「まっっったく効き目ないわね」

 苦虫を噛み潰したような表情でアスカが毒づく。

 「しかも完全な無抵抗主義じゃない。こっちの思惑通りにはいかないわねー」

 その隣でミサトは言うほど気にした風もなく頷いた。

 その二人を含めたネルフ本部発令所要員たち目の前では、青く澄んだ色の生きたクリスタルがのんびりと
言って良い速度で地上数十メートルの高さを飛行している。

 まさに悠々自適、思うが侭に宙を浮くクリスタルの周りには先ほどから戦闘機の編隊が入れ替わり立ち代
りで飛び回り、見上げる位置では戦車隊の面々が先を争ってアスファルトを耕している。

 無論、彼らがしていることはそんな単なるにぎやかしなどではない。

 先ほどから放たれる砲弾と火線がひっきりなしにクリスタルの周囲で轟音と爆炎を巻き上げていた。

 しかし、普通ならばひとつひとつが圧倒的な壮麗さと豪快さで目標を焼き尽くそうとするそれが、今回ば
かり生憎と結果はミサトがつぶやいた通りの結果に終っていた。しかも、寛容なことにそんな仕打ちを受け
ても、そのクリスタル――――ラミエルはそいつらを許してやっている。

 戦略自衛隊のやっていることは決してにぎやかしではなかったが、ラミエルにとっては大差ないようだった。

 証拠に相変わらずのんびりとした歩みを、少しでも止める気配はない。

 その様子をしばらくモニター越しに見守っていたミサトが、ここにきてとうとう諦めたように小さくため
息をひとつつく。

 「結局、あいつの能力のひとつもわからずじまい、か…………シンちゃん!」

 『はい』

 「ごみん、そういうわけだから出撃準備よ」

 『了解です。いつでも出れますよ』

 エントリープラグで笑うシンジに、いくらかは救われるミサト。だが、やはり彼女の心は晴れない。

 (なーんかあたしって役立たずじゃない?作戦部長のくせにいっつもここで喚いてるだけだし、リツコとか
司令が張り切って暴走してる時だって、いっつも無駄にツッコんでるだけだし)

 途中でなんか論点がずれているが、要するに見せ場がない、とでも言いたいのだろう。

 まあ、無理もない。こちらとしても、ミサトの見せ場が具体的に思いつかないくらいだ。

 「理不尽よ!」

 「は?なにが?」

 「え?あ、いやいやこっちの話」

 本当に『こっち側』のどうでもいいことであった。



 「初号機、出撃準備完了しました」

 「OK、シンちゃん。ロックボルトは外しておくわ。地上に出る時の衝撃に気をつけてね」

 前回と同じであれば、出撃直後を荷粒子砲で狙われるのは目に見えている。そのためのロックボルト解除だ。
今のシンジの反応速度と状況判断力なら、余程の不意打ちでない限りかわせるはずだった。

 だがそれも手枷足枷が無ければの話だ。枷を無くすことで地上に打ち上がる時に少々苦労してもらうことに
なるが、大事の前の小事ということで我慢してもらうしかないだろう。

 「第五使徒ラミエル、第三新東京市直上に到達しました!」

 オペレーター日向マコトの、数少ない台詞が発令所に響き渡る。

 一瞬で緊張に周囲が張り詰めて、それを感じた青葉シゲルは隣にいる相方を憎々しげな目つきで睨みつける。
その視線には唯々『出番』の二文字のみがこめられてたのはお約束である。

 極端に出番が少ない彼らにとって、例え一言でも台詞は自分の存在証明のかかった貴重なものだからだ。

 まあ、そんな瑣末ごとは置いておくとして――――



 「エヴァ初号機、発進!」

 ミサトの号令一下、シンジの乗る初号機が地上に向かって打ち出される。

 カタパルトに機体を固定するロックボルトを失ったシンジは、Gに負けて膝を崩しそうになる自分を支える
ため、その歯を食いしばった顔を見せていた。



 「ねえ、アスカさん」

 「ん?なによ」

 「わたしよく知らないんだけど、今回の使徒のラミエルってやつ、どんななの?」

 子供たちの中では唯一プラグスーツを着ていないマナが、アスカに問いかける。

 「は?何よ今更。こないだ説明したじゃない」

 「説明、って言ったって、ただむちゃくちゃ硬くてごっついやつ、くらいにしか聞いてないよー」

 モニターに映るラミエルは、硬いかどうかはともかく、とりあえず行儀よくごつごつはしている。

 ユイの腕の中にいるマイはその時、「あうー」と鳴いてそれに手を伸ばしていた。

 アスカはそんな娘の様子を視界の端に捉えつつ、

 「ったく、しょうがないわね。もっかい説明するわよ」

 ため息を吐き出して腕を組み、右手の指を一本、ピンと立てる。

 アスカのなぜなにエヴァンゲリオン、はじまるよ~~~っ、である。

 「第五使徒ラミエル。死海文書で曰くところ、雷を司る使徒ってやつらしいわ。雷なんてモンのマスター
だけあって、その攻撃力は全使徒中でも最強。その荷粒子砲は前回の初号機のATフィールドを一瞬で貫い
たほどよ。こんな無茶なことしてくれたのは、コイツと14番目のやつだけね」

 その14番目にやられたのはこのあたしなんだけどね、と苦笑交じりにつけ加える。

 「更にその防御力もパーペキ……ってのがそこの作戦部長さんのご意見よ」

 「んなこと言われたって、あたしは責任取れないかんね」

 「わかってるわよ、そんなこと!」

 離れたところにいるようで、実はしっかりと聞いていたミサトにべーっとする。

 「いちいちツッコむんじゃないってのよ、もう…………とまあ、そんなところだけど、生憎あたしも当時現
場にいたわけじゃなくて、全部後から聞いただけなんだけど……これで概ね合ってるのよね?」

 「ええ」

 隣にひっそりと立っていたレイにお伺いを立てると、彼女はこくんと頷いてくれた。

 「でも、目標に攻撃を仕掛けたのは戦略自衛隊の自走砲とポジトロンライフルだけ。もしかしたらフィール
ドはエヴァで簡単に中和できるレベルだったのかもしれない」

 「そうなの?」

 「……でも、射程内に入るものを的確に撃ってくるから中和点まで到達できなかったわ」

 「攻撃は最大の防御……ってやつね。あ、そうそう確かドリルなんてモンも持ってたんだっけ?」

 「「ドリルですって!!?」」

 「ええ、そうよ。当時のラミエルはそれでジオフロントに侵入を図ったわ」

 何故かピンクの、しかもでかいフォントで迫るマッド師弟をさらりと無視してレイが答える。

 「とまあ」

 頷いたアスカはそう言ってぼーっと話を聞いていたらしいマナに振り返り、

 「だいたいこんなとこよ。こんどはわかったでしょ?」

 「う、うん……だいたいわかったよ、うん」

 といって、実のところむちゃくちゃ硬くてごっついやつ、くらいにしか理解してないマナだったりする。

 だが、それでも敵が相当に手強いということだけは理解できたようで、

 「だけどそれじゃあ……そんなに強いやつ相手にしてシンちゃん、大丈夫なのかな?」

 とばかりに、噴き上げた不安を口にする。

 無論シンジは無事に帰ってくると信じてはいるが、それでもやっぱり心配は尽きないものだ。

 よもや万が一など、あのシンジに限ってありえないとわかっていても少しの怪我もしてほしくないと願うの
は彼女にしてみればもはや本能レベルである。

 「前回の時はどうだったの?」

 「……前回のラミエル戦では、かなりこっぴどくやられたらしいわね」

 沈痛な表情のアスカに、レイもこくんと頷く。

 レイの脳裏に浮かんだ過去の光景は、お世辞にも『こっぴどい』なんて生易しい言葉で済ませられるような
レベルではなかった。

 その時の、直撃に絶叫するシンジと恐怖に沈むシンジのことを思い出してレイの表情が歪む。

 「…………ホントに大丈夫だよね?」

 そんな彼女につられたのか、マナの表情も不安に歪む。

 対してそんな不安など微塵も見せようとしないのはやはりアスカだった。

 「大丈夫よ。ていうか、大丈夫にするの。それが内助の功ってもんでしょ?」

 アスカの言葉にはいつもどこからかやってきたらしい自信が満ちている。

 それはたいていの場合根拠のないものだったり裏打ちの欠片もない場合が多いのだが、少なくともアスカ
自身は自分の言葉を疑うようなことをしていない。以前はそれが悪いほうに出てしまい、単なるわがままな
一人相撲になっていたが、今のアスカの言葉からはそんな嫌味さは感じられなかった。

 今も、例え根拠がなくてもそんな前向きで明るい言葉にマナは気持ちを軽くさせられていた。

 「内助の功って、よくそんな言葉知ってるね、アスカさん」

 「ふふん、忘れてるかもしれないけど、これでもあたしいちおう大卒なのよ!」

 ぐぐっと胸を張るアスカにおおー、と手をたたくマナ。

 それを横目にレイが一言。

 「漢字の書き取りは赤点だったわ」

 「う、うっさいわね!」

 事実だっただけに何も言い返せないアスカ。こういう時は過去を知られているのが少々鬱陶しい。

 「まあ、アスカが赤点なのはいいとしてよ」

 「よかないわよ!……けどなによ」

 「その、内助の功ってやつの手段はあるの?」

 「トーゼンよ。このあたしが何の用意もなくこんなことを言うと思ってんの?」

 そういうアスカの言葉はいつも通りに根拠があるんだかないんだか少々疑わしい。

 が、いつもと違っているのは、なにやらリツコ・ユイもその言葉に一口か二口ばかり噛んでいるらしいと
いう点だ。二人ともアスカと目を見合わせてニヤリしている。

 とりあえずこの時点でアスカが用意したモノがどうしようもなくろくでもないとこの場に居合わせた面々
にはわかりきってしまったのだが。

 そうでもないのはリツコを見上げてうっとりしているマヤくらいなものだろう。

 「安心してミサトちゃん」

 口元を引きつらせてげんなりしているミサトの肩にぽんと手を置いたのは、壱中の制服姿のユイ。

 「仕掛けは万全、後は結果をごろうじろ、ってやつよ。もう完璧なんだから」

 「さいですか……」

 その完璧なのが何より恐ろしい、という本音だけはなんとしても飲み込むミサト。

 「でも……」

 一方のユイは、先ほどまでとは打って変わって笑顔を消して、今度は物憂げな表情でモニターを見ている。

 「できれば、使わずにすめば一番いいんだけれどね…………」

 「ホントにそうですね」

 『ホントに』の部分に精一杯の力を込めてミサトが頷く。

 「初号機、地上に出ます!」

 今度は何とか台詞を勝ち取った青葉の声が発令所に響き渡った。










新世紀エヴァンゲリオン リターン

パパは14歳


第八話 『月に浮かぶ十字架』





 「!」

 打ち上げられるGに耐えていたシンジの顔色が急に変わる。

 (くる!?荷粒子砲か!)

 『目標内部に高エネルギー反応!円周部を加速していきます!!』

 シンジが確信するのと発令所からの報告は同時で、初号機が地上に出たのはそのコンマ1秒後だった。

 「っ!!」

 その直前、上昇エネルギーにあわせて足元を思い切り蹴って飛び出す。

 爪先を鋭い熱が駆け抜けたと思った瞬間、シンジはラミエルとコンクリートジャングルを見下ろしていた。

 「荷粒子砲は!?」

 『かわしたわ!言った通り出撃直後を狙ってきたわね、早い男は嫌われるってのに』

 『例えが下品よ、ミサトちゃん?ここには赤ん坊もいるんだから、情操教育には常に気を配りましょうね?』

 『ひゃ、ひゃい』

 ユイに何をされてるのかは知らないが、ミサトの声が引きつっている。考えていたら絶対にブルーな気分
になるのは間違いないから、シンジはそれを頭の中から強引に追い出した。

 「相変わらずすごい……というか、間違いなく前回よりも強くなってるよな……」

 三角錐の頂点から急降下しながら、遥か霞むところまで続く溶けたバターの道を見やりながらつぶやく。

 とりあえず一番怖い初撃を回避したことで気を緩めた態度のそれは、間違いなく油断だった。

 『シンジッ!前向きなさいッ!!』

 「え?――――うわっ!」

 激しい衝撃音と振動、そして左肩口と腕に走る痛みの後に、初号機がもんどりうって地上に堕ちる。

 「なんなんだっ!?」

 毒づきながらも今度は油断なく飛び退ったその跡に、白い光弾が着弾して爆裂音を巻き上げた。

 シンジはその爆音から逃れようと間断なく移動するが、光弾と爆音もその動きにぴったり貼りついて追い
かけていく。

 「こ、これが今回の新能力!?」

 『所謂ところのビックリドッキリメカね!メカじゃないけど!!』

 『てことは今のシンジ君はオドロキモモノキサンショノキ!って感じなのね』

 『んな古い知識披露してないでいいからとっとと対策考えなさいよ、この三十路コンビ!!』

 『『失礼ね!まだ29よ!!』』

 「っ!どうでもいいけど、なるべく早くお願いしますね!!」

 わたし今14歳だもんね~、とか後ろから聞こえてくるのを無視してシンジは光弾を避け続ける。

 速射砲とも言える速度で撃ってくるそれは、ご丁寧に足元を狙ってくるなんて知恵まで持っているから始
末に悪い。足を止めたら瞬時に数十発の光弾が叩き込まれるだろう。

 「前はただのでくの坊だったのに!」

 『シンジ君!ラミエルのあの速射砲だけど、手数が多いだけで威力は大したことないわ。あなたのフィー
ルドなら簡単に防げるはずよ』

 「リツコさん!了解です!!」

 毒づいた自分に応えるリツコが言うように、横殴りに降ってきた3つの弾をフィールドを張って防ぐ。



 ドドォォォッ!


 果たしてリツコの言葉を照明するように、殺到した光弾は初号機の左腕に発生した盾のような紅の壁にぶ
つかって虚しく弾け散った。

 「なんだ……こんなもんなら」

 現金なもので、凌げるとわかった瞬間、シンジの顔から焦りが消えて笑みさえ浮かぶ。

 もしかしたら、実は今の今まで目の前のラミエルが怖かったのかもしれない。



 乱立するビルの間を縫うようにして初号機が街を駆け抜ける。

 避けられるものは避け、当たろうとする弾はフィールドを張って巧みに防ぎつつ、宙に浮かぶラミエルに
近づいていく。それに連れ弾幕も強くなっていくが、シンジのATフィールドは突破できない。

 その分、流れ弾の被害をもろに蒙り第三新東京のビル街は既に惨憺たる有様となっている。

 当然、要塞都市としての機能は完全に失っているが、それでもこれだけの光弾の嵐の中でまだ街の形を保
っていられるというのが、この攻撃の一撃の貧弱さを物語っていた。

 そして数え切れない光弾を回避したシンジの目の前には、いつしかラミエルの姿が大写しになる。

 「もらったっ!」

 『シンちゃん、いけいけー!』

 『碇君、ごーごー』

 二人の声援を受けた初号機が気勢を上げてラミエルに肉迫し、その眼前で拳に紅い光を灯す。パーペキ
とまで言われたATフィールドをこれで貫けるという保証はなかったが、何もしないよりはマシである。

 為せば成る、男ならやってやれの精神でシンジが一撃を叩き込もうとその拳を突き出す。

 が、

 「!?」

 突然、足が何かに引っ張られ動きが止まり、

 「うわぁっ!!?」

 思い切り弧を描かされて初号機がビルに叩きつけられた。

 それまでの攻撃で半壊状態にあったビルは今の衝撃で完全に崩壊、轟音を上げて初号機ごと瓦礫の山とな
って崩れ落ちた。

 「な、なん……あっ!?」

 なんだ、と全部言い切れず、混乱したまま今度は両腕が何かに捕まれる。そして、逃れようともがくまも
なく両足が捕らえられる。

 初号機の四肢をそうして完全に押さえた『なにか』はそのままビルの大きさほどもある巨体を宙に持ち上げる。

 「くっ……」

 大罪を犯した罪人のごとく引きずり出されたシンジの眼前には雷の天使ラミエルが聳え立つ。

 そしてそのシンジを罪人たらしめているモノの正体は―――――



 『しょっ、触手~~~っっっ!!?』



 ―――――であった。

 いつの間にか地面を突き破って現れた4本の触手が、がっちりと初号機の四肢を捕らえている。見れば、
こちらもいつの間にやらだが、ラミエルから例のドリルブレードが生えて地面に突き刺さっていた。この様
子では十中八九、触手の正体はこいつと見て間違いないだろう。

 さて、この様を目の当たりにした発令所が騒がないはずがない。



 「しょっ、触手!いや~~~っ!?シンちゃんが犯されるぅぅぅ!!!」

 「いっ、淫○学園よっ!!なんて萌えるシチュエーション!!」

 「こ、この後縛るの!?縛るのね!!?」

 「触手の先端にドリルだなんて!見事すぎる柔と剛の融合!!」

 「フケツよぉぉぉぉぉ~~~~!!!!」



 どうでもいいがまともにシンジのことを心配するやつは一人もいないんだろうか。

 そんないろんな意味で興奮状態の発令所を速やかに無視して、シンジは一人脱出を試みる。

 「ATフィールドで……!」

 絡み付く触手を吹き飛ばそうとしたのだが、ラミエルにはそれがわかってしまったらしい。触手の巻きつ
いている部分にほの青い燐光が灯ったその瞬間、

 「! ぐぅあああああぁぁぁっっっ!!?」

 耳を劈く轟音と共に、凄まじい雷撃の渦が初号機を包み込んだ。

 これには発令所の一同も吃驚仰天。



 「で、電撃!?触手から電撃だなんて!!」

 「嗚呼、なんてお約束なシチュエーション!ぐったりしたところを狙うのね!?」

 「フケツよぉぉぉぉぉ~~~~!!!!」



 以上、まだ微妙に事態の把握が出来ていない奴らもいるが、他の面々は概ね危機的状況にあるということ
を、背筋に悪寒を走らせながら把握していた。

 「状況は?碇君は無事?」

 「初号機のシンクロ率、低下しています。パイロットの生命維持に支障はありません」

 「ちっ……懐に飛び込んだところでどうにかできる相手じゃなかったってことか……」

 「そ、そんな冷静に判断してる場合じゃっ!」

 窮地に陥ったシンジだが、状況は更に悪い方向へと進んでいく。

 「! も、目標に高エネルギー反応!!」

 「荷粒子砲……!」

 「や、ヤバイんじゃない!?」

 「碇君!逃げて!早く逃げて!」

 『綾波……そ、そう言われても……!』

 それぞれが焦りの声をあげる中、ラミエルの円周部スリットを走るエネルギーの光はどんどん力を増し
ていき、今にも零れ落ちんばかりの輝きを見せ始める。

 その時、何かを大きく振りかぶったアスカが踊るように動いた。

 「リツコ!いつまでもバカやってんじゃないわよっ、この!!」

 スパァァァン!と、甲高くよい音を響かせるスリッパの音。

 「あ、アスカ?」

 さすがに顔を上げたリツコの目の前には『無形の位』にスリッパを構えたアスカの勇姿が。

 ちなみに懐もないプラグスーツのいったいどこから出したのかは極めて謎。

 「い、いきなりなにをするのよアスカ、痛いじゃない」

 「うるさいっ!あんたが錯乱してあっち側に逝ってるのがいけないんでしょ!?」

 「えっ!?」

 「そうよリっちゃん。感動するのはわかるけど今はそれどころじゃないわ」

 「ユイさんまで……わ、私はいったい……?」

 「話は後よ。それよりもシンジが大ピンチなの。見てちょうだい」

 アスカの指差すモニターの中には、相変わらず素敵に倒錯的な光景が展開している。

 それを目の当たりにしたリツコはまたもや一瞬くらりと来たが、さすがに二度目となれば耐性もついてい
たのだろう。どうにかこっち側に踏みとどまって冷静に状況を判断する。

 そして弾き出した結論。

 「アスカ……アレを使うわよ」

 期待していた通りの赤木リツコの言葉に、アスカとユイが満足げに首肯する。

 果たしてリツコの言うアレとはいったいなんなのか―――――?



 「こ、こんなにパワーアップしてるなんて……あ、甘かった!」

 身を捩ってもフィールドを張っても無駄。いかに初号機とはいえこの強固な拘束を力ずくではやぶれず、
あの凄まじい雷撃の中ではそれを破るだけのフィールドを発生させる集中が出来ない。

 全てシンジの力不足と言ってしまえばそれだけだが、それにしてもラミエルが強すぎる。

 「く、くそっ!」

 毒づいても膨れ上がる目の前の光の奔流は止めようがなく、それが自分のみを焼く未来図を脳裏に描く
のもまたシンジには止められなかった。

 そして止まらないエネルギーの昂りが一際大きく膨れ上がり、止まらない時間がその時を告げようとし
たその瞬間――――――息を呑む人々の前にそれは現れた。



 シュパァァァァァ――――



 「えっ!?」

 『へっ!?』

 『…………?』

 『へぇっ!?』

 『ふぁー?』

 『『はぁ!?』』

 『『『……ふっ』』』



 吐き出された極太の荷粒子エネルギーを二つ割に割っている一本の十字架の柱。

 「い、いったいなんなんだ……?」

 つぶやくシンジが見つめるそれは、一見すれば何の変哲もない十字架でしかないように見える。

 しかし、あの3人がゲンドウ張りのニヤリ笑いをしている以上、変哲がないわけがない。少なくともミ
サトの中にはそれが絶対の確信として、ある。

 「日向君!あの十字架の正面部分をズームアップして!」

 「し、しかしそれって使徒の真正面ですよ!?衛星映像でも…………」

 「あーもー!ンな細かい物理法則なんてさくっと無視しなさいよ!男でしょ!!?」

 それもかなり無茶な話ではあるが、今更といえば今更ではある。

 ともかく悲しいまでの健気さを発揮した日向が何とかその命令を遂行し、発令所のモニターに件の十字
架が映し出される。その中心にはなにやら黒い影があるが、はっきりとは見えない

 「日向君!もっとズームよ!」

 ズーム、ズーム、ズーム、ズーム――――――そして最大望遠。

 「こ、これは!?」

 「まさか……こんなのってあるんですか!?」

 「うわぁ…………なんていうか、らしいっていうか」

 「あぅ?」

 そこにあった影の正体は――――――?







 「君の知っている相田ケンスケは死にそうだ!だ、誰か助けてくれぇ!!」







 ――――――ケンスケだった。病院にいたはずなのにいつの間に。

 「あ~~~、なんてコメントしたらいいのかしら?」

 ミサトが眉間にしわを寄せて苦悩の表情を浮かべる。こめかみを指でほぐしつつ、これ以上ないくらい
に会心の笑顔を浮かべている彼女にひとこと。

 「……ねえ、リツコ。あれって何の装置なの?」

 「あらミサト。装置だなんてそんな、彼はれっきとした人間よ?」

 そんなひどいこと言っちゃだめじゃない、とひどいことを『している』側がそんなことを言う。

 「んじゃあ聞き方変えるけど、彼はいったいあそこで何をしているわけ?」

 ミサトが指を指しているケンスケは、いまだに十字架に磔になったまま何事か喚いている。

 「見ての通りよ。彼はあそこでああして荷粒子砲の攻撃からシンジ君を守っているわ」

 「アレが今回のホントのビックリドッキリメカってわけ?」

 「ふふ…………その通りよミサトちゃん」

 と、今度はユイが誇らしげな笑みを浮かべて言う。

 「あれはリっちゃんの改造によってパワーアップを遂げた彼の発する力場が 生み出した
極めて特殊なフィールドよ!」

 やたらと超のつくかなり説明になってない説明をするユイ。リツコ同様のステキすぎる笑みで更に続ける。

 「ご覧の通り、あのラミエルの荷粒子砲でさえ弾き返すほどの強靭さを誇り、さらにエネルギーは無尽蔵、
無公害、無味無臭!そんな地球に優しくお肌に優しいうれしはずかしな新発明があの相フィールドよ!」

 「あ、相フィールドですか……」

 というか、むしろ哀フィールドのほうが近いかもしれない。

 「ただ、アレは今のところ防御にしか使えなくて、攻撃は出来ないのが難点なんだけどね」

 アスカが補足するが、今のところ、というのがとても気になるのはミサトだけではないハズ。

 ともかく、荷粒子砲を防いでいるのはケンスケのバリアで、ケンスケが可哀想というのはわかった。

 だが、攻撃する手段がないとなれば、やはり今のところ事態を改善することはできない。相フィールド
では一時凌ぎはできても、一発逆転はできないからだ。

 「とにかくシンジ君、ラミエルの力が荷粒子砲に向いている今がチャンスよ。触手から脱出して一度撤
退して頂戴。やっぱり作戦を立て直す必要があるわ」

 『りょ、了解!』

 言われてシンジは手足を拘束する触手から抜け出すため、フィールドの展開を始めた…………





 こうして第五使徒・ラミエルとの緒戦は前回同様、人類の敗北という形で終わるのであった。



 ちなみに相フィールドもきちんと、いちおう無事で回収された。

 いちおう。







 「目標の触手ブレードは以前速度を緩めぬまま、ネルフ本部に向かって穿孔中。このままいけば明日の
午前0時6分54秒には22層の装甲板全てを貫通しますね」

 「あれがここに到達するってのもゾッとしないわね…………」

 ミサトが本気で嫌そうに身を振るわせる。見ている分には楽しんでいたが、いざ自分が当事者になると
するとやっぱり嫌らしい。

 見れば、集まったほかの連中も一様に同じような表情をしてモニターを見ていた。

 そこには触手に絡めとられた初号機という、スクープ映像が大写しになっている。ある意味晒し者のシン
ジとして少々居心地が悪い。

 「それにしても、まさかあそこまでラミエルが強力になってたなんてね」

 「うん……相手を甘く見すぎてた」

 触手に捕らわれ荷粒子砲の砲口を眼前に晒されていたのを思い出し、背筋に怖気が走る。

 「荷粒子砲の出力増は予想してたけど、まさか接近戦にまで対応してたなんてね。懐に飛び込んだとし
てもあれじゃあ、手の出しようがないわね」

 「むしろあっちのほうが厄介よ」

 忌々しげに吐き捨てるアスカ。あの触手に、大嫌いなデビルフィッシュを連想してるのかもしれない。

 もっともアスカの場合、食卓に並ぶタコは結構好きだったりするのだが。

 「なんにせよ接近戦が駄目となると、やっぱり長距離射撃しかないかしらね?」

 「で、でもミサトさん」

 口元に拳を当ててつぶやくミサトにシンジが反論の声をあげる。

 「それってヤシマ作戦のことですよね。盾はどうするんですか?前回と同じのじゃきっとあの荷粒子砲
の攻撃には10秒も耐えられませんよ」

 「あらシンジ君、それなら今回は相フィールドがあるわよ?」

 誇らしげにそう言ったのはリツコ。紅を引いた口元に笑みが浮かんでいる。

 「ぶっつけ本番だったけど、あの荷粒子砲にも耐えうるのはシンジ君もその目で見てるはずよ」

 「ぶっつけだったんだ、アレ…………」

 青葉の背筋に言いようのない悪寒が走る。自分の立場が立場だけに、人事ではないように思えていた。

 まあ、それは置いといて。

 「万が一、先ほどの荷粒子砲の威力がラミエルの全力でなかったとしても、10%までの出力増なら十
分に耐えて見せると保障するわ」

 「それじゃあ、ポジトロンライフルのエネルギーはどうするんですか?あの調子なら多分、フィールド
も強くなってますよ。日本中から集めてきても足りないかもしれない」

 更に前回の手段への不安要素をシンジが挙げる。

 「ああ、大丈夫よシンジ君。そのことについてならあたしに考えがあるから」

 そのシンジの不安に応えたのはミサトだった。

 「考え……ですか?」

 「そうよん。伊達に作戦部長なんて肩書き持ってるわけじゃないんだから。まかせてちょーだい」

 どこかのミサイルのように突き出した胸を張って、ドンと叩く。

 それで納得したのか、反論をしないシンジを見てリツコがひとつ頷く。

 「これで決まったわね。目標の距離から可能な限り離れた位置からの超長距離射撃による一点突破」

 「以降、本作戦をヤシマ作戦と呼称します…………ってとこかしら」

 茶目っ気たっぷりのミサトの言葉に日向などは一瞬で顔を赤く染め上げる。そうでない他の連中も、今
回の作戦自体には何の文句も持っていないようだ。まさに今回、ミサトの晴れ舞台である。

 だが唯一人、シンジの表情だけはいまだに曇っている。







 さて、そうと決まればネルフの連中の行動は迅速だ。

 人間的にどうかと思う連中が集まってしまっているが、元々持っている能力は極めて優秀な者ばかりの
集団なのだから、それくらいが当たり前なのだ。



 「レーイ!精密機械だから壊さないようにね~ん」

 『葛城一尉じゃないから大丈夫です』

 「あ、あんたも言うようになったわよねぇ……」

 工事現場の安全メットをかぶり、こめかみぴくぴくさせているミサトが立っているのは第二新東京にあ
る戦略自衛隊の研究所。

 以前と同じように、既にレイの操縦する零号機によって屋根は取っ払われており、青空がまぶしい。普段
室内で研究ばかりしている研究者たちは、振ってわいた日光浴の機会に目を細めていた。

 「や、やっぱり困りますよ葛城さん!」

 そんな中でチームの主任らしき研究者が、こちらは零号機を見上げて目を細めるミサトにつばを飛ばして
食ってかかる。

 「これはウチの機密兵器なんですよ!?簡単に外部に持ち出されたら困るんですよ!!」

 線の細いタイプの男の白い顔には青筋さえ浮いていたが、対するミサトはどこまでも涼しい顔で、

 「そんなけち臭いこと言わない。秘密兵器なら『こんなこともあろうかと!』って気前よく出してくれ
るのが当たり前じゃない。ウチのリツコとかユイさん辺りなら、喜んでそう言うわよ」

 「そ、そんなのが当たり前なのはネルフだけです!」

 ちなみに秘密兵器ではなく機密兵器、だし、この男の言っていることは至極正しい。

 しかし当のミサトにしてみれば、いい加減ごちゃごちゃとうるさいだけだし、そろそろ顔にかかってくる
つばが気色悪くなってきたところである。

 「あのねぇ。こちらはいちおう日本国政府のお墨付き貰ってきてるし、あんたのとこの上司にもちゃん
と断って来てるのよ。だいたい機密機密って、いったいいつまで機密にしとく気なのよ」

 「そ、それは……きちんと完成するまでは……」

 「完成してるでしょうが。いちおう試射までは済ませて成功してるんでしょ?道具を使うべき時に使わな
いのが宝の持ち腐れ、って諺の意味なのよ」

 「……………………」

 ここまで言われてはさすがにぐぅの音も出ない。もっとも、言い返そうにもミサトの言っていることは
全部ホントのことで全く反論する隙などどこにもない。

 もっとも宝の持ち腐れというのは諺でもなんでもなかったが。

 「こっちにはあんたらのつまんないプライドに構ってる暇ないのよね。人の命、かかってんのよ」

 『葛城一尉、もう持って行ってもいいですか?』

 「いいわよー」

 聞いてくるレイに明るく言い返し、

 「もし壊れちゃったら、責任持って弁償するから。借りてくわね」

 諦めて項垂れている男にも、なるたけ明るくそう言ってやるのだった。






 「たっだいまー!陽電子砲、借りてきたわよん」

 「ご苦労様、ミサト」

 陽気な声でミサトが入ってきた時、研究室でリツコはコーヒーを啜っていた。夜型だけあってコーヒー
にはリツコだけあって、この部屋で出るコーヒーは、きちんと豆から挽いている。

 「んで?そっちの準備は進んでるの?」

 「順調よ。計画には1%の遅れもないわ」

 「さっすが赤木博士ね」

 親友同士、顔を合わせて笑いあう。

 ミサトがよっこいせ、とデスクの空いたところに行儀悪く腰を下ろす。

 「陽電子砲の改造はマヤに任せとけば問題ないし、あとはエネルギーの問題が解決すれば準備完了ね」

 「技術的なところはね。後は人間の問題もあるかしら」

 「人間?人間の問題って何よ?アレのこと?」

 さして表情も変えずに言うリツコに、ミサトが首を傾げて聞き返す。

 リツコはカップの底の残りを一気に飲み干して、

 「違うわよ、パイロットのメンタルの問題。シンジ君のことよ」

 と言った。

 ミサトはそんなリツコの言葉に首を傾げる。

 「シンジ君?シンジ君に何か問題あるわけ?戦うことを嫌がってるような節も見えないし……」

 「そうかしら……ある意味では嫌がってる、とも言えるわよ」

 「? なによそれ、どういうこと?」

 ますます首を傾げてハテナ顔のミサトに少し呆れたような顔をして、ため息と一緒に次の言葉を吐く。

 「今回の作戦を決めた時のシンジ君の態度、覚えてる?」

 「え?まあ、覚えてるけど……」

 天井を見るようにして少し前のことを思い出すミサト。

 「妙に作戦に対して反対意見ばかり述べてたと思わない?」

 「ああ……確かにそうかも。でもそれは単に作戦の問題点を挙げてくれてだけじゃない」

 「それだけじゃないわね……きっとシンジ君は本当にこの作戦に反対だったのよ」

 「……なんで?」

 相変わらずわからないミサトに、リツコは出来の悪い生徒を見るような目を彼女に向けると、今度は少
し違う方面からのアプローチを試みることにした。

 「ねえ、ミサト。今回の作戦で一番危険な目にあうのは誰だと思う?」

 「相田ケンスケ君」

 ミサト即答。

 「違うわよ」

 だがリツコも即答だった。

 「今回の作戦、一番危ないのは間違いなくレイよ」

 「レイが……ああ!そういうこと!」

 「はぁ……ようやくわかったの」

 盛大にため息を吐いて、ミサトの鈍さにほとほと呆れる。ミサトにはもう少し人の心の機微というモノ
について、勉強をしてほしいと思うリツコだった。

 一方のミサトはそんな親友の思いやりのある心配にはまったく気づいた様子もない。

 「確かシンジ君たちが辿った過去でも、この戦いでレイがかなりのピンチに陥ったみたいなこと言って
たものね。あの恐妻家のシンジ君が同じ目に合わせたいと思うはずないか」

 「あのねミサト……こういう時は恐妻家、じゃなくて愛妻家と言うものよ。まあ、ある意味それも正し
いのかもしれないけれど―――――とにかく、あなたの言う通りでしょうね」

 「よね。ま、でもそういうことならあたしらが心配したって始まらないじゃない。今更そんなこと言っ
ても作戦はもう変えようがないんだし」

 「そうね。多分レイも気づいていると思うし、あの娘がなんとかしてくれるでしょう」

 「夫婦の問題は夫婦で解決しなきゃあねぇ、ったく」

 「―――――そんな顔したってしょうがないじゃない」

 やってらんねー、という顔で毒づきやさぐれるミサト。

 リツコがコーヒーを淹れてやって手渡してやると、受け取ったミサトはそいつを一気にぐいっと呷る。

 「あちゃちゃっ!」

 「失礼します」

 ミサトがコーヒーの熱さに舌を焼くのと、部屋のドアが開いたのはほぼ同時だった。

 「葛城さん。やっぱりここにいたんですか」

 「ひゃ、ひゃら……日向君?どひたのー」

 あらわれたのはケンスケに並ぶネルフきってのメガネ小僧・日向マコトだった。

 …………ゲンドウはヒゲメガネであり、カテゴリが違うので二人とは別枠。

 まあ、そんなメガネ談義は置いといて。

 「葛城さん、日本中からのエネルギー収集の手配完了しました。GOサインさえあればいつでもいける
ようにしておきましたよ…………どうしたんですか?」

 舌を出して涙目になっているミサトを心配する日向に、本人はなんでもないと手を振って返してリツコ
が用意してくれた水を今度も一気に呷る。

 そうしてようやく落ち着いてから、

 「さっすがね日向君。仕事が早い!」

 「あなたとは大違いね、ミサト」

 「……余計なツッコミはいいのよ」

 「まあまあ…………ところで実は気になることがあるんですが」

 リツコに馬鹿にされ、憮然とした表情になるミサトをなだめるように話題を変える日向。

 「なあに?気になるって、シンジ君のこと?」

 「は?いえ、違います。エネルギーのことですよ」

 「エネルギー?」

 「はい。陽電子砲にまわすエネルギーを日本中から集めてくるのはわかったんですが、それでもまだ目
標のフィールドを破るには足りないかもしれないんですよね」

 「ああ、そのことね。心配ないわよ。言ったじゃない、ちゃーんと考えてあるって」

 にっこりと笑って言うミサトに思わず赤面する日向だが、それはそれとしてやっぱり気になるようで、

 「でも、いったいどこからそのエネルギーを持ってくるんですか?」

 問う日向に、ミサトは相変わらずの笑顔のままでこう言った。

 「決まってるじゃない。もちろん人力よ」





 ―――――ネルフ内新設・特殊人力発電所―――――



 『しょくーーーん!よぉくきけぇい!!』

 その諸君の前に立ち、拡声器で演説するアスカの声が、薄暗くて無機質な部屋に木霊する。

 格好はいつものプラグスーツなのだが、何故かその肩口に軍曹の階級章がついている。その左後ろに微
笑みながら立つのは、相変わらず壱中制服のユイで、階級章は大佐のものだった。

 そんな出で立ちで、アスカは目の前に立ち並ぶ面々に言い放つ。

 『諸君らはこれより、鎮護国家のため、なによりもあたしのシンジのための栄誉ある任務につくことに
なる!たとえ道半ばにしてその骸を晒すことになろうとも、粉骨砕身の覚悟で当たられたい!!』

 そんな美少女の叱咤を受けた男たちは、しかし、その声に奮起するどころか、何故か誰もが妙に景気の
悪い表情になって顔色を青ざめさせていた。

 さて、アスカの前にいるそれぞれ三等兵の階級章をつけたメンバーを右から紹介していくと。



 碇ゲンドウ

 冬月コウゾウ

 鈴原トウジ

 加持リョウジ

 ドイツ支部司令のオッサン

 ずた袋



 とまあ、これ以上ないほど選りすぐったメンバー構成となっている。要するに、彼女らの暴走・妄走の
主だった被害者たちということで、いちおうは当然と言うべきものなのかもしれない。

 そんな中、いまだ点滴をつけたままのアスカの暴走の被害者である加持が挙手し発言を求める。

 「なぁ……アスカ、それで結局、俺たちはこれからいったい何をやらされるんだ?」

 『鎮護国家、なによりもシンジのための栄誉ある任務よ!!』

 「だからその具体的な中身…………いや、とりあえず命の保障はあるんだよな?」

 『……粉骨砕身の覚悟で当たられたい!』

 とりあえず保障はしないらしい。加持をはじめとした連中の顔の縦線が3本ほど増えた。

 言うまでもなくそんな様子などアスカの目には留まらずに、

 『さあ!諸君らの戦いの舞台はこれだ!!』

 彼らにとっては不安しか掻き立てない、勇ましい声が響き、それを合図にばっ!暗幕が取り払われる。そ
して現れるその向こう側。そこにある、彼らの戦いの舞台とは。



 自転車。

 チャーリー。

 正確には連結したチャリ。タイヤはない。

 なんというか、彩も華もない地味な戦場の舞台だった。



 『さあ!このチャリをこいでこいでこぎまくって、陽電子砲のエネルギーを生み出すのよ!!』

 古くから伝わる由緒正しき自家発電方法。まさに基本に立ち返って編み出された手段と言えよう。

 雄叫びを上げるアスカは妙にテンションが高いが、対してメンバーの連中は妙にテンションが低かった。
ていうか、顔色が真っ青になっている。まあ、無理もない。

 「具体的に聞くがアスカ君。エネルギーはどれくらい必要になるのかね?」

 あまりのことに生え際を無意識のうちに後退させている冬月に、アスカは相変わらず無駄に高いテンシ
ョンを保ったまま、こう答える。

 『血反吐吐くくらいよ!』

 「……………………」

 時に無邪気と正直は残酷と例えられるが、今がまさにその時だった。アスカ、正直すぎ。

 無能極まりない、というか多分、きっと何も考えていないのであろう小隊指揮官・アスカのおかげで戦
に赴く三等兵の皆さんの士気はズンドコまで落っこちた。このままでは兵士の間に厭戦気分が広がってい
き、ついには影で控えている逞しい督戦隊の皆さんの出番となってしまう。

 それは避けたい。いろんな意味で、ビジュアル的にも避けたいところである。

 察して歩み出たのは本作戦の司令官である碇ユイ大佐(自称)である。彼女のその立ち居振る舞い、醸
し出す雰囲気は、未熟なアスカのそれとは比にならず、穏やかな中にも逆らい難い威厳を持っていた。

 ユイはゆったりアスカの肩を抑えてその前に歩み出る。アスカは当然のことながら、敬愛すべき上官に
その場を譲って後ろに下がった。

 「皆さん……」

 薄く可憐な唇から鈴を転がすような音で声が漏れる。どこからか、ごくりと息を飲む音が聞こえた。

 「わたしたちももちろん、これが無理な作戦であるということは重々承知しています」

 「………………」

 目を伏せたユイの表情には、鬼軍曹・アスカの見せていたような高圧的なものは一切見えない。

 「ですが先ほど申した通り、この作戦は人類全体の行く末に関わる大事な作戦です。このことだけはど
うか、皆さんにもご承知おきいただきたいと思っています」

 私情を一切挟まず、あくまで公的な作戦の重要性を訴えるその言葉はどこまでも丁寧で、さりとて低姿
勢なところなど全くなく、聞いている面々の中に強く埋め込まれていく。

 ユイは、頬を染めてきしょい笑みを浮かべている半ヒゲを含めた目の前の男たちの顔をひとつひとつ見
渡し、最後に加持に視線を合わせて更に続ける。

 「先ほど加持リョウジ三等兵の仰った様な命の保障ですが、当然ですが最低限保障します」

 「そ、そりゃよかった……」

 というのは、口にした加持だけでなく、他の面々の言葉でもある。

 ユイがぼそっとつぶやいた不穏なひとことがその耳に届いてないのは言うまでもない。ユイの方も、そ
んな言葉などを言ったようなそぶり一つ見せず、転じて笑顔となる。

 「もちろんそれだけのことをしていただくのですから、こちらもただでとは言いません」

 「と、言うと何かね、ユイ君?」

 疑問符を浮かべながらも、ユイの言葉にどこか期待を込めた視線を送る冬月に、ぽんと手を打って、

 「はい。今回の作戦で、頑張っていただけたとこちらで認められた方にはこれら豪華賞品の中からどれ
かひとつを進呈申し上げますわ~~~」

 ぱっ!とユイがテンションを変えて両手を広げると、部屋の奥の暗がりに包まれていた空間がスポット
ライトのまばゆい光に照らし出される。

 そこにある机に並べられた『豪華賞品』の数々に、男たちが一斉に歓声をあげた。

 「おおおおお!トレーシー、ジェニー、ハンナァァァァ!!」

 「お、俺の過去のあやまちが!?か、葛城の手に渡る前にっっっ!!」

 「あれは頭部の病によく効く伝説の薬品ではないか!!何度この手に求めたことか!!」

 「!……!!……!!!!」

 じたばたとなにやらもがいているずた袋は、どうやらカツ丼を喉から手が出るほどに求めているようだ。
このずた袋のどこにそれがが入っていくのかはわからないが。

 ていうか、こいつはどうやってチャリをこぐつもりなんだろう。謎である。

 「と、ところでユイ。私のはどこにあるんだ?あの中には私の欲しいのはないんだが…………」

 「あら。別に各人の欲しいものを用意したわけじゃないのよ?今回はたまたまあの方々の望むものとこ
ちらの用意したものが一致しただけよ」

 「そ、そんなユイ……」

 たおやかに口元を綻ばせながらもまるで笑ってない目で見据えてくるユイに、ゲンドウ一気に士気低下。

 「ふぅ……仕方ないわねぇ」

 そんなゲンドウを哀れに思ったか、飴と鞭を実践したのか、ため息をひとつつきやれやれと肩を竦めると、

 「そこまで言うのならあなたには、今あなたが一番必要なものを賞品に差し上げます」

 「お、おおっ!本当かユイ!!?」

 「はい。わたし、嘘はつかないわよ」

 「ならこうしましょう。あなたには特別に、頑張ってくれたらお仕置きを今なら20%OFFするわ」

 その無体な賞品に、ゲンドウはさっと顔を青ざめさせ、

 「ま、まだ続くのか……?」

 「あら、嫌ならいいんですよ?20%アップでも」

 「お、OFFにしてくれ!」

 半分以上、涙ながらにそう懇願するのだった。



 そんな連中の、歓喜と絶望の声が木霊する中、いまだ一人、沈黙を保ったままの漢がいる。

 「…………」

 額に『肉』のエンブレムを燦然と輝かせ、厳しい顔で腕を組むその漢はそう、鈴原トウジである。

 トウジはしばし、同輩たちの熱狂の様を見ていたが、やがてゆっくりとユイのそばに歩み寄る。

 「あら、鈴原三等兵。そういえばあなたはどれがいいのかしら?」

 ユイが指し示したそこには、黒を始めとして、赤、青、黄、緑、ピンクと、各種取り揃えられた著名メー
カーの最新モデルのジャージが並んでいる。

 中には赤木リツコ作成のジャージという『はずれくじ』も混じっていたのだが、それまでのトウジであっ
たならまさに垂涎モノの逸品揃いである。しかし、彼はそれに全く興味を引かれた様子がない。

 しかもはっきりと、

 「今のワイにあんなモン必要あらへん」

 とまで言う始末である。更に、

 「襤褸は着てても心は錦、っちゅー言葉があるやろ。あれや。漢をまぶしく見せるのは外見のジャージや
あらへん。漢を光らすのは漢の持っとる熱い魂ただひとつや…………」

 そんな至極真っ当そうな薀蓄を垂れた。

 確かにトウジの言っていることは一部正しいのかもしれないが、生憎彼の魂は至極アレである。どう転ん
でも錦にはなりえないのだが、無論そんなことに気づくトウジではない。

 なんにせよ、彼にとって目の前に並んでいるジャージは賞品とはなりえないようである。

 「そんなモンよりワイが欲しいのはただひとつ……」

 目を伏せて、その眉間にしわを寄せるトウジ。並々ならぬ決意と意思がその表情には込められている。

 が、

 「マイはんの愛!

 今更だが、やっぱりその意思はどうしようもなくであった。

 その言葉に色めき立つ者数名。アスカとゲンドウがそれなのだが、彼らが反論する間も与えず、トウジは
更に続ける。

 「頼ンます!おばあはん!!

 「…………」

 「…………」

 「…………」

 「…………」

 「…………」

 「あらあらあらあら」

 そして墓穴を掘っていた。

 笑顔のままこめかみの辺りをピクらせて、即座にトウジの腕を捕らえるユイ。捕まれた部分の血流が止ま
り、トウジの腕に青い血管が浮かび上がる。

 「鈴原三等兵?ちょっと詳しくお話したいことがあるから、こっちで……ね?」

 物言いはなんだか色っぽいものであったが、醸し出す雰囲気は顔に傷をつけられたハート様である。すな
わち、自分の気が済むまでやめられない、とまらない

 有無を言わさず、暗がりに消えていくトウジの儚い後姿を見つめながら、

 「鈴原三等兵の英霊に一同、敬礼!!」

 アスカの号令と共に、全員が息の揃った見事な敬礼を彼に送るのであった。





 「碇君」

 夕焼けの陰影に彩られた人気のない待合室に彼女の声が届き、ひとり病院の好きになれないにおいに包
まれていたシンジが顔を上げた。

 上げたすぐ目の前にあったのは、予想通りの顔にシンジの顔が微妙にほころぶ。

 「ああ、綾波……と、マイも一緒なんだ」

 「…………作戦まで時間あるから」

 「うー」

 「……わかってるわ。あなたと一緒にいるのは、わたしがそうしたいから」

 どこか不満げな『うー』に、わずかな苦笑で返し、ふわりとシンジの隣に腰を下ろす。

 「いつの間にか来てたんだ。全然気づかなかったよ」

 「そう」

 そう言った彼女の表情は他の誰かに比べれば確かに感情が薄かったが、シンジが見ればそれでも十分彼
女の気が緩んでいることが見て取れた。

 逆に言えば、シンジとあと数人にしかその違いはわからない。

 「………………」

 レイはその表情のまま少しだけ頬を染めると、どこかおずおずと身体を寄せてくる。そのままぴったり
と擦り寄るとシンジの肩に少しだけもたれかかってうっとりとした微笑を浮かべる。

 普段、アスカやマナと張り合っている時にはあまり見れない彼女のこうした本質が、シンジにはたまら
なく可愛く思えるのだ。だからシンジも素直にこのスキンシップに身を委ねられた。

 「検査のほうはなんともなかったの?」

 「ええ。わたしはただお遣いに行っただけだから」

 「そっか、良かった。僕のほうもなんともなかったよ。意外とダメージが残ってなかったみたい」

 「そう、よかった」

 「決戦までには完全に回復するから大丈夫だよ」

 「…………」

 その言葉にレイはわずかに表情を変えたのだが、シンジはそんなことに気がつかず、彼女の手からマイ
を受け取って胸に抱き上げた。

 「あーう、あー」

 随分ご無沙汰の、そう、実に7時間ぶりの父親の匂いに嬉しそうな声を上げるマイ。シンジも、ここで
スキンシップを取らなければ次は日が変わってからということが解っているから、自分も存分に娘に甘え
ているように見える。

 「碇君は、何を気にしているの?」

 「綾波……?」

 急に声色の変わったレイの声に振り向くと、そこにはどうにも不機嫌そうな彼女の顔があった。

 今のシンジのやり取りに何かを感じたのだろうか、熱の籠もった冷たい視線をシンジに向けている。向け
られたシンジはといえば急な彼女の態度の理由がわからないから戸惑うしかない。

 自然、黙らざるを得ないシンジに、レイは自分から口を開いた。

 「碇君は何を心配しているの?」

 「えっと……いったいなにを」

 「わたしのこと?」

 レイの言っていることがどうにもわからない。

 (僕が綾波のことを心配している……そんなの当たり前だけどそれがどうしたんだろう)

 改めて考えてみてもやっぱりシンジとしては首を捻るしかないが、レイは相変わらず不機嫌そうに口を軽
くへの字にして、軽くシンジを睨んでいた。

 「碇君はいつもそうやって自分ひとりで背負おうとする」

 まるでどこか拗ねたような口調でそう言われ、

 (ああ……そういうことか?)

 シンジはレイが怒っている理由をぼんやりと察してきた。

 要するに彼女も自分のことを心配しているのだ、と感じた。

 それはそれで当たり前のことなのだと思う。自分たちが互いに想いあうことにいまさら疑問も躊躇もあり
はしない。極めて自然なことだと思っている。

 しかしだからといって、それで自分の本音を変えるというのもシンジにとっては無理なことだから、レイ
にそれをはっきりと告げた。

 「そうだね。うん……僕は綾波のことを心配してるよ。本当はあんな危険なヤツと戦わせたくないんだけ
ど……それができないっていうならせめて攻守交替くらいはしたかった」

 レイに護られて全快と同じ目に合わせるなら、自分が取って代わりたいのがシンジの本音だった。

 だがいくらシンジの希望がそうだとしても、現状のシンクロ率の差異、前回と合わせた経験値からいって
もシンジがオフェンスに回ったほうが作戦の成功率は当然高くなる。それに合わせて今回のラミエルの戦闘
力の高さを考えると、攻守交替というのは少々リスクが大きすぎた。

 シンジも自分の希望が通らないことを解っているから無理を言っていない。ミサトたちを困らせるよう
なことをするほど子供でもないから。

 しかしだからといって、そんな理屈で自分を納得させられるほど大人でもなかった。

 「最初の出撃で僕がラミエルを仕留めていれば良かった」

 シンジのついたため息は明らかな後悔のそれだった。悔しげに唇をかみ、その目が床を見つめる。薄ぼ
けたリノリウムの床に映る自分の顔があまりに弱げに見えた。

 そんなシンジを見ているレイはますます不満げに柳眉の角度を傾けていく。

 「本当にあのラミエルをひとりで倒せると思っていたの?」

 「どうかな。でも倒すつもりだった」

 「……あれだけの目にあってまだひとりで倒せると思っているの?」

 「無理かもしれない。でもそうしたい」

 「…………」

 「…………」

 厳しさに尖るレイの視線を真っ向から受け止める。

 互いに自分の相手への想いが譲れないから、二人は厳しい表情で見つめあっている。

 「?、?」

 その真ん中に挟まれたマイは、不思議そうにふたりをを交互に見上げていた。

 「碇君はそうやってまた自分を追い詰めるのね」

 レイが先に、一時止まった時間を裂いた。

 それにシンジが返す。

 「そういうつもりじゃないけど、誰も傷つかないで済ませられるなら、僕は今の自分をやりかたを変え
るつもりはないよ。もちろん僕自身、傷つかないで済むならそのほうがいいけれど、ね」

 「傷つかない人たちのその中に……碇君は入ってないの?」

 「……身体の傷なんて、心の傷に比べたらなんてことない。そのことなら良く知ってるから。大事な人
たちがひどい目にあうのはもう嫌だ。たくさんだよ」

 抑揚がないシンジの言葉はその分だけ重たく感じる。かつて散々に心を傷つけ、ついには赤い世界にひと
り取り残されるまでになったシンジには、今だにその痛みが深いところにこびりついている。

 サキエルに頭を貫かれるより、ラミエルの荷粒子砲に焼かれるより、ゼルエルに腕を千切られるよりも辛
いその痛みの恐怖から逃れようとするのは無理のないことである。

 だがそれは目の前にいるレイにしたって同じことだっだ。

 「そうして碇君が怪我するのは……いや。あなたが傷つけばわたしの心が傷つく」

 「………………」

 レイにしてみれば、シンジはようやく手に入れた『本当に大切なひと』である。

 そのシンジが戦いの中で傷つくのはもちろん、ましてやいなくなる、なんてことはあってはならないこ
とだ。思考の隅に上げることさえ、例えようのない恐怖をもたらす。

 そして、このように自分のことで心を重たくしているシンジを見るのも、辛い。
 反面、それだけ自分のことを想ってくれていることは嬉しくないわけはないのだから、複雑なのである。

 とにかく、互いに互いを想いすぎている二人だから、こうした話がいつまでたっても平行線になってし
まうのは当然の帰結だった。

 「…………」

 「…………」

 困ったような顔のシンジと、怒った顔から反転、なんだか泣いてしまいそうな儚げな表情のレイとが声
もなくじっと見詰め合う。

 「? ?」

 何も言えずに固まっているしかない二人の間で、マイは相変わらず不思議そうな顔をしていた。

 マイの嫌なかんじがあるわけではないのに、なんでかしらないけど『ぱぁ』も『まぁ』も笑っていない。
今までにないはじめてのかんじがして、マイにとってはとても不思議な出来事になっている。

 「……先に行くから」

 「……うん」

 結局、話に結論をつけずにレイが先に席を立つ。

 少しだけ歩き、

 「……………………」

 一度だけシンジのほうに振り向いて、レイはいつもよりやや早足で廊下の角に姿を消した。

 シンジはレイが消えても、まだ彼女の残滓を追うように角をじっと見続けている。

 「あ~?」

 「うん……どうしたっていうわけじゃないんだけどね。こういう時もあるんだと思うよ」

 小首を曲げて見上げてくるマイの物問いたげな顔に、苦笑しつつシンジが答える。

 まるで仲違いでもしたかのような別れ方だったのに、シンジがさしてショックを受けた風でもないの
は、今のやり取りで互いを傷つけたわけじゃないとわかっているからだろう。

 単純な我の張り合いで、言ってみれば、



 「なぁによ。単なる痴話喧嘩じゃない。ばっかばかしい」



 という、覗き魔のひとことがまさにその通りなのだった。

 夫婦喧嘩は犬も食わない、と言うが、それは食ったら胸やけを起こしてたいそう身体に悪いからなの
かもしれない。







 「シンジ君」

 「はい」

 「あなたは初号機でオフェンスを担当」

 「……はい」

 「レイ」

 「はい」

 「あなたは零号機でディフェンスを担当よ」

 「了解」



 陽の消えた夜の双子山が人工の光で燃え上がり、シンジたちはその中心に立っている。

 いつもは人の気配などなく、月の光と虫の声、風に薫る土と草のにおいに包まれている山だったが、
今夜ばかりは趣を異にしている。

 自分たちの陣地を主張しているかのような長短細太のさまざまなケーブルは、あちらこちらから伸び
て地を這いまわり、互いに絡まりあっている様は、まるでミサトの部屋を思わせるような煩雑ぶりで、
その周りに隙間を縫うように停まる装甲車と人々の群れを、月すら霞ませるほどただ明るいだけの照明
が照らして、てんでばらばらな向きに濃い影を作っている。

 湿気の強い生暖かい風と素っ気のないにおいに包まれた、一部の隙もない人類の領域――――



 正直言って、シンジもレイもあまりここが好きではない。

 できることなら早くここから離れて、まだましな、月の良く見えたあそこに行きたいと思っているの
だが、生憎ミサトの話はまだ終わらず、むしろここからが本番だった。

 「二人とも多分だいたいは覚えてると思うけど、いちおうだからざっと装備の説明をしておくわ」

 そう言って指し示した先には、長大な銃身を持つ狙撃銃がケーブルにがんじがらめになって転がって
いる。言うまでもなく、普通の人間の持てる大きさではない。

 「あれが戦自研御自慢の、ポジトロンスナイパーライフル。自慢するだけあって、一撃の出力は間違
いなく人類圏最強の切り札よ」

 「とは言っても弱点もあるわ」

 引き継いだのは隣に控えていたリツコだ。今はいつもの白衣に眼鏡をかけている。

 「扱えるエネルギー量に比べてあまりに銃身の耐久力がお粗末だわ。きっと負荷試験なんてしてもな
いんでしょうね。常識を疑うわ…………」

 「とまあ、そういうわけだから連続使用はムリ。こちらの予定してる出力で安心して使えるのはせい
ぜい一回。もっても二回よ。それ以上は完全大破によるエネルギーの逆流でこっちが危ないわ」

 額に手を当てて頭を振るリツコを置いといて、ミサトがただ為すべきことだけを説明する。

 こういう時のミサトは余計なことをごちゃごちゃ言わないから話が早く済む。これでミサトまでリツ
コのように物を知っていたら、どうだったかはわからないが…………ともかく一刻も早くここを離れた
いシンジとしてはありがたい限りだった。

 ミサトの説明は続く。

 「それからあれが零号機が使う盾。SSTOの底部を改造して超電磁コーティングを施した逸品よ」

 目を向けた先には跪いた零号機と、その手が掲げる全身を覆うほど長大な盾がある。その形は以前の
それと全く同じだったが中央に十字架の何かが嵌っているのが以前と違っている。シンジはそれが何か
目を凝らしたが、さすがに距離が遠すぎて良く見えない。

 シンジは口を開きかけたが、周囲から聞こえる作業の音は他の余分な音を打ち消すようにますます大
きくなっていく。少しだけ声を張り上げる必要があった。

 「リツコさん、あの盾はヤツの荷粒子砲にどれくらい耐えられるんです?」

 「盾自体の精度はおそらくあなたたちが経験したヤシマ作戦の時と同じだと思うわ。今回、あれに工
夫を加えていないし、何より同じ人間が作ったものだしね……」

 「それじゃあ、もって10秒……いや、それ以下ですね」

 「盾だけでならそんなものでしょうね」

 リツコが自信ありげな微笑みを浮かべる。

 「あの盾にはフィールドを搭載しておいたわ。さっきの戦闘で消耗しているから完
璧な防御は出来ないけれど、それでも計算通りなら30秒は保つはずよ」

 「30秒…………ですか」

 顎に手を当てて何かを考えるように口を噤むシンジだったが、

 「それだけあれば充分です」

 代わりにそれに返したのはレイだった。

 「碇君が……なんとかしてくれます」

 瞳を閉じた表情は静かで、まるで祈りでも捧げているかのような雰囲気を見せていた。

 「あーらあら、これじゃシンちゃん、張り切って頑張んないとだめねぇ」

 からかうミサトにシンジは真剣な表情のままにこりともせず、ミサトにしてみれば興を削がれてし
まって、つまらない表情を浮かべるしかなかった。

 「まあ、いいわ。それじゃ今度は作戦の説明するわよ。二人とも、しっかり聞いててね」

 前半戦最大のヤマ場に向けてミサトの話はまだまだ続く――――――







 「風が気持ちいいね……ここは」

 「……そうね」

 闇に浮かぶ山の稜線から吹き抜ける風が二人の髪をやわらかく揺らす。

 夜の冷気に冷やされた冷たいそれが、下界の熱気に火照った頬に心地よく、シンジは両の目を細め
てゆったりと身を委ねた。

 横目で隣を見れば、同じように白い頬を風に晒したレイが静かに瞳を閉じていた。

 一際強い風がシンジとレイの髪を大きくなびかせる。無意識に手をやり、流れる髪を手で抑えなが
ら頭上を見上げると、そのまばゆさに目が細まる。

 「……月が、あんなに大きく見える」

 年相応の子供の、憧憬に満ちた両の瞳の中にまん丸の黄金が二つ、転がっている。

 山の上の更に高いところにいるせいか、頑張れば届きそうなところに月がある、ように思える。

 シンジも、レイに倣って目を閉じてみた。

 雲ひとつない空に浮かぶあの月に、隣にいる彼女を連れて行くことが出来そうで、思わずその瞬間
の光景を脳裏に思い浮かべてうっとりする。

 白いスーツに身を包んだ彼女は、誰よりも月という星に相応しいと心から思っていた。

 「綾波」

 「なに?」

 零れ出た呼び声に即座に彼女が反応する。

 「月、きれいだね」

 「そうね」

 今日び少女漫画にも出てきそうにないような台詞を吐くシンジ。

 言った後で、自分自身どれだけ恥ずかしい言葉を吐いたのか気づいたようで、それを隠そうとして
頬をぽりぽりと掻く仕草をする。

 でも、きれいだと思ったのは本当のことで、答えたレイも同じ気持ちだった。

 「……綾波」

 「……なに?」

 もう一度、彼女の名を呼び、もう一度彼女が応える。

 「今度、お月見でもしようか」

 「お、月見……?」

 「うん」

 いきなりこんなことを言い出したシンジに、さすがのレイも首をひねる。

 だがシンジは笑顔のまま至極まじめに、

 「だってこんなにきれいなのにもったいないじゃないか」

 と言った。

 「…………」

 「そう思わない?もっといい場所で、みんなで、落ち着いた時にゆっくりと見たいと思わないかな」

 「……そうね」

 言われてみればそうだと、レイもだんだんそんな気になってきた。

 頭上に見上げる月は本当に綺麗で、ぼんやりとまとった光がこんなにも明るく地上まで届いている。
きっと、見れば誰もが魅了されるだろうに、遥か下の、喧騒の中で蠢く人たちは誰も今日の名月のす
ばらしさに気づいていない。

 ミサトなど気づいたならば、きっと肴に一杯呑りだすだろうに。

 「そうね……いつかしましょう、お月見。きっと楽しいわ」

 そう言って微笑を浮かべ、近い未来の夜の光景に思いを馳せずにはいられなかった。

 そしてシンジもまた、みんなが、レイがいるその光景を脳裏に思い浮かべていた。



 「……時間だね」

 スーツのデジタル時計を見ていたシンジが立ち上がり、聞いていたレイも無言で立ち上がる。

 二人とも表情から笑みは消えていて、代わりにぴんと張り詰めた緊張感をまとっていた。

 「………………」

 月に照らされた零号機の横顔に歩いていくレイの後ろ姿をじっと見つめるシンジ。

 その細くて儚げな背中に声をかける。

 「綾波。君を傷つけないし、死なせない」

 「…………」



 「僕が護るから」



 背を向けたまま立ち止まったレイの背中にそう言って、

 「ずっと言いたかったんだ」

 この一言を最後にシンジも初号機に向かう。

 「……………………」

 シンジが初号機に消えた後もしばらくそのままで、肩を震わせて頬を濡らしていた。

 想われることはこんなにも嬉しいことだと、レイは強く噛み締めていた。







 そして日本標準時にして午前0:00。



 「シンジ君」

 「はい」

 「日本中のエネルギー、あなたに預けるわ」

 「……はいっ」

 夜の闇に包まれた双子山山頂と、



 『諸君』

 「「「「「……………………」」」」」

 『自家発電機のペダル、あなたたちに預けるわ』

 「「「「「……………………」」」」」

 『……復唱はどうしたぁ~~~っ!!?』

 「「「「「了解ッ!!!」」」」」

 野郎どもの醸しだす不幸っぽいオーラに包まれた人力発電所。

 二つの場所で展開する作戦が、





 「きっ、君たちの知っている相田ケンスケは今度こそ死にそうだぁぁぁぁ!!」





 空に独りぼっちのあの月にまで届きそうなほどの、少年の絶叫と共に幕を開ける。



 「第2次ヤシマ作戦スタート!!」





 「電圧流入中、加圧域へ!」

 「全冷却システム出力最大へ!!」

 計器の前に張り付いたオペレーターたちの声が、作戦が予定通りに進んでいることを告げる。

 そしてそれを聞くミサトたちの表情にも厳しい緊張が走り油断がない。



 「人力流入中、加速域へ!」

   しゃーこしゃーこしゃーこしゃーこ

 「全人力システム出力最大へ!!」

 しゃっこしゃっこしゃっこしゃっこしゃっこ

 サドルに跨り、順調にペダルを漕ぐ漢たちのピッチが上がっていくのをアスカが見守る。

 やがてそれが立ち漕ぎになり、速度計と電力計が上がっていくのを見て、ユイが頷いた。



 「第2次接続!!」

 「全加速器運転開始」

 「強制収束器作動!」

 作戦の段階は第2フェーズに移行し、尚も緊張は緩まずますます張り詰めていく。

 それを肌に痛いほど感じているのか、計器を操るオペレーターたちの額には冷房が効いているにも
拘らず、例外なく汗の弾が浮いている。

 平然としているのはさすがにミサトとリツコだけだった。



 「第2次接続開始!!」


 がっきーん!


 チャリのギアがチェンジされ、漢たちの足にかかるペダルが一段と重くなる。

 「全加速装置運転開始!!」


 フゥォォォォオオオオ~~~


 号令と共に何処ぞからマッスルバディな漢たちが現れて、チャリを漕いでいる漢たちの尻に


 ピシィィィーーーン、ピシィィィィィィ~~~ン!


 とばかりに烈しくムチを入れる。軽快かつ鋭いムチの音に漢たちの絶叫が重なった。


 「強制拘束器作動!!」


 たまらず逃げ出そうとする漢たちだったが、次の号令の瞬間、腕に腰に首に黒革のベルトやごっつ
い重石つきの鎖が絡みついて動きを封じられた。

 これでは動くのは足、のみ。


 しゃっこしゃっこしゃっこしゃっこしゃっこしゃっこしゃっこしゃっこしゃっこしゃっこしゃっこ


 全身にイヤな汗と瞳に血涙を浮かべる漢たち。

 平然としているのは当たり前だが見てるだけのユイとアスカだけだった。



 「!」

 陽電子砲へと送られてくるエネルギーの急激な増加を見て取った日向が叫ぶ。

 「全電力、双子山増設変電所へ!!」

 「了解!第三次接続問題なし。双子山増設変電所へのバイパス開きます!!」

 それを合図にダムとなっていたバイパスの蓋が開き、堰き止められ溜め込まれていたエネルギーが
一斉に流れ込んでいく。

 力が向かう先の小さな変電所は照明でまばゆく輝いていた。



 『最終安全装置解除!撃鉄起せ!!』

 弾けるような金属音と共にヒューズが飛ぶ。

 発令所より飛んできた指示で、構えられた陽電子砲の撃鉄が起される。同時にモニターの中のター
ゲットカーソルが二つ、ふらふらと動き出し、徐々に徐々に互いの距離を近づけていく。

 『地球自転誤差、プラス0.0009』

 『第7次最終接続、全エネルギーポジトロンライフルへ!!』

 『発射まであと10秒!』



 『9、8』

 「……………………」

 エントリープラグで息を潜めるシンジの額に、緊張による汗が浮かぶ。

 モニターの向こうのラミエルを見据える瞳には一寸の油断もなく、その時を待っている。



 『7、6』

 「……………………」

 エントリープラグで張り詰めているレイの頬はわずかに紅潮している。

 鋭い意思の光が宿る紅の瞳が輝き、吐き出された息が小さな気泡となって浮かんで消える。



 『目標に高エネルギー反応!!』

 「「……………………」」

 悲鳴のようなその声を聞いてもユイとアスカの表情に変化はない。

 まだ彼女たちの予定のプログラムを逸脱していないのだから焦る道理もない故の表情だ。



 『5、4』

 「「「「「……………………」」」」」

 そんな冷静な指揮官を尻目に、いや、もはや視界にも入れられないほど濁った水揚げ後の死んだ魚
の瞳が合計10ヶ、虚ろに宙を見つめている。夏バテした犬のごとく開かれた口は激しく酸素を求め、
脳裏には揃ってたった一つの光景が広がっている。

 すなわち目一杯のお花畑と、川向こうから手を降る懐かしい人たち―――――

 いい塩梅な臨死体験だった。



 『3、2、1……』

 「「……………………」」

 腕の中に抱かれたマイと抱くマナが見守る前で、定められたカウントが尽き果てて



 『発射っ!!』



 二つの澄んだ双眸に、同時に吐き出された二条の光の帯が映し出された。

 ヒトの知恵が生み出した光と、ヒトのチカラが生み出した光が互いを消し去ろうと向かっていく光景
は、例えようもなくファンタスティックな共演で、まるでテーマパークのアトラクションを見ているか
のような気分にさせる。

 しかし二人の親娘連れの瞳の焦点はそんなものに興味はないようである。

 やはり彼女たちの御執心は、光の当たらぬ暗い木々の陰から飛び出し宙を駆ける紫色の鬼体であった。



 ズドドドォォォン……



 予定通りに弾道が捩れ、互いに火柱を築くに終ったことを伝えるその音を聞きながら、シンジの意識
は一直線にラミエルのコアに向けられている。

 シンジの役目は本命であり囮でもある。

 強力なATフィールド中和能力を持つエヴァ初号機と、超長距離からの貫通能力を持つ陽電子砲。

 前回と違い、決戦能力を持つ兵器が二つもあるのならどちらでラミエルを討とうが問題ではない。

 陽電子砲は本来の用途通りに固定砲台とし、ユイとリツコでメンテナンスしたMAGIのオペレーシ
ョンでラミエルを狙う。

 第一射が予定通り外れた瞬間、シンクロ率0%で完全に気配を絶っていた初号機が飛び出して、荷粒
子砲発射後の隙を狙う。

 もしラミエルがシンジに執心するなら再チャージした陽電子砲でラミエルを撃てばよし。

 逆に陽電子砲を脅威と見てそちらを狙うなら、初号機による白兵戦で討てばよい。

 機体調整中で満足に動けない零号機は、固定砲台故に無防備な陽電子砲を守る盾となる。パイロット
個人の思惑はどうだか知らないが、決戦能力も機動力もない以上、これが適材適所だろう。

 作戦部長・葛城ミサト発案『第2次ヤシマ作戦』の、これが概要であった。

 勝率はかなり高い。MAGIの計算によれば53%と、これまでの使徒攻略戦からみれば、信じられ
ないほどの数字である。不安要素はラミエルの隠し能力だが――――――



 (今は考える余裕なんて無いッ!)



 心のどこかに汚泥のように澱んでいるそれを拭い去り、シンジは駆ける。

 荷粒子砲と陽電子砲の余波で、沸騰した熱を肌に感じながら膨張した空気を突き破る。

 正面の目標から飛んでくる幾つもの光弾を叩き落し、溶けかけた土を破って飛び出してくるドリル触
手をましらのように跳躍して交わす。追いすがってくるモノは全て右腕の一閃で放つフィールドの刃で
薙ぎ落とした。

 一度見た手の内ならば、余程のことがなければ通じない。そして今のシンジの全身には緊張が満ち満
ちており、微塵の油断もなかった。



 『一気にやっちゃいなさい!』

 『シンちゃん、がんばっ!!』



 アスカとマナの声援をバックに、みるみるうちにラミエルに迫る初号機。

 しかしやはり敵はラミエルで、このまま止めという考えはかなり甘かった。

 『目標外周部に高エネルギー反応!!』

 青葉が叫んだ瞬間、ラミエルの外周部スリットが激しく輝きを発し、



 ジュバアアァァァッ!



 上下左右に乱舞する光の帯が辺り一帯の木々と地面と湖面とを蒸発させた。

 『拡散メガ粒子砲!!?』

 『いや違うわ!最近ではハモニカ砲っていうのよ!!』

 三十路二人のこだわりともかく、空中要塞の二つ名に恥じぬ多彩な高火力ぶりを見せるラミエルに、
さすがのシンジと初号機の足も止まらざるを得ない。威力自体はATフィールドで防げぬでもないが、
高圧ポンプによる放水の如く噴出するその勢いに、前に進めないのだ。

 となれば次善の手段でやるしかない。

 「ミサトさん!!陽電子砲は!!?」

 『あとちょっとよ!もう少し頑張ってシンジ君!』

 濛々たる蒸気の雲海を泳ぎ、その見えない視界の向こうから飛んでくる光弾・光線を凌ぎ続ける。

 火事場の馬鹿力なのかそれとも地力なのかは知らないが、シンジの見せる動きは素晴らしかった。

 ラミエルも今の攻撃で初号機を足止めできないと悟ったか、その手段を変えてくる。

 『これは……初号機の足元にドリル触手の反応無数!!』

 『し、信じられない数です!モニターの黒より赤のほうが多いなんて!!』

 伝説の実況中継役である富樫・虎丸に負けず劣らずのコンビネーションで驚く日向・青葉の声の数瞬
後、激しいうねりと回転を見せながらドリル触手がシンジに襲い掛かる。

 「な……くっ、ウソだろっ!?」

 思わず叫んだそばから、頬をドリルが掠めていく。

 四方八方から迫り来るドリルの群れに翻弄される初号機は、さすがに避けるだけで精一杯だ。時折、
反撃でドリルの森を薙ぎ払ってみても、単なる糠に釘アタックにしかならない。

 こうしてシンジの動きを触手だけで封じることに成功したラミエルはその一方で、

 『も、目標に高エネルギー反応!今度は荷粒子砲です!!』

 やはりというかなんというか、動けぬ標的に的を絞ったようだった。



 「ちっ……器用な真似してくれるわねぇ!こっちの陽電子砲は!?」

 「ダメです!まだあと20秒はかかります!!」

 「何故?最初の時よりもチャージの速度が遅いじゃない」

 「人力発電所の発電施設が消耗してるんですよ。送電が明らかに落ちてます」

 「なによ、脆いわねぇ」

 「整備が万全でなかったもの。予想して然るべきだったわ」

 苛立たしげにつめを噛むミサトと対照的にリツコはまだ冷徹の仮面を脱いでいない。だが、組んだ右
腕の人差し指がリズムよく左腕を叩いているのを見ると、ひびが入っているのだけは確かなようだ。

 その仮面の裏側で、

 (全く使えないんだから……これはユイさんと相談して然るべき処置をとらなければいけないわね)

 などと考えてニヤリしていたのは彼女だけの秘密。もっとも、その仮面を見て戦慄の表情を浮かべて
いる例の二人を見ると、あまり秘密にはなっていなかったようだが。

 「そんなことはいいとして、マヤ、相フィールドの準備はどうなってるの?」

 「大丈夫です!装置から若干の液漏れが確認できますが、いつでもいけます!」

 いったいどんな液を漏らしているのかは全くの謎だが、それは特に大勢に影響しない。

 ただ、装置の今後にちょっとしたトラウマを残すかもしれないが。



 『ラミエルの荷粒子砲、来ます!!』

 モニターの中、触手の森に覆われたラミエルの中心部分が一瞬の光芒を放ち、二度それがきた。

 「ッ!!」

 構えた盾に荷粒子砲の直撃が叩きつけられる。

 『綾波ッ!』

 『レイ!頼むわ!!』

 質の違う、二通りの声が耳に届く。

 その次の瞬間、凄まじい衝撃がインダクションレバーを通して全身に伝わり駆け抜ける。

 視界はまぶたを細めてなお、焼きつくような白一色に埋め尽くされて初号機の姿すら見えない。

 一帯を削り取る衝撃音と莫大なエネルギーが生み出すプラズマのノイズは、盾の中心から上がる絹を
裂くような悲痛な音を掻き消すほどだった。

 ラミエルの荷粒子砲はさすがにそれほどの攻撃だったが、人類最高の英知が生み出した至高の傑作た
フィールドは更にさすがだった。



 「おおおおぉぉぉ~~~!?ユッ、ユゥリカァァァァァァ!!?」



 …………ただし一部の犠牲はかなり大きいが。

 そんな、フィールド発生装置の心の磨耗はともかくとして、これならば陽電子砲のチャージが完了す
るまで十分に耐えられると、レイも確信していた。これならば誰も傷つかずに戦いに勝てると思った。

 シンジも、自分も傷つかずに済むと、そう思った。



 『綾波ぃッ!!下だっ!!』



 シンジはそう叫ぶと同時にまとわりつくものを振り切って駆け出していた。

 「!? 碇く……あっ!?」

 それは一際長く身を伸ばした触手が零号機の盾を死角から弾き飛ばすのとほぼ同時で――――

 レイが自分よりも危うい彼のことを思った時にはもうすでに遅かった。



 「い、碇君っ!!!」



 初号機はラミエルと零号機とを結ぶ直線上に身を割り込ませて、その身を晒していた。

 「碇君、ダメ!なぜ!?」

 ここからでは背中だけのシンジの姿が遠くに見えて、恐怖が一瞬で爆発した。

 「ダメぇっ!!」

 叫びが届くかなど考える間もなく、レイは叫んでいた。

 白い光が紅い壁に遮られて二股に裂けている様子が見える。あの荷粒子砲を受け止めて耐えているシ
ンジのATフィールドの強力さに驚くべきところなのだろうが、今のレイにそんな余裕はない。

 『レイ!早く!ライフルを使いなさい!!』

 そんなことは今更ミサトに言われるまでもなくわかっている。

 だからこそこうして走っている。

 「あ……あ、あ、ああ、あああぁぁ……」

 焦りと恐怖で呂律の回らない舌を動かしながら、うめき声を漏らして陽電子砲に取り付き、震える手
を慌しく操りインダクションレバーを握りこむ。



 『チャージ完了まであと8秒!』

 『8秒!いけないわ!!』



 リツコの焦る声など聞くまでもなく、レイにはわかってしまっていた。

 シンジのフィールドがそんなにもたないということを。

 初号機のATフィールドが一瞬毎に薄皮を剥ぐようにして剥かれ、勢いよく裸に近づけられているの
を感じてしまっていた。



 『あ、あんたたち!もっと!もっと早くしなさい!早く、早く…早く…早くゥ!!!』

 『ゲンドウさん!シンジが……シンジがっ!!』

 『わかっている……!』



 アスカとユイとゲンドウの焦る声が聞こえる。

 だがどんなに急いだところで、チャージが間に合うとは到底思えなかった。

 自分の目に映る愚図なターゲットカーソルは、いつまでたっても重ならない。

 どんなに責めても機械はプログラム通りにしか働かず、どんなに願っても奇跡など起こしてくれない。

 それがわかっていても、想わずにはいられない。



 『だ、だめだ……初号機のフィールドが保たない!』



 そんな、ある意味での死刑宣告が降りたのは、カーソルがようやく中央に寄ってきた頃だった。



 「碇君っ!!」



 叫ぶレイの前で紅の壁が崩れ落ち、初号機が、シンジが雷に撃たれる。

 その瞬間を、レイは、アスカは、マナはどれだけ長く感じたことか。

 ほんの一秒にも満たない恐怖の光景がまぶたの裏に色濃く焼きつき、声にならなかった悲鳴がまだ
喉の奥で燻っている。

 ほんの一瞬の出来事に、その光景を見ていた者たちは皆、呆けたように目を丸くしていた。





 辺りは一面の闇

 湖面は穏やかに揺れている――――――





 その一瞬が終わり、今は静寂が辺りに戻ってきている。

 初号機はその静寂の中、わずかに焦げ臭い臭いをあげて膝をついていた。

 ただ、それだけだった。

 あれほど激しかった雷の光は、残滓すら残っていない。直撃の一瞬後、コンセントでも抜いたかの
ように掻き消えた。

 理由はわからず、おそらくは驚くべきところなのだろうが……

 とりあえず、とっとと決着をつけるのが先だった。



 『ゼロ!!』



 カウントダウンが落ちると同時にレイの指が引き金を落とし、陽電子砲の口から二度目の光が迸る。

 光は蹲る初号機の脇を駆け抜けて、一気にラミエルの中心を貫いた。



 『目標、完全に沈黙しました……』



 なんだか気の抜けたような日向の声で、第二次ヤシマ作戦はその幕を閉じた。









 「……碇君」

 「やあ、綾波……」

 LCLを排除した生暖かいプラグの中で、シンジは少しばつの悪そうな笑みでレイを出迎える。

 「碇君のばか」

 そんな彼に対するレイの開口一声はこれだった。

 「碇君のばか」

 「うーん……まあ、そう言われても否定できないけど……アスカにもしょっちゅう言われるし」

 そう言ってアスカのおかんむりな時の顔を思い出し、

 (このあとたぶん、アスカにバカシンジって言われるんだろうなぁ)

 とか思った。そしてまだ見ぬマナの怒り顔に、少しの不安を感じてもみた。

 とはいえ、もちろんシンジがこれで懲りたわけもなく、

 「でも、次に同じようなことがあったら、僕は多分また同じことする」

 「………………」

 「ばかって言われても怒られても、そうせずにはいられないから」

 「…………ばか」

 苦笑しながらそう言ったシンジの顔を睨みつけているレイは、いつのまにか泣いていた。

 「泣かないでよ綾波…………困ったな」

 「碇君が悪いもの」

 口をへの字に曲げ、柳眉を逆立ててぽろぽろと零れるしずくには、悲しいんだか嬉しいんだかよく
わからない感情が込められている。

 そしてシンジから見て月の光を背負って年相応の表情で泣く彼女の姿は、きらきらしてて神々しく
見えたし、さりとてなんだか可愛いしでなんと言っていいのかよくわからなかった。

 ――――どちらにしろ、シンジが彼女に見惚れていたのだけは間違いないことだった。



 レイの立つ後ろから夜気が流れ込み、暖かだったエントリープラグもだんだん涼しくなってくる。

 濡れた身体にわずかに寒気が走る。シンジに気づかれないようにそれをどうにか抑え、横たわる彼
のそばにしゃがんでその肩をかけた。

 「ありがとう」

 重くならない程度にレイに頼り、シンジも立ち上がる。

 「…………」

 触れ合った肩と身体からぬくもりが伝わって、残っていた寒気はあっという間に消えてしまった。

 本当のことを言えば、肩を貸してもらわなくても一人で歩けたのだが、いくらシンジでもここで遠
慮するほど鈍くもないし無欲でもなく、大人しくこの心地よさを共有していた。



 エントリープラグの外では初号機と零号機が寄り添うようにして蹲っている。

 その周囲の地面は陥没するように大きく抉れており、その衝撃の余波の大きさを物語っていた。

 まだ少し熱い地面に二人して立ち、遠くを見れば、いつかのように崩れ落ちて大きすぎる粗大ゴミ
と化したラミエルの死骸が転がっていた。

 身体の中央に風穴を開け、夜の闇に沈み色を無くした、変わり果てた虚しい姿。

 シンジもレイもその光景をこうして見るのは、わかっていても少しだけ複雑な気分だった。

 「死んだら……ああなるのね」

 「……うん。そうだね。ああなるのはやっぱり―――――いやだな」

 「あのヒトもそう思ってたのかな」

 「そうかもしれない…………でも、僕にはわからない」

 僕にはあのヒトの心はわからないから、と、シンジは小さく後に続けた。

 「………………」

 「………………」

 まるで一人の死を悼むように、シンジもレイも沈黙を以ってしばしラミエルを見つめ続けた。

 「……碇君」

 「なに?」

 やがてレイがシンジの胸に小さな頭を寄せて、彼の名をぽつりと呼んだ。

 「わたしは……碇君にああなってほしくない」

 「…………」

 「アスカもマナもマイも、みんな絶対に同じ。だから――――」

 そう言ってシンジの目を見つめ、彼の瞳に痛いほど真剣な目とまっすぐな想いを映し出す。



 「だからもうあんな無茶はしないで」



 「……………………」

 シンジには少しだけその言葉と想いが痛かった。

 何故なら、この言葉に約束したら、きっと近い将来約束を破ってしまうとわかっていたから。

 今日と同じようなことが起きて、レイやアスカやマナやマイ……自分の親しい人たちが危ない目に
遭って、無茶をしなくちゃいけない状況で、それをするなというほうが無茶な話だから。

 「碇君…………」

 「…………」

 答える代わりに、シンジにはレイを抱きしめた。

 「怪我くらいは……すると思う。でも絶対に死んだりしないから」

 「………………」

 「絶対に君たちの前からいなくなったりしないから……それだけは絶対に護るから」

 レイの気持ちになど全く応えていない、あまりに一方的ないいわけだった。

 しかしそれを語る意思には絶対のものがあった。

 絶対に彼女らの前から消えたりしないという意志と、彼女らを自分の前から消さないという想い。

 シンジの性格上、何をしても、何を犠牲にしても……ということは実際に出来ないだろうが、少な
くとも『LCLの海を啜ってでも』生きる、という意思はあった。

 あの頃、どれだけ飢えて渇いても、それだけは犯さなかったシンジの覚悟の現れだった。

 「碇君は……ずるい」

 そう言って罵るレイが、一つだけほんの小さくため息をつく。

 さすがのレイもシンジの心の声まで聞くことはできない、が、心の内までは察することができる。
ここまで固い意志を感じてしまえば、もう、反論の声などあげられないのは当たり前だった。

 『ずるい』という言葉は、彼女の拗ねた気持ちの現れだった。

 「ごめん」

 対するシンジには謝るしかなくて、苦笑しながらも本当にすまないという気持ちがいっぱいだった。

 レイはそんなシンジをしばし見つめていたが、やがて小さく首を横に振り、

 『いいの』

 と、彼を優しく許した。

 その証拠に、レイの顔にはほんとうに優しげな微笑が浮かんでいた。

 月明かりに照らし出されたその笑顔は、あの頃よりもずっと柔らかくて穏やかな笑顔があった。

 あの頃よりもずっと心が豊かになって、気持ちが膨らんでいるからこその笑顔だった。

 「………………」

 それを見たシンジもようやく安心したか、わずかにあった緊張を身体から抜き、穏やかな顔になり、

 「ありがとう、綾波」

 見上げる彼女と同じ笑顔で見つめあい、ゆっくりとお互いに近づいていった。







 「やれやれ……どうにか無傷ですんだわね」

 指揮車の椅子に深く腰掛けて、ミサトが安堵のため息を大きくつく。

 「なに言ってるのよ、ぜんぜん無傷じゃないわ」

 「わかってるわよリツコ、初号機のダメージってんでしょ?まあ、あれだけの攻撃にほんの一瞬だ
けとはいえ晒されたんだもの。しばらくは使い物にならないんじゃない?」

 「そうね……シンジ君が使うなら全く、って程でもないでしょうけど、戦力の低下は否めないわ。
技術部としては念を押してしばらく戦線から外すことを提案するわ」

 「ま、当然よね。最強の戦力の戦線離脱は痛いけど……」

 ミサトは苦笑しながら両手を広げて肩を竦める。

 「ムリして出撃でもさせたらあの娘たちに何されるかわかったもんじゃないもの」

 (なにしろこの話だからね。無理を通して道理を引っ込める展開にされたらシャレになんないわよ)

 とは、心の中だけでつぶやいた言葉だ。

 「……それにしても」

 「? なによリツコ」

 急に何事か考え込んでいる声色に振り返ると、予想通りにリツコが顎に手を当てている。ここのと
ころにしては珍しく、普通に優秀な科学者の顔をしていた。

 「どしたのよ。なんか気になることでもあったわけ?」

 「……ミサト、あなたはおかしいと思わない?」

 「なにがよ」

 首をひねるミサトの表情はきょとんとしていて、むしろリツコのことをおかしいと思ってるようだ。

 それを見たリツコとしては、とことん視野の狭いミサトに呆れるしかない。

 「……何であの時、ラミエルの荷粒子砲がいきなり消滅したのかよ」

 「ああ、そのことね」

 のんきそうなミサトの声に思わずこめかみに指をやるリツコ。ぐにぐにと揉み解しながら、痛くな
ろうとする頭を必死に宥めてやる。

 「あの時の初号機には荷粒子砲を防ぎきる力はなくて、零号機はその遥か後方でライフルを構えて
いた。あの時、ラミエルの荷粒子砲を消し去ることができる因子は一つもなかったはずなのよ。それ
こそ神様かなんかが奇跡でも起こさなければ―――――」

 「いいじゃない、神様だって何だって」

 「……?」

 椅子の向きを後ろに変えて背もたれに顎を乗せながら、ミサトは本当にどうとも思ってなさそうな、
いつもと変わらない表情でリツコを見ていた。

 「だってシンジ君を助けてくれたんじゃない。感謝こそすれ、疑うなんて恩知らずってもんよ。な
んだっていいじゃないの。今度出てきたら素直に『あの時はありがとう』って言えばいいだけよん」

 にんまり、と笑いながら言うミサトにリツコはしばし目を丸くしていたが、

 「…………時々羨ましくなるわ、あんたのその楽天主義」

 「にひ、リツコが苦労性なだけでしょ。あんま悩みすぎてっと老けるわよん……」

 「……あら……言ってくれるじゃないミサト…………」

 ミサトに言われてようやく力の抜けた笑みを浮かべることができたリツコだったが、その次の余計
な一言のおかげでその笑みにひびが走る。

 そりゃもう、念入りに施された化粧が崩れるんじゃないかって程の壮絶な笑みが。





 背後に踊る三十路まじかの影二つと響き渡る奇声をどこか遠くに感じながら、マナは自分の腕の中
で静かに寝息を立てているマイをじぃっと見つめていた。

 「よく寝てるねぇ……さすがにちょっと疲れちゃったのかな?」

 小さな親指をおしゃぶりがわりに吸いながらすぅすぅと眠る寝顔はうっとりするほどあどけない。

 まだ生まれたばかりで、ちょっと変わった生い立ちを除けばどこにでもいる愛らしく、親にとって
は何よりも愛しい女の子のあかんぼう。

 「きっとシンちゃんが危ないって、わかったんだよね」

 その変わった生い立ち故に持って生まれた強大な力で、先ほどのシンジの窮地をこの娘が救ったの
だとマナは気づいていた。



 初号機に荷粒子砲が直撃した瞬間、それまで一つも声を上げず、ただモニターの向こうを見ていた
マイの紅の瞳がほんの一瞬、シンジが時折見せるそれよりもずっと濃い血の色に染まった。

 白目すら染め上げ、黒い点をぽつんと残した以外は完璧な紅だった。

 そして荷粒子が初号機の前から掻き消えて、ラミエルが陽電子に貫かれたのを見届けた後、マナが
もう一度マイを見ると、既に彼女はまぶたを閉じて寝息を立てていた。



 正直言ってマナもほんの少しだけ驚いたのだが―――――

 それよりなによりシンジが無事で、マイが彼を助けたのが嬉しかった。

 マイがどんな力を持っていて何ができるかなどというのはあまり興味ない。ただでさえ奇跡ずくで
生まれてきた娘なんだから、奇跡の一つや二つ起こせても不思議ではないと思っている。

 だけど肝心なのは、マイが神様なんてつまらないものじゃなくて、自分たちの娘だということ。

 この娘が奇跡を起こすのは、他ならぬ自分たちのためだけなのだと思うと、少しだけ誇らしかった。

 「ほんとに……ごくろーさま。だから今はいっぱい、おやすみなさい…………」

 優しさにあふれた声でささやき、慈愛に満ちた目で娘を見つめて、ゆっくりと頭をなでてやる。

 すると眠っているマイの顔は安心したように柔らかくほころんだのだった。









 さて、こちらは地の底人力発電所。

 詳しい描写は避けるが、とりあえず死屍累々となったそこにメガホンを装備したアスカの声が響く。



 『督戦隊のしょくーん!!』

 「「「「おおおおぉぉぉう」」」」

 『力尽きた英雄たちは皆、酸素不足に陥り呼吸困難になっている~~~っ!そこで、諸君らの持
つ、異様に熱くてとても新鮮な酸素を彼らに供給してほしい!』

 「「「「おおおおおお~~~~っっっ!!!」」」」

 『尚、この任務には増援はないっ!諸君らのみで見事任務を達成してほしい!いじょうっ!!』



 アスカがメガホンを下ろしユイと退場すると同時に、何故か部屋全体がピンクの照明に包まれ、
意味は全くないのだろうがエマニエル夫人がBGMとなって流れ出す。

 その部屋のど真ん中には相変わらず拘束具で拘束されたまま、呼吸困難で満足に悲鳴も上げられな
い漢たちが6人ばかり、汗とも涙ともつかないものを垂れ流している。

 後に残されたのは任務達成の使命感に満ちた漢たちと、見事に任務を達成し傷つき疲れた漢たち。

 疲れた漢たちを癒そうと、その目をぎらつかせて迫るケ(ダ)モノたちを前に6人がどうなったか。



 ――――――それはまあ、言わなくてもいいことなのかもしれない。










 作者の戯言


 ようやく完成しました第8話です。

 いつものように遅いなぁ、と自分を責めつつ恥ずかしげもなくお送りしました(汗)


 今回はいつもよりちょっと長めになったんですが、比べてギャグの量はいつもより少なめです。

 元々が綾波さんメインで自分も好きな話でしたので、どうしても話の展開も綾波さんメインのらぶ
らぶちっく(笑)な話になってしまいました。

 とはいえ、さすがに原作まんまにするわけにはいかないので、いろいろとない頭を絞ってちょっと
違った展開に仕立ててみましたよ?ラミエル戦とか。

 楽しんでいただければ幸いでございます。


 で、次回の予定は『Take...』の次か、現実逃避作第2弾。

 現実逃避作のほうは、実はもうできあがってたりするので今すぐにでも公開できるのですが……い
ろいろ思うところがありまして、もう少し暖めとこうかどうしょうかと悩んでます。

 とりあえず次こそはもうちょい早めに投稿できるよう頑張るので、お見捨てなきようお願いします。



ぽけっとさんへの感想はこちら


Anneのコメント。

>「「ドリルですって!!?」」
>「ええ、そうよ。当時のラミエルはそれでジオフロントに侵入を図ったわ」
>何故かピンクの、しかもでかいフォントで迫るマッド師弟をさらりと無視してレイが答える。

やはり、ドリルは科学者・・・。
いや、マッドが反応してしまう甘美な響きなんですね(笑)

>「できれば、使わずにすめば一番いいんだけれどね…………」
>「ホントにそうですね」

・・・ヤ、ヤな予感(^^;)

>『しょっ、触手~~~っっっ!!?』

あうう・・・。ぽけっとさん、遂に触手に手を染めてしまいましたか(笑)
はい、もう後戻りは出来ませんよ?(爆)

>「君の知っている相田ケンスケは死にそうだ!だ、誰か助けてくれぇ!!」
>(中略)
>「あ、相フィールドですか……」

ヤな予感的中っ!!(^^;)
でも、相フィールドは一定ダメージ量を軽減するだけであって完全防御じゃないですよ?(笑)
つまり、発生源のケンスケは当然END(爆)

>「決まってるじゃない。もちろん人力よ」

・・・ヤ、ヤな予感パート2(^^;)

>『諸君らはこれより、鎮護国家のため、なによりもあたしのシンジのための栄誉ある任務につくことに
> なる!たとえ道半ばにしてその骸を晒すことになろうとも、粉骨砕身の覚悟で当たられたい!!』

天帝様の為に漕げっ!!漕いで漕いでっ!!!漕ぎまくれっ!!!!
・・・ですか?(笑)



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