Truth Genesis
EVANGELION
M
E
N
T
H
O
L
Lesson:6
Human sacrifice
「随分と遅いんじゃないのか?そろそろ、避難しないとまずいぞ?」
「そうだよな。うちの委員長はうるさいからなぁ〜〜・・・。」
夕暮れ時のヒグラシが鳴く中、避難時刻は迫っていると言うのに、ケンスケと2年A組の男子生徒有志数人が第壱中学の屋上に集まっていた。
「どうすんだ?・・・あと5分待ってダメなら避難しようぜ?」
「パパのデーターをチョロまかしてみたんだ。この時間に間違いないって」
何やらボヤきまくる男子生徒達を自信あり気に諭し宥め、ケンスケが腕時計へ視線を向けたその時。
バサバサバサバサバサバサバサバサバサバサッ!!
ブーーー、ブーーー、ブーーー、ブーーー、ブーーー・・・。
学校脇の斜面にある森からおびただしい数の鳥が羽音を立てて飛び立ち、警報が辺りに鳴り響き渡った。
ウィィーーーン・・・。ガッシャンッ!!
「・・・山が動いている」
誰もが一斉にそちらへ視線を向けると、森が左右に分かれて巨大エレベーターが地中より現れ、あまりに現実離れした光景に1人が茫然と呟く。
ウィィーーーン・・・。
「学校の側にこんな物が本当にあったなんて・・・。あれに碇が本当に乗っているのか?」
そして、まず威風堂々と腕を組んだ初号機が地上へ姿を現すが、未だ目の前の現実が信じられず別の1人が茫然顔をケンスケへ向けた。
ウィィーーーン・・・。
「だから、そうだって言ったろっ!!うひょぉぉ〜〜〜、綾波の零号機までっ!!!これは男なら涙を流す光景だねっ!!!!」
応えてケンスケが夢中で初号機へビデオカメラを回していると、続いて盾を装備した零号機までもが現れて狂喜乱舞。
「何だってっ!?あっちのには綾波が乗っているのかっ!!?」
「マジかよっ!?あの綾波がかっ!!?」
「それじゃあ、何かっ!?綾波さんがよく怪我をしてくるのってっ!!?」
「凄えっ!!格好良いよなっ!!!」
まさかレイまでもがエヴァのパイロットだとは知らなかった面々は、ケンスケから衝撃の事実を告げられてビックリ仰天。
「おっ!?碇の奴、手を振ってるぞっ!!!」
「なにっ!?おお、本当だっ!!!」
更にケンスケの言葉を示すかの様に、初号機がこちらへ向かって手を振り、誰もがその親しみある行動に興奮して手を勢い良く何度も振り返す。
「頑張れよぉぉ〜〜〜っ!!」
「頼んだぞぉぉ〜〜〜っ!!」
「ファイトぉぉ〜〜〜っ!!」
すると初号機も2、3度ほど手を振り返して歩を進め、その後を続いて零号機も歩き出す。
(いや・・・。碇は俺達に振ったんじゃないよな。絶対に・・・・・・。)
2機の背中へ飽きる事なく手を振り続けて応援を送る皆の中、ケンスケだけは冷静にカメラフレームを初号機から校庭に移して深い溜息をつく。
(そうか・・・。森原さん、君もそうだったのか・・・。これでうちのクラスだけでも5人目。なんて、恐ろしい奴なんだ・・・・・・。)
そこにはたまたま学校へ忘れ物を取りに来たクラスメイトの森原さんが、心配する乙女の表情で初号機の背中へ控えめに手を振っていた。
余談だが、初号機の見ている映像は、当然の事ながらミサト達にも伝えられている。
その結果、ケンスケは数時間後に避難所で黒服達に囲まれ、機密保持を名目にビデオカメラを取り上げられたのは言うまでもない。
「コッケェェ〜〜〜ッ!!」
「ところで、相田・・・。鈴原の奴、さっきから何やってんだ?」
ふと皆の背後より奇声があがって、1人が釣られて後ろを振り返り、ケンスケへ何やら一心不乱に奇妙な踊りを踊っているトウジについて尋ねる。
「あれか?あれは、呪いだそうだ」
「・・・はあ?」
しかし、ケンスケから返ってきた意味不明な応えに、1人はますます訳が解らなくなって思わず茫然と目が点状態。
「何でも、古本屋で呪いの本を見つけたんだとさ・・・。で、あれは呪いのダンスなんだと」
「の、呪いのダンスねえ・・・。お、俺はまたてっきり引きつけでも起こしたニワトリの真似かと思ったぞ?」
ケンスケは興味なさ気に解説しながら初号機へ再びビデオカメラを向け、1人は改めて奇妙な踊りをするトウジへ視線を向けて顔を引きつらせた。
「コッケェェ〜〜〜ッ!!コッコッコッコッコッ・・・。コッケェェ〜〜〜ッ!!コッコッコッコッコッ・・・。
(見とれよっ!!シンジぃぃ〜〜〜っ!!!イインチョは渡さへんでっ!!!アキも絶対に取り戻しちゃるぅぅぅ〜〜〜〜っ!!!!!)」
皆の奇異な視線にもめげず、鬼気と奇声を発しながら全身にかいた汗を周囲に迸らせ、一心不乱に奇妙な踊りを初号機へ捧げ続けるトウジ。
その踊りに込められた物は、呪いの踊りだけに初号機の戦勝祈願ではなく戦敗祈願。
チルドレンと言う称号を持つ怨敵シンジが歩く治外法権に対して、単なる一般人にすぎないトウジはあまりに無力。
それ故、トウジがシンジへ対抗する手段は、この様にせいぜい神か、悪魔にでも祈る事しか残っていなかった。
「コッケェェ〜〜〜ッ!!コッコッコッコッコッ・・・。コッケッ!!コッケェェェェェェェェェェェェェ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!
(ひょ、ひょいとすると・・・。こ、これが注意書きにあった呪い返しっちゅう奴かっ!?
な、なら、わしは負けへんでぇぇ〜〜〜っ!!お、お前には負けへんでぇぇぇ〜〜〜〜っ!!!シ、シンジぃぃぃぃ〜〜〜〜〜っ!!!!)」
使い慣れない筋肉を使い続けたせいか、不意に全身がつって悲鳴をあげ、トウジがあまりの激痛に床をのたうち回ってゴロゴロと転がり始める。
「お、おい・・・。な、なんか、苦しんでいるんじゃないのか?」
「ほっとけ、ほっとけ。あれもダンスの一種なんだろ?」
その光景に1人が大粒の汗をタラ〜リと流して心配そうに問うが、ケンスケは手を上下にヒラヒラと振ってトウジへ無視を決め込んだ。
『敵シールド、第17装甲板を突破。本部到達まで、あと3時間55分』
二子山朝日滝付近の道路、電力車両が山頂を目指して隙間なく列を連ね、その車と車の間には無数の電力供給ケーブルが張り巡らされている。
『四国及び、九州エリアの通電完了』
『各冷却システムは試運転に入って下さい』
日もすっかり沈んで闇が深まり、運命の時は刻々と迫っていた。
「では、本作戦における各担当を伝達します」
仮設基地を照らす強いライトの光を背に浴び、ミサトがいよいよレイとシンジへ最終通達を行う。
ちなみに、ここへ初号機と零号機を運ぶ際、プラグスーツを着たシンジとレイだったが、作戦時間まで時間があったので今は制服へ着替えている。
「シンジ君、あなたが初号機で砲手を担・・・。」
「僕が防御を担当します」
シンジは挙手してミサトの言葉を遮り、ミサトが立てた作戦に異を唱えた。
「ダメよ。今回はより精度の高いオペレーションが必要なの。だから、シンクロ率の高いシンジ君が砲手に・・・。」
「僕が防御を担当します」
ミサトはシンジの強い意志を感じながらも首を左右に振って作戦根拠を説明するが、シンジはまたもやミサトの言葉を遮って同じ言葉を繰り返す。
余談だが、ゲンドウの強権によって一時はシンジが望む通りの作戦案だったのだが、冬月が粘り強くゲンドウを諭して現在の物へとなっていた。
その結果、ゲンドウは以前リツコに警告を促された冬月の派閥化を思い出してしまい、冬月への小さな猜疑心の芽を開かせた事は言うまでもない。
「・・・良いわ。やらせましょう」
「リツコっ!!」
シンジとミサトの間に沈黙が漂って一拍の間の後、リツコがニヤリと笑ってシンジの要望を聞き入れ、ミサトが非難の声をあげる。
「ここまで言うんですもの。何か根拠があっての事なんでしょ?・・・シンジ君」
(ほう・・・。何を見つけたのかな?)
しかし、リツコはミサトへ視線を向けず、シンジへ挑戦的な視線を向け、シンジも挑戦を受けてニヤリと笑い返した。
(ま、またなの?・・・な、何なのよ。こ、この只ならぬ無言の攻防戦は・・・・・・。)
ミサトは2人の間を飛び交う視線の探り合いの火花を感じ取り、居心地の悪さに緊張の汗を背筋にタラ〜リと流す。
「碇君を虐めないで下さい・・・。赤木博士」
「っ!?(あ、あのレイが・・・。な、何があったと言うの。こ、この2人に・・・・・・。)」
するとレイが2人の間に割って入ってリツコの前に立ち塞がり、リツコはレイらしからぬ積極的な行動に驚いて目を見開く。
「フフ、ありがとう・・・。でも、僕は虐められてなんかいないよ?綾波」
「・・・本当?」
「本当だとも・・・。ねっ!?リツコさん」
「赤木博士・・・。本当ですか?」
シンジはレイの肩へ手を置き、不安顔を振り向かせたレイへニッコリと微笑んでリツコへ話を振り、レイがリツコへ幼気な瞳を向ける。
「え、ええ・・・。ごっほんっ!!・・・と言う事よ。ミサト」
リツコはその純真無垢な瞳にちょっぴり怯みつつ、咳払いで気を取り直して、逃げる様にミサトへ話を振った。
「んっ!?ああ・・・。まあ、そこまで言うんなら仕方ないわね。では、シンジ君が初号機で盾を担当。
はぁぁ〜〜〜・・・。(現場の判断だから仕方がないんだけど・・・。あとで副司令に何て謝ったら良いのよ・・・・・・。)」
「了解」
ミサトは頭をボリボリと掻きむしりながら考え込んだ後、作戦変更を決定して深い溜息をつき、シンジが満足そうに頷いて返事を返す。
「レイ、あなたは零号機で砲手を担当」
「はい」
続いてミサトからレイへ担当が伝えられ、レイが無表情ながら瞳に決意を宿して力強く頷くも束の間。
「陽電子は地球の自転、磁場、重力に影響を受けて直進しません。その誤差を修正するのを忘れず、正確にコア一点のみを貫くのよ」
「・・・・・・はい?」
リツコから今回使用する武器『ポジトロン・スナイパーライフル』の注意が伝えられ、たちまちレイの瞳が困惑へと変わる。
何故ならば、この武器を使うのが初めてなら、訓練すら全くしておらず、その特性をいきなり言われても解れと言うのが無理な話だからである。
「大丈夫。あなたはテキスト通り、真ん中のマークが揃ったらスイッチを押せば良いの。あとは全て機械がやってくれるわ。
但し、1度発射すると、冷却や再充電、ヒューズの交換などで次に撃てるまで時間がしばらくかかります。
・・・良いわね?盾は用意しているけど気休めにしかならないわ。だから、今は余計な事を一切考えないで一撃で撃破する事だけを考えなさい」
「はい」
リツコは無理もないと苦笑した後、追加説明を進めながら表情を険しくさせてゆき、レイは再び瞳に決意を宿して力強く頷いた。
「気休めとは酷いな・・・。でも、安心して、綾波は僕が絶対に護るから」
「・・・碇君」
だが、レイの背中にわずかな不安があるのに気付いたシンジは、レイを振り向かせてニッコリと微笑み、レイが嬉しそうにシンジの瞳を覗き込む。
「時間よっ!!二人とも着替えてっ!!!」
ミサトは見つめ合って今にも抱擁を交わさんとする2人に苛立って間に割って入り、両手を広げてシンジとレイを押し離しつつ怒鳴り声をあげる。
「はいはい・・・。じゃあ、行こうか」
「・・・ええ」
シンジはそんなミサトをクスクスと笑いながら、ミサトを鋭く睨んでいるレイの手を取って移動パイロット待機車両へ向かった。
(さてと・・・。)
待機車両内の真ん中をスクリーンカーテンで仕切り、戦闘服と言えるプラグスーツへ着替えるシンジとレイ。
(う〜〜〜ん・・・。これがワビ、サビの世界。実に情緒が溢れているね)
女の子に比べて着替える量が少なく、早々と着替えを済ませたシンジは、スクリーンカーテンの方へ視線を向けて何やらウンウンと頷く。
そのスクリーンカーテンにはライトの光を浴びてレイの影が当たり、丁度レイがブラジャーを外している仕草が写っていた。
(それにしても、綾波は相変わらずだなぁぁ〜〜〜・・・。)
レイはブラジャーを外すと無造作に床へ落とし、シンジはカーテン下のわずかに覗く向こう側の惨状を見て苦笑する。
レイの足下には脱ぎ散らかされた衣服が散乱しており、今脱いだレースを贅沢に使った高級そうなブルーのブラジャーも畳まれてやしない。
(・・・おや?綾波、今日はヒモパンなんだ・・・。ひょっとして、あの時のかな?)
続いて、レイはウエストでリボンを解く様な仕草をとり、シンジは床に落ちているブラジャーから以前見たレイのショーツを思い出す。
(あっ!?やっぱり・・・。へぇぇ〜〜〜、お揃いか。やっぱり、綾波も女の子だね)
その予想通り、見覚えのあるブルーのヒモショーツが床にヒラリと舞い落ち、シンジは腕を組んでニヤリと笑い、何度も何やらウンウンと頷く。
(んっ!?・・・どうしたんだろう?)
だが、そこでレイの動きはピタリと止まり、プラグスーツを着ずに顔を俯かせ続けているレイに、シンジが不思議そうに首を傾げた。
(・・・なんだ?)
一拍の間の後、レイが何かを探す様に狭い車内をウロウロと彷徨い始め、ますますシンジは表情を怪訝にして興味深そうにレイの動向を見守る。
(え゛っ!?)
しばらくして、ハサミを見つけたらしいレイは、いきなり何を思ったか前髪を引っ張ってハサミで切り、シンジは目を見開いてビックリ仰天。
(あ、綾波・・・。な、何、やってんの?)
するとレイはその切った前髪を股間辺りへ持ってゆき、シンジはいまいちレイの行動が解らず大粒の汗をタラ〜リと流したその時。
「はぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜・・・。」
(・・・ひょ、ひょっとして、気にしているのかな?)
カーテンの向こう側からレイの溜息が漏れ、レイの秘密を知っているシンジはようやくレイの意図が解り、声を立てずにクスクスと笑い始めた。
「クワッ!!クワッ!!!クワァァ〜〜〜ッ!!!!」
「のう、アキ・・・。さっきから思っとるんやけど、このペンギンはなんや?」
午後11時30分、信号や街灯、ビル明かり、更には最低限の電力を残して避難所のライトさえも消え、第三新東京市が闇に包まれてゆく。
「碇さんのペットでペンペンって言うの。頼まれて預かってきたんだ」
「なんやとっ!?シンジのペットやてぇぇ〜〜〜っ!!?」
「ク、クワァァ〜〜〜ッ!!」
その第三新東京市で生まれた闇は徐々に日本列島全体へと広がり、病院や警察、消防署などのライフラインを除いて全ての明かりが消える。
「ちょっと、お兄ちゃんっ!!ペンペンが怖がっているじゃないっ!!!もう、あっちに行ってっ!!!!しっ、しっ!!!!!」
「ア、アキぃぃ〜〜〜・・・。」
そして、午後11時45分、夜の闇と喧騒のない静けさの世界へと日本は完全に変わり、闇を纏って衛星軌道上からもその姿を消した。
「ねえ、綾波・・・。」
「・・・なに?」
エヴァの昇降機のタラップの上、シンジは胡座をかき、レイは体育座りをして、目の前に広がっている幻想的な光景をただただ静かに眺めていた。
夜空には普段見る事の出来ない天の川がかかり、満月の月明かりだけが第三新東京市の街並みを照らし、その中心でほのかに光る使徒。
「その・・・。上手く言えないんだけどさ・・・。人には個人差があるんだから、あまり気にしない方が良いよ?」
「・・・?」
長い静寂を打ち破って、珍しくシンジが何やら言い辛そうに言葉を重ねるが、レイはシンジの言葉の意味が解らず首を傾げて顔をシンジへ向ける。
「それと・・・。それじゃあ、アンバランスだろ?あとで僕が髪を切ってあげるよ」
「っ!?・・・み、見てたの?」
しかし、シンジがレイの右前髪と長さの違う左前髪を指さした途端、レイは瞬時にシンジの言葉の意味を理解して驚きに目を見開いた。
「うん、ごめん・・・。見てたと言うか、見えちゃったと言う感じだけどね」
「・・・そ、そう」
シンジは人差し指で頬をポリポリと掻きながら苦笑を浮かべ、レイは恥ずかしさに膝へ顔を埋めて、唯一肌が隠れていない耳を真っ赤に染める。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
それっきり、シンジとレイは無言になり、再び辺りに静寂だけが広がってゆく。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
元気づけようとして裏目に出たかと後悔し、シンジがどう声をかけたら良いやら迷っていると、レイが膝に顔を埋めたまま声をかけてきた。
「碇君・・・。」
「・・・なんだい?」
「生えていないと嫌?・・・私の事、嫌いになる?」
「馬鹿だな・・・。僕が綾波の事を嫌いになる訳がないじゃないか」
膝に顔を埋めているせいか、レイはわずかに声を震わせて問い、シンジはそんなレイを安心させようと敢えて戯けた口調で応える。
「本当?・・・生えていなくても良いの?」
「ああ・・・。全然気にしないよ」
たちまちレイは喜び一杯の顔を上げ、シンジが更にレイを安心させようとニッコリと微笑んだその時。
ピーーー、ピーーー、ピーーー、ピーーー、ピーーーッ!!
「さあ、時間だ・・・。行こうか」
2人のプラグスーツ左手首に仕組まれた腕時計が鳴って作戦時間を伝え、シンジが表情を引き締めて立ち上がり、昇降機のボタンへ手をかけた。
「ま、待ってっ!!」
「んっ!?・・・なんだい?」
慌ててレイも立ち上がりながらシンジを強い口調で呼び止め、シンジがボタンを押すのを止めて不思議そうに振り返る。
「・・・お、おまじない」
「フフ、良いよ・・・。作戦が終わったら、今度こそ続きをしようね」
するとレイは零号機タラップの手すりに掴まり、50センチほどの空間を挟んでシンジがいる初号機タラップへ顔を突き出して身を乗り出させた。
「つ、続き・・・。す、凄い事?」
「そ、凄い事さ」
余談だが、レイがこれ以後に何か重大な事を控えて緊張する毎に、シンジへこのおまじないを求める様になった事は言うまでもない。
『只今より、0時00分00秒をお知らせします』
プッ、プッ、プッ、プッ、ポーーーンッ!!
移動指揮車両のモニターに表示された日本標準時刻と作戦カウントダウンを示すデジタル時計の数字が全て0に揃う。
「作戦スタートですっ!!」
「レイっ!!日本中のエネルギー、あなたに預けるわっ!!!頑張ってっ!!!!」
『はい』
それを合図に日向から報告の声があがると、ミサトは腕を組んで瞑っていた目をクワッと見開き、レイも瞑っていた目を静かに開けて返事を返す。
「第一次接続開始っ!!」
「第1から第803間区まで送電開始。全冷却システム、出力最大へ」
ミサトから日向へ、日向から各担当へと指示が伝達されてゆき、双子山仮設作戦本部とネルフ本部がにわかに慌ただしくなってゆく。
『電圧上昇中。加圧域へ』
『温度安定。問題なし』
『陽電子流入、順調なり』
麓から山頂へ連なる第一次電力車両隊803両が一斉に唸り声をあげ、変電気冷却のタービンがフル可動加速して湯気を上らす。
「第二次接続っ!!」
「全加速器運転開始」
「強制収束器作動」
ミサトが順調に進んでゆく作業の次なる指示を発し、日向に続いて、その隣に座るマヤも日向を補佐する様にキーボードを忙しなく叩き始めた。
『全電力、二子山造設変電所へ。第三次接続問題なし』
作戦状況はネルフ本部発令所にも逐一伝えられ、モニターには今か今かと攻撃許可を待つ零号機と初号機の様子が映し出されていた。
「ふっ・・・。(良くやった・・・。赤木博士)」
「・・・おや?」
砲手が零号機へ変わっている事に、司令席でゲンドウポーズをとるゲンドウはニヤリと笑い、ゲンドウの脇に立つ冬月は不思議顔を浮かべる。
実を言うと、ゲンドウはリツコに何としてでも零号機に必ず砲手をやらせろと秘密裏に命令していた。
『最終安全装置解除っ!!』
『撃鉄、起こせっ!!』
森の中を腹這いになって寝そべり、プジトロン・スナイパーライフルを構える零号機が、ミサトと日向の指示に撃鉄を上げる。
『地球自転、及び重力の誤差修正プラス0.0009』
同時にライフル安全装置表示が『安:空』から『火:実装』へ切り替わり、シート後方より狙撃用ヘッドギアが下りてレイの頭へ覆いかぶさった。
ピピピピピピピピピピ・・・。
電子音を鳴り響かせながら、ヘッドギアのモニター内にある照準の丸と三角のマークが中央に表示された使徒へ徐々に合わさってゆく。
『電圧発射点まで、あと0.2』
零号機周辺にある電圧器はバチバチと火花を散らし、タービンは轟音を鳴らして回り、導線の各所からは焦げた匂いと煙が立ち上る。
『第七次最終接続っ!!全エネルギーポジトロンライフルへっ!!!』
ゴクッ・・・。
いよいよ迫ったその時を告げる日向の声が届き、レイは緊張に喉を鳴らした後、縋る様に零号機前方に立つ初号機の背中へ視線を向けた。
「10・・・。9・・・。8・・・。7・・・。6・・・。」
日向のカウントダウンが進み、ミサトが緊張に乾いた唇を舐めたその時。
「目標に高エネルギー反応っ!!」
「なんですってっ!!」
使徒の正八面体中央ラインにある黒い溝が光輝き始め、マヤが焦り声の報告をあげ、リツコも焦り声をあげて驚愕に目を見開く。
「5・・・。4・・・。3・・・。2・・・。1っ!!」
「発射っ!!」
それでも、日向はカウントダウンを決して止めず、ミサトが号令を発すると共に、零号機がトリガーを引いた。
ドキュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーンッ!!
ポジトロン・スナイパーライフルの銃口より発射される赤白い光線。
キュインッ!!
そして、奇しくも全く同じタイミングで使徒よりも発射される青白い光線。
カキンッ!!カキンッ!!!
だが、青白い光線は小さなクリスタル2つを利用して、まず直進して上方へ反射した後、再び反射して45度の角度で零号機を狙う射線を取った。
キュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーン・・・。
それ故、直進のみの赤白い光線が数刹那だけ早く使徒の元へ届き、今正に使徒をその切っ先で貫こうとした次の瞬間。
カキンッ!!
使徒の目の前に配置され、先ほど青白い光線を上へ反射した小さなクリスタルが、赤白い光線を天空の彼方へと反射させた。
ドゴォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーンッ!!
一方、未だ健在の青白い光線は零号機へ迫り、すかさず初号機がその射線に割って入って盾を構え、青白い光線が盾で拡散して光の傘を広げる。
(やっぱり、僕達を・・・。いや、僕をマークしていたのかな?
フフ、味な真似を・・・。だが、面白いっ!!さすが、アークエンジュルの名を持つだけの事はあるっ!!!そうでなくってはっ!!!!)
初号機の持つ盾がみるみる内に融解してゆくが、シンジは不敵にニヤリと笑って使徒を褒め称えた。
『碇君っ!!』
「ダメだっ!!僕の事を気にするくらいなら、すぐ第二射に備えろっ!!!」
焦ったレイは零号機を立ち上がらせようとするが、シンジに一喝されて立ち上がるのを踏み止まる。
(だけど、これは明らかに本気じゃない。距離を確かめる為の試射と言ったところか?・・・すぐに向こうも第二射が来るね)
しばらくすると、シンジの読み通り、青白い光線の勢いは弱まって使徒からの攻撃が止んだ。
「くっ!!あんな方法があったなんてっ!!!気付くべきだったのにっ!!!!」
ドンッ!!
鉄壁とも言える使徒の防御手段を見せつけられ、ミサトは悔しさと自分の不甲斐なさに苛立って壁を拳で叩く。
『敵シールドっ!!ジオフロントに侵入っ!!!』
更には使徒のドリルシールドが遂にジオフロントへ到達した事を告げる報告がネルフ本部の青葉から入る。
「葛城さん、どうしますかっ!?」
「どうするも、こうするもないでしょっ!!今、やれる事をやるのよっ!!!第二射、急いでっ!!!!」
焦る日向が振り返る尋ねると、ミサトは怒鳴って無駄かも知れない第二射の指示を出した。
「ミサト・・・。1つ提案があるわ」
「なにっ!!何でも言ってっ!!!」
指揮車両が絶望色に染まる中、リツコの思い詰めた様な低い呟き声が響き、ミサトが藁にも縋る思いでリツコへ視線を向ける。
「ライフルのリミッターを外すのよ。
これならば、2倍以上・・・。上手く行けば、3倍近い威力が出せるから、あの反射兵器ごと貫く可能性があるわ。
但し、砲身は保たないし、万が一砲身が保ってもケーブルが確実にショートする。
つまり、1発しか撃てない上、陽電子の威力は特定できず、あくまで反射兵器を貫く可能性があるだけ・・・・・・・・・。それでもやる?」
リツコは作戦ではなく賭を提案した後、数瞬の沈黙を漂わせてミサトへ決断を促す。
「やるわっ!!」
「マヤ、そう言う事よっ!!すぐに準備してっ!!!」
「了解っ!!」
ミサトは瞳に闘志を燃やして即座に決断し、リツコはすぐさまマヤへ指示を出して、少しも迷わず即決したミサトらしさに微笑んだ。
キュインッ!!
ドリルシールドの先端より拡散した青白い光線がシャワーの様にジオフロントへ降り注ぐ。
チュドドドドドォォォォォーーーーーーンッ!!!
ドリルシールドを狙っていた数多の砲塔が一瞬にして破壊され、ジオフロントの各所で火災が発生する。
ブーーー、ブーーー、ブーーー、ブーーー、ブーーーッ!!
「目標の攻撃で我が方の対空砲が74%沈黙っ!!」
当たりどころが悪かったのか、発令所は非常灯が灯って赤く染まり、警報が鳴り響く中、青葉が振り返り司令席へ叫ぶ。
「まずいぞ・・・。」
「・・・問題ない」
さすがの冬月も焦って表情を険しくさせるが、相変わらずゲンドウはゲンドウポーズをドーンと構えて顔色1つ変えない。
「お前は口癖の様にそう言うが・・・。一体、この状況でその根拠は何処から来るんだ?」
「冬月、報告書を読まなかったのか?使徒は敵意に反応するのだ・・・。ならば、その敵意を見せなければ良い」
「・・・なるほど。なかなか、お前も司令らしくなってきたじゃないか」
そんなゲンドウに呆れて尋ねると、ゲンドウは自信たっぷりにニヤリと笑い、冬月はゲンドウの作戦案に感心して頷いた。
「青葉二尉・・・。ジオフロントの攻撃を今すぐ全て中止させろ」
「えっ!?し、しかし・・・。そ、それでは・・・・・・。」
すぐさまゲンドウは青葉へ指示を出すが、その信じられない指示に青葉と発令所の全員が驚愕に固まって目を見開く。
「中止だ・・・。」
「りょ、了解っ!!こ、攻撃中止っ!!!こ、攻撃中止っ!!!!」
しかし、ゲンドウが重々しい口を開くと、青葉は慌てて解凍してゲンドウの至上命令を各所へ伝える。
「・・・ほう。お前の読み通りだな」
一拍の間の後、ネルフ側の攻撃が止むと共に使徒からの攻撃も止み、冬月は感心した様に唸って素直にゲンドウを褒め称えた。
「しかし、葛城三佐達の為にも攻撃をし続けた方が良いのではないのか?」
だが、冬月は無駄だと解っていながら、すぐにミサト達への援護射撃の意味で攻撃続行の提案をする。
「問題ない・・・。攻撃を受けるのはシンジであって、私のレイではないからな」
「・・・お、お前、そんなにシンジ君が憎いのか?」
応えてゲンドウは悪魔が取り憑いた様な邪悪さ漂うニヤリ笑いを浮かべ、冬月は誉めて損したと言わんばかりに顔を引きつらせた。
「日向君っ!!まだなのっ!!!」
「あと15秒は必要ですっ!!」
使徒がジオフロントへ攻撃を行った為に余裕は出来たが、ミサトは未だ準備が整わない第二射に焦り、日向が永遠とも言える秒数を告げたその時。
「目標に再び高エネルギー反応っ!!」
「まずいっ!!」
マヤから使徒の方の準備が整ったとの報告が入り、ミサトが叫ぶよりも早く、使徒から極太の青白い光線が放たれた。
(やあ、来たね・・・。それにしても、前回と言い、今回と言い、今年は随分と僕のシナリオから外れているんだけど・・・。
これは吉兆なのか、凶兆なのか・・・。まあ、どちらにせよ。ここまで進化してしまったら、こちらも少しは本気を出さないと死んじゃうね)
先ほどと同じ射線ながら、今度は小さなクリスタルを使って7方向から飛んでくる青白い光線に、シンジが心を弾ませて自然に笑みをこぼす。
「そうと決まれば・・・。こんな盾は邪魔だ」
『っ!?』
初号機が防御手段である融解寸前の盾を投げ捨ててしまい、レイが驚愕に目を最大に見開いた次の瞬間。
パンッ!!
「はっ!!」
柏手を打った初号機が、シンジの気合いと共に両手を大きく左右に広げ、周囲の木々を薙ぎ倒しつつ凄まじいATフィールドの広域放出を放った。
ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
「・・・ほう。やるじゃない・・・。」
それでも、零号機と初号機の元へ7方向から降り注いだ落雷の威力も負けてはおらず、ATフィールド内部へ入ろうと藻掻き始める。
『い、碇君っ!?』
「大丈夫・・・。言っただろ?綾波は僕が絶対に護ると」
心配そうに叫ぶレイを安心させるべく、シンジは穏やかな声をかけて静かに目を瞑った。
「碇君っ!!碇君っ!!!碇君っ!!!!碇君っ!!!!!碇君っ!!!!!!」
突如、周囲の影響で通信ウィンドウにノイズが走って映像が映らなくなり、焦るレイが必死にシンジへ何度も呼びかけていたその時。
バキバキバキィィーーーンッ!!
「っ!?っ!!?っ!!!?っ!!!!?っ!!!!!?」
目の前に背を向けて立つ初号機の背中の装甲板が吹き飛び、同時にその背中から2枚の光翼が現れ、零号機を包む様に羽根を徐々に広げてゆく。
『あ、そうそう・・・。リツコさん達にプラグ内の映像モニターのログを見られたらまずいんだね。
だから、ちょこっと羽根を触ってくれない?そっちにハッキングして、その辺のデーターを壊しちゃうから・・・。綾波、お願いね』
「え、ええ・・・。わ、解ったわ」
その光景に驚愕して言葉を失っていると、シンジから場違いっぽい暢気な声がかかり、茫然とレイは言われるがまま零号機の手を羽根へ伸ばした。
「光波、電磁波、粒子も遮断していますっ!!何もモニター出来ませんっ!!!」
「零号機、初号機ともにパイロットとの連絡も取れませんっ!!」
日向とマヤの報告を表すかの様に、零号機と初号機を観測するモニターが次々とブラックアウトしてゆく。
唯一残ったのは、外部から零号機と初号機を撮影していた映像モニターだけであり、そこには真っ白に光輝く巨大な半円球が映っていた。
「正に結界か・・・。あとはシンジ君とレイに任せるしかないわね」
(フフ、今度はレイもいるわ・・・。それに零号機のデーターをあとで調べれば、絶対に何か解るはず・・・。今度こそ・・・・・・。)
モニターに映る半円球を見つめて、ミサトは眉間に皺を寄せて唸り、リツコは今度こそシンジを出し抜けると考えてほくそ笑む。
余談だが、ご承知の通り、シンジは零号機の戦闘記録を既に消去しており、とっくにリツコはシンジに出し抜かれていた。
「日向君、ライフルへのエネルギー供給は?」
「続いています。あと8秒」
「そう、良かった。リツコの言った通り、ライフルとかのケーブル類を地下に埋めておいて正解だったわね」
ミサトはATフィールドでケーブル類が切断されていないかと心配して尋ねるが、日向の報告に胸をホッと撫で下ろしてリツコへ笑顔を向ける。
「あと5秒」
「・・・そうね。でも・・・。」
「・・・4」
「でも?」
「・・・3」
「でも、どうするのかしら?」
「・・・2」
「どうするって?」
「・・・1」
だが、リツコの表情は依然険しく、日向のカウントダウンが進む中、リツコとミサトが会話を交わしてゆく。
「・・・変ですっ!!発射されませんっ!!!」
そして、カウントダウンが切れるも、零号機からは赤白い光線が放たれず、日向が驚いて振り返り叫ぶ。
「なんですってっ!?なにか、トラブルっ!!?」
「いえ、問題はありませんっ!!あの中の事は解りませんが、エネルギー供給は足りているはずですっ!!!」
ミサトは何か故障でもあったのかとマヤへ勢い良く顔を向けるが、マヤは叫んで首を左右に振った。
「間違いないわ・・・。あれは発射されないのではなく、発射させる事が出来ないのよ」
「どういう事っ!?」
するとリツコがやはりと言った感じに頷き、ミサトが焦る最中の落ち着いたリツコの声に苛立つ。
「考えてもみなさい。あれだけのATフィールドよ?当然、視界はゼロのはず、更にあの強度では撃っても中で弾かれるだけだね」
「そ、それじゃあっ!?」
しかし、ミサトの怒鳴り声を気にした様子もなく、リツコが推論を述べた途端、ミサトはリツコの言わんとする事を理解して愕然と目を見開く。
「そう、ライフルを撃つ為には一瞬でもATフィールドを解かなければならない。
つまり、使徒へ攻撃する為には、使徒の攻撃を受けなければならない。その上、照準を合わすチャンスがその一瞬だけ・・・。難しいわね」
リツコはミサトの考えを肯定しながら、モニターに映る半円球へ険しい視線を向けた。
『綾波、良い?僕がカウントダウンするから、それを合図に引き金を引くんだ。解ったね?』
「ダメ・・・。」
『へっ!?・・・どうして?』
「・・・目標が見えないもの」
リツコの推察通り、レイが見ている狙撃用ヘッドギア内の使徒の姿はATフィールドの影響でぼやけ、照準が全く定まろうとしていなかった。
『んっ!?ああ・・・。そっか、そっか、なるほどね。
うん、仕方がないね・・・。綾波、零号機を立ち上がらせてくれないかな?』
シンジはレイの言いたい事が解ると、初号機を振り向かせ、立ち上がった零号機を翼で抱きしめ、ライフルの先を初号機の鳩尾辺りに押し当てる。
「・・・な、何するの?」
『この先に使徒がいる。僕の事は気にせず撃つんだ。・・・良いね?』
レイはシンジの意図が解らず驚きに目を見開き、シンジは驚くのも無理はないよなと思いながら己の意図を説明した。
ちなみに、初号機がライフルの銃身を脇に抱えてと言う手段もなくはない。
だが、ミサトから攻撃の手段が次弾で尽きると伝えられており、シンジ達は次の一撃で必ず使徒を倒す必要があった。
それ故、零号機が立ち上がった為に体勢が定まっていない今、せめて銃身だけは慎重にしっかり固定しようと考えたのである。
「ダ、ダメ・・・。で、出来ない」
『だけど、こうするしか他に方法はないんだよ?』
するとレイは首を左右に振って俯き、シンジは優しい口調でレイを諭して決断を促す。
「な、なら、私が代わりに・・・。」
『ダメだっ!!』
応えてレイは攻守を変わろうと提案を持ちかけようとするが、シンジはレイの言葉を怒鳴って遮り、溜息をついて言葉を重ねる。
『確かに命なんて安い物だよ・・・。特に僕の命はね。
だけど、綾波がそんな事を決して思ってはいけないよ?
今、僕の目の前にいる綾波こそが綾波であり、綾波が綾波で有り続けようと願うのなら・・・。
どんな価値が付加され、取り除かれようとも、その綾波と言うパーソナリティーは不変で綾波と言う存在は永遠に変わる事はない。
だが、例え姿形がどんなに似ていようとも、綾波が綾波で有ろうと望まなくなった瞬間にそれは失われてしまうんだ。
だから、死んでも代わりがいるなんて思ってはいけない・・・。死んでしまえば、そこで君は終わり、偽りの再生は別人でしかない・・・。』
「っ!?っ!!?っ!!!?っ!!!!?っ!!!!!?」
シンジの何やら意味深な説得に驚愕して顔を勢い良く上げ、レイは何か言葉を挟もうとするが言葉にならず虚しく口だけがパクパクと動く。
『さあ、始めるよっ!!チャンスは1度きりしかないっ!!!綾波、良いねっ!!!!』
「い、嫌っ!!い、碇君が居ないなら、私も一緒に・・・。」
映像は通じていないのにそれが解るのか、シンジが再び作戦を開始しようとするが、レイは首を左右に振って強く拒否を示そうとする。
『今、言ったばかりだろ?その先の言葉は間違っても絶対に言ってはダメだ』
「で、でも・・・。わ、私は・・・・・・。」
しかし、シンジはレイの上をゆく強い口調でレイを叱って言葉を遮り、レイが涙声を出して肩を震わせて俯く。
『綾波、僕は絶対に死なない。・・・そうだろ?だって、出撃前におまじないを一緒にしたじゃないか』
「・・・お、おまじない」
もう一押しだと確信したシンジは、突然クスクスと笑いながら口調を戯けた感じに変え、レイの考えを逸らそうと話題転換を図る。
『そう、おまじないさ・・・。それに綾波と凄い事をする約束も果たしていないしね。死んでも死にきれないよ』
「・・・な、何を言うのよ」
おかげで、レイの頭の中から不安と心配が消え去って、代わりにピンクの妄想が渦巻き、レイは頬をポッと紅く染めて別の意味で俯きを深めた。
『そうそう、あと大事な事を言い忘れていたけど・・・。
さっき、実は初号機の電源ケーブルを抜いたんだ。だから、内部の電力が切れればシンクロも切れるから、その時に撃てば痛くはないんだよ』
「・・・本当?」
レイの声に不安と心配が完全に消えた事を悟り、シンジは最後の切り札を使い、レイがその切り札に希望を見出して勢い良く顔を上げる。
『・・・本当だとも。僕が綾波に嘘を言った事があるかい?ないだろ?・・・それじゃあ、カウントダウンを始めるよ?やれるね?』
「ええ・・・。」
シンジがレイの問いに刹那の間を空けて応え、真剣な口調で最終確認を問うと、レイは遂に決断して力強く頷いた。
ゴワッ!!
まるで最後の煌めきを放つかの様に真っ白な半円球の輝きが増し、周囲に凄まじい旋風が放たれた次の瞬間。
ドキュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーンッ!!
真っ白な半円球が霧散して消え去り、その中から初号機と零号機の姿が現れると共に、超極太の赤白い光線が初号機の腹部を貫通して放たれた。
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
その直後、すぐさま零号機を突き飛ばし離れさせた初号機の元へ7本の雷が降り注ぎ、眩いばかりの青白い光で初号機を包み込む。
キュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
一方、使徒は超極太の赤白い光線に驚いたのか、迫り来る赤白い光線を反射させようと小さなクリスタル全てをその射線上に配置。
パリンッ!!
パリンッ!!
パリンッ!!
パリンッ!!
パリンッ!!
パリンッ!!
パリンッ!!
パリィィィィィィィィィーーーーーーーーーンッ!!
だが、超極太の赤白い光線はその直径比で小さなクリスタルを楽々と飲み込み、小さなクリスタルが成すすべなく次々と砕け散ってゆく。
カキィィーーーンッ!!ドゴッ!!!
使徒は即座に攻撃を中断して、今までにない強大なATフィールドを輝かすも、赤白い光線はATフィールドを物ともせず一瞬で貫き粉砕。
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
そして、赤白い光線は使徒に巨大な穴を開けて貫通した揚げ句、その先にあった山の中腹を豪快に削り取り、激しい山火事を起こして消滅する。
ドッシィィーーーン・・・。
使徒は炎と煙を上げながらゆっくりと地上へ落下してゆき、更に掘り進めてネルフ本部直上に迫っていたドリルシールドも活動を停止した。
ドスッ・・・。バタッ・・・・・・。
使徒が活動を停止する時を同じくして、初号機が力無く両膝を大地へ折り、そのまま前倒しに大地へ倒れていった。
その姿は痛々しく、ポジトロン・スナイパーライフルによって腹部には大穴が空き、使徒の攻撃で各所の装甲板は融解して原型を留めていない。
プシュゥゥーーーーッ!!
一拍の間の後、既に装甲板がない初号機の首筋からエントリープラグが排出され、緊急排水口よりLCLが噴水の様に勢い良く吹き出し始めた。
「っ!?・・・い、碇君っ!!!」
初号機に突き飛ばされ、零号機に尻餅をつかせたまま茫然としていたレイだったが、慌てて我に帰って自分もエントリープラグを排出させる。
ガタンッ!!
「碇君っ!!」
すぐさまハッチを開き、エントリープラグ内に設置されている簡易昇降機のワイヤーを出してフックに足をかけ、レイは地上へと目指す。
ウィィーーーン・・・。
「碇君っ!!碇君っ!!!碇君っ!!!!碇君っ!!!!!・・・碇君っ!!!!!!」
普段はさほど気にならないウインチスピードをもどかし気に感じ、レイは決意するとまだ地上まで5メートルほど有るのに飛び降りた。
ドンッ!!
「つうっ!!・・・碇君っ!!!」
そんな高さから下りれば当然膝にかなりの負担がかかり、レイは尻餅をついて強かにお尻をぶつけるが、すぐに立ち上がって初号機へ駈け向かう。
「碇君っ!!碇君っ!!!碇君っ!!!!い、碇く゛ぅ゛ぅ゛〜゛〜゛〜゛ん゛・・・。碇君っ!!!!!」
倒れている初号機の肩口にはしたなく大股開きで脚を引っかけ、力みに顔を真っ赤に染めながら、レイが初号機の上へ何とかよじ登ったその時。
ガタンッ!!
「碇君っ!!」
排出されていた初号機エントリープラグのハッチが開き、レイが喜びに目と表情を輝かす。
「ふぅぅ〜〜〜・・・。夜風が気持ち良いねぇぇぇ〜〜〜〜。これでビールがあれば最高だよ。・・・ねっ!?綾波もそう思わない?」
「・・・い、碇君なの?」
ハッチより蒸気がもうもうと立ち上る中から見知らぬ人物が現れ、茫然とレイは首を傾げて質問をしてきたその人物へ名を尋ねた。
レイが茫然とする理由、それは目の前の人物がシンジに良く似ていながら、肌は透き通る様に白く、髪が美しい銀髪だったからである。
唯一、シンジらしいと言える点は、右目の黒い瞳だが、左目はレイと同じルビー色した赤い瞳だった。
「ああ、そっか・・・。綾波は僕の本当の姿を見るのは初めてだったね。そう、僕はシンジ。正真正銘、碇シンジだよ」
「・・・ほ、本当の姿?」
シンジはレイが戸惑っている理由に気付いて左掌を右拳でポンッと叩き、シンジと言う証拠を表すかの様にいつもの極上のニッコリ笑顔を見せる。
「そう、これが僕の本当の姿・・・。僕は綾波と一緒だよ。だから、君は決して1人じゃないんだ。・・・綾波にはこの意味が解るね?」
「い、碇くぅぅ〜〜〜んっ!!」
その笑顔に自我を感じて以来ずっと心に持っていた寂しさが消え去り、レイは嬉しさに涙をポロポロとこぼしながらシンジへ駈け飛び抱きついた。
「フフ・・・。綾波は泣き虫さんだね」
「っ!?・・・い、碇君。お、お腹が・・・・・・。」
だが、シンジの背中へ手を回したはずがシンジの背中が感じられず、レイはすぐに抱擁を解き、シンジのお腹を見て驚愕に目を見開く。
何故ならば、シンジの腹部には初号機の腹部と同じ様に大穴がポッカリと空いていたからである。
実を言うと、初号機が光翼を広げた時点で、シンジより初号機へエネルギー供給がなされており、ケーブルを外しても電源が切れる事はなかった。
しかも、シンジは初号機と超高シンクロしていた為、必然的に初号機の傷にシンクロしてシンジにも同様の傷が出来たのである。
この状況は第4使徒戦の時もそうであったのだが、この場合は初号機を主と置く初号機自身のエネルギー供給だったのでこの現象は起きなかった。
「あらら、これはまいったね。でも、大丈夫だよ。こうすれば・・・。」
ブクブクブクブクブクッ!!
シンジの左目が赤い光を放つと共に、貫通して穴が空いていた腹部の周辺から肉が寄り集まり、みるみる内に穴が塞がれてゆく。
「・・・ねっ!?」
「ど、どうして・・・。シ、シンクロは切れるって・・・・・・。」
「・・・ごめん。あれは嘘だったんだ。ああでもしないと綾波が撃たないと思・・・。」
レイを安心させようとニッコリと微笑むが、レイは俯いて肩を震わせながら涙声を出し始め、シンジが表情を真剣な物へと変えて謝った次の瞬間。
パシィィーーーンッ!!
「・・・綾波」
レイが泣き顔を上げてシンジの左頬を力一杯叩き、シンジは蹌踉めくのを堪えて打たれた左頬を左手で押さえ、茫然と見開いた目をレイへ向けた。
「うっうっ・・・。うっ・・・。うっうっうっ・・・。」
「ごめん、ごめんよ・・・。綾波・・・。僕はまた同じ過ちを繰り返すところだった。昨年、君に叱られたばかりだったのにね・・・・・・。」
するとレイはその場に力無く女の子座りをして嗚咽し始め、シンジはその姿に昨年の光景を思い出し、自分もしゃがんでレイを優しく抱きしめる。
「うっ・・・。い、碇君・・・。うっうっうっ・・・。わ、私を1人にしないで・・・。うっうっ・・・。」
「約束しよう・・・。今度こそ、僕は綾波を1人させない。だから、綾波も無に帰ろうだなんて、2度と思わない事を約束してくれないか?」
「うっうっ・・・。う、うん・・・。うっうっうっ・・・。」
そして、シンジとレイは満月が見守る中、2人だけの神聖な永遠の誓いを交わす。
「ああ、そうそう・・・。僕の本当の姿はみんなには絶対に内緒だよ?特に父さんとリツコさんにはね?」
「・・・2人だけの秘密?うっうっうっ・・・。」
「そう、僕と綾波だけの秘密だ・・・。」
「っ!?・・・んんっ!!!んんん〜〜〜っ!!!!」
ついでに、シンジはレイに己の秘密を隠しておく様にお願いした後、唇をレイの唇へ重ねて文字通りレイへ念には念を入れた口封じを行った。
「おのれ、シンジめっ!!これは私に対する嫌がらせだなっ!!!」
激動の1日のスタートであった夜が終わって陽も上りきり、既に名を夕陽と変えた光が射し込む司令公務室。
「お前が壊した私の初号機の修理費、幾らかかると思っているっ!!500億だっ!!!500億っ!!!!しかも、ドルっ!!!!!
あんな爺達に私が好き好んで頭を下げていると思ったら大間違いだっ!!そもそも、どうしてお前の代わりに私が頭を下げんとならんっ!!!
第一、あれほどの目にあっておきながら、パイロットを止めようとせんとはどんな神経をしているっ!!全く、親の顔が見てみたいわっ!!!」
関係各所から送りつけられてきたヤシマ作戦の苦情文を司令席に積み上げ、ゲンドウは書類にサインをしながらシンジへの愚痴をこぼしていた。
「ええいっ!!止めだ、止めだっ!!!
こんな仕事は冬月で十分だっ!!私はもう知らんっ!!!言いたい奴には言わせておけば良いのだっ!!!!うむ、問題ないっ!!!!!」
ところが、その程度では気が晴れず、更に朝から処理しても処理しても減らない書類の山にストレスの限界が越え、遂にゲンドウは業務を放棄。
「そうと決まれば寝るぞっ!!ああ、寝るともっ!!!寝るぞぉぉ〜〜〜っ!!!!私は寝るんだっ!!!!!」
ヤシマ作戦と作戦後の残務処理のおかげで昨日の朝から一睡もしていないゲンドウは、自分以外誰も居ないのにハイテンションに就寝を宣言。
「・・・と、その前にだ。私のレイの様子を見ておくか」
ウィィーーーン・・・。
一旦は席から腰を浮かすが、ゲンドウは再び椅子に座り直して引出からリモコンを取り出し、ボタンを押すと机の上にモニターが上昇して現れた。
バサバサバサバサバサ・・・。
「例え、たまたまレイが着替えをしていても、それは事故だ・・・。問題ない」
おかげで、山積みになった書類が床へこぼれ落ちるが、ゲンドウは気にせず何やら期待に胸を膨らませ、ニヤリと笑ってモニターのスイッチオン。
『う〜〜〜ん・・・。もう少し切った方が良いかな?どうする?』
『・・・碇君に任せるわ』
『OK・・・。じゃあ、もう少しだけ切るよ』
するとゴミ袋に空けた穴から頭を出して椅子に座るレイとレイの髪を床屋さんするシンジの姿がモニターに映し出された。
ちなみに、その映像はレイの部屋の様子を映した物であり、カメラ位置が上手い具合にレイの部屋を一望できる様になっている。
実を言うと、ゲンドウはヤシマ作戦でレイが家を空けていたのを良い事に、秘密諜報部へ命じてレイの部屋に隠し監視カメラを設置させていた。
「何故、シンジがそこにいるっ!!お前は要らんっ!!!さっさと帰れっ!!!!お前が居たら、レイが風呂に入れんではないかっ!!!!!」
ゲンドウはモニターの光景が信じられず立ち上がって絶叫をあげ、モニターのシンジに向かって呪詛を飛ばす。
『さて・・・。これで良いかな?ちょっと退いてくれる?』
『・・・ええ』
『じゃあ、これを捨ててくるから・・・。ここに溜まった燃えないゴミもついでに捨てても良い?』
『構わないわ』
その甲斐あってか、シンジはレイが座っていた椅子の下に敷いていた新聞紙を丸め、ゴミをひとまとめにするとレイを残して部屋を出て行った。
「そうだ・・・。それで良い。
さあ、レイ・・・。風呂へ入るなり、着替えをするなり、なんなりするのだ。もう邪魔者はいない」
落ち着きを取り戻したゲンドウは、席に座ってゲンドウポーズをとり、レイの動向に注目してスケベったらしくニヤリと笑う。
「・・・おおっ!!おおっ!!!おおぉぉ〜〜〜っ!!!!」
またもや願いが通じたのか、レイは1分弱ほどベット端にちょこんと座っていたが、おもむろに制服を脱ぎ始め、ゲンドウが狂喜乱舞して叫ぶ。
「レ、レイ・・・。お、お前、そんな下着を持っていたのか?」
スカート、リボン、ブラウスの順に着衣が床へ落ちてゆき、ゲンドウは続いてそこに現れたレイのアダルトな下着姿に鼻の下をビロ〜ンと伸ばす。
余談だが、その下着は既にシンジが昨夜拝見してるブルーでお揃いのヒモショーツとブラジャー。
「・・・んっ!?何を読んでいる」
だが、レイはそれ以上脱ごうとはせず、ベット下から取り出した黒いカバーの文庫本を熱心に読み始め、ゲンドウは不思議顔で眉間へ皺を寄せる。
「おっ!?何処へ行くんだ?・・・風呂か?風呂ならば、一人暮らしなんだ。そこで脱いでも問題ないぞ」
しばらくすると、レイは文庫本を閉じて再びベット下へ戻すと、カメラフレームから姿を消してしまい、ゲンドウが必死に願ってレイを呼び戻す。
「うむ・・・。やはり、保安性を高める為、風呂にもカメラは必要だな」
さすがに3度も願いは通じないのか、面白味のかける無人の部屋の映像が3分ほど続き、飽きたゲンドウがモニターを消そうと思った次の瞬間。
「ぬおっ!?・・・レ、レイ、そんな物までお前は持っているのか?」
レイがショーツとブラジャー、ガーターベルトにストッキングと言う赤で統一した誘惑的な下着姿で再び現れ、さすがのゲンドウもビックリ仰天。
『ほふぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜〜・・・。』
「むむっ!?ま、まさか・・・。レ、レイ・・・。お、お前・・・・・・。」
ベット端に座ると、レイは胸に両手を当てて悩まし気な溜息をつき、ゲンドウがレイの次なる行動について全くの謎の想像を浮かべたその時。
『ただいまぁぁ〜〜〜』
『っ!?』
「な、なにぃぃ〜〜〜っ!!」
再び綾波邸へ戻ってきたらしきシンジの声が聞こえ、レイが喜びに目を輝かせて立ち上がり、ゲンドウは驚愕に目を最大に見開く。
「レイっ!!早く服を着るんだっ!!!そいつはケダモノだぞっ!!!!」
『碇君っ!!』
『あれ、着替えたんだ?綾波』
すぐさまゲンドウはあらん限りの声でレイへ注意を飛ばすが、レイは自分から部屋へ入ってきたシンジへ飛び抱きついた。
『碇君、約束なの・・・。凄い事なの・・・。1つになるの・・・。心も体も1つになるの・・・。碇君、お願いなの。早く・・・・・・。』
「レイ、止めろっ!!止めるんだっ!!!止めろっ!!!!止めろっ!!!!!止めろぉぉ〜〜〜っ!!!!!!」
更にレイは言葉を重ねる度、シンジへチュッチュッ、チュッチュッと軽いキスも重ね、ゲンドウは体を反らして頭を抱えながら絶叫をあげる。
『・・・そうだね。約束は守らなくちゃね』
『あふっ!?い、碇くぅぅ〜〜〜ん・・・。』
「ぬおおおおっ!!シンジ、貴様ぁぁ〜〜〜っ!!!それ以上、レイに何かしてみろっ!!!!只じゃ済まんぞぉぉぉ〜〜〜〜っ!!!!!」
シンジはレイの願いに応え、レイをベットに押し倒すとその控えめな胸を揉みしだき、ゲンドウはモニターを力一杯に掴んでシンジへ殺意を放つ。
『でも、その前に・・・。』
『・・・なに?』
「そうだっ!!それで良いんだっ!!!乗らないで良いから、帰れっ!!!!今すぐ帰れっ!!!!!」
なんと3度目の願いが通じたのか、シンジがレイの上から身を起こし、ゲンドウはモニターに映る玄関の方向をビシッと指さして退出を命じた。
『ええっと・・・。何処だろう?』
「何をしているっ!!玄関はあっちだっ!!!早くしろ・・・・・・って、まさかっ!!?」
だが、シンジはその場で辺りをキョロキョロと見渡し始め、不意に目が合って驚いたゲンドウが、こちらへ近づいてきたシンジに身を引いた直後。
『あった、あった・・・。人のプライベートを覗き見とはあまり感心なぁぁ〜〜〜。・・・ねえ、父さん?』
「・・・な、なにっ!?」
シンジがレイに聞こえない様な小声でゲンドウへ囁き、ゲンドウが思わず身を戻すと同時に、カメラレンズ前に何かが置かれた。
『・・・どうしたの?』
『んっ!?ああ・・・。ほら、あそこに陽が射し込んでいるでしょ?だから、あそこに服をかけておいた方が良いと思ってね』
その結果、レイの部屋の映像だけが切れ、シンジとレイの音声だけがゲンドウの元へ届けられる。
『それより・・・。続き、続き』
『きゃんっ!!ダ、ダメ・・・。』
『フフ、何がダメなのかな?ちゃんと口で言ってくれないと僕は解らないよ?』
『い、いじわる・・・。くふっ!!きゃうっ!!!』
映像がない為にシンジとレイが何をしているのかは全くの謎だが、ゲンドウは涙をルルルーと流しながら椅子に力無くダラリと腰かけて石化した。
「碇司令、初号機の被害状況ですが・・・。」
勝手知ったる司令公務室へノックもなしに入り、リツコが司令席へ視線を向けた次の瞬間。
「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
「ど、どうしたっ!?あ、赤木博士っ!!?」
リツコは驚愕に目を最大に見開いて凄まじい悲鳴をあげ、たまたま近くを歩いていた冬月が飛んで駈けてくる。
「ゲンドウさんがっ!!ゲンドウさんがっ!!!ゲンドウさんがっ!!!!」
「落ち着けっ!!落ち着くんだっ!!!碇がどうしたと言うんだ・・・って、ぬおっ!!!?い、碇っ!!!!?」
パニック症状を起こして叫ぶだけのリツコを宥めようとするが、冬月も司令席へ視線を向けて驚愕に目を最大に見開く。
何故ならば、司令席のゲンドウが机へ俯せになって倒れ、机の上に真っ赤な血溜まりを作って、司令席から床へ血を滴り落としていたからである。
「どうしましたかっ!?・・・はっ!!?し、司令っ!!!?」
「医者だっ!!医者を呼べっ!!!それと工作員が潜入している疑いもあり得るっ!!!!すぐに警報を鳴らすんだっ!!!!!」
「は、はいっ!!」
騒ぎを聞きつけて飛んで駈けてきた副司令付け女性秘書官は、冬月の指示を受け、すぐさま持ち場へ駈け戻って行く。
「いかんっ!!」
「副司令、離して下さいっ!!ゲンドウさんがっ!!!ゲンドウさんがっ!!!!ゲンドウさんがっ!!!!!」
「この血の流し方は頭部からだっ!!だから、動かしてはまずいっ!!!医者を待つんだっ!!!!」
茫然としていたリツコが不意にゲンドウの元へ駈け出し始め、慌てて冬月はその後を追って止め、暴れるリツコを羽交い締める。
ブーーー、ブーーー、ブーーー、ブーーーッ!!
「「「「「「副司令っ!!」」」」」」
その直後、ネルフ全体に警報が鳴り響き、同時に司令付け保安部員達が血相を変えて司令公務室へゾロゾロと駈け入ってきた。
「遅いっ!!守るべき人物を守れずして、何の為のガードかっ!!!」
「「「「「「も、申し訳ありませんっ!!」」」」」」
「謝罪は良いっ!!それより、工作員を早く探し出せっ!!!絶対に逃すなよっ!!!!」
「「「「「「りょ、了解っ!!」」」」」」
だが、冬月の厳しい叱責を受け、すぐさま保安部員達は司令公務室を駈け出て行く。
「副司令、見苦しい所をお見せしました・・・。私はもう大丈夫です」
「そうか・・・。ふむ、凶器は恐らくこれだな」
周りの騒がしさにリツコが冷静さを取り戻し、冬月はリツコを解き放つと、司令席脇の床にある砕け散ったモニターを見て忌々し気に吐き捨てた。
5分後、司令公務室へ駈けつけた医師は、ゲンドウの症状を見るなり大量の鼻血による単なる貧血と結論付け、冬月達を茫然とさせた。
その結果、冬月の往復ビンタ数連発によって意識を強制的に回復させられ、ゲンドウは冬月から2時間に渡って激しいお叱りを受ける事となる。
また、この事件をきっかけにその存在が冬月にバレた司令室付け秘密諜報部は即日解体となった。
余談だが、平家物語の『屋島の戦い』で那須与一が扇を矢で射抜いて士気を高めた故事から名付けられた作戦名『ヤシマ作戦』に因み。
この人迷惑な騒動も、平家物語の『富士川の戦い』で平家が水鳥の羽音で敵襲と勘違いして敗走した故事から『フジガワの変』と名付けられた。
そして、翌日この事件の顛末を聞いたシンジが大爆笑した事は言うまでもない。
− 次回予告 −
グーはパーに、パーはチョキに、チョキはグーに・・・。
甲があれば乙がなく、乙があれば丙がなく、丙があれば甲がなく・・・。
そう、この世の全てにおいて、完全なんて物は1つもないんだ。
それは僕とて同じ事、僕にだって弱点は存在する。
そこを突かれれば、さすがの僕も諸手を挙げて降参するしかない。
フフ、僕は女性の涙に弱いからね・・・。
Next Lesson
「人
の造りしもの」
さぁ〜〜て、この次は洞木さんで大サービスっ!!
注意:この予告と実際のお話と内容が違う場合があります。
後書き
実を言うと、今回の第5話と第6話はエヴァGの第5話と第6話をかなり参考にして書いたのですが・・・。
こうして、改めて見比べてみると書き方が随分と違っていますね。
実際、追加されているシーンが差異はありますが、エヴァGは約42Kに対して、MENTHOLは約210Kのサイズ。
書き方次第でサイズが5倍近く変わるんだから驚きです(^^;)
また、やはりこれだけ長い間ずっと文章を書いているとさすがに文章が進化していますね。
・・・と言うか、エヴァGの第5話と第6話辺りってまだ文章っぽくないですよね(大汗)
そう言えば、この頃って2、3日で軽く1話を書き上げられていたもんなぁぁ〜〜〜・・・。
今では1週間かけても1話を書き上げるのがやっとなんだもの(笑)
感想はこちらAnneまで、、、。
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