───今度こそ皆を守るんだ・・・・・・。


強い決意の中でのシンジの“二回目”の転校初日、彼はイキナリ大ポカ
をかましてしまっていた・・・・・・。



 「初めまして碇シンジです。これといって取得はありませんが、料理が
得意です。よろしくお願いします」


 自己紹介の時、そう言って微笑んでしまったのだ。


 たちまち女生徒たち(一部男子も含む)がノックアウトされ、このまま
ではまともに授業になろうはずもなかい。

 それでも果敢にHRに取り組もうとする教師は偉かった。



 ある瞬間までは・・・・・・。




 『碇君があのロボットのパイロットだって、ホントですか? (Y/N)』

───来た!


 “前”の時間をなぞっているのだから、来ることは解っていた。
 大まかに時間を作り直すことは危険を伴う。


 しかし、シンジはかなり迷っていた。



 使徒サキエル戦のおり、トウジの妹のことを完全に失念していたのであ
る。


 これは痛かった。


 皆を守るとほざいたのならば、真っ先に思いつかねばならなかったのだ。



 この事件のせいでトウジという友を得られたのだが、トウジの運命を変
えてしまったこともまた事実だった。


 また、殴られるのかな・・・・・・?


 街の被害は、“前”の時に比べると格段に激少したと言って良い。


 だが、ゼロではないのだ。


 シンジは、トウジの妹がどこでどのように怪我をしたか知らなかったの
である。




 結果が同じなら仕方が無い・・・・・・。


 カタッ

 シンジは“Y”とだけ入力した。



「「「「「「「「「えええええええぇ〜〜〜〜〜〜????!!!!」」」」」」」」



 ・・・・・・・・・案の定、授業はつぶれたのだった。



─────────────────────────────────────────────────────────────

For “EVA” Shinji

フェード:四

─────────────────────────────────────────────────────────────

 「転校生、ちょっと顔貸してくれや」


 放課後。

 皆の質問攻撃に耐え切ったシンジをトウジが呼び出した。

───やっぱり、巻き込まれたのか・・・・・・。


 シンジの心を影が差す。


 皆を守るはずだったのに、会ったことがないというだけで忘れていたの
だ。


 無論、全部を全部救うことは不可能に近い。


 だが、それだけで忘れていいという理由にはならない。

 「碇君・・・・・・」

 心配そうに見ているレイに悲しげな笑みを送り、トウジの後を追った。

 そんな二人を心配そうに見ている女生徒がもう一人。

 「鈴原・・・・・・がんばるのよ・・・・・・」

 委員長、洞木ヒカリであった。


*   *   *   *   *   *


 トウジはシンジを裏門へ連れて行った。

 人目が少ないとは言え、校舎裏でもなく体育館裏でもない。

 ある程度の人通りがある裏門であった。


 「・・・・・・なにかな? 鈴原君」


 それでも顔色の良くないシンジ。


 何が起こるか解ってはいるが、一応確認した。


 「ちょ、待っといてくれ。どこにおんのや・・・・・・・・・・・・・・・・・・おった!」


 辺りをキョロキョロ見回し、門の陰から女の子を連れ出してきた。

 不安そうな顔をした、ショートボブの小学生くらいの少女だった。


 「あの・・・・・・初めまして・・・・・・」


 その少女はおどおどと口を開いた。


 ぼんやりとその少女の顔を見ていたシンジの頭に閃光が走る。


 「あ! あの時の?!」


 そう、シンジが初号機でフィールドを張って守った子供であった。


───女の子だったんだ・・・・・・。


 等と、ちょっとズレた事を考えているシンジに、感極まった顔のトウジ
が叫ぶ。


 「や、やっぱり碇君が守ってくれてたんか?!」


 弾かれた様に土下座するトウジ。

 「え?! あの、ちょっと!」

 「スマン! ワイのせいでコイツを迷子にして、碇君にごっつ迷惑かけ
てもうた! おまけにコイツを守って戦ってくれて・・・・・・・」

 校庭に額を擦り付けるトウジ。


 「ごめんなさい!! あたしのせいで、お兄さんに迷惑かけてしまって
・・・・・・ごめんなさい!」


 その眼を涙でぷくぷくにする少女。

 そんな二人にシンジは呆然としていた。


 この二人は知り合いなのか?


 「あの・・・・・・この子は・・・・・・?」

 「ワイの妹や!」

 「あ、あの、“ハルミ”といいます・・・・・・」


───!!!!!!!!!!



 シンジの頭頂を何かが貫いた。

 しばらく呆然としていたが、やがて状況を心が理解する。


 気持ちの奥から何かが湧き出し、いっぱいになってゆく。


 そして、心から溢れ出すと、


 シンジの頬を、真珠のような美しい涙がつたう。


 「い、碇・・・君?」


 その様子にトウジは慌てた。


 だが、涙を流してはいたが、その顔は喜びに満ち溢れていた。


 「・・・・・・・・・無事だったんだ・・・・・・」

 『『!!』』

 鈴原兄妹の心に熱い何かが突き刺さった。


 この少年は、ハルミの無事を心から喜んでくれているのだ。


 「良かった・・・・・本当に・・・・・・良かった・・・・・・心配してたんだよ?」



───変えられた!!



 シンジの心を歓喜が埋める。

 歴史を変えることができた。

 たった一人だったけど、それは大きな改変だった。


 “あの”事件のせいで、トウジは一人になり、そしてEVAに乗っ
て足を失うのだ。


 このままだったらトウジは参号機に乗らなくなるだろう。
 だけど、それでいいのだ。


 親友から、トウジたち兄妹から何もかも奪うことなんか、あってはなら
ない!!


戦いは自分たち三人が受ける!


 だからトウジは、トウジらしく生きて幸せになってほしい!


 結果的にアスカの初めての親友であるヒカリの顔を曇らせることもなく
なるのだから・・・・・・。



 「碇君・・・・・・ワイにできることは何でも言うてくれ・・・・・・ワイは何でも
したるさかい」


 トウジの“漢気センサー”はビンビンに反応していた。


 この目の前の少年は、自分の危機に怒る事よりハルミの無事を喜んでく
れているのだ。

 彼の親友であるケンスケの弁によれば、

『誰かを守りつつ戦闘するのは通常戦闘より何倍も難度が上がる。当然、
命の危険もね』


 とのことだった。


 事実、あのロボット(初号機)は腹部を槍みたいなもので貫かれていた。

 “死”の危機。

 だが、そのことより妹の身体の安全を優先してくれたのだ。

 シェルター内で、妹の行方がわからなくなった時、他の大人たちは自分
の身の安全優先で、全く役に立たなかった。

 トウジは唇を噛み締めてシェルターの外に飛び出し、ハルミの名を叫び
つつ探し回っていた。

 崩れかかったビルの下、妹はいた。

 巨大な怪獣と戦う、巨人にバリアーのようなもので守られて。


 考えるより先に身体が動いた。

 トウジは自分でも考えられないほどの足の速さで駆け寄った。

バリアーがあったが、その光の壁はトウジを阻むことなく受け入れる。

難なく妹に近寄ることができ、トウジはハルミを抱き上げてそこから逃
げることができたのである。


 息が切れて苦しかった、

 心臓の動悸で視界が歪む。

だが、足は動いた。


 走って、走って、荒い息をしながら振り返ると、その巨人はこっちをチ
ラッと見てから立ち上がった。



───ワイらの安全を確認してくれとるんか?!



 直感的にそう思った。


 トウジは邪魔にならないよう、そのまま駆けていった。
 だから、そのロボットが勝った事しか解らないでいたのだ。

 シェルター内ではまだ恐怖に対しての混乱が続いていた。


 もっとも、その混乱のせいで、トウジたち兄妹の勝手な行動がばれずに
済んだのだが、それにしても情けなかった。


 あのロボットのパイロットと比べて、なんと頼りないことか!


 トウジはたった一人の肉親を抱きしめて助かった喜びと、巨人に対して
の感謝の心を噛み締めていた。


 そして、その巨人を動かしていた少年が目の前にいる!!

 あんな怪獣と戦うのはかなり勇気がいることだろう。

 それを、この見た目優しげなだけで頼りなさそうな少年がやり遂げてい
た。


 この少年は戦い、ハルミを守りぬき、そして勝ったのだ。


 『一生ついていってもかまわない』

 そう思う直情少年であった。


 だが、そんなトウジの行動を見て、当のシンジは、


───そんなに妹さんが無事でうれしかったんだ・・・・・・。


 等と、またも見当違いな事を考えて喜んでいたりする。


 「頭を上げてよ。ト・・・鈴原くん」


 「トウジでええ!!」


 シンジは苦笑する。

 『ああ、やっぱりトウジはトウジなんだ・・・・・・』と、


 「じゃあ、トウジ。“なんでも”って言ったよね?」

 「おう!」

 「じゃあさ・・・・・・・・・僕と友達になってよ」

 「!!! ほ、ほんなんでええんか?!」

 「僕って、人付き合いが苦手なんだ。それに、転校したてで友達いない
し・・・・・・駄目かな?」

 と、ニッコリ。

 『く〜〜〜〜・・・・・・コイツってヤツは・・・・・・』

 トウジは心の中で漢泣きしていた。

 「わかった!! ワイと碇君は友達や!!」

 「ありがとう。僕のことも“シンジ”って呼んでよ」

 「よっしゃ! シンジ。これからもよろしゅう頼むわ!」

 「うん!」


 シンジは心から喜んだ。
 また、親友になれたことが嬉しくてたまらない。


 彼との再会がシンジの心の力となってゆく。
 そう、運命を変える力の・・・・・・。



 「良かったね、お兄ちゃん」

 そんなトウジにハルミが微笑んだ。

 「おう! お前も仲良うしてもらえ」

 「お、お兄ちゃん・・・・・・」

 照れて真っ赤になるハルミ。

 そんな微笑ましい少女に、シンジは、

 「これからよろしくね、ハルミちゃん」

 と、迂闊にもニッコリ微笑んだ。





 ずどばごぉおおおん!!





幼い心にN2爆弾が投下された。

たちまちリンゴの様に真っ赤になり、その場にへたりこむ。

恋心も知らず、身近で年上の男なんぞ学校の教師とトウジぐらいしか知
らない。


そんな免疫の無い少女にシンジのパワーアップしたエンジェル・インパ
クト・スマイルは凶悪すぎた。


 「うおっ! ハルミ! どないしたんや?!」
 「ハ、ハルミちゃん?!」

 慌てふためく男子二人をよそに、ハルミは実に幸せそうにふやけていた。

 『ふにゃああ・・・・・・シンジさん・・・・・・』












 同時刻・・・・・・・・・。

 ようやく大詰めにはいったコード“ツヴァイ”こと弐号機の前で、

 赤い髪の少女が、脳裏を駆け抜ける閃光と共に悪寒に襲われていた。



 『・・・・・・何? このざらっとした感触は・・・・・・これは・・・・・・敵? アタ
シの・・・・・・? シンジの近くに誰かいる・・・・・・?』






 運命を変えてゆくシンジの心の力・・・・・・・・・。







 『シンジさ〜ん・・・・・・(ポッ)』
 『ハルミ!! しっかりせぇ!!』
 『だ、大丈夫?!』

 ちょっと、変えすぎていた・・・・・・・・・。








 今回の被害
   2−A女子被害・・・・・・・・精神汚染
中度
   鈴原トウジ・・・・・・・・・・・・漢気汚染
              重度
   鈴原ハルミ・・・・・・・・・・・・精神汚染
              壊滅的被害:重症
   零号機パイロット・・・・・・根性退院







──あ(と)がき──

ハイ、学校編です。

トウジの妹さんの名前には色々な説がありますが、トウジの“トウ”が
“冬”だと勝手に断定して、“春美”─ハルミ─にしました。

 『名前、間違っとるわ! うらぁっ!!』とおっしゃられるのでしたら、
教えてください(;;)・・・・・・・・・って、今更遅いか・・・・・・(^^;)


 元々、トウジの妹を救うことからこの話を始めたので、トウジ兄妹を救
う為にシンジ君は“念”を使えるようにしたといっても過言ではありませ
ん(いや、マジに)。


 次回は訓練編です。
 とはいっても、すぐにシャムシエルは来ますけどね(^^;)。
 なにせ、たった三週間ですし・・・・・・


 では・・・・・・・・・

 〜〜シンジ君の戦いに幸いあれ・・・・・・〜〜


作者"片山 十三"様へのメール/小説の感想はこちら。
boh3@mwc.biglobe.ne.jp

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