは指揮車両から降り、リツコもまた指揮車両から降りた。
ちなみに、アスカとは今現在はドイツにいるセカンド・チルドレン『惣流・アスカ・ラングレー』の事である。
「けっ!!あんな奴、アスカが来たら即刻お払い箱よっ!!!」
「・・・そうね。その方が良いかも知れないわね」
バタンッ!!
心底に嫌なのか、吐き捨てるミサトの横を通り抜け、今度はリツコが代わって運転席へ乗り込む。
パンッ!!パンッ!!!パンッ!!!!
「よっしゃぁぁ〜〜〜っ!!それじゃあ、ちょっち行ってくるわっ!!!」
するとミサトは頬を両手で叩いて気合いを入れ、リツコに片手を挙げて挨拶した途端。
ブロロロロ・・・。
「ミサト、ごめんなさい・・・。卑怯な私をあなたは許してくれるかしら・・・・・・。」
逃げる様にリツコはアクセルを踏んで指揮車両を発進させ、遠ざかってゆくミサトの姿をバックミラーで見ながらポツリと呟いた。


『・・・の医療会議は予定通りに行われます担当者は第二会議室へ集まって下さい』
病院特有の静けさが広がる中、案内アナウンスの声だけが響く廊下を緊張の面もちで歩くミサト。
ゴクッ・・・。
シンジの病室まで来ると扉の前で立ち止まり、緊張を飲み込む様に生唾を飲み込み、ミサトが扉の自動開閉ボタンへ手を乗せたその時。
「やんっ!!・・・ダ、ダメぇ〜〜」
「何がダメなのさ?ちゃんと調べないと、どんな病気か解らないでしょ?・・・ほら、大きく開けて?」
「う、うん・・・。」
シンジの声と甘ったるい女性の声が中からわずかに聞こえ、ミサトは体をギクッと震わせて一歩後退。
「・・・どれどれ?」
「あんっ!?」
それでも好奇心と嫌な予感を入り混ぜながら、ミサトは胸をドキドキと高鳴らせつつ耳をドアにくっつけた。
「むむっ!?これは熱がありますね?・・・注射と薬、どっちが良いですか?」
「そ、それじゃあ・・・。ちゅ、注射で・・・・・・。」
「ちょっと痛いかも知れませんが、我慢して下さいね?」
「えっ!?・・・ち、違うっ!!?そ、そっちはっ!!?」
2人の会話に再び生唾を飲み込み、女性の驚き声が聞こえた次の瞬間、ミサトもギョギョギョッと驚いて我に帰った更に次の瞬間。
プシューー・・・。
「あ、あ、あんた達ぃぃ〜〜〜っ!!びょ、びょ、びょ、病院で何をやってんのよぉぉぉ〜〜〜〜っ!?」
「「えっ!?」」
病室の扉を開いてミサトが叫び、ミサトが叫ぶ通り何をしているのかは全くの謎だが、突然の訪問者にシンジと看護婦さんが振り向いて固まる。
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
病院特有の静けさとはちょっと違う静けさが病室に広がり、まるで3人が3人ともが息を忘れたかの様に黙り込む。
1人はミサト、叫んだ最後の言葉である『よ』の母音である『お』の形で大口を開けたまま。
1人はシンジ、何処から仕入れてきたのか、全裸の素肌の上に白衣を纏い、看護婦の両足の間へ挟まれる形で看護婦の上へ伸し掛かっている。
1人は看護婦、彼女こそが1番の謎であり、何故かシンジの病室のベットに寝そべり、更にナース服の左サイド前のボタンを全開に開けて半裸。
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         プシューー・・・。
数秒後、部屋へ入らずにミサトが入口の扉の前に立っていた為、扉が内蔵プログラムを実行して自動的に閉まる。
プシューー・・・。
「あ、あ、あんた達・・・。びょ、びょ、びょ、病院で何をやってんのよ・・・・・・。」
それも束の間、扉が再び開いてミサトが現れ、震える足取りで病室へ入りながら今度は震える声で同じ質問を繰り返した。
「何って・・・・・・。ねぇ?」
応えてシンジが看護婦さんへ視線を向けると、看護婦さんは我に帰ってシンジを押しのけ、慌てて同性のミサトから隠す様に着衣の乱れを直す。
「ま、また、今度ね・・・。で、電話するから・・・・・・。」
「はい、待ってます・・・。あっ!?ちょっと待って」
そして、看護婦さんはそそくさと病室を駈け出て行こうとするが、病室を出る間際にかかったシンジの呼び声に振り返る。
「・・・これ、忘れ物ですよ?」
「や、やだっ!!シ、シンジ君ったらっ!!!」
シンジは白衣のポケットからブラジャーを取り出し、顔を紅くに染めて看護婦さんはブラジャーを引ったくる様に奪って今度こそ駈け出て行った。
「さてと・・・。何ですか?ミサトさん」
「あんたねぇぇ〜〜〜っ!!ここは病院なのよっ!!!もっと場を弁えなさいっ!!!!」
一拍の間の後、シンジがベットから下りてミサトへ視線を向けると、ミサトもシンジへ視線を向けて踏み込んだ時の勢いを取り戻して怒鳴る。
「やだなぁぁ〜〜〜・・・。病院だからですよ。今のは彼女が検査をしたいって言うから、僕は彼女に検査をしていただけですよ」
「違うっ!!あんたは検査をする側じゃなくて、される側でしょっ!!!」
だが、シンジが立った為にボタンの留められていない白衣の前が全開にご披露され、ミサトは少し紅く染めた顔をシンジから逸らす。
「えっ!?そうだったんですか?・・・でも、僕はされるより、する側が好きなんですけどね」
その隙にすかさずシンジはミサトの背後に回り、ミサトとの身長差の不利をカバーする為に膝をミサトの膝に合わせてやや曲げた。
「ちょ、ちょっとっ!?な、何、するのよっ!!?」
「だって、するんでしょ?ミサトさんが僕の検査を・・・。」
おかげで、不意を付かれたミサトはバランスを崩して膝を折り、シンジに背後から抱き留められた上、左手で強引に顔を背後に向けさせられる。
「違うっ!!そう言う意味じゃな・・・。んんっ!!?や、止めなさい・・・。お、大声を出すわよ・・・・・・。」
「ええ、良いですよ・・・。ミサトさん、声は大きいけど、可愛い声ですからね」
「な、何をするの・・・。や、止めなさい・・・。シ、シンジ君・・・・・・。」
それでも身をよじって抵抗するが、シンジが首筋へ軽いキスを与えると、ミサトは甘く切ない声を漏らしながら抵抗を次第に弱めていった。


「良い?何度も言う様だけど、さっきの事は2人だけの秘密よ?良いわね?絶対だからね」
不思議な事に病室から5分とかからない距離あるエレベーター前へ小1時間もかけて到着し、シンジとミサトはエレベーターを待っていた。
「やあ、嬉しいなぁ〜〜。僕とミサトさんの2人だけの秘密がいっぱい出来て」
「なに言ってんのよっ!!・・・あんたがわざわざ作っているんじゃない」
嬉しそうにクスクスと笑うシンジに、ミサトは憤って怒鳴るが、行き交う医師と看護婦達の何事かと言う視線を感じて声を潜める。
「じゃあ、秘密ついでに・・・。もう1つ、秘密を作りましょうか?」
「な゛っ!?・・・ち、近づかないでっ!!!そ、それ以上、近づいたら撃つわよっ!!!!」
シンジの笑顔が妖しい物へと変わった事に気づき、慌ててミサトは数歩後ずさりながら、ジャケットから取り出した銃を震わせてシンジへ向けた。
「ミサトさんったら、やだなぁ〜〜・・・。違いますよ。ほら、ちゃんと首筋を隠さないで良いのかな?と思って」
「・・・えっ!?い、いつの間にこんな所へ・・・・・・。」
だが、シンジは肩を竦めてミサトの首筋を指さし、ミサトはシンジから注意を逸らさず、自分の首筋にある謎の内出血痕を確認して左手で隠す。
「はい、これを使って下さい」
「す、すまないわね・・・って、なんであんたがこんな女の子、女の子した絆創膏を持っているのよっ!!」
シンジが制服のズボンのポケットから取り出した絆創膏を受け取りながらも、ミサトはそんな所に入っていたピンク色の絆創膏に疑問を感じた。
「ああ、それは今朝の朝食を運んできてくれた看護婦さんから貰ったんですよ。・・・ほら、僕もミサトさんとお揃いでしょ?」
(・・・な、何て奴なの?わ、私以外にも1日で2人も・・・。こ、こんな奴が野放しにされてて良いの?す、凄く疑問だわ・・・・・・)
するとシンジは制服のシャツを少しずらし、首筋に貼ってある絆創膏を見せ、ミサトはシンジの手の早さに戦慄して汗をダラダラと流す。
ポォ〜〜ン♪
ウィィーーーーン・・・。ガシャンッ!!
そうこうしていると、エレベーターの到着を知らせる音が鳴り響き、扉が開くと同時に迷惑にも扉間際に立つゲンドウが現れた。
「あっ・・・。父さん」
「・・・シ、シンジ」
背の高いゲンドウに見下ろされながらシンジは禍々しいほどにニヤリと笑い、言い知れぬ恐怖にゲンドウは体をビクッと震わせて思わず一歩後退。
ニヤリ・・・。
       ビクッ!!
ニヤリ・・・。
       ビクッ!!
ニヤリ・・・。
       ビクッ!!
開いた場所へ一歩進んでシンジは再びニヤリと笑い、ゲンドウは体をビクッと震わせて更に一歩後退。
ニヤリ・・・。
       ビクッ!!
ニヤリ・・・。
       ビクッ!!
ニヤリ・・・。
       ビクッ!!
親子の不思議な一進一退の攻防がエレベーター内で繰り広げられ、終いには防戦一方のゲンドウがエレベーターの隅へと追い込まれてしまう。
「ミサトさん、乗らないんですか?」
「そ、そうね・・・。」
決してゲンドウから視線を外さず、シンジが外へ呼びかけると、この戦いに茫然としていたミサトがエレベーターへ慌てて乗り込む。
ウィィーーーーン・・・。ガシャンッ!!
扉が閉まってエレベータが下降して行くが、シンジとゲンドウの攻防戦はまだまだ止まらない。
ニヤリ・・・。
       ビクッ!!
ニヤリ・・・。
       ビクッ!!
ニヤリ・・・。
       ビクッ!!
先ほどの会議での決意は何処へやら、諸手を上げて白旗状態のゲンドウはもう後がないのにも関わらず、壁一杯に背を付けて必死に後ずさる。
ニヤリ・・・。
       ビクッ!!
ニヤリ・・・。
       ビクッ!!
ニヤリ・・・。
       ビクッ!!
この戦いの第三者であるミサトはと言うと、息詰まる2人の攻防戦から視線を逸らし、必死に目の前の扉ただ1点を見つめていた。
ポォ〜〜ン♪
ウィィーーーーン・・・。ガシャンッ!!
しばらくすると、エレベーターの到着を知らせる音が鳴り響く。
「シ、シンジ君・・・。つ、着いたわよ・・・・・・。」
「・・・それじゃあね。父さん」
逃げる様にエレベーターから降りたミサトの呼び声に応え、シンジは面白そうにクスクスと笑いながらエレベータを降りて行った。
ウィィーーーーン・・・。ガシャンッ!!
ドスッ・・・。
再びエレベーターの扉が閉まると、今までの緊張が抜けると同時に膝の力が抜け、ゲンドウはその場へ膝を折って汗をダラダラと流す。
「も、問題ない・・・。なぬっ!?」
だが、すぐゲンドウは誰も見ていないのに人目を気にして震える膝で立ち上がり、目的地の階のボタンを押そうと操作パネルを見てビックリ仰天。
ちなみに、実はゲンドウの目的地はシンジとミサトがエレベーターへ乗った階であり、先ほどはシンジのせいで降りそこねたのである。
「お、おのれ、シンジめっ!!こ、子供じみた事をっ!!!」
なんと操作パネルのボタンはシンジのイタズラで屋上まで全て押されており、屈辱と敗北感をゲンドウは奥歯をギリギリと鳴らして必死に耐えた。


「・・・赤木博士、これで本当に良いのかね?」
副司令公務室へ来たリツコから書類を受け取って最初の1行を読むなり、冬月は書類から視線を上げて尋ねた。
「はい、他に方法はありません。サードチルドレンの要求を飲むには、これが最も効率の良い方法です」
「確かに・・・。彼の要求は少し法外だな」
リツコは更にもう1枚の書類を差し出し、冬月は書類にかかれている数字に少し驚いて唸る。
「それに、この方法なら万が一に備える事も可能であり、この方法自体が自然と彼のガードと監視になります」
「よろしい。許可しよう」
続いたリツコの言葉にもっともだと頷き、冬月は副司令の欄に許可を表す自分の判を押した。


「ふっ・・・。問題ない」
病室の扉の前に立ち、ゲンドウはサングラスを押し上げてニヤリと笑う。
「そうだ。問題ない・・・。元々、私には娘は居たが、息子は居なかったんだ。問題ない・・・・・・。」
病室の利用者を示すプレートには『綾波レイ』の文字が黒マジックで書かれている。
プシューーー・・・。
「レイ・・・。調子はどうだ?」
ゲンドウは幾万の期待を込めて扉を開き、ベットに上半身を起き上がらせ、入口とは反対方向の窓の外を眺めているレイへ声をかけた。
「レイ?・・・・・・っ!?」
だが、レイは返事を返そうとも振り向こうともせず、ゲンドウは怪訝そうにレイが顔を向けている方へ回ってビックリ仰天。
「ど、どうしたと言うのだ・・・。」
そこにはゲンドウが1度たりとも見た事がない、頬をポッと紅く染めて瞳を潤ませる乙女の表情をしたレイがいた。
しかも、レイは視界をゲンドウに遮られていると言うのに、まるで目に入っていないらしく、ゲンドウが居る事に気づいた様子は見られない。
「・・・んっ!?」
驚きに目を見開いて固まっていたゲンドウだったが、ふとレイの唇がほんの少しだけ動いている事に気づき、レイの口元へ耳を寄せてゆく。
「碇君・・・・・・。」
(碇君だと?・・・私の事か?いや、違うな・・・。レイは私の事を司令と呼ぶはず・・・・・・。ま、まさかっ!?)
そして、レイの口から漏れた小さな小さな声について考え込んだ後、ゲンドウは壮絶に嫌な予感を覚えて目を見開いて更に耳を近づけた。
「この心に広がる物はなに?・・・知っている。本で読んだ事がある・・・。これは恋心・・・。私、恋をしているのね・・・・・・。」
「な、なんだとっ!?」
「これは私の心・・・。碇君と1つになりたい。心も体も1つになりたい・・・。それは、それは、とても気持ちの良い事・・・・・・。」
「レ、レイぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜〜っ!!」
既に口へくっつけんばかりに近づけた耳へレイの艶やかな声が届き、ゲンドウは絶叫をあげながらレイの両肩を掴んでガクガクと揺する。
「っ!?・・・碇司令」
「レイ、目を醒ましたかっ!!お前は騙されているんだっ!!!シンジはお前の考えている様な奴じゃないっ!!!!奴は悪魔・・・。」
その甲斐あってか、瞳に輝きを戻してレイはいつもの無表情になり、すぐさまゲンドウはレイの幻想を打ち砕こうと唾を飛ばさんばかりに叫ぶ。
「碇君・・・。キス・・・。頭に広がった白い空間。・・・あれは何?・・・あれは何?・・・あれは何?・・・あれは何?・・・あれは何?」
しかし、シンジの名前が出た途端、レイは昨日のキスを思い出して頬をポッと紅く染め、再び乙女の表情へ戻ると共に連想ゲームへ突入。
ドンッ!!
(ぐぐぐぐぐっ!!おのれぇぇ〜〜〜っ!!!シンジめっ!!!!許さんっ!!!!!絶対に許さんぞぉぉぉ〜〜〜〜っ!!!!!!)
ゲンドウはその場へ力無くガックリと両手、両膝を付き、心の奥底から沸き上がる負の感情を吐き出すかの様に床を右拳で叩いた。


「私の家ぇぇ〜〜〜っ!?どうしてよっ!!?シンジ君は司令と一緒に住むんじゃないのっ!!!?」
ネルフ本部総務課の会議室でシンジの住居先が伝えられるなり、素っ頓狂なミサトの叫び声があがった。
「い、いえ、サードチルドレンの住居は保護者役も兼ねて葛城一尉宅と決まりました。も、問題はないでしょう?」
「ありよっ!!ありよっ!!!大ありよっ!!!!どうして、そうなる訳っ!!!!!何故、何故、ほわぁ〜〜いっ!!!!!!」
連絡を伝えたネルフの男性職員は冷静さを装って追加事項を伝えるが、ミサトに激しく詰め寄られて思わず一歩後退。
「わ、私は伝えられただけですから・・・。しょ、詳細は解りません・・・・・・。」
「ちょっとそれを貸しなさいっ!!」
「あっ!?」
だが、更に1歩進んで詰め寄ったミサトに、男性職員は持っていた書類を奪い取られ、驚き声をあげながら茫然顔。
「リ、リツコぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜っ!!」
一拍の間の後、書類を走り斜め読んでいたミサトは、提案者の欄に『赤木リツコ』の名前を見つけて肩をワナワナと震わす。
「嬉しいなぁぁ〜〜〜。ミサトさんと同棲が出来るなんて」
「なに言ってるのよっ!!百歩・・・。いや、1万歩譲って一緒に住むとしても同居よっ!!!同居っ!!!!」
「嫌だなぁぁ〜〜〜。そんなに照れなくても良いじゃないですか」
「ぐっ!!」
そこへ背後からシンジの弾む声が届き、慌ててミサトは訂正を求めるもシンジにあっさりと返され、何を言っても無駄だと悟って言葉を失う。
「・・・あんたじゃ、話にならないわっ!!退きなさいっ!!!」
「うわっ!?」
このままではラチが開かないとミサトは男性職員に八つ当たりして突き飛ばし、諸悪の根元へ怒りをぶつけるべく机にある電話の受話器を取った。


プルルルル・・・。カチャ。
「はい、赤木研究室」
かかってくる電話をまるで予期していたかの様に、リツコが1コール目で受話器を取った直後。
『リツコぉぉ〜〜〜っ!!あんた、私を売ったわねぇぇぇ〜〜〜っ!!!』
受話器から凄まじいミサトの怒号が響き、これまた予期していたかの様に、リツコは腕を伸ばして受話器を目一杯に放して難を逃れた。
『どういう事なのよっ!!ちゃんと説明しなさいよっ!!!何で私がシンジ君と住まなきゃ・・・って、リツコ、聞いてるのっ!!!?』
「はいはい・・・。ちゃんと聞いているわよ」
収まる勢いをみせないミサトの怒鳴り声に溜息をつき、リツコは受話器を近づけるが、それでもやはり耳から十数センチほど離して受け応える。
『だったら、ちゃんと説明しなさいよっ!!』
「あなた、昨日の事を覚えている?エヴァを乗る条件にシンジ君が報酬を求めた事を」
『覚えているけど、それがどうしたのよっ!!!私が聞きたいのは・・・。』
「良いから、黙って聞きなさい」
『ええっ!!解ったわよっ!!!聞いてやろうじゃないのっ!!!!』
リツコの応えに問題のすり替えを感じ、更に怒鳴ろうとしてリツコに遮られ、ミサトは受話器に鼻息をフンフンと吹きかけながら黙った。
「あなた、シンジ君へ月に支払われる金額が幾らだと思う?・・・・・・あなたの給料の約5倍よ」
『・・・へっ!?う、嘘っ!!?』
「しかも、これは基本給。ここに平日5時以降の訓練残業代や使徒襲来に伴う危険手当が加わり・・・。軽く10倍から20倍になるわね」
『・・・そ、そうなの?』
「ええ、半年働けば高級マンションの一室。使徒の襲来数次第では1年で豪邸が建つわね」
『・・・だ、だったら、自分でローンを組んでマンションでも買えば良いじゃない』
だが、リツコから告げられたシンジの報酬額に驚き、ミサトは怒りと鼻息を収めて茫然とするが、もっともな意見をリツコに返して抵抗を試みる。
「私もそう思うわ・・・。でも、シンジ君の要求の中には衣食住の完備も含まれていて、財政難のネルフとしては・・・・・・。」
リツコもまたその意見にもっともだと頷きつつ、粘り強く説得交渉を懇切丁寧にしようとしたその時。
『・・・って、キャッ!?シ、シンジ君っ!?』
『やだなぁぁ〜〜〜・・・。そんな寂しい事を言わないで下さいよ。ミサトさん』
『ちょ、ちょっと電話中よ・・・。そ、それに彼が見ているわ・・・。や、止めなさい・・・・・・。んふっ!!』
『平気です・・・。僕はちっとも気にしませんから』
『わ、私が気にするのよ・・・。ダ、ダメ・・・。ダ、ダメ・・・・・・。ああっ!!』
電話の向こうで何が起こっているのかは全くの謎だが、電話へシンジの声が混じると共に、ミサトの声が色っぽい声に変わった。
ちなみに、更に住居先が同居の場合は女性限定とのシンジからの注文があり、その筆頭候補がミサトとリツコだったのはリツコだけの秘密である。
カチャ・・・。
「・・・・・・ぶ、無様ね」
一瞬、茫然となって言葉を失うが、リツコは震える手で受話器を黙って置き、手を合わせて受話器に向かって頭を下げた。


パチーーーンッ!!
司令公務室に響く将棋の駒を打つ心地よい音。
「ふっ・・・。問題ない。何事もイレギュラーは存在する・・・。」
「・・・何の事だ?」
司令席からゲンドウポーズをとるゲンドウの呟き声が聞こえ、司令席脇のソファーに座る冬月は詰め将棋の手を止め、ゲンドウの方へ振り向く。
「私の『足長おじさん計画』は・・・。既に瓦解した」
「お前はどちらかというと典型的な日本人体型だから短足ではないか?」
「だが、私の願いを妨げる事は何人にも出来はしないのだ」
「・・・聞いているか?碇」
更に続いたゲンドウの呟き声に突っ込むが、ゲンドウは返事を返さず呟き続け、ちょっぴり冬月は寂しそうに問いかける。
「間もなく最初のヒットマンが現れる・・・。シンジを消せば願いが叶う」
「おいおい、物騒だな・・・。仮にもシンジ君は貴重なチルドレンだぞ?」
だが、ゲンドウは自分の世界へ入り込んでいる為にやはり返事はせず、それでも冬月はツッコまずにはおられずツッコむ。
「待っていろよ・・・。シンジ・・・・・・。」
「まあ・・・。程々にな」
パチーーーンッ!!
ゲンドウは言葉では返さずともニヤリと笑って言葉を切り、冬月は見慣れたその横顔に溜息をついて詰め将棋を再開させた。


「・・・冷たく、寂しい街ですね」
第三新東京市が一望出来る高台、シンジは眼下の陽が傾いて夕日が影を長く作る光景を眺めながら微笑んだ。
(な、なんて・・・。な、なんて、寂しそうに笑うの・・・・・・って、こ、このドキドキは何なのよっ!!ち、違うでしょっ!!!)
ミサトは初めて見るその横顔に胸をドッキーンッと高鳴らせ、夕陽に負けないくらい紅く染まってゆく顔を冷まそうと顔を左右にブルブルと振る。
「どうしました?」
「な、何でもないわっ!!そ、それより時間よっ!!!」
するとシンジが愉快そうにクスクスと笑いながら振り向き、慌ててミサトは誤魔化す様に腕時計を見て、真っ赤な顔を上げたその時。
ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜・・・。
第三新東京市中にサイレンが鳴り響き、地面のシャッターが開いて、ビルが次々と地面から生え現れて街を形成してゆく。
プシュッ!!
同時にサイレンの音を隠れ蓑に、2人から100メートルほど離れた位置で、圧縮空気の勢い良く抜ける音が鳴った。
カンッ!!
「な、なにっ!?」
その直後、刹那だけシンジの後頭部でオレンジ色の光が輝き、同時に甲高い音が辺りに鳴り響き、ミサトが驚いて街からシンジへと視線を移す。
(フフ、誰だろう?・・・やっぱり、父さんかな?積極的で嬉しいよ・・・・・・。)
「・・・シ、シンジ君?」
だが、全く慌てた様子もなくシンジは後ろを振り向いてニヤリと笑い、ミサトは先ほどとは極端に違うシンジの笑顔に戦慄して思わず一歩後退。
「ええっと・・・。何処かな?何処かな?何処かな?・・・・・・居た」
目線だけで辺りをキョロキョロと見渡した後、100メートルほど離れた位置にある木へ視線を固定し、シンジが右手で銃の形を作った次の瞬間。
「バンッ!!」
シンジは銃声を真似て叫び、正に銃を撃った様な仕草で右手を後方に跳ねさせた。
カサカサカサ・・・。ドタッ・・・。
数瞬後、シンジが狙いを定めた木が激しく揺れ、何か大きな実が落ちた様な鈍重な音が2人の元へ届く。
「・・・な、何なの?い、一体・・・・・・。」
「さあ、何でしょうね」
更に一拍の間の後、ミサトが茫然顔をシンジに向けるが、シンジはクスクスと笑うだけで何も応えなかった。



感想はこちらAnneまで、、、。

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