「ふぅ・・・・・・・・・」 レギュラーサイズの紙コップに入った烏龍茶を片手に、その少年は憂いを帯びた溜息をついた。 これがその辺の中学生というのなら、「あらあら成績の心配かしら? それとも初恋?」とでも思われるで あろうが、残念ながら“その辺の中学生”なんてレベルじゃない。 顔つきだけであるのなら“美少年”と言う程度のレベルなのであるが、人間の魅力と言うものは“顔”だ けではない。 それを体現するかのように、その少年から醸し出されるオーラはただ事じゃないくらい周りに影響を与え ていた。 店の中の他の客も、接客教育をみっちり受けたはずの店員も、その優しげいて憂いのある美少年の“溜息” に自我を失い、ただただ魅入っていた。 では、至近距離にいる者達はどうなのだろう? 彼の直横に陣取っている赤みがかった金髪の少女は片手にポテトをもったまま真っ赤になって硬直しており、 少年を挟む形で反対側に座っている蒼みがかった銀髪の少女も、シェイクのストローを咥えたところで赤 くなってフリーズしていた。 その少年の斜め前には小学生らしい女の子が二人、一人前のチキンナゲットを分けて食べていたのである が、 黒髪ボブの女の子はマスタードソースに、 やわらかな栗色の髪のツインにした女の子はバーベキューソースに、 其々の器にナゲットをつけたまま、やはり真っ赤になって硬直している。 少年の右隣のテーブルでは、先輩の少女・・・・・・・・・。 長い黒髪のきりりとした美少女が足先と顔の中ごろと尻尾の先が白色の黒猫を撫でている途中で顔をリン ゴのようにしてフリーズっていた。 その反対側・・・・・・少年の左隣には、別の三人。 角刈りジャージの少年と、真面目そうなおさげの少女と、メガネをかけてカメラを持った少年がいた。 二人の少年は学校でいつもこの攻撃を受けているので、さほどダメージはない。 おさげの少女は心を占めている対象が真横のジャージであるし、少年を(かなり)誤解をしているので彼 女も心を動かされない。 今更言うまでもなく、憂いげな溜息をついているのはシンジである。 ここは街にあるファーストフードの外。 下校途中に皆がシンジ達を『久しぶりに一緒に帰ろう』と誘ったのだ。 もちろん、拒否する理由は無い。 だからアルファも行けるオープンカェスタイルのこの店に来たのである。 外は暑いかなぁと思ったが傘を立てた日陰でのテーブルは、軟いビル風もあって中々に涼しかった。 シンジのいるテーブルには、当然としてアスカ,レイ。 そして、ハルミとチヨがちゃっかりと同じテーブルにいたりする。 頭が良いチヨは、アスカ達に聞いたりせず、シンジに直接、 「シンジさん。相席していいですか・・・・・・?」 と、やや恥ずかしそうに聞いたのだ。 当然ながら断る少年ではない。 お陰でアスカとレイはお冠であった。 そんなハルミの様子に、兄バカのトウジは、 『ハルミ、がんばるんや・・・・・・・・・。シンジの嫁っちゅう位置は、お前の根性次第なんやで・・・・・・』 と、陰ながらの応援をし、 腐女子ことヒカリは・・・・・・・・・、 アスカとレイの異変に気付いていた・・・・・・・・・。 彼女の右腕が妙に薄桃白いのである。 元々アスカは色白であるが、その右腕だけが別のを取ってつけたかのように淡い薄桃白い色をしているの である。 そして、体育の時間に着替えているレイの腹部に見た薄桃色の丸い痕・・・・・・。 二人とも、そう目立つ色の違いがある訳ではない。 ただ、二人とシンジの関係を誤解しまくっているヒカリにとっては、(ナゼか)観察対象なのである。 でなければこんな差を発見できる訳が無い。 『碇君・・・溜息ばかり・・・・・・・・・そしてアスカ達の身体の痕・・・・・・・・・』 ヒカリの顔色が変わった。 『そ、そんな・・・・・・・・・そんなヒドイ事を・・・・・・・・・。 でも二人とも嬉しそうにしてる・・・・・・・・・ああ・・・・・・・・・神様・・・・・・なんて罪深い・・・・・・・・・。 ハッ!! ま、まさかあの有名な行為・・・・・・“ぴあっしんぐ”を・・・・・・?!』 ナゼにそこまで論理飛躍するかは甚だ疑問であるが、ヒカリの思考はそこまですっ飛んでいた。 腐女子と化したヒカリの暴走は家でも騒動を起こしており、夕べも姉であるコダマが手に入れて喜んでい たビンテージ物のジーンズを“ボンテージ”と聞き間違え、またも人間ダンシングフラワーに変身している。 それでも勘違いは失礼なので(既に勘違いの極致になってはいるが・・・・・・)確認の為に席を立ってアスカ 達に寄って行った。 「ね、ねぇ、アスカ・・・・・・レイ・・・・・・」 「え・・・・・・?! あ、ああ、ヒカリか・・・・・・」 「あ・・・・?! ヒカリ・・・・・・さん?」 まだ顔が赤いが、二人共なんとか現世に復帰できた。 「そ、その・・・・・・ええと・・・・・・その・・・・・・・・・」 「・・・・・・どうしたの?」 「ヒカリさん?」 何時に無く言い澱むヒカリに、怪訝な表情を浮かべる二人。 そんな二人に意を決したヒカリはその事を口にした。 「あ、あのね・・・・・・その・・・・・・つけた後、痛くないの・・・・・・・・・?」 「はぁ?」 「?」 当然ながらナニを言っているか解からない。 「その・・・・・・えと・・・・・・あ、“穴”の開いたトコとか・・・・・・・・・」 ピアス穴の事であるが、しどろもどろなので良くわからない。 と言うより、好意的に取っているアスカ達には、 『使徒戦で付けられた傷痕の事を心配してくれている』 と言う意味合いに聞こえた。 「大丈夫よヒカリ。 アタシ達に付けられた痕は目立たないようにNERVで処置してるわ」 ───NERVってそんな事もするんだ・・・・・・・・・(注:誤解です)。 「ヒカリさん・・・・・・わたしたちに(使徒との戦いで)つけられた傷は碇君との絆なの・・・・・・・・・。 だから、痕を見る度に碇君を(守ることができたって)想えるの・・・・・・・・・・・・。 気にしないで・・・・・・・・・」 ───さ、流石はレイ・・・・・・肉奴隷壱号というだけはあるわ・・・・・・・・・・・・(注2:大誤解)。 行き着くトコまで思考を飛ばしてしまっているヒカリは、やはり(生)あたたかい笑みを二人に向け、 「そっか・・・・・・じゃあ、私に言うことはないわ・・・・・・・・・。 ガンバってね・・・・・・」 と、席に戻っていった。 「ヒカリ、ありがとう」 「ありがとう・・・・・・」 感謝の念を送るアスカとレイ。 “フケツ”と言う言葉を使い忘れ、フケツな思考の塊となっているヒカリ。 思惑の違いとは恐ろしいものである・・・・・・。 で、そのシンジは何を考えているかと言うと、 明後日に迫るイロウルの事を悩んでいたのである。 イロウルから如何にしてアスカ達を守るか・・・・・・という事に思考を取られ、 『守りたい』、『絶対に負けない』という意思の“念”をぶち撒いていたのだ。 そんなことを考えていれば当然、“優しさと強い意志を持った美少年が悩んでいる”という構図になる。 絵になる事この上もない。 このファーストフード店は、シンジという美少年のオーラに店内外が精神汚染されていた。 『ホント・・・・・・無意識だから犯罪だよなぁ・・・・・・』 と、この中では一番人間性を失っていないケンスケのみが縁側で茶を飲む老人が如く、 悟りきった顔でコーヒーを啜っていた・・・・・・。 ズズズ〜〜〜〜・・・・・・・・・。 ああ・・・・・・コーヒーが美味しい・・・・・・・・・。 ───────────────────────────────────────────────────────────── For “EVA” Shinji フェード:弐拾伍 ───────────────────────────────────────────────────────────── 「じゃ、全裸になれってのね?」 『話が早くて助かるわアスカ』 ネルフの特殊起動実験室へのルート。 超クリーンルームへの道である。 リツコが言う前にアスカとレイが脱いでくれているから話が早くて大助かりだ。 もっとも、“知っているから”であるのだが・・・・・・。 「ここから先は超クリーンルーム・・・・・・シャワーを浴びて下着を替えるだけでは駄目なのね・・・・・・」 『そうよレイ』 するすると裸になるレイ。 実験などで全裸になる事に慣れているからだ。 反対に慣れていないのが・・・・・・。 『シンちゃ〜ん。男らしくないわよん♪』 「そんな事言われたって・・・・・・」 初めて健康診断をうける女の子が如く。もじもじと服を脱ぐシンジ。 二回目とはいえ慣れたものではない。 それに・・・・・・・・・。 「さぁ、シンジ!! とっとと行くわよ!!」 「行きましょう、碇君」 「やめてよ・・・二人とも・・・・・・」 ニヤリと笑いながらシンジの前に仁王立ちするアスカと、同じ笑みを浮かべながら後ろ手にして自分の身 体を“魅せる”レイ。 思春期のシンジはタイヘンである。 『膨張した?』 物凄く楽しそうな声で質問するミサト。 「ミサトさぁああんっ!!!」 情けないシンジの声に、モニタールームで待機するミサトとエクセレンは笑い転げていた。 * * * * * * * * * 17回もシャワーの洗礼を受け、ちょっと不機嫌なっていたアスカとレイであったが、シンジの身体を見て その気持ちが切り替わる。 新たに右手首と左足首に加わった白い痕を見たのだ。 左腕はいつも犠牲にしている為、中々色が直らない。 よって、シンジの身体はまるでクローニングパーツを接着させたかのように継ぎ接ぎに見える。 それは前にも見ていたことである為に胸をチクンと痛めた程度だ。 今、彼女達が反応しているのは、シンジの身体つきである。 前にプールで見たときよりも、もっと研ぎ澄まされているのだ。 実際、NERVにこもる時は戦闘訓練がメインなのでリシュウに扱かれまくっている。 そのせいでシンジの身体には戦闘用の筋肉以外の無駄な筋肉が全く無い。 しなやかな鞭・・・・・・・・・野生の黒豹・・・・・・・・・。 表現は様々であるが、その意味合いは同じである。 ガラスのような繊細な心を持っているというのに、鋼よりも更に固い意志をも所持し、 掛かる状況を屈しない灼熱の想いと、如何なる時にも他人を思いやるあたたかさを併せ持つ“今”の彼。 だから好きになったという訳ではない。 彼女達が好きになったのはこうも強くなる前だ。 強くなってくれたのは、好きになった後、 自分達を含む“絆”を守る為に心を先に強くした後なのだ。 それに“今”の強さは間違いなく“還って来て”から作り上げたものだ。 少年に心を奪われた自分を“昔”の自分が見たらどう思うだろう? アスカは“あの時”を思いやってみるが上手くいかない。 加持という男に擦り寄って行ったのも、加持を“男”として接していた訳ではなく、無意識に“父”を見 ていたフシがあった。 いくら自分で否定していようが、心の奥から欲していたのは“居場所”であり、“家族”だった。 だが、意地で全てをつっぱねていた自分は、自分から“対等”という立場を追っ払っていた。 日本に来て、初めて対等に自分を見つめてくれる人間に出会えたが、結局最後までその位置にいてくれた のはシンジだけだったのだから・・・・・・。 もっとも、“今”はNERVの中にも“弐号機パイロット”ではなく、“惣流・アスカ・ラングレー”という 一人の“女の子”として接してくれる人間は大勢いる。 しかし、それだってシンジの影響なのだ。 アスカはふと、“あの時代”の自分と“今”のシンジが出会ってたら面白かっただろうと思った。 多分、自分はその想いに気付いてかなり苦労していただろうから・・・・・・。 レイの方はレイの方で複雑だ。 司令が全ての“あの時代”。 その時に現れた司令と血の繋がった少年・・・・・・シンジ。 自分にとって全てである司令が、自分から離れて行ってしまうかもしれないという“恐怖”。 自分が人間ではないからと一人孤独の中にいた“あの時代”・・・・・・。 今から考えると馬鹿馬鹿しいことこの上もないし、吐き気がする。 あの起動実験事故からの救出劇でさえ、自分を縫い付ける手段であった可能性が大なのだ。 実際、自分の代わりが居ると真顔で言ってる張本人に言われても説得力がないし、助けてもらった時に見 せられた笑顔の爽やかさも逆に怪しい。 “あの時の”ラミエル戦後に助けてもらった時、 シンジが自分を見、生きている事に心底ホッとした笑顔。 どちらを信じるかと聞かれれば、答える必要もないほどハッキリとしている。 まったく・・・・・・“当時”の自分の美的感覚を疑ってしまう。 下水を見て“美しい”と感じていたのではないただろうか? と心配になってくる。 今でもそのせいでアスカにからかわれるのだ。 『アンタは司令がいたらいいんでしょ〜〜♪』 と・・・・・・・・・。 もっとも、当のアスカも、 『あなたにとっての大人の男って加持さんだけなんでしょ・・・・・・?』 とやり込められるのだが・・・・・・・・・。 『アスカ? レイ?』 スピーカーから上がるリツコの声に、ようやく復帰する二人。 二人ともシンジに見惚れて意識を飛ばしていたのである。 ともかく、実験に集中しなければ・・・・・・。 「リツコ・・・・・・映像モニター、ちゃんと切っといてよ? プライバシーくらい守ってもらわないとね」 他の人間に見せたくない。 この少年の身体は自分達だけのモノだ・・・・・・・・・。 『解かってるわよ。じゃあ、その姿のままエントリープラグに入ってちょうだい』 「「うん・・・・・・」」 アスカの大人しさに首を傾げつつ、リツコは作業にかかった・・・・・・・・・。 二人が呆けていたお陰で、シンジは恥ずかしさを感じずにプラグに入ることができた事も付け加えておこ う・・・・・・。 * * * * * * * * * 「各パイロット。エントリー準備完了しました」 何となく微笑を浮かべながらマヤが報告する。 やっと・・・・・・という気もしないではない。 「テストスタート」 リツコがテストの開始を告げる。 ガラス越しに三対の模擬体が見えていた。 その三対の模擬体は首のない上半身だけの巨体を水中に漂わせている。 色と言い、姿と言い、水死体を想像させられエクセレンですら僅かにぞっとした。 その模擬体に差し込まれるエントリープラグ。 「テストスタートします。オートパイロット、起動開始」 「シュミレーションプラグを挿入」 「システムを模擬体と接続します」 「シュミレーションプラグ。MAGIの制御下に入りました」 着々と実験が進み、ザアアアアーーっとモニターに情報嵐がなだれ込んでくる。 前回との進み方の速さの違いにミサトは感心していた。 「お〜〜、速い速い。MAGIさまさまだわ。初実験のとき、1週間もかかったのがうそのようねぇ〜」 腕を組んでお気軽な口調で実験の経過を誉める。 「げっ。そんなにかかったの?」 実験初見学のエクセレンがゲンナリとして言った。 「そうよん♪ システムが完成してなかったってこともあるけどね」 「はぁ・・・」 イヤそうな眼では模擬体を見つめるエクセレン。 「テストは3時間で終わる予定です」 テストが進む中、リツコの思考は別のところにいた。 次々に相互交換が行われてゆくMAGIと模擬体のデータ。 今日まで皆で必死になって行われていた第127次の定期検診を済ませ、最適化が終わりメモリ的にもスリ ムになったMAGIからの送られて来るデータを見ながら母を思い出していたのだ。 MAGIシステム・・・・・・母の残した遺産。 母のココロが移植されており、それぞれが母、科学者、女、と三つの角度から思考する三機三系統のシス テム・・・・・・。 ───時々陥るジレンマは、自分という存在が別にいるという事実から起きるものかしらね・・・・・・。 そう思う事がある。 誰だって自分は自分だけと思っているのだ。 自分が別にいるという事実は、自分の否定でもある。 自分の真偽という心の行き着く壁が出来てしまうのだ。 “今の自分は自分”という特殊な思考の“レイ”の様に割り切って生きられる訳がない。 自殺した母。 “母”として、“科学者” として、“女” としての自分をMAGIに残して生きる母。 どちらが正しいとは言えない。 時間と共に、知識と経験を蓄えてゆくところは人間と同じに見える。 だが、時間と共に変わってゆく“変化”がない。 状況によって思考形態を変える“進化”はあっても、対応を改める“進歩”がない。 三機で話し合わなければ案が纏まらない上に、其々が自己主張する為“協調”がない。 常に状況の最善の方法をとる為に、結果が生み出すものの可能性についての考察は出来ても、結果の向こ う側にあるものに気がつかない。 母はいつまでもMAGIの中にいて、自我不変に“存在”し続けるだろう。 想いも愚かさもそのままに・・・・・・・・・。 自分はMAGI等の“システム”から言えば愚直で非効率な存在だ。 だが、そうやって“足掻く”のが生き物であり、人間なのだ。 過去、このような“MAGI”という功績を残せた母を疎んでた自分があった。 自分は組み上げただけ。作り上げたのは母・・・・・・・・・と。 だが、ハードだけでは何も出来ない。 ソフトを組み上げ、最適なシステムを構築し効率よく使用するのは我々なのだ。 キカイという器の中、人口タンパク製の文字通り“電子頭脳”と化して幸福なのだろうか? 最終的には男に裏切られ、死を選んだ母。 だが、まるでその男にしがみ付く怨念の様に、“キカイ”となって今も“生きている”。 自分はそんな存在になるのは真っ平である。 生きているのなら、あたたかい温もりとの触れ合いがほしい。 傍にいてほしい。 理解してほしい。 抱きしめられたい。 そのココロは捨てきれない。 だけど、それでいい。 自分は“女”“科学者”の赤木リツコなのだ。 年をとることができる生物の特権を持っているニンゲンなのだ。 何の事はない。 昔、パーツの一つのように見ていたアスカと思考の方向は同じだったのだ。 キカイでしか世にモノを残していない母ナオコを目指していたのはなんだったかは“今”の自分には解か らない。 ちっょと前までの自分は男に見捨てられまいと理知的な仮面を被って必死に走っていた。 男が決して振り返らず、見向きもせず、ただゴールを目指すだけだと解かっているのにも拘らず・・・・・・。 だからそこに誇れるものは何も無かった。 だけど・・・・・・・・・。 「どうですかな?」 後からいつものように柔らかい声がかけられた。 これほど“剣豪”という言葉が似合わない人はいないのでないかと思うほど、穏やかで、知的でストイッ クな男、リシュウである。 見学に入る前に剣の鍛錬を済ませ、風呂で汗を流してきたのであろう、サッパリとした姿でやって来た。 「順調ですわ」 その彼にそう言って笑顔で答え、真剣な顔でモニターに戻った。 ───そう・・・・・・・・・私には皆がいる。 男一人に拘って、何も見ることが出来なかった貴女じゃない・・・・・・・・・。 私にとって必要なのは、“私たち”というネットワークなのよ・・・・・・・・・・・・。 解かる? もう一度振り返ってリシュウを見ると、彼は真っ直ぐに彼女の眼を見据えていた。 子供ら想う彼の好ましい姿勢にもう一度微笑を投げかけ、リツコはマイクから指示を送った。 「さぁ、次はアスカよ。両手を動かしてみて」 今は自分の仕事にある程度の誇りが持てる。 子供達を最前線に立たしている罪は消えない。 “レイ”というクローンと、その肉の器だけという“妹達”を生み出した罪は消えない。 その心の無いクローン体を使って、EVAに魂を入れる研究・・・・・・ダミーに手を染めた罪は消えない。 だが、自分の仕事は彼らを生きて帰らせる為に技術を磨き続ける事。 こんな事で免罪符を買うつもりも無い、 ただこれ以上、彼らを大人の身勝手な犠牲にしたくないだけ。 その為の研究・・・・・・・・・・・・。 それが私の道・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 母さん・・・・・・・・・私は勝ったなんて言わないわ。 だけどね、『負けた』なんて口が裂けても言わないわよ? そうね・・・・・・死ぬ間際に勝敗の結果報告してあげるわ。 待っててよね・・・・・・・・・。 * * * * * * * * * なぜ自分がココにいるか解からなかった。 いや、理解するまでの知性がなかった。 だが、本能はココじゃないと告げている。 そう、ココじゃない。 自分は竪穴に居たはずだ。 静かにその時を待ち、竪穴の壁にへばり付き、息を潜め、皆の目を欺く・・・・・・・・・。 その筈だった。 だが、現実的に自分はあそこじゃないココにいる。 何かが起こるのはわかる。 だが、微動だに出来ない自分はただ時間が過ぎてゆく中に存在することしか出来ないのだ。 自分はタンパク壁に着いたモノ・・・・・・・・・。 リリスの反応を察知し、行動する筈であったもの・・・・・・・・・。 今は液体窒素のプールの中で、電子の動きすら抑えられて只ひたすら眠っている。 自分に来る筈の目覚めの時を信じながら・・・・・・・・・。 「なぁ、シゲル。あのタンパク壁ってあんなことしてていいのか? すぐ焼却処分とかやんなくて」 「MAGIの指示だって言ったろ? こっちは従っただけさ」 「実験にとって弊害となる可能性があったんだろう・・・・・・超クリーンルームでの実験だしな・・・・・・。 賛成2保留1でMAGIが指示したんだ。 我々はそれに従うまでだよ」 日向と青葉の言葉を冬月がそう締めくくった。 「そうですね」 日向もその言葉に納得して責務に戻る。 索敵レーダーの強化と設置、そしてシステムとの連結に忙しいのだ。 こんな“些細な”ことに気をとられる訳にはいかなかった・・・・・・・・・。 彼らの足元の影・・・・・・。 そこに潜む一匹の猫が、 『任務完了ニャ♪』 と、MAGIに行っていたネットワーク接続を切り、胸をなでおろしていた。 結局、実験は四時間後に終了。 ヘトヘトになりつつも、子供達は家に帰り、安堵したシンジに甘えまくっていた・・・・・・・・・。 今回の戦闘 施設被害・・・・・・・・・・・・・・無し 第87タンパク壁・・・・・・・・・・ 絶対零度にて一ヶ月の封印 一ヵ月後に反応炉にて焼却 第壱拾壱使徒イロウル・・・・・・ 人知れず殲滅 ──あ(と)がき── ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・悩みました。 いやマジ。 これだけ使徒が進化している中、イロウルは進化するナノマイクロの使徒。 歴史通りの戦いにしても残り1秒だったわけですので、どー考えても人類は死滅です。 よってシンジ達にこういう手を取らせました。 それにねぇ・・・・・・リツコさんの話、ちょっとやっときたかったもので・・・・・・・・・。 SSやFFじゃあ、悪人が多いモノで・・・・・・ちょっとね・・・・・・まぁ、自分もそう扱ってる作品かいてます けどね〜〜・・・・・・(^^;)。 彼女達がどう変わってるかは作家コーナーに乗せてますけど、説明が足りないですしね。 あはははは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁああ〜〜〜〜〜・・・・・・・・・・・・。 自分の脳ミソ容量と能力にガクンときちゃう今日この頃です・・・・・・・・・。 では、また・・・・・・・・・。 〜〜灯火無き者達に幸いあれ・・・・・・〜〜
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