『これはどういうことなのだ?』

 『解らぬ。ガギエルの襲来、弐号機との接触・・・・・・ここまでは起こりうる事であり、尚且つスケジュール
  通りのはずだ』

 『その通りだ。だが・・・・・・・・・撤退だと?』

 『“アダム”がいないことに気付いたのではないのか?』

 『アレは我らが下にあるのでな』

 『・・・・・・そうとも言えるし違うとも言える・・・・・・』

 『何が言いたいのだ?』

 『アダムの察知・・・それならば良い・・・・・・アダムに気付いて撤退したのであればな・・・・・・』

 『どういうことだ?』

 『解らぬのか? 私が危惧しているのは、弐号機を“恐れた”のではないかということだ』

 『何?』

 『“恐れ”は感情の一つだ。もし、あの第六使徒が“恐れ”という“感情”を持ったとすると・・・・・・』

 『馬鹿な! それは早すぎる!』

 『まだ使徒どもは“感情”を検索してはおらんのだぞ?!』

 『裏死海文書にもその様なことは記されてはおらん。だが、第六使徒の撤退もその中にはないのだ・・・・・・』

 『・・・・・・・・・』

 『・・・・・・・・・』

 『・・・・・・・・・』

 『MAGIはどう言うておるのだ?』

 『・・・・・・“保留”だ・・・・・・想像もできぬらしい・・・・・・』

 『・・・・・・・・・』

 『仕方あるまい・・・・・・もう少し様子を見よう・・・・・・それから行動しても遅くはない』

 『うむ・・・・・・』

 『それしかあるまい・・・・・・』

 『“人類”という種の為にもな・・・・・・』



 薄闇の中、老人達の会合は一応の終わりを告げる。

 だが、心中の焦りは明らかだ。



 だから彼らは誤魔化す。



 じわりと押し寄せてくる恐怖を、

 自分達が信じていたものが崩壊しようとしている事実を、

 そして、現状を・・・・・・・・・。



 自分らのプログラム通りの駒である少年少女が歴史に介入し、スケジュールを破壊してゆく事など・・・・・・。



 思いつくはずもなかった・・・・・・。




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   For “EVA” Shinji

          フェード:壱拾弐

─────────────────────────────────────────────────────────────


 「ウソっ!! ココで暮らせっての?! コイツとぉ?!」

 少女はその申し出に驚きを隠せない。


 ここはコンフォート17のミサトの部屋。

 少女の歓迎パーティーをシンジの手料理で迎える事を勝手に決め、材料を買い込んでレイ,キョウスケ,
エクセレン,リシュウまでも巻き込んで行われたのである。




 余談であるが、リツコ,マヤの師弟コンビは弐号機のメンテの為に来訪が叶わず、

 「くぅ〜〜・・・・・・ドイツ支部の馬鹿共!! もっと起動コードを安定させておきなさいよ!!」

 「先輩・・・・・・お腹すきましたね・・・・・・・・・・・・・・・」

 と、シンジの心の篭った手料理を食べる機会を逃し、血涙を流しながら作業していた・・・・・・。
 





 まぁ、閑話休題(それはさておき)。






 ミサト達が気付く訳も無いのだが、その食事会のメインはアスカが心待ちにしていたハンバーグである。

 人が多い為に煮込みハンバーグとなったのだが、それでもアスカはご満悦だった。





 ──懐かしい、彼の味であったからである・・・・・・・・・。





 キョウスケら戦闘教官ズは初めて食べるシンジの料理に驚愕していた。

 外で食べる一定レベルの料理屋等よりずっと美味いからだ。


 料理は愛情と言うが・・・・・・・・・正にこの料理がそれだ。


 アスカに再会できたという喜び、そしてアスカに喜んでもらいたい想い、それらがソースとしてたっぷり
とかけられている料理達に、他の外食料理の追従が許されるはずが無い。


 更に、リシュウ等の為に純和風な焼き魚や揚げだし豆腐、吸い物まで用意されており、肉が駄目なレイに
至っては豆腐ハンバーグと鰯バーグが用意されていた。

 リツコが賞賛したように、鳥の唐揚げは中華街で食べるものよりずっと上であったし、

 厚焼き玉子(それも出汁巻き)などはヘタな寿司屋など足元にも及ばない。

 と、この様に少年のもてなしの心が満ち溢れていた。




 “前”の時間軸においてのシンジは、ただ何となく作って食べていたにすぎない。


 だが、今の彼は皆をもてなす気持ちに満ち溢れている。


 がんばって美味しいものを作り、皆に喜んでもらえる事はシンジにとっての喜びでもあった。


 もっとも、シンジ自身は自分がそんなに料理が上手いとは思っていない。

 それが謙遜でなく、真面目にそう思っているから始末が悪い。

 だから努力を続ける。

 ほとんど鉄人レベルに達しているのだが、まだ続ける。

 アスカやレイを喜ばせたいが為に・・・・・・。

 よって、この腕前となっていったのだ。



 そして、宴が盛り上がったところで、ミサトが同居を切り出したのである。



 無論、ミサトであるからして単に面白がって言っている可能性も捨てきれない。

 だが、(今回は)理由もちゃんとある。


 ミサトがドイツにいた時分、アスカの精神状況はかなり悪かった。

 母の死に様と、父の行動から“性”というものを否定しており、妊娠というモードを持つ自分の女性因子
を嫌悪していた。

 男というものは、かつてボディーガードであった加持リョウジぐらいしか近くに寄せなかった。


 今の状況はレポートだけでは解らないが、エクセレンによればかなりマシになっているとの事だ。

 だが、前のままの部分が残っているのであれば、遅かれ早かれアスカは自分のプライドに押しつぶされて
自滅する。


 それを防ぐ為には、アスカが強い心の絆を持つ事が大事なのだ。


 そして、ここにはシンジがいる。


 復讐心が渦巻いていた自分の心をあっさり塗り替えた少年がいる。


 ゲンドウに心を侵食され、本来の自分をなくしていたリツコに彼女らしい笑顔を戻させたシンジがいる。


 彼との接触がアスカにとって良い方向に進むのは間違いない。


 自分の命を軽んずるシンジも、自分を支えにする少女達がいる事により、無茶を控えてくれるかもしれな
い。



 ・・・・・・・・・まぁ、それは可能性薄いが・・・・・・・・・。




 だから、上司となった葛城ミサトは、少女の同僚である碇シンジとの生活を申し出たのだ。



 まぁ、アスカの心がスッカリ変貌している事を知る由もないのだが、それは致し方ない。



 アスカにとっては、ハッキリ言って『青天の霹靂』だ。


 尤も、彼女の本心から言えば『ひょうたんから駒』或いは『棚から牡丹餅』といった所なのだが・・・・・・。



 しかし、今はまだ表には出さない。

 その演技は賞賛に値するものである。



 「あら、ダメなの?」

 「駄目って言うか・・・・・・その・・・・・・コイツも男なのよ? イキナリ襲い掛かってきたらどうすんのよ?!」

 『それはそれでOKだけど・・・・・・』(←心の声)

 「シンちゃんがそんなことする訳ないじゃない」


 キッパリと言い放った。


 ミサトは今までの事でシンジを信頼しきっていた。

 他の中学生・・・・・・例えばシンジの同級生の相田等ならともかく(ひどい言い種)、シンジが女の子を傷付け
るような事をする筈が無い。

 そう確信していた。


 キョウスケもリシュウも同意見である。

 エクセレンは、どーでもいいのか、アルファと遊んでいた。

 アルファは食事中に捕まって迷惑そうである。



 「・・・・・・随分と信頼されてるじゃないの・・・・・・いい子ちゃんしてるって訳ね・・・・・・」

 『なによっ!! バカシンジ!! ミサトまで落としてるって訳?!』(←ただの嫉妬)


 いきなり睨まれてどう対応していいのかわからない少年。


 「え? えっと・・・・・・あの・・・・・・」


 だらだらと嫌な汗が流れてくる。

 こんなところで鏡の前のガマの気持ちがわかっても嬉しくない。



 「待って・・・」

 意外なところから救いの手が差し伸べられた。

 「ファースト? 何よ! モンクあるっての?!」

 明らかに不機嫌なアスカ。

 キョウスケ達はすっかり観戦モードで三人を肴に酒を楽しんでいた。


 「“アスカ”はここで暮らせばいいわ・・・・・・そして碇君はここを出るの・・・・・・」

 「「え?!」」

 その申し出に驚くシンジ。

 と、ミサト。


 「じ、じゃあ、コイツはドコで暮らすっていうのよ?」

 流石にアスカにも焦りが出てくる。


 「・・・・・・わたしの所・・・・・・(ぽっ)」

 「「ぬぁんですってぇええええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」」


 思わず叫ぶアスカとミサト。

 シンジは真っ赤だ。


 エクセレンは腹を抱えて笑っている。


 「ち、ちよっと!! 待ちなさいよ!! アンタバカぁ?! コイツと一緒に暮らすなんて・・・・・・同棲よ
  同棲?! 解ってんの?! その意味?!」

 「大いに理解しているわ・・・・・・一緒の部屋で寝て、一緒に料理を作って、おしゃべりをしながら一緒に食
  事したりするの・・・・・・」

 「あ、アンタねぇ・・・・・・」

 『それはアタシの役よ!!』(←本音)


 「何か問題でも・・・・・・・・・?」

 「ありまくるわよ!! コイツだって男なのよ?! 状況に興奮して、イキナリ飛び掛ってきたらどうす
  るのよ!!!」


 その言葉に、レイはニヤリとゲンドウ笑いを浮かべた。


 「かまわないわ・・・・・・受け入れるだけ・・・・・・責任は取ってもらうもの・・・・・・・・・」



 「ぬわんですってぇええええええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!」



 物凄い言い合いが続いた。


 ハッキリ言って何を言っているのかサッパリである。

 大体において、子供の口喧嘩とはそんなものであるが、言語的にムチャクチャになっていた。


 シンジはオロオロとしながらも口喧嘩を止めさせようとし、ミサトとエクセレンは笑い転げている。

 キョウスケとリシュウは静かに酒を飲み、

 エクセレンから開放されたアルファは、やっと食事にありついていた。

 冷めてたけど・・・・・・・・・。
















 ゼェゼェと息を乱すアスカ。

 冷静に返していた為に息を乱してはいないものの、やはり疲労の色の見えるレイ。


 そして、明らかに心労の色の見えるシンジ。


 「はぁはぁ・・・・・・と、とにかく、コイツがヘタな事しないようにアタシが見張るからねっ!!」

 「・・・・・・そう・・・・・・残念・・・・・・」

 肩を落とすレイ。

 「結局どうなったの?」

 今まで三人を肴に飲んでいたエクセレンが、楽しそうにアスカに問い掛けた。

 「ゼェゼェ・・・・・・アタシがここに住んで、シンジがケシカラン事をしないように見張るのよ!!」

 「ふぅ〜〜〜ん・・・・・・“シンジ”ねぇ・・・・・・」

 「あ・・・・・・」


 流石にエクセレンである。

 酔った様に見えても耳ざとい。


 「ま、仲がいいのも良いけど、ほどほどにね」

 だが、それ以上は何も言わずに酒宴に戻って行った。

 仕方なく子供達はシンジの部屋へ移動する。



 「・・・・・・エクセレンさん・・・・・・気付いてるね・・・・・・」

 部屋の戸を閉めてからシンジが口を開いた。

 「うん・・・・・・物凄く勘がいいの・・・・・・失敗したかなぁ・・・・・・」

 「大丈夫だと思う・・・・・・東郷師範と同じくらい信じられる・・・・・・」

 自分を気にかけてくれているリシュウをレイは心から信頼している。

 だから引き合いに出るのだ。



 “前”のレイの事を知っている人間ならば驚いた事であろう。

 レイが他者を信頼しているのであるから・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



 「ま、いいわ・・・・・・でね。シンジ、“レイ”」


 ファーストからレイと呼び方を変えた。

 三人だけになったからだ。


 「ん?」

 「何?」


 アスカは頬を赤く染め、少し小さい声でこう言った。

 「ただいま・・・・・・」


 その言葉に柔らかく微笑む少年。

 少年の笑みに中てられたかのようにレイも笑みが浮かぶ。


 「おかえりアスカ・・・・・・“君の”部屋に・・・・・・」

 「おかえりなさい」


 三人は今度こそ本当の再会の挨拶を交わした。

 これからが本当の戦いなのである。


 前哨戦は終わりを告げ、中盤への移行。

 その最初の戦いでいきなり歴史が変わった。


 だが、その事に対する焦りはない。

 三人が集まったからである。

 これで彼らの戦力が調ったからだ。


 三人いてこその彼らだった。


 言葉も無く、極自然に三人は抱き合う。

 お互いの意思を固めるように。

 戦いの勝利を誓うように・・・・・・・・・。


 「あたたかい・・・・・・」

 「うん・・・・・・」

 「碇君も、アスカも・・・・・・生きてる・・・・・・うれしい・・・・・・」


 抱擁にも似た、時間が過ぎ、アスカはシンジに向き合った。


 「・・・なに?」


 優しい瞳でアスカのその視線を受け止める。

 アスカは恋に身を焦がす乙女そのものの眼をしているのであるが、鈍い彼は気付かない。


 少年のあたたかい眼差しを受け、たちまちフニャけるアスカ。

 そして、イキナリ不機嫌モードになるレイ。


 「シンジぃ・・・・・・アタシ、絶対にアンタをもらうからね」

 「はぁ?!」

 「駄目・・・・・・碇君はわたしがもらうの・・・・・・これは運命なの・・・・・・」

 「へ?!」

 「レイ、シンジはアタシのものよ!! アンタは引っ込んでなさい!!」

 「イ・ヤ。碇君と既成事実を作ってわたしのものにするわ・・・・・・」




 『ぬわんですってぇええええええっ???!!!!!』

 『ああ、やめてよぉ〜〜〜!!!』


 奥の部屋から声が響いてくる。

 アスカの怒声とシンジの涙声。

 少年達の年相応な口喧嘩はミサト達を安堵させる。


 自分らは命がけの戦場に子供を突き出させている不甲斐無い大人達だ。

 だから、せめてあの子達の心だけでも守りたかった。

 以前は自分の復讐の駒にしようとしていたミサトも、ひたむきなシンジによってその憎悪を消していた。


 子供達は子供達の作る未来に進めばいい。

 そして自分達はその後を守ってやらなければならない。

 それが使命である。



 『アンタはどっちの味方なのよ!!!』

 『そ、そんな事言われても・・・・・・・・・』

 『・・・・・・・・・』

 『なんですってぇ?! 誰がさせるかぁっ!!!』

 『ああ、やめてよぉ〜〜〜・・・・・・・・・』



 ミサトは微笑む。

 キョウスケも、

 エクセレンも、

 そしてリシュウも・・・・・・・・・。


 少年達の幸せと、未来への勝利を信じて・・・・・・・・・。







                                           TURN IN THE NEXT...













──あ(と)がき──

 ハイ。インターバルです。

 や〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っと、全員集合しました。

 え? 加持ですか?

 いますよ? あるところにw

 今は特殊活動中ですけどね〜〜(^^)

 あ、ガギエルの撤退とは関係ありませんよ?



 それと、例のクイズですけど・・・・・・

 申し訳ありませんが、大半の方がウイルス付きですのであんまり調べられません。

 それだけは私のせいではありませんので、ご容赦ください・・・・・・・・・m(_ _)m


 そのせいだけではありませんけど、受付期間を期間を四月中まで延ばします。

 でないとチェック仕切れません。

 今のところ全問正解者はゼロです。

 ただ・・・・・・なんで正解率が高い人ほど18禁を求められるのです(^^;)?

 いや、ホント・・・・・・・・・。


 では、また・・・・・・。



 〜〜シンジ君達の学校生活に幸いあれ・・・・・・〜〜


作者"片山 十三"様へのメール/小説の感想はこちら。
boh3@mwc.biglobe.ne.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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