New NERV Commander
Gedou Ⅱ
EPISODE:04
daydream
『零号機、配置に付きました』
『初号機も準備OK』
『こっちもOKよ。ミサト』
『ミサトさん、いつでもええでっせっ!!』
第三新東京市郊外にて侵攻を止め、何らアクションを起こさない使徒の不気味さに慎重を重ね、戦線が膠着する事既に1時間弱。
「全て作戦位置、準備完了です。葛城さん」
「了解。では、作戦開・・・。」
使徒を中心に各機が四方に配置され、ミサトが皆からの報告に力強く頷き、今正に包囲作戦開始の号令を発しようとしたその時。
ちなみに、今回の出撃に関してはジェミニ・プラグが未だテスト段階と言う事も有って採用されていない。
それ故、今回の出撃シフトは零号機がレイ、初号機がマナ、弐号機がアスカ、エバァmk2がトウジとなっている。
「波形パターン、青に固定っ!!」
「目標先端部に強力なATフィールドが発生っ!!」
使徒がそれを読んでいたかの様に定点回転を不意に止め、リング状から紐状となって最も近距離にいたエバァmk2へ一直線に襲いかかってきた。
『鈴原君っ!!応戦してっ!!!』
『ダメですっ!!間に合いませんっ!!!』
ミサトの悲痛な叫びと日向の不吉な予言を耳にしながら、トウジがあらん限りの声を張り上げ、天をも震わす様な凄まじい気合い一発を放つ。
「おんどりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
カキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
その瞬間、エバァmk2の眼前に放たれる強大な八角形の煌めき。
シュインッ!!・・・ガギィィーーーンッ!!!
「ぐぇぼはっ!?」
だが、空を切り裂く音と共に迫った使徒はATフィールドを易々と貫き、その先端をエバァmk2の鳩尾へ深く突き刺した。
「うっうっ・・・・・・。な、なめんなぁぁぁぁぁ~~~~~~っ!!」
喉からこみ上げてくる壮絶な激痛に、意識が急速に沈みかけてゆくも、トウジは気力を無理矢理に振り絞って目をクワッと見開かす。
「これでも喰らってっ!!往生せいやぁぁぁぁぁ~~~~~~っ!!!」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!
そして、エバァmk2の左手で逃げ惑う使徒の尻尾部分を無造作に掴むと、右手にパレットライフルを構え直してフルオートのゼロ距離射撃。
チュイ、チュインッ!!
チュイ、チュインッ!!
チュイ、チュインッ!!
チュイ、チュインッ!!
チュイ、チュインッ!!
チュイ、チュインッ!!
しかし、それ等は全て使徒のATフィールドによって弾かれ、反対に跳弾した弾丸が間近にいるエバァmk2の装甲を傷つけてゆく。
チュイ、チュインッ!!
チュイ、チュインッ!!
チュイ、チュインッ!!
チュイ、チュインッ!!
チュイ、チュインッ!!
カチッ・・・。カチ、カチッ・・・。カチッ・・・。
挙げ句の果て、弾装が尽きて幾らトリガーを引こうとも虚しい音だけが鳴り響き、使徒が体をブルルッと震えた次の瞬間。
ブクブクブクブクブク・・・。
「のっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~っ!!」
使徒がエバァmk2の鳩尾へ更に深く抉り込み、エバァmk2との接触部分である鳩尾と左手から植物の葉脈の様な模様を広げ始めた。
「目標っ!!零号機と物理的接触っ!!!」
「mk2のATフィールドはっ!?」
青葉の代役である男性職員の報告の叫び声に、ミサトが救いを求めてマヤの代役である女性職員の方へ顔を勢い良く向ける。
「展開中っ!!ですが、使徒に侵食されていますっ!!!」
しかし、女性職員は背中を向けたまま首を素早く左右に1度振り、対応に追われてキーボードを叩きながらディスプレイの絶望的状況報告を返す。
「ま、まさか・・・。し、使徒が積極的に一次的接触を試みていると言うの?マ、mk2と・・・・・・。」
そのディスプレイを女性職員の後ろから覗き込み、リツコは前回の戦いより変えてきた使徒の戦法に驚きを隠せず茫然と呟きを漏らした。
『むほっ・・・。むほっ・・・。むほっ・・・。もふぅぅぅぅぅ~~~~~~・・・・・・。』
腰を引きつつ後方にある小山の中腹へ蹌踉めき倒れ、鳩尾の使徒を両手で掴みながら何度も腰をビクビクッと突き上げ震わすエバァmk2。
同時にエントリープラグ内のトウジもまた同じ動作を行い、エバァmk2とシンクロして鳩尾と左手から植物の葉脈の様な模様を広げ始めていた。
「な、何かさ・・・。た、助け甲斐のない顔って言うか、助けに行くのが嫌んなる顔よね」
『・・・う、うん。な、何かね・・・・・・。た、助けに行ったら、何されるか解ったもんじゃないって顔だよね』
アスカがエバァmk2救援へ駈けさせていた弐号機を不意に立ち止まらせ、マナもアスカの意見に同意して初号機を慌てて立ち止まらせる。
『あれは使徒よ。使徒なら殲滅するだけ・・・。たまたま鈴原君に当たっても問題ないわ』
「『な、なぁ~~るほどっ!!』」
それどころか、レイの邪悪な囁きに唆され、アスカとマナは初期位置から一歩も動いていない零号機に習って銃口をエバァmk2に対して構えた。
何故ならば、通信ウィンドウに映るトウジの様子は、14歳の乙女達にとって十分な危険を感じさせる物だったからである。
目は虚ろながらも異様なまでに血走り、鼻の穴は別の生き物の様に絶え間なくヒクヒクと開閉し続け、頬はうっすらと紅く染まってほろ酔い状態。
その姿は正に獲物を虎視眈々と狙う血に飢えたケダモノ、思わずアスカやマナが貞操の危機を感じて逃げ腰になるのも無理はない話。
『あに、馬鹿な事を言ってんのっ!!さっさと助けに行きなさいっ!!!』
「『えぇぇ~~~・・・。』」
すぐさまミサトがアスカ達の行動に憤って怒鳴り諫めるが、アスカとマナはあからさまな不平不満の声を上げて全く効果なし。
『えぇ~~、じゃないっ!!えぇ~~、じゃっ!!!これは命令よっ!!!!ほら、さっさと行くっ!!!!!』
「『はぁぁ~~~い・・・。』」
だが、通信ウィンドウ最大表示で怒鳴るミサトの勢いに負け、アスカとマナは口を尖らせて渋々ながらエバァmk2へ向けていた銃口を下ろした。
「・・・ったくっ!!何、考えてんのよっ!!!」
アスカとマナの態度に鼻息荒く憤慨しまくるミサトだが、使徒はミサトに憤る余裕すら与えない。
「目標、更に侵食っ!!生体部品が加速的に侵されていますっ!!!」
「・・・危険ね。既に5%以上が生体融合されているわ」
女性職員より更なる絶望的報告がなされ、リツコはディスプレイの状況の酷さに眉を顰め、向けられたミサトの視線に応えて無言で頷いた。
「くっ・・・。作戦中止っ!!パイロットの保護を最優先っ!!!mk2のプラグを強制射出っ!!!!」
ミサトもまた無言で頷き返すと、苛立ちと悔しさが滲み出る怒鳴り声の作戦中止命令を発令所に轟かす。
「ダメですっ!!完全に制御不能っ!!!信号を全く受け付けませんっ!!!!」
「なんですってっ!?」
しかし、女性職員が作戦中止命令を撤回させざるおえない報告を叫び、ミサトは愕然と絶望に目を最大に見開いた。
「はっ!?・・・何や?ここ・・・・・・。わしん家やないか?」
激痛の果て、刹那だけ意識を閉じたトウジが目を開けると、そこは久しく帰っていない見慣れた我が家の自室の前だった。
「・・・どういうこっちゃ?」
ガラッ・・・。
いまいち状況が掴めず、トウジは辺りをキョロキョロと見渡しながら襖を開け、視線を部屋へ向けるなり驚きを通り越して思わず茫然と目が点。
「よう、おかえりさん」
「んっ!?あ、ああ・・・。か、帰ったで・・・・・・。」
何故ならば、こよなく愛する己の万年床に自分そっくりの人物が居り、たくさんのおやつを摘みつつ横向きにくつろぎ寝そべっていたからである。
ちなみに、部屋に最初からいたトウジはジャージ姿だが、部屋に入ってきたトウジはプラグスーツ姿の為、純和風のこの部屋では違和感大。
また、表記が紛らわしいので以降はプラグスーツ姿のトウジをトウジA、ジャージ姿のトウジをトウジBとする。
「そないな所に立っとらんで座りいや」
「・・・お、おう」
「せやせや、どれでも好きなのを食ってええで。さすがのわしもこれだけの量は食いきれんからな」
「す、すまんのう。おおきに・・・って、ちゃうっ!!お前、誰やっ!!?」
トウジBに勧められるまま部屋へ入って胡座をかき、トウジAはおやつの煎餅に手を付けようとするが、ふと我に帰って勢い良く立ち上がった。
「誰やとはご挨拶やな・・・。見れば解るやろ?わしはわしや。鈴原トウジやないか」
「何、言うとんねんっ!!鈴原トウジはわしやっ!!!お前、わしの部屋で何しとんねんっ!!!?」
トウジBはトウジAの問いに怪訝顔を浮かべて応えるも、トウジAは混乱と興奮を深めてトウジBの顔を勢い良くビシッと指さして怒鳴りまくり。
「そう、かっかせんと・・・。これでも食うて落ち着けや」
その興奮ぶりにこれは話にならないと深い溜息をつき、トウジBは友好の証しに湯気が立つホッカホッカのタコ焼きをトウジAへ差し出した。
バシッ!!
「じゃかぁ~~しいっ!!お前が誰かって聞いとんねんっ!!!」
だが、トウジAは差し出されたタコ焼きを右手で払い除け、吹き飛んだタコ焼きは叩きつけられた襖にソースの焦茶色い汚れを残して床へ轟沈。
「勿体ないのぉ~~・・・。食い物を粗末にするとバチが当たるで?・・・・・・幾ら自分が食べられんからってな」
「っ!?・・・な、何やと?」
トウジBは無惨な姿となったタコ焼きを眺めて哀悼の溜息をつき、トウジAがトウジBの言葉最後を過敏に反応して目を見開く。
「だって、そやろ?自分、機械やないか?」
「ちゃ、ちゃうっ!!わ、わしは人間やっ!!!に、人間っ!!!!」
その反応にニヤリ笑いを浮かべると、トウジBはトウジAへ顔をゆっくりと戻し、トウジAはトウジBの残酷な言葉に目を更に大きく見開いた。
「それこそ、ちゃうわ。何処の世界に三食が栄養剤とLCLなんて人間がおるねん。おるはずないやろ?
見てみい。これが人間の食い物や・・・。ん~~~、うまうまっ!!こりゃ、絶品やっ!!!これだけで丼飯3杯はいけるでっ!!!!」
「ぐぐぐぐぐっ!!」
するとトウジBはこれ見よがしにお好み焼きを美味しそうに食べ始め、トウジAがお好み焼きに手が出せない悔しさに奥歯を噛みしめて耐える。
余談だが、トウジAのサイボーグ機能にはちゃんと消化器官も備わっており、トウジAは決して食事が出来ないと言う訳ではない。
ただ、味覚が殆ど機能していない為、相当の大味料理でなければ何を食べても無味しか感じないのである。
例えば、甘みを感じる為にはコーヒー一杯に砂糖を大さじ10杯、辛味を感じる為にはラーメン一杯に胡椒瓶を2本。
しかも、これだけ大量に調味料を使っても、味覚の感度はやや甘い、やや辛いと言った程度。
それでも、トウジAは周囲の奇異な視線を感じながら調味料山盛り料理を食べていたのだが、こんな食生活ではお腹を激しく壊すのは当然の話。
それ故、トウジAは次第に食事が虚しくなってしまい、今では栄養ブロックと飲用を義務付けられているLCLしか口にしなくなったのである。
「さてと・・・。なんや、腹が膨れたら眠うなってきたな。そしたら、おやすみ・・・・・・。」
「待て、待て、待て、待て、待てぇぇ~~~っ!!わしの話は終わってへんぞっ!!!」
そうかと思ったら、トウジBは布団を被って昼寝し始め、トウジAが無礼なトウジBの態度に憤って布団を勢い良く引っ剥がす。
「何やねん。うるさいやっちゃなぁ~~・・・。勘弁してくれや。ほんま、頼むで・・・・・・。わしは自分と違うて人間やから寝なあかんねん」
「何やとっ!?それ、どういう意味やっ!!?」
トウジBはわざとらしく瞼を眠そうに擦って上半身を起き上がらせ、トウジAがトウジBの言葉最後を過敏に反応して目を見開く。
「どういう意味も何も・・・。自分、機械やから寝る必要がないやろ?24時間、戦えるっちゅう奴やな」
「ちゃ、ちゃうっ!!わ、わしは人間やっ!!!に、人間、言うてるやろっ!!!!」
その反応にニヤリ笑いを浮かべると、トウジBはトウジAへ顔をゆっくりと向け、トウジAはトウジBの残酷な言葉に目を更に大きく見開いた。
「せやけど、人間がスイッチ1つで寝るか?もっとも・・・。寝るっちゅうても、ただ単に電源が落とされるだけやけどな。
言うたら、TVや冷蔵庫と一緒っちゅう事や。一家に一台、ぐうたらロボット・鈴原トウジってな。・・・がっはっはっはっはっはっはっ!!」
トウジBは邪悪そうにニヤリ笑いを深めてトウジAの否定を反論した後、調子に乗って喉ちんこが見えるくらい大口を開けて馬鹿笑い。
「・・・って、そないな目で睨むなや。冗談やろ。冗談・・・・・・。
大体、人間のわしは機械の自分と違ってひ弱なんやで?自分の鉄のパンチでも喰らったら。それだけでお陀仏や・・・。
ほれ、見てみい。この冷や汗・・・。シャツに張り付いてベットベットやないか。・・・こら、しゃぁ~~ないな。一風呂でも浴びるか」
その上、トウジBは凄まじい殺気を放つトウジAに怯えて見せる一方、トウジAを無視するかの様にジャージの上着を脱いで風呂支度をし始めた。
「おんどれっ!!わしを舐めとんのかっ!!!おちょくるのもええ加減にせえっ!!!!」
この人を小馬鹿にしたトウジBの態度にとうとう怒髪天となり、トウジAがトウジBの襟首を掴もうと手を伸ばした次の瞬間。
「おっと・・・。」
「・・・って、ド、ドアホぉぉ~~~っ!!な、何ちゅうもんをおっ立てとんねんっ!!!は、早う隠くさんかいっ!!!!」
その手を避ける様にズボンを下げてしゃがみ、トウジBが再び立ち上がると共に、トウジAの目の前に隆々と立ちそびえる物体Xが姿を現した。
「気色悪いやっちゃなぁ~~・・・。何、照れとんねん。自分かて同じもんを・・・って、すまん、すまん。自分、もうダメやったけな」
「っ!?」
腰に両手を置いたトウジBはこれでもかとふんぞり返り、トウジAがトウジBの言葉最後を過敏に反応して目をこれ以上ないくらい見開く。
「切ないのぉ~~・・・。これがホンマの役立たず。鈴原トウジ、14歳の身空で赤玉パンチ大放出。男の引退ってところやな」
「ア、アホ、言えっ!!わ、わしはまだまだ現役やっ!!!せ、せや、臍まで反り返るくらいビンビンのカッチカチやでっ!!!!」
トウジBはその反応に勝ち誇ったニヤリ笑いを浮かべ、トウジAが今までになく猛烈に怒鳴ってトウジBの言葉を反論する。
「見栄なんて張らんでええて・・・。わしには何でもお見通しやで?せや、あれは自分が機械になった最初の日の夜の事や・・・・・・。
自分、ケンスケから貰ったイインチョのパンチラ写真でコレをいの1番に確かめたやないか。なにせ、あの写真は1番のお気に入りやからの。
・・・せやけど、その結果は酷いもんや。思い出すのも辛いくらいな・・・。悲しいのぉ~~、辛いのぉ~~、切ないのぉ~~・・・・・・。」
「あぐっ・・・。」
ドスッ・・・。
しかし、トウジBが突き付けた確固たる証拠に言葉を失い、トウジAはその場へ力無く膝を折ってガックリと項垂れた。
「それに比べて、わしはその写真を思い出すだけで・・・。ああっ!!辛抱たまらんっ!!!イインチョぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~っ!!!!」
「うぐぐぐぐ・・・。うっうっうっ・・・。うっうっ・・・。えっぐ・・・。えっぐ・・・。えっぐ・・・・・・。」
そして、何やら吼えまくるトウジBに対して悔しがるも、トウジAは丁度目の前にある勢いを増した物体Xに敗北を認めるしかなく嗚咽し始める。
再び余談だが、トウジAは確かにサイボーグではあるが、脳自体は純粋に生来のままであり、脳内分泌液などの放出は人間と何ら変わらない。
その為、必要条件さえ揃えば、ネルフの全てを持って造られた超高性能サイボーグのトウジAもトウジBの様な現象を起こす事が十分可能。
但し、その条件には古来よりストレスが密接に関係していると言われ、様々なストレスを多く抱えるトウジAにはその現象が起きないのである。
それこそ、トウジBの言葉ではないが、約1ヶ月前までは過敏すぎるほど反応していたヒカリのパンチラ写真にも全くピクリとも反応しない始末。
もっとも、この余談が何を意味しているのかは全くの謎であり、トウジBに起こっている現象とやらも全くの謎でますます謎は深まるばかり。
「まあ、そう泣くなって・・・。自分さえ、その気ならやけど・・・・・・。今すぐにでも、人間に戻る事も出来るんやで?」
「ホ、ホンマかっ!?」
そんなトウジAを哀れに思ってか、トウジBはトウジAと目線を合わせてしゃがみ込み、優しく右手をトウジAの左肩へ置いて慰める。
「ホンマや。わしと1つになれば、食う事も、寝る事も・・・。イインチョへの熱く猛る想いも復活するで?」
「・・・・・・ひ、1つになる?」
トウジAはトウジBの提案に泣き顔を勢い良く上げ、そこにあった極上の微笑みに感動の涙をハラハラとこぼして目を喜びと希望に輝かせた。
グルルルルルルルルル・・・。
突如、腹筋起きあがりで勢い良く立ち上がったかと思ったら、やや腰を曲げた前傾姿勢で腕をダラリと垂らして唸り始めるエバァmk2。
「な、なぁ~~んかさ・・・。か、かなりヤバくない?」
「・・・そ、そうね」
その何処か見覚えのある光景に不吉な予感を漠然と感じ、ミサトとリツコが絶望的状況下を忘れて嫌な大粒の汗をタラ~リと流す。
「す、鈴原君もかなりヤバめだし・・・。」
「・・・あ、あれは涎?」
揃って視線をトウジへと向け、ミサトが狂気を宿した様な半眼のトウジに戦慄を覚え、リツコがやや俯くトウジの口元に光る物を見つけたその時。
ブシュッ!!ブシュ、ブシュ、ブシュ、ブシュ、ブシュッ!!!
「拘束具がっ!?」
エバァmk2の体全体が膨張し始め、内側からの圧力に頭部を残して各部装甲が次々と吹き飛び、リツコが驚愕に目を最大に見開いて叫ぶ。
「っ!?・・・まずいっ!!!みんな、急いでっ!!!!」
その叫び声に見覚えのある光景が何なのかが解り、ミサトも驚愕に目を最大に見開くと、素早くアスカ達へ怒鳴る様に指示を飛ばした。
『まずいっ!!みんな、急いでっ!!!』
「そうは言っても・・・。怖い物は怖いしぃぃ~~~・・・・・・。」
ミサトが幾ら切羽詰まった声をあげようとも恐怖は消えず、マナは萎える勇気を振り絞り、初号機を恐る恐るエバァmk2へと向かわせていた。
『ほら、さっさとしなさいよっ!!こっちの準備はとっくに出来てんだからっ!!!』
『・・・恨むなら、自分を恨むのね』
「ううっ・・・。わ、解ってるよぉぉ~~~・・・・・・。」
だが、その進行速度の遅さにアスカとレイも焦れ、マナが2人の叱咤に口を尖らせて瞳に涙を溜めて半泣き、初号機の歩調を上げた次の瞬間。
ちなみに、現在エヴァ各機は目標のエバァmk2に対して一定間隔の縦列陣を構え、先頭から初号機、弐号機、零号機の配置。
また、配置的役割は初号機がオトリ兼フォワード、弐号機が初号機バックアップ兼フォワード、零号機が初号機と弐号機のバックアップ。
この立ち位置が違うだけで天と地の落差を見るミサトの作戦は、当然の事ながらレイとアスカとマナの間に誰が囮になるかの激しい議論を呼んだ。
最初こそ、それなりに実戦経験論や訓練経験論を唱えていたが、幼少の頃よりほぼ同じ様な立場を重ねてきた3人では結論が出ず議論は堂々巡り。
終いにはエキサイトし過ぎ、お互いの身体的特徴優劣論やシンジの自分に対する愛情優劣論まで議論が発展する始末。
その結果、3人の醜い言い争いに見かねたリツコが、文句なしのジャンケン一発勝負を提案して現状配置が決まった次第。
ブクブクブクブク・・・。
「・・・え゛っ!?」
エバァmk2の鳩尾から生えて左右にウニウニと動いていた使徒が動きを止め、先端部の姿形を男性シンボルに酷似した物体Xへと変貌させた。
ドックンッ・・・。ドックンッ・・・。シュインッ!!
「キャァァァァァァァァァァ~~~~~~~~~~~っ!!」
マナが驚きのあまり茫然と固まるも束の間、物体Xが脈打ちながら初号機へ迫るや否や、即座にソニックグレイブを投げ捨てて一目散に逃亡開始。
『霧島さんっ!!応戦してっ!!!』
「キャァァ~~~っ!!シ、シンジぃぃぃ~~~~っ!!!た、助けてぇぇぇぇぇ~~~~~っ!!!!」
この作戦を根底から崩すマナの行動に、ミサトが怒鳴って指示を飛ばすが、マナは聞く耳を持たず泣き叫ぶだけ。
『くっ!?・・・アスカっ!!!』
『あ、あんた、馬鹿っ!?こ、こっちに逃げて・・・。い、嫌ぁぁ~~~っ!!!こ、こっちに来ないでぇぇぇ~~~~っ!!!!』
ならばとミサトは次なるアスカへ期待を込めるも、アスカは初号機が弐号機を追い抜くや否や、初号機同様に諸手を挙げて逃亡開始。
『なら、レイっ!!』
『い、嫌・・・。い、嫌・・・。い、嫌、嫌、嫌、嫌ぁぁ~~~っ!!わ、私は碇君の物なのっ!!!だ、だから、ジャージは嫌なのっ!!!!』
挙げ句の果て、レイまでも珍しく無表情を崩して泣き叫び、零号機も初号機と弐号機に競い合って逃亡を開始し始めた。
「3人とも、何やってんのっ!!応戦しなさいっ!!!」
『『『キャァァ~~~っ!!キャァァ~~~っ!!!キャァァァァァ~~~~~~っ!!!!』』』
ミサトが発令所の隅々まで怒鳴り声を轟かして叱るが、返ってくるのは逃げ惑うレイとアスカとマナの悲鳴だけ。
ドンッ!!
「・・・ったくっ!!これじゃあ、話になんないわっ!!!」
苛立ちに右拳で日向の座席の頭置きを思いっ切り叩き、ミサトが青筋をこめかみに浮き立たせて憤りを吐き捨てる。
「落ち着きなさい。ミサト」
「これの何処を落ち着けって言うのよっ!!大ピンチなのよっ!!!大ピンチっ!!!!」
リツコはそんなミサトに溜息をついて宥めるが、ミサトは怒りの矛先を手近なリツコへ向けて怒鳴りまくり。
「だったら、あなた・・・。アレに立ち向かっていける?」
しかし、リツコは全く堪えた様子もなくミサトへ横目だけを向けると、顎でモニターに映るエバァmk2の物体Xを指した。
「う゛っ・・・。そりは確かにちょっち嫌かも・・・・・・。」
さすがのミサトもリツコの鋭いツッコみに同意するしかなく言葉に詰まり、縦横無尽の動きを見せるエバァmk2の物体Xに顔を引きつらせる。
「しかし、こちらのシフトを熟知した見事な作戦ね。新手の心理攻撃かしら?」
「・・・どういう事?」
妙な沈黙の間が数秒ほど流れた後、リツコが感心した様な溜息混じりの呟きをポツリと漏らし、ミサトがその呟きに目敏く反応して意味を尋ねた。
「恐らく、使徒は鈴原君と融合する事により、こちらの残存兵力が全て女性と知ったのよ。
その上で女性・・・。強いて言うなら、レイ達の様な思春期の娘が思わず目を逸らしてしまう苦手な物で攻撃を始めたんじゃないかしら?」
「・・・なるほど。それなら、この人を馬鹿にした様な攻撃方法も納得がいくわ。でも、そうだとしたら、かなりまずいわね・・・・・・。」
応えてリツコはエバァmk2の物体Xを見据え、ミサトがリツコの推察に納得して頷き、同時に現状の手詰まり状態を悟って困り果てたその時。
プシューー・・・。
「な、何っスか?こ、これ・・・。」
「・・・ふ、不潔」
発令所出入口の扉が開き、ここへ入るなり目に飛び込んできたモニターの様子に、茫然と目が点になった青葉と顔を真っ赤に染めたマヤが現れた。
ウィィーーーン・・・。
「・・・状況は?」
(げっ!?も、もう来ちゃったの?も、もっとゆっくりしていても良かったのに・・・。)
続いて、昇降機に乗ってシンジが司令フロアに現れ、ミサトが刹那だけ露骨に嫌そうな表情を浮かべる。
「っ!?・・・司令代理っ!!!提案がありますっ!!!!」
「何です?」
だが、シンジの登場によって現状打破の方法が見つかり、ミサトは目を輝かせて司令席を見上げ、シンジが司令席に座りつつミサトへ献策を促す。
「状況はご覧の通りっ!!あの攻撃方法を前にファースト、セカンド、セブンスでは太刀打ちすら出来ませんっ!!!
そして、mk2が使徒に囚われた今、エイトゥスの出撃も適いませんっ!!そこで司令代理にサードとしての御出陣をお願いしますっ!!!」
「・・・良いでしょう。僕は今来たばかり、ここは最初から指揮を執っている葛城三佐の采配に期待します」
ミサトはここが見せ場だと勇ましい声を発令所に響かせ、シンジはミサトの提案に少しだけ考え込んだ後、何やらニヤリと笑いながら頷いた。
「ありがとうございますっ!!日向君、聞いての通りよっ!!!
今すぐ、初号機をケイジへ回収っ!!零号機と弐号機は使徒との距離を取り、牽制する為に使徒を挟んで両端に配置してっ!!!」
「了解っ!!」
未だ前戦闘でのわだかまりはあるが、ミサトはシンジの言葉に己への信頼を知って感激に勢い良く振り向き戻り、日向へ声高らかに指示を飛ばす。
「やれやれ、もう少しくらいちゃんと説明してくれても良いのに・・・。冬月先生、何がどうなってるんですか?」
「うむ。実はな・・・。」
その張り切りぶりを満足そうに眺めつつ、シンジはゲンドウポーズをとってニヤリ笑いを深め、冬月はシンジの要望に戦闘経過状況を語り始めた。
『イインチョぉ~~っ!!何処やぁぁ~~~っ!!!わしならここやぁぁぁ~~~~っ!!!!ここにおるでぇぇぇぇ~~~~~っ!!!!!』
マユミとヒカリが待機するパイロットルーム、ここにも当然の事ながら零号機と弐号機を追いかけ回すエバァmk2の様子が届けられていた。
余談だが、青葉とマヤは既に代役の人物と席を代わっており、現在はマヤの計らいによってエバァmk2の物体Xにはモザイクがかけられている。
しかも、MAGIの処理能力を1割も使って行動予測させ、縦横無尽にウニウニと動く物体Xに対してモザイクを追いかけさせる徹底ぶり。
『どやっ!?立派なもんやろっ!!?これで大丈夫やっ!!!!イインチョも安心やでっ!!!!?がっはっはっはっはっはっはっ!!!!!!』
「ひ、ひぃぃぃぃぃ~~~~~~っ!!」
モニタースピーカーから轟くトウジの魂の叫びに戦慄して恐れ戦き、ヒカリが思わず隣の席に座るマユミへ抱きついて全身をガクガクと震わす。
「・・・だ、大丈夫ですよ。こ、ここに居れば・・・・・・。」
「た、助けて・・・。た、助けて・・・。た、助けて・・・。た、助けて・・・。碇君、助けて・・・・・・。」
マユミは突然の抱擁に驚くも抱き返してヒカリの背中を優しく撫でるが、ヒカリが譫言の様に救いの言葉を何度も重ねてシンジの名を出した途端。
「っ!?・・・今、何とおっしゃいました?ヒカリさん」
「えっ!?」
眼鏡をキラリーンと輝かせ、マユミはヒカリの抱擁を強引に押し退けると、頬と眉をピクピクと引きつり跳ねさせながら今の言動を問い質した。
「今・・・。『碇君、助けて』と確かに言いましたよね?」
「・・・・・・はっ!?」
ヒカリは一瞬だけ怪訝顔になるが、眼鏡をキラキラと乱反射させるマユミに尚も迫られ、思わず滑らせた失言に気付いて慌てて口を両手で塞ぐ。
「やっぱり、あなただったんですね。あの時の電話の声は・・・・・・。ヒカリさん、シンジ君とはいつから何ですか?」
「お、お願いっ!!・・・お、お願いっ!!!や、山岸さんっ!!!!
な、何でもするからっ!!ア、アスカ達にはっ!!!ア、アスカだけには言わないでっ!!!!お、お願いよっ!!!!!」
だが時既に遅く、マユミはヒカリの態度に確信を深め、ヒカリは顔面蒼白となってマユミから離れ、床に何度もペコペコと土下座して頼み込む。
「・・・そこまで言うなら良いでしょう」
「ほ、本当っ!?」
応えてマユミは天使の様にニッコリと微笑み、半泣き状態のヒカリが嬉しそうに顔を勢い良く上げる。
「はい・・・・・・。その代わり、私とシンジ君の仲を協力してくれますよね?」
「え、ええっ!?そ、そんなっ!!?」
しかし、マユミの天使の微笑みがみるみる内に毒気たっぷりなニヤリ笑いへと変貌を遂げ、ヒカリがマユミの交換条件に愕然と目を最大に見開く。
「協力・・・。してくれますよね?」
「・・・・・・う、うん、解った(ず、狡い。わ、私なんて、隠れてなのに・・・。や、山岸さんは堂々となんだから、それで良いじゃない)」
マユミは片膝を付くと、ヒカリの両肩を力強く掴んで念を押し、ヒカリはとうとう堪えきれなくなって涙をルルルーと流しながら項垂れ頷いた。
「あ、あのぉ~~・・・。」
「おや?・・・何ですか?」
新作戦は淀みなく着々と進み、戦況も新たな場面を迎えたのにも関わらず、作戦指揮官であるミサトの表情には戸惑いだけが浮かんでいた。
何故ならば、作戦の要であり、作戦許可を出した張本人であるシンジが、未だ司令席から全く動こうとせず悠然と居座り続けていたからである。
「しょ、初号機はケイジへもう回収されたんですけど?」
「そうですか、なかなか迅速な行動ですね。僕は嬉しいですよ」
「あ、ありがとうございます。・・・・・・で、つきましては司令代理にそろそろケイジの方へ向かって欲しいんですけど?」
司令席を見上げて怖ず怖ずと進言するが、シンジは司令席を立ち上がる気配すら見せず、ミサトは苛立ちを覚えながら尚も具体的に進言した。
「フフ、短気は損気ってね・・・。待っているんですよ。僕は・・・・・・。」
「・・・へっ!?」
それでも、シンジは司令席を立ち上がらずクスクスとだけ笑い、ミサトはシンジの意味不明な応えに思わず茫然と間抜け顔。
「シンジ君・・・。どういう意味なんだね?それは・・・・・・。」
「焦らないでも大丈夫ですよ。冬月先生・・・。今、もう1人の予備が届きますから」
「もう1人の予備・・・・・・って、ま、まさかっ!?あ、あれを本気で使う気かねっ!!?シ、シンジ君っ!!!?」
そんなミサトの心情を思ってか、冬月が怪訝顔で問い、シンジの口から出てきた『予備』の単語に驚愕して目を最大に見開いたその時。
『よう、シンジ君。こっちの準備は出来たぞ』
「ご苦労様。では、僕もそちらへ向かいます」
通信ウィンドウが司令席間近に開いて加持が現れ、シンジがサングラスを押し上げて待ってましたと言わんばかりに立ち上がった。
「・・・葛城三佐」
「は、はいっ!?」
司令席のやり取りに発令所の注目が集まる中、シンジがミサトへ視線を固定させ、ミサトがシンジの鋭い眼光を受けて慌てて我に帰る。
「今朝、読んだ本にこんな言葉が書いてありました。百戦して常勝する事など適わず、敗北は兵法家の常だと・・・。この意味が解りますか?」
「い、いえ・・・。」
「では、答えをお教えしましょう。つまり、部下のミスを責めるより、大きな寛容性を持って次の働きに期待しろとの指導者を戒める言葉です」
「は、はぁ・・・。」
するとシンジはいきなり脈絡もなく故事を語り始め、ミサトはシンジへ相づちを打ちながらも再び思わず茫然と間抜け顔。
「いやはや、実に素晴らしい言葉・・・。僕もネルフ司令として斯くありたいもの。
ですが、やはり一敗は一敗・・・。非常に心苦しいですが、ここは心を鬼にして葛城三佐へエバァmk2損失の罰を与えます」
「えっ!?・・・あっ!!?はっ!!!?」
だが、シンジがニヤリと笑いつつ天井から垂らされた荒縄へ手を伸ばした途端、ミサトは迫る身の危険を感じて再び慌てて我に帰って跳び退いた。
「ちょ、ちょっとっ!?ミ、ミサトっ!!?な、何するのっ!!!?は、離れなさいよっ!!!!!」
「い、いや、ほら・・・。こ、こうすれば、リツコも一緒だから大丈夫かなって・・・・・・。」
その跳び先にいたリツコは、いきなりミサトに抱きつかれて焦りまくり、ミサトは腕の中で藻掻くリツコをきつく抱きしめて必死に宥める。
「あ、甘いわっ!!あ、あなた、まだ懲りてないのっ!!?シ、シンジ君がそんな事で躊躇うはずがないじゃないっ!!!?」
「ま、まっさかぁぁ~~~・・・。い、幾ら何でも、あの優しいシンジ君がそんな事する訳ないでしょ?・・・・ね、ねぇ、シンジ君?」
しかし、今朝の司令公務室の一件を知っているリツコはフルパワーで暴れ藻掻き、ミサトが救いを求めて縋る様な視線を司令席へ向けた次の瞬間。
「うんうん、仲良き事は美しき事かな。実に麗しき友情と言う奴ですね。・・・では、行ってらっしゃい」
シャコンッ!!
シンジが邪悪そうにクスクスと笑いながら荒縄を引き、ミサトとリツコの足下の床が左右に素早く開いて奈落への道のりが現れた。
「だ、だから、言ったでしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
「お、鬼ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
その結果、足場を失ったミサトとリツコは直下に出来た奈落へ落ち、絶叫だけを残して発令所から瞬時に姿を消す。
「ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~・・・。」
「ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~・・・。」
ドッポン、ドッポォォォォォーーーーーーンッ・・・。
その絶叫は3秒ほど続いて次第に小さくなった後、奈落の底で何かが2つ何処かへ着水した様な音が発令所へ届く。
シャコンッ!!
「「「あわわわわわわわわわ・・・。」」」
そして、何事も無かった様に床が元に戻り、日向と青葉とマヤはその床を茫然と見つめたまま、ただただ口をパクパクと開閉させる。
「・・・鬼?当然ですね。だって、最初に心を鬼にしてと言ったじゃないですか?・・・と言う事で、僕も行ってきます。冬月先生」
「う、うむ・・・。や、約1ヶ月ぶりの対面だな」
シンジは満足そうにニヤリと笑いながら昇降機へ乗り込み、ただただ茫然と奈落後の床を眺めている冬月に一声残して床へ沈んで行った。
「ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
「ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
ドッポン、ドッポォォォォォーーーーーーンッ!!
突如、初号機ケイジの天井より叫び声が聞こえたかと思ったら、赤い物体と白い物体が猛スピードで激しい水柱を上げながらLCLに大着水。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
この不思議な現象に整備員達の誰もが思わず茫然と目が点になり、初号機ケイジに痛いほどの沈黙が漂う。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
そんな状態が約30秒ほど続き、赤い物体と白い物体が奇しくも同時にアンビリカルブリッチを目指して平泳ぎをし始めた。
ザッパァァァァァーーーーーー・・・。
「全くっ!!あなたのせいで酷い目にあったわっ!!!」
タッチの差で白い物体の方が先に辿り着き、大股開きでアンビリカルブリッチに足を引っかけ、まずは全身濡れ鼠のリツコが現れる。
「これくらい何よっ!!この前、私なんかザリガニとタコのプールへ落とされたのよっ!!!」
「それは自業自得でしょっ!!そもそも、あなたは作戦も、私生活も、部屋もゴミだらけで全てにおいて適当でだらしないのよっ!!!」
「むぅっ!?・・・むぅ~~っ!!むぅ~~っ!!!むぅ~~っ!!!!むぅ~~っ!!!!!!むぅ~~っ!!!!!!!」
「な゛っ!?今は私の私生活なんて関係ないじゃないっ!!!それにねっ!!!!幾ら汚くても、昔から『住めば都』って言うのよっ!!!!!」
「何が『住めば都』よっ!!あぁ~~、やだ、やだっ!!!加持君の為にも少しは家事をしようと思わないのっ!!!!」
「何、それっ!!つまんないシャレっ!!!大体、加持なんか関係ないわよっ!!!!何なら、あんたに熨斗付けてくれてやるわっ!!!!!」
「あら、良いのっ!?あとで返してくれって泣きついても知らないわよっ!!?」
「むぅ~~っ!!むぅ~~っ!!!むぅ~~っ!!!!むぅ~~っ!!!!!!むぅ~~っ!!!!!!!」
続いて、同様に全身濡れ鼠のミサトが現れ、2人は怒鳴り声を初号機ケイジに響かせ、尽きる事のない罵詈雑言を重ねてお互いを罵り合う。
「結構、結構、コケコッコーっ!!当店は返品を扱っていませんのでっ!!!ついでにクーリングオフも効きませんのであしからずっ!!!!」
「それはご丁寧にっ!!でも、遠慮しておくわっ!!!だって、あなたにとって加持君は最後のチャンスだものっ!!!!」
「はんっ!!良く言うわっ!!!年齢イコール彼氏いない歴の癖してっ!!!!あんたこそ、30になって焦ってるんじゃないのっ!!!!?」
「むぅ~~っ!!むぅ~~っ!!!むぅ~~っ!!!!むぅ~~っ!!!!!!むぅ~~っ!!!!!!!」
「何ですってぇぇ~~~っ!!」
「あによっ!!」
「むぅ~~っ!!むぅ~~っ!!!むぅ~~っ!!!!むぅ~~っ!!!!!!むぅ~~っ!!!!!!!」
「「ちょっとっ!?さっきからうるさいわねっ!!!静かにしなさいよっ!!!!」」
だが、ふとミサトとリツコは己達の罵り合いに混じる妙な声に気付いて停戦し、視線と怒りの矛先を妙な声の発生源へ揃って向けてビックリ仰天。
何故ならば、そこには猿ぐつわを噛まされたゲンドウが、手首と足首を荒縄で拘束され、しきりに体を藻掻かせて横たわっていたからである。
ちなみに、ゲンドウはトレードマークのサングラスを加持に外され、着の身着のままのランニングシャツにスエットズボン姿。
「し、司令っ!?」
「い、一体、どうしたんですっ!?ひ、避難したんじゃなかったんですか?」
「むぅ~~っ!!むぅ~~っ!!!・・・ぷっはぁぁ~~~っ!!!!」
慌ててゲンドウへ駈け寄り、ミサトが荒縄を、リツコが猿ぐつわを解き、ゲンドウがリツコの質問を応える前にまずは新鮮な空気を求めたその時。
「フフ・・・。久しぶりだね。父さん」
「シ、シンジっ!?き、貴様ぁぁ~~~っ!!?」
初号機ケイジにシンジの含み笑い声が響き、ゲンドウは立ち上がりつつ声の発生源を探し、初号機上方にあるブース窓辺を憎々し気に睨み付けた。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
約1ヶ月ぶりにネルフへ姿を現したゲンドウ、約1ヶ月ぶりの対面に無言のまま睨み合うシンジとゲンドウ、2人の間に感じられる不可視の火花。
その3つの要素が重苦しい雰囲気と凄まじい緊張感を作り、物音1つない静寂が初号機ケイジの隅々まで広がってゆく。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
一体、どれほどの時が過ぎたのか、不意にシンジがニヤリと笑いながらサングラスを押し上げて静寂を打ち破った。
「フフ・・・。出撃」
「出撃ぃ~~っ!?だったら、そんな所に居ないで早くプラグスーツに着替えて・・・って、んっ!!?」
ミサトはまるで他人へ指示する様なシンジの命令を妙に思うも、ふと現在のシチュエーションにデジャブを感じて怪訝そうに言葉を止める。
「・・・ま、まさかっ!?」
「ええ・・・。そうよ」
次の瞬間、ある結論に達したミサトが、驚愕に目を最大に見開きつつリツコへ驚き顔を向けると、リツコはミサトから顔を背けて苦し気に頷いた。
「ちょ、ちょっとぉぉ~~~っ!?こ、この非常時につまんない冗談を言わないでよっ!!?」
「冗談ではないわ・・・。」
「・・・マ、マジなの?」
だが、容易に信じる事が出来ず尚も問うと、リツコが真剣な表情を戻して微かに顎先だけを左右に振り、ミサトは驚愕のあまり茫然と目が点状態。
「何を話している?」
「ゲンドウさん・・・。」
「・・・何だ?」
間近に居ながら無視された様な扱いを受け、ゲンドウが苛立ちに口を挟み、リツコが辛そうに視線をゲンドウから逸らした一拍の間の後。
「あなたが乗るんです。初号機に・・・。」
「ふっ・・・。問題ない・・・って、な、何ぃぃ~~~っ!?そ、それは問題ありだろっ!!?」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「え゛え゛っ!?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
リツコの口から怖ず怖ずと衝撃の言葉が放たれ、これにはゲンドウは勿論の事、初号機ケイジにいる誰もが声を揃えてビックリ仰天。
「そうよっ!!問題大ありよっ!!!エヴァにはチルドレンしか乗れないんでしょっ!!!!幾ら何でも無茶よっ!!!!!」
「座っていれば良い。それ以上は望みません」
ミサトが茫然から我に帰ってリツコを責め、リツコが何かを応えようとするよりも早く、シンジがニヤリと笑いながら口を挟む。
「ぐぐっ・・・。し、しかしっ!!」
「今は下らない議論より使徒撃退が最優先と言う事をお忘れなく。それに昔から良く言うでしょ?親でも立っている者を使えって・・・。」
「わ、解りました・・・。」
おかげで、ミサトは過去の教訓と恐怖から反論を封じられ、たちまち意気消沈してガックリと項垂れた。
「・・・シンジ、どういう事だ?」
「赤木博士が言った通りだよ。聞いてなかったの?」
「では、私が初号機に乗って、使徒と戦えと言うのかっ!?お前はっ!!?」
再び辺りが静まり返る中、ゲンドウが拳を怒りに力強く握って肩をブルブルと震わし、殺気のこもった睨みと憎悪のこもった声をシンジへ向ける。
「だから、そうだって言ってるじゃん」
「貴様ぁぁ~~~っ!!・・・聞いたぞっ!!!加持一尉からっ!!!!もう、私はお払い箱じゃなかったのかっ!!!!?」
「必要だから呼んだまでさ・・・。」
しかし、シンジは全く動じた様子もないどころか、愉快そうに口の端をニヤリと歪め、毒々しいオーラ全開で強烈な威圧感をゲンドウへ返す。
「くっ・・・。何故、私なんだっ!?」
「他の人間には無理だからね。・・・父さんなら、この意味が良ぉ~~く解るだろ?」
「ふんっ!!馬鹿馬鹿しいっ!!!チルドレン以外が乗れるものなら最初からそうしているっ!!!!」
その威圧感に言葉を詰まらせるが、ゲンドウは屈してなるものかと果敢に立ち向かい、シンジの理論を鼻で一笑して怒鳴り声と唾をまき散らした。
「その辺の事情はあとで詳しく説明するよ。・・・まあ、夫婦と言っても所詮は他人。確かに無理かも知れないね」
「な゛っ!?」
するとシンジは肩を竦めてクスクスと笑い、ゲンドウは他人には解らぬ毒気たっぷりなシンジの言葉に絶句して言葉を失う。
「・・・や、やかましいっ!!だ、大体、お前っ!!!ちゃ、ちゃんとユイの誤解を解いたんだろうなっ!!!!シ、シンジっ!!!!!」
「そっちこそ、うるさいって・・・。ほら、乗るなら早くしなよ。でなければ、さっさと帰りな。僕のネルフに臆病者は要らないからね」
それでも、ゲンドウは尚も反撃を試みるが、その声と言葉に余裕は既になく焦りが見え、勝利を確信したシンジはゲンドウへ三行半を突き付けた。
「イインチョぉ~~っ!!何処やぁぁ~~~っ!!!何処におるんやぁぁぁ~~~~っ!!!!」
零号機と弐号機との追いかけっこに飽きたのか、立ち止まって何やら天を仰いで獣じみた咆哮をあげるエバァmk2。
「これだけ探してもおらへんって事は・・・。
シンジっ!!シンジやなっ!!!シンジ、イインチョを隠しおったなぁぁぁぁぁ~~~~~~っ!!!!」
不気味にウニウニと動いていた物体Xが、唐突にシャキーーンッと剛直を表して斜め上45度に一直線となった次の瞬間。
キラリンッ!!スッコォォォォォーーーーーーン・・・。
チュドドドッ!!チュドドドッ!!!チュドドドドドォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!
物体Xの先端より放たれた1発の発光弾が遥か上空で弾け飛び、何百とも言える尾鰭が付いた握り拳大の白い光弾が第三新東京市へ降り注いだ。
ガタガタガタガタッ!!
「・・・トウジめ。僕に気づいたな」
地上の衝撃はジオフロントまで伝わり、ネルフ全体が激しい揺れに襲われ、シンジが天井を見上げて忌々し気に呟く。
「あ、あのぉ~~・・・。し、司令、シンジ君には逆らわない方が良いですよ?」
「か、葛城三佐っ!?」
ミサトはその隙を狙ってゲンドウへこっそりと耳打ち、ゲンドウはシンジの支配力の高さを感じさせるミサトの進言に愕然と目を見開いた。
「・・・ご、ごめんなさい。ゲ、ゲンドウさん」
「リ、リツコ君までっ!?」
一拍の間の後、救いを求めてリツコへ視線を向けるが、リツコは辛そうにゲンドウから視線を逸らす。
「くっ・・・。(わ、私が長年をかけて築き上げた物がたった1ヶ月で・・・・・・。)」
ドスッ・・・。
ならばと周囲にいる整備員達へ視線を向けるも、リツコ同様に悉く視線を逸らされ、ゲンドウはその場へ絶望に力無く膝を折った。
「ちっ・・・。冬月先生」
『・・・何だね?』
シンジは視線を戻してゲンドウの情けない姿に舌打って呆れ、すぐ隣のモニターに通信ウィンドウを開いて溜息混じりに冬月を呼ぶ。
「例の物を・・・。」
『大丈夫かね?』
「ええ、死にはしませんよ」
『・・・解った』
冬月はシンジの注文に難色を示すも、シンジがニヤリと笑ってサングラスを押し上げると、説得は到底無理だと早々に悟って通信を切る。
プシューー・・・。カラカラカラカラカラ・・・・・・。
「よっ!!葛城」
「あんた、何しに来たのよ・・・って、何、これ?」
しばらくすると初号機ケイジ出入口の扉が開き、加持がTVとビデオの乗ったワゴンを押して現れ、ミサトへビデオテープを差し出した。
「まあ、その・・・。取りあえず、そのテープをここに入れてくれ。それが1番手っ取り早い」
「んっ!?」
ウィーーン・・・。ガチャッ!!!
ミサトは戸惑いながらも言われるままビデオテープをビデオに入れ、TV画面にブルーバック映像が数秒ほど映った次の瞬間。
『・・・なあ、ピーーーッ!!君』
『ダメです。今日は疲れているんですから』
天井位置より撮影されたらしき薄暗い部屋の様子が映し出され、キングサイズベットに並んで横たわる男性と女性の姿。
『ふっ・・・。問題ない』
『何が問題ないんです。ピーーーッ!!さんは家に居るだけですから良いでしょうが、私は・・・。』
『うぐっ・・・。』
『ご、ごめんなさい。ピーーーッ!!さん・・・。わ、私、そんなつもりじゃ・・・って、キャっ!?』
その2人は何をやっているかは薄暗くて全く謎だが、ベットの上で何やらモゾモゾと動き回り、しきりにベットをギシギシと揺らしていた。
『ふっ・・・。シナリオ通りだ』
『・・・ず、狡いですわ。ピーーーッ!!さん・・・。だ、騙すなんて・・・・・・。あんっ!!!』
しかも、男性と女性がお互いの名前を呼ぶ度に高音ノイズが入り、男性と女性の顔には荒いモザイク処理が入っている何とも摩訶不思議な映像。
『世の中、騙される奴が悪いのだ。・・・今夜は朝まで寝かさんぞ。ピーーーッ!!君』
『あ、ああっ・・・。ダ、ダメっ・・・。ダ、ダメっ・・・。ピーーーッ!!さん・・・。あ、明日は朝から大事な実験が・・・・・・。』
しかし、この2人を知っているのか、ミサトは驚愕に目を見開き、ゲンドウに至っては驚愕のあまり顎が抜けるくらい大口を開けている始末。
『・・・なに?私と実験、どっちが大事だと言うのだ?』
『い、意地悪・・・。そ、そんな質問、狡いですわ・・・。ピーーーッ!!さん・・・・・・。きゃうっ!!?』
余談だが、この映像は盗撮映像などではなく、出演中の女性が自らカメラを部屋の天井に設置して撮影した物である。
「はっ!?・・・ま、待て、待て、待て、待て、待てぇぇぇぇぇ~~~~~~っ!!!な、何なんだっ!!!?こ、これはっ!!!!?」
ブチブチブチブチブチッ!!ブチッ!!!・・・ドガシャァァーーーンッ!!!!
映像が徐々にエキサイトしてゆこうとするが、慌てて我に帰ったゲンドウがビデオを掴み放り投げ、TVとのコードを引きちぎって映像を止めた。
「リ、リツコ・・・。い、今のって?」
「・・・た、他人のそら似よ」
その拍子にミサトも我に帰り、リツコが向けられたミサトの茫然顔から何故だか真っ赤に染めた顔を勢い良く背けたその時。
ザパァァーーーッ!!・・・ドゴッ!!!
「ぶべらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~っ!!」
動けるはずのない初号機が右拳でゲンドウを思いっ切り殴りつけ、見事なくらい吹き飛んだゲンドウは、壁に叩きつけられるよりも早く轟沈。
『エ、エヴァが動いたぞ。・・・ど、どういう事だっ!?』
『み、右腕の拘束具を引きちぎっていますっ!!』
その信じがたい光景に誰もが驚きに息を飲む中、ゲンドウは壁に血のりを残しながらゆっくりとずり落ちてLCLへ静かに着水。
「あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!
・・・ちょ、ちょっと薬が効きすぎたかな?で、でも、これで手間も省けたし、結果オラーイと言う奴だね。
で、では、葛城三佐。と、父さんを適当にプラグへ詰め込んでおいて下さい。くっくっくっくっくっ・・・。あっはっはっはっはっはっ!!」
そして、ゲンドウは背中を向けてLCLにプカプカと浮かび、シンジはその様子を馬鹿笑いしながらミサトへ言付けて返事を待たず去って行った。
「・・・ね、ねえ、加持。い、今のって本当なの?」
「ああ・・・。俺も初めて知った時は驚いたよ」
「そ、そう・・・。お、男の趣味、悪いのね。あ、あんたって・・・・・・。」
ミサトは聞かずにはおれない先ほどの映像の真偽を尋ね、加持が応えてゆっくりと頷くが、それでも信じられず何故だか視線をリツコへ向ける。
「ゲンドウさんっ!!ゲンドウさんっ!!!ゲンドウさん・・・って、キャァァァァァァァァァァ~~~~~~~~~~~っ!!!!」
「ところで、葛城・・・。俺はお前が家事なんて出来なくても平気だからな」
「え゛っ!?き、聞いてたの?い、いや・・・。あ、あれは・・・。そ、その・・・。こ、言葉のアヤと言うか、何と言うか・・・・・・。」
ゲンドウが殴られた瞬間にLCLへ飛び込んだリツコだったが、初号機が作る荒波に幾度も邪魔され、未だゲンドウの元へ辿り着けていなかった。
「第二次コンタクトに入ります。A10神経接続、異常なし」
「思考形態は日本語を基礎原則としてフィックス」
「初期コンタクト、問題なし。双方向回線を開きます」
発令所の誰もが不安と興味津々に見守る中、ゲンドウを乗せた初号機の発進準備が着々と進められてゆく。
「・・・シンクロ率、3.4%。起動指数に全く足りません」
(う~~~ん・・・。やっぱり、さっきのビデオが効いているみたいだね。まあ、さすがの母さんもアレを見せられたら仕方ないか)
しかし、初号機はピクリとも動かず、マヤの報告と共に彼方此方で溜息がつかれるも、シンジは気にした様子もなく愉快そうにクスクスと笑う。
余談だが、パイロットのA10神経を介するエヴァとのシンクロ率とは、言うなればコアがパイロットへ向けている愛情指数。
つまり、ゲンドウのシンクロ率が低いと言う事は、初号機コアであるユイのゲンドウに対する愛情がそれだけ低い事を意味していた。
「ちょっと、ちょっと、ちょっとぉ~~っ!?どうすんのよっ!!?全然、話になんないじゃないっ!!!!」
「これからよ。・・・司令、お願いします(ごめんなさい。ゲンドウさん・・・・・・。)」
ミサトは作戦提案したシンジを怒鳴りたいのをグッと堪えてリツコを怒鳴り問い、リツコが応えて心の中でゲンドウへ詫びつつ司令席を見上げる。
「解りました・・・。とうっ!!」
バンッ!!
するとシンジは何を思ったのか、両掌で司令席を突き叩きながら勢い良く立ち上がり跳ね、華麗に倒立前転をして机の上に胡座をかいて座った。
「・・・冬月先生。あとを頼みます」
「ああ・・・。ユイ君によろしくな」
そして、シンジは冬月に一声残すと、脇に置いてあった金属製のフルフェイスマスクを被り、丹田で印らしき物を組んで声高らかに指示を発する。
ちなみに、このマスクにはバイザーが付いておらず、外からマスク内部の様子を伺い知る事は出来ない。
一方、マスク後部からは幾本ものコード線が伸びて司令席後ろの床に直結され、ネルフ最下層の極秘プラントと繋がっていた。
「準備OKっ!!ヴァーチャルシステム、開始っ!!!」
「ヴァーチャルシステム、開始」
「了解。ヴァーチャルシステム、プログラムをスタートさせます」
プシューー・・・。ブクブクブクブク・・・・・・。
リツコを経由して指示が届けられ、マヤがキーボードを叩くと共に、マスク首回りが圧縮素材で密閉され、マスク内にLCLが満たされる。
「LCL、注入完了。A10神経接続、異常なし。初号機パイロットとの双方向回線を開きます」
ピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッ・・・。
同時にマヤのディスプレイに表示されている初号機のシンクログラフ線に新たな線が現れ、電子音を鳴らしながら既存の線と徐々に重なってゆく。
ピィィィィィーーーーーーッ!!
「ヴァーチャルシステム・シンクロ補正、51.7%。・・・初号機、起動しましたっ!!」
一拍の間の後、2種類の線が完全に重なって甲高い電子音が鳴ると、初号機の両眼に灯火が灯り、マヤが嬉しそうに声を弾ませて振り返った。
ヴァーチャルシステムとはご覧の通り、チルドレンがシンクロ補正する事により、チルドレンでなくともエヴァに搭乗できる夢のシステムである。
簡単に言えば、かの悪名高いダミーシステムを進化させ、パイロットがダミーパイロットを介す事によって外部からの遠隔操作を可能とした物。
但し、ダミーパイロットは誰でも良いと言う訳ではなく、パイロットとコアの両方が愛情を寄せている人物に限る為、その汎用性は非常に低い。
また、ダミーパイロットには一切の動作決定権がないにも関わらず、紛いなりともエヴァとシンクロしているのでダメージだけが伝わるシステム。
それ故、『ヴァーチャル』とは、一見するとダミーパイロットに対する言葉の様に思えるが、その真はパイロットに対する言葉だったりする。
「良いわよ。ミサト」
「えっ!?・・・い、良いの?ほ、本当に?」
リツコも嬉しそうにマヤの笑顔に応えて頷き、ミサトへ出撃準備完了の合図を送るが、不安と戸惑いで一杯のミサトは心配そうに問い返す。
「もちろんよ。ほら、早くしないとシンジ君が怒って、あなたの未来はないわよ?」
「は、発進準備っ!!」
だが、リツコが抜いた伝家の宝刀に反論を瞬時に封じられ、ミサトは声を上擦らせながら号令を発令所に響かせた。
『進路クリア、オールグリーン。発進準備完了です』
『了解。では、パイロットの蘇生開始』
未だ白目を剥いて沈黙し続け、ランニングシャツにスエットズボン姿でエントリープラグシートに鎮座中のゲンドウ。
バチッ!!バチバチバチバチバチッ!!!
「ぬおっ!?」
しかし、エントリープラグ内が刹那だけ激しく発光した途端、ゲンドウは体を弓なりに数度ほど跳ねさせて意識を覚醒させた。
「やあ、父さん。やっと起きた様だね」
「むっ!?シンジ、貴様・・・って、ここは何処だ?」
そして、目を醒ますなり目の前の通信ウィンドウに映るシンジへ憤りをぶつけようとするが、ふとゲンドウは違和感を現状に感じて言葉を止める。
「やだなぁ~~・・・。もう忘れちゃったの?初号機だよ。初号機の中」
「な、何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~~~~~~~~~っ!?」
シンジはゲンドウの問いに応えてクスクスと笑い、ゲンドウは全身を包む軽い粘質感と心地良い浮遊感がLCLと知ってビックリ仰天。
「さて、父さんも起きた事だから行くよ?・・・碇シンジ&碇ゲンドウっ!!エヴァンゲリオン初号機、ゲットレディっ!!!」
「ま、ま、待てっ!!シ、シ、シ、シンジっ!!!お、お、お、お、落ち着けっ!!!!」
だが、シンジはゲンドウに驚く暇など与えず発令所へ指示を送り、ゲンドウが慌てふためきながら制止を叫んだ次の瞬間。
『発進っ!!』
「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
「あっはっはっはっ!!と、父さん・・・。ぼ、僕は平気だけど、喋っていると舌を噛むよ?・・・ぷぷっ!!?あっはっはっはっはっ!!!!」
ミサトの号令に初号機が地上へとカタパルトごと凄まじい速度で打ち上げられ、ゲンドウが未だかつて感じた事のない強烈なGに大絶叫をあげた。
コキコキ、コキコキ・・・。
「ふぁ~~あ・・・。今日は本当に色々とあって疲れたね。面倒臭いから、老人達の愚痴を聞くのは明日にしよう」
使徒襲来によって増えた仕事を残業で終え、シンジは首を左右に傾げて骨の関節を鳴らし、大欠伸をしながら司令席から立ち上がった。
「だけど、明日は明日で戦自との約束があるし・・・。いやいや、人気者は辛いね。
でも、これでマナの喜ぶ顔が見られるんだから、もう一頑張りしなくっちゃね・・・。しかし、ますます出費がかさむなぁ~~・・・・・・。」
そして、隣のソファーセットへ座り、シンジが心地よい疲れに帰宅前の微睡みを感じようと目を静かに瞑るも束の間。
コンコン・・・。コンコン・・・。
「はい、どうぞ。開いていますよ」
司令公務室の重厚な扉がノックされ、シンジはソファーの背もたれに両腕を広げて足を組み、雄大に悠然と構えて来訪者の入室を促す。
「あ、あの・・・。し、失礼します」
「やあ、マヤさん。そろそろ、来る頃じゃないかと思っていましたよ」
躊躇いを感じさせる一拍の間の後、扉が開いて俯きがちにマヤが現れ、シンジが予想通りの来訪者にニヤリと笑う。
「えっ!?」
バタンッ!!
思いもしなかったシンジの出迎えの言葉に驚き、扉を閉めようとしていたマヤが目を見開いて振り返り、その拍子に扉が勢い良く閉まる。
「辛いんでしょ?彼の事で・・・。トウジの時はマヤさんを敢えて外しましたが、今回はマヤさんにも協力して貰いましたからね。
ええ、解りますよ。僕もトウジをサイボーグにした時・・・。それが最良の方法だったとは言え、心が苦しくて夜も眠れませんでしたから」
「シ、シンジ君がっ!?」
シンジは何処か遠い目を赤く染まるジオフロントの景色へ向けて語り、マヤが己の心を見透かされた事もあるが『苦しい』と言うシンジに驚く。
「おや?・・・もしかして、マヤさんは僕が好き好んで彼等にあんな事をしているとでも思っているんですか?」
「そ、そんな・・・。そ、そんな事ないけど・・・・・・。」
するとシンジが心外なと言わんばかりにマヤへ視線を戻し、慌ててマヤは体を竦めながら言葉を濁して怖ず怖ずと上目づかいをシンジへ返す。
「まあ、そう思われても仕方がありませんね。実際、僕が彼等にしている事は酷い事ですから。
でもね・・・。トウジにしても、彼にしても、元のままならベットから起き上がれず、生きているか死んでいるか解らない状態。
しかも、あと数ヶ月の命・・・。2人はまだ14歳、14歳ですよ?そんなの悲しすぎるじゃないですか・・・・・・。
・・・だから、僕はみすみす放っておけなかった。自分の手に彼等を救うチャンスがあったから・・・。
確かにそのチャンスが原因で2人は自分の人生を失ったかも知れない。でも、生きるという希望は得たはず・・・・・・。
ねえ、マヤさん・・・。僕は間違っているのかな?僕がした事はいけない事なのかな?僕は2人を見捨てておいた方が良かったのかな?」
「ず、狡いわ。シ、シンジ君・・・。そ、そんなの応えられる訳ないじゃない・・・・・・。」
シンジはクスリと笑って再び何処か遠い目をジオフロントへ向けて語り、マヤが提示された究極の選択に応える事が出来ず瞳に涙を溜める。
「そう・・・。言うなれば、この必要悪な質問に答えはないんです・・・・・・。
・・・だけど、彼等は僕を恨むでしょうね。きっと・・・・・・。
でも、それとて僕にとっては好都合なんです。あまり良い手段ではありませんが、執念と言う復讐心は人に生きる活力を与えますから。
だって、そうでしょ?・・・・・・そんな物でもなければ、今の自分に絶望して、せっかく救った命を自ら断ってしまうでしょうからね」
「・・・そ、それで良いの?シ、シンジ君は・・・・・・。」
だが、シンジは満足そうにマヤの応えを頷いて寂しそうに笑い、マヤはその横顔とシンジの心の内を知って堪えきれなくなり涙を流しつつ問いた。
「構いません・・・。今時、親の罪を子が被るなんてナンセンスですが、僕にはその責任がありますから・・・・・・。
父さんの我が儘から始まった人類補完計画によって、人生を歪められた人々の負債を払う責任がね・・・。だから、良いんです」
「・・・人類補完計画?」
応えてシンジは眉間に皺を深く憎々し気に刻み、マヤが聞き慣れぬ『人類補完計画』の単語にキョトンと不思議顔を浮かべて尚も問う。
「フフ・・・。どうやら、僕とした事が少々話し過ぎた様ですね・・・・・・。
そんな事より、どうです?これから一緒に上で食事でも?・・・こんな夜は1人で居ると嫌な事ばかり考えて辛くなるだけですよ?」
「・・・う、うん」
しかし、シンジはその問いに応えずソファーから立ち上がり、何やら自嘲気味にクスクスと笑いながら歩み寄ってマヤの涙を人差し指で拭った。
「なら、決まりです。それじゃあ、7時半に駅前で待ち合わせしましょう」
「えっ!?どうして?・・・このまま一緒に行けば良いじゃない?」
質問を言葉外で封じるシンジに戸惑いを感じながらも、マヤはシンジの提案に戸惑いを重ねて不思議顔のまま尋ねる。
「どうせなら、デート気分の方が楽しいじゃないですか。せっかく、憧れのマヤさんと食事が出来るんですからね」
「も、もうっ!!シ、シンジ君ったらっ!!!・・・と、年上をからかってっ!!!!」
シンジはクスリと笑いつつマヤの肩を抱いて応え、マヤがこのどちらが年上か解らないシンジのアプローチに照れて顔を真っ赤っかに染めた。
カチカチカチ・・・。
カチカチカチ・・・。
カチカチカチ・・・。
カチカチカチ・・・。
カチカチカチ・・・。
カチカチカチ・・・。
静寂だけが満ちる山岸邸のダイニングに響く時計の秒針音。
ダイニングテーブルには所狭しとラップにかけられたご馳走が列べられ、マユミがどんよりと暗いオーラを背負って椅子に項垂れ座っている。
カチカチカチ・・・。
カチカチカチ・・・。
カチカチカチ・・・。
カチカチカチ・・・。
カチカチカチ・・・。
カチカチカチ・・・。
項垂れたまま視線だけを時計へチラリと向け、マユミは躊躇いがちに目の前に置かれた携帯電話を取った。
ピポパポピパポピッ!!プルルル・・・。プルルル・・・。プルルル・・・。カチャ・・・。
『はい、碇ですけど?』
そして、マユミが無表情にTELナンバーを押して着信を待っていると、3コールの後に電話の向こう側からシンジの声が返ってくる。
『・・・もしもし?・・・もしもし?・・・もしもし?・・・もしもし?・・・もしもぉぉ~~~しっ!!
誰だよっ!?間違い電話なら詫びを入れるのがマナーだろっ!!?悪戯電話ならもっと最悪だっ!!!!切るよっ!!!!!』
同時に街中の雑踏音も聞こえ、マユミは眉をピクリと跳ねさせて無言となり、シンジが返って来ない返事に苛立って声を次第に荒げてゆく。
「私です・・・。シンジ君」
『あ゛っ!?』
だが、マユミが無表情にボソリと暗い声を呟いた途端、たちまちシンジは息を飲んで言葉を失い、電話から街中の雑踏音だけが聞こえてくる。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
それっきり、シンジとマユミは口を噤んでしまい、2人の間に嫌すぎる沈黙と気まずい雰囲気が広がってゆく。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
ボォォーーーン・・・。
長く果てしない沈黙の末、時計の鐘が7時30分を告げ、マユミがそれをきっかけに言葉を取り戻してシンジへ尋ねる。
「お料理・・・。冷めちゃいますよ?」
『い、いやっ!!ご、ごめんっ!!!きゅ、急に仕事が出来ちゃってさっ!!!!ほ、ほら、使徒が来ちゃったろっ!!!!?
お、おかげで、今夜は徹夜で残業なんだっ!!!ま、全く、困るよねっ!!!し、使徒ってのは予告もなしに来るんだからさっ!!!!
ほ、本当、ごめんっ!!で、でも、今晩の事を忘れていた訳じゃないよっ!!!ちょ、ちょっと忙し過ぎて連絡が出来なかったんだっ!!!!』
慌ててシンジも言葉を取り戻し、かなり声を上擦らせた息継ぎなしの焦った口調で言い訳を一気に捲し立てた次の瞬間。
『シンジ君、お待たせぇぇ~~~♪』
「っ!?・・・シ、シンジ君っ!!?ど、どういう事ですかっ!!!?わ、私と約束したじゃないですかっ!!!!?」
ピッ!!カチャ・・・。プーーー・・・。プーーー・・・。プーーー・・・。プーーー・・・。プーーー・・・。
電話の向こう側からマヤのはしゃぎ声が聞こえ、マユミが驚愕に目を見開くと共に電話が切られ、マユミの問いに電話の不通音だけが返ってきた。
プーーー・・・。プーーー・・・。
プーーー・・・。プーーー・・・。
プーーー・・・。プーーー・・・。
プーーー・・・。プーーー・・・。
プーーー・・・。プーーー・・・。
プーーー・・・。プーーー・・・。
マユミは驚愕のあまり耳に携帯電話をあてがったまま固まっていたが、しばらくして携帯電話を持つ右腕だけが力無く動いてダラリと垂れ下がる。
プーーー・・・。プーーー・・・。
プーーー・・・。プーーー・・・。
プーーー・・・。プーーー・・・。
プーーー・・・。プーーー・・・。
プーーー・・・。プーーー・・・。
ガタッ・・・。
その際、右手から滑った携帯電話が床へ落ち、マユミが瞳から止めどなく溢れる涙の重みに俯いたその時。
「ただいまぁぁ~~~・・・。
おっ!?待っててくれたのか?先に食べていて構わないのに・・・って、凄いな。今夜はご馳走じゃないか?何か良い事でもあったのか?」
「うっうっ・・・。うっうっうっ・・・。うっ・・・。うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
何ともタイミング悪くタケシが帰宅して現れ、その拍子に耐えていた物を一気に爆発させ、マユミがテーブルに突っ伏して大泣きを始める。
「ど、ど、どうしたんだっ!?マ、マ、マ、マユミっ!!?と、と、と、と、父さん、何かまずい事でも言ったかっ!!!?」
「お、お父さんには関係ありませんっ!!ほ、ほっといて下さいっ!!!うっうっ・・・。うわぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~っ!!!!
(ひ、酷いですっ!!ひ、酷いですっ!!!あ、あんまりですっ!!!!シ、シンジ君の馬鹿、馬鹿、馬鹿ぁぁぁぁ~~~~~っ!!!!!)」
タケシはいきなりの展開にオロオロと狼狽えまくって宥めるが、マユミは怒鳴り突っぱねて立ち上がると部屋へ駈け引き籠もってしまった。
ピッ・・・。ピッ・・・。
ピッ・・・。ピッ・・・。
ピッ・・・。ピッ・・・。
ピッ・・・。ピッ・・・。
ピッ・・・。ピッ・・・。
ピッ・・・。ピッ・・・。
ネルフ専属病院・第一脳神経外科病棟309号室に響く脈拍計の電子音。
病室のカーテンは開け放たれ、月明かりに美しいブロンドのロングヘアーを輝かせてベットに横たわる少女。
そのややつり目の寝顔は美少女とまではいかないにしろ、十分に異性を惹き付ける魅力を持った可愛いと言うより美人顔。
また、何よりも異性の視線を惹き付けるのが、薄い掛け布団に隠されて呼吸と共に上下するアスカを上回る豊かな胸。
ピッ・・・。ピッ・・・。
ピッ・・・。ピッ・・・。
ピッ・・・。ピッ・・・。
ピッ・・・。ピッ・・・。
ピッ・・・。ピッ・・・。
ピッ・・・。ピッ・・・。
病院内がすっかり静まり返り、時刻が今日と明日の狭間になった頃、不意に少女の脳波計が覚醒を示し始めた。
「んっ・・・。んっんっ・・・・・・。」
しばらくして脳波計の予言通り、少女が瞼を開いて灰色の瞳を見せ、上半身を気怠そうに起き上がらせる。
「・・・え゛っ!?な、治っているっ!?お、俺の体が元に戻っているっ!!?」
寝ぼけ眼で辺りをキョロキョロと見ていたが、少女は唐突に寝ぼけ眼を一気に見開き、何やら傷1つない両掌を見て更に目を大きく見開かせた。
ブチブチブチブチブチッ!!
「・・・って、何だ。こりゃ?」
そして、少女は興奮した様子で強引にボタンを跳ね飛ばしつつ病院服の上着を左右に開き、今度は同年代より豊かに実った我が胸に茫然と目が点。
「んっ!?・・・・・・っ!!?」
その際、俯いた為にサイドヘアーが胸にかかり、しばらく少女は己の長い髪と胸を眺めて怪訝そうにしていたが、不意に再び目を大きく見開かす。
「ま、まさか・・・。じょ、冗談だろっ!?」
すると今度は何を思ったのか、慌てて少女は焦った様子で病院服のズボンとショーツを一緒に下ろして脱ぎ始めた。
ゴチンッ!!
「いでぇぇ~~~っ!!いで、いで、いでっ!!!いでぇぇぇぇぇ~~~~~~っ!!!!」
だが、慌て焦るあまり少女は後方へひっくり返ってベットパイプに後頭部をぶつけ、凄まじい激痛に後頭部を抱えてベットの上をのたうち回る。
「はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。
落ち着け・・・。落ち着け・・・。落ち着け・・・。良し、落ち着いた。見るぞ・・・。見るぞ、見るぞ、見るぞ、見るぞ・・・・・・。」
たっぷり1分間ほどそうした後、上半身をゆっくりと起き上がらせながら膝を立て、少女が両足を開いて怖ず怖ずと股間へ視線を向けた次の瞬間。
「・・・って、や、やっぱり、なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~いっ!!」
驚愕に目をこれ以上ないくらい見開かせ、少女は当直医が何事かと驚くほどの凄まじい絶叫を静かな病院内に木霊させた。
余談だが、翌日シンジが1日かけてマユミへのフォローを行い、マユミがご機嫌を取り戻すまで生きた心地をしなかったのは言うまでもない。
その結果、多忙を極めているにも関わらず、シンジのスケジュールを過密調整させ、マユミはシンジから後日の1日デート権を勝ち取った。
- 次回予告 -
ゲンドウは使徒に勝つ。だが、それは不幸の序章に過ぎなかった。
元司令としての権威は失墜しまくり、ダメ人間達と共に田畑を耕すゲンドウ。
こんな生活も良いかも知れないと思うゲンドウをミサトが奮起を促す。
そして、ゲンドウはシンジへの復讐を誓い、熱い闘志を漲らせて立ち上がった。
それこそがシンジの思惑通りだとも知らず・・・。
次回 ゲドウ2世 第5話
「見
知らぬ、新天地」
さぁ~て、この次も地球の平和を守る為、僕のしもべ達に命令だっ!!
「「「やぁっ!!」」」
注意:この予告と実際のお話と内容が違う場合があります。
後書き
自分でネタを振っておきながら何ですが・・・。
もう3年もエヴァ小説を書いていると、エバァの『バァ』が非常に打ち込みにくい(^^;)
書いている際に何度『エヴァ』と打ち間違えて修正した事か(笑)
あと実を言いますと、ゲドウ2世の創世には有る意味でこのエピソードが起源となっています。
ほら、世の中のエヴァ小説にゲンドウが初号機に乗る物語が幾つか有るじゃないですか?
これを読んでいて、私ならこうするみたいな発想から始まっているんですよね。
でも、第1話で乗せてしまったら、シンジの存在が無意味化する為、シンジを存在させたままゲンドウを初号機に乗せる。
ここから14歳のシンジがネルフ司令と言う無茶な設定ができ・・・。よくぞ、ここまで辿り着けた物です(爆)
(予告はゲドウ2世オリジナルの物です)
感想はこちらAnneまで、、、。
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