「第参使徒サキエル、第四使徒シャムシエル、第伍使徒ラミエル、第六使徒ガキエル、第七使徒イスラフェ
  ル、第八使徒サンダルフォン、第九使徒マトリエル、第壱拾使徒サハクィエル・・・・・・・・・」

 無意味なほどに広い司令の私室。

 当然ながら部屋の主である碇ゲンドウがいつものように手を組んで席に着いており、その前には一人の男
が立っていた。

 しかし、今のセリフは彼に語りかけたという風でもなく、どちらかというと自分に確認させたかの様でも
ある。

 総司令を前にし、些か顔色が優れない男・・・・・・。

 長めの髪を後で纏め、無精髭をサッパリとそり落としてなんだか清潔そうになった加持リョウジである。


 ただ、顔色が悪い理由は、緊張している訳でも恐れている訳でもない。

 只の疲労だ。


 「予定通り・・・・・・ではありませんね」

 サングラスの奥でジロリと睨みつけるも、加持は気にも留めずに見つめ続ける。


 事実、使徒は裏死海文書から大きく逸脱している。

 第参、第四までは良かった。

 それは記述どおりであったから・・・・・・。

 しかし、第伍使徒は二重構造体であったし、第六使徒は突撃型というだけではなく戦術的撤退までする始
末。

 更に第七使徒に至ってはその逃げた第六使徒と合体しており、攻撃を加えると三分割した。

 第八も羽化することなく繭のまま弐号機と戦い、第九使徒は地形と自分を同化させるし、第壱拾使徒など
“鉄槌”だった筈が“楔”である。

 そして第壱拾壱使徒は・・・・・・・・・。

 未だ姿を現さないのだ・・・・・・・・・。


 流石にゼーレも苛立っている。

 使徒襲来のスケジュールが狂っている上、幹部が減ってしまい、自分らが築き上げてきたシナリオがひん
曲がっているのだ。


 人類補完計画───と言えば聞こえは良いが、主に自分らの為だけの計画である。

 全てをそれに捧げてきた彼らにとって、シナリオ崩壊はアイデンティティーの崩壊でもある。


 全ての敵対組織を葬った彼らだが、まさか死海文書そのものに裏切られるとは・・・・・・全く持って思いもよ
らなかった事である。


 もっとも、だからこそ加持は楽しんでいるのだが・・・・・・・・・。


 「貴様も予定を狂わせた一人だ・・・・・・」

 少しの沈黙の後、口を開いたのはゲンドウだ。

 「言い訳はしたくありませんが・・・・・・・・・自分が“玄室”に行った時点で“アダム”は奪われた後でした。
  無論、追いましたがね・・・・・・いつの間にか自分が奪った事にされてましたが・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・」

 「文句なら委員会の追跡者に言ってください。よりにもよって大型銃で射殺されたものですから頭がなく
  なって確認が取れなくなったんです」

 「・・・・・・・・・」

 「調べてみましたが、殺害されたのは委員会の下部構成員らしいんです。“らしい”と言うのは、DNA判
  定しようにも全下部構成員の塩素データが消失していました。まぁ、“何者か”に消されたんですな」

 「・・・・・・・・・」

 「そこから負っている間にシッポを切られたと言う訳です」

 「・・・・・・・・・まぁいい」

 「期待に沿えず、申し訳ありません・・・・・・・・・その代わり“アルバイト”は止め、本部の為だけに働きます」

 「ふん・・・・・・」




 ゲンドウはサングラスを鈍く光らせて加持を退出させた。

 駒は少しでも多い方がいい。

 地下に“立てかけてある”“槍”にしてもそうだ。

 本当ならば我が手にアダムを移植するはずであった。

 だが、何者かに奪われ、今は行方不明。

 加持と言う手駒を用いて探索を続ける他は無い・・・・・・・・・。

 「ユイ・・・・・・・・・」



 盲愛する妻と再会する為だけの計画が・・・・・・・・・・・・。

 ゼーレの人類補完計画と共に音を立てて崩れようとしていた・・・・・・・・・。






 「痛つつ・・・・・・・・・」

 司令室を出、なんとか落ち着くと急に腰に痛みが走る。


 昨夜、久しぶりにミサトと一夜を過ごしたのであるが、少し飛ばし過ぎた様だ・・・・・・。


 本当は心から求めていた女との逢瀬が、


 『今日は絶対に帰さない』

 と正直に自分を曝け出した事が、


 『・・・・・・あの時はゴメン・・・・・・』

 という謝罪と共に自分を受け入れてくれた事が、

 これから一緒に戦い、知らない場所で死なないと言う現状が、

 なんとも言いようの無い高揚を与えていたのだ。


 「しょうがない・・・・・・リっちゃんに薬でも分けてもらうか・・・・・・」

 少なくとも、栄養剤くらいはあるだろう。

 『あのね・・・・・・ここは薬局じゃないのよ?』

 と呆れた顔をする友達の姿が簡単に思い浮かび、苦笑しつつもリツコの私室へと向かう加持。


 そんな加持に、


 「おっはよ♪ 加持くん」

 柔らかく笑って挨拶してくれる女性がいた。

 「おお、我が姫。ご機嫌麗しゅう・・・・・・」

 と大げさに挨拶する加持であったが、

 「ば〜か」

 と微かに照れて微笑んでくれるミサトを見る眼には、



 確かに嘘偽り無い、真っ直ぐな愛情が満ちていた。









 加持は誓う。


 司令にはあれだけ飄々と嘘八百を述べた自分も、


 ミサトには・・・・・・この、ずっとそばにいてやりたい女だけは、

 決して騙したりしない・・・・・・・・・と・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。







 そんな男の誓いを知る筈もないミサトは、




 加持を前にして、見たこともないような笑顔を向けてくれた・・・・・・・・・。






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    For “EVA” Shinji 

        フェード:弐拾八

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 今日も穏やかな日が続いていた。

 使徒の来襲も無く、シンジ達はNERVに戦闘訓練に行く以外は学校生活を堪能している。


 相変わらずアスカとレイはシンジにベタベタと引っ付き、下校時には牽制する形でハルミとチヨが寄って
来る。

 当然ながら迎撃に入るが、その隙をいつも榊に突かれてしまう。

 彼女は猫好きというパーソナルがあるので、アルファがらみで話し掛ける事ができるのだ。

 で、その彼女に対して迎撃に戻ると今度はハルミとチヨが引っ付く。

 傍目には笑えるが、アスカ達の心労もたいしたものである。


 ヒカリの様な腐女子から言えば、シンジを頂点とした愛人ピラミッドというか大奥に見えないことも無い
し、自分の姉妹に語ったように“シンジ御主人様説”の提唱者であるから、(生)あたたかい目で見る事しか
出来ない。

 そしてトウジはハルミを応援しているし、ケンスケは我関せずだ。

 もっとも、ケンスケはおこぼれがあったらな〜〜等と不埒な思いもあったりなかったり・・・・・・・・・。



 まぁ、それはともかく、



 アスカとレイのアドバンテージは、マンションにある。

 彼女達はシンジと同居しているのでいくらでも行動に移ることができるのだ。

 事実、彼女達とシンジの関係は少し進んでいたりする。






 朝日が入る込むコンフォートマンション。

 今日も平和な朝を迎えられた。


 夕べは肉料理(当然レイには使っていない)だったので、朝食は軽めにしよう。

 そう和食の下ごしらえをし、二人を起こしに行く。

 やや顔を赤くして、アスカの部屋のドアをノックする。

 「アスカ〜〜、朝だよ〜〜〜。」


 シ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン


 「アスカぁ〜〜〜〜」


 シ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン


 溜息をついてドアを開ける。


 そこには、

 窓から零れる朝日の中、高級な紅茶もかくやといった赤みがかった金髪の美少女がベッドで眠っていた。

 「アスカぁ、朝だよ。起きてよ」

 ゆっさゆっさ

 身体を揺すって起こそうとするも、

 「・・・・・・・・・やーん」

 甘えて起きてくれない・・・・・・。

 「アスカ、朝だよ。お風呂も沸いて・・・・・・・・・むぷっ」

 身体を前倒しにして揺すったのがいけなかった。

 シンジの頭はアスカに抱え込まれ、今日“も”唇が塞がれてしまった・・・・・・・・・。

 身体を硬直させるシンジをよそに、少年の感触を堪能したアスカは本格的に起動を果たしてゆく。

 「ぷはぁ・・・・・・Guten Morgen♪ シンジ♪」

 「お、おはよう・・・・・・」

 爽やかな目覚めに、アスカの心身は軽い。

 ベッドから飛び降りるように出て、着替えを取り出す。

 「あれ? シンジ。アタシの生着替え見たいの?」

 なんだか途轍もなく嬉しそうにそう言った。


 「え? あ、あのっ、お風呂入ってよ!! それじゃあ!!」


 慌てて飛び出してゆくシンジに、アスカは笑いが止まらない。

 ひとしきり笑った後、少し考えて着替えも持たずに風呂へと向かった。

 風呂から出た時のアスカの姿を見たシンジを想像して、その頬は緩みっぱなしであった・・・・・・。





 「綾波〜〜」

 シ〜〜〜〜〜〜ン・・・・・・・・・。


 同じである。


 この程度で起きる彼女ではない。

 またも溜息をついてドアを開ける。


 コレだけ毎日溜息をついて幸せが逃げないのだから大したものだ。


 実際、彼の生活は、一部の人間から言えば血の涙を流すほど羨ましい。


 美少女二人と美女との生活。

 洗濯に至っては、最近は交代でやっているものの、彼の当番には下着すら洗わされる。

 “あの”アスカとレイ、そしてミサトのを・・・・・・である。

 その事実は流石に一部の人間───学校ならヒカリ、NERVならリツコ───にしか知られてはいない
が、知られたら知られたらで問題が発生するだろう。


 そして、その羨ましい生活内容のもう一つが起きようとしていた・・・・・・・・・。


 「レイ・・・・・・?」

 仕方なく部屋に入るシンジ。

 部屋のベッドで丸まっているレイに気付き、近寄ろうとした瞬間、彼の首に白く柔らかい何かが巻きつい
た。

 「碇君・・・・・・」

 「あ、綾な・・・・・・・・・む・・・」

 入り口のすぐ横で野生の獣のように気配を消していたレイが、首に腕を巻きつかせ唇を奪ったのである。


 ベッドの上にあるのはクッションだったのだ。


 『あ、綾波ぃっ?!』

 すぐに気が付いた。

 彼女は全裸だった。

 どうにか振りほどこうとする度に、彼女の身体のどこかに触れ、スレンダーとはいえ女の子である柔らか
さを感じてしまい上手く行かない。


 それに、さしものシンジも全力で貪って来る野獣には敵わない。


 一分・・・・・・。

 一分三十秒・・・・・・・・・。

 口内は蹂躙され、もはやレイの味しかない。

 二分・・・・・・。

 二分三十秒・・・・・・・・・。

 意識を支えるが柱が飛び、気が遠くなってきた。

 レイは唇をはなし、ニヤリと笑う。

 「さあ、碇君・・・・・・一つになりましょう・・・・・・それはわたしに痛みを与える代わりに、快感をあなたにあ
  げられるの・・・・・・」


 そう、のたまってシンジに覆い被さるレイ。


 シンジくん、大人へ・・・・・・か?


 「くぉおおおおおおおおおおおおおらぁあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!

  レイ!! 抜け駆けすんじゃないわよ!!!!!!!!!!!!!!!!!」




 ずどぉおおおんっ!!!




 レイの後頭部に怒れる赤い戦鬼の膝が入った。

 涙眼になって蹲るレイ。

 「・・・・・・・・・何をするのよ」

 「何をするのって言いたいのはこっちよ!!!

  人がお風呂に入っている間にシンジを寝取ろうなんて・・・・・・いい度胸してんじゃないの!!!!」

 「そう? ありがとう・・・・・・」

 「ほめてんじゃな〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!!!!!!!」

 その怒声にシンジも再起動する。

 だが、

 「ア、アスカぁ?! なんて格好してんだよぉ!!!!!!!!」


 そう、アスカは風呂から飛び出してきたので全裸だった。

 全身を湯で濡らし、とても艶かしい。



 廊下はビショビショだったが・・・・・・・・・。



 「やーん・・・・・・シンジにアタシの恥ずかしいトコ全部見られちゃった〜〜〜♪

  これは責任とって貰わないとね〜〜〜〜〜〜♪」


 笑顔で恥ずかしがられてもシンジは困る。

 それに、アスカは胸すら隠していない。


 「まだ寝ぼけてるの? 赤毛」

 蒼銀の髪の少女がアスカを睨む。

 「最初に全てを見せたのはわたしよ・・・・・・わたしの隅々まで碇君に見られたわ・・・・・・。

  責任をとるのは、わたしに・・・よ」

 「ぬぁんですって〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜?!」

 部屋から逃げ出すシンジ。

 だが、加速力で勝るアスカは赤い彗星と化してシンジの首根っこを掴む。

「ア、アスカぁ・・・・・・・・・」

 情けない声で懇願するも、虐めて光線を発しているとしか受けてくれない。

 事実、アスカの目はいじめっ子の目の色になっていた。

 「シンジぃ・・・・・・こうなったら、アタシも隅から隅まで見てもらうわよぉ・・・・・・・・・」

 「え? う、うそっ?! や、やめ・・・・・・・・・」



 「や〜よ♪」



 朝のコンフォート。

 幹部クラスのマンションである為、他に住む者もいないのを幸いに、


 少年の叫び声が響き渡るのであった・・・・・・・・・。




                  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 「パターン、オレンジ。未確認。不規則に点滅を繰り返しています」

 索敵データをまとめる為にセンサー部を受け取っているマヤが報告する。

 「もっと正確な座標を取れる?」

 モニターに分割する地表データにも変化の兆しは無い。

 視認できないとでも言うのか?

 「これ以上は無理ですね・・・・・・何しろ反応が小さすぎて・・・・・・」

 それでもキーを叩き、どうにかMAGIと直結させて意見を問うも保留のみ。

 何しろデータが少なすぎる。

 「地下・・・・・・か・・・・・・」

 なんだか生活が充実しており、頭の回転が速いミサト。

 「そのようです。深度は、約300m」

 日向はミサトの勘に驚きつつも、報告を怠らない。

 その日向の言葉が切れた瞬間、センサー部が変化を捉える。

 「パターン、青に変わりました!!」

 マヤの声に、ミサトが逸早く反応する。

 「使徒?!」

 「え? あ・・・・・・目標をロスト!! 全てのセンサーから反応が消えました」

 「観測ヘリからの報告も同じ目標は完全に消失」

 インカムに手を当てたまま、青葉も肩を落とす。

 「どういうこと・・・・・・・・・? 先週からこれで三回目よ?」

 「試しているのかもね・・・・・・私たちの能力を・・・・・・」

 マヤの後からサポートしていたリツコがミサトの言葉に反応する。

 「ふん・・・・・・やってくれるじゃない・・・・・・・・・“壱拾壱番目”はおりこうさんってワケ?」

 不適に唇の端を上げる作戦課長。

 どんな報告でもミサトの戦意はそのままだった。

 「日向君、消失想定地域を中心に半径30kmまでセンサーポールを起動!!

リアクティブソナーを起動させっぱなしにして、動きを追って!!!」

 「了解!!」

 「青葉君!! 観測ヘリを撤収して補給の後、哨戒機と出して!! 水ン中に潜ってないとも限らないし
  ね。
  それとマヤちゃん、監視衛星をMAGIに繋いで!! 地表の変動計測をさせて移動想定を行ってちょ
  うだい」

 「「了解!!」」

 にわかに活気付く発令所。

 オペレーター達も素早いミサトの指示に感心しつつ、自分の仕事に没頭してゆく。



 そんな中、リツコだけは・・・・・・・・・。

 『やっぱり、女は男で変わるわね・・・・・・・・・』

 と、ミサトと加持の事を考えていた・・・・・・。




                  *   *   *   *   *   *   *   *   *




 「ねぇ、ケンスケ。転校生の話とかないの?」

 「はぁ?! 何だよシンジ。藪から棒に・・・・・・」

 「うん。ちょっとね・・・・・・」


 黒板に書かれた“文化発表会”の文字。


 “歴史的”に見て、ここにやって来ているはずの少女がいないのである。


 「う〜〜ん・・・・・・聞いたこと無いなぁ・・・・・・どうかしたのか? 知ってる奴でも来るのか? NERVが
  らみの話しか?」

 メガネを光らせ問い詰めるケンスケ。

 当然ながら言える訳が無い。

 「ううん。ちょっとね・・・・・・来たら楽しくなるかな〜〜って・・・・・・あははは・・・・・・」

 愛想笑いで誤魔化すしかなかった。

 「ふ〜〜ん・・・・・・怪しいなぁ・・・・・・」

 「あは、あはは・・・・・・・・・はぁ〜〜・・・・・・」


 少し悩む。


 もうすぐ“番外”の使徒が来る。


 あの時、使徒を撃退できたのは、転校生“山岸マユミ”が自分の中に仕掛けられていたコアを拒絶し、飛
び降り自殺を敢行したからなのだ。

 結果、使徒を殲滅することが出来たし、何故かマユミも無事であった。

 しかし、それでもギリギリの戦いだったのだ。


 “前回”マユミが転校してきたのは、政府筋の技術官である父親が技術交換の為に第三新東京市に来てい
たからである。


 蝶の羽ばたきの様なちょっとした変化が、思わぬ所で暴風・・・大きな変化をもたらすかもしれないという理
論・・・・・・・・・所謂、<バタフライ効果>だが、それは三人が“帰還”してから様々な形で発生している。


 “前回”はいなかった南部キョウスケ、エクセレン・ブロウニング、そして、キョウスケの伝でNERVに
招かれた東郷リシュウもそうである。

 この三人が加わって、ミサトやリツコも内面的な変化を遂げ、本部内との繋がりも激変しているのだから
大したものである。

 もっとも、激変の理由はシンジ達が直接起こしているのであるが、自覚がないから仕方が無い。


 それはともかく、


 実は技術交換も何も、山岸技術官はとっくに招かれ、必要なものをとっとと交換して帰っているのだ。

 時間がかからなかっただけである。

 リツコがテキパキと指示を送ったからだと言うこともあるが、今やNERV傘下で対使徒殲滅用兵器及び
応用作業機開発の陣頭指揮を執っている時田技術部長がクッションとなって交換作業を手伝ったのだ。

 そりゃ、必要不必要の差も解かると言うもの。

 実際、僅か3日で終了したのである。


 よって、マユミの出番は無しであった。





 発表会が近寄っては来るものの、授業が無くなる訳ではない。

 男子は外でバスケ。

 女子はプールで水泳である。


 ケンスケは超望遠レンズでスク水の天使を追い、トウジは暑さに茹だり、シンジは純粋に体育を楽しんで
いた。

 事実、皆といるこの時間が大切で、そして楽しい。


 例え怒られても、

 痛くても、

 “この世界”が好きなのだ。


 他愛無いじゃれ合いも、掛け合いも、シンジにとっては宝物なのだ。


 そして、


 「シンジ〜〜〜〜〜っ♪」
 「碇くぅ〜〜ん」


 水着姿で手を振る天使。

 大切な絆が微笑んでる。


 その二人に、遠くだというのにハッキリと届いてしまう笑顔を発射する。

 悶える二人。


 「シ、シンジ・・・・・・やっぱスゴイで・・・・・・」

 「何が?」

 ボソリと感想を述べるトウジ。

 彼称するところの、シンジは“撃墜王”である。

 その腕前はまさしくエースパイロットだ。

 EVAだけでなく、女殺しでもエースだと言うことか。

 「ま、ワイとしてはハルミの相手もちゃんとしてやってほしいんやけどな」

 「え? ハルミちゃんの?」

 当然ながら裏の意味で、『ハルミと結婚したってくれっ』という兄バカ丸出しの部分もあるのだが、シンジ
が気付く訳もない。

 「ま、たまにかまったらんと落ち込むよってな・・・」

 そして、その腹いせが自分に来る・・・・・・(涙)。

 「そっか・・・・・・じゃあ、文化発表会に誘ったら? たしか小学校の方は休みだよね?」

 「おおっ!! そら名案や!! さっすがシンジ!!!」

 『こんなに喜んで・・・・・・やっぱり妹想いなんだね』

 と優しいトウジを感心するシンジの前で、

 『やたっ!! これでハルミのご機嫌取ったら、メシのレベルが上がるでぇ♪』

 と、実にヘッポコに兄貴っぷりをかましていた・・・・・・・・・。



 え? ケンスケ?

 彼は二人の足元に転がってる。

 顔にデッキブラシをめり込ませて・・・・・・。


 “前回”は、アスカをイラつかせたシンジが喰らった攻撃を、水着で悶える二人の写真ゲッチューしよう
としていたケンスカが喰らったのだ。

 ま、ケンスケだし、自業自得だし、帳尻が合うからいっか♪

 「ひ、酷・・・・・・・・・・・・」




                 *   *   *   *   *   *   *   *   *



 加持は歩く。


 保安部からの報告を聞き、部下となった数人の猛者を連れて・・・・・・。


 そして加持は追った。


 その男を。


 猛者であった“筈”の肉塊を後にして・・・・・・・・・。


 走ろうにも腿をやられている。

 逃げようにも逃げ場が無い。

 既にエレベーターは押さえられ、非常用ルートは閉鎖済みだ。


 マズった・・・・・・・・・。


 侵入者の目的は“ココ”じゃない。

 恐らくはチルドレン・・・・・・・・・そして、オレの命・・・・・・・・・。


 そいつは何故、こんな大雑把な行動に入ったのか?

 理由は簡単だった。


 本部が浮き足立つチャンスが巡ってきたからだ。


 そう・・・・・・・・・“敵”が来たのである。









 「受信データを照合!! パターン青!! 使徒と確認!!」

 マヤのデータインカムに付いたマイクから響くのを待つ必要も無く、口から響く警戒の声。

 「警戒中観測機一一三号より入電!! 目標の移動速度、約七十!!」

 青葉の口頭を受け、ミサトが叫ぶ。

 「総員、第一種戦闘配置っ!!」

 すべるようにキーを叩き、日向が映像をモニターに持ってきた。

 「映像、入りますっ!!」



 ブゥウウウウウウウン・・・・・・・・・。



 そこに映ったのは、

 トゲだらけの繭・・・・・・或いは卵・・・・・・。

 いや、暗い虹色の卵型のウニ・・・・・・と言ったほうが良いのかもしれない。

 それがスライスされたかのように横に薄切りになって浮いていた。


 「何よ。あのスライスウニは?」

 見たまんまのミサト。

 「各部、スケール以外は不明!!」

 日向の言う通り、なんとなく漂って来ている以外、行動らしい行動が無い。

 「さんざん地下に潜んでたのに、今になって出て来た理由はなんなの?」

 誰に問うと無く口に出すミサト。

 「こちらの手の内が読めたのか」

 流石にすぐ後を続けられるリツコ。

 「或いは、より具体的な情報がほしいのか・・・・・・」

 親指の爪を噛んでから、直属の部下へ顔を向けずに問い掛ける。

 「碇司令は?」

 「迎撃は、葛城一佐に一任するそうです」

 ちっ・・・と舌打ちをして思考チャンネルを切り替える。

 確かにシンジ達の事をおっぽり出している司令には憤りを感じるが、そんなくだらない事に関わっている
時間はないのだ。

 「シンジ君達に非常招集!! 青葉クン!! 山間部ランチャー、及びロープウェイのカノン砲、ガシガ
  シいっちやって!! パイロット到着までの足止めは一任するわよ!!」

 「了解っ!!」

 命令を受け、キーロックを解除して迎撃システムを起動させる青葉。

 「マヤちゃん!! 攻撃着弾時からのモニタリング、頼むわよ!!」

 「ハイっ!!」

 MAGIのサーチシステムを起動させ、一片の情報も逃がさないよう目を見開くマヤ。

 「日向クン!!」

 「了解っ!! 一般市民の退避命令、及びビルの撤収はスタートさせてます!!」

 「オッケー!! ナイスよ!!」


 リツコは、そんな発令所の光景を見、笑みが浮かぶ。

 日向君には悪いけど、加持君と再会してから物凄く気合が入ってるわ・・・・・・。

 それも良い方向にね・・・・・・・・・。


 元気な友の姿・・・・・・。

 それはとても心地よいものだ。

 例え命が掛かった戦場だとしても・・・・・・。


 「さ〜〜て・・・・・・行くわよ!! 壱拾壱番目!!!」


 こうして、第壱拾壱使徒と呼称された“イレギュラー”との戦いの火蓋が・・・・・・・・・。

 切って落とされた。






 この戦いのキーパーソンが、その地下にいるとも知らず・・・・・・・・・。







                                           TURN IN THE NEXT...


作者"片山 十三"様へのメール/小説の感想はこちら。
boh3@mwc.biglobe.ne.jp

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