ウィーーン・・・。ガシャンッ!!
道路に偽装されていたハッチが開き、台座に固定されたまま地上へと勢い良く打ち出される初号機。
ドゴッ!!!
「はうっ!?」
同時に慣性の法則に従って体が跳ね、脳天をエントリープラグ天井部分に打ち付け、戦う前から白目を剥いて沈黙してしまうゲンドウ。
「あっはっはっはっはっ!!ダ、ダメじゃない。ちゃ、ちゃんと操縦桿を握ってなきゃ・・・。マ、マヤさん、父さんを起こしてくれませんか?」
『りょ、了解・・・。』
バチッ!!バチバチバチバチバチッ!!!
「ぬおっ!?」
涙が出るほど爆笑するシンジはゲンドウの逃避を許さず、マヤへ命じてエントリープラグ内に強烈な電流を流してゲンドウの意識を強制覚醒。
「困るなぁ~~・・・。あまり手間をかけさせないでよ。息子として恥ずかしいじゃないか」
「むっ!?シンジ、貴様・・・って、ここは何処だ?」
だが、脳天直撃な衝撃で記憶を無くしたらしく、ゲンドウは未だ嘗て体験した事のない目線が妙に高い光景をキョロキョロと見渡して怪訝顔。
「やれやれ、年は取りたくないもんだね。さっき、言ったばかりじゃないか・・・。
初号機だよ。初号機の中。・・・で、ここはD-17射出口。あれが零号機と弐号機で・・・。あっちが倒すべき僕等の敵」
シンジはそんなゲンドウに苦笑を浮かべつつ、プラグ内壁スクリーンに映る第三新東京市の光景にチェックマークをご丁寧に入れて状況説明。
「初号機?・・・はっ!?ま、待てっ!!!シ、シ、シンジっ!!!!お、お、お、落ち着けっ!!!!!
う、うむっ!!ま、まずは落ち着いて話し合おうっ!!!こ、これからの事を2人でゆっくりと話し合おうっ!!!!」
するとゲンドウの脳裏に赤木邸玄関の扉を開けて以来の記憶が蘇り、ゲンドウは必死の形相を通信ウィンドウへガブリ寄せて叫びまくり。
「落ち着くのは父さんの方だろ?ほら、操縦桿をちゃんと握って・・・。さもないと、今みたいにまた頭をぶつけるよ?」
「わ、解ったっ!!に、握るから話し合おうっ!!!い、今、私達に必要なのは話し合う時間だっ!!!!」
ますますシンジは苦笑を深め、ゲンドウが今はシンジの勧告に従うべきだと素直にシートへ座り直して操縦桿を握り締めた次の瞬間。
シャコン、シャコン、シャコンッ!!
「むむっ!?・・・な、何をするっ!!?シ、シンジっ!!!?」
シートからチタン製の拘束金具が素早く現れ、手首、足首、ウエストを拘束されたゲンドウは、目をこれ以上ないくらい見開いてビックリ仰天。
「何って・・・。単なるちょっとキツいシートベルトだよ。僕としても心苦しいんだけど・・・。そこで暴れられても困るしさ」
「よ、止せっ!!お、落ち着くんだっ!!!は、早まらず、まずは話し合おうっ!!!!た、頼むから、馬鹿な真似は止めるんだっ!!!!!」
シンジは肩を竦めてクスクスと笑い、その邪悪さ漂う笑みに背筋をブルルッと震わせ、ゲンドウが尚も話し合いによる解決を求めた途端。
「止めて・・・か・・・・・・。あの時、僕もそう言ったよね?」
「・・・あ、あの時?」
シンジの笑みがニヤリ笑いへと変わり、ゲンドウが豹変したシンジの雰囲気に戸惑いながらも、シンジの言わんとする事が全く解らず問い返す。
「でも、父さんは何も応えてくれなかった。おかげで、ご覧の通り・・・。トウジはあの様さ」
「シンジぃぃ~~~っ!!何処やぁぁぁ~~~~っ!!!何処に隠れとるんやぁぁぁぁ~~~~~っ!!!!」
応えてシンジは溜息をついてエバァmk2との通信ウィンドウを開き、自分の顔の隣に目を野獣の様に血走りまくらせるトウジの顔を映し出した。
ちなみに、この通信はエバァmk2から初号機への一方向通信の為、トウジが乗るエバァMk2には初号機からの通信ウィンドウは開いていない。
「はっ!?・・・し、仕方なかったんだっ!!?だ、だって、そうだろっ!!!?あ、ああでもせねば、お前が死んでいたんだぞっ!!!!?」
「仕方ない・・・か・・・・・・。でも、これも仕方ない事だよね?」
即座にシンジの言わんとする事が解り、ゲンドウが第13使徒戦での正当性を説くが、シンジはますます口の端をニヤリとつり上げるだけだった。
『な゛っ!?・・・ふ、冬月、頼むっ!!!た、助けてくれっ!!!シ、シンジは狂っているっ!!!!と、止めてくれっ!!!!!』
(まっ・・・。自業自得だな。せいぜい、今までシンジ君にした事を悔やむと良い・・・・・・。)
最早、これ以上の説得は無駄と悟り、ゲンドウは己の右腕である冬月へ庇護を求めるが、冬月は黙祷するかの様に目を静かに瞑って無視。
『人間、狂って結構っ!!それが戦争と言う物さっ!!!・・・さあ、赤木博士っ!!!!』
『ま、待てっ!!リ、リツコ君、何をする気だっ!!!わ、私は君を信じてるぞっ!!!!だ、だから、頼むっ!!!!!』
シンジは邪悪なオーラ全開にニヤリと笑いつつリツコへ指示を与え、ゲンドウがつい昨夜も愛を確かめ合ったリツコならばと必死に泣き叫び縋る。
「・・・せ、先輩?」
「マヤ、何をしているのっ!!司令の言葉があったでしょっ!!!早く、システムを解放しなさいっ!!!!」
「りょ、了解っ!!」
その姿に心を動かされ、マヤが体ごと困り顔を振り向かすが、目を力強くギュッと瞑るリツコはマヤを怒鳴って正面へ向き直る事を強要。
『・・・な、何故だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!』
(ごめんなさい・・・。ゲンドウさん・・・・・・。)
我が目を疑うまさかの展開に刹那だけ茫然とした後、ゲンドウは拘束された体を藻掻かせつつ魂の咆哮をあげ、リツコがゲンドウから顔を背ける。
ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!
『(う~~~ん・・・。やっぱり、さっきのビデオが効いてるみたいだね)さあ、全ての準備は整いましたよ。葛城三佐』
初号機もゲンドウに合わせて魂の咆哮をあげ、その明らかにゲンドウとは違う種の咆哮に苦笑を浮かべ、シンジはミサトへ最後の指示を出した。
『か、葛城三佐、頼むっ!!き、君の言葉なら、シンジも聞いてくれるっ!!!シ、シンジを止めてくれっ!!!!』
「い、いや・・・。そ、それが・・・。そ、その・・・。え、ええっと・・・・・・。」
すぐさまゲンドウは叫んでいる暇などないと一縷の希望を託してミサトへ縋り、ミサトが視線を交互にシンジとゲンドウへ向けて困り果てる。
『やあ、困りましたね。なら、ここは日向一尉に指揮を執って貰い、戦意のない葛城三佐は邪魔ですから発令所より退場して貰いましょうか?』
「えっ!?・・・あっ!!?はっ!!!?」
シンジはミサトを見据えて落胆の溜息をつき、その溜息の理由が解らず戸惑うも、ミサトは背筋を走った殺気に勢い良く振り返ってビックリ仰天。
何故ならば、司令席の上に胡座をかいて座るシンジの左腕が、天井から垂らされた奈落行きの荒縄をしっかりと握っていたからである。
「さ、最終安全装置解除っ!!エ、エヴァンゲリオン初号機、リフトオフっ!!!」
『のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!』
血相を変えて振り向き戻ったミサトは、あっさりと情などかなぐり捨てて叫び、ゲンドウが全ての希望が潰えた事に再び魂の咆哮を轟かす。
『くっくっくっ・・・。父さんに見せてあげるよ・・・。安全な穴蔵では決して味わえない真の恐怖を・・・・・・。
そして、実感すると良い・・・。司令席から偉そうに見下ろすモニター越しでは決して味わえない命のやり取りと言う物をね・・・・・・。』
そして、シンジが含み笑いを響かせ、発令所の面々がゲンドウを通じて放たれた毒気たっぷりなシンジの嫌みに思わず押し黙った次の瞬間。
「き、消えたっ!?」
『ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!』
初号機の姿がモニターから瞬時に消え、驚きに目を見開くミサトが初号機の姿を求めるもその姿はなく、ゲンドウの絶叫だけが発令所に木霊した。
「ちょ、ちょっとっ!?ファ、ファーストっ!!?」
「い、嫌・・・。い、嫌なの・・・。ジャ、ジャージはあなたに任せるわ。だ、だから、碇君は私に任せて・・・・・・。」
恐怖のあまり脇目もふらず逃げた為、間抜けにもアンビリカルケーブルが限界距離に達してしまい、退路はあれども退路のない弐号機と零号機。
しかも、左右にはビルが建ち並び、前傾姿勢で両手をダラリと垂らして前方より近づいてくるエバァmk2を避けるには前へ進むしかない状況。
もっとも、アンビリカルケーブルを切断して後方へ逃げ、活動限界の1分弱に希望を見出すと言う方法もなくはない。
しかし、エバァmk2は使徒との融合によって無限の動力『S2機関』を得てしまっている為、それはどう考えても分の悪すぎる賭であった。
おかげで、レイとアスカは少しでも恐怖から逃れるべく交互にお互いの背中へ回り合い、相手を恐怖に対する盾とする醜い争いの真っ最中。
「な、何、言ってんのよっ!!シ、シンジはあたしの・・・って、キャっ!!?」
ドッシィィーーーンッ!!
極限状態での葛藤の末、遂にレイは忍び寄る恐怖に耐えきれず悪魔の囁きに耳を傾け、零号機の両手で弐号機を前方へ勢い良く突き飛ばした。
「い、痛ぅぅ~~~っ!!・・・ファ、ファーストぉぉぉぉぉ~~~~~~っ!!!」
「も、問題ないわ・・・。」
その不意打ちに弐号機は見事なくらい前倒しに倒れ、涙目のアスカが痛む鼻っ面を押さえ、レイのまさかの行動に激怒の雄叫びをあげた次の瞬間。
ガシッ、ガシッ!!
「えっ!?・・・あっ!!?」
即座に立ち上がり戻ろうとしていた弐号機の両肩が力強く押さえ付けられ、アスカは前方へ視線を向けるなり愕然と目を最大に見開いた。
「がっはっはっはっはっ!!もう、鬼ごっこは終いやっ!!!惣流ぅぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!!」
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
トウジは勝利の高笑いをあげ、400メートル近く伸ばしたエバァmk2の両腕を引き戻し、地面に押しつけたまま弐号機を引きずり寄せる。
「無駄やっ!!無駄、無駄、無駄、無駄、無駄っ!!!無駄ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!」
「い、嫌っ!!い、嫌、嫌、嫌、嫌、嫌っ!!!い、嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!」
アスカは弐号機を必死に踏ん張らせるが、使徒と融合したエバァmk2の超パワーにはかなわず、ゆっくりとながらも確実に引き寄せられて行く。
ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリッ!!
「さ、さよなら。セ、セカンド・・・。ひ、卑怯な私を許して・・・。あ、あなたの事はいつまでも忘れないわ・・・・・・。」
土埃が舞い上がり、弐号機が大地を削り取る音が響く中、レイは自分がしでかしてしまった事の大きさを悔やみながらも茫然と弐号機を見送った。
「手間をかけさせよってからに・・・。やっと捕まえたな。惣流ぅぅ~~~?」
弐号機を足下まで引き寄せると、そのまま持ち上げて弐号機の両足を浮かせ、底意地の悪そうな勝利のニヤリ笑いを浮かべるトウジ。
「な、何すんのよっ!!こ、このバカ鈴原っ!!!」
ドゴッ!!
そのおぞましい笑みに思わず体が硬直するも、アスカは気力を無理矢理に振り絞り、弐号機の右足でエバァmk2の顎先を思いっきり蹴り上げた。
「・・・あかんな。惣流は・・・・・・。そんなんやと嫁の貰い手があらへんで?」
「う、うるさいわねっ!!こ、こっちだって、あんたなんかお断りよっ!!!そ、それにシンジが貰ってくれるからご心配なくっ!!!!」
だが、トウジは何事もなかった様にニヤニヤと笑い、アスカがその化け物じみたタフさに戦き、精一杯の虚勢を張ってシンジの名前を出した途端。
「シンジ?・・・シンジやとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~っ!?」
「ひぃっ!?」
激怒を轟かせたトウジが、エバァmk2の物体Xを弐号機の両足へ巻き付かせ、弐号機の自由を完全に奪い取った。
「い、嫌っ!!い、嫌、嫌、嫌っ!!!い、嫌ぁぁぁぁぁ~~~~~~っ!!!!
な、何すんのよっ!!じょ、冗談でしょ・・・。あ、あたしをどうする気っ!!!ひ、酷い事したらヒカリに言いつけるからねっ!!!!」
シンクロする両足が物体Xのヌルヌル感と嫌な生暖かさを感じ、アスカは全身に鳥肌を立てて涙声の絶叫をあげながら体を必死に藻掻かせまくり。
「何や?・・・んっ!?ああ、そう言うこっちゃか・・・・・・。
ほれほぉ~~れ、惣流ぅぅ~~~・・・。シンジは何処やぁぁぁ~~~~?はよう喋って楽になりぃぃぃぃ~~~~~?」
トウジは未だ嘗て見た事のないアスカの反応に戸惑うが、その理由が解るや否や、物体Xの先端を弐号機の眼前でチロチロとちらつかせ始めた。
「い、嫌、嫌、嫌ぁぁぁぁぁ~~~~~~っ!!た、助けて・・・。た、助けて、助けて、助けてっ!!!
シ、シンジぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!」
弐号機が唯一自由な首を左右にブンブンと猛烈に振りまくり、アスカが目の前の恐怖に耐えきれず目を力強くギュッと瞑ったその時。
ドゴッ!!
「ほんびらこっけっ!?」
突如、エバァmk2の背後に現れた初号機がエバァmk2へ股間蹴りを放ち、トウジが強烈すぎる激痛に大口を開けて目も最大に見開く。
ドスッ・・・。ドッシィィーーーンッ!!
「はふっ・・・。ひへっ・・・。はほっ・・・。むふっ・・・。へれっ・・・・・・。」
一拍の間の後、エバァmk2は膝を折って前倒しにゆっくりと大地へ倒れ、トウジは顔面紫色となって口から泡をブクブクと吹きながら沈黙。
「・・・トウジ、君には失望したよ。幾ら使徒に唆されたとは言え、嫌がる女性を無理矢理にとはね」
「あわわわわ・・・。」
シンジはそんなトウジを冷たい目で見下ろし、ゲンドウは同じ男として同情を禁じ得ず、茫然と冷や汗をダラダラと流しまくり。
余談だが、発令所で戦いの様子を見守っている男性職員の面々も、ゲンドウ同様に揃って茫然と冷や汗をダラダラと流しまくり。
しかも、男性職員達はゲンドウと違って両手が自由な為、股間を両手でしっかりと押さえ、精一杯に腰を椅子へ引くオマケ付き。
「・・・えっ!?」
「やあ、遅れてごめんね。アスカ」
一方、エバァmk2が崩れ落ちた事によって弐号機も大地へ下ろされ、アスカが怪訝そうに怖ず怖ずと目を開けると目の前にあったのは紫色の足。
「シ、シンジ・・・。な、なの?」
「何だい?幽霊でも見た様な顔をして・・・。ちゃんと足は付いてるだろ?」
アスカは目の前の現実が信じられず、弐号機の右手を伸ばして初号機の足の感触を確かめ、シンジがアスカの問いにニッコリと微笑んで頷く。
「ば、馬鹿、馬鹿、馬鹿っ!!こ、怖かったんだからっ!!!い、今まで何してたのよっ!!!!
シンジの馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
たちまち安堵感が心に広がり、アスカが止めどなく涙をこぼしながら弐号機を立ち上がらせ、罵りながらも初号機へ抱きつこうとした次の瞬間。
「えい・・・。」
ドンッ!!
「・・・って、キャっ!?」
いつの間に駈け寄ってきたのか、零号機が制動の為に直角タックルを弐号機へ放ち、跳ね飛ばされた弐号機はビルへ左半身を埋めて沈黙。
「碇君っ!!碇君、碇君、碇君っ!!!碇くぅぅぅぅぅ~~~~~~んっ!!!!」
「・・・・・・レ、レイ」
「何だか、凄く不快・・・。何故?」
そして、零号機が弐号機に代わって初号機へ抱きつき、レイは猛烈な頬ずりを開始するが、ふと背筋を走った不快感に動きを止めて心底に怪訝顔。
「いや、ごめんね。綾波・・・。それはね。こういう訳だからさ」
「っ!?・・・い、碇司令?」
シンジはレイの疑問に苦笑で応え、自分の顔の隣に瞳を感動に震わすゲンドウの顔を零号機のエントリープラグ内に映し出す。
「レ、レイ・・・。や、やはり、お前だけは私を裏切らないのだな・・・。お、お前だけは・・・・・・。
レ、レイぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
その瞬間、熱く燃える想いがシステムを越え、ゲンドウはシンジから初号機のシンクロを奪い取り、零号機を力強くギュッと抱き締めた。
なにせ、10年以上も連れ添った右腕に、愛しさと心を寄せ始めた愛人に、絶対服従だったはずの部下に悉く裏切られたゲンドウ。
その上、出撃前にリツコとの甘い浮気現場をユイに余すところなく見られ、10年間の悲願であったユイとの再会も今は恐怖でしかないゲンドウ。
そんな最悪の状況下、ユイと良く似た面影を持つレイから抱き締められたのだがら、ゲンドウが感激してしまうのも無理はない話。
「嫌っ!!嫌、嫌、嫌っ!!!碇君、助けてっ!!!!」
「いや、そうしたいのは山々なんだけど・・・。くそっ!!父さんめっ!!!リツコさん、どうなってるのっ!!!?」
『ま、待ってっ!!い、今、何とかしてみせるからっ!!!』
「そうだっ!!最早、ユイに合わす顔がないのなら・・・。
レイ、お前の為に家を建てようっ!!そこで一緒に2人で静かに暮らすのだっ!!!そして、あと2年を待って私と結婚してくれっ!!!!」
レイは零号機を必死に藻掻かせて拘束から逃れようとするが、滂沱の涙を流すゲンドウの熱き想いには勝てず、ますます拘束力は強まるばかり。
「嫌っ!!ジーサンは用済みっ!!!」
ドゴッ!!
「ほむらっちょっ!?」
たまらずレイは右膝蹴りを初号機の股間へ放ち、ゲンドウは強烈すぎる激痛に熱き想いを一気に鎮火させ、白目を剥きつつ口から泡を吹いて沈黙。
ドスッ・・・。
「あ、綾波・・・。そ、それは幾ら何でも酷いんじゃない?」
同時に初号機が膝を折るもシステムがシンジへ戻って立ち上がり、シンジは同じ男として同情を禁じ得ず、茫然と冷や汗をダラダラと流しまくり。
再び余談だが、発令所で戦いの様子を見守っている男性職員の面々も、シンジ同様に揃って茫然と冷や汗をダラダラと流しまくり。
「近寄らないでっ!!汚らわしいっ!!!」
ドゴッ!!
しかし、ヴァーチャルシステムの存在自体を知らないレイは、再び初号機が立ち上がって来た事に恐怖して更なる一撃を初号機の股間へ放った。
「だ、大丈夫だって・・・。の、乗ってるのは確かに父さんだけど、初号機を動かしているのは僕だからさ」
「・・・本当?」
シンジは反射的に初号機の両掌で零号機の右膝蹴りをブロックして防ぎ、全身の毛穴から冷や汗を吹き出させつつ震える声でレイを必死に宥める。
もっとも、ヴァーチャルシステムの特性上、例え喰らったとしてもシンジへのダメージはなく、ゲンドウの苦しみが2倍になるだけ。
それでも、股間を狙われてガードするのは男の悲しい性であり、シンジの今の行動はあくまで反射的な物でゲンドウを不憫に思っての事ではない。
「本当さ・・・。でも、抱きつくのは止めてね。初号機からの感覚は父さんへ伝わるから」
「良く解らないけど解ったの。・・・でね、でねっ!!碇君、聞いてっ!!!ジャージが酷い事するのっ!!!!懲らしめてっ!!!!!」
その甲斐あってか、レイは首を傾げつつも納得して安心するが、代わってトウジへの恐怖が蘇り、その恐怖をシンジへ切に訴えようとしたその時。
「酷いのは、あんたの方でしょうがぁぁぁぁぁ~~~~~~っ!!」
ボグッ!!
「・・・痛いの。碇君、この女も懲らしめて・・・。何なら、殺っても良いわ。いいえ、むしろ殺った方が世の為なの・・・・・・。」
復活を遂げた弐号機が猛襲ヤクザキックを零号機の左脇腹へ放ち、真横へ『く』の字となって跳ね飛んだ零号機はビルへ右半身を埋めて沈黙した。
「それはこっちのセリフよっ!!シンジも見たでしょっ!!!こいつが何をしたかっ!!!!
この女、我が身可愛さにあたしを犠牲にしたのよっ!!全く、信じられないわっ!!!常識を疑うとはこの事よっ!!!!
シンジのおかげで助かったけど、もう少しであたしは鈴原に・・・。ああっ!!嫌、嫌、嫌っ!!!考えるだけでもゾッとするっ!!!!」
全く苦労していないにも関わらず、美味しいところを全て持っていったレイに対して怒髪天となり、怒鳴っても怒鳴っても怒鳴り足りないアスカ。
「まあまあ、落ち着きなって・・・。」
「だって、こいつっ!!」
そんなアスカに苦笑を浮かべ、シンジが零号機を助け起こしながらアスカを宥めるも、軽く沸点を飛び越えたアスカの怒りは全く冷めない。
「アスカ、今は戦闘中だよ。下らない口論は戦いが終わってからにしてくれないか?」
「でもっ!!」
それどころか、シンジが宥めれば宥めるほどレイを庇っている様に感じ、アスカは怒りの炎に薪をせっせとくべて興奮のボルテージを上げてゆく。
「アスカっ!!」
「わ、解ったわよ・・・。(何よ、何よ。何よぉ~~・・・。あたしは何も悪くないのにぃぃ~~~・・・・・・。)」
だが、シンジに鋭い睨みと強い口調で言葉を遮られ、アスカは気圧されて押し黙りながらも納得がゆかず、口を尖らせて心の中で愚痴りまくり。
(やっぱり、碇君の奥さんは私・・・。所詮、あなたなんて2号さんがお似合いね)
「だけど、綾波も感心しないね。仲間を売るなんてさ」
「っ!?・・・あれはっ!!?」
反対にレイはアスカへ勝ち誇ってニヤリと笑うが、シンジから冷たい眼差しを向けられ、たちまち焦りまくって言い訳の言葉を慌てて探す。
「言い訳は要らない。理由はどうあれ、結果は変わらないんだから」
「・・・ご、ごめんなさい」
シンジは目を細めて眼差しの冷たさを更に増させてレイの反論を封じ、レイは目で何故と問いながらも口を尖らせてシンジへ謝罪した。
「僕に謝ってどうするのさ?謝る相手が違うだろ?」
「えっ!?・・・あっ!!?・・・おっ!!!?・・・いっ!!!!?・・・うっ!!!!!?」
するとシンジは首を左右に振って溜息をつき、レイはその態度に戸惑うも言わんとする事が解り、視線を交互にシンジとアスカへ向けて困り顔。
「さあ、綾波」
「・・・ご、ごめんなさい」
しかし、時が経てば経つほどシンジの眼差しは冷たくなり、レイは嫌われたくない一心に顔を背けながらもアスカへ不満そうに謝った。
「えっ!?・・・あっ!!?・・・おっ!!!?・・・いっ!!!!?・・・うっ!!!!!?」
「ほら、アスカ」
「・・・わ、解れば、良いのよ。わ、解れば・・・・・・。」
この珍し過ぎる光景に茫然と目が点になり、今度はアスカが視線を交互にシンジとレイへ向けるが、シンジに促されて顔を背けつつもレイを許す。
「うんうん、仲良き事は美しき事かな・・・。これで何のわだかまりなく、いつもの様にまた仲良く出来るね?」
「「え、ええ・・・。」」
シンジは満足そうにウンウンと頷き、初号機に零号機と弐号機の右手を持たせて強引に握手させ、レイとアスカが嫌そうに顔を顰めたその時。
「うがぁぁ~~~っ!!シンジぃぃぃ~~~~っ!!!もう、許さへんでぇぇぇぇぇ~~~~~~っ!!!!」
「おっと・・・。そうも言ってられなくなった様だね。・・・2人ともっ!!一旦、後退するよっ!!!まずは体勢を立て直すんだっ!!!!」
「「了解っ!!」」
ようやくトウジが黄泉路よりの復活を遂げ、シンジ達に与えられた束の間の休息は終わり、緊張と恐怖が満ちる戦いの時が再び始まった。
バチッ!!バチバチバチバチバチッ!!!
「ぬおっ!?」
戦闘再開の景気付けと言わんばかりに凄まじい電流がエントリープラグ内に流され、例により意識を強制覚醒させられるゲンドウ。
余談だが、錯乱していたとは言え、ゲンドウが先ほどレイへプロポーズしたせいか、リツコの怒りを買って流された電流量は今までの3倍強。
「むっ!?シンジ、貴様・・・って、ここは何処だ?」
「2人とも例の物はもう暗記済みだね?」
「問題ないわ」
「ええっ!!任せてっ!!!」
相変わらずゲンドウの記憶は飛んでいるが、シンジはボケ中年に構っている暇などなく、レイとアスカがシンジの確認に力強く頷く。
「では、葛城三佐」
『はっ!!』
「発令所が何者かの工作によって停電したと言う設定の元、以後は別命があるまでパイロットへの関与、及び兵装ビルの使用を禁じます」
『へっ!?・・・どうして、またそんな事を?』
ならばとシンジは通信ウィンドウを通して発令所へ視線を向け、ミサトが意味不明なシンジの指示に怪訝顔を浮かべて尋ねた。
「そうですね。強いて言えば、1回の実戦は100回の訓練に勝るってところかな?・・・次、アスカ」
「なにっ!?」
『ちょ、ちょっとっ!?シ、シンジ君っ!!?』
だが、シンジは多くを語らず続けざまにアスカを呼び、無視される形となったミサトが不満声をあげる。
「アスカは司令塔としてバックアップ。最後方から僕等を指揮するんだ」
「えっ!?あ、あたしがっ!!?」
シンジは煩わし気に発令所との通信を切ってアスカへ指示を与え、アスカは与えられた責任の大きさに不安を彩らせた目を見開いてビックリ仰天。
「出来るよね?アスカなら・・・。アスカはチルドレンのリーダーなのだから・・・・・・。」
「わ、解ったわっ!!ま、任せてっ!!!」
しかし、シンジに優しく諭されながら極上の微笑みを向けられ、アスカはシンジの信頼を知って感動に心を震わせて嬉しそうに目を輝かす。
「・・・碇君、私は?」
「綾波はアスカの指示に従ってバックアップ。・・・トウジには僕が突っ込むっ!!」
「・・・そう」
レイも負けてなるものかとシンジの信頼を求めるが、シンジは大した役割を与えてくれず、不満そうに口を尖らせた上に頬を膨らませた。
『314261っ!!』
『521674っ!!』
『814522っ!!』
『658413っ!!』
『425446っ!!』
『132548っ!!』
意味不明な数字の羅列を飛び交わし合い、エバァmk2を牽制しつつ山間部の狭地へと巧みに追い込んで行く初号機と零号機と弐号機。
『682142っ!!』
『349523っ!!』
『348723っ!!』
『553125っ!!』
『945767っ!!』
『143586っ!!』
先ほどあったシンジの指示もさる事ながら、シンジ達の間に飛び交う意味不明な数字の羅列が解らず、ミサトが怪訝顔を深めて日向へ尋ねる。
「・・・ねえ、日向君。このアメフトのかけ声みたいなのって・・・・・・。何なの?」
「あっ!?すみません。伝えるのを忘れていました」
「・・・何が?」
「はい、覚えてませんか?以前、葛城さんが作戦行動時における暗号表を考案したのを?」
「んっ!?ああ・・・。そう言えば、そんな事もあったわね(確か・・・。前日に見たスパイ映画の影響で何となく作ったんだっけか?)」
「・・・で、その草案書類を司令代理が見つけ、先日の作戦会議で改めて再検討されたと言う訳です」
応えて日向はバツの悪そうな顔を振り向かせ、遠い外国から一時帰国したウラシマ状態のミサトへ先日あった作戦会議の結果を掻い摘んで教えた。
「えっ!?でも、あれって・・・。人間相手ならともかく、使徒相手には無意味って事であっさりと却下になったんじゃなかったっけ?」
「はい、僕もその事を司令代理へ伝えたんですが・・・。いずれ、この暗号が必要になる時が必ず来るとの事らしいです」
だが、ミサトは1度却下された物が何故と怪訝顔をますます深め、日向が更なる事情を教えながらミサト同様に怪訝顔で振り向き戻るも束の間。
「ふぅぅ~~~ん・・・。なら、私も覚えなくちゃならないわね」
「ええっ!?」
いまいち納得が出来ないなりにも漏らしたミサトの言葉に驚き、日向が驚愕に目を最大に見開きつつ座席ごと体を勢い良く振り向かせる。
「何よ、その意外そうな顔は・・・。作戦部長の私が味方の暗号を知らないでどうすんのよ?」
「・・・す、すみません。た、確かにそうなんですが、この暗号・・・・・・。
コ、コードだけでも24種類、コード別の符丁に至っては無数にある上、6桁の数字をそれぞれ足し、引きするかなり厄介な物ですよ?」
ミサトは日向の失礼な反応に口を尖らせてムッと苛立ち、慌てて日向は詫びながらも暗号の難解さを説き、改めてミサトへ暗記の是非を尋ねた。
「え゛っ!?・・・そ、そうなの?」
「は、はい・・・。」
その目眩を起こしそうな難解さにたちまち暗記する気力を失い、ミサトは引きつらせた顔を見られまいと背け、暗号の翻訳を全て日向へ頼み託す。
「そ、そう・・・。な、なら、お願いね。ひゅ、日向君・・・・・・。た、頼りにしてるわ」
「・・・りょ、了解しました」
日向もまたミサトの予想通り過ぎる応えに顔を引きつらせ、気まずそうに正面へ振り向き戻り、背後の様子を気にしながらも作業を再開させた。
『131456っ!!』
『264587っ!!』
『234514っ!!』
『741256っ!!』
『812483っ!!』
『555514っ!!』
しかし、戦闘再開前にあったシンジの厳命により、作戦部のミサトと日向は手持ち無沙汰で気まずさを解消できず、2人の間に嫌な雰囲気が漂う。
『678213っ!!』
『111232っ!!』
『421568っ!!』
『694135っ!!』
『467514っ!!』
『684268っ!!』
ミサトは何か話題をとモニター内を視線で舐め回し、初号機の動きに刮目すると、今さっきまであった気まずさなど忘れて感嘆の溜息をついた。
「それにしても・・・。凄いわね」
「何がです?」
「シンジ君よ。あれだけの動きが出来るなんて・・・。これも何かの特訓の成果なの?」
その溜息の理由が解らず、日向が再び振り返り、ミサトは日向の問いに応えながら残像でしか追えない初号機の常識外れな動きについて尋ね返す。
「いいえ、違うわ・・・。もっと良く考えてみなさい。ミサト」
「えっ!?・・・違うって?」
するとリツコがミサトの疑問に反応して深い溜息をつき、ミサトがマヤのモニターから呆れ顔を上げたリツコへ怪訝顔を向けて尋ねる。
「シンジ君はあそこ、初号機に乗っているのはゲンドウさんよ」
「でも、ヴァーチャルシステムとかで・・・。初号機を動かしてるのはシンジ君なんでしょ?」
リツコが司令席の上に座るシンジを指さして応えるが、ミサトはさっぱり要領を得ず、眉を眉間へ寄せて怪訝顔をますます深めまくり。
「・・・だからこそよ。シンジ君はただ動かしているだけ・・・・・・。例えるなら、TVゲームの様にね。
そこには音速域の恐怖もなければ、加速や方向転換時に受けるGもない。だから、人間が自然とセーブしてしまう力も限界以上に引き出せる」
ならばと解り易い様に身近な比喩で例え、リツコは解説しながら恨めし気な視線をシンジへ向ける。
「そ、それじゃあっ!?」
「そう・・・。でも、実際に乗っているパイロットは違う。限界以上の力を無理矢理に引き出され、ゲンドウさんは恐らく・・・・・・。」
ようやくミサトはリツコの言わんとする事を理解して驚愕に目を見開き、リツコは初号機へ視線を移すも見るに耐えず目をたまらず伏せた。
「どうだいっ!!凄いだろっ!!!これが音速の世界だよっ!!!!父さんっ!!!!!」
「ぐぐぐぐぐっ・・・。」
景色がバターの様に溶け流れる音速世界、その加速域でかかるGは凄まじく、身動きを取ろうにも取れずシートへ押さえ付けられるゲンドウ。
「ゴムゴムのぉぉ~~~っ!!・・・ピストルっ!!!」
「おっとっ!!危ないっ!!!」
「ぐはっ!?」
しかも、初号機が間合い無視なエバァmk2の伸びる腕攻撃を避ける度、強烈すぎる急速横Gによってゲンドウの体内の血液は左へ右への大騒ぎ。
おかげで、ゲンドウの胃は昼食のトコロテンを吐き出してゲエゲエと悲鳴をあげ、吐き出す物がなくなった今でも胃液を吐き出しまくり。
無論、胃が悲鳴をあげれば腸もブリブリと悲鳴をあげ、ゲンドウのスエットズボンは嫌すぎる生暖かさで溢れ、ゲンドウの体は上へ下への大騒ぎ。
それ故、エントリープラグ内の状況は恐ろしく見るに絶えず、シンジの配慮によって初号機から各所への映像通信は全て切られている。
「おんどりゃぁぁ~~~っ!!ちょこまかと動きよってからにっ!!!したら、これならどやっ!!!!
ゴムゴムのぉぉ~~~っ!!・・・ガトリングガぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~ンっ!!!」
「なんのっ!!」
「ぐふっ!!・・・ぐはっ!!!・・・ぐぼっ!!!!・・・ぐあっ!!!!!・・・ぐきっ!!!!!!・・・ぐすっ!!!!!!!」
なかなか攻撃が当たらない事に業を煮やしたトウジが、エバァmk2の両腕連続伸縮攻撃を行うが、初号機は左右の高速シフトウェイで全て回避。
「甘いっ!!甘いでっ!!!シンジぃぃぃぃぃ~~~~~~っ!!!!
ゴムゴムのぉぉ~~~っ!!・・・ビぃぃぃ~~~~ック・マグナぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~ムっ!!!」
だが、トウジは予想通りと言わんばかりにエバァmk2の物体Xを突撃させ、何百もの尾鰭が付いた握り拳大の白い拡散光弾を初号機へ放った。
「凄いやっ!!トウジっ!!!ますます、人間離れしてゆくね・・・って、そうか、トウジはとっくにもう人間離れしてたっけ?」
「ぬおおおおっ!!・・・はっ!!?目がっ!!!?目がっ!!!!?目がぁぁぁぁぁ~~~~~~っ!!!!!?
シ、シンジ、目が見えんっ!?ど、どうなっているのだっ!!?こ、これはっ!!!?な、なあ、シンジぃぃぃぃぃ~~~~~~っ!!!!?」
さすがのシンジもこれには驚き、慌てて初号機を天空へ飛翔させて避け、ゲンドウが急速上昇にブラックアウト現象を起こして混乱大パニック。
「なんやとっ!!」
「ファーストっ!!」
初号機は上昇中故に回避行動が取れず絶好のチャンスなのだが、トウジはシンジの挑発に思わず動きを止め、すかさずアスカが叫んだ次の瞬間。
キュインッ!!・・・カコォォォォォーーーーーーンッ!!!
「ぶべらっ!?」
エバァmk2の遥か後方へ回り、虎視眈々とスナイパーライフルを構えていた零号機が、照準をエバァmk2の後頭部に合わせて引き金を引いた。
「痛つつつつ・・・。おんどりゃぁぁ~~~っ!!何すんねんっ!!!綾波ぃぃぃぃぃ~~~~~~っ!!!!」
「・・・う、嘘?」
しかし、エバァmk2は蹌踉めいただけで平然と後頭部を両手で抱えつつ振り返り、レイが化け物じみたトウジのタフさに驚愕して目を見開く。
「シンジっ!!今よっ!!!」
「了解っ!!」
アスカはトウジの注意がシンジから逸れたチャンスに賭け、シンジが跳躍頂点へ達した初号機に超高速キリモミ回転をかけて参号機へ突撃開始。
「ふげげげげげげげげげげげげげげげげげげげっ!!・・・はうあっ!!?」
「さあ、父さん。いよいよ、トドメだ・・・って、あれ?やれやれ、これくらいの事でだらしないね。困ったものだよ」
同時に凄まじいGがあらゆる方向へかかり、初号機が参号機へ突っ込む寸前、ゲンドウは遂に激戦の勝利を見る事なく気絶した。
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリッ!!
「はうあっ!?」
突如、永眠した者も叩き起こす様な強烈すぎるベルが打ち鳴らされ、粗末な薄い掛け布団を跳ね退け、驚愕に勢い良く跳び起きるゲンドウ。
「もう朝か?さっき、寝たばっかりじゃないか・・・・・・。」
「・・・だよな。せめて、寝る時くらいはゆっくりと休ませて欲しいよ」
「しかも、起きてすぐに10キロのランニングだろ?誰だよ、このメニューを考えたのは・・・。」
「ん~なの決まってるだろ・・・。あのスケコマシ特別監査部長殿さ」
「あいつには赤い血が流れていないのかっ!?・・・あいつは鬼だっ!!悪魔だっ!!!使徒だっ!!!!」
だが、他の者達は全く驚いた様子もなく、気怠そうに起き上がって布団を畳み、愚痴をこぼしつつも薄汚れた作業着へテキパキと着替えてゆく。
第16使徒戦の最中に気絶したゲンドウが、身も心も凍り付く様な冷水を浴びて驚きに目を覚ますと、そこは人生の落伍者達が集う開拓地だった。
そう、ここはジオフロントの一角に設営されたKランク更正訓練所であり、男子Kランク員達が寝起きを共にするプレハブ小屋な男子寮である。
余談だが、こんな場所でも俗世間のしがらみがあるらしく、ゲンドウの寝床は時代劇で登場する牢名主の様に畳が何枚も積み上げられていた。
また、ダメ人間達に寝間着など必要ないとのシンジの言により、就寝中のゲンドウ達は唯一の私物である与えられたトランクス1枚の姿。
もっとも、地下密閉空間であるが故に元々蒸し暑く、多人数が住む一部屋にエアコンもなく、毎晩が超熱帯夜な為に寝間着を欲する者などいない。
「あっ!?早く、着替えた方が良いですよ。司令・・・。
あいつ等の酷さはもう骨身に凍みて解っているはずです。朝の点呼に遅れたら、何を言われるか解ったもんじゃないですよ」
「ああ、そうだな・・・。すまない」
着替え中の1人が起きたまま動こうとしないゲンドウに気づき、躊躇いながらも言葉を選んでゲンドウへ早く着替える様に急かし促す。
何故ならば、この後の朝礼に1人でも遅刻すると訓練員全員が連帯責任を受け、朝礼後に控えるランニングの量が倍に増えてしまうからである。
(目が醒めたらと思っていたが・・・。やはり、夢ではなかったのだな・・・・・・。
何故だ・・・。リツコ君・・・。何故だ・・・。レイ・・・。何故だ・・・。冬月・・・。何故なんだ・・・。シンジ・・・・・・。)
その声に我を取り戻すと、気絶中にいつの間にか剃られたトレードマークの髭がない顎をさすり、ゲンドウは目の前の光景が現実だと再確認した。
New NERV Commander
ゲドウ2世
第5話 見知らぬ、新天地
「ところで、話は変わりますが・・・。どうです?5日が経ちましたけど、父さんの様子は?」
司令公務室の窓際に立ってコーヒーを飲みつつ、ふと視界内に入ったKランク更正訓練所の様子にゲンドウの事を思い出して尋ねるシンジ。
「はい、さすがに当初は戸惑いと反抗心を見せていましたが・・・。現在は落ち着き、与えられたノルマを従順に従っている様子です」
「それは結構。・・・なら、目立って反抗的なのはあとミサトさんだけですね」
司令席前に畏まり立つ青葉は、手に持つ書類を捲ってシンジの問いに応えた後、満足そうに頷いたシンジとは正反対に不安顔を浮かべる。
「それについてですが・・・。本当によろしいのですか?」
「・・・と言うと?」
シンジは空になったカップを置いて司令席へ座り、新たな1杯を用意しようとするマヤを手で制し、サングラスを押し上げて青葉へ尋ね返した。
「無論、同じ場所に司令代理と葛城三佐を置く事についてです。・・・権威が失墜したとは言え、司令代理の威光はまだまだ健在。
いずれ、このままでは2人が手を結び、反乱勢力の勢いが確実に増して厄介な事となります。早急に司令代理と葛城三佐を離すべきです」
「フフ、まだまだ甘いですね。青葉さん・・・。僕の狙いはそこなんですよ」
「・・・えっ!?」
応えて青葉はKランク更正訓練所の現状危険性を訴えるが、ゲンドウポーズをとったシンジにニヤリと笑われて驚き戸惑う。
「ミサトさん自身は知らない様ですけど・・・。青葉さんは戦自の連中がミサトさんを何て呼んでいるかを知ってますよね?」
「え、ええ・・・。ま、まあ・・・・・・。」
するとシンジは唐突に脈絡もなく話題を変え、青葉はますます戸惑いながらもシンジの質問に苦笑を浮かべて頷く。
「なら、マヤさんは?」
「ううん・・・。知らない」
「では、ミサトさんがセカンドインパクトの発生源である南極からの唯一生存者って事は知ってますよね?」
「ええ、先輩からちょっと聞いた程度だけど・・・。何でも、葛城さんのお父さんが第1使徒を調査してたとか・・・・・・。」
シンジは視線だけを右隣へ向けて更に問うが、マヤは首を左右に振り、改めて尋ねられた質問に首を傾げつつ自信なさ気に応えた。
余談だが、マヤはシンジの専属秘書となった為、司令公務室の常勤を命じられ、普段の仕事はシンジの右隣に設置された机での書類整理。
おかげで、レイ達は気軽に司令公務室へ訪れられなくなり、いつもシンジの側にいるマヤへ対して最近は嫉妬の炎をメラメラと燃やしていた。
実際、マヤのロッカー内の私物などが隠されると言った子供じみた不可解な現象が幾度も起きており、マヤをかなり困らせていたりする。
「それって・・・。かなり良い宣伝材料だと思いません?」
「えっ!?」
シンジが邪悪そうにニヤリと笑って尚も尋ねるが、マヤはシンジの言っている事が解らずキョトンと不思議顔。
「セカンドインパクトの源である南極から1人生還し、父の敵とも呼べる使徒に対して復讐心を燃やすネルフの美人作戦部長・・・ってね」
ガタッ!!
「シ、シンジ君っ!?い、幾ら何でも、言って良い事と悪い事が・・・。」
だが、続いた蔑む響きが混じったシンジの言葉に言わんとする事が解り、マヤが諫めるべく席を勢い良く立ち上がって珍しく声を荒げるも束の間。
「・・・と、まあ、こういう風に思われてるんですよ。戦自ではね」
「ある・・・わ・・・よ・・・って、へっ!?」
大げさに肩を竦めるシンジに悪戯が成功したかの様にクスリと笑われ、マヤは言葉の勢いを失って再びキョトンと不思議顔。
「・・・で、付いたあだ名が『キャンペーンガール』。戦自もなかなか上手い事を言うじゃありませんか。
まあ、そう言う思惑が父さんにもあったのかも知れませんが・・・。
果たして、あの抜け目ない父さんがそれだけの理由でミサトさんを作戦部長と言う要職に据えると思います?
それに考えても見て下さい。今、ミサトさんは何処にいます?普通なら、一般企業なら、勤務態度があれだけ悪ければどうなると思います?」
「「そ、それは・・・。」」
一拍の間の後、シンジは真顔に戻って再びゲンドウポーズをとり、青葉とマヤがシンジの問いに応えを持ちながらも言い辛そうに言葉を濁す。
「第一、宣伝目的の為なら別に作戦部長である必要はありません。それこそ、『キャンペーン』の名に相応しい広報部で十分です。
しかも、セカンドインパクト後の影響で前世紀以上に混迷する今世紀、ミサトさんより実戦経験豊富な指揮官なんて掃いて捨てるほどいます。
それにも関わらず、父さんはミサトさんを作戦部長に据えた。そして、僕も作戦部長から下ろすつもりはない。・・・どうしてだと思います?」
シンジは気にする様子もなく言葉を続けて尚も問い、青葉とマヤは新たな質問に対する応えが解らず怪訝顔を見合わせる。
「つまり、ミサトさんは何だかんだで優秀と言う事ですよ。指揮官としてね」
「「ゆ、優秀っ!?」」
ならばとシンジが解答を教えるが、青葉とマヤは最もミサトらしくない評価に驚いて目を丸くさせた。
「2人の言いたい事は解ります。実際、平時のミサトさんを見る限りは『優秀』と言う言葉は相応しくありませんしね。
ですが、その平時を守り抜き、僕等が今まで生き残って来れたのはミサトさんのおかげと言う事を忘れてはいけません。
もっとも、そそっかしい面があり、僕等を幾度となく苦境に陥れてますが・・・。
ミサトさんは絶対的不利の状況下でも諦めず、全てを切り抜けてきた。誰にも・・・。そう、MAGIですら思いつかない大胆な発想でね。
例えば、第5使徒戦・・・。日本中から電力を集めるなんて無茶な作戦を誰が考えます?・・・考えやしませんよ。
例えば、第10使徒戦・・・。万に一つもない成功率の作戦を誰が実行します?・・・考えはするだろうけど、いざ実行する人などいませんよ」
シンジは2人の反応を無理もないと態度ではウンウンと頷くも、その一方で今までの実績を例にミサトを言葉で褒めちぎる。
「そこで思い出して欲しいのが・・・。先日、極秘裏にネルフ本部、支部を問わず作戦部の一部士官を対象に行ったシミュレーションテストです」
「例題が解けたら、本部の作戦部長に抜擢すると言う・・・。あの?」
それでも、2人の顔から疑いの色は消えず、シンジは苦笑しつつ更に解り易い例えを与え、青葉が首を傾げながら尋ね返す。
ちなみに、青葉の言葉にある例題とは『ネルフ本部が某組織に奇襲を受けました。さあ、あなたならどうしますか?』と言うもの。
「ええ、その結果報告が届いたんですが・・・。実に面白い結果が出たんですよ。マヤさん、お願いします」
「はい、ファイルB-13を開きます」
シンジは頷いてマヤへ視線を向け、マヤは指示を受けて窓のブラインドを閉めると、青葉の足下の床モニターに件のデータ表を映し出した。
「このさんさんたる有り様を見て下さい。
戦闘開始1時間を待たずして、70%以上が発令所を制圧されて敗北。残る30%も結局のところは発令所を制圧されて敗北。
唯一の救いは本部構造を熟知している日向さんが、発令所制圧まで6時間半と2位に3時間の大差を付け、最長記録を作った事くらいかな?」
「無理もありませんよ。エヴァの使用は禁止されている上、兵の練度差があり、更に敵は約一個師団と兵力格差が有り過ぎますし・・・。」
その芳しくないデーターに眉を顰め、シンジは心底に呆れて深い溜息をやれやれとつき、青葉が苦笑を浮かべつつシンジを宥めてフォローする。
「そうですね。正直なところ、3時間も保てば合格圏かな?と思ってましたから・・・。
ですが、56時間もねばった激戦の末、勝利した人物がたった1人だけいるんですよ。・・・それ、誰だと思います?」
「えっ!?・・・ま、まさかっ!!?」
しかし、シンジは青葉の予想に反して目を細めてニヤリと笑い、サングラスをモニター光に反射させて怪しくキラリーンと輝かす。
「そう、ミサトさんです。この違いは絶望に甘んじる事のない勝利への飽くなき執念とでも言いましょうか・・・。
他の人達が発令所の占守防衛をひたすらに努める中、ミサトさんは大胆にも発令所に防衛兵力を置く事なく奇襲、奇襲、奇襲の繰り返し」
「き、奇襲と言っても・・・。あ、あの兵力差をどうやって?」
話の流れからシンジの言わんとする誰かが解り、青葉は驚愕に目を見開かせつつ、ミサトがあの難問をいかに解いたかを聞かずにはおれず尋ねた。
「・・・でしょ?僕もそう思って詳細を詳しく調べてみたところ・・・。驚きましたよ。
なんと発令所や各重要施設へ繋がる通路に強化ベイクライトを流し込んで通路の封鎖と限定を行ったんです。
無論、敵兵力の有る程度が強化ベイクライトに巻き込まれて埋まる事を計算ずくでね。
いやいや、エヴァ以外の本部内設備は全て使っても良いとの条件とは言え・・・。まさか、こんな荒技で来るとはね。
・・・で、敵勢力は兵力格差の有利を失い、ミサトさんは兵力を分散する事なく少ない兵力で対抗できたと言う訳です。
その後、時期を見定めて3つに兵力を分け、空気ダクトを使って敵の後背へ回り、48時間にも及ぶ攻めては退きの奇襲の繰り返しです」
シンジは何処か嬉しそうに微笑んでミサトの功を嬉々と語り、青葉は奇抜すぎるミサトの発想に茫然と言葉を失い、2人の間に沈黙が広がる。
「ねえ、シンジ君・・・。何がそんなに凄いの?」
「そうですね。つまり、ミサトさんは逆境になればなるほど真価を発揮するタイプと言う事かな?
もっと簡単に言えば、正体不明で常識が通じない使徒を相手に戦うネルフには、ミサトさんの様な指揮官が打って付けと言う事です」
そんな中、話に付いて行けず疎外感を感じたマヤが、たまらず追いつこうと口を挟み、シンジが苦笑混じりにマヤの問いに応えて尚も言葉を紡ぐ。
「ただ、1つだけ難点を言えば・・・。ミサトさんは戦いの後の事を全く考えていないって事ですね。
先にあげた第5使徒戦、第10使徒戦もそうですが・・・。このシミュレーションなんて、正にその極地としか言い様がありません。
だから、『通路に強化ベイクライトなんか流し込んで後始末はどうするつもりなのか?』とミサトさんへさっき聞きに行ったんですよ。
そうしたら、何て応えたと思います?『後始末なんて勝った後に上が考えれば良い事。私が考えるのは目の前の戦いに勝つ事だけ』だそうです」
一呼吸をついて言葉を溜めると、シンジは深すぎる溜息をついてミサトの欠点を語り、ゲンドウポーズを解いて椅子へ背を疲れた様に預けた。
「「・・・か、葛城さんらしい応えですね」」
「ええ、普段は日向さんへ任せっきりのミサトさんらしい答えです。でも、ここまで徹底すると心地良くもあります」
青葉とマヤはミサトの言に呆れて顔を引きつらせ、シンジは2人の意見に同意して苦笑を浮かべながら頷く。
「ここで話を元に戻しますが・・・。父さんとミサトさんを同じ場所に置く理由は、このミサトさんの性格故です。
現在もそうですが、ミサトさんが反乱勢力の陣頭に立った場合・・・。その行動は奇抜で大胆な物となり、なかなか先を読む事が出来ません。
ですが、あの疑う事からまず始める父さんが反乱勢力の陣頭に立ったら?
確かに反乱勢力の勢いは増しますが・・・。その行動には計画性と方向性が確実に生まれ、この方がこちらとしては断然に御しやすいんですよ」
そうかと思ったら、シンジは邪悪なオーラ全開にニヤリと笑い、再びゲンドウポーズをとって青葉が最初に問いた解答を明かした。
(お、恐ろしい・・・。さ、さすが、司令っ!!に、肉を切って、骨も断つっ!!!よ、容赦ないっスっ!!!!)
(・・・シ、シンジ君?ほ、本当にシンジ君なの?さ、昨夜はあんなに優しかったのに・・・。ま、まるで別人みたい・・・・・・。)
青葉はシンジの策謀力に汗をダラダラと流して畏怖を深め、マヤが自分が知るシンジとは違う顔のシンジに戸惑いを隠せず心の中で問いたその時。
プルルルル・・・。プルルルル・・・。
「はい、司令室」
マヤの机の上に置かれた電話のベルが鳴り、慌てて我に帰ったマヤが己の職務を果たすべく心の動揺を隠して電話に出る。
「・・・解りました。司令にお伝えします。では・・・・・・。」
カチャッ・・・。
「司令、彼が第三へ到着したそうです」
電話の内容にマヤの声が沈み、シンジと青葉が何事かと視線を向け、電話を切ったマヤが何処か心苦しそうに伏せ目がちな視線を向け返した途端。
「解りました。なら、マナと彼・・・じゃなかった。彼女に本部まで今すぐ来るようにと連絡してくれませんか?青葉さん」
「了解しました」
シンジが待っていましたと言うわんばかりに改心のニヤリ笑いを浮かべ、青葉はシンジの様子に苦笑を浮かべながら司令公務室を出て行った。
プシュッ!!ゴクゴクゴクゴクゴクッ・・・。
「ぷっはぁぁ~~~っ!!効っくぅぅぅ~~~~っ!!!これよ、これっ!!!!たまんないわぁぁぁぁ~~~~~っ!!!!!」
頬でキンキンに冷えた缶の涼感を楽しんだ後、エビチュを一気飲みして酒臭い息をまき散らしつつおでこを手でペシペシと叩くミサト。
無論、このエビチュは日向からの差し入れであり、例の如くKランク更正訓練所を一時脱走したミサトは、近くの森で待ち合わせた日向と密会中。
「毎日、いつも済まないわねぇぇ~~~♪」
プシュッ!!
「・・・んっ!?どったの?」
ミサトはご機嫌に2缶目を開けて飲もうとするが、微笑んでいた日向の表情が不意に曇り、エビチュを口から離して怪訝そうに尋ねた。
「実は・・・。元司令が収監されて以来、ここ周辺の監視網が一段と厳しくなっています。
ですから、こうして会う事もこれからは非情に難しくなるかと・・・。勿論、出来るだけの事はしますが・・・・・・。」
日向は声を潜めて自分達の置かれた厳しい現状を語り、ミサトが加持の仕打ちに憤って中身が入ったままのビール缶を憎々し気に握り潰す。
グシャッ!!
「くっ!!・・・考えてみれば当然よね。やっと碇司令を捕まえたのに逃げられでもしたら、加持は身の破滅・・・・・・。
・・・ったくっ!!幾ら自分の手駒だからって、シンジ君の気持ちをちょっとは考えなさいよっ!!!バカ加持がぁぁ~~~っ!!!!」
そして、ミサトは加持によって囚われの身となっているシンジを不憫に思い、今朝ほど久々に見た弟の笑顔を思い出して嬉しそうに微笑んだ。
「・・・って、そうそう、シンジ君と言えば・・・。今朝、シンジ君が私のところへ面会に来たのよ。
それで色々と話したけど、あれは実のところ・・・。碇司令の事が心配だったのね。何気なさを装って碇司令の事をしきりに聞いてたから。
・・・シンジ君、心配で夜も眠れなかったんじゃないかしら?顔も何処かやつれていたし、目の下にもクマが出来ていたから・・・。
かと言って本人と会う勇気もない。だから、シンジ君は私のところへ会いに来たのよ・・・・・・。やっぱり、シンジ君はシンジ君のままね」
「(葛城さん・・・。)ところで、その元司令ですが・・・・・・。どうです?」
その微笑みを眩しそうに目を細めて見つめながらも心の中で哀れみの溜息をつき、日向が見るに耐えないと話題転換を計って尋ねる。
何故ならば、ミサトの計画の為に奔走する日向は、加持こそがシンジの囚われの身である事を肌で何となく感じ取っていた。
しかし、ミサトが加持を憎んでいる方が日向的には何かと都合が良い為、日向は確証を得ていない事を免罪符にミサトへ推測を敢えて伝えない。
「それなんだけどさ。なぁ~~んか何をしても無気力って言うか、それとなく何度か誘ってるんだけど話も聞いてくれないのよね」
「・・・困りましたね。この計画の要だと言うのに・・・・・・。」
応えてミサトは潰れた缶に溢れ残ったビールを一気に飲み干して苦り顔を浮かべ、日向もゲンドウの不甲斐なさに溜息をついて苦り顔。
「でも、きっと慣れない環境で今は戸惑ってるだけなのよ。あそこは地獄だから・・・。
だけど、私が碇司令を必ず何とかしてみせるわ。だから、日向君もそっちの方をよろしく頼むわよ?」
ミサトは自分自身を励ます様に胸を右拳で頼もしく叩いた後、満面の笑顔を浮かべながら日向の肩を右掌で軽く叩いた。
「それなんですが・・・。」
「・・・何かあったの?」
だが、日向は再び表情を曇らせて言い辛そうに言葉を濁し、ミサトが表情を真顔に戻して尋ねる。
「こちらの側の同志の一部が突然の心変わり、もしくは他支部への配置転換をさせられと・・・。特別監査部に悉く先手を取られています。
最初は只の偶然かと思ったのですが・・・。こうも偶然が重なると言う事は、どう考えても我々の中にスパイがいる可能性がかなり高いです」
辺りをキョロキョロと見渡して確認した後、口元をミサトの耳へ寄せた上に油断なく小声で囁き、日向がスパイの存在を示唆した途端。
「ス、スパイっ!?」
「な゛っ!?・・・ま、待って下さいよっ!!!ぼ、僕は違いますっ!!!!し、信じて下さいっ!!!!!」
ミサトが驚愕に目を見開きつつ日向から距離を取り、日向がその態度から溢れる己への疑惑に今さっきの注意深さなど忘れて身の潔白を訴え叫ぶ。
実を言うと、過去2度に渡ってミサトと日向へ行われたシンジの離間の計は、ミサトの心に日向へ対する疑心暗鬼を着実に育てていた。
それでも、ミサトは外界との接点を日向しか持たない故に日向を信頼するしなく、自分の心を蝕む感情を今まで必死に押し殺してきたのである。
「・・・そうよね。今は信じ合う事こそが何よりも大事・・・・・・。そう、信頼なくして革命が歴史上で成功した試しはないわ。
日向君、良い?・・・今は疑う事よりも、同志を1人でも多く集める事の方が先決よ。
そして、奴らが同志1人を引き抜いたのなら、こっちは同志を新たに2人作り、引き抜いた以上の同志を作れば良いだけの事・・・。解った?」
「はい、解りました」
「なら、そろそろ戻らないとヤバいから行くわ。碇司令の方は任せて・・・。それじゃあ、また明日、この時間、この場所で・・・・・・。」
その必死さに疑った事を恥じ、ミサトは自分自身を戒めながら日向も戒めると、日向との再会を誓って足早に辺りを警戒しつつ去って行く。
「お気を付けて・・・。」
「・・・日向君」
「はい?」
日向もならば長居は無用とこの場から立ち去ろうとするが、3歩と歩かない内にミサトから呼び止められ、すぐさま何事かと勢い良く振り返る。
「・・・・・・信じてるからね」
「は、はい・・・。あ、ありがとうございます・・・・・・。」
一拍の間の後、ミサトが言葉とは裏腹に疑惑色で濁った視線を向け、日向はミサトの嬉しすぎる言葉に涙をルルルーと流して顔を引きつらせた。
ピポッ!!ウィィーーーン・・・。カシャ、カシャカシャカシャ・・・。
電源が入れられると共に電子音が鳴り、モーターの回転音を静かな室内に響かせながらデーターを読み込んでゆくハードディスク。
ここはつい最近まで作戦部長室と呼ばれていた部屋であり、今は名を変えて司令室調査部長室、もしくは作戦部長代理室と呼ばれる部屋。
「ええっと・・・。M・I・S・A・T・O、点、L・O・V・E・・・。ミサト・ラブ・・・っと・・・・・・。
しっかし、いつも思うが・・・。恥ずかしすぎるぞ。これ・・・・・・。頼むから、もっとマシなのを考えてくれよ。マコト・・・・・・。」
青葉は自分の席ではなく日向の席に座り、無断で立ち上げた日向の端末のOSから求められたパスワードを苦笑しながら入力してゆく。
ちなみに、2人の机は部屋中央に向かい合わせで列べられ、出入口の扉から見て右側が青葉の、左側が日向の机である。
「さてさて・・・。どうかな?」
カチャッ・・・。
端末が青葉を使用者本人だと誤認して起動画面を立ち上げ、青葉はファイル操作のアプリケーションを実行させるとドライブへディスクを入れた。
「さっすが、赤木印のプログラム。マコトが3日間も徹夜して作ったプロテクトをこうも簡単に突破とは・・・。
・・・って、何だ、こりゃ?・・・A310?・・・まだ俺の知らないフォルダがあったのか?・・・・・・どれどれ?」
しばらくするとフォルダ構造に今までなかったフォルダ群が現れ、青葉が初めて見るフォルダを興味深そうに開けた途端。
「マ、マコト・・・。お、お前、葛城さんの何処がそんなに良いんだ?
ま、まあ、あの胸は確かに捨てがたいが・・・。あ、あの性格を何とかして貰わないと・・・。お、俺には解らん・・・・・・。」
ミサトを写した写真の画像ファイルが続々と現れた上、日向の手製らしきミサト・スクリーンセーバーまで現れ、青葉は思わず茫然と目が点。
余談だが、それ等の写真は全てが真っ当で健全な物であり、言わゆる盗撮写真の様ないかがわしい物は一枚も存在ない。
ピピッ!!ピピッ!!!
「おっと・・・。お仕事、お仕事・・・・・・。」
それも束の間、机の上に置かれたデジタル時計が午後2時を告げ、青葉は我に帰ると本来の目的である作業に移った。
カッカッカッカッカッ・・・。
カシャ、カシャカシャカシャ・・・。
カッカッカッカッカッ・・・。
カシャ、カシャカシャカシャ・・・。
カッカッカッカッカッ・・・。
カシャ、カシャカシャカシャ・・・。
キーボードを打つ音が響き、ミサトと日向が極秘裏に進めている計画の全貌がLANケーブルを介して青葉の机にある端末へと書き込まれてゆく。
カッカッカッカッカッ・・・。
カシャ、カシャカシャカシャ・・・。
カッカッカッカッカッ・・・。
カシャ、カシャカシャカシャ・・・。
カッカッカッカッカッ・・・。
カシャ、カシャカシャカシャ・・・。
最早、何度となく行ってきた親友への裏切りだが、青葉が詫びずにはおれず作業の手を止めて日向へ詫びたその時。
「まさか、マコトも俺が裏切ってるとは思ってもみないだろうな・・・。
すまん・・・。本当にすまん。マコト・・・。司令の命令だけは断れないんだ。それにもう俺と司令は運命共同体だし・・・・・・。
・・・って、いや、待てよ?ひょっとして、司令・・・。最初から、この為に俺とマコトの部屋を一緒にしたのか?
・・・だな。間違いなく、そうだよな。そうとしか思えない・・・。相変わらず、抜け目ないっスっ!!恐れ入るっスっ!!!司令っ!!!!」
青葉は執務室を自分と日向の同室にした理由を漠然と悟り、シンジへの畏怖を更に深め、絶対にシンジだけは敵に回さないでおこうと固く誓った。
コンコン・・・。ガチャッ・・・。
「・・・し、失礼します」
この扉の向こう側にある新たな世界に胸を期待と不安に膨らませ、第3応接室と書かれた部屋へ怖ず怖ずと入って行くスポーツ刈りの少年。
少年の名前は『浅利ケイタ』、嘗ては戦自トライデント部隊秘密基地に所属しており、マナと訓練を共にしていた仲の少年。
そして、戦自の公式記録から抹消されたトライデント事件の際、不慮の事故でトライデントが故障してしまい、戦自に捕らわれた少年でもある。
その後、軍事裁判で終身刑を受け、ケイタは軍刑務所へ収監されるも、トライデント計画の抹消と共にケイタの罪も抹消されて釈放。
同時に青葉からチルドレンとしてスカウトを受け、ケイタは与えられた支度金でシャバの空気を3日ほど吸ってからネルフへ来たと言う次第。
また、軍刑務所での厳しい生活がケイタを変えたのか、以前は常にあった表情の弱気っぽさが消え、今はちょっぴりだけ精悍さを漂わせている。
(あれ?まだ誰も居ないじゃないか・・・。せっかく、2人に会えると思って早く来たのに・・・・・・。
・・・って、あのムサシが時間より早く来るはずもないか。マナもマナでムサシほどじゃないけど時間には割とルーズな方だし・・・・・・。)
ところが、予想に反して誰も室内には居らず、ケイタが緊張して損したと言うわんばかりに安堵の溜息をつきながらソファーへ座った次の瞬間。
「え゛っ!?・・・うわぁぁ~~~っ!!?」
「んっ・・・。うんんっ・・・・・・。」
ケイタのお尻とソファーの間に何かが挟まり、慌てて腰を浮かせたケイタは、股の間を怪訝顔で覗き込んでビックリ仰天。
何故ならば、ソファーには金髪ショートカットの少女が仰向けですやすやと寝ており、ケイタはその少女の顔にお尻を乗せてしまったからである。
ちなみに、ケイタの服装は学生服の様にも見える白いシャツに黒いズボン、少女の服装は第壱中女子制服。
(・・・・・・か、可愛い。だ、誰だろう。こ、この娘・・・・・・。も、もしかして、僕達と同じで新しくチルドレンになった娘かな?
そ、そうだよ。そ、そうに決まってるよ。ネルフなら外人さんが居てもおかしくないし、確かセカンドもアメリカ人だったし・・・・・・。)
幸いにして少女は目を覚ます事なく寝返りだけを打ち、ケイタは胸をホッと撫で下ろしつつ、思わず少女の美しい容貌に見ほれて言葉を失う。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
そのまま暫くの時を過ごしていたが、幾ら何でも股の間から覗き見るのは失礼だろうと、ケイタが向かいのソファーへ移動して座る。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
しばらくすると少女がケイタ側へ再び寝返りを打ち、俯せとなって体左半身をソファーからはみ出して床へ左足を落とした。
「んんっ・・・。」
(・・・し、仕方ないよね。こ、このままだと寝苦しそうだもん・・・・・・。)
少女に触れる大義名分を得て立ち上がり、ケイタが視界の範囲を少女の顔から少女全体へ広げた途端。
「っ!?」
ゴクッ・・・。
寝返りを打った際にスカートがはだけ、顕となった少女の白い左太股が網膜に飛び込み、ケイタが驚愕に目を見開かせつつ思わず生唾を飲み込む。
しかも、見る角度と見る位置によっては、乙女の秘密が覗け見えてしまいそうな絶妙すぎるスカートのはだけ具合。
(・・・・・・はっ!?ぼ、僕は何を・・・。な、何をしようと言うんだ・・・・・・。
か、彼女が寝てるのを良い事に・・・。こ、こんな奴だったのか、自分って人間は・・・。さ、最低だ。ぼ、僕って・・・・・・。)
ケイタは誘われるかの様に少女の足下側へ向かい、見る角度と見る位置を調整しようと腰を屈めるも、ふと我に帰って背筋を勢い良く伸ばし戻す。
(ううっ・・・。ダメだっ!!ダメだ、ダメだ、ダメだっ!!!ダメだぁぁ~~~っ!!!!・・・このぉぉぉぉぉ~~~~~~っ!!!!!)
ボグッ!!
それでも、男の悲しい性には勝てず、腰が再び自然と屈み始め、ケイタは己を恥じて轟々と燃える熱きたぎりの源である股間へ右拳を放った。
「うげっ!?・・・んんんんんんんんんんっ!!!んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんっ!!!!
んがっ!!もはもはっ!!!ほんぬががっ!!!!へらんへはほっ!!!!!んぺろぱぽっ!!!!!!んんさふひまぬぎれっ!!!!!!!」
恐ろしい自戒行為に膝を折って蹲り、ケイタは激痛に叫びたくなるも両手で口を塞いで堪え、少女の安眠を必死に汗をダラダラと流して守り抜く。
「はぁ・・・。はぁ・・・。」
「はぁ・・・。はぁ・・・。」
「はぁ・・・。はぁ・・・。」
「はぁ・・・。はぁ・・・。」
「はぁ・・・。はぁ・・・。」
「はぁ・・・。はぁ・・・。」
その甲斐あってか、激痛が治まり始めるも代わって鈍痛が腰にズキズキと早鐘打って響き、ケイタは尋常でない荒く激しい息をつきまくり。
「はぁ・・・。はぁ・・・。」
「はぁ・・・。はぁ・・・。」
「はぁ・・・。はぁ・・・。」
「はぁ・・・。はぁ・・・。」
「はぁ・・・。はぁ・・・。」
「はぁ・・・。はぁ・・・。ふぅぅぅぅぅ~~~~~~・・・・・・。」
永遠にも感じた約5分の末、ようやく痛みが治まって荒い息づかいも治まり、ケイタは深呼吸しながら顔をゆっくりと上げてビックリ仰天。
ケイタが驚く理由、それは何を隠そう今の体勢こそが、ケイタの男の性が正に求めていた絶妙な見る角度と見る位置だったからである。
但し、そこは乙女の秘密と言われる場所だけあって容易にお宝を得る事は出来ず、見る角度と見る位置は申し分ないも見る距離が少し足りない。
「っ!?っ!!?っ!!!?っ!!!!?っ!!!!!?」
ゴクッ・・・。
目を最大に何度も見開いて生唾を飲み込んだ後、ケイタが男の悲しい性に勝てず見る距離を求めて前進しようとしたその時。
コンコン・・・。ガチャッ・・・。
「失礼しまぁ~~す♪シンジ、渡したいプレゼントって・・・なん・・・な・・・の・・・・・・。」
部屋の扉が開いてご機嫌なマナが現れ、それぞれの意味合いはかなり違うが、思ってもみなかった突然の再会に2人が驚く。
「ケ、ケイタっ!?」
「マ、マナっ!?」
「良かったっ!!無事だったんだっ!!!今まで何処に・・・って、ケイタ、何やってんの?」
すぐさまマナが目の前の光景を実感しようとケイタへ駈け寄るが、その途中でケイタの奇妙すぎる体勢に疑問を感じて立ち止まった。
「へっ!?・・・あっ!!?い、いやっ!!!?ち、違うんだっ!!!!?
こ、これはっ!!そ、そのっ!!!つ、つまりっ!!!!え、ええっとっ!!!!!だ、だからっ!!!!!!」
ケイタは視線を交互にマナと未だ一歩届かない乙女の秘密へ向け、立ち上がって弁解しようとするも再び走った激痛に体がピクリとも動かない。
「へぇぇ~~~・・・。ムサシがHなのは知ってたけど・・・・・・。
大人しそうな顔して、ケイタも意外とHだったんだね♪へぇ、へぇぇ~~~・・・。知らなかったなぁぁぁぁぁ~~~~~~♪♪」
マナは怪訝そうに歩を更に進め、ソファーの背もたれで見えなかった少女の姿を見つけると、ケイタへ鬼の首を取ったかの様にニンマリと笑った。
なにせ、ケイタの目の前にはあられもない少女の寝姿があり、ケイタが蹲りながら辛抱たまらんと言った様子で股間を両手で押さえている状態。
そこから導き出される当然の答えは『ケイタ、見知らぬ少女に悪戯をするの巻』しかなく、マナが誤解してしまうのも無理はない話。
もっとも、それは誤解でも何でもなく、悪戯とまではいかないにしろ、ケイタが少女へ悪さをしようとしていたのは既にご承知の通り。
「ち、違うっ!!マ、マナ、違うんだっ!!!こ、これはっ!!!!そ、そのっ!!!!!だ、だからっ!!!!!!」
「はいはい、解った、解った♪・・・でも、別に良いんじゃない?私達の年頃なら、そういう事に興味を持って当然だからさ♪♪」
「だ、だから、違うんだってば・・・。ぼ、僕の話を聞いてよ。た、頼むからさぁぁ~~~・・・・・・。」
せっかく再会したと言うのにマナの顔をまともに見れず、ケイタは激しい後悔に苛まれつつ顔を伏せて絨毯に額を擦り付けまくり。
「それにこの場合・・・。ケイタは悪くないと思うよ。むしろ、無防備にこんな場所で寝てるこの娘の方が悪いんじゃない?」
「・・・そ、そうかな?」
その取り乱し様がおかしく更にクスクスと笑うが、マナは少女の体勢と着衣の乱れを直すべく少女のスカートへ手をかけてビックリ仰天。
「そうよ・・・って、え゛え゛っ!?」
「ど、どうしたのっ!?・・・うわっ!!?な、何やってんだよっ!!!?マ、マナっ!!!!?」
ケイタがマナの驚き声に反応して顔と上半身を勢い良く起こすが、少女のスカートを豪快に捲り上げているマナの図に驚いて慌てて顔を背ける。
「ほら、ケイタっ!!見て、見てっ!!!この娘のパンツっ!!!!」
「ダ、ダメだよ・・・。そ、その娘に悪いじゃないか・・・・・・って、え゛え゛っ!?」
「ねっ!?この娘、男物のパンツを履いてるでしょ?」
「・・・う、うん」
しかし、マナの強い勧めもあり、ケイタは怖ず怖ずと横目だけを向け、少女の乙女の秘密が麻雀牌柄のトランクスだった事を知ってビックリ仰天。
「もしかして、この娘・・・。男の子で変態さんとか?」
「ま、まさかっ!?」
マナは一見すると平坦な少女の股間にどんな秘密があるのだろうと興味が湧き、ケイタがマナの疑問にそんな事があってたまるかと否定を叫ぶ。
「じゃあ、ケイタはあっちの方を向いてて・・・。私が確かめるから」
「ええっ!?」
「だって、まだ今のところは女同士なんだから別に問題ないでしょ?」
ケイタの否定に大義名分を手に入れ、マナはニヤリと笑いながらケイタの後方を指さした。
「そ、そりゃ、そうだけど・・・。も、もし、男だったらどうするの?」
「その時はその時よ。不幸な事故だったって事で諦めるしかないんじゃない?」
「ふ、不幸な事故って・・・。」
「良いから、ケイタはあっちを見てるっ!!」
「は、はいっ!!」
即座にマナの意図を悟り、ケイタはマナを何とか思い止まらせようとするも怒鳴られて怯み、慌てて2人に対して背を向けて背筋正しく正座。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
両手を少女のトランクスへかけ、妙な興奮にちょっぴり胸を高鳴らせつつ、少女のトランクスをゆっくりと下ろしてゆくマナ。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・ど、どう?」
やがて、30秒が経ち、1分が経ち、3分が経つもマナからの解答はもたらされず、たまらずケイタが振り向きたいのを必死に我慢して尋ねる。
「うん、アスカさんもそうだったけど・・・。やっぱり、髪の毛と同じ色なんだね」
「か、髪の毛と同じ色っ!?な、何がっ!!?な、何が髪の毛と同じ色なのっ!!!?ね、ねぇ、マナっ!!!!?お、教えてよっ!!!!!?」
てっきり触って確かめるのかとばかり思っていたケイタは、何かを凝視しているらしきマナから与えられた情報に想像の翼を広げて大興奮。
「んんっ・・・。誰だよ。人が寝てるのにさっきからうるせぇ~~なぁぁ~~~・・・・・・。
・・・って、マ、マナっ!?お、お前、何やってんだよっ!!?ひ、人のパンツを勝手に下げてっ!!!?」
その騒がしさに眠り姫が遂に目を醒まし、少女は自分のおかれた状況を知るなり、寝ぼけ眼を一気に見開かせながら慌ててマナから後ずさった。
現在、少女のスカートは全開に捲れ上がって下半身を全く隠しておらず、少女のトランクスは片足が脱げて右足首まで下がっている状態。
その上、少女の両足の間に割って入ったマナが、少女の両足を押さえて開き、文字通りマナの目の前に女体の神秘がベールを脱いでいる状態。
こんな状況を起床すると同時に見せられては驚き怯えるのが当たり前であり、少女が思わずマナから逃げてしまうのも無理はない話。
「うわっ!?」
ゴチッ!!・・・ドスゥゥゥゥゥーーーーーーンッ!!
だが、狭いソファーに逃げ場など有るはずもなく、少女はソファーから転げ落ち、ソファー前にあるガラステーブルの角に後頭部をぶつけて気絶。
「ど、どうしたのっ!?」
「ケイタはあっちを見てろって言ったでしょっ!!」
「は、はいっ!!」
ケイタは少女の悲鳴に思わず片膝を立てて振り返るが、間一髪を入れずマナから怒鳴られ、慌てて振り向き戻ってシャキーンッと背筋正しく正座。
「ごめんね・・・。他の人のって、じっくりと見た事がなかったから・・・。つい・・・・・・。
でも、どうして男物のパンツなんか・・・って、んっ!?今、この娘・・・。私の名前を呼んだ様な、呼ばなかった様な・・・・・・。」
少女へトランクスを履かせ戻しつつ詫び、ふとマナは会った事もない見知らぬ少女が叫んだ際に自分の名前を呼んだ様な気がして首を傾げた。
「はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。」
汗を額から止めどなくダラダラと流しまくり、意識を朦朧と左右にフラフラと危な気に歩く灰色のつなぎ作業服姿のゲンドウ。
その肩には2メートルほどの木の棒が食い込み、その木の棒の両端には木桶がぶら下がり、その木桶の中になみなみと入っているは畑に使う肥料。
この肥料は市販されている化学肥料などとは違い、直にトイレから汲んできたKランク更正訓練所の皆が食べて出した100%天然素材。
最初こそは市販肥料を使っていたのだが、これ以上の予算を慈善に割く余裕はないとのシンジの言により、この処置が先週より実施されていた。
この処置に対して、当然の事ながら訓練員達、特にミサトを始めとする女性達が非難の声をあげたが、特別監査部の強権によって黙殺。
同時に他人のと混ざり合っているとは言え、自分の排泄物を使用する行為は敗北感を与え、訓練員達の心から次第に反抗心を失わせていった。
その結果、以前は何かあるに付けて反抗していた訓練員達が従順となり、今では作業中に無駄口を叩いたり、反抗的な態度をとる者は少ない。
「ううっ・・・。」
バタッ・・・。
遂に意識レベルが限界を超え、ゲンドウは膝を折って大地へ前倒しに倒れ、木桶内の黄土色水がこぼれて周囲に激臭を広げてゆく。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「司令っ!?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
『持ち場を離れるなっ!!』
すぐさま周囲の者達がゲンドウの元へ駈け寄ろうとするが、監視塔から下界を見張る加持にハンドマイクで怒鳴られて動きをピタリと止める。
『どうした?・・・何を休んでるっ!!52号っ!!!さあ、早く立てっ!!!!』
「はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。」
加持は眼下の光景を満足そうに頷き、ゲンドウへ作業を再開させるよう命令するが、ゲンドウは倒れ伏したまま荒い息をついて立ち上がれない。
ちなみに、加持の言葉の中にある『52号』とは、ゲンドウへ与えられたKランク更正訓練所内での認識番号の事。
なにせ、落ちぶれたとは言え、ゲンドウの役職は司令代理、階級は准将と実権こそ全く持たないお飾りだが、ネルフ本部ではシンジに次ぐ高位者。
これでは特別監査部員達がゲンドウへ命令を出し難いだろうと察し、シンジが訓練員達の総記号化を実施したのである。
また、ゲンドウが収監された事により、いかなる身分でも職務怠慢は許されないと知り、ネルフ職員達の間には良い緊張感が生まれていた。
おかげで、各部署の仕事効率が2割から3割ほど伸び、密かにゲンドウは政権保持時より役に立っていたりする。
『おい、目を醒ましてやれ』
「ちょっと待ちなさいよっ!!加持っ!!!」
加持は溜息混じりにゲンドウへの放水指示を隣りの特別監査部員へ与え、たまらずミサトが怒気を顕に両手を広げてゲンドウの前に立ち塞がった。
『何をしている・・・。早くしろ』
「待てって言ってるでしょっ!!聞こえないのっ!!!このバカ加持がっ!!!!」
しかし、加持は尚も特別監査部員へ指示を与え、ミサトが無視された悔しさに加持達が立つ監視塔の足を思いっきり何度も蹴り付ける。
『・・・何の用だ?18号』
「くっ・・・。見て解らないのっ!!司令は限界なのよっ!!!少しくらい休ませてあげたって良いでしょうがっ!!!!」
加持は妙にやるさない溜息をつきつつも冷酷な目で眼下を睨み、ミサトは記号で呼ばれた屈辱に加持を射殺さんばかりに睨み返して叫びまくり。
『ならば、52号が休んでいる間・・・。18号、お前が52号のノルマを肩代わりすると言うんだな?』
「う゛っ・・・。そ、それは・・・・・・。」
だが、加持から厳しい責任追及を求められ、只でさえも手一杯なノルマに苦労しているミサトは効果覿面に言葉を失って沈黙。
「・・・も、問題ない。わ、私なら大丈夫だ・・・・・・。」
『見ろ。52号もそう言っている・・・。18号、お前も作業に戻れ』
するとゲンドウが体をふらつかせながらも立ち上がり、加持はニンマリとほくそ笑んで容赦のない一撃をミサトへ与えた。
「加持ぃぃ~~~っ!!あんたって人はぁぁぁぁぁ~~~~~~っ!!!
今度と言う今度は本当に見損なったわっ!!こんな奴だったなんて・・・。さっきまであんたを少しでも信じてた私が馬鹿だったっ!!!」
その言葉はミサトの心に突き刺さって加持への信頼心と好意が砕け散り、ミサトがやや涙目になりつつ怒鳴って人でなしの加持を責めた次の瞬間。
『・・・黙らせろ』
パチンッ!!・・・ブシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーッ!!
「キャァァァァァァァァァァ~~~~~~~~~~~っ!?」
加持が指パッチンを鳴らして特別監査部員達へ放水指示を与え、ミサトは高水圧の放水を四方から浴びて言葉を無理矢理に封じられて沈黙。
(自分で蒔いた種とは言え・・・。本当に何処で道を誤ったのか・・・・・・。
この調子じゃ・・・。もう、全てが済んでも8年前の言葉は聞いちゃくれないだろうな。葛城の奴・・・。シンジ君、恨むぞ・・・・・・。)
ミサトから辛そうに顔を背け、上を見上げて必死に涙を堪えた後、加持が司令公務室のあるネルフ本部ピラミッド頂上へ恨めし気な視線を向ける。
「はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。(どうして・・・。どうして、こうなったのだ・・・・・・。
何処で間違えたと言うのだ・・・。シンジ、お前は私に何をさせようと言うのだ。シンジ、お前は何を考えていると言うのだ・・・・・・。)」
奇しくも時同じくして、ゲンドウもまたネルフ本部ピラミッド頂上へ虚ろな目を向け、心の中で加持と似たような疑問をシンジへぶつげていた。
「んっ・・・。うんんっ・・・・・・。」
あの不幸な事故より既に小一時間、ようやく意識を取り戻して気怠そうに上半身を起こしながら、寝ぼけ眼で辺りをキョロキョロと見渡す少女。
「あっ!?起きた?・・・さっきはごめんね?」
「はっ!?・・・マナっ!!!ケイタっ!!!!」
そして、対面に座るマナとケイタの姿を確認するなり、少女は寝ぼけ眼を最大に見開かせ、今まで寝ていたソファーの上に勢い良く立ち上がった。
「それなんだけどさ・・・。私達って、何処かで会った事あったっけ?」
「っ!?っ!!?っ!!!?」
ボスッ・・・。
だが、少女に見覚えのないマナから怪訝顔を返され、少女は愕然と尚も目を最大に見開かせた後、ソファーへ力無く崩れ落ちて女の子座り。
「やっぱり、アレじゃない?ほら、1年半くらい前にあった・・・。」
「ああ・・・。西アメリカ国連軍と合同演習した時の?」
「そうそう、それそれ。多分、その時に会ったんだよ」
「そっか、そっか・・・。ごめんね。私、ちっとも覚えてないや・・・って、え゛っ!?」
ケイタと顔を見合わせて少女との記憶を探るも解らず、マナは悪びれた様子なく舌をペロッと出して詫びながら顔を正面へ戻してビックリ仰天。
何故ならば、少女は俯いて肩を小刻みに震わせ、スカートの上に瞳からポタポタとこぼす涙の染みを作っていたからである。
「ど、どうしたのっ!?な、何も泣く事ないじゃないっ!!?」
「そ、そうだよっ!!こ、これから仲良くなってゆけば良いじゃないかっ!!?」
「そう・・・。そうだよな。当たり前だよな・・・。こんなナリじゃ・・・。無理もないよな・・・・・・。
ははははは・・・。お前等なら、すぐに解ってくれると思ったけど・・・。俺でさえ驚いたくらいだ。解るはずもないよな・・・・・・。」
「「??????」」
思わずソファーから腰を浮かして必死に少女を焦り慰めるが、少女から意味不明な嘆きを返され、マナとケイタが怪訝顔を見合わせたその時。
ガチャッ・・・。
「やあ、待たせたね。感動の再会は済んだかな?」
「っ!?・・・碇シンジぃぃぃぃぃ~~~~~~っ!!!貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!」
部屋の扉が開いて青葉とマヤを引き連れたシンジが現れ、少女はシンジの姿に目を見開かすと、右拳を振り上げて猛然とシンジへ襲いかかった。
「司令っ!!」
ドッスゥゥゥゥゥーーーーーーンッ!!
「うげっ!?」
すかさず青葉がシンジの前に進み出て立ち塞がり、向かって来る少女の制服の襟を掴んで背負い投げ、少女を床へ勢い良く叩き付ける。
「1度目は司令の言葉があったから見逃した。だが、2度目は違う・・・。そして、3度目は無いと思え・・・・・・。」
「っ!?」
更に間一髪を入れず、青葉は銃を抜いて少女の眉間へ押しつけ、少女が思わず呻いてしまいそうな背中の激痛を忘れて恐怖に押し黙るも束の間。
「おや?・・・髪、切っちゃったんだね?せっかく、似合ってたのに・・・。どうして、また?」
「よ、良くもヌケヌケとぉぉぉぉぉ~~~~~~っ!!」
真上からシンジにニヤリ笑いで見下ろされて恐怖より屈辱感が勝り、声を取り戻した少女がシンジを掴まんと右手を伸ばして勢い良く立ち上がる。
「ぐうっ!?」
「・・・3度目は無いと言ったはずだ」
即座に青葉が反応して少女の右手首を掴み、そのまま少女を拘束して床へ俯せに押しつけ、身動きが取れぬ様に少女の腰の上に跨り乗った。
「それとも、聞こえなかったのか?もし、聞こえなかったのなら・・・。俺が耳の穴をもう少し大きくしてやろうか?」
カチャ・・・。
「ぐぬっ!?」
しかも、少女の両手を後ろへ回して手錠をかけた上、銃口を少女の後頭部へ押しつけて撃鉄を起こし、たちまち少女が再び恐怖に押し黙る。
「こらこら、ダメだよ?せっかくの美人が台無しじゃないか。さあ、笑って、笑って・・・。ねっ!?」
「ぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐっ!?」
シンジはこの絶対的有利下をクスクスと笑い、少女が口も手も出せず屈辱に耐えて奥歯をギリギリと噛み締め、せめてもの抵抗にシンジを睨む。
「ひぃっ!?(・・・どうして?・・・どうして、わざわざ怒らせようとするの?
幾ら彼に生きる目的を与える為とは言え・・・。やっぱり、そんなの悲しいじゃない。・・・本当にそれで良いの?シンジ君・・・・・・。)
マヤは突き刺さらんばかりのムサシの眼光に怯んでシンジの背に隠れ、シンジの背中を悲しそうに見つめて視線と顔を辛そうにたまらず伏せた。
「・・・シンジ」
「何だい?」
「その娘・・・。誰?・・・シンジの新しい彼女?」
その一瞬できた沈黙の間を縫い、突然の少女の行動に茫然となっていたマナが我に帰り、顔全体の筋肉をピクピクと痙攣させつつシンジへ問う。
「あれ?・・・ひょっとして、まだ聞いてないとか?」
「何がよっ!?」
応えてシンジは心底に意外そうな表情を浮かべ、マナがはっきりと応えないシンジに憤ってタレ目な目を一気につり上げる。
「戦略自衛隊特車4課トライデント部隊・霧島マナ陸曹長っ!!」
「は、はいっ!!」
するとシンジは脈絡もなく唐突にマナを以前の呼称で呼び、マナは突然の話題転換に戸惑いつつも、叩き込まれた軍人の性に従って敬礼を返す。
「同じく、戦略自衛隊特車4課トライデント部隊・浅利ケイタ陸曹長っ!!」
「は、はいっ!!」
続いて、シンジは同様にケイタも呼び、ケイタはいきなり話を振られて驚きながらも、やはり叩き込まれた軍人の性に従って敬礼を返した。
「と来れば・・・。当然、次は?」
「「えっ!?」」
最後にシンジは少女へ視線を向けてニヤリと笑い、マナとケイタがシンジの視線を追って少女へ視線を向ける。
「「っ!?・・・ま、まさかっ!!?」」
「そう、彼女の名前はムサシ・リー・ストラスバーグ。君達の戦友だよ」
一拍の間の後、ある人物の名前が話の展開から頭に浮かび、マナとケイタが驚愕に見開いた目をシンジへ戻し、シンジが2人の視線に応えて頷く。
「「ええっ!?ム、ムサシぃぃぃぃぃ~~~~~~っ!!?う、嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!?」」
「嘘じゃない・・・。本当だ」
マナとケイタは驚愕の上に驚愕を更に重ねて驚き叫び、少女は瞳に涙をちょっぴりと浮かべつつ奥歯をギリリと噛んで遂に自分の正体を明かした。
「で、でも、ムサシは男の子じゃないっ!?」
「そ、そうだよっ!?ど、どうして、女の子なのっ!!?」
ようやく少女が自分達を知り、自分達が少女を知らなかった疑問は解けたが、この少女がムサシだとは容易に信じられず驚きまくるマナとケイタ。
「ふんっ!!その訳なら、こいつが良ぉ~~く知っているっ!!!こいつへ聞いてみたらどうだっ!!!!」
「シ、シンジ・・・。ど、どう言う事なの?」
ムサシは射殺さんばかりにシンジを睨み付けて2人の疑問に応え、マナは鳥肌が立つほどの殺気を放つムサシに戸惑いながらシンジへ尋ねた。
「まあ、ちょっとした不幸話でね。これが語るも涙、聞くも涙な話なんだよ」
「なんだっ!?そのにやけた笑いはっ!!?お前、俺を馬鹿にしてるのかっ!!!?」
応えてシンジは必死に笑いを堪えるも堪えきれずクスクスと笑い、ムサシが怒髪天となって殺気を更に立ち上らせる。
「それより、気に入ってくれたかな?・・・このプレゼントは?」
「・・・えっ!?」
だが、シンジはムサシを無視して全く意に介した様子も見せず、サングラスを外してポケットに入れると、マナへ優しくニッコリと微笑んだ。
「いつか、僕へ言ったろ?彼等の無事が解らない以上、自分だけが幸せを望んじゃいけないと・・・。」
「あっ!?」
「だけど、もう苦しむ必要はない・・・。これからは君も自分の幸せを求めて良いんだよ。マナ・・・・・・。」
「・・・シ、シンジ」
マナはシンジが何を言いたいのかが解らず怪訝顔を浮かべるが、いつか寝物語でシンジへ吐露した事を言っているのだと解って感動に心を震わす。
「マナ、騙されるなっ!!それがそいつの手なんだっ!!!甘い言葉で油断させて・・・。うぐっ!!!!」
「少し静かにした方が良いな。お前は・・・。」
その女心が女の子になったせいか良く解り、ムサシがマナの心を自分へ向けるべく叫ぶも、青葉に右腕を捻り上げられて激痛に声を失う。
「ぐぐぐぐぐ・・・。俺を見ろっ!!そいつが俺にどんな事をしたのかをっ!!!!
そいつは悪魔だっ!!お前は騙されてるんだ・・・って、止せっ!!!マナっ!!!!戻って来るんだっ!!!!!」
それでも、ムサシは痛みに屈する事なく体を必死に藻掻かせて体全体で叫ぶが、感動に打ち震えるマナの耳にムサシの声は一切届かない。
「シ、シンジ・・・。シ、シンジ・・・。シ、シンジ・・・。シ、シンジ・・・。シ、シンジ・・・。シ、シンジ・・・・・・。」
「ダメだっ!!マナっ!!!そいつを見るなっ!!!!こっちをっ!!!!!俺を見ろっ!!!!!!」
それどころか、マナはシンジの名前を呼ぶ度に瞳をウルウルと潤ませ、膝を震わせた辿々しい足取りでシンジへゆっくりと歩み寄って行く。
(ど、どうして、女の子になっちゃったかは良く解らないけど・・・。
と、取りあえず、かなり可愛いし・・・・・・。す、凄いやっ!!さ、最高だよっ!!!ム、ムサシっ!!!!)
その代わり、ケイタがムサシの魂の叫びを聞き届け、藻掻いて左右にフリフリと悩ましく動くムサシのお尻を凝視して鼻息荒く大興奮。
「シ、シンジ・・・。シ、シンジ・・・。シ、シンジ・・・。シ、シンジ・・・。シ、シンジ・・・・・・。シ、シンジっ!!
シ、シンジぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
そして、シンジが両手を『さあ、おいで』と広げ、マナが涙をポロポロとこぼしながら駈け、シンジの胸へ飛び抱きつこうとした次の瞬間。
「おわっ!?」
ドスンッ!!
突如、シンジが驚き声をあげて右へ素早く避け、目の前の目標を見失ったマナは両腕を虚しく空振らせ、そのまま倒れて床とディープなキス。
「痛ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
「・・・だ、大丈夫?マ、マナ・・・・・・。」
マナは両手で口と鼻を覆って激痛のあまり床をゴロゴロとのたうち回り、シンジがマナの様子に大粒の汗をタラ~リと流しつつ心配そうに尋ねる。
「酷いよっ!!!シンジっ!!!誘っておきながら避けるなんてっ!!!!」
「い、いや・・・。そ、それがさ・・・・・・。」
「ほら、見てよっ!!鼻血が出ちゃってるじゃないっ!!!どうしてくれるのっ!!!!」
「だ、だから・・・。そ、その・・・・・・。ね、ねっ!?わ、解るでしょ?」
「全然、解んないっ!!だから、何よっ!!!もう、私の事なんて嫌いになっちゃったって言うのっ!!!!」
「ち、違うってば・・・って、おわっ!?」
その行動と矛盾する気づかいに猛り、マナがシンジの襟首を掴まんと勢い良く立ち上がるが、シンジは再び驚き声を上げて素早く右横移動。
「1度ならず、2度までもっ!!・・・シンジっ!!!」
「だ、だから、違うんだ・・・。ぼ、僕じゃないんだってば・・・・・・。」
2度も避けられた悔しさに猛りを倍増させ、マナが空振った右掌をギュッと握って拳を作り、シンジが汗をダラダラと流しつつ視線を隣へ向ける。
「シンジじゃなかったら、誰が・・・。っ!?」
「それそろ、会議のお時間です。司令」
釣られてシンジの視線を追い、マナは驚愕に目を最大に見開き、マヤがようやく気づいてくれたかとマナへ勝ち誇ったかの様にニヤリと笑った。
マヤが勝ち誇る理由、それはシンジの右腕に絡んで組まれた自分の左腕であり、シンジを2度に渡ってマナの攻撃から守った事に他ならない。
つまり、シンジがマナを避けたのはシンジ自身の意思ではなく、嫉妬に駆られたマヤがシンジの腕を引っ張ったと言うのが真相。
(・・・そう、そういう事だったのね。いきなり秘書なんて作るから、おかしいとは思ってたけど・・・・・・。
やっぱり、アスカさんの言う通りだったなんてっ!!私はシンジを信じてたのにっ!!!どうなってるのよっ!!!!もうっ!!!!!)
その笑みにシンジとマヤの関係を全て悟り、マナは俯いて悔しさに奥歯をギリギリと噛み締め、嫉妬と怒りに肩をブルブルと震わす。
(し、知らなかった。い、いつの間に・・・。で、でも、その年齢差はさすがにヤバい域なんじゃないのか?マ、マヤちゃん・・・・・・。)
「「・・・・・・?」」
一方、青葉もマナと同じ見解に達して顔を引きつらせ、ムサシとケイタは3人に漂う緊張感こそ解るも訳が解らず怪訝顔で完全に蚊帳の外状態。
「さあ、参りましょう。遅れるとあの方々がうるさいですよ?」
「・・・そ、そうだね。そ、それじゃあ、あとはよろしく。あ、青葉さん・・・。マ、マナ、また後でね・・・・・・。」
その皆が茫然としている隙を付き、マヤがシンジを促しながらも腕を組んだまま強引に引っ張って部屋を足早に急ぎ出て行く。
「えっ!?・・・あっ!!?」
ガチャッ・・・。バタンッ!!
慌てて我に帰ったマナが顔を勢い良く上げるも時既に遅く、顔を引きつらせまくるシンジの姿が扉の向こう側へ消える。
「・・・なっ!?なっ!!?なっ!!!?なぁぁ~~~っ!!!!?何なのっ!!!!!!あの女ぁぁぁぁぁ~~~~~~っ!!!!!!!
大体、シンジもシンジよっ!!次から次へとっ!!!一体、何人いる訳っ!!!!あの頃のシンジは何処へ行っちゃったのよっ!!!!!」
一拍の間の後、心の奥底からフツフツと怒りがこみ上げ、マナは閉まった扉へ向かって怒鳴りまくった上に地団駄を踏みまくり。
「はははははははははは・・・。た、確かに・・・って、ごほんっ!!んんっんっ・・・・・・。
で、では、まず最初にだが・・・。げ、現在、居住区は全て満室の為、リー特務准尉と浅利特務准尉には2、3日ほど同部屋で・・・・・・。」
シンジの副官であるが故にシンジの私生活を知る青葉は、乾いた笑い声をあげつつマナの意見につい頷きたくなるのを咳払いで必死に誤魔化した。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
落ちかけた陽の光が窓から射し込み、壁一面が赤く染まるコンクリート剥き出しの狭い部屋。
腕を組んでパイプ椅子に座り、静かに目を瞑って微動だにせず無言のゲンドウ。
膝の上に握った両拳を置いてパイプ椅子に座り、何度となく顔を上げようとするも上げれず、ただひたすらに俯いて無言のリツコ。
その向かい合う距離は1メートルも満たないが、2人の間を分厚い透明アクリル板が隔て、その手は決して相手には届かず届くのは視線と声のみ。
しかし、対面して既に10分弱、ゲンドウとリツコは視線を合わせず終始無言で部屋には静寂だけが漂っていた。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
ここはKランク更正訓練所敷地内に設けられた訓練員達が唯一外界との接点を求められる特殊監査部公認の面会室。
もっとも、外界との接点を求められると言っても、訓練員から求める事は出来ず、訓練員へ面会者が訪れた場合のみ。
また、面会者から訓練員への如何なる差し入れも一切が不許可であり、ここで交わされるのはあくまで面会者との対面だけ。
無論、面会室には監視カメラが設置されており、特殊監査部員が訓練員と面会者の会話と行動を常に厳しくチェックしているのは言うまでもない。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
いつまでも続くかと思われた静寂が面会時間終了を告げるアナウンスによって打ち破られる。
『52号、時間だ』
「・・・あっ!?」
ゲンドウは無言のまま席を立ち上がってリツコへ背を向け、慌ててリツコが顔を上げて届かないと解っていながら思わずゲンドウへ手を伸ばす。
ガチャッ・・・。
「ゲ、ゲンドウさんっ!!」
だが、ゲンドウは振り返る事なく歩を進めて苦界へのドアノブを回し、たまらずリツコが席を勢い良く立ち上がって呼び止める。
「・・・リツコ君」
「は、はいっ!!」
「もう、ここには来ないでくれ・・・。」
「っ!?」
ゲンドウは歩を止めるも背を向けたまま顔は向けず別れを告げ、リツコがゲンドウの残酷な言葉に愕然と目を最大に見開いて言葉を失う。
余談だが、ゲンドウが収監されて以来、リツコは毎日、朝、昼、夕方とここへ訪れていたが、交わされた会話は一言もなく今回のこれが初めて。
バタンッ・・・。
「うっ・・・。ううっ・・・。うっうっうっ・・・。うっ・・・。うううっ・・・。うっうっ・・・。うっうっ・・・。うううっ・・・・・・。」
そして、ゲンドウが扉の向こう側へ消えると、リツコはその場へ崩れ落ちて再び椅子に座り、力無く項垂れて嗚咽を部屋に響かせた。
「では、こんな感じで次の予算はお願いしますね?」
薄暗闇の中、司令席卓上よりのアップライトを浴び、ユイの声色を使ってご機嫌なニコニコ笑顔を目の前の5人へ対して向けるシンジ。
「ユ、ユイ様、お待ち下さい。だ、第16使徒戦における第三新東京市の修復費とエヴァ各機に関する追加予算案は解るのですが・・・。」
「ですが・・・。何です?何処か解らない箇所があったかしら?」
「い、いや、そのですね・・・。このネルフ本部における保安部員の増員と本部施設における対人設備の増強が・・・・・・。」
「何をおっしゃいます♪備え有れば憂いなしですわ♪♪」
たまらずキールがシンジの要求に怖ず怖ずと待ったをかけるが、シンジは全く意に介せず聞く耳すら持たず笑顔を崩さない。
「し、しかし・・・。ネ、ネルフは使徒殲滅が目的であって、侵略が目的ではないのですから・・・・・・。」
「あら?侵略だなんて、人聞きの悪い言い方ですね。・・・これはあくまで防衛の為の物です♪くれぐれもお間違いなく♪♪」
「お、お間違いなくと言っても・・・。こ、これは些か防衛には度が過ぎた戦力増強ではありませんか?」
しかし、ここでシンジの案を許してしまっては何かと都合が悪く、キールは萎えまくる反抗心を懸命に奮い立たせて尚も反論を重ねた。
「私もそうは思うんですが・・・。こればっかりは仕方ないんですよね。残念ながら・・・・・・。」
「・・・と言いますと?」
シンジは首を左右に振って深い溜息をやれやれとつき、キールが豹変したシンジの態度に戸惑いながら尋ねる。
「実は・・・。とある組織がうちへ喧嘩を仕掛けようとしているとか、してないとかの情報を入手しましてね。
・・・で、対抗するには最低でもこれだけの兵力は必要かなぁ~~っと思ったんです。
まあ、もっとも・・・。うちへ喧嘩を仕掛けられる相手なんて、かなり特定できますから話し合いで解決できれば良いんですけどぉぉ~~~?」
応えてシンジは右拳で口元を隠してクスクスと笑い、やや顔を俯かせて底意地悪そうな上目使いをキールへ向けた。
「・・・そ、それは何かの間違いでしょう。ユ、ユイ様へ刃向かう愚か者など、この世に1人とて存在しません・・・・・・。
た、例え、その様な者がいたとしても・・・。ユ、ユイ様ご自身がお手を煩わせる必要など有りません。
そ、その時はユイ様に代わり・・・。こ、この私が愚か者へ正義の鉄槌を下す事をブラックアゲートの名に賭けてお約束しましょう」
キールは身に覚えの有りすぎる話題に思わず体をビクッと震わせるも、汗をダラダラと流しながら心の動揺を必死に隠してシンジを宥める。
「本当にぃぃ~~~?なら、良いんですけどねぇぇぇ~~~~?」
(お、おい、どうなっているんだっ!?ク、クロスストーンっ!!?)
だが、横顔を向けて流し目に変わった底意地悪そうなシンジの視線は更に強まり、たまらずキールが視線を逸らしてクロスストーンへ無言で問う。
(さ、さよう、計画がだだ漏れじゃないかっ!?わ、災いは我々の方にこそ落ちるよっ!!?)
(さ、幸いとも言えるっ!!ま、まだ立案段階の為、予算配分をしていなかった点においてはなっ!!!)
(い、今や周知の事実となってしまった。ネ、ネルフ本部襲撃計画・・・。か、各支部の運用は全て適切かつ迅速に処理して貰わなければ困る)
(・・・わ、解りました。い、今すぐ、対処にあたらせます・・・。ご、ご安心を・・・・・・。)
その動揺は他の者達にも広がり、皆からの視線と無言の責めを受け、クロスストーンが大粒の汗をタラ~リと流して顔を引きつらせたその時。
バタンッ!!
「シンジ君っ!!これはどういう事っ!!!話が違うじゃないっ!!!!」
ドアが勢い良く開け放たれる音とリツコの怒鳴り声が暗闇に響き、司令席を含むシンジの立体投影姿のみが光を浴びて霞みぼやけた。
「・・・何者だ」
「あらあら、リっちゃんったら会議中だって言うのに仕方のない娘ねぇぇ~~~・・・。せめて、ノックくらいして欲しかったわ」
「あっ!?」
キールは振り返って突然の乱入者を睨み付け、シンジは苦笑で突然の乱入者を出迎え、リツコが自分のしでかした過ちを知って愕然と恐れ戦く。
ちなみに、キールは振り返ってリツコを睨んではいるが、リツコの立ち位置には立体投影機がない為、シンジ以外にはリツコの姿が見えていない。
「も、申し訳ありませんっ!!で、出直してきますっ!!!し、司令っ!!!!」
「いえ、それには及ばないわ♪丁度、会議が終わったところだったから♪♪」
「「「「「え゛っ!?」」」」」
即座にリツコは部屋を退出しようと勢い良く振り返るが、シンジがニッコリと微笑んで止め、キールを含む5人がシンジの言葉にビックリ仰天。
何故ならば、人類の未来を占う会議はつい先ほど始まったばかりであり、決議どころか出された提案はシンジの物のみだからである。
「・・・と言う事で、書類の予算案を認めてくれますね?」
「い、いや・・・。し、しかしですね・・・・・・。」
「・・・認めてくれますね?」
「は、はい・・・。み、認めます。す、全てはユイ様のお心のままに・・・・・・。」
そんな5人の様子など全く意に介せず、シンジは恐ろしいほどの強引さで渋るキールをねじ伏せて極上のニッコリ笑顔を花咲かす。
「うん、よろしい♪人間、素直が1番♪♪明日もその調子でよろしくお願いしますね♪キールおじさん♪♪」
「へっ!?・・・あ、明日も?」
「あら、嫌ですわ♪使徒襲来で延び延びとなっていた私のドイツ出張が明日からなのをお忘れですか♪♪」
「そ、そう言えば、そうでしたな・・・。は、はい、ゼーレ・ドイツ支部をあげて歓迎いたします」
一方、キールは顔を引きつらせまくり、寝耳に水な報告を受けて驚いた後、明日からの事を考えて憂鬱そうに力無くガックリと項垂れた。
「まあ、それは楽しみですね♪それじゃあ、楽しみは明日に取っておいて♪♪・・・・・・全ては?」
「「「「「ユ、ユイ様のシナリオ通りに・・・。」」」」」
そして、シンジが話は終わりだと言わんばかりに右手を前方45度に掲げ、キール達が素早く追従して顔を引きつらせながら同様に右手を掲げる。
「本当にお願いしますよ♪誰にでも過ちはあるとは言え・・・。2度目はないと思って下さいね♪♪」
ボワンッ・・・・。
その光景を満足そうにクスリと笑い、シンジが暗闇に鈍い音を鳴り響かせて己の姿をかき消す。
「・・・キール議長、どうなさいますか?」
「どうなさるも、なさないもない。ユイ様のお言葉を聞かなかったのか?・・・当然、計画は全て白紙だ」
一拍の間の後、イエローベリルがネルフ本部襲撃計画進行の是非を問い、キールは首を力無く左右に振りつつ疲労感を感じさせる溜息で応えた。
「ですが、それでは我々がますます不利にっ!!」
「解っているっ!!解っているからこそ、次の手を考えているんだっ!!!何か・・・。何か、きっと必ず良い手があるはずだっ!!!!」
クロスストーンは血気盛んに弱気なキールを思い止まらせようと叫び、キールが言われるまでもないと苛立ちに苛立ちを重ねて叫び返す。
(なあ・・・。今からでも遅くはない。ユイ様に付いた方が良くないか?)
(さよう、その方が無難だね。・・・どう考えても、今のままでは旗色が悪すぎるよ)
そんな光景を眺め、レッドアンバーとラピスラズリは目線で意見を交わし合い、忠誠の天秤をシンジとキールのどちらへ傾けるかを悩んでいた。
「さて、用事も済んだ事だし・・・。リツコさんの話を拝見しましょうか?」
照明に光を点して窓のブラインドシャッターも開け、夕陽を背中に浴びつつゲンドウポーズをとり、リツコへニヤリと笑って話を促すシンジ。
「な、なら・・・。ごほんっ!!・・・んんっっ!!!んんんっ!!!!」
ドンッ!!
「シンジ君、これはどういう事なのっ!?聞いてた話と全然違うじゃないっ!!!私はあなたを信じて従ったのにっ!!!!」
リツコは咳払いで気を取り直すと、両拳で司令席を思いっきり叩いた後、やや涙目の憤怒顔で司令公務室へ訪れた理由を改めて怒鳴り訴えた。
「・・・と言うと?」
「決まってるでしょっ!!ゲンドウさんの事よっ!!!」
「・・・父さんがどうかしたんですか?」
だが、リツコの魂の叫びは主語と具体性に欠け、シンジは眉間に皺を寄せて怪訝顔。
ドン、ドン、ドン、ドン、ドンッ!!
「どうしたも、こうしたもないわよっ!!とにかく、話が違うのよっ!!!
ゲンドウさんの性格からして、こちらが優位にならなければ始まらないっ!!始まらないからこそ、ゲンドウさんを徹底に堕とすっ!!!
堕とせば、あとは簡単っ!!私が優しく接すれば、ゲンドウさんは私を縫う様になり、ゲンドウさんの心は自然と私へ向いてくるっ!!!
そう、あなたが言ったからこそ、私は・・・。私は・・・。私は恥を承知であんなアダルトビデオ紛いのテープを渡したんじゃないっ!!」
その表情に苛立ちが倍増され、リツコが両拳で司令席を何度も叩き、一頻り怒鳴りまくって尚も怒鳴ろうと息継ぎに一呼吸を置いた次の瞬間。
「いぎっ!?」
「・・・ど、どうしたの?」
突如、シンジが顔を突き出しながらも背筋を弓なりにビクッと反らして悲鳴をあげ、リツコは驚きに怒りを忘れて思わず茫然と目が点。
「な、何でもありません。き、気にしないで下さい・・・。さ、さあ、話を続けて・・・・・・。」
「で、でも・・・。」
そうかと思ったら、シンジは瞳からは涙を、額からは汗を止めどなく流し始め、全身をワナワナと震わせつつ司令席へ上半身を力無く倒し俯せた。
「・・・ほ、本当に何でもないんです。そ、それより・・・。と、父さんがどうしたんでしたっけ?」
「え、ええ・・・。」
その明らかに尋常でない様子に話を促されても舌が上手く回らず、リツコは茫然の上に怪訝も入り混ぜて沈黙。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
この不自然な静寂を打ち破ろうと努力するが、シンジもまた何故か舌が上手く回らず、ひたすらの静寂だけが司令公務室に広がってゆく。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・っ!?」
ふとリツコはシンジがかなり声を潜めて誰かと会話している事に気づき、怪訝に思うもすぐに全てを悟って驚きに目を見開いた。
「シンジ君・・・。」
「は、はい?・・・な、何でしょう?」
「ここは司令室・・・。確かに今はあなたの部屋よ。でも、仕事とプライベートは線をきっちりと引いた方が良いわね」
こめかみに人差し指を置いて深い溜息混じりにシンジを呼び、リツコが真っ青な顔を上げたシンジへ呆れ顔と白い目を向ける。
「・・・な、何の事です?」
「私の口からソレを言わせる気?」
「はははははははははは・・・。」
たまらずシンジは再び顔を伏せて必死に心の動揺を隠すが、痛烈なリツコの追撃に動揺を隠しきれず乾いた笑いで場を誤魔化す。
「レイ・・・・・・。アスカ・・・・・・。霧島さん・・・・・・。山岸さん・・・・・・。洞木さん・・・・・・。」
「い、いきなり、どうしたんですか?」
リツコが唐突にシンジとの関係が深い女の子達の名前を次々とあげ始め、シンジが驚きにギョギョギョッと目を最大に見開いて顔を上げたその時。
「・・・・・・マヤ」
ガタッ!!
「そう・・・。マヤなのね」
疑惑を込めて呼んだ名前に反応して、司令席の中で何かがぶつかる音が響き、リツコが確信を込めて今一度マヤの名前を深い溜息混じりに呼ぶ。
「い、嫌だな。リ、リツコさん・・・。こ、ここには僕とリツコさんしか居ないじゃないですか・・・・・・。」
「まあ、そう言う事にしてあげるわ。それじゃあ・・・。」
「あ、あれ?・・・は、話はもう良いんですか?」
「ええ・・・。シンクロテストもあるから、また出直してくるわ。その方があなたも何かと都合が良いでしょ?」
そして、焦りまくるシンジの姿に怒る気も失せたと言わんばかりに背を向け、リツコは尚も溜息を何度もつきつつ司令公務室を出て行く。
「はははははははははは・・・。」
バタンッ・・・。
「・・・ひ、酷いや。か、噛むなんて・・・・・・。」
シンジは乾いた笑い声でリツコの背中を見送り、扉が完全に閉まりきるのを確認すると、椅子を引いて司令席の中へ恨めしい気な涙目を向けた。
「ご、ごめんなさい。・・・い、痛かったよね?」
「当たり前じゃないですかっ!!千切れるかと思いましたよっ!!!」
するとマヤが司令席の中から現れ、その詫びながらも解らないと言った様子の怪訝顔に本気で腹を立て、シンジがマヤへ猛烈に怒鳴りまくる。
ちなみに、マヤが司令席の中で何をしていたのかは全くの謎であり、もしかしたらシンジと『かくれんぼ』でもして遊んでいたのかも知れない。
また、更に何故だかは全くの謎だが、本日は記録的な猛暑だったせいか、マヤは少しでも涼を取ろうと服は着ずに白い下着姿。
実際、マヤの全身は上気して汗を滴らせ、飾り気のないショーツに至っては汗をたっぷりと含み、マヤの大事な所がピンポイントでスケスケ状態。
「ご、ごめんね。ほ、本当にごめんね・・・。お、驚いて、つい・・・・・・。」
「つい・・・で、噛みつかないで下さいっ!!大体、何に驚くって言うんですっ!!!」
予想外に激しいシンジの怒りを買って焦り、マヤが瞳に涙をウルウルと溜めて俯くが、シンジの怒りは静まる事を知らず激しくなるばかり。
「だ、だって、先輩が元司令と付き合っている噂が本当だったなんて・・・って、えっ!?」
カチャ・・・。
「な、何するのっ!?シ、シンジ君っ!!?ら、乱暴は止めてっ!!!?」
それどころか、いきなり司令席上へ俯せに押し倒された上、両手を背中に回されて手錠をかけられ、マヤはこれ以上なく混乱大パニック。
「・・・ダメ。許してあげません。だって、僕にはマヤさんへ仕返しをする権利があるんですから・・・・・・。」
「そ、そんな・・・。」
シンジは邪悪そうにニヤリと笑いながら己の正当性を説き、マヤが目を愕然と見開きつつ抵抗を諦めて全身の力を抜くも束の間。
「やんっ!?そ、そこじゃないっ!!?ち、違うっ!!!?」
「いいえ・・・。これで良いんですよ」
「ダ、ダメッ!!き、汚いっ!!!き、汚いからダメっ!!!!」
風通しの良くなったお尻に何かを押しつけられ、マヤは驚愕に全身を強ばらせた後、必死にお尻を左右に藻掻き振りまくって何やら抵抗を再開。
「何度も言ったでしょ?・・・マヤさんに汚いところなんて有りませんよ」
「い、嫌っ!?シ、シンジ君、お願いっ!!!ほ、他の事は何でもするからっ!!!!そ、それだけはっ!!!!!」
しかし、シンジがマヤのお尻を両手で持って強引に押さえ付け、愉快そうにクスクスと笑いながら一歩前進した途端。
「ひぎっ!?」
「・・・それだけは何です?」
「うっうっ・・・。シ、シンジ君の馬鹿ぁぁ~~~・・・・・・。きゃうんっ!?」
何故だかは全くの謎だが、マヤが背筋を限界まで弓なりに反らして悲鳴をあげ、遂に堪えきれなくなって溜めていた涙をポロポロとこぼし始めた。
(す、凄え・・・・・・。)
無菌パックに梱包された真新しい水色のプラグスーツを胸に抱え持ち、目の前に広がる光景をただただ茫然と目を血走らせて凝視しまくるムサシ。
なにせ、ここは女性なら誰でも気軽にフリーパスで入れるが、男性には決して入室が許されない禁断の聖地『女子更衣室』。
その上、ここはチルドレン専用女子更衣室であり、着替えている面々はアイドルと列べても決して引けを取らない美少女達ばかり。
しかも、この後にシンクロテストがある為、皆はプラグスーツに着替えるべく1度は必ず全裸にならなくてはならない状況。
その様な夢色の世界に置かれたら、体は女の子でも心は男の子ならば茫然としてしまうのが当然であり、ムサシが目を血走らすのも無理はない話。
「・・・リーさん、どうしたの?早く着替えないと間に合わないわよ?
それとも、プラグスーツの着方が解らないの?・・・それなら、手伝ってあげようか?これ、慣れるまでは1人で着るのが大変なのよね」
そんなムサシの様子を新しい環境に馴染めていないのではと考え、ヒカリが持ち前の委員長精神を働かせて新入りのムサシを気使う。
「い、いや・・・。だ、大丈夫だ・・・・・・。」
ゴクッ・・・。
その際、ヒカリが振り向いた為、ムサシの目の前にヒカリの全裸が顕となり、ムサシは思わず生唾を飲み込んで茫然と目が点状態。
「そぉ?・・・なら、早く着替えた方が良いわよ?」
「そ、そうだな・・・。」
だが、これ以上の挙動不審さはまずいと悟って慌てて我に帰り、ヒカリの忠告に従い、ムサシが皆の視線を気にしながら着替えようとしたその時。
プシューー・・・。
「やっばぁぁ~~~っ!!トイレへ行ってたら遅れちゃったよっ!!!早く着替えないとっ!!!!」
出入口の扉が開いて血相を変えたマナが駈け現れ、自分のロッカーを開けるなり、制服を乱暴に脱ぎ捨てて床へ脱ぎ散らかし始めた。
「霧島さんっ!!いつも、いつも、だらしないわよっ!!!」
「・・・そうですよ。少しは他の人の迷惑も考えて下さい」
たまらずヒカリが腹を立てて怒鳴り、マナに代わってマナの制服や下着を畳むマユミが、毎度の事ながら言わずにはおれず溜息混じりに諫める。
「良いじゃん、良いじゃん♪固い事は言いっこなし、なし♪♪
私とみんなの仲じゃない♪だから、そんなの気にしちゃダメ、ダメ・・・・・・って、え゛っ!?」
しかし、あっと言う間に全裸となったマナは悪びれた様子もなくニコニコと笑い、まずはマユミへ、次にヒカリへ笑顔を向けてビックリ仰天。
何故ならば、マユミ側にはレイとアスカが居り、いつもの光景だったが、ヒカリ側には女の子でありながら心は男の子のムサシが居たからである。
「「・・・どうした(んですか?、の?)」」
「よ、よう・・・。」
一拍の間の後、マユミとヒカリがマナの様子に怪訝顔を見合わせて尋ね、ムサシがぎこちない笑顔でマナへ右手を小さく挙げた次の瞬間。
「ど、ど、ど、ど、どうして、ここにムサシが居るのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~~~~~・・・って、あうっ!?」
ドッシィィィィィィィィーーーーーーーーーンッ!!
我に帰ったマナが悲鳴をあげながら両手で胸を隠しつつ足早に後ずさり、床に置いてあったアスカの荷物に躓いて後頭部から豪快に転倒。
「・・・あんた、馬鹿?」
「間違いなく、馬鹿ね・・・。」
アスカとレイは思わず着替えの手を止めるも、足下に転がるマナへ冷たい眼差しを向けるだけに止まり、何事もなかった様に着替えを再開させる。
「だ、大丈夫ですかっ!?マ、マナさんっ!!?」
「き、霧島さんっ!?け、怪我はっ!!?い、痛くないっ!!!?」
一方、マユミとヒカリは慌ててマナへ駈け寄り、抱き起こしてマナの頬をペシペシッと叩くが、マナの目は上を向いたまま白目から戻らない。
(・・・い、意外と毛深かったんだな。お、お前って・・・・・・。す、凄えっ!!)
ゴクッ・・・。
おかげで、ムサシは夢にまで見たマナの全裸を余すところなく拝見する事ができ、思わず生唾を飲み込んで昔の習性に意味もなく腰を引いた。
ドッシィィィィィィィィーーーーーーーーーンッ・・・。
「・・・んっ!?」
マナが転んだ音は隣の男子更衣室にも届き、草色のプラグスーツに着替え中のケイタが、怪訝顔を女子更衣室側の壁へ向けて首を傾げる。
「ええっと、確か・・・。着たら、このボタンを押せって言ってたよね」
ピッ!!
だが、透視能力を持っていないケイタには壁の染みくらいしか見えず、ケイタが着替えを再開させてプラグスーツ左手首のボタンを押した途端。
プシューー・・・。
「・・・な、何だよ。こ、これ・・・・・・。」
プラグスーツが体にジャストフィットしてケイタの貧相な体の線を浮き出させ、ケイタはまるで裸の様な気分になって茫然と目を丸くさせた。
しかも、予備知識なしにジャストフィットさせたものだから、ケイタの股間はガードパットに収まっておらず、恥ずかし過ぎる横モッコリ状態。
「こんなのを着て、良く人前に出れるよな・・・。みんな・・・・・・。
僕は男だから、まだ良いけど・・・。女の子なんて、かなり恥ずかしいんじゃ・・・・・・って、はっ!?」
それでも、ケイタはすぐに茫然から立ち直って股間ポジションをせっせと直し始めるが、何気なく呟いた独り言に目を見開かせて動きも止めた。
「そ、それじゃあ、マナや・・・。ム、ムサシもこれを着るんだよね?」
ゴクッ・・・。
そして、未だ見ぬマナとムサシのプラグスーツ姿を想像して、ケイタが自分の逞しい想像力に思わず生唾を飲み込んだ次の瞬間。
「痛っ!?痛たたたた・・・。」
プシューー・・・。
横モッコリがますます顕となり、それが原因でプラグスーツが突っ張って股間に痛みが走り、たまらず腰を引いたケイタがプラグスーツを緩める。
「はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。
・・・ど、どうしよう。こ、こんな状態でこんな服なんか着られないよ・・・。そ、それに実物を見て、こうなっちゃったら・・・・・・。」
おかげで、痛みは確かに無くなったが、ケイタはプラグスーツの致命的な欠陥を知り、絶望と途方に暮れて愕然と沈黙。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
その間も主の心を知らない絶望の源はプラグスーツの中で脈々と激しく息づき、ケイタの心を惑わして何かを必死にアピール。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
するとケイタは自分以外が居ない事を知りながら辺りをキョロキョロと気にし始め、更には壁や天井に監視カメラなどがないかを入念にチェック。
「も、もう、こうなったら・・・。こ、これしかないよ・・・・・・。」
ガチャ、バタンッ!!ガチャ、バタンッ!!!ガチャ、バタンッ!!!!ガチャ、バタンッ!!!!!ガチャ、バタンッ!!!!!!
全てを確認し終えると何を思ったのか、ケイタは決意に怖ず怖ずと頷き、目の前に列ぶ他人のロッカーを無断で次々と猛烈な勢いで開閉し始めた。
ガチャッ!!
「あ、あったっ!!」
そして、ケイタはテッシュ箱をケンスケのロッカー内に見つけて目を輝かし、せっかく着込んだプラグスーツを何故だかいそいそと脱ぎ出す。
「・・・あれ?そう言えば、僕以外にも2人いるって聞いてたけど・・・。どうしたんだろう?
もしかして、今日は僕だけなのかな?でも、前から居るマナ達も一緒にシンクロテストとか言うのを受けるって言ってたし・・・・・・。」
その途中、ふと自分以外の男子チルドレンが更衣室へ姿を一向に見せない事を怪訝に思い、ケイタが思わず動きを止めて考え込む。
「・・・って、そうかっ!!これから来るんだっ!!!なら、早く済ませないとまずいよねっ!!!!」
シュ、シュッ!!シュシュシュシュシュシュッ!!!
だが、達した結論に目を見開くと、ケイタは慌ててプラグスーツを脱ぎ捨て、何やらフンフンと鼻息荒くテッシュを何枚も勢い良くむしり取った。
「んっ・・・。んんっ・・・・・・。」
5日ぶりに意識を覚醒させ、敷き布団もスプリングもない固いベットから上半身を起こし、寝ぼけ眼で辺りをキョロキョロと見渡すトウジ。
ここは5ヶ所の保安部員詰め所、鉄格子の扉10枚、無数のセキュリティーチェックを通らねば辿り着けない最重要危険人物を収監する重営倉。
「うっ・・・。うっうっ・・・。うっううっ・・・。ううっ・・・。ううっうっ・・・。うっ・・・。うううっ・・・。うっうっ・・・・・・。」
「なんや?・・・って、ケンスケやないか?どないしたんや?」
すると何処からともなく啜り泣く声が聞こえ、トウジが部屋の片隅に背を向けて体育座りするケンスケの姿を見つけて怪訝そうに首を傾げる。
余談だが、5日ぶりに起きたトウジは使徒に浸食された事を覚えておらず、自分がどんな事をしでかしたのかも当然の事ながら全く覚えていない。
それ故、常人にとってはあれから5日間が経っているが、トウジにとってはあれから1分も経っていない状態。
しかも、見た事もない部屋で寝ていた上、目覚めると同時に部屋の片隅でケンスケが泣いていたのだから、トウジが首を傾げるのも無理はない話。
更に余談だが、第16使徒戦後にトウジの体は徹底的に検査され、使徒の浸食に対する後遺症はないとリツコのお墨付きが出ているので問題なし。
それでも、女子チルドレン達から、特にヒカリから強い要望を受け、シンジはトウジを人目が触れぬ格好の場所であるここへ隔離したと言う次第。
「うっうっ・・・。ト、トウジ・・・。や、やっと起きたんだな・・・。うっううっ・・・・・・。」
「やっと起きた?・・・・まあ、ええわ。他にも聞きたい事があるんやけど・・・。それよか、どないしたん?何、泣いとんねん?」
ケンスケは背を向けたままトウジへ顔を向けず、トウジはケンスケの言葉に引っかかる物を感じるも、まずはケンスケの方が大事と尋ねた。
「うっ・・・。き、聞いてくれ・・・。ト、トウジ・・・。お、俺、山岸さんへ酷い事をしたんだ・・・。ううっうっ・・・・・・。」
「・・・酷い事やと?」
「ううっ・・・。あ、ああ・・・。う、後ろから胸を揉んで・・・。お、押し倒して・・・。うっ・・・・・・。」
たちまちケンスケの嗚咽が今まで以上に酷くなり、ケンスケが懺悔に丸めていた背中を更に丸めて応える。
「何やとっ!?ケンスケ、お前っ!!?」
「うっうっ・・・。そ、そして、俺は山岸さんにビンタを喰らって・・・。グ、グロッキーさ・・・。ううっ・・・・・・。」
「・・・なんや、その事かいな」
トウジは正義感を燃やしていきり立ち、ケンスケの襟首を乱暴に掴んで引き寄せるが、続いた懺悔に肩すかしを喰らってケンスケの襟首を放した。
ちなみに、トウジの言葉の中にある『その事』とは、ケンスケが精神崩壊からの復活後に巻き起こした5日前のハイテンション事件の事である。
その後、一般職員から、特にマユミから強い要望を受け、シンジはケンスケを人目が触れぬ格好の場所であるここへ隔離したと言う次第。
「何だとは何だっ!!俺にとってはっ!!!俺にとってはっ!!!!俺にとってはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~っ!!!!!
うっううっ・・・。うっ・・・。うっうっ・・・。ううっ・・・。ううっうっ・・・。うううっ・・・。うっ・・・。うっうっ・・・・・・。」
ガンッ!!・・・ガンッ!!!・・・ガンッ!!!!・・・ガンッ!!!!!・・・ガンッ!!!!!!
だが、ケンスケは断罪を求めて魂の咆哮をあげ、啜り泣きつつ壁に両手を付くと、額を壁へ狂った様に何度も打ちつけ始めた。
「ケンスケ、大丈夫やっ!!安心せえっ!!!お前は何も悪い事あらへんっ!!!!あらへんのやっ!!!!!
悪いのはシンジやっ!!シンジっ!!!全部、あいつのせいやっ!!!!せや、ケンスケが悪いんやないっ!!!!!せやせやっ!!!!!!」
その自傷行為に驚きながらも、すぐさまトウジがケンスケを羽交い締めて止め、諸悪の根元であるシンジの名を忌々し気に叫んだ次の瞬間。
バキッ!!
「ぶべらっ!?」
ケンスケが振り向き様の右フックをトウジの左頬へ放ち、トウジは見事なくらい右へ水平に吹き飛び、壁に右側頭部を強かに打ちつけて床へ轟沈。
「いきなり、何すんねんっ!?わしが何か間違った事を言ったかっ!!?言っとらんやろっ!!!?
シンジがお前に何をしたかは知らんが・・・。お前が変になったのは絶対にシンジのせいやっ!!せや、そうに決まっとるっ!!!」
それも束の間、サイボーグなトウジはすぐさま立ち上がり、口と鼻からLCLをエレエレと流しながら激しくケンスケを罵倒。
「まだ言うかっ!!修正してやるっ!!!」
ボグッ!!
「ぶへぇぇ~~~っ!?」
「2度も言わすなっ!!碇閣下への侮辱はこの俺が許さんと言ったろうっ!!!」
「・・・ケ、ケンスケ。お、お前、まだ・・・・・・。」
しかし、ケンスケが猛襲ヤクザキックをトウジの鳩尾へ放って黙らせ、トウジはケンスケが未だ悪夢から醒めていぬ事を知って茫然と目を見開く。
「今日があるのは閣下のおかげっ!!今日も生きていられるのも閣下のおかげっ!!!今日もご飯が食べられるのも閣下のおかげっ!!!!
碇閣下、万ざぁぁ~~~いっ!!万ざぁぁぁ~~~~いっ!!!万々ざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~いっ!!!!」
それどころか、唐突にケンスケは目の前で声高らかにお決まりの万歳三唱を始め、トウジは2度見ても慣れぬ光景にアングリと大口も開ける。
「くぅぅ~~~っ!!かぁぁぁ~~~~っ!!!燃えてきた、燃えてきた、燃えてきたぁぁぁぁぁ~~~~~~っ!!!!
閣下の御為、次なる戦いの為、地球の平和の為っ!!今日も1に訓練、2に訓練、3、4がなくて5に訓練だっ!!!トウジっ!!!!
・・・・・・んっ!?その顔は何だ?何が不満なんだ?
はっはぁぁ~~~ん・・・。こんな所で何をどうやって訓練しようかって言う顔だな?
だが、安心しろっ!!それはお前の甘えに過ぎないっ!!!設備や器具がなくとも出来る事は幾らでもある事を知れっ!!!!
実際、俺はこの5日間をそう過ごしてきたっ!!・・・さあ、立てっ!!!まずはヒンズースクワット1万回だっ!!!!
1、2っ!!1、2っ!!!1、2っ!!!!1、2っ!!!!!1、2っ!!!!!!1、2っ!!!!!!!1、2っ!!!!!!!!」
そうかと思ったら、いきなりケンスケは熱気がビシバシと迸るヒンズースクワットを始め、トウジは茫然を通り越して驚きに目が点状態。
実を言うと、ケンスケは収監されて以来、この調子で心理操作処置の典型的弊害である躁鬱病に陥っていた。
おかげで、この部屋を監視カメラで覗いている保安部員達も慣れてしまい、今ではケンスケが幾ら泣き叫んでも全く動ぜず相手にしない始末。
「おい、何をしてるっ!!お前もやれってっ!!!」
「・・・せやな」
これは何を言っても今は無駄だと悟り、トウジも嫌々ながらケンスケの気が済む様にとヒンズースクワットを始める。
「1、2っ!!」
「1、2・・・。」
「1、2っ!!」
「1、2・・・。」
「1、2っ!!」
「1、2・・・。」
ケンスケのやる気マンマンな声とトウジのやる気ナエナエな声が響き、部屋に妙な熱気と雰囲気が漂い溢れ広がってゆく。
「1、2っ!!」
「1、2・・・。」
「1、2っ!!」
「1、2・・・。」
「1、2っ!!」
「1、2・・・。」
ふとトウジは隣へ視線を向け、目を爛々と輝かせて張り切るケンスケの姿にやるせない深い溜息をついた。
(ケンスケ・・・。もう、お前もわしの知っとるケンスケやないんやな・・・・・・。
何でや・・・。何でや、シンジ・・・。なして、こないな事するねん・・・・・・。
わし等は女子更衣室を一緒に覗いたり、女子のブルマーを一緒にパクったり、女子の笛を一緒に吹いてドキドキした仲やないか・・・・・・。
そやのに・・・。もう、あの頃には戻れんのか?シンジ・・・。惣流やイインチョに3バカトリオと呼ばれたのが懐かしいわい・・・・・・。)
そして、もう随分と遠い昔に感じる数ヶ月前の生活を懐かしみ、トウジが瞳からLCLをホロリと1粒だけこぼし流す。
「どうした、どうしたっ!?声が出てないぞっ!!?トウジっ!!!?」
「そやったな・・・。すまん、すまん」
その後、2人のヒンズースクワットは生身のケンスケが根をあげて再び鬱状態になるまで10分間ほど続いた。
感想はこちらAnneまで、、、。
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