時刻も昼にさしかかろうかという頃、リツコは一人、天井の集光器からもたらされた陽光に照らされ
る病院の廊下を歩いていた。
目指す場所はこの先にあるVIP用の病棟…………
特務機関ネルフ副司令、冬月コウゾウの病室である。
学校にて行方不明だったゲンドウを捕獲、連れ帰ったのは良いものの、何故か彼はデクと化してお
り、生ける屍となっていた。
とりあえず青葉シゲル二尉を補佐につけて第二東京の政治家との会議には放り込んでおいた。
いつものようにゲンドウポーズを取っていれば後は向こうが勝手に愚痴を並べ立てるだけなので、そ
れについては特に問題は無い。
が、総司令、または副司令クラスの人間でなければ決済できない問題というのは依然として残ってお
り、彼らの才覚を以ってしなければ判断できないものもあるのだ。
アレはアレでもゲンドウはただのアレではない。伊達や酔狂でネルフ総司令の地位にいるわけでもな
かったのだ。
冬月復活の報が入ったのはそんな時であった。まさにリツコにとっては慈雨のごとき知らせである。
さっそく必要最低限の書類を手に、彼のもとに向かっているというわけなのだ。
そこに更なる悲劇が待っているとも知らずに…………
コンコン
「副司令、赤木です」
「おおリツコ君か……入りたまえ」
穏かな声音でありながら早いレスポンスに内心で満足しながらもリツコは扉を開いた。
「失礼しますわ、副司令」
清潔な白いシーツがまず目に入り、視線をわずかに動かすと上半身を起こしてベッドに横たわってい
る冬月の姿が目に入る。
「……?」
その瞬間、リツコは彼の姿にどこか違和感を感じた。はっきりなにが、と言えないほど小さなもので
あったのだが…………
(まあ、こうして会うのは久しぶりなのだしね…………)
とりあえずそう理由をつけて今はその違和感を忘れることにした。
「お体の加減はいかがですか?」
「ああ、心配かけたね。おかげさまですこぶる調子が良いよ。
それよりもしばらく眠っていたせいか、今日の天気は少しまぶしいかな……」
開いた窓から吹き込む緩やかな風がカーテンを波打たせる。外から差し込む光が逆光になってその表
情を窺い知ることは出来ないが、久しぶりに目にする外の光景と陽の光に目を細めながらも、微笑んで
いるのだろうということはその雰囲気から知ることが出来た。
(今までが激務の連続だったもの……これは意外といい休養だったかもしれないわね)
その様子にわずかに微笑むリツコ。
しかしそう考えれば考えるほど、手の中の書類の存在が重たく感じられてくる。大体からして、病み
上がりの人間にいきなり仕事を押し付けるというのもひどい話だから。
だがそこはさすがに人生経験豊富な冬月。そんなリツコの心の動きも、彼女がここに来た用件も当に
お見通しであった。
「遠慮する必要はないぞ赤木君。私に用があるから来たのだろう?」
「えっ?あ、はい……しかし」
「はっはっは……気にしなくていい。雑務はわたしの仕事だよ。
…………たまには碇にも手伝ってもらいたいものだがね」
「ふふ……そうですね」
言って二人顔を見合わせて笑う。
さすがは冬月で、これだけでもうリツコの中の迷いはすっきりと取り払われていた。
可笑しそうに笑みを浮かべ、書類を手に冬月に近づくリツコ。だが何故だろうか?一歩進むごとに彼
女の中にあった違和感が徐々に大きくなっていく。
そして太陽の光に覆われた冬月の顔が全て現れた時…………
「ふ、副司令…………!?」
リツコはついにそれを目にしてしまった。
「それでは失礼致します…………」
ぱたん……
「…………ふ―――」
扉が閉じられ、リツコは小さくため息をついた。
「司令は家族を手に入れ、私は安息を得た…………でも副司令が手にしたのは……………………
代償だとでも言うのかしらね。だとしたらなんて皮肉――――――いえ、いつかはこうなるとわかっ
ていたこと…………だけど―――――」
病院の中であるのにも関わらず、白衣のポケットからタバコを一本取り出して火をつける。
吐き出した紫煙がいつものようにゆっくりと流れていくが、リツコの心が落ち着くことは無かった。
「あらリツコ。先に来てたの?」
「ミサト……」
かけられた声に振り返ると、そこにはミサトがいた。
「どうしたの?」
「どうしたのって……副司令のお見舞いよ。リツコだってそうだったんでしょ?」
「―――――まあね」
「?なによ、辛気臭いわねぇ」
妙に元気のない彼女の様子にミサトは少し首を傾げた。
「まあそんなことより様子、どうだったの?」
「…………お元気だったわよ」
「へぇ~~~、そりゃよかった」
「…………頭以外はね」
「えっ?頭以外……って、まさか!?精神汚染!?」
不穏当なリツコの発言に、ミサトは最悪のケースを予想して声を荒げた。
しかし対するリツコの方は冷ややかな声で答える。
「違うわよ……とにかく会ってらっしゃい。そうしたらわかるから」
「な、なによ……それじゃとりあえず行ってくるわね」
「ええ…………」
かちゃ……ぱたん
「……………………」
病室の扉に背中を預け、しばしタバコを吹かしながら中でのやり取りを伺う。
と、やがて…………
がたたんっ!
あからさまにどちらか一方が驚いた様子が、扉越しでも手に取るようにわかった。
それを確認したリツコは、持っていた携帯の灰皿でタバコの火をもみ消すとゆっくりとした足取りそ
の場を離れた。
(そりゃあ…………驚くわよね。私だって予想できなかったもの。
まさか副司令の頭がヅレていたなんてね………………)
心の中で一度そうつぶやくと、リツコはその事実を大切に大切に、心の棚にそっとしまったのだった。
新世紀エヴァンゲリオン リターン
パパは14歳
第四話 『ある少年の愛と年の差の関係』
『碇君があのロボットのパイロットだっていうのは本当? Y/N』
(来た…………前回と同じだ)
授業中に送られてきた、誰からとも知れぬメール。後ろを振り返れば、見覚えのある女性徒が手を振
っていた。
『ホントなんでしょ?』
(はあ…………ま、しょうがないか。YES、と)
内心でため息をつきながらも、『答え』を書いて返信するシンジ。そして次に予想されうる反応に身
構えたが、
『やっぱりね。まあ、それはどうでもいいの』
(…………あれ?)
展開が以前と違う。
そう認識した瞬間、シンジは例によって例の如く、脳髄を揺さぶるようなイヤな予感に貫かれた。そ
してその予感はこの時間軸に戻ってきてから今だ一度として外したことが無い。
ここまできたらもう、本能と言ってしまってもいいかもしれない。
そして今回も当然―――――
『そんなことよりも碇君が元ホストだって噂は本当? Y/N』
『碇君があの3人の痴話喧嘩に耐えかねて夜逃げしたって本当? Y/N』
『碇君がさっきの金髪の人に改造されてモテモテになったって本当? Y/N』
『碇君が馬並みの馬力を持っているって本当? Y/N』
見事に的中。根も葉も無い噂話が来ること来ること…………
シンジはしおしおと全身から抜けていく力を振りしぼりつつも、それらのメールに一括してNOの返
事を送り返した。
(まったく……一体誰がこんな噂を流したんだよ……)
登校してからというもの、いろんなことがありすぎてだんだん心が荒んでいくのを感じているシンジ。
まあ、無理もないだろう。なんせいきなり父親が身内の恥を晒してくれたのだから。
そんなシンジにとって、救いとも言えるのは彼の愛娘・マイの存在だ。
彼女の愛らしい姿、仕草を見ているだけで心が潤い、荒んだ心も干天が水を得たように瑞々しさを取
り戻していく。
そんなシンジだから今も自然と娘の姿を目で追っていた。
で、その肝心のマイがどこでどうしているかというと――――――
「あー、あー……うぅ~」
「ふふふっ……あんた、そんなにあたしの髪の毛が気に入っちゃったわけ?」
シンジの前の席に座るアスカの膝の上で、彼女の長い紅茶色の髪を両手で掴み弄んでいた。
ふさふさしたそれを手の中でくちゃくちゃにして遊んだり、時にはなんと咥えてよだれ塗れにしてし
まったりしていたが、アスカはただ微笑んでそれを見ているだけだった。
なんだかんだ言って彼女もしっかり母性本能を刺激され、母親をやっているのだ。
まあ、それは羨ましげにその様子を見つめているシンジの隣りのレイ、そして後のマナにも言えるこ
となのだが。
アスカはそうしてしばし、マイの髪を梳いたり、マシュマロのようなほっぺたを突っついたりして楽
しんでいたが、やがてその手を止めてマイをしっかり胸に抱きなおしてシンジに半身振り向いた。
「ねえシンジ?」
「ん?なに?」
「こうやっててさ……あたし……マイのママに見えるかな?」
微笑みながらもどこか不安げな表情で聞いてくる。
「え……?僕には十分、そう見えるけど…………」
「そっか…………」
シンジが答えると、アスカはもう一度胸の中のマイに視線を落として、その頬を指先でくすぐった。
「ふやぁ……」
「ふふっ…………そっかぁ、あたしがママかぁ…………」
くすぐったそうに顔をよじり、小さな手でアスカの指の動きを止めようとするその仕草が、なんとも
愛らしくてアスカも、そしてシンジも思わず頬と目元を緩ませる。
が、アスカが何故いきなりそんなことを聞いてきたのかシンジは少し気になった。
「アスカ、どうしたの?いきなり変なこと聞いて?」
「へんかな?」
「だってマイがそう認めてるんだから、今さら疑いの余地はないじゃないか。マイが自分のお母さん
以外の人を『まぁ』って呼ぶわけないもの」
「それはわかってるけどね。ま、ちょっとなんとなく…………」
そうつぶやいて視線を窓の外に向ける。
(アスカ…………)
どこか遠くを見つめているようなその瞳の輝きの中に、シンジはなんとなく彼女の心の内を見つけた
ような気がした。
軽々しく触れてもいけないが、決して忘却の彼方に置いてきてもいけない彼女の過去の出来事。
そこには常に『母親』というモノの存在があった…………
「ところでシンジ?」
「え?ああ、なんだい?」
大切な少女の呼ぶ声に、シンジは思考の淵から身を上げた。
「この娘があたしのことをママとして認めてくれているのいいけど…………
あんたはあたしのことをマイのママとして…………あんたの奥さんとして認めてくれてるの?」
「ええっ!?な、なんだよいきなり!!」
「答えて」
「……アスカ」
彼女の蒼い瞳は真剣そのもので、そしてその中に若干の不安がある。
昔から人の顔色を窺って生きてきたシンジは、自然と人間観察が上手な人間として成長した。
『前回』ではそれはシンジの心の有様から概ねマイナス方向に働くことが多かったが、今では違う。
見て取った相手の心の動きを受け止め、理解してやる余裕と器を手にしていた。
「認めてるよ。アスカも、それから綾波もマナも僕の大切な人だ。
…………こんなこというのはものすごく不誠実かもしれないけど…………僕は3人とも同じように、
大切だと思ってる。その……えっと、なんていうか……………………」
顔を赤くしてしどろもどろにその先を言おうとするシンジに、アスカは可笑しげに頬を緩ませる。
「わかったわよ。あんたの気持ちはよくわかったから。そんな情けない顔しないでよ、パパ」
「アスカァ……」
「アハッ♪」
心から嬉しそうに笑ったアスカは胸の中のマイを自分の顔の前まで持ってきて、そのほっぺたにちゅっ
とキスをした。
「愛してるわよマイ。あたしとシンジの娘だもの、本当に愛してる…………だけど世界で2番目ね」
「えう……まぁー」
「なーによその顔。不満でもあるのかしら?
…………大丈夫よ。1番目の人は、あんたの大好きな人だから」
そう言ってもう一度マイのほっぺたにキスをする。
そんな彼女の様子を見て、シンジは思った。
「アスカ、変わったね。なんていうか…………素直になった」
「まあね。自分でもそう思うわ。ま、マイみたいなあかちゃんに意地張ったってしょうがないし、昔
のまんまじゃあいつらに勝てないってわかってるもの」
あいつらが誰を指していて、一体何の勝ち負けのことを言っているのか…………それはもはや言うま
でも無いだろう。
あえて言うなら『女の戦い』というやつである。
アスカはシンジの顔に指を突きつけ、
「だからねシンジ。あたしこの『1番』だけは譲る気になれないのよ。このことに関しては手加減す
る気も無いし、負ける気も全く無いわ!
そういうことだから、あんたもしっかり覚悟してあたしの勝利を待ってなさいよ!!」
昔から見慣れた、しかしずっと気持ちのよい勝気な笑顔がアスカを飾った。
再会初日からやる気まんまんのアスカ。
そうなった時の彼女の勢いと手加減の無さを知っているだけに、
「お、お手柔らかにね…………」
シンジは苦笑しつつそう言うしかなかったのだった。
ところで――――――
こーんなあからさまにピンク色でラブラブなオーラを発散しているアスカの様子に、何故残った二人
がなにも口出しをしてこないのか。
それにはちゃんとわけがある。
今朝方に再会してからというもの繰り広げられた数々の争い。このままではそれが授業中にまで持ち
込まれることであろうことは想像に難くなかった。
よって、シンジ立会いの元、彼女たち三人で誰がどの時間にシンジとマイを独占するか、暫定的に協
定を結んだのである。そしてその時間内は、どれだけラブでコメな展開になろうと口出し手出し足出し
するべからず、と定めたのであった。但し、休み時間はその限りで無いらしい。
とにかく、今の時間はアスカの時間であるからして――――――
「ううう~~~ううう~~~、碇君~~~~~」
「むうううううっ!…………あっ!そ、そんなことまでっ!!」
とまあ、彼女たちにはハンカチを噛み締めてもらうしかないのである。
そんな半シリアスなラブラブシーンも終わって時は休み時間――――――
「き~~~ん!だっだっだっだ!どわーーーーーっ!」
と、虚しい一人遊び――――それこそ自分を慰めるという意味においては、まさに正しく自慰行為に
耽っているのはもはや言うまでもないと思うが、一応初登場の相田ケンスケ少年。
この行為をはじめた当初は、それこそ教室中の誰もが好奇の視線を彼に送りつづけていたものだが、
それが毎日続けば日常にもなる。今や相田空軍第壱中学基地に注目を送るものなど一人もいなかった。
「――――ぃぃぃぃん…………どっがあああああん!!!
しょ、少尉殿ぉぉぉぉぉ~~~~~!!!!!」
そして相田空軍の隊長機が特攻で敵艦を沈めたところで、とりあえず今回の作戦は終了したようだ。
「相変わらずやな、ケンスケ」
そんな彼のもとに歩み寄り、親しげに声をかける少年がいた。
「ん?トウジか。久しぶりじゃないか」
トウジと呼ばれたその少年―――――今更説明のようもないかと思うが、全身を黒いジャージで包み
何故か関西弁を操る彼は、そのフルネームを鈴原トウジといった。
ケンスケの親友である彼は、類友の言葉に違わず、ちょっぴりアレな少年だった。
「どうしたんだよ。ここんとこずっと学校に来なかったじゃないか」
「病院に行っとったんや…………妹のやつがこの間の戦闘でな…………」
「この間のって……あのロボットとバケモノの戦いのか?」
「ああ、そうや……!ほんま、とんでもないやっちゃで!あのロボットのパイロットいうやつは!」
「そうか……」
表情をあからさまに苦々しげに歪めて吐き捨てる。
ケンスケは長い付き合いから、トウジが本来は明るい性格の少年だということを知っている。その彼
がこうまで人をなじるとは…………余程のことが彼の妹の身に起きたのだろうと推測した。
だから…………この後に彼がどういう行動にでるかわかっていて、あえて教えることにした。
「なあトウジ。今日、ウチのクラスに転校生がきたのは知ってるだろ?」
「ああ」
「あのロボットのパイロット…………そいつなんだとさ。ホラ、あいつ」
ケンスケが指した方にトウジが首を向ける、と。
「ねーねー、碇君。こんどはあたしにマイちゃん抱かせてよ!」
「あ、うん。いいけど」
「ひゃーうー、ふああ~~~」
「きゃーーーっ、かわいい~~~!それじゃ次あたし!」
「その次はあたしあたし!!」
「あ、あの……碇、良かったら俺にも抱かせてくれないかな?」
「男子は後よ後!!」
「マイはおもちゃではないわ…………」
「そうよっ!それにどうしてみんなシンちゃんの周りに集まってくるのっ!?」
「まあまあ、二人とも……落ち着いて」
とまあ、碇家五人を中心にして男女を問わず人垣が出来ていた。
そのうちの女性陣と若干の男子はマイを目的に、そして大部分の男子と若干の女子がレイたち3人、
そしてシンジ目当てに集まっており、ぶっちゃけて言えばその輪に加わっていないのはトウジとケンス
ケ、そして妄走の果てに脳内の演算装置がオーバーフローを起こし、システムダウンのために保
健室へ直行となったヒカリだけだった。
「な、なんなんやあれは…………」
「あの中心にいるやつが今日来た転校生の碇シンジ。んで、その周りで女子が回しているのが碇マイ。
なんとあいつの実の娘なんだとさ…………」
「む、娘ぇぇぇぇ~~~!?ど、どういうことやケンスケ!?」
「どうもこうもあるかよ。しかもあれ見ろよ…………」
ケンスケが目線で指した先では、シンジにしなだれかかってウットリした表情を浮かべているレイ。
それに向かって怒りの表情で何事かをまくしたてているアスカ。そして、二人の様子を気にしつつも、
マイを受け取り抱き上げて、ほっぺたを引っ張られているマナの姿があった。
「ど、どういうこっちゃ…………」
見慣れないが極上の美少女二人、そして見慣れているが見慣れない表情をしている少女のその姿に唖
然とした顔をするトウジ。
「あ、あれがホンマにあの綾波かいな……?それにあの二人は誰や?
あんな連中、うちの学校にはおらんかったで?」
言葉に疑問符ばかりをつけるトウジ。無理もない。
「ああ…………あの三人はどうやら碇のやつを追ってきたみたいだな。で、綾波の豹変も碇のやつが
来てからだよ。三人が三人とも碇の奥さんであの娘の母親だって主張してるんだ。オドロキだろ?」
「……………………」
トウジはもはや顎をカックーンと開いたマヌケな表情でシンジたちの様子を凝視するしかなかった。
――――――運命が交差したのはそんな時である。
「ふあ……?」
そんなトウジにマイが気づいた。
「な、なんや……?」
そしてトウジもマイに気づいた。
「…………」
「…………」
周りに広がる喧騒が突如消え去ったかのような錯覚に陥りながらも、見詰め合う二人。
(な、なんや……こ、このカンジは……?)
トウジは自分をじっと見つめているマイの蒼い瞳に魅せられたように表情一つ変えることが出来なく
なっていた。しかしそれでいて胸の鼓動だけは相変わらず、いや、ますます大きく高鳴ってきている。
(こ、こないなこと…………あってたまるかいな!)
そう思っても、自分を制御することがもはやトウジには出来ない。
ただただじっと、視線の先にいる無垢な幼女を見つめることしか…………
そして――――――
にぱぁっ!
(!!!!!!)
華が開く、といったような表現すら生ぬるいほど、純粋で可憐な笑みをマイが浮かべた。
(な、なんや……この胸の高まり…………なんや、体中がむっちゃ熱いで…………
なんやわい…………ど、どないなってしもたんやろか?あの娘の顔見とったら…………
ど、ドキドキがとまらへんねん!!ま、まさか……これが……これが……!!)
恋!?
「おい、どうしたんだよトウジ。ぼーっとしちゃってさ」
「……………………」
「お、おい!トウジ!?ホントに大丈夫かよ!?」
「…………ケンスケ」
「あ?」
呆然とした表情で輪の中心部分、マイのほうを見つめながらトウジがつぶやく。
その頬は艶々としたピンク色に彩られ、目は涙色に潤い、体の一部分は詳しい
描写は省くがとりあえず元気になっていた。
どう見てもただ事でないその様子に、さすがに異常を察知し一歩引くケンスケ。
「な、なんなんだよトウジ。お、おかしいぞ?」
「ケンスケぇ…………わいは、わいは……………………
わいは…………墜ちたで」
「…………え?」
鈴原トウジ。
彼は真性のペドフィリアであった。
ちなみに―――――――
「あ~、あ~、あ~~~!」
「どしたのマイちゃん?……って、なによあの鈴原のカオ~~~!?」
「あはははははっ!ま、まぬけ~~~!」
「ほんと、面白い顔してる。ね~~~、マイちゃん?」
「あー!」
マイはトウジが面白い顔をしているので笑っていただけのようだった。
き~んこ~ん、か~んこ~ん
「転校生、話がある」
トウジがあちら側にドロップアウトしていった――――――
というより最初から墜ちていたが更に深みにはまり、なおかつそれを晒した次の休み時間。
彼は後に困ったような顔のケンスケを連れ、自身はやけに神妙な顔つきでシンジの前に立っていた。
「屋上まで来てくれんか?」
「…………うん」
その真剣な顔つきに、彼の心の内を察したシンジは一つ頷いて席から立ち上がった。
(結局、また同じだったのか…………歴史を知ってて、どうして僕は…………!)
心中に後悔の渦が巻き起こっているシンジだったが、誰知ろう、それは余計な取り越し苦労というも
のである。何故なら目の前で真剣な顔をしている少年の心中は、真剣は真剣だが、常識の範疇からすれ
ばあくまで犯罪的な思惑が渦巻いているからだ。
それにシンジが気づかないとしても無理はない。
しかしだからと言って、周りを固める三人の奥様方が黙っているはずはない。
「碇君……」
黙ってトウジに従おうとするシンジに、これから起こるであろう出来事の顛末を知っているレイが引
きとめようと声をかける。
しかしシンジは、
「大丈夫だよ……それに僕は行かなくちゃいけないから。戻ってくるまで、マイのこと頼めるかな?」
と言ってレイの腕にマイを預けようとするが、今度はそれにトウジが反応した。
「待て転校生。その娘も一緒や」
「えっ?マイも?」
「ああ、そうや。その娘も連れてくるんや」
というより、むしろこっちがメインだ。
「ちょっとあんたねぇ!シンジを連れ出すだけでもあつかましいってのに、なにマイまで連れてこう
としてんのよ!!」
「だ、誰やおまえ?」
「碇!アスカ・ラングレーよ!!」
どんな時にも『碇』を強調するのは忘れないらしい。
「それにマイちゃんは『わたし』の娘でもあるんだから、『わたし』にも一言あってしかるべきじゃ
ないかな?それを無視しようなんて、ちょ~っと虫が良すぎるような気がするんだけど」
マナも珍しく表情を厳しく張り詰めさせて、トウジの前に立ちはだかる。
「「「……………………」」」
「……………………」
トウジVS三人娘。
単純な暴力だけでいうなら三人のほうにあっさりと軍配が上がるが、事に対する気迫と覚悟だけなら
トウジも中々のものである。なんせ、目論見が成功しようが失敗しようが人間失格となるのは確定事項
であるのだから。
これぞまさに背水の陣。ある意味見事な漢っぷりであろう。
対峙する両者の中央、お互いの視線がぶつかり合った場所に緊張感が満ちていく。
「待って三人とも」
「碇君……」
突如その睨み合いに水を指したシンジに、レイがどこか『やっぱり』といった表情で振り返った。
「わかったよ。マイも一緒に連れて行く。これでいいんだね?」
「ああ……すまんのう」
言葉では謝りつつも表情は張り詰めさせたまま崩さないトウジ。
シンジはその様子に、ますます心中の予感を確信へと変えていく。
が、しつこいようだがその真相は明後日の方向へとベクトルをずらしている。
「そういうわけだから、みんなもここは抑えてくれないかな?」
「う~~~……まあ、シンちゃんがそう言うんだったら…………」
「しょうがないわね…………」
詳しい事情を聞いていない二人はしぶしぶと矛を収め、唯一例外のレイは、ほんの少しだけ緩めた表
情をシンジに向けていた。
「それじゃみんな……ちょっと行ってくるから」
そう言って少し悲しげな表情で教室の出口に向かうシンジ。
と、
「あ、そうだ……綾波?」
「なに?」
「わかってると思うけどこの後…………」
「……ええ。四人目ね」
「すぐに戻ってくるから。三人で先に行ってて」
「…………待ってるわ」
「…………わかった」
わかる者にしかわからない会話を交わし、マイと共に今度こそ教室から出て行った。
「「「…………」」」
二組四人が去った後の教室で、彼らが出て行った扉を睨みつけながら三人ともが釈然としない表情を
している。
シンジがああ言った手前、一度は退いてもそれで納得するような彼女たちではないのだ。
「ねえファースト」
「…………なに?弐号機パイロット」
「?なによ、感じ悪いわね」
「わたしの名前は綾波レイ。ファーストチルドレンなどという記号ではないわ」
「……………………悪かったわよ。で、『レイ』?」
「なに?『アスカ』」
「……あんた、知ってるんでしょ?この後シンジがあいつに何されるか」
「知ってるわ」
互いに通過儀礼を済ませて本題に入る二人。マナも横でその会話を黙って聞いている。
あのシンジの表情からして、彼にとってあまり好ましくない、さりとて避けて通ってもいけない事が
起きるであろうことは予想できた。
そしてそれが彼にとってとても大切であるのだということも。
しかし―――――――
「何があるのよ」
「碇君が殴られていたわ……前回は」
「!!なんですって!?」
「ちょ、ちょっと綾波さん!それ知っててどうして止めないの!?」
だからといって、愛しい少年の身に危害が及ぶであろう事を知っていて黙っていられないのは、ごく
普通の反応であろう。たとえ手を出さずとも、せめて顛末を見届けなければ気がすまないと思う。
いくら人より多くの辛酸を舐め、一度は死の世界を辿ったとしても彼女たちはまだ子供なのだ。
……………………ある意味大人だけど。
「わたしも詳しいことは知らない。でも、第一次直上会戦の際、初号機の影響で彼の妹が怪我をした
ということは後から聞いたわ。『この時』のことはそのためよ。
そして碇君はそのことにずっと責任を感じていた。だから多分今回も…………」
「……なるほどね。ま、シンジの性格ならそうするでしょうし、そういうことならあたしたちがどう
こう言う必要はないわね…………鈴原とシンジの問題だもの」
わずかに肩をすくめて、アスカ。
だがそういう、少しでも自分の関わったところで人が傷つき、それに無責任にならないところも彼女
は愛しく思っていた。
…………そのことであまりに多くの物を背負ってしまうところを危ぶんでもいたが。
それは他の二人も概ね同じ意見のようだったが、
「あ、でもそれじゃあなんでわざわざマイちゃんまで連れてったのかな?」
当然の如く生じるその疑問。
「「「……………………」」」
「やっぱり行くわよ」
「そうね」
「そのほうがいいよね」
野性の勘というか、なんというか。
三人は無意識の内に拳をきつく握り締め、妙に原哲夫な顔をして屋上に向かうのだった。
ぶるっ……
「な、なんや?」
「……どうしたトウジ?」
「い、いや…………なんでもあらへん」
もしこの時外にいたのなら、トウジは気づいたであろうか?
己の頭上に死を運ぶ死兆星が輝いていたことに……………………
ヒュウウウウウ~~~~
髪を揺らす強い風が吹き抜け、寂しそうな音を鳴らしているそこは屋上。
眼下に一望される第三新東京市、そして連なる山々をバックにトウジは碇親娘に背を向けて仁王立ち
している。
その黒ジャージに包まれた背中からは並々ならぬ決意。そして覚悟が放たれ、その場にいるシンジも
ケンスケも声一つ上げられずに次の彼の一挙手一投足に注目していた。
唯一例外のマイはマイで、風に流されているシンジの髪の毛を引っ張って遊んでいた。
そしてその沈黙を破り、ついにトウジが動いた。
「転校生…………聞きたいことがある」
「……なに?」
背を向けたまま低い声で話すトウジに、シンジはわずかに身を強張らせた。
が、次の言葉は彼にとっても予想だにしないものであった。
「その娘が…………おまえの子供やっちゅうのはホンマか?」
「え?ま、マイのこと?」
「ホンマなんか?」
「うん……」
「あう」
「そうか……」
自分の覚えている記憶とは違うその展開。確かにマイがここにいる時点で既に違う展開になってはい
るのだが、それにしたって彼の妹のこととマイのことは全く接点がないはずなのだが…………
(…………まさか)
と、シンジがこんなことに気づいた瞬間、もはや言うまでもなくあの感覚が全身を駆け巡る。
的中して欲しくなくても、無理やりに、強引に、問答無用で的中してしまうあの感覚。
見れば誰も気づいていないところでケンスケも顔中の筋肉を引き攣らせ、
(俺……こいつの友達やめようかな……)
という表情をしていた。
そんな彼らの思惑を全く無視し、その場に流れる電波色の空気はもりもりとテンションアップしてい
き、同時にトウジの脳内分泌物もどっぱどっぱ噴出。栄光の13階段を駆け上っていく。
そして――――――
「転校生っ!いや、碇君!!」
「は、はい!?」
がばっ!と土下座。
「どうか、どうか!あんさんのことを、お、お…………
お義父んと呼ばせてください!!」
「…………は?」
「……はぁ~~~」
「ふあ~~~」
シンジは目を点にし、マイはよくわかっておらず、ケンスケは呆れたため息をつく。まあ、無理もないだろう。
交換日記や手を繋いで登下校、果てはせつなさ炸裂あまつさえ伝説の木の下と
いったプロセスを無視していきなり婚前交渉(意味としては正しかろう)に望んだのだから。
目の前で土下座をしている元親友の姿に、いい加減見慣れてきてしまったアレっぽい
オーラの噴出を感じつつも、もう一度、無駄とは思いつつも一縷の望みを託しシンジは問う。
「あの……つまりそれはどういう?」
「要するに!わいとマイさんの仲を認めてください!!」
(いや、認めろと言われても)
やっぱり、という諦めそのものを感じつつ、心をあっち側に逃避させかけるシンジ。が、もちろんこ
こでは逃げちゃダメなのだ。
なんせこの世界においても屈指の変人っぷりをこれでもかと発揮しているトウジである。
ほっとけば無言は肯定の証などと無茶苦茶なことを言い出しかねないからだ。
「トウジ…………そんなバカな冗談言わないでよ。だいたい僕をここに連れてきたのは妹さんのこと
があったからじゃないの」
「ん?なんでお義父んがミドリのこと知っとるんや?」
「お、おとんって呼ぶのやめてよ…………」
「まあ、確かにミドリのこともあるんやけどな…………よう考えてみればあれはなんちゅーか、お義
父んに全部責任があるっちゅーわけでもないからのう…………」
困ったようにつぶやくトウジ。が、シンジの話は全く聞いていない。
「ミドリのやつ、いま精神病棟におるんやけどな」
「せ、精神病棟?」
「こないだの戦闘の時にの、あの変なロボットが瓦礫の楯になってくれたんや。それでミドリのやつ、
すっかりいかれてもうてなぁ…………
いきなりわたしの彼はパイロットとか何とかわけのわからんこと言い出しよったんで病
院に無理やり連れてったら」
「つ、連れてったら?」
「重度の妄走癖アリって診断されてのぉ…………」
(きょ、兄妹揃ってそっち系か!)
シンジの心の叫びはあくまで心の中でのことだったので、トウジには届かなかった。
「そういうわけやから、この際過去の過ちは水に流すことにしておくわ。わいも漢やからのう」
ていうかそれ以前にシンジは初号機に乗っていないし、鈴原の家系そのものに問題があるような気がす
るのは彼だけではないだろう。
「ほな、お互いの誤解も晴れたところで!」
「えっ!?わあっ!!」
不覚にも気を取られていたシンジは、鼻息を荒くしたトウジの急接近に気づいていなかった。
「わいに、わいに娘さんをください!!」
「だ、だからそんなのダメに決まってるじゃないかぁ~~~~!!!」
「なんでやねん!?わいのどこに不満があるっちゅーねん!?」
(全部だよっ!!)
と叫べるものなら叫びたかったのだが、さすがにそれは酷だと感じたのかどうか知らないが、
「それ以前の問題だよっ!!」
マイをかばいつつ力いっぱい叫んだ。
「ちょ、ちょっとケンスケも何とか言ってやってよ!!」
「悪いなあ、碇…………あいつは不器用なやつでね。こうしなきゃ自分の気がすまないんだよ」
「だからそれ以前の問題だって言ってるじゃないかっ!!!」
「お義父ん!わいの話を聞いてください!!」
「その前に僕の話を聞けぇぇぇぇぇ~~~~!!!」
さすがに頂点に達したシンジが熱いシャウトを屋上に迸らせる。
が、しかし既に人間として進退窮まっているトウジも一歩も退かず、
「ほんなら!わいはこの熱い想いを歌に乗せる!!
そう!愛を語る熱い漢の歌を!!
さあ!!わいの歌を聞けぇぇぇぇぇ~~~!!!!!」
どこでどう間違ったか、またしてもこういう展開。
そして――――――
「ちょっと……!」
「ま、待て……!」
シンジとケンスケが止める間もなく始まってしまう例の歌。
Youは 「やめんかぁっ!!!」ぶべらっ!!!
どうっ…………
という擬音と共にケンスケの眼前に倒れ伏すトウジ。
「ひっ!そ、惣流!?それに綾波と霧島まで!!」
「ったく……気になって来てみればやっぱりこういう展開…………」
「あ、アスカ!」
「大丈夫?碇君」
「マイちゃんも無事?」
「う、うん……僕たちは大丈夫だけど……」
「えう~~~」
「あの、トウジは大丈夫かなぁ……なんか首が明後日の方向向いてるけど」
「だいじょーぶよ!バカは死ななきゃ直らないって言うじゃない!」
「そ、その心は?」
「この人の馬鹿は絶対に直らないわ…………」
「な、なるほど…………」
シンジ、納得。
「さ~て、それじゃこいつをどうしてやろうかしらねぇ…………」
完全に白目を剥いて昏倒しているトウジを見下ろし、ニヤリと笑うアスカ。見れば彼女と同じよう
に、レイとマナもヤバイ薬をキメたような目つきになっている。
その表情にかつてないバイオレンスの予感を感じたシンジは、恐る恐る具申する。
「あ、あの……三人とも?そりゃトウジはちょっとアレだったけど……で、できれば少しは手加減
してあげてくれないかなぁ?」
「甘い!甘いわよシンジ!!」
「そうよシンちゃん!こんなのほっといたら、ぜーったいにまたマイちゃんに手を出そうとするの
は目に見えてるもん!もう二度と手出ししようって気が起きなくなるくらいにまで身体に教えてやん
なくちゃ!!」
「敵は殲滅…………問題ないわ」
「そ、そうかな……?」
「「「そうよ」」」
共通の敵を相手にした時のみ見事に呼吸を合わせる三人に、シンジはトウジの未来予想図を正確に
脳裏に描いた。
無論、地獄絵図である。
と、そんな時である。
ぴぴぴっ、ぴぴぴっ
「!碇君……」
「うん。来たんだね」
シンジとレイのポケットの中の携帯が鳴り出した。着信を見ると予想通りにネルフからだった。
「なんだ?どうしたんだよ碇……」
「ケンスケ。早くトウジを連れてシェルターに避難して。使徒が来た」
「し、使徒って…………あのバケモノか!?で、でもおまえはともかく、どうして綾波まで……」
「あんたバカァ?あたしもレイもエヴァのパイロットだからに決まってんじゃん!!」
「わたしは違うんだけど、シンちゃんのお嫁さんだからね~~~」
「それじゃ、おまえたち四人……じゃなくて五人ともネルフの関係者!?」
「そういうことよ!」
いつも通りに無意味に偉そうに胸を張るアスカの背中の後――――市街地のどこかから避難警報が聞
こえてきた。続いて、
『ただいま、第三新東京市全域に緊急避難警報が発令されました。市民の皆様は至急、最寄のシェル
ターへ避難してください。繰り返します…………』
要するにジャマだからとっとと逃げてくれ、という意味合いのアナウンスが流れ出す。
「そういうわけだからケンスケ、早く逃げてくれ!
…………くれぐれもシェルターの外に出ようなんて考えないようにね。戦ってる時は、足元を見てい
る余裕なんてほとんどないんだから」
「あ、ああ…………わかったよ」
真剣な表情のシンジに、ケンスケもよくわからないなりに頷いて返す。
シンジもまたケンスケに頷いて返す。内心ではまだ不安が残っていないでもなかったが…………
「それじゃ三人とも、早く行こう」
「あ、ちょっと待ってシンジ」
「え?」
思惑に反したアスカの返事に訝しげな表情をしてみせる。
しかもそんな顔をしているのはシンジだけで、他の二人はアスカの言葉に頷いてさえもいた。
「ど、どうしたのさ?早く行かないと使徒が…………」
「それはそうなんだけど。生憎あたしたちはまだやることが残ってるから」
「ええ……それにアスカの弐号機もわたし零号機もまだ使えない。だから本部には碇君だけで行って
ほしいの」
「でも…………えっと、マナも?」
「わたしは最初からパイロットじゃないしね。ネルフには行くけど、とりあえずやることかやってか
ら行くことにするよ。だから先に行ってて、シンちゃん」
にっこりと笑みを浮かべてそういうマナだったが…………
何故か邪悪な雰囲気が漂っているのは気のせいではなかろう。
(き、危険度Lだ!)
わずか数日の生活で直感力が爆発的に肥大したシンジはその気配を感じて、頭の後ろに人知れず冷や
汗を垂らしていた。そして――――――
「そ、それじゃあ僕は先に行ってるから。み、みんなもなるべく手加……じゃなくて早く来てね」
「い、碇~~~!?」
同じく不幸キャラ特有の直感力を発揮したケンスケをその場に残し、足早に屋上から去っていった。
伊達にサードインパクト後の世界で1年以上も生き延びたわけではない。
碇シンジ。彼の危機回避能力は既に世界レベルに到達していた…………
「い、いかりぃぃぃ~~~」
「……………………」
見捨てられたショックとそこにある恐怖とで既に腰砕けになっているケンスケ。そして今だに目覚め
ぬ変態ジャージメン。
「さて、と……シンジも行ったところで」
「あなたたちには相応の罰を与えなければいけないわ」
「信賞必罰は基本だからね~~~」
彼らに歩み寄る三種三色の圧倒的な恐怖。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!お、お、おお俺は何もしてないぞ!!俺はただこいつの付き添いでき
ただけであって……!」
「ああ、それはわかってるけど、あんたとそこのジャージって二人で一セットって感じじゃない?」
「ついでだから…………」
「ま、連帯責任だとでも思って。ね♪」
「そ、そんなぁぁぁぁぁっっっ!!?」
もはやどれだけ理にかなった言い逃れとて、彼女たちを止めることはできない。
だいたいからして無理を通して道理が引っ込んでいる連中なのだから。
「それじゃ、覚悟は完了したわね!」
何故だか妙に気合が入っている紅い人。
「あなたがどうなっても知らないわ…………多分、わたしは三人目だと思うから」
意味不明な上に物騒なことを口走る白い人。
「戦自仕込みの殺人技。いろいろと試してあげるね♪」
殺意込みの無邪気な笑みを迸らせる茶色の人。
「………………………………おおう……おおう……!
ま、マイはんっ!!わいはっ!!!わいはっ!!!もう辛抱たまらへんのや~~~っっっ!!!!」
なにを見ているのかは謎だが、明らかに条例違反な寝言を漏らすジャージ。
そして―――――――
「ヒッ…………―――――――」
薄幸なメガネ少年の絹裂く悲鳴が第三新東京の空に響き渡ったのだった。
さてこちらは――――――
「俺って…………最低だ」
と言いつつも見捨てた彼を助けに戻らず、ネルフにたどり着いたシンジである。
「どうしたのシンジ君?」
「あ、いえ。なんでもないんです。なんでも…………」
「……?まあ……それならいいんだけど」
ブルーな雰囲気のシンジを気遣うミサトだったが、今はそれよりも優先しなくてはいけない懸案が目
の前にある。それは無論、使徒のことだ。
発令所の正面モニターに映る第四使徒シャムシエル。
両手(?)にムチを構えて低空飛行で侵攻を続ける、でろ~~~んとしたカンジの使徒。世間一般で
はイカっぽくないクセにイカっぽいと呼ばれているある意味謎の使徒だ。
ちなみにどこの世間かは聞いてはいけない。言うまでもないことだし。
「こいつが四番目の使徒か…………相変わらず奇妙奇天烈なカッコしてるわよね」
「そうね。ところでシンジ君?」
「はい?」
ミサトの言葉に適当に相槌を打っていたリツコがシンジに振り向く。
「以前こいつと戦った時は、どうやって倒したの?それから相手の能力……といってもあのムチをメ
インにして戦うのは間違いないでしょうけど。教えてくれない?」
「ああ。それはですね…………」
シンジは過去にあった交戦について、覚えていることを簡単に話した。
トウジ・ケンスケのことや命令違反のことなど、何一つ端折らずに。
「――――――というわけなんです」
「なるほどね…………とすれば今回も接近戦を挑むしかないわねぇ…………今のところウチにある射
撃武器はパレットライフルだけだもの」
「しかたありませんよ。それに僕だって以前のままじゃありません。負ける気はしませんよ」
強気な態度で笑うシンジにミサトも表情を綻ばす。しかし、
「頼もしいわねぇ…………でもやっぱ装備の充実は必須事項よ。これから来る相手の特性を知ってい
て無策のままっていうんじゃあまりにもお粗末だもの。ねぇリツコ、あんたもそう思うでしょ?」
あごに手を当てながらリツコの方を向く…………と、そこにあったのは。
「フフフ…………よく聞いてくれたわミサト」
モード『M・A・D』と化したイヤすぎるリツコと、そこから漏れ出る低い声。
そして―――――
「こんなこともあろうかと…………こんなこともあろうかと!
そう、一度言ってみたかったのよこんなこともあろうかとぉぉぉっ!!!」
数分前とは全く逆のベクトルにキャラクターを変えたリツコが高らかに笑った。まるでジキルとハイ
ドである。
ちなみに言うまでもないことだが、シンジやミサト、そして発令所の要員も若干一名を除いて思いっ
きり引いている。それまでのリツコ観はここに壊れたと言っていいだろう。
だが当然の如くそんなものに頓着せず、彼女は更に続ける。
「こんなこともあろうかと、ちゃんと用意しておいたのよ!エヴァの新装備を!!」
「し、新装備ぃ?」
「そうよ。さあ、見て御覧なさい!」
そう言った瞬間、彼女の右腕である某オペレーターがコンソールを操作すると、主役であるはずの使
徒を端っこにうっちゃり、正面の大型モニターにエヴァ初号機が映しだされる。
そしてそこにあったのは――――――ドリル。
しかも前頭部にドリル。
更に唸りをあげて回転中だ。
「どうかしら!?」
腰に手をやり、胸を張って聞いてくるリツコだったが、
((((どう?と言われましても))))
というのがその場にいるほぼ全員の総意であった。
「先輩っ!最高ですっっ!!」
まあ若干一名、評価基準があちら側にある人間もいたがそれはほっとこう。
だがその言葉を受けたリツコは、むしろそれを総意と受け取り、更に誇らしげに語り出す。
「前回の戦闘で破損した前頭部の角を排除。それまではいわゆるレーダーの役割のみを持っていたそ
れに攻撃力を付加したのがこの装備の最大の特長よ」
というか、ドリルってのが最大の特徴のような気がする。
「それまでただの角だったものがドリルになった時点で通常の3倍。そして唸りを上げて回転すると
いうのを含めるとざっと通常の9倍ってところかしらね…………」
ちなみにどんな計算式を用いているのかは一般人には全くの謎だが…………
「先輩っ!素晴らしすぎますっっ!!」
こいつにはわかったらしい。
そして他の一般の人々は、
((((どの辺が素晴らしいんでしょう?))))
と考えていたのだが、それが普通というものだろう。
だがそんなことに当然の如く気づかない、というか気づく余地もないリツコはシンジに振り返る。
「シンジ君、どう?気に入ってくれた?」
「…………即刻外してください」
当たり前だ。
「な!?何故!?何故、そんなことを言うの!!?」
「あったり前でしょうが、このバカリツコっ!!あんなもんつけたって何の役にもたちゃしないじゃ
ないっ!!だいたいあんなところにあったんじゃ、レイぐらいにしか使えないわよっ!」
第一話参照の事。
「とにかくあんなんつけたってあたしたちの恥になるだけよっ!外には戦自の部隊だっているんです
からね!!ヘタは打てないのよっ!」
「そうは言うけどミサト……少なくとも今回はムリね」
「ど、どうしてよ?」
「時間がないもの。ほら」
と指差す先にある隅っこに追いやられた使徒の映像を見れば、
「目標、強羅絶対防衛線を突破しました!戦自の部隊は撤退を開始。委員会はエヴァンゲリオンの出
撃を要請しています!!」
「ね?」
「~~~~~!!!しょ、しょうがない!シンちゃん!」
「は、はい!」
「…………ごみん。悪いけど今回はアレで行ってきて…………」
「はあ…………仕方ないですね…………」
顔を見合わせて大きくため息をつく二人。
もしここに冬月が居たらこう言っていただろう。
「恥をかかせおって…………」
と。
ところでシンジが出撃するにあたって問題が一つだけ残っていた。
「う~~~、だぁ…………」
「綾波たちはまだ来ないのかな……?」
マイである。
この子を一人残してシンジが出撃するわけには行かないのだ。
「さすがにマイちゃんをエントリープラグに入れるわけにはいかないし…………
かといってここに一人この子を残していけば…………」
「暴走しますね、きっと」
難しい顔をしてつぶやく。思い出されているのは、あの崩壊した世界で過ごした半年間の生活。
その中の一場面のことであった。
「マイが寝ていたならまだ少しは大丈夫なんですけど」
「あーうー…………ぱーあーーー?」
「……元気よねぇ」
「授業中、結構寝てましたから」
苦笑するしかないシンジ。こんなことになるなら多少の授業の妨害は気にせず、遊んでやっていれば
よかったと後悔していた。
そうこうしている間にも切り替えたモニターの中の使徒はズンズン第三新東京市内に侵攻中。委員会
や戦自、そして日本政府からも矢のように催促がやってきているのだが、ここで彼が無理に出撃したと
ころで…………シンジと三人娘以外にマイの力をなだめられるはずもなく、結局的には同じことになる
だろう。
そんなことを知らない一般職員は、いつまでたっても出撃しないシンジと、それに対して何も言わな
いミサトたちに疑問の視線を投げかけている。
そしてついに代表するように日向が声を上げた。
「か、葛城さん!このままじゃいい加減ヤバイですよ!!シンジ君もなにをやっているんだい!?
それにだいたい、どうしてここに赤ん坊が居るんですか!?」
まるでそれまでの鬱憤を晴らすかのような日向の声に、他の職員の視線も一層強くなる。そしてそれ
を一身に受けるのはミサトだが、だからといって彼女にはこう答えるしかない。
「そ、それは…………と、とにかく詳しいことは後で説明するからもう少しだけ待ってて頂戴!
…………どうするの、シンジ君?」
後半は小声でに問い掛けるミサトに、
「もう少し。もう少しだけ待ってください。綾波たちが来れば…………」
「レイ?それに『たち』って…………」
「詳しい話は後で。とにかく彼女たちが来てくれれば全て解決しますから」
湧き上がってくる焦りをなだめつつ、言う。
そんな父親をマイは、どこか不安げに見上げていた。
そんな時であった。
「待たせたわね!」
「アスカ!」
「まぁ~!」
「あ、アスカぁ!?」
発令所にやってきた三人娘を見て、シンジが瞳を輝かす。
だが一方のうち、マナとレイはどこか不満そうにしているようだ。
「ぶー!あたしたちもいるのに、どうしてアスカさんだけなの!?」
「あ、いや……別に他意があったわけじゃないんだけど…………」
「……………………」
「あ、綾波……そ、そんな縋るような目つきしないでよ……」
「ふっ!愛の差ってやつよ!!」
「し、シンちゃ~ん!あんなこと言ってるよ~~~」
「……碇君。彼女に言ってあげて。あなたは用済みだ、って」
「さ、三人とも。今はそんな場合じゃ…………」
「そ、そうよ!それにどうしてここにアスカが居るの!?それからそっちのあなたは誰よ!?」
状況を忘れて、というか無視して睨みあう三人にミサトが詰め寄った。
「あ、ミサト。久しぶりね」
「久しぶりとかそうじゃなくって!事情を説明なさい、事情を!」
「事情?ああ……そう言えば。シンジ」
「なに?」
「ミサトたちには話したの?」
「うん。とりあえずミサトさんとリツコさん、それから父さんには事情を説明したよ。
まあ、その時はアスカたちのことはまだ知らなかったから…………」
「わたしも碇君に会えなかったもの」
もしあの後レイと会っていればシンジも彼女らの事情の知ることができただろう。
…………まあ、恐らくレイの都合の良いように捏造された情報になったであろうが。
「それについては……その、ごめんね」
「いいの。気にしててくれたというだけで」
わざわざ追って来てくれた彼女に真っ先にあってやれなかったことを謝るシンジに、レイはにこりと
微笑みを返す。いつもの綾しい微笑みでないそれに、発令所要員から驚きの声が漏れた。
ミサトやリツコも意外に思ったものだが、とりあえず今はそれどころでない。
「どういうことなのシンジ君?あなたは全部知っているようだけど、昨日話してくれたことが全てで
はなかったのかしら?」
「ええっと……話せば長くなるんで詳しくは後でという事になりますけど…………
実は、その、この三人は…………」
言いにくそうにまごつくシンジ。無理もない話ではあるが、悠長にしている暇もない。
「その……実は三人とも、そ、その……ぼ、僕の、僕の奥さんなんですっ!」
「「「「…………は?」」」」
「だ、だから……三人ともがマイのお母さんなわけでして…………」
「「「「…………はぁ!?」」」」
「だぁーーーーっ!!わっかんないやつらねぇ!!!」
どうも要領を得ない面々に、我慢ならなくなったアスカが怒声を上げた。
「要するに、マイはあたしとシンジの間に出来た子供だってことよ!!」
「「「「な、なんだってぇ~~~!?」」」」
「違うわ。マイは碇君とわたしの娘よ」
「「「「な、なんだってぇ~~~!?」」」」
「それも違うのっ!マイちゃんはわたしとシンちゃんの愛の結晶なんだからっ!!」
「「「「な、なんだってぇ~~~!?」」」」
同じことを三回も繰り返すとどうも手抜きっぽく見える…………まあどうでもいいことだが。
ともかく、ついに発覚した事実に発令所は大パニックに陥った。最早使徒のことなどそっちのけだ。
これでいいのか、特務機関!?
「あ、アスカに負けた……アスカに負けた……アスカに負けた……」
「14歳で子供を産めるなんてね。非情に興味深いデータだわ」
「ちゅ、中学生で妻帯者だったなんて……し、しかも三人も…………」
「ということは14歳で4ぴ……ほぎゃっ!!」
「青葉さんフケツですっっっ!!!でもシンジ君もちょっとフケツよっ!!!!」
それぞれが好き勝手に混乱している発令所の面々。
その張本人のシンジとしては彼らをなだめることもできず、頼み(?)の三人は三人でそれぞれが睨
み合って互いを牽制中だ。
マイは……まあ、いつも通りだ。赤ちゃんだし。
混乱が混乱を呼び、ますますほったらかしになる使徒。
そんな時だった――――――――このフレーズも使用頻度が高いな…………
まあとにかくそんな時だった。
「何をやっているのかね君たちは!?」
発令所の上部。司令席からかかる、張りのある声。
それは多くの職員にとって尊敬すべき男の声であり、また一部の者にとっては懐かしい声でもあった。
しかし――――――
「…………」
「…………」
「…………」
どうも浮かぬ顔をしている、とある三人が視線を絡ませ…………
「「「見ちゃった(んですか)(んだ)(のね)…………」」」
思いっきりため息をついた。
と、周囲からなにやら絶句した様子と、どうにもおいたわしい雰囲気が漂い始めてきた。
どうやら他の職員が上部を仰ぎ見たようだが、状況は以前と何ら変わってないようである。
とにかくその三人もそうしてても仕方ないので、同じように上を仰ぐと、そこに居た。
ヅレている冬月が。
(((やっぱりあのままか)))
再び漏れ出る、重いため息。
冬月はそんな不甲斐ない部下たちを見て、果敢に声を張り上げた。
「全員自分たちのやることもせずになにをやっているのかね!?君たちの仕事は何だ!?
使徒の迎撃だろう!…………確かに指揮官という立場にある私や碇が場を離れたことにも問題はある。
しかしそれでも己のやるべきことはやる!そういうスタッフを我々は集めたつもりだ!!さあ、わかっ
たら総員持ち場に着きたまえ!!」
さすがにネルフの副司令だけあって言っていることは真っ当である。
だがいかんせん状況が状況だ。
「……………………」
「!?私の声が聞こえなかったのか!?早く……」
「……副司令」
ショックで動けない職員たちに再び怒声を浴びせようとする冬月の声を、リツコの声が遮った。
そしてほんっっっとうに仕方なく具申する。
「後ろ前ですわ」
「な、なにを言っているのかね赤木君………………………………ま、まさかっ!?」
突如慌てたように、ばっ!と頭に手をやる冬月。
その瞬間、彼の表情は驚愕と、そして恐怖に彩られた。
「おおおおおおっっっ!?な、なんか具合が悪いとは思ってたんじゃよ~~~~っっっ!!!!」
((((だったら早く気づけよ))))
無論、その場の総意である。
「か、葛城君!この場の指揮権は君に任せる!!後は良いようにしてくれたまえっっっ!!」
「はいはい。早く直してきてください」
「そ、それじゃ私は失礼するよ!!!」
そう叫ぶと偉大なるネルフの指揮官は己の持ち場を離れていった。
ちなみに彼に対する職員たちの評価が、足並み揃えて持ち場を離れて去っていったのは言うまでもな
いことである。
「そ、それじゃシンジ君……いよいよどうするの?」
「ま、まあ綾波たちも来てくれたことですし、いよいよ初号機で出撃します」
なんというか皮肉なことに、あの冬月の犠牲のおかげでその場の全員が我を取り戻していた。目には
目を、歯には歯を~、の応用である。
…………若干文法がおかしくなっているのはまあ、ご愛嬌だ。
「とにかく詳しいことは戻ってきてから話しますから……それじゃ、えっと、確か五時間目はマナだ
ったよね?」
「うん!」
「それじゃマイのことお願い」
「まっかせといて!」
さすがにここで誰にマイをまかせるか云々で時間をかけている暇もなく、学校での取り決めをそのま
ま持ち込みマナに彼女を託した。アスカもレイもその辺は弁えているらしく、若干不満げな表情はして
いるものの、特に文句を言う様子は見られない。
「それじゃ行ってきます!」
「頑張ってシンジ君!」
発令所を出て行くシンジの背をミサトの声が打ち、マイの手を取ったマナが手を振って見送る。
「ほらマイちゃ~ん、パパの出陣ですよ~~~♪」
「ふあ~~~、う~?」
「パパはねぇ、お仕事に行くんだよ。マイちゃんやママを護るためのお仕事。
だからほら、マイちゃんも頑張ってー、って言うんだよ」
「うぅ~~~…………」
そうは言われても、マイにはよくわからない。
今は大好きなパパがどこかに行ってしまって寂しいだけであった。
ところで――――――
「レイ?」
「何ですか、赤木博士」
「何故あなたたちはシンジ君と一緒に本部に来なかったの?」
「それは―――――少しやらなければならないことがあったので」
「やらなきゃいけないこと?何よそれ?」
今度は隣りで聞いていたミサトが問うてくる。そしてそれに答えるのはアスカだ。
「ま、ちょっとしたオシオキってやつね。
そんなに気にしなくっても――――――すぐにわかるわよ」
「は?どういうことよ」
「だからぁ、すぐにわかるっての。ね、レイ?」
「ええ、すぐにわかるわ。あの人たちも、すぐに…………思い知ることになるわ。フフフ…………」
「れ、レイ……あんたその笑い方やめなさいって、怖いから…………」
さて彼女たちの言うオシオキとは一体何のことなのか?
一体何を以って『すぐにわかる』と言うのだろうか?
答えはこの後である。
答え――――――
「…………レイ。なんなの、あの初号機のドリルの先に括られてるアレは?」
「…………肉です。だってキライだもの…………」
そう。肉。
あえて言うなら人肉だ。
固有名詞も持っているのだが、最早言うまい。
いちおう特徴を挙げるのであれば…………ジャージとメガネ。
ここまで来るとさすがにミサトも怒る気にもなれない。今日何度目になるかも知れない深いため息を
つきつつ、リツコにこう言うだけであった。
「アレ、外してきて…………」
「ええ。わかってるわ」
リツコも心得たもので静かに頷き、
「マヤ?」
「はい」
「…………ちゃんとデータは取ってるわね」
「はい!」
「―――――待て」
「エヴァンゲリオン初号機!発進!!」
「初号機!発進します!!」
「ちょっと待てぇぇぇぇぇ!!!!!」
間髪入れずマヤが出撃スイッチ(?)を押し、初号機は轟音と共に地上に打ち出される。
と、同時にどこからか魂消るような悲鳴が聞こえてきたような気がしたが、気のせいということにし
ておいたほうが何かと今後のためだろう。ネルフにとって。
それにしても、こうしてるとなんだかミサトが一番の常識人に見えてくるから不思議なものである。
ガシィィィィン!
轟音と共に初号機が初号機は地上に到達し、同時にドリルの先にぶら下げられた肉塊二つが大きく跳
ね上がる。見ているほうも当事者も、凄まじいまでのスリル感だ。
そしてそんな初号機の前方には第四使徒の姿。
先ほどから、初号機の接近を感じ取っていたのかなんなのか―――――地上に降り立ってこちらを静
かに見据えていた。
「シャムシエル…………僕たちと同じ孤独な…………でも!」
シンジは初号機のエントリープラグの中で決意を固め、
「う~~~、この期に及んで初号機を引っ込めるわけにもいかないし…………しゃーないか!!」
発令所のミサトはヤケクソになって決意を固める。
「エヴァンゲリオン初号機!リフト・オフ!!!」
ミサトの号に応じ、紫色の鬼に課せられた戒めが解かれて躍動する肉体が放たれる。
そして同時に――――――
哀れな人肉二つを乗せた地獄行霊柩車もまた、ここに解き放たれてしまったとさ。
作者の戯言
前回のあとがきから来ると第3話-Bとなるはずなのですが、前回本文タイトルにAパート表記を忘
れたため、都合上そのまま第4話となった今回なのですが…………
またやっちまいました(^^;)
もうそれしか言うことがないですね。前回と同じ過ちを再び犯してしまいました。
予定ではシャムシエル戦を終わらせ、来る大イベントへの引き―――で終わるはずだったこの第4話。
終わりませんでした(爆)いえ、終わらそうと思えば終わらせられるんですが、どうせ初号機にくっ
ついたイケニエ二人がいる以上、戦闘シーンが伸び伸びになるはずなんです(爆)
だからもう諦めて次回に回しました。その分太く短くするつもりなんで、もう少しお待ちください。
では次回の第五話までもうしばらくお待ちくださいね~~~
ちなみに――――――ここに書いていることはあくまで予定なのであまり信じないでください(爆)
ぽけっとさんへの感想はこちら
Anneのコメント。
>アレはアレでもゲンドウはただのアレではない。伊達や酔狂でネルフ総司令の地位にいるわけでもなかったのだ。
何て素敵な評価なんでしょう(^^;)
でも、ゲンドウはユイと会う為にですから、やっぱり伊達や酔狂でネルフ総司令の地位にいるのでは?(笑)
>『そんなことよりも碇君が元ホストだって噂は本当? Y/N』
>『碇君があの3人の痴話喧嘩に耐えかねて夜逃げしたって本当? Y/N』
>『碇君がさっきの金髪の人に改造されてモテモテになったって本当? Y/N』
>『碇君が馬並みの馬力を持っているって本当? Y/N』
前3つのセリフから、最後のセリフにある『馬並み』の単語が非常に気になるんですけど?(^^;)
・・・って考えすぎかしら?(笑)
>(な、なんや……この胸の高まり…………なんや、体中がむっちゃ熱いで…………
> なんやわい…………ど、どないなってしもたんやろか?あの娘の顔見とったら…………
> ど、ドキドキがとまらへんねん!!ま、まさか……これが……これが……!!)
>(中略)
>彼は真性のペドフィリアであった。
トウジに黄色信号点灯(笑)
でも、赤ちゃん相手にはヤバすぎなんじゃ?(^^;)
それに赤ちゃん相手ではペドフィリアの範疇を超越していると思うんですけど・・・。(爆)
>もしこの時外にいたのなら、トウジは気づいたであろうか?
>己の頭上に死を運ぶ死兆星が輝いていたことに……………………
・・・・・・大丈夫。
トウジはフォース選抜の際、リツコ(トキ)に心霊台の秘孔を突いて貰うから(笑)
>「こないだの戦闘の時にの、あの変なロボットが瓦礫の楯になってくれたんや。それでミドリのやつ、
> すっかりいかれてもうてなぁ…………
> いきなりわたしの彼はパイロットとか何とかわけのわからんこと言い出しよったんで病院に無理やり連れてったら」
トウジの妹、哀れ・・・。
だって、『彼はパイロット』と言い出した時点で元ネタに則り、フラれる事が確定していますもの(爆)
<Back>
<Menu>
<Next>
Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天
無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円]
海外格安航空券 海外旅行保険が無料!