この世界に戻っての驚きは多々ある。
 
 
 例えばミサト、例えばリツコ。
 
 二人とも自分達を駒と素体を見るような眼であった事と記憶している。
 
 
 ミサトは復讐の為の駒として、リツコは司令にすがる為の武装の一部として。
 
 
 しかし、今の二人は自分達を心配してくれる上司であり、大人の女であり、姉のような存在だ。
 
 
 
 例えばレイ。
 
 “前”のレイは無表情で無感動で無神経だった。
 
 もっとも、司令によってそうさせられたんだけど、それでも人の形をしているだけの文字通りの“人形”
だった。
 
 “今”のレイは人形なんかじゃない。
 
 よく食べ、よく喋り、解りにくいがよく笑う。
 
 ファースト・チルドレンとして戦ってはいるものの、感情のある普通の女の子。

 
 
 ・・・・・・・・・まぁ、そのせいで自分の機嫌が悪いんだけど・・・・・・・・・。

 
 
 ほっといたらすぐにシンジに引っ付いてくる。
 
 気持ちは解るけど、憎ったらしいのは仕方ない。
 
 多分、向こうも自分をそう見てるだろうし・・・・・・・・・・・・。
 
 
 
 そしてシンジ。
 
 “前”のシンジはすぐに内罰的になって勝手に落ち込んで、そうなったら人の声なんか聞こえやしなかっ
た。
 
 どんなに説得しようとしても無駄。
 
 ヘタに口を出したら余計に沈み込んでしまう。
 
 優しい分、落ち込み出したら止まらなくなる。
 
 もっとも、その時の自分も洒落になってなかったのだけど・・・・・・・・・。
 
 
 で、“今”のシンジ。
 
 落ち込むのは後回し。
 
 状況を打開する為に常に前向き。
 
 絶対に諦めず、人を救う為なら、どんな困難な状況もガンガン進む。
 
 
 常に愛情に飢え、捨てられた子犬みたいな眼をしていたシンジじゃない。
 
 
 じゃあ、“前”のシンジと別人じゃないの? と言えば、そうじゃない。
 
 レイと自分と同様、心の空洞を異世界の戦友達の魂の欠片が埋めてくれており、強い信念を体現する力を
持っているだけ。
 
 心が強くなっただけで、シンジはシンジ。
 
 “皆を守る!!”という強い意志に輝いてる眼も、あの優しいシンジが優しいだけじゃなく戦いから逃げな
くなったから発動したモノ。

 
 そして、その輝きと強いココロに皆は惹かれてゆく・・・・・・・・・。
 
 
 当然、自分もその一人・・・・・・・・・。
 
 
 だけど、自分とレイにはアドヴァンテージがある。
 
 
 自分達は有象無象が寄って来る前からシンジの事を欲していた。
 
 “前”から自分達のことを何の衒いも無く、真っ直ぐに女の子として見てくれていた。
 
 
 そんなシンジの手を振り払っていた自分が憎らしくて腹立たしい。
 
 
 だから今度はぜっっっったいに放さない。
 
 後から来る奴なんかに渡してたまるものか・・・・・・・・・。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 今、自分達の前に第七使徒がいる。
 
 まだ半身を海に沈めてはいるものの、そいつらは明らかに自分達と戦う意思を持っているのを感じる。
 
 
 自分・・・・・・アタシの弐号機はソニックグレイブを握り締め、シンジの乗る初号機と、レイの乗る零号機、
つまり三機で対峙していた。
 
 
 そして、アタシ達は発令所にいるミサト達には理解できないだろう驚きを隠し持っていた。
 
 
 
 
 
 アタシ達の知っている第七使徒イスラフェルと形が違うのだ・・・・・・・・・。
 
 
 
 
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    For “EVA” Shinji
 
        フェード:壱拾四
 
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 発令所のモニターに映る三機の勇姿。
 
 
 そして、第七使徒イスラフェル。
 
 サキエル同様、一応は人型に当てはまる形態である。
 
 
 肩の無い一体化している大きな両腕と、海面に突き刺さっているので定かではないが、それより少し小さ
めの同じ形をした両足がある。

 
 あえて言うのなら、二段重ねの三日月だ。
 
 
 と、ここまでは“前”のイスラフェルと同じ形態。
 
 違うのは、その身体に厚いベール・・・・・・いや、背中まで届くケープの様な物がかかっていることだ。
 
 身体のラインも三本に増えている。
 
 サキエルの様に頭部らしきものが無く、三日月の間・・・・・・つまり、ケープを被った黒い胴体の中程の、顔
にあたるであろう場所に“何か”が光っていた。
 
 そしてその下には、これまた今まで同様コアが・・・。
 
 
 
 “前”と違った形で着いていた・・・・・・・・・。
 
 
 
 弐号機パイロットのアスカは日本での初戦闘だ。
 
 仮にピンチになったとしても、その場には“鉄壁”のレイと、“無敵”のシンジがいる。
 
 
 楽観視はできないが、1対3の戦いである事はミサト達の心労をいくらか軽くしていた。
 
 いつもいつもシンジ達の心配で胃に穴が開きそうだったからである。
 
 
 
 そんな中、モニターを見つめる教官達は首をかしげていた。
 
 
 
 『戸惑ってる?』
 
 
 
 である。
 
 
 理由は解らないのだが、EVAに乗っている三人は明らかに戸惑っていた。
 
 
 まるで、待っていた相手が別人だったような・・・・・・・・・。
 
 
 リシュウはその考えを、頭を振って消した。
 
 まずは目の前の敵の事だ。
 
 
 
 
 最初に動いたのは弐号機であった。
 
 
 
                     *   *   *   *   *   *
 
 
 
 『いくわよ、ママ!!』
 
 
 声には出さず、アスカはソニックグレイブを起動させ、第七使徒に斬りかかった。
 
 
 ミサト達が知る由もなかったが、その使徒の異常な形態にシンジ達は戸惑いを隠せないのだ。
 
 だから、“前回”同様アスカが打って出たのである。
 
 
 超高速振動する刃が使徒に襲い掛かる。
 
 その巨体からか、或いは大きなケープからか動きは鈍く、避けられない。
 
 
 既に同居しているので、例え分裂していたとしても、いきなりユニゾンで倒しても良いだろう。
 
 というのがアスカの思惑である。
 
 
 だが、ソレが裏目となった。
 
 
 又しても縦に裂いてしまったのである。
 
 
 
 
 アスカがイスラフェルを断った瞬間、シンジは見た。
 
 
 
 
 使徒のコアを。
 
 
 
 
 “前回”のイスラフェルはまるで中国の“陰陽”の様な形をしていた。
 
 
 その時点で二つあると理解していなければならなかったのだ。
 
 
 
 そして、“今回”のイスラフェルのコア。
 
 
 
 
 日本の太鼓とかにある様に、“三つ巴”になっていた。
 
 
 
 
 考えが及ぶ前にシンジは叫んでいた。
 
 『アスカ!! 下がって!!!』
 
 他ならぬシンジの叫びに思わず飛び下がる弐号機。
 
 
 今まで弐号機が立っていた場所を何かが海面から貫いていた。
 
 
 “ソレ”はシンジの後方に曲線を描いて突き刺さり、その貫通力の高さを見せ付けていた。
 
 
 ガラスの様に透明な槍である。
 
 
 『な・・・・・・・っ!!』
 
 
 発令所からの驚愕の声が通信機から漏れ聞こえる。
 
 
 第七使徒は、シンジ達にとてつもない形態を見せつけていたのである。
 
 
 『な、なんてインチキ!!!』
 
 
 “前”と同じミサトの驚きの声。
 
 
 シンジ達も心の中でそう叫んでいた
 
 
 
 つまり・・・・・・・・・。
 
 
 『し、使徒・・・・・・三体に分裂・・・・・・・・・そ、その一体は・・・・・・・・・・・・』
 


 日向の声も震えていた。


 
 『ま、間違いありません・・・・・・・・・そんな・・・・・・・・・』
 
 
 マヤも信じられないといった風だ。
 
 
 
 
 第七使徒イスラフェル───
 
 
 甲と乙の二体・・・・・・・・・そして、
 
 

 
 「リターンマッチって事か・・・・・・・・・」
 
 

 
 アスカのプラグスーツの下、嫌な汗が滲む。
 
 
 
 顎の部分・・・・・・頭部にあたる部分の無い“ガギエル”に分離したのである。
 
 
 
 
                     *   *   *   *   *   *
 
 
 

 「アスカ!!」

 
 初号機と零号機が弐号機のフォローに駆けつける。
 
 零号機の手に持っていたシールドをATフィールドが侵食し、ATS(ATシールド)へと変貌を遂げると
同時に、そこへ衝撃が走った。
 
 
 
 
 ドギンッ!!
 
 
 
 
 とてつもない硬度を持つATSだからこそ防御はできたのであるが、その衝撃で足が止まってしまう。
 
 海面からガギエル部分が何かを発射しているのだ。
 
 
 さっきの透明な槍だ。
 
 
 「レイ・・・・っ?!!」
 
 『・・・・・・無事よ・・・・・・』
 
 
 思っていたより冷静な答えに一応は落ち着く。
 
 
 だが、ガギエル部分の攻撃に耐えている間にも弐号機は二体に攻撃されているのだ。
 
 弐号機を間に挟んで腕をムチの様にふるう。
 
 だが、弐号機には当たらない。
 
 奇跡のように身体を細かく動かせて避け続けていた。
 
 
 
 「このぉっ!!」
 
 
 
 それでも二体一には変わりは無い。
 
 シンジは鞘状のブレードホルスターから剣を抜いた。
 
 
 まだ性能がハッキリしていない、初号機専用白兵戦用参式実剣X−03。
 
 
 アスカの危機にシンジの心のリミッターの一部が外れ、瞬間移動したかのようにその距離が
一瞬で縮まる。
 
 
 青白いその刃が弐号機の・・・・・・アスカの背後から攻撃をしているイスラフェルを捕らえた。
 



 
 
 たんっ・・・・・・。
 



 
 
 何の音も抵抗も無く刃が通る。
 
 見事な縦裂きである。
 
 だが、シンジらはこいつらの特性を知っている。
 
 
 シンジが背後の敵を裂いた瞬間に、前方の敵のコアを弐号機ソニックグレイブが貫いていた。
 
 
 ユニゾン訓練の呼吸は残っている。
 
 
 さらに、ガギエル戦の折に呼吸合わせをやっているのだ。
 
 いちいち練習しなくともお互いのフォローはやることができる。
 
 
 
 
 が、
 
 
 
 
 『し、使徒のコアが再生しています!!』
 
 『何ですってぇ??!!』
 
 
 
 三分裂したのであるからして、三つのコアを同時に破壊する必要があるのだ。
 
 ガギエル部分は透明な槍を乱射し、レイの接近を許さない。
 
 ダメージは無いものの、衝撃が大きくて近寄れないレイ。
 
 
 
 レイに攻撃を集中しているその隙にシンジらがガギエルに向かおうとするも、復活した二体がそれを阻む。
 
 
 
 
 「どけよぉっ!!!!!!!!」
 
 
 
 
 レイの危機に、焦れたシンジが眼前のイスラフェル“甲”に斬りかかった。
 
 当然ながらATフィールドに阻まれる。
 
 
 
 
 
 が、
 


 
 
 
 ざぎゅっ!!
 
 
 


 
 そのフィールドごとイスラフェル“甲”は三つに断ち斬られた。
 
 
 『な・・・・・・・・・っ?!』
 
 
 発令所からの驚きの声が通信機から漏れる。
 
 

 当然であろう。


 絶対障壁であるATフィールドがまるで西瓜を皮ごと斬るかのように断ち斬られたのだから。
 
 
 流石に気付いたのかガギエル部分は攻撃のパターンを変えた。
 
 
 対象は零号機のままなのであるが、攻撃を前方60度コーンに変えたのである。
 
 
 
 
 
 
 ギュバババババババババババババババババババババババババッ!!!
 
 
 
 
 
 
 まるでシャワーの如く振りまかれる透明な槍。
 
 
 
 牽制の為か狙いはこもっていないが、その威力と量は無視できなかった。
 
 
 『きゃあっ!!』
 
 『くぅ・・・・・・っ!!』
 
 
 アスカは避け、レイは盾で受ける。
 
 
 そしてシンジは剣で叩き落す。
 
 
 叩き斬られた槍は、ガラスの様に砕け海水に混じり、すぐ見えなくなる。
 
 
 材質は解らないが弾数が多すぎる以上、このままではジリ貧である。
 
 
 『こんちくしょぉおおっ!!!!!!!!』
 
 
 アスカが叫び、ショルダーランチャーからニードルが乱射された。
 
 当然ながらガギエル部分のATフィールドに阻まれるが、一瞬こっちに注意が向く。
 


 
 その隙にレイが盾を投げつけた。


 
 
 唸りを上げ、回転ノコの刃の様に飛んでゆく。


 
 ATSの縁の部分は厚みが無いに等しい。
 
 よって空気まで切断し、音も無しない。

 
 尚且つ、ATSの大部分を構成しているのはATフィールドなのだ。

 
 ガギエル部分のフィールドを貫通して真っ二つにする。
 
 コアも傷が付いた様だ。
 
 
 この隙に初号機と弐号機が駆けつけようとした。
 
 だが、今度は再生した残り二体が協力してフィールドを張り、行く手を阻む。


 「え?!」

 「な・・・・・・っ?!」

 
 
 
 シンジとアスカはそのフィールドの張り方を見て驚愕した。
 
 
 
 ガギエル戦の時、自分達が顎をこじ開けたダブルエントリー時の同時シンクロの呼吸と同じだったのだ。
 
 
 その間にガギエル部分の再生が終わり、戦いは降り出しに戻ろうとしている。
 
 

 
 「くそ・・・・・・」
 
 
 
 珍しくシンジが毒づいた。
 
 
 いつの間にかEVAが内部電源に切り替わっていたのだ。
 
 
 乱射された槍の内の何本かが、電源車両を破壊していたのである。
 
 
 
 
 
 
 『・・・・・・・・・これまでね』
 
 肩を落としたようなミサトの声がやけに重く響く。
 
 爆雷投下による足止めを敢行する為、待機させている機体に通信を送ろうとしていた。
 





 
 
 ここで爆撃されたら“また”地図の書き直しである。
 
 
 『自分が足を引っ張った・・・・・・・・・わたしのせい・・・・・・・・・』
 
 
 解りにくいが、レイの心は沈みこんでいた。
 
 
 『だけど・・・・・・せめて街からは離す』
 
 
 再生中のカギエルに掴みかかるレイ。
 
 
 当然もがくガギエル。
 
 だが、もがいて体重移動する方向にその力を流させ、どんどん動きが巻き込まれて行くガギエル。
 
 
 それはまるで渦のように。
 
 
 
 『ふぅうう・・・・・・』
 
 
 
 
 ギュォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
 
 
 
 
 体捌きだけでまるで竜巻のように振り回されるガギエル部分、
 
 



 
 ぶぉ・・・・・・・・・んっ
 
 


 
 
 なんとか逃れようとした反対方向にひねられ、更にEVAのパワーを上乗せされて投げ飛ばされ、
 
 
 
 
 
 海面を弾丸のように吹っ飛び、
 
 



 
 
 ずどんっ!!!!!
 
 
 
 
 
 
 
 残り二体を巻き込み、
 
 
 
 
 
 
 
 びゅぅうううううううううっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ドボォォォォォン!!!!!
 
 
 
 
 
 
 遠くの海面で水しぶきが上がった。
 
 
 「今です!! ミサトさん!!!!!」
 
 
 『え? あ? え、ええ。解ったわ!!!!!!』
 
 
 その光景に自分を失っていたミサトはシンジの合図に再起動し、待機していた戦自の爆撃機に指示を送っ
た。
 
 
 遠くとはいえ、N2爆雷の衝撃は大きく、シンジ達のいる場所も津波が襲う。
 
 
 
 
 
 
 
 
 “前回”よりはるかに被害は小さかったのであるが、“また”EVAはイスラフェルに敗北してしまったの
である。
 
 
 
 
 
 
 唯一の弱点である“コア”すら再生する使徒イスラフェル。
 
 
 
 
 
 
 恐るべき第七使徒の能力に、NERVはおろか政府や戦自は混乱の極みであった。
 
 
 
 
 しかし何者も、その混乱は発令所の司令と“委員会”の比で無いことを知る由も無かった。
 
 
 
 
 

今回の戦闘
   湾岸都市被害・・・・・・・・・・中度
   零号機・・・・・・・・・・・・・・・・軽微
   零号機パイロット・・・・・・無傷
   初号機・・・・・・・・・・・・・・・・軽微
   初号機パイロット・・・・・・無傷
   弐号機・・・・・・・・・・・・・・・・軽微
   弐号機パイロット・・・・・・無傷
   
   第七使徒・・・・・・・・・・・・・・再生中

 
 
 
 
 
                                         TURN IN THE NEXT...
 
 
 
 
 
 
 ──あ(と)がき──
 
 ハイ、やっぱり負けました。
 
 正確に言うと相打ちですね。
 
 この使徒達の戦い方が、自分なりにシュミレーションした結果です。
 
 シンジ君達が強くなればなるほど、相手はそれを打開すべく手を打ってきます。
 
 ミサトさん達だってそう言ってましたし、向こうだって可能性側の“ニンゲン”なんですからね〜〜。
 
 
 この話が載る時はクイズの結果が出ているでしょうね。
 
 現在、正解者は14人のまま・・・・・・まぁ、ギリギリまで待ってみますけどね(^^)
 
 正解者は投稿作品で明かすつもりです。
 
 では、また・・・・・・・・・。
 
 
 
 
 〜〜“ココロ”のリズムに幸いあれ・・・・・・〜〜


作者"片山 十三"様へのメール/小説の感想はこちら。
boh3@mwc.biglobe.ne.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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