New NERV Commander
Gedou Ⅱ

EPISODE:05
innocence





ウゥゥ~~~~~~~~~~ッ!!
既に時刻は午後9時半だと言うにも関わらず、何台もの強い照明が場内を照らして真昼の様なKランク更正訓練所。
「はぁぁ~~~・・・。やっと終わった・・・・・・。」
「・・・終わったな」
「疲れたぁぁ~~~・・・。」
「・・・だな。もう1歩も動けないって感じだよな」
待ちに待ったサイレンが辺りに鳴り響き、ようやく長く辛い1日が終わった事を実感しながら、その場へ気力を解いてへたり込む訓練員達。
『(無理もない・・・。)何をしているっ!!さっさと立ち上がれっ!!!風呂へ入りたくないのかっ!!!!
 まあ、もっとも・・・。お前等が風呂なんかに入りたくないと言うのなら、いつまでもそうしてて構わんのだが?』
そんな光景を監視塔上から眺め、駿河は訓練員達を誉めてあげたい心境になるが、心を鬼にして檄をハンドマイクで眼下へ飛ばす。
「「「「「「「「「「・・・・・・。」」」」」」」」」」
『世話を焼かすなっ!!お前等は俺達を寝させない気かっ!!!キリキリと歩けっ!!!!』
その死体に鞭を打つ様な檄に苛立つも、訓練員達は疲労に怒る気力も沸かず、ネルフ本部大浴場行きの大型トラック荷台へ黙って向かい始める。
「はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。」
「さあ、掴まって下さい。碇司令」
だが、特別監査部員達に何かと贔屓され、この訓練所最高年齢であるゲンドウは立ち上がる事すら叶わず、荒い息をついて大地に倒れ伏したまま。
「いつも済まないな。葛城三佐・・・。君だって、疲れてるだろうに・・・・・・。」
「いいえ、困った時はお互い様です」
その様子に見かねて肩を貸して立ち上がらせ、ミサトはゲンドウを歩かせながら以前では考えられないゲンドウの感謝の言葉に対して微笑んだ。
「・・・にしても、腹が立つと思いません?」
「何がだ?」
そうかと思ったら、ミサトは憤慨を顕に皺を眉間に刻み、ゲンドウが豹変したミサトの態度に戸惑い尋ねる。
「何にがって・・・。加持の事に決まってるじゃないですかっ!!司令をこうまでして、何を考えてるんだかっ!!!」
「ああ・・・。そうだな」
応えてミサトは刹那だけ驚きに目を見開いた後、ここぞとゲンドウの奮起を促すが、ゲンドウは真実を知らないミサトへ哀れみの溜息をつくだけ。
「そうだなって・・・。悔しくないんですかっ!!こんな所に押し込められてっ!!!こんな理不尽な仕打ちを受けてっ!!!!
 私は畑仕事をする為にネルフへ入った訳じゃありませんっ!!使徒を倒す為に入ったんですっ!!!それは碇司令も同じはずっ!!!!
 しかも、今はその使徒と戦時下の真っ最中だって言うのに・・・。加持の奴ぅぅぅぅぅ~~~~~~っ!!
 私達にはこんな夜遅くまで働かせておきながら、今頃きっと自分は新銀座辺りのクラブで『これも仕事だ』とか言って・・・。
 ホステス達と公費でタダ酒っ!!朝までどんちゃん騒ぎっ!!!・・・きぃぃ~~~っ!!!!腹立つぅぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!!!」
ミサトはゲンドウの不甲斐ない反応に唖然と言葉を詰まらせるも、すぐに言葉を取り戻してゲンドウの奮起を尚も促すべく声を荒げまくり。
「・・・か、葛城三佐、落ち着きたまえ」
「これが落ち着いてられますかっ!!公費でタダ酒ですよっ!!!タダ酒っ!!!!これは立派な横領罪ですっ!!!!!」
「う、うむ・・・。そ、それは確かに犯罪だな・・・・・・。」
「そうですっ!!犯罪ですっ!!!そんな奴にネルフを任せてはおけませんっ!!!!」
その幻想が入り交じった愚痴に顔を引きつらせ、ゲンドウが監視塔の目を気にして興奮するミサトを宥めようとするも全く効果無し。
『18号、52号っ!!何を騒いでいるっ!!!さっさと乗れっ!!!!余計な手間を増やすなっ!!!!!』
「うるさいわねっ!!いちいち、そんな事を言われないでも解ってるわよっ!!!・・・さあ、行きましょうっ!!!!碇司令っ!!!!!」
「あ、ああ・・・。」
案の定、監視塔の駿河から厳しい叱責が飛び、ミサトは全く臆する事なく怒鳴り返すと、怒り肩で皆が待つトラックへゲンドウを連れて向かう。
(・・・加持よ。お前、随分と恨まれてるぞ・・・・・・。
 この際、葛城三佐の事は諦めて・・・。笛井を選んだ方が無難なんじゃないのか?お前等、何だかんだで気があってる様だしな・・・・・・。)
その後ろ姿に苦笑を浮かべた後、駿河は天井を見上げながら今夜は仕事で上の街に居るであろう加持へ深い溜息をついた。


「へぇっ!!・・・へぇっ!!!・・・へぇ~~っぷしっ!!!!」
とあるホテルの一室、トランクス1枚の姿でいた為に湯冷めでもしたのか、体を3度ほど仰け反らせて豪快なくしゃみを炸裂させる加持。
ズズッ!!ズズズズズッ・・・。
「ふっ・・・。何処かの綺麗なご婦人が俺の事を噂にでもしたかな?」
鼻から少し出た鼻水を啜り戻し、加持が取り繕ってニヒルな笑みを浮かべるが、その間抜けな姿を一部始終余すところなく見ていた人物が1人。
「・・・あら、私と一緒に居るのがそんなに不満?」
「おっ!?早かったじゃないか?」
窓際に立って第三新東京市の夜景を眺める加持が後ろを振り向くと、大胆にもホテル備え付けのバスタオルを体に巻き付けただけの笛井の姿。
ちなみに、笛井もお風呂上がりらしく、全身がやや赤み帯びて上気しているが、髪は洗わなかったらしく襟髪がやや濡れている程度。
ガチャッ・・・。
「だって、なかなか会えないんだから時間が勿体ないじゃない。・・・リョウジ君も飲むでしょ?」
笛井はクスクスと笑いながら湯上がりの喉の乾きに冷蔵庫を開け、市販価格よりも割高なビールを加持へ差し出し勧める。
「んっ!?ああ、そうだな・・・。少し飲むとするか」
「はい」
「おっと・・・。サンキュー」
少し迷うも笛井の勧めを受け、加持は笛井が放り投げたビールを受け取り、そのビールの銘柄が『エビチュ』だと知って表情をやや歪めた。
「どうしたの?」
「いや、何でもない(・・・こりゃ、重傷だ。ひょっとすると、さっきのくしゃみは葛城のせいかもな・・・・・・。)」
「そう?なら、良いんだけど・・・。」
そんな加持の様子を怪訝に思って尋ねるが、加持は笛井へ苦笑だけを返して応え、笛井が怪訝を深めながらも敢えて追求せずベット際に座る。
プシュッ、プシュッ!!ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ・・・。
「「ぷっはぁぁぁぁぁ~~~~~~っ!!・・・・・・ぷっ!!?」」
それを合図に栓を開け、2人は喉を鳴らせつつ一頻り飲んで同時に一息つきて顔を見合わせ、息の合った行動が妙におかしく思わず吹き出した。
「あっはっはっはっはっ!!」
              「あっはっはっはっはっ!!」
「あっはっはっはっはっ!!」
              「あっはっはっはっはっ!!」
「あっはっはっはっはっ!!」
              「あっはっはっはっはっ!!」
加持と笛井はたわいもない事なのに何故か笑いが止まらず、お互いの笑い声が相乗効果で更なる笑いを呼び、部屋に笑い声が木霊して溢れてゆく。
「あっはっはっはっはっ!!」
              「あっはっはっはっはっ!!」
「あっはっはっはっはっ!!」
              「あっはっはっはっはっ!!」
「あっはっはっはっはっ!!」
              「あっはっはっはっはっ!!」
だが、加持の笑い声の末尾が不意に酷く疲労感を感じさせる溜息へと変わり、加持は笛井に背中を向けると再び夜景を眺めて真顔で目を細めた。
「はぁぁ~~~・・・。なあ、笛井?」
「んっ!?・・・何?」
「いつか、こう言ったよな?誰も俺達の事を知らない国へ一緒に逃げようと・・・。そして、そこで静かに2人で暮らそうと・・・・・・。」
「・・・え、ええ」
笛井は人差し指で瞳に溜まった涙を拭いつつ軽い気持ちで呼びかけに応えるが、背を向けたままの加持から飛び出てきた言葉に驚き戸惑いまくり。
「あれ・・・。まだ有効か?」
「・・・・・・えっ!?」
しかも、まさかの誘いを加持から持ちかけられ、笛井が思わず茫然と目が点になった後、これ以上なく目を見開いてビックリ仰天するも束の間。
「いや、何でもない。忘れてくれ・・・。どうも、少し疲れてる様だ・・・・・・。」
「・・・リョウジ君」
加持が自虐的な笑みをガラス窓に写して首を左右に振り、笛井は寂しそうな加持の背中へ抱きつきたくなる衝動を必死に抑えて顔を俯かせた。
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
先ほどとは打って変わって2人の間に静寂だけが漂い、部屋が痛いほどの静けさにシーンと静まり返ってゆく。
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
何度となく顔を上げようとするが、加持の背中を見るのが辛く顔を上げれず、笛井が顔を俯かせたまま必死に勇気をフル動員させて尋ねる。
「あの人と・・・。あの人と上手くいってないの?」
「・・・正直、言うとな」
応えて加持は深い溜息をつき、笛井は目を輝かせて嬉しそうな顔を上げるが、他人の不幸を喜ぶ自分が嫌になって俯きを更に深めた次の瞬間。
「そう・・・・・・。」
「っ!?・・・すまん。どうかしていた。許してくれ・・・・・・。」
そのガラス窓に写る笛井の姿を見て、どれほど残酷な問いかけを強いたかに気づき、慌てて加持が上半身だけを勢い良く振り向かせて謝罪する。
「ううん、良いの・・・。謝られると自分が惨めになるだけだから謝らないで・・・・・・。
 それにあなたの心にあの人が住み着いているのを承知であなたを好きになったのは私・・・。だから、悪いのも私・・・・・・。ねっ!?」
しかし、笛井は俯いた顔を左右に振った後、今にもこぼれ落ちそうな涙を瞳に溜めた顔を上げ、加持へ精一杯の笑顔でニッコリと微笑んだ。
「・・・笛井」
「あっ!?んっ・・・。んんっ・・・・・・。」
その痛々しい笑顔に何かを刺激され、たまらず加持は笛井の言葉を塞ぐと共に唇も塞ぎ、そのまま笛井をベットへゆっくりと押し倒してゆく。
「もう、何も言うな・・・。笛井、お前は悪くない。悪いのは俺だ・・・・・・。」
「・・・リョウジ君」
そして、本当に悪いのはどちらかなのかは解らないが、文字通り傷を舐め合う加持と笛井の長い長い全くの謎の夜が始まった。


「はぁぁ~~~・・・。さっぱりした。狭いけど、やっぱり1人でゆっくりと入れるお風呂は良いよね」
お風呂上がりの火照りに暑苦しさを感じつつも同居人を気づかい、寝間着の黒いスエットに着替えてからバスルームより出てくるケイタ。
ちなみに、ここは居住区が満室でそれぞれに割り当てる部屋がなく、1週間ほどの間を仮同居する様に頼まれたムサシとケイタの部屋。
また、いかにも間に合わせらしく間取りは玄関とリビングが直結する1LDKと2人で住むには狭く、バスルームもユニットバスとかなり不便。
「おっ!?やっと出てきたかっ!!?待ってたぞっ!!!?」
「・・・え゛っ!?」
同時にベットの上に胡座をかいて座っていたムサシが目を輝かして立ち上がり、ケイタは反射的にムサシへ視線を向けてビックリ仰天。
何故ならば、ケイタの前にお風呂へ入ってTVを見ていたムサシの姿は、惜しげもなく豊満な胸を晒したトランクス1枚の姿だったからである。
「ほら、邪魔だってっ!!」
「・・・ご、ごめん」
ガチャッ!!バタンッ!!!
そんなケイタの心を知らず、ムサシは茫然とバスルーム前に立ち竦むケイタを強引に押し退け、かなり切羽詰まった様子でバスルームへ入室。
「・・・ム、ムサシ」
すると女の子初心者故の無防備さを感じさせる恥ずかしい音が中から聞こえ、ケイタは真っ赤に染めた顔を思わず背けながらも耳を澄ましまくり。
「ふぅぅ~~~・・・。」
カラカラカラカラカラ・・・。
「っ!?」
しかし、続いたムサシの溜息とトイレットペーパーを巻き取る音に我を取り戻し、慌ててケイタはベットに座って聞いてなかったフリを決め込む。
ガチャッ、バタンッ・・・。
「はぁ、すっきりした・・・って、お前も飲むか?コーラ」
一拍の間の後、ムサシが実に晴れ晴れとした表情でバスルームから現れ、尿意に我慢していた風呂上がりのジュースをと冷蔵庫を開ける。
「う、う、うん、そうだね・・・って、そ、そ、そ、そんな事よりもっ!!
 ム、ム、ム、ム、ムサシぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!?」
ムサシとは違う意味で喉の乾きを覚えるケイタはムサシの勧めに思わず頷くが、その前に解決せねばならない事を思い出して怒鳴り立ち上がった。
「・・・何だよ。いきなり大声なんか出して・・・・・・。」
「な、な、何だじゃないよっ!!ふ、ふ、ふ、服くらい着てよねっ!!!お、お、お、お、お願いだからさっ!!!!」
ムサシは未だ嘗て見た事ないケイタの迫力に気圧されて動きを止めるも、ケイタが何に怒っているのかが解らず戸惑ってキョトンと怪訝顔。
「そうは言っても・・・。この部屋のクーラー、どうも調子が悪くて暑いしな」
「だ、だ、だったらっ!!し、し、し、下着を着けるとかさっ!!!せ、せ、せ、せ、せめて、それくらいしてよっ!!!!」
その表情に愛らしさを感じると共に話が通じない苛立ちも感じ、ケイタはムサシから顔を背けながら同居上での最低限なモラルを切に訴えた。
「はぁ?・・・何、言ってんだ?お前・・・・・・。ちゃんと履いてるだろ?」
「そ、そ、そうじゃなくってっ!!ブ、ブ、ブ、ブラジャーくらいしてよって意味だよっ!!!」
だが、ムサシは怪訝顔を深めてケイタの言葉にトランクスを引っ張り、ケイタが更なる苛立ちに遠回しな言い方は止めて核心を明かした次の瞬間。
「な゛っ!?・・・ケイタ、お前もあいつと一緒で俺を馬鹿にしてるのかっ!!?
 俺は男だっ!!男だぞっ!!!だったら、どうして男の俺が女の下着を着けなくちゃならないんだっ!!!!変だろうがっ!!!!!」
「そ、そうだよね・・・。ム、ムサシがブラジャーを着けたら変だよね。う、うん、変だ・・・・・・。」
ムサシが目をクワッと見開かせて鼻息荒くケイタの襟首を掴み、ケイタは間近に迫ったムサシの半裸を嫌が応なく見せつけられてドキドキ状態。
「だろ?そうだろ?・・・そもそも、女の下着ってのはどっちも窮屈で俺には合わん」
「あっ!?それでも、やっぱり試してはみたんだ?」
「う、うるさいっ!!し、仕方ないだろっ!!!た、退院するまで女の下着しかくれなかったんだからっ!!!!
 ふ、服だって、そうだっ!!ア、アレしかないから仕方なくっ!!!で、でなければ、どうして俺がスカートなんかっ!!!!」
「そ、そうだね・・・。そ、それは仕方ないよね。う、うん、仕方ない・・・・・・。」
その上、ムサシは何気に漏らした言葉をケイタにツッコまれて白い肌を真っ赤に染め、ケイタは羞恥するムサシの姿に脳内麻薬を分泌しまくり。
余談だが、ムサシが退院してイの1番に行った事は、ネルフ内の美容院へ行き、手入れの行き届いた艶やかなロングの髪をショートへと変えた事。
本音を言えば、より男らしい短髪、もしくは坊主頭にしたかったのだが、女性美容師に強く押し切られてショートに甘んじた次第。
続いて行った事は、支給されたショーツ10枚とブラジャー5着をゴミ箱へ捨て、ネルフ内の購買でトランクスを10枚ほど買い揃えた事。
これも本音を言えば、男物の服も欲しかったのだが、さすがに服まで買い揃える金銭的余裕はなく、今は支給された女物の服に甘んじている次第。
更に余談だが、ムサシへ支給された服は5着あり、マヤがこれ等を選定したせいか、どれもこれもが可愛いフリフリのフリルがついたスカート物。
それ故、その中でも比較的まともな第壱中女子制服を選び、ムサシは何処へ行くのも、どんな場合でも常に第壱中女子制服を着ている次第。
そして、この等の服の選定者がマヤとは知らないムサシは、これもシンジの嫌がらせと勝手に判断して更なる復讐心を燃やしていたりする。
「だろ?そうだろ?・・・ったくっ!!大体、マナもお前も久々に会ったって言うのに・・・・・・。」
「ふぅ~~・・・。ふぅ~~・・・。ふぅ~~・・・。ふぅ~~・・・。ふぅ~~・・・。」
照れ隠しに憤慨しまくり、ムサシは尚もケイタへ怒りをぶつけようとするが、ふと素肌にかかる荒く熱い息づかいに気づいて言葉を止めた。
「・・・って、んっ!?」
「っ!?」
その不思議声にハッと我に帰り、ケイタが向けられたムサシの視線に慌ててムサシの胸から顔と視線を上げた途端。
「ケイタぁぁ~~~?」
「な、何だよっ!?い、いきなりっ!!?・・・へ、変な声なんか出しちゃってっ!!!?」
「お前、今・・・。俺の胸を見てただろ?ん~~~~~?」
ムサシがケイタの襟首の拘束を解いて腰に両手をあて、上半身を屈めて下からケイタの顔をニヤニヤと笑いながら覗き込み始めた。
「な、何、言ってるのさっ!?そ、そんなはずないじゃないかっ!!?み、見てなんかいないよっ!!!?」
「だったら、ご立派なソレは何だぁぁ~~~?」
「えっ!?あっ!!?・・・ち、違うんだっ!!!!こ、これはっ!!!!!そ、そのっ!!!!!!」
ケイタはムサシの追求を叫び否定するが、目線だけを下げたムサシの指摘に証拠を突き付けられ、何やら両手を股間へあてがって慌てて腰を引く。
「まっ・・・。自分で言うのもなんだが、なかなかの物だからな」
「・・・だ、だね」
「それに教えてやろうか?俺のって・・・。マナのよりデカいんだぜ?」
「・・・そ、そうなんだ」
ゴクッ・・・。
しかも、ムサシは胸の大きさを誇示するかの様に胸を下から両手で持って谷間を作り、たまらずケイタは生唾を飲み込んで更に腰を引きまくり。
「くっくっくっ・・・。どうやら、体の方は正直な様だな。ほれほぉ~~れぇぇ~~~・・・・・・。」
「な゛っ!?・・・な、何、やってんのさっ!!?や、止めてよっ!!!?ム、ムサシっ!!!!?」
その反応にニヤニヤ笑いを深めると、ムサシは体を左右に振って胸をプリンプリンと揺らしながら絶妙な位置にあるケイタの眼前へ迫り始めた。
「何なら、触ってみても良いんだぞぉ~~?ほれほぉ~~れぇぇ~~~・・・。柔らかいぞぉぉぉ~~~~?」
「な゛っ!?な゛っ!!?な゛っ!!!?な゛っ!!!!?な゛っ!!!!!?」
ケイタは驚愕に目を何度も見開き、腰を引きつつ後退するも背後を壁に塞がれ、遂にムサシの胸の先っちょがケイタの顔へ触れようとしたその時。
ドンッ!!
「うおっ!?」
「ぼ、ぼ、僕っ!!ア、ア、ア、アイスでも買ってくるよっ!!!そ、そ、そ、そ、それじゃあっ!!!!」
たまらずケイタが目をギュッと瞑って猛襲タックルをムサシへ放ち、そのまま一目散に靴も履かず裸足で部屋から駈け逃げ出て行く。
ガシャッ!!バタンッ!!!
「・・・ぷっ!?ケ、ケイタのあの顔・・・。くっくっくっくっくっ・・・・・・。
 ぷぷっ!?ぷぷぷぷぷっ!!?あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!!」
部屋の扉が乱暴に勢い良く閉まると共に、ケイタの反撃に尻餅をついたムサシが、ケイタの最後の顔を思い出して堪えきれず大爆笑するも束の間。
「・・・って、はぁぁぁぁぁ~~~~~~・・・・・・。
 一体、この心に穴がポッカリと空いた様な虚しさは・・・。マナ、やっとお前に会えたと言うのにこの寂しさは何なんだ・・・・・・。」
その大爆笑はすぐにやるせなさを感じさせる溜息へと変わり、ムサシは力無く項垂れて涙をホロリと1粒だけこぼした。


「ビールだっ!!ビールをくれっ!!!」
「俺もっ!!俺にもビールをくれっ!!!」
「私はフルーツ牛乳っ!!フルーツ牛乳よっ!!!」
特別監査部が仮設営したネルフ大浴場前ロビーの購買所へ群がり、手に持った札束を掲げ振りつつ各々の注文を必死に叫ぶ風呂上がりの訓練員達。
「ビールは28000カジっ!!フルーツ牛乳は18000カジだっ!!!」
「何だ、そりゃっ!!昨日より4000も高いじゃないかっ!!!」
「嫌なら買わないで結構っ!!そうそう、今日は限定5本で冷酒もあるぞっ!!!34000カジでご奉仕中だっ!!!!」
「くれっ!!冷酒、くれっ!!!俺が買うぞっ!!!!」
特別監査部のボッタくりに不満の声をあげるも、訓練員達は風呂上がりに乾く喉が欲する誘惑には勝てず1日以上の労働対価を払って泣き寝入り。
余談だが、特別監査部も鬼ではなく、10万を基準として先週の作業査定を加えた労働賃金を訓練員達へ1週間毎に与えていた。
但し、その労働賃金は加持の肖像画が描かれたチープなコピー紙であり、単位も『円』ではなく『カジ』と呼ばれるKランク更正訓練所内通貨。
しかも、ご覧の様にカジ通貨のレートは円に比べて1/100前後であり、どう考えても正当な報酬量とはかなり言い難かったりする。
ゴクッ・・・。
「はぁぁ~~~・・・。」
飛ぶように売れてゆくビールを眺め、ゲンドウはたまらず生唾を飲み込んだ後、右手に持つ紙コップ内のカルキ臭い水道水に溜息をついた。
ちなみに、労働日数がまだ1週間に足りていない為、ゲンドウは0カジも持っておらず、ビールを買いたくても買えない悲しい状況。
その上、昨々日の深夜に行われた訓練員達内のチンチロリン賭博大会で大負けをしており、前借りの前借りで312000カジも借金がある身分。
「碇司令、どうぞ」
「っ!?」
すると缶から汗を滴らせる冷えたビールが目の前に差し出され、ゲンドウは驚愕に目を最大に見開かせながら顔を勢い良く上げた。
「さあ、良く冷えてて美味しいですよ?」
「し、しかし・・・。か、葛城三佐・・・。わ、私は・・・・・・。」
ミサトがニッコリと微笑んで再びビールを勧めるが、ゲンドウはビールから顔を辛そうに背け、無一文で借金まみれの悲しさを必死に耐える。
「ご心配なく。これは私の奢りです」
「な、何っ!?・・・って、い、いやいや、君に奢って貰う理由など私には・・・・・・。」
ならばとミサトはビールをゲンドウの手に握らせ、ゲンドウはこれ以上なく見開いた目を輝かすも、その重すぎる価値に首を左右に振って拒否。
「なら、隣りに座ってもよろしいですか?これはそのお礼と言う事で・・・。」
「あ、ああっ!!す、座ってくれっ!!!よ、予算をケチったせいで固い椅子だが存分に座ってくれっ!!!!」
しかし、ミサトが代価を提案するや否や、ゲンドウはもう返さないぞと言わんばかりにビールを両手で大事そうに缶を包み持って即座に一気飲み。
プシュッ!!ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ・・・。
「ぷっはぁぁ~~~っ!!うまいっ!!!ビールがこれほどにうまいとは・・・。これほど、うまいビールは初めてだっ!!!!」
そして、350mlを半分ほど飲んだ辺りで一息をつき、ゲンドウは感動に打ち震えて顎を上げ、思わずこぼれ落ちそうな涙を必死に堪える。
「そうでしょう、そうでしょう♪ところで、司令に耳寄りな話があるんですが・・・。聞いて頂けますか?」
「ああっ!!聞く、聞くっ!!!君の話なら何でも聞くぞっ!!!!遠慮なく言ってくれっ!!!!!君と私の仲ではないかっ!!!!!!」
その上機嫌ぶりを笑顔でウンウンと頷いた後、ミサトは不意に真顔となって声を潜め、ゲンドウはご機嫌に二つ返事でミサトの願いを快諾。
「では、敢えて申し上げますが・・・。加持二佐の奸計に敗れ、先の戦闘で見せた醜態により、司令の権威は失墜しています。
 ですが、あなたはそれで終わりですか?・・・いいえ、終わって良いはずがありません。あなたには私達を、ネルフを導く義務がある。
 そう、己の私利私欲の為にあなたのお子さんを傀儡に仕上げた加持二佐を打倒し・・・。再びネルフ総司令の座に就く義務が・・・・・・。」
「・・・それで?」
ミサトはここぞとばかりにゲンドウの奮起を促して熱く説き、ゲンドウが雰囲気と表情を一変させてミサトへ鋭い横目を向ける。
「ええ、実は・・・。加持二佐の目に余る非道な行いについて、不満を抱えているのは私達だけではありません。
 ネルフ内にも、言わゆるAランク、Bランクと高待遇を受けている者達の中にも不満は存在するのです。
 しかし、ネルフは軍隊故に一般企業の様な労働組合が作れないのは司令もご承知の通り・・・。
 しかも、頼みの綱である本来の監査部は特別監査部に怯えて盲従する有り様・・・。
 ですから、我々は反加持派を秘密裏に集い、来るべき日に備えてレジスタンスを結成しました。
 ですが、お恥ずかしい話・・・。今まで私が先頭に立ってきたのですが、どうしても実績や経験が足らず、その活動は芳しくありません。
 そこで司令には是が非でも我々の先頭に立って我々を導いて欲しいのです。司令さえ、レジスタンスに加われば必ずや加持・・・って、司令?」
その眼光に在りし日のゲンドウを彷彿させ、ミサトはここが説得どころと尚も熱く説くが、ゲンドウはミサトの話を遮る様に無言で立ち上がった。
「口は付けてしまったが、まだ半分は残っている。・・・これは君に返そう。すまないな・・・・・・。」
「えっ!?・・・それはどういう意味なんですか?」
更に大枚を叩いて手に入れたビールを返された上にゲンドウから謝られ、ミサトが驚きと戸惑いを表情に入り混ぜて謝罪の意味を尋ねる。
「私には関係も、興味もない話だ・・・。今の話は聞かなかった事にしよう」
「し、司令っ!?」
応えてゲンドウは首を左右に振って溜息をつき、ミサトはゲンドウの言葉に驚愕して目を最大に見開かせながら勢い良く立ち上がった。
「葛城三佐・・・。いや、葛城君。私は何の権限も持たない『元』司令だよ。今の司令はシンジだ・・・・・・。」
「な゛っ!?」
挙げ句の果て、ゲンドウは自虐的な笑みを浮かべると、この話は終わりだと背を向けて去って行き、ミサトは思わず茫然と目が点状態。
「・・・あなたはっ!!あなたは悔しくないんですかっ!!!碇司令っ!!!!
 人間らしい扱いも受けず、畑を家畜の様に意味もなく耕す毎日がっ!!碇司令、どうなんですっ!!!応えて下さいっ!!!!」
その不甲斐ない背中に憤りを覚えて慌てて我に帰り、ミサトが特別監査部員達の目も気にせず怒鳴り問うが、ゲンドウが振り返る事はなかった。


「ぬぅ~~・・・。ぬぅ~~・・・。ぬぅ~~・・・。ぬぅ~~・・・。ぬぅ~~・・・。」
深夜も深夜、これ以上の寝不足は明日に支障をきたすと解っていながら、ゲンドウは未だ寝付けず唸りながら何度も寝返りを繰り返していた。
無論、その原因は5日目にしても慣れぬ室内の凄まじい蒸し暑さであるが、最たる原因はお風呂上がりに交わしたミサトとの会話である。
(だが・・・。今更、司令に戻ってどうする・・・・・・。
 冬月に裏切られ、リツコ君に裏切られ・・・。補完計画を発動させたところでユイと会う勇気など・・・・・・。
 何故、何故なんだ。私のシナリオは上手くいってたはずだ。どうして、それがこんな事に・・・。私の10年は何だったんだ・・・・・・。)
寝返りを一頻り打った後、ゲンドウは固く閉じていた瞼を開けて眉間に皺を刻み、天井を見つめながら自問自答するが答えは出てこない。
(俺は・・・。俺はただ会いたかったんだ・・・。もう1度、お前と会いたかったんだ・・・・・・。
 ユイ・・・。俺は・・・。俺は・・・。俺はどうしたら良い・・・。どうしたら、許してくれるんだ。ユイ・・・・・・。)
この無限地獄に激しい焦燥感と果てしない絶望感が募り、たまらずゲンドウが最愛の人であるユイの姿を心に思い描いて縋り付いたその時。
『ダぁ~~メ♪絶対に許してあげないんだから♪♪』
「っ!?」
ごく最近に聞いた様なユイの声が頭の中で鮮明に響き、ゲンドウは驚愕に目をこれ以上なく見開き、思わず上半身を勢い良く起き上がらせた。
『・・・も、もしかして、もうイっちゃったの?』
「はうあっ!?」
それも束の間、更に頭の中で響いたユイの声に奇声をあげ、ゲンドウは背筋をビクビクッと仰け反らせた後、意識を失って粗末な寝床へ逆戻り。
「ふ、ふぅぅぅぅぅ~~~~~~・・・。」
バタッ・・・。
だが、ゲンドウの腰だけはまるで別の生き物の様に尚もビクビクッと反り、何やらゲンドウのトランクスを濡らして妙な香りを漂わせ始めた。


ピシッ!!
「ぬおっ!?」
突如、局部から全身へ焼け付く様な凄まじい激痛が走り、眼球が飛び出るほど目をクワッと見開かせて意識を覚醒させるゲンドウ。
(・・・ぬっ!?これは一体・・・・・・・。
 確か、私は・・・。無理矢理、初号機へ乗せられ・・・。あの見覚えのない奇妙なエヴァと戦っていたはずだが・・・・・・。)
同時にゲンドウは自分が見知らぬ部屋に居り、両手両足をベットに全裸で拘束されている事に気づき、記憶を探るも事態が全く掴めず怪訝顔。
「ゲンドウさん、お久しぶり♪10年ぶりかしら♪♪」
「っ!?・・・ユ、ユイっ!!?」
すると間近で長年ずっと欲していた確かな肉声が耳に届き、ゲンドウが我が耳を疑いながらも唯一自由な首を声がした方向へ向けた次の瞬間。
ピシッ!!
「ぬがっ!?」
ユイが口元をニヤリと歪めつつ革鞭をゲンドウの腹へ放ち、ゲンドウがあまりの激痛に全身を限界まで逆エビ反らして悲鳴をあげる。
ちなみに、ユイは真っ赤なボンデージファッションに身を包み、どう考えても歩き辛い異様に高いヒールを履いてと正にソレ系の姿。
「そう、10年・・・。10年よ・・・・・・。
 言葉にしてみれば、たった3文字だけど・・・。私にとって、あなたの居ない10年は寂しく切ない長い時間だったわ・・・・・・。」
「あ、ああ・・・。お、俺もだ。ユ、ユイ・・・。た、ただ、お前と会う為に・・・・・・。」
それでも、この激痛こそが目の前の光景を現実の証とする事を知り、ゲンドウは歯を食いしばって痛みに耐えつつ痛みとは別種の涙を瞳に溜めた。
「嘘、おっしゃいっ!!あなたにはリっちゃんがいるじゃないですかっ!!!
 しかも、何よ、何よ、何よぉぉぉぉぉ~~~~~~っ!!これ見よがしにあんなビデオまで見せてっ!!!私を馬鹿にしてるのっ!!!!」
だが、ユイはゲンドウの言葉に眉をキリキリと釣り上げ、白々しいゲンドウの口を塞ぐべく更なる革鞭をゲンドウの大事な所へ放ちまくり。
「ぬげっ!?ち、違うっ!!!ふげっ!!!?ち、違うんだっ!!!!!むひっ!!!!!?ユ、ユイ、私の話を聞いてくれっ!!!!!!!」
「ええ、良いでしょうっ!!聞きましょうっ!!!是非、聞こうじゃありませんかっ!!!!あなたの言い訳とやらをっ!!!!!」
現実を再確認し過ぎる激痛に今度は痛みの涙を瞳に溜め、たまらずゲンドウが魂の咆哮をあげて必死にユイを止める。
「う、うむ・・・。じ、実を言うと、あのビデオは・・・・・・。」
「・・・あのビデオは?」
「ま、まあ・・・。そ、その・・・。な、なんだ・・・・・・。そ、そうっ!!シ、シンジが作った偽物で私のそっくりさんなのだっ!!!」
「なぁ~~んだ♪私ったら、てっきり♪♪」
「わ、解ってくれたかっ!?」
その甲斐あってか、鞭を打つのを止めたユイはゲンドウの苦しい言い訳に理解を示してニッコリと微笑み、ゲンドウが胸をホッと下ろすも束の間。
「・・・って言うと思ったっ!?この浮気者っ!!!」
ピシッ!!
「うげっ!?」
再び容赦のない一撃がゲンドウの大事な所へ加わり、ゲンドウが全身を逆エビ反らして悲鳴をあげ、瞳に溜めていた涙を遂に溢れさせる。
「そもそも、このパンツは何なんですかっ!!以前はブリーフを履いてたはずっ!!!
 どうして、それがトランクスに変わってるんですっ!!これ、リっちゃんの趣味なのねっ!!!そうなんでしょうっ!!!!」
「う゛っ・・・。そ、それは・・・。そ、その・・・。つ、つまり・・・。ま、まあ・・・。な、なんだ・・・・・・。」
ユイは足下にあるネコ柄のトランクスを拾い持ち、ゲンドウは突き付けられた己のトランクスに痛みとは別種の汗をダラダラと流しまくり。
何故ならば、ゲンドウがこの年になってブリーフからトランクスへと趣旨変えした理由は、正にユイの言う通りでリツコの趣味だったからである。
もっとも、赤木邸の玄関扉を開けて加持と出会うまではリツコのヒモと言う身分だったゲンドウ。
生活費スポンサーであるリツコの機嫌を損ねる事は命取りとなり、ゲンドウが長年のポリシーを捨ててリツコの趣味に合わせるのも無理はない話。
つまり、この事実は最近の事であり、ゲンドウは他にも様々な影響をリツコから受け、特に最近ではネコが可愛いと思うようになっていた。
「そうなのねっ!!そうなのね、そうなのね、そうなのねっ!!!きぃぃ~~~っ!!!!悔しいぃぃぃぃぃぃぃ~~~~~~~~っ!!!!!」
「よ、止せっ!!や、や、止めるんだっ!!!お、お、お、落ち着けっ!!!!ユ、ユ、ユ、ユ、ユイっ!!!!!」
「問答無用ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~っ!!」
その煮え切らない態度を肯定と受け取り、ユイは可愛さ余って憎さ100倍の絶叫をあげ、ゲンドウの大事な所へ感情の赴くまま苛烈な連続攻撃。
ピシ、ピシ、ピシッ!!
           「ぬお、ぬお、ぬおぉぉ~~~っ!!」
ピシ、ピシ、ピシッ!!
           「ぬが、ぬが、ぬがぁぁ~~~っ!!」
ピシ、ピシ、ピシッ!!
           「ぬげ、ぬげ、ぬげぇぇ~~~っ!!」
鞭の振るう音が部屋に幾度となく響き、それに呼応して絶叫とも呼べる悲鳴をあげ、ゲンドウが全身を何度も何度も逆エビ反らす。
ピシ、ピシ、ピシッ!!
           「ふげ、ふげ、ふげぇぇ~~~っ!!」
ピシ、ピシ、ピシッ!!
           「むひ、むひ、むひぃぃ~~~っ!!」
ピシ、ピシ、ピシッ!!
           「もら、もら、もらぁぁ~~~っ!!」
最早、ゲンドウの大事な所は見るも無惨な姿となり、ゲンドウが半ば意識を失いかけるも、ユイは更なる激痛を与えてゲンドウの意識を強制覚醒。
ピシ、ピシ、ピシッ!!
           「すべ、すべ、すべぇぇ~~~っ!!」
ピシ、ピシ、ピシッ!!
           「ぶべ、ぶべ、ぶべぇぇ~~~っ!!」
ピシ、ピシ、ピシッ!!
           「うげ、うげ、うげぇぇ~~~っ!!」
しかし、さすがに約3分もの全力攻撃に体力の限界が来たらしく、ユイはゲンドウを鋭く睨みつつ攻撃の手を休めて肩で荒く息をつきまくり。
「はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。」
「ううっ・・・。ゆ、許してくれ・・・。ゆ、許してくれ・・・。うっううっ・・・。ユ、ユイぃぃ~~~・・・。うううっ・・・・・・。」
ようやく地獄の責め苦から解放され、ゲンドウは視線を怖ず怖ずと大事な所へ向けて愕然と目を見開いた後、恥も外聞もなく涙ながら必死に懇願。
ゴクッ・・・。
(わ、私って・・・。こ、こっちの趣味もあったのかしら?い、いつも、シンちゃんがこっちの役だったから気づかなかったけど・・・・・・。)
その姿に思わず生唾を飲み込み、ユイはいつしかビニール製故に蒸れ蒸れとなっていたショーツ内に気づき、自分の新たな世界の発掘に戸惑う。
ピシッ!!
「へぶらっ!?」
「っ!?(や、やっぱり・・・。ま、まあ、シンちゃんとのはもっとソフトな奴だけど・・・・・・。)」
ならばと試しの一撃を加えてみると、激痛に飛び跳ねるゲンドウの姿に快感が背筋をゾクゾクッと突き抜け、ユイは自分の新たな境地到来を実感。
「うううっ・・・。た、頼む。ゆ、許してくれ・・・。ユ、ユイ・・・。ううっ・・・・・・。
 リ、リツコ君とは手を切る・・・。ううっ・・・。お、俺にはお前だけなんだ。だ、だから、許してくれ・・・。うっううっ・・・・・・。」
一方、ゲンドウはまさかユイが特殊な悦びを開拓したなどと知る由もなく、懇願に涙と鼻水をダラダラと垂れ流してユイの謎の興奮を煽りまくる。
「ダぁ~~メ♪絶対に許してあげないんだから♪♪」
ピシィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーッ!!
「ほんげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~~~~~っ!!」
ユイは乾いた唇を舌でペロリと舐めつつ妖艶な笑みを浮かべ、ゲンドウは今までにない苛烈すぎる一撃に声が枯れんばかりの絶叫を轟かせた。


「んっ・・・。んんっ・・・・・・。」
深夜と早朝の狭間、全身に金縛りの様な圧迫感を感じ、数度の寝返りを打って次第に意識を覚醒させてゆくムサシ。
「ふぅぅ~~~・・・。ふぅぅ~~~・・・。ふぅぅ~~~・・・。ふぅぅ~~~・・・。ふぅぅ~~~・・・。」
「んっ?・・・・・・っ!?っ!!?っ!!!?」
更に一定間隔で聞こえる耳障りな妙な音がムサシの覚醒を手助け、ムサシは寝ぼけ眼をゆっくりと開けるなり、驚愕に意識を一気に覚醒させた。
何故ならば、腰に馬乗るケイタが寝間着代わりのTシャツを全開に捲り、顔を顕となった胸へ近づけて荒く熱い鼻息を吹きかけていたからである。
その上、何故だかは全くの謎だが、ケイタは全裸姿で何やら右肩を上下に忙しなく動かしているのだから、ムサシが驚くのも無理はない話。
「っ!?」
「な、な、何やってんだっ!?お、お、お、お前っ!!?しょ、しょ、しょ、しょ、正気かっ!!!?」
同時にケイタがムサシの覚醒に目をハッと見開かせて動きを止め、たまらずムサシが答えを解っていながら問わずにはおれず叫び問いた途端。
「ムサシがいけないんだっ!!こんな格好で僕を挑発するからっ!!!僕だって、男なんだっ!!!!馬鹿にしないでよっ!!!!!」
「ば、ば、馬鹿野郎っ!!お、お、お、俺も男だっ!!!ば、ば、ば、ば、馬鹿な真似は止めろっ!!!!」
ケイタが慌てて我に帰り、ムサシの両手首を掴んで逃げられまいとベットへ押し付け、ムサシが万歳する形で身動きが取れぬ様に拘束した。
ちなみに、ネルフからムサシへ支給された衣類の中にはパジャマもあったのだが、ムサシはピンク地でクマさん柄のパジャマなど着れるかと拒否。
もっとも、ムサシには元々パジャマなどの寝間着を着る習慣がなく、以前と変わらずTシャツにトランクス姿を寝間着としたのである。
無論、ムサシがどの様な格好で寝ようとも自由だが、年頃の男の子と同じ部屋で寝起きを共にする格好としてはかなり問題ありな格好。
だからと言って、女の子の寝込みを襲うなど反則であり、ケイタが今行っている事は出る所に出れば犯罪の匂いがプンプンする卑劣極まる行為。
だが、上記にも述べた通り、ムサシにも落ち度があり、決してケイタだけを責める事なかれ。
ましてや、つい先日まで女っ気がこれっぽっちもない軍刑務所へ収監されていたケイタ。
しかも、男の熱い本能の猛りを独り慰めるだけで厳しい懲罰が待ち、僧の様な無我無欲さと潔癖さを強制されるのが刑務所と言うもの。
実際、釈放後は宿泊ホテルの部屋から一歩も外へ出ずに3日間も籠もりきり、朝から晩まで部屋備え付けの有料チャンネルに釘付けだったケイタ。
そんなケイタへムサシは挑発を重ねに重ねたのだから、ケイタが熱き血潮の赴くままに暴走してしまうのも無理はない話。
また、ムサシが何よりも運が悪かった事は、現在のムサシの容姿や雰囲気がケイタの好みとこれ以上なくジャストミートしてしまった事にあった。
「大丈夫っ!!ムサシは可愛い女の子だよっ!!!僕が保証するってっ!!!!」
「ほ、ほ、保証するなっ!!だ、だ、だ、誰が何と言おうと俺は男だっ!!!お、お、お、お、男なんだっ!!!!」
ムサシは必死に拘束から逃れんとするが、悲しいかな元の体の持ち主が非力だった為にケイタの力に勝てず、ただただ虚しく体を藻掻かせるだけ。
ゴクッ・・・。
「・・・ム、ムサシ」
その悩ましく体をクネクネと藻掻かせる姿に何かが刺激され、ケイタがムサシの瞳を覗き込んで思わず生唾を飲み込む。
「そ、そ、その目は何だ・・・。ば、ば、ば、馬鹿な考えは止せ・・・・・・。お、お、お、お、俺は男だぞ?」
ゴクッ・・・。
血走りまくったケイタの瞳の奥の色に危険な物と嫌な予感を感じ、ムサシもまた急速に乾いてゆく喉へ生唾を押し飲み込んだ次の瞬間。
「ム、ムサシぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
「や、止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
深夜と早朝の狭間の静寂に野獣の咆哮と美女の悲鳴が響き渡り、ムサシとケイタは初めての2人の朝を迎えようとしていた。


「えぐっ、えぐっ・・・。ゆ、許してくれ、許してくれ・・・。ユ、ユイぃぃ~~~・・・。えぐっ、えぐっ、えぐっ・・・・・・。」
両足の間に立つユイのヒールの踵で大事な所をこれでもかと踏み付けられ、激痛に首を左右に振りたいのを必死に堪えて咽せ泣き詫びるゲンドウ。
余談だが、どんな責め苦をユイから受けたのかは全くの謎だが、ゲンドウの体には何十本ものミミズ腫れが走り、何百もの紅い斑点が出来ていた。
また、それがどれほど辛い責め苦だったかを物語る様にベット四方と拘束する両手両足の手錠下に巻かれたタオルが血で赤く滲み染まっている。
その上、前衛芸術でも目指したのか、ゲンドウの胸には極太の赤い蝋燭が突き立てられ、今もゲンドウの動作に合わせて蝋を周囲へ飛ばしまくり。
「(もう、たまらないわ・・・。)そうね♪そろそろ、許してあげようかしら♪♪」
「ほ、本当かっ!?ユ、ユイっ!!?」
ユイは何故だかお漏らしをしたかの様に濡れている内股の滴りを人差し指で掬って舐め、妖艶に微笑みつつゲンドウの嘆願にヒールの踵を退けた。
「但し、私を満足させる事が出来たらね♪」
「・・・い、いかんっ!!ユ、ユイっ!!!!お、お前がそんな事をしてはいかんっ!!!!」
ゲンドウは目を喜びに輝かすが、ショーツを乱暴に辛抱たまらんと脱ぎ捨てたユイの意図を悟り、胸の蝋が飛び散るのも厭わず全身で拒否を示す。
「何故です。リっちゃんとはデキても、私とはデキない・・・。そう、おっしゃるんですか?あなたは・・・・・・。」
「・・・ち、違う。ち、違うが・・・。ユ、ユイ、お前はそんな下品な女ではないはずだ。・・・そ、そうだろ?」
たちまちユイは眉をキリキリと釣り上げ、ゲンドウは蘇る恐怖に汗をダラダラと流しつつ勇気を振り絞って己のユイ像を必死に説いて問い返した。
「では、反対に聞きますけど・・・。あなたは私がただ座っているだけの人形とでも思ってるんですか?
 まあ、確かに今は生きていると言い難いけど・・・。私にだって、性欲はあります。なら、シたくなる時があるのも当然の事でしょ?
 それにあなたもとっくに気づいていたはずです。私がさっきまであなたへしていた事は只のお仕置きじゃない事に・・・・・・。そうでしょ?」
「いかんっ!!いかん、いかん、いかんっ!!!いかぁぁぁぁぁ~~~~~~んっ!!!!
 私は何も聞いていないっ!!ああ、何も聞いてないぞっ!!!だから、ユイっ!!!!もう、それ以上は言わないでくれっ!!!!!」
応えてユイはゲンドウへ悲しそうな眼差しを向けるが、ゲンドウは更なるユイの問い返しに聞く耳を持たず猛烈に首を左右に振って返事を拒否。
「良く言うわ・・・。だったら、コレは何なのよっ!!」
ゴスッ!!
その態度に苛立ちを覚え、ユイはゲンドウを冷たく一瞥した後、何やら期待にそそり立って脈打つゲンドウの大事な所へ爪先蹴りを放った。
「うげっ!?
 ・・・って、んっ!?・・・・・・っ!!?な、何故だ・・・。さ、さっきまであれほど・・・・・・。」
壮絶すぎる激痛に目をこれ以上なく見開くゲンドウだったが、痛みが急速に治まってゆくのを感じ、怪訝顔を持ち上げてビックリ仰天。
何故ならば、今さっきまで見るも無惨な姿となり、リツコとの浮気など最早不可能となっていた大事な所が全くの無傷となっていたからである。
「あら?今更、何を驚いているの?ここは初号機の中、私が作ったイメージの世界・・・。だから、私が望めば何だって出来るのよ?
 言って見れば、ヴァーチャル体験の様な物かしら・・・って、もしかして、初号機の中へ取り込まれちゃったのを気づいてなかったの?あなた」
「そ、そうなのかっ!?い、いつ・・・。い、いつ、取り込まれたんだっ!!?ユ、ユイっ!!!?」
ユイはゲンドウの驚き様がおかしくクスクスと笑い、ゲンドウは今知る衝撃の事実に2度ビックリ仰天して尚も詳細を知ろうと叫び尋ねた。
ちなみに、今更の説明で既にお気づきかとは思うが、ここに至る2人の再会劇はゲンドウがエバァmk2との戦闘の際に気絶した直後の事である。
つまり、ここで語られている事はゲンドウの記憶であり、今現在Kランク更正訓練所の男子寮で寝ているゲンドウが夢で見ている回想録。
「まあ、良いじゃない・・・。今はそんな事よりも楽しみましょ♪」
「はうはうふぁっ!!」
だが、ユイはゲンドウの質問を無視してニッコリと微笑み、その場へ両膝をついてしゃがむと、右手でゲンドウの大事な所を優しく包み持った。
「ウフフ・・・。」
「・・・よ、止せ。よ、止すんだ。ユ、ユイ・・・。お、お前は・・・。お、お前は・・・。お、お前はそんな事をしてはいか・・・・・・。」
愛しい人の感触に奇声を上げて快感に浸るが、小さなお口を精一杯に開けたユイの意図を悟り、ゲンドウが何やら驚愕に目を見開いた次の瞬間。
「ん゛っ!?ん゛ん゛ん゛~゛~゛~゛~゛~゛っ!!?」
「キャッ!?」
一体、ユイは何を楽しもうとしていたかは全くの謎だが、ゲンドウから思わぬ反撃を受け、倒しかけていた上半身を勢い良く戻してビックリ仰天。
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
一拍の間の後、ユイは顔に付着した何かを指で拭って茫然となり、ゲンドウはユイから顔を気まずそうに背け、部屋に痛いほどの沈黙が漂う。
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
枕元の目覚まし時計の秒針が時計盤を3回ほど周り、ようやく我に帰ったユイが言葉を取り戻して信じられないと言った顔をゲンドウへ向けた。
「・・・も、もしかして、もうイっちゃったの?」
「す、すまん・・・。」
「・・・で、でも、まだ何にもしてないわよ?」
「す、すまん・・・。」
何がもうイっちゃったのかは全くの謎だが、ゲンドウはユイの顔を直視できず、やや紅く染まった顔を背けたまま何やらひたすらに詫びまくり。
「だらしないわねっ!!ただ触っただけでっ!!!昔もそうだったけど、もっと酷くなってるじゃないっ!!!!」
「す、すまん・・・。」
「それで良く浮気なんか出来たわねっ!!ああ、可哀想っ!!!きっとリっちゃんも苦労してるんでしょうねっ!!!!」
「す、すまん・・・。」
一方、こちらも何故だかは全くの謎だが、ユイはそんなゲンドウに本気で腹を立て、これでもかとゲンドウを怒鳴って蔑み貶し放題。
「シンちゃんなんて、私が泣いて頼むまで許してくれないって言うのにっ!!そんな事だとシンちゃんに笑われるわよっ!!!」
「す、すまん・・・って、な、なに?・・・い、今のはどういう意味なんだ?」
しかし、怒りのあまりユイの口をつい滑って出てきた言葉に驚き、ゲンドウがユイへ驚愕顔を勢い良く振り向けて言葉の意味を再確認する。
「えっ!?・・・あっ!!?」
「ユ、ユイ・・・。お、お前、まさか・・・。シ、シンジと・・・・・・。」
ユイは失言に気づいて思わず口を両手で塞ぎ、その肯定と取れる態度に尚も驚き、ゲンドウは己の想像が嘘であって欲しいと願いつつ更に尋ねた。
「い、いや・・・。え、えっと・・・。そ、その・・・。だ、だから・・・。う、うん・・・。ま、まあ・・・・・・。そ、そうなのかな?」
「・・・ば、馬鹿な。わ、私は悪い夢を見てるに違いない・・・。そ、そうだろ?そ、そうなんだよな?ユ、ユイ」
散々言葉を濁した末、ユイは可愛く小首を傾げて誤魔化そうとするが、ゲンドウは止めどなく涙をルルルーと流して絶望の淵へ真っ逆さまに落下。
「い、良いじゃない。あ、あなただって、リっちゃんやナオコさんと浮気してるんだから・・・。こ、これでお相子って事で・・・。ねっ!?」
「お、お相子って・・・。そ、それとこれとは話がかなり違うだろ。シ、シンジとは血の繋がった親子だぞ?」
「ほ、ほらね?ゲ、ゲンドウさんはリっちゃんとナオコさん、私はゲンドウさんとシンちゃん・・・。お、同じ親子同士でお相子・・・・・・。」
「そ、そういう問題じゃないだろっ!!ユ、ユイっ!!!わ、私が言ってるのはだなっ!!!!」
「だ、大丈夫よ。さ、さっきも言ったけど・・・。
 こ、ここはイメージの世界だから・・・。ヴァ、ヴァーチャル体験、ヴァーチャル体験・・・・・・。ねっ!?ねっ!!?ねっ!!!?」
ならばとユイは開き直って恐ろしく強引な理論を展開するが、ゲンドウの涙が止まる気配はこれっぽっちと言っても良いくらい無かった。


「ムサシ、何処ぉぉ~~~・・・。何処にいるのぉぉぉ~~~~・・・・・・。
 もう、あんな事は2度としないから、許してよぉぉ~~~・・・。お願いだから、許してよぉぉぉ~~~~・・・・・・。」
まだ朝日も顔を見せない深夜とも言える早朝も早朝、静かなネルフ居住区内の通路にエコーがかって響くケイタの涙声。
カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチッ!!
(た、頼むっ!!お、起きてくれっ!!!マ、マナっ!!!!あ、あいつがっ!!!!!ケ、ケイタがすぐそこまで来てるんだっ!!!!!!)
遥か彼方より聞こえてくるケダモノの遠吠えに怯え、ムサシは救いを求めて霧島邸のインターホンボタンを必死にこれでもかと高速連射。
ちなみに、こんな朝っぱらから何やら緊張感のある鬼ごっこを2人がしている理由は以下の通りである。
あのムサシにとって悪夢の様な現実の後、ムサシは己の腰に馬乗るケイタが腰を少し浮かしたのを狙い、強烈な右膝蹴りをケイタの股間へ炸裂。
更にケイタが悶絶して動きを止めるや否や、ムサシは上半身を起き上がらせる勢いの乗った右ストレートをケイタの顔面へ炸裂。
そして、ケイタが悲鳴をあげながら後方へ倒れて腰の上から退くと、すぐさまムサシは着の身着のまま裸足で部屋から逃亡したのである
それ故、早朝でまだ周囲に人気はないとは言え、今現在ムサシはTシャツにトランクスと年頃の女の子が往来を歩くにはかなり問題ありな姿。
また、半泣きとなってムサシを追っているケイタの右目には、ムサシの鉄拳によって罪の証である青タンが見事なくらい鮮々と出来ていた。
「ムサシぃぃ~~~・・・。ムサシぃぃぃ~~~~・・・。僕が悪かったよ。だから、出てきてよぉぉぉぉ~~~~~・・・・・・。」
カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカッ!!
(な、な、何やってんだっ!!マ、マ、マ、マナっ!!!お、お、お、お、起きろってっ!!!!は、は、は、は、は、早くっ!!!!!)
しかし、幾ら押せども霧島邸内からの反応は帰らず、ケダモノの遠吠えは確実に近づき、ムサシの指先は更にヒートアップして超々高速連射。
「ムサシぃぃ~~~・・・。ムサシ、ムサシ、ムサシぃぃぃ~~~~・・・。ムサシぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~~~~~~~~・・・・・・。」
「っ!?」
それでも、やはり天の岩戸は開く気配を見せず、迫り来るケダモノの遠吠えに耐えきれなくなり、ムサシがこの場を放棄しようとしたその時。
ガチャッ・・・。
「・・・だ、誰?」
霧島邸の玄関扉が開いて十数センチにも満たない隙間を作り、その隙間からTシャツにショーツ姿のマナが警戒心の宿った瞳を覗かせた。
「マ、マナっ!?」
「キャッ!?」
ムサシは喜びに電光石火の早業で左足を隙間へ滑り入れ、マナが隙間の死角で見えない突然の不法侵入者に驚いて扉を勢い良く閉める。
「ん゛ん゛っ!?ん゛ん゛ん゛~~~っ!!?
 ・・・お、俺だ。ム、ムサシだ・・・。ド、ドアを開けてくれ・・・。た、頼む・・・。マ、マナ・・・・・・。」
扉に素足を挟まれた激痛に悲鳴をあげそうになるも、ムサシは居場所がケイタに知れてはまずいと歯を食いしばって必死に悲鳴を堪え忍ぶ。
「えっ!?ム、ムサシっ!!?ど、どうしちゃったのっ!!!?こ、こんな時間にっ!!!!?」
「訳は後だっ!!今は早く中へ入れてくれっ!!!」
不審者がムサシと解って警戒心を解き、マナは扉を閉める力を緩めるが、すかさずムサシが更に両手を隙間へ差し入れて扉を開けようとした途端。
「ダ、ダメっ!!」
「ん゛ん゛っ!?ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛~~~っ!!?」
再びマナが何やら非常に焦った様子で扉を勢い良く閉め、今度は両手も扉に挟まれ、ムサシは悲鳴をあげる代わりに涙をポロポロとこぼしまくり。
「ご、ごめん・・・。で、でも、ムサシもムサシだよ。こ、こんな時間に来るなんて非常識だと思わない?」
「・・・そ、それを承知で頼む。ひ、非常事態なんだ・・・。た、頼むから、中へ入れてくれ・・・・・・。」
「で、でも、まだ眠いし・・・。あ、明日で良いじゃん。は、話ならあとで聞くからさ・・・。と、とにかく、今はダメ・・・・・・。ねっ!?」
「あ、あとで、じゃダメなんだ・・・。い、今・・・。い、今じゃないと・・・。た、頼む。マ、マナ・・・・・・。」
その扉越しにも解るムサシの様子に心を痛めるも、マナは扉を閉める力を緩めないどころか、更に力を思いっきり加えてムサシの入室を断固拒否。
「ムサシぃぃ~~~・・・って、あれ?ここは確か・・・・・・。マナの部屋があった所じゃなかったっけ?」
「っ!?っ!!?っ!!!?」
だが、いよいよ間近に迫ったケダモノの遠吠えに恐怖心がムサシの超パワーを目覚めさせ、ムサシは遂に霧島邸の玄関扉を開ける事に見事成功。
「キャっ!?」
「ば、馬鹿っ!!な、何、やってんだっ!!!お、大声を出すなっ!!!!は、早く、中へ入れっ!!!!!」
おかげで、マナはドアノブを掴んだまま前のめりに倒れかけるが、即座に血相を変えたムサシによって腰を力強く掴まれて霧島邸内へ逆戻り。
ドッシィィーーーンッ!!
「くうっ!?・・・けっほっ!!!かっほっ!!!!けっほっ!!!!!かっほっ!!!!!!」
その上、そのまま床へ乱暴に放り投げ捨てられ、マナは背中を強かに打って悲鳴をあげ、ムサシへ文句を言おうにも息が詰まって言葉にならない。
バタンッ!!・・・カチッ!!!ガチャガチャガチャッ!!!!
「ふぅぅぅぅぅ~~~~~~・・・。やれやれ、これで一安心だな。マナ、助かったぜ」
そんなマナを気づかう余裕もなく、慌てて玄関扉の鍵とチェーンロックをかけ、ムサシが胸をホッと撫で下ろして安堵の溜息をつくも束の間。
「助かったぜ、じゃないわよっ!!人を放り投げておいてっ!!!出てってっ!!!!早く、出てってよっ!!!!!」
カチッ!!ガチャガチャガチャッ!!!
「ま、待てってっ!!お、落ち着けってっ!!!い、今の事は謝るから・・・。なっ!!!?なっ!!!!?なっ!!!!!?」
大激怒に復活を遂げたマナがムサシを押し退け、せっかく玄関扉へ施した2重のロックを解き、ムサシを追い出すべくドアノブへ左手をかけた。
「嫌よっ!!私は眠いのっ!!!さっさと自分の家へ帰りなさいよっ!!!!」
「だ、大丈夫だってっ!!お、俺はあいつと違うっ!!!た、頼むから、ここに居させてくれっ!!!!」
その行動に驚愕して目を見開き、ムサシがマナの左手の上に両手を重ね、ドアノブの回転を力一杯に死守するもドアノブが徐々に回転してゆく。
「何、訳の解らない事を言ってんのよっ!!早く、出て行けって言ってるでしょっ!!!聞こえないのっ!!!!」
「な、何だか、安心したら喉が乾いたな・・・。マ、マナ、水を貰うぞ?」
最早、こうなっては実力行使あるのみと悟り、マナの意識がドアノブへ集中した隙を狙い、ムサシはドアノブの死守を放棄して霧島邸内へ入場。
「えっ!?・・・ちょ、ちょっとっ!!?ダ、ダメっ!!!!ダ、ダメだってばっ!!!!!」
「何だよ・・・。水くらい良いだろ?」
たちまちマナは何やら焦りまくってムサシの後を追い、ムサシが今更ながらマナの様子が明らかに変だと気づいて怪訝顔を振り向かせた次の瞬間。
シュッ・・・。
「んっ!?・・・・・・な゛っ!!?」
リビングとキッチンスペースを遮るカーテンが勝手に開き、ムサシは顔を反射的に振り向き戻すなり、目をこれ以上なく見開いてビックリ仰天。
何故ならば、こんな朝早い時間である上、マナは先ほどの会話では寝ていたはずにも関わらず、リビングからシンジが現れたからである。
しかも、シンジはいつものネルフ上士官服の袖に手を通しつつ現れ、遮る物がなく顕となったリビングの床には乱雑に脱ぎ捨てられたマナの衣服。
更に何よりもカーテンを開けた瞬間からキッチンへ漂ってきた体にまとわりつく様な熱気と男女の汗が混ざり合った猛烈な臭い。
これだけの条件が揃えば、今さっきまで霧島邸のリビングで何が起きていたかなど容易く想像がつき、ムサシが驚いてしまうのも無理はない話。
「どうやら、立て込んでいる様だから・・・。僕、帰るよ。
 ドイツのお土産、ちゃんと忘れないで買ってくるから楽しみに待っててね。・・・あっ!?そうそう、今日は学校をサボっちゃダメだよ。マナ」
シンジは目の前に立つ邪魔な驚きのあまり固まったムサシを横へ退けると、まるで何事もなかったかの様に霧島邸の玄関へと向かう。
「えっ!?・・・ま、待ってよっ!!!シ、シンジっ!!!!ム、ムサシなら、すぐ帰るからっ!!!!!だ、だからっ!!!!!!」
ガチャッ・・・。ギィィーーー・・・。バタンッ!!
最悪の状況に茫然となっていたマナは、慌てて我に帰ってシンジを追い呼び止めるが、3歩ほど遅く霧島邸玄関扉が閉まってシンジの姿が消える。
「はっ!?・・・ど、どういう事だっ!!?マ、マナっ!!!?な、何故、あいつがここにいるっ!!!!?こ、こんな時間にっ!!!!!?
 お、お前、寝てたんじゃないのかっ!?さ、さっきだって、俺に眠いって・・・。そ、それがどうしてだっ!!?な、なあ、マナっ!!!?」
同時にムサシも驚きから慌てて我に帰り、頭を左右に振って自分の想像を振り払い、否定が欲しく必死の形相で事の真相をマナへ叫び問いた。
「どういう事だぁぁ~~~っ!!それはこっちのセリフよっ!!!ムサシのせいで帰っちゃったじゃないっ!!!!
 せっかく、良いところだったのにっ!!明日からはシンジと暫く会えないって言うのにぃぃ~~~っ!!!
 大体、この中途半端に火照った体をどうしてくれんのよっ!!こうなったら、ムサシには責任をちゃんと取って貰うからねっ!!!」
応えてマナは般若の形相を振り向かせると、ムサシの元へ素早く駈け戻り、何を思ったのかムサシへ強烈な連続突っ張り攻撃を開始。
「痛っ!?痛っ!!?痛っ!!!?・・・うわっ!!!!?
ボフッ!!
「痛ぅぅ~~~・・・。いきなり、何すんだっ!?マナ・・・って、マ、マナっ!!?」
リビングへあれよあれよと押し入れられ、足を躓かせてベットの上に倒れるも、すぐさまムサシは上半身を起こして目の前の光景にビックリ仰天。
「ほら、ムサシもさっさと脱ぎなさいよ」
シュッ!!
「ぬ、脱いでって・・・。お、お前っ!?な、何、考えてんだっ!!?」
既にTシャツを脱ぎ、ショーツも脱いで全裸となったマナは、妖艶に微笑んでカーテンを閉め、ムサシがマナの要求に驚きを重ねて茫然と目が点。
「もうっ、解ってる癖に・・・。それとも、ムサシは脱がされる方が好き?」
「な゛っ!?・・・や、止めろっ!!?ば、馬鹿な真似は止せっ!!!?マ、マナっ!!!!?」
「ねえ、ムサシはもう自分で触った?ほら、ここをこうやって・・・。こうするとね・・・・・・。」
「や、止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!・・・きゃんっ!!?」
「あはは♪ムサシの声って、可愛いんだ♪♪」
一体、カーテンの向こう側で何が起こっているかは全くの謎だが、ムサシの悲鳴を始業のベルとしてマナの女の子中級講座が始まった。


ジャブジャブジャブ・・・。
「ふっ・・・。まさか、この年でとは・・・。私もまだまだ若いな・・・・・・。」
起床のサイレンが鳴るにはまだ早い時刻、Kランク更正訓練所の洗い場にしゃがんでパンツを洗濯しつつ、満足気な苦笑を浮かべる変なゲンドウ。
余談だが、シンジの『贅沢は敵、苦労は美徳』との言により、この洗い場には洗濯機や洗剤と言う便利な文明の利器は存在しない。
有るのは昔ながらの洗濯板と原油から作った業務用の巨大すぎる泡立たない不便な石鹸のみ。
しかも、洗い場とは名ばかりであり、ここはジオフロント内の美観を兼ねて人工的に作ったKランク更正訓練所敷地内を通る川のほとり。
(それにしても、アレほどの事を忘れていた・・・。いや、自ら記憶を封印したと言うべきか・・・・・・。
 いずれにせよ・・・。許さんっ!!許さんぞぉぉ~~~っ!!!シンジぃぃぃぃぃ~~~~~~っ!!!!
 よくも、よくも、よくもっ!!よくもぉぉ~~~っ!!!私の、私の、私のっ!!!!私のユイを汚したなぁぁぁ~~~~っ!!!!!
 最早、ユイとは会えん・・・。会う勇気がない・・・・・・。だが、しかぁぁぁぁぁ~~~~~~しっ!!
 例え、この身が100万回と朽ちるようともぉぉ~~~っ!!!シンジ、お前だけは必ずや殺してやるぅぅぅぅぅぅ~~~~~~~っ!!!!)
同時に夢で見たユイとの再会劇を思い起こして憎悪の炎がメラメラと燃え、ゲンドウが千切れ破れんばかりにパンツの水を握り絞ったその時。
「あれ、早いんですね?碇司令」
「んなはっ!?・・・そ、そう言う君も早いなっ!!!か、葛城君っ!!!!」
寝起きの洗顔に来たミサトから声をかけられ、ゲンドウは体をビクッと震わせて驚き、勢い良く立ち上がりながら後ろを振り返った。
「どうしたんですか?」
「い、いかんっ!!こ、こっちに来てはいかんっ!!!」
ミサトがゲンドウの様子を不審に思って怪訝顔で近づくが、ゲンドウは羞恥に顔を紅く染めつつ背中へ回した両手にパンツを隠して後ずさり。
一体、ゲンドウが何を恥ずかしがっているのは全くの謎だが、男性が深夜や早朝などの人気のない時間を選び、1人でパンツだけを洗濯する行為。
それを他人に見られる事は幾ら歳を重ねても恥ずかしく、ましてや異性に見られるなど首を吊りたくなるほどに恥ずかしい行為なのである。
「でも・・・。」
「く、来るなと言ってるだろうがっ!!あ、あっちへ行きたまえっ!!!」
するとミサトはますます怪訝顔となって更に歩を詰め、ゲンドウがますます焦り顔となって更に後ずさった次の瞬間。
「後ろは川で危ないですよ?」
「何っ!?・・・ぬおっ!!?」
バッシャァァァァァーーーーーーンッ!!
足場のない川との段差に右踵を置いた為、ゲンドウは背後が川だとミサトの言葉に思い出して振り向くと同時にバランスを崩して川へ転落入水。
「うわっぷっ!?・・・た、助けてくれっ!!!か、葛城君っ!!!!わ、私は泳げんのだっ!!!!!」
バシャバシャバシャバシャバシャッ!!
「へぇぇ~~~・・・。やっぱり、親子ですね。シンジ君も泳げないのを知ってました?」
たちまちカナヅチなゲンドウは混乱大パニックとなってミサトへ助けを求めるが、ミサトはゲンドウの無様な姿をクスクスと笑うだけ。
「そ、そんなの知るかっ!!は、早く、助けてくれっ!!!た、頼むっ!!!!」
バシャバシャバシャバシャバシャッ!!
そんなミサトに本気で腹を立て、ゲンドウは体を必死に藻掻かせて沈みゆく体を何とか浮かせながら怒鳴りまくり。
「でも、そこって・・・。足が着くはずですよ?」
バシャバシャバシャバシャバシャッ!!
それでも、ミサトはクスクスと笑うのを止めようとはせず、口元を左手で押さえつつゲンドウが溺れている場所を右人差し指で指さした。
「だ、だから、どうしたと言うんだっ!!わ、私は泳げないと言ってるだろ・・・って、な、何っ!!?」
バシャバシャバシャバシャッ!!バシャバシャッ・・・。バシャッ・・・・・・。
一拍の間の後、ミサトの言葉が混乱大パニックなゲンドウの脳に届き、ゲンドウが冷静になって立ち上がるとそこは膝下にも満たない浅い場所。
「・・・ねっ!?」
「う、うむ・・・。も、問題ない・・・・・・。」
ミサトは必死に笑いを堪えながら確認に小首を傾げ、ゲンドウが照れ隠しに昔の癖でサングラスを押し上げる動作に指を空振らせる。
「くっくっくっくっくっ・・・。ぷっ!?うぷぷぷっ!!?あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!!
 ひぃ・・・。ひぃ・・・。ぷぷっ!?あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!」
その姿が滑稽で遂に堪えきれなくなり、ミサトはその場へお腹を抱えてしゃがみ込み、時折ゲンドウの顔を見ては大地を右拳で叩いて大爆笑。
(おのれぇぇぇぇぇ~~~~~~っ!!これも、あれも、それも、全てシンジのせいだっ!!!
 殺ってやるっ!!殺ってやる、殺ってやる、殺ってやるっ!!!お前を必ず殺ってやるぞっ!!!!シンジぃぃ~~~っ!!!!!)
ゲンドウはこれ以上ない屈辱感に奥歯をギリリと噛んで耐えつつ、憎悪と言う薪をせっせとくべ、シンジへの復讐心と殺意を轟々と燃やしまくり。
「あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!」
「・・・葛城君」
「ひぃ・・・。ひぃ・・・。ぷっ!?あっはっはっはっはっ!!!」
「葛城君・・・。」
「ぷぷぷぷぷっ!?くっくっくっくっくっ・・・。」
「葛城君っ!!」
「ぷぷっ!?あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!」
「葛城三佐っ!!」
「えっ!?あっ!!?・・・は、はいっ!!!!」
そして、尚も大爆笑するミサトの笑い声を強烈な一喝で止め、ゲンドウは驚き立ち上がったミサトへ射殺さんばかりの鋭い眼差しを向けた。
「私と共にネルフの新たな歴史を作らないか?」
「・・・へっ!?」
唐突に豹変したゲンドウの雰囲気に戸惑い、ミサトが凄まじいゲンドウの鬼気に気圧されて自然と足が1歩、2歩と後ずさってゆく。
「ふっ・・・。解らないのか?昨夜の話を詳しく聞かせてくれないかと言う意味だ」
「は、はいっ!!よ、喜んでっ!!!」
だが、ゲンドウがニヤリと笑いつつ昨夜の提案を持ちかけるや否や、ミサトは喜びに目を輝かせて立ち止まり、ゲンドウへ対してビシッと最敬礼。
(くっくっくっくっくっ・・・。どの程度の組織力があるかは知らんが・・・。私の手にかかれば・・・・・・。
 シンジめ・・・。せいぜい、短い春を楽しむが良い。春の後は冬を・・・。お前にはこの世の有りとあらゆる絶望をくれてやる・・・・・・。)
ゲンドウは早くも灰色の脳細胞を働かせ、政権交代後にシンジが土下座して泣き詫びる姿を想像して愉悦に浸り、更に口の端をニヤリと歪める。
「と、ところで・・・。」
「・・・何だ?」
その尋常でない様子に怯みながらも、ミサトは先ほどのゲンドウの間抜けな姿が愉快で思わず忘れていた事を尋ねずにはおれず怖ず怖ずと尋ねた。
「は、はい・・・。い、言い忘れてたんですけど・・・・・・。さ、さっき、碇司令が川へ落ちた時に何かが下流へ流れていきましたよ?」
「それがどうした・・・って、はっ!?い、いかんっ!!?な、何故、それを早く言わないっ!!!?」
ゲンドウは楽しみを邪魔されて苛立つが、ミサトの質問に両手を確認してパンツが流されたと知るや否や、即座に下流へ向かって猛ダッシュ開始。
なにせ、ゲンドウが所有するパンツは、Kランク更正訓練所へ収監された際に履いていた物と収監時に特別監査部から支給された2枚のみ。
その内の1枚は作業中に肥溜めへ落ちた際に使い物とならなくなり、もう1枚は他人に洗濯を任せた為に妙な菌が付着して履くに履けない危険物。
つまり、先ほどのパンツが最後の1枚であり、その最後の1枚を失ったが最後、ゲンドウは暫くの間をノーパンで過ごさなければならなかった。
何故ならば、312000カジと借金まみれのゲンドウにパンツを購入する余裕はなく、次の生活用品支給日を待たなければならないからである。
「あっ!?司令っ!!?そっちは・・・。」
バッシャァァァァァーーーーーーンッ!!
ゲンドウの予想外な行動に驚き、慌ててミサトがゲンドウを呼び止めるも時既に遅く、ゲンドウは急激に落差した川の深みにはまって沈没。
「うわっぷっ!?・・・た、助けてくれっ!!!か、葛城三佐っ!!!!し、死ぬっ!!!!!し、死ぬぅぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!!!!」
バシャバシャバシャバシャバシャッ!!
「そ、そっちは深いですから、気を付けて下さい・・・って、い、言おうと思ったんですけど・・・。ど、どうやら、遅かったみたいですね」
その溺れて下流へ流されてゆくゲンドウの間抜けな姿を眺め、ミサトは自分達の先行きにかなりの不安を覚えて大粒の汗をタラ~リと流した。


「ふっふ、ふんふんふぅ~~ん♪ふっふ、ふんふんふぅ~~ん♪♪」
既に朝日が顔を覗かせて天に上ろうかとする早朝、バスルームから聞こえてくるご機嫌なマユミのハミング。
ここはネルフ居住区に12部屋あるダミー碇邸の1つであり、マユミが常にシンジの来訪を待って半ば自宅として使用している山岸邸近くの部屋。
霧島邸を退出した後、シンジはレイが待つ本来の碇邸へ帰る道中、かなり朝早い時間にも関わらず何故だか制服姿のマユミと遭遇。
そして、シンジはマユミをこの部屋へ誘い、マナが全くの謎な激しい煮詰まりをムサシへぶつけた様にマユミへこれでもかとぶつけた次第。
その為、いつにない積極的なシンジに最初こそ戸惑ったが、マユミは今までにない爽快な朝を迎える事ができ、今ではこれ以上ない上機嫌ぶり。
「そう言えば、シンジ君。冷蔵庫にジュースが入って・・・ます・・・よ・・・・・・。
 ・・・って、シ、シンジ君っ!?な、何をやってるんですかっ!!?や、止めて下さいっ!!!?」
まだ入浴の途中ではあるがシンジを気づかい、マユミは少しだけ開けたバスルームの扉から顔だけをリビングへ覗かせてビックリ仰天。
何故ならば、マユミが入浴前に細心の注意を払い、リビングに畳み置いた制服の中に隠した下着が、シンジによって発掘されていたからである。
しかも、ベット際に座る全裸のシンジはマユミのショーツを引っ張り伸ばしたり、裏返したりと小難しい顔で穴が空くほど凝視しまくり。
「いやね。どうして、女の子のパンツってこんなに伸びるのかなぁ~~?と思ってさ・・・。山岸さんも不思議に思わない?」
「お、思いませんよっ!!か、返して下さいっ!!!」
羞恥に顔を真っ赤に染めたマユミは、タオルも巻かず全裸のまま慌ててリビングへ駈け入り、素早く自分のショーツをシンジから奪い取った。
なにせ、そのショーツの色は白と乙女の秘密が恥ずかしいくらい目立って一目瞭然なのだから、マユミが慌て焦るのも無理はない話。
「そうかい?・・・それは残念だな」
「ひ、酷いじゃないですかっ!!わ、私がお風呂へ入っている隙にだなんてっ!!!」
するとシンジは悪びれた様子もなく一旦は立ち上がり、今度は怒りに顔を紅く染めて怒鳴るマユミの腰を引き寄せつつ再びベットへ座り戻った。
「ごめん、ごめん・・・。それよりもさ?」
「あんっ!?・・・ダ、ダメ。ダ、ダメです。せ、せっかく、お風呂へ入ったのに・・・。そ、それに学校が・・・・・・。」
向かい合う形でシンジの膝に乗せられたマユミは、突然の事態に戸惑って拒絶しながらも腰を何度もグリグリと円運動させて何やらシンジを誘う。
「山岸さんの胸囲って・・・。どれくらい?」
「・・・えっ!?」
「胸だよ。胸・・・。山岸さんはどれくらいあるの?これくらいだと・・・・・・。」
しかし、マユミの控えめな胸に顔を埋めるシンジが、マユミの誘惑に苦笑する顔を上げて尋ねた次の瞬間。
「え、Aカップですけど・・・。や、やっぱり、シンジ君はマナさんくらい大きい方が良いんですかっ!?」
「うわっ!?」
マユミが腰の円運動をピタリと止め、目をクワッと見開かせたかと思ったら、必死の形相でシンジをベットへ勢い良く押し倒した。
「そ、それなら、安心して下さいっ!!た、確かに今はまだまだ小さいですけど・・・。こ、これからっ!!!こ、これからですっ!!!!
 シ、シンジ君の為に嫌いな牛乳も飲み始めましたし、お風呂に入った時は必ずマッサージをしてますからっ!!
 は、はい、来年にはきっとマナさんくらいには・・・。い、いえ、マナさんより大きくなっている自信がありますっ!!
 い、いいえ、それどころかアスカさんにだって負けませんっ!!で、ですから・・・。で、ですから、それまでは待って頂けませんかっ!!?」
更に両手で掴んだシンジの肩をベットへ押しつけ、マユミはやや涙目でシンジの瞳を覗き込みながら息継ぎなしに捲し立てて訴え問いた。
「え、ええっと・・・。ど、どうして、マナが比較対象になるのかな?」
「・・・だって、シンジ君。マナさんの所ばっかり・・・。今日だって、昨日だって、その前の前の日だって・・・・・・。」
応えてシンジは大粒の汗をタラ~リと流して顔を引きつらせ、マユミがシンジの素朴な疑問に涙目を本格化させて切なそうに顔を歪める。
「(や、やっぱり・・・。監視されてる?)で、でさ、見た感じ。ぼ、僕と山岸さんの胸囲って同じくらいだと思わない?」
「・・・へっ!?で、でも、シンジ君は男の子で胸は・・・・・・。」
困り果てたシンジは汗をダラダラと流しつつ強引に話題転換を計り、マユミが思わず視線をシンジの顔から真っ平らなシンジの胸へ移す。
「いや、僕が聞いてるのは胸のカップサイズじゃなくて・・・。確か、女の子の場合だとアンダーバストって言うんだっけ?そっちの方だよ」
「ああ・・・。」
その隙を狙い、シンジは上半身を起こして元の体勢に戻り、再びシンジの膝の上に乗ったマユミがようやく合点を得て頷く。
「それでさ。これを試しに着けてみようと思ったんだけど、なかなか上手く着けられないんだよね。何かコツでもあるの?」
「え、ええ・・・。ま、まあ、それなりに・・・・・・。」
ならばとシンジは腰元に置いてあったマユミのブラジャーを自分の胸にあてがって首を傾げ、マユミはシンジの突然の奇行に茫然と目が点状態。
「なら、教えてくれない?ブラジャーの着け方・・・。どうも、背中が上手く留まらないんだよね?」
「か、構いませんが・・・。どうして、またブラなんか着けようと思ったんです?」
その上、シンジは背中のホック留めに悪戦苦闘し始め、マユミは茫然としたままながら見かねてシンジを手伝いつつ尋ねずにはおれず尋ねた。
「まあ、それはちょっとした企業秘密って奴かな?・・・あっ!?そうだ。この際だから、山岸さんの制服も着てみて良いかな?」
「は、はぁ・・・。」
シンジは多くを語らず口の端だけをニヤリと歪め、マユミが更なるシンジの奇行願いに大粒の汗をタラ~リと流して生返事を返したその時。
プルルルル・・・。プルルルル・・・。プルルルル・・・。
「んっ!?・・・ちょって待ってて」
ベットサイドのテーブルに置かれたシンジの携帯電話が鳴り、シンジがマユミを膝の上に乗せたまま手を伸ばして携帯電話に出た途端。
「僕だ・・・。どうした?こんな朝早くから・・・・・・。」
(・・・い、いつもながら、目の前で見ても信じられません。ど、どっちが本当のシンジ君なんですか?)
シンジの纏う雰囲気が豹変して瞬く間に緊迫感が部屋に漂い、マユミが自分の知るシンジとは違いすぎる目の前のシンジのギャップに戸惑う。
もっとも、幾ら威圧感を放とうとも、マユミの様に間近で見ない限り、ブラジャーを着けているシンジの姿は只の変態少年とかなり間抜け。
「そう、父さんとミサトさんが・・・。了解した。引き続き、監視を頼む」
ピッ・・・。
「くっくっくっくっくっ・・・。(昨夜の報告を聞いて、一時はどうなるかと思ったけど・・・。面白いくらいに僕のシナリオ通りだね)」
「・・・ど、どうしたんですか?」
短い電話の後、シンジは邪気を隠そうとせずに怪しく含み笑い、マユミが恐怖に汗をダラダラと流しながら怖ず怖ずと声をかける。
「なに、大した事じゃないよ。僕が作曲した曲に愚かな2人が間抜けなワルツを踊ってるだけさ・・・。
 くっくっくっくっくっ・・・。あっはっはっはっはっ!!はぁ~~はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!」
シンジはマユミの疑問に意味不明な比喩で応えると、含み笑った後に顔を右手で覆い隠しつつ天井を見上げて笑い、更には肩を震わしての高笑い。
「(こ、怖いですぅ~~・・・。)そ、そう言えばっ!!」
「んっ!?・・・何?」
「は、はい・・・。え、ええっと・・・・・・。そ、そうだっ!!こ、この前の戦い、凄かったですねっ!!!シ、シンジのお父さんっ!!!!」
その邪悪なオーラ全開な高笑いに怯え、たまらずマユミが叫んでシンジの高笑いを止め、必死に話題を探してシンジの気を逸らそうと試みる。
「ああ、アレね。・・・確かにさすがの僕もアレには驚いたよ。取りあえず、街に被害が無かったのは不幸中の幸いかな?」
(あうあうぅ~~・・・。や、藪蛇ですぅぅ~~~・・・・・・。)
だが、シンジはますます邪悪なオーラを身に纏ってニヤリと笑い、マユミはそんなシンジの顔は見たくないとシンジへ力強くギュッと抱きついた。


『さあ、父さん。いよいよ、トドメだ・・・って、あれ?やれやれ、これくらいの事でだらしないね。困ったものだよ』
(・・・ま、正に因果応報だな。や、やはり、悪い事は出来んよ。い、碇・・・・・・。)
予想を遥かに超えるシンジの仕打ちに身をブルルッと震わせ、ゲンドウと共に歩んできた10年を悔いつつ、ゲンドウの冥福を黙祷で祈る冬月。
ブーーー、ブーーー、ブーーー、ブーーー、ブーーーッ!!
「どうしたっ!?」
しかし、発令所に警報がけたたましく鳴り響いた驚きに目を見開き、慌てて冬月が司令フロアの手摺りから身を乗り出して階下へ叫び尋ねた直後。
『ぐわっ!?』
ピシッ!!ピシピシピシッ!!・・・ブシュゥゥゥゥゥーーーーーーッ!!!
シンジが頭を両手で抱えながら体を一気に仰け反らせ、同時にシンジが被るマスクに亀裂が走り、その隙間からLCLが勢い良く噴き出した。
「シ、シンジ君っ!?」
『そんな理屈っ!!納得、出来ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~んっ!!!』
反射的に後ろへ振り返るも、続いてゲンドウの魂の咆哮が轟き、冬月が再び反射的に前方へ振り向き戻ったその時。
ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!
「・・・ぬおおっ!?」
凄まじい爆裂音が轟くと共に強烈な光が発令所のモニターを白く焼き、少し遅れてマグニチュード6並の揺れが発令所を襲った。
カランッ!!
「予備電源に切り替えろっ!!・・・状況はっ!!?」
発令所が非常灯に赤く染まる中、シンジが激しい揺れに臆する事なく司令席の上へ立ち上がり、マスクを忌々し気に脱ぎ投げ捨てて状況を求める。
「詳細は不明っ!!未だ嘗てない強力なATフィールドですっ!!!」
「光波、電磁波、粒子も遮断していますっ!!何もモニター出来ませんっ!!!」
日向と青葉は椅子にしがみ付いて揺れを踏ん張り耐え、シンジの要請に応えんと果敢にキーボードを叩きまくり。
「なら、さっさと衛星に切り替えろっ!!それくらいの判断が出来ないのかっ!!?」
「「も、申し訳ありませんっ!!」」
その甲斐あってか、発令所が通常灯へ切り替わるが、シンジは揃って要領を全く得ない報告に苛立ち、日向と青葉が更にキータッチ速度を上げる。
「映像、出ますっ!!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「おおっ・・・。」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
一拍の間の後、青葉の報告と共に白いだけのモニター映像が変わった途端、発令所の誰もがモニターの光景に驚いて思わず息を飲む。
第三新東京市上空を飛ぶ人工衛星より撮影された市内周辺全景図、ネルフ本部真上の0地点より南側の芦ノ湖北東部に出来た巨大な薄白い真円。
その中心に座するは大地に仰向けとなって倒れ、手足をジタバタと上下させつつ、首を左右に振りまくって何やら駄々をこねているらしき初号機。
戦いの最中に気絶した後、ユイとの邂逅を果たしたゲンドウは、シンジからシンクロを奪い取り、感情の赴くままATフィールドを広域放射。
そのATフィールドは日向が報告した通り、未だ嘗てないほどの強烈な物となり、フィールド内の空間にプラズマ化現象を大発生させて大爆発。
当然、これほどのATフィールドを間近で受けたエバァmk2は、大爆発の超々熱量に驚く暇と反撃する間もなく瞬時にして塵も残らず蒸発。
しかも、ゲンドウはATフィールドを尚も放出し続け、大爆発後に連鎖爆発を巻き起こしながら周囲へ薄白い真円を徐々に広げていた。
その大きさは既に直径3kmを越え、芦ノ湖と接触する外周部からは水蒸気が濛々と立ち上り、このままでは確実に第三新東京市市内へ迫る勢い。
余談だが、上記でエバァmk2が瞬時にして塵も残らず蒸発したと書いたが、同時にトウジも蒸発した訳ではない。
なにせ、国家予算を遥かに越える予算で死地より不死鳥の如く蘇ったトウジは、スペック的に超高温度の1万度にも耐えうる超高性能サイボーグ。
ましてや、トウジが搭乗するエントリープラグは大気圏突入の摩擦熱にも耐えた実績があるグングニルの槍の装填部品。
但し、これ等はあくまでハード面の保証であり、トウジの痛みや感情を司るソフト面などでの保証は全くない。
実際、トウジは爆発直後に気絶しており、エントリープラグ内の沸騰するLCLに人工皮膚が溶け、今現在はメタリックなトウジとなっていた。
「シンジ君、まずいぞ。このままでは一般居住地区に被害が及ぶ」
「ええ・・・。来るべき決戦を控えた今、市民を敵に回すのは頂けませんね」
「どうする?何とかせねば、シナリオの大幅変更が必要だぞ?」
「・・・とは言え、あれほどのATフィールドですからね」
「ああ・・・。零号機、弐号機のATフィールドで中和としても難しいな」
揺れも収まって我に帰り、冬月はシンジへ神妙な顔を向け、シンジと階下に声が聞こえぬ様に小声でヒソヒソと何やら意味深な密談。
「・・・こうなったら、考えるまでもなく仕方ありませんね。
 現時刻を以て、ネルフ司令代理・碇ゲンドウを破棄っ!!同時に第17使徒と碇ゲンドウを識別、目標とするっ!!!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「・・・え゛っ!?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
シンジは腕を組んで悩んだ末、初号機をビシッと指さして邪悪そうにニヤリと笑い、発令所全員がシンジの命令に驚愕顔を司令席へ一斉に向ける。
「青葉一尉、国連極東方面第3司令として国連極東方面軍司令部へ通達っ!!
 直ちにアジア宙域の全キラー衛星を一斉発射っ!!全てのレーザーを一点集中させたピンポイント攻撃で目標を殲滅せよっ!!!」
更に間一髪を入れず、シンジは我が耳を疑っている発令所全員へ前言の本気さを実証する続けざまの命令を放った。
「シンジ君っ!?それは幾ら何でもっ!!?」
「待ってっ!!今、私が何とかするからっ!!!あと1分・・・。いえ、あと30秒だけ待ってっ!!!!」
「そうよっ!!あんた、自分が何を言ってるか解ってるのっ!!?自分の父親を殺すって言ってるのよっ!!!?」
慌てて冬月とリツコとミサトが反対を叫ぶが、シンジはLCLで濡れた髪を撫でてオールバックにしながらニヤリと笑うのみ。
「ふっ・・・。問題ない」
「な゛っ!?・・・何が問題ないよっ!!!大ありじゃないっ!!!!例え、シンジ君でもいい加減にしないと本気で怒る・・・。」
その笑みに一瞬だけ絶句するも、たちまちミサトは言葉を取り戻して怒髪天となり、シンジがお約束の天井から垂らされた荒縄を引いた次の瞬間。
シャコンッ!!
「わよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
突如、ミサトの足下の床が左右に素早く開き、足場を失ったミサトは直下に出来た奈落へ落ち、絶叫だけを残して発令所から瞬時に姿を消す。
「ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~・・・。」
ドッポォォォォォーーーーーーンッ・・・。
その絶叫は3秒ほど続いて次第に小さくなった後、奈落の底で何かが何処かへ着水した様な音が発令所へ届く。
シャコンッ!!
「「「「「あわわわわわわわわわ・・・。」」」」」
そして、いつもの如く何事も無かった様に床が元に戻り、冬月達はその床を茫然と見つめたまま、ただただ口をパクパクと開閉させる。
「さて、リツコさん?」
「・・・な、何?」
発令所の全員もまた茫然となり、暫しの静寂の時が発令所に流れるも、シンジが静寂を打ち破ってリツコを呼ぶ。
「ご要望通り、30秒間だけ待ちました。さあ、献策を・・・。」
「・・・えっ!?」
慌ててリツコは我に帰って司令席を見上げるが、未だ茫然から立ち直れない頭脳はシンジの言葉を理解できずキョトンと不思議顔。
「どうやら、その様子だと代案はないようですね・・・。では、行ってらっしゃい」
「・・・へっ!?」
シンジは左手をお約束の荒縄へ伸ばして溜息をやれやれとつき、ますますリツコが不思議顔を深めた次の瞬間。
シャコンッ!!
「こ、この人でなしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
突如、リツコの足下の床が左右に素早く開き、足場を失ったリツコは直下に出来た奈落へ落ち、絶叫だけを残して発令所から瞬時に姿を消す。
「ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~・・・。」
ドッポォォォォォーーーーーーンッ・・・。
その絶叫は3秒ほど続いて次第に小さくなった後、奈落の底で何かが何処かへ着水した様な音が発令所へ届く。
シャコンッ!!
「「「「あわわわわわわわわわ・・・。」」」」
そして、再び何事も無かった様に床が元に戻り、冬月達はその床を茫然と見つめたまま、ただただ口をパクパクと開閉させる。
「そう言えば、冬月先生?」
「っ!?・・・な、何だねっ!!?」
シンジはうるさい2人が居なくなった事を満足そうにウンウンと頷くと、残った最後の反対者である冬月をニヤリと笑いながら呼んだ。
「まさかとは思いますが・・・。冬月先生も僕の作戦に反対なんですか?そんな事ありませんよね?」
「あ、当たり前じゃないかっ!!シ、シンジ君っ!!!わ、私は君の作戦に賛成だぞっ!!!!あ、ああ、大賛成だともっ!!!!!」
過剰なまでに体をビクッと震わせて素早く振り返った冬月は、未だ荒縄を握るシンジの左手に怯え、保身に走って意見をあっさりと覆す。
「・・・良かった。きっと冬月先生なら解ってくれると信じてました」
「う、うむ・・・。わ、私もシンジ君を信じてるぞ・・・。(す、すまんな・・・。か、葛城三佐、赤木博士・・・・・・。)」
するとシンジは左手を荒縄から放してニッコリと微笑み、冬月は犠牲となった2人へ心の中で詫びながら胸をホッと撫で下ろした。
「・・・なに、心配しなくても大丈夫ですよ。
 当然、あの爆発で中は相当の土埃が舞い上がっているでしょうから・・・。レーザーがATフィールドを貫いても命中時の威力は半分以下。
 それに初号機の装甲を甘くみてはいけません。・・・覚えてませんか?僕はそれ以上の、第五使徒の加粒子砲を受けて無事だったんですよ?
 そして、父さんを第17使徒と称したのは言うまでもなく特務権限を使う大義名分の為・・・。そうでもしなければ、手続きが面倒ですからね」
それでも、冬月は良心の呵責で表情から苦さを消す事が出来ず、シンジが冬月らしい潔癖さに苦笑を浮かべつつ自分の意図を懇切丁寧に諭す。
「・・・そ、そうだな。こ、この際、ユイ君が無事なら・・・。ま、まあ、それで良いか・・・・・・。」
「ええ、その通りです。せいぜい、父さんが苦しむだけ・・・。もしかしたら、あの時の僕の様に多少の記憶の混乱が有るかも知れませんけど」
こうして、ネルフのトップ2人がGOサインを出した事により、約3分後にレーザー攻撃が初号機へ放たれ、第16使徒戦は終焉の幕を閉じた。


「すぅ~~・・・。すぅ~~・・・。すぅ~~・・・。すぅ~~・・・。すぅ~~・・・。すぅ~~・・・。すぅ~~・・・。すぅ~~・・・。」
陽が登り切って既に朝とは言えない時刻、去り際のシンジに釘を刺されたにも関わらず、今日も学校をサボって安らかな寝息を立てているマナ。
「ち、違う・・・。お、俺が望んでいたのはこんなんじゃない・・・・・・。
 お、俺が望んでいたのは・・・。お、俺が望んでいたのは・・・。お、俺が望んでいたのは・・・。ち、違う。ち、違うんだ・・・・・・。」
そんなマナを腕枕してベット右隣に寝そべり、ムサシは虚ろな瞳で天井を見上げ、先ほどから機械的にひたすらブツブツと同じ言葉を呟いていた。
ちなみに、2人分の衣服や下着が床に散乱しているところを見ると、マナとムサシは仲良く全裸でベットに寝ているらしい。
また、何故だかは全くの謎だが、2人が夜食に食べ残したのか、太めの魚肉ソーセージが異様な存在感を放って床に1本だけポツンと落ちている。
「んっ・・・。んんっ・・・。シンジぃぃ~~~♪」
「ううっ・・・。うっ・・・。うううっ・・・。うっううっ・・・。ううっ・・・。うっうっ・・・。うっ・・・。うううううっ・・・・・・。」
しかし、マナがムサシへ頬を擦り寄せながら寝言にシンジの名をご機嫌に呟いた途端、ムサシは止めどなく涙をルルルーと流して嗚咽に沈黙した。




- 次回予告 -

第二東京の新国際空港を離陸し、一路ドイツへ向かうシンジご一行様。    

しかし、ドイツに降り立った3人の中にシンジの姿はなかった。       

やたら素直で可愛くなっているアスカに戸惑うアスカ父。          

そして、ハミングは運命の出逢いを呼び、銀髪の少年は初めての感情に心躍る。


次回 ゲドウ2世 第5話

シ ンジ、渡独

さぁ~て、この次も地球の平和を守る為、僕のしもべ達に命令だっ!!

「「「やぁっ!!」」」

注意:この予告と実際のお話と内容が違う場合があります。



後書き

ええっと、くれぐれも誤解のない様に明言しておきますが・・・。
Aパートのタイトル後のシーンでミサト有能説を唱えていますが、これはミサト無能説を唱えるSSに喧嘩を売っている訳ではありません。
ただ、何事も北と南、N極とS極の様に正反対の解釈があり、100人いれば100通りの解釈があるんですよと言いたかったのです。
・・・で、それはともかく。
次回のタイトルが次回予告にもある通り『シンジ、渡独』なんですが、妙に語呂が悪いですよね(笑)
ひょっとして、『渡?』と言う表現は『渡米』限定なのだろうか?


(予告はゲドウ2世オリジナルの物です)

感想はこちらAnneまで、、、。


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