傍から見る山と言うものは、只単に“でかい”とか“キレイ”とかいうストレートな感動がある。 特に火山は、近隣住人が蒙る迷惑等を度外視すれば、地球と言う生命の息吹を感じる事ができる。 もともと日本は地震大国で火山も多い。 単純に活火山が多くなったというのなら、セカンドインパクトのせいで活動的になりすぎたメキシコ辺り が挙げられるのだが、もくもくと煙を吐いている真横で生活をしているこの国には勝てない。 日本人は拝火民族の血が入っているからなのであろうか? それはともかく、 ここは浅間山。 長野県と群馬県の県境にあって、標高約2.500mの山である。 天明三年の大噴火が有名で、日本のポンペイとまで言われたほどであるが、そうそう大噴火されたら大迷 惑だ。 特にこんな時に・・・・・・・・・。 「熱そ・・・・・・」 その火口を覗き見ながら簡素で適格な表現をする赤みがかった金髪の美少女。 もっとも、モニター越しであり、尚且つ実際に覗いているのは巨人だ。 『そりゃあね・・・・・・溶けた岩が煮えてるんだもの』 『・・・・・・・・・大丈夫?』 呟きのような少年と少女の声が聞こえてくる。 「大丈夫も何も・・・・・・・・・やんなきゃ話になんないでしょ?」 あっさりとした事を言い返す。 怖くないと言えば嘘になる。 だが、ここに入る事ができるのは、様々なアタッチメントが用意されているプロダクションモデルの自機 だけであり、当然ながらD装備なんか弐号機用のものしかない。 “以前”であれば、如何なる困難な状況を打破してゆく自分に酔っていたであろうが、残念ながら“今” の彼女にはそんな陶酔趣味はない。 早く使徒戦を終わらせたいだけだ。 だからD装備──言うなれば弐号機用の潜水服──を装着した姿を見てもごねず、耐熱プラグスーツを着 ても(それほど)文句を言わなかった。 一見するとマグマの中に進んでゆくアスカの方が危険のように見える。 だが、仮設発令所の面々も、オレンジ色の機体に乗る蒼みがかった銀髪の少女も、そっちの危険性はあまり 感じていない。 本当に危険なのは・・・・・・・・・。 心配そうに火口を覗いている、紫色の機体に乗っている少年の方だ。 彼ならば少女の危機を察知すると、何の躊躇も暇もなく火口に飛び込むであろう。 例えB装備であろうと、どれほどの被害を受けたとしても・・・・・・・・・。 高いシンクロ率をマークしている少年は、初号機が蒙るマグマのダメージを全身に受け、へたをすると大 変な事になってしまう事は想像に難くない。 良くも悪くもそういう少年なのである。 だから作戦部長は零号機の少女の耳元で、 『いざとなったらシンちゃん抑えてて・・・・・・そうしないと彼ってば飛び込んじゃうから・・・・・・』 と言い。 技術部責任者は弐号機の少女に、 『かまわないから“現場の判断”で殉滅して・・・・・・こんなくだらない事で貴方達を失うわけにはいかない から・・・・・・』 と、耳元で囁いた・・・・・・・・・。 第八使徒サンダルフォン・・・・・・・・・・・・。 マグマの揺りかごに漂うその大きな胎児を確保しようとさせる“学術的”な命令なんかとうに無視してい るリツコとミサトであった・・・・・・。 ───────────────────────────────────────────────────────────── For “EVA” Shinji フェード:壱拾九 ───────────────────────────────────────────────────────────── 冷却パイプは四本。 吊るし上げる命綱・・・・・・ワイヤーは三本。 非常事態を考えてアンビリカルケーブルは二本。 いずれも溶岩内での活動の妨げにならないよう、そして確実なる生還をさせるように“前”より強化され た一品である。 アスカ達の記憶よりずっとスマートになっている弐号機D装備。 少女が(あまり)いちゃもんをつけなかった理由の一つである。 が、その外見は・・・・・・・・・なんというか“あの”JAに酷似していた・・・・・・。 それもそのはず、“今回”のD装備は元日本重化学工業共同体とNERV技術部との共同開発で出来たもの なのだ。 彼らにしても、結果的に自分らの技術が評価されるのでそれはそれでよかったし、NERVによって与え られた高い技術に触れ、活用できる事は快感であった。 時田主任を筆頭に、対使徒戦用兵器を開発する部門は更なる進化を遂げ、国土開発活用チームを起こすま でになっていた。 流石に死の商人の様に言われなくなるのは嬉しいらしい・・・・・・。 それはともかく、アスカの乗った弐号機はゆっくりと赤い流体のなかに沈んでゆく。 はっきり言って、赤い海を思い出して嫌悪感がわいてくる。 あの、なにものも拒まず飲み込んでゆく貧欲で生温かい意識のスープ・・・・・・。 全ての生命を煮溶かしたような気色悪さ・・・・・・。 あの不快で悲しい世界を、否が応でも思い出してしまう。 しかし、ここはマグマの中。 地球が生きているという確かなる証。 全ての進入を拒絶するかのような熱地獄。 激しくも静かな世界であるが故に、アスカの心を落ち着かせていた。 無論、シンジにもその感触は伝わっている。 その事が余計にシンジの心の準備を急がせているのだ。 ───すぐに飛び込めるように・・・・・・・・・。 「深度700、沈降速度20・・・・・・アスカちゃん、視界は?」 赤オレンジの世界にいる少女に通信を送る。 仮設発令所とはいっても、モニターやセンサー類はがっちりと揃えられており、如何なる状況にも対応で きるようになっていた。 コンピューターがある為、強めのエアコンがかけられており、リツコらも少々寒そうである。 それでも、一瞬の気の緩みガ大事故に繋がるという状況なので、冷や汗が止まらない。 当然、マヤも無事を祈っているのだから如何に冷えていようと汗が止まらないのだ。 『視界はゼロ・・・・・・なんとなく感覚で横に壁があるような気がするだけよ』 少女の声は暑さ・・・・・・いや、熱さにウンザリしているようだ。 「アスカ、今CTモニターに切り替えたわ。どう?」 『・・・・・・なんとなく見えるわ』 リツコがキーを叩いて数秒後、アスカの視界に言葉通り“なんとなく”周りが入ってきた。 真横でボンヤリとした影は壁面であろうか? 「・・・・・・続けるわよ」 『りょーかい』 深度750。 やっと想定深度の半分を越えたところだ。目標にはまだ遠い。 モニターカウントを見ながらゆっくり静かに下ろしてゆく。 一対一・・・・・・それも視界が限りなく無い溶岩の中という劣悪な環境での戦いである。 緊張感がなくならないのも仕方が無い。 深度1000。 まだ反応は無い。 仕方なく更に下ろしてゆく。 緊張の為か、モニターの傍で様子を窺っているキョウスケ達もせわしなく腕を動かしていた。 『・・・・・・あれ?』 深度1200を越えた辺りで、アスカは奇妙な感触を持った。 「どうかしたの?」 『なんだか・・・・・・動きにくい・・・・・・』 「え・・・・・・?! そんな・・・・・・」 焦ってキーを叩くリツコとマヤ。 モニターが弐号機内の生理モニターと状況チェックに分断される。 二人がかりなので解析は早いのだが・・・・・・。 「せ、先輩!」 マヤの切迫した声が響く。 弐号機の周囲のエコー結果から、成分濃度が倍になっている事が解かったからだ。 それも、普通の鉱物ではない。 「しまった!!」 リツコが指示を送ろうとしたが一足遅かった。 『きゃあっ!!』 弐号機から悲鳴が聞こえたのだ。 * * * * * * * * * 『・・・・・・やってくれるじゃないの・・・・・・』 灼熱の地獄の中、アスカは冷たい汗を感じていた。 “前”のサンダルフォンは捕まえるまで待ってくれていた。 だが、“今回”のサンダルフォンは最初から戦う姿勢をとっていたのである。 リツコ達には解からないであろうが、深度1700ほどのところにいる“繭”から極細の繊維の様な物が辺り に漂っており、弐号機はそれに絡まっているのだ。 一本が10ミクロンほどの繊維・・・・・・それがATフィールドを纏って強化され、弐号機を“掴んで”いるの である。 センサーは感知していない“それ”・・・・・・サンダルフォンは、アスカの“目”には見えていた。 膨大な綿毛に包まれた巨大な繭・・・・・・・・・。 これが“今回”のサンダルフォンであった。 『ごちゃごちゃ言ってたらシンジが飛び込んできちゃう・・・・・・それは・・・・・・・・・やらせない』 アスカの目が閉じられ、一瞬後に、また・・・・・・開かれた。 「ターゲット確認・・・・・・破壊する・・・・・・・・・」 アスカは本気モードに入った。 他の誰でもない、少年の為に・・・・・・・・・。 * * * * * * * * * 「アスカ!!」 初号機は、当然飛び込もうとする。 『ダメ・・・・・・』 が、直前で零号機に取り押さえられた。 「あ、綾波・・・・・・放してよ!! アスカが!!」 初号機はもがくが、柔道の“技”で取り押さえられているので動く事ができない。 「碇君が焦って飛び込んだりしたら、アスカは注意があなたに向くわ・・・・・・その隙をつかれたらどうする の・・・・・・?」 「・・・・・・!!」 正論である。 「それに今あなたが行ったら、多分わたしも飛び込むわ・・・・・・・・・」 それも事実だ。 “前”のレイでもそうしたであろう。“今”のレイなら尚更だ。 この言葉は、少年にとって強い枷となった。 「今はアスカを信じましょう・・・・・・」 「う、うん・・・・・・」 その言葉に零号機が腕を放した。 と・・・・・・。 「な、なに?!」 猛烈な悪寒がしてシンジは突然振り返った。 クレーンから伸びるワイヤー。 そのワイヤーを巻き上げるウインチの動力部が突然、 ドォオオオオオオオオオン!!!! 爆発したのである。 * * * * * * * * * 「な、何があったの?!」 ミサトが警備部に連絡を入れる。 『わ、解かりません!! 何者かが動力部にグレネードを撃ち込んだとしか・・・・・・』 「どこのバカよっ!!!!!!」 ウインチが爆発した瞬間、ワイヤーが緩むより前に初号機と零号機がそれを掴んでいる。 弐号機がいるのは地下であるがゆえに気圧が極悪に上がっている為、かかっている過重はしゃれにな らない。 だが、それで手を離すような二人ではなかった。 ミサトはその光景を見てホッとするも、落ち着いた事によって心が沸騰していた。 子供達が危険に飛び込んでいるというのに!!! 大人達が見守る事しかできないって時に!!! 自分らに代わって戦ってもらっているっていうのに・・・・・・っ!!!!! あたしの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 あたしの“妹”が命をかけているって時にっっっ!!!!!!!!! ついに彼女の頭に血が上りきった。 キレたのだ。 無意識に愛用の銃の撃鉄に指をかけ、駆け出す。 が、出入り口の横にいた女性が一瞬早くミサトの行く手を遮る。 「ちょっと、待って。ミサトちゃんは行かなくていいから、ここでアスカちゃんに指示を出して」 エクセレンが前に立ち塞がったのである。 「ち、ちょっとどいてよ!!!」 「ダメよ」 それで退くエクセレンではない。 「あたしだって本気で腹立ってるわよ。ミサトちゃんにとっての“妹”だし、あたしにとっても“妹分” を危機にさらされたんだもんね」 当然ながら彼女も怒り狂っている。 だが、今はアスカの危機の方が大事である。 ワイヤーは初号機と零号機が掴んでいるので巻上げなどは大丈夫であろう。 あの二人が手を離す訳がない。 特に初号機は・・・・・・両手が燃え尽きたとしても噛み付いてでも巻き上げるだろう・・・・・・。 唇を噛み締めてミサトはモニターに目を戻す。 エクセレンもほっとして肩から力を抜いた。 「葛城部長・・・・・・わざわざ貴女が行く必要はない・・・・・・貴女が行くまでもなく、実行犯は地獄に突き落と される・・・・・・確実に・・・・・・」 いつも静かにしているキョウスケが珍しく怒りを露にしていた。 こんな時のキョウスケの怖さを恋人であるエクセレンは知っている。 怖いなんてもんじゃない。相手に同情するくらいなのだ。 だが、彼は組んだ腕に指をめり込ませているだけで、この場から移動しようとしない。 顔は能面のように怒りを押さえ込んでいるものの、指の節をはっきりと浮き上がらせている所が怒りの強 さを表している。 しかし、動かない。 モニター内で戦っているアスカと、ワイアーを握り締めている二機から目を放そうともしない。 理由は簡単だ。 既に向かった者がいるからである。 彼の知る限り、最適で、そして最強最悪の人間が・・・・・・・・・。 仮設発令所内には今、リシュウの姿は無かった・・・・・・・・・。 * * * * * * * * * 『攻撃が来ない・・・・・・なぜ・・・・・・?』 繊維を斬り飛ばしながらゆっくりと手繰り寄せ、繭に近寄らせてゆく弐号機。 サンダルフォンはというと、繊維で押し包もうとはするもののそれ以上の手は打ってこない。 弐号機が手にしているのは新兵器『高熱環境白兵戦闘装備ERD(Electron Refrigeration Dagger)』通称、 コールド・ダガーで、当然リツコ謹製である。 これは電子レンジの逆で、電子の動きを緩和させ、瞬間的に極低温にするという一品である。 当然、マグマの中であるからして、武器の劣化を防ぐ為、対象に突き刺してから起動するのがセオリーだ。 通常のナイフとしても使用できる為、アスカはATフィールドで包みこんで切っている。 対して使徒の繊維。 コレは周りのマグマから抽出した微量の金属イオンと炭素から作り出されたもの・・・・・・いわばクローム鋼 の極細繊維である。 繊維とは言っても、一本一本で襲い掛かってきている訳ではなく、“綿毛”のように──それでも半径5m はある──飛ばして(漂わせて?)来るだけだ。 これでは斬りおとしてと言っているようなものである。 流石のアスカも意味が解からなかった。 そう。“アスカ”には・・・・・・・・・。 『ぐ、うぅ・・・・・・・・・』 「え?! シンジ?!」 少年のうめく声にやっと状況の変化に気付いた。 だが、それでも彼女には解からなかった。 かかる状況がどれだけ少年の負担になっているかが。 『アスカ!! 早くそこから離れて!!』 ミサトの叫ぶような声。 それでも解からない。 だが、その声の切迫した様子から、体が反応して離れようとする。 『え??!!』 動きが鈍い。 いや、鈍いなんてものじゃない。 やっと少女は理解した。 弐号機の周りのマグマの比重が、使徒の作り出した繊維によって増しているのである。 つまり、加重した周りのマグマごと沈降し始めているのだ。 * * * * * * 「くっ・・・・・・やってくれたわね・・・・・・」 ミサトは元よりリツコも歯噛みしていた。 流石にこんな大雑把で確実な策を取ってくるとは思わなかったのである。 使徒は繭の周りを取り巻く繊維の固まり。 その繊維で構築した中に弐号機が入ってくるのを待ち、そのまま比重を増やす。 当然ながら弐号機ごと沈んでゆく事となる。 只でさえ1300以上降下しているのだ。弐号機内の気圧も半端ではないくらい上がっている。アスカの負担 も増える一方。 そんなアスカにかかるLCLの圧力を調節しつつ、リツコは必死に考える。 早くせねばシンジ達の負担も大きくなるのだ。 現に今、初号機は火口まで引き摺られているのだ。 「冷却パイプ使えないの?!」 「ダメね。周りを冷やし固めたってアスカが固まるだけよ。使徒に接敵してからならともかく・・・・・・」 それに接敵すればダガーで刺したほうがいいのだ。 しかし、接近するまでに初号機と零号機の方が危ない。 どうすれば・・・・・・・・・? 一番いい方法は比重を下げる事だ。 だが、奇跡でも起こらない限り、そんな事できる訳がない では、一体どうすれば・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 「ちょ、ちょっとシンジ君!!!!!」 マナの声で現実に意識を戻したリツコたちは初号機を見た。 火口ギリギリの地点。 左腕にケーブルを巻きつけ、右手にナイフを持った初号機がいた。 * * * * * * * * * 「あ、綾波・・・・・・少しの間でいいからロープ引き摺って後に移動できるか・・・な・・・・・・?」 かなり苦しいシンジ。 既にケーブルを掴んでいる初号機の手から煙が上がりだしている。 流石に装甲が溶けているのだ。 それでも悲鳴も上げず、ただただ耐えている。 手に掴んだ命が消える方が遥かに苦しいからだ。 そんな少年の問い掛けに、 「・・・・・・も、問題ないわ・・・・・・・・・やって・・・・・・みる・・・・・・」 と、レイが答えた。 既に零号機の両足は脹脛の部分まで地面にめり込ませている。 それでもかかる重量が上がっている今、二機のEVAの力も大変なものになっている。 だけど・・・・・・・・と、二人は思う。 だけど、あの“奇跡”に比べたらそんなに辛くはない。 あの“奇跡”。 長高空から落下する使徒を受け止めた時の苦痛に比べれば・・・・・・・・・。 たいした事・・・・・・・・・・・・・・・。 ないっ!!!!!!!!!!!!!!!!! ギンッ!!! 零号機の単眼が赤く輝く。 身体にケーブルを巻きつける形でクラッチングスタイルになり、 「・・・・・・・・・・・・って・・・・・・・・・」 ギリギリと地面にめり込ませた両足の筋肉を膨らませる。 レイの頭にカッと血が上り、あふれ出したアドレナリンが少女らしからぬパワーを引き出し、その力がダ イレクトに零号機に伝わった。 「・・・・・・・・・やって・・・・・・・・・・・・」 ミリミリミリ・・・・・・・・・。 流石にケーブルがきしむ。 だが、零号機からほとばしるATフィールドがケーブルを侵食し、そのまま火口まで伸び、戦っている少 女まで包み込む。 「・・・・・・・・・やってやるわ」 ドガンッ!!!!!! 突き出される足。 地面を踏みしめ、岩を貫き、足を突き刺しつつ零号機はガシガシ進む。 決して早い訳ではない。 ドガンッ、ズガンッ、ガズンッ、ドゴンッ、 だが、EVAの歩行速度そのままに零号機は進むのだ。 仮設発令所の面々は声も出ない。 あきれ返るほど大雑把だが、それが如何に難しいことか解かっているからだ。 その間に初号機は右腕に“力”を集めていた。。 今のレイの負担も知っている。 アスカの苦しさをも知っている。 だから一人火口に立っている。 何の為に? 救う為だ。 振り上げた初号機の右腕の装甲が弾け飛ぶ。 拘束服が内側から破裂し、 初号機本体の包帯に巻かれた不気味な色の腕がむき出しになる。 初号機の右腕が不自然なほど太くなっていた。 だが、そんな事は何の関係もない。 憂いも無い。 戦っている少女を救うことができるのなら、全く問題ない。 「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」 全身のATフィールドを右腕のナイフにかき集める。 虹色にも似た、余人には不可視の光・・・・・・オーラが、 そして何よりも彼女を守りたいという想い・・・・・・“念”が収束してナイフに練りこまれる。 プログレッシブナイフは、それを知る誰もが眼を疑うほどに光り輝いていた。 そしてシンジは、 どごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!!!! 音速を超えるスピードで火口に投げ込んだのだった。 噴火のこどく跳ね上がるマグマから零号機をATフィールドで庇いつつ、ケーブルを掴む。 弐号機の為、ケーブルにATフィールドをかけて彼女を守る為に・・・・・・・・・。 奇跡は・・・・・・やはり少年達が起こしていた・・・・・・・・・。 * * * * * * * * * 灼熱の地獄の中で、アスカはリツコ達から情報を得ていた。 何者かがウインチを破壊し、シンジ達が直に引っ張っているという事を・・・・・・・・・。 だが、そのお陰で自分の危機は増していたのであるが、シンジが飛び込む危険が下がった事にはホっとし ていた。 “今”のシンジが飛び込めば全身火傷では済まないからだ。 確かにミサト達が焦るように、自分の危機には変わりない。 だが、なぜだろう? 負ける気がしない。 さっきから全身を覆ってくれているレイのフィールドのせいか? それともケーブルを通して伝わってくる少年の確かな想いからだろうか? いずれにしても、状況が軽くなった訳ではないのに・・・・・・・・・。 と・・・・・・・・・。 唐突に自分に迫ってくる気配を感じた。 それは、自分が良く知る大切な人間の強い想い。 周りのマグマの熱さえ凌駕する、意思の固まり・・・・・・・・・。 「シンジ?!」 見えもしない視界の中、頭を上に向けた。 いや、向けようとしたその矢先、 ずどむっ!!!! 確かな衝撃と共に、目の前の繭に何かか突き刺さる。 「え・・・・・・・・・? あれって・・・・・・・・・プログナイフ?」 シンジの投げたプログレッシブナイフが溶岩の中を一直線に突き進み、サンダルフォンのATフィールド を貫通し、繊維の壁をぶち抜いて繭に直接突き刺さったのである。 「あれは・・・・・・ひょっとして初号機の・・・・・・・・・?」 『アスカ・・・・・・!』 呆然とするアスカの脳裏に、確かに少年の声が響いた。 「え?」 メリメリメリ・・・・・・・・・。 まるで自分の意思が在るようにナイフがどんどんめり込んでゆく。 ギギギギギキ・・・・・・・・・。 サンダルフォンもフィールドで押し返そうとする。 だが、“貫く”という意志の塊であるそのナイフは、どうしても止まらない。 メギメギメギ・・・・・・・・・。 繭にヒビが入り、 ばずんっ!!! 見事に大穴が穿った。 いや、それだけではない。 貫通したナイフは、周囲の繊維を巻き込み、繭から引き剥がして溶岩の下へ潜っていった。 がぁあああああああああああああああああああああっ!!! そんな叫びが聞こえたような気がした。 “前”のサンダルフォンとは違い、今回のサンダルフォンは繊維のコートで熱を遮断しており、溶岩の超 高温がとどいていなかったのである。 繭に風穴を開けられた一瞬の隙にマグマが内部に流れ込み、胎児にも似たその身体を焼いているのだ。 「チャンスっ!!!」 アスカはとっさにシンジの真似・・・・・・ATフィールドを足場にして蹴り、もがき苦しむサンダルフォンに 組み付き、コールド・ダガーを突き刺しつつトリガーを引いた。 ごぁああああああああああああああああああああああああああああっ!!!! 今度は一瞬で冷やされ、凍った部分が溶岩の熱で溶けて爆ぜる。 その爆ぜた穴に冷却パイプを切断して突っ込んだ。 「リツコッ!!!」 『わかってるわ!!!』 一気に流れ込む冷却剤。 たちまち氷の化身となり、動きを止める。 「これで・・・・・・・・・終わりよっ!!!!」 ずどむっ!!!! 温度差によってヒビだらけになったその体に、弐号機が拳をめり込ませた。 手の先にある確かな感触。 アスカは“それ”を毟り取った。 * * * * * * * * * 「ふむ・・・・・・・・・あっちは終わったようじゃな・・・・・・・・・」 燃え盛るジープの脇。 倒れ附す三人の男達を前にして、山から発せられる気配が変わった事に、その男──リシュウは心底ほっ とした声で呟いた。 転がっている男達は揃いも揃って右腕が四散していた。 リシュウの持つ木刀の一撃を、銃を抜くより先に食らったのである。 男達は示現流の踏み込みの速さを全く知らなかった。この事が生んだ悲劇である。 示現流の踏み込み時の移動は三足三間以上。つまり、三歩で約546cm・・・・・・一歩を2mくらいで移動す る。 一撃の速度も一呼吸の八万分の一・・・・・・ただの人間が反応できる訳が無い。 さらにリシュウの使っているのはただの木刀ではない。 ソロバンの珠にも使われているユスの木の一番硬いのを加工したものである。 樫の木よりも硬く粘りもあり、真剣より重い。 リシュウはそれで男達の腕を打ったのである。 更にそれは余人の一撃等ではない。 リシュウほどの達人の一撃である。 男達の腕は文字通り打ち“潰され”、原型を留めていないのだ。 「い、痛ぇよぉ・・・・・・」 痛みのあまり意識が失えず、男の一人がうめき声を上げた。 どずっ!! リシュウはその男の腹に手加減のない蹴りを入れる。 男は胃液を撒いて転がった。 「腕が潰れたぐらいでピーピー喚くなっ!! 腕が砕け散る感触を味わいながら何度も立ち向かっている 子供達に対して恥ずかしいとは思わぬのか??!!」 リシュウは本気で怒っていた。 ミサトらと冗談を言い、 リツコと笑いながら茶を飲み、 シンジ達を励ましながら鍛え、見守るリシュウの姿はそこには無い。 一部の人間に“剣鬼”と知れ渡っている“鬼”がいるだけである。 「安心せい・・・・・死なせはせぬよ。絶対にな・・・・・・・・・頼まれても死なせてはやらぬぞ」 この日。男達は老人と侮って逃げずに立ち向かってしまった事を“死ねる”時まで後悔し続ける事となっ た・・・・・・・・・。 * * * * * * * * * 「結局、シンジ達に助けられちゃったわ・・・・・・」 「そうでもないよ。あのトラブルさえ無かったら、アスカは自力で倒していたはずだよ」 「そうかしら?」 「そうだよ。絶対に」 「うふふ・・・・・・ありがとう」 お世辞でもなんでもない。 少年はアスカの勝利を確信していた。 あの使徒の行動に我を失って飛び込もうとはしたものの、冷静になってみればあの程度ならアスカであれ ば一人で殉滅していたであろう。 嘘偽り無いシンジの感想に、アスカも微笑を浮かべていた。 “前回”と同じく、温泉に入っている子供達。 ミサト達は何やら急いで帰った為、子供だけである。 「碇君・・・・・・腕は大丈夫?」 仕切りの向こうからレイの声もする。 今回は三人で行動した為、温泉も三人で入っているのだ。 当然、シンジは男湯であるが・・・・・・。 「え? う、うん・・・・・・“あたり湯”にかかってるからね・・・・・・これって気持ちいいんだ」 初号機の右腕の力を酷使した為、シンジの右肩は脱臼にも似た痛みに見舞われていたのである。 幸いにして三人とも火傷は負っていない。 掌に擬似的な火傷はあるものの、リツコのスプレーのお陰か痛みも無い。 「へぇ・・・・・・これって気持ちいいのね」 「うん。患部に直接お湯の刺激があるからね。肩を叩いてもらって・・・・・・・・・って、アスカぁあ?!」 シンジの左横にいつの間にかアスカが座って同じように“あたり湯”にかかっていた。 「どうしたの? 碇君」 「どうしたのって・・・・・・アスカが・・・・・・綾波ぃい??!!」 反対側にはレイがいた。 「ふ、二人ともどうやってココに?!」 驚いたシンジの頭から、乗せていたタオルがずるりと落ちてアスカに奪われた。 「どうやってったって・・・・・・入り口からよ? 貸切なんだから当然でしょ?」 平然と答えるアスカ。 仕切りの横にはドアがついており、そこから入って来たようだ。 「ちょ、ちょっと・・・・・・・・・その・・・・・・」 「んん〜〜? どうしたのかな〜? シンジぃ♪」 温泉の湯で桜色になっている肌が迫る。 タオルで隠していない為、ゆれる水面とはいえ眼を凝らせば“全て”見えてしまう。 顔をそらすと、 「碇君・・・・・・顔が赤いわ・・・・・・湯あたり?」 と、こちらもタオルで隠していないレイがいたりする。 「ちょっと〜〜・・・・・・身体くらい隠してよぉ〜〜」 半泣きになって抵抗するも、 「バッカね〜〜。温泉の中にタオル入れたらダメだって脱衣所に書いてあるでしょ? マナーよ、マナー」 ニタニタと笑う赤みがかった金髪の少女。 「も、もう!! 僕、先に・・・・・・」 そこまで言って言葉が止まる。 「・・・・・・先に・・・・・・何?」 レイがニヤリとしている。 さっきまであったタオルはアスカによって奪い去られ、洗い場に投げ捨てられていた。 つまり、全裸の三人がココに・・・・・・。 「んん〜〜・・・・・・アタシ達が先に上がってあげようか?」 「碇君に全てを見られてしまう(ポッ)・・・・・・それは宿命」 少年にとって大切な絆。 その絆のお陰で少年は茹で上がろうとしていた・・・・・・・・・・・・。 * * * * * * * * * 「何かわかった?」 「無理ね・・・・・・下っ端・・・いえ、金で雇われたチンピラね・・・・・・バビンスキー反射出るまで薬使ってみたか らまず間違いないわ・・・・・・」 「見当はついているんですか?」 「南部クンには悪いけど・・・・・・戦自かもね・・・・・・」 「キョウちゃんの古巣かぁ・・・・・・」 「別に感傷はありませんが・・・・・・間違いないので?」 「ただの勘よ。だから気にしないで・・・・・・」 「・・・・・・・・・」 男達の尋問を終えた後、ミサト,リツコ,キョウスケ,エクセレン,リシュウの五人は戦術作戦部作戦局の ミサトの部屋に集まっていた。 大体は戦自か政府の“狗”というところで落ち着いていたのであるが・・・・・・・・・。 リツコの脳裏にだけは色眼鏡をつけたNERVの最高責任者の顔が浮かんでいた・・・・・・・・・。 今回の戦闘 浅間山付近・・・・・・・・・・・・軽微 零号機・・・・両掌第壱装甲融解 交換 零号機パイロット ・・・・・・・・・・両掌軽度の義火傷 温泉にて陶酔 初号機・・・・・・・・右上腕部破損 両掌第壱装甲融解 交換 初号機パイロット・・・・義脱臼 両掌軽度の義火傷 入浴中湯中り 弐号機・・・・・・・・・・・・・・・・軽微 D装備・・・・・・・・・・・・・・・・小破 弐号機パイロット・・・・・・無傷 温泉にて陶酔 ──あ(と)がき── うわっ長ぅなった!! こんなに長くするつもり無かったのに・・・・・・・・・。 読み辛かったですか? ごめんなさい。 マグマダイバーらしくないっスね・・・・・・・・・。 今回は布石を打ちたかったんです。 それがキレイに入らなくて・・・・・・・・・。 あ゛あ゛自分の文才の無さが恨めしいっ!! ・・・・・・ともかく次は・・・・・・ミサトさん言うところのサイケデリックな蜘蛛ですね・・・・・・。 これも長くなりそうで怖かったり・・・・・・・・・。 それでは、また・・・・・・・・・。 〜〜闇の迷いに幸いあれ・・・・・・〜〜
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