Truth Genesis
EVANGELION
M
E
N
T
H
O
L
Lesson:1
ANGEL KISS
「あれは夢・・・。あれは夢・・・。あれは夢・・・。あれは夢・・・。あれは夢・・・。あれは夢・・・。あれは夢・・・。あれは夢・・・。」
先ほどから何かを譫言の様にブツブツとひたすら呟き、ちょっぴりまたもや虚ろな眼でミサトはネルフ本部の通路を歩いていた。
(・・・もう、ここを通るのは6回目だよ)
ミサトの5歩ほど後方には、首の後ろに手を回して車を降りる際に渡されたネルフの紹介ファイルを首との間に挟み、シンジが付き従っている。
「あれは夢・・・。」
「あれは夢・・・。」
「あれは夢・・・。」
「あれは夢・・・。」
「あれは夢・・・。」
「あれは夢・・・。」
シンジの心のぼやきにもめげず、ミサトは妙に何処か機械的に歩をドンドンと進めて行く。
「あれは夢・・・。」
「あれは夢・・・。」
「あれは夢・・・。」
「あれは夢・・・。」
「あれは夢・・・。」
「あれは夢・・・。」
そして、遂に7週目に差し掛かり、シンジか軽い溜息をついて肩を竦めたその時。
ゴチンッ!!
「あ痛っ!?」
曲がり角で目測を謝り、ミサトは曲がり角の壁に体半分をぶつけて後方に倒れる。
「・・・大丈夫ですか?ちゃんと前を向いて歩かないとダメですよ?」
「そうよっ!!あれは夢だったんだわっ!!!ねっ!!!?シンジ君、そうよねっ!!!!?」
だが、寸前のところでシンジが後ろから抱き留め、ミサトは難を逃れると共に今のショックで正気に戻り、やや顔を振り向かせて尋ねる。
「・・・そうですか?夢と言うよりは、良い思い出だと思いますよ?ミサトさん、凄く可愛かったしね」
「嘘よぉぉ〜〜〜っ!!あれは夢なのよぉぉぉ〜〜〜〜っ!!!そうよっ!!!!夢に決まっているわぁぁぁぁ〜〜〜〜〜っ!!!!!」
その問いにシンジが極上の笑みで応えた瞬間、すぐさまミサトは両手で両耳を塞ぎ、通路の彼方へ猛ダッシュで駈けて行く。
「ああっ!!待って下さいよっ!!!ミサトさぁぁ〜〜〜んっ!!!!」
「いやぁぁ〜〜〜っ!!付いて来ないでぇぇぇ〜〜〜〜っ!!!」
慌ててシンジも案内役であるミサトを追いかけ、ネルフ本部を舞台にして2人の不思議な追いかけっこが始まった。
『技術局一課・E計画担当の赤木リツコ博士・・・。赤木リツコ博士・・・。至急、作戦部第一課葛城ミサト一尉までご連絡下さい』
幾つものパイプが列び、赤い水が張られたプールの様な場所。
ザパッ・・・。
「呆れた・・・。また迷ったのね」
ショートカットで金髪なのに黒眉の女性『赤木リツコ』はプールから上がり、ウエットスーツを脱ぎながら溜息混じりに呟いた。
「・・・シンジ君って足が速いのね」
追いかけっこが終わり、エレベーター前でエレベーターの到着を待つミサトとシンジ。
「ええ・・・。それに持久力にも自信がありますよ。ミサトさんも知っているでしょ?」
「シ、シ、シ、シ、シンジ君っ!!」
「はい、何ですか?」
ミサトの問いにシンジが応えた途端、ミサトはシンジの両肩を両手でガシッと力強く掴み、シンジは肩の痛みを顔に出す事なくにこやかに応える。
「あれが夢じゃない事も、現実だと言う事も、私が快楽に溺れた事も認めるわっ!!でも、しかしっ!!!」
「はいはい、解ってますよ。ミサトさんと僕の2人だけの秘密なんでしょ?」
慌てふためき焦るミサトとは正反対に、シンジはニッコリと微笑んだ後、少しつま先立ちをしてミサトの唇へ自分の唇を軽くチュッと重ねた。
チーーーンッ!!
「・・・ミ、ミサト」
次の瞬間、タイミング良くエレベーターが到着し、グリーンの水着の上に白衣を着たリツコが一歩外に出ようとして目の前の光景にビックリ仰天。
「リ、リツコっ!!」
聞き覚えのある大学時代からの親友の声に、慌ててミサトはシンジから唇を放し、勢い良くエレベーターの方へ顔を向ける。
「あ、あなた・・・。そ、そんな趣味があったの?し、しつこく迎えに行くんだと言うと思ったら・・・・・・。」
「ち、違うのよっ!!こ、これはっ!!!シ、シンジ君がっ!!!!」
リツコの震える視線を受け、必死に弁解するミサト。
「・・・だ、だって」
だが、シンジの両肩へ両手を置いた状態ではミサトから迫ったとしか見えず、その決定的証拠をリツコが震える指でさす。
「ち、違うのよっ!!シ、シンジ君からなんだってばっ!!!ほ、本当なのよっ!!!!」
「ま、まあ、良いわ・・・。そ、そんな事より、葛城一尉。い、今は人手も無ければ時間もなく・・・。そ、そんな事をしている暇はないのよ。」
「だ、だから、違うんだってばっ!!お、お願いだから、私の話を聞いてっ!!!」
慌ててシンジの両肩から両手を放すが、リツコはゆっくりと首を左右に振り、ミサトはちょっぴり涙目になって弁解する。
「まあまあ、2人とも落ち着いて、落ち着いて・・・。」
「だ、誰のせいだぁぁ〜〜〜っ!!誰のっ!!!」
そこへシンジが暢気に2人を宥めようとし、振り返ったミサトの怒号1発がネルフの廊下に響き渡った。
「そうね・・・。ミサトの新たな一面はともかく、時間もない事だから話を先に進めましょう」
「お、お前も人の話を聞けぇぇ〜〜〜っ!!リツコぉぉぉ〜〜〜〜っ!!!」
続いて冷静さを取り戻したリツコが溜息混じりに呟き、再び振り向き直したミサトの怒号2発目がエレベーター内に反響する。
「・・・例の男の子ね?」
しかし、リツコはミサトの話を取り合わず、シンジを上から下へ、下から上へとジロジロと凝視してミサトに尋ねた。
「そうよっ!!マルドゥック機関の報告によるサードチルドレンよっ!!!」
「何ですか?そのサードチルドレンって・・・。それに、こちらの方は誰ですか?」
「これは赤木リツコっ!!私の大学以来の悪友よっ!!!」
リツコに放られた揚げ句、シンジからのフォローもなく、やけっぱち気のミサトは苛立って声を荒げる。
「・・・これとは酷いわね」
こめかみに指を置き、あまりの紹介にリツコが目を細めてミサトを睨む。
「へぇぇ〜〜〜・・・。」
すると今度はシンジがさっきのお返しとばかりに、水着に白衣というアンバランスさを醸し出すリツコを上から下へ、下から上へと凝視し始めた。
「な、何を見ているのっ!!い、いやらしいわねっ!!!」
慌ててリツコは白衣の前を合わせて体を隠し、その場にしゃがんで耳まで真っ赤に染めて非難の声をあげる。
「照れちゃって、リツコさんって可愛いですね」
「・・・・・・な゛っ!?」
しかし、シンジは全く堪えずにニッコリと微笑み、リツコは生涯で初めて聞く自分の評価に茫然と言葉に詰まった。
「では、冬月・・・。後を頼む」
ゲンドウは発令所にある1人乗り昇降機に乗り、副司令である冬月に一言残して床へ沈んで行く。
「三年ぶりの対面か・・・。」
司令であるゲンドウから一時的な指揮を預かり、冬月はゲンドウが消えると共にちょっとした感傷に浸る。
「副司令。目標が再び移動を始めました」
「よし。総員第一種戦闘配置」
それも束の間、青葉の報告に冬月はすぐ戦闘へ頭を切り替えた。
『繰り返す・・・。総員第一種戦闘配置。対地迎撃戦用意』
ネルフに緊迫感を伴うアナウンスが響く中、シンジとミサトとリツコの3人は長い長いエスカレーターに乗っていた。
ちなみに、先ほどの件がよほど堪えたのか、既にリツコは白衣の下を青いシャツとタイトミニに着替えている。
「・・・ですって」
「これは一大事ね」
ミサトとリツコはアナウンスのする天井方向を見上げた後、顔を見合わせて全く緊張感のない会話を交わす。
「で、初号機はどうなの?」
「B型装備のまま現在冷却中」
そんな会話を聞き流しながら2人のエスカレーター2段後方で、シンジは熱心に渡されたネルフのファイルを黙って読みふけっている。
「それ、ほんとに動くのぉ〜?まだ一度も動いた事無いんでしょう?」
「起動確率は0.000000001%。・・・O9システムとはよく言ったものだわ」
だが、戦闘の緊張感は全く感じずにミサトの質問に応えながら、リツコの眉は先ほどから違う意味の緊張感でしきりにピクピクと跳ねていた。
「それって動かないって事?」
「あら失礼ね。0ではなくってよ・・・って、シンジ君っ!!」
その緊張感は遂に防波堤が破られ、ミサトとの会話を打ち切り、リツコは怒鳴りながら勢い良く後ろを振り向く。
「なんですか?リツコさん?」
「あなた、私達の前を歩きなさいっ!!」
読んでいたファイルからシンジはニッコリ笑顔を上げるが、シンジとは正反対にリツコは凄まじい怒気をまき散らす。
「どうしてですか?この方が良いのに・・・。」
「良いから、前に来なさいっ!!」
さも残念そうにシンジはシュンと俯き、リツコは横へ一歩引いてミサトとの間に空間を作り、前に行けと言わんばかりにビシッと前を指さした。
実は先ほどからファイルを読んでいると見せかけ、シンジは2人の後方でミサトとリツコ、主にリツコのお尻に注目していたのである。
エスカレーターに乗って以来、リツコはその熱い視線に気づいたのだが、ミサトは全く気づいておらず、リツコの怒り様にキョトンと不思議顔。
「はい、解りました」
「・・・って、向き合って、どうするのっ!!ちゃんと前を向いて立ちなさいっ!!!」
数瞬後、とうとうシンジが根負けして歩を進めて前に出るも、向き合われては更に居心地悪くなるとリツコがなをも怒鳴る。
「でも、それだとミサトさんとリツコさんの顔が見れなくてつまらないですよ?」
「早く前を向きなさいっ!!」
しかし、全く堪えずにシンジはニッコリと微笑み、更に怒鳴るリツコだが、密かに顔の紅さに怒りとは別の感情が混ざり始めた。
「はいはい、解りましたよ。本当にリツコさんは照れ屋さんなんだから・・・。」
「・・・・・・な゛っ!?」
シンジはクスクスと笑って前を向き、投下した爆弾は抜群の破壊力を発揮し、たちまちリツコは顔を真っ赤に染めて茫然と言葉に詰まる。
「リツコ・・・。ひょっとしたら、あんた狙われているんじゃない?」
エスカレーターの終点間際、神妙な顔つきでミサトはシンジに聞こえぬ様な小声でリツコにこっそりと耳打ちした。
ウィーーン・・・。
歩いてきた通路から射し込む光は背後の扉が自動的に閉まると同時に、周囲は真っ暗となって暗闇が支配する世界に変わる。
ピッ!!カシャン・・・。
一瞬だけ暗闇に電子音と共に小さな青い輝きが光った直後、周囲に明かりが灯され、広大な空間と巨大な角の生えた紫の兜が目の前に広がった。
「んっ!?・・・あれ?」
突然の暗闇と明かりに目をシパシパと何度も瞬きをさせ、ふとミサトは隣を歩いていたシンジとリツコが居ない事に気づく。
「んんんんんっ!!んんんっ!!!ん〜〜〜っ!!!!」
「あっちゃぁ〜〜・・・。だから、気を付けろって言ったのに・・・・・・。」
辺りをキョロキョロと見渡し、背後から聞こえてきた声にならない声に振り向き、ミサトは右手で顔を覆って天を見上げる。
「んんんっ!!」
ジタバタッ!!
「んんんっ!!」
ジタバタッ!!
「んんんっ!!」
ジタバタッ!!
ミサトの背後では、シンジが膝をリツコの膝に合わせてやや曲げ、後ろへ倒れそうになるリツコを背後から羽交い締めする形で抱き留めていた。
「んんんっ!!」
ジタバタッ!!
「んんんっ!!」
ジタバタッ!!
「んんんっ!!」
ジタバタッ!!
更に左手で強引にリツコの顔を背後に向けさせ、シンジは己の唇をリツコの唇に重ね、リツコは必死に抵抗するも全てがシンジに抑えられている。
「んん〜〜っ!!」
ジタバタジタバタッ!!
「んん〜〜っ!!」
ジタバタジタバタッ!!
「んん〜〜っ!!」
ジタバタジタバタッ!!
シンジの口撃は新たな展開を迎え、リツコは驚きに目を見開いて刹那だけ動きを止めた後、今まで以上に身をくねらせて抵抗を始めた。
「んん〜〜っ!!」
ジタバタジタバタッ!!
「んんん・・・。」
ジタ、バタ、ジタ、バタ。
「んんっ・・・。」
ジタ・・・。バタ・・・。
だが、その抵抗もすぐに収まり、更にシンジは遊んでいる右手でリツコの右胸を優しく揉みしだき、たちまちリツコは甘い吐息を漏らす。
「んっ・・・。ふはっ・・・・・・。」
カチャ・・・。
とうとうリツコは脱力してシンジに身を預ける形となり、右手に持っていたこの部屋の総合リモコンを床に落としたその時。
「久しぶりだな・・・って、シンジぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜〜っ!!」
紫の兜の上方にあるブースの窓辺に立ち、ゲンドウは眼下の光景を見るなり絶叫をあげた。
ガコンッ!!
「ほうわっ!!」
「・・・父さん」
更に身を勢い良く乗り出すあまり、ゲンドウは顔をガラスにぶつけて床にのたうち回り、シンジはリツコから唇を離してクスクスと笑う。
「リツコっ!!」
その瞬間、思わずシンジとリツコの壮絶なキスシーンを茫然と魅入っていたミサトは我に帰り、シンジからリツコを強引に奪い取る。
「ダ、ダメ・・・。お、お願い・・・。も、もっと・・・・・・。」
「リツコ、しっかりしなさいっ!!リツコっ!!!リツコっ!!!!」
バンッ、バンッ!!バンッ、バンッ!!!バンッ、バンッ!!!!
しかし、リツコは瞳をトロ〜ンと潤ませて色っぽく媚び、未だあっちの世界から帰らないリツコに、ミサトは往復ビンタを3連発かました。
「ゴホンッ!!・・・これは人の造り出した究極の汎用人型決戦兵器
人造人間エヴァンゲリオン、その初号機。・・・建造は極秘裏に行われた。我々人類の最後の切り札よ」
数十秒後、正気に戻ったリツコは咳払いをして改めて紫色の兜を紹介するが、紹介すべき右隣にいるシンジとは必死に顔を左へ背けている。
「・・・これが父さんの仕事なの?」
「そうだっ!!・・・って、シンジっ!!!人と話す時は相手の目を見ろっ!!!!学校の先生にそう教わっただろうっ!!!!!」
「だって・・・。リツコさん」
ネルフ職員を震え上がらせるゲンドウの怒鳴り声を受けても、シンジはリツコの方へ顔を向けたまま動かさない。
(うんうん・・・。解る、解るわよ。リツコ・・・。シンジ君のあのキスを受けちゃあねぇ〜〜。若い癖にかなりのテクニシャンだから・・・。)
シンジの右隣にいるミサトは、先ほどのリツコと自分を重ね、腕を組んでウンウンと頷く。
「ええいっ!!リツコ君から離れろっ!!!シンジぃぃ〜〜〜っ!!!!」
「「「えっ!?リツコ君っ!!?」」」
下の様子に奥歯をギリギリと鳴らしていたゲンドウが絶叫をあげた瞬間、一斉にシンジとミサトとリツコが驚き顔でブースを見上げた。
「い、いや・・・。ま、間違えた・・・。あ、赤木博士から離れなさい・・・。シ、シンジ・・・・・・。」
「し、司令・・・。」
集まった視線にゲンドウは大粒の汗をダラダラと流し、ゲンドウに初めて名前で呼ばれたリツコはキラキラとした瞳でゲンドウを見つめる。
「父さんが家族以外の人を名前で呼ぶなんて、初めて聞きました・・・。もしかして、リツコさんって僕の新しいお義母さんだとか?」
「ええっ!?そうだったのっ!!?リツコっ!!!?碇司令とそういう関係だったのっ!!!!?」
「ち、違うわよっ!!な、何を言っているのっ!!!ふ、2人ともっ!!!!」
シンジがポツリと呟くと、ミサトは心底に驚き、慌ててリツコは夢の世界から帰還してゲンドウとの関係を否定。
「そうなると親子か・・・・・・。まあ、でも、僕達は血が繋がっていない親子だから大丈夫ですよね?リツコさん」
「・・・シンちゃん。確かに大丈夫だと思うけど、世間的にかなり大丈夫じゃないわよ?」
「は、話を聞きなさいっ!!ふ、2人ともっ!!!ち、違うと言っているでしょっ!!!!」
だが、言葉をどもりまくり、耳まで真っ赤に染めた顔は隠せす、焦れば焦るほどリツコは自分でゲンドウとの関係を肯定している様なもの。
「うぐぐぐぐ・・・。出撃っ!!」
一方、話題の中心でありながら無視されているゲンドウは、再び下の様子に奥歯をギリギリと鳴らして怒鳴り声をあげた。
「出撃っ!?零号機は凍結中ですっ!!?・・・まさか、初号機を使うつもりですかっ!!!?」
その途端、新たな驚きに襲われたミサトがゲンドウを見上げて叫ぶ。
「・・・他に方法はないわ」
「ちょっとレイはまだ動かせないでしょ?パイロットがいないわよ」
話が逸れて一安心したリツコは、いつもの尖ったクールさを取り戻してゲンドウに追従し、再びミサトがリツコへ驚愕の表情を向ける。
「さっき届いたわ・・・。」
「・・・マジなの?」
リツコの言葉に思い当たるフシがあるのか、ミサトは自分の予想に更なる驚きで目を見開く。
「碇シンジ君。あなたが乗るのよ」
ミサトの予想を肯定する言葉をリツコが告げるが、いつもの雰囲気を取り戻したとは言え、決してシンジとは目を合わせない。
「・・・でも、綾波レイでさえエヴァとシンクロするのに7ヶ月もかかったんでしょっ!?今、来たばかりのこの子にはとても無理よっ!!!」
呼びかけられても返事をせず、ゲンドウを見上げたままのシンジを庇い、ミサトが非難と弁護の声をあげる。
「座っていれば良いわ。それ以上は望みません」
「・・・しかしっ!!」
「今は使徒撃退が最優先事項です。
その為には誰であれエヴァとわずかでもシンクロ可能と思われる人間を乗せるしか方法はないわ・・・。解っているはずよ。葛城一尉」
「そうね・・・。」
しかし、あっさりとリツコに理論を看破され、苦渋に満ちた顔ながら遂にミサトも承知し、広大な空間がシーンと静まり返った一拍の間の後。
「・・・父さん。何故、僕を呼んだの?」
「お前の考えている通りだ・・・。」
しっかりとゲンドウの目を見据えたシンジの重みのある声が響き、ゲンドウもまた重みのある声で返した。
「じゃあ・・・。僕がこれに乗って、さっきのと戦え。・・・とでも言うのかな?」
「・・・そうだ」
目を細めて面白そうに口の端を歪めて笑うシンジに、ゲンドウは想像と違うシンジのリアクションに軽い戸惑いを覚える。
「何故、僕なの?」
「他の人間には無理だからな・・・。」
更にシンジは禍々しいほどにニヤリと笑い、軽い戸惑いは恐怖へと変わり、ゲンドウは一歩引きそうになるのを堪えて威厳を保つ。
「でも、僕はこんなの見た事も、聞いた事もないし、動かせないよ?」
「説明を受け・・・。いやっ!!説明は乗った後に順次説明する・・・。乗るなら早くしろっ!!!でなければ、帰れっ!!!!」
ゲンドウは説明をリツコに頼もうとするが、シンジをリツコに接触させては危険と判断し、恐ろしく強引な言葉を言い放つ。
「フッフッフッフッフッ・・・・・・。(父さん・・・。本当に僕が初号機に乗っても良いのかな?後悔先に立たずって諺を知っている?)」
するとシンジは不気味で異様に怪しい含み笑いを響かせ、初号機の顔を見つめて心の中で呟いた。
キラリンッ!!チュドォォォォォーーーーーーンッ!!!
人類の攻撃を物ともせず、悠然と第三新東京市中心部に接近した使徒は、両眼を輝かせて光線を放ち、夜空に美しい十字の光を立てた。
ガタガタガタガタッ!!
「・・・奴め。ここに気づいたか」
地上の衝撃は地下のジオフロントまで伝わり、ネルフ全体が激しい揺れに襲われ、ゲンドウが天井を見上げて忌々し気に呟く。
「ジンジ君、時間がないわ」
「・・・乗りなさい」
リツコとミサトも天井を見上げた後、シンジに視線を戻して促すが、腕を組んでシンジは右手で顎をさすっているだけで何も応えない。
「シンジ君、何の為にここへ来たの?・・・ダメよ。逃げちゃ・・・。お父さんから、何よりも自分から・・・。」
このままではラチが開かないと決心し、ミサトは少し前屈みになってシンジの顔を横から覗き込み、必死にシンジの心へ呼びかける。
「・・・何の為?まあ、これに乗る為じゃない事は確かですね」
「う゛・・・・・・。」
「・・・逃げる?別に僕は逃げてもいませんよ?あなた達が僕に強要しているだけです」
「う゛う゛・・・・・・。」
「まあ、そんな風に強要しているんですから、逃げても仕方がないでしょう?でも、それはあなた達が僕を強要する為の方便と錯覚ですよ?」
「う゛う゛う゛・・・・・・。」
だが、返されたシンジのもっともな意見に言葉が詰まり、シンジの鋭い眼光から逃れる様にミサトは1歩、2歩、3歩と後退して行く。
「でも、シンジ君っ!!あなたが乗らなければ、人類は滅亡するのよっ!!!」
情けないミサトに溜息をつき、今度は代わってリツコがシンジの心へ揺さぶりをかける。
「・・・人類滅亡?ほら、またそうやって使命感を背負わせて強要・・・。いや、これは立派な脅迫ですね」
「う゛・・・・・・。」
「しかも、使命感を背負わせながら、責任感も背負わせている」
「う゛う゛・・・・・・。」
「それでいながら満足のいく説明を全くしていない。ここへ来るまでミサトさんとリツコさんにはそれを説明する時間は十分にあったでしょう?」
「う゛う゛う゛・・・・・・。」
それもまた、返されたシンジのもっともな意見に言葉が詰まり、シンジの鋭い眼光から逃れる様にリツコは1歩、2歩、3歩と後退して行く。
「皆さん、想像力を働かせて下さい。いきなり訳の解らない所へ連れて来られ、訳の解らないロボットに乗れと言われ、あなた達は乗りますか?」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「う゛・・・・・・。」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
更に辺りを見回し、シンジが鋭い眼光を振りまきながら告げ、一斉に様子を見ていた初号機の整備員達が一歩後退した直後。
「まあ、いっか。嫌味はそれくらいにして・・・。皆さんも反省もしている様だし、今回は納得してあげますよ」
「「乗ってくれるのっ!?」」
シンジはいきなり態度を変えて殺気にも似た雰囲気を霧散させ、ミサトとリツコは復活して笑顔で歩を3歩進める。
「はい。でも、僕は人類が滅亡するより、自分の明日の事が心配です。僕の時給って幾らですか?僕にしか乗れないんだから高いんでしょうね?」
「「・・・・・・へっ!?」」
しかし、シンジが応えて告げた要求に、ミサトとリツコは笑顔をたちまち凍らせて動きを止めた。
「嫌だなぁ〜〜。僕は人類を救うんですよ?当然、報酬があるのは当たり前だし、みんなも人類を救うという仕事でお金を貰っているんでしょ?」
「「・・・・・・そ、そうね」」
間抜け顔で固まっている2人にシンジは肩を竦め、またもやミサトとリツコはシンジのもっともな意見に言い負かされてゆっくりと頷く。
「あっ!?人類を救うって事は軍隊ですよね?なら、報酬とは別に衣食住は完備しているんですよね?」
「・・・それは戦自でしょ?うちは補助は出るけど違うわよ?」
戦自の報酬基準の事を思い出して右拳で左掌を叩き、シンジはニコニコと笑うが、ミサトは毎月の苦しい家計を思い出してネルフの事情を伝えた。
「それなら、止ぁ〜〜めたっと。・・・僕、帰ります」
「待ちなさいっ!!衣食住を完備させるわっ!!!」
その途端、表情を笑顔から無表情に変え、シンジは入ってきた出入口へ向かおうとするが、慌ててリツコがシンジの腕を掴んで呼び止める。
「そうですか、それならOKです。じゃあ、次に僕の報酬ですが・・・。さっき、リツコさんがミサトさんを一尉って言ってましたよね?」
「えっ!?・・・ええ、一尉だけど?」
するとシンジは再び笑顔をミサトに向け、突然の質問にミサトは戸惑いながらも応えた。
「なら、僕は二尉待遇って事でお願いします。あっ!?あくまで待遇ですよ?軍隊には入りませんから、あと戦う時の危険手当も下さいね」
「ちょ、ちょっと、シンジ君っ!!衣食住も付いているのに高すぎるわっ!!!これくらいが妥当よっ!!!!」
おかげでかなり具体的にシンジの報酬がシンジから一方的に決められ、慌ててリツコは反対の声をあげ、白衣から電卓を取り出して叩く。
「えぇぇ〜〜〜・・・。それじゃあ、少ないですよ。これくらいならどうです?」
「高いわっ!!もう少しまけなさいっ!!!その分、危険手当と残業代をはずむからっ!!!!」
見せられた電卓の液晶画面に、シンジは眉間に皺を寄せて電卓のボタンを叩き、リツコも電卓のボタンを叩き返す。
「シ、シンジ君・・・。リ、リツコ・・・。あ、あんた達って・・・・・・。」
2人の壮絶な電卓の叩き合いに、ミサトは大粒の汗をタラ〜リと流して顔を引きつらせた。
「冬月・・・。レイを起こしてくれ」
またもや、忘れられた存在のゲンドウが奥歯をギリギリと鳴らして呼びかけると、隣のモニターに通信ウィンドウが開いて冬月が画面に出る。
「・・・使えるかね?」
「死んでいる訳ではない・・・。よっぽど、シンジよりマシだっ!!」
「・・・解った」
珍しく感情をあらわに不機嫌なゲンドウに、冬月は首を傾げながらも通信を切った。
「これならどう?悪くないはずよ?」
「僕は命を賭けて戦うんですよ?ディーラーとして、それなりの金額で応えて貰わないと・・・ね?」
「なら、これが限界よっ!!これ以上を出す事は出来ないわっ!!!」
地上では人類と使徒の激戦が繰り広げられているというのに、未だシンジとリツコは白熱した金額交渉を行っていた。
「う〜〜〜〜〜ん・・・。」
カラカラカラカラ・・・。
電卓の提示金額にシンジが腕を組んで悩んでいると、その横を移動式ベットに寝かされたショートシャギーで蒼銀の髪の少女が通り抜けて行った。
「・・・・・・あれは」
思わずシンジはベットを視線で追い、付き従っている医師と看護婦が点滴を外してゆく作業を眺めながらベットの少女に魅入る。
この少女こそ『綾波レイ』であり、レイはウエットスーツの様な『プラグスーツ』と呼ばれる体と非常にフィットする服を着ていた。
だからと言って、別にシンジはレイの体の線を見ている訳ではなく、痛々しく頭に巻かれた包帯や腕に固められたギプスを見ているのである。
「くうっ!!はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。」
(・・・・・・綾波)
医師の準備が整うと、苦痛に耐えながらレイはベットから上半身を起き上がらせて荒い息をつき、シンジはレイに駈け寄りたいのを必死に耐えた。
「・・・碇司令っ!!初号機にはレイが乗るんですかっ!!!」
「そうだ・・・。」
リツコはハッと我に帰ってブースを見上げると、ゲンドウがあからさまに苛立ちを含んだ声で応える。
「初号機のシステムをレイに書き直して再起動っ!!」
今までのシンジとの必死の金額交渉は何だったんだろうと思いつつ、すぐさま使命を思い出してリツコは新たな作業指示を飛ばした。
キラリンッ!!キラリンッ!!!キラリンッ!!!!キラリンッ!!!!!キラリンッ!!!!!!
猛攻は収まる事を知らず、ある地点を見据えて使徒は連続して両眼を輝かせた。
チュドォォォォォーーーーーーンッ!!!
第三新東京市ゼロ地点と呼ばれるネルフ直上に十字の光が昇り、光線はジオフロント天井装甲を突き抜けて地下にも十字の光を沈ませる。
ドガァァーーーンッ!!
その際にジオフロント天井装甲の一部が崩れ、ジオフロント中央にある黒いピラミッド『ネルフ本部』に落ちてきた。
ガタガタガタガタッ!!ガタガタガタガタッ!!!
先ほどとは比べ物にならない激しい揺れがネルフ全体を襲う。
ガタガタガタガタッ!!ガタガタガタガタッ!!!
なかなか揺れは収まらず、誰もがその場に立つのがやっとの中、シンジだけがレイを見つめたまま悠然とポケットに両手を入れて立っている。
「はあっ!?」
ガチャガチャッ・・・。
「っ!?」
「危ないっ!!」
揺れにベットからレイが落ちそうになった瞬間、シンジが目を見開き、シンジの頭上で鉄骨が崩れ落ち、ミサトが叫ぶのが全て同時に起こった。
ヒューーーン・・・。
次の瞬間、目を凝らしても解らないほどの淡い光がレイの落下地点に現れ、不思議な事にその光がクッション代わりにレイを受けとめる。
ザパァァーーーッ!!
平時ならこの現象に目を疑った事だが、同時に起こった見た目にもハッキリと解る不思議な現象に皆は目を奪われていた。
それは初号機が肩まで浸されている赤い水『LCL』から、起動もしていないのに初号機の右腕が持ち上がった事にである。
ガンッ!!ガゴーーーンッ!!!
初号機の右腕はシンジの頭上に覆い被さり、落下してきた鉄骨は右腕に弾かれ、ゲンドウの目の前の強化ガラスへぶつかった。
『エヴァが動いたぞ。・・・どういう事だ』
『右腕の拘束具を引きちぎっていますっ!!』
初号機を監視していたオペレータは思わず仕事を忘れてマイクに叫んでしまう。
「まさかっ!?ありえないわっ!!!エントリープラグも挿入していないのよっ!!!!動くはずないわっ!!!!!」
先ほどの揺れで周囲に持っていた書類をばら巻き、尻餅をついたままリツコは驚愕に目を最大に見開きながら叫ぶ。
「インターフェイスもなしに反応している。・・・と言うより、守ったの?彼を?・・・・・・いけるっ!!」
近くの手すりに掴まって揺れを耐えたミサトは、全く慌てる事なくポケットに両手を入れて立っているシンジを見て何かを確信した。
(・・・・・・毎回、ありがとう。母さん・・・。ここで目立つのは避けたいからね。いつも助かるよ)
揺れも収まり、シンジは初号機にニッコリと微笑み、レイの元へ向かおうとするが、3歩ほど歩いてすぐに振り返る。
「リツコさん」
「な、なにっ!?」
シンジから不意に声をかけられ、リツコは驚愕したままの顔を向ける。
「今日は大人のパープルですか?かなりセクシーなパンツが丸見えですよ?」
「・・・・・・な゛っ!?」
だが、シンジの次の一言に、たちまちリツコは我に帰って耳まで真っ赤に染め、慌てて股間を押さえながら足を閉じた。
「やっぱり、リツコさんって可愛いですね」
その様子にクスリと笑って振り向き、シンジは何事もなかった様にレイの元へ急ぐ。
「・・・シンっ!!」
「リツコ、止めなさい・・・。こう言っちゃなんだけど、私達のかなう相手じゃないわ」
リツコは立ち上がると同時に拳を振り上げて言い返そうとするが、ミサトに力無く首を左右に振られた揚げ句、肩をポムッと力無く叩かれる。
「・・・くっ!!」
ミサトに諭されて拳を下ろしながら歯を食いしばり、リツコは先ほど着替えを急ぐあまりパンストを履き忘れた事を猛烈に後悔した。
「大丈夫?」
「はっ!!くぅぅ〜〜〜っ!!!」
背後の会話にも耳をくれず、シンジは床に倒れているレイを跪いて抱え、レイは持ち上げられたショックに激痛が全身に走って歯を食いしばる。
「はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。」
腕の中で荒い息をつくレイを見た後、シンジは左手を濡らすレイの赤い血を見つめ、更にゲンドウのいるブースを真剣な表情で見上げた。
「やりますっ!!僕が乗りますっ!!!僕はエヴァンゲリオン初号機パイロット、碇シンジっ!!!!
碇シンジっ!!碇シンジっ!!!碇シンジっ!!!!碇シンジっ!!!!!碇シンジっ!!!!!碇シンジですっ!!!!!!」
そして、シンジは己が初号機に乗ると宣言した上、まるで自己紹介するかの様にしつこいくらい7連発も自分の名前を繰り返す。
「・・・・・・碇シンジ?」
「そう、僕の名前は碇シンジ。君の名前は?」
耳元でうるさいほど叫ばれ、レイはぼんやりと瞳を開けると、シンジはニッコリと微笑み、改めてレイに自己紹介。
「綾波レイ・・・。くうっ!!」
「動いちゃダメだっ!!ジッとしてっ!!!」
「はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。」
「綾波、ごめんっ!!」
応えてレイも自己紹介をしようとして痛みに言葉が続けられず、見るに耐えかねたシンジは何を思ったか、いきなりレイの唇と自分の唇を重ねた。
「っ!?」
突然の事態と初めての経験にレイは驚きに目を見開くが、更なる驚きがレイを襲う。
「っ!?っ!!?っ!!!?」
半開きだったレイの口にシンジの舌が割って入り、レイは激痛をも忘れて体をビクッと震わせる。
「・・・す、凄い」
「こ、これがシンジ君の本当の実力・・・。」
ゴクッ・・・。
外からでも解るほどの凄まじいシンジの口撃に、ミサトとリツコは自分が受けた口撃はまだまだ序の口と知り、肝を冷やしつつ生唾を飲み込む。
「シ、シンジ君っ!!い、いくら何でも公衆の面前でそんな事しちゃダメよっ!!!」
更にシンジは口撃に加え、行撃もしようと手を下へ下へとレイの危うい所へ伸ばそうとするが、ミサトの声に上へ戻ってレイの胸を揉みしだく。
「んんっ!!んんっ!!!んんん〜〜〜〜〜っ!!!!」
十数秒後、背筋を駈け巡る初めて感覚に、レイは口を塞がれたまま声をあげ、足と爪先をピーンッと伸ばした後、脱力してグッタリと崩れ落ちた。
「ふぅぅ〜〜〜・・・。これで大丈夫でしょう。当分、目は醒まさないと思いますから」
するとシンジはようやく唇を離して息をつき、レイをベットに戻して一仕事を終えた充実感に満ちた顔をミサトとリツコに向ける。
「さあ、リツコさん。初号機の操縦方法を教えて下さい。あっ、アルバイト代は最後の提示額で良いですよ」
「え、ええ・・・。」
「ほら、ミサトさんも何をやっているんですか?」
「そ、そうね・・・。」
「はいはい。皆さんも仕事、仕事」
パン、パン、パンッ!!
ミサトとリツコはもちろんの事、今のキスシーンに茫然と固まっていた周囲の者達は、作業を促すシンジの手を叩く音に我に帰って解凍してゆく。
「ほらほら、父さんも何をやってるの」
「・・・・・・う、うむ」
シンジに声をかけられ、実は先ほど鉄骨が目前のガラスにぶつかった時から恐怖で固まっていたゲンドウも我に返って解凍する。
(おのれ、シンジめっ!!リツコ君どころか、私のレイまでっ!!!許さんっ!!!!絶対に許さんぞぉぉ〜〜〜っ!!!!!)
しかし、未だ恐怖の余韻は収まらず、ゲンドウは膝をカクカクと震えさせて発令所に向かいながら、シンジに嫉妬の炎を轟々と燃やしていた。
『冷却終了』
ゲントウとミサトとリツコが発令所に戻ると、いよいよ初号機の発進準備が進んでゆく。
『右腕の再固定終了』
『ゲージ内全てドッキング位置』
肩まで浸かっていたLCLが排出され、地上で暴れている使徒と同じくらいのサイズの初号機の巨大さが更に巨大な空間に現れた。
ちなみに、初号機が待機しているこの巨大な空間を『初号機ケイジ』と言う。
『停止信号プラグ。排出終了』
『了解。エントリープラグ挿入』
LCLが完全に抜かれると、初号機首筋のハッチが開き、シンジが乗る細長い筒の様な初号機コクピット『エントリープラグ』が挿入される。
『プラグ固定終了』
『第一次接続開始』
再びハッチが閉まると同時に、エントリープラグ内の明かりが灯り、シンジが瞑っていた目をゆっくりと開けた。
『エントリープラグ、注水』
モニターに映るエントリープラグの足下からLCLが注水され、勢い良くエントリープラグ内を満たしてゆく。
「・・・彼、落ち着いているわね」
いきなり液体の中に顔まで浸されたのに叫ぶどころか、慌ても焦りもしないシンジに、ミサトは首を傾げながらもシンジの度胸に感心する。
実はこのLCLと言う液体は液体内に酸素が溶け込まれていて、LCL内では呼吸が出来ると言う優れ物。
ちなみに、シンジは制服姿のままで搭乗しており、頭には『ヘッドセット』と呼ばれるシンジの思考を読む操縦補助道具を付けている。
「多分、それは違うわね・・・。」
「・・・どういう事?」
「シンジ君の視線の先を見てみなさい」
だが、隣に立つリツコの言葉にミサトは顔を向け、リツコが言う様にモニターに映るシンジの視線の先を追う。
「あ、あの・・・。そ、そんなに見ないで下さい」
『どうしてです?いけませんか?』
その先にはリツコの直属の部下であり、大学の後輩である童顔でショートカットの女性『伊吹マヤ』に熱い視線を送るシンジの姿があった。
ついでに、日向はミサトの直属、青葉は冬月の直属で、日向と青葉とマヤは戦闘時に発令所で最も最初に各所へ指示を送るオペレーターである。
「こ、困りますっ!!」
『そうですか?僕は困りませんよ?』
「わ、私が困るんですっ!!」
恥ずかしそうに顔を紅く染めて俯き、言葉では嫌がってはいるが、マヤは時折チラチラとシンジを盗みていたりして全く嫌そうには見えない。
「さ、早速、新しい獲物に目を付けるのに夢中と言う訳ね。・・・こ、こりゃ、相当のスケコマシだわ」
今日1日の色々あった事でシンジの人となりを再確認し、ミサトは大粒の汗をタラ〜リと流して顔を引きつらせた。
「マヤっ!!手がお留守よっ!!!」
「は、はいっ!!」
作業の手を止めていたマヤは、リツコの一喝に背筋をシャキンッと伸ばし、慌てて手を動かして作業を再開させる。
『主電源接続』
『全回路動力伝達』
おかげでマヤが原因で止まっていた作業が進んでゆき、アナウンス報告が発令所に届く。
「第二次コンタクトに入ります。A10神経接続異常なし」
それでも、マヤはめげずにシンジの事をチラチラと盗み見ながら作業を進め、エントリープラグ内が七色に輝く。
「思考形態は日本語を基礎原則としてフィックス」
「しょ、初期コンタクト問題なし・・・。そ、双方向回線開きます」
しかし、ふと目が合ってシンジにニッコリと微笑まれ、慌てて視線を逸らしながらリツコの指示をマヤは的確にこなしてゆく。
「シンクロ率・・・。えっ!?嘘っ!!?」
「どうしたのっ!?」
そして、ディスプレイの3つの波形が重なり、算出された数値を報告しようとしてマヤは驚き声をあげ、只ならぬ声にリツコが聞き返す。
「・・・シ、シンクロ率100%。ハ、ハーモニクス正常値。ぼ、暴走ではありません・・・。」
マヤの報告にリツコは言葉を失い、同時に発令所も信じられない数値にシーンと静まり返る。
「どうしたのっ!?別に問題ないんでしょっ!!?」
「え、ええ・・・。」
訳が解らず静まり返った辺りをキョロキョロと見渡してミサトが尋ねると、驚愕顔を振り向かせてリツコがゆっくりと頷く。
「発進準備っ!!」
ならばと技術部から作戦部へ指揮権が移った事を知り、戦闘時ではゲンドウと冬月の次ぐ命令権を持つ作戦部部長のミサトが次なる号令を発した。
『発進準備』
『第1ロックボルト外せ』
『解除確認』
『アンビリカル・ブリッジ移動開始』
『第2ロックボルト外せ』
『第1拘束具を除去』
『同じく第2拘束具を除去』
『1番から15番までの安全装置を解除』
『内部電源充電完了』
『内部用コンセント異常なし』
初号機を固定していた拘束具が次々と外され、着々と発進準備が整ってゆく。
『よかったら、名前を教えてくれませんか?』
「・・・い、伊吹マヤです」
『素敵な名前ですね。僕は碇シンジです』
だが、シンジに口説かれている最中のマヤのおかげで、作業がマヤの所で再び止まっていた。
「マヤっ!!」
「り、了解っ!!エ、エヴァ初号機射出口へっ!!!」
再びリツコの一喝に背筋をシャキンッと伸ばし、慌てて手を動かして作業を再開させ、初号機が初号機ケイジより台座ごと移動してゆく。
『嫉妬するリツコさんも可愛いですね』
「・・・・・・な゛っ!?」
しかし、即座にシンジが囁いた言葉に、たちまちリツコは本日何度目かの絶句と共に耳まで真っ赤に染めて威厳台無し。
「シンジ君っ!!真面目にやりなさいっ!!!」
『やっぱり、ミサトさんは大胆ですね。それはまた後で2人になってからという事で・・・。』
「ち、違うわよっ!!そ、そのヤるじゃないわよっ!!!」
見かねてミサトがシンジを怒鳴るが、あっさりとシンジに言い返され、昼間の謎の一件を思い出してミサトも耳まで真っ赤に染める。
(・・・さすが、お前の息子だな。血は争えないと言ったところか?・・・・・・笑顔と顔はユイ君と似ているだけに残念で仕方がないな)
(おのれっ!!何処までも無節操な奴だっ!!!お前には絶対にレイとリツコ君は渡さんぞっ!!!!)
司令席で冬月はゲンドウを一瞥した後、シンジを見つめて失意の深い溜息をつき、ゲンドウは自分の若い頃を棚に上げ、シンジに対して怒り狂う。
ちなみに、冬月が言うユイとは、ゲンドウの亡き妻であり、シンジの母親の事である。
「あ、あの、葛城さん・・・。進路クリア。オールグリーン発進準備完了です」
シンジとミサトの会話から深い意味を悟り、何故か日向はルルルーと涙を流しながら振り返り、最終報告をミサトに告げた。
「了解っ!!かまいませんねっ!!!」
「勿論だ。使徒を倒さぬ限り我々に未来はない・・・と言うか、さっさと打ち出せっ!!」
即座にミサトは司令席を見上げると、これまた即座にゲンドウから苛立ちのこもった声が帰ってくる。
「発進っ!!」
ゲンドウの許可を得ると間一髪入れず、ミサトは正面に向き直りながら号令を発した。
『うわっ!!ちょっとっ!!!ちょっとっ!!!!いきなりとは酷いじゃないですかっ!!!!!』
突然、凄まじいスピードで射出口固定台ごと初号機は地上に打ち上げられ、強烈なGに耐えながらシンジが悲鳴をあげる。
(((いっぺん、死んでこいっ!!)))
奇しくも、シンジの悲鳴を聞きながら同時にニヤリと笑い、ミサトとリツコとゲンドウの心の叫びが重なった。
ブーー、ブーー、ブーーッ!!
使徒が歩く前方の通路から警報音が鳴り響き、何事かと使徒が歩みを止める。
ウィーーン・・・。ガシャンッ!!
次の瞬間、道路に偽装されていたハッチが開き、勢い良く台座に固定された初号機が地上に現れた。
「心の準備くらいさせて欲しいよね。全く・・・・・・。あっ!?」
射出された際のGに首を痛めたのか、シンジは首筋を手でさすりながら、前方へ視線を向けて目の前にいる使徒に気づく。
(水の使徒、サキエルか・・・。君とはもう34・・・。いや、35回目の戦闘だったかな?)
ガシャンッ・・・。
その途端、神妙な顔つきでシンジは操縦桿を握りしめて心の中で戦いの合図をあげ、シンジの思考に反応して初号機が台座固定ロックが外れる。
「(まあ、この際は何回戦ったかなんて良いか・・・。)さあ、行こう・・・。母さん」
そして、つい心の呟きをシンジは言葉に漏らしつつ、初号機の記念すべき35回目の第1歩を進めた。
− 次回予告 −
こう言うのもなんだけど、サキエルは楽勝なんだよね。
だって、僕にとってはこれが35回目の戦いだから。
僕の興味は何秒で倒せるかな?と言う事くらいかな?
そうなんだ・・・。こう見えても僕は肉体は14歳でも、精神は49歳。
実は父さんより1つ年上なんだけど、絶対におじさんとは呼ばないでね?
僕は永遠の少年なんだからさ。
Next Lesson
「見
知らぬ、天井」
さぁ〜〜て、この次はミサトさんで大サービスっ!!
注意:この予告と実際のお話と内容が違う場合があります。
後書き
いわゆるシンジ時代逆行物と言うお話で、スーパーシンジも入っているかな?
何故、こんなお話になったかと言うと・・・。
私はエヴァ小説のデフォルト『シンジ受け』の反対である『シンジ攻め』
しかも、『シンジ総攻め』を書きたかったんです(笑)
でも、普通に第1話からだとシンジとしては変すぎるので、時代逆行物と言うネタを思いついたのです。
でもでも、シンジでは1回や2回の時代逆行ではプレイボーイになれないと思いまして・・・。
思い切ってゲンドウにも対抗する意味で35回の時代逆行という設定を作りました(^^;)
ちなみに、タイトルのMENTHOLは煙草のメンソールから取っています。
つまり、メンソール煙草は吸い口は良いけど、タールもニコチンもちゃんと有るのよ。・・・と言う意味なのです。
感想はこちらAnneまで、、、。
<Back>
<Menu>
<Next>