NEON GENESIS
EVANGELION
EPISODE:20
oral stage




<あと1日>

『現在、LCL温度は36度を維持。酸素密度に問題なし』
『放射電磁パルス異常なし。波形パターンはB』
『各計測装置は正常に作動中』
いよいよ明日に迫ったサルベージ計画。
初号機とエントリープラグには特殊な電極やコードが射され、胸に露出した赤い球を除き、打ち破られた装甲も元通りになっている。
「シンジ君・・・・・・。」
待ちに待ち望んだ時が近づくというのに、タラップから初号機を見下ろしているミサトの表情には不安が現れていた。


「ねえ、シンちゃん?」
「ん~~~・・・。なに?」
ズズズ・・・。
食事も済んで怠惰な時間、洗い物を終えてリビングにやってきたユイが、ふとTVを見ながらお茶をすすっているシンジに話しかけた。
ちなみに、シンジはファッションのイメージが貧困なのか、制服しか上手く思い浮かばずに家の中でも学校の制服を着ている。
「前から聞こう聞こうと思って忘れていたんだけど・・・。やっぱり、マナちゃんが1番好きなの?」
ブーーーーーッ!!
そして、ユイから投げかけられた質問に驚き、シンジは口の中のお茶を盛大に吹き出す。
「あらあら、まあまあ・・・。シンちゃんったら、ダメじゃない」
「げっほ・・・。かっほ・・・。い、いきなり・・・。な、何を言うさ・・・。か、母さん・・・。」
すぐさまユイは濡れたネーブルを雑巾で拭き、シンジは咳き込みながら濡れた口元を右腕で拭う。
「だって、シンちゃんってマナちゃんが好きなのかな?と思えば、レイちゃんやアスカちゃんの事を良く考えているでしょ?」
ユイはテーブルを拭くと席を立ち、キッチンから聞こえるユイの声にシンジは動きを止めた。
ジャーーー・・・。キュッ!!
「・・・そうそう、たまにだけど山岸さんやマヤさんって言う娘の事も考えているでしょ?」
「ど、どうして、それを・・・。」
水道の流れる音と蛇口が閉まる音が聞こえ、シンジは驚きに目を見開いて視線をキッチンの方へ向ける。
「あら、シンちゃんは今まで初号機・・・。つまり、私とシンクロしていたんだから、その時にシンちゃんの考えていた事は全部お見通しよ♪」
「う、嘘・・・。」
すると洗った雑巾を持って再びリビングに現れたユイがニッコリと笑い、更にシンジは驚愕に目を最大に見開く。
「本当よ♪だから、最初こそ嫌がっていたけど・・・。本当はシンちゃんがあの事に凄く興味があった事もちゃんと知っていたんだから♪♪」
「ひ、酷いや・・・。か、母さん・・・・・・。」
ユイが言うあの事とは何の事だかは全くの謎だが、何故だかシンジは涙をルルルーと止めどなく流す。
「もう、シンちゃんったらHなんだから♪特にマナちゃんで色々な事を想像していたでしょ?聞いてて母さんの方が恥ずかしくなちゃった♪♪」
しかし、ニコニコと笑うユイによって告げられた言葉にすぐさま涙は止まり、今度は大口を開けてシンジは言葉を失った。
「例えばねぇぇ~~~♪いつか、うっかりレイちゃんの胸を触った時なんて・・・。」
「わぁ~~っ!!わぁ~~っ!!!言わないでっ!!!!言わないでよっ!!!!!母さんっ!!!!!!」
ユイは人差し指を顎に当てて当時を思い出し、慌てて言葉を取り戻したシンジは大声をあげてユイの言葉を打ち消す。
「じゃあ、言わないであげる代わりに、シンちゃんの好きな人を教えて♪」
「う、うん・・・。わ、解った・・・・・・。」
こうして、シンジは己の秘密の暴露より、己の想い人の告白を取り、ユイによる恋愛お悩み相談室が始まった。


「サルベージ計画の要綱、たった一ヶ月でできるなんてさっすが先輩ですね」
「残念ながら原案は私じゃないわ。・・・10年前に実験済みのデータなのよ」
実験管制室でマヤは自分達の苦労の末に出来た書類を嬉しそうに眺め、リツコに顔を向ける。
「そんな事があったんですか? エヴァの開発中に・・・。」
「まだ私がここに入る前の出来事よ。母さんが立ち会ったらしいけど、私はデータしか知らないわ」
リツコはモニターから目を離さず、右手が恐ろしいスピードでキーボードをタイプしてゆく。
「その時の結果はどうだったんですか?」
「失敗したらしいわ・・・。」
「・・・・・・えっ!?」
思わずリツコは手を止めて間近のディスプレイを遠い目で見つめ、思わずマヤは顔面蒼白で絶句した。


「うううっ・・・。そうなのよ。ゲンドウさんったら酷いのよ・・・・・・。」
「・・・母さん、その辺で止めておいたら?」
いつしか、シンジの恋愛お悩み相談室はユイの夫婦お悩み相談室に変わり、お酒を飲んでユイはシンジに愚痴をこぼしていた。
「だって、4年よっ!!4年っ!!!こうも長い間、夫婦間に交渉がなければ十分に離婚の条件よね?シンちゃんもそう思うでしょ?」
「い、いや・・・。む、息子に離婚の相談を持ちかけられても・・・。と、と言うか、夜の生活を息子に相談しないでよ・・・・・・。」
テーブルに突っ伏してグラスを傾けるユイに、シンジはウーロン茶を飲みながら顔を引きつらせて大粒の汗をタラ~リと流す。
「初号機の中にいる間を含めれば14年っ!!14年なんだからっ!!!」
「ああ、もう飲んじゃダメだってば・・・。でもさ、今まで母さんから聞いた話だと、父さんの方がかなり母さんの事を好きなんじゃない?」
更にユイはグラスへお酒を入れようとするも、横からシンジにお酒の瓶を取られて阻止された。
「そうなのよっ!!多分、それなのよっ!!!それなのにゲンドウさんったら、シンちゃんが生まれてから変わったのよっ!!!!」
「・・・僕が生まれてから変わった?」
「ううん、違う・・・。結婚する前くらいから変わってきたけど、シンちゃんが生まれてから特に変わったのよ」
シンジはもうお酒を飲めない様にボトルのキャップを閉めようとするが、ユイの言葉が気になって動きを止めて耳を傾ける。
「変わったって言うと・・・。どう言う風に?」
「私の事を凄く大事にしてくれる様になったの・・・。」
「なら、別に良いんじゃない?」
アンニュイな溜息混じりに呟くユイの言葉を聞き、シンジは胸をホッと撫で下ろしてボトルのキャップを閉めた。
「んぐっ・・・。良くないっ!!」
ガンッ!!
「・・・そ、そうなの?」
するとグラスに残ったお酒をクイッと一気に飲み干し、ユイはグラスをテーブルに叩きつけ、シンジは驚いて体をビクッと震わす。
「そうよっ!!私だって普通の女だもの、性欲だってあるし、トイレにだって行くわっ!!!それなのに、それなのにっ!!!!」
「・・・そ、それなのに?」
「あの人はまるで私を何処かのお姫様か、聖母の様に扱うのよっ!!手も触れようとしないし、私から誘っても誤魔化して断るのっ!!!」
「・・・そ、そうなんだ」
酔っている上にユイの興奮のボルテージはドンドンと上がり、止まらないユイの胸の内にシンジは顔を引きつらせて相づちを打つだけ。
「そのくせ、赤木さんとは関係を持っているくせにっ!!やっぱり、私の事を好きじゃないんだわ・・・。うううっ・・・・・・。」
ユイは自分が言った言葉にかなりのショックを受け、興奮の度合いを上げたまま机に突っ伏して泣き崩れる。
「ええっ!?父さんって、リツコさんとそういう関係だったのっ!!?」
一方、シンジもまた別の意味でショックを受け、驚きに目を見開いて聞き返した。
「リツコさん・・・。ああ、リっちゃんの事ね?そうなのよ・・・。リっちゃんともそういう関係なのよ・・・・・・。」
「・・・とも?ともって、どういう事?」
「あのね・・・。ゲンドウさんったら、リっちゃんのお母さんのナオコさんともそういう関係だったのよ・・・・・・。」
「それって・・・。(それって、最低だよ。父さん・・・。)」
シンジは自分とユイの関係を棚に5段くらい上げ、ゲンドウのふしだらな関係を軽蔑して顔を顰める。
「だからね・・・。だからね・・・。シンちゃん・・・。お願い・・・・・・。」
「うわっ!?ちょ、ちょっと待ってよっ!!?か、母さんっ!!!?」
怒りと悲しみの興奮の果てに、更にユイは違う興奮でシンジに抱きついてキスをせがむが、慌ててシンジは顔を背けてユイのキスを避けた。
「うううっ・・・。シンちゃんまで・・・・・・。」
「・・・違うよ。母さん・・・。」
「えっ!?・・・違うの?」
その途端、再びユイは机に突っ伏して泣き崩れて嗚咽を漏らし、シンジは軽い溜息をついてユイの肩へ手を乗せ、ユイが泣き顔を上げる。
「うん・・・。ここじゃ、何だから向こうでね?」
「うん・・・。それじゃあ♪だっこして♪♪」
何が何だか全くの謎だが、恥ずかし気に顔を紅く染めて呟くユイの言葉通り、シンジはクスクスと笑いながらユイを抱き抱えて寝室へと向かう。
「フフ・・・。母さんはいつも可愛いね」
「んっ・・・。んんんっ・・・・・・。」
しかも、抱き抱えながらキスまでする念の入れようで、遂にシンジも長きに渡るユイとの2人っきりの生活でかなりの余裕と技を会得していた。


<運命の日>

緊迫した空気に包まれた実験管制室。
ミサトは腕を組んで初号機を睨み、リツコはいつものごとく白衣に手を突っ込んで立っている。
『只今より、12時00分00秒をお知らせします』
実験管制室に備え付けられた時計の短針と長針と秒針の3つの針が重なった。
「時間です」
日向の言葉にリツコが頷く。
「サルベージ・スタート」
「サルベージ・スタート」
リツコの指示をマヤが復唱し、シンジを救出する作業が始まった。


「ねえ、母さん・・・。」
何故か裸でベットに寝そべり、首の後ろで手を組んで天井を見上げているシンジ。
「・・・なに?」
その薄い胸の上には右頬を乗せ、やはり何故か裸のユイが艶っぽい声を出し、2人は何処か妙に気だるい雰囲気を漂わせていた。
「どうして、父さんとリツコさんの事を知っているの?ここは初号機の中なのに・・・。」
「それが聞いてよっ!!シンちゃんっ!!!」
シンジが言葉を出した途端、ユイは活力を一気に取り戻して起きあがり、その勢いにユイの胸がプルルンと揺れる。
「う、うん・・・。」
ゴクッ・・・。
シンジの上に馬乗りになったユイの全裸がご披露され、思わずシンジはうっすらと汗を掻いて紅く染まったユイの裸に生唾を音を立てて飲み込む。
「ゲンドウさんったら、いつだったかリっちゃんと初号機の前で・・・・・・って、あらっ!?」
頬をプクゥ~~と膨らませていたユイだったが、お尻に当たる不思議な感触に後ろを振り向いた瞬間。
「か、母さぁぁ~~~んっ!!」
「キャッ!?」
シンジが勢い良く上半身を起き上がらせた為、ユイはそのまま後ろに倒れ、シンジとユイは一瞬前の体勢をほぼ逆転する様な形になる。
「母さんっ!!母さんっ!!!母さぁぁ~~~んっ!!!!」
「シ、シンちゃん・・・。も、もうダメ・・・。これ以上はダメよ・・・・・・。きゃんっ!!」
いつしか最初の頃に比べ、2人の関係と立場もすっかり逆転していた。


『全探査針打ち込み終了』
『電磁波形、ゼロマイナス3で固定されています』
サルベージ第1段階の報告がされる。
「自我境界パルス、接続完了」
「了解。第一信号送信」
マヤのモニターにあるシンジの自我を表す縦横2本のXY軸のグラフが表示され、リツコが指示を出す。
「了解。第一信号、送ります」
「エヴァ、信号を受信。拒絶反応はなし」
「続けて第二、第三信号、送信開始」
日向、青葉、マヤが初号機へ命令を出してゆく。
『対象カテゴシス異常なし』
『デストルド認められません』
順調に進んでゆくサルベージ作業。
「了解。対象をステージ2へ移行」
「シンジ君・・・。」
満足げにリツコは頷き、何も出来ないミサトは祈る様に作業を見守っていた。


「はぁ・・・。はぁ・・・。ど、どうしたの?」
ユイはシンジを見上げて荒い息をつき、突然に動きを止めたシンジにキョトンと不思議顔で尋ねる。
「・・・・・・呼んでいる」
「えっ!?」
やけに神妙な顔つきで何処か遠くを見ているシンジに、ますますユイは意味が解らず聞き返した。
「・・・・・・呼んでいるんだ。僕を・・・・・・。」
「っ!?・・・遂にこの時が来たのね。せっかく逢えたのに・・・・・・。行くの?」
ユイはハッと何かに気づいて耳を澄まし、微かに耳へ聞こえてきた声に寂しそうな表情を浮かべる。
「うん・・・。僕は行く。それが僕の役目だからね」
「・・・・・・そう」
だが、シンジのハッキリとした口調と凛々しい男の顔に、ユイは息子が立派に育った事が嬉しく思わず微笑みを漏らした次の瞬間。
「でも・・・。」
「・・・でも?」
シンジがユイの方を向いてニッコリと微笑み、ユイは訳が解らず再びキョトンと不思議顔。
「その前にこっちをイかないとね?」
「やんっ!!・・・ああっ!!!あぁぁ~~~っ!!!!」
シンジとユイが何処へ行くかは全くの謎だが、ユイはシンジと別れるのが辛いのか、眉間に皺を刻んで必死に何かを耐えていた。


プーー、プーー、プーー、プーーッ!!
警告音が実験管制室に鳴り響く。
シンジの自我を表すラインが理想値のXY軸中心を離れ、暴れ回る様にグラフをグルグルと回っている。
「ダメですっ!!自我境界がループ状に固定されていますっ!!!」
「全波形域を全方位で照射してみて」
「はいっ!!」
マヤの悲痛なまでの叫びに、リツコがすかさず指示を出す。
ピーーーッ!!
リツコの策も虚しくエラー音が鳴った。
「ダメだわ。・・・発信信号がクライン空間に捕らわれている」
「どういう事っ!?」
「つまり・・・。失敗」
「えっ!?」
リツコの言う意味が解らず問うミサトだったが、返ってきた簡単な言葉に絶望する。
ブーー、ブーー、ブーー、ブーーッ!!
次の瞬間、新たな警告音が重なった。
エントリープラグ状況が『INTERVENTION BLOCKED』から『FULL NERVE CUT』から『TANJENT GRAPH REVERSE』に変わる。
「干渉中止っ!!タンジェントグラフを逆転っ!!!加算数値を0に戻してっ!!!!」
「はいっ!!」
焦りだしてきたリツコの指示を受け、瞳に涙を浮かべながらマヤが必死にキーボードを叩く。
「旧エリアにデストルド反応っ!!パターンセピアっ!!!」
「コアパターンにも変化が見られますっ!!プラス0.3を確認っ!!!」
だが、青葉と日向の更なる状況悪化の報告がされる。
『プラグ内、水温上がりますっ!!・・・36・・・38・・・41・・・58・・・79・・・97・・・106っ!!!』
『体内アポトーシ作業、予定数値をオーバーっ!!危険域に入りますっ!!!』
エントリープラグ内にも異常が見られ、LCLが沸騰する気泡が幾つも上ってゆく。
「現状維持を最優先っ!!逆流を防いでっ!!!」
リツコの額に汗が浮き出し始めた。
「はいっ!!プラス0.5、0.8・・・変ですっ!!!せき止められませんっ!!!!」
涙をポロポロとキーボードにこぼしながら、それでもマヤは凄まじいスピードでキーボードを打ってゆく。
「これは、何故・・・?帰りたくないの?・・・シンジ君」
全てを裏切る状況下、思わずリツコはエントリープラグ映像を茫然と眺め、シンジに問わずにいられなかった。


「あっ!?ちょっと待ってっ!!!」
既に2人は着替え終え、シンジが玄関の扉のドアノブに手をかけた瞬間、ユイがシンジを呼び止めた。
「・・・なに?」
「シンちゃん、渡す物があったのよ♪すぐ取ってくるから待っててね♪♪」
パタパタパタパタパタパタパタパタパタパタッ!!
振り向いたシンジにニッコリと笑い、ユイはリビングへスリッパを鳴らして駈けて行く。
「・・・何だろう?」
ガチャンッ!!ガチャガチャッ!!!
「あ痛っ!?」
「母さんらしいや・・・。そんなに慌てなくても良いのに」
首を傾げていると、リビングから何かが床に落ちる音とユイの悲鳴が聞こえ、シンジはユイの慌てぶりにクスクスと笑う。
パタパタパタパタパタパタパタパタパタパタッ!!
「はい、これ♪」
「・・・なに、これ?」
再び玄関へ駈け戻り、ユイは飴玉くらいの大きさの赤い玉を手渡し、シンジは親指と人差し指で摘んで目の前に掲げる。
「S2機関よ♪シンちゃんには使徒のコアと同じ物って言った方が解りやすいかな♪♪」
「し、使徒のコアぁぁ~~~っ!?」
ユイはまるで何でもない様な口調で応え、反対にシンジはこれ以上ないくらいにビックリ仰天。
「ほら、この前の戦いで使徒を食べちゃったでしょ♪あの時、一緒に使徒のS2機関も食べちゃったのは話したわよね♪♪
 それで、シンちゃんが倒れているのを見つけた時、一緒にシンちゃんの横にそれが転がっていたのよ♪だから、それはシンちゃんの物よ♪♪」
「こ、こんな物を貰って良いの?」
いまいち価値が解らないが、とにかく凄い物なんだろうと思い、慌ててシンジは摘むのを止めて両掌の上で包む様に乗せる。
「ええ、良いわよ♪母さんはもう持っているから要らないわ♪♪」
「へ、へぇぇ~~~・・・。で、でも、これをどうしたら良いの?」
「それなら、その赤い玉を一思いに飲んでご覧なさい♪その内、体の細胞へ溶け込んでゆくから♪♪」
「う、うん・・・。わ、解った・・・・・・。」
ユイの言葉のままシンジは赤い玉を口に近づけるが、いまいち勇気が出せずに飲み込むのを躊躇う。
「あっ!?お水、要る?」
「う、うん・・・。お、お願い」
パタパタパタパタパタパタパタパタパタパタッ!!ジャーー・・・。キュッ!!!
ユイはキッチンへ駈けて行き、シンジは赤い玉とにらめっこをしながら汗をダラダラと流す。
パタパタパタパタパタパタパタパタパタパタッ!!
「はい♪お水♪♪」
「あ、ありがとう・・・。」
再び玄関へ駈け戻り、ユイにコップを手渡され、ここまでお膳立てして貰っては後に引けず、シンジは目を瞑って深呼吸をして決意を固める。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ゴクッ!!
長い長い葛藤の末、シンジは目をクワッと見開くのと同時に、赤い玉を口に入れ、コップをクイッと傾けて一気に赤い玉を飲み込んだ。
「・・・・・・あれ?何にも変わらないよ?」
「その内、体の細胞へ溶け込んでゆくって言ったでしょ♪段々と効果が出てくるわよ♪♪」
ユイにコップを返し、両手を広げて掌を見つめるシンジに、ユイが面白そうにクスクスと笑う。
「そ、そっか、そうなんだ・・・・・・。でも、母さん・・・。これで僕も綾波と一緒なんだね?」
照れくさそうに頭を掻いた後、急にシンジは真剣な眼差しでユイを見つめた。
「そう、これでシンちゃんも生命の実を手に入れたのよ・・・。だから、レイちゃんをお願いね?」
「うん、解っているよ・・・。綾波は僕の妹になったかも知れないんだからね」
応えてユイも真剣な眼差しでシンジを見つめ、2人の間に重苦しい雰囲気が漂う。
「じゃあ♪次は母さんからのプレゼント♪♪」
「・・・へっ!?」
だが、ユイがニッコリと笑って一気に雰囲気を霧散させ、思わずシンジは間抜け顔。
「生命の実の次は知恵の実よ♪母さんの27年の知識をシンちゃんにあげる♪♪」
そう言うとユイは静かに目を瞑り、少し前屈みになってシンジの目線へ顔を合わす。
「フフ、母さんったら、最後まで・・・。」
すぐさまシンジはユイの意図を悟り、ユイの唇へ自分の唇を重ねる。
「「んんっ・・・。んっ・・・。んんんっ・・・・・・。」」
これからの別れを惜しんでか、シンジとユイの口撃は凄まじい物となり、しばくするとシンジの頭の中へユイの膨大な知識が流れ込んできた。


ブーー、ブーー、ブーー、ブーーッ!!
もう幾つの警告音が鳴っているかすら解らず、モニターには『REFUSED』の文字が点滅している。
「エヴァ、信号を拒絶っ!!」
「LCLの自己フォーメションが分解してゆきますっ!!」
「プラグ内、圧力上昇っ!!」
絶望的な報告をマヤ、青葉、日向が叫ぶ。
「全作業中止!!電源を落として!!!」
「ダメですっ!!プラグがイグジットされますっ!!!」
慌てて決断するリツコだったが、マヤの絶叫でかき消された。
同時にエントリープラグのハッチが開き、エントリープラグから流れ出るLCL。
茫然としてしまう全員をあざ笑う様に、シンジの青いプラグスーツが床に流れ落ちる。
「シンジ君っ!!」
次の瞬間、ミサトが大絶叫が発令所に木霊した。


「「んっはぁぁ~~~・・・・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。」」
肺の空気を全て使い果たしたシンジとユイは同時に唇を離し、荒い息をついて新鮮な空気を肺に取り込む。
「シンちゃん・・・。本当にキスが上手くなったわね」
「そっかなぁ~~?・・・でも、それは母さんの教え方が上手かったからだよ」
「もうっ♪シンちゃんの馬鹿♪♪」
バンッ!!
「「あははははははははは♪」」
心なしか瞳を潤ませたユイの視線を受けてシンジがクスリと笑い、ユイは照れ隠しにシンジの肩を叩き、2人はお互いに顔を見合わせて笑う。
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
しかし、どちらともなく笑い声を止め、2人は真剣な表情で見つめ合い、2人の間に沈黙が漂う。
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
キスと笑い声で乱れた呼吸が治まった頃、突然シンジがユイの胸に抱きついた。
「・・・母さん。本当に残るの?」
「ええ、使徒はまだ残っているわ。なら、母さんはまだここに居ないとね」
己の胸に顔を埋め、少し震える声を出すシンジの髪を撫で、ユイは優しい声で諭す。
「そう、解ったよ・・・。それじゃあ、そろそろ僕は行くよ」
この1ヶ月に何度も話し合ったが、最後まで首を縦に振らないユイの決意を知り、シンジがユイから離れて振り向き、遂にドアノブに手をかける。
「行ってらっしゃい・・・。父さんを止めてあげてね」
「解っている。全ては・・・。」
ガチャ・・・。
そして、シンジの背中に告げるユイの言葉に応え、シンジがドアノブを回した次の瞬間。
「「(僕、私)達のシナリオ通りに」」
ドアノブに手をかけたまま振り返ったシンジの声とユイの声が重なった。
「・・・でしょ?」
「そうよ・・・。」
シンジとユイはニッコリと微笑み合い、シンジは再び外へ振り向き直す。
「行って来ます」
「行ってらっしゃい」
シンジとユイは別れの挨拶を交わし、シンジが玄関を1歩踏み出すとシンジの周りに光が集まり、シンジの姿が徐々に消えていった。


初号機ケイジにふらつく足取りで駈けつけ、シンジのプラグスーツを抱きしめ嗚咽するミサト。
「うっ・・・。ううっ・・・。うっ・・・。うっ・・・。ううっ・・・。
 人、1人・・・。人、1人助けられなくて、何が科学よ・・・。シンジ君を返してっ!!返してよぉぉ~~~っ!!!」
背後で顔面蒼白で立っているリツコを責めるミサトの言葉が、初号機ケイジに木霊したその時。
「「きゃっ!?」」
突然、初号機の赤い球から眩いばかりの閃光が放たれ、初号機ケイジ全体が凄まじい光に襲われ、近くにいたミサトとリツコが悲鳴をあげた。
「な、何っ!?何なのよっ!!?リ、リツコっ!!!?」
「わ、解らないわっ!!で、でも、これはっ!!?」
ミサトとリツコは目の前に両腕をかざして陰を作り、初号機ケイジにいる作業員達も両腕をかざして陰を作って光に耐える。
「だ、誰かいるわっ!?」
「ま、まさかっ!?」
「「きゃっ!?」」
ミサトとリツコは閃光源に人影を見つけて驚きに目を見開くが、間抜けにも光の直撃を喰らってしまい、両手で両目を押さえて目を慌てて瞑った。
「目がっ!!目がぁぁ~~~っ!!!」
「見えないっ!!何も見えないっ!!!」
「一体、どうなっているんだっ!!」
2人と似たような光景が初号機ケイジの彼方此方で見られ、誰もが瞑る中で閃光は次第に止んでゆく。
「ふぅぅ~~~・・・。どうやら、上手くいった様だね・・・って、まあ、上手くいかないと困るんだけど」
そして、遂には閃光が止んだ初号機の初号機の赤い球の前に、全裸で片跪いて一仕事を終えたシンジが溜息をついていた。


「シンジ君っ!?シンジ君なのっ!!?」
「ええ、そうですよ。ミサトさん、ただいま。・・・おっと、危ないっ!?」
シンジの声にミサトは目を押さえたまま声がする方へ歩き、視界ゼロで蹌踉めいて転びそうになるが、素早くシンジに抱き留められる。
「シンジ君っ!!本当にシンジ君だわっ!!!」
「なんですってっ!?どうしてっ!!?サルベージは失敗したはずなのにっ!!!?」
目を瞑ったままシンジの顔を手探りで触り、ミサトは歓喜の声をあげ、思わずリツコはその言葉が信じられず叫ぶ。
「リツコさん、嫌だなぁ~~・・・。僕はここにいますし、ちゃんと足だってありますよ」
「そうよっ!!リツコっ!!!ちゃんと目を開いて良く見てみなさいっ!!!!シンジ君はここにいるわっ!!!!!」
「そうねっ!!それが1番手っ取り早いわっ!!!ちょっと待ってなさいっ!!!!」
シンジは面白そうにクスクスと笑い、ミサトはシンジの顔を、リツコは目の前の現実を早く見たくて、2人は必死に瞼を揉んで視力の回復を願う。
「「・・・・・・え゛っ!?」」
そして、頃合いを見計らってミサトとリツコは同時に目を開き、視界に映った目の前に光景に2人は我が目を疑った。
「「・・・・・・シ、シンジ君?」」
「んっ!?何ですか?」
一拍の間を置き、更にミサトとリツコは同時に声をかけ、シンジが笑顔で2人の方へ振り向く。
「「い、今・・・。しょ、初号機から手が出てなかった?」」
「・・・いえ、出てませんけど?まだ2人とも目がおかしいんじゃないですか?」
更に更にミサトとリツコは同時に初号機の赤い球を指さすが、シンジはキョトンと不思議顔で首を傾げた。
「ねえ、リツコ・・・。今、初号機から手が出ていたよね?シンジ君に手を振っていたし、シンジ君も振り返していたし・・・。」
「ええ・・・。私も見たわ。あれは手よ。それも女性の右手に間違いないわ・・・。」
その途端、更に更に更にミサトとリツコは同時にシンジから顔を背ける様に後ろへ振り返り、お互いに肩を寄せて小声で囁き合って意見を交わす。
「でも、シンジ君はあっさりと否定したわよ?あのシンジ君がよ?」
「そうね・・・。シンジ君が嘘をつけると思えないし、それにさっきのあの光も気になるわ(まさか、あの手は・・・・・・。)」
しかも、何か心当たりがあるのか、リツコは眉間に皺を寄せて深く考え込んで嫌な考えが浮かび、考えを消す様に頭を左右に勢い良く振る。
「僕がどうかしました?」
「「きゃっ!?」」
だが、2人が寄せ合っている肩の間へシンジが顔を乗せ、ミサトとリツコは驚いて双方が左右に飛び退き、意見交換は中断された。
「な、何でもないのよっ!!シ、シンジ君っ!!!」
「え、ええっ!!シ、シンジ君、何でもないのよっ!!!」
「ん~~~・・・。怪しいですねぇぇ~~~?」
慌ててミサトとリツコは言い繕うが、腕を組んで交互に左右へ疑いの視線を向けるシンジに焦りまくり。
「・・・わ、わおっ!?シンちゃんったら、いつの間にか知らず知らずに大人になったのね♪お姉さん、嬉しいわん♪♪」
(話題は下品だけど・・・。その調子よっ!!ミサトっ!!!)
何とか追求を誤魔化さそうと、ミサトは全裸でいるシンジのある部分の成長に気づいて茶化し、これならばとリツコは心の中でガッツポーズ。
「ああ・・・。これですか?なかなかでしょ?実はクラスの中でも1番大きいんですよ。
 ・・・って、そう言えば、この街へ来たばかりの時、ミサトさんに見られちゃいましたっけ。お風呂に入ろうとした僕がペンペンに驚いて」
「「・・・・・・え゛っ!?」」
しかし、シンジは視線を下に向けた後、何事もなかった様に2人へ微笑み、ミサトとリツコは思いもよらぬシンジの反応に絶句。
何故ならば、今までのシンジなら慌ててその部分を隠してしゃがんで照れまくるはずが、この堂々の余裕ぶりなのだから無理もない話である。
「それより、僕の着る服ありません?」
「「・・・・・・え゛っ!?」」
「このままだと風邪をひきそうなんですけど?」
「「・・・・・・え゛っ!?」」
「だから、服が欲しいんですけど・・・。2人とも聞いてます?僕の話」
「「・・・・・・え゛っ!?」」
話のイニシアティブを取るはずがシンジに取られまくり、しばらくミサトとリツコは何を聞いても同じ事しか応えず固まっていた。


「そうか、解った。報告ご苦労」
いつもながら重苦しい雰囲気が漂い、意味もなくただっ広い司令公務室。
カチャ・・・。
「シンジ君のサルベージが成功したそうだ」
かかってきた電話の受話器を置き、司令席脇のソファーに座る冬月は司令席のゲンドウへ視線を移す。
「・・・そうか」
だが、ゲンドウはいつもの無表情で、いつもの机に両肘を付いて口の前で手を組む『ゲンドウポーズ』で、いつもと変わらぬ口調で応えた。
「ふぅぅ~~~・・・。お前も素直じゃないな」
「・・・何がだ?」
そんなゲンドウの様子に冬月は深い溜息をつき、ゲンドウの片眉がピクリと跳ねる。
「だから、素直に喜んだらどうだと言っているんだ。私が知らないとでも思っているのか?」
「・・・何をだ?」
心底に冬月は面白そうにニヤリと笑い、ゲンドウは何か心当たりがあるのか、両眉をピクピクと跳ねさせた。
「お前・・・。ここ1ヶ月、誰も居ない夜中を見計らい、初号機ケイジに行っていたじゃないか?心配だったんだろう?シンジ君の事が・・・。」
「・・・下らん。シンジは補完計画の中心の駒だ・・・。新しい駒の用意をするのが面倒なだけだ」
更に冬月はニヤニヤと笑い、ゲンドウは体をビクッと震わせるのを抑え、震える指でサングラスを押し上げて必死に動揺を隠す。
「全く、お前という奴は・・・。そんな事だから、いつまで経ってもシンジ君と仲直りが出来ないんだぞ」
「冬月・・・。私は本部内を見回ってくる」
なをも冬月は追求を止めず、困り果てたゲンドウが席を立って話を強引に終わらせようとしたその時。
「****っ!!***************っ!!!」
「****、******っ!!******っ!!!」
司令公務室の重厚な扉の向こうから騒ぎ声が聞こえ、ゲンドウと冬月は何事かと動きを止めて視線を扉へ移す。
「待***さいっ!!今*ぐ、連***れま**らっ!!!」
「ダ**すっ!!私***で怒られてしまいますっ!!!」
その騒ぎ声である司令フロアの受付秘書嬢の声は次第にこちらへ近づき、遂には重厚な扉を持ってしても言葉が完全に解る様になった次の瞬間。
バタンッ!!
突然、ノックもなしに司令公務室の重厚な扉が勢い良く開かれた。


「おや?シンジ君じゃないか?」
「も、申し訳ありませんっ!!サ、サードチルドレンがどうしても面会したいと・・・。」
意外な人物の訪問に冬月は少し驚き、司令フロアの受付秘書嬢は自分の失態に慌てて深く頭を下げて謝罪をする。
「いや、良い。君は下がりなさい」
「は、はいっ!!ほ、本当に申し訳ありませんっ!!!」
冬月と司令フロアの受付秘書嬢が会話を交わす中、騒ぎの中心のシンジはまるで他人事の様に全く気にする事なく司令席前へ歩を進めていた。
ちなみに、シンジはミサトが加持から借りたネルフの制服に着替え、取りあえず素肌の上に手と足の袖をまくって着用している。
しかも、裏地が擦れて痛いのか、ゲンドウの様に上着の前を留めずに素肌を見せ、ちょっぴりアウトローな恰好。
「そ、それでは私は失礼します」
ガチャ・・・。
司令フロアの受付秘書嬢が扉を閉めた途端、ゲンドウはゲンドウポーズを取り直してシンジを睨む。
「シンジ・・・。私は忙しい」
(・・・嘘を付け。暇だから見回りを口実に、シンジ君の所へ会いに行こうとしていたくせに・・・。)
だが、シンジはゲンドウの睨みを受けて臆する事なく黙って歩を進め、ゲンドウは少し苛立ち気に、その様子に冬月が苦笑して心の中で呟く。
「・・・何の用だと聞いている」
「シンジ君、どうしたんだね?」
それでも黙って更に歩を進め、司令席手前まで来たシンジにゲンドウと冬月が尋ねるが、立ち止まると思ったシンジは更に更に進み出た上。
「父さん、これ貸して」
「な゛っ!?」
司令席に左手を付いて身を乗り出し、右手を伸ばしてゲンドウのサングラスを奪い、いきなりの展開にゲンドウはビックリ仰天。
「・・・これ、本当に伊達眼鏡だったんだ」
「なにっ!?そうだったのかっ!!?碇っ!!!?」
「な、何をするっ!!か、返せっ!!シ、シンジっ!!!?」
するとシンジはサングラスをかけて呟き、冬月は初めて聞く事実に驚き、ゲンドウは左手で顔を隠して立ち上がり、シンジへ右手を必死に伸ばす。
「あっ!?大発見っ!!?見た目には解らないけど老眼が入っているっ!!!?」
「本当かねっ!?シンジ君っ!!?」
続いてシンジからなされた報告に、冬月はこれ以上なく驚いて目を見開き、ゲンドウの闇雲にシンジを捕まえ様としていた手がピタリと止まる。
「ええ、ここを見て下さいよ。副司令」
「うむぅぅ~~~・・・。これは確かに老眼だな」
シンジが指さすサングラスのレンズ下辺りを覗き込み、冬月は腕を組んで唸りながら頷く。
「ねっ!?そうでしょう?僕、父さんが老眼だったんなんて知らなかったなぁぁ~~~・・・。」
「そうか・・・。お前、老眼だったのか。碇」
「な、何の用だ・・・。シ、シンジ」
シンジと冬月の笑っている様な視線を受け、ゲンドウは耳まで真っ赤に染めて座り直し、ゲンドウポーズで口元を隠すどころか目元まで隠した。
「うん、伝言があるんだけど・・・。その前に聞きたい事があるんだ」
「・・・き、聞きたい事だと?」
シンジの問いかけにゲンドウは顔を上げようとするが、目を見られるのが嫌なのか、すぐさま目元をゲンドウポーズの下に戻す。
「父さんが母さんにプロボーズした時の事なんだけど・・・。
 母さんを清水寺へデートに誘って、結婚してくれないと清水の舞台から飛び降りるって、泣いて頼んだって話は本当なの?」
「な゛な゛な゛な゛な゛っ!?」
しかし、シンジの口から思いも寄らぬ言葉が飛び出し、ゲンドウは真っ赤っかに染めた顔を上げ、顎が抜けるくらい大口を開けて絶句した。
「プッ!!・・・ほ、本当なのか?い、碇・・・。ひょ、ひょっとしてダジャレのつもりか?」
「ご、誤報だっ!!シ、シンジ、デタラメを言うんじゃないっ!!!」
思わず冬月は吹き出してしまい、ゲンドウは席を立ち上がって必死に誤魔化そうとするが、その焦りぶりが真実だと語っている。
「・・・あれ?母さんは僕に嘘を教えたのかな?」
「「・・・なにっ!?」」
2人の様子を笑いを堪えてシンジは次の言葉を発した瞬間、ゲンドウと冬月は動きを止めて一瞬言葉を失った後、驚愕に目を最大に見開いた。
「シ、シンジ・・・。そ、それはどういう意味なんだ?」
「僕、初号機の中で母さんに会ったんだよ」
ゲンドウは信じられないとばかりに聞き返し、シンジはさも当たり前の様にニッコリと笑って返す。
「ほ、本当かねっ!?シ、シンジ君」
「ええ、本当ですよ。今の話も母さんから父さんの可愛いところの1つとして聞いたんです」
冬月もまた信じられないとばかりに聞き返すが、新たにシンジから伝えられた言葉により、新たな衝撃が冬月を襲う。
「・・・か、可愛い?へ、変なところの間違いじゃないのかね?」
「ねえ・・・。僕もそう言ったんですけど、母さんにとっては可愛いらしいです」
「うるさいっ!!うるさいっ!!!うるさいっ!!!!黙れっ!!!!!黙れっ!!!!!!黙れぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~っ!!!!!!!」
バンッ!!バンッ!!!バンッ!!!バンッ!!!!バンッ!!!!!バンッ!!!!!!
冬月は顔を引きつらせ、シンジはクスリと笑って肩を竦め、ゲンドウは机を掌で叩いて6連打。
「まあ、良っか・・・。それじゃあ、母さんからの伝言を伝えるね」
「「なにっ!?」」
その騒ぎもまた、既に何度目か解らないシンジが告げる言葉の衝撃に、ゲンドウと冬月はピタリと動きを止める。
「ごほんっ!!んっんっ・・・。あ~~~・・・。あ~~~・・・。あ~~~・・・。あ~~~・・・。あ~~~・・・。あ~~~・・・。」
そして、司令公務室が静まり返ったのを確認した後、シンジは咳払いをして喉元に右手を置き、いきなり何を思ったのか発声練習を始めた。


「あ~~~・・・。あ~~~・・・。あ~~~・・・。あ~~~・・・。あ~~~・・・。あ~~~・・・。あ~~~・・・。あ~~~・・・。」
思わずゲンドウと冬月が茫然と顔を見合わせていると、シンジの声は徐々に高くなってゆき、まるで女の子の様な声に変わってゆく
「あ~~~・・・。あ~~~・・・。あ~~~・・・。あれっ!?もうちょっと低いかな?あ~~~・・・。あ~~~・・・。あ~~~・・・。」
しばらくすると不意にある人物の声色に近くなり、ゲンドウと冬月は驚きに目を見開き、慌ててシンジの顔に視線を移す。
「あ~~~・・・。あ~~~・・・。あ~~~・・・。良し、完成♪どう?母さんの声に似てるでしょ♪♪」
「「おおっ・・・・・・。(え、笑顔までそっくりだ・・・・・・。)」」
終いにはシンジの声がユイの声に変わり、シンジはサングラスを外して2人にニッコリと微笑み、ゲンドウと冬月は久々に聞くユイの声に感動。
「それじゃあ、母さんの伝言を伝えるね♪」
「「う、うむ・・・。」」
司令席脇のソファーにシンジが座ると、自ずとゲンドウと冬月もその正面に姿勢を正して列んで座り、2人は胸を高鳴らせてシンジの言葉を待つ。
「ゲンドウさん♪」
「な、何だ・・・。ユ、ユイ」
シンジが話しているのに言うのに、ゲンドウの目には目の前のシンジがユイに写り、思わずユイの名前を呼んで胸は幸せ一杯。
「どうして、シンちゃんを親戚の元へ預けたの♪ちゃんと育てようって約束したでしょ♪♪」
「い、いや・・・。そ、それはだな・・・・・・。」
だが、シンジの口からユイの声で伝えられた痛烈な言葉に、ゲンドウの幸せが一気に恐怖へと変わり、汗をダラダラと流して戦慄する。
「くっくっくっ・・・。だから、私があれほど言っただろう?」
「冬月先生もです♪どうして、ゲンドウさんを止めてくれなかったんです♪♪」
「い、いや・・・。そ、それはだね・・・・・・。」
その横では冬月がしたり顔でニヤリと笑うが、冬月もユイの声で痛烈な批判を浴びて、冬月も汗をダラダラと流して言葉に詰まった。
「くっくっくっ・・・。そうだ。お前がもっと強く止めていれば、私も・・・。」
「ゲンドウさんっ!!」
「は、はいっ!!」
すると今度はゲンドウがしたり顔でニヤリと笑うが、ユイの声で怒鳴られた途端、座ったまま背筋をシャキーンと伸ばして固まる。
「ナオコさんの事もそうですが・・・。リっちゃんとの事を私が知らないとでも思っているんですか♪」
更にはシンジが目を細めて睨むと、ゲンドウは口をアウアウと開いたり閉じたりさせ、瞬く間に顔色は死人の様な蒼白に変わった。
「あとでたっぷりとお話を聞かせて下さいね♪事と場合によっては・・・。離婚も考えています♪♪」
「ひはうっ!!ほへはっ!!!ふいのはんひはいはっ!!!!」
更に更に次なるユイの恐ろしい宣告に、ゲンドウは口をパクパクとさせて何かを叫ぶが、まるで言葉にならず虚しく荒い息だけが口から漏れる。
「それじゃあ、約束の時に会いましょう♪ユイより♪♪」
ユイの伝言が伝え終わると、シンジは静かに目を瞑った。
「はい・・・。これが母さんからの伝言だよ・・・って、どうしたの父さん?」
そして、数秒後にシンジが目を開けて元の声に戻ると同時に、ゲンドウがおもむろに席を立ち上がった。
「シンジ・・・。母さんの説得をよろしくな」
「・・・はっ!?」
「冬月先生・・・。あとを頼みます」
「・・・はっ!?」
まずゲンドウは真剣な表情をシンジへ向けた後、次に冬月へ真剣な表情を向け、反対にシンジと冬月は何の事だか意味が解らず間抜け顔。
「ではっ!!」
タッタッタッタッタッタッタッタッタッタッ!!
そんな2人にゲンドウは肘を曲げて左腕をスチャと上げた後、司令公務室を48歳とは思えない素晴らしいスピードで駈け出て行く。
バタンッ!!タッタッタッタッタッタッタッタッタッタッ・・・・。
「・・・逃げちゃいましたね」
「ああ、逃げおった・・・。」
よほど慌てているのか、ゲンドウは勢い良く開けた扉も閉めず出て行き、彼方へ去って行く駈け足の音をシンジと冬月は茫然と見送る。
「まあ、良っか・・・。これで僕と母さんのシナリオも進みやすくなったから」
「な、なにっ!?そ、それはどういう意味だね・・・。シ、シンジ君」
しかし、すぐさまシンジも立ち上がってクスクスと笑い、冬月はシンジの言葉にハッと我に帰って立ち上がり、その言葉の意味が解らず聞き返す。
ギシッ・・・。
「冬月先生・・・。」
その問いに応えず、シンジはおもむろに司令席に座り、サングラスをかけ直してゲンドウポーズを取り、鋭い眼光と重苦しい声を冬月に向けた。
「・・・な、なんだね」
まるで心を射抜く様な視線に、思わず冬月は蹌踉めいて一歩後退し、冬月の体は全身の毛穴が開いて汗がジンワリと噴き出てくる。
「ふっ・・・。僕と一緒にネルフの新たな歴史を創りませんか?」
更にシンジはゲンドウ顔負けのニヤリ笑いを浮かべ、思わず冬月はゲンドウ以上のドス黒い邪悪なオーラを漂わすシンジに言葉を失った。


ユイ君の笑顔・・・。碇の不敵さ・・・。正にシンジ君は2人の子供と言えるだろう・・・・・・。
そんなシンジ君の誘いを私が断れるはずもなかった・・・・・・。
しかし、もし私に未来を見る事が出来たなら・・・。決して私はこの誘いを受ける事がなかっただろう・・・・・・。
シンジ君はこの時、この瞬間から変わった・・・・・・。
誰をも魅了してしまうユイ君の笑顔・・・・・・。
誰をも屈服させてしまう碇の不敵さ・・・・・・。
この2つの能力に気づいたシンジ君の前には敵はいなかった・・・・・・。
世界の中心、第三新東京市で最も強大な力を持ったシンジ君の前には敵がいなくなった・・・・・・。
そう、始まったのだ・・・。この時、この瞬間からシンジ君のシナリオで新しい人類の未来が・・・・・・




新世紀 エヴァンゲリオン

- 完 -




新 世 紀

エヴァンゲリオン

第弐拾話 心のかたち、人のかたち
 



改め




New NERV Commander

ゲドウ2世

プロローグ




「シ、シンジ君っ!!も、もう1度だけユイ君の声で私を呼んでくれないかねっ!!?」
「はい、良いですよ♪冬月先生♪♪」
「おおっ!!今度は私を名前でっ!!!私をコウゾウと呼んでくれないかねっ!!!?」
「コウゾウさん♪どうかしましたか♪♪」
「おおっ!!おおっ!!!つ、次は・・・。あ、あ、あなた・・・。で頼めるかねっ!!!?」
「ええ♪あ・な・た♪♪」
「おおっ!!おおっ!!!おおっ!!!!わ、私は君に付いてゆくよっ!!!!!シ、シンジ君っ!!!!!!」
「こちらこそ♪ふつつか者ですがよろしくお願いします♪♪」
「おおっ!!おおっ!!!おおっ!!!!おおぉぉぉぉぉ~~~~~~っ!!!!!」




- 次回予告 -

ゼーレにより拉致される冬月副司令。

そんな事は構わず、裏で着々と進むシンジのシナリオ。  

改造、別居、絆、契約・・・。             

2015年のこの時から全てが変わった。        

他人を巻き込む悪行の積み重ねがシンジの今を作ってゆく。

彼が全てを費やす想いと共に・・・。          

ネルフは果たして人類の砦たりうるのか?        


次回 ゲドウ2世 第1話

ネ ルフ、新生

さぁ~て、この次も地球の平和を守る為、僕のしもべ達に命令だっ!!

「「「やぁっ!!」」」

注意:この予告と実際のお話と内容が違う場合があります。



後書き

う~~~ん・・・。プロローグの割には長いなぁ~~(^^;)
何だか、合間合間の原作部分はエヴァGからの引用が多く手抜きかとも思いますが・・・。
でも、自分で書いた物ですし、原作そのまま引用だと変える事もないので許して下さい(笑)
このお話でのシンジは攻めと受けを使い分ける器用なシンちゃんです♪
しかし、あくまで受けは敵?を欺く手段に過ぎなく、基本は攻め攻め・・・。
いやいや、暴れん坊将軍シンちゃんと言う感じかな?(笑)
ちなみに、タイトル由来は昔懐かしの超能力少年のアニメから取っています。
あとシンジとユイの関係ですが過激すぎたかとも思うのですが・・・。
このお話だと密かにまだまだ序の口かも知れないんですよね(大汗)

(予告はTV版ではなくLD版の物で本物は以下の通りです)
ゼーレにより拉致される冬月副司令。
その脳裏を横切る過去の記憶。
邂逅、別離、再会、死別・・・。
1999年の京都から全てが始まった。
他人と歩む現在の積み重ねが碇と冬月の過去を作ってゆく。
彼らが全てを費やす組織と共に・・・。
ネルフは果たして人類の砦たりうるのか?

感想はこちらAnneまで、、、。


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