「第三使徒、殉滅を確認」

 オペレーターの報告が室内に響く。

 「ふん。本部のアイン(初号機)にしては上出来か・・・・・・」

 使徒が行動を起こすと、一部センサーやモニターが使用不能となる。
 よって、どのような戦闘で、どのような戦い方をしたか等は分からない。
 本部のレポートを待つだけだ。

 尤も、本部が素直に真実を語るとも思えないが・・・・・・・・・。


 「初号機の損害は?」

 「腹部に損傷があるものの、実戦可能範囲のようです」

 「ま、実験機ならそんなものだろう」

 嘲るように男が口を開く。

 ドイツ支部にとって、本物のEVAとは弐号機のことなのだから。



 「・・・・・・おや。勝ったみたいだな」

 そんなやり取りを眺めつつ、日本人らしい男が他人事のように言う。

 彼の横には赤いプラグスーツをきた少女が立っていた。

 「ギリギリ見つかったって言う、サードチルドレン。けっこうやるじゃ
ないか」

 「・・・・・・・・・・・・」


 そんな男──加持リョウジ──の言葉を流すように、部屋を出てゆく少
女。


 『おやおや。お姫様のプライドを刺激しちまったかな?』


 加持としては面倒は少ない方が良いに越したことは無いのだが、軽口は
性分だ。


 彼は、自分より先にサードチルドレンが使徒を倒したことにセカンドチ
ルドレンがイラついたと思っている。


 だが、赤い髪の少女──惣流・アスカ・ラングレー──の心の多大な変
化を知る由も無い。








 ガツッ

 誰も居ない廊下の壁を殴った。

 少女の頬を水晶のような涙がつたう。

 『バカシンジ!! どーせ誰かいたから庇ったんでしょう?!!』

 心の中で日本で戦っていた愛する少年に毒ついた。

 彼が負傷する理由など、それぐらいしかありえない。

 もっとも、それだからこそシンジであるのだが・・・・・・。

 『でも・・・・・・』

 少し表情が柔らかくなる。

 変わって、不安の色が増す。


 『無事で良かった・・・・・・・・・シンジぃ・・・・・・』


 自分を抱きしめて安堵するアスカ。

 今頃になって少年の“死”が頭をよぎり、身体が震えだす。


 いくらシンジでも、もう一度勝ち続けてゆくことは並大抵のことではな
い。


 力になってあげたくとも、弐号機はまだ完成していない。


 結局、自分ひとりでは何もできないのだ。


 『後、二匹・・・・・・シンジ・・・・・・がんばってよ・・・・・・アタシもがんばるか
ら・・・・・・』


 両手で顔を叩いて気合を入れなおし、訓練場に向かう。

 アスカも魂の欠片を手に入れており、凄まじいまでに射撃能力が向上し
ていた。

 それでも訓練は続ける。

 愛しい少年の力になるために・・・・・・。

 “友達”を守るために・・・・・・。



 ふと少女は立ち止まり、上を仰いで心の中で呟く。


『ファースト・・・・・・抜け駆けは無しだからね・・・・・・』




─────────────────────────────────────────────────────────────

For “EVA” Shinji

フェード・弐

─────────────────────────────────────────────────────────────


 「くしゅん」

 自分のくしゃみで目を覚ました。

 白い病室で彼女は独り居た。

 顔の半分は包帯に埋もれ、腕もギプスで固められている。

 だが、その蒼銀髪の髪の赤い瞳の少女の美しさを曇らせることはできな
い。

 言うまでもない。
 綾波レイである。


 「・・・・・・」

 レイは、少し考えて自分の状況を判断する。


 『重傷を負った私・・・・・・碇君が来て・・・・・・くれなかった?』


 身体を起こそうとすると、引きつったような痛みが走る。

 鎮痛剤が効いているのにこれだ。

 やはり重傷なのである。


 だが、この現実的な痛みがあるということは、シンジは戦って勝利して
いるということだ。


 おそらく、レイに危険が及ぶことを危惧した彼が素直に初号機に乗りこ
んで戦ったのであろう。


 聡明な彼女の頭脳はたちどころに状況を理解できた。

 『碇君・・・・・・』

 少年が恐怖を乗り越えて自分の為に戦ってくれた。

 その事実が少女の頬を桃色に染める。

 『碇君、碇君・・・・・・』

 根性で起きようとするが、上手く起き上がれない。

 『碇君、碇君、碇君・・・・・・』

 ド根性で力を入れると、何とか起き上がれた。


 と、


 イキナリ看護士と医師が飛び込んで来た。

 失敗である。

 『碇君・・・・・・・・・せっかくアスカを出し抜けると思ったのに・・・・・・』

 けっこうな考えの綾波レイであった。






*   *   *   *   *   *




───また、知らない天井だ・・・・・・・・・。

 気が付くとシンジは病室に居た。

 ぼやけた頭で見回して見ると、やっぱり知らない病室。

 “前回”に入った病室ではない。

 実務的な病室ではなく、なんと言うか・・・・・・お金がかかっていた。

 部屋を見回そうとした時、ふと腹部に重さを感じた。

 「あ、気が付いたニャ」


 “それ”はそう言った。



 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え・・・・・・・・・と?」



 “それ”はネコだった。



 「ん〜〜〜・・・・・・もう大丈夫みたいだニャ」


 一才に満たないくらいであろう、まだ身体も小さい。
顔の中ごろと、足先と尻尾の先だけが白い、黒い猫である。


 「ネ、ネコがしゃべってる?!」


 それでもあまり驚いてはいない。

 別の世界でファミリア(使い魔)の黒猫と白猫をつれた人間と一緒にい
たからだ。


 「そのとーり、ファミリアだニャ」

 なんでもないことのよーに言った。


 「・・・・・・でも、なんで? 僕、儀式もなにもやってないのに」

 その使い魔を持っていた当人の心の欠片を持っているので、大概の事は
知っている。


 もっとも、その若者が深いところまで魔法を知るわけも無いので、ほと
んど聞きかじりレベルだったりする・・・・・・。


 「それはシンジの魂の大きさだニャ」

 「え?」

 「シンジの魂が極端に大きくなっちゃったから、はみ出した部分が実体
化してがアタシになってしまったんだニャ」

 「そ、そうなの?」

 そう言われると納得しないでもない。

 なにせシンジの心は、欠片とはいえ十数人分の心が重なっている。
 別世界のシンジの魂にいたっては二人分がそのまま入っている。
 
 言ってみれば、牛乳瓶に一斗ダルの酒を全部注いだようなもの。
 いくら濃縮しても溢れるのは当たり前だ。

 そのあふれ出した心が、LCLの中で、初号機に溶け込んだユイの生物
データを元に再構築した結果、生まれたのが彼女(?)なのだと言う。

 「まぁ、気にしない方がいいニャ」

 と、かなりアバウトに言う。
 どうやら、シンジの無意識下の楽天的なところを持っているようだ。

 「だ、だけど・・・・・・」

 その問いを遮るようにドアが勢いよく開けられる。


 「シンジ君、気が付いたの?」


 心配そうな顔の、ミサト&リツコの親友コンビだ。

 ミサトはともかく、リツコのその表情には驚きを隠せない。


 「え? あ、あの・・・・・・・・・は、はい」


 曖昧に返事をするシンジ。

 「イキナリ気絶したからね〜〜。心配したのよ? ホント」

 「あは。ありがとうございます」

 心から感謝の笑顔を送る。

 その笑顔を見て、なぜか二人とも噴出す鼻血を抑えつつ顔をそらす。


 当然、気が付かない少年。

 『コレは女泣かせになるニャあ・・・・・』

 『な、なんだよぉ・・・・・・』

 新たに生まれた相方の小声のツッコミに、これまた小声で返す。

 そんなやりとりに、やっとリツコがネコに気付く。

 「あら? シンジ君、その子は?」

 その声を聞き、ネコが「にぃ・・・」と小さく鳴く。
 媚を含んだ子猫のそれだ。
 さっきまでと態度がまるで違う。

 本物の“猫かぶり”。

 たちまち騙されて相好を崩すリツコ。


 「え、えと・・・・・・僕の家族です」


 仕方なく、“家族”として認知する。
 まぁ、自分の一部なので間違いではない。

 それに、味方は多いほうが良い・・・・・・・・・。


 「へぇ・・・・・・可愛い子ね」


 柔らかく頭を撫でる。
 心底気持ちよさげに眼を細めるネコ。
 
 その表情にうっとりとする美女科学者。


 「名前はなんて言うの?」

 「え? え・・・・・・と・・・」


 これには困った。

 名前もナニも、たった今会ったばかりの初対面なのだから。

───クロ、シロは駄目だし・・・・・・。フレキ、ゲリ・・・違うなぁ・・・マサキ
・・・・・・なんて呼び捨ては失礼だし、それ以前にこの子、女の子だし
なぁ・・・・・・う〜〜ん・・・・・・。

 リツコたちが訝しくなる寸前、たっぷり二秒間考え、

 「“アルファ”です」

 そう言った。

 シンジの使い魔、アルファの誕生である。



*   *   *   *   *   *



 「シンジ君の荷物はもう届いてると思うわ。実は私もこの街に越してき
たばかりなんだけどね。さ、入って入って」

 結局、シンジは前と同じようにミサトの部屋に同居することになった。

 発令所内でかなりもめた事は言うまでもない。

 結局、クジの運の高さでミサトが同居“権”を手に入れたのだ。



 もっとも、シンジに異論は無い。

 ミサトはシンジにとって“家族”だったから・・・・・・・・・。




 「遠慮することは無いわ。これからここがあなたの家になるんだから」

 「はい、おじゃましま・・・・・・」

 入ろうとするシンジをミサトが押しとめる。

 「え?」

 「ストーっプ!! ここはシンジ君の家なのよ? だから・・・・・・」


 シンジは前の事を思い出していた。

 表面だけでも家族になってくれようとしていたミサト。

 自分がLCLに消えた時、泣き叫んでくれたミサト。

 自分らの為に、臍を噛みつつ微笑をくれていたミサト。

 自分を助けるために血の海に倒れた彼女を・・・・・・。



 シンジは万感の想いの中、ミサトに言葉を紡ぎだした。

 「・・・・・・・・・・・・ただいま・・・・・・ミサトさん」

 「おかえりなさい、シンジ君」

 涙が溢れた。


 今、初めて帰ってきたこと実感したからだ。


───帰ってきた、この場所に・・・・・・始まりのこの部屋に・・・・・・。


 「ちょっと、ちょっと・・・・・・」

 ミサトは微笑を浮かべながら涙を流すシンジに焦った。

 なんと言うか・・・・・・この目の前の少年の眼差しは“子供”のそれではな
い。

 なにか、辛いことや悲しい事を内に秘めつつ、それを乗り越えようとや
せ我慢をしている人間のそれだ。


 ミサトは、遠くはなれたドイツ支部の少女の事を思い出していた。


 シンジに境遇がよく似た、赤い髪のチルドレンを・・・・・・。


 「ミサト・・・・・・さん?」


 気が付くと、ミサトはシンジを抱きしめていた。

 保護欲・・・・・・などと一言で言えるものではない。
 身体が勝手に動いたのだ。


 「シンジくん・・・・・・今日から私があなたの家族になってあげるわ。だか
ら・・・・・・」


 ミサトはシンジの眼を見つめ、


 「辛いことを自分に閉じ込めないで・・・・・・ね?」


 と、人懐こい笑みを送った。

 「ミサ・・・ト・・・・・・さん・・・・・・」

 シンジはミサトに抱きついて、声を出さずに泣いた。

 ずっと閉じ込めていた寂しさや辛さを吐き出すように。



 “今度こそ皆を守る!”

 その強い想いから閉じ込めていた悲しさを・・・・・・。


───今は、今だけは・・・・・・・・・。


 今のこの時だけ、弱虫シンジに戻らせて。

 明日からは強いシンジに変わるから・・・・・・・・・。

 サードインパクトを防ぎ、皆を守れる男になるから・・・・・・・・・・・・。



 シンジの決意など知らないはずのミサトは、泣き止むまでシンジを抱き
しめ続けた・・・・・・。





















 追伸:

 部屋に入った途端、アルファは外に逃げ出した。

 シンジの決意も吹っ飛ぶ腐海が、部屋の中に広がっていることをすっか
り失念していたのである。

 そして、お祝いカレーの事も・・・・・・・・・・・・・・・。

南無〜〜〜・・・・・・・・・







 ──あ(と)がき──

 ハイ、片山十三です。

 ちょっとだけアスカが登場しましたが、彼女の心のプラスパーツはアス
カ×2と三人です。

 一体誰なのか? ・・・・・・まぁ、どうでもいいですよね(^^;)

 このペースでいくと、彼女の登場は・・・・・・うわっ遠っ(^^;)

 できるだけバランスを崩さず急いで出しますから、見捨てないでくださ
い。



 次回は、登校編です。

 ではまた・・・・・・。


〜〜シンジ君の未来に幸いあれ・・・・・・〜〜


作者"片山 十三"様へのメール/小説の感想はこちら。
boh3@mwc.biglobe.ne.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル