Truth Genesis
EVANGELION
M
E
N
T
H
O
L
Lesson:5
germ
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
遠方より解体作業音が響く旧住宅街のマンモス団地。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
住民の気配は全くせず、ゴミは散らかり荒れ放題、そんなゴーストタウンの一角にあるマンションの4階・402号室にレイの家はあった。
「やっぱり・・・。相変わらずだなぁ〜〜。綾波は」
表札を一応確認した後、シンジはインターホンを押すも壊れていて音が鳴らないのを知り、何処か懐かしむ様に苦笑を漏らす。
ガチャッ・・・。
「そうそう、そうなんだよね」
続いて、鍵のかかっていないドアノブにウンウンと頷き、シンジは一人暮らしをする年頃の女の子の家へ勝手に入って行く。
「僕もあの頃は若かったよな・・・。後ろで着替えている綾波にドキドキしていたっけ」
更には常人なら上がるのを躊躇いそうな汚れきった床へ迷う事なく靴を脱いで上がり、シンジは廊下に続くレイの部屋へ上がり込んだ。
「・・・いつ来ても、ここだけは変わらないね」
これも常人なら思わず一歩後退してしまいそうな殺風景な部屋に何やら郷愁を寄せ、シンジはスプリングの堅いベットの上に座って部屋を見渡す。
常に閉めきられている感じがする色のくすんだカーテン、壁紙が貼られずコンクリート剥き出しの壁、電気がつきそうにない天井の蛍光灯。
血が染み込んだ枕とベットシーツ、 1ドア冷蔵庫の上に置かれた錠剤とビーカー、キッチン脇にあるダンボール山盛りとなった血の付着した包帯。
そのどれもが年頃の女の子の部屋を全く連想させない。
「へぇぇ〜〜〜・・・。綾波、こんなのも持っているんだ」
だが、中には女の子らしい物も存在しており、シンジは思わずクスリと笑みを漏らす。
壁にハンガーでかけられた第壱中女子制服とシンジがレイに買ってあげた白と水色のワンピース2着。
そして、カーテンの隙間からのこぼれ陽とそよ風に揺れ、洗濯ハンガーに吊されて干されているカラフルな下着類。
「・・・おや?」
男の悲しい性なのか、シンジは誘われる様に洗濯ハンガーへ歩み寄り、その側にあるチェストの上にふと意外な物を見つけて目を丸くした。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
部屋に静寂が満ちる中、足を組んでベットに座り、組んだ膝上に左肘を置き、左手で顎を支えて視線を下に向け、何やら熱心に読書中のシンジ。
久々に開けられたカーテンと窓からは、まだ陽が高くない斜めの光が射し込み、清々しい風が先ほどまでの部屋の淀んだ雰囲気を消し去っていた。
唯一の難点は窓の外から聞こえてくる無粋な解体作業音だが、ここの立地条件を考えればそれもいたしかない。
何故ならば、レイの住んでいる区画は第三新東京市の区画整理地域であり、本来は住居を構えてはいけない地区だからである。
ガチャ・・・。
「・・・んっ!?」
不意に室内の何処かで扉の開く音が聞こえ、シンジは反射的に顔を上げて、部屋に入ってきたレイへニッコリと微笑んだ。
「やあ、お邪魔しているよ。綾波」
「い、碇君・・・。」
シャワー上がりで濡れ髪をタオルで拭いていた全裸姿のレイは、何故シンジがここに居るのか解らず、茫然と固まって混乱大パニック。
「でも、女の子の一人暮らしなんだから、ちゃんと玄関に鍵をかけないとダメだよ?」
「え、ええ・・・。っ!?」
肩を竦めるシンジに一般常識を注意され、レイは我に帰って頷きながら、ふとシンジの右手にある黒いカバーの文庫本に気付いた次の瞬間。
「ダ、ダメっ!!」
「えっ!?」
レイは全身の白い肌を瞬く間に紅く染め、その文庫本を奪い返そうと慌てて手を伸ばし、シンジが何事かと思いつつ迫ってきたレイから身を引く。
「キャっ!?」
「危ないっ!!」
その結果、レイの手は空振って目測を誤り、レイはベット端に足を躓いてベットへ倒れ、そのままシンジを巻き込んでベットへ押し倒した。
ギシッ・・・。ギシ、ギシッ・・・・・・。
バサッ・・・。
シンジとレイの重みにスプリングの堅いベットが軋み声をあげ、シンジの手から離れた『少女個人教授』と言う題名の文庫本が床に落ちる。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
それ以降、まるで部屋の時が止まったかの様に静寂が広がり、窓の外から聞こえてくる無粋な解体作業音がゆっくりと部屋の時を刻む。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
シンジは咄嗟に差し出した両腕でレイの両肩を持ち、レイはシンジの両脇へ腕を入れて己を支え、微動だにしない2人だけの時が過ぎてゆく。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
お互いに瞳の中へ自分の姿を写して見つめ合い、お互いに緩やかな吐息で頬を撫で合い、お互いに高鳴る鼓動を合わせてゆくシンジとレイ。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
どれだけの時が過ぎたのか、レイの髪から体から滴り落ちた水滴がシンジの顔をシンジの制服を濡らしていた。
「・・・綾波」
「碇君・・・。」
ふとシンジが真剣な眼差しでレイの名を呼び、レイはハッと我に帰ると共に鼓動をドキドキと高鳴らせ、期待に目をゆっくりと瞑る。
(1つになるのね・・・。碇君と心も体も1つになるのね・・・。それは、それは、とても、とても、気持ちが良い事らしいの・・・。
だけど、あの本だと初めては痛いって書いてあった・・・。でも、大丈夫。予習も復習もしたもの・・・・・・って、どうしたの?碇君)
だが、いつまで経っても期待通りのリアクションがシンジから起こらず、レイが不思議そうに再び目を開けたその時。
「そんな恰好をしていると・・・。ここが風邪をひいちゃうよ」
シンジがクスクスと笑いながら、控えめなレイの胸の中心にある妙に尖って堅くなったピンク色の突起を人差し指でチョンチョンッと突っついた。
「きゃうっ!?」
その途端、ピンク色の突起を発生源にしてレイの体へ電流がビリリッと流れ、レイはたまらず切なそうな悲鳴を漏らして体を弓なりに反らす。
「さてと・・・。」
「・・・えっ!?」
同時にシンジは身を起こして何事もなかったかの様にベットから立ち上がり、レイはまたしてもシンジに期待を裏切られて驚きに目を見開く。
「それじゃあ、僕は外で待っているから」
「・・・い、碇君」
「あと未成年がそんな本を買っちゃいけないよ?」
ガチャン・・・。
すぐさまレイは部屋を出て行こうとするシンジへ手を差し伸ばすが届かず、レイ1人が残った部屋に玄関の扉が閉まる音が虚しく響いた。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
シンジが部屋を出て既に1分弱は経過したと言うのに、レイはシンジへ手を差し伸ばした体勢のまま固まっていた。
「どうして・・・。どうしてなの?碇君・・・・・・。」
レイがシンジにどんな期待を寄せていたのかは全くの謎だが、レイの脳裏はいつもは優しいシンジが自分の期待を裏切った事だけが渦巻いている。
「・・・私がヒトではないから?・・・ヒトではないとダメなの?碇君・・・・・・。」
しばらくすると、差し伸ばされていた手が力無く萎れてゆき、レイが心に想い描いたシンジへ意味深な問いかけをしながら顔を俯かせたその時。
「っ!?」
視線の先にシンジが先ほどまで読んでいた文庫本を見つけ、レイは何か天啓を閃かせたかの様に目を見開き、何やら慌てた様子で本を手に取った。
余談だが、その更に視線の先には燃えないゴミ用のゴミ袋があり、ミネラルウォーターの空ペットボトルが幾本も入れられている。
また、その中には黒い眼鏡ケースが混ざっているのだが、視力が2.0のレイは眼鏡を必要としない為、何故レイがそれを持っていたのかは不明。
「確か、昨日の予習であったはず・・・・・・。ここっ!!」
そして、レイは猛烈な勢いでページを捲って昨夜読んだページを探し、目的のページを見つけて喜びに目を輝かす。
「ファトラはアレーレに少女の腕を押さえ付けさせると、自分は少女の両足の間に割って入ってスカートを捲った。
『ほほう、白か・・・。初々しいの。アレーレもそう思うじゃろ?』
『はい、ファトラ様』
『嫌っ!!嫌っ!!!嫌ぁぁ〜〜〜っ!!!!』
同性とは言え、少女は己の恥ずかしい所を見られ、ファトラとアレーレの拘束から逃れんと必死に藻掻く。
『これ、暴れるでないっ!!アレーレ、しっかりと押さえるのじゃっ!!!』
『ファトラ様、お任せ下さい』
『止めてぇぇ〜〜〜っ!!お願いだから、止めてぇぇぇ〜〜〜〜っ!!!』
ファトラは暴れ狂って涙目で懇願する少女に生唾を飲み込み、期待に胸を膨らませながら少女のパンティーへ手をかける。
『では、参るぞ・・・・・・って、何じゃ・・・。お主、まだ生えておらんのか。
興ざめじゃ。わらわは子供に手を出す趣味はない・・・。おい、離してやれ。アレーレ』
だが、ファトラはそこに現れた少女の未だ若草も生えぬ秘所を見るなり溜息をつき、少女にパンティーを履かせてあげて更に深い溜息をついた」
するとレイは何を思ったのか、いきなり黒いカーバーの文庫本『少女個人教授』をちっとも感情のこもらない声で朗読し始めた。
パタンッ!!
「そう、そうなのね・・・。だから、碇君は・・・・・・。」
数行ほど読んで勢い良く本を閉じ、レイが視線を真下に下げて何かを納得した次の瞬間。
プルルルル・・・。ピッ!!
「・・・はい」
『レイ、どうだった?』
壁にかけられた制服のスカートの中で携帯電話が鳴り、レイが電話に出ると、リツコの声が返ってきた。
「赤木博士・・・。」
『なに?』
レイは幾つもの博士号を持っているリツコならばと思い、たった今出来たばかりの悩みをリツコへ相談してみる。
「どうしたら、生えてくるんでしょうか?」
『・・・はっ?』
だが、主語の抜けたレイの質問はかなり意味不明であり、受話器から返ってきたのはリツコの間抜け声だった。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
ガッコーーーン・・・。
「そう言えば、今日はこれから再起動の実験だよね?今度は上手くいくと良いね」
ネルフ名物の長い長い下りエスカレーターに乗り、シンジは1段前に立つレイへ何度も話しかけてみるが、レイからは返事も反応も全くない。
(いつか、生えてくるって・・・。いつ?)
何故ならば、レイは綾波邸を出て以来、一応リツコから出された悩みの解答を更に悩んで忙しく、世間話をする余裕などないからである。
ちなみに、レイの悩みが何なのかは全くの謎だが、シンジとの会話の受け答えも出来ないほどの深刻な悩みらしい。
「ねえ、綾波は怖くないの?また、あの零号機に乗るのが?」
(いつかではダメなの・・・。今すぐ、碇君と1つになりたいの・・・。心も体も1つになりたいの・・・・・・。)
それでも、シンジは諦めずにあの手この手でレイの気を引こうとするが、やはりレイからは返事も反応もなく、肩を竦めてお手上げ。
(しょうがないなぁぁ〜〜〜・・・。ここは1つ、僕が緊張をほぐしてあげよう)
シンジは深い溜息をついた後、辺りをキョロキョロと見渡して誰も居ないのを確認すると、上半身を屈めてレイの耳元へ顔を寄せる。
「あ・や・な・み」
「ひゃうっ!?」
そして、シンジはレイの耳へ熱い吐息をフ〜〜ッと吹きかけ、さすがのレイもこれには体をビクッと震わせ、驚き振り返った次の瞬間。
「再起動実験、上手くいくと良いね」
「っ!?」
シンジは振り向いたレイの顔へ右手を回して固定すると、おもむろにレイの唇へ唇を重ね、完全に不意を突かれたレイが驚きに目を見開く。
しかも、それはレイが今までシンジと何度かした事のある唇を重ねるだけの物とは違い、シンジとの初対面時に味わったシンジ本気モードのキス。
「んんんっ!!」
ジタバタッ!!
「んんんっ!!」
ジタバタッ!!
「んんんっ!!」
ジタバタッ!!
だが、初対面時に深手を負っていて意識が朦朧としていたレイにその記憶はなく、レイは口内で暴れ狂う獣に驚愕してシンジから離れようとする。
「んんん〜〜っ!!」
ジタバタジタバタッ!!
「んんん〜〜っ!!」
ジタバタジタバタッ!!
「んんん〜〜っ!!」
ジタバタジタバタッ!!
するとシンジはレイをエスカレータの手摺り部分へ押し付け、退路を塞がれたレイがより一層に全身を激しく藻掻かせるも束の間。
「んんん〜〜っ!!」
ジタバタジタバタッ!!
「んんん・・・・。」
ジタ、バタ、ジタ、バタ。
「んっ・んんっ・。」
ジタ・・・。バタ・・・。
シンジがレイの両足の間に足を入れて更に拘束し、左手でレイの胸を揉みし抱き始めると、レイはたちまち静かになってシンジへ身を任せ始めた。
「ふっ・・・。問題ない。あれは風邪をひいていた為の幻聴だ」
時を少し遡り、本日は風邪を理由に重役出勤してきたゲンドウ。
もっとも、ゲンドウは実際に重役どころかネルフで1番偉く、文句を言われるとしても冬月にだけなので問題なし。
「あれは電波が混線していたに違いない・・・。うむ、ここは地下だからな。そう言う事もあるだろう」
昨日レイへお見舞いを頼もうとした時の通話内容について、ゲンドウはサングラスを押し上げ、何かの間違いだと自己暗示をかける。
「そうだ・・・。私のレイに限って、そんな事があるはずはない」
そして、ゲンドウがネルフ名物の長い長い下りエスカレーターに乗ろうとしたその時。
「・・・って、なにぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜〜っ!!」
ほんの数十メートル先で今正にシンジがゲンドウのレイへキスするシーンが繰り広げられ、ゲンドウは驚愕に目を見開いて絶叫をあげた。
「シンジ、貴様っ!!レイに何をやっているっ!!!」
ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダンッ!!
すぐさまゲンドウは憤怒の表情でエスカレーターを1段飛ばしで駈け下り、シンジの暴挙を止めるべくレイの元へ駈け急ぐ。
「聞こえないのかっ!!今すぐ、レイから離れろっ!!!シンジっ!!!!」
ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダッ、ダッ、ダッ、ダッ、ダッ!!
その憤りに呼応してレイがシンジから離れようと藻掻き始め、ゲンドウはレイが自分へ助けを呼んでいると確信して更に2段飛ばしで駈け下りる。
「レイ、待っていろっ!!今、助けに行くっ!!!」
ダッ、ダッ、ダッ、ダッ、ダッ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダッ!!
だが、シンジはそんなゲンドウをあざ笑うかの様にレイの胸を揉みし抱き始め、怒髪天になったゲンドウが更に3段飛ばしを決行した次の瞬間。
「シンジ、お前も首を洗って待って・・・ろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
ドタッ!!・・・ドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタっ!!!
ゲンドウは階段を踏み外してしまい、駈け下りていた勢いそのままにネルフ名物の長い長い下りエスカレーターを転げ落ちて行く。
ちなみに、どれくらい長いエスカレーターなのかと言うと、ネルフ施設を貫通している為に始点から終点まで約300メートルほどの長さがある。
「んっんっ・・・。んっんっんっ・・・。んっ・・・。」
ドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタっ!!
もちろん、それはキスをしているシンジとレイの横を通り過ぎて行くが、キスに夢中のレイにそんな事を気付く余裕はない。
一方、シンジはそれに気付いていたが、転げ落ちて行くゲンドウを止める気などさらさらなく、それどころかニヤリ笑いで見送っていた。
ドタドタドタドタドタッ!!ドッシィィーーーンッ!!!
「んっんっ・・・。ほふぅぅ〜〜〜・・・・・・。」
終点へ辿り着き、ゲンドウの長い長い旅が終わると同時に、シンジとレイの長い長いキスも終わりを遂げる。
「おっとっ!!・・・危ない、危ない」
「い、碇君・・・。」
「実験が成功する様におまじないのキスだよ。上手くいったら続きをしよう」
膝に力が入らないのか、その場へ崩れ落ちてゲンドウの二の舞になりそうなレイを慌てて抱き留め、シンジはレイの耳元で甘く囁く。
「・・・つ、続き?」
「もっと凄い事さ・・・。」
切な気にウルウルと潤む瞳を向けるレイにもう1度だけ軽いキスを交わし、シンジはレイを優しく抱擁する。
「シ、シンジ・・・。ゆ、許さんぞ・・・。お、覚えていろ・・・・・・。」
バタッ・・・。
その頃、エスカレーター終点でゲンドウは頭から血をダラダラと流しながらも果敢に立ち上がるが、死神とのキスと抱擁を受けて床に沈黙した。
「ふぅぅ〜〜〜・・・。」
シンジとの夢の一時も終わり、起動実験に備えてプラグスーツに着替えたレイは、実験場への途中にある休憩所のベンチで物思いに耽っていた。
「おや、レイ。もうすぐ実験が始まるぞ?」
「・・・副司令」
そこへ同じく起動実験の監督の為に通りがかった冬月が、レイの姿を見つけて歩を止め、レイが冬月の呼び声に少し送れて冬月へ顔を向ける。
「(ほう、さすがのレイも緊張するか・・・。無理もない。あと事故の後ではな)
どれ、私では相談相手にならんかも知れんが、人に話す事で気持ちが楽になる事もある。良かったら、何を悩んでいるのか話してみなさい」
その見た事もない悩まし気なレイの表情に軽い驚きを覚えつつ、元大学教授の冬月は昔取った杵柄で生徒を諭す様に優しく問いかけた。
「はい・・・。あの・・・・・・。」
「んっ!?何だね?」
レイは俯いて何やら言い辛そうにモゴモゴと口ごもり、冬月は年頃の女の子らしいレイの仕草を微笑ましく思いながらレイに言葉を促す。
「どうしたら、毛は生えてくるんでしょうか?」
「な、なにっ!?」
だが、レイの口を飛び出てきた思いも寄らぬ質問に、冬月はビックリ仰天してこれ以上ないくらいに目を最大に見開いた。
「どうしたら、毛は生えてくるんでしょうか?」
「う、うむ・・・。じ、実に難しい質問だな・・・・・・。(知るかぁぁ〜〜〜っ!!よっぽど、私の方が知りたいわぁぁぁ〜〜〜〜っ!!!)」
レイは聞こえなかったのかと思って同じ言葉を繰り返し、冬月は表面上は冷静を装いつつ、レイを横目に入れながら顎を手でさすって考え込む。
(・・・って、はっ!?ま、まさか・・・。あ、あの手紙は葛城三佐ではなく・・・。じ、実はレイがっ!?)
その途端、脳裏にある可能性が浮かび、冬月は『お前の秘密を知っている』と書かれた紙をしまってある懐を押さえ、汗をダラダラと流し始めた。
(いや、あり得んっ!!そんな事をして、レイに何のメリットがあるっ!!!そうだ、何事にも無頓着なレイのはずがないっ!!!!
ならば、何故っ!?何故、レイが知っているっ!!?変じゃないかっ!!!?
・・・そうかっ!?葛城三佐がレイを使って私に揺さぶりをかけているのだなっ!!!
これ以上、私にどうしろと言うのだっ!!何が欲しいと言うのだっ!!!!
金かっ!?地位かっ!!?勲章かっ!!!?休暇かっ!!!!?賞与かっ!!!!!?何が不満だと言うのだぁぁぁ〜〜〜〜っ!!!!!!!)
しかし、すぐさま冬月は猛烈に首を左右に振ってその考えを振り払い、被害妄想を膨らませて抱えた頭を苦悩にガリガリと掻きむしりまくり。
「副司令・・・。副司令・・・。副司令・・・。副司令・・・。副司令・・・。」
レイは相談したのは自分なのに目の前で苦悩し始めた冬月を怪訝に思い、冬月の制服の袖をクイクイッと引っ張って冬月を呼ぶ。
「んっ!?あ、ああ・・・。そ、そうだったな。ま、まあ、レイは女性だから大丈夫だろう」
「・・・・・・?」
我に帰った冬月はレイの頭を見て溜息混じりに解答するが、レイは解答より何故冬月は頭に手を置いたままなのだろうと首を不思議そうに傾げた。
『零号機起動実験まで、あと15分。関係各員は所定の位置へ速やかに着いて下さい。・・・繰り返します。零号機起動実験まで・・・。』
「さあ、呼んでいるぞ。早く行きなさい」
「はい・・・。」
すると2人を呼ぶアナウンスが通路に響き、冬月はレイへ早く実験場へ行く事を促し、レイは冬月の言葉に従って立ち上がり実験場へ向かう。
「のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
「・・・・・・?」
一拍の間の後、休憩所近くにあった男子トイレより冬月の絶叫が通路に響き渡り、レイは振り返って再び首を不思議そうに傾げた。
(ふっ・・・。問題ない。あれは疲れからくる幻覚だ)
重苦しい雰囲気とピリピリとした緊張感が漂う零号機起動実験前の実験管制室。
(最近、ろくに寝とらんからな・・・。それに風邪もまだ完全に治ってはいない)
その雰囲気と緊張感の発生源は、零号機を一望できる実験管制室の窓際に立つ頭を包帯でグルグル巻きにした怪奇サングラス・ミイラ男。
(そうだ・・・。私のレイに限って、そんな事があるはずはない)
先ほどエスカレーターで見た光景について、ゲンドウはサングラスを押し上げ、何かの間違いだと自己暗示をかける。
「そうだな?レイ」
そして、ゲンドウは自己暗示を完成するべく、サングラスの奧の瞳に切なる願いを込め、モニターに映るエントリープラグ内のレイへ問いかけた。
『・・・はい』
「これより、零号機の再起動実験を行う。第一次接続開始」
レイは意味不明な問いかけに首を傾げつつも取りあえず返事を返し、ゲンドウはレイの応えを満足そうに頷く。
「主電源コンタクト」
「了解・・・。稼働電圧臨界点を突破」
それを合図に実験責任者のリツコが指示を出し、マヤがキーボードを叩いて実験場に拘束されている零号機へエネルギーを送った。
「フォーマット、フェイズ2へ移行」
「パイロット、零号機と接続開始」
「回線開きます」
「パルス及び、ハーモニクス正常」
するとエントリープラグ内壁が七色に輝き、技術部員達からの報告が矢次になされると共に、内壁の輝きが止んでレイの目の前に視界が広がる。
「シンクロ、問題なし」
「オールナード・リンク終了」
「中枢神経素子に異常なし」
「再計算、誤差修正なし」
しかし、レイは外の景色などは見ずに先ほどから顔を俯かせ、プラグスーツに包まれた己の股間辺りをジッと凝視していた。
「チェック、2590までリストクリア。
絶対境界線まで、あと2.5・・・。1.7・・・。1.2・・・。1.0・・・。」
再び管制システムがマヤの元へ戻り、マヤのディスプレイにレイと零号機の神経接続を示すモニターが次々と赤から緑へと変わってゆく。
「0.8・・・。0.6・・・。0.5・・・。0.4・・・。0.3・・・。0.2・・・。0.1・・・。」
マヤがカウントダウンを進める毎に実験管制室の緊張感が高まってゆき、いよいよカウントダウンが暴走か起動かの境目に到達した次の瞬間。
ピィィーーーッ!!
「・・・突破っ!!ボーダーラインクリア、零号機起動しました」
実験管制室に甲高い電子音が響いて、マヤの起動成功の報告の声があがり、誰もが安堵の溜息を漏らして実験管制室の緊張感が一気に緩む。
ギュイン・・・。
「レイ、どうしたの?何か違和感でもあるのかしら?」
同時に零号機の単眼に光が灯り、レイをシンクロする様に零号機が顔を俯かせ、レイの様子を不思議に思ったリツコがレイへ通信を入れた。
『赤木博士・・・。』
「なに?」
応えてレイは幾つもの博士号を持っているリツコならばと思い、シンジと別れて以来ずっと考え込んでいる悩みをリツコへ相談してみる。
『もっと凄い事とは何でしょう?』
「・・・はっ?」
だが、具体性の欠けたレイの質問はかなり意味不明であり、リツコを含めて実験管制室にいる全ての者の時が約10秒ほど止まった。
ファァ〜〜〜ン・・・。
ファァ〜〜〜ン・・・。
ファァ〜〜〜ン・・・。
ファァ〜〜〜ン・・・。
ファァ〜〜〜ン・・・。
ファァ〜〜〜ン・・・。
潜水艦のソーナー音の様な音波を発しながら、太平洋上を悠然と浮遊して行く巨大な正八面体の青いクリスタル。
一路、第三新東京市を目指している謎の物体の正体、それは第五使徒『ラミエル』である。
ファァ〜〜〜ン・・・。
ファァ〜〜〜ン・・・。
ファァ〜〜〜ン・・・。
ファァ〜〜〜ン・・・。
ファァ〜〜〜ン・・・。
ファァ〜〜〜ン・・・。
「・・・来たか」
人工物とは思えないほどの広大な空間、ズボンのポケットに両手を入れて佇む黒い影は、遥か上の先が見えない天井を見上げて静かに呟いた。
また、影の目の前には、七つ目の紋章が刻まれたマスクを被る下半身のない白い巨人が十字架に磔られている。
「綾波とデキなかった分の借りは利子を付けて返させて貰うよ?」
レイとの関わりを持っているらしい影は邪悪そうにニヤリと笑って、ドス黒い憎しみを言葉に乗せて何者かへ訴えた。
「それじゃあ、時間もない事だし・・・。」
一拍の間の後、影が顔を少し下ろし、白い巨人と目を合わせた次の瞬間。
「さっさと済ませますか」
タッ!!
影は白い巨人を目がけてズボンのポケットに両手を入れたまま助走もなく踏み切り、人間技とは思えない数十メートル級の大跳躍。
「それは綾波の物だからね。しばらく、僕が預かっておくよ」
ブシュッ!!
そして、白い巨人の胸の位置まで飛ぶと、影はポケットから右手を出し、勢い良く白い巨人の胸元へ右腕を肘まで突き刺した。
ブクブクブクブクブクッ!!
「フフ、抵抗しても無駄さ・・・。綾波とならともかく、君だけでは役不足だ」
その途端、白い巨人より接触する右腕へ植物の葉脈の様な模様が広がり始めるが、影の髪が銀髪に変わると共にその葉脈が一瞬で消え去る。
「その代わり・・・。くうっ!!」
ザクッ!!
「約束の時まで僕の半身を君に貸してあげよう。今、君がここで死んでしまうのは得策ではないからね」
ブシュッ!!!
すると影は何を思ったのか、空いている左手でいきなり自分の右目をえぐり取り、勢い良く白い巨人の胸元へ左腕を肘まで突き刺した。
「目標は遠野沢上空を通過」
青葉の報告と共に、使徒の姿が発令所巨大モニターに映されると、発令所にどよめきがわいた。
「この前のも、かなり常識外れだったけど・・・。
さすがにこんな形だと、どんな攻撃をしてくるのかが健闘もつかないわね。・・・初号機は?」
ミサトは正八面体の姿の使徒に驚きを通り越して呆れ、腕を組んで使徒への攻撃手段を考え込み、その攻撃手段の要の準備状況の報告を求める。
「あと180秒で準備が出来ますが、パイロットの到着にしばらくかかりそうです」
「そう・・・。なら、ちょっち小手調べをしてみようかしら」
日向は振り返って報告の声をあげ、ミサトは組んでいた右腕だけを外して、右手を顎へ置いて頷いた。
「葛城さん、零号機は使わないんですか?」
「ええ、碇司令の指示なのよ・・・。(なぁ〜〜にが実戦にはまだ耐えんよっ!!素人のシンジ君には乗せて戦わせたくせにっ!!!)」
すると日向が起動実験は成功しているのに零号機を使わない事を不思議そうに尋ね、ミサトは応えて司令席を見上げながら心の中で毒づく。
「目標は芦ノ湖上空に侵入」
そうこうしている内に、いよいよ使徒は第三新東京市間近へと迫り、青葉の報告に緊張感が発令所に漂い始める。
「日向君、目標が兵装ビルの射程に入ると同時に攻撃」
「了解」
ミサトは表情をキリリと引き締めて再び腕を組み、日向がミサトの指示を受け、キーボードを叩いて兵装ビルのミサイル射出口を開けた次の瞬間。
「目標内部に高エネルギー反応っ!!円周部を加速、収束してゆきますっ!!!」
キュインッ!!
使徒の正八面体中央ラインにある黒い溝が光輝き始め、青葉が報告を叫ぶと同時に光が兵装ビルの方向へ集まって青白い光線が放たれた。
チュドドドドドォォォォォーーーーーーンッ!!
狙われた兵装ビルは瞬時に爆発炎上し、更に兵装ビルを貫通した青白い光線が、その背後にあった兵装ビルをも次々と爆発させてゆく。
ブーーーーーッ!!
ブーーーーーッ!!
ブーーーーーッ!!
ブーーーーーッ!!
ブーーーーーッ!!
ブーーーーーッ!!
その結果、第三新東京市の兵装ビル群の中に1本の道ができ、使徒は悠然とその道を通って第三新東京市へ侵入。
ブーーーーーッ!!
ブーーーーーッ!!
ブーーーーーッ!!
ブーーーーーッ!!
ブーーーーーッ!!
ブーーーーーッ!!
発令所の面々はその圧倒的な火力に思わず茫然としてしまい、発令所がシーンと静まり返って警報だけが響き渡る。
「変ね・・・。あれほどの攻撃力を持っていながら、どうして連射しないのかしら?それに兵装ビルは周りにもあるはずよ?」
「そうね。・・・でも、あれが加粒子砲となると相当のエネルギーが必要になるはず。なら・・・。」
「しないのではなく、出来ない?」
「ええ、その可能性が高いわね」
だが、ミサトとリツコはそれっきり攻撃をしてこない使徒に疑問を抱き、言葉を交わして使徒へ対する攻撃手段の活路を見出していた。
「日向君、目標の左右から同時に攻撃をしてみて」
「なるほどっ!!了解っ!!!」
ミサトは瞬時に次なる一手を考えて出して指示を与え、日向はさすが葛城さんと感心してキーボードを叩く。
「目標に高エネルギー反応っ!!」
「どっちっ!!」
「2時の方向ですっ!!」
すぐさま使徒は兵装ビルに対して反応を示し、ミサトが青葉からあがった報告に詳細を求めると、青葉はミサトの予想通りの報告を返した。
キュインッ!!チュドドドドドォォォォォーーーーーーンッ!!
まず使徒は右側の兵装ビルへ攻撃するが、左側から雨霰の如く振ってくる弾幕に耐えかね、先ほどより短い時間で青白い光線の放出を中断。
ドカドカドカドカドカァァァァァーーーーーーンッ!!カキィィーーーンッ!!!
続いて、使徒は左側面に巨大なオレンジ色の八角形の光の壁を輝かせ、弾幕がATフィールドに弾かれて次々と虚しく白煙を上げる。
「おっけぇ〜〜♪」
パッチンッ!!
「どうやら、同時に攻撃と防御を行う事が出来ない様ね」
予想を上回る戦果に、ミサトは喜びあらわに指パッチンを鳴らし、リツコは満足そうに力強く頷いた。
「日向君、目標が攻撃を始めてから、背後にATフィールドを展開するまでのタイムラグは?」
「10.24秒。約10秒と言ったところです」
「10秒の勝負か・・・。キツいわね。青葉君、ATフォールドの強度は?」
「相転移空間を肉眼で確認する事が出来るほどの強力な物が展開されています。推定では第3使徒の約8倍はあります」
「ますますキツいわね・・・。だけど、あの様子だと生半可な攻撃では泣きを見るだけね」
しかし、尋ねて返ってきた日向の報告に苦渋を表情に満ちさせ、ミサトは更なる希望に縋ってみるが、青葉の報告を聞いて更に表情を渋くさせる。
何故ならば、10秒弱とは言え、使徒に対してかなりの弾幕を降らせたのにも関わらず、使徒のクリスタル表面には傷1つすら付いていない。
「・・・どうするの?」
「どうするのって・・・。やるしかないっしょ?」
「サードチルドレン、到着しました」
リツコに挑戦的な視線を向けられ、ミサトが不敵に笑ってみせると、マヤから真打ち登場の報告が入った。
『シンジ君、作戦を伝えるわ。
まず、こちらで目標の攻撃を惹き付けます。初号機はその0.5秒後にリフトオフ。
同時にATフィールドを展開して目標へ突撃、8秒戦ってダメと解ったらすぐに引き返しなさい。・・・良い、解ったわね?』
初号機が射出口へ移動する道中、発令所のミサトよりエントリープラグ内のシンジへ作戦内容が伝えられていた。
「ミサトさんもなかなか無茶な注文をしてくれますね」
『無茶は承知よ。でも、シンジ君こそ無茶して8秒以上は戦わない様にね』
「解りました。でも、引き返した後はどうするんですか?」
『その時は、その時よ。また、新しい作戦を考えるわ』
「相変わらず、アバウトですねぇ〜〜」
『臨機応変、柔軟な戦術と言って欲しいわね』
シンジはあまりに無茶な作戦に肩を竦めて苦笑し、ミサトは緊張感がありながら気負い過ぎていないシンジの様子に表情を緩ます。
「あと、この武器を使うのは初めてなんですけど?」
『シンジ君・・・。今のあなたに良い言葉を教えてあげるわ』
「何ですか?」
だが、初号機の右手に持たされた刀の武器を不安そう見つめるシンジに、ミサトは表情を引き締め、シンジも表情を引き締めた次の瞬間。
ちなみに、この刀の武器は『マゴロク・エクスターミネート・ソード(以降、MEソード)』と呼ばれる日本刀を模してエヴァサイズにした代物。
その刃には高振動粒子発生装置が取り付けられており、刃との接触面を物質分子レベルで分解切断させる事が出来る。
『習うより、慣れろっ!!』
「あのねぇぇ〜〜〜・・・。」
ミサトはシンジをビシッと指さして更に無茶な注文を出し、シンジは真剣に聞こうとした自分が馬鹿でしたと言わんばかりに深い溜息をついた。
無論、シンジはこの武器を過去に何度も使った事があるのだが、怪しまれない様にあくまで初めて使うフリをしているのである。
『大丈夫。シンジ君なら、出来るわ』
「僕なら、出来る・・・か・・・。
それって、最高の誉め殺しですね・・・。ま、やってみせましょう。ミサトさんのお願いですからね」
するとミサトは表情を再び緩めてニッコリと笑い、シンジは苦笑した後、ミサトへ極上の笑みでニッコリと微笑み返した。
『ええ、お願いするわ』
「はい、お任せ下さい」
ミサトはシンジの微笑みに応えて頷き、シンジは右腕を胸の前で折って恭しく芝居がかった仕草でミサトへ頭を下げて礼をする。
(・・・と言ってはみたもの。相手はあのラミエル・・・。そう簡単にはいかないだろうね。
それにしても、やっぱり父さんは零号機を使わないのか・・・。痛いのはあんまり好きじゃないんだけど、仕方がないな・・・・・・。)
しかし、ミサトへ言った言葉とは裏腹に、シンジは礼で隠した目つきを鋭くさせて眉間に皺を刻み、ミサトの作戦とは別の作戦を考えていた。
「エヴァ初号機、発進準備良し」
「発進っ!!」
日向より全ての舞台が整ったとの報告が入り、ミサトが号令を発すると共に、初号機が凄まじいスピードで射出口固定台ごと打ち上げられた。
「初号機、062ラインを通過っ!!」
一拍の間の後、マヤから初号機があと1秒で地上に到達すると言う意味の報告があがる。
「日向君っ!!」
「了解っ!!」
すぐさまミサトは次なる指示を出し、人差し指をボタンへ置いて待っていた日向が、ミサトのお許しに人差し指へ力を込める。
シャコンッ!!シャコ、シャコ、シャコ、シャコ、シャコ、シャコ、シャコ、シャコ、シャコ、シャコンッ!!!
同時に初号機射出位置とは正反対の位置にある兵装ビル群の砲門が一斉に開き、使徒の正八面体中央ラインにある黒い溝が光輝き始めた。
「目標に高エネルギー反応っ!!」
「待ってましたっ!!」
予想通りの報告が青葉からあがり、ミサトが勝利を確信するのも束の間。
「いえ、これは・・・。目標、両端にですっ!!初号機を狙っていますっ!!!」
「なんですってっ!!初号機を下げてっ!!!」
予想外の信じられない報告を青葉が振り返り叫び、ミサトは驚愕に目を見開きながら即座にマヤへ指示を出す。
「間に合いませんっ!!初号機、地上に到達しますっ!!!」
「ダメっ!!シンジ君、避けてっ!!!」
だが、放たれた矢は既に戻らず、マヤが悲痛な叫び声をあげ、慌ててミサトは日向のコンソールからマイクを奪ってシンジへ呼びかけた次の瞬間。
キュインッ!!キュインッ!!!チュドドドドドォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーンッ!!!!
使徒が前後に青白い光線を放ち、片方が兵装ビル群へ、片方が地上へ射出されたばかりの初号機へと向かう。
「ふっ・・・。」
絶望の光景に発令所の時が刹那だけ止まる中、司令席のゲンドウはゲンドウポーズで隠した口元をざまあ見ろと言わんばかりにニヤリと歪ませた。
− 次回予告 −
この世が闇に閉ざされる時、雷光が閃き、堕天使は舞い降りる。
君が望むのなら、僕は喜んで君にあげよう。この命を・・・。
だから、泣かないで・・・。泣かないで、綾波・・・。
そう、笑って・・・。君にはいつも笑っていて欲しいんだ。
う〜〜〜〜〜ん・・・。僕って詩人だね。
Next Lesson
「決
戦、第三新東京市」
さぁ〜〜て、今度こそ綾波で大サービスっ!!
注意:この予告と実際のお話と内容が違う場合があります。
後書き
今回、書いていてふと思ったのですが・・・。
レイと冬月だけのシーンってかなりレアだと思いません?
まあ、元々接点がある様で全くない2人ですから当然と言えば当然なんですけど(^^;)
それにしても、冬月が意外なくらい活躍しているなぁ〜〜(笑)
当初の予定ではここまでなるとは思ってもみませんでした(爆)
で、次回ですが、やはりMENTHOLと言えども第6話は難しいですね。
だから、ほぼ原作の第6話と同じになる結果、MENTOHLでは珍しいシリアスな展開になると思います。
感想はこちらAnneまで、、、。
<Back>
<Menu>
<Next>