− 時に、西暦2015年 −


♪〜♪〜〜〜♪♪〜〜〜♪♪・・・。
「本日はJR東日本をご利用して頂き、まことにありがとうございました。間もなく終点、第三新東京市です」
第二東京・松代出発の特急リニアの車内に軽やかなメローディとアナウンスが流れ、この旅の終着点を知らす。
「Ladise and Gentleman・・・・・・。」
続いて世界標準語の英語でアナウンスが流れ、ちょっと気の早い者達が座席を立って網棚から荷物を下ろし始め、車内がざわめき始める。
ザワザワザワザワ・・・。
そんな利用客がまばらなで出張のサラリーマン以外いない平日の特急リニア車中、Yシャツに制服ズボンと異彩を放っている男の子が1人いた。
ザワザワザワザワ・・・。
彼の名は『碇シンジ』、中性的な顔を持ち美少年に片足を突っ込んだくらいの可愛い短髪の少年。
ザワザワザワザワ・・・。
昨日はこの旅に緊張して眠れなかったのか、シンジは窓側の席に座り、このざわめきの中で窓辺に頬杖をついてうたた寝をしていた。
ザワザワザワザワ・・・。
通路を挟んで向かい側の座席で新聞を読んでいるサラリーマン風の男が新聞を少し下ろし、そのほほえましい光景に頬を緩ましたその時。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
突然、シンジが目をクワッと見開いて勢い良く立ち上がり、車内に響き渡る絶叫を通り越した獣の様な咆哮をあげた。


タッタッタッタッタッ!!
地下駐車場を疾走する1つの影。
ガチャっ!!バタンっ!!!ブルルッ!!!!
赤いジャケットに黒のタイトミニを着たロングヘアーの女性は己の愛車に勢い良く乗り込むなり、急いで鍵を回してエンジンを噴かす。
キキキキキッ!!
女性は助手席背部に腕を回して車後方を振り向き、凄まじいスピードでバックターンを決め、スリップ音を響かせて駐車ラインから出る。
ガチャガチャガチャッ!!
更には素早いシフトチャンジで、バックからニュートラルを通して2速を持ってゆき、クラッチを繋いだままアクセルをベタ踏み。
「まずいっ!!まずいっ!!!すっかり待ち合わせの時間を忘れていたわっ!!!!」
キュルキュルキュルキュルッ!!
助手席に置いたファイルをチラリと一瞥して、女性はすぐに車のエンジンメーターに視線を移す。
女性が一瞥したファイルには、シンジの写真がクリップで挟まれ、まるで履歴書の様にシンジのデーターが記載されていた。
「お願いだから待っててねっ!!シンジ君っ!!!」
ブォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!
女性の左足が解除された途端、彼女『葛城ミサト』の青い愛車『アルピーヌ・ルノーA310』は咆哮をあげて地下駐車場を去って行った。


「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
既に数十秒も咆哮をあげ、凄まじく只ならぬ雰囲気を放つシンジに、同車両の誰もが動きを止めてシンジを注目していた。
「ぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜っ!!はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。」
更に1分弱が経過した頃、ようやくシンジは咆哮を止め、前座敷に腕を付いて前屈みになり、玉の様な汗をダラダラと流して荒い息をつく。
「はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。」
乗客の誰もが固まり、運転音が静かなリニア車両にシンジの荒い息づかいだけが聞こえてくる。
カランッ!!コロコロコロコロ・・・。
更に1分弱が経過して乗客の1人が緊張に耐えられなくなり、力が緩んで持っていた空の缶コーヒーを落とし、缶が車内の通路に転がって行った。
「はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。んっ!!」
「「「「「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」」」」」
丁度、シンジのいる座席まで缶は転がり、シンジが姿勢を正した瞬間、車内に凄まじい閃光が放たれ、一瞬の眩い光に乗客全員が目を塞ぐ。
バサッ!!
次の瞬間、光が止むと同時に、通路向かいの男は新聞をシンジに奪われ、光が焼き付いた目を擦りながらシンジを茫然と見つめる。
「・・・・・・4月19日。間違いない・・・・・・。僕はまた・・・・・・・・・。」
一方、すぐさまシンジは新聞に書かれた日付だけを凝視して、ちょっとした驚きに目を見開いて新聞を下ろした。
「あっ・・・。いつも済みません。はい、これ・・・・・・。」
そして、男の茫然と向けている視線に気づき、シンジは全く見ず知らずの初対面の男へ何度も会っている様な不思議な言葉と共に新聞を返す。
「あ、ああ・・・。だ、大丈夫かね?」
「はい、お騒がせして済みませんでした」
その言葉に気づかない男が先ほどの咆哮について気遣い声をかけると、シンジは男にニッコリと微笑んで何事もなかった様に自分の席へ戻った。
「母さん、ありがとう・・・。だから、今度こそは母さんを・・・・・・。」
立ち上がった際に耳から外してしまったS−DATのイアホンを付け、シンジは遠い目で車窓に見えてきた第三新東京市に視線を向けた後。
「フッフッフッフッフッ・・・・・・。」
車内に不気味で異様に怪しい含み笑いを響かせ、乗客達は車内を襲うセカンド・インパクトに再び茫然と固まった。




真世紀エヴァンゲリオン

Lesson:1 使徒襲来




『正体不明の移動物体は依然本所に向かって進行中』
『目標を映像で確認、主モニターに回します』
忙しなくアナウンスが飛び交う何処かの作戦本部。
「・・・15年ぶりだね」
中央にある巨大モニターに映る巨人を見て、初老の男が万感の思いを込めて呟く。
「ああ、間違いない・・・。使徒だ」
それに応え、横に立つ赤いサングラスをした顎髭面の男がニヤリと笑って告げた。


ヒュゥゥ〜〜〜ン・・・。ドガドガァァーーーンッ!!
国連軍の戦闘機が最新鋭の粋を極めた誘導兵器を放つも、10階建てより大きな首なしの黒タイツを着込んだ様な巨人に傷1つ与えられない。
チュドォォーーーンッ!!
また1機、また1機と撃墜されてゆく爆発の余波を受け、巨人近くの駅に緊急停車した電車が横風に吹かれて横転して爆炎を上げる。
シャキィィーーーンッ!!ドガァァァーーーーンっ!!!
巨人は悠然と歩を進め、右腕から光の槍の様な物を伸ばし、戦闘機はあっさりと槍に貫かれて爆発。
チュドォォーーーンッ!!
「のわっ!?」
キキキキキキキキキキィィーーーッ!!
墜落してきた戦闘機を避け、ミサトの愛車が新箱根湯本駅前にタイヤの焦げ臭い匂いを巻き起こしてスリップターンして止まる。
ガチャッ!!
「・・・ったくっ!!本当に居るんでしょうねっ!!!これで居なかったら、あとで保安部に殴り込みよっ!!!!」
車から出るとドアも閉めずに、ミサトは頭を抱えて前傾姿勢になりながら駅へ駈け込んで行く。
「シンジ君っ!!碇シンジ君っ!!!居るなら返事をしなさい・・・って、嘘っ!!!?」
駅に入るなり掌をメガホンにして叫び、恐怖に震え上がって動けないでいると思われるシンジを見つけ、ミサトはビックリ仰天。
「うぅ〜〜ん、マナぁぁ〜〜〜・・・。」
これほど外で騒がしく大激戦を繰り広げている中、なんとシンジは手荷物のバックを枕代わりに駅のベンチで幸せそうにお昼寝をしていた。
「じょ、常識を疑うわね・・・。」
ガガガガガガガガガガッ!!
「・・・って、こうしちゃいられないんだわっ!!」
刹那、茫然と大粒の汗をタラ〜リと流してしまうが、外から聞こえてきたバルカン砲の暴れ狂う音に、ミサトは我に帰ってシンジの元へ駈け寄る。
「シンジ君、起きなさいっ!!シンジ君っ!!!シンジ君っ!!!!」
「ん〜〜〜・・・。もう朝御飯が出来たの?山岸さん・・・・・・。」
ミサトがシンジの肩を掴んでガクガクと揺するも、シンジは寝ぼけ眼で半目を開けて未だ夢心地。
「ええいっ!!起きろぉぉ〜〜〜っ!!!」
パン、パンッ!!パン、パンッ!!!パン、パンッ!!!!
「・・・ほへ?」
業を煮やしたミサトはシンジに往復ビンタ3連発をかまし、ようやくシンジがちょっぴり寝ぼけ眼ながら覚醒する。
「ほらっ!!早く行くわよっ!!!」
「わっ!?ちょっと待って下さいよっ!!!」
更にミサトは返事を待たずにシンジのバックを持つと、シンジの右腕を強引に引っ張って駅を駈け出て行く。
チュドドドドドォォォォォォーーーーーーーンッ!!
「キャァァ〜〜〜ッ!!」
2人が駅を出た途端、すぐ近くに墜落してきた戦闘機が爆発して爆風を巻き起こし、ミサトはシンジの腕を離して吹き飛んでしまう。
ドドォォォォォーーーーーーンッ!!
しかし、何故かシンジだけは爆風の中でズボンのポケットに手を入れて平然と立ち、ある一点をただただ見つめている。
「・・・綾波、ありがとう。今度も・・・・・・。」
その視線の彼方の先の道路上には陽炎が揺らめき立ち、何処かの学校の女子制服を着た少女が立っていた。
ドドォォォォォーーーーーーン・・・。
「フッフッフッフッフッ・・・・・・。」
「あ痛たたたたた・・・・・。シ、シンジ君、大丈夫?」
爆風が止んでミサトは立ち上がり、元のいた位置で怪しい含み笑いをあげているシンジに、転んで何処か打ち所が悪かったのかとちょっぴり心配。
「ええ、平気です」
「(う゛・・・。か、可愛い・・・・・・。)そ、そうっ!!じゃ、じゃあ、早く車に乗ってっ!!!」
だが、話かけられて振り向いたシンジのニッコリ笑顔に、ミサトは胸をキューンと高鳴らせつつ、即座に自分の使命を思い出して先を急いだ。


「副司令、また反応がありました。パターン青、間違い有りません」
オペレーター席のロン毛の青年『青葉シゲル』が振り返り、背後でモニターを見つめている初老の男『冬月コウゾウ』に報告する。
「それで場所はっ!?」
「いえ、反応時間が短すぎて場所を特定できません」
慌てて冬月は青葉の椅子に手を掛けて青葉のディスプレイを覗き込むが、ディスプレイには『LOST』の赤い文字が点滅していた。
「・・・そうか。青葉二尉、引き続き監視を怠らぬ様にしてくれ」
「了解」
軽い溜息をつきながら姿勢を正し、冬月は青葉から同じくオペレーター席のオールバックで眼鏡の青年『日向マコト』に視線を移す。
「日向二尉、葛城一尉の方は?」
「ダメです。先ほどから何度も試していますが、国連軍の放つ強力なジャミングの為に未だ連絡が取れません」
「・・・そうか。そちらも引き続き頼む」
「了解」
そして、日向の報告を聞き、冬月は渋い表情を浮かべて腕を組み、最後に隣の赤いサングラスの髭男『碇ゲンドウ』に尋ねた。
「碇・・・。どう思う?これは使徒の2体同時複数展開と見るべきか?」
「・・・解らん。だが・・・・・・。」
冬月の言葉にゲンドウは一瞬だけ眉間に皺を刻んで多く語らず、背後の司令席を見上げ、冬月も釣られて司令席を見上げる。
「何をしているっ!!足止めすら出来ないのかっ!!!」
「ええいっ!!撃ってっ!!!撃ってっ!!!!撃ちまくれっ!!!!!」
「・・・まるで歯が立たぬとはな」
そこにはここ作戦本部である『発令所』にいる職員達と随分と毛色の変わった軍服を着た軍人が怒鳴り散らしていた。
この者達こそ巨人『使徒』と戦っている国連軍内で日本国保有の軍隊『戦略自衛隊』の指揮官達である。
本来、この席に座るべき人物は、この発令所職員達の組織『特務機関ネルフ』の司令であるゲントウと副司令である冬月。
だが、現在は日本国と戦略自衛隊の威信を他国に見せる為、指揮権がネルフではなく戦略自衛隊『戦自』に執られているのである。
「そうだな。こちらへ指揮権が移らねば何も出来んな」
司令席からモニターへ視線を戻し、また1機、また1機と墜落してゆく戦闘機を眺めながら冬月は深い溜息混じりに呟いた。


ブォォーーーン・・・。
かなり飛ばしているのか、窓の外の景色がたちまち後方へ流れてゆくミサトの車中。
「・・・ところでシンジ君?」
戦場からかなり離れ、緊張にドキドキと高鳴っていた胸の鼓動が収まった頃、ふとミサトは前を見ながらシンジに話しかけた。
「なんですか?葛城さん」
「まずそれだけど・・・。フレンドリーに私の事はミサトで良いわよん♪」
だが、返ってきた返事に他人行儀を感じ、簡単に打ち解ける為にもミサトはファーストネームで呼ぶ許可を与える。
「うん、解ったよ。ミサト」
ドゲシッ!!プゥゥゥゥゥ〜〜〜〜〜〜っ!!!
それに応えてシンジがファーストネームで呼んだのに、思わずミサトは座ったままズッコけ、ハンドルに顔をぶつけて車のクラクションを鳴らす。
「・・・大丈夫?どうしたの?」
「なははははは・・・。い、いきなりフレンドリー過ぎるわよ。で、出来れば、私の方が年上なんだから『さん』付けくらいしてよ」
シンジはクラクションの音に驚き、ミサトはぶつけた鼻を撫でながら顔を引きつらせて復活する。
「それも、そうですね。つい癖で・・・。」
「・・・癖?」
ミサトの言う事ももっともだと思ってシンジは了承するが、ミサトは妙に引っかかる物を感じて聞き返す。
「えっ!?い、いや・・・。そ、その・・・。ま、前の住んでいた所にミサトって言う友達がいたもんですから」
するとシンジは自分の失言に気づき、焦って妙にうわずった声で応えた。
「およよ?この名前なら女の子よね?名前で呼び合うなんて・・・。ひょっとして、シンちゃんのガーフルレンドなのかしらん♪」
「か、からかわないで下さいよっ!!」
ミサトは己の直感が正しかった事を知り、ニヤニヤと笑って更なる追求の手を伸ばすも、慌ててシンジが窓の方を向いてしまって応えてくれない。
(耳まで真っ赤にしちゃって♪くぅぅ〜〜〜っ!!可愛ゆいん♪♪)
(確か、こういう反応が好きなんだよね。ミサトさんって・・・。)
その仕草がミサトの心にジャストミートしてしまい、思わずミサトは頬を緩め、シンジは窓の外の景色を見ながら何やらニヤリと笑っていた。
「まあ、シンちゃんを虐めるのはこのくらいにして・・・。
 ところで、何で避難もしないで駅にいたの?いくら待ち合わせ場所があそこだったとは言え・・・。もしかしたら、死ぬところだったわよ?」
それも束の間、ミサトはいきなり緩んでいた頬をキリリと引き締め、少し怒った様な表情で先ほどからずっと思っていた疑問を問う。
「あぁ〜〜あ・・・。それなら大丈夫ですよ」
「・・・なんでよ?」
しかし、シンジはやけにあっさりとした軽い口調で応え、ミサトは眉間に皺を寄せた表情をシンジの方へ向ける。
「多分、今までのパターンからいって小一時間ほど戻るだけですから」
「・・・・・・へっ!?」
シンジもミサトの方を向いてニッコリと微笑み、ミサトは意味がサッパリと理解できずに間抜け顔で固まった。


『目標は依然健在。第三新東京市に向かい進行中』
『航空隊の戦力では、足止めできません』
発令所に次々と届けられる悪い報告。
「総力戦だっ!!厚木と入間も全部あげろっ!!!」
「出し惜しみは無しだっ!!なんとしてでも目標を潰せっ!!!」
バキッ!!
興奮のあまり戦自の指揮官2人が叫き散らし、1人が無言で持っていた鉛筆をへし折った。
「なぜだっ!?直撃のはずだっ!!?」
「戦車大隊は壊滅・・・。誘導兵器も砲爆撃もまるで効果無しか・・・。」
「駄目だっ!!この程度の火力ではラチがあかんっ!!!」
だが、幾ら叫こうとも檄を飛ばそうとも精神論では使徒には叶わず、司令席で苦虫を潰した様な顔で指揮官達は苛立つばかり。
「・・・やはり、ATフィールドか?」
「ああ・・・。使徒に対し通常兵器では役に立たんよ」
司令席の様子を冬月は鼻で笑い、ゲンドウはサングラスを押し上げてニヤリと笑う。
ジリリリリリンッ!!カチャ・・・。
「・・・わかりました。予定通り発動いたします」
司令席の電話のベルが鳴り、電話を受けた指揮官の言葉を盗み聞き、ゲンドウと冬月は顔を見合わせて頷き合い、面白そうにモニターを注目した。


ブルルルルル・・・。
戦場から随分と離れた小高い丘の道路に、エンジンをかけたまま車を停車させ、車内から双眼鏡で戦場の様子を観察しているミサト。
「・・・・・・およ?」
突然、使徒の周りに群がっていた戦闘機達が蜘蛛の子を散らす様に戦場を離脱して行き、ミサトの思考回路にクエッションマークが浮かぶ。
「ちょ、ちょっとっ!?まさか、N2地雷を使う訳ぇぇ〜〜〜っ!!?」
その瞬間、ミサトのシナプスに電流が走り、即座に戦自の作戦を読み取り、ミサトは双眼鏡を下ろしつつシンジを抱えて覆い被さる。
「伏せてっ!!」
「相変わらず、ミサトは大胆だね。何もこんな所で・・・。」
「・・・えっ!?」
だが、ミサトの胸の中でシンジは余裕の笑みを返し、再びミサトの思考回路にクエッションマークが浮かんだ次の瞬間。
ドガァァァァァーーーーーーンッ!!
「キャァァァァァ〜〜〜〜〜〜っ!!んんんっ!!!んんんんんっ!!!!」
まず凄まじい閃光が届いた後、凄まじい爆音が聞こえ、続いて車に凄まじい爆風が届き、最後に謎の悲鳴と言葉にならない声があがる。
ドガァァァァァーーーーーーンッ!!
しかし、不思議な事に近くの木々を薙ぎ倒すほどの爆風は車を避け、車の一歩手前から放射状に砂煙を後方に送っていた。


「「やったっ!!」」
指揮官の2人が立ち上がり、キノコ雲を映すモニターに思わずガッツポーズ。
「・・・残念ながら君達の出番はなかったようだな」
その内の1人は表面上を冷静に装いながらゲンドウと冬月の背中に告げるが、ゲンドウと冬月は振り返りもしない。
『衝撃波来ます』
ザーーーーー・・・。
アナウンス報告と共にモニターの映像が消えてサンドストームが走る。
「副司令、またです。また反応がありました」
「それでどうだ?位置の特定は出来たのか?」
振り返った青葉の報告に、すかさず冬月が青葉のディスプレイを覗き込む。
「いえ、今までで1番強い反応だったんですが、N2地雷の影響で・・・。」
「・・・そうか」
だが、残念ながらまたもやディスプレイには『LOST』の赤い文字が点滅していた。


ギシ、ギシ・・・。
         ギシ、ギシ・・・。
ギシ、ギシ・・・。
         ギシ、ギシ・・・。
ギシ、ギシ・・・。
         ギシ、ギシ・・・。
凄まじい爆風に横転する事も、少しも動く事がなかった停車中の車。
ギシ、ギシ・・・。
         ギシ、ギシ・・・。
ギシ、ギシ・・・。
         ギシ、ギシ・・・。
ギシ、ギシ・・・。
         ギシ、ギシ・・・。
そんな車が爆風が止んだと言うのに、何故か断続的なリズムを刻んで揺れていた。
ギシ、ギシ・・・。
         ギシ、ギシ・・・。
ギシ、ギシ・・・。
         ギシ、ギシ・・・。
ギシ、ギシ・・・。
         ギシ、ギシ・・・。
残念な事に辺りを舞う砂煙が酷くて車中の様子が見えず、車中で何が起こっているのかは全くの謎である。
ギシ、ギシ・・・。
         ギシ、ギシ・・・。
ギシ、ギシ・・・。
         ギシ、ギシ・・・。
ギシ、ギシ・・・。
         ギシ、ギシ・・・。
それはともかく、車が再び走り出したのは20分後の事だった。
ギシ、ギシ・・・。
         ギシ、ギシ・・・。
ギシ、ギシ・・・。
         ギシ、ギシ・・・。
ギシ、ギシ・・・。
         ギシ、ギシ・・・。


「その後の目標は?」
「電波障害の為、確認できません」
指揮官の1人の問いに日向が応える。
「あの爆発だ。ケリはついている」
腕を組んで椅子の背もたれにもたれかかり、もう1人の指揮官は自信満々に鼻で笑った。
『センサー回復します』
淡々としたアナウンス報告がなされた次の瞬間。
「爆心地にエネルギー反応っ!!」
「なんだとぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜っ!!」
青葉が驚きに目を見開いて叫び、自信満々だった指揮官が勢い良く席を立ち上がり、驚愕に目を最大に見開いて絶叫をあげる。
『映像回復します』
アナウンスと共にモニター映像が回復したそこには、攻撃前とほとんど変わらず熱気立ちこめる中に使徒が悠然と立っていた。
「わ、我々の切り札が・・・・・・・」
「・・・・・・な、なんてことだ」
両手をダラリと下げて椅子に力無くもたれ、指揮官の2人は茫然自失状態。
ドンッ!!
「化け物めっ!!」
一瞬の間に自信満々から驚愕へ表情を変えた指揮官は、最後に立ち上がったまま悔しげに握り拳で机を思いっ切り叩いた。


ブォォーーーン・・・。
先ほどでないにしろ、かなりのスピードで走っているミサトの車。
(今年はマナが転校してくるのかな?もう3年も逢っていないから、今年は逢いたいな。ちゃんと戦自もスケジュール調整をして欲しいよね。
 山岸さんはどうなんだろう?ここ2年連続で転校してきたけど・・・。
 ・・・って、あれあれ?そう言えば、マナと山岸さんが同じ年に転校してきた事ってないな。・・・・・・・・・偶然かな?どうしてだろう?)
窓辺に右腕で頬杖をつきながら謎の思考に浸るも、持ち主の性格通りかなり癖のあるミサトの愛車を余裕の左手だけの片手運転をするシンジ。
プルルルルルッ!!
「ああんっ!!」
その時、ミサトのバイブレーション付き携帯電話が鳴り、助手席で頬を紅く染めて虚ろな眼をしているミサトが不思議と色っぽい声をあげる。
「ミサトさん、ベルが鳴ってますよ?」
「ああっ!!くうっ!!!はあっ!!!!」
シンジが着信を促すが、ミサトは体をビクビクッと震わせて色っぽい声をあげるだけ。
「・・・もう、しょうがないなぁ〜〜」
やれやれと軽い溜息をつき、仕方なしにシンジはハンドルを左手に変え、ミサトのジャケットの内側に右手を入れた。
「はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。」
「・・・可愛いですね。ミサトさん」
胸にある内ポケットから携帯電話が取り出されると、ミサトは荒い息をついて落ち着き、その様子を見ながらシンジがクスリと笑う。
「はい、もしもし?」
『・・・えっ!?君は誰だ?』
電話に出ると電話の相手は予想と違う男の子の声に驚き、シンジは心底に愉快だという感じのクスクス笑いを口の中で必死に噛み殺す。
「誰だと聞く、あなたこそ誰です?」
『あっ・・・。すみません。日向と言う者ですが、そちらの電話番号は葛城さんの物ではありませんでしょうか?』
そのせいかシンジの声は不自然に苛立ちにも似た声になり、慌てて日向は畏まって自己紹介を兼ねて電話先を確認した。
「ああ、それなら間違っていませんよ。今、ミサトさんは手が放せなくて、僕が代わって電話に出ているんです。僕は碇シンジと言います」
『えっ!?君がサードチ・・・。いや、何でもない。大至急、葛城さんと電話を換わってくれないか?急いでいるんだ』
そして、電話先が間違っていない事と電話の相手を知り、日向は驚いて何かを言おうとするが、すぐに言い直してミサトと換わって貰おうとする。
「はい、解りました。・・・ミサトさん、日向さんという方から電話ですよ?ミサトさん、ミサトさん?」
応えてシンジはミサトの肩を揺すってミサトを呼ぶが、未だミサトは虚ろな眼をしたまま全く反応なし。
「どうやら忙しい様ですね。どうします?あとでこちらから、電話をかけ直しますか?」
『うん?・・・解った。それじゃあ、よろしく頼むよ』
再びやれやれと軽い溜息をつき、シンジと日向が電話をお互いに切ろうとした瞬間。
「ああっ!!ちょっと待ってっ!!!」
『なんだ?』
シンジが声を張り上げ、電話の向こうで受話器を下ろそうとしていた日向が、電話を持ち直して受話器を耳に当てる。
「実は何処へ行ったら良いか解らないので、このままナビゲーションを頼めます?」
『・・・・・・へっ!?』
案内役のミサトが使えない状態なのに、ネルフへ到着してはまずいと悩んでいたシンジがこれ幸いとお願いすると、日向の間抜け声が返ってきた。


「・・・予想通り、自己修復中か?」
「そうでなければ、単独兵器として役に立たんよ」
モニターに映る爆心地でたたずむ使徒を見つめ、冬月が事もなげに呟くと、ゲンドウは当然の事の様にニヤリと笑って応える。
良く見れば、さすがの使徒もあの爆撃に少しは傷ついた様で、胸にある顔らしき物の下から新たな顔がトカゲの尻尾の様に増えていた。
キラリンッ!!チュドンッ!!!ザーーーーー・・・。
「「「おおっ!?」」」
その時、使徒が両眼より光線を放ち、映像を送っていた偵察機が破壊され、再びモニターにサンドストームが走る。
「・・・ほう、たいしたものだ。機能増幅まで可能なのか?」
「おまけに知恵も付いたようだ・・・。」
「この分では再度侵攻は時間の問題だな」
ゲンドウと冬月はどよめきあげる司令席を小うるさそうに見上げ、モニターに視線を戻した頃には再び別偵察機より新しい映像が届けらていた。


「あれ?電話が切れちゃった?」
トンネル先にあった台車へ車を乗せると同時に日向との電話の電波が切れ、シンジは携帯電話を耳から離して首を傾げて見つめる。
「ミサトさん、どうするんですか?」
どうしたものかとシンジが尋ね、ミサトは緩慢なノロノロとした動作で財布からカードを取り出してシンジに渡した。
「・・・なぁ〜ぶ?」
「ネルフ・・・。特務機関ネルフ・・・。ドイツ語・・・。」
真っ赤なカードに書かれてある『NERV』の文字をシンジが読み辛そうに読むと、ミサトがまるで譫言の様にブツブツと呟いて発音を教える。
「・・・特務機関ネルフ?」
「国連直属の非公式組織・・・。」
「・・・・・・父さんのいるところか」
ウィーーーン・・・。
更に聞き返すシンジにミサトは未だ焦点の合わない眼で呟き、シンジはニヤリと笑ってハンドル横のボタンを押し、運転手側の窓が開いてゆく。
「人類を守る大事な仕事か・・・。僕は人類の半分。いや、その1/3くらいで良いかな?」
ピッ!!
窓が完全に開くと左手を伸ばし、上手い具合に運転席の高さにある入場ゲートのスリットに、シンジは勢い良くミサトのIDカードを通す。
『ゲードが閉まりますご注意下さい。発車します。』
ウィィーーーン・・・。ガッシャンッ!!
「さすがの僕も守備範囲はミサトさんのちょっと上くらいまでだからねぇ〜〜」
アナウンス声と共に背後のゲートが閉まり、台車に車を載せたままカートレインが何処か向け出発した。


『目標は未だ変化なし』
『現在迎撃システム稼働率7.5%』
ゲンドウと冬月は見上げ、指揮官達は見下ろし、お互いに見合っている。
ガチャ・・・。
「今から、これより本作戦の指揮権は君に移った。・・・お手並みを見せてもらおう」
「了解です・・・。」
何処からかかってきた電話を置き、指揮官の1人が苦々しく告げ、ゲンドウが無表情に応えた。
「碇君。我々の所有兵器では、目標に対し有効な手段が無いことを認めよう。・・・だが、君なら勝てるのかね?」
その態度が気にくわなかったのか、指揮官の1人が続けて皮肉混じりに尋ね、一拍の間を置いてゲンドウはサングラスを押し上げニヤリと笑う。
「・・・・・・その為のネルフです」
「くっ!!・・・期待しているよ」
ウィィーーーン・・・。
更にその態度が気に入らず、間を置かずに指揮官は捨てゼリフを残し、指揮官達は司令席ごとエレベーターで沈んで発令所から退場して行った。
「・・・国連軍もお手上げか。どうするつもりだ?」
「初号機を起動させる・・・。」
やっと静かになった司令席に溜息混じりに呟き、冬月が視線を横に向けると、ゲンドウは即答して再びサングラスを押し上げる
「初号機をか?パイロットがいないぞ?」
「問題ない・・・。もう一人の予備が届く」
軽い驚きを覚えて目を見開く冬月に見て、ゲンドウは再び面白そうにニヤリと笑った。


ゴォォーーー・・・。カァッ!!
狭いカートレイン通路を抜けて巨大な空間が前方に広がり、カートレイン通路を反響させていた作動音も一斉に周囲へ広がる。
「・・・ジオフロントか(また僕はここへ来たんだな・・・。いつになったら僕は・・・・・・。)」
眼下に広がる地下空間を真剣な眼差しで見下ろし、シンジは今まで放っていた軽薄そうな雰囲気を霧散させ、重苦しい雰囲気を漂わす。
「はっ!?ここはっ!!?」
その時、ジオフロントに入った時の気圧の変化で耳がツーンとした拍子に眼の焦点が合い、ミサトが正気を取り戻した。
「あっ!?ミサトさん、気が付きました?」
「ひぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜〜っ!!ち、近寄らないでっ!!!シ、シンジ君っ!!!!」
2人の間に何があったかは全くの謎だが、シンジが笑顔を向けると、ミサトは狭い助手席を精一杯に後ずさり、何度も首をイヤイヤと左右に振る。
「・・・き、傷つくな。そ、その態度・・・。ひ、酷いや。ミ、ミサトさん・・・・・・。」
その途端、思わずシンジは笑顔を引きつらせ、溜息をトホホとついて肩をガックリと落とした。


感想はこちらAnneまで、、、。

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