ダラララララララララララ・・・・・・・・・。




 ドラム音を響かせ、マズルフラッシュをぶちまいて弾き出されてゆく鉄鋼榴弾と炸裂弾。


 強羅絶対防衛線まで引き付けて三機連携で攻撃、


 紫、赤、オレンジの三機が攻撃するは濁った虹色のスライスされたウニのような物体。


 だが、射撃兵器という形であるならば最強の破壊力があると思われるそれも、その物体には効果が見られ
ない。


 その“物体”・・・・・・“今回”、第壱拾壱使徒イロウルと認定呼称された“敵”である。


 「くっ・・・・・・!! コイツ・・・・・・倒れないっ?!」


 弐号機の攻撃で足止めをし、その弐号機をバックアップする形で零号機がいる。


 そして、近接近を挑むは人類の為に立ち塞がる紫の“鬼”・・・・・・・・・。


 初号機であった。


 「ふんっ!!!」


 ざぎゅっ!!!


 振り下ろすイージスブレイカーの斬撃にも怯まず進むイロウル───尤も、実際にはイロウルではないの
であるが、ややこしい事この上もないので便宜上“イロウル”とする───。


 シンジの記憶ではこの使徒のコアの一部はここにはない。


 “前回”は転校生の少女の胎内に隠されていたのである。


 が、今回は彼女は来ていない。


 となると・・・・・・・・・全くもって手の打ち様が無い事になる。


 だが“イロウル”は切り刻まれ、穴だらけにされても進行を止めようとはしなかった。


 そんなボロボロの状態で山脈の外輪部を越え、街に差し掛かる。


 すると突然、動きを止めた。


 スライスされた部分の真ん中の部分を残し、ボロボロと崩れだしたのである。



 丁度、輪切りにしたニガウリの様な感じだ。



 不意にその輪切りが縦になって中を見せる形のまま浮き続けた。


 無花果のような模様の中心は、真っ黒・・・・・・・・・いや、“真っ暗”であった。


 シンジ達は思い出す。


 『そうだ・・・・・・この敵は確か・・・・・・・・・』


 ヌッ・・・・・・とその“真っ暗”な部分から“それ”は現れた。


 横倒しになった短いハンガーの様な台座に乗っかってる三本の柵の様な身体。

 真ん中には恐らく顔であろうモノがあり、そこからまたもハンガーの腕の様なものが左右に伸び、両端に
は三本の爪状の“何か”・・・・・・・・・。

 残り二本の柵は、この物体のシンメトリーバランスを取るが如く、それぞれに翼の様な突起が突き出てい
た。

 体色は赤黒く、何となく光っているのが気持ち悪い。


 だが、シンジ達は知っている。


 その“爪”がどれだけ恐ろしいか・・・・・・・・・。


 本来なら一晩という時間を掛けて“羽化”をした使徒である。


 だが、“今回”は余りに早い。


 卵形状で戦闘分析をし、“繭”になる時間を飛ばして第三形態へと移行したイロウル・・・・・・。



 急ごしらえの進化ではあるものの、“例”の弱点を付かねば勝機は無かった・・・・・・・・・。




 これが、“今回の記録上”で第三東京市を襲った“第壱拾壱使徒イロウル”である。





───────────────────────────────────────────────────────────── 

    For “EVA” Shinji 

        フェード:弐拾九

─────────────────────────────────────────────────────────────




 ドンっ!! ドンっ!! ドンっ!!



 狭い通路。

 落ち着いて狙えば外す訳もない。

 だが、加持の銃から飛び出した弾丸は、目標に致命傷を与えていない。


───ちっ・・・・・・腕が鈍ったか?


 等と胸中で毒づく間もなく目標は進んでゆく。


───だが、何故だ?


 加持の連れて来た保安員は声を出す間もなく切り刻まれて肉塊に変えられた。

 彼自身も攻撃を受けており、その時に通信用のインカムを切断され、右の腿に穴を空けられた。


 だが、彼は生きている。


 止めを刺すことも、逃げ切ることもできる筈なのに加持はそのまま目標を追う事ができているのだ。

 それが解からない・・・・・・・・・。


 時々響いてくるのはシンジ達が戦っている振動だろう。

 ならば“奴”の目的は一体・・・・・・・・・?




                *   *   *   *   *   *   *   *   *



 「く・・・・・・防衛ラインを越えました!!」

 「やってくれる・・・・・・」


 モニターに映る使徒と三機のEVA。


 弐号機が正確に顔(?)の部分を狙い、零号機が弾幕を張る。

 初号機が剣を振るい、その身体を断つ。


 しかし、使徒は止まらない。


 人間の歩くようなノロノロとしたスピードで着実に第三東京市の中央に迫っている。

 幾らダメージを与えようと、すぐさま再生してしまう。

 コアらしきものを攻撃しても傷が塞がる。

 幾らゴリ押しをしようと、向こうが無傷では話にならないのだ。


 「・・・・・・まさか、またコアが別に・・・・・・・・・?」

 やはりその事に思いついたミサト。

 ちゃんとマトリエル戦での教訓が役に立っている。

 「マヤちゃん!! センサーの感度を上げて!! あの使徒の周辺を特に!!」

 「え? あ、ハイ!!!」

 慌ててポイント設定を変更し、マーキングを固定位置から範囲に変える。



 その僅かな間に使徒が動いた。



 ついに攻撃を開始したのである。




                *   *   *   *   *   *   *   *   *





 ズババババババババババ・・・・・・・・・・・・ッ!!!!!




 EVAを切り刻まんと爪をブレードに変えて襲い掛かる“イロウル”。


 真紅の機体が避けた場所にあった兵装ビルが積み木のようにバラバラになった。

 “前回”同様、ATフィールドで作られた刃は盾にした防護壁も役に立たない。

 回避できなければ弐号機は防護壁ごと作る前のプラモデルの様になっていたであろう。


 “前”との違いは攻撃速度だ。


 それは正に速剣の“斬撃”。

 リシュウはおろかシンジの足元にも及ばないものの、その一撃一撃は確実な致命傷をEVAに与える事は
間違いない。


 少なくとも、こんなに高速で斬りかかったりは出来なかった筈だ。

 もっとも、シンジ達の反応速度も上がっているのでそう苦労はしていない。


 が、


 苦労していないのは、飽く迄も回避に関してだ。

 事実、“前回”の様に、初号機のLCL浄化装置が破損して修理しなければならなくなったりしていない。


 だが、攻撃に決め手がないのである。



 アスカは回避しつつも冷静に気配を探った。


 頭の中は冷めている。

 冷徹な戦闘人間の精神力と、戦闘時のひらめきが冴え渡る魂の欠片を持つアスカにとって、そう難しい芸
当ではない。

 それに、アスカ言うところの“無敵”のシンジが近接戦闘を行ってくれているので自分に向けられる攻撃
は微々たる物なのだ。

 言葉に出さずとも、シンジは囮を買って出てくれ、アスカに索敵を任せてくれたのだ。

 その信頼がなんとも言えないほど心を安定させる。


 無論、今までの失敗を踏まえているので心を弛緩させたりしない。


 そのせいで何度もシンジに庇われているのだ。

 これ以上、彼の負担になりたくない。



 右の爪で初号機を襲っていた“イロウル”であったが、弐号機の行動に疑問を持ったのか左の爪を差し向
ける。

 『・・・・・・させない』



 ぎしっ!!!



 間に入って零号機がATシールドで無理矢理止めてみせる。

 使徒のブレードも、零号機のATSもATフィールドに変わりはない。

 方や<貫く><切断する>という意思の塊。

 方や<守る><弾く>そして、<絶対に傷付けさせない!!>という強い意志。

 どちらに軍配が上がるかと言うと・・・・・・・・・言うまでもないだろう。



 ぱぎんっ!!



 ブレードの先端を完全に止められた上、刃を逆に侵食されて破壊されてしまう。


 流石に動揺したのか、一瞬動きが止まる。


 その隙を突いて零号機が肉薄し、例によって例の如く・・・・・・・・・。



 がしっ


 ぎゅんぎゅんぎゅんぎゅんぎゅんぎゅんぎゅんぎゅんぎゅん・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



 ブ・・・・・・・・・・・ンッ!!!!!!



 遠くへぶん投げた・・・・・・・・・。



 『ナイス!! レイ!!』

 心の中でレイに喝采を送るアスカ。

 そして、“その場”から使徒が引き離された事によって感じるものがあった。

 使徒がいないのに、気配が近くにあるのだ。

 それは、自分らがいる街の下の方・・・・・・・・・・・・。



 「シンジ!! やっぱりいたわっ!!!!!!」




                *   *   *   *   *   *   *   *   *



 「葛城一佐!!! 発見しました!!! ここへ向かう、非常用通路R−23からパターン青っ!!!」

 「よっしゃ!!! マヤちゃんイカス!!」

 使徒が範囲から離れた事によって正確にセンサーに捉えられる反応。

 だが、場所は通路のド真ん中。

 そんなところにコアが転がっているとでも言うのか?

 「あ・・・・・・でも、対象物は移動しています!!」

 「はぁ?! 移動能力でもあるって言うの?!」

 「ハ、ハイ!! 移動速度は毎秒2m弱、走る人間程度です!!」

 「監視カメラは?!」

 「映像入りません!! 破壊されている模様です!!」

 数秒の熟考の後、ミサトは日向に指令を出す。

 「現在手の空いてる保安員は?」

 そのセリフにリツコが驚く。

 まさか人間に使徒の相手をさせると言うのか?!

 だが、リツコが口を開く前にミサトが説明する。

 「相手は使徒だから、カメラで映像持ってきてくれたらいいわ。
  戦闘したって無駄なんだから、せめて情報がほしいの。
  それと、通路閉鎖してベークライト流し込む用意をしておいて。
  ヤバかったらすぐやっちゃうから」

 「了解!!」

 リツコにウインクを送り、的確に指示を送る戦闘課長。

 防護準備と情報収集を同時に行うのだからリツコも文句を言わないで済んだ。

 それに、保安員にも余り負担を掛けていない。


 「アレ? 保安部の何人かが既に向かってますよ?」

 「へ?」

 「あ、報告がありました。

  『R−23ニ侵入者アリ。至急、調査ニ向カウ』

  時間は・・・・・・あ、第壱拾壱使徒行動の直後です」

 「え?」



 その時、ミサトはなんとも言えない様な不安感を胸の奥で感じていた。




                *   *   *   *   *   *   *   *   *




 いきなり壁にふっ飛ぶ男。

 自分で自分の身体を壁に叩きつける意味は解からないが、チャンスには違いない。

 加持は物陰から飛び出し、男に対して再度射撃を行った。



 ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!!



 狭い場所での大型拳銃による射撃が正しいとは言えないが、相手に対する致命傷を臨むのなら致し方ない。



 ばしっ!! ばしっ!! ばしっ!!



 吸い込まれるように、右腕、足、足、と見事に命中する弾丸。

 だが、ポスッとスーツに穴を穿つだけで男に変化がない。


───おいおい・・・・・・・・・ちょっと待てよ・・・・・・・・・。


 こんな状況ながら、加持は三文のジョークを聞いてしまったかの様に顔をしかめた。



 ぴんっ  カラカラカラカラ・・・・・・・・・・・・。



 その穴から弾き出されたのは、今撃ち込んだ筈の弾丸。

 加持の足元に転がってきたから明かりで見えたのだが、キッチリ先端が潰れている。

 床に転がったのは、硬い何かに阻まれたと言うよりは、傷口に押し返されたといった感じだ。


 確認を取るかのようにもう一度撃ってみる。



 ドンッ!!!



 びしっ!!!



 今度は左の“掌”で“止められた”。

 赤い光の壁は見えなかったが、加持の鍛え上げた勘が、“感触”として“それ”の正体を教えている。


 つまり・・・・・・・・・。


 「ATフィールド・・・・・・・・・使徒か・・・・・・・・・参ったなぁ・・・・・・・・・」


 男を覆うスーツには、さっきから加持が撃ち込んだ弾の穴が穿っていた。

 当たっていたのであるが、肉体に届いていなかったのだ。


 逃げときゃよかったかな・・・・・・?


 等と考えてみても、放っておくと本部が危うい。

 通信機がイカレた今、足止めぐらいにしかならないが、今のがATフィールドだとすると、いずれMAGI
の目に引っかかるだろう。


 だったら・・・・・・。


───カートリッジは・・・・・・後一つか・・・・・・・・・。
   時間稼ぎは・・・・・・・・・できるな。


 もう吸い飽きたジタンだが、こういう場面に来ると口にしたくなる。

 生きるか死ぬかの場面では、最近縒りを戻したセブンスターより恋しいものだ。


───ま、贅沢は言えんか・・・・・・・・・。


 紙巻を口に咥えるだけにしてカートリッジを替える。


 物陰から覗くと、“それ”はゆっくりと立ち上がって来た。


───やれやれ・・・・・・なまじ人間ぽい外見だからマシだな。絶望しないで済む。


 加持は銃を構えなおし、引き金をしぼった。


 一瞬、ミサトの笑顔がかすめたのが、現状の最悪さを感じて嫌になる。



 ドムッ!!



 ぱがんっ!!



 それの頭の一部が吹き飛ぶ。

 呆然とする加持。

 自分が撃ったのではないからだ。


 「はぁ〜い。リョウちん、自分だけ遊ぶのはナッシングよん♪」

 「え?!」

 驚いて振り返った加持の眼に、コルトを手に駆け寄る金髪の美女と、


 ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!!


 ばすっ!! ばすっ!! ばすっ!!


 同じくコルトを撃ち込む長身の男の姿が・・・・・・。

 「君は・・・・・・?」

 「加持さん・・・・・・ですね? 無事で何よりです」

 なんとなく軍人臭のする、前髪の一部がメッシュがかった美青年・・・・・・・・・。

 南部キョウスケである。


 「どうしてここに・・・・・・?」

 「あれだけドンパチやってて気付かない訳ないでしょ? それに、手が空いてる人間は向かってチョって
  ゆー命令が・・・・・・」

 「どんな命令だ? 言葉は正確に伝えろ」

 こんな状況下でもいつもの様におどけた金髪の美女・・・・・・エクセレンに、いつもの如く突っ込むキョウス
ケ。

 お世辞にも状況を弁えているとは言えないが、不思議と安心感が湧いて来る。

 「まぁまぁ、お二人さん。そろそろお仕事に掛かりたいんだが・・・・・・」

 等とおどけた声も出せるようになる加持。

 「ん〜〜・・・・・・そうねん。あちらさんもお元気そうだし・・・・・・」


 ぐじゅぐじゅと再生が終わってゆく男。

 吹き飛ばされた頭が戻っていく様は悪夢そのものだ。

 実際、エクセレンの身体も緊張している。


 が、まだ余裕があった。

 なぜなら・・・・・・。


 「ま、真打もいらしたことだしね♪」


 ひゅ・・・・・・。



 ばがんっ!!!!!



 再生中のその頭が、胸までめり込んだ。

 ダクトから飛び降りてきた“人間”が、棍棒のような何かを振り下ろしたのである。


 「ふむ・・・・・・やはり頭を潰しただけでは死なぬようじゃな・・・・・・」


 一撃を加えた後、瞬きをする間もなくその場から蜻蛉を切って消え、加持達の前に降り立つ老人。

 「リシュウ顧問・・・・・・登場が派手ですね・・・・・・」

 呆れたような声でキョウスケが呟くが、

 「何を言う。シンジに比べればマシじゃよ。あ奴は美少女を二人抱えて登場したのじゃからな」

 と笑みを浮かべ、

 示現流の大剣豪、東郷リシュウは木剣を構え直した・・・・・・・・・。




                *   *   *   *   *   *   *   *   *



 山間部の外輪まで場所は戻ったものの、打つ手の無いのは変わりない。

 それに、これ以上攻撃を加えて進化されたら敵わない。

 この“イロウル”も本物の“イロウル”同様に高速で進化する能力があるのだ。


 『皆、ちょっちガマンしてねっ!! 今、コア探してるから!!』


 ミサトからの通信でなんとか意気消沈することなく戦っている三人。

 答えは知っているものの、それはあくまで模範解答。

 現状での正解ではないのだ。

 だから、“誰”にコアが潜っているか等解る訳がなかった。

 レイが投げ続けるのも良いが、彼女の必殺技である“大雪山おろし”を覚えられるのもシャクだ。

 それに後々の使徒・・・・・・特にバデュエルやゼルエルなんかに使われたら目も当てられない。


 よって、ひたすら蹴飛ばし、殴り飛ばして距離を作るしかないのだ。

 それだって初号機が隙を作らねば難しい。



 ぎんっ!!



 唐突に金属音に似た鈍い音が響いた。

 使徒の顔・・・・・・と言うか眼のような部分が光ったのだ。




 ずばぁあああんっ!!!!




 いきなり零号機の足元が爆発した。


 『きゃあっ!!』


 「綾波ぃ!!!」
 『ファースト!!!』


 思わず叫ぶ二人。


 『・・・・・・・・・大丈夫よ・・・・・・無問題だわ』


 ウインドゥが開き、自分の無事を伝えるレイ。

 何故に日本語では無く“モーマンタイ”と伝えたかは謎である。


 しかし、真面目なんだか不真面目なんだか解からないレイはともかく、ついに“イロウル”の攻撃は進化
を始めたのであった。



 半不死である使徒に対し、“窮地”と言う位置はまるで変わらなかった・・・・・・・・・。




                *   *   *   *   *   *   *   *   *



 ドゴンッ!!!


 ずがっ!!!


 ドムッ!! ドムッ!! ドムッ!!




 攻撃しても打ち倒しても立ち上がってくる“男”・・・・・・。

 ATフィールドも張ることが出来るのだが、一つの攻撃にしか展開出来ない事が解かると後は楽だった。

 誰かが囮の攻撃を行い、その隙に狙えばいいのだ。

 おまけに倒れている間はフィールドを張れないことも解かった。

 だから連続で叩き込むことが出来る。


 しかし、四人は追い詰められなかった。


 倒れても倒れても、ボロボロになっても再生するのである。

 これではキリが無い。

 「ちょっと〜〜・・・・・・まだ死なないの〜〜?」

 「泣き言を言うな。しかし・・・・・・確かにこれではジリ貧だな・・・・・・」

 実際に二人とも疲労の色がある。


 あれだけ攻撃しても活動を停止しようとしないのだから当然であろう。


 男の着ていた服は紫がかった妙な色の染みがつき、既に服という形態から布切れという形に変わり果てて
いる。

 それでも立ち上がり襲い掛かってくるのだ。

 流石に再生に集中しているのか、先ほど加持を貫いた攻撃は無かったが・・・・・・。


 「ふむ・・・・・・そういう事か・・・・・・」

 今まで黙っていたリシュウが、納得したように呟いた。

 「え? センセー、何か解かったの?」

 「うむ。まぁ、勘じゃがの・・・・・・」

 リシュウは再生中の男を無視し、ゆっくりと加持へと顔を向けた。

 「な、なんでしょう?」

 剣鬼と呼ばれている男の視線をまともに浴び、流石の加持も硬直してしまう。

 そんな彼にリシュウはニッコリと微笑んだ。

 「加持リョウジ君じゃったな・・・・・・」

 「え? あ、ハイ・・・・・・」

 「人類の為じゃ・・・・・・・・・死んでくれ」

 「は?」






 物凄い殺気と共に、加持の頭にリシュウの木剣が振り下ろされた。






                *   *   *   *   *   *   *   *   *



 「あ、あれ? R−23のパターン青・・・・・・一瞬、二つ出たのに・・・・・・消失しました」

 「やったのね?!」

 喜色が浮かぶミサト。

 「通路に反応が二つ・・・・・・・・・?
  ああ、そうだったのね・・・・・・イスラフェルとマトリエルの時の応用って訳か・・・・・・」

 一人納得するリツコ。

 「はぁ?! どういう事?!」

 流石に驚いて聞き返すミサト。

 第九使徒マトリエル例は解かっていたのだが、第七使徒の事は頭に無かった。

 「つまりね、使徒はコアと本体、そして端末と“三つ”に解かれていたのよ。
  地下にあったのは恐らく“コア”と“端末”・・・・・・だからそいつらが向かっている進路をなぞるように
  使徒“本体”が進んでいたのね・・・・・・実際、地下の“コア”達と“本体”の移動速度は同じだったし」

 「じゃ、じゃあ・・・・・・」

 「そう・・・・・・“本体”はこれで不死身じゃなくなったわ」

 「よっしゃっ!!!」

 中指を立てた、お世辞にも上品とは言えないガッツポーズを上げるミサト。

 そのポーズに潔癖なマヤの目も痛いが気にしない。

 「シンちゃん!! もういいわよっ!! ランチャーで足止めするから、相対距離を400まであけて仕切
  り直しよ!!
  一発ガーンといっちゃって!!」



 『『『了解っ!!!』』』






 「リシュウ顧問・・・・・・お疲れ様でした・・・・・・」


 活気を取り戻した発令所。

 リツコの小さな呟きは誰の耳にも届かなかった・・・・・・・・・。




                *   *   *   *   *   *   *   *   *




 「・・・・・・先生・・・・・・脅かしっこは無しですよ・・・・・・」

 「いやぁ・・・・・・スマンスマン」

 全然悪びれていないような気もするが、そこはそれ東郷リシュウ。

 態度はともかく、慇懃である心情は溢れていた。


 リシュウの木剣は加持の頭上、1pの位置でピタリと止まっており、加持にはかすり傷すら付いていない。


 四人の前にはピクリとも動かなくなった男の骸が転がっている。


 加持が死を確信した瞬間、キョウスケとエクセレンの撃った弾が男の頭部と胸を貫いたのである。


 炸裂弾は切れたので鉄鋼弾であったが為、額に穴が開いているだけで人相は変わっていない。

 当然、後頭部はふっ飛んでいるが・・・・・・。


 「でも、どーゆー事なの? キョウちゃんが撃ったから反射的に撃っちゃったけど・・・・・・」

 「お前は訳もわからず攻撃したのか・・・・・・」

 溜息が出るキョウスケ。

 それを見ながら苦笑するリシュウ。

 「つまりじゃな・・・・・・恐らくコアとやらは加持殿の中にあったのじゃ」

 「え゛?!」

 いきなり言われて驚く加持。

 「どうやって入ったかは知らぬ。押し込まれたのか、埋め込まれたかは知らんが・・・・・・ま、赤木博士に調
  べてもらうんじゃな」

 「・・・・・・それはご勘弁・・・・・・」


 嬉々として自分を調べるリツコの顔が思い浮かび、ゲンナリとする加持。

 そしてそれを見て楽しそうな笑みのエクセレン。


 「ともかく、先ほどからお主の気配を二重に感じておっての。
  それで試しに攻撃したと言う訳じゃ」

 「はぁ・・・・・・」

 今一つ納得の行かない加持。

 なんだか勘だけで殺されかかったようなものであるからかもしれない。

 「それでお主の中にあったコアは、お主が死を確信した途端にあの“男”に入った」


 あれだけ殺気を込めて振り下ろしたのだ。

 “死んだっ!!”と思うのが当然だろう。

 また、そう錯覚させる為に打ち込んだのであるが・・・・・・・・・。


 「だから還った瞬間、俺が撃った・・・・・・加持さんの中にいるより安全だと思った隙を突いた・・・・・・もっと
  も、胸を狙ったのは“勘”だったが・・・」

 そう、いけしゃあしゃあというキョウスケに、ガックリとして連れ合いが肩に手を置いた。

 「あのねェ・・・・・・キョウちゃん・・・・・・勘だけで行動しないでっていつも言ってるでしょ〜?」

 「お前もいつも女の勘だといって行動してるだろう?」

 「うぐ・・・・・・それとこれとは話は別でしょ?」

 「一緒だ」


 事実、リシュウの勘働きは当たっていた。


 最初に足に加えられた攻撃によってコアを進入させられ、自分という“端末”を追わせる事によって移動
制御を行い、

 加持の“生きたい”という想いを原動力にして“本体”を活動させていたのである。

 だから、リシュウの一撃により“死”を確信したコアは“端末”に逃げ、融合しようとした矢先に“コア”
をキョウスケに撃ち抜かれてしまい、またエクセレンの射撃により頭部を破壊され、生命活動が不可能になっ
た為、本体に逃げたのである。

 だから、正しい攻撃であったと言えた。

 しかしそんな理由を知る訳もない二人は、無意味な舌論を続けるのであった。


 ぎゃあぎゃあと掛け合い漫才を続ける二人を尻目に座り込む加持に、煙草を渡すリシュウ。

 「あ、どうも・・・」

 「すまんの・・・・・・こんな安物で」

 「いえ、“帰って来た”と実感させる味ですので・・・・・・」

 いつの間にか口から消えていた一本に代わり、リシュウからもらったセブンスターの煙で胸を満たす。


───ああ、やっぱり“こっち側”の味だ・・・・・・。


 “外”ではシンジ達がまだ戦っているだろう。

 だが、あの子供達が負けるという気が全くしない今は、この場で二人の夫婦漫才を肴にセブンスターを燻
らすのもいいものだ・・・・・・。


 覆いかぶさって来る疲労を背負いつつ、そう実感する加持であった。




                *   *   *   *   *   *   *   *   *




 「来た〜〜〜っ♪」

 二重写しのような気配を感じ、アスカは思わず叫んだ。

 “前”と同じような感覚、そして感触。

 つまり目の前の使徒に“コア”が“戻ってきた”のである。

 「それじゃあ、本気で行くわよ」

 アスカの眼が一瞬だけ半眼となり、そして見開かれる。

 アスカの熱い情熱の奥にしまってあった氷のような冷静さが、そのまま戦いの場に出現する。

 倒すは目の前のターゲットのみ。

 余計なことは考えない。

 シンジ達を傷付けさせない為、アスカの心は紙縒りの様に細くなる。

 集中しすぎるのではなく、その場を第三者的に眺めるかのような自然さで・・・・・・。

 「ターゲット確認・・・・・・破壊する・・・・・・・・・」


 今、弐号機は地を蹴った。





 弐号機の呼吸に合わせるかの如く、零号機のオレンジの機体が地を蹴った。

 最前線で近接戦闘を初号機が行っている為、こっちに対する攻撃は最小限だ。


 弐号機とユニゾンした呼吸は、ジクザク走行のパターンすら合致し、同じタイミングで進路がクロスし、
また離れる。


 正にクロスプレーだ。


 ここは街の外に出ているので、どんな大技も使用可能。


 周りこんで囮となった弐号機。

 そこへ使徒の意識(?)が向いた瞬間、ガシッとその身体を掴み体勢を崩させる。

 体勢を整えようとした瞬間、また引っ張るように崩させ、相手の姿勢制御に合わせて回転に巻き込む。


 いつもの“大雪山おろし”ではない。


 縦の投げ、上空への豪快な投げであった。




 ぎゅわぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん・・・・・・・・・・・・・・・。




 回転に巻き込まれた形で真上に投げ飛ばされた使徒。


 いつもいつも鍛錬室の畳の上で行ってきた特訓の成果が、その大技がEVAの力で出されたのだから堪ら
ない。

 錐揉み状態で全く行動が取れないまま、今度は自由落下する“イロウル”。

 一瞬ごと視界が変わる使徒の前に、赤い何かが映った。


 それに恐怖したかのように、“イロウル”は左の爪をATフィールドの羽のように展開する。

 まるで盾だ。


 しかし、頑強とはいえ零号機のATSと同じで一方向のみ。

 “盾”がこちらを向いていない一瞬一瞬を見逃す弐号機・・・・・・いや、アスカではない。



 ダララ!! ダララ!! ダララ!! ダララ!!



 身体のATフィールドを中和しつつ、防御の穴を的確に突き三点バーストで蜂の巣にしてゆく。

 それは同速度で地面に落下するまで続いた。





 が、そこで攻撃は終わらない。





 どがんっ!!!





 激突する瞬間、零号機がショルダーチャージを掛けてきたのである。



 その大技は、“大雪山二段返し”と言う・・・・・・・・・。





 どぉおおおおおおんっ!!!




 遠くの山腹に地響きを立ててめり込む“イロウル”。




 否!!




 それは三本足の“台座”のみ。

 上半身(?)の部分を自分で切り離し、下半身(?)を犠牲にして命を永らえていたのだ。



 “イロウル”は穴だらけの身体で自分を投げた零号機に斬りかかった。


 体勢が崩れており回避できない零号機。


 着地直後でフォローに入れない弐号機。





 ばしっ!!





 してし、その剣は、零号機に迫ることはない。


 初号機によって白刃取りされていたのである。





                *   *   *   *   *   *   *   *   *




 「な、なにが起こってるの?」

 ミサト達が呆然と見守る中、モニターのには初号機によって白刃取りにされた使徒の刃がATフィールド
の光学模様に分解されて行く様が映し出されていた。

 分解されつつも接触面で完全に固定されており、全く身動きが出来ない“イロウル”。


 「ATフィールド同士が干渉し合い、中和・・・・・・いえ、浸食されて行きます!!」

 マヤの報告を聞き、リツコはハッした。

 「そうか・・・・・・さっきの零号機の時と同じで、ATSも使徒の剣も圧縮されたATフィールドなら・・・・・・」

 「初号機が一点集中したATフィールドで打ち合うことも可能って訳ね」

 聞いていたミサトが即座に理解し、後を続けた。

 初号機がATフィールドを手に収束して、フィールドで挟み込んだのである。



 と、



 モニター内では使徒が更に動いた。

 もう一本ブレードを伸ばし、初号機に突きかかったのだ。


 流石に反応できない初号機。



 ざぐりっ・・・・・・と左の二の腕に鋭い刃がめり込む。



 腕から鮮血が噴出した。

 EVAの大動脈を切ったようだ。


 「「「「「シンジ君っっ!!!」」」」」


 このまま初号機の腕を切断されると白刃取りした刃が初号機の頭を・・・・・・そして角度から言うとプラグす
ら切断しかねない。


 だが、


 「こんな・・・・・・・・・・・し、初号機の左腕部・・・・・・筋肉の伝導パルスが増大・・・・・・。
  え、ATフィールドも更に・・・・・・シンジ君?!」


 震えるようなマヤの声。

 その声に反応してマヤを見、そして戦う巨人に眼を戻す。


 初号機は、腕と両手で“剣”を挟んだまま使徒を投げ飛ばした。


 腕に突き刺さった“剣”を両腕に集中させたATフィールドと筋肉で固定させ、使徒が押してくる力を利
用して投げたのである。


 人間に例えて言うのなら、筋肉で刃を挟み込んだといえば解かり易いだろう。


 無論、痛みは尋常ではない。


 少なくとも中学生の戦い方ではない。


 だが、彼はいつも身体にかかる痛みを犠牲にして誰かを守っている。

 その度に腕を弾けさせたり、足をへし折られたり、腹部に穴を空けられる痛みに耐え続けている。

 事実、少年の身体はその戦闘時シンクロの余波で継ぎ接ぎの様になっているのだ。


 それでも彼は戦う。


 人の“盾”となり、“剣”となって・・・・・・・・・。


 そんな彼に、

 
 いや、あの子供達に・・・・・・“あの”使徒如きの“剣”と“盾”が通用する訳が無かった・・・・・・。



 モニターには、怒り狂った弐号機と零号機により、木っ端微塵にされる使徒が映っていた・・・・・・・・・。







 人、それをサハクィエルの二の舞と言う・・・・・・・・・。
















 全てが終わった後、帰還した三人の子供達が見たものは・・・・・・・・・・・・・・・。




 何故かミサトに怒られているリシュウの姿であった・・・・・・・・・。






今回の戦闘
   都市被害・・・・・・・・・・・・・・軽微
         武装施設弾切れ
              交換
   零号機・・・・・・・・・・・・・・・・小破
     左ショルダーラック交換
   零号機パイロット・・・・・・無傷
              疲労
   初号機・・・・・・・・・・左腕部破損
              交換
   初号機パイロット・・・・義骨折
              疲労
         鎮痛シート配布
   弐号機・・・・・・・・・・・・・・・・小破
        全射撃兵装弾切れ
             要補給
   弐号機パイロット・・・・・・無傷
              疲労


   加持リョウジ
      特殊観察部兼保安部員
   ・・・・・・・・・・・・・・右大腿部裂傷
      技術研究部に検査入院
            精神疲労

   東郷リシュウ白兵戦闘顧問・・・
     技術部部長との飲酒停止
         赤木リツコ悲観








 ──あ(と)がき──

 長っ、そしてクドいっ

 それが自分での感想。


 だったら削れやっ(`д´メ)!!


 という声が聞こえますが、これでも削ったんっスよぉ〜〜〜(;;)

 ああ、やっぱりクドい解説になってしまった・・・・・・。

 おまけに次はアノ話・・・・・・・・・

 タイヘンだよぉ・・・・・・・・・。


 載せてくださってるターム様や、読んでくださってる皆様に迷惑かけてるなぁ・・・・・・。


 ま、まぁ、私は私なりにがんばるから許してくださいm(_ _)m。
 

 では、また・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。




 〜〜闇に光の幸いあれ・・・・・・〜〜


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