「これが本物のエヴァンゲリオン・・・よ・・・・・・・・・」

 何となく棒読みで赤い巨人──汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオン弐号機──を少年に見せる少女。

 まるで通過儀礼のように。



 少年は、懐かしむようにその巨体を眺めた。

 赤い・・・・・・“前”と同じ彩色である機体が目にしみる。

 おぞましくも懐かしい、人の造りし“戦友”・・・・・・・・・。



 一瞬、彼の脳裏をズタズタに食い裂かれた姿がよぎった。


 胸に突き刺さる、悔恨という名の痛み・・・・・・。




 何に対して?




 全て?




 それを否定できない少年は、たちまち涙が溢れ蹲ってしまう。



 「シンジ!!」

 慌てて少女は彼を抱きしめ、言い聞かせるように頭を撫でた。


 「アタシはここにいるから・・・・・・大丈夫だから・・・・・・」

 「・・・・・・うん」


 その思いやりで自分を取り戻し、起こさせない“未来”のビジョンを振り払う。





 そうだった。





 もうあんな事をさせない為に還ってきたんだった。




 蹲ってる暇等ない。

 



 今度は、間違えない。

 今度は踏みとどまらない。





 絶対に、皆を・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。






 皆を守るんだ。






 顔を上げた少年は、

 いつもの瞳の輝きを取り戻していた。


 「やっと元気になってくれたわね。バカシンジ」

 そう言って微笑みをくれる少女。


 元気だった頃の“未来”の彼女より、ずっと輝いている笑顔。

 少年に再会を果たした喜びに満ち溢れ、歓喜の涙が零れ落ちている。


 「うん。ありがとう」


 だから少年も微笑む。

 微笑み合う為に戻ったのだから・・・・・・・・・。


 少女は、やっぱり笑顔に突き転がされる。


 「た、ただいま・・・・・・・・・シンジ」


 それでも言いたかったセリフを口にする。

 少年への想いを込めて。



 「おかえりアスカ。やっと会えたね」



 お互いの頬を涙で濡らし、ついに二人は再会を果たした。





 それは、戦いの新たなる局面の始まりでもあった・・・・・・・・・。





─────────────────────────────────────────────────────────────

   For “EVA” Shinji

          フェード:壱拾壱

─────────────────────────────────────────────────────────────



 「あれ? あのお二人さんは?」


 トレーに乗せた艦内食のパンを咥えつつも、器用に喋る金髪の美女。

 いつの間にやら手に入れているNERVの略式制服のミニスカートが目にもまぶしく、海の男達には目の
毒だ。


 「あのお二人さんなら弐号機のトコ行ってるわよ」


 こちらは黒髪の美女。

 この艦の乗員から言えば、東洋の神秘と言える美女。

 たとえ一般家事能力が崩壊しているとしても、外面から解る訳もない。


 やや彩色が違うものの、やはり赤いNERVの略式制服。

 言うまでも無く、NERV戦術作戦部の代表格、葛城ミサトである。



 「ツヴァイ(弐号機)〜? あの巨大人造人間のトコでデートなんて、色気ない話よね〜」

 「そうよね〜・・・・・・せめて甲板に誘ってさ、こう、風に乱れるアスカの髪を直してあげて・・・・・・」

 「そうそう・・・・・・『ここは風が強いんだね』とか言っちゃったりして♪」


 ・・・・・・・・・同じノリである。

 そんなミサトと自分の恋人でもある金髪の美女──エクセレン・ブロウニング──を眺めつつ、シンジの戦
闘教官兼護衛の南部キョウスケは、これから心労が増えるであろうリツコに同情していた。


 “子供大人”が二人に増えたのだ。


 ミサトにしてもエクセレンにしても、決して無能ではない。

 ミサトの能力は既に見知っているし、エクセレンに至っては、ノリが軽く自己アピール度が高すぎて理解
できぬであろうが、とんでもないくらい能力が高い上に、とてつもなくカンがいいのだ。

 こんな厄介な美女のいる本部・・・・・・別の意味で不安である。








 ・・・・・・・・・?


 そんなキョウスケを不意に妙な感触が包む。



 今まで自分を生き残らせてくれていた“勘”を信じ、キョウスケは立ち上がる。

 「? どうしたのキョウスケ?」

 「・・・・・・・・・気のせいかもしれんが・・・・・・」




 その時、皆の鼓膜を異音が押し乱す。

 強烈な耳鳴りが襲い掛かる。

 思わず耳を押さえる三人。






 そして、次の瞬間。








 ズドォォン。








 いきなり衝撃が走った。

 「な、なに?」

 「衝撃波? なんで? 魚雷戦でも始まったの?」

 いきなりの衝撃にも大して慌てないのは流石である。

 「いや・・・・・・多分・・・・・・」



 ズゥウウウウウンッ!!!



 「使徒だ」



                     *   *   *   *   *   *



 来たわね・・・・・・・・・。

 アタシとシンジは既にプラグ内にいたから起動は早い。

 来る事は知っていたし、“今”のアタシのカンも半端じゃない。

 記憶より早い到着を、なんとなく読んでいた。


 「アスカ」

 「解ってる」


 アタシの後ろでシンジが言う。

 アタシが用意してた赤い“男性用”のプラグスーツで。

 当然、シンジ用に調整してある。


 『アタシとサードのどちらが優れてるか弐号機の起動実験で思い知らせてやるのよ!!』


 なんてくだらない理由を信じ、ドイツ支部の連中が用意してくれた物だ。

 もちろん、『ペアルック♪』なんてこと考えてたりしたのはヒミツ。



 “初めて”という事になっている実戦。

 当然アタシは焦ることなく弐号機を起動させる。


 とは言うものの、シンジに抱かれているような感じでちょっと・・・・・・・・・ううん、かなりドキドキする。

 こっちの思考ノイズの方が大きかったりして・・・・・・・・・。


 「LCL Fullung」

 
 基本言語はドイツ語。

 「Fehler」


 当然エラーが走る。

 言語を日本語をベーシックに切り替えて進めて行く。

 めんどくさい手順だけど、一応は同じ轍を踏む。



 「Anfang der Bewegung.

  Anfang des Nerven anschlusses.

  Ausloses von links−Kleidung.

  Sinklo−start」




 それでもドイツ語で考えて負荷をかける。

 やっぱり走る思考言語差異による思考ノイズ。


 これでいいわ。


 確実にシンクロ率落ちてるはずだから。

 シンジにはギリギリまで耐えてもらう。

 実力を隠して戦わなきゃいけないから・・・・・・。


 でもシンジとの間に言語の壁を作ってるのがとても痛いし心苦しい。

 せっかく二人っきりなのに、なんでまたジェリコの壁なんか作らなきゃならないのよ・・・・・・。



 「さ、行こう。アスカ」



 それでも心の手をアタシに差し伸べてくれる。

 アタシのもどかしさに気付いているからこそ、微笑んでくれる。


 だからアタシはアンタしか見えないのよ。

 解ってる?


 『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』


 アタシの心に何かが触れてきた。

 覗き込むような感触じゃなくって、眺められてるっていうそれ・・・・・・・・・・・・。


 解ってるわよ“ママ”。

 コイツがシンジよ。

 憎たらしい事に、アタシの今までの人生で、唯一本気で愛してしまった男よ。



 憎くて憎くて憎らしくって悔しくて悔しくて悔しいから、二度と離れてやんないの。


 ライバルもいるけどね。



 うふふふ・・・・・・そうなの♪ 負けたりしないわ。これからの戦いにね。


 じゃあ、行くわね・・・・・・・・・。



 「行くわよ、シンジ!!」

 「うん!!」


 思考形態はドイツ語だけど、アタシはこれからの“母国語”を使った。





                    *   *   *   *   *   *




 「な、なんだアレは?!」

 その空母の艦橋で、艦長らしい男が驚愕していた。

 彼らが世界最強クラスだと自負していた兵器の数々をものともせず、護衛艦を突き飛ばしてゆく“魚影”。

 弐号機搭載と共に、秘かに積み込まれていたN2ミサイルすら何の抵抗にもなっていないのだ。


 「艦長!!」


 そこへ飛び込んでくる三人。


 「君らか?! 入る許可を出した覚えは無いぞ」

 「そんなこと言ってる場合じゃないんじゃな〜い?」


 エクセレンはおどけた口調で言うものの、初めて見るそれに緊張していた。


 例えて言うところ、まさに魚。

 しかし大きさが違う。

 鯨のように大きい。

 ただ、危険度は比べ物にならない。






 きゅおぉおおおおおおおおっ!!






 鳴き声と思われる“音”がし、使徒の周りの海水が弾き飛ばされる。





 そして見た。





 “音”が抉り取った海面に浮かぶ、古生代の甲殻魚を思わせるフォルム、


 “早く泳ぐ”という水の抵抗の理屈を無視したその姿、

 今までの生物型の使徒と同じく上部にある仮面のようなもの。


 それが、第六使徒ガギエルであった。






 コォンッ!!!






 一瞬で姿が消え、近くにいた別の艦が粉々になる。

 艦の爆発より先に上がる水しぶき。

 理屈はわからないが、気配すら感じる暇も無い速度で体当たりを掛けたのである。


 「ア、アーレイバーグ沈黙!!」


 泣きそうな声で現状が伝えられる。


 「うわっちゃあ〜〜〜・・・・・・なんつー非常識な奴・・・・・・アレが本物の使徒なのね」

 「そうだ・・・・・・シンジ達が命を賭けて戦わなければならない相手だ・・・・・・」


 「あ、あれが使徒なのか・・・・・・」


 艦長の呆然とした呟きを、通信が遮った。


 「オセローより入電!! エヴァ弐号機起動しています!!」


 窓に顔を押し付ける美女二人。


 「「ナイス、アスカ!!」」

 ミサトとエクセレンの声がハモる。

 なんだかユニゾンしてたりする。


 「いか〜ん!! 弐号機は本艦の管轄内だ!! 勝手は許さん!!」

 「艦長ぉ〜〜・・・・・・ンなこと悠長に言ってたら轟沈されちゃいますよ〜?」


 呆れ果てた様なエクセレンの声にも、


 「キミは黙っていたまえ!!」

 と拒絶の構え。


 『ミサトさん!! とにかく外部電源の用意をお願いします!!』

 「へ? シンちゃんも一緒なの?」

 突然、弐号機からシンジの通信が入った。

 スピーカーから彼の凛とした声が響く。

 『しょうがないでしょ?! あのまま空母に乗せてる方が危険なのよ?』

 次いでアスカの声。

 二人の美女の脳裏に、ぴたりと寄り添う二人の姿が浮かぶ。


 「不順異性交遊だわ。先生は許しませんよ!」


───誰が先生だ?


 とキョウスケは思ったのだが、いつものエクセレンだから突っ込まなかった。


 「でも、どうやって本艦に・・・・・・・・・? まさか・・・・・・」


 不安がる副官の声に答えるかのように、赤い巨体が宙を飛んでいた。


 「「「「あ〜〜〜っ!! やっぱり〜〜〜〜〜〜〜!!!」」」」



                     *   *   *   *   *   *




 内部電源の予備時間は二分を切ってる。

 仕方ないから“例”の手を使う。

 <オセロー>からジャンプ。

 次の空母に乗り移る。

 ゴメンっ・・・・・・・・・








 アレ?

 衝撃が弱い?

 前回は甲板を踏み抜いたりしてたのに、今は降り立つと言った方が良いほどきれいに着地している。


 もう一度ジャンプ!


 やっぱり空中で制動がかかってる。

 どうして・・・・・・?


 「第伍使徒の時に覚えたんだ。フィールドを足場にする方法」

 アタシの後ろでシンジの声がする。


 足場?

 フィールドを?



 やっぱり凄いわコイツ・・・・・・・・。



 でも、NERVが後で謝らなくても良い訳ね。

 じゃあ、気兼ね無いわね♪


 「EVA弐号機、着艦しま〜〜す!!」


 アタシはそう叫んで、ほとんど揺らさずに甲板に降り立った。



                     *   *   *   *   *   *




 「あ、あれだけの質量が落ちて来たのに・・・・・・衝撃が・・・・・・」

 副官が呆然と口を開いた。


 「あれは・・・・・・シンジだな」

 「多分ね・・・・・・・・・あれだけフィールド操ってるんだもん・・・・・・」

 「むぅう〜・・・・・・どういうことなの? キョウスケ。説明しなさい!」

 嫉妬を含んだ棘に刺されながらもキョウスケはエクセレンに説明してやる。


 その横でミサトは、

 『ふ〜ん・・・・・・初めてのタンデムでこれだけ同調できるのか・・・・・・相性がいいのかな?』

 等と考えていたりする。


 そんな呑気な三人とは逆に、

 「攻撃が効かん!! これだけ撃ち込んでいるんだぞ?!」

 「駄目です!! 目標に被害がありません!!」

 「馬鹿なっ!!!」

 と現実を無視した敵に慌てふためいていた。


                     *   *   *   *   *   *



 外部電源を接続するとアスカも落ち着いて思考ができるようになった。


 ──落ち着いて──とは言っても、それはあくまで『使徒戦』の話である。


 シンジの体温を感じる事ができる状況で、彼の“男”に自分が身を任せたがっているのを自覚していくの
は仕方が無い。


 眼前の敵より背後の味方に意識を奪われていたら世話が無い。




 しかし、敵を前にしてその隙は頂けない。




 またしても異音と共に海面が抉られ、ガギエルが突撃してくる。





 ──アスカ!!!──


 シンジは咄嗟にフィールドを張り、ガギエルの攻撃を受け流した。

 これは正解であった。

 受け止めていれば確実に弐号機は破壊され、死んでいたのである。



 「ぐぅう・・・・・・・・・・・・・・・っ」

 「シンジっ!!」

 『『『シンジ(君)(シンちゃん)!!!』』』


 彼がフィールドを張ったことを理解している面々の声が通信機から漏れる。



 アスカは自分の迂闊さを呪った。



 彼の助けになる為に弐号機に乗っているというのに、今の体たらくはなんだ?



 後ろで彼は自分の無事を見て微笑んでくれた。

 この優しい少年の助けになるのではなかったのか?


 守られるのは嬉しい。

 自分を守ってくれるという絶対的な信頼が、心を焦がすほどの愛しさを生み出してゆく。


 だけど、ただ守られるだけはいやだった。



 自分と同じく心をズタズタに裂かれた少年だった。

 自分だけが苦しんでいたと感じていたあの“時間”・・・・・・・・・。


 この少年と理解し合っていれば、ひょっとしたら回避できたかもしれないあの悲劇・・・・・・・・・。


 だから一緒に戦う気になった。



 自分の痛みを受け止めてくれた少年の為、


 彼と痛みを共有する為、


 愛しい彼の為に・・・・・・・・・。




 今度は・・・・・・・・・アタシの番よ・・・・・・・・・。




 アスカは心を、戦闘モードに切り替えた。

 もう、シンジ一人を傷付けさせない為に・・・・・・・・・。



 


 彼女から、隙が消えた。






 「ターゲット確認・・・・・・破壊する・・・・・・」







 勝気で騒がしい少女は、

 冷静沈着な戦士へと変貌を遂げた。



                     *   *   *   *   *   *



 「あらら、アスカちゃんたら本気モードに入っちゃった」

 「へ? アスカの本気モード?」

 「そ♪ もっの凄い冷静になっちゃって、機械的に行動するの。それも正確にね」


 シンジと逆なのか・・・・・・。

 そうミサトとキョウスケは考えた。


 が、


 「ああ、違うわよ? マシーンみたいになるんじゃないの。ちゃ〜んと熱いモンは持ってるわ。ただ、機
  械みたいに・・・・・・デジタル的に冷静になるだけよん」


 『ミサト、教官、目標の能力が解ったわ』


 丁度のタイミングでアスカから通信が入った。


 いつものアスカの情熱的な声ではない。

 そう感じたミサトは少し悲しくなった。


 『目標は衝撃波を操ってる』

 「衝撃波?」

 『まず衝撃波で周りの海水を飛ばして壁を作り、その壁をフィールドで固定して衝撃を反響させて自分を
  撃ち出しているみたい。それも自分の回りに振動波を纏わりつかせてね』

 「えぇ?!」



 自分そのものを高速振動弾にして音速で体当たりをかける使徒、それが“今回”のガギエルである。



 「そ、それじゃあ、海上で戦うのは不利よ!!」

 「不利って・・・・・・空でも飛べっていうの?」


 流石にエクセレンもそれしか思いつかない。

 と言うより、あまりに非現実的な攻撃に思考力が鈍っているのだ。


 「・・・・・・海中で仕掛けるしかない・・・か・・・・・・」



 流石にキョウスケはこの非現実に慣れている。

 彼がこの非常識な“怪獣”を見るのは三回目なのだから。


 「ば、馬鹿な・・・・・・幾らなんでも無茶すぎる!! 君はむざむざツヴァイを藻屑にするというのか?!」

 「そうね〜・・・・・・アスカ、ケーブル命綱にして。切られちゃダメよ」

 『了解』



 余りに無謀な策だと言うのに、少女は躊躇せずにそのまま了承した。



 「なんだってぇ?!」


 MMR風に叫ぶ艦長を尻目に、弐号機は海中に身を躍らせる。




 上がる水しぶき。




 「あ゛〜〜〜〜っ!! 行っちゃったぁ!! B装備なのに・・・・・・」


 呆然とした副官の声に、


 「「「なんだってぇ??!!」」」


 やっぱりMMR風にNERVの三人組は叫ぶのだった。



                    *   *   *   *   *   *




 ケーブルの長さが限界点につき、強いショックが機体を襲う。

 当然、予測していた衝撃なので受けることができた。


 完全に戦闘モードに入っている為、アスカは一言も喋らず迫る敵に集中している。

 そんな彼女の邪魔にならないよう、シンジも黙って彼女の肩に手を置いて見守っていた。


 “今回”のガギエルは直線行動力が優れている。

 しかし、それだけでないことはこの間のラミエル戦で学んでいた。

 何か隠し玉があるはずである。

 そして、それを隠している。





 アスカの脳裏を閃光のようなものが走り、まだセンサーも反応していない敵を捕らえた。

 それは、イルカのように上下に身体をくねらせて自分に迫っている。


 流石に水中で鳴いても音速で水の壁にぶち当たる事は解っているのであろう。

 ただ泳いで迫ってくるだけである。

 それでもカジキなど比べ物にもならないほど早い。


 一応使徒の身体全体の確認をするが、やはりコアは無い。

 水中をロケットの様な速度で迫るガギエルが水力抵抗を無視した形で口を開けた。

 噛み付くつもりなのであろう。


 その奥、ノコギリ状の歯が並ぶ嘴の様な口の奥、おそらくは目であろう輝きの間に、それはあった。

 「目標、捕捉・・・・・・・・・」

 アスカはATフィールドを張り、牙に備えた。




 ぐがぁっ




 とてつもない衝撃が弐号機を襲う。

 顎の力そのものはたいしたことはなかった。

 だが、その牙はフィールドを纏っていたのだ。

 アスカの張ったフィールドを貫いて弐号機に突き刺さる。

 『『アスカっ!!!』』

 状況をモニタリングしていたミサト達の声が響く。

 「・・・・・・くっ」

 身体に掛る負担。

 だがアスカは気丈にも声を上げない。




 ぎしぎしぎし。




 水圧とは別の圧力が弐号機を襲う。

 急に顎の力が強くなった。

 海水からの圧力そのものをフィールドで力に変えているのだ。




 それでもアスカは焦らない。



 
 彼女の“背後”から心が支えられているからだ。


 もしも、あの時の自分だったらどうだろう?

 もしそうなら“今”のガギエルに手も足も出ないはずだ。


 “今”の自分でさえ、この有様なのだから・・・・・・。


 支えてくれる者も無く、ただ一人で血を吐きながらのたうっていたのではないか?







 だけど、今は違う・・・・・・・・・。






 『開け・・・・・・』



 ぐぐ・・・・・・。



 誰かの声が心に響いた。

 その声に反応するかのように顎の力が緩む。


 背後から伝わる強い想いを感じ、振り返ってみる。


 やはり少年が、強い眼差しで前を見据えていた。



 『アスカを・・・・・・・・・傷付けるなぁっ!!』



 LCLを介して、その想いがダイレクトにアスカの胸を貫いた。


 いきなり戦闘モードから通常モードに復帰しかかってしまう。


 その熱い想いと、凛々しい彼の眼差しに心がざわめいたからだ。




 『開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け』



 異様に強いシンジの想いが、ガギエルの顎を押し上げる。

 無論、ガギエルも抵抗を見せる。

 更に強く加重される。



 だが、



 『開け『開け』』

 シンジの心にアスカの心が重なる。

 アスカに視線を移すと、シンジの目を真っ直ぐ見返し微笑む彼女がいた。

 微笑みをうかべ、無言で頷く二人。




 そして、




 『『開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け』』


 ユニゾン特訓をしていたのは伊達ではない。


 『『開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け』』


 完全に同調している想いは、単純な足し算ではなく、相乗効果としてそのままフィールドに反映されてい
た。


 『『開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け。開け』』



 弐号機の“眼”が、光った。






 ゴギン、ゴギゴギゴギ・・・・・・・・・。





 あまり聞きたくない様な嫌な音と共に、その顎はフィールドでジャッキアップされて裂かれてゆく。



 弐号機は冷静にショルダーからプログレッシブナイフを取り出した。






              *   *   *   *   *   *   *   *   *





 ズドォオオオオオオオオオン!!!


 水柱が上がり、その勢いに乗った形で弐号機が海中から飛び出して来た。


 先程と同じ過程でフィールドを張り、衝撃を緩和してオーバーザレインボウに着艦する。


 ケーブルは既に切れており、残存電力は使い切っていた。



 「お疲れ様!! シンちゃん、アスカ、無事〜?」

 ミサトが明るく通信を飛ばす。

 キョウスケとエクセレンも戦いの終わった事に安堵していた。




 しかし、




 『ミサト・・・・・・』

 「ん? どうかしたの? アスカ」

 『ミサトさん・・・・・・今の使徒・・・・・・・・・・・・・・・撤退しました』


 「はぁ??!!」



 第六使徒ガギエル。

 それは、あくまで撤退しただけで、未だ健在なのであった。





                                        TURN IN THE NEXT...






 〜〜あ(と)がき〜〜

 アスカ来日編“だけ”しか終了しませんでした。


 ごめんなさい!!

 加筆・・・・・・って言うか書き直ししたら倍以上になってしまいました・・・・・・・・・。

 このまま例の話に突入しますから、後数話続いてしまいます・・・・・・。

 『まぁ、LASメインのサイトだし・・・・・・』と大目に見てやってください(^^;)

 たのんますm(_ _)m



 例のクイズですけど、なんでこんなに送ってくるの(;_;)? ってくらい送ってくださって、ありが
とうございます。

 でも、正解者はゼロです(^^;)

 やっぱり綾波がネックですね(^^;)

 『ヒントくれ〜〜〜』ってのまでありましたし・・・・・・。

 ヒントねぇ・・・・・・元祖スーパーロボット乗りと、三人組の一人・・・・・・。

 これ以上は言えませんよ(^^;)?

 自力で解いてください。

 たのんます。


 後、何か変更がありましたら、投稿作家ページに書いておきますので・・・・・・。

 ではまた、次にお会いしましょう・・・・・・・・・。





  〜少女達の天秤に幸いあれ・・・・・・〜


作者"片山 十三"様へのメール/小説の感想はこちら。
boh3@mwc.biglobe.ne.jp

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