「・・・・・・と言う訳で、苦労してボロボロになりながら戦う必要も無く、戦いは遠隔操作で行え、万が一の
  場合にもパイロットの安全が確保できると言う事です」

 そう胸を張って男は言い放った。

 まぁ、自慢したいのも解らぬでもない。



 ここは第二東京市のとある場所でのJA披露式典会場。


 戦自の後押しがあったとはいえ日本重化学工業共同体の技術力で戦闘用巨大ロボットを作る事ができたの
だから、まぁ、当然と言える。


 だが、威張り方がひじょ〜〜〜〜によろしくなかった。

 最初から要約すると、


 『チミたちが作ったヘッポコ人型兵器なんか用済みザマス。ミー達が作ったスーパーロボット“JA”は
  クリーンで安全ザマスよ。これで、チミたちみたいに、ドコの馬の骨ともしれないガキに頼らなくとも、
  ミー達と戦自でガツンっとやってあげちゃうザマスよ』



 と、なる。



 リツコとミサトは半ギレである。

 EVAを貶されただけではない。

 ありったけの勇気を振り絞り、歯を食いしばって並々ならない恐怖に耐えて戦っている一人の少年の事ま
で揶揄したのだ。


 その言葉、宣戦布告と判断されても仕方のない事である。

 そして当方には迎撃の用意が有った。


 「・・・・・・はい」


 NERV側の席でえらく場違いな女性が手を上げた。


 その黒い帽子と顔にかかるヴェールでいかなる女性なのかは不明であるが、彼女は喪服を思わせる黒いド
レス姿で席についていた。

 その衣装は、帽子とヴェールの隙間から覗く青みがかった銀髪と妙にマッチしている。

 そして、なんだかニンニクラーメンをチャーシュー抜きで食べそうな雰囲気があった。


 「ほほう・・・・・・これはこれは愛らしい格好のお嬢さんだ。何かな? お嬢さん」

 明らかに蔑みのセリフであった。

 だが、ミサトらは心の中で舌を出した。


 この女性──いや、少女の“口撃”を男は知らない。


 「では・・・・・・」

 少女は息を大きく吸って言い放った。

 「そのJAという実に美的感覚がよそ見しているロボットの外見はともかく出力の点での問題はどうする
  んですか? 明らか出力不足ですし戦わなければならない使徒にいたっては超遠距攻撃が可能なタイプ
  も存在しましたが対射撃戦防御力は? 少なくとも戦時の陽電子砲の連続射撃に耐える装甲は必要です。
  ちなみにどう耐えたかは機密ですがEVAは耐えたようです。それとリアクターという大昔のロボット
  のような動力源ですが戦闘安全度については全く説明ありませんね? せめてN2リアクターぐらい搭
  載してほしかったですね。まさか原子力潜水艦や空母程度の安全設計でどうこう言うつもりではないと
  思いますが如いて言えば体当たりを繰り返しても全く問題ないと言う事ですね? それとも最後の手段
  として自爆させるつもりなの? ちなみにN2地雷で生きている事を知ってるみたいだから言うまでも
  ない話ですけど第三使徒襲来時に街を破壊しながらもほとんど被害を与えられずにいたというのにリア
  クターの暴走爆発程度でどうにかできるとは思ってないわよね? それから使徒襲来時に一部モニター
  とセンサーが使用不能になると言うことは知ってるみたいだけどどうやって遠隔操作するの? コード
  付ならEVAと変わらないし切断された時にはどうするの? 人が乗って動かす場合はあんな巨体だか
  ら中のパイロットのかかる負担もたいしたものになるけどその説明が全くされてない。あれだけの巨体
  だったら移動振動だけで死んでしまいそうだもの。それにスーパーロボットと言うには明らかに力不足
  です。スカロボットと改名することをお勧めいたします。だいたい暴走の話にしても初号機パイロット
  は暴走の“ぼ”の字も起こさないで街の被害を最小限に抑え使徒たちを殉滅するという素晴らしい戦果
  を上げておりますがこの初号機パイロットの努力と誇りに対する暴言の謝罪をお聞きしたいのですが?」


 ゆっくりと、だが口を挟む隙を全く与えず少女は言い放った。

 あうあうと情けなく口を動かすだけの男。

 ミサトとリツコは笑いを抑えるのに苦労した。

 その後、技術的な質問を淡々とリツコが行い、その“技術者”としての質問になんとか答える事によって
自信を欠片ほど取り戻し、起動実験にかかった。


 そうさせる事がリツコ達の陰謀があることも知らず・・・・・・・・・。



 で、起動実験。

 やっぱりそのロボット・・・・・・ジェット・アローンは暴走した。

 そしてキャリアーで運ばれてきた“元起動実験用機体の零号機”により、一分とかからず押さえつけられ、
EVAに比べれば玩具程度である事を政府と戦自に見せ付ける結果となってしまった。


 “前回”のJA暴走事件との違いは・・・・・・。



 政府から三下り半を突きつけられた日本重化学工業共同体をNERVが抱き込んだ事だ。



 これにより、NERVの技術を吸収し、JAのベースは生き続けてゆく事になる。


 この事が後に関わってゆくのだが・・・・・・・・・。



 今はまだ、語る必要も無いだろう・・・・・・。




─────────────────────────────────────────────────────────────

   For “EVA” Shinji

          フェード:壱拾

─────────────────────────────────────────────────────────────


 空を爆音と言っていいほどの騒音をがなり立てて軍用のヘリが飛ぶ。

 操縦者等を除くと、そのヘリの中には、

 一人の少年と、その護衛の男。
 
 そして、少年の直接の上司が乗っていた。

 これだけである。

 毎日ジャージ着用少年や、カメラ付眼鏡少年の姿は無い。

 護衛の男の鍛え上げられている身体が大きい為、乗せるスペースが無いのだ。

 よって、この三名となった。

 これが“前回”との違いである。



 大きな音をたてる軍用ヘリの中、シンジは疲労しきって深い眠りについていた。

 爆睡と言ってよい。


 『無理もない・・・・・・この一週間ろくに眠っていないから』


 と心配したような顔でキョウスケとミサトが少年を眺めていた。



                     *   *   *   *   *   *



 初号機の左腕部の交換は滞りなく進みはしたのであるが、この間のラミエル戦の結果、やはり白兵戦で使
用に耐えられる長物の必要性を迫られていた。


 プログレッシブ・ナイフでは、物理的な長さからラミエルの核にすら届かないのである。


 だが、試験品ではあったがマゴロク・E・ソードは砕け散ってしまった。


 シンジの駆る初号機の剣圧に刀身がもたないのだ。

 理論的にそんな事はありえないはずではあったのだが、考えて見ればEVAが動く事事態が理論的にはあ
りえないのだ。

 技術者達は無理矢理そう自分を納得させた。


 しかし、毎回毎回使い捨てにすると言うには高価すぎる。

 では、どうすれば?

 初号機自体の剣圧に耐えられるようにする方法をMAGIで計測させると、とんでもない答えが返ってき
た。



 曰く、──初号機に打たせる──である。



 つまり、初号機自身に剣を作らせろというのだ。

 流石のシンジも『そんなのできっこないよ〜!!』と捨てたはずの言葉を考えてしまうが、

 「あら、その手があったわね」

 とリツコが納得していた。


 『ムリだよ〜!』


 と思っていたら、実は案外どうかなる手段があった。


 刀鍛冶のモーションデータを打ち込み、MAGIに打圧を計算させてその地点にハンマーを振り下ろす。


 あるセンサーに一定の粘りと形がでれば成分調整をしたLCLに入れて冷やす。


 この繰り返しである。


 シンジはほとんど乗ってるだけ。


 『ただ座っていればいいわ』


 と、懐かしい言葉を思い出していた。


 溶鉱炉で熱し、鎚を振り下ろし、叩き、形を整え、冷やして締める。


 その繰り返し。

 当然、地上なんかでできるはずも無い。

 ジオフロントである。


 静かなジオフロントに鎚打つ響きが木霊していた。



 しかし、意外な付加があったことにまだ誰も気付いていない。


 冷やすのに用いているのはサビ防止の為成分調整をしたとはいえLCLである。


 当然、思考伝達の能力もある。


 シンジは打ちながらも皆を想っていた。



 もうすぐアスカが来る。



 もうすぐ三人が揃う。



 また、皆で学校に行ける。



 また、三人で戦う。



 今度は間違えない。



 アスカを守れなかった事、



 彼女がいてほしい時に自分は逃げて、彼女を見捨てた事、



 レイを助けられなかった事、



 自分の為に“死”という方法をとらせた事、



 “あの時”の自分の不甲斐無さを後悔してはいた。



 だが、それより今は皆を守る事を考えていた。



 “今”の戦いに負ける訳にはいかないのだ。



 今度こそ、サードインパクトを防ぐ!



 皆を守る!



 皆の為に戦う!



 その為に・・・・・・



 その為に必要な“武器”。



 皆を守る為の“武器”になる為の道具。



 それを心中の手で形作っていた。










 心は伝わる。



 LCLを媒介にして。



 心・・・・・・“想い”“意思”はこもる。



 初号機の手によって。















 全てが終わった時、シンジは気を失っていた。


 見守っていた一同も声が出ない。


 初号機の手に、カタナが握られていた。


 表現の仕様の無い、柔らかな美しい蒼い刀身。


 研いでいない為刃紋は無いが、切れ味そのものは存在しそうな鋭さと、いくら打ち据えられても曲がらな
いような粘りが感じられる。


 そこには、“兵器”等ではなく“武器”があった。


 MAGIの出した計測データよりかなり変異したものができていた。


 しかし、誰も異論を唱えようとはしなかった。



 正式名“EVA初号機専用白兵戦用参式実剣X−03”。


 通称、




 “イージス・ブレイカー”




 はここに完成した。




                     *   *   *   *   *   *




 ヘリの迫る空母、オーバー・ザ・レインボーの与えられた部屋の中、

 少女は悪戦苦闘していた。

 と言っても服選びなのだが、これがまた難しい。

 『前と同じ服っていうのも芸がないわねぇ・・・・・・それに風でまくれ上がって皆に下着を披露するのもヤだ
  し・・・・・・・・・ま、まぁ、シンジだけならともかく・・・・・・イヤイヤ、そうじゃなくて。スカートの類はダメ
  ね〜・・・・・でも、シンジに足を見せるのはイイかも・・・・・イヤイヤ、違うってば。と、とにかく服よ!! 
  赤いのにしようかな・・・・・・下着もおそろいの赤でキメたりして・・・・・・じゃあストッキングも・・・・・・って、
  これじゃあ誘ってるみたいじゃないの!! ま、まぁ、シンジが迫ってきたりしたらともかく・・・・・・イ
  ヤイヤ、あのシンジがそんな大胆な事・・・・・・あ、でも時々暴走してたし・・・・・・あ、じゃあ、一緒に住ん
  でからがキケン? あ、そんな・・・・・・でも、シンジがどうしてもって言うんだったら・・・・・・・・・・・・って、
  そうじゃなくて!!』


 と、オトメ心は大変なのであった。



 こんこんここん。



 ドアを誰かがリズムをとりつつノックした。


 「アっスっカちゃ〜ん。ヘリが見えたわよん♪」


 まるでミサトのような喋り方だが、まるで違う声がする。



 どきんっ!!



 アスカの胸が高まった。


 「今いくわよ!」


 やや緊張した声を返し、結局“前”と同じ服を着た。

 違うのは、アンダースコートを穿いた事だ。


 「いくわよ! シンジ!!」


 あ、ここも違うか。



                     *   *   *   *   *   *



 キョウスケに揺り起こされてヘリから降りる。

 海上という事もあり、潮風が強い。


 “前回”と同じく戦闘機が並ぶ甲板。


 (中身はともかく)美女であるミサトと、バリバリに中学生さを撒き散らすシンジ、そして軍人臭がプン
プンしているキョウスケという三人の取り合わせは否が応でも目立つのだ。




 と、そこへ近寄ってゆく小柄な人間の姿があった。




 ハッとするシンジ。




 その人間は少女であり、


 その姿は前の記憶と同様にとても綺麗だった。



 「ヘロォ〜、ミサト元気してた?」


 ミサトに対して馴れ馴れしく挨拶する。


 「まぁね〜。アナタも背、伸びたんじゃない?」

 ミサトも親しげに受ける。

 キョウスケはこの少女が誰だかわからなかったが、空母に明らかな場違いの少女がいることから噂のセカ
ンドチルドレンということを理解した。


 「他のところも、ちゃんと女らしくなっているわよ」


 言いながらも少女はキョウスケをチラリと観察した。


 『なるほど・・・・・・これは難物だな』


 とキョウスケは感じていた。


 彼女は誰も信じていない様だ。


 努力と経験に培われた自信が持つ高みからの見下ろしというか、王の観察眼と言おうか・・・・・・とにかく、
そういうものが感じられた。




 ・・・・・・・・・と、彼の後ろに立つ少年に視線が触れたとき、その表情に微かな変化があった。


 一瞬ではあったのだが、少女の瞳は喜びに満ち溢れていた。


 キョウスケならではの眼である。

 ミサトは潮風が眼に入って見ていない。


 「紹介するわ。エヴァンゲリオン弐号機専属パイロット。セカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレー
  よ」


 その時、一陣の風が少女のスカートを捲り上げた。


 「・・・・・・白」


 思わず口に出す少年。



 パパンっ



 キョウスケと一緒に張り倒された。

 「ずいぶんな挨拶だな・・・」

 キョウスケにも効いた一撃であった。

 「見物料よ。安いモンでしょ」

 「やれやれ・・・・・・」


 シンジは、キョウスケの横で赤くなった頬を撫でている。

 ミサトは笑いを堪えていた。


 「で、アンタが噂のサードチルドレンね?」


 「あら、よくわかったわねアスカ」

 「ナニ言ってんのよ!! コイツ以外に子供なんていないじゃないの!! こっちの男がチルドレンなん
  て言ったら悪夢だわ」

 「そりゃそうね」


 そう言ってミサトは大笑いした。


 顔を見合わせて苦笑する男二人。


 「ま、アタシが来たからには使徒なんてちょちょいとやっつけてあげるわよ。冴えないアンタの出番なん
  て無いと思ってくれていいわ」

 ふんぞり返るように自信満々に言うアスカ。

 だが、もちろん心中は違う。


 『シンジを守る為にも・・・・・・ね?』


 彼女の眼がそう言っていた。


 『ありがとう・・・・・・アスカ』


 少年はその心を理解して微笑んだ。




 ずばうっっっ!!!




 一瞬にして茹でダコになった。


 『あ、やっぱり・・・・・・』

 ミサトもキョウスケもこうなる事はわかっていた。

 “あの”シンジの微笑みに倒されない敵は、今のところ発令所にいる奇怪な髭眼鏡ヲヤジくらいなものだ。


 シンジのことを知る面々は、


 『あのヲッさん、ぜってーに精神に欠陥があるぜ』


 と確信したものだ。


 もっとも、この少女が“久しぶりに見た”シンジの笑顔に倒されている事など知る良しもなかったが・・・・・・。


 「やっほ♪ 挨拶は終わった?」

 そんな四人がいる所へ声がかけられた。

 本当にミサトと口調が被っている。


 違うところは、こっちの声の主が少し若いところと、クセのある金髪をポニーに纏めているのところだ。


 実は酒飲みというところまで似ていたりする。


 「・・・・・・エクセレン?」


 キョウスケが驚いた。


 シンジやミサトにとって彼の驚く顔等、使徒戦の時くらいしか見たことが無い。

 「あ、やっぱキョウちゃん♪ もう、久しぶりに会うオンナにいうセリフかな〜♪」

 攻めているようで、ただの惚気にも・・・・・・いや、惚気以外の何物でもない。


 「え? えと、その人は?」


 シンジが問いかけると、エクセレンと呼ばれた美女は、まるで玩具を見つけたような眼になった。


 ここまでミサトと同じだ。


 「あらん。カワイイ子ね〜♪ 緊張しちゃって〜〜・・・・・・どうしたのボク? ここに来るの初めて?」


 普通、空母にひょこひょこ子供が来たりしない。

 それ以前に、どこか違う妙な店に来ているようなセリフを言われても、中学生の彼としては答えようが無い。


 「え? あ、あの・・・・・・僕は・・・・・・」


 「な〜に赤くなってんのよアンタは!! ミサトも笑ってないで、さっさと艦長に報告しに行きなさい!!」


 物凄い不機嫌にアスカが怒鳴り、ミサトとシンジを連れて行った。





 腹を抱えて笑うエクセレンを、

 「・・・・・・からかい過ぎだ」

 とキョウスケがたしなめる。

 「・・・・・・・・・あ〜・・・・・・これは楽しいわ。それにしても、やっぱりアスカちゃんとサードチルドレンの子っ
  て面識あるみたいね」

 「・・・・・・やはり確認か」

 エクセレンの突出したカンのよさはよく知っている。

 彼女は、ただ面白がって言ったのではなく、二人がなんとなく再会した様な雰囲気を持っていたので確認
したのだ。

 その為には怒らせるにかぎる。


 「・・・・・・俺もそう感じていた。シンジを見るあの娘の眼・・・・・・あれは・・・・・・」

 「再会を喜んでる? あの男の子の眼もそんな感じだったわよ」

 「・・・・・・・・・」


 二人から言葉が消えた。

 だが、別に気にした風もない。


 「あいつらが言いたくなったら言うだろう。知られたくないようだからな・・・・・・」

 「ん。そうね〜♪」



 ごく自然にキョウスケの左腕がポケットから出され、

 ごく自然にエクセレンがその腕に絡まる。

 「・・・・・・俺も艦長に面会するとしよう。案内してくれ」

 「案内料に一杯おごってよ?」

 「・・・・・・わかっている」

 腕を組んだまま二人はミサトたちの後を追った。



 だが、その足取りはとてもゆっくりとしたものであった。
















 ごぷん・・・・・・・・・。



 深い海の底で、時を待っていたそれは目覚めた。



 ごぽごぽごぽごぽ・・・・・・・・・・・・・。



 何かに導かれるように、何かに呼ばれるように真っ直ぐと進む。


 途中、セカンドインパクトを生き抜いた鯨が進路上にいたがそのまま突き進む。




 その物体が通り過ぎた後、




 後に残ったのは、




 紅く染まった海と、摩り下ろされた様なマッコウクジラの身体半分だけであった。






                                            TURN IN THE NEXT...


作者"片山 十三"様へのメール/小説の感想はこちら。
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