ピッ・・・。ピッ・・・。
            ピッ・・・。ピッ・・・。
ピッ・・・。ピッ・・・。
            ピッ・・・。ピッ・・・。
ピッ・・・。ピッ・・・。
            ピッ・・・。ピッ・・・。
一定リズムを刻む電子音の中、第15使徒戦後より起床する事を忘れ、安らかな表情でベットに寝そべるケンスケ。
だが、その首、肩、手首、腰、膝、足首はベットに革ベルトで拘束されており、傍目には決して安らかとは言い難い状況下。
しかも、ケンスケの頭部とこめかみからは電極コードが幾本も伸び、ベットの左右には巨大なスピーカーが置かれているのだから怪しさ爆発状態。
ピッ・・・。ピッ・・・。
            ピッ・・・。ピッ・・・。
ピッ・・・。ピッ・・・。
            ピッ・・・。ピッ・・・。
ピッ・・・。ピッ・・・。
            ピッ・・・。ピッ・・・。
そして、それ等全てのコード線はとある機器に中継されて1本となり、そのコード線が延びる先のガラス窓を隔てた隣室には3つの人影があった。
「・・・マヤ」
「心拍数、脳波ともに異常ありません」
厳かな雰囲気が漂う一室にリツコの鋭い声が響き、コンソールに座るマヤがすぐ背後に立つリツコへ少し躊躇いがちな報告を返す。
「よろしい・・・。では、ブレインゲイザー開始」
「了解。ブレインゲイザー開始」
それを受けて視線のみを隣へ無言で向けると、腕を組んで立つシンジがサングラスを押し上げ、リツコがマヤへ視線を戻して指示を出した。
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
ところが、マヤは両手をキーボードに置いたまま固まり、幾ら待てどもマヤからのアクションは返って来ず、管制室に沈黙の間が広がってゆく。
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
葛藤するマヤにとっての果てしなく長い数秒の末、焦れたリツコが叱責を飛ばした途端。
「・・・マヤっ!!」
「うっうっ・・・。で、出来ません・・・。わ、私・・・。うっうっうっ・・・・・・。」
マヤの肩が怯えにビクッと震えたかと思ったら、マヤはそのまま肩を小刻みに震わせながら顔を俯かせて嗚咽し始めた。
(・・・仕方ないわね)
「何をしている。伊吹二尉。・・・さあ、早く始めるんだ」
リツコは内心で溜息をつき、マヤに代わってキーボードのリターンキーを押そうとするが、進み出たシンジに手を掴まれて止められる。
「で、でも・・・。こ、こんな酷い事・・・・・・。」
「・・・酷い事?何を言うんです。このままだったら、いつ起きるか解らないケンスケを僕等が救ってあげるんですよ?」
「そ、そんな・・・。だ、だからってっ!!」
シンジは俯いたマヤの顎を持って強制的に顔を自分へ向けさせ、マヤが口の端をニヤリとつり上げるシンジへ涙目で否定を責め叫ぶ。
「だから、何ですか?僕等がこれからケンスケへする事とあなた方が今まで実験と称して綾波へしてきた事。そこにどんな違いがあります?」
「「っ!?」」
するとシンジは鼻で笑った後、蔑む様に見下げた鋭い視線をマヤへ送り、この痛烈な反撃にマヤは勿論の事、リツコも衝撃に目を大きく見開く。
「フフ・・・。そうですね。この際ですから、はっきりと言ってあげましょうか?
 所詮、あなたが幾ら泣き叫ぼうが、その手はとっくに血塗られている。ならば、何の躊躇いがあります。これ以上、罪を重ねても・・・。」
「ち、違うっ!!そ、そんな事ないっ!!!わ、私は・・・。わ、私は・・・。私は・・・・・・。」
シンジは間一髪を入れず更なる追撃をかけ、マヤは容赦ないシンジの責めから心を守ろうと両手で両耳を塞ぎ、顔を左右にイヤイヤと何度も振る。
「いいや、違わない。どれだけ否定しようとも、綾波に刻まれた傷は永遠に癒される事は決してない。
 だけど、綾波はそれを傷と自覚しないまま生きてゆくだろう・・・。それがとても比べようになく悲しい事とは気付かずにね。
 だったら、あなたがそれを自覚しないでどうするんですか?・・・そう、あなたは罪の自覚を背負って生きてゆくべきだ。伊吹二尉」
「うっうっ・・・。うっ・・・。うっうっうっ・・・・・・。」
しかし、シンジはマヤの逃げを許さず、マヤの両手首を掴んで耳から手を離させ、マヤが否応なく聞こえてくる痛烈な責めに再び嗚咽して俯く。
「おやおや、都合が悪くなったらまた逃げるんですか?先日の戦いの様に現実から目を逸らして・・・。
 あの時、僕は言いましたよね?犠牲の上に自分達が立っている事を自覚しろと・・・。そして、その自覚がない奴は出て行けと・・・・・・。」
それでも、シンジはやはりマヤの逃げを許さず、マヤの両頬に親指と人差し指を力強く食い込ませつつ、俯いたマヤの顎を持って顔を上げさせた。
「・・・シ、シンジ君」
「赤木博士、黙っていて頂こう。これはこれからの伊吹二尉にとって重要な事です」
さすがのリツコもマヤが不憫になってシンジを窘めようとするが、シンジより放たれた凄まじいプレッシャーに二の句を無くして押し黙る。
「さあ、選択するんだ。伊吹二尉・・・。そのボタンを押して僕等と共に歩んで行くか、それとも今すぐこの部屋を出て再就職先を探すかをね」
「っ!?」
シンジはマヤの顎から手を離すと、マヤの右手を持ってキーボードへと導き、マヤがシンジから出された最後通告に驚愕して目を最大に見開いた。
「・・・・・・。」
         カッカッカッカッカッ!!
「・・・・・・。」
         カッカッカッカッカッ!!
「・・・・・・。」
         カッカッカッカッカッ!!
沈黙だけが漂う中、リターンキーの上に置かれた震えるマヤの人差し指先が、小刻みにリターンキーの表面だけを叩く音が絶え間なく鳴り響く。
「・・・・・・。」
         カッカッカッカッカッ!!
「・・・・・・。」
         カッカッカッカッカッ!!
「・・・・・・。」
         カッカッカッカッカッ!!
マヤが怖ず怖ずと縋る様な涙目をリツコへ向けると、リツコは深くゆっくりと頷き、マヤへ好きにしなさいと言葉なく優しく微笑み返した。
「・・・・・・。」
         カッカッカッカッカッ・・・。
「・・・・・・。」
         カッカッ・・・。カッカッ・・・。
「・・・・・・。」
         カッ・・・。カッ・・・。カッ・・・。
その微笑みに落ち着きを取り戻したのか、マヤの人差し指の痙攣が次第に止み始め、マヤが決意に息を飲んで頷いた次の瞬間。
バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチッ!!
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
ガラス窓の向こう側で激しい発光現象が連続的に起こり、ケンスケが拘束されながらも何やらベットの上を精一杯にのたうち回り始めた。
「うっうっ・・・。ご、ごめんなさい・・・。ご、ごめんなさい・・・。ご、ごめんなさい・・・。うっうっうっ・・・・・・。」
「・・・マヤ」
分厚い防音ガラスをもってしても届くケンスケの絶叫に、たちまちマヤは嗚咽して顔を両手で覆い、リツコがマヤの肩へ手を優しく置いて慰める。
「くっくっくっ・・・。お、おはよう。ケ、ケンスケ・・・。きょ、今日は良い天気だよ。くっくっくっ・・・。あっはっはっはっはっはっ!!」
「・・・シ、シンジ君」
一方、シンジはケンスケの苦しみ様に堪えきれずゲラゲラと大爆笑を始め、リツコは大粒の汗をタラ~リと流して顔を思いっ切り引きつらせた。




New NERV Commander

ゲドウ2世

第4話 ルルルー涙





『第1内科の向井先生、向井先生。至急、第2会議室へお越し下さい』
ジオフロントにあるネルフ直轄病院、第1脳神経外科病棟の館内アナウンスだけが響く静かな廊下を1人歩くトウジ。
「・・・ったく、何やっちゅうねんっ!!今でこそ、こんなナリはしとるが、わしは人間やっ!!!人間やでっ!!!!
 それを荷物扱いで運んだ揚げ句、やっと帰ってきたかと思ったら・・・。着いた早々に体のあちこちを弄くりまくりやがってからにっ!!」
その心中は激しい不満のみに彩られ、トウジは鼻息荒く怒り肩の大股歩きでネルフの己へ対する不遇な扱いについて愚痴りまくっていた。
余談だが、第15使徒戦後に地球の裏側の密林地帯へ落着したトウジは、3時間半後にネルフ南アフリカ支部の特殊工作班によって救出。
その後、軍用ジープ、軍用ヘリ、軍用輸送機と大変に居住環境の悪い移動手段を用いて、地球を約半周する事まる2日間。
ようやく第三新東京市上空へ達したトウジは、詰め込まれていた作業コンテナと共に芦ノ湖へ投下、着水させられ、ネルフへ帰還したと言う次第。
そして、ネルフへ収容されるや否や、徹底的な検査が行われ、トウジが自由を取り戻したのは戦いより既に5日が経過したほんの5分前だった。
「それも、これも、みんなシンジのせいやっ!!せや、シンジが悪いんやっ!!!
 何でやっ!!何でやっ!!!シンジっ!!!!わしが何したっちゅうねん・・・・・・って、ケ、ケンスケっ!!!!?」
尽きる事のない愚痴と怒りを重ねていたトウジだったが、ふと前方にケンスケの背中を見つけ、たちまち喜びをあらわに駈け寄って行く。
「よう、トウジ」
「?????・・・随分、心配したで?無事やったんやな?」
するとケンスケが立ち止まって振り返り、トウジはその悟りきった様な微笑みに奇妙な違和感を覚えつつも再会の喜びに微笑み返す。
「ところで、こないな所に何で居るんや?お前も何かの検査か?
 ・・・って、せやせやっ!!そんな事より、格好良かったでっ!!!あれこそ、正に男の中の男っちゅう感じやなっ!!!!」
「・・・何の事だ?」
「何の事やって・・・。自分を犠牲にしてまで惣流を庇った事に決まっとるやろ。ケンスケが・・・・・・。」
ところが、ケンスケは再会の喜びなどまるで眼中にないのか、冷静な様子でトウジの言葉に眉間へ皺を寄せて不思議顔だけを浮かべる。
「・・・そうか。惣流を庇ったのか・・・・・・。」
「なんや?覚えてへんのか?」
おかげで、調子を狂わされたトウジは、5日ぶりの再会の興奮から冷めてしまい、こちらもケンスケの言葉に眉間へ皺を寄せて不思議顔。
「いや、知らないんだ。なにせ、俺は無限のパワーを持つグレートチルドレン・ニュー相田ケンスケだからな」
「そ、そうか・・・。ま、まあ、ええわ・・・・・・。」
その上、ケンスケからニヤリ笑いと共に親指をニュッと立てられ、トウジがケンスケの意味不明さに顔を引きつらせて大粒の汗をタラ~リと流す。
「・・・しっかし、シンジのボケがっ!!なに考えとんねんっ!!!無茶苦茶、腹立つわっ!!!!
 お前も見たやろっ!?あのボケがわしに何したかをっ!!!おかげで、わしは死ぬとこやったんやでっ!!!!
 なっ!?これで解ったやろっ!!?もう、シンジはわし等が知っとるシンジやあらへんっ!!!!お前も気を付けた方が良いでっ!!!!!」
それでも、トウジはようやく腹を割って話せる愚痴り相手を見つけた事に再び興奮を取り戻し、矢継ぎ早にシンジを罵って同意を求めた次の瞬間。
バキッ!!
「ぶべらっ!?」
ケンスケが渾身の右フックをトウジの左頬へ放ち、トウジは見事なくらい右へ水平に吹き飛び、廊下壁に右側頭部を強かに打ちつけて床へ轟沈。
「な、何すんねんっ!?い、いきなりっ!!?」
それも束の間、サイボーグなトウジはすぐさま立ち上がり、口と鼻からLCLをエレエレと流しながら激しくケンスケを罵倒する。
「修正だっ!!それ以上、碇閣下を侮辱する事は俺が許さんっ!!!」
「い、碇閣下・・・って、シ、シンジの事か?」
「他に誰が居るっ!!それに閣下の事を呼び捨てにするなっ!!!それだけで上官侮辱罪・・・。いや、不敬罪で重営倉入りだぞっ!!!!」
しかし、涙をハラハラとこぼして男泣きするケンスケに毒気を抜かれ、トウジは再び顔を引きつらせて大粒の汗をタラ~リと流す。
「さあ、トウジっ!!我らが敬愛する素晴らしき指導者・碇閣下を称えて万歳三唱だっ!!!
 碇閣下、万ざぁぁ~~~いっ!!万ざぁぁぁ~~~~いっ!!!万ざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~いっ!!!!」
「・・・ケ、ケンスケ?」
それどころか、唐突にケンスケは目の前で声高らかに万歳三唱を始め、トウジは茫然のあまり大口をアングリと開けて言葉すらも失う。
「良し、良し、良し、良し、良ぉぉ~~~しっ!!燃えてきた、燃えてきた、燃えてきたぁぁぁ~~~~っ!!!
 閣下の御為、次なる戦いの為、地球の平和の為っ!!今日も1に訓練、2に訓練、3、4がなくて5に訓練だっ!!!トウジっ!!!!
 そうだ、それが良いっ!!名案だっ!!!そうと決まったら訓練場まで競走するぞっ!!!!位置について、ヨーイ・・・。ドンっ!!!!!
 ヨぉぉ~~~ロレイっ♪ヨぉぉ~~~ロレイっ♪♪ヨぉぉ~~~ロレイッヒぃぃぃ~~~~っ♪ヨロレイヒッヒッハぁぁぁぁ~~~~~っ♪♪」
そうかと思ったら、いきなりケンスケはアルプス気分で超高速のスキップを駈け始め、トウジは茫然を通り越して驚きに目が点状態。
「・・・・・・はっ!?
 お、お前、シンジに何されたんやっ!?ケ、ケンスケっ!!?ケ、ケンスケっ!!!?ケ、ケンスケぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~っ!!!!?」
だが、トウジは漠然とケンスケの変貌ぶりにシンジが絡んでいると悟り、慌てて我に帰って叫び問うが、既にケンスケの姿は何処にも無かった。


カチャ・・・。
「・・・で、その後のケンスケの様子はどうなんですか?」
全ての陰謀がここで作り出されるネルフ司令公務室、シンジは受話器を電話へ下ろすと、ゲンドウポーズをとって鋭い視線を対面へ向けた。
「そうね。あまり良好とは言い難いわね」
「・・・と言うと?」
「かなりのストレスがかかり、どうやら脳内に大量のドーパミンとアドレナリンが分泌されている状態に陥っているわ」
「つまり、異様なくらいハイテンションになっている?」
応えてリツコは電話で中断していた報告を続け、シンジは芳しくないリツコの報告を要約して不愉快そうに眉を顰める。
「ええ・・・。術後よりエイトゥスの奇行を見たと言う報告が32件、苦情が内15件も出ているわ」
「(なるほどね。山岸さんが襲われたって言う今の報告はそういう訳か・・・・・・。)鎮静剤の投与は?」
「これ以上のストレスをかける事は止めた方が無難ね。時間が経過して、彼が自然と大人しくなるのを待った方が良いわ」
ならばとシンジが対抗策を提案するが、リツコは力無く首を左右に振って却下。
「なら、戦闘への参加は?」
「それこそ、止した方が良いわ。万が一、前回の様な事が起こったら間違いなく廃人よ?」
「ケンスケも案外と使えないね。・・・こうなったら、しばらくはトウジに頑張って貰うしかないか」
その上、リツコからケンスケの戦力外通告を受け、シンジがやれやれと深い溜息をついたその時。
「****、***っ!!*、***************っ!!!」
「****、*******っ!!*************っ!!!*************っ!!!!」
司令公務室の重厚な扉の向こうから騒ぎ声が聞こえ、シンジとリツコは何事かと見合わせた後、会話を止めて視線を扉へ移す。
「そ**聞い*ら、尚更**す**はいかないっ!!そん****たら重罪*ぞっ!!!」
「***もええっ!!男にはやらな****ん時***んやっ!!!**が今な**っ!!!!」
その騒ぎ声は次第にこちらへ近づき、遂には重厚な扉をもってしても言葉が途切れ途切れながらも解る様になった次の瞬間。
バタンッ!!
「おらぁ~~っ!!シンジぃぃ~~~っ!!!お前、ケンスケに何したんやっ!!!!」
「申し訳有りませんっ!!司令っ!!!必死に止めたんですが、どうしても聞かなくってっ!!!!」
突然、ノックもなしに扉が勢い良く開き、トウジが鼻息荒く憤怒の表情で腰にまとわりつく青葉を引きずって司令公務室に現れた。
「やあ、正しく噂をすれば影だね。・・・でも、ノックなしに入ってくるなんて、マナー違反じゃない?」
「ドやかましいっちゅうねんっ!!わしの質問に答えろやっ!!!シン・・・。」
サングラスを押し上げるシンジが苦笑で諫めるも耳を貸さず、怒りに身を任せたトウジが右拳を振り上げてシンジの元へ迫らんとした途端。
シャコンッ!!
「ジぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
突如、トウジの足下の床が左右に素早く開き、足場を失ったトウジは直下に出来た奈落へ落ち、絶叫だけを残して司令公務室から瞬時に姿を消す。
「ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~・・・。」
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~・・・。」
ドッポン、ドッポォォォォォーーーーーーンッ・・・。
その絶叫は約5秒ほど続いて次第に小さくなった後、奈落の彼方より何かが何処かへ着水した様な音が司令公務室に届く。
シャコンッ!!
「あわわわわわわわわわ・・・。」
そして、何事も無かった様に床が元に戻り、リツコはその床を茫然と見つめたまま、ただただ口をパクパクと開閉させる。
「取りあえず、ケンスケはしばらく営倉にでも入れて・・・って、おや?どうかしましたか?」
「えっ!?・・・あっ!!?な、何でもないわっ!!!!な、何でもっ!!!!!」
「フフ・・・。そんなに警戒しなくても、そこは大丈夫ですよ。それより、ヴァーチャルシステムの事ですが・・・・・・。」
「え、ええっ!?な、何かしらっ!!?」
だが、シンジに視線を向けられて慌てて我に帰り、すぐさまリツコは自分も奈落へ落ちては堪らないともしもの時の為に司令席へ寄りかかった。


「うっうっ・・・。うっ・・・。うっうっうっ・・・・・・。」
初号機ケイジのタラップ片隅に体育座りをして座り、顔を膝に埋めて啜り泣き続けるマユミ。
「いい加減、泣き止んだら?減るもんじゃないんだし、抱きつかれたくらい別に良いじゃん」
「ちっとも良くありませんっ!!胸だって触られたんですよっ!!!後ろから鷲掴みにされてっ!!!!」
マナはエントリープラグ整備の手を止め、うんざり顔を振り向かせて溜息混じりに宥めるが、マユミは顔を膝に埋めたまま叫ぶだけで効果無し。
ちなみに、本日は平日でまだ午前中だが、この後にエヴァ各機連動試験を控え、チルドレンの女の子達は学校を公休して全員ともプラグスーツ姿。
「まあ、それは事故なんじゃない?ほら、腰を掴もうとして間違えたとかさ?」
「むむっ!?それはどういう意味ですかっ!!?マナさんっ!!!?」
ならばとマナは手法を変えてニヤニヤと笑い、中学生女子平均値より大きい己の胸をマユミへ突き出して見せた。
「別にぃ~~♪ただね。マユミくらい薄いと間違える事もあるんじゃないかと思ってさぁぁ~~~♪♪」
「何を言うんですっ!!確かにAカップでも余りますけど・・・。シンジ君はこの胸が好きなんですっ!!!その証拠に今朝だってっ!!!!」
案の定、マユミはマナの言葉奧の意味を過敏に反応して勢い良く顔を上げ、憤慨と悔しさに奥歯をギリリと噛んで反論を試みる。
「・・・今朝だって?」
「はっ!?」
すると今度はマナがマユミの言葉奧の意味を過敏に反応して眉をピクリと跳ねさせ、マユミが己の余計な失言に気付いて慌てて口を両手で塞ぐ。
「今朝だって何よ?ほら、正直に言ってみ?・・・マ・ユ・ミ・ちゅわぁぁ~~~ん♪」
「い、いや・・・。そ、それは・・・。そ、その・・・。だ、だから・・・。え、えっと・・・・・・。」
だが時既に遅く、マナは極上のニコニコ笑顔を浮かべてマユミへ迫り、マユミが戦慄に視線を漂わせて座ったままタラップ際まで後ずさる。
「きぃぃ~~~っ!!悔しいぃぃぃぃぃ~~~~~~っ!!!
 今朝まで一緒だったのにっ!!昨晩はあれだけ愛し合ったのにっ!!!その後、すぐにマユミとだなんてぇぇぇぇぇ~~~~~~っ!!!!」
「ぐえっ!?・・・く、苦しい。ギ、ギブ・・・。ギ、ギブアップです。マ、マナさん・・・・・・。」
そして、嫉妬に狂ったマナがマユミの首を力一杯に絞め、みるみる内に顔面を蒼白へと変えたマユミが、意識を暗闇へ落とそうかとしたその時。
「ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
ドッポンッ!!ドッポォォォォォーーーーーーンッ!!!
突如、天井より叫び声が聞こえたかと思ったら、マナとマユミのすぐ横を謎の物体が通り過ぎ、激しい水柱を上げてLCLに大着水。
「・・・な、なに?」
「さ、さあ?」
豪快にLCL飛沫を浴びて全身濡れ鼠となり、マナとマユミは思わず茫然と目が点になってお互いを見合う。
「あ、あのロンゲって・・・。あ、青葉さんじゃない?」
「・・・は、はい。そ、それに・・・。あ、あっちの沈んでゆく黒いジャージは鈴原君ですよね?」
一拍の間の後、マナとマユミが恐る恐る着水場所へ視線を移すと、1人が背中を向けてプカリと浮かび、1人がゆっくりと底へ沈み始めていた。


コキコキ、コキコキ・・・。
「ふぁ~~あ・・・。ここ最近、ずっと寝不足だよね。今夜くらいゆっくりと休もうかな」
お昼前にして本日決裁分の書類整理も済み、シンジは首を左右に傾げて骨の関節を鳴らし、大欠伸をしながら司令席から立ち上がった。
「・・・と言うか、明らかにこの仕事って労働基準法に反しているよね。
 父さんのイメージからただ黙って座っているだけの楽な仕事かと思ったけど・・・。なかなか、どうして、どうして・・・・・・。」
そして、隣のソファーセットへ座り、シンジがようやく出来た余暇を楽しむべく先ほど冬月が置いていったお饅頭へ手を伸ばすも束の間。
プルルルル・・・。プルルルル・・・。プルルルル・・・。
「はいはい、解ってますよ。・・・ったく、1つの仕事が終わったかと思ったら、すぐこれだ」
司令席に置かれた電話機が自己主張を奏で始め、シンジは伸ばした手を引っ込めて溜息と共に立ち上がり、肩を落として司令席へ戻って行く。
コンコン・・・。コンコン・・・。
「はい、どうぞ。開いていますよ」
同時に司令公務室の重厚な扉がノックされ、シンジは司令席へ座り直さず脇に立ち、電話を受けながら扉へ向けて入室を促す。
「あ、あの・・・。し、失礼します」
「そうですか。では、あと10分ほどしたらそちらへ向かいます」
躊躇いを感じさせる一拍の間の後、扉が開いて俯きがちにマヤが現れ、シンジは短い電話を終えて受話器を下ろしつつマヤへ横目を向けた。
「・・・っと、マヤさん。そろそろ、来る頃じゃないかと思っていましたよ」
「えっ!?」
バタンッ!!
思いもしなかったシンジの出迎えの言葉に驚き、扉を閉めようとしていたマヤが目を見開いて振り返り、その拍子に扉が勢い良く閉まる。
「辛いんでしょ?自分の価値観と目の前の現実のギャップが・・・。
 そう、僕がケンスケの実験前に言った言葉で、あなたは今まであやふやに誤魔化していた物を本当の意味で認識、実感した。
 だけど、すぐに自分の価値観など変える事は出来ない。だから、苦しい、辛い・・・。そして、その救いを求めてここに来た。違いますか?」
「っ!?っ!!?っ!!!?」
尚かつ、今朝の実験からずっと抱えていた悩みをシンジに見透かされ、マヤは驚きを通り越して茫然と何度も目を瞬きの様に見開く。
「・・・で、どうします?僕があなたに用意してあげられる道は3つほど有ります。
 その1、ここであった全ての事を忘れ、厳しい監視と制限を受けながらも、こちらが用意する再就職先に就く。
 その2、やはり多少の監視と制限を受けながらも、総務部などの事務業務へ配置転換をする。
 その3、このまま技術部に留まり、自由を代償に罪を重ね、罪の自覚を背負いながらも生きてゆく。
 さあ、マヤさん。僕はあなたに強要しません。
 自分で考え、自分で決めるんです。自分がどうしたら良いか、どう生きたいかを・・・・・・。まっ、後悔のないようにね」
その反応に内心でニヤリとほくそ笑み、シンジは敢えて3つの選択を提示しながら、1つの選択しか出来ぬ様にマヤの退路を塞いで決断を促した。
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
2人の視線が交錯して司令公務室に静寂が満ち、シンジの鋭い視線を浴び、マヤが次第に顔を俯かせてゆく。
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
一体、どれほどの時が経ったのか、マヤは長い長い葛藤の末にゆっくりと上目づかいだけを戻すと、シンジへ無言で右手の指を3本立てて見せた。
「良いでしょう・・・。ところで、先ほど履歴書を見せて貰いましたが、秘書資格を持っているんですね?」
「えっ!?あっ!!?う、うん・・・。だ、大学の時に友達の付き合いで取ったっきりだけど・・・・・・。」
「では、これから暫くの間は戦闘配置と余程の事がない限り、マヤさんには僕の直属秘書をやって頂きます」
「・・・ど、どうして?い、今、やっている仕事はどうするの?」
するとシンジはいきなり脈絡もなく話題を変え、マヤは顔を上げて思わずキョトンと不思議顔。
「その辺はリツコさんに頑張って貰いましょう。今、マヤさんに必要なのは強い心です。
 だから、今の弱い心を鍛える為にも、僕のすぐ側でネルフの汚い部分、暗い部分をマヤさんに全て見せてあげましょう。・・・良いですね?」
「うん、解ったわっ!!私、頑張るっ!!!」
しかし、続いた追加説明にシンジがチャンスをくれたと知り、マヤは瞳に輝きを取り戻して決意に拳を力強く握った。
「なら、早速ですが・・・。戦自との交渉がこれから有るので、総務の方へ上士官服を受け取りに向かって下さい。
 先ほど申請しておきましたから、用意も出来ていると思いますので・・・。さすがにその作業ユニフォームではサマになりませんからね」
「えっ!?そ、それじゃあ、最初から・・・。」
「はい、僕は信じていました。きっとマヤさんなら絶対に安易な道は取らないだろうってね」
「・・・シ、シンジ君」
更に微笑むシンジの言葉に向けられている深い信頼をも知り、マヤは感動に心をジーンと震わせて瞳にうっすらと涙を溜める。
ちなみに、マヤが何故ここまで感動するかと言えば、マヤにとってシンジの前任であるゲンドウが尊敬に値する人物ではなかった事に他ならない。
無論、ネルフ司令としての畏怖はあったが、マヤにとっての上司は大学時代より尊敬しているリツコだけと言う認識があった。
それ故、リツコが信じているのならばと言う気持ちでネルフへの不信感をねじ伏せ、マヤは今まで様々な外道的実験に従事してきたのである。
だが、今回のシンジの巧みな心理操作によって、マヤの心理的ストレスは有る意味でほぼ解消されたと言って良い。
何故ならば、現任司令であるシンジにあった戸惑いを信頼へと変わり、それが乗じてシンジ支配下のネルフへの信頼感すら持つようになったから。
これによってシンジの言葉通り、マヤにあと足りないのは心理的タフネスさだけとなった。
「ほら、涙を拭いて・・・。ヘリが待っているんですから、早く着替えてきて下さい」
「う、うんっ!!す、すぐ着替えてくるから待っててっ!!!」
シンジは歩み寄ってマヤの涙を人差し指で拭ってあげ、マヤがこのどちらが年上か解らないシンジのフォローに照れて勢い良く振り返ったその時。
ガチャ・・・。
「司令・・・。そろそろ、戦自へ出かける時間です。準備はよろしいでしょうか?」
「おやおや、どうしたんですか?そんなに濡れちゃって・・・。仕事中に水遊びをするなんて不謹慎ですよ?」
司令公務室の扉がゆっくりと開いて全身ずぶ濡れ状態の青葉が現れ、シンジがその様子をクスクスと笑いながら注意して青葉を出迎える。
「うっうっ・・・。し、司令・・・。つ、冷たいっス・・・。うっうっうっ・・・・・・。」
「そりゃ、そうでしょう。・・・でも、こう言う場合は『冷たい』じゃなくて『寒い』じゃないですか?青葉さん」
青葉はそんなシンジに涙をルルルーと流して理不尽さを訴えるが、シンジは青葉の嫌味にやはりクスクスと笑うだけだった。


「・・・あれ、本当に大丈夫なのかしら?」
弐号機ケイジ隣へ視線を向け、思わず心情をポツリと吐露するヒカリ。
その視線の先には、マユミの手によって先の戦いで破壊されたはずのエバァ零号機が、たった5日間の修理でケイジに完調状態で拘束されている。
もっとも、胸部は初号機の紫、両腕は弐号機の赤、両脚は零号機の青と各部の装甲色が6日前とは違い、変わっていないのは頭部の黒だけ。
また、両肩の部分には『Mk2』の白いペイント文字が刻まれ、エバァ零号機は名称を『エバァMk2』と改められていた。
「まあ、名前にMk2が付いたくらいなんだし・・・。多分、大丈夫なんじゃないの?」
「だけど、この前みたいな事が起こったらどうするの?」
エントリープラグ整備をしていたアスカは、肩を竦めてヒカリの心配事を吹き飛ばそうとするが、ヒカリは5日前の惨劇を思い出して眉を顰める。
「確かにね。心配と言えば、心配よね・・・。もっとも、ヒカリの場合はあたしと心配の質が違うのかしらぁぁ~~~?」
「・・・へっ!?何の事?」
アスカはその反応に何やらニヤニヤと笑い始め、ヒカリはアスカの意味不明な問いにキョトンと不思議顔を浮かべて問い返す。
「またまた、トボけちゃってぇ~~♪鈴原の事が心配で、心配で、夜も眠れないんじゃないのぉぉ~~~♪♪」
「な、何、言ってるのよっ!?ア、アスカっ!!?わ、私はただっ!!!!」
「はいはい♪解ってる、解ってる♪♪」
「ち、違うってばっ!!」
応えてアスカはヒカリを肘でうりうりと突っつき、ヒカリは顔を真っ赤に染めて否定を叫ぶが全く効果無し。
「別に隠さないでも良いじゃない♪ヒカリが鈴原にラブラブでも、あたしは一向に構わないんだしさ♪♪」
「ち、違うって言ってるでしょっ!!も、もうっ!!!」
それどころか、アスカは調子に乗って更なる追撃をかけ、ヒカリがアスカの口を塞ぐべく両手をアスカの口にあてがおうとしたその時。
(・・・って、あれ?あれ、あれ、あれ?そんな事、少しも思ってなかった・・・・・・。
 どうしちゃったのかしら?私・・・。前なら、いつも鈴原の事ばっかり考えていたのに・・・・・・。
 ・・・や、やだっ!!ど、どうして、碇君の顔が浮かんでくるのよっ!!?
 ち、違うっ!!ち、違う、違う、違うっ!!!わ、私が好きなのは鈴原っ!!!!す、鈴原よっ!!!!!す、鈴原なんだからっ!!!!!!)
ふとヒカリが今のやり取りに心の変化を気付かされて驚きに目を見開き、その場へしゃがみ込むと抱えた頭を勢い良く左右に振って苦悩し始めた。
「・・・どうしたの?気分でも悪いの?」
「えっ!?・・・あっ!!?そ、そんな事ないわよっ!!!!ちょ、ちょっと立ち眩みがしただけっ!!!!!」
だが、その奇行に目を丸くしたアスカから心配そうに声をかけられ、慌ててヒカリは立ち上がって声を上擦らせつつ己の挙動不審さを取り繕う。
「そう?なら、良いんだけど・・・。この後の実験で2人一緒に・・・・・・。えぇ~~っと、何て言ったっけ?あのプラグの名前」
アスカはヒカリの慌てた態度を怪訝に思いながら、更なる心配を重ねようとするが、言わんとする固有名詞が出てこず言葉に詰まる。
「・・・ジェミニ・プラグ」
パンッ!!
「そうそう、それそれ。そのジェミニ・プラグへ一緒に乗るんだから・・・。」
すると偶々近くを通りがかったレイが助け船を出し、アスカが悩み解決に柏手を打ってご機嫌になるも束の間。
「・・・って、何よっ!!ファーストっ!!!その勝ち誇った様な笑みはっ!!!?むかつくわねっ!!!!!」
「だって、あなたは用済みだもの・・・。生ゴミの日に丸めてポイなの」
アスカは向けられたレイのニヤリ笑いに気付いて苛立ち、反対にレイはアスカの怒り様にご機嫌となって目まで笑わせてニヤリ笑いを深める。
「はぁぁ~~~?」
「あなたと洞木さん、霧島さんと山岸さん、鈴原君と相田君・・・。なら当然、私と碇君・・・。2人はプラグの中で愛を育むの・・・・・・。」
「な゛っ!?聞いてないわよっ!!?そんなのっ!!!?」
刹那、アスカはレイの意味不明な言葉に間抜け顔となるが、妙に何処となく説得力のあるレイの追加説明に愕然と目を最大に見開いた。
ちなみに、ジェミニ・プラグとは未だ正体が明かされぬ『ヴァーチャルシステム』の副産物として生まれた複座式エントリープラグの事である。
これはエヴァの戦闘力とも言える上げ難いシンクロ率に代わり、複座式戦闘機の様に明確な役割分担を持たせる事で戦闘力向上を狙ったもの。
つまり、1人がエヴァの運動系を主として司り、1人がエヴァの知覚系を主として司り、お互いがお互いを補完し合わせるシステム。
但し、エヴァの代名詞とも言えるシンクロシステムは健在の為、ジェミニ・プラグには気の合った者同士でしか乗る事は出来ない。
それ故、現在のところ、初号機にはマナとマユミ、弐号機にはアスカとヒカリ、エバァMk2にはトウジとケンスケの組み合わせが選ばれている。
ところが、零号機シフトに関しては未だ発表がなく、余り物の理論で言えばレイの言葉には信憑性があり、アスカが心配するのも無理はない話。
「問題ないわ・・・。今、言ったもの」
「シ、シンジぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~~~~~~~~~っ!!」
たちまちアスカの心に凄まじい不安感が募り始め、たまらずアスカがちょっぴり涙目となって真偽を問うべくシンジの元へ駈け出す。
(・・・そ、そんな。う、嘘よね・・・。い、碇君・・・・・・。)
「じゃ・・・。さよなら」
それを合図にまた立ち眩みを起こしたのか、ヒカリがその場へ力無く膝を折り、レイは次なる標的を求めて足取り軽く初号機ケイジへと向かった。


ピッ・・・。ピッ・・・。
            シューコ・・・。シューコ・・・。
ピッ・・・。ピッ・・・。
            シューコ・・・。シューコ・・・。
ピッ・・・。ピッ・・・。
            シューコ・・・。シューコ・・・。
監視カメラが2つ設置された窓のない部屋に響く脈拍計音と人工呼吸器音。
部屋中央にある質素なパイプベットの上にはかけ布団がかけられず、ただ仰向けに寝かせるだけとなっている全身に包帯を巻かれた少年の姿。
ピッ・・・。ピッ・・・。
            シューコ・・・。シューコ・・・。
ピッ・・・。ピッ・・・。
            シューコ・・・。シューコ・・・。
ピッ・・・。ピッ・・・。
            シューコ・・・。シューコ・・・。
その包帯の至る箇所は血と膿で変色して白い部分の方が圧倒的に少なく、唯一外気と触れて僅かに覗く瞳は濁りきって生気がまるで感じられない。
更に何よりも目を惹くのが、少年の肩から抉る様に失われている左腕と太もも半分から失われている左足。
(はぁ・・。はぁ・・・。く、苦しい・・・。し、死ぬ・・・。だ、誰か助けてくれ・・・。お、俺を助けてくれ・・・・・・。)

ピッ・・・ピッピッ・・・ピッ・・・ピッピッピッ・・・ピッ・・・。ガチャン、ガチャン、ガチャン、ガチャンッ!!
不意に覗き窓もない鋼鉄製の出入口扉から電子音が聞こえ、扉四方に施されたロックボルトの外される重い音が静寂の満ちる部屋に響き渡った。
プシューー・・・。
(・・・な、何だよ。きょ、今日はやけにサービスが良いじゃないか・・・・・・。
 ふ、ふんっ・・・。く、来るなら来い・・・。な、何されようとも、絶対に俺は負けない。お、お前達なんかに・・・・・・。
 も、もう1度・・・。も、もう1度、俺はあいつ等に会うんだ・・・。そ、その為にも俺は生きる。ぜ、絶対に生きるんだ・・・・・・。)

一拍の間の後、扉が開いて廊下の新鮮な外気が空気の淀んだ部屋に入り込み、少年が招かざる客達へ呪詛を込めて精一杯の力で奥歯を噛みしめる。
「うっ・・・。ひ、酷い」
「・・・ほう。よくぞ、あの爆発の中で生きていたものだね」
「ですが、これでは・・・。死んでいるのも同然ですよ?彼には無理なのでは?」
少年の痛々しい姿を見るなり、マヤが涙を瞳に溜めて口元を押さえ、シンジが感嘆の溜息を漏らし、青葉が眉を顰めてシンジへ囁いた。
「ですから、あれほど言ったではありませんか。見るだけ無駄だと・・・。今、彼に必要なのは安静にする・・・。」
「二佐、黙っていて頂きたい。それを決めるのは彼だ」
するとシンジ達の後ろに控える軍服の男が小馬鹿にした様な口調で口を挟み、シンジが背中を向けたまま煩わし気に軍服の男の言葉を遮る。
「決めるですって?喋る事も困難なくらいの重体なんですよ?どうやって、その意思を確かめ・・・。」
「黙れと言った」
「うぐっ・・・。」
しかし、軍服の男の言葉は止まらず、シンジは振り向いて軍服の男を鋭く睨み、軍服の男は眉間に皺を深く刻んで悔し気に押し黙った。
「・・・ムサシ・リー・ストラスバーグ」
(な、何だよ・・・って、はっ!?お、お前はっ!!?)

シンジは少年の元へ歩み寄ると、サングラスを外して少年の瞳を覗き込み、少年が霞む視界に現れた見覚えのある顔に驚愕して目を最大に見開く。
実を言うと、この少年こそが『ムサシ・リー・ストラスバーグ』であり、嘗ては戦自のとある計画の元にいたマナと訓練を共にしていた仲の少年。
そして、戦自の公式記録から抹消されたトライデント事件の際、マナを助けるべくN2爆雷にその身を晒して死亡したかと思われた少年でもある。
「マナは生きている。マナに会いたいかい?」
(どうして、お前がここに居るかは知らないが・・・。何を馬鹿な事をっ!?だからこそ、こうして実験に付き合っているんだろうがっ!!!)

「但し、ここで幾ら痛みに耐えていてもマナとは決して会えない。マナは今・・・。ネルフの保護下、チルドレンとなって第三新東京市にいる」
ムサシの瞳に輝きが灯った事にニヤリと笑い、シンジがサングラスをかけ直してムサシへ衝撃の事実を放った途端。
(な、何だとっ!?・・・ぐはっ!!?)

「ば、馬鹿なっ!?わ、私は聞いてないぞっ!!?」
ムサシが驚愕に体をビクッと震わせて声もなく激痛に呻き、軍服の男が驚愕に声を裏返してシンジへ事の真偽を詰め寄ろうとする。
「・・・何度も同じ事を言わせるな」
「二佐、落ち着いて下さい。これ以上、司令の邪魔をした場合、この部屋から即刻退出して頂きます」
「くっ・・・。も、申し訳ありません(お、おのれぇ~~っ!!どうして、私がこんなガキにぃぃ~~~っ!!!)」
だが、シンジがサングラスを押し上げるのを合図に、青葉が軍服の男の肩を掴んで止め、軍服の男は悔しさに奥歯をギリリと噛んで立ち止まった。
「浅利ケイタも近日中にチルドレンとして第三新東京市へ来る」
(ほ、本当かっ!?そ、それっ!!?)

「だから、君もチルドレンにと誘いに来たんだけど・・・。」
(・・・そうか。そうだよな・・・。当たり前か・・・。こんな様じゃ、役立たずだよな・・・・・・。
 まあ、良いさ。マナとケイタが無事と解っただけで満足だ。もう悔いは無いし・・・。何よりも、この痛みに2度と耐えなくて良いんだからな)

再びシンジの視線が向き戻り、ムサシはもう1つの嬉しい報告に目を輝かすが、続いたシンジの言葉に瞳の輝きをみるみる内に失わせてゆく。
「諦めるのはまだ早い・・・。その痛みに今日まで耐えたんだろ?だったら、僕の話を最後まで聞くんだ・・・・・・。
 もし、君が望むのなら・・・。僕はネルフが持つ全てを尽くして君の体を元の健康な体に戻し、チルドレンとして第三新東京市へ招待しよう。
 でも、その為には血を吐く様な努力と死ぬほどの苦痛を味わうだろう。そう、1度死んだ気となり、生まれ変わる様なくらいの苦痛をね。
 それでも良いと言うのなら・・・。見せて欲しい。君が2人に会いたいと言う気持ちを・・・。さあ、手を伸ばして、僕の手を握るんだっ!!」
シンジはそんなムサシにやれやれと首を左右に振って溜息をつくと、何やら邪悪そうにニヤリと笑いながらムサシへ左手を差し伸ばした。
(・・・ふんっ!!何を馬鹿な事を・・・。こいつにそんな事が出来るはずもないのは見れば解るだろうっ!!!)
息子ほどの年齢のシンジに顎で使われ、心中は悔しさだけだった軍服の男が、その光景を馬鹿にして鼻で笑った次の瞬間。
「うっ、うぐっ!!ぐぐぐぐぐっ!!!ぐぬぅぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!!」
「し、信じられんっ!?動けるはずがないっ!!?」
ムサシが呻き声をあげながら右手を徐々にシンジの左手へ伸ばし始め、軍服の男が驚愕に目をこれ以上ないくらいに見開いた。
何故ならば、トライデント事件より既に数ヶ月が経っているのにも関わらず、ムサシの体は未だ毎日が予断を許さない絶対安静状態。
しかも、全身をほぼ網羅して絶え間なく膿を出し続けている火傷跡により、指先1つでも微かに動かしただけで全身に激痛が走るからである。
「・・・OK。僕と君の契約は成された。君を第三新東京市へ招待しよう」
「ぐはっ!?」
バタッ・・・。
ただ持ち上げるだけの動作を約30秒ほどかけ、シンジの左手を弱々しく握ると、ムサシは口元の包帯を赤く染めながら力尽きて意識を失った。


「それにしても、こんな所に基地があったなんて正に灯台下暗しですね。
 まあ、あの事件を良く良く考えて見れば、あんな大きな物と一緒にそう遠くへ行けるはずもありませんから・・・。当然と言えば、当然かな?」
シンジは窓辺に立って眼下のグラウンドでランニングする少年少女達を眺めた後、森林迷彩天幕が施された空を見上げて感嘆の溜息を漏らした。
ここは富士の樹海奥深くに隠された戦自トライデント部隊秘密基地であり、その3階にある部隊長室。
補足だが、シンジの言葉にある『あの事件』とは、シンジとマナが出逢うきっかけとなった数ヶ月前のトライデント脱走事件の事。
「それはともかく、どうあっても彼の身柄はこちらへ渡せないと?」
「はい、ストラスバーグ陸二曹は戦略自衛隊の一員です。いかにネルフとは言えども、それは無理な相談です」
「でも、僕は彼と約束したんですよね・・・。何とかなりませんか?」
「残念ですが、答えは一緒です」
シンジは視線だけを向けて3度目の交渉に入るが、軍服の男は決して首を縦に振ろうとはせず、またもや交渉は平行線に終わる。
「そうですか・・・。では、仕方がありませんね」
「し、司令っ!?」
軍服の男の強情さに溜息をつくと、シンジは矛を収めて視線を戻し、青葉がいつになく諦めの良いシンジに驚いて思わず口を挟む。
ちなみに、軍服の男は部隊長席に座り、窓辺に立つシンジを間に挟み、青葉とマヤが応接セットのソファーに並んで座っている状態。
また、青葉とマヤはお互いにシンジ直属となった為、それぞれがワインレッド色の男性用、女性用の上士官服を着用している。
「そう言えば、二佐には僕と同い年のお嬢さんがいましたよね?
 二佐の年齢を考えると遅く出来た子の様ですから、やっぱり目に入れても可愛くて仕方がなかったりするんですか?」
「「・・・はっ!?」」
シンジは背中を向けたまま青葉を手で制すると、唐突に話題を世間話へと変え、青葉は勿論の事、軍服の男も思わず茫然と目が点で間抜け顔。
「それに何と言っても思春期ですから、二佐も何かと心配でしょう?お嬢さんに変な虫がつかないかどうかで・・・。
 実際、資料を見たところ、かなりの美少女。きっと学校ではモテモテだったりするんでしょうね。ええ、僕だったら絶対に放っておきませんよ」
「あ、ありがとうございます・・・。で、ですが、何をおっしゃりたいのですか?」
それでも、シンジの意味不明な世間話は尚も続き、軍服の男は言い知れぬ不安を漠然と感じて焦り、世間話の真意を尋ねるべく直球で問い返した。
「おやおや、解りませんか?彼をチルドレンにするのが無理なら、次点候補のお嬢さんをチルドレンにさせて頂くと言ってるんですよ」
「な゛っ!?」
応えてシンジは邪悪そうなニヤリ笑いを振り向かせ、軍服の男が飲めない交換条件に驚愕して目を見開きながら席を蹴って勢い良く立ち上がる。
(い、いつもながら・・・。し、司令、鬼っスっ!!)
(・・・シ、シンジ君。も、もしかして、それって脅迫なんじゃ・・・・・・。)
その反動で場がシーンと静まり返り、相変わらずのシンジの極悪ぶりに、青葉が顔を引きつらせ、マヤが嫌悪感に眉を寄せて眉間に皺を刻む。
「フフ・・・。戦自とネルフの畑違いは有りますが、二佐としても自分の職をお嬢さんが継いでくれるのは嬉しいでしょ?
 任せて下さい。僕がお嬢さんを立派な軍人に育ててあげますよ。・・・もっとも、厳しい訓練で二佐の事を忘れてしまうかも知れませんけどね」
一拍の間の後、シンジはサングラスを押し上げると、その身にドス黒いオーラを纏い、更なる一手で軍服の男を畳みかける。
「?????・・・・・・ひ、卑劣なっ!?む、娘に何をする気だっ!!?」
ドンッ!!
軍服の男は意味が解らず怪訝顔を浮かべるも、数瞬後にシンジの言わんとする事を悟り、憤りに右拳を机へ思いっ切り叩きつけて怒鳴り問いた。
「何って・・・。解っているんでしょ?本当は・・・・・・。二佐がこの基地のパイロット候補生達にした事と同じ事をですよ」
「ぐっ!?」
「「?????」」
シンジは多く語らずニヤリ笑いだけを深め、軍服の男が敗北感に絶句して言葉詰まり、話の見えない青葉とマヤが不思議顔を見合わせたその時。
トントン・・・。トントン・・・。
「・・・は、入れ」
「失礼します。お茶をお持ち致しました」
出入口の扉がノックされ、椅子へ力無く座り直した軍服の男が入室を促すと、扉が開いて作業つなぎ姿の少女が胸に右拳を置く一礼で現れた。
「・・・どうぞ」
「うむ」
「・・・どうぞ」
「ありがとう」
「・・・どうぞ」
「どうも」
少女は背後に控えていたワゴンを部屋へ引き入れると、接客マナーに反して軍服の男、マヤ、青葉の順に紅茶とショートケーキを置いてゆく。
「・・・どうぞ」
「あっ!?僕のは良いよ。お腹が一杯だから、良かったら君が食べてくれないかな?」
そして、最後に空いたソファーの席へシンジの分を置こうとするも、シンジが背中を向けたままガラス窓に写る少女の様子を眺めつつ制止させる。
「えっ!?・・・えっ!!?えっ!!!?えっ!!!!?」
「・・・頂きなさい」
少女はシンジの予想外の提案に驚き、救いを求めて何度もシンジと軍服の男へ視線を交互に向け、軍服の男がわずかに躊躇いながらも頷いた途端。
「は、はいっ!!あ、ありがとうございますっ!!!」
まるで宝石でも貰ったかの様に目を輝かせ、少女はもう返さないと言わんばかりにその場へ立ったまま手づかみで慌ててケーキを食べ始めた。
「なるほどね。これで確信しましたよ」
「「「・・・何がです?」」」
シンジはその様子にニヤリとほくそ笑み、シンジの確信とやらが解らない青葉とマヤと軍服の男が、思わず声を揃えて尋ねる。
「ねぇ、君・・・。僕が誰だか解るかな?」
「・・・い、いえ、申し訳有りませんが解りません」
だが、シンジは3人を無視して少女へ問い、頬に生クリームを付けた少女がシンジからケーキを庇い隠しつつ怖ず怖ずと首を左右に振って応えた。
「だったら、これでどうだい?これなら、きっと見覚えがあるだろ?」
「っ!?」
「そう、僕はネルフのサードチルドレン『碇シンジ』だ」
ならばとサングラスを外してニッコリと微笑み、少女の目が大きく見開かれるのを確認して、シンジが自分の名前を明かした次の瞬間。
「っ!?っ!!?っ!!!?」
ガチャンッ!!
目を何度も見開いてケーキと皿を床へ落としたかと思ったら、少女が瞳の色を攻撃色に変え、ケーキフォークを武器にシンジへ襲いかかっていた。
「司令っ!?」
ボグッ!!ドスッ・・・。
即座に青葉が懐より銃を抜くよりも早く、シンジは渾身の一撃を少女の鳩尾へ放ち、少女はシンジへ力無く寄りかかりながら床へ崩れ落ちて沈黙。
「ふぅぅ~~~・・・。いやいや、危ないところでした。なかなかのマインドコントロールぶりですね。二佐」
「「ええっ!?」」
シンジはサングラスをかけ直して安堵の溜息をつき、青葉とマヤは寝耳に水なシンジの言葉に目を最大に見開いてビックリ仰天。
「・・・あれ?もしかして、2人とも気付いてなかったんですか?」
「う、うん、ちっとも・・・。」
崩れ落ちた少女をソファーに座らせ、シンジが呆れ顔を2人へ向けると、マヤが驚きに目を見開いたままの顔でゆっくりと頷いた。
「迂闊ですね。そこらかしこにそれっぽい物がたくさんあったじゃないですか?」
「・・・と言うと?」
ますます呆れたシンジは苦笑して肩を竦め、青葉がシンジの言葉を興味深そうに尋ね返す。
「例えば、そこに貼られている重なり合う三つ又の矛の日章旗。
 確かに部隊旗と言うのは存在しますが・・・。単なる1部隊にも関わらず、これは大げさ過ぎます。どう考えても、特殊シンボルですね。
 次に彼女が先ほど部屋へ入る際や廊下で隊員達とすれ違う度に交わされた右拳を胸に置く敬礼。
 戦自では頭右が普通ですし・・・。文官の敬礼にも似ていますが、あれは右掌を胸に置く敬礼。・・・と言う事はここ特有の敬礼でしょう。
 そして、何よりも睡眠不足と思しき隊員達の憔悴しきった顔に加え、先ほど彼女が見せたケーキに対する過敏な反応から推察できる食事制限。
 取りあえず、怪しい所は他にもまだまだ有りましたが、この3つだけでも十分に説明が出来ます。
 睡眠不足と食事制限で思考力を奪い、特殊シンボルと特殊動作によって思考を統一する。これこそ、マインドコントロールの常套手段です。
 いやはや、ネルフも酷い所ですが・・・。ここはそれに輪をかけて酷いところですね。
 でも、二佐も知っていると思いますが、これだけ酷いと国際条約に反しますよ?なにせ、一歩間違えば、軍事力を持ったカルト集団ですからね」
シンジは立てた右人差し指を左右に振りながら2人へ解説してあげた後、嫌味っぽいニヤリ笑いを茫然自失状態の軍服の男へ向けるも反応なし。
余談だが、シンジがこの様に過敏な反応を見せたのは、シンジ自身がネルフ職員達へ軽いマインドコントロールを施しているからに他ならない。
例えば、常に残業をこなさなければ上位に昇れない勤務ランク付けが正にそれであり、Kランク更正訓練所に至ってはその極致だったりする。
「・・・とは言え、二佐の気持ちも解らなくはないですよ?
 万が一、数ヶ月前の様な脱走事件がまた繰り返されたなら・・・。この基地の存在価値であるT計画はまず間違いなく中止。
 それどころか、二佐のキャリアもストップし・・・。下手すれば、二佐は責任能力を問われて軍事裁判ものですからね。
 だが、ご安心を・・・。T計画は現時刻を以て、計画発案段階まで遡って戦自の記録から抹消。以後、この基地はネルフの管轄下となります」
「な、なにっ!?」
ガチャァァーーーンッ!!
しかし、シンジの口から衝撃の事実が飛び出るや否や、軍服の男は慌てて我に帰り、驚愕に席を後ろへ蹴り倒すほどの勢いで立ち上がった。
「おやおや、本当に鈍いですねぇ~~・・・。秘密基地であるここへ僕等が来た時点でそれに気付かなくちゃダメですよ。
 それとも、あなたと共にT計画を推奨していた扶桑中将が派閥争いに負け、一昨日付けで戦自を退役したと言った方が理解し易いかな?」
「そ、そんな・・・。ば、馬鹿な・・・・・・。」
シンジは予想通りの反応を愉快そうにクスクスと笑い、軍服の男が絶望のあまり蹌踉めいて机に両手を置いて力無く項垂れる。
(し、司令、鬼っスっ!!よ、容赦ないっスっ!!!)
(シ、シンジ君?・・・ほ、本当にシンジ君よね?)
その明らかなまでもの勝利者と敗北者の構図に、青葉は恐怖に体をブルルッと震わせ、マヤは茫然と目を見開きながら眺めて我が目を疑った。


「では、当初の予定通り、彼は僕等と一緒に第三新東京市へ連れて帰ります。
 また、当基地は今月末を以て、完全閉鎖。同時に全ての隊員はネルフ本部へ転属、第三新東京市への移住を命じます。
 詳しくは近日中に監査部員を派遣しますので、彼等の指示に従って行動して下さい。
 もちろん、現存する全てのトライデントもネルフ本部の戦力に組み込まれ、以後は対使徒戦の先鋒戦力として活躍して貰う予定です」
敢えて演じた茶番交渉も終え、シンジが降伏条件の記された分厚い書類を部隊長席の上へ差し出す。
「・・・・・・だろうな」
「はい?」
「なら、もう娘は関係ないんだろうなっ!!」
すると机に肘をついて祈る様に手を組んで項垂れていた軍服の男が、まずは小声で何やら呟き、シンジの聞き返しに憤怒の表情を勢い良く上げる。
「ええ、もちろんです・・・って、嫌だなぁ~~・・・。そんな怖い目で睨まないで下さいよ。僕だって心苦しかったんですから・・・
 あっ!?そうだっ!!!お詫びと言っては何ですが、二佐の住居としてジオフロント居住区の上士官家族用ルームを特別に手配しましょう。
 これなら職場にもかなり近いですから、今まではなかなか取れなかった奥さんやお嬢さんとの時間もたくさん取る事が出来る様になるでしょ?」
軍服の男の問いに戯けた口調で応えて肩を竦めた後、シンジは軍服の男の怒りを静めるべく微笑みながら優しく軍服の男の肩へ手を置いた。
(過程はどうあれ・・・。やっぱり、シンジ君はシンジ君なのね。私ったら、勘違いしちゃってごめんね・・・・・・。)
(で、出たっ!!し、司令得意技の人質戦法っ!!!・・・ど、何処までも容赦ないっスっ!!!!や、やっぱり、司令は鬼っスっ!!!!!)
その寛大なる勝利者の采配に、マヤはシンジへの勘違いを心の中で詫び、青葉は汗をダラダラと流して恐怖しまくり。
「でも、シンジ君。私、さっきから思ってるんだけど・・・。幾ら何でも、彼には無理じゃない?チルドレンは・・・・・・。」
「そうです。あの状態では戦力外は否めません。それどころか、戦闘行為自体が難しいのでは?」
そして、話が纏まった事もあり、マヤがムサシを見た時から思っていた疑問について口を挟み、青葉がマヤの意見に同意してシンジへ尋ねた。
「フフ・・・。ネルフの幹部とあろう2人が何を言うんです。エヴァは別に手足が無くとも動くじゃありませんか?」
「「・・・あっ!?」」
応えてシンジは良い質問だとサングラスを押し上げてニヤリと笑い、青葉とマヤがシンジの考えを悟って驚愕に目を見開く。
「だから、二佐も彼をわざわざ生かしておいたのでしょ?
 そう、エヴァのシンクロシステムを解明する為、彼のマナに対する感情を利用して非道な人体実験を強いていた。・・・違いますか?」
「「えっ!?」」
「な、何を馬鹿な事を・・・。」
続けて、シンジは更に口の端をニヤリとつり上げ、青葉とマヤがシンジの言葉に目を更に見開き、軍服の男が動揺に思わずシンジから顔を背ける。
「誤魔化しても無駄です。包帯から覗く彼の髪のパサつき具合、あれはLCL特有の物ですよね?
 そもそも、N2爆雷の爆発で酷い火傷を負ったとは言え、あの事件はもう数ヶ月も前の事。幾ら何でも傷の治りが遅すぎます。
 なら、治癒力が追いつかないほどの頻繁な間隔で彼がLCLの様な何らかの液体に漬かり、治癒力を妨げられていた証拠じゃないですか。
 そうそう、ついでだから教えてあげますと、技術部のとある職員がスパイ行為を認め、この基地へLCLを送っていたとの証拠もありますよ。
 ・・・それにしても、上手く考えた物です。彼の戸籍はあの時の事件で抹消されていますし、死んでいる人間なら何をやっても自由ですからね」
「うぐっ・・・。」
シンジはそれを許さず立ち位置を変えて軍服の男を間近から見下ろし、軍服の男が突き付けられた確固たる証拠に返す言葉を失う。
「いやはや、マインドコントロールの事と言い、人体実験の事と言い・・・。お嬢さんが聞いたら何と言うでしょうね。きっと悲しむんだろうな」
「うっうっ・・・。し、仕方なかったんだ・・・。し、仕方なかったんだ・・・。し、仕方なかったんだ・・・。うっうっうっ・・・・・・。」
だが、シンジは追撃の手を緩めず、言葉の刃で軍服の男の心をザクザクと斬りつけた。
「仕方なかった・・・っか。大抵、悪人ってのは最後にそう言うんですよね。
 まっ・・・。幸いにして、僕はあなたの能力を高く買っています。これからは心を入れ替えてネルフの為に働くのなら、この件は公表しません」
「うっうっうっ・・・。は、はい・・・。あ、ありがとうございます・・・。うっうっ・・・・・・。」
心を完膚無きまで打ち砕かれた軍服の男は、己の犯した罪の大きさに顔を両手で覆って肩を震わせ、涙ながらに激しい罪の意識に苛まれて詫びる。
(うんうん、そうよね・・・。罪を憎んで人を憎まずって言うもんね)
(あ、相変わらず、徹底した脅迫・・・。い、いや、素晴らしい人心掌握術っスっ!!し、司令、見事っスっ!!!)
その見事すぎる勝利者の断罪裁判に、マヤが貰い泣いて涙をホロリとこぼし、青葉が顔を引きつらせて大粒の汗をタラ~リと流したその時。
プルルルル・・・。プルルルル・・・。プルルルル・・・。
「んっ!?誰だ・・・・・・って、げっ!!?」
シンジの懐から電話の着信音が鳴り響き、シンジは携帯電話を取り出すなり、液晶モニターの『発信:山岸マユミ』の文字に驚き声をあげた。
「どうしたんですか?」
「えっ!?あっ!!?・・・い、いや、何でもありません。ちょ、ちょっとタンマ・・・・・・。」
青葉がその様子を怪訝そうに尋ねるが、シンジは何やら困った様子で言葉を濁して多くは語らず、更に皆の視線を避けて部屋の片隅まで撤退。
「・・・もしもし?僕だけど・・・。困るよ。今朝も言ったばかりじゃないか。あれほど仕事中に電話をかけちゃダメだって・・・・・・。
 今も大事な会議が・・・って、ち、違うっ!!ち、違うってばっ!!!そ、そんなんじゃないってっ!!!!ほ、本当だってっ!!!!!」
その上、シンジはしきりに皆の様子を何度もチラチラと伺いつつ、電話の相手と汗をダラダラと流しながら焦った口調で会話する始末。
「・・・えっ!?夕飯を一緒に?う~~~ん・・・。残念だけど今夜は予定が入って・・・・・・。だ、だから、違うってっ!!!
 う、うわっ!?な、泣かないでよっ!!?お、怒ってないからさっ!!!!・・・えっ!!!!?あ、青葉さん、呼びましたかっ!!!!!?」
「はっ!?・・・な、何っスか?」
この様子に軍服の男が思わず涙を止め、3人が3人とも怪訝顔を見合わせる中、いきなり青葉はシンジに話しかけられて思わず茫然と目が点状態。
「だ、だって、聞いた?・・・えっ!?き、聞こえなかったって?・・・い、いやね。きゅ、急遽、予定が空いたみたいなんだよ。
 う、うん、そうだね。し、7時半頃になれば、大丈夫かな?い、いやぁ~~、楽しみだなぁぁ~~~・・・。あははははははは・・・・・・。」
しかし、シンジは青葉の反応に満足すると電話の相手との会話を再開させ、顔を思いっ切り引きつらせて乾いた笑い声を部屋に響かせ始めた。
「っ!?・・・落ち着くんだ。大丈夫・・・・・・。
 僕もすぐにそっちへ向かうから、それまではミサトさんの指示に従っていれば大丈夫だから・・・。良いね?じゃあ、また後で会おう」
「・・・何かあったんですか?」
そうかと思ったら、不意にシンジの表情がキリリと引き締まり、青葉が電話を切ったシンジの豹変ぶりを不思議に思って尋ねる。
「使徒が現れたらしい。さあ、急いで戻るよ」
「「えっ!?あっ!!?・・・は、はいっ!!!!」」
シンジは言葉少なく青葉の問いに応えると、別の何処かへ電話をかけ直しながら足早に部屋を出て行き、青葉とマヤが慌てて席を立ち上がった。


『目標は大涌谷上空にて滞空。定点回転を続けています』
『目標のATフィールドは依然健在』
誰もが戦いにおける強い責任感をもって己の役割を迅速にこなし、主は居なくともゲンドウ時代より格段に高い士気が感じられる発令所。
その中央巨大モニターに映るは、細長い二重螺旋のリング形状を持つ第16使徒『アルミサエル』の姿。
プシューー・・・。
「遅いわよ。何やってたの?」
遅ればせながらミサトが発令所に駈け現れ、リツコが目線だけ向けてミサトを叱る。
「言い訳はしないわっ!!状況はっ!!?」
「膠着状態が続いています。パターン青からオレンジ、周期的に変化しています」
「MAGIは回答不能を提示。答えを導き出すにはデーター不足です」
だが、ミサトはリツコなど構わず現状をまず求め、すぐさま青葉の代役である男性職員とマヤの代役である女性職員がミサトへ報告を返す。
「へっ!?・・・あれ、青葉君とマヤちゃんは?」
「ああ、2人なら司令代理のお供で出張中。現在、こちらへ移動中です」
ミサトはいつもの顔ぶれが居ない事に戸惑って思わず間抜け顔を浮かべ、日向が振り返ってミサトの疑問に応えた途端。
余談だが、作戦部部長代理となった日向は上士官服の着用が認められているのだが、ミサトに気を使っているらしく変わらぬ作業ユニフォーム姿。
「えっ!?シンジ君、居ないのっ!!?・・・ラッキぃぃ~~~♪」
パチンッ!!
ミサトは目を輝かせて勢い良く振り返り、司令フロアに冬月しか居ない事を確認して喜びのあまり指パッチンを打ち鳴らした。
何故ならば、この1分、1秒を争う時にミサトは約15分もの遅刻をしてしまい、今回は初っぱなから奈落落ちかと覚悟を決めていたからである。
ちなみに、どうして約15分もの遅刻をしたかと言えば、ミサトはトイレの個室から出るに出れぬ非常事態の状況下に陥っていた為。
「遅刻は遅刻よ。それに今の言葉をシンジ君が聞いたら、どうするかしらね?」
「日向君っ!!エヴァ全機、一斉にジャンジャン、バリバリと打ち出しちゃって頂戴っ!!!」
リツコが呆れて深い溜息をつくが、ミサトは再びリツコを無視して振り向き戻り、シンジ不在の自由を謳歌して号令をご機嫌に発した。
「か、葛城さん・・・。は、花火じゃないんですから・・・・・・。」
「また無計画な作戦を立てると、シンジ君が帰って来た時に落とされるわよ?」
「う゛っ・・・・・・。じゃ、じゃあ、偵察役のエヴァを1機だけチョロッと上げてくんない?ひゅ、日向君」
しかし、日向にまで呆れられた上、リツコに尚も深い溜息をつかれ、たちまちミサトは真実味のあるリツコの嫌味に意気消沈して前言を撤回。
「それなら、司令代理の電話指示でエバァMk2が出撃しています」
「エバァMk2ぅぅ~~~?」
すると日向がミサトの問いで止まっていた己の状況報告を告げ、ミサトが聞き慣れぬ機体名に言葉語尾を半音上げて不思議顔。
「ええ、本日付けで登録された新しい機体。・・・あれがそうよ」
「そんな話、聞いてないわよ・・・って、げげっ!?」
リツコはミサトの疑問に応えてモニターの一角を指さし、ミサトはその指先を目線で辿るなり、そこに居たカラフルな機体に顔を引きつらせた。


ズルズルズル・・・。ズルズルズル・・・。ズルズルズル・・・。
「ふっ・・・。やはり暑い日はこれに限るな」
第三新東京市郊外のマンションにある赤木邸、一歩外は人類存亡の危機だと言うのに、昼食のトコロテン大盛りに舌鼓を打って至福のゲンドウ。
もっとも、ここ1ヶ月間のヒモ生活ですっかり堕落しきり、昼夜逆転の夜型人間となったゲンドウでは一般人の昼食が朝食だったりする。
実際、ゲンドウはつい先ほど起床したばかりであり、髪はボサボサに乱れて寝癖が付き、ランニングシャツにスエットズボンと寝間着姿。
ちなみに、この部屋の住居登録はリツコの名前のみの為、例え非常警報が発令されようともゲンドウに対する避難勧告と避難確認はされない。
その上、ゲンドウはリツコから使徒襲来の報を受けたにも関わらず、ここがかなり郊外なのを良い事にタカをくくって避難しなかったのである。
『ハルカさんも、カナコも怖いんだ・・・。助けて、助けてよ。成瀬川・・・・・・。
 ねえ、起きてよ・・・。ねえ、目を醒ましてよ・・・・・・。
 ねえ・・・。ねえっ!!成瀬川っ!!!成瀬川っ!!!!成瀬川ぁぁ~~~っ!!!!!
 助けて・・・。助けて・・・。助けて・・・。助けて・・・。助けて・・・。また、いつもの様に僕を馬鹿にしてよっ!!ねえっ!!!』
『バサッ・・・。ブチブチブチブチブチッ!!』
(良し、今だっ!!なに、相手は無抵抗・・・。ヤるなら早くしろっ!!!でなければ、帰れっ!!!!)
この街の非日常が嘘の様にTVの中では変わらぬ日常が放送され、時おりゲンドウが昼下がりのドラマのラブシーンにニヤリ笑いを浮かべる。
『はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。う゛っ!?・・・最低だ。俺って・・・・・・。』
(・・・全くだ。お前には失望した。もう会う事もあるまい・・・・・・。」
『う、う~~~ん・・・。何よ・・・って、な、何やってんのよっ!!こ、このエロガッパぁぁ~~~っ!!!』
『バキッ!!』
『ろれぷろあっ!?』
「ふっ・・・。お約束か。シナリオ通りだな」
だが、気に入らないドラマの展開に落胆して溜息をつき、ゲンドウがチャンネルを変えようかとリモコンへ手を伸ばした次の瞬間。
『パターン青っ!!使徒ですっ!!!』
ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーッ!!
「げっほっ!!がっほっ!!!げっほっ!!!!がっほっ!!!!!」
ドラマが一段落してCMに入ると共に青葉が画面にドアップで映り、ゲンドウは口に含んでいたトコロテンを勢い良く吹き出してビックリ仰天。
『エヴァンゲリオン初号機発進っ!!』
『イケるわっ!!』
『モニター反応なしっ!!パイロットの生死不明っ!!!』
『初号機、完全に沈黙っ!!』
『・・・勝ったな』
ゲンドウがただただ茫然と顎が抜けた様に大口を開ける中、今までひた隠しにしていた極秘映像が電波に乗って全国のお茶の間へ届けられてゆく。
『人類の未来を守るネルフへ皆さんの応援をよろしくお願いします』
「・・・ふ、冬月。な、何を考えている・・・・・・。」
15秒の短い映像が終わり、茫然から立ち直れないゲンドウがCMの感想をポツリと呟いたその時。
ピンポーーン・・・。ピンポーーン・・・。ピンポーーン・・・。
「ぬっ!?宅急便か?」
来客を知らすチャイムが赤木邸に鳴り響き、ゲンドウは取りあえず我に帰り、冬月へ電話をする前にまずは目の前の事からと腰を上げた。
ピンポーーン・・・。ピンポン、ピンポン、ピンポン、ピンポーーン・・・。
「うるさい奴め。今、開けてやるから大人しく待ってろ」
そして、勝手知ったる隠し場所からリツコの判子を持って玄関へ向かい、ゲンドウがドアのチェーンロックと鍵を外してドアを少し開けた途端。
ギィッ!!バタンッ!!!
「ぬおっ!?・・・な、何をするっ!!?き、貴様等っ!!!?わ、私を誰だと思っているっ!!!!?」
外から勢い良くドアが引かれ、ゲンドウがバランスを崩して床へ前倒しに倒れると、すかさず特別監査部員の2人がゲンドウを取り押さえた。
「特務機関ネルフ総司令、碇少将。
 1ヶ月以上に及ぶ、無断欠勤、職務放棄の罰により、貴官を特別監査法基準に則ってKランクと認定し、Kランク更正訓練所の入居を命ずる。
 また、この処置を不服とする場合、特別監査法・第87、第88、第89項及び、第90項補足が適用され、貴官を拘束、連行するものとする」
「・・・な、何を言っている?か、加持一尉・・・・・・。」
すると加持がゲンドウへ書類を突き出して朗々と読み上げ始め、両脇を抱えられて立たされたゲンドウは、何が何だか解らず茫然と目が点状態。
「おっと・・・。慌てないで下さい?もう1枚、辞令がありますので質問はそれからって事でお願いします。
 特務機関ネルフ総司令、碇少将。
 本日0900を以て、特務機関ネルフ総司令の任を解き、貴官を特務機関ネルフ総司令代理に命じ、現階級より一階級降格と処す」
「な、何ぃ~~っ!?わ、私が司令代理だとぉぉ~~~っ!!?な、ならば、誰が司令になったと言うのだっ!!!?か、加持一尉っ!!!!?」
しかし、更に続いた加持の言葉に驚いて目を最大に見開き、ゲンドウは我に帰ると共に唾を飛ばして叫びまくる。
「まず、その一尉ですが・・・。有り難くない出世のおかげで今は二佐なんですよ。・・・で、誰が司令かはこの辞令を見れば解るかと思います」
「な゛っ!?・・・ど、どういう事だっ!!?な、何故、シンジが大将に・・・。し、しかも、極東方面第3司令だとっ!!!?」
加持は驚くのも無理はないと苦笑を浮かべ、ゲンドウは目の前の書類の文面を目で追い、最後の1行に驚愕して見開いていた目を更に見開いた。
余談だが、シンジは第15使徒殲滅の功により、本日午前9時に大将へ昇進、同時にネルフ司令、列びに国連極東方面第3司令に任命されている。
また、国連極東方面第3司令とは、その名が示す通り国連極東方面軍における第3位の命令権を持つ司令職。
これはシンジの戦略によってネルフが半非公開組織となった為、世論的にネルフが軍隊として正式に認められた証拠である。
この利点としては、無用な手続きを必要とせず、通常兵器を使う使徒前哨戦などで極東の国連軍を正式に動かす事が出来るなど様々。
それでいながら、以前と変わらぬ特務権限を持つ為、極東における命令権、兵馬権は実質的にシンジがトップの位置にある事も意味している。
しかも、密かに第2司令である戦自司令長官はシンジの傀儡と化している為、純国連軍の第1司令では力関係から太刀打ち出来ないおまけ付き。
「・・・と言う事です。良し、丁重にお連れしろ」
「「はっ!!」」
加持はゲンドウが書類を読み終わるのを確認して命じ、特別監査部員の2人が食事途中のゲンドウを連行し始める。
「や、止めろっ!!は、放せっ!!!は、放さんかっ!!!!い、一体、何が何でどうなっているんだっ!!!!?か、加持一尉っ!!!!!?」
「その辺の詳しい事情はご子息とご相談なさって下さい。・・・おい、黙らせろ。少しでも遅れたら、新しい司令がうるさいからな」
「了解」
「むぐっ!!むぐぐぐぐっ!!!むぐっ・・・・・・。」
慌ててゲンドウは体を藻掻かせて抵抗するが、薬品臭のするハンカチで口と鼻を塞がれて気持ちが良くなり、みるみる内に力尽きて沈黙。
「まっ、自業自得だよな。今の現状は有る意味で碇司令に全ての原因があるんだから・・・。
 取りあえず、シンジ君が何をしようと言うのかは解らんが・・・。碇司令には逃げ出した罪を存分に味わって貰うさ」
両脚を引きずられながら連行されて行くゲンドウの情けない様を眺めた後、加持はリツコの部屋の中から聞こえてくるTVの音を消しに向かった。



感想はこちらAnneまで、、、。

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