───暗く、音の無い世界。 我知らず心がその底辺へと沈んでゆく。 何が悪かったのか? 踏み出す勇気が無かったから? 自分が無能だったから? 傷つけたくなかったのに・・・・・・。 守りたかったのに・・・・・・。 その娘は、 自分の、 前で、 心ごと、 引き裂かれていった・・・・・・。 手のひらから零しながら、 赤い海から彼女を掬い、 ヒトに戻しても、 傷ついた心を治せない・・・・・・。 僕は・・・・・・。 やっぱり駄目なんだ・・・・・・。 ───諦めるの? え? 混沌とした闇の中、 僕の目の前に、 僕がいた・・・・・・・・・。 ───────────────────────────────────────────────────────────── For “EVA” Shinji フェード:零 ───────────────────────────────────────────────────────────── 僕が二人いる。 僕を入れて二人じゃない。 僕の目の前に二人いる。 ───君は誰も救えなかった。 うん。 ───だけど、君より僕はずっと多くの人を巻き込んだんだ。 え? ───僕もだよ。 君も? ───僕のことを支えてくれた人たちを守りきれなかった・・・・・・守ること ができたはずなのに・・・・・・。 ・・・・・・やっぱり、僕は誰も助けられないの? 二人のシンジの影が一人と重なる。 いつの間にかシンジは一人になっていた。 孤独感が増してゆく。 それは三人分の孤独感か? 急速に自分を失ってゆく。 闇に沈む速度を上げつつ・・・・・・。 ───あきらめるな!! 唐突に強い声が響き渡る。 聞いたことが無いのに、知っている声。 他のシンジたちが知っている人の声。 ───そうよ、諦めちゃ駄目よ!! ───確かに俺たちの世界は無くなった、だけど、君はまだ間に合うじゃ ないか!! 二人の男女の声・・・・・・。 知っている・・・・・・。 敵味方に別けられ、お互いに傷つけあっていた二人。 でも、強い心で取り戻した絆の持ち主・・・・・・。 ───オレたちは負けちまったけどな。でも後悔はしてないぜ? やるだ けやったからな。 ───アタシたちの世界は、アタシたちで守るはずだったんだ。それを無 理やり巻き込んだこっちに責任があるんだ。だから、気にしちゃ駄 目だよ。 また違う二人の声。 力強い精神の持ち主。 他人の心の痛みを受け止めることができ、そしてその痛みから救う ために戦える人たち。 強い心・・・・・・。 僕には無いもの・・・・・・。 ───いや、あるっ!!! 炎のように熱い心の持ち主が叫ぶ。 根拠無く、信じられる心の声だった。 ───お前はレイが傷ついて戦おうとした時、彼女を守る為、自分の意思 でEVAに乗ったじゃないか。 ───ガギエル戦の時、自分から痛みを引き受けたじゃないか!! ───アスカが危ないとき、自分から進んでパイロットになったじゃねぇ か。 ───ラミエル戦の時、レイちゃんの安否の方を優先させたじゃないの。 ───アスカを助ける為に、マグマに飛び込んでったのって、誰? それは・・・・・・。 ───何度でも言ってやる!! お前は戦える!! 僕は・・・・・・。 ───シンジくんは弱くないわ。そう思い込まされてるだけ・・・・・・EVA に乗って、人柱にする為、自分たちの人形にする為、そういう環境 に追い込まれただけ・・・・・・。 ───俺はシンジくんに助けてもらったことがある。君はつらくても、泣 いても、がんばってきた。そのことを俺は知っている。 ───オレはお前みたいなやつ、嫌いじゃないぜ? もっと餓鬼っぽくて もいいくらいだ。 ───アンタに言われちゃあねぇ・・・・・・。 あは・・・・・・。 ───・・・・・・やっと・・・笑ったな。 え? ───それでいい。お前は笑って皆を助けてやれ。俺はもう、どうするこ ともできん・・・・・・。 ○○○さん・・・・・・。 やっと名前が出てきた・・・・・・。 自分の心に何かが流れ込んでくる。 ───さぁ、行け!!! レイが待ってる。 え? 綾波が? ───そして、帰るんだ。 ───そう、あの時へ。辛くて、痛くて、悲しいけど、皆がいたあの時代 へ・・・・・・。 皆と・・・・・・また会えるの? ───そうだ。そして、皆を助けてやれよ。 ───アタシらの分もね。 ・・・・・・皆さん・・・・・・は? ───俺たちことはいい。 そ、そんな・・・・・・!! ───私たちは消えることになる・・・・・・だけど、シンジくんががんばって 運命を変えていったら、私たちの歴史も変わると思うわ。 ───そうだよ。シンジくんには、シンジくんのできることがあるんだ。 ・・・・・・僕ががんばったら・・・・・・皆も・・・・・・助けられるの? ───お前一人じゃ無理だ。だが、お前には仲間がいる。それを忘れるな。 え? ───餞別・・・・・・って訳じゃないけどな・・・・・・オレたちの“想い”も連れ て行ってくれや。 ───アンタたちだけ戦わせるのは心苦しいしね。 ・・・・・・・・・みんな・・・・・・。 ───シンジ君・・・・・・自分に負けるなよ・・・・・・。 ───あなたを支えてくれる人はいるわ。それを忘れないで・・・・・・。 ───お前さんが勝ったら、結果的に俺たちの世界も助かるさ。 ───今話してる俺たちは消えることになる。だけど、勝ち続けていく時 間枠の俺たちは生きてるから後悔しないぜ。 どんどん声が増えてゆく。 そしてシンジの心に何かが雪のように、ゆっくりと降り積もってゆく。 少年の心を満たしてゆくそれは、“信じる心”や“熱い想い”、 そして、“挫けない心”。 心に積み重なってゆく“想い”は“力”となって、少年と同化してゆく。 「僕は・・・・・・もう負けない・・・・・・」 少年は顔を上げた。 おどおどとした影は消失し、瞳には強い光が宿っている。 「アスカを、綾波を・・・・・・・・・ミサトさんも、リツコさんも、トウジも、 ケンスケも、委員長も・・・・・・皆を助けるっ!!」 そして、世界は切り替わった。 赤い海の上に三人は立っている。 頭上は満天の星空だ。 三人は正に生まれたままの格好で立っていた。 今、生まれ変わったから。 「やっと来たわね。バカシンジ」 赤みがかった金髪の少女が口を開く。 口調とは裏腹に嬉しそうに。 「アスカ・・・・・・ごめんね」 「バーカ。ナニ謝ってんのよ」 「うん・・・・・・でも、ごめんね」 「ホント・・・・・・バカなんだから・・・・・・」 アスカは涙ぐんだ。 “ここ”には心の壁は無いに等しい。 少年の万感の想いがダイレクトに伝わっていた。 アスカを守れなかったこと、 心を守ってあげられなかったこと、 そして、病室でアスカを汚したこと、 アスカを・・・・・・殺そうとしたこと・・・・・・。 無論、単純にそれだけの話ではない。 心では全て理解しているのだが、頭で理解できる範囲は少ない。 それでも、シンジの傷の大きさを知ることはできた。 アスカの心だけが傷だらけではない。 そのことを知ることができた。 だが、逆に心が痛くなる。 なぜ、解ってやれなかったのかと・・・・・・。 「もういいよ。アスカ」 だけど、少年は微笑む。 「今度は間違えない・・・・・・今度こそ、アスカを、綾波を守るよ」 「シンジ・・・・・・」 「碇君・・・・・・私はあの時間にもどると、リリスの力を無くすわ。まだ、 綾波レイだから・・・・・・」 「そうだね」 「だから、碇君を守れないかもしれない・・・・・・」 青みがかった銀糸の髪の少女が悲しそうに呟く。 そんな彼女の頬を、少年の手が優しく触れる。 「綾波は“綾波”でいいんだ」 「碇君・・・・・・」 「僕たちは“今”を無くしに帰るんだ。だから、アスカはアスカでいい し、綾波は綾波でいいんだ・・・・・・・・・・・・・・・違うか。そうじゃないと嫌 なんだ」 「シンジぃ・・・・・・」 「碇君・・・・・・」 世界が光に包まれてゆく。 だんだんと、 三人がぼやけてゆく。 シンジは最後に二人を抱きしめる。 「え? シンジ?!」 「碇君?!」 そして、耳元で呟いた。 「二人とも、大好きだよ」 そして、光に溶けてゆく。 三人と、世界を包み込み、 世界は光に溶けていった・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 シンジは闇の中にいた。 あの時と同じ、学生服を着て。 ゆっくりと眼を開ける。 暗闇だというのに、シンジは周りの状況を見て取れた。 明らかに人の気配とは別物を感じ、そこに顔を向ける。 パッ 唐突に明かりがつく。 紫色の顔。 それは鬼にも、鎧武者のそれをも連想させる。 「人の造りだした究極の汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオン。これが貴 方のお父さんの仕事よ」 懐かしい声が教えてくれた。 『来たよ。母さん・・・・・・』 シンジの戦いが再開された瞬間であった。 ──あ(と)がき── ああ・・・・・・恥ずかしげも無く“帰還者”モノです・・・・・・(;_;) でも、あの時代に“帰還”するんだったら、自分にはこの帰し方以外、 シンジ君たちを幸せにする方法を思いつかなかったんですから、しょーが ないでしょ〜〜〜? ○○○の中はてきとーに想像してください。 弾丸すら指で挟みとめる男・・・・・・とだけ言っておきます。 てな訳で、次回は過去・・・・・・いや、シンジ君たちにとっては新たな“現 在”か・・・・・・。 では、 〜〜シンジ君の戦いに幸いあれ・・・・・・〜〜
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