New NERV Commander
Gedou Ⅱ
EPISODE:03
Oh my GOD!!
「使徒を映像で確認。最大望遠です」
青葉がメインモニターの映像を切り換える共に、衛星軌道上に浮遊する使徒の姿が映るが、使徒自体の姿は凄まじい発光で良く見えない。
6枚の翼を持つという天使の名に相応しく、6枚の翼を広げた鳥の様な第15使徒『アラエル』である。
「衛星軌道から動きませんね」
「ここからは一定距離を保っています」
「・・・って事は、降下接近を伺っているのか、その必要もなくここを破壊出来るのか。こりゃ、迂闊に動けませんね」
日向と青葉の報告が続き、日向が少しお茶ら気た感じで背後に立つ収容所から戦闘配置により一時出所したミサトへ顔を向けた。
「どのみち、目標がこちらの射程距離に近づいてくれなければ、どうにもならないわ・・・。エヴァには衛星軌道の敵を迎撃出来ないもの」
いつものネルフ制服に着替え済みのミサトは腕を組んでモニターに映る使徒を睨み、唸りながら脳細胞をフル活動させて作戦を組み立ててゆく。
「・・・アスカは?」
「弐号機ともに発進準備完了。いけます」
「了解・・・っと、あなたは初号機に乗らないの?シンジ君」
ミサトは目線だけを右へ向け、マヤの報告に作戦を決定すると頷き、司令フロアを見上げてゲンドウポーズをとるシンジへ視線を向けた。
ちなみに、アスカ以外のチルドレンは使徒発見時に学校で授業中だった為、現在ネルフへ大急ぎで向かっている最中。
「初号機は山岸特務准尉と霧島特務准尉に任せてあります。山岸特務准尉が到着次第、搭乗させて下さい」
「えっ!?でも、シンクロ率は山岸さんより霧島さんの方が高いし・・・。第一、シンジ君が乗るのが1番良いと思うんだけど?」
応えてシンジはミサトへ一瞥だけを向け、ミサトはシンジの冷たい態度に戸惑いながらも、シンジへ初号機に乗るよう作戦提案を勧める。
「・・・葛城三佐。ここは家でもありませんし、今はプライベートの時間でもありません。場を弁えて発言して下さい」
「ぐっ・・・。も、申し訳ありません。し、司令代理」
だが、シンジはミサトの問いに応えず、プレッシャーを放って暗に言葉使いを改める様に釘を刺し、ミサトは意気消沈して作戦提案を飲み込む。
「ね、ねえ、日向君・・・。シ、シンジ君、どうしちゃったの?な、なんか、ヤバい薬でも決めちゃってる訳?」
「・・・か、葛城さん。さ、最近のシンジ君はいつもあの通りですよ。し、司令代理になってから・・・・・・。」
「葛城三佐、作戦中の不要な私語は慎む様に・・・。」
「は、はいっ!!(ほ、本当にどうしちゃったのよっ!!?あ、あの素直で良い子だったシンちゃんは何処へ行ったのっ!!!?)」
その上、日向とシンジの変貌について雑談しているところをシンジに叱られ、ミサトはシンジの睨みに背筋をビクンッと震わせて直立不動。
余談だが、さっさと収容所からおさらばしたいミサトは、今回の戦いで素晴らしい指揮ぶりをシンジへ見せつけて恩赦を狙っていた。
何故ならば、ミサトにとってシンジは司令代理である前に自分の家族であり、一つ屋根の下で苦楽を共にした愛すべき弟。
その弟ならばミサトの現在の境遇を涙ながらに同情し、きっと地獄の様な収容所から司令代理特権で出してくれるに違いないと考えていた。
「・・・ところで、シンジ君」
「何ですか?」
「さっきから思っているのだが・・・。その紐は何だね?」
司令席右脇の冬月は初の戦闘指揮に動じていないシンジの剛胆さを感心しつつ、司令席左脇の天井から垂らされた荒縄を怪訝顔で指さして尋ねる。
「・・・知りたいですか?」
「んっ!?まあな・・・。」
「その時が来れば解りますよ」
しかし、シンジはサングラスを押し上げ、ニヤリと笑うだけで多くは語らなかった。
『長々距離射撃用意っ!!零、初号機は起動準備を急いでっ!!!・・・弐号機、発進っ!!!!』
「了解っ!!エヴァ弐号機、発進しますっ!!!」
エントリープラグ内の通信ウィンドウに映るミサトの命令を受け、アスカはご機嫌に笑うと弐号機をカタパルトから射出させた。
『おっ!?アスカ、やけに燃えているじゃない?』
「まぁ~~ね♪」
『もうすぐ、みんなも駈けつけるから頑張ってね』
「ふふん♪あんな奴、あたし1人でもお茶の子さいさいよ♪♪」
1週間ぶりの再会に加え、その久しく見る心の底からの笑顔にちょっと驚き、ミサトもまた自然と表情に笑みを浮かばせる。
(せっかく、シンジから貰ったリーダーだけど・・・。そんなのあんたにくれてやるわ♪ファースト♪♪
何て言ったて・・・。子供を生むとなったら、チルドレンなんてやってられないしね♪
そう、これが最後の戦い・・・。ママと一緒に頑張りまちょうねぇぇ~~~♪あそこでパパも見てまちゅよぉぉぉ~~~~♪♪)
アスカは射出時のGに一抹の不安を感じ、左手で下腹を守る様に撫でながら、右手で通信ウィンドウに映る司令席のシンジへ向けて手を振った。
(う゛っ・・・。せ、せっかく、忘れようと思っていたのに・・・・・・。)
アスカの下腹を撫でるリアクションに、シンジは無理矢理に忘れていたアスカ妊娠疑惑を思い出し、顔を引きつらせて汗をダラダラと流し始める。
「んっ!?・・・どうしたんだ?シンジ君」
「い、いえ・・・。な、何でもありません」
「・・・そうか?なら、良いのだが・・・・・・。」
豹変したシンジの様子を怪訝に思って尋ねるが、シンジは何度もサングラスを押し上げて多くは語らず、冬月はますます怪訝そうに首を傾げた。
「先輩っ!!これ、見て下さいっ!!!」
しかし、下から聞こえてきたマヤの驚き声に思考を中断させられ、冬月は何事かと視線を下のフロアに向ける。
「・・・信じられないわね。今朝まであったハーモニクスの揺らぎがまるでないじゃない」
「それだけじゃありません。シンクロ率も94.6%・・・。アスカちゃんの最高記録を8%も上回っています」
リツコはマヤのディスプレイを覗き込んで驚愕に目を見開き、マヤの解説を聞きながらモニターに映るご機嫌なアスカへ視線を向ける。
(一体、アスカに何が・・・。でも、これもシンジ君が関わっているんでしょうね。きっと・・・。
だけど、それならあの焦り様は何なの?・・・シンジ君とアスカ。この2人に何があったと言うの・・・・・・。)
続いて、司令席を見上げて冬月同様にシンジの様子を怪訝に思った後、リツコは再びマヤのディスプレイへ視線を戻してマヤの耳へ口を近づけた。
「・・・それはそうと、アレの用意も済んでいるの?マヤ」
「はい・・・。しかし、本当に出すんですか?アレはデーターから言っても、とてもじゃないですけど・・・。」
リツコはミサトと日向へ聞こえぬ様に声を潜めて囁き、マヤもリツコの言葉に難色を示しながら囁き返す。
「解っているわ。・・・でも、これは司令代理の指示なの」
「シンジ君・・・。いえ、司令代理のですか?」
「そうよ。だから、司令代理から指示が出たら、ミサトが何を言っても構わず射出して良いわ」
「・・・解りました」
だが、リツコはマヤの言葉を遮って拒否を許さず、マヤは司令席をチラリと一瞥して俯きながら心苦しそうに頷いた。
(相変わらず、人前で裸になるのは馴染めません。どうして、皆さんは躊躇いもなく裸になれるのでしょう?)
緊張感が漂うチルドレン女子更衣室、残すは最後のショーツ1枚となったマユミは、人目を気にしつつショーツを脱ぐタイミングを見定めていた。
「ヒカリさん、どうしたんですか?」
その際、ブラジャーのホックを外すのに悪戦苦闘しているヒカリを見つけ、マユミは自分だけが緊張しているのではないと知って頬を緩める。
「なんか、緊張しちゃって・・・。指が震えて、上手く外れないの・・・・・・。」
「でも、アスカさんがもう出ているそうですから、ヒカリさんは待機なのでは?」
「うん、そう思うんだけど・・・。あっ!?ありがとう」
「いいえ、どう致しまして・・・。怖いのは、みんな一緒ですよ」
そして、苦笑を振り向かせたヒカリの背後に立ち、マユミはブラジャーのホックを外してあげると、ヒカリを落ち着かせる様に優しく微笑んだ。
「ごめんなさい・・・。そうよね。私より、山岸さんや霧島さんの方が・・・って、どうしたの?霧島さん」
勇気づけられたヒカリは、お返しにマユミとマナを勇気づけようとするが、マユミの肩越しにあったマナの険しい表情に言葉を止める。
「・・・マユミ」
「はい、何ですか?」
だが、マナはヒカリに呼ばれたにも関わらず無視してマユミを呼び、マユミは右手で胸を軽く抱き隠しつつ振り返った。
「これは何?・・・今朝の着替えの時は無かったよね?」
「えっ!?」
するとマナは低い声を出しながら睨んでマユミを指さし、マユミが何だろうとマナが指し示す己の左首筋辺りへ視線を向けた途端。
「あっ!!?こ、これは・・・。そ、その・・・。え、えっと・・・。そ、そうっ!!む、虫に刺されたんですっ!!!は、はいっ!!!!」
マユミは目をハッと見開きつつ、そこにあった謎の内出血後を慌てて右手で隠し、何やら焦った様子で謎の内出血後の由来を必死に説明し始める。
「そう、そうだったんだ。今朝、ネルフを出るまで一緒だったのに、いつの間にか居なくなって変だ、変だと思ったら・・・。
マユミっ!!あなた、学校をサボってシンジと会っていたわねっ!!?忘れ物を取りに家へ帰ったって言うの嘘なんでしょっ!!!?」
その様子に予想を確信に深め、マナは鋭い睨みを放って怒鳴りながら、改めてマユミの顔を勢い良くビシッと指さした。
「「っ!?」」
同時にマナの言葉に反応して、成り行きを見守っていたヒカリが表情を凍りつかせ、1人黙々とプラグスーツへ着替えていたレイも動きを止める。
ちなみに、レイとマナは既に全裸となっており、あとはプラグスーツを着るだけの状態。
「・・・ち、違いますよ。な、何を根拠にそんな出鱈目を・・・・・・。」
「証拠なら、ここにあるわっ!!」
一拍の間の後、マユミは冷や汗をダラダラと流しつつマナの言葉を否定しようとするが、マナはマユミの言葉を遮って己の左首筋辺りを指さした。
「ほら、ここっ!!ここに必ずキスマークを付けるのが、シンジの癖だもんっ!!!」
「あ、あうっ・・・。」
全く同じ位置にある謎の内出血後と言う確かな証拠を突き付けられ、マユミは言い訳を封じられて言葉に詰まる。
「さあ、マユミ・・・。覚悟は良いかしら?」
ポキッ!!ポキポキポキッ!!!
「はうっ!?マ、マナさん・・・。い、今はこんな事で争っている場合では・・・。」
マナは両手の指関節の骨を鳴らしてニヤリと笑い、マユミは剥き出しになったマナの殺意に身の危険を感じて一歩後退。
「そう・・・。そうなのね」
「はうっ!?はうはうっ!!?あ、綾波さんまで・・・・・・。そ、そのロープで何をしようと言うのですか?」
その上、マナの背後にいるレイからも殺意を向けられ、マユミは戦慄にブルルッと震え、ちょっぴりショーツに嫌な湿りを感じつつ更に一歩後退。
「・・・知りたい?」
「い、いえ、知りたくないですっ!!は、はい、知りたくありませんっ!!!え、ええ、これっぽっちもっ!!!!」
荒縄を構えるレイはマユミの問いにクスリと笑って応え、たまらずマユミは歩み寄ってくる殺人鬼2人から更に更に後ずさる。
「・・・って、ヒ、ヒカリさんっ!?な、何をっ!!?」
「ち、違うのよっ!!ち、違うんだからっ!!!
こ、これは委員長としてっ!!そ、そう、委員長としてなのっ!!!や、やっぱり、学校をサボったのは委員長として見逃せないわっ!!!!」
(あうあう・・・。ぜ、絶体絶命です・・・。シ、シンジ君・・・。シ、シンジ君、助けて下さい・・・・・・。)
しかし、背後からヒカリに羽交い締められて退路を断たれ、マユミが心の中で涙をルルルーと流しながらシンジへ助けを求めたその時。
『零号機、初号機の発進準備完了。ファーストは零号機、シクスは初号機への搭乗を急げ。
フォース、エィトスは係員の指示に従って移動。セブンス、ナインスはパイロットルームにて待機。繰り返す・・・。』
更衣室に皆を急かす日向のアナウンスが流れ、マユミはこの天の助けにここぞとばかりに皆を必死に急かす。
「ほ、ほらっ!!み、皆さんっ!!!い、急がないとっ!!!!」
「「ちっ・・・。」」
「はっ!?」
レイとマナは舌打ってマユミへの制裁を諦め、ヒカリは我に帰ったかの様に力を緩め、マユミを羽交い締めから解放する。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
再び更衣室に静寂と緊張感が満ち始め、4人の戦乙女達が黙々と戦い衣装であるプラグスーツへと着替えてゆく。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
プシューー・・・。
静寂の中、いち早く着替え終わったマナが、左手首にあるボタンを押し、圧縮空気の音を響かせながらレイへ顔を向けた。
「ねえ、綾波さん」
プシューー・・・。
「・・・なに?」
続いて、着替え終わったレイも圧縮空気の音を響かせ、マナの呼び声に声だけで応えつつ、脱ぎ捨てた制服をロッカーへ放りしまってゆく。
「私、来たばっかりで良く解らないんだけど・・・。シンクロ率って、高い方が良いんだよね?」
「ええ、そうよ」
「それなら、なんで私じゃなくてマユミなんだろう?
それに1週間や2週間の差なら・・・。一応、これでも戦自で訓練もしていたし、私の方が断然に良いと思うんだけどな」
マナは怪訝そうに腕を組んで問い、レイから返ってきた短い応えに、今回の人選についての疑問を感じ、首を傾げて誰へともとなく問い呟いた。
「・・・愛の差では?」
「それ・・・。どういう意味?」
皆に肌を見られまいと着替えを急いでいたマユミは、その問いを無意識的に応え、マナの目が瞬時にしてスッと細まる。
「恐らく、これはきっとシンジ君がマナさんより私を選んだ証拠ですね」
「へぇぇ~~~・・・。誰が誰より誰を選んだって?」
そうとも気付かず、マユミは嬉しそうにクスリと笑い、マナが更に目を細めて声を低くさせ、マユミの言葉を再確認しようと尋ねた。
「だから、シンジ君がマナさんより私を・・・って、はっ!?」
応えてマユミはマナへ視線を向け、そこにあった笑顔であって笑顔でない笑顔に戦慄し、己の失言に気付いて冷たい汗を背筋にタラ~リと流す。
「ねえ、マユミぃ~~?誰が誰より誰を選んだってぇぇ~~~?」
「そ、そんな事よりもっ!!い、今は早く着替えなくてはっ!!!」
マナはニコニコと笑いながら手を翳した耳をマユミへ近づけ、マユミが恐怖から逃れるべく少しでもマナとの距離を取ろうと身を傾けた次の瞬間。
「えっ!?あっ!!?・・・キャっ!!!?」
プラグスーツへ右足を入れ終わり、左足を入れている最中で片足立ちだったマユミは体勢を崩し、踏ん張るも健闘空しく前のめりに倒れてゆく。
ガンッ!!ギィ・・・。バタンっ!!!
「い、痛いですぅ~~・・・。」
その結果、マユミは目の前にあった己のロッカーの中へすっぽりと入り込み、倒れ入った衝撃でロッカーが揺れ、開いていた扉が勢い良く閉まる。
「ね、ねえ・・・。こ、こんなんで本当に大丈夫だと思う?」
「・・・さ、さあ?わ、私の口からはちょっと・・・。」
正に棺桶状態なマユミに凄まじい凶兆を感じ、マナとヒカリは思いっ切り顔を引きつらせて大粒の汗をタラ~リと流す。
「先、行くから・・・。(許せない・・・。許せない・・・。許せない・・・。碇君の側に居て良いのは私だけ・・・・・・。
でも、問題ないわ・・・。戦闘になれば、死人が出るのは当たり前だもの。不慮の事故・・・。この際、セカンドも・・・・・・。)」
一方、レイはこれから始まる戦いに危険な闘志を燃やし、間抜けなマユミなど見捨ててニヤリと笑いながら更衣室を出て行った。
ザーーー・・・。
ブーー、ブーーッ!!
ザーーー・・・。
ブーー、ブーーッ!!
ザーーー・・・。
ブーー、ブーーッ!!
夕立が降りしきる静かな街に響く雨音と警報。
ウィーーーン・・・。ガシャンッ!!
弐号機の足下にある武器発射口のシャッターが開き、弐号機が勢い良く飛び出てきたポジトロン・ライフル改を掴む。
ちなみにポジトロン・ライフル改とは、通常のポジトロン・ライフルに望遠スコープと追加銃身を取り付け、射程を飛躍的に伸ばした物である。
「祝砲って言うか、ウエディングベル?
その上、エヴァが福音、使徒が天使・・・。これだけ揃えば、正にあたし達の明るい未来を祝福しているって感じよね」
弐号機はポジトロンライフル改を天空へと向けて構え、狙撃用ヘッドギアを被るアスカは妖しく笑うと舌で乾いた唇を舐めた。
ザーーー・・・。
ピピピピピ・・・。
ザーーー・・・。
ピピピピピ・・・。
ザーーー・・・。
ピピピピピ・・・。
だが、ヘッドギア内の照準である丸と三角のマークは使徒の周囲を忙しなくグルグルと回るだけで一向に定まらない。
ザーーー・・・。
ピピピピピ・・・。
ザーーー・・・。
ピピピピピ・・・。
ザーーー・・・。
ピピピピピ・・・。
そんな状態が約1分ほど続き、アスカが止む事のない耳障りな照準セット音に苛立ち始める。
「もうっ!!さっさとこっちに来なさいよっ!!!焦れったいわねっ!!!!」
『目標、未だ射程距離外です』
そして、更に1分が過ぎ、青葉の報告と共に2つのマークが次第に周回軌道を狭め、ようやく照準が定まりかけたその時。
「っ!?」
ヘッドギア内モニターの中央に輝く使徒を表す小さな点が、一瞬にしてヘッドギア内一杯に広がり、強烈な閃光でアスカの網膜を焼き付かせた。
ブーー、ブーー、ブーーッ!!
発令所のあらゆるモニターに『警報』の文字が点滅して溢れ、けたたましく警報が鳴り響く。
「敵の視光性兵器なのっ!?」
天空の使徒から放たれた一条の光は、地上の弐号機へと降り注いで輝きに包み、ミサトがモニターを凝視したまま慌てて報告を求める。
「いえっ!!熱エネルギー、反応なしっ!!!」
「心理グラフが乱れていますっ!!パイロットへの精神汚染が始まりますっ!!!」
すかさず左手の青葉がディスプレイの平穏を振り返って叫び、右手のマヤがディスプレイで激しく波打つアスカの脳波計の凶報を振り返って叫ぶ。
「使徒が心理攻撃を・・・。まさか、使徒に人の心が理解できると言うの?」
リツコはモニターからマヤのディスプレイへ刹那だけ視線を向けた後、モニターへ視線を戻して驚愕と茫然を入れ混ぜて呟いた。
『こんちくしょぉぉぉぉぉ~~~~~~っ!!』
ドキューーンッ!!ドキューーンッ!!!
弐号機は苦しそうにヨロヨロと後ずさりながら、アスカの痛々しい叫びと共に、ポジトロン・ライフル改を使徒目がけて続けざまに放つ。
ギュィィーーーン・・・。
しかし、雨雲を貫いて天空へ放たれた2発の光弾は、使徒に迫るも地球自転に引かれ、一歩手前のところで地上へと落下してゆく。
「陽電子、消滅っ!!」
「ダメですっ!!射程距離外ですっ!!!」
日向と青葉の報告を聞きながら、モニターを見つめて腕を組むミサトは、焦りと苛立ちに力を込めて指をジャケットに食い込ませた。
「あっ!!ああっ!!!あぁぁ~~~っ!!!!」
焼き付いた目を両手で覆い、肩を震わせながら頭の中で蛇がのたうつ様な何とも形容し難い苦痛を必死に耐えるアスカ。
ドキューーンッ!!ドキューーンッ!!!ドキューーンッ!!!!
この苦しみから逃れんべくアスカの心が吼え、弐号機がポジトロン・ライフル改の引き金を連続で引き、発射の反動で後方へと後ずさって行く。
ちなみに、アスカの手はレバーから離れているが、元々レバーはシンクロイメージを助ける物の為、本来はレバーを触れずとも弐号機は動かせる。
ドガンッ!!
ドガァァーーーンッ!!
ドガンッ!!
ドガァァーーーンッ!!
ドガンッ!!
ドガァァーーーンッ!!
だが、所詮それは苦し紛れの攻撃の上、アスカは目を手で覆っている状態。
その全ての光弾は使徒へ当たるどころか、第三新東京市のビル群や箱根の山々に命中して二次被害の爆発炎上を起こす。
ドガンッ!!
ドガァァーーーンッ!!
ドガンッ!!
ドガァァーーーンッ!!
ドガンッ!!
ドガァァーーーンッ!!
しかも、使徒から放たれている光は後ずさる弐号機を追いかけて放さない。
カチャ、カチャ、カチャ、カチャ・・・。
そして、遂に砲身からは光弾が発射されなくなり、引き金を引く虚しい音だけが響き、弐号機は頭と肩と腕を力無くダラリと垂れて動きを止めた。
「弐号機っ!!ライフル、残弾ゼロっ!!!」
成すすべを失った絶望的状況にたまらず青葉が叫ぶ。
「光線の分析はっ!?」
「可視波長のエネルギー波ですっ!!ATフィールドに近い物ですが、詳細は不明ですっ!!!」
ミサトは日向のディスプレイを覗き込んで尋ねるが、日向から返ってきた報告はまるで意味を成さない。
「アスカはっ!?」
「危険ですっ!!精神汚染、Yに突入しましたっ!!!」
リツコもまたマヤのディスプレイを覗き込み、そのあまりに酷い有り様を見るに耐えず、思わず目を細めて眉間に皺を刻んだ。
「嫌っ!!あたしの・・・。あたしの中に入って来ないでっ!!!」
アスカの痛みに呼応して、弐号機が頭を抱えながら全身をブルブルと震わせて蹲ってゆく。
ピカッ!!
「痛いっ!!」
すると使徒は放っている光の輝きを一段階増幅させ、蹲っていた弐号機が一気に体を仰け反らせ、両腕をワナワナと震わせて広げる。
ピカッ!!
「ああっ!!」
ピカッ!!
「痛いっ!!」
ピカッ!!
「嫌っ!!」
その様子に気を良くしたのか、使徒は一定間隔で輝きの光量を一段階づつ上げてゆく。
ピカッ!!
「嫌ぁぁ~~~っ!!」
ピカッ!!
「嫌ぁぁぁ~~~~っ!!」
ピカッ!!
「嫌ぁぁぁぁ~~~~~っ!!」
弐号機はその度に蹲りと仰け反りを繰り返し、頭部装甲に隠された弐号機の真の4つ目が何やら徐々に輝き始める。
ピカッ!!
「あたしの心を覗かないでっ!!」
終いには、使徒が放つ強烈な閃光が弐号機の姿を完全に隠し、肉眼で弐号機を確認する事が出来なくなった。
『お願いっ!!お願いだからっ!!!これ以上、心を犯さないでっ!!!!』
その姿は見えずとも、悲痛なまでのアスカの絶叫は発令所へと届き、発令所にいる全ての者が心を震わせながら茫然と手を止めて口を噤む。
「アスカっ!!・・・日向君、零号機と初号機はっ!!?」
発令所が静まり返る中、ミサトだけは指揮官としての責務からか、茫然となるのを堪えて日向へ報告を求めた。
「えっ!?あっ!!?・・・あと62秒っ!!!!」
「30秒で済ませなさいっ!!」
「了解っ!!」
日向は慌てて我に帰ってミサトの指示にキーボードを叩きまくり、同時に発令所全員も我に帰り、停止していた発令所の時が再び刻み始める。
『零号機、ポイントW-36へ射出予定』
『ポジトロン・スナイパーライフルの準備完了』
『初号機の発進準備を急げ』
だが、時が進めば進むほど、マヤのディスプレイに表示されているアスカの脳波計は酷くなってゆき、マヤがやや涙声ながらの報告を叫ぶ。
「心理グラフ限界っ!!」
「精神回路がズタズタにされている・・・。これ以上の過負荷は危険すぎるわ」
マヤのディスプレイを覗き込んでいたリツコは、眉を顰めてミサトの方へ振り向き、2人は顔を見合わせると無言で頷いた。
「アスカ、戻ってっ!!」
『痛いっ!!痛いっ!!!痛ぁぁ~~~いっ!!!!』
「命令よっ!!アスカ、撤退しなさいっ!!!」
『嫌っ!!嫌っ!!!嫌ぁぁ~~~っ!!!!』
「アスカっ!!」
ミサトは声を張り上げ、再三に渡って撤退を命じるが、悶え苦しみ悲鳴をあげるアスカにはミサトの声が届かない。
『嫌っ!!これ以上、あたしの中に入って来ないでっ!!!』
『フフ・・・。何を言うんだい?アスカから誘った癖に・・・。本当に止めても良いの?』
「・・・へっ!?」
するとアスカの絶叫に混じって怪しい囁き声が加わり、ミサトは思わず間抜け顔になって茫然と目が点。
『ダメっ!!ダメっ!!!ダメぇぇ~~~っ!!!』
『何がダメなのかな?ちゃんと言ってくれなければ、僕には解らないよ?』
その聞き覚えのある声色に間抜け顔のまま司令席を見上げ、ミサトはマイクへニヤリと笑いながら囁いているシンジの姿に大口をカクンと開けた。
『お願いだからっ!!私の心を殺さないでっ!!!嫌ぁぁ~~~っ!!!!』
『つまり、死ぬほど気持ちが良いって事だね?』
アスカとシンジの会話に何を想像したかは全くの謎だが、発令所の男性職員は苦笑を浮かべ、女子職員は顔を紅く染めて俯かせる。
『これ以上はダメっ!!ダメっ!!!私が私で無くなっちゃうっ!!!!』
『我慢しなくて良いんだよ。アスカ・・・。思う存分に鳴くが良いさ』
特に潔癖性でうぶなマヤに至っては、両手で紅く染まった顔を覆い、左右に振ってイヤンイヤンしている有り様。
「し、司令代理っ!!せ、戦闘中ですっ!!!ま、真面目にやって下さいっ!!!!」
茫然から立ち直ったミサトも別の意味で顔を俯かせて肩を震わせていたが、遂に堪忍袋の緒が切れ、勢い良く顔を上げてシンジを怒鳴りつけた。
『ほら、ミサトさんも見ているよ?こんなに大きな声を出しちゃって恥ずかしいね。アスカ・・・・・・。』
『嫌っ!!嫌っ!!!嫌ぁぁ~~~っ!!!!』
「シ、シンジ君っ!!い、いい加減にしなさいっ!!!あ、あんた、なに考えてんのよっ!!!!」
しかし、シンジはミサトを一瞥しただけでアスカへの囁きは止めず、ブチ切れたミサトが言葉づかいを素に戻して更にシンジへ怒鳴ったその時。
「無様ね・・・。っ!?し、信じられないっ!!!パ、パイロットの心理グラフが徐々に戻っているわっ!!!?」
「えっ!?」
深い溜息をつこうとしたリツコが、ふとアスカの脳波計の変化に気付いて驚愕に目を見開き、ミサトがリツコの驚き声に反応して顔を向ける。
「し、心理グラフ反転・・・。ピ、ピンクゾーンに突入しました・・・・・・。」
リツコの驚き声に現場復帰を果たしたマヤは、アスカの脳波計が示す意味に顔を真っ赤に染めて言葉をゴニョゴニョと濁す。
「・・・ピンクゾーン?何、それ?」
「そ、それは・・・。そ、その・・・。だ、だから・・・。せ、性的興奮の事ですっ!!な、何を言わすんですかっ!!!キャっ!!!!」
ミサトはマヤの報告の意味が解らず不思議顔を浮かべ、マヤは問われて口ごもった後、意を決した様に単語の意味を叫んでイヤンイヤンを再開。
『だから、何が嫌なのさ。こんなにさせちゃって・・・。やっぱり、アスカはHだね』
『嫌ぁ~~っ!!馬鹿、馬鹿っ!!!シンジの意地悪ぅぅ~~~っ!!!!』
そうこうしている内に、半狂乱気味に叫んでいたアスカが、次第にリツコとマヤの言葉を証明するかの様にシンジの言葉に反応し始めた。
「せ、性的興奮って・・・。(シ、シンジ君・・・。ア、アスカ・・・。あ、あなた達、いつの間に・・・・・・。)」
シンジとアスカの会話、マヤの解説、アスカの反応の変化から、ミサトは2人が知らぬ内に深い仲となっている事を確信して驚愕に目を見開く。
「なるほど・・・。つまり、精神攻撃には精神攻撃で対抗する。これは単純な様で意外な盲点だわ」
「へっ!?そ、それじゃあ・・・。ひょ、ひょっとして、今の卑わいな会話は?」
リツコはミサトとは違う確信を抱いて感心した様に司令席を見上げ、ミサトもまたリツコの言葉にまさかと言う思いを抱きつつ司令席を見上げる。
「葛城三佐・・・。」
「は、はいっ!!」
シンジはリツコへ無言で頷いた後、ミサトを睨んでプレッシャーを放ち、ミサトは思わず背筋をビクンッと震わせて直立不動。
「・・・作戦妨害罪」
「えっ!?そ、それはどういう意味なんで・・・。」
一拍の間の後、シンジはニヤリと笑いながら天井から垂らされた荒縄を引き、ミサトがシンジの言葉の意味が解らず問い返そうとした次の瞬間。
シャコンッ!!
「しょうかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
突如、ミサトの足下の床が左右に素早く開き、足場を失ったミサトは直下に出来た奈落へ落ち、絶叫だけを残して発令所から瞬時に姿を消す。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~・・・。」
ドッポォォォォォーーーーーーンッ・・・。
その絶叫は3秒ほど続いて次第に小さくなった後、奈落の底で何かが何処かへ着水した様な音が発令所へ届く。
シャコンッ!!
「「「「あわわわわわわわわわ・・・。」」」」
そして、何事も無かった様に床が元に戻り、リツコと日向と青葉とマヤはその床を茫然と見つめたまま、ただただ口をパクパクと開閉させる。
「シ、シンジ君・・・。あ、あんな仕掛けをいつ作ったんだね?」
「備え有れば憂い無しですよ。冬月先生」
気になっていた謎がやっと解明されて嬉しいはずが、冬月は顔を引きつらせて汗をダラダラと流し、シンジは冬月の問いにニヤリと笑って応えた。
『加速器、同調スタート』
ビルの屋上にエヴァの体長より長い砲身を固定して足腰を踏みしめ、ポジトロン・スナイパーライフル改を構える零号機。
ちなみに、ポジトロン・スナイパーライフル改とは、ヤシマ作戦時に使用した物をより高性能に改造したヴァージョンアップ版。
それ故、1射分のコストは超檄高だが、先ほど弐号機が使用していたポジトロン・ライフル改と比べ、攻撃力と射程距離は遥かに上回っている。
『電圧上昇中、過圧域へ』
『強制集束機、作動』
失敗を許されない絶対一撃必殺を求められる状況下に、さすがのレイも緊張して頬に1粒の汗をつたわせる。
『地球自転、及び重力誤差修正0.003』
『薬室内、圧力最大』
その汗が顎の先端で止まり、レイが顎を拭いたいのを必死に堪え、レバーを握る両手に力を込めた次の瞬間。
『最終安全装置、解除っ!!全て発射位置っ!!!』
「くうっ!!」
日向から攻撃の合図が入り、レイは発射の反動で零号機が仰け反らぬ様に奥歯をギリリと噛みしめながらレバーのトリガーを引いた。
ドギュュュュューーーーーーンッ!!
同時にポジトロン・スナイパーライフル改の先端より轟音と共に閃光が放たれ、零号機が踏ん張っていたにも関わらず発射の反動で後ずさる。
ギュィィィィィーーーーーンッ・・・。
一瞬にして雨雲を突き抜け、衛星軌道上に達する細長く赤白い一条の閃光。
ギュィィィィィーーーーーンッ!!ギギギギギッ!!!カッキーーーンッ!!!!
だが、光線は使徒が展開したATフィールドに弾かれ、その膨大なエネルギー量を四散させ、地上へ流星となって降り注いで行った。
(・・・やはりね)
期待していなかったと言えば嘘になるが、シンジは予想通りの結果に落胆はせず、ゲンドウポーズで隠した口元を何やらニヤリと歪ませる。
「ダメですっ!!この遠距離でATフィールドを貫くにはエネルギーがまるで足りませんっ!!!」
「しかし、出力は最大ですっ!!もう、これ以上はっ!!!」
ところが、眼下のフロアでは最強の飛び道具が通じないとあって、青葉と日向がキーボードを慌ただしく叩きながら必死の叫び声をあげていた。
「ど、どうなったっ!?」
「「「か、葛城さんっ!?」」」
そこへミサトが駈け現れ、日向と青葉とマヤは一斉に振り返り、何となく予想はしていたものの全身濡れ鼠となっているミサトにビックリ仰天。
「・・・ミ、ミサト。ど、どうしたの?そんなに濡れて・・・・・・。」
「ふっ・・・。知ってはいたけど、LCLって本当に血の味がするのね。今日、初めて知ったわ・・・・・・。
シンジ君、ごめんね。初めてエヴァに乗った時、我慢しろって言ったけど・・・。あれは慣れても、なかなか我慢なんて出来ない代物の様ね」
リツコもまた予想はしていたが、尋ねずにはおれず尋ねると、ミサトは自虐的な笑みを浮かべて応え、果てしなく遠い目をシンジへ向けた。
「ぐっ!!・・・日向君っ!!!私が居ない間にどうなったかを教えてっ!!!!早くっ!!!!!」
シンジはゲンドウポーズをとったままミサトの嫌味に動ぜず、ミサトは悔しそうに唸り、八つ当たり気味に日向を怒鳴って報告を求める。
「は、はいっ!!た、たった今、零号機がスナイパーライフルで攻撃をしましたが、無駄に終わりましたっ!!!
しゅ、出力が最大でもですっ!!し、使徒のATフィールドを貫くには出力が最大である以上、あとは距離を詰めるしかありませんっ!!!」
「そう・・・で、アスカはっ!?」
慌てて日向はミサト不在時の状況を簡潔に説明し、ミサトは取りあえずシンジへの怒りを収めると、説明になかったアスカの状況について問う。
「アスカちゃんは・・・。その・・・。これをお聞き下さい・・・・・・。」
「・・・何?どうしたの?」
日向はその問いに何やら顔を引きつらせて口ごもり、ミサトは差し出されたインカムを怪訝そうに受け取って聞き口を耳へ当てる。
『もうっ・・・。シンジのHぃ~~・・・。そんな事するなら、私だって・・・・・・。
えへへ・・・。どう?ファーストなんかより、よっほど私の方が良いでしょ?シンジの為にサクランボで一生懸命に練習したんだから・・・。』
「な、何よ。こ、これ・・・。せ、精神汚染しちゃったの?」
するとインカムより不気味なくらいクスクスと笑うアスカの声が聞こえ、ミサトも顔を引きつらせながら最悪の事態を想定して恐る恐る尋ねた。
「いえ、有る意味で精神汚染とも言えますが・・・。害は全くなく、一種の夢見状態だそうです。
ですが・・・。聞いての通り、かなり士気に関わりますので・・・。現在、司令代理の指示で弐号機との音声は切ってあります」
日向は首を力無く左右に振ってミサトの推察を否定し、モニターへ視線を移して大粒の汗をタラ~リと流す。
その視線の先には弐号機通信ウィンドウがあり、そこではアスカが何故だか恍惚の表情を浮かべ、己自身を抱いて身をクネクネとくねらせていた。
「そう・・・。なら、あとは使徒をどう攻撃するかね。・・・零号機を空輸、空中から狙撃するか?
・・・いえ、ダメね。接近中に撃たれたらお終い、何よりも準備に時間がかかり過ぎるわ・・・って、そう言えば、初号機はどうなったの?」
釣られてミサトもアスカへ視線を向け、気力が萎えるのを感じつつも気を取り直し、手詰まりの現状を打破すべく腕を組んで考え込む。
「司令代理の指示により、初号機はケイジで待機中です」
「そう・・・。なら、初号機をすぐに発進させてっ!!」
そして、日向から初号機が待機状態にあるとの報告を受け、ミサトは声高らかに初号機発進の号令を発した。
「その必要はありません。初号機は現状のまま待機」
「何故ですっ!?司令代理っ!!?」
しかし、日向が復唱を返すよりも早く、シンジがミサトの号令を封じ込め、ミサトが驚きに目を見開きながら振り返り、司令席を見上げて尋ねる。
「では、お尋ねしますが・・・。初号機を出撃する根拠は?」
「えっ!?」
「出撃させる根拠を聞いているんですよ」
「そ、それは・・・。そ、その・・・・・・。」
応えてシンジはやれやれと溜息をつき、ミサトは問いていたはずが反対に問われて言葉に詰まり、必死に初号機出撃の根拠を探す。
「もし、ただ単に勢いだけで出撃させ、無策のまま行き当たりばったりで対処するつもりなら・・・。
それは相手に隙を与え、こちらに犠牲を生み出すだけ・・・。なら、そんな物は愚の骨頂、当然の事ながら許可は出来ません」
「う゛っ・・・。」
シンジは応えを待つのも無駄だと言わんばかりにミサトの気勢を制して諭し、ミサトは己の考えをズバリと言い当てられて思わず一歩後退。
「そもそも、作戦部の作戦と言う意味は、何が起こるか解らない戦いの前に勝利の確率をあげると言う意味です。・・・・・・違いますか?」
「う゛う゛っ・・・。で、ですが、このままではアスカがっ!!」
その上、シンジから存在意義を疑う言葉をかけられ、ミサトは更に一歩後退しようとするも踏み止まり、アスカの安否を切に訴えて反論した。
「赤木博士・・・。エバァンゲリオン零号機を発進。射出ポイントはそちらに一任します」
「「えっ!?」」
一拍の間の後、シンジはその言葉を待っていたと言わんばかりにニヤリと笑い、ミサトと日向が意味不明なシンジの指示に不思議顔を見合わせる。
「解りました。・・・マヤっ!!」
「了解。エバァ零号機、発進準備」
「続いて、エバァ零号機のデーターをオープン」
「了解。エバァ零号機のデーター閲覧レベルをAABからBBBに変更します」
だが、シンジの指示の意味が解るリツコとマヤは、戦場への新たな戦力投入の作業を慌ただしく始めてゆく。
(遂にアレを出すのか・・・。なら、やっぱり目的はアレだよな?・・・葛城さん、口実に利用されたっスね。司令代理、鬼っス)
更にもう1人、シンジの指示の意味が解る青葉は、その様を横目で眺めながらシンジの思惑を読んでミサトへ同情の視線を向ける。
「ねえ、日向君・・・。レイはあそこにいるよね?」
「・・・はい。レイちゃんはあそこにいます」
「なら・・・。リツコ達は何してんの?」
「・・・さあ、何でしょう?」
一方、シンジの指示の意味が未だ解らないミサトと日向は、リツコとマヤの不可解な行動を半ば茫然と眺め、不思議顔を深めて困惑していた。
ブーー、ブーー、ブーーッ!!
弐号機の1000メートルほど後方で響く警報。
ウィーーーン・・・。ガシャーーンッ!!
数瞬後、警報元の十字路が左右にシャッターを開かせ、台座に固定されたエバァンゲリオン零号機が勢い良く地上へ姿を現す。
「この身に刻まれたナンバーは8っ!!
上から見ても、下から見ても、変わる事のない8っ!!つまり、いかなる者も俺を倒す事は出来ないっ!!!
そして、横から見れば、その意味は無限大っ!!!これ即ち、無限のパワーっ!!!
エィトスチルドレンっ!!相田ケンスケっ!!!無限のパワーで悪を断つ為、お呼びでなくともここに見参っ!!!!」
待望の初出撃でハイテンションなケンスケは、三日三晩を考えに考え抜いた前口上を声高らかに宣言しながら使徒を勢い良くビシッと指さした。
「くっくっくっくっくっ・・・・。なかなか上手い事を言うじゃないか。ケンスケ」
「・・・だ、大丈夫なのか?」
ケンスケの前口上に、シンジはゲンドウポーズの下で含み笑いをあげ、冬月はこんな奴がチルドレンで良いのかと大粒の汗をタラ~リと流す。
「あ、あれ・・・。な、なに?」
ミサトもまた冬月同様に大粒の汗をタラ~リと流していたが、その目は驚きと茫然に大きく見開かれていた。
確かに零号機、初号機、弐号機も戦闘兵器とは思えないカラーリングだが、新たに地上へ現れた巨人のカラーリングはそれ等の比ではない。
何故ならば、胸部は零号機の青、両腕は初号機の紫、両脚は弐号機の赤、頭部は参号機の黒とあまりにカラフルすぎるカラーリング。
しかも、その頭部は何処からどう見ても第13使徒と化してネルフ史に汚点を残した参号機の物なのだがら、ミサトが驚くのも無理はない話。
「だから、エバァ零号機よ」
「何処がよっ!?そりゃぁ~~、零号機に見えなくもないけど・・・。初号機にも、弐号機にも見えるじゃないっ!!!
大体、あの頭は何なのよっ!!あれ、参号機の頭じゃないっ!!!どうして、あんな不吉な物があそこにあるのよっ!!!!」
リツコが誰ともなく呟いたミサトの疑問に応えると、ミサトは茫然から立ち直り、エバァ零号機をビシッと指さして猛烈に怒鳴って問いた。
「当然ね・・・。エヴァ各機の部品を寄せ集めて作ったんだから」
「・・・はぁ?」
リツコは失笑を漏らしながらエバァ零号機のカラフルな色使いを解説するが、ミサトはいまいち意味が解らず再び茫然となって目が点状態。
「そう・・・。廃品を再利用して造り出された究極のコスト削減兵器『改造人間エバァンゲリオン』、その零号機。建造は極秘裏に行われた」
「・・・は、廃品?・・・コ、コスト削減兵器?・・・か、改造人間エヴァンゲリオン零号機?」
ならばとリツコは言葉を補って更なる解説を重ね、ミサトはようやくエバァ零号機がカラフルな色使いをしている理由が解ってビックリ仰天。
余談だが、エバァ零号機の装甲は確かにエヴァ各機の廃品を使用しているが、その内部の生体部品そのものは参号機の物とかなりデンジャラス。
それ故、エバァ零号機の建造はターミナルドグマの極秘区画で行われ、司令部と技術部のごく一部の者達だけしか今までその存在を知らなかった。
また、エバァ初号機は既に存在しており、何を隠そうサイボーグであるトウジのコードネームだったりする。
「いいえ、発音が違うわ。あれはエバァ零号機・・・。エバァのバはハに濁点であって、ウに濁点でないの」
「あっそ・・・・・・って、そんな事より、解ってるのっ!?あれは参号機の頭なのよっ!!?大丈夫なんでしょうねっ!!!?」
更にリツコから発音の間違いを指摘されて呆れ返るも束の間、ミサトは危険性を再び怒鳴り説いてエバァ零号機をビシッと指さした。
「理論上は・・・。でも、近接戦闘は極力避けるべきね。
装甲が中古の上に薄いから見事なくらい役に立たないわ。幸いにして、今回は近接戦闘にならなそうだけど」
「使徒との戦いは近接戦闘がメインなのに・・・。そんな役に立たない物を造ってどうすんのよ?まるっきり、無駄じゃない」
しかし、リツコにエバァ零号機の特性を説かれ、ミサトはその存在意義の無さに差し伸ばしていた人差し指を脱力させてフニャッと萎えさす。
「そうね。私もそう思うわ・・・。だけど、エバァ零号機の建造は司令代理による直々の指示よ」
「えっ!?・・・シンジ君が?」
リツコはミサトの意見に同感だと頷き、ミサトはシンジの真意が解らず振り返って司令席を見上げる。
『葛城三佐、ご指示をお願いしますっ!!』
「ほら、呼んでいるわよ。ミサト」
「ええ・・・。解ってる」
だが、件のパイロットであるケンスケは、発令所との通信ウィンドウを開いて漲るやる気を見せ、瞳に闘志の炎を轟々と燃やしていた。
「惣流を助け、素早く撤退・・・。任務了解」
ミサトから伝えられた弐号機救出作戦を再確認して頷き、ケンスケが眼鏡をキラリーンと輝かせた次の瞬間。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~っ!!
これぞ、必殺っ!!無限走りぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!」
ケンスケは意味もなく雄叫びをあげ、エバァ零号機が弐号機へ向かって怒濤の勢いで駈け出す。
「そして、これがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~っ!!
超必殺っ!!無限スーパーキャッチぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!」
そして、弐号機まであと100メートルほどに迫り、エバァ零号機が素早く弐号機を抱き抱えて逃走する為に両手を広げようとしたその時。
ガシ、ガシ、ガシ、ガシ、ガシ、ガシ、ガシ、ガシッ・・・。ガッ!!
「・・・えっ!?」
突如、エバァ零号機がケンスケの意に反して大地を踏み切り、胸を反りながら天高く舞い、助走の勢いで弐号機の頭上を通り越してゆく。
「な、なにっ!?」
ドッシィィーーーンッ!!
するとエバァ零号機は反らしていた胸を蹲らせて空中制動体勢を取り、弐号機の目の前へ立ち塞がる様に轟音を響かせて着地した。
「うおっ!?うぎゃっ!!?のひょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~っ!!!?」
その結果、使徒が放つ閃光をエバァ零号機が全て受ける形となり、ケンスケは使徒の心理攻撃に心をザクザクと切り裂かれて奇声をあげまくる。
「違うっ!!違うっ!!!違うんだぁぁぁぁぁ~~~~~~っ!!!!
俺の話を聞いてくれっ!!あれは不可抗力なんだっ!!!誤解なんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~っ!!!!」
だが、ケンスケは涙をルルルーと流しながらも心の痛みを必死に耐え、勇猛果敢にエバァ零号機の両腕を広げさせ、弐号機を精一杯に守り庇う。
「やんっ・・・。もうダメぇ~~・・・。こら、ダメだってば・・・。んんっ・・・。もう、仕方ないわね・・・・・・。
えっ!?やだ、違うわよ・・・。それはそうだけど・・・。あたしをこんな風にしたのはシンジでしょ・・・。きゃんっ・・・・・・。」
おかげで、完全に弐号機はエバァ零号機の影に隠れる形となって難を逃れるも、パイロットのアスカは未だ意識を何処かへ飛ばせちゃっていた。
「相田君、撤退よっ!!早く戻ってっ!!!」
『無限っ!!無限っ!!!無げぇぇ~~~んっ!!!!』
「聞こえないのっ!!相田君、撤退しなさいっ!!!」
『む、む、む、む、無げぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~~~~~んっ!!』
「相田君っ!!」
ミサトは声を張り上げ、再三に渡って撤退を命じるが、先ほどのアスカ同様に悶え苦しみ奇声をあげるケンスケにはミサトの声が届かない。
ガタッ!!
「さすが無限のパワーっ!!凄いやっ!!!ケンスケっ!!!!
もし、作戦が失敗した場合、これ以上はアスカが危険だから、確実にアスカを助ける為に盾となって時間を稼ごうと言うんだねっ!?」
発令所が絶望色に染まりゆこうとする中、シンジが席を蹴って立ち上がり、半笑いを浮かべながら大声を発令所に響かせる。
(そうなのかしら・・・。
・・・って、そうよね。あれはそんな感じよね・・・・・・。なら、やる事は1つっ!!)
その途端、両腕を広げて立つエバァ零号機の姿がシンジの言葉通りに見え、ミサトはここが正念場だと決意して頷いた。
「司令代理っ!!初号機発進の許可を願いますっ!!!」
「良いでしょう。許可します」
「聞いての通りよっ!!・・・山岸さん、あなたの任務は弐号機の回収。やれるわね?」
『は、はいっ!!』
「日向君っ!!零号機の第2射を用意っ!!!リミッターを外して、限界までエネルギーを引き上げなさいっ!!!!」
「しかし、それでは砲身が保ちませんよっ!?」
「どのみち、このままでも負けるわっ!!構わないからやってっ!!!・・・青葉君は誤差修正を急いでっ!!!!」
「了解っ!!」
「精神汚染、Yに突入しましたっ!!心理グラフが限界に近づいていますっ!!!」
「あと少しっ!!あと少しだけ頑張ってっ!!!マヤちゃんっ!!!!」
そして、ミサトは指示を矢継ぎ早に飛ばしてゆき、否応なく発令所の士気がケンスケの決意に応えるべく高まってゆく。
「だけど、やるわね。相田君・・・。私、彼の事を誤解していたわ」
「ええ、僕もです。てっきり、エヴァへの憧れと意欲はあるけど、戦いを甘く見ているとばかり思っていました」
全ての指示を出し終えて一段落したミサトは、エバァ零号機の勇姿を見つめて褒め称え、日向もエバァ零号機の勇姿を見つめて心を熱くさせる。
「先輩・・・。これを見て下さい」
「・・・っ!?すると彼のあの行動は・・・・・・。」
だが、マヤは浮かない顔で声を潜めてリツコを呼び、リツコはマヤのディスプレイを覗き込み、赤く点滅する『AUTO
PILOT』の文字に目を見開く。
(やっぱり・・・・・・。司令代理、鬼っスっ!!悪魔っスっ!!!容赦ないっスっ!!!!)
その対照的な作戦部陣営と技術部陣営を見比べ、青葉は何かを確信して畏怖の視線をシンジへ無言で向けた。
「シンジ君・・・。それは何だね?」
「冬月先生、戦自のGR計画についての第三次報告書を読みました?」
「んっ!?ああ、一通りは目を通したつもりだが・・・。それがなにかね?」
冬月はシンジの両手に握られているゲーム機のコントローラーの様な物について尋ねるが、シンジに全く見当違いな事を反対に尋ねられて戸惑う。
「どうやら、遠隔操作システムではあちらの方が一日の長がある様ですね」
「まあ、エヴァは生体兵器だからな。遠隔操作はなかなか難しいだろう」
「そうなんですよね。・・・ですが、エバァ零号機は違います。関節各所に機械部品を組み込んでいますからね」
「ま、まさかっ!?・・・い、いかん。い、いかんよ・・・。シ、シンジ君、す、すぐに止めたまえ・・・・・・。」
しかし、シンジと言葉を重ねる内に、その正体を知って戦慄と驚愕に目を見開き、冬月はシンジへコントローラーを放すよう説得する。
つまり、エバァ零号機の勇姿はケンスケの意思によるものではなく、このコントローラーとシンジによって全て強制操作されたものであった。
「あら、冬月先生も解っていたはずですよ♪あれが単なる捨てゴマにしかならないと言う事に♪♪」
「し、しかし、人道的に問題が・・・。や、やはり、いかんよ。こ、こんな事は・・・。い、幾ら何でも・・・。な、なあ?」
するとシンジはサングラスを外し、冬月の心を静めるべくユイの声色でニッコリと微笑むが、冬月は言葉を詰まらせながら尚も難色を示す。
「ひ、酷い・・・。で、では、冬月先生は計画を中断すると、私に逢いたくないと・・・。そ、そう、おっしゃるんですね・・・・・・。」
「ち、違うっ!!そ、それは違うぞっ!!!ユ、ユイ君っ!!!!」
「う、嘘・・・。そ、それなら、どうして反対するんですか・・・。ふ、冬月先生ならきっと解って下さると思っていましたのに・・・・・・。」
「う、うむっ!!そ、そうだなっ!!!だ、大事の為には小事を捨てねばなっ!!!!わ、私はユイ君の計画に大賛成だぞっ!!!!!」
ところが、シンジが顔を俯かせながら肩を震わせて涙声を出し始めた途端、冬月はあっさりと意見を覆してシンジの外道策を諸手上げの大賛成。
「ありがとうございます♪冬月先生ならゲンドウさんと違って、絶対にそうおっしゃって下さると信じていました♪♪」
「いやいや、大した事ではないよ。私は碇とは違うからな。・・・わっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!」
挙げ句の果て、顔を上げたシンジにニッコリ笑顔で煽てられ、冬月は照れ臭そうに頭を掻きつつ、ご機嫌な高笑いを発令所の隅々まで響き渡らす。
「副司令・・・。どうしちゃったのかしら?」
「・・・さあ?」
ミサトと日向は冬月のご乱心ぶりに茫然と目が点になって司令席を見上げ、発令所の全員も同様に思わず茫然と目が点になって司令席を見上げた。
『どうしたんですかっ!?弐号機の回収は終わりましたよっ!!?早く降ろして下さいっ!!!!』
「えっ!?」
不意にマユミの切羽詰まった怒鳴り声の報告が入り、ミサトは我に帰りながら正面へ振り向き戻ってビックリ仰天。
何故ならば、冬月の高笑いに茫然としている内に、初号機が弐号機救出任務を終え、弐号機と共にジオフロントへの回収を待っていたからである。
「あっ!?・・・さ、下げてっ!!!」
「は、はいっ!!」
ミサトは慌てて指示を飛ばし、日向も慌ててキーボードを叩き、初号機と弐号機が乗るリフトがジオフロントへと素早く降ろされてゆく。
『止めろぉぉ~~~っ!!止めてくれぇぇぇ~~~~っ!!!そんな目で俺を見ないでくれぇぇぇぇ~~~~っ!!!!』
「エバァ零号機パイロット、心理グラフシグナル微弱っ!!」
同時に今まで茫然とするあまり耳に入ってこなかったケンスケの絶叫が聞こえ、マヤもまた慌ててケンスケの脳波計に視線を移して報告を叫ぶ。
「LCLの精神防壁は?」
「ダメですっ!!触媒の効果もありませんっ!!!」
リツコの指示を受け、マヤは神速のキータッチでキーボードを叩くが、激しく波打つケンスケの脳波計は揺らぎの勢いが増すばかりで効果なし。
「生命維持を最優先っ!!エヴァからの逆流を防いでっ!!!」
「はいっ!!」
先ほどのアスカ以上の酷い有り様に、さすがのリツコも焦りを表情に浮かべ、マヤは指が悲鳴をあげるのを必死に堪えてキーボードを叩きまくり。
「ライフル加圧器、過負荷で問題発生っ!!」
「何ですってっ!?復旧、発射にかかる時間はっ!!?」
「少なく見積もって・・・。あと90秒はかかりますっ!!」
「只でさえ、余裕がないって言うのにっ!!」
その上、悪い事は更に続き、日向が零号機のポジトロン・スナイパーライフル改の不調を知らせ、ミサトがやり場のない苛立ちに唇を噛む。
「・・・彼、そんなに長く保たないわよ」
「司令代理っ!!先ほどの囁き作戦をお願いしますっ!!!」
だが、リツコはミサトに苛立っている暇など与えず、ミサトは即座に決断して司令席を見上げ、先ほどアスカを精神攻撃から守った作戦を提案。
「青葉一尉、初号機のシクスと待機中のセブンスとナインスに通信を開いて下さい」
「了解っ!!」
シンジはゲンドウポーズの下にニヤリ笑いを隠して頷き、青葉がシンジの指示にマナとマユミとヒカリの通信ウィンドウをモニターに開いた。
「知っているとは思うけど状況はかなり悪い。・・・そこでこの現状を打破すべく3人には特殊任務を与える」
『『『は、はいっ!!』』』
「これから、僕がケンスケへ色々と話しかけるから、みんなは僕の言葉に続き、正直に思った事をケンスケに言うんだ。
・・・良いかい?これはあくまでケンスケを助ける為の手段だ。だから、決して遠慮はしないで欲しい。・・・・・・解ったね?」
『『・・・えっ!?』』
『それは解ったけど・・・。そんな事してどうするの?シンジ』
いきなり呼ばれ、いきなりシンジから告げられた意味不明な指示にマユミとヒカリが戸惑い、マナが2人の心を代弁するかの様に尋ねる。
「今はそれを説明している暇はない。解ったのなら黙って従うんだ。霧島特務准尉」
『はっ!!申し訳有りませんっ!!!』
しかし、シンジは多くを語らず睨む事でマナの質問を封じ、マナはその気迫に押されて言葉を飲み込み、思わず条件反射的にシンジへ敬礼を返す。
「・・・では、始める」
『『『はいっ!!』』』
それが乗じて戸惑っていたマユミとヒカリも気を引き締め、シンジが作戦開始を告げると、3人は揃ってシンジへ勢い良くビシッと敬礼を返した。
「俺はっ!!俺はっ!!!俺はぁぁぁぁぁ~~~~~~っ!!!!」
抱えた頭を左右に振りながら仰け反りと蹲りを繰り返すケンスケ。
「「「・・・相田君」」」
その発令所のみに明かされていた痛々しい姿を目の当たりにさせられ、マナとマユミとヒカリは直視する事が出来ず目を逸らす。
「ねえ、ケンスケ・・・。女の子達の写真を売るのは反対しないけどさぁ~~・・・。隠れて、パンチラ写真を売るのは反則じゃない?」
「ええっ!?それ、本当っ!!?相田君、そんな事しているのっ!!!?」
「っ!?」
だが、シンジが衝撃の事実を明かした途端、ヒカリが驚愕に見開いた目をケンスケへ戻し、ケンスケが動きをピタリと止めた。
「これが本当なんだな。有る程度、お得意さまになると写真の裏リストがあってね。そこにあるんだよ。パンチラ写真集が・・・・・・。」
「うわっ、最低ぇぇ~~~・・・。」
続いて、シンジの補足説明を受け、マナが心配そうな眼差しを軽蔑の白い眼差しに変えてケンスケへ視線を戻す。
「違うっ!!違うっ!!!あれはっ!!!!あれはっ!!!!!あれはぁぁ~~~っ!!!!!!」
「・・・違う?何が違うのさ。僕に色々と見せてくれたじゃないか。マナや洞木さんのとか・・・。あれ、階段の下から撮った奴だよね?」
するとケンスケは再び仰け反りと蹲りを繰り返し、身の潔白を必死に叫んで証明しようとするが、シンジは追加説明を加えて追い打ちをかける。
「体育館裏で写真を売っているのは知ってたけど・・・。まさか、そんなのまであるなんて・・・・・・。」
「信じられない・・・。裏でそんな事をしておきながら、よく平気な顔をして私達と話せるって感じだよ・・・。マユミもそう思うでしょう?」
「えっ!?あっ!!?は、はい・・・。そ、そうですね・・・・・・。」
ヒカリもまた視線に軽蔑の色を混ぜ始め、マナはケンスケの人間性を疑ってマユミへ同意を求めるも、マユミは困った様に言葉を濁すだけ。
何故ならば、シンジが例にあげたパンチラ写真はマナとヒカリの物だけであり、マユミは被害を被っておらず危機感がいまいち沸かないのである。
「違うっ!!違うっ!!!山岸さん、違うんだっ!!!!俺は、俺は、俺はぁぁぁぁぁ~~~~~~っ!!!!!」
(・・・おや?ケンスケ、ひょっとして山岸さんに・・・。それなら・・・・・・。)
それでも、ケンスケは必死に身の潔白を叫び、シンジはマユミだけに弁解するケンスケに何かを確信してニヤリと笑う。
「そうそう・・・。そう言えば、更衣室の写真もあったね。山岸さんの下着姿なんて、5000円の値が付いていたよ?」
「そ、それ、本当なんですかっ!?シ、シンジ君っ!!?」
そして、シンジはパンチラ写真以上の存在を明かし、マユミが衝撃すぎる事実に驚愕して目を最大に見開いた。
「嘘だっ!!嘘だっ!!!嘘だぁぁぁぁぁ~~~~~~っ!!!!デタラメだぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~っ!!!!!」
その見開かれた瞳を少しでも閉じさせようと、ケンスケが今まで以上に絶叫をあげ、猛烈に抱えた頭を左右に振りまくる。
「本当、本当。・・・確か、上下がお揃いで水色と白のストライプのだったかな?」
「信じられませんっ!!相田君、見損ないましたっ!!!今すぐ、写真のネガを返して下さいっ!!!!」
しかし、シンジは確固たる証拠を突き付け、マユミは家の下着棚内を検索してシンジ指定の下着を見つけ、更に目をこれ以上ないくらい見開いた。
「違うっ!!違うっ!!!違うんだっ!!!!俺が持っているのはオレンジのだぁぁぁぁぁ~~~~~~っ!!!!!」
「あれれ?色は僕の勘違いか・・・・・・。でも、自分から認めちゃったね?下着姿の写真を持っている事をさ」
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
ケンスケは尚も弁解しようとするが、シンジに自爆を指摘され、体を限界まで反らして天を仰ぎ、肺腑から凄まじい爆音を吐き出し吼える。
「ねえ、シンジ。それって・・・。私のもあるの?」
「うん、マナのもあったよ。辛うじて、スカートは履いていたけどね。・・・値段は2000円だったかな?」
「むかっ!!どうして、私がマユミより3000円も安いのよっ!!!断然、私の方がマユミより胸が大きいじゃないっ!!!!」
マナは自分の下着写真もあるのかと心配して尋ねるが、シンジに肯定され、その存在自体よりも自分とマユミの値段差に大憤慨。
「う゛っ・・・。人が気にしている事を・・・。でも、良いんです。私はマナさんよりウエストが細いですからっ!!」
「何よ、それっ!?私が太っているとでも言いたいのっ!!?」
「いいえ、一言もそんな事は言ってませんよ。まあ、確かに胸・・・。だけっ!!・・・は太っている様に見えますが?」
「ふんっ!!ただ単に痩せ過ぎている・・・。だけっ!!・・・で、ウエストが細くてもね。シンジは胸の大っきい方が良いよねぇぇ~~~?」
「世迷い言をっ!!シンジ君は胸なんか気にしませんっ!!!」
「ふ、2人とも・・・。ろ、論点がズレていると思うんだけど・・・・・・。」
それをきっかけに、マナとマユミの言い争いが始まり、ヒカリが顔を引きつらせて大粒の汗をタラ~リと流す。
「・・・・・・・・・。はうっ!?」
一方、忘れられた存在のケンスケは、肺の空気を全て絞り出して声もなく絶叫をあげていたが、不意に頭を力無くガックリと垂れて事切れた。
『エバァ零号機、活動停止っ!!』
『生命維持に問題発生っ!!』
両腕こそ左右に広げられたままだが、その指先を力無くダラリと下げ、瞳の輝きを急速に失ってゆくエバァ零号機
「心理グラフ反転っ!!パイロット危険域、ダークゾーンに突入しましたっ!!!」
そして、マヤが監視するケンスケの脳波計は、全てのグラフ線に波打つ勢いがなくなり、次第にゼロ値を表す直線へと変わってゆく。
「くっくっくっくっくっ・・・。ぎゃ、逆効果だったみたいだね・・・。くっくっくっくっくっ・・・。あっはっはっはっはっはっはっはっ!!」
「シンジ君っ!!なに、ヘラヘラと笑ってんのよっ!!!相田君が大ピンチなのよっ!!!!真面目にやりなさいっ!!!!!」
シンジはその様を眺めて必死に笑いを堪えていたが、遂に耐えきれなくなって大爆笑し始め、ミサトがシンジの不謹慎な態度を怒鳴って叱る。
「だが、この作戦は葛城三佐が提案したと僕は記憶していますが・・・。違いますか?」
「そ、そりゃ・・・。そ、そうだけどさ・・・・・・。」
するとシンジはミサトを睨んでプレッシャーを放ち、ミサトは豹変したシンジの態度に戸惑いながら鋭い指摘に言葉を詰まらせた。
「では、作戦立案者として罰を与える」
「えっ!?・・・はっ!!?」
一拍の間の後、シンジはニヤリと笑いながら天井から垂らされた荒縄を引き、ミサトがその動作を確認するなり慌ててバックステップを跳ぶ。
シャコンッ!!
「ふっ・・・。シンジ君、甘いわよ。私が同じ手を2度も引っかかると思って・・・。」
「どっちが、甘いって?」
その結果、ミサトはいつもの立ち位置に出来た奈落から難を逃れる事に成功するが、シンジが更にニヤリと笑って荒縄を再び引いた次の瞬間。
シャコンッ!!
「いるのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
突如、難を逃れた足下の床が左右に素早く開き、足場を失ったミサトは直下に出来た奈落へ落ち、絶叫だけを残して発令所から瞬時に姿を消す。
「ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~・・・。」
ドッポォォォォォーーーーーーンッ・・・。
「嫌ぁぁ~~~っ!!何よ、これぇぇぇ~~~~っ!!!節足っ!!!?節足っ!!!!?節足動物ぅぅぅぅぅぅ~~~~~~~っ!!!!!?」
その絶叫は3秒ほど続いて次第に小さくなった後、奈落の底で何かが何処かへ着水した様な音とミサトの不思議な絶叫が発令所へ届く。
シャコンッ!!
「「「「あわわわわわわわわわ・・・。」」」」
そして、何事も無かった様に床が元に戻り、リツコと日向と青葉とマヤはその床を茫然と見つめたまま、ただただ口をパクパクと開閉させる。
「シ、シンジ君・・・。か、葛城三佐が変な事を叫んでいた様だが?」
「ええ、どうしたんでしょうね?」
冬月はミサトの最後の絶叫がどうしても気になり、顔を引きつらせて汗をダラダラと流しながら尋ねるが、シンジはただニヤリと笑うだけだった。
バチッ!!バチバチバチッ!!!
極限まで溜められたエネルギーに集束機が悲鳴をあげて火花を散らし、零号機の周辺にはプラズマ発光現象が絶え間なく起こっていた。
『綾波、良いかい?間違いなく撃つと同時にライフルは爆発する・・・。だから、その直後にATフィールドを全開で展開するんだ』
「・・・え、ええ」
そのファンタジックな光景でありながら死と隣り合わせの光景に、さすがのレイもお得意の無表情を崩して不安顔。
『大丈夫。綾波なら出来る・・・。いや、綾波にしか出来ない。だから、頑張って・・・・・・。』
「碇君・・・。」
『・・・やれるね?』
「ええ、やるわ。私・・・。碇君の為に・・・・・・。」
だが、そんなレイの不安を察したシンジに励まされ、レイはシンジから貰った勇気に力強く頷き、シンジへ決意の眼差しを返す。
『ありがとう。・・・日向一尉、カウント開始っ!!』
『了解っ!!最終安全装置解除っ!!!全て、発射位置っ!!!!カウント、10秒前っ!!!!!』
シンジはその眼差しを受けてニッコリと微笑み、日向がシンジの指示にポジトロン・スナイパーライフル改の発射カウントを進めてゆく。
『8・・・。7・・・。6・・・。5・・・。4・・・。3・・・。2・・・。1・・・。撃てっ!!』
「っ!?」
そして、日向のカウントダウンがゼロになった瞬間、レイは目をクワッと見開きながらレバーのトリガーを引いた。
ドギュュュュューーーーーーンッ!!
チュドンッ!!チュドドドドォォォォォーーーーーーーンッ!!!
同時にポジトロン・スナイパーライフル改の先端より轟音と共に閃光が放たれ、集束機の爆発に周囲のプラズマが連鎖爆発を巻き起こす。
ドガッ!!ドガガガガガガガガガッ!!!
「くうっ!?」
オレンジ色の輝きを纏った零号機は爆風に吹き飛ばされ、1キロ後方にあったビルへ叩きつけられ、ビルを破壊しながら瓦礫の中へ埋まってゆく。
ギュィィィィィーーーーーンッ・・・。
一方、一瞬にして雨雲を突き抜け、衛星軌道上に達する極太の赤白い一条の閃光。
ギュィィィィィーーーーーンッ!!ギギギギギッ!!!カッキーーーンッ!!!!
だが、光線は使徒が展開したATフィールドに弾かれ、先ほど同様に膨大なエネルギー量を四散させ、地上へ流星となって降り注いで行った。
「そ、そんな・・・。ば、馬鹿な・・・・・・。」
「・・・あ、あれでもまだダメなのか」
日向と青葉の様に発令所の誰もが驚異的な力を見せつける使徒を茫然と見つめ、発令所に重苦しい悲壮感と絶望感が漂い始める。
(やっぱり、あれを使うしかないか。・・・となれば、ケンスケをこのままにしておけないな)
皆の視線が使徒へ集中している隙を狙い、シンジがエバァ零号機の操縦コントローラーのボタンを全て同時押しした次の瞬間。
ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリッ!!
『ぎょぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!』
エバァ零号機のエントリープラグ内が断続的に激しく発光し、ケンスケがまな板の上の魚の様に体をピチピチと跳ねらせまくる。
(・・・これで起きたかな?)
その悲鳴に皆の視線がケンスケへ集まる寸前、シンジはニヤリと笑ってボタンを放し、エバァ零号機のエントリープラグ内の発光を止めた。
『のほぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~っ!!ぱぷぅぅぅぅぅぅぅ~~~~~~~~っ!!!もげぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~~~っ!!!!』
強制的に意識を覚醒させられたケンスケは、再び使徒の精神攻撃を受け、心への絶え間ない責め地獄に奇妙奇天烈な絶叫をあげまくり。
「・・・パ、パイロット、意識を回復しました」
(いいえ、違うわ。回復したんじゃなくて、回復させられたのよ・・・。どうせなら、寝かせたままにしてあげれば良いのに・・・・・・。)
マヤは己の責務を果たすべく声を震わしながら報告し、リツコはこの不自然すぎるケンスケの覚醒をシンジの所業と悟って深い溜息をつく。
「・・・どうしました?何をボケッとしているんです。まだ戦闘は終わっていませんよ・・・。日向一尉、次の作戦は?」
「は、はい・・・。で、ですが・・・。も、もう・・・・・・。」
一拍の間の後、シンジはマヤの報告を最後に静かとなった発令所に苛立ち、やや怒気を含ませた声で戦闘続行の指示を出して日向へ献策を命じた。
「・・・もう?もう、何ですか?
このまま手をこまねいて見ているだけですか?それがどういう意味かが解っているんですか?何とかしようと言う気はないんですか?」
「そ、それは・・・。」
だが、最強の飛び道具であるポジトロン・スナイパーライフル改が通じないとなれば、日向は策など浮かぶはずもなく辛そうに口ごもる。
『ふまぁぁ~~~っ!!』
『ぶへぇぇ~~~っ!!』
『もほぉぉ~~~っ!!』
『ずれぇぇ~~~っ!!』
『あこぉぉ~~~っ!!』
『ばびぃぃ~~~っ!!』
それっきり、発令所は沈黙してしまい、ケンスケの奇妙奇天烈な絶叫だけが発令所に響く。
『そかぁぁ~~~っ!!』
『でろぉぉ~~~っ!!』
『まにぃぃ~~~っ!!』
『ひなぁぁ~~~っ!!』
『すいぃぃ~~~っ!!』
『おはぁぁ~~~っ!!』
そして、その聞くに耐えない悲痛なまでのケンスケの絶叫に、たまらずマヤが目を伏せて両手で耳を覆うとしたその時。
「目を背けるなっ!!耳を塞ぐなっ!!!顔を上げろっ!!!!
1番苦しいのはケンスケだっ!!お前達ではないっ!!!勘違いするなっ!!!!
自分は安全な場所からただ眺めているにも関わらず、もう成すすべがないから、仕方がないからと言って、ケンスケを見捨てるのかっ!?」
席を蹴って勢い良く立ち上がったシンジの凄まじい怒号が発令所に響き渡り、マヤは恐怖と驚きに体をビクッと震わせて耳を塞ぐ寸前で固まった。
『何故、諦めるっ!!何故、動こうとしないっ!!!何故、どうしたら良いのかを考えようとしないっ!!!!
もし、戦いに犠牲は付きものだとか、人類の為だからとか、下らない事を思っているなら・・・。大間違いだっ!!反吐が出るっ!!!
教えてやろうっ!!僕が戦っていた時は、人類の為なんて、1度たりとも思わなかったっ!!!
やるしかないからやっていたっ!!自分が生き残る為に、自分の好きな人を守る為にっ!!!例え、それが押し付けられた役割でもっ!!!!』
「・・・シンジ君」
シンジの怒号はネルフ施設内全域に響き渡り、発令所への通路を駈け急いでいたミサトは、シンジの心を知って思わず足を止めた。
『そして、それはケンスケも変わらないはずだっ!!だからこそ、あそこで苦しみ抜きっ!!!必死に耐えているっ!!!!
それでも、お前達は自分に与えられた役目を放棄すると言うのかっ!!ケンスケに比べれば、ちっぽけな心の苦しみから逃れる為にっ!!!
そう、あの時の様にっ!!僕が止めろと叫んでいたにも関わらず、父さんの愚考に目を瞑り、参号機に乗るトウジを見捨てた時の様にっ!!!』
「せやったんか・・・。すまん・・・。すまん。シンジ・・・。わしは・・・。わしは・・・。わしはお前を誤解しとった・・・・・・。」
エントリープラグで待機中のトウジは、シンジの言葉にシンジを恨んでいた己を恥じ、感動の熱い涙を止めどなくハラハラと流しまくり。
『それを自覚して尚、まだ目を背けたいのなら・・・。ここから今すぐ出て行けっ!!
父さんの時ならいざ知らず、僕のネルフにそんな役立たずは必要ないっ!!作戦が終わったら辞表を提出しろっ!!!』
「・・・辞表、受け取ってくれるかな?」
「まっ・・・。俺達には関係ない話だな」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「はぁぁぁぁぁ~~~~~~・・・。」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
駿河はシンジの言葉に希望を見出すが、加持に失笑で否定され、特別監査部室に集っていた特別監査部員達が揃って深い深ぁ~~い溜息をつく。
「さあ、どうしたっ!?誰も出て行かないのかっ!!?何も遠慮する事はないんだぞっ!!!!
但し、残るのなら今後は人類の為なんて陳腐な免罪符を捨てろっ!!チルドレンの犠牲の上にお前達が立っていると自覚しろっ!!!」
大演説も終わり、シンジは大声を張り上げて発令所退出者の希望を取るが、誰1人として席を立ち上がる者はいない。
もっとも、こう言われて『はい、そうですか』と発令所を出て行けるはずもなく、もし出来たとしたら、その人物はなかなかのチャレンジャー。
余談だが、戦闘中はネルフ本部施設内に限り、発令所の様子と主モニターの様子が中継されている。
「みんな、ここまで言われて悔しくないのっ!!さあ、シンジ君を見返してやる為にも頑張るのよっ!!!」
「「「か、葛城さんっ!?」」」
そこへミサトが駈け現れ、日向と青葉とマヤは一斉に振り返り、予想外すぎるミサトの姿にビックリ仰天。
何故ならば、全身濡れ鼠となっているミサトの服の各所には、ザリガニが数匹ほど服の布をハサミで挟んで取りついていたからである。
「・・・ミ、ミサト。そ、それは・・・・・・。な、何?」
「ふっ・・・。ザリガニも1匹なら怖くないけど・・・。何百匹も居ると恐怖に値するわね。今晩の夢に出てきそうだわ・・・。
でも、シンジ君・・・。せめて、ロブスターとかにして欲しかったわ。おかげで、体中が生臭いやら、泥臭いやらで仕方がないんだけど?」
リツコもまた予想外すぎるミサトの姿に尋ねずにはおれず尋ねると、ミサトは自虐的な笑みを浮かべて応え、果てしなく遠い目をシンジへ向けた。
「ぐっ!!・・・日向君、状況はっ!!?」
座り直したシンジはゲンドウポーズでミサトの嫌味に動ぜず、ミサトは悔しそうに唸り、八つ当たり気味に日向を怒鳴って報告を求めたその時。
『シンジっ!!わしを出させてくれっ!!!ケンスケの仇を討ちたいんやっ!!!!』
日向が報告を返すよりも早く、モニターに通信ウィンドウが開き、トウジが漲る闘志を瞳にメラメラと燃やして現れた。
「トウジ・・・。ケンスケはまだ死んでいないよ?」
『解っとるがなっ!!例えや、例えっ!!!とにかく、わしに殺らせてくれっ!!!!頼むっ!!!!!この通りやっ!!!!!!』
シンジはトウジの言い草に苦笑を浮かべて宥めようとするが、トウジは闘志を鎮火させるどころか、シンジを拝み倒してまで出撃を頼み込む。
「そう・・・。なら、頼めるかな?」
『おうっ!!わしに任せんかいっ!!!』
その熱意に押されてか、シンジはトウジの出撃を決意して反対に頼み、トウジは意気揚々と拳で胸をドンッと叩いてシンジの要請を受ける。
「OK・・・。綾波、ドグマを降りて槍を使うんだ」
そして、トウジとの通信を切り、シンジがレイとの通信を開いて指示を出した途端。
「あれを使うのかっ!?シンジ君、それはっ!!?」
「冬月先生も解っているんでしょ?ATフィールドが届かない衛星軌道上の目標を倒すには、最早これしか手段が残っていない事に・・・。」
発令所に衝撃と動揺が走り、冬月が慌ててシンジを諫めるが、シンジはニヤリと笑って前言を撤回しようとはしない。
「何をしているんです・・・。急げっ!!」
「しかし、アダムとエヴァの接触はサード・インパクトを引き起こす可能性が・・・。危険ですっ!!司令代理、お止め下さいっ!!!」
それどころか、シンジは堅い意思を見せて動揺に固まる発令所を急かし、たまらずミサトも危険性を説いてシンジを叫び諫める。
確かにネルフが持つ最強の飛び道具はポジトロン・スナイパーライフル改。
だが、真の最強の飛び道具は別にあり、最強の後に最悪の2文字がつく危険な武器でもあった。
それ故、おいそれと使う訳にもいかず、その存在を知る者達の頭からは戦力外として認識されていたのである。
「葛城三佐・・・。」
「はい・・・って、はっ!?」
「か、葛城さん・・・。な、何を・・・・・・・。」
一拍の間の後、シンジはニヤリと笑いながら天井から垂らされた荒縄を引き、ミサトがその動作を確認するなり慌てて日向の膝の上に飛び乗った。
シャコンッ!!シャコンッ!!!
「ふふんっ!!そう何度も何度も同じ手を喰らうもんですかっ!!!どう、シンジ君っ!!!!今回は私の勝ちの様ねっ!!!!!」
「いいえ、僕の勝ちです」
その結果、ミサトは今まで落ちた2つの奈落から難を逃れるが、シンジが更にニヤリと笑って荒縄を再び引いた次の瞬間。
「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
突如、ミサトと日向の足下の床が左右に素早く開き、2人はシートごと直下に出来た奈落へ落ち、絶叫だけを残して発令所から瞬時に姿を消す。
「ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~・・・。」
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~・・・。」
ドッポォォォォォーーーーーーンッ・・・。
「嫌ぁぁ~~~っ!!今度は何ぃぃぃ~~~~っ!!!ヌル、ヌルヌルっ!!!?吸盤、吸盤、吸ばぁぁぁぁぁぁ~~~~~~んっ!!!!!?」
その絶叫は3秒ほど続いて次第に小さくなった後、奈落の底で何かが何処かへ着水した様な音とミサトの不思議な絶叫が発令所へ届く。
ウィィーーーン・・・。
「「「あわわわわわわわわわ・・・。」」」
しばらくして、顔面蒼白な日向だけ座るシートが戻り、リツコと青葉とマヤは日向を茫然と見つめたまま、ただただ口をパクパクと開閉させる。
「シ、シンジ君・・・。も、もしかして、私の下にもアレがあったりするのかね?」
「嫌ですねぇ~~・・・。僕は冬月先生を信じているんですよ?」
冬月は奈落の変幻自在さに自分の足下を心配して、顔を引きつらせて汗をダラダラと流しながら尋ねるが、シンジはただニヤリと笑うだけだった。
『セントラルドグマ、10番から15番まで解放』
『第6マルボルジェ、零号機通過。続いて16番から20番を解放』
厳重に幾層も施された隔壁が次々と開かれ、深い深い縦穴『セントラルドグマ』をワイヤーフックの昇降機に足をかけて降りてゆく零号機。
「まだ早いのではないのか?・・・シンジ君」
「冬月先生、委員会はエヴァシリーズの量産に着手しました。・・・こちらもその気を見せるべきです」
ふと零号機が上を見上げると、零号機を凌ぐ巨大さがあったはずの出入口が、遥か彼方上空で野球のボールほどの大きさになっていた。
「それはそうだが・・・。」
「時計の針は元には戻りません。だが、自ら進める事は出来ます」
長い長い降下の果て、遂に零号機がセントラルドグマ最下層に降り立ち、同時に零号機の様子を映す発令所のモニターと通信が切られる。
「・・・老人達が黙っていないぞ?」
「当然です。それが目的なのですから・・・。しかも、向こうから志願してきたとあれば、これはチャンスです」
だが、零号機は迷う事なく目の前に広がるLCLの湖を突き進み、腰まで浸かる零号機の動きに水面が波打ち、広大な湖面に波が広がってゆく。
「・・・かと言って、彼等の許可なく使うのは面倒だぞ?」
「理由は存在すれば良いんです・・・。それ以上の意味はありませんよ」
やがて、零号機の目の前に巨大な十字架が現れ、2本の赤茶げた槍と黒い槍を胸に深々と刺されて磔られた下半身のない白い巨人が姿を現す。
ちなみに、零号機もLCLに腰まで浸かり、お互いの下半身がない状態にも関わらず、その見た目から白い巨人の体長は零号機の約2倍はある。
「理由?・・・君が欲しいのは口実だろ?」
「ええ、否定はしません・・・。ですが、今必要な物こそがその口実なんです」
零号機は立ち止まり、しばらく感慨深げに白い巨人を見つめた後、白い巨人の胸から黒い槍の方を抜くべく両手を差し伸ばす。
『エバァ零号機のパイロットの脳波、0.06に低下』
『生命維持限界点です』
そして、槍がゆっくりと引き抜かれてゆき、零号機の手に槍先が二股に分かれ、柄が螺旋状に渦を巻いた零号機の体長よりも長い槍が姿を現した。
「零号機、2番を通過。地上に出ます」
青葉の報告と共に、右手に槍を持った零号機が射出口からゆっくりと地上へ姿を現してゆく。
「はぁ・・・。はぁ・・・。あ、あれが・・・。ロ、ロンギヌスの槍・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。」
「「「か、葛城さんっ!?」」」
そこへミサトが息を切らして駈け現れ、日向と青葉とマヤは一斉に振り返り、予想外すぎるミサトの姿にビックリ仰天。
何故ならば、ミサトは頭から墨汁をかぶった様に全身を真っ黒に染めており、何よりも頭の上にウネウネと動くタコを乗せていたからである。
「・・・ミ、ミサト。あ、あれはロンギヌスの槍ではないわ。グ、グングニルの槍よ」
「へっ!?グングニルの槍?何よ、それ・・・。私はそんな武器があるなんて聞いてないわよ?」
リツコもまた予想外すぎるミサトの姿に驚きながらも槍の呼称違いを指摘し、ミサトが記憶にない呼称の槍に首を傾げてリツコの方へ振り返った。
その際、ミサトが首を傾げた上に振り向いたものだから、ミサトの頭の上に乗っていたタコが振り飛ばされ、勢い良く壁に叩きつけられて沈黙。
「当然ね・・・。教えていないんだもの」
「何よ、それぇぇ~~~っ!!私は作戦部長よっ!!!作戦部長っ!!!!あんた、この意味が解ってるのっ!!!!?」
どうしてもタコが気になって気になって仕方がないリツコは、ミサトではなくタコへ視線を向けてミサトの問いに応える。
「勿論、解っているわ。でも、あの槍は司令代理の指示で極秘扱いになっていたのよ」
「うぐっ・・・。また、それかい・・・・・・。」
ミサトは作戦部を蔑ろにする技術部に憤るも、シンジと言う徳政令を出されて押し黙るしかなく、憤りを無理矢理に飲み込んだ。
ウィーーーン・・・。ガシャンッ!!
「よっしゃぁぁ~~~っ!!やったるでっ!!!やったるでぇぇぇ~~~~っ!!!!」
零号機の足下にある武器発射口のシャッターが開き、零号機が勢い良く飛び出てきたエントリープラグに酷似した黒い物体を掴む。
『炸薬、装填完了っ!!・・・零号機、投擲体勢っ!!!』
「おわっ!?なんやっ!!?」
槍の二股部分へエントリープラグに酷似した黒い物体を填め込み、青葉の指示を受け、零号機は槍を右後方へ引いて使徒に対して構える。
『目標確認っ!!誤差修正良しっ!!!』
『カウントダウン入りますっ!!10秒前っ!!!』
「なんや、これっ!?なんや、これっ!!?なんや、これっ!!!?動かへんでっ!!!!?どういう、こっちゃっ!!!!!?」
続いて、日向の報告が入り、零号機がマヤのカウントダウンに槍を更に後方へ引く。
『8・・・。7・・・。6・・・。5・・・。4・・・。3・・・。2・・・。1・・・。』
「おい、シンジっ!?どうなっとるんやっ!!?故障なんかっ!!!?」
目一杯に引いた腕の筋肉をギリギリと鳴らし、溜められた力に腕をブルブルと震わし、大地をしっかりと踏みしめて解放の時を待つ零号機。
『ゼロっ!!』
ガシンッ、ガシンッ、ガシンッ、ガシンッ!!
「・・・って、おわっ!?おわっ!!?おわっ!!!?なんや、むっちゃ揺れとるでっ!!!!?」
そして、遂にマヤが解放の時を告げた瞬間、零号機は数歩の助走の後、槍を遥か天空の先にいる使徒めがけて思いっ切り投げつけた。
ウォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
「なんやっ!?なんやっ!!?なんやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!?」
柄の螺旋形状が唸り声の様な風斬る音を鳴らし、槍は雲と天を切り裂きながら凄まじいスピードで使徒へと迫ってゆく。
ウォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
「お
おうっ!?あの光っとる鳥、こっちへ近づいてくるでっ!!?シンジ、どないしたらええんやっ!!!?」
瞬時にして衛星軌道上まで達した槍が、使徒まであと一歩と迫った次の瞬間。
ウォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
「・・・って、ちゃうっ!!わしが近づいとるんやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
槍先に填め込まれたエントリープラグに酷似した黒い物体より強烈なオレンジ色の閃光が放たれた。
カッキィィィィィーーーーーーンッ!!
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
それが早いか遅いか、使徒もまたオレンジ色の閃光を放ち、槍前面へ八角形の光の壁を形成させる。
ザク、ザクッ!!ウォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
だが、槍は壁と使徒を紙の如く貫き、あれほどネルフを苦しめた使徒は、あっけないほど一瞬にして殲滅された。
「槍はどうなった?」
すかさず冬月が司令フロアの手すりから身を乗り出して尋ねる。
「第一宇宙速度を突破。現在、衛星軌道上を周回・・・。落下予想地点はアフリカ大陸中央部かと思われます」
「そうか・・・。ならば、南アフリカ支部に報告して回収を急がせろ」
青葉はキーボードを叩いて槍の行方を追い、冬月が青葉の報告に胸をホッと撫で下ろしたその時。
ブーー、ブーー、ブーーッ!!
「何だっ!?どうしたっ!!?」
戦いは終わったはずなのに警報がけたたましく鳴り響き、冬月が再び司令フロアの手すりから身を乗り出して尋ねる。
「エバァ零号機から微弱なパターン青を検出っ!!MAGIは判断を保留していますっ!!!」
「活動停止信号を発信っ!!エントリープラグを強制射出っ!!!」
すると青葉から信じられない報告が返され、すぐさまミサトが考えるよりも早く指示を出す。
「了解っ!!・・・・・・ダメですっ!!!停止信号、及びプラグ排出コード、認識しませんっ!!!!」
「日向君、パイロットはっ!?」
「呼吸、心拍の反応はありますが、恐らくは・・・。」
「・・・何て事なの」
しかし、マヤが幾らキーボードを叩こうともエバァ零号機の反応はない上、日向から絶望の報告を返され、ミサトが愕然と目を最大に見開く。
ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!
「エバァンゲリオン零号機は現時刻を持って破棄。目標を第13使徒と識別する」
雄叫びをあげて暴れまくり、ビルを破壊するエバァ零号機の姿に誰もが茫然とする中、シンジが静まり返った発令所に重々しい声を響かせた。
「「「「し、しかしっ!!」」」」
「青葉一尉、初号機との通信を開いて下さい」
「りょ、了解・・・。」
ミサトと日向と青葉とマヤがその非情な決断に驚いて司令席を見上げるが、シンジは怯まず睨み返し、青葉がシンジに気圧されて指示に従う。
「山岸さん・・・。君が目標を撃破するんだ」
『えっ!?で、でも・・・。あ、あれには相田君が・・・・・・。』
シンジは開かれた通信ウィンドウに映るマユミへエバァ零号機の殲滅を命じるが、マユミはシンジの冷酷な命令に戸惑いを隠せず難色を示す。
「そう、山岸さんの言う通り・・・。目標には山岸さんの下着姿を隠し撮りしたケンスケが乗っている。
でも、安心して・・・。エントリープラグを破壊しない限り、山岸さんの下着姿を隠し撮りしたケンスケに危険はない。
それどころか、山岸さんがそうやって悩んでいる時間だけ、山岸さんの下着姿を隠し撮りしたケンスケは苦しむ事になる。
さあ、山岸さんの下着姿を隠し撮りしたケンスケを助ける為にも出撃するんだ。大丈夫、君なら出来る・・・・・・。山岸さん、やれるね?」
『はいっ!!頑張りますっ!!!』
だが、シンジが殊更ケンスケの盗撮写真を強調して説くと、マユミは俄然やる気を見せてシンジの命令を承諾した。
「葛城三佐、初号機を発進させて下さい」
「はい。・・・初号機発進っ!!」
「了解っ!!初号機を発進させますっ!!!」
シンジは満足そうに頷き、ミサトはシンジのお許しに初号機発進の指示を出し、日向がキーボードを叩いて初号機を地上へと射出させる。
「零号機はバックアップとして・・・。」
「その必要はない。零号機は撤退せよ」
続いて、ミサトはレイへ指示を出そうとするが、シンジはミサトの言葉を遮って零号機の撤退を命じた。
「何故ですっ!!司令代理っ!!!
・・・って、い、いえ、何でもありませんっ!!は、はい、零号機を今すぐ撤退させますっ!!!」
ミサトは勢い良く振り返って司令席を見上げ、シンジへ抗議しようとするも、シンジがロープに手を伸ばしたのを見て慌てて抗議を飲み込む。
「聞いての通りよっ!!日向君、解ったわねっ!!!」
「か、葛城さん・・・。そ、そんな投げやりな・・・・・・。」
そして、ミサトはやけっぱち気味に怒鳴って指示を出し、日向は指示になっていない簡略すぎるミサトの指示に顔を引きつらせる。
(くっくっ・・・。さすがのミサトさんも懲りたみたいだね)
「・・・な、なあ、シンジ君?」
ミサトの反応をクスクスと笑いながら、シンジが何やら司令席下で両手を動かしていると、冬月が大粒の汗をタラ~リと流して話しかけてきた。
「はい、何ですか?」
「こ、これは・・・。や、やはり、君がやっていたんだな。な、何故、こんな茶番を演じる必要があるんだね?」
シンジは正面を向いたまま返事を返し、ならばと冬月は体を傾けて司令席下を覗き込み、そこにあった予想通りの光景に顔を引きつらせて尋ねた。
「あっ!?解っちゃいました?・・・そうですね。こう言っては何ですが、山岸さんは明らかにパイロット向けの性格をしていませんよね?」
「うん?まあ、そうだな・・・。セカンドの様に気性が激しいのも困るが、彼女の様に大人しすぎるのも困りものだな」
応えてシンジは司令席下から操作中のエバァ零号機の操縦コントローラーを出し、冬月は反対にシンジから問い返された質問に同意して頷く。
「ええ、今のままでは本当の戦いになった時、まず間違いなく足手まといになるでしょう。
ですが、ここに1人で戦って勝ったと言う実績が加われば、それは山岸さんが絶対的に持っていない自信と言う物になります」
シンジもまた頷いてマユミの弱さを指摘した後、この茶番の真の目的を冬月へ明かした。
「なるほどな・・・。だが、幾ら何でもあれを壊してまでと言うのはどうかと思うぞ?あれでもこの国の国家予算を軽く上回っているんだ」
冬月はシンジの真意に感心しながらも、エバァ零号機の建造費についてを説いて茶番の中止を求める。
「まあ、それは未来への投資って事で許して下さいよ。実際、値段に見合う以上の元は取っていますしね。
アスカを助け、時間を稼ぎ、ネルフの意識改革をさせ、トウジに奮起を促し、山岸さんの自信をつける。
ほらねっ!?一石二鳥ならぬ、一石五鳥ですよ?これだけ役に立てば十分って感じです。・・・それとも、冬月先生はまだお望みですか?」
それならとシンジは今回の戦いでエバァ零号機があげた成果を列べ、正面から冬月へ顔を向けてニヤリと笑った。
「シ、シンジ君・・・。ま、まさか、今までのは全て計算済くの行動だったのかっ!?」
冬月は列べられた成果に一連性があった事を知り、今回の戦いが全てシンジのシナリオだったのかと驚愕して目を見開いた。
「それこそ、まさかですよ。単なる成り行き・・・って、おっ!?山岸さん、やるじゃない。なら、こちらもダルシムパンチを発動させちゃうよ」
(ユイ君・・・。君の息子は私の想像以上だ・・・・・・。
本音を言えば、今の今まで多少は不安だったのだが・・・。勝てるっ!!勝てるぞっ!!!シンジ君とならゼーレに勝てるぞっ!!!!
口ばっかり達者で、いつも『シナリオ通りだ』とか言って誤魔化す碇など目じゃないっ!!シンジ君、私は君に最後まで付いて行くよっ!!!)
シンジは冬月の問いに苦笑で応えて正面へ向き戻るが、冬月はその態度を謙遜と受け取り、ますますシンジへの信頼と感心を深める。
「ところで、シンジ君。ダルシムパンチとは何かね?」
「ああ、腕が伸びるパンチですよ。ほら、汚染された参号機って腕が伸びたでしょ?」
その後、シンジが解らぬ様に手加減をして見せ、初号機は30分にも及ぶ接戦の末にエバァ零号機を倒して勝利を得た。
「ああっ!?あふっ!!!あんっ!!!!あうっ!!!!!あくっ!!!!!!」
ネルフ最下層極秘区画『人工進化研究所第13分室』に木霊するヒカリの悲鳴。
「ダ、ダメっ!!ダ、ダメっ!!!も、もう、ダメぇぇぇぇぇ~~~~~~っ!!!!」
何がダメなのかは全くの謎だが、古びたベットの上で四つん這いになっていた全裸のヒカリが、何かに耐えきれなくなったかの様に肘の力を抜く。
「そう・・・。もうダメなら、仕方がないね。今日はこの辺にしておこう」
するとシンジが高々と上がったお尻の向こう側から顔を出して名残惜しそうに溜息をつき、タオルで何故かヌラヌラと光り濡れる手を拭き始めた。
ちなみに、シンジはちゃんと服を着ており、いつものサングラスとネルフの黒い上士官服に白衣を羽織った恰好。
「えっ!?」
「んっ!?・・・どうしたの?今日の実験はもう終わりだよ」
ヒカリは驚きに目を見開いて振り返り、シンジはヒカリの意外な反応に不思議顔を浮かべ、手を拭いていたタオルをヒカリへ差し出す。
「あ、あの・・・。そ、その・・・。ま、まだ大丈夫だから・・・。つ、続けて・・・・・・。」
「う~~~ん、そうは言っても・・・。一応、今日のノルマは終わっちゃったしね」
だが、ヒカリはタオルを受け取らず、紅く染まった顔をシンジから逸らして正面へ戻し、シンジはヒカリの言葉にさも困った様な苦笑を浮かべた。
「お、お願いっ!!い、碇君、お願いっ!!!せ、切ないのっ!!!!こ、これじゃあっ!!!!!わ、私、私、私っ!!!!!!」
「でも、ほら・・・。僕もこの後に仕事があるから」
ヒカリは勢い良く顔と共に体も振り戻し、やや涙声で何やら必死にシンジへお願いするが、シンジは尚も苦笑して帰り支度を始める。
「お、お願いっ!!な、何でもするからっ!!!い、碇君、お願いっ!!!!」
「・・・って、ちょっと、洞木さんっ!?何するのっ!!?」
その途端、何を思ったのか、ヒカリはいきなりシンジへ縋り付いてズボンのベルトに手をかけ、シンジはヒカリの意外すぎる行動にビックリ仰天。
「だ、だって、だってっ!!い、碇君がいけないのよっ!!!」
「解った、解った。洞木さん、解ったから落ち着いて・・・。ねっ!?」
ヒカリはシンジの抵抗にもめげずズボンのベルトに取りつき、シンジは困ったフリをして溜息をつくと、ヒカリの肩に両手をおいて宥めた。
余談だが、人間には環境適応能力と言う力が生まれ持って備わっており、その意味は今現在の環境を生きてゆく為に体を変化させてゆく事である。
例えば、辛い物が苦手で仕方ない人物に2倍辛のカレーだけを1週間の間ずっと食べさせたらどうなるであろうか。
恐らく、この人物は1週間後には辛さへの耐性を持ち、2倍辛のカレーに辛さを感じなくなる。
それどころか、苦手であったはずの辛さを好むようになるかも知れない。
そうなれば、必然的に3倍辛、4倍辛、5倍辛と更なる辛さを求めるようになってしまうのが人間の欲深さと言うもの。
もっとも、この余談が何を意味しているのかは全くの謎であり、今のヒカリとシンジにどう関係しているのかも定かではない。
「ほ、本当っ!?」
「ああ・・・。でも、女の子が何でもするなんて言葉を言っちゃいけないよ?」
「・・・う、うん」
「それに洞木さん・・・。今、自分がした事の意味が解っているの?」
「・・・・・・う、うん」
「解っているなら聞くけど・・・。僕が洞木さんにしている事は実験だよ?でも、洞木さんが僕に今求めた事は実験じゃないんだよ?」
「・・・・・・・・・う、うん」
たちまち喜びに目を輝かすヒカリだったが、シンジに問いかけられる度、辛そうに頷いて落ち着きを取り戻し、今さっきの己の行動を恥じる。
「それが解っていてもと言う事は・・・。僕で良いの?」
「う、うん・・・。」
しかし、何が『良い』のかは全くの謎だが、ヒカリは恥ずかしそうに俯き、この問いだけは即答で応えた。
「解った。なら、実験から逸脱するけど・・・。」
(あ、あれが・・・。お、男の子の・・・あ、あんなのが・・・。だ、だなんて・・・。だ、大丈夫かしら・・・。わ、私・・・・・・。)
ヒカリだけが裸なのは忍びないと思ったのか、シンジは何やら決断して服を脱ぎ始め、ヒカリが時たまシンジへ視線を移して顔を真っ赤に染める。
「ねえ、洞木さんは・・・。初めてなのかな?」
「う、うん・・・。や、優しくしてね・・・・・・。」
「・・・解っているよ」
「あっ・・・。(ご、ごめんなさい。す、鈴原・・・。で、でも、鈴原の為なんだから許して・・・・・・。)」
そして、何が『初めて』なのかは全くの謎だが、全裸になったシンジがヒカリの隣へ座り、ヒカリの顎を上げて唇へ唇を重ねようとしたその時。
プルルルル・・・。プルルルル・・・。プルルルル・・・。
「「っ!?」」
脱いだシンジのネルフ制服の上着のポケットの中で携帯電話が鳴り、シンジとヒカリは驚いて思わず体をビクッと震わす。
「ごめん。ちょっと待っててね」
「う、うん・・・。」
シンジは間の悪い電話にバツの悪そうな表情を浮かべて謝り、ヒカリはぎこちない笑顔で頷き返した。
「はい、もしもし?」
『私よ。検査の結果が出たわ』
「・・・で、どうでした?リツコさん」
やや不機嫌を入れ混ぜた声で電話に出たシンジだったが、電話をかけてきたのがリツコだと知るなり表情に緊張を走らせた。
『結論から言うと、ただの生理不順ね。恐らく、ストレスによるものじゃないかしら?』
「そうですか、そうですか。うんうん、僕もそうじゃないかなぁぁ~~~っと思っていたんですよ」
『・・・その割にはかなり焦っていた様だけど?』
「嫌だなぁ~~・・・。そんな事ないですよ。リツコさんの気のせいでは?」
そして、リツコからアスカ妊娠疑惑の結果判定を告げられると、たちまちシンジはご機嫌に声を弾ませて元気一杯。
(う、嘘っ!?ほ、本当に大丈夫かしら・・・。わ、私・・・・・・。)
同時にシンジは別の何かも元気一杯にさせ、ヒカリは驚愕に目を見開き、思わずシンジの目を盗みながら己の股間へ手を伸ばして何やら確認作業。
『まあ、プライベートにはとやかく言わないけど・・・。ちゃんとレイの事も考えてあげなさいよ。あの娘、ああ見えても寂しがり屋なんだから』
「おや?リツコさんがそんな事を言うなんて意外ですね」
『・・・そうね。自分でもらしくないと思っているわ。・・・それはそうと、アスカの方はこのまま入院させておくから』
「ええ、お願いします。それじゃあ・・・。」
ピッ!!
その後、リツコとシンジは軽い世間話を交わし、シンジがご機嫌な笑顔で電話を切った途端。
「さあっ!!続きをしようかっ!!!」
「キャっ!?」
元気一杯にシンジは隣に座るヒカリをベットへ勢い良く押し倒し、不意を突かれたヒカリが驚いて悲鳴をあげる。
「洞木さん・・・。僕が電話をしている間、何をしていたの?もしかして、待ちきれなかったとか?」
「み、見てたの?ち、違う・・・。ち、違うの・・・。あ、あれは・・・。そ、その・・・。だ、だから・・・・・・。」
シンジはヒカリの耳元へ口を近づけてクスリと笑い、ヒカリがシンジの質問に何故か顔を真っ赤に染め、恥ずかしさのあまり顔を背けたその時。
プルルルル・・・。プルルルル・・・。プルルルル・・・。
「「っ!?」」
再びシンジの携帯電話が鳴り、シンジとヒカリは驚いて思わず体をビクッと震わす。
「ごめん。ちょっと待っててね」
「う、うん・・・。」
シンジは間の悪すぎる電話にバツの悪そうな顔を浮かべて謝り、ヒカリはぎこちない笑顔で頷き返した。
「今、忙しいんで後にして貰えませんか?リツコさん」
『・・・わ、私です。マ、マユミですけど・・・・・・。』
「っ!?」
かなり不機嫌を入れ混ぜた声で電話に出たシンジだったが、電話をかけてきたのがマユミだと知るなり驚愕に目を最大に見開いた。
『ご、ごめんなさい・・・。きゅ、急に電話をかけたりして・・・・・・。』
「・・・い、いや、良いんだよ」
電話故にお互いの顔は見えないと言えども、目の前の状況が状況だけに焦りまくり、たちまちシンジは体中に漲らせていた元気を失わせてゆく。
「(えっ!?えっ!!?えぇぇぇぇぇ~~~~~~っ!!!?)・・・い、碇君、どうしちゃったの?」
同時にシンジは別の何かも急速に元気を失わせ、ヒカリは何故と目を見開き、シンジの変貌理由を尋ねずにはおれず思わず尋ねた次の瞬間。
『っ!?』
電話の向こう側でマユミが聞こえてきたヒカリの声に息を飲み、驚愕に目をこれ以上ないくらいに見開いた。
何故ならば、マユミが電話をしている場所はネルフ職員食堂であり、少し離れた前方ではレイとマナが食事中。
また、先ほどマユミとマナは入院したアスカのお見舞いへ行っている為、必然的にシンジがヒカリと2人だけで居る事を悟った。
しかも、ヒカリの声の大きさから、ヒカリがシンジのすぐ側にいる事が想像つき、マユミはそれがどういう意味なのかが解ってしまったのである。
「・・・そ、それで何の用かな?」
数瞬の沈黙の後、シンジは震える人差し指を口元に当てて立て、無言でヒカリに声を出さぬ様に指示すると、恐る恐るマユミへ話しかけた。
『はい・・・。夕食をご一緒にと思ったのですが・・・・・・。』
「そ、そう・・・。で、でも、残念だな。じ、実はもう食べたんだ。ご、ごめんね?」
『そうですか・・・。では、また次の機会に・・・・・・。』
「う、うん、悪いね。せ、せっかく、誘ってくれたのに」
するとマユミは明らかに沈んだ声でダークさを漂わせ始め、シンジは久々に心の中で『逃げちゃダメだ』と呟きながら必死に会話を重ねる。
『いいえ、良いんです・・・。それじゃあ、ヒカリさんにもよろしくとお伝え下さい』
「う゛っ・・・。(バ、バレバレ?)」
だが、マユミから痛烈な一撃を喰らい、シンジはマインドコントロールの甲斐なく言葉を詰まらせた。
『カチャ・・・。プーーー・・・。プーーー・・・。プーーー・・・。プーーー・・・。プーーー・・・。プーーー・・・。プーーー・・・。』
(や、やっぱり、山岸さんって・・・。い、痛い女なの?
・・・って、そ、そうだよな。こ、このタイミングは絶妙すぎるよ・・・・・・。はっ!?ま、まさか、近くにいるんじゃっ!!?)
電話が切れて電子音だけが聞こえる携帯電話を耳へ当てたまま固まっていたが、ふとシンジはマユミの気配を感じて辺りをキョロキョロと見渡す。
「・・・どうしたの?」
「いや、何でもないよ。はぁぁ~~~・・・。(そんなはずないか・・・。幾ら何でも、山岸さんがここまで来れるはずがないよな)」
ヒカリは妙に焦った様子のシンジを不思議に思って尋ねると、シンジは我に帰ると共にここが何処かを思い出して安堵の溜息をつく。
「・・・そう?」
「それより、洞木さん」
「う、うんっ!!」
ますますヒカリは不思議そうに首を傾げるが、シンジに呼ばれるや否や、今度こそ3度目の正直と嬉しそうに目を輝かせた。
「今日は止めよう。また、今度って事で・・・。」
「えっ!?・・・ええっ!!?ど、どうしてっ!!!?」
しかし、シンジは首を左右に力無く振り、ヒカリは一瞬だけシンジの言葉の意味が解らなかったが、解るなり驚きに目を見開いて理由を尋ねる。
「・・・・・・気が乗らないから」
「そ、そんなぁぁ~~~・・・・・・。」
応えてシンジは酷く疲れた様な笑みを浮かべ、ヒカリは切なそうに涙声を出してガックリと項垂れた。
「ウバっ!!ウバっ!!!ウンババぁぁ~~~っ!!!!」
頭の上に牛の髑髏を乗せ、腰蓑を付けた黒人の年老いた男性が祭壇に向かって吼え、真夜中のジングルの密林に雄叫びを響かす。
「ウンババ、ウンババ、ウンバッバっ!!」
「ウンババ、ウンババ、ウンバッバっ!!」
「ウンババ、ウンババ、ウンバッバっ!!」
「ウンババ、ウンババ、ウンバッバっ!!」
「ウンババ、ウンババ、ウンバッバっ!!」
「ウンババ、ウンババ、ウンバッバっ!!」
その背後には、同様の恰好をした若い黒人男性達がキャンプファイヤーを囲んでグルグルと回り、不思議な踊りを祭壇へご披露中。
「ウンババ、ウンババ、ウンバッバっ!!」
「ウンババ、ウンババ、ウンバッバっ!!」
「ウンババ、ウンババ、ウンバッバっ!!」
「ウンババ、ウンババ、ウンバッバっ!!」
「ウンババ、ウンババ、ウンバッバっ!!」
「ウンババ、ウンババ、ウンバッバっ!!」
更に左右には、腰蓑だけを付けた若い黒人女性達が腰を左右にフリフリと振って胸をプルプルと揺らし、実に官能的な踊りを祭壇へご披露中。
「・・・ここ、何処やねん。わし、日本へ帰れるんやろか・・・・・・。」
そして、皆が崇める祭壇の壇上には、祭壇一杯に列べられたご馳走にも手を付けず、トウジが茫然と目の前の有り様を眺めていた。
数十分前、天空の彼方より、この地へ轟音と共に飛来してきたグングニルの槍。
この地に住むアフリカ原住民ドンモ族の者達は、大地に突き刺さった巨大な棒へ戦々恐々ながら近づき、棒の中から現れたトウジにビックリ仰天。
皆が動揺して混乱する中、ドンモ族の長老はドンモ族に古くからある伝承と照らし合わせ、トウジは天がドンモ族へ遣わした神に違いないと宣言。
たちまちドンモ族は大騒ぎとなり、急遽トウジを迎える為の祭壇を広場に作り、今はトウジを歓迎する儀式の真っ最中と言った次第。
「やっぱり、シンジを信じたわしが馬鹿やった・・・。ケンスケ、大丈夫やろか?死んどらんければ、ええんやけどな・・・・・・。」
ふとトウジは自虐的な笑みを浮かべ、第三新東京市では決して見る事の出来ない満天の星空へ果てしなく遠い目を向けた。
ピッ・・・。ピッ・・・。
ピッ・・・。ピッ・・・。
ピッ・・・。ピッ・・・。
ピッ・・・。ピッ・・・。
ピッ・・・。ピッ・・・。
ピッ・・・。ピッ・・・。
ネルフ専属病院・第一脳神経外科病棟308号室に響く脈拍計の電子音。
「ぐふっ・・・。ぐふふふふっ・・・・・・。
山岸さん・・・。俺、頑張ったよ・・・。格好良かっただろ・・・。ぐふっ・・・。ぐふふふふっ・・・・・・。」
月明かりを浴びるベットに横たわるケンスケは、時たま不気味な笑い声をあげ、幸せそうながら幸せそうには聞こえない寝言を呟いていた。
ピッ・・・。ピッ・・・。
ピッ・・・。ピッ・・・。
ピッ・・・。ピッ・・・。
ピッ・・・。ピッ・・・。
ピッ・・・。ピッ・・・。
ピッ・・・。ピッ・・・。
- 次回予告 -
ネルフ司令と司令代理、そのどちらが偉いかなど肩書きを見れば一目瞭然。
だが、ゲンドウは久々に赴いたネルフの現状を見て愕然とする。
息子には相手にされず、盟友には愛想を尽かれ、部下達には掌を返される。
そして、何よりも信じていたはずの愛人の裏切りがゲンドウの心を壊す。
時同じくして、第三新東京市へ襲来する使徒。
しかし、司令席にはネルフ司令たるゲンドウの姿はなかった。
次回 ゲドウ2世 第4話
「ル
ルルー涙」
さぁ~て、この次も地球の平和を守る為、僕のしもべ達に命令だっ!!
「「「やぁっ!!」」」
注意:この予告と実際のお話と内容が違う場合があります。
後書き
やはり、古来より独裁者と言えば、デスラー総統閣下からの伝統芸『奈落』かな?と思いまして(笑)
もっとも、元ネタ的にはデスラー総統閣下ではなく、別のマンガ、アニメなんですけどね。
ヒントとしては、ミサトの声優ネタと言ったところでしょうか?(^^;)
あとケンスケが更衣室の隠し撮りをしていると言うのがありますが・・・。
これ、写真を販売しているのかは定かではありませんが、原作にもちゃんとあるんですよ?
場所は原作第9話の冒頭です。
でも、見る感じだとカーテンがあるから、更衣室と言うより教室で着替えているみたいですけどね。
(予告はゲドウ2世オリジナルの物です)
感想はこちらAnneまで、、、。
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