「せやけど、食いに行く言うてもシンジのメシの方が美味いんが難点やな」

 ゾロゾロと集団下校の態である先頭のトウジがそう言った。


 穏やかな下校風景。

 仲良し七人組で寄り道をするという当たり前の光景。

 尤も、真ん中に居る中性的な少年に少女三人が寄り添っているのはちょっと目立っているのであるが・・・・・・。


 そんな中、唐突に鈴原“ジャージマン”トウジがいきなりそう切り出したのである。


 余りに唐突であった為に止まってしまう六人。

 流石に一番先に起動したのは長年一緒にいる妹であった。

 『兄ちゃん、アホかぁ!! せっかくヒカリさん誘たいうのに、なんやその言い草は!!』

 と心の中で絶叫するハルミ。

 その横で、

 『トウジ・・・・・・せっかく委員長誘えたのにそれじゃ台無しじゃないか・・・・・・』

 等と、そーゆー君は女心を理解しているのかね? とツッコミを入れられそうな鈍感帝王デスキングことシンジま
でもが溜息をついていた。

 だが、

 「あ、ほんでも委員長の料理も美味いで? あの厚焼き玉子、ワイかなり好きや」

 『『『『『おおぉ〜〜〜〜』』』』』

 シンジとケンスケ、チヨとハルミ、そしていつの間にか付いて来ていた榊が感動した。

 ウンウン、トウジ。君も成長してゆくんだね・・・・・・と。

 その言葉に真っ赤になったトウジのすぐ後にいたヒカリは、彼の言葉に後押しされる形で一歩踏み出し、口を開い
た。

 「あ、あの・・・・・・っ!! す、すす、鈴原・・・・・・」

 「ん? どしたんや?」

 五人は科学忍者隊もかくやといった速度で姿を消す。


 お、おおっ?! つ、ついに告白タイムかぁ?!


 五人の目はそう期待に燃えていた。


 「あ、あのね・・・・・・鈴原・・・・・・私、その・・・・・・私ね・・・・・・・・・」

 「え? あ? な、なんや?」

 ただ事じゃない様子に流石のトウジも緊張する。

 ぐぐっと物陰から身を乗り出して覗く五人。

 ケンスケは決定的瞬間の為にカメラを準備している。

 「あのね・・・・・・私、実は・・・・・・」

 「お、おお・・・・・・」


 グビリ・・・・・・。


 誰かの喉が鳴った。

 どきどきしながら耳をダンボにする。


 「私、前から・・・・・・・・・」




 どがしゃああああああああああああああああああんっ!!!




 「いい加減にしなさいよ!! なんであたしが付き合わなきゃいけないのよ!!!!」


 せっかくの学園グラフティな雰囲気は、近所で起こった騒ぎで木っ端微塵になった。



 全員が同時に突っ伏していた事は言うまでもない。



 「だ、誰やぁあああっ!! せっかくヒカリはんがチリ程の勇気出したいう時に!!!」

 エライ言いようだが、その場にいる全員の意見だった。


 その騒ぎは、すぐ近くのゲームセンターで起こっていた。


 五人のガラの悪そうな高校生が、一人の少女に突っかかっているのだ。


 「な・・・・・・・・・・・・・・・っ???!!!」


 シンジの眼が大きく見開かれた。


 年の頃はシンジと同じ位。

 髪はやや茶色がかった黒髪のショートで、白いワンピース姿。

 その少女の外見の儚さとは裏腹に、口からは元気に満ち満ちた声が響く。


 そして少年は、その少女を知っていた。


 その少女の“本来”の行く末さえも・・・・・・・・・。




───────────────────────────────────────────────────────────── 

    For “EVA” Shinji 

        フェード:参拾参

─────────────────────────────────────────────────────────────



 あ〜あ・・・・・・・・・なんでこうなっちゃったんだろう。

 あたしは溜息をつきながら殴りかかる拳を紙一重で避ける。

 喧嘩慣れはしてるようだけど、如何せん隙が多い。

 喧嘩というものは次に何が来るかが分からないから怖いのであって、確かに試合用の格闘技であれば対応できない
事が多い。

 だけど、本格的な戦闘訓練や乱戦用の訓練を受けていれば怖いものではない。

 だから次に来るモノがなんだかすぐに理解できる。

 あたしがサイドステップで避けると、やっぱり後から飛び掛ってくる男がいた。

 前にいたのと抱き合う形で床に転がる二人。


 一人でゲームセンターに来たのが間違いだったかもしれないなぁ・・・・・・。

 でも、チープなの置いてるんだもん・・・・・・しょうがないよね・・・・・・。


 何てコト考えたりしてたのがマズかった。


 ぶんっっ


 一人が椅子を投げてきた。

 当然ながら避けようとしたけど、



 ぴんっ



 あ゛・・・・・・・・・。

 ワンピの裾が筐体(なんと『銀○任侠伝』!! 裏切りもーん!!)のスティクに引っかかった。


 あ、やば・・・・・・・・・・・・。

 当たる?


 なんて事をなんかスローで迫ってくる椅子を見ながら思ってしまう。


 気絶したらタイヘンな事になっちゃうだろうなぁ・・・・・・。

 コイツらガラ悪いし・・・・・・・・・。

 只でさえ戦自で薬とか打たれたのに・・・・・・・・・・・・。


 せっかく普通の女の子になれると思ったんだけどなぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





 あれ?

 当たらない?


 無意識に瞑っていたらしい眼をゆっくりと開くと、そこには白い壁。

 ううん・・・・・・白い背中があった。

 どこかの学校の制服だって事がなんとか理解できた。

 なんか意識が飛んでたあたしの目の前に男の子が立ってて、飛んできた椅子を片手で掴んでた・・・・・・。




                  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 「もうやめましょうよ。大人気ないですよ」

 掴み取っていた椅子を脇に置きながら困ったようにその少年が言う。

 塵程の緊張も無く、ただ自然体に。

 少年の前には“如何にも”な高校生が五人。

 髭アリ、煙草臭イ、ぴあす付キ・・・・・・・・・オリジナリティないんか? な男達である。

 「んだコラぁ!! どけ!!」

 背の高いのが少年の襟首を掴む。


 が、



 こきんっ



 「ひぎゃあっ!!!」

 「あ、ご、ごめんなさい」

 思わず謝る少年。

 どこうどうされたものか男は右手を押さえて転がっていた。

 「テメぇ・・・・・・」

 遂に殺気を噴出させてナイフすら抜く男達。

 あがる女性の悲鳴。

 警察を・・・・・・の声も聞こえる。

 だが、少年は眉を顰めるだけだった。

 「だから止めましょうよ・・・・・・刃物なんか持ってても使いどころ間違ってますよ?」

 「るせぇっ!!!」

 一人が切りかかる。

 少年の背後の少女から見て、武器を持ったという精神的優位に立った事による油断に溢れた隙だらけの攻撃だ。

 まるでスローモーションを見ているように、少年はゆっくりとした動作で左手でナイフを持った腕を外側へ押し、
更に一歩踏み込んで右手刀を首筋に入れた。

 くるんと眼がまわって気絶する。


 残り三人。


 流石に油断できないと踏んだのだろう。同時に攻撃するつもりになった様だ。

 「だから・・・・・・止めましょうよ・・・・・・・・・」

 「うるせぇ!!」
 「ぶっ殺してやる!!」

 溜息混じりの少年の言葉は例え様も無い程の侮辱に感じた。


 しかしそれは侮辱ではない。

 客観的に見ても実力差が大きいのだ。

 この三人は頭に血が上ってて解からないのだろう。

 背後には件の少女。避けると彼女に当たる可能性がある。

 尤も、守る為に立ち塞がっているのだから避ける訳は無いのだけれど・・・・・・。



 少年の脳裏に戦闘教官の・・・・・・剣の師匠の声が思い起こされる。

 『いいか? 性質の悪いヤツは必ず仕返しをしてくる。それも卑劣な方法でな・・・・・・。
  お前が誰かを守ろうとすればするほどそういう輩を相手にせにゃならん。

  だったら手段は限られてくる。

  一つは相手を殺す事。
  ん? ああ、それは嫌なのじゃろう?

  確かにコレは最後の手段じゃ。じゃがな、そうせねばならん程腐っとる人間はおる。その事は覚えておけよ?

  あん? もう一つか?

  それはな・・・・・・・・・』


 少年は右の手刀をまるで真剣の様に構え、そのまま相手と対峙した。

 無論、無手である為にせせら笑う三人。



 ・・・・・・・・・だが、次の瞬間、三人の表情は凍りついた。



 『相手を呑んでしまえ。
  御主ならできるじゃろうて。

  うん? いや、簡単じゃよ。御主の大切な人間がその者達に蹂躙されることを考えればよい。
  御主ならそれだけで相手を呑めるじゃろうて・・・・・・・・・』



 少年の脳裏に浮かぶ白い機体に破砕される赤い機体。

 自分を守る為に敵もろとも自爆する少女。

 無気力になっていた自分を庇って血に沈んだ長い髪の女性。

 そして・・・・・・・・・。

 守ってやれなかったN2によって蒸発した少女が・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



 ギシィイッ!!!!!!



 めきめきめきと腕の筋肉が音を立てた。

 吹き出すアドレナリンが筋肉に無理矢理力を送る。

 白い制服の袖の繊維が少年から湧き上がる“存在感”に負けて破れ飛ぶ。

 気配そのものが質量を持ち、男達の髪が静電気に中てられたかのようにチリチリとわき立つ。

 正面から男達を襲うのは圧倒的な気配。


 ───それは闘気。


 大切なモノを守る為、大切な絆を傷つけるあらゆるモノから守り抜く為、少年はその少年という器そのモノには納
まりきらない闘気を迸らせて男達の心臓を鷲掴みにする。


 逃げられない。


 それどころか声も出せない。

 いや、呼吸すらままならない。



 男達は相手をしてはならない・・・・・・いや、絶対に触れてはならないものに触れてしまった事にやっと気付いたのだ。



 そのまま手刀で“切断”されるか、

 闘気によって心臓を握り潰されるか、

 息が止まったまま死ぬか、

 他に選択の余地は無い。“死”だけなのだ。


 だが、



 ぱぁんっ!!!



 と手を叩く音でその場の空気が戻った。

 ハッとして少年がゲームセンターの入り口を見ると、そこには・・・・・・。

 「そこまでじゃ」

 剣の師がいつもの笑顔で立っていた。

 「せ、先生・・・・・・」

 やっと身体から力が抜ける少年。

 気が抜けたせいかへたり込んでしまう。

 「「「「「「シンジ(碇君)(さん)(くん)!!!」」」」」」

 同時に皆が駆け寄ってきた。

 いつものメンバーの心配そうな顔に、やっと少年──シンジの顔に笑顔が戻ったのであった。


 「碇・・・・・・シンジ?」

 トウジ達の呼び方から少年の名前を知った少女は、自分を守る為に男達に立ち向かい、気配だけで相手を圧倒した
シンジをただ見つめていた。


 その視線に初めて気付き、少女が無事であることを確認できるとホっとして顔を綻ばせる。




 其れ即ち最“凶”兵器・・・・・・・・・『天使の笑顔』也っ!




 ずっぶぅううううううううううっっっっ!!!!!




 少女は、何かが胸の奥に突き刺さるのを感じた・・・・・・・・・。


 『『『『『『『あ・・・・・・又やった・・・・・・・・・』』』』』』』


 保安部の人間に引っ立てられてゆく高校生など目にも入らず只々シンジに見惚れる少女に、リシュウを含めた七人
はそう直感的に感じるのだった。



                  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 保安部員に付き添われる形で少女はゲームセンターを後にした。

 本心から言えばもっと少年と話をしたかったのであるが、この保安部員はNERVのメンバーだという。

 第三に到着早々、もめる訳にはいかなかった。


 因みに、あの高校生達はこれから保安部でガッチリ始末書と反省文を書かされた挙句、リシュウに大説教を喰らう
事が大決定している。



 全く持って余談であるが、彼らは数日後には異様な程真人間に“変わり果てる”のであった。 



 「ふむ・・・・・・シンジの事が気になっておるようじゃな?」

 その老人は少女の顔からそう判断する。

 問い掛けに答えるかのように真っ赤になる少女。

 解かりやすい事、この上も無い。

 「まぁ、気をやるのは仕方あるまい。あやつに関わったオナゴは皆そうなるのじゃからの」

 そう言われると物凄い女ったらしに聞こえる。

 ・・・・・・・・・尤も、ある意味間違いではないが・・・・・・・・・。

 「あやつ自身、自覚が全くないのが難点じゃがの」

 そう言ってその剣士の師は笑った。

 自覚が無いと言っているのだから、無意識なのだろう。

 しかし、それでもあの少年の他人を思いやっている心は態度や雰囲気からでも伝わって来ていた。

 少年が皆を惹きつけるのはその心が伝わるからなのだろう。

 「碇・・・・・・シンジ・・・・・・・・・シンジかぁ・・・・・・」

 そう思わず呟く少女に、老人・・・・・・リシュウは改めて苦笑する。



 ううむ・・・・・・この娘も茨の道を進むのか・・・・・・と。



 やがて二人を乗せた車は正面ゲートに到着する。

 先に降りたリシュウがドアを開け、少女を車から降ろしてやる。

 「ここがNERVじゃ。
  ようこそNERVへ。
  わしは白兵戦闘教官の東郷リシュウと申す。以後、よろしゅう頼むぞ」

 と、リシュウは丁寧に頭を下げた。

 慌てて頭を下げて挨拶する少女。

 「え、あ、あの・・・・・・・・・よろしく頼みます」

 言ってからハタと気付く。

 どう考えてみても軍属の挨拶ではない。


 紛い也にも戦自にいたのだ。最初からコレでは話にならない。

 少女は姿勢を正し、時計で時間を確認後、改めて敬礼で挨拶を送る。

 「本日、04:55よりNERV本部に配属されました霧島マナです!!
  今後ともよろしくお願いいたします」





 これがNERV保安委員、霧島マナとシンジの“再会”であった。





                  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 「キャリヤー、用意急げぇっ!!」
 「伝達パイプ参番と壱拾番がねーぞ!! とっとと持って来い!!」
 「馬鹿野郎!! カートリッジ忘れてどうするんだ!! ぶっ殺すぞ!!」
 「蓄電池、充電完了!! オールグリーン!!」

 喧騒に包まれた機動発着場。

 三体のEVAがキャリアーに積まれ、パイロットの到着後すぐに発進するようになっている。

 もっとも、兵装は整っていないのだが・・・・・・。




 「ちっくしょ〜〜〜・・・・・・ったくナニ考えてんのよ!! アメリカ支部の連中は!!」

 「今更愚痴っても仕方ないわ・・・・・・とにかく急がないと・・・・・・・・・」

 兵装搬入と戦闘プロセッサの書き換え、及び局地戦での電源確保にと此方も大忙しの発令所。


 何せ参号機輸送中のキャリアーの異常が伝えられたのは日本の領海線を越えてからなのだ。


 アメリカの領空内で既に異常が確認されており、脱出したパイロット達によって“白い物体”・・・・・・明らかに人外
のモノに乗っ取られている事は伝えられていた。

 だが、責任問題云々の為にその事実は隠蔽されていたのだ。

 もし、アメリカに“こっち”の調査員が行っていなければ問題が起こったのは日本に着てからにされていたであろ
う。

 その事実を元にアメリカにイチャモンつけるのは外交部の仕事であるし、今は関係ない。

 というより、関わってる暇は無い。


 『ミサト!! こっちは準備できたわよ!!』

 『葛城一佐・・・・・・発進準備できました』

 まだプラグインサートしていないがエントリープラグ内から通信が届いた。

 後は“無敵”のシンジを待つのみ。


 「シンジ君、到着しました!! 今ロッカーです!!」

 マヤの声に頷き、キーを叩いて三人へ同時連絡を入れる。

 「いい? よく聞いてよ?
  対象はアメリカを発った新型EVA専用輸送機E−3C!!
  アメリカ領空内でいきなり交信不能になって行方が解からなくなってたの。
  今さっき、05:16に日本の領空内に入ったとこで巡視艇に発見されたわ。でも、その時にはちゃっかりパターン
  青が感知されたってワケ」

 『それで、輸送機のパイロット達は?』

 シンジの声がスピーカーから聞こえた。

 もう着替え終わってプラグにダッシュしているのだ。

 『遅いわよシンジ!!』

 『ごめんっ!!』

 シートに身体を委ね、LCLに満たされてゆく。

 シンジの身体がLCLに浸りきるのを待ってからもう一度口を開く。

 「あ、そっちは無事よ。
  異常を感じてから脱出したみたいだから」

 モニター内の少年の顔が安堵に緩む。

 ・・・・・・ったく・・・・・・何時もながら優しいんだから・・・・・・・・・。

 と口には出さないが面々の心はそう呟いている。

 「対象の確認が全く取れないのにアナタ達を出すのは気が引けるけど、相手が使徒な上に時間がないの」

 『じゃあ、輸送機が使徒に乗っ取られてるって言うの?』

 「その可能性はあるわ。だから能力検知より先にシンちゃん達に出てもらわないと進行を止められないの・・・・・・ゴ
  メンっ!!」

 そう言って頭を下げるミサトにシンジは微笑む。

 『解かってます。
  僕らは使徒と戦う為にここに居るんですから・・・・・・』

 『とっととカタつけてくるからさ、早く出してくんない?』

 『・・・・・・こちらは何時でも戦えます』


───くぅうう〜〜〜〜・・・・・・・・・・・・何時もながら情けない・・・・・・・・・。


 無力。

 余りに無力。


 何故に守るべき対象に守ってもらわねばならないのか?

 悔しさと不甲斐無さで瞼が痛くなってくる。


 だが、心の痛みを振り切ってミサトは頭を上げた。

 「マヤちん、準備はいい?!」

 「OKですっ!! 搬入終了しました!! 何時でも行けます!!」

 端末を外し、ノートを閉じて移動指揮車両に走るリツコとマヤ。

 「よっし!! EVAキャリアー発進!! 現時刻より10分後に移動指揮車両に指揮権を移動!!」

 「「了解!!」」

 青葉と日向が同時に叫び、システムを車両に転送する。

 ミサトもインカムを付けたまま走り出す。

 いつもののほほん作戦部長の雰囲気はどこにもない。


 戦う女の顔だった。


 「シゲさんっ!! 例の“ブツ”はイケる??!!」

 走りながらチャンネルを切り替え、特殊武装搬送車両の整備員、柴シゲオに声を飛ばす。

 『え? あ、葛城さん? ちょっと待ってよ。蓄電池のスターターがイカレてて中々起動しな『くぉらぁっ!! 
  シゲっ!! ダベってる暇があったら手ぇ動かせっ!!』ああ、スイマセンっ!! と、とにかく現地に着くま
  でには何とか・・・『シゲ!!!!!』あ、ハイ!! んじゃ、またっ!!!』

 インカム越しとはいえ、榊整備班長の怒鳴り声に耳を痛めつつ廊下を走るミサト。


───今までは後方で蹲ってたあたし達だけど・・・・・・・・・今日からは・・・・・・・・・・・・。


 廊下の向こうの窓の外。特殊武装搬送車両に詰まれたコンテナ二つ。


 TG−TとTG−Uと表記されたユニット。


 それが“不甲斐無い大人達”の底力であった。




                  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 “それ”は初めはそのまま第三新東京市に向かう筈であった。

 だが、最初にその場所へと向かうようにオートパイロットが設定されており、そこを支配した時には第三へ向かう
までの燃料が無かった。

 仕方なく機体に刻み込まれていた設定ポイントたる松代に降り立つ“それ”。

 飛べるか? と問われれば“飛べる”と誰もが見るだろう。


 いや、燃料も無く飛べる訳は無い。

 ただ単に“浮かぶ”だけなのだ。

 なら燃料も無く、キャリヤーがどうやって浮かぶのか?


 それは至極簡単な答えだ。


 確かに“今”は燃料が無いから飛べない。だが、もっと時間が経つと飛べるようになるだろう。

 何故か?


 “彼”は今は浮くだけだ。

 自前の“翼”を羽ばたかせ、バリバリと翼がラダーが裂けて風切り羽状の“モノ”をつくり、なんとか羽だけでも
形作る。



 その行く手を阻む為、空のキャリアーから投下される三体の巨人。


 だが、三機は三様に驚いている。


 それは怯えに近かった。



 最初に敗北した青・・・・・・今はオレンジの機体と赤い機体に乗る二人、結果的に倒したものの心に深い傷を負った紫
の機体の少年。

 三人の驚愕は、“前回”を知っているからこそ大きかった。




 灰色のキャリアーが変形した羽の様な身体に、蜘蛛の様に長い手足の黒い人型・・・・・・・・・・・・。

 その姿はメタリックな鳥の翼を持った“蝶”にも見える。




 めきめきと生き物の如く蠢くキャリアーに、参号機が“生えている”という悪夢のような形態の使徒、





 “今回”の第壱拾参使徒バルディエルが彼らを見つめているのだった・・・・・・・・・。





                                          TURN IN THE NEXT...


作者"片山 十三"様へのメール/小説の感想はこちら。
boh3@mwc.biglobe.ne.jp

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